以下、本発明の実施の形態によるサスペンション装置を、例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図12は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は車両のボディを構成する車体で、該車体1の下側には、例えば左,右の前輪2(一方のみ図示)と左,右の後輪3(一方のみ図示)とが設けられている。
4,4は左,右の前輪2側と車体1との間に介装して設けられた前輪側のサスペンション装置で、該各サスペンション装置4は、左,右の懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該各ばね5と並列になって左,右の前輪2側と車体1との間に設けられた左,右の減衰力調整式緩衝器6(以下、減衰力可変ダンパ6という)とから構成されている。
7,7は左,右の後輪3側と車体1との間に介装して設けられた後輪側のサスペンション装置で、該各サスペンション装置7は、左,右の懸架ばね8(以下、ばね8という)と、該各ばね8と並列になって左,右の後輪3側と車体1との間に設けられた左,右の減衰力調整式緩衝器9(以下、減衰力可変ダンパ9という)とから構成されている。
ここで、各サスペンション装置4,7の減衰力可変ダンパ6,9は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。そして、この減衰力可変ダンパ6,9には、その減衰力特性をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブとアクチュエータ(図示せず)等からなる減衰力調整機構が付設されている。なお、減衰力調整バルブは、減衰力特性を必ずしも連続的に変化させる構成である必要はなく、2段階または3段階以上で断続的に調整する構成であってもよい。この減衰力調整バルブとしては、減衰力発生バルブのパイロット圧を制御する圧力制御方式や通路面積を制御する流量制御方式等、良く知られて構造を用いることができる。
10は車体1に設けられた複数のばね上加速度センサで、該各ばね上加速度センサ10は、ばね上側となる車体1側で上,下方向の振動加速度を検出するために、左,右の前輪2側の減衰力可変ダンパ6の上端側(ロッド突出端側)近傍となる位置で車体1に取付けられると共に、後輪3側の減衰力可変ダンパ9の上端側(ロッド突出端側)近傍となる位置でも車体1に取付けられている。そして、ばね上加速度センサ10は、車両の走行中に路面状態を上,下方向の振動加速度として検出する路面状態検出器を構成し、その検出信号を後述のコントローラ14に出力する。なお、このばね上加速度センサ10は、4輪全てに設けてもよく、また、左,右の前輪と左,右の後輪の何れか1つの合計3個設ける構成としてもよい。また、車体に1個のみ設け、その他の前後左右加速度センサの値から推定してもよい。
11は車両の各前輪2側、各後輪3側にそれぞれ設けられた複数のばね下加速度センサで、該各ばね下加速度センサ11は、左,右の前輪2側と左,右の後輪3側とで上,下方向の振動加速度を車輪毎に検出し、その検出信号を後述のコントローラ14に出力する。
そして、ばね下加速度センサ11によるばね下(車軸)側の加速度信号は、後述のコントローラ14による演算処理(図3中のステップ4参照)において、ばね上加速度センサ10から出力されるばね上(車体1)側の加速度信号に対して減算処理される。この減算処理により、ばね上,ばね下間のダンパ相対加速度、即ち各ダンパ6,9の伸縮加速度が算出される。また、ばね上,ばね下間の相対加速度を積分することにより、各前輪2、各後輪3と車体1との間の上,下方向の相対速度v、即ち各ダンパ6,9の伸縮速度が算出される。
12は車両の各前輪2側と各後輪3側にそれぞれ設けられたホイールシリンダ液圧センサである。これらのホイールシリンダ液圧センサ12は、各前輪2側と各後輪3側の油圧ディスクブレーキまたはドラムブレーキ等の制動装置(図示せず)に付設されている。各ホイールシリンダ液圧センサ12は、左,右の前輪2側と左,右の後輪3側とで車輪毎のブレーキ液圧を個別に検出し、それぞれの検出信号を後述のコントローラ14に出力するものである。
即ち、コントローラ14は、各ホイールシリンダ液圧センサ12からの検出信号に従って左,右の前輪2と左,右の後輪3とのうち、いずれの車輪側で前記制動装置による制動動作が行われているか否かを判別し、図4中のステップ11に示す制動輪判別を行うものである。なお、前記制動装置としては、電磁式ブレーキを用いてもよく、この場合、ホイールシリンダ液圧センサ12の代わりに電流計を用いることもできる。ここで、車輪毎に設けられるホイールシリンダ液圧センサ12は、制動輪検出手段を構成している。なお、例えば後述の車両安定制御装置13から出力される信号を用いて制動輪判別を行ってもよく、ホイールシリンダ液圧センサ12以外の手段で制動輪検出手段を構成することも可能である。
