以下に、本発明に係る電動機制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明に係る電動機制御装置の実施の形態1の概略構成を示すブロック図である。図1において、制御対象1には、電動機11とそれに連結された機械系12及び電動機11の位置を検出する位置検出器13が設けられている。なお、位置検出器13は、エンコーダやリニアスケールなどを用いることができる。
そして、電動機11は、駆動指令T*に応じて回転または直動運動の駆動力を発生することで機械系12を駆動し、位置検出器13は、電動機11の位置を検出し、位置信号Xmを出力する。
一方、電動機制御装置は、N(Nは2以上の整数)個の制振周波数における制振制御を行いながら、電動機11を駆動することができる。そして、制振制御が行われながら電動機11が駆動されたときの制御対象1を含む制御系の位置または速度あるいは加速度の値に相当する動作信号に基づいて、制御系の共振特性を推定することができる。なお、制御系の共振特性は、制御系の共振周波数および共振減衰係数で表せられる。
この電動機制御装置には、フィードフォワード制御部2、フィードバック制御部3、共振特性推定演算部4、推定用信号演算部5、減算器6および制振制御設定部7が設けられている。
フィードフォワード制御部2は、制御対象1への動作指令である位置指令信号X*に応じて、フィードフォワード信号である制振位置指令信号Xrを出力する。フィードバック制御部3は、制振位置指令信号Xrと位置信号Xmに応じて比例や積分や微分の演算(PID演算)などからなる制御演算を行い、駆動指令T*を出力する。
制御対象1を含む制御系の共振特性による振動以外の成分を取り除くために、減算器6は、位置信号Xmから制振位置指令信号Xrを減算し、振動信号Xeを出力する。
推定用信号演算部5は、振動信号Xeに応じて推定用信号Xsを演算する。共振特性推定演算部4は、推定用信号Xsに含まれる振動から最小二乗法などの同定手法を用いて制御系の共振特性を推定し、制振制御設定部7は制御系の共振特性の推定結果を記憶し、フィードフォワード制御部2と推定用信号演算部5の演算特性を設定する。
ここで、位置指令信号X*に応じて制御対象1が駆動されたとき、位置信号Xmが振動的になる場合を考える。その場合、フィードフォワード制御部2は、位置指令信号X*に応じて、制御対象1を含む制御系の共振周波数の信号成分が小さくなるように制振位置指令信号Xrを演算することにより、位置指令信号X*に対する応答の位置信号Xmに含まれる振動を抑制する制振制御を実現できる。
次に、フィードフォワード制御部2の演算方法を具体的に説明する。
位置指令信号X*と制振位置指令信号Xrの関係は、ラプラス演算子sと伝達関数Fr(s)を用いて、以下の(1)式で表せる。
制振周波数と制振減衰係数「ωn_i、ζn_i」(i=1、2、・・・、N)を用いて、以下の(2)式に示すように伝達関数Fr(s)を構成することで、フィードフォワード制御部2は、制振周波数ωn_iにおける信号成分が小さくなるように制振位置指令信号Xrを出力できる。
ただし、a2N、a2N−1、・・・、a1については適切な定数を設定する。
ここで、制振周波数ωn_iを制御系の共振周波数に一致させることにより、位置指令信号X*に対して位置信号Xmに現れる制御系の共振周波数の振動を抑制できる。また、制振減衰係数ζn_iについても制御系の共振減衰係数に一致させることで、位置指令信号X*に対して位置信号Xmに現れる制御系の共振周波数の振動を抑制することができる。
ただし、フィードフォワード制御部2に設定する制振周波数及び制振減衰係数と、制御系の共振周波数及び共振減衰係数との間に誤差があると、位置信号Xmに振動が現れるため、制御系の共振周波数及び共振減衰係数を正確に知る必要がある。
次に、制御系の共振周波数と共振減衰係数、つまり制御系の共振特性の推定方法について説明する。
図2は、図1の電動機制御装置における制御系の共振特性の推定に係わる構成を示すブロック図である。図2において、共振特性推定演算部4は、共振特性推定演算器41を有しており、入力信号に含まれる振動成分から制御系の共振特性の推定を行う。ただし、共振特性推定演算器41は、入力信号に含まれる振動成分の振幅が小さくなると、雑音などの影響により振動特性の推定精度が低くなる。
そして、制振制御により位置信号Xmに発生する振動の振幅が小さくなると、共振特性推定演算器41に入力される入力信号の振動成分の振幅も小さくなるため、正確な推定が困難になる。そこで、共振特性推定演算器41は、推定用信号演算部5が出力する推定用信号Xsに含まれる振動の特性を推定することにより、制御系の共振特性を推定する。
推定用信号演算部5は共振信号演算器51を有しており、共振信号演算器51は振動信号Xeを入力とし、振動励起周波数ωl及び振動励起減衰係数ζlを用いた以下の(3)式で表される伝達関数Fv(s)の演算に基づき推定用信号Xsを出力する。
伝達関数Fv(s)は、振動励起周波数ωlの信号成分を大きくする特性を表わしており、振動信号Xeに対し振動励起周波数ωlの信号成分を増幅させて推定用信号Xsを出力する。ここで、振動励起周波数ωlと振動励起減衰係数ζlを1つの制振周波数と制振減衰係数である「ωn_k、ζn_k」と一致するように設定することで、伝達関数Fv(s)の分母をフィードフォワード制御部2の伝達関数Fr(s)の制振周波数ωn_kに関する分子要素と一致させられる。つまり、共振信号演算器51は、制振周波数ωn_kにおけるフィードフォワード制御部2の逆特性に基づいた伝達特性となる。
その結果、フィードフォワード制御部2の演算による制振制御によって位置信号Xmに表れる振動は抑制されるが、推定用信号Xsには制振周波数ωn_kにおける制振制御の効果を打ち消した大きな振幅の振動が表れる。
そして、共振特性推定演算器41は、最小二乗法などの同定手法を用いて共振周波数ωp_kと共振減衰係数ζp_kの推定を行うが、そのとき大きな振幅の振動が表れた推定用信号Xsから推定を行うため、推定精度を向上させることができる。
そして、制振制御設定部7は、共振特性推定演算部4の推定結果を基に、フィードフォワード制御部2と共振信号演算器51のパラメータ設定を行う。
上記のように、実施の形態1の電動機制御装置は、制御系の共振周波数と共振減衰係数を正確に推定し、フィードフォワード制御部2の制振周波数と制振減衰係数を制御系の共振周波数と共振減衰係数に一致するように設定することができ、位置指令信号X*に対して位置信号Xmに表れる振動を抑制する制振制御を実現できる。
ここで、共振特性推定演算部4は、1回の位置指令信号X*の入力に対する制御系の共振特性の推定動作だけでは正確な推定結果を得られない場合があるため、電動機制御装置は、共振特性の推定精度を高めるために、1つの制御系の共振特性に対する推定動作を複数回繰り返すこととする。
図3は、図1の電動機制御装置にて制振制御を行わない場合の速度指令信号と位置偏差の波形を示す図である。なお、速度指令信号は、位置指令信号X*の変化量を速度に変換した値、位置偏差は、位置指令信号X*から位置信号Xmを減算した値である。
図3において、電動機制御装置にて制振制御を行っていないため、位置偏差に制御系の共振特性K1、K2による2つの周波数の振動波形が重畳した波形が現れている。
図4は、図1の電動機制御装置にて制振制御を行った場合の速度指令信号と位置偏差の波形を示す図である。図4において、フィードフォワード制御部2は2つの制振周波数における制振制御を行うことで、位置偏差に表れる図3の振動波形を抑制することができる。
次に、制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定し、フィードフォワード制御部2に設定する方式について説明する。
図5は、1つの共振特性を推定完了してから他の共振特性の推定を開始するシーケンスで複数の制御系の共振特性を推定する方法を示すフローチャートである。この方法では、制御系の共振周波数と共振減衰係数を精度よく推定できず、制振制御の効果が十分得られないという課題点がある。そして、精度よく推定できない要因は、複数の制御系の共振周波数と共振減衰係数を順番に1つずつ推定する方法に問題があるので説明する。図5において、初期状態の電動機制御装置では、フィードフォワード制御部2による制振制御と、共振信号演算器51による(3)式に基づく演算の設定は行われていない。このため、制振制御と(3)式に基づく演算は無効の状態で調整を開始する(ステップS001)。
1回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2による制振制御が無効のため、電動機11の位置に基づいた振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS002)。
共振信号演算器51は、(3)式に基づく演算が無効のため、振動信号Xeと一致する推定用信号Xsを出力し、共振特性推定演算器41は推定用信号Xsから制御系の共振特性の一つを推定する。このときの推定結果を制御系の共振特性K1の共振周波数c1と共振減衰係数e1とする(ステップS003)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’として記憶し、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、次回の位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2による制振周波数f1の制振制御を有効とする。また、制振制御設定部7は、共振信号演算器51の振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、(3)式に基づく演算を有効とする(ステップS004)。
