JP5586890B2 - 制振装置の調整方法 - Google Patents

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Description

本発明は制振装置の調整方法に係り、特に、建物の変位に対して減衰力を発生するように前記建物に取付けられる制振装置の調整方法に関する。
従来より、地震時等における建物の振動等を抑制することを目的として、建物の変位に対して減衰力を発生するように制振装置を取付けることが行われている。但し、この種の制振装置を建物に取付けてから長い期間が経過すると、制振装置の劣化等により所期の制振性能が発揮されない状態に陥ることが考えられる。これに関連して特許文献1には、建物用の規格化された弾塑性エネルギー吸収体に対し、実地震の地震波を位相差分分布に変換して標準偏差を算出すると共に、前記実地震により発生した弾塑性エネルギー吸収体の最大変位量を算出し、前記実地震波の標準偏差と、前記実地震により発生した弾塑性エネルギー吸収体の最大変位量と、予め作成した地震により発生する弾塑性エネルギー吸収体の最大変位量と、該地震に起因する弾塑性エネルギー吸収体の累積損傷値との相関関係情報と、から弾塑性エネルギー吸収体の累積損傷値を演算する技術が開示されている。
特開2008−32578号公報
制振装置による制振性能は、制振装置を取付ける建物の特性値(例えば固有振動数や剛性、減衰定数等)の影響を受けて変化する。このため、制振装置の設計にあたっては、制振装置を取付ける建物の特性値も考慮し、地震時等における建物の振動等を最小とするために制振装置で発生すべき減衰力(吸収エネルギー量)を演算し、演算した減衰力が発生するように制振装置を構成することが一般的である。
しかしながら、建物の特性値は、例えば建物内部のリフォーム等を行うことによる間取りの変化や、建物を構成する部材の劣化等の建物の経時的な変化に応じて変化するので、建物に上記のような経時的な変化が生ずると、これに伴って制振装置の制振性能が低下することになる。これに対して特許文献1に記載の技術は、弾塑性エネルギー吸収体の劣化を診断する技術であり、建物の経時変化が制振装置の制振性能に影響を及ぼすことを考慮していないので、建物の経時変化に伴って制振装置の制振性能が低下したとしてもこれを検知できない、という問題がある。
また特許文献1には、弾塑性エネルギー吸収体が劣化していると診断した場合の対処について何ら記載されていない。特許文献1に記載の技術における上記の対処としては、例えば弾塑性エネルギー吸収体を交換する作業を行うことが考えられるが、特許文献1に記載の技術では、前述のように建物の経時変化に伴う制振装置の制振性能の低下を検知することができないので、建物の経時変化に伴って制振装置の制振性能が低下したとしても放置されることになる、という問題もある。
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、建物の経時変化に伴う制振性能の低下を抑制できる制振装置の調整方法を得ることが目的である。
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る制振装置の調整方法は、建物の変位に対して減衰力を発生するように前記建物に取付けられると共に、発生する減衰力を調整可能とされ、前記建物の経時変化を検出した結果に応じて減衰力が調整される制振装置の調整方法であって、地震波による加速度の時間経過に伴う推移を表す実地震データが記憶部に記憶されているか否かを判定する判定ステップと、前記実地震データが記憶されている場合に、前記実地震データに基づいて、前記経時変化の検出結果に相当する前記建物の特性値を演算し、前記実地震データが記憶されていない場合には、微小加速度入力装置によって前記建物を打撃することで前記建物に入力された加速度に対する前記建物の応答を検出する検出手段の検出結果に基づいて、前記特性値を演算する演算ステップと、を含んでいる
請求項1記載の発明に係る制振装置は、建物に取付けられた制振装置を含んで構成されており、この制振装置は、建物の変位に対して減衰力を発生するように建物に取付けられると共に、発生する減衰力を調整可能とされており、建物の経時変化を検出した結果に応じて減衰力が調整される。そして、実地震データが記憶されているか否かを判定し、判定結果に基づいて建物の経時変化の検出結果に相当する建物の特性値を演算する。これにより、建物の経時変化に伴い建物の特性値が変化することで、建物の変位に対して制振装置が発生すべき減衰力の適正値が変化した場合にも、建物の経時変化に応じて制振装置の減衰力が調整されることになり、建物の経時変化に伴う制振装置の制振性能の低下を抑制することができる。
なお、請求項1記載の発明のように、判定ステップは、現時点から過去所定期間以内の日時、または特性値が変化した可能性が有る事象が生じた以降の日時の前記実地震データが記憶部に記憶されているか否かを判定するようにしてもよい。
また、請求項2記載の発明のように、判定ステップで実地震データが記憶されていないと判定した場合に、微小加速度入力装置によって未実施の打撃位置を表示装置に表示させると共に、表示した打撃位置への打撃を要請する情報を表示装置に表示させる表示ステップを更に含むようにしてもよい。
以上説明したように本発明は、建物の変位に対して減衰力を発生するように建物に取付けられると共に、発生する減衰力を調整可能とされ、建物の経時変化を検出した結果に応じて減衰力が調整される制振装置を含んで構成されているので、建物の経時変化に伴う制振装置の制振性能の低下を抑制できる、という優れた効果を有する。