13は車体1側に設けられた車両安定制御装置で、この車両安定制御装置13は、例えば車両に搭載された操舵角センサ、前,後方向の加速度センサ、ヨーレートセンサ、車輪速度センサ等の各種センサ(いずれも図示せず)からの信号に基づいて車両の走行状態を演算し、この演算結果により車両走行時の安定制御を下記のように行うものである。
即ち、車両安定制御装置13は、例えば前輪2側の横滑りによるアンダーステア(操舵角に対して車両が旋回方向の外側に向く傾向にある状態)、または後輪3側の横滑りによるオーバーステア(操舵角に対して車両が旋回方向の内側に向く傾向にある状態)の発生を検知し、車両の走行状態に応じて、車両を安定状態に復帰させるために左,右の前輪2と左,右の後輪3とに必要な制動力を演算する。そして、車両安定制御装置13は、この演算結果に基づいてブレーキ液圧制御装置(図示せず)を作動させ、車輪毎に独立した制動制御(制動力の増,減または解除)を行うことにより、車両の旋回モーメントおよび減速力を制御して、旋回安定性およびコーストレース性を確保する制御を行うものである。
この場合、前記ブレーキ液圧制御装置は、制動力制御手段であり、ポンプ及び制御バルブから構成され、必要に応じて前記制動装置に液圧を供給するものである。なお、制動力制御手段は、電磁式ブレーキの場合には、電流制御装置により構成されるものである。
14はマイクロコンピュータ等によって構成される制御手段としてのコントローラで、該コントローラ14は、図2に示すように、入力側がばね上加速度センサ10、ばね下加速度センサ11、ホイールシリンダ液圧センサ12、車両安定制御装置13等に接続され、出力側が減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータ(図示せず)等に接続されている。
コントローラ14は、ROM、RAM、不揮発性メモリ等からなる記憶部14Aを有し、この記憶部14A内には、図3〜図6に示す制御処理用のプログラム等が格納されている。そして、コントローラ14は、図3に示す各車輪の減衰力制御処理に従って各減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータ(図示せず)に出力すべき減衰力指令信号を電流値として演算処理する。各減衰力可変ダンパ6,9は、前記アクチュエータに供給された電流値(減衰力指令信号)に従って発生減衰力がハードとソフトの間で連続的に、または複数段で可変に制御される。
本実施の形態によるサスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ14による減衰力可変ダンパ6,9の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
まず、コントローラ14は、車両の走行時に図3に示す如く、車輪毎の減衰力制御処理を実行する。即ち、図3中のステップ1では初期設定を行い、次のステップ2で時間管理を行って制御サイクルを調整する。そして、ステップ3ではセンサ入力を行い、ばね上加速度センサ10、ばね下加速度センサ11、ホイールシリンダ液圧センサ12および車両安定制御装置13等からの信号を読込む。
次のステップ4では、車輪毎のダンパ相対加速度、相対速度v(例えば、図9〜図12参照)を演算して求める。この場合、ばね下加速度センサ11によるばね下側の加速度信号とばね上加速度センサ10によるばね上側の加速度信号とを減算処理することにより、ばね上,ばね下間のダンパ相対加速度が算出される。また、ばね上,ばね下間の相対加速度を積分することにより、各前輪2、各後輪3と車体1との間の上,下方向の相対速度vが算出される。相対加速度、相対速度vは、ダンパの伸び側を正とし、縮み側を負として示す。
次のステップ5では、これらの演算結果に従った減衰力指令信号を入力する。また、次のステップ6では、車両安定制御装置13から車両安定制御作動信号を入力する。そして、ステップ7では、車両安定制御作動状態信号に基づいて、車両安定制御が実行されているか否かを判定する。
ステップ7で「YES」と判定するときには、車両安定制御が行われているので、次のステップ8に移り、後述の図4に示す車両安定制御作動時の車輪毎の指令信号演算処理を実行する。そして、次のステップ9で車輪毎に減衰力指令信号(目標減衰力信号)を出力し、車輪毎の輪荷重を可変に制御するために減衰力の可変制御を行い、その後は、ステップ2以降の処理を繰返すようにする。
また、ステップ7で「NO」と判定するときには、車両安定制御が行われていないので、ステップ10に移って車両安定制御非作動時の車輪毎の指令信号演算処理を、通常制御として実行する。通常制御としては、スカイフック制御等の制振制御や悪路走行中の悪路制御、ロールやアンチダイブ、スクオット制御等が行われる。そして、次のステップ9では、ステップ10で演算した各車輪の減衰力指令信号(目標減衰力信号)を出力して減衰力を可変に制御する。