2回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1の制振制御により振動信号Xeは、共振周波数c1の振動が抑制された波形となる(ステップS005)。
共振信号演算器51は、振動信号Xeに対して振動励起周波数pの信号成分を大きくした、つまり制振周波数f1の信号成分を大きくした推定用信号Xsを出力する(ステップS006)。ここで、推定用信号Xsは、制振周波数f1における制振制御を無効とした場合に相当する波形となるので、共振特性推定演算器41は、ステップS003の場合と同様に推定用信号Xsから制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS007)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1から候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’を更新する。そして、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、共振信号演算器51についても候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを更新する(ステップS008)。
制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1の推定結果が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性K1の推定完了とし、制御系の共振特性K2の推定に移行する。推定結果が収束していない場合はステップS005からの動作を繰り返す(ステップS009)。
ここで、共振特性K2の推定に移行するのに伴い、次回の入力に対して共振信号演算器51の(3)式に基づいた演算を無効とする。一方、フィードフォワード制御部2におけるステップS008で設定した制振周波数f1の制振制御は維持する。そのため、次の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動したとき、振動信号Xeは共振周波数c1の振動が抑制された波形となる(ステップS010)。
共振信号演算器51は、(3)式に基づいた演算は無効のため、振動信号Xeと一致する推定用信号Xsを出力する。推定用信号Xsは制御系の共振周波数c1の振動が抑制されているため、共振特性推定演算器41は制御系の共振特性K2の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS011)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’として記憶し、フィードフォワード制御部2の制振周波数f2と制振減衰係数h2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定し、次回の位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2による制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御を有効とする。また、制振制御設定部7は、共振信号演算器51の振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定し、(3)式に基づく演算を有効とする(ステップS012)。
次の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御により振動信号Xeは、共振周波数c1と共振周波数c2の振動が抑制された波形となる(ステップS013)。
共振信号演算器51は振動信号Xeに応じて振動励起周波数pの信号成分を大きくした、つまり制振周波数f2の信号成分を大きくした推定用信号Xsを出力する(ステップS014)。ここで、推定用信号Xsは制振周波数f2における制振制御を無効とした場合に相当する波形となるので、共振特性推定演算器41は、ステップS011の場合と同様に推定用信号Xsから制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS015)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2に一致するように候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’を更新する。そして、フィードフォワード制御部2の制振周波数f2と制振減衰係数h2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように更新し、共振信号演算器51についても候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを更新する(ステップS016)。
制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2の推定結果が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性K2の推定完了とする。また、推定結果が収束していない場合はステップS013からの動作を繰り返す(ステップS017)。共振特性K2の推定完了となった場合、制振制御設定部7は、候補周波数c1’、c2’と候補減衰係数e1’、e2’をフィードフォワード制御部2の制振周波数f1、f2と制振減衰係数h1、h2に設定し、制振制御の調整を終了する(ステップS018)。但し、この方法では、制御系の共振周波数c1、c2と共振減衰係数e1、e2を精度よく推定できず、制振制御の効果が十分得られない。
図6は、図5の方法にて制振制御の自動調整を行った結果を用いて制振制御を行った場合の速度指令信号と位置偏差の波形を示す図である。図6において、位置偏差において制御系の共振周波数c1の振動が残留している。これは、フィードフォワード制御部2に設定した制振周波数f1及び制振減衰係数h1と制御系の共振周波数c1及び共振減衰係数e1の間に誤差が生じているためである。
このような現象が生じた要因は、制御系の共振周波数c2の振動が抑制されていない推定用信号Xsを用いて制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1の推定を行うことにある。そして、共振周波数c2の振動の干渉により制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を正確に推定できなかったのである。
このように、図5に示した方法では、制御系の共振特性の正確な推定を行えない。このため、正確な推定結果を用いた制振制御を行えないため、十分な振動抑制効果が得られない。
図7は、上述した課題点を解決する方法を示した図1の電動機制御装置における制振制御自動調整方法のフローチャートである。図7において、初期状態の電動機制御装置では、フィードフォワード制御部2による制振制御と、共振信号演算器51による(3)式に基づく演算の設定は行われない。このため、制振制御と(3)式に基づく演算は無効とし、調整を開始する(ステップS101)。
1回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2による制振制御が無効のため、電動機11の位置に基づいた振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS102)。
共振信号演算器51は、(3)式に基づく演算が無効のため、振動信号Xeと一致する推定用信号Xsを出力し、共振特性推定演算器41は、推定用信号Xsから制御系の共振特性の一つを推定する。この時の推定結果を制御系の共振特性K1の共振周波数c1と共振減衰係数e1とする(ステップS103)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’として記憶し、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、次回の入力に対してフィードフォワード制御部2による制振周波数f1の制振制御を有効とする。一方、共振信号演算器51については、(3)式に基づいた演算の無効を維持する(ステップS104)。
2回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1の制振制御により、振動信号Xeは、共振周波数c1の振動が抑制された波形となる(ステップS105)。
共振信号演算器51は、(3)式に基づいた演算は無効のため、振動信号Xeと一致する推定用信号Xsを出力し、推定用信号Xsは制御系の共振周波数c1の振動が抑制された波形であるため、共振特性推定演算器41はもう一つの制御系の共振特性である共振特性K2の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS106)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’として記憶し、フィードフォワード制御部2の制振周波数f2と制振減衰係数h2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定し、フィードフォワード制御部2による制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御を有効とする。