制振システムの概略構成を示すブロック図である。 (A)はユニット建物の分解斜視図、(B)は制振装置が取付けられたユニット建物の斜視図である。 建物ユニットに取り付けた制振装置の正面図である。 建物側コンピュータによって行われる加速度測定処理の内容を示すフローチャートである。 点検用コンピュータによって行われる制振性能点検処理の内容を示すフローチャートである。 (A)は建物の質点系モデルの一例、(B)は建物の構造モデルの一例を各々示す概念図、(C)は荷重−変位特性の一例、(D)は減衰機構の減衰力−変位特性の一例を各々示す線図である。 (A)は入力地震波の一例、(B)時刻歴応答解析処理の処理結果の一例を各々示す線図である。 履歴情報の印刷結果(住宅履歴書)の一例を示すイメージ図である。 制振システムの他の構成を示すブロック図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1には本実施形態に係る制振システム100が示されている。制振システム100は、制振装置10、加速度センサ104、建物側コンピュータ106、微小加速度入力装置108及び点検用コンピュータ110から構成されており、このうち制振装置10、加速度センサ104及び建物側コンピュータ106は制振対象の建物102に設置されている。なお、本実施形態に係る制振システム100は、請求項1〜請求項8、請求項10〜請求項12に記載の制振システムに対応しており、建物102は請求項14に記載の建物に対応している。
以下、まず制振装置10が取付けられる建物102について説明する。図2(A)には制振装置10が取付けられる建物ユニット60が示されている。本実施形態に係る制振対象の建物102はユニット建物であり、建物ユニット60が複数個連結されて構成されている。なお、建物102は単一の建物ユニット60で構成することも可能である。建物ユニット60は、4本の柱32と、互いに平行に配置された長短二組の天井大梁42,44と、これらの天井大梁42,44に対して上下に平行に配置された長短二組の床大梁52,54とを備えており、梁の端部が天井と床の仕口に溶接されることでラーメン構造とされている。但し、建物ユニット60の構造は上記に限られるものではなく、他の箱形の架構構造としてもよい。本実施形態では、天井大梁42,44及び床大梁52,54に、断面コ字形状のチャンネル鋼(溝形鋼)が用いられている。
建物ユニット60は、矩形枠状に組まれた天井フレーム62と床フレーム64とを備えており、これらの間に4本の柱32が立設された構成となっている。天井フレーム62は四隅に配置された天井仕口部(柱)66を備えており、この天井仕口部66に長さが異なる天井大梁42,44の長手方向の端部が溶接されている。同様に、床フレーム64は四隅に配置された床仕口部(柱)68を備えており、この床仕口部68に長さが異なる床大梁52、54の長手方向の端部が溶接されている。そして、上下に対向して配置された天井仕口部66と床仕口部68との間に、柱32の上下端部が溶接により剛接合され建物ユニット60が構成される。
次に、制振装置10について説明する。図2(B)及び図3に示すように、本実施形態に係る建物ユニット60には、床大梁52と天井大梁42との間、及び、天井大梁44と床大梁54との間に制振装置10が各々取り付けられている。なお、以下では、床大梁52と天井大梁42との間に取付けられた制振装置10を例に説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る制振装置10はフレーム12、ダンパ74、ダンパ取付支柱72を備えている。床大梁52は、図示しないアンカーボルトにて基礎36に固定されており、床大梁52の上面には、制振装置10を構成するフレーム12がボルト20で固定されている。フレーム12は、鉛直方向に延びる鋼製の第1の柱部材14、及び第1の柱部材14に対して傾斜する第2の柱部材16、及び第1の柱部材14と第2の柱部材16の中間部同士を連結する連結部材18を備えている。なお、フレーム12の形状は他の形状であっても良い。第1の柱部材14は、上端が天井大梁42の下面にボルト51によって取り付けられていると共に、上側側面にダンパ取付板70が溶接等で固着されており、このダンパ取付板70には第2の柱部材16の上端が固定されている。
また、天井大梁42の下面にはダンパ取付支柱72がボルト22で固定されている。ダンパ取付支柱72とダンパ取付板70との間にはダンパ74が水平に配置されており、ダンパ74は、一端がピン48を介してダンパ取付板70に連結され、他端がピン48を介してダンパ取付支柱72に連結されている。なお、ダンパ取付支柱72の長さ(鉛直方向)は、フレーム12の長さ(鉛直方向)に対して極めて短く設定されている。これにより、ダンパ取付支柱72に力が作用した時のダンパ取付支柱72の面外方向の倒れ込み変形量が極力抑えられている。
ダンパ74は、ダンパ取付板70とダンパ取付支柱72との相対変位時に減衰力を発生するものであればよく、作動流体としてオイルが封入されたオイルダンパでもよいし、作動流体として粘弾性流体が封入された粘弾性ダンパでもよく、周知のダンパを適用することができる。また、本実施形態に係るダンパ74には減衰力調整機構が設けられている。この減衰力調整機構としては、例えばダンパ74の筒体の側部に設けられた調整ダイアルが手動で回転されると、この回転力を筒体内部に設けられたバルブに伝達し、調整ダイアルの回転と連動して前記バルブの開度を変化させることで、作動流体が通過する流路の断面積を変化させ、ダンパ74の減衰力を変化させる構成を適用することができる。
上記構成の制振装置10が床大梁52と天井大梁42との間、及び、天井大梁44と床大梁54との間に各々取り付けられていることで、床大梁52と天井大梁42との間に取り付けられた制振装置10は、天井フレーム62と床フレーム64との水平方向に沿った相対変位のうち、床大梁52及び天井大梁42の長手方向(図2(B)の矢印X方向)の相対変位に対してダンパ74が伸縮することで減衰力を発生し、建物102の振動のうち矢印X方向の振動成分を抑制する。また、天井大梁44と床大梁54との間に取り付けられた制振装置10は、天井フレーム62と床フレーム64との水平方向に沿った相対変位のうち、天井大梁44及び床大梁54の長手方向(図2(B)の矢印Y方向)の相対変位に対してダンパ74が伸縮することで減衰力を発生し、建物102の振動のうち矢印Y方向の振動成分を抑制する。