次に、図4に示す車両安定制御作動時の車輪毎の指令信号演算処理について説明する。まず、ステップ11では、各ホイールシリンダ液圧センサ12からの検出信号に従って左,右の前輪2と左,右の後輪3のうち、いずれの車輪側で制動作動が行われているか否かを、制動輪判別として行う。
次のステップ12では、車輪毎に制動輪であるか否かを判定し、「YES」と判定された車輪側ではステップ13の処理を行う。即ち、ステップ13では、輪荷重を増加したい車輪(制動対象の車輪)側での減衰力の指令信号演算を行い、次のステップ14でリターンする。また、ステップ12で「NO」と判定された車輪側では、ステップ15に移って輪荷重を減少したい車輪としての減衰力の指令信号演算を行い、次のステップ14でリターンする。
なお、図4に示す指令信号演算処理では、制動力の向上を目的とし、制動輪を輪荷重を増加したい車輪に設定する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明の制御を別の目的で使用する場合は、制動輪・非制動輪に拘らず、任意の車輪を輪荷重を増加したい車輪と、減少したい車輪に設定してよいものである。また、例えば、アンチロックブレーキシステムの作動に応じて荷重を増加したい車輪と、減少したい車輪に設定してよい。
次に、前記ステップ13による輪荷重を増加したい車輪側での減衰力の指令信号演算は、図5に示す演算処理に従って行う。この処理は輪荷重の応答性向上を主眼にしたものである。図5中のステップ21では、ダンパの伸縮加速度、即ちばね上,ばね下間の相対加速度aが零(a=0)であるか否かを判定する。この場合、ばね上,ばね下間の相対加速度aは、図3に示すステップ4の処理によって算定されている。
そして、ステップ21で「YES」(即ち、相対加速度aが零)と判定するときには、次のステップ22に移って後述の係数v p を、ばね上,ばね下間の相対速度vに設定する。この場合、ばね上,ばね下間の相対速度vは、図3に示すステップ4の処理によって算定されている。次のステップ23では減衰力指令信号Iを、前回の減衰力指令信号Iと同じく維持する信号に設定する。そして、その後は次のステップ24でリターンする。
ステップ25ではダンパの伸縮速度、即ち相対速度vが零(v=0)であるか否かを判定する。ステップ25で「YES」と判定するときには、前述したステップ23〜24の処理を行う。ステップ25で「NO」と判定したときには、次のステップ26に移って相対速度vが負(v<0)であるか否かを判定する。ステップ26で「YES」(即ち、相対速度vが負)と判定するときには、次のステップ27に移って相対加速度aが負(a<0)であるか否かを判定する。
そして、ステップ27で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ28に移って減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとし、該当する車輪側の輪荷重を縮み行程で増加率を大きくさせる。なお、ハード指令信号IHとは、前回の減衰力指令信号Iよりも予め決められた値分だけ指令信号を相対的にハード側に変更するための信号であり、ソフトとハードの2段切替え信号を必ずしも意味するものではない。また、ハード指令信号IHは、車速などの他の条件によって、変更してもよい。そして、ステップ28の処理後は、次のステップ24でリターンする。
ステップ27で「NO」(即ち、相対加速度aが正)と判定するときには、次のステップ29に移って減衰力指令信号Iを、下記の数1式を満たすように演算する。ここで、係数vpは、実験データ等により決められる定数であり、このときの減衰力指令信号Iは、相対速度vに比例してハード指令信号IHからソフト指令信号IS(IS>IH)まで増加する信号として演算される。
次のステップ30では、前記ステップ29による減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISより大きな値(I>IS)であるか否かを判定し、「YES」と判定したときには、次のステップ31に移って飽和処理を行い、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISに設定する。また、ステップ30で「NO」と判定するときには、減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISよりも小さいと判定できるので、次のステップ32に移って減衰力指令信号Iがハード指令信号IHより小さい値(I<IH)であるか否かを判定する。そして、ステップ32で「YES」と判定したときには、次のステップ33に移って飽和処理を行い、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHに設定する。