また、制振制御設定部7は、次回の位置指令信号X*の入力に対して、共振周波数c2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsを出力するように、共振信号演算器51の振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、(3)式に基づく演算を有効とする(ステップS107)。
3回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御により振動信号Xeは、共振周波数c1と共振周波数c2の振動が抑制された波形となる(ステップS108)。
共振信号演算器51は、振動信号Xeに対して振動励起周波数pの信号成分を大きくした、つまり制振周波数f1の信号成分を大きくした推定用信号Xsを演算する(ステップS109)。推定用信号Xsは、制振周波数f2における制振制御のみが有効である場合に相当する波形となるので、共振特性推定演算器41は推定用信号Xsから制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS110)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1に一致するように候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’を更新する。そして、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、フィードフォワード制御部2による制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御の有効を維持する。
また、次回の位置指令信号X*の入力に対して、共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsを出力するように、共振信号演算器51には候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを設定し、(3)式に基づく演算を有効とする(ステップS111)。
4回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御により振動信号Xeは、共振周波数c1と共振周波数c2の振動が抑制された波形となる(ステップS112)。
共振信号演算器51は、振動信号Xeに対して振動励起周波数pの信号成分を大きくした、つまり制振周波数f2の信号成分を大きくした推定用信号Xsを演算する(ステップS113)。推定用信号Xsは、制振周波数f1における制振制御のみが有効である場合に相当する波形となるので、共振特性推定演算器41は推定用信号Xsから制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS114)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2に一致するように候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’を更新する。そして、フィードフォワード制御部2の制振周波数f2と制振減衰係数h2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように更新し、フィードフォワード制御部2による制振周波数f1及び制振周波数f2の制振制御の有効を維持する。
また、次回の位置指令信号X*の入力に対して、共振周波数c2の信号成分だけを小さくした信号となる推定用信号Xsを出力するように、共振信号演算器51には候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように振動励起周波数pと振動励起減衰係数qを設定し、(3)式に基づく演算を有効とする(ステップS115)。
推定結果の制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1及び共振周波数c2と共振減衰係数e2が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性の推定完了とする。
また、推定結果が収束していない場合はステップS108からの動作を繰り返す(ステップS116)。そして、共振特性の推定完了となった場合、制振制御設定部7はフィードフォワード制御部2の制振周波数f1及び制振減衰係数h1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’に、制振周波数f2及び制振減衰係数h2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’に一致するように設定を行い、制振制御の調整を終了する(ステップS117)。
図7の方法による推定結果を基にした制振制御を行うことで、図4のような位置偏差の波形となる制御対象1の駆動が実現できる。
この実施の形態1による制振制御自動調整方法では、ステップS109からステップS110までが制御系の共振特性K1の個別推定工程となり、ステップS113からステップS114までが制御系の共振特性K2の個別推定工程となる。
各個別推定工程の変更を順次繰り返すことで、制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1の推定について、制御系の共振周波数c2の振動が抑制された推定用信号Xsを用いることができ、制御系の共振周波数c2の振動による干渉を抑えて正確に推定できるようになる。
一方、制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2についても、制御系の共振周波数c1の振動が抑制された推定用信号Xsから推定演算を行うため、正確な推定が可能になる。
そして、この実施の形態1による電動機制御装置において、制御系の共振周波数c1及び共振周波数c2の振動を抑制する制振制御を実現できるようになる。
上記の説明では、フィードフォワード制御部2に設定する制振周波数が2つの場合について説明したが、2つ以上の制振周波数を設定する場合でも、制御系の共振周波数と共振減衰係数の正確に推定し、制振制御を実現することができる。その場合、設定する制振周波数の数に応じて個別推定工程の数を増やし、各個別推定工程の順次実行を繰り返し行えばよい。
また、上記の説明では、ステップS111、ステップS115に示すように、共振特性を個別に推定する毎にフィードフォワード制御部2の設定を更新するようにしているが、共振特性を個別に推定する毎に設定更新するのではなく、全ての共振特性を推定した後、例えばS116の前などに、一括してフィードフォワード制御部2の設定を更新するようにしてもよい。
また、上記の説明では、推定結果が収束すると、共振特性の推定を完了していたが、共振特性の推定を継続し、電動機制御装置を稼働させながら制振制御の修正を行うようにしてもよい。
また、上記の説明では、1回の位置指令信号X*が入力に対する推定が終わった後、候補周波数の指定を行っているが、連続した数回の位置指令信号X*の入力に対して同じ共振特性を推定した後に、次の候補周波数の指定を行うようにしてもよい。また、位置指令信号X*の入力に応じて候補周波数の指定を行っているが、時間や位置の変化に応じて候補周波数の指定を行うようにしてもよい。
また、上記の説明では、制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定し、フィードフォワード制御部2の制振周波数と制振減衰係数の両方を設定する形態として説明したが、制振制御の効果としては劣るものの、簡単化のために制振減衰係数は固定としてもよく、その場合、制御系の減衰係数は推定しなくてもよい。
また、上記の説明では、共振信号演算器51の伝達関数Fv(s)は、1つの制振周波数におけるフィードフォワード制御部2の逆特性に基づいた伝達特性としたが、特性が多少ずれた設定を行った場合でも、共振特性推定演算器41の推定結果が若干劣化するものの、ほぼ同様の動作を行うことができる。
また、上記の説明では、共振信号演算器51は(3)式で表せる伝達特性を有していたが、ノイズやオフセットの影響を除くために、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタなどの減衰が0.2以下の値となる極や零点を有さない滑らかな伝達特性を、(3)式の伝達特性に付加してもよい。
また、上記の説明では、共振信号演算器51に入力する信号はフィードバック制御部3に入力される信号に基づいて設定する方法を示したが、フィードバック制御部3に入力する信号と異なる信号を用いてもよく、例えば機械系12に取り付けた加速度センサで検出した機械系12の加速度信号などを用いても同様の動作を実現できる。
また、上記の説明では、位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2で制御系の共振周波数の信号成分を小さくする演算を行うことで制振制御を実現していたが、フィードフォワード制御部2の代わりに、位置信号Xmに振動が表れないように位置指令信号X*を整形する演算を行うブロックを設けた場合においても同様の動作を実現できる。
実施の形態2.