また加速度センサ104は、建物102に地震波が到来したり、後述する微小加速度入力装置108によって建物102の所定箇所に打撃が加えられる(加振される)ことで、建物102に加速度が入力された場合に、入力された加速度に対する建物102の各部の応答加速度を検出するためのものであり、建物102の複数箇所(例えば天井大梁42,44や床大梁52,54の中間部等)に各々予め設置されており、設置箇所における応答加速度を複数方向(少なくともX方向及びY方向、これにZ方向(鉛直方向)も加えてもよい)について各々検出し、検出結果を出力する。
また、建物102に設置された建物側コンピュータ106は、CPU106A、ROMやRAM等から成るメモリ106B、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等から成る不揮発性の記憶部106C、通信I/F(インタフェース)部106Dを備えており、通信I/F部106Dには、建物102の複数箇所に設置された加速度センサ104が各々接続されていると共に、地震発生時に緊急地震速報を送信するサーバを含む外部ネットワーク112も接続されている。また記憶部106Cには、後述する加速度測定処理を行うための加速度測定プログラムが予めインストールされている。
一方、微小加速度入力装置108及び点検用コンピュータ110は建物102の保守点検を行う保守点検者に所持される。微小加速度入力装置108は、例えば動荷重検出用のセンサ(ロードセル等)を内蔵したインパルスハンマで構成される。微小加速度入力装置108は、入力された加速度に対する建物102の各部の応答加速度を加速度センサ104によって検出する際に点検用コンピュータ110に接続され、建物102の所定箇所への打撃に用いられると共に、内蔵センサによって建物102の所定箇所への加振力が検出された結果を点検用コンピュータ110へ出力する。
点検用コンピュータ110は携帯可能な小型のPC(Personal Computer)等から成り、CPU110A、ROMやRAM等から成るメモリ110B、HDDやフラッシュメモリ等から成る不揮発性の記憶部110C、通信I/F(インタフェース)部110Dを備え、ディスプレイ114、キーボード116、マウスやタッチパッド等から成るポインティングデバイス118が接続されている。通信I/F部110Dには、建物102の保守点検時に、保守点検者によって微小加速度入力装置108が接続されると共に、建物側コンピュータ106とも接続される。また、通信I/F部110Dは外部ネットワーク112にも接続されている。また記憶部110Cには、後述する制振性能点検処理を行うための制振性能点検プログラムが予めインストールされており、保守点検の対象とされた複数の建物(制振装置10が取付けられている建物)の情報が各々登録された建物情報DB(データベース)も記憶されている。
建物情報DBに記憶されている単一の建物の情報は属性情報と履歴情報に大別される。このうち属性情報は、建物の階数や各階毎の重量、個々の建物毎に予め設定された、微小加速度入力装置108による打撃によって建物に加速度を入力する際の打撃位置(加速度入力位置)、後述する時刻歴応答解析に用いる建物のモデルに関する情報等から構成されている。また履歴情報は、同一の建物に対して過去に行った保守点検の日付、項目、保守点検の際に演算した建物の特性値(固有振動数、剛性及び減衰定数)と制振装置の設定減衰量の情報から構成されている。保守点検の対象とされた個々の建物には建物IDが付与されており、上記の属性情報及び履歴情報は建物IDと対応付けて建物情報DBに登録されている。なお、上記の建物情報DBは、点検用コンピュータ110の記憶部110Cに記憶することに代えて、外部ネットワーク112内の特定のサーバの記憶部に、点検用コンピュータ110がアクセス可能に記憶させるようにしてもよい。
次に本実施形態の作用として、まず図4を参照し、建物側コンピュータ106で行われる加速度測定処理を説明する。なお、この加速度測定処理は、地震発生時に緊急地震速報を送信する所定のサーバから外部ネットワーク112を介して緊急地震速報を受信したことをトリガとして、建物側コンピュータ106で自動的に実行される。なお、上記のように、建物側コンピュータ106は請求項6に記載の受信手段としても機能する。
緊急地震速報を受信した場合、ごく短い時間内に建物102の設置箇所に地震波が到来し、建物102に加速度が入力されると判断できる。このため、加速度測定処理ではまず建物102の応答加速度の測定を開始し、ステップ130で建物102に設置された個々の加速度センサ104から応答加速度の検出結果を取得し、取得した検出結果をメモリ106Bに一旦記憶させる。次のステップ132では、建物102の設置箇所における地震が終了したか否かを判定する。この判定は、例えば個々の加速度センサ104から取得した応答加速度の検出結果が表す応答加速度の振幅が、一旦所定値以上に増大した後に所定値未満に低下し、かつ所定値未満に低下した状態が所定時間以上継続したか否かを判定することで実現することができる。
ステップ132の判定が否定された場合はステップ130に戻り、ステップ132の判定が肯定される迄ステップ130,132を繰り返す。これにより、建物102の設置箇所における地震が終了したと判断される迄の間、建物102の設置箇所への地震波の到来によって建物102に入力された加速度に対する建物102の応答加速度の測定が継続される。
建物102の設置箇所における地震が終了したと判定されることでステップ132の判定が肯定されるとステップ134へ移行し、各地に設置された地震計等の計測機器から地震波データ(地震波による加速度の時間経過に伴う推移を表すデータ)を収集して配信する所定のサーバから、外部ネットワーク112を介して、建物102の設置箇所周辺の地域に到来した地震波の地震波データを取得し、取得した地震波データを入力地震波データとして取得する。なお、地震波データは外部から取得することに限られるものではなく、地震計等の計測機器を建物102に設置し、この計測機器から地震波データを取得するようにしてもよい。