一方、ステップ26で「NO」と判定するときには、次のステップ34に移って相対加速度aが負(a<0)であるか否かを判定する。そして、ステップ34で「NO」と判定するときには、次のステップ35に移って減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとして設定する。なお、ソフト指令信号ISとは、前回の減衰力指令信号Iよりも予め決められた値分だけ指令信号を相対的にソフト側に変更するための信号であり、ソフトとハードの2段切替え信号を必ずしも意味するものではない。また、ソフト指令信号ISは、他の車速などの他の条件によって、変更してもよい。そして、ステップ35の処理後には、次のステップ24でリターンする。
ステップ34で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ36に移って減衰力指令信号Iを、下記の数2式を満たすように演算する。ここで、係数vpは、実験データ等により決められる定数であり、このときの減衰力指令信号Iは、相対速度vに比例してソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで減少する信号として演算される。
そして、前記ステップ36により求められた減衰力指令信号Iについても、前記ステップ30〜33の処理として飽和処理を行い、その後は、次のステップ24でリターンする。なお、相対加速度a、相対速度vは、ノイズの影響等により零(0)付近で振動し、正,負の反転を繰返すことがある。そこで、このような場合には、相対加速度aと相対速度vとが零付近となる値に幅を設けたり、相対速度vと相対加速度aとの位相差が90度であることを利用した行程判別を考慮したりする構成としてもよい。
ここで、図9に示す特性線は、図5に示す輪荷重を増加したい車輪の指令信号演算処理(どちらかといえば応答性を得ることを主眼とした演算処理)を車両のサスペンション制御に適用した場合の縮み行程と伸び行程の試験データを示している。図9中に実線で示す特性線15は、本実施の形態(以下、実施例Aという)による輪荷重を増加したい車輪側での縮み行程と伸び行程における輪荷重の特性を示し、一点鎖線で示す特性線16は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線17は、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性をそれぞれ示している。
また、図9中に実線で示す特性線18は、実施例Aによるダンパ伸縮加速度(即ち、相対加速度a)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線19は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線20は、減衰力をハードに固定した場合の加速度の特性をそれぞれ示している。さらに、図9中に実線で示す特性線21は、実施例Aによるダンパ伸縮速度(即ち、相対速度v)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線22は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線23は、減衰力をハードに固定した場合の速度の特性をそれぞれ示している。図9中に実線で示す特性線24は、実施例Aによる減衰力指令信号の特性を示している。
例えば図9中の時間0〜Ta1までの間は、実線で示す特性線18,21のように、相対加速度aが負で、相対速度vも負の値となる。そこで、この間は図5中のステップ26,27,28の処理により、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとし、該当する車輪側の輪荷重を縮み行程で増加させるように設定する。このため、例えば時間0〜Ta1までの間は、実施例Aによる輪荷重の特性は、実線で示す特性線15の如く、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性(二点鎖線で示す特性線17)と同様な特性(ソフト固定の特性線16に比べて輪荷重が速く増加する特性)に設定される。
そして、図9中の時間Ta1を過ぎた段階で、相対加速度aが負から正の値となり、相対速度vが時間Ta2までは負の値となっているので、時間Ta1〜Ta2の間は、図5中のステップ26,27,29の処理により、減衰力指令信号Iを前記数1式に従ってハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで相対速度vに比例して増加するように設定し(特性線24参照)、該当する車輪側での減衰力がハードな特性から徐々にソフトな特性に切替わる特性に制御する。