図8は、本発明に係る電動機制御装置の実施の形態2の概略構成を示すブロック図である。図8において、制御対象1には、電動機11とそれに連結された機械系12及び電動機の位置を検出する位置検出器13が設けられている。そして、実施の形態1の電動機制御装置と同様に、位置指令信号X*に応じてフィードフォワード制御部2とフィードバック制御部3により演算された駆動指令T*に応じて制御対象1は駆動され、位置検出器13は電動機11の位置を示す位置信号Xmを出力する。
制御対象1を含む制御系の共振特性による振動以外の成分を取り除くために、減算器6は位置信号Xmから制振位置指令信号Xrを減算し、振動信号Xeを出力する。
そして、推定用信号演算部5aは、振動信号Xeに応じて推定用信号Xsa1、Xsa2を出力し、共振特性推定演算部4aは、推定用信号Xsa1、Xsa2から最小二乗法などの同定手法を用いて制御対象1を含む制御系の共振特性を推定する。制振制御設定部7は、共振特性推定演算部4aが推定した制御系の共振特性を記憶し、フィードフォワード制御部2と推定用信号演算部5aの演算特性を設定する。
ここで、図8のフィードフォワード制御部2は、実施の形態1の電動機制御装置のフィードフォワード制御部2と同じ機能を有し、設定された制振周波数の制振制御を実現できる。
図9は、図8の電動機制御装置における制御系の共振特性の推定に係わる構成を示すブロック図である。図9において、推定用信号演算部5aは、共振信号演算器51a、52aを有しており、これらは実施の形態1の共振信号演算器51と同様の機能であり、(3)式に基づいた演算により、振動信号Xeに対して設定した振動励起周波数の信号成分を大きくした推定用信号Xsa1、Xsa2をそれぞれ出力する。
そして、共振特性推定演算部4aは共振特性推定演算器41a、42aを有しており、これらは実施の形態1の共振特性推定演算器41と同様の機能を有し、各推定用信号Xsa1、Xsa2から制御系の共振特性をそれぞれ推定する。
上記のように実施の形態2の電動機制御装置は、実施の形態1の電動機制御装置の共振信号演算器51と共振特性推定演算器41と同じ機能を有する演算部を2組有し、制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定する。そして、制振制御設定部7は、推定結果をフィードフォワード制御部2の制振周波数と制振減衰係数に設定することで、2つの制振周波数に対する制振制御を実現できる。
ここで、共振特性推定演算部4は、1回の位置指令信号X*の入力に対する制御系の共振特性の推定動作だけでは正確な推定結果を得られない場合があるため、電動機制御装置は、共振特性の推定精度を高めるために、1つの制御系の共振特性に対する推定動作を複数回繰り返すこととする。
図10は、図8の電動機制御装置の制振制御自動調整方法を示すフローチャートである。図10において、初期状態の電動機制御装置では、フィードフォワード制御部2による制振制御と、推定用信号演算部5aの各共振信号演算器による(3)式に基づく演算の設定は行われない。このため、制振制御と(3)式に基づく演算は無効とし、調整を開始する(ステップS201)。
1回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2による制振制御が無効のため、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS202)。
推定用信号演算部5aにおいて、(3)式に基づいた演算は無効となっているため、各共振信号演算器51a、52aが出力する推定用信号Xsa1、Xsa2は振動信号Xeと一致する。共振特性推定演算部4aは、推定用信号Xsa1、Xsa2から制御系の共振特性を推定する(ステップS203)。
推定用信号Xsa1、Xsa2は同じ特性の信号であるため、共振特性推定演算部4aの推定結果は1種類となり、この時の推定結果を制御系の共振特性K1の共振周波数c1と共振減衰係数e1とする。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’として記憶し、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、次回の入力に対してフィードフォワード制御部2による制振周波数f1の制振制御を有効とする。
また、制振制御設定部7は、推定用信号演算部5aの共振信号演算器51aの振動励起周波数p1と振動励起減衰係数q1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、(3)式に基づいた演算を有効にするが、共振信号演算器52aに対しては(3)式に基づいた演算の無効を維持する(ステップS204)。
2回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1の制振制御により、振動信号Xeは共振周波数c1の振動が抑制された波形となる(ステップS205)。
推定用信号演算部5aの共振信号演算器51aは、振動信号Xeに対して振動励起周波数p1の信号成分を大きくした、つまり制振周波数f1の信号成分を大きくした推定用信号Xsa1を演算し(ステップS206)、共振特性推定演算部4aの共振特性推定演算器41aは推定用信号Xsa1から制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS207)。
推定用信号演算部5aの共振信号演算器52aは、(3)式に基づいた演算は無効のため振動信号Xeと一致した推定用信号Xsa2を出力し、推定用信号Xsa2は制御系の共振周波数c1の振動が抑制されているので、共振特性推定演算部4aの共振特性推定演算器42aは制御系の共振特性K2の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS208)。
そして、制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1に一致するように候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’を更新し、更に推定した共振周波数c2と共振減衰係数e2に一致するように候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’を記憶する。そして、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、制振周波数f2と制振減衰係数h2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定する。
さらに、制振制御設定部7は、次回の位置指令信号X*の入力に対して、制振周波数f2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsa1を出力するように共振信号演算器51aの振動励起周波数p1と振動励起減衰係数q1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、また、制振周波数f1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsa2を出力するように共振信号演算器52aの振動励起周波数p2と振動励起減衰係数q2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定し、(3)式に基づいた演算を有効にする(ステップS209)。
3回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1、f2の制振制御により、振動信号Xeは共振周波数c1、c2の振動が抑制された波形となる(ステップS210)。
共振信号演算器51aは、振動信号Xeに対し振動励起周波数p1の信号成分を大きくした、つまり制振周波数f1の信号成分を大きくした推定用信号Xsa1を出力し(ステップS211)、共振特性推定演算器41aは制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS212)。
共振信号演算器52aは、振動信号Xeから振動励起周波数p2の信号成分を大きくした、つまり制振周波数f2の信号成分を大きくした推定用信号Xsa2を出力し(ステップS213)、共振特性推定演算器42aは制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS214)。
そして、制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1、c2と共振減衰係数e1、e2に一致するように候補周波数c1’、c2’及び候補減衰係数e1’、e2’を更新し、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に更新するとともに、制振周波数f2と制振減衰係数h2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように更新する。