そしてステップ136では、加速度センサ104から取得してメモリ106Bに一旦記憶させた建物102の各箇所における応答加速度の検出結果と、所定のサーバから取得してメモリ106Bに一旦記憶させた入力地震波データを現在日時と対応付け、実地震データとして記憶部106Cに記憶させ、加速度測定処理を終了する。上記の加速度測定処理は緊急地震速報を受信する度に実行されるので、建物102の設置箇所に地震波が到来する度に、上記の実地震データが記憶部106Cに蓄積記憶されることになる。
続いて図5を参照し、点検用コンピュータ110で行われる制振性能点検処理を説明する。なお、この制振性能点検処理は、制振装置10の制振性能の点検等を目的として、微小加速度入力装置108及び点検用コンピュータ110を携えて建物102の設置箇所に出向いた保守点検者により、微小加速度入力装置108を点検用コンピュータ110に接続すると共に、点検用コンピュータ110を建物側コンピュータ106と接続し、更に点検用コンピュータ110を起動させた後に、起動した点検用コンピュータ110に対して制振性能点検プログラムの実行を指示する操作が為されることで、点検用コンピュータ110によって行われる。
なお、本実施形態において、保守点検者による制振性能の点検は通常、建物102の完成時(初期点検)及び前回の点検から所定年数が経過した時点(定期点検)で行われるが、これ以外に、例えば建物102のリフォームにより建物102の内部の間取りが変化した場合や、建物102が設置された地域が比較的大きな地震に見舞われた(建物102の設置箇所に比較的大きな振幅の地震波が到来した)等のように、建物102の特性値が変化した可能性の有る事象が生じた場合にも行われる。
制振性能点検処理では、まずステップ150において、点検対象の建物102の建物IDの入力を要請するメッセージをディスプレイ114に表示させる等により、保守点検者に対して点検対象の建物102の建物IDの入力を要請する。次のステップ152では建物IDが入力されたか否か判定し、判定が肯定される迄ステップ152を繰り返す。ディスプレイ114に前記メッセージが入力されると、保守点検者はキーボード116を介して点検対象の建物102の建物IDを入力する。これにより、ステップ152の判定が肯定されてステップ154へ移行し、保守点検者によって入力された建物IDをキーにして建物情報DBを検索し、入力された建物IDと対応付けて建物情報DBに登録されている属性情報及び履歴情報を記憶部110Cから読み出してメモリ110Bに記憶させる。
次のステップ156では、建物側コンピュータ106に対し、記憶部106Cに記憶されている実地震データの有無と、実地震データの有る場合はその日時を問い合わせる情報を送信し、この問い合わせに対して建物側コンピュータ106から通知された情報を参照し、今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データが存在しているか否かを判定する。なお、今回の点検が定期点検であれば、今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データとしては、例えば現時点から過去所定期間以内の日時の実地震データを適用することができ、今回の点検が建物102の特性値が変化した可能性の有る事象が生じたことによる点検であれば、今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データとしては、例えば前記事象が生じた以降の日時(具体的には、例えば間取りが変化した以降の日時や、比較的大きな地震に見舞われた以降の日時等)の実地震データを適用することができる。
今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データが存在していると判定した場合は、ステップ156の判定が肯定されてステップ158へ移行し、今回の制振性能の点検に使用可能と判定した実地震データの転送を建物側コンピュータ106に要求し、当該要求に従い記憶部106Cから読み出されて建物側コンピュータ106から転送された実地震データ(入力地震波データ及び点検対象の建物102の応答加速度の測定結果)をメモリ110Bに記憶させた後にステップ172へ移行する。
また、今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データが存在しないと判定した場合は、ステップ156の判定が否定されてステップ160へ移行し、先のステップ154で建物情報DBから読み出してメモリ110Bに記憶させた属性情報より、微小加速度入力装置108によって建物に加速度を入力する際の打撃位置(加速度入力位置)を表す情報を抽出する。次のステップ162では、ステップ160で抽出した情報が表す打撃位置(加速度入力位置)の中から、保守点検者による打撃(加速度の入力)が未実施の打撃位置をディスプレイ114に表示させると共に、表示した打撃位置への打撃を保守点検者に要請するメッセージもディスプレイ114に表示させる。ステップ164では、微小加速度入力装置108から入力される加振力データが表す加振力の振幅が所定値以上になったか否か等に基づいて、先にディスプレイ114に表示させた打撃位置への打撃(加速度の入力)が行われたか否か判定し、判定が肯定される迄ステップ164を繰り返す。
ディスプレイ114に打撃位置及び上記のメッセージが表示されると、保守点検者は微小加速度入力装置(インパルスハンマ)108を把持し、点検対象の建物102のうちディスプレイ114に表示された打撃位置を微小加速度入力装置(インパルスハンマ)108によって打撃する。これにより、前記打撃位置から点検対象の建物102に加速度が入力されると共に、微小加速度入力装置108の内蔵センサによって検出された加振力の振幅が所定値以上になることでステップ164の判定が肯定され、ステップ166へ移行する。