次に、時間Ta2〜Ta3の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aも正の値となっているので、この間は図5中のステップ26,34,35の処理により、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとし、該当する車輪側の輪荷重を伸び行程で増加させる、即ち減少させないように設定する。このため、例えば時間Ta2〜Ta3までの間、実施例Aによる輪荷重の特性は、実線で示す特性線15の如く設定される。
次に、時間Ta3〜Ta4の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aは正から負の値となっている。そこで、時間Ta3〜Ta4の間は、図5中のステップ26,34,36の処理により、減衰力指令信号Iを前記数2式に従ってソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで相対速度vに比例して減少するように設定し(特性線24参照)、該当する車輪側での減衰力がソフトな特性から徐々にハードな特性に切替わる特性に制御する。時間Ta4以降は、相対速度vが負で、相対加速度aも負の値となるので、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとして設定する。
上述の如く、本実施の形態によれば、輪荷重を増加したい車輪側での応答性を得る場合の制御において、図9中に実線で示す特性線24のように、縮み行程の初期の段階(例えば、時間0〜Ta1までの間)は減衰力指令をハード側(減衰力指令信号Iをハード指令信号IH)に設定し、縮み行程の後期の段階(例えば、時間Ta1〜Ta2の間)では、減衰力指令をハードな特性から徐々にソフトな特性に切替わる特性に設定することにより縮み行程ハード・ソフト切替制御を実行する。
この縮み行程ハード・ソフト切替制御により、輪荷重を増加したい車輪側での縮み行程において、特性線15に示す如く輪荷重を素早く立ち上げて応答性を向上することができ、急激な輪荷重の変化を抑えて次の伸び行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
また、伸び行程の初期の段階(例えば、時間Ta2〜Ta3までの間)は減衰力指令をソフト側(減衰力指令信号Iをソフト指令信号IS)に設定し、後期の段階(例えば、時間Ta3〜Ta4の間)では、減衰力指令をソフトな特性から徐々にハードな特性に切替る特性に設定することにより伸び行程ソフト・ハード切替制御を実行する。
この伸び行程ソフト・ハード切替制御により、輪荷重を増加したい車輪側での伸び行程において、特性線15に示す如く、時間Ta2〜Ta3の間で輪荷重を減少させないようにして応答性を確保することができ、時間Ta3〜Ta4の間では急激な輪荷重の変化を抑え、次の縮み行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
次に、輪荷重の絶対量を得る場合の演算処理を図6に示す。この処理は、前記ステップ13による輪荷重を増加したい車輪側での減衰力の指令信号を演算するものである。図6中のステップ41では、ダンパの伸縮速度、即ち相対速度vが零(v=0)であるか否かを判定する。この場合、ばね上,ばね下間の相対速度vは、図3に示すステップ4の処理によって算定されている。
そして、ステップ41で「YES」(即ち、相対速度vが零)と判定するときには、次のステップ42に移って後述の係数apを、ばね上,ばね下間の相対加速度aに設定する。この場合、ばね上,ばね下間の相対加速度aは、図3に示すステップ4の処理によって算定されている。次のステップ43では減衰力指令信号Iを、前回の減衰力指令信号Iと同じく維持する信号に設定する。そして、その後は次のステップ44でリターンする。
ステップ45ではダンパの伸縮加速度、即ちばね上,ばね下間の相対加速度aが零(a=0)であるか否かを判定する。ステップ45で「YES」と判定するときには、前述したステップ43〜44の処理を行う。ステップ45で「NO」と判定したときには、次のステップ46に移って相対速度vが負(v<0)であるか否かを判定する。ステップ46で「YES」(即ち、相対速度vが負)と判定するときには、次のステップ47に移って相対加速度aが負(a<0)であるか否かを判定する。
そして、ステップ47で「NO」(即ち、相対加速度aが正)と判定するときには、次のステップ48に移って減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとし、該当する車輪側の輪荷重を縮み行程で増大させる。ステップ48の処理後は、次のステップ44でリターンする。
ステップ47で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ49に移って減衰力指令信号Iを、下記の数3式を満たすように演算する。ここで、係数apは、実験データ等により決められる定数であり、このときの減衰力指令信号Iは、相対加速度aに比例してハード指令信号IHからソフト指令信号IS(IS>IH)まで増加する信号として演算される。