さらに、制振制御設定部7は、次回の位置指令信号X*の入力に対して、制振周波数f2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsa1を出力するように共振信号演算器51aの振動励起周波数p1と振動励起減衰係数q1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、また、制振周波数f1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsa2を出力するように共振信号演算器52aの振動励起周波数p2と振動励起減衰係数q2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように更新する(ステップS215)。
推定結果の制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1及び共振周波数c2と共振減衰係数e2が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性の推定完了とする。
また、推定結果が収束していない場合はステップS210からの動作を繰り返す(ステップS216)。共振特性の推定完了となった場合、制振制御設定部7はフィードフォワード制御部2の制振周波数f1及び制振減衰係数h1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’に、制振周波数f2及び制振減衰係数h2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’に一致するように設定を行い、制振制御の調整を終了する(ステップS217)。
上述した方法による推定結果を基にした制振制御を行うことで、図4のような位置偏差の波形となる制御対象1の駆動が実現できる。
この発明の実施の形態2による制振制御自動調整方法では、ステップS211からステップS212までが制御系の共振特性K1の個別推定工程となり、ステップS213からステップS214までが制御系の共振特性K2の個別推定工程となる。
制御系の共振特性K1の個別推定工程では、制御系の共振周波数c2の振動が抑制された推定用信号Xsa1を用いることで制御系の共振周波数c2の振動による干渉を抑えた正確な推定が可能になる。
制御系の共振特性K2の個別推定工程においても、制御系の共振周波数c1の振動が抑制された推定用信号Xsa2を用いることで制御系の共振周波数c1の振動による干渉を抑えた正確な推定が可能になる。
また、各個別推定工程を同時に実施することにより、推定完了までの時間を短縮できる。そして、この発明の実施の形態2による電動機制御装置において、制御系の共振周波数c1及び共振周波数c2の振動を抑制する制振制御を実現できるようになる。
上記の説明ではフィードフォワード制御部2に設定する制振周波数が2つの場合について説明したが、2つ以上の制振周波数を設定する場合でも、制御系の共振周波数と共振減衰係数を正確に推定し、制振制御を実現することができる。
その場合、設定する制振周波数の数に応じて個別推定工程の数を増やし、それに応じて推定用信号演算部5aの共振信号演算器と共振特性推定演算部4aの共振特性推定演算器の数を並列演算となるように増やせばよい。
また、上記の説明では、推定結果が収束すると、共振特性の推定を完了していたが、共振特性の推定を継続し、電動機制御装置を稼働させながら制振制御の修正を行うようにしてもよい。
また、上記の説明では、制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定し、フィードフォワード制御部2の制振周波数と制振減衰係数の両方を設定する形態として説明したが、制振制御の効果としては劣るものの、簡単化のために制振減衰係数は固定としてもよく、その場合、制御系の減衰係数は推定しなくてもよい。
また、上記の説明では、各共振信号演算器51a、52aは(3)式で表せる伝達特性を有していたが、ノイズやオフセットの影響を除くために、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタなどの減衰が0.2以下の値となる極や零点を有さない滑らかな伝達特性を(3)式で表せる伝達特性に付加して良い。
また、上記の説明では、推定用信号演算部5aに入力する信号は、フィードバック制御部3に入力される信号に基づいた信号としていたが、フィードバック制御部3に入力する信号と異なる信号を用いてもよく、例えば機械系12に取り付けた加速度センサで検出した機械系12の加速度信号などを用いても同様の動作を実現できる。
また、上記の説明では、位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2で制御系の共振周波数の信号成分を小さくする演算を行うことで制振制御を実現していたが、フィードフォワード制御部2の代わりに、位置信号Xmに振動が表れないように位置指令信号X*を整形する演算を行うブロックを設けるようにしてもよい。
実施の形態3.
図11は、本発明に係る電動機制御装置の実施の形態3の概略構成を示すブロック図である。図11において、この電動機制御装置は、実施の形態1の電動機制御装置の推定用信号演算部5を推定用信号演算部5bに変更した構成となっている。その他の構成要素に関しては、実施の形態1の電動機制御装置の構成要素と同等の機能を有している。
図12は、図11の電動機制御装置における制御系の共振特性の推定に係わる構成を示すブロック図である。図12において、推定用信号演算部5bは推定用信号演算器51bを有しており、振動信号Xeからノイズやオフセットの影響を除くために、推定用信号演算器51bはハイパスフィルタやバンドパスフィルタなどの減衰が0.2以下の値となる極や零点を有さない滑らかな伝達特性に基づく演算により推定用信号Xsbを出力する。共振特性推定演算部4は、実施の形態1と同様に共振特性推定演算器41を有しており、推定用信号Xsbに含まれる振動成分から制御系の共振特性の推定を行う。
図13は、図11の電動機制御装置の制振制御自動調整方法を示すフローチャートである。図13において、初期状態の電動機制御装置では、フィードフォワード制御部2による制振制御の設定は行われていない。このため、制振制御の演算は無効とし、調整を開始する(ステップS301)。
1回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2による制振制御が無効のため、振動信号Xe並びに推定用信号演算部5bが出力する推定用信号Xsbには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS302)。
共振特性推定演算器41は推定用信号Xsbから制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定し、この推定結果を制御系の共振特性K1の共振周波数c1と共振減衰係数e1とする(ステップS303)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’として記憶し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定結果の共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsbが生成されるように、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1及び制振減衰係数h1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’に一致するように設定し、フィードフォワード制御部2による制振周波数f1の制振制御を有効とする(ステップS304)。
2回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f1の制振制御により、推定用信号Xsbは共振周波数c1の振動が抑制された波形となる(ステップS305)。
共振特性推定演算器41は、推定用信号Xsbから制御系の共振特性K2の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS306)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’として記憶し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定結果の共振周波数c2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsbが生成されるように、フィードフォワード制御部2の制振周波数f2及び制振減衰係数h2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’に一致するように設定し、フィードフォワード制御部2による制振周波数f2の制振制御を有効とし、一方で制振周波数f1の制振制御については無効とする(ステップS307)。
3回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2における制振周波数f2の制振制御により、推定用信号Xsbは共振周波数c2の振動が抑制された波形となる(ステップS308)。