ステップ166では、保守点検者による打撃位置の打撃から内蔵センサによって検出された加振力の振幅が0に戻る迄の期間内の加振力の推移を表す加振力データを微小加速度入力装置108から取得し、取得した加振力データをメモリ110Bに記憶させる。またステップ168では、保守点検者による打撃位置の打撃から、個々の加速度センサ104によって検出された点検対象の建物102の応答加速度の振幅が0に戻る迄の期間内の、個々の加速度センサ104による点検対象の建物102の応答加速度の検出結果を転送するよう建物側コンピュータ106へ要求し、この要求に従い建物側コンピュータ106から転送された応答加速度の検出結果をメモリ110Bに記憶させる。
次のステップ170では、先のステップ160で抽出した情報が表す全ての打撃位置(加速度入力位置)への打撃が行われたか否か判定する。判定が否定された場合はステップ162に戻り、ステップ170の判定が肯定される迄ステップ162〜ステップ170を繰り返す。これにより、点検対象の建物102に対して予め設定された全ての打撃位置について、微小加速度入力装置108による打撃、加振力データ及び点検対象の建物102の応答加速度の検出結果の取得及び記憶が各々行われることになる。そして、ステップ170の判定が肯定されるとステップ172へ移行する。
ステップ172では、先のステップ158で実地震データを取得した場合には、取得した実地震データに含まれる入力地震波データと点検対象の建物102の応答加速度の測定結果を用いる一方、微小加速度入力装置108による打撃によって点検対象の建物102に加速度を入力した場合には、先のステップ166で取得した加振力データと先のステップ168で取得した点検対象の建物102の応答加速度の測定結果を用い、周波数応答解析を行うことで、水平面内の2方向(例えば図2(A)のX方向及びY方向)について点検対象の建物102の各階部分の固有振動数及び減衰定数を各々演算する。またステップ174では、ステップ172で水平面内の2方向について各々演算した点検対象の建物102の各階部分の固有振動数及び減衰定数と、先のステップ154で読み出した属性情報に含まれる点検対象の建物102の各階部分の重量を表すデータとに基づき、点検対象の建物102の各階部分の剛性を水平面内の2方向について各々演算する。これにより、点検対象の建物102の現在の状態を表す特性値(水平面内の2方向についての各階部分の固有振動数及び剛性と、水平面内の2方向についての減衰定数)が得られる。
なお、上記では今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データが存在している場合(ステップ156の判定が肯定された場合)は、当該実地震データを用いて点検対象の建物102の特性値を演算しているが、実地震(地震波)が到来した際に点検対象の建物102に入力される加速度の振幅は、微小加速度入力装置108によって点検対象の建物102を打撃した場合に点検対象の建物102に入力される加速度の振幅よりも一般に大きく、制振装置10による制振対象の振動発生時と同様の振幅の加速度が点検対象の建物102に入力された際の点検対象の建物102の応答加速度の測定結果を用いることで、点検対象の建物102の特性値をより高精度に演算することができる。
また、上記では今回の制振性能の点検に使用可能な実地震データが存在していない場合(ステップ156の判定が否定された場合)には、微小加速度入力装置108によって点検対象の建物102を打撃することで得られた加振力データと点検対象の建物102の応答加速度の測定結果を用いて点検対象の建物102の特性値を演算しているので、実地震データが存在しているものの当該実地震データの日時が古い場合(例えば実地震データの日時と現在の日時との隔たりが所定期間よりも大きい場合や、実地震データの日時が建物102の特性値が変化した可能性の有る事象が生じるより前である等の場合)には、前記実地震データを用いて点検対象の建物102の特性値を演算するよりも、点検対象の建物102の特性値として、点検対象の建物102の現在の状態をより正確に反映した特性値を得ることができる。
次のステップ176では、ステップ172,174で演算した点検対象の建物102の特性値を用い、点検対象の建物102に取付けられた制振装置10が機能していない状態(建物102の各部の変位に対して制振装置10が発生する減衰力=0の状態)で、当該点検対象の建物102に所定の地震波が入力されたときの点検対象の建物102の最大変位量を、時刻歴応答解析により水平面内の2方向(例えば図2(A)のX方向及びY方向)について各々演算する。
なお、上記の時刻歴応答解析では、点検対象の建物102を、例として図6(A)に示すように、各階毎に重量(質量)を単一の質点200に集約した(より詳しくは、2階建ての建物の場合、1階部分の上部の重量と2階部分の下部の重量が質量W1の質点200Aとして集約され、2階部分の上部の重量が質量W2の質点200Bとして集約される)質点系モデルとしてモデル化し、このモデルに対し、例として図6(B)に示すように、基礎と最下部の質量(図6(B)では質量W1)の間及び隣り合う質量の間に、ばね(図6(B)ではばねに符号「202A」,「202B」を付して示す)とダンパ(図6(B)ではダンパに符号「204A」,「204B」を付して示す)を各々追加して成る点検対象の建物102の構造モデルが用いられる。なお、図6(B)は、点検対象の建物102のうち制振装置10が設けられている箇所に対応する部分に、制振装置10をモデル化した要素(図6(B)では前記要素に符号「206」を付して示す)も追加した構造モデルを示しているが、上記のように制振装置10が機能していない状態の点検対象の建物102を対して時刻歴応答解析を行う場合は、制振装置10をモデル化した要素206の追加を省略した構造モデルが用いられる。