そして、前記ステップ49により求められた減衰力指令信号Iについても、前記ステップ30〜33の処理と同様に飽和処理(ステップ50〜53)を行い、その後は、次のステップ44でリターンする。一方、ステップ46で「NO」と判定するときには、次のステップ54に移って相対加速度aが負(a<0)であるか否かを判定する。そして、ステップ54で「YES」と判定するときには、次のステップ55に移って減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとして設定する。ステップ55の処理後には、次のステップ44でリターンする。
ステップ54で「NO」(即ち、相対加速度aが正)と判定するときには、次のステップ56に移って減衰力指令信号Iを、下記の数4式を満たすように演算する。ここで、係数apは、実験データ等により決められる定数であり、このときの減衰力指令信号Iは、相対加速度aに比例してソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで減少する信号として演算される。
そして、前記ステップ56により求められた減衰力指令信号Iについても、前記ステップ50〜53の処理として飽和処理を行い、その後は、次のステップ44でリターンする。なお、相対加速度a、相対速度vは、ノイズの影響等により零(0)付近で振動し、正,負の反転を繰返すことがある。そこで、このような場合には、相対加速度aと相対速度vとが零付近となる値に幅を設けたり、相対速度vと相対加速度aとの位相差が90度であることを利用した行程判別を考慮したりする構成としてもよい。
ここで、図10に示す特性線は、図6に示す輪荷重を増加したい車輪の指令信号演算処理(どちらかといえば絶対量を得ることを主眼とした演算処理)を車両のサスペンション制御に適用した場合の縮み行程と伸び行程の試験データを示している。図10中に実線で示す特性線25は、本実施の形態(以下、実施例Bという)による輪荷重を増加したい車輪側での絶対量を得る輪荷重の特性を示し、一点鎖線で示す特性線26は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線27は、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性をそれぞれ示している。
また、図10中に実線で示す特性線28は、実施例Bによるダンパ伸縮加速度(即ち、相対加速度a)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線29は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線30は、減衰力をハードに固定した場合の加速度の特性をそれぞれ示している。さらに、図10中に実線で示す特性線31は、実施例Bによるダンパ伸縮速度(即ち、相対速度v)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線32は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線33は、減衰力をハードに固定した場合の速度の特性をそれぞれ示している。図10中に実線で示す特性線34は、実施例Bによる減衰力指令信号の特性を示している。
例えば図10中の時間0〜Tb1までの間は、実線で示す特性線28,31のように、相対加速度aが負で、相対速度vも負の値となる。そこで、この間は図6中のステップ46,47,49の処理により、減衰力指令信号Iを前記数3式に従ってハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで相対加速度aに比例して増加するように設定し(特性線34参照)、該当する車輪側での減衰力がハードな特性から徐々にソフトな特性に切替わる特性に制御する。
そして、図10中の時間Tb1を過ぎた段階で、相対加速度aが負から正の値となり、相対速度vは時間Tb2までは負の値となっているので、時間Tb1〜Tb2の間は、図6中のステップ46,47,48の処理により、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとし、該当する車輪側の輪荷重を縮み行程で増加させるように設定する。
次に、時間Tb2〜Tb3の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aも正の値となっているので、この間は図6中のステップ46,54,56の処理により、減衰力指令信号Iを前記数4式に従ってソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで相対加速度aに比例して減少するように設定し(特性線34参照)、該当する車輪側での減衰力がソフトな特性から徐々にハードな特性に切替わる特性に制御する。