共振特性推定演算器41は、推定用信号Xsbから制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS309)。制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1から候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’を更新し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定結果の共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsbが生成されるように、フィードフォワード制御部2の制振周波数f1と制振減衰係数h1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、フィードフォワード制御部2による制振周波数f1の制振制御を有効とし、一方で制振周波数f2の制振制御については無効にする(ステップS310)。
推定結果の制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1及び共振周波数c2と共振減衰係数e2が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性の推定完了とする。
また、共振特性K1と共振特性K2の推定を2回以上行っていない場合、もしくは推定結果が収束していない場合はステップS305からの動作を繰り返す(ステップS311)。共振特性の推定完了となった場合、制振制御設定部7はフィードフォワード制御部2の制振周波数f1及び制振減衰係数h1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’に、制振周波数f2及び制振減衰係数h2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’に一致するように設定を行い、制振制御の調整を終了する(ステップS312)。
上述した方法による推定結果を基にした制振制御を行うことで、図4のような位置偏差の波形となる制御対象1の駆動が実現できる。
この発明の実施の形態3による制振制御自動調整方法では、ステップS305からステップS307までが制御系の共振特性K2の個別推定工程となり、ステップS308からステップS310までが制御系の共振特性K1の個別推定工程となる。
制御系の共振特性K1の個別推定工程では、制御系の共振周波数c2の振動が抑制された推定用信号Xsbを用いることで制御系の共振周波数c2の振動による干渉を抑えた正確な推定が可能になる。
制御系の共振特性K2の個別推定工程においては、制御系の共振周波数c1の振動が抑制された推定用信号Xsbを用いることで制御系の共振周波数c1の振動による干渉を抑えた正確な推定が可能になる。
そして、この発明の実施の形態3による電動機制御装置において、制御系の共振周波数c1及び共振周波数c2の振動を抑制する制振制御を実現できるようになる。
上記の説明ではフィードフォワード制御部2に設定する制振周波数が2つの場合について説明したが、2つ以上の制振周波数を設定する場合でも、制御系の共振周波数と共振減衰係数を正確に推定し、制振制御を実現することができる。その場合、設定する制振周波数の数に応じて個別推定工程の数を増やし、各個別推定工程の順次実行を繰り返せばよい。
また、上記の説明では、動作指令である位置指令信号X*が入力される毎に推定する共振周波数の変更を行っているが、数回の位置指令信号X*の入力毎に推定する共振周波数の変更を行ってもよい。また、位置指令信号X*の入力に応じて推定する共振周波数の変更を行っているが、時間や位置に応じて推定する共振周波数の変更を行ってもよい。
また、上記の説明では、1回の位置指令信号X*が入力に対する推定が終わった後、候補周波数の指定を行っているが、連続した数回の位置指令信号X*の入力に対して同じ共振特性を推定した後に、次の候補周波数の指定を行うようにしてもよい。また、位置指令信号X*の入力に応じて候補周波数の指定を行っているが、時間や位置の変化に応じて候補周波数の指定を行うようにしてもよい。
また、上記の説明では、ノイズやオフセットの影響を除くために、推定用信号演算器51bはハイパスフィルタやバンドパスフィルタなどの伝達特性を有しているとしたが、振動信号Xeから推定用信号Xsbまでを直達としてもよい。また、推定用信号演算部5bを省略した構成でも制御系の共振特性の推定を行うことができ、その場合、計算負荷を小さくすることができる。
また、上記の説明では、共振特性推定演算部4に入力する信号はフィードバック制御部3に入力される信号に基づいた信号としていたが、フィードバック制御部3に入力する信号と異なる信号を用いてもよく、例えば機械系12に取り付けた加速度センサで検出した機械系12の加速度信号などを用いても同様の動作を実現できる。
また、上記の説明では、位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2で制御系の共振周波数の信号成分を小さくする演算を行うことで制振制御を実現していたが、フィードフォワード制御部2の代わりに、位置信号Xmに振動が表れないように位置指令信号X*を整形するブロックを設けるようにしてもよい。
実施の形態4.
図14は、本発明に係る電動機制御装置の実施の形態4の概略構成を示すブロック図である。図14において、この電動機制御装置は、実施の形態1の電動機制御装置の推定用信号演算部5を推定用信号演算部5cに変更した構成となっている。その他の構成要素に関しては、実施の形態1の電動機制御装置の構成要素と同等の機能を有している。
図15は、図14の電動機制御装置における制御系の共振特性の推定に係わる構成を示すブロック図である。図15において、推定用信号演算部5cは振動除去信号演算器51cを有しており、振動除去信号演算器51cは、制振位置指令信号Xrから位置信号Xmを減算した振動信号Xeに応じて推定用信号Xscを演算する。
次に、制御系の共振周波数と共振減衰係数の推定について説明する。
振動除去信号演算器51cは振動信号Xeを入力とし、設定された振動除去周波数と振動除去減衰係数の組「ωm_j、ζm_j」(j=1、2、・・・、N−1)を用いた(4)式で表される伝達関数Fs(s)の演算により推定用信号Xscを出力する。
ただし、a2N−2、a2N−3、・・・、a1については適切な定数を設定する。
この(4)式の伝達関数Fs(s)は、設定した振動除去周波数の信号成分を小さくする特性を表わしており、振動信号Xeに対し振動除去周波数の信号成分を小さくして推定用信号Xscを出力する。
そして、共振特性推定演算部4は、推定用信号Xscを入力とし、最小二乗法などの同定手法を用いて、制御系の共振周波数と共振減衰係数の推定を行う。
上記のように実施の形態4の電動機制御装置は、制御系の共振周波数と共振減衰係数を正確に推定し、位置指令信号X*に対して位置信号Xmに表れる共振周波数の振動を抑制できるようになる。
ここで、共振特性推定演算部4は、1回の位置指令信号X*の入力に対する制御系の共振特性の推定動作だけでは正確な推定結果を得られない場合があるため、電動機制御装置は、共振特性の推定精度を高めるために、1つの制御系の共振特性に対する推定動作を複数回繰り返すこととする。
図16は、図14の電動機制御装置の制振制御自動調整方法を示すフローチャートである。図16において、制振制御自動調整中にはフィードフォワード制御部2の制振制御演算は無効となる。また、初期状態では、推定用信号演算部5cの振動除去信号演算器51cによる(4)式に基づく演算の設定は行われない。このため、制振制御と(4)式に基づく演算は無効とし、調整を開始する(ステップS401)。
1回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2による制振制御が無効のため、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS402)。
振動除去信号演算器51cは、(4)式に基づく演算は無効であり、振動信号Xeと一致する推定用信号Xscを出力し、共振特性推定演算器41は推定用信号Xscから制御系の共振特性を推定し、この推定結果を制御系の共振特性K1の共振周波数c1と共振減衰係数e1とする(ステップS403)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’として記憶し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定した共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xscを出力するように、振動除去信号演算器51cの振動除去周波数gと振動除去減衰係数iを候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、振動除去信号演算器51cについて振動除去周波数gにおける(4)式に基づいた演算を有効とする(ステップS404)。
2回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS405)。