上記の構造モデルにおけるばね202は、例として図6(C)に示すようなモデル化した荷重−変形特性が特性Kとして設定され、この特性Kによって建物のうちの対応する部分の剛性及び変形特性を表しており、例えば図6(B)に示すばね202Aの特性K1は点検対象の建物102の1階部分の建物の剛性及び変形特性を、ばね202Bの特性K2は点検対象の建物102の2階部分の建物の剛性及び変形特性を各々表している。このため、先のステップ174で演算した点検対象の建物102の各階部分の剛性は、対応するばね202の特性K(荷重−変形特性)の傾きを剛性に応じて変化させることで設定することができる。また、上記の構造モデルにおけるダンパ204に設定される減衰定数hは建物の減衰定数を表しており、先のステップ172で演算した減衰定数はダンパ204A,204Bの減衰定数としてそのまま設定することができる。
なお、ステップ176における時刻歴応答解析は、水平面内の2方向について別個に行われる。このため、水平面内の第1方向(例えば図2(B)に示すX方向)に関する時刻歴応答解析に用いる点検対象の建物102の構造モデルには、建物102の第1方向の剛性及び第1方向の減衰定数が設定され、水平面内の第2方向(例えば図2(B)に示すY方向)に関する時刻歴応答解析に用いる点検対象の建物102の構造モデルには、建物102の第2方向の剛性及び第2方向の減衰定数が設定される。
点検対象の建物102の構造モデルに対して点検対象の建物102の各特性値を上記のように設定する(或いは演算に用いる)ことで、点検対象の建物102の現在の状態(但し制振装置10が機能していない状態)を反映した構造モデルが得られる。そして、制振装置10が機能していない状態の点検対象の建物102についての時刻歴応答解析は、制振装置10をモデル化した要素206の追加を省略すると共に、点検対象の建物102の各特性値を設定した点検対象の建物102の構造モデルに対し、例として図7(A)に示すような入力地震波が入力された場合の点検対象の建物102の各箇所における変位量を、各時刻について順次演算していくことによって実現することができる。これにより、例えば図7(B)に一点鎖線で示すような変位量の推移が、点検対象の建物102の各箇所毎に、水平面内の2方向について各々求まる。そしてステップ176では、時刻歴応答解析によって変位量の推移を求めた点検対象の建物102の各箇所の中から変位量が最大の箇所を抽出し、抽出した箇所における変位量の推移から最大変位量(例えば図7(B)に示す最大変位量A0)を抽出することを、水平面内の2方向について各々行う。
また、次のステップ178では、点検対象の建物102に取付けられた制振装置10が機能している状態(建物102の各部の変位に対して制振装置10が減衰量設定値に対応する減衰力を発生する状態)で、当該点検対象の建物102に所定の地震波が入力されたときの点検対象の建物102の最大変位量を、時刻歴応答解析により水平面内の2方向(例えば図2(A)のX方向及びY方向)について各々演算する。
なお、ステップ178の時刻歴応答解析には、例として図6(B)に示すように、点検対象の建物102のうち制振装置10が設けられている箇所に対応する部分に、制振装置10をモデル化した要素206を追加した構造モデルが用いられる。上記の要素206は、ばね(図6(B)ではばねに符号「206A」を付して示す)とダンパ(図6(B)ではダンパに符号「206B」を付して示す)で表される。ばね206Aは制振装置10の剛性を特性K(荷重−変形特性)によって表しており、ばね206Aの特性Kは制振装置10の剛性に応じて予め固定的に設定しておくことができる。また、ダンパ206Bには、例として図6(D)に示すようなモデル化した軸減衰力−変位特性が特性Kとして設定され、この特性Kによって制振装置10のうち減衰力を発生する部材(ダンパ74)から成る減衰機構による減衰を表している。
このため、先のステップ176と同様に、点検対象の建物102の各階部分に対応するばね202の特性K(荷重−変形特性)の傾きを各階部分の剛性に応じて変化させ、点検対象の建物102の減衰定数をダンパ204A,204Bの減衰定数として設定すると共に、ダンパ206Bの軸減衰力−変位特性を、制振装置10のダンパ74に対する減衰量設定値(この減衰量設定値としては、例えばダンパ74に対する現在の減衰量設定値、或いは予め設定された値等を初期値として用いることができる)に応じて変化させることで、点検対象の建物102の現在の状態(制振装置10も機能している状態)を反映した構造モデルが得られる。
そして、制振装置10が機能している状態の点検対象の建物102についての時刻歴応答解析は、制振装置10をモデル化した要素206の追加すると共に、点検対象の建物102の各特性値及び制振装置10のダンパ74に対する減衰量設定値を設定した点検対象の建物102の構造モデルに対し、例として図7(A)に示すような入力地震波が入力された場合の点検対象の建物102の各箇所における変位量を、各時刻について順次演算していくことによって実現することができる。これにより、例えば図7(B)に実線で示すような変位量の推移が、点検対象の建物102の各箇所毎に、水平面内の2方向について各々求まる。そしてステップ178では、時刻歴応答解析によって変位量の推移を求めた点検対象の建物102の各箇所のうち、先のステップ176で最大変位量を抽出した箇所における変位量の推移から最大変位量(例えば図7(B)に示す最大変位量A1)を抽出することを、水平面内の2方向について各々行う。
なお、ステップ178における時刻歴応答解析についても水平面内の2方向について別個に行われる。このため、水平面内の第1方向(例えば図2(B)に示すX方向)に関する時刻歴応答解析に用いる点検対象の建物102の構造モデルには、建物102の第1方向の剛性、第1方向の減衰定数及び第1方向に伸縮するダンパ74の減衰量設定値が設定され、水平面内の第2方向(例えば図2(B)に示すY方向)に関する時刻歴応答解析に用いる点検対象の建物102の構造モデルには、建物102の第2方向の剛性、第2方向の減衰定数及び第2方向に伸縮するダンパ74の減衰量設定値が設定される。
ステップ180では、ステップ176の演算によって得られた最大変位量(例えば最大変位量A0)に対するステップ178の演算によって得られた最大変位量(例えば最大変位量A1)の比率(例えばA1/A0)を、水平面内の2方向について各々演算し、次のステップ182では、ステップ180で演算した最大変位量の比率が予め定めた所定値以下か否かを、水平面内の2方向について各々判定する。ステップ182で所定値と比較する最大変位量の比率は、点検対象の建物102の振動が制振装置10によって抑制される度合いを表しており、水平面内の2方向のうちの少なくとも1方向についてステップ182の判定が否定された場合、制振装置10のダンパ74に対する現在の減衰量設定値では、判定が否定された方向について所期の制振性能が得られないと判断できるので、ステップ184へ移行し、ステップ182の判定が否定された方向の減衰量設定値を修正した後にステップ178に戻り、ステップ182の判定が肯定される迄ステップ178〜ステップ184(修正後の減衰量設定値に基づく時刻歴応答解析・最大変位量の比率演算・最大変位量の比率が所定値以下か否かの判定等)を繰り返す。
これにより、例えば建物102の内部の間取りの変化を伴うリフォームが行われたり、建物102が設置された地域が比較的大きな地震に見舞われた等により、点検対象の建物102に経時変化が生じていたとしても、ダンパ74に対する減衰量設定値として、最大変位量の比率が所定値以下となることで、制振装置10により点検対象の建物102に対して所期の制振性能が発揮される最適な減衰量設定値が水平面内の2方向について各々求まることになる。また、最適な減衰量設定値が求まると、ステップ182の判定が肯定されてステップ186へ移行し、ダンパ74に対する適正減衰量として、ステップ178〜ステップ184の処理で得られた減衰量設定値を設定することを、水平面内の2方向について各々行う。
次のステップ188では、ステップ186で設定した適正減衰量を、履歴情報に含まれるダンパ74の現在の設定減衰量と比較することで、ダンパ74の減衰量の調整が必要か否かを水平面内の2方向について各々判定する。例えば水平面内の2方向について、ダンパ74の現在の設定減衰量がステップ186で設定した適正減衰量に一致しているか、ダンパ74の現在の設定減衰量とステップ186で設定した適正減衰量との偏差が所定値以下の場合には、ダンパ74の現在の設定減衰量のままで十分な制振性能が得られると判断できるので、ステップ188の判定が否定されてステップ192へ移行し、ダンパ74の減衰量の調整が不要である旨を通知するメッセージをディスプレイ114に表示させた後に、ステップ194へ移行する。この場合、制振装置10のダンパ74の減衰量を調整する作業が不要であることを保守点検者に認識させることができる。
一方、水平面内の2方向のうちの少なくとも1方向について、ダンパ74の現在の設定減衰量とステップ186で設定した適正減衰量との偏差が所定値よりも大きい場合は、ステップ188の判定が肯定されてステップ190へ移行し、ステップ186で設定した適正減衰量を、ダンパ74の減衰量の調整を要請するメッセージや、減衰量の調整が必要なダンパ74の伸縮方向を通知するメッセージと共にディスプレイ114に表示させる。
これにより、保守点検者により、点検対象の建物102に取付けられた制振装置10のダンパ74のうち、伸縮方向が通知された減衰量調整対象のダンパ74について、その減衰量が表示された適正減衰量に一致するように減衰力調整機構を操作して減衰量を調整する減衰量調整作業が行われ、例えば建物102の内部の間取りの変化を伴うリフォームが行われたり、建物102が設置された地域が比較的大きな地震に見舞われた等により、点検対象の建物102に経時変化が生じていたとしても、制振装置10により点検対象の建物102に対して所期の制振性能が発揮されるように制振性能が回復されることになる。
次のステップ194では、上述した処理で得られた点検対象の建物102の最新の特性値及びダンパ74の最新の適正減衰量を、先のステップ154で読み出した履歴情報に追加することで履歴情報を更新し、建物情報DBの一部として記憶部110Cに記憶されている履歴情報を更新後の履歴情報で上書きすることで、更新後の履歴情報を記憶部110Cに記憶させ、制振性能点検処理を終了する。
なお、ステップ194において、点検用コンピュータ110にプリンタ(図示省略)を接続して更新後の履歴情報を記録用紙に印刷し、履歴情報の印刷結果(一例を図8に示す)を点検対象の建物102の所有者等へ手渡すようにしてもよい。この履歴情報の印刷結果を参照することで、点検対象の建物102の所有者等が、建物102の履歴を把握できると共に、制振装置10の制振性能が所期の性能を発揮する状態に維持されていることも把握することができる。
なお、上記では図5に示す制振性能点検処理が点検用コンピュータ110で行われる態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばコンピュータに多大な負荷が掛かる周波数応答解析や時刻歴応答解析等の処理(例えばステップ172〜ステップ184の処理等)を、外部ネットワーク112に設けられたサーバ・コンピュータで行い、点検用コンピュータ110は上記処理のための情報(加振力データ又は入力地震波データと応答加速度の測定結果)を上記のサーバ・コンピュータへ送信し、サーバ・コンピュータから処理結果を受け取るようにしてもよい。
また、上記では制振装置10が機能していない状態の点検対象の建物102に所定の地震波が入力されたときの点検対象の建物102の最大変位量と、制振装置10が機能している状態の点検対象の建物102に所定の地震波が入力されたときの点検対象の建物102の最大変位量と、の比率に基づいて適正減衰量を求める態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、制振装置10が機能している状態の点検対象の建物102に所定の地震波が入力されたときの点検対象の建物102の最大変位量に基づき、当該最大変位量が閾値以下となるようにダンパ74の減衰量設定値を修正することを繰り返すことで適正減衰量(適正減衰力)を求めるようにしてもよい。なお、上記態様は請求項9記載の発明に対応している。