振動除去信号演算器51cは、振動信号Xeに応じて振動除去周波数g1の信号成分を小さくした推定用信号Xscを出力する(ステップS406)。推定用信号Xscは制御系の共振周波数c1の振動が抑制されているため、共振特性推定演算器41は推定用信号Xscから制御系の共振特性K2の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS407)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’として記憶し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定した共振周波数c2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xscを出力するように、振動除去信号演算器51cの振動除去周波数gと振動除去減衰係数i2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定し、振動除去信号演算器51cの振動除去周波数gにおける(4)式に基づいた演算を有効とする(ステップS408)。
3回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS409)。
振動除去信号演算器51cは、振動信号Xeに応じて振動除去周波数gの信号成分を小さくした推定用信号Xscを出力する(ステップS410)。推定用信号Xscは制御系の共振周波数c2の振動が抑制されているため、共振特性推定演算器41は推定用信号Xscから制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS411)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1から候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’を更新し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定した共振周波数c1の信号成分だけを小さくした信号となる推定用信号Xscを出力するように、振動除去信号演算器51cの振動除去周波数gと振動除去減衰係数iを候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、振動除去信号演算器51cについて振動除去周波数gにおける(4)式に基づいた演算を有効とする(ステップS412)。
推定結果の制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1及び共振周波数c2と共振減衰係数e2が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性の推定完了とする。
また、共振特性K1と共振特性K2の推定を2回以上行っていない場合、もしくは推定結果が収束していない場合はステップS405からの動作を繰り返す(ステップS413)。共振特性の推定完了となった場合、制振制御設定部7はフィードフォワード制御部2の制振周波数f1及び制振減衰係数h1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’に、制振周波数f2及び制振減衰係数h2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’に一致するように設定を行い、制振制御の調整を終了する(ステップS414)。
上述した方法による推定結果を基にした制振制御を行うことで、図4のような位置偏差の波形となる制御対象1の駆動が実現できる。
この発明の実施の形態4による制振制御自動調整方法では、ステップS406からステップS407までが制御系の共振特性K2の個別推定工程となり、ステップS410からステップS411までが制御系の共振特性K1の個別推定工程となる。
各個別推定工程の変更を繰り返すことで、制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1の推定について、制御系の共振周波数c2の振動が抑制された推定用信号Xscを用いることができ、制御系の共振周波数c2の振動による干渉を抑えて正確に推定できるようになる。
制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2についても、制御系の共振周波数c1の振動が抑制された推定用信号Xscから推定演算を行うため、正確な推定が可能になる。そして、この発明の実施の形態4による電動機制御装置において、制御系の共振周波数c1及び共振周波数c2の振動を抑制する制振制御を実現できるようになる。
上記の説明ではフィードフォワード制御部2に設定する制振周波数が2つの場合について説明したが、2つ以上の制振周波数を設定する場合でも、制御系の共振周波数と共振減衰係数を正確に推定し、制振制御を実現することができる。その場合、設定する制振周波数の数に応じて個別推定工程の数を増やし、各個別推定工程の順次実行を繰り返せばよい。
また、上記の説明では、1回の位置指令信号X*が入力に対する推定が終わった後、候補周波数の指定を行っているが、連続した数回の位置指令信号X*の入力に対して同じ共振特性を推定した後に、次の候補周波数の指定を行うようにしてもよい。また、位置指令信号X*の入力に応じて候補周波数の指定を行っているが、時間や位置の変化に応じて候補周波数の指定を行うようにしてもよい。
また、上記の説明では、動作指令である位置指令信号X*の入力が複数回あることで各個別推定工程を実現しているが、位置指令信号X*を1回入力したときの振動信号Xeの波形をデータとして記憶し、その波形データを呼び出すことで各個別推定工程を実現しても良い。その場合、図16のフローチャートで示した各ステップからステップS405とステップS409を省略することができる。
また、上記の説明では、制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定し、フィードフォワード制御部2の制振周波数と制振減衰係数の両方を設定する形態として説明したが、制振制御の効果としては劣るものの、簡単化のために制振減衰係数は固定としてもよく、その場合、制御系の減衰係数は推定しなくてもよい。
また、上記の説明では、振動除去信号演算器51cは(4)式で表せる伝達特性を有していたが、ノイズやオフセットの影響を除くために、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタなどの減衰が0.2以下の値となる極や零点を有さない滑らかな伝達特性を(4)式で表せる伝達特性に付加して良い。
また、上記の説明では、推定用信号演算部5cに入力する信号はフィードバック制御部3に入力される信号に基づいた信号としていたが、フィードバック制御部3に入力する信号と異なる信号を用いてもよく、例えば機械系12に取り付けた加速度センサで検出した機械系12の加速度信号などを用いても同様の動作を実現できる。
また、上記の説明では、位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2で制御系の共振周波数の信号成分を小さくする演算を行うことで制振制御を実現していたが、フィードフォワード制御部2の代わりに、位置信号Xmに振動が表れないように位置指令信号X*を整形するブロックを設けるようにしてもよい。
実施の形態5.
図17は、本発明に係る電動機制御装置の実施の形態5の概略構成を示すブロック図である。図17において、この電動機制御装置は、実施の形態2の電動機制御装置の推定用信号演算部5aを推定用信号演算部5dに変更した構成となっている。その他の構成要素に関しては、実施の形態2の電動機制御装置の構成要素と同等の機能を有している。
図18は、図17の電動機制御装置における制御系の共振特性の推定に係わる構成を示すブロック図である。図18において、推定用信号演算部5dは振動除去信号演算器51d、52dを有し、振動除去信号演算器51d、52dは、制振位置指令信号Xrから位置信号Xmを減算した振動信号Xeに応じて推定用信号Xsd1、Xsd2をそれぞれ演算する。
ここで、振動除去信号演算器51d、52dは、実施の形態4の振動除去信号演算器51cと同等の機能を有し、(4)式に基づく演算により振動信号Xeに対し設定した振動除去周波数の信号成分を小さくして推定用信号Xsd1、Xsd2をそれぞれ出力する。
図19は、図17の電動機制御装置の制振制御自動調整方法を示すフローチャートである。図19において、制振制御自動調整中にはフィードフォワード制御部2の制振制御演算は無効となる。また、初期状態では、推定用信号演算部5dの振動除去信号演算器51dと振動除去信号演算器52dの(4)式に基づく演算は無効とし、調整を開始する(ステップS501)。
1回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、フィードフォワード制御部2による制振制御が無効のため、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS502)。
推定用信号演算部5dの各振動除去信号演算器51d、52dは(4)式に基づく演算は無効のため、振動信号Xeと一致した推定用信号Xsd1、Xsd2をそれぞれ出力し、共振特性推定演算部4aは各推定用信号Xsd1、Xsd2から制御系の共振特性を推定する。