また、上記では保守点検者によりダンパ74の減衰力調整機構が操作されることで、制振装置10の減衰力が手動で調整される態様を説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、制振装置10のダンパ74として、例えば車両の電子制御サスペンションに用いられているダンパのように、外部から入力された電気信号に応じて作動流体が通過する流路の断面積を変化させるアクチュエータを内蔵したダンパを用い、当該ダンパの減衰力が演算によって求めた適正減衰力に一致するように前記ダンパに供給する電気信号を切り替えることで、制振装置の減衰力の調整を行うようにしてもよい。この場合、制振装置10の減衰力を手動で調整する作業を行う必要が無くなるという効果が得られる。
更に、上記では制振装置10のダンパとして、減衰力調整機構が設けられたダンパ74を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではく、減衰力調整機構が設けられていないダンパを用いることも可能である。一般に、ダンパは作動流体が封入され、封入された作動流体がオリフィス等を通過する際の抵抗により減衰力を発生する構成であり、発生する減衰力は作動流体の粘度に応じて変化するので、減衰力調整機構が設けられていないダンパを含んで構成された制振装置における減衰力の調整は、ダンパに封入されている作動流体を粘度等の特性の異なる作動流体へ交換する(例えば減衰力を増大させる場合は粘度がより高い作動流体へ交換し、減衰力を減少させる場合は粘度がより低い作動流体へ交換する)か、ダンパの周囲に配設する断熱材の種類や配設量、配設範囲の少なくとも1つを変更することでダンパ(に封入されている作動流体)の温度を変化させる(例えば作動流体が温度の上昇に伴って粘度が低下する特性を有しているのであれば、減衰力を増大させる場合はダンパ(に封入されている作動流体)の温度を低下させ、減衰力を減少させる場合はダンパ(に封入されている作動流体)の温度を上昇させる)ことで行うことも可能である。なお、上記態様は請求項13記載の発明に対応している。
また、上記では建物102に建物側コンピュータ106が設置された構成の制振システム100(図1参照)を例に説明したが、本発明は上記構成に限られるものではなく、例として図9に示す制振システム120のように、建物側コンピュータ106を省略した構成としてもよい。この場合、図4に示す加速度測定処理のように、建物102の設置地域に地震波が到来することを事前に検知し、到来した地震波に対する建物102の応答加速度を測定する処理を行うことは困難となるものの、建物102の保守点検時に、建物102に設置された加速度センサ104を点検用コンピュータ110に直接接続すれば、微小加速度入力装置108を用いて建物102に加速度を入力し、当該入力加速度に対する建物102の応答加速度を測定することは可能であり、制振システムの構成を簡略化できるという効果が得られる。
また、上記では加速度センサ104が予め建物102の複数箇所に各々設置された態様を例に説明したが、本発明はこの構成に限られるものではなく、加速度センサ104を建物102に予め設置することに代えて、建物102の保守点検時に、建物102の複数箇所に加速度センサ104を各々設置する作業を行った後に、微小加速度入力装置108を用いて建物102に加速度を入力し、当該入力加速度に対する建物102の応答加速度を測定し、設置した加速度センサ104を測定後に取り外すようにしてもよい。この場合、建物102の保守点検時の作業は多少煩雑になるものの、建物102のコストを低減することができる。
更に、上記では制振装置10が取付けられる制振対象の建物として、図2(A)に示す建物ユニット60が複数個連結されて成るユニット建物を例に説明したが、本発明に係る建物は上記構成に限定されるものではなく、本発明は、例えば木造軸組構法や枠組壁工法、鉄筋コンクリート造等の他の構成の建物にも適用可能である。
10 制振装置
60 建物ユニット
74 ダンパ
100 制振システム
102 建物
104 加速度センサ
106 建物側コンピュータ
108 微小加速度入力装置
110 点検用コンピュータ
120 制振システム

Claims (3)

  1. 建物の変位に対して減衰力を発生するように前記建物に取付けられると共に、発生する減衰力を調整可能とされ、前記建物の経時変化を検出した結果に応じて減衰力が調整される制振装置の調整方法であって、
    地震波による加速度の時間経過に伴う推移を表す実地震データが記憶部に記憶されているか否かを判定する判定ステップと、
    前記実地震データが記憶されている場合に、前記実地震データに基づいて、前記経時変化の検出結果に相当する前記建物の特性値を演算し、前記実地震データが記憶されていない場合には、微小加速度入力装置によって前記建物を打撃することで前記建物に入力された加速度に対する前記建物の応答を検出する検出手段の検出結果に基づいて、前記特性値を演算する演算ステップと、
    を含む制振装置の調整方法
  2. 前記判定ステップは、現時点から過去所定期間以内の日時、または前記特性値が変化した可能性が有る事象が生じた以降の日時の前記実地震データが前記記憶部に記憶されているか否かを判定する請求項1に記載の制振装置の調整方法
  3. 前記判定ステップで前記実地震データが記憶されていないと判定した場合に、前記微小加速度入力装置によって未実施の打撃位置を表示装置に表示させると共に、表示した打撃位置への打撃を要請する情報を前記表示装置に表示させる表示ステップを更に含む請求項1又は請求項2に記載の制振装置の調整方法。
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