推定用信号Xsd1、Xsd2は同じ特性の信号であるため、共振特性推定演算部4aの推定結果は1つであり、このときの推定結果を制御系の共振特性K1の共振周波数c1と共振減衰係数e1とする(ステップS503)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’として記憶し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定した共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsd1を出力するように、推定用信号演算部5dの振動除去信号演算器51dの振動除去周波数g1と振動除去減衰係数i1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように設定し、振動除去周波数g1における(4)式に基づいた演算を有効とする。一方、推定用信号演算部5dの振動除去信号演算器52dは、(4)式に基づく演算の無効を維持する(ステップS504)。
2回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS505)。
推定用信号演算部5dの振動除去信号演算器51dは、振動信号Xeに応じて振動除去周波数g1の信号成分を小さくした推定用信号Xsd1を出力し(ステップS506)、推定用信号Xsd1は制御系の共振周波数f1の振動が抑制されているため、共振特性推定演算部4aの共振特性推定演算器41aは制御系の共振特性K2の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS507)。
推定用信号演算部5dの振動除去信号演算器52dは(4)式に基づく演算は無効のため、振動信号Xeと一致した推定用信号Xsd2を出力し、共振特性推定演算部4aの共振特性推定演算器42aは推定用信号Xsd2から制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS508)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1に一致するように候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’を更新し、更に推定した共振周波数c2と共振減衰係数e2に一致するように候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’を記憶する。そして、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定した共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsd1を出力するように振動除去信号演算器51dの振動除去周波数g1と振動除去減衰係数i1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、共振周波数c2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsd2を出力するように、振動除去信号演算器52dに対しては振動除去周波数g2と振動除去減衰係数i2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように設定し、振動除去周波数g2における(4)式に基づいた演算を有効にする(ステップS509)。
3回目の位置指令信号X*の入力に応じて制御対象1が駆動されたとき、振動信号Xeには制御系の共振特性による振動が表れる(ステップS510)。
振動除去信号演算器51dは、振動信号Xeに応じて振動除去周波数g1の信号成分を小さくした推定用信号Xsd1を出力し(ステップS511)、推定用信号Xsd1は制御系の共振周波数c1の振動が抑制されているため、共振特性推定演算器41aは制御系の共振周波数c2と共振減衰係数e2を推定する(ステップS512)。
振動除去信号演算器52dは、振動信号Xeに応じて振動除去周波数g2の信号成分を小さくした推定用信号Xsd2を出力し(ステップS513)、推定用信号Xsd2は制御系の共振周波数c2の振動が抑制されているため、共振特性推定演算器42aは推定用信号Xsd2から制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1を推定する(ステップS514)。
制振制御設定部7は、推定した制御系の共振周波数c1、c2と共振減衰係数e1、e2に一致するように候補周波数c1’、c2’及び候補減衰係数e1’、e2’を更新し、次回の位置指令信号X*の入力に対して推定した共振周波数c1の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsd1と推定した共振周波数c2の信号成分だけを小さくした推定用信号Xsd2を出力するように、振動除去信号演算器51dの振動除去周波数g1と振動除去減衰係数i1を候補周波数c1’と候補減衰係数e1’に一致するように更新し、振動除去信号演算器51dに対しては振動除去周波数g2と振動除去減衰係数i2を候補周波数c2’と候補減衰係数e2’に一致するように更新する(ステップS515)。
推定結果の制御系の共振周波数c1と共振減衰係数e1及び共振周波数c2と共振減衰係数e2が前回推定の結果と同等の値になる、つまり推定結果が収束すると、共振特性の推定完了とする。
また、推定結果が収束していない場合はステップS510からの動作を繰り返す(ステップS516)。共振特性の推定完了となった場合、制振制御設定部7はフィードフォワード制御部2の制振周波数f1及び制振減衰係数h1を候補周波数c1’及び候補減衰係数e1’に、制振周波数f2及び制振減衰係数h2を候補周波数c2’及び候補減衰係数e2’に一致するように設定を行い、制振制御の調整を終了する(ステップS517)。
上述した方法による推定結果を基にした制振制御を行うことで、図4のような位置偏差の波形となる制御対象1の駆動が実現できる。
この発明の実施の形態5による制振制御自動調整方法では、ステップS511からステップS512までが制御系の共振特性K2の個別推定工程となり、ステップS513からステップS514までが制御系の共振特性K1の個別推定工程となる。
制御系の共振特性K1の個別推定工程では、制御系の共振周波数c2の振動が抑制された推定用信号Xsd2を用いることで制御系の共振周波数c2の振動による干渉を抑えた正確な推定が可能になる。
制御系の共振特性K2の個別推定工程においても、制御系の共振周波数c1の振動が抑制された推定用信号Xsd1を用いることで制御系の共振周波数c1の振動による干渉を抑えた正確な推定が可能になる。
また、各個別推定工程を同時に実施することにより、推定完了までの時間を短縮できる。そして、この実施の形態5による電動機制御装置において、制御系の共振周波数c1及び共振周波数c2の振動を抑制する制振制御を実現できるようになる。
上記の説明ではフィードフォワード制御部2に設定する制振周波数が2つの場合について説明したが、2つ以上の制振周波数を設定する場合でも、制御系の共振周波数と共振減衰係数を正確に推定し、制振制御を実現することができる。その場合、設定する制振周波数の数に応じて個別推定工程の数を増やし、それに応じて推定用信号演算部5dの振動除去信号演算器と共振特性推定演算部4aの共振特性推定演算器の数を並列演算となるように増やせばよい。
また、上記の説明では、動作指令である位置指令信号X*の入力が複数回あることで各個別推定工程を実現しているが、位置指令信号X*を1回入力したときの振動信号Xeの波形をデータとして記憶し、その波形データを呼び出すことで各個別推定工程を実現しても良い。その場合、図19のフローチャートで示した各ステップからステップS505とステップS510を省略することができる。
また、上記の説明では、制御系の共振周波数と共振減衰係数を推定し、フィードフォワード制御部2の制振周波数と制振減衰係数の両方を設定する形態として説明したが、制振制御の効果としては劣るものの、簡単化のために制振減衰係数は固定としてもよく、その場合、制御系の減衰係数は推定しなくてもよい。
また、上記の説明では、各振動除去信号演算器51d、52dは(4)式で表せる伝達特性を有していたが、ノイズやオフセットの影響を除くために、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタなどの減衰が0.2以下の値となる極や零点を有さない滑らかな伝達特性を(4)式で表せる伝達特性に付加しても良い。
また、上記の説明では、推定用信号演算部5dに入力する信号はフィードバック制御部3に入力される信号に基づいた信号としていたが、フィードバック制御部3に入力する信号と異なる信号を用いてもよく、例えば機械系12に取り付けた加速度センサで検出した機械系12の加速度信号などを用いても同様の動作を実現できる。
また、上記の説明では、位置指令信号X*の入力に対してフィードフォワード制御部2で制御系の共振周波数の信号成分を小さくする演算を行うことで制振制御を実現していたが、フィードフォワード制御部2の代わりに、位置信号Xmに振動が表れないように位置指令信号X*を整形する演算を行うブロックを設けるようにしてもよい。