次に、時間Tb3〜Tb4の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aは正から負の値となっている。そこで、時間Tb3〜Tb4の間は、図6中のステップ46,54,55の処理により、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとし、該当する車輪側の輪荷重を伸び行程で増加させる、即ち減少させないように設定する。時間Tb4以降は、相対速度vが負で、相対加速度aも負の値となるので、減衰力指令信号Iを前記数3式に従ってハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで相対加速度aに比例して増加するように設定する。
上述の如く、本実施の形態によれば、輪荷重を増加したい車輪側での絶対量を得る場合の制御において、縮み行程ハード・ソフト切替制御を実行する。この場合、縮み行程の初期の段階(例えば、時間0〜Tb1までの間)は、相対加速度aが負のピークから零に変化するので、相対加速度aに比例して減衰力指令をハード側からソフト側に切替えることにより、例えば時間Tb1までに減衰力の切替えを完了することができ、図10中に実線で示す特性線34のように、急激な輪荷重の変化を抑えて次の後期の段階へと輪荷重を滑らかに制御することができる。そして、縮み行程の後期(例えば、時間Tb1〜Tb2の間)では、減衰力指令をソフトな特性に設定することにより、輪荷重の最大量を大きくすることができ、急激な輪荷重の変化を抑えて次の伸び行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
また、伸び行程の初期の段階(例えば、時間Tb2〜Tb3までの間)は相対加速度aが正のピークから零に変化するので、伸び行程ソフト・ハード切替制御を実行し、相対加速度aに比例して減衰力指令をソフト側からハード側に切替えることにより、例えば時間Tb3までに減衰力の切替えを完了することができ、急激な輪荷重の変化を抑えて次の後期の段階へと輪荷重を滑らかに制御することができる。そして、伸び行程の後期(例えば、時間Tb3〜Tb4の間)では、減衰力指令をハードな特性に設定することにより、輪荷重を減少させないようにして最大量の効果を得ることができ、急激な輪荷重の変化を抑え、次の縮み行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
次に、図7に示す演算処理は、前記ステップ15による輪荷重を減少したい車輪側での減衰力の指令信号演算処理を具体化したものである。この処理は輪荷重の応答性向上を主眼にしたものである。この場合、図7中のステップ61〜67の処理は、前述した図5中のステップ21〜27と同様である。
ステップ67で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ68に移って減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISに設定する。そして、ステップ68の処理後は、次のステップ64でリターンする。ステップ67で「NO」(即ち、相対加速度aが正)と判定するときには、次のステップ69に移って減衰力指令信号Iを、前記数2式を満たすように演算する。これにより、減衰力指令信号Iは、相対速度vに比例してソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで減少する信号として演算される。
次のステップ70〜73では、前記ステップ30〜33の処理と同様に飽和処理を行い、その後は、次のステップ64でリターンする。一方、ステップ66で「NO」と判定するときには、次のステップ74に移って相対加速度aが負(a<0)であるか否かを判定する。そして、ステップ74で「NO」と判定するときには、次のステップ75に移って減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとして設定する。ステップ75の処理後には、次のステップ64でリターンする。
ステップ74で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ76に移って減衰力指令信号Iを、前記数1式を満たすように演算する。これにより、減衰力指令信号Iは、相対速度vに比例してハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで増加する信号として演算される。
そして、前記ステップ76により求められた減衰力指令信号Iについても、前記ステップ70〜73の飽和処理を行い、その後は、次のステップ64でリターンする。なお、相対加速度a、相対速度vは、ノイズの影響等により零(0)付近で振動し、正,負の反転を繰返すことがある。そこで、このような場合には、相対加速度aと相対速度vとが零付近となる値に幅を設けたり、相対速度vと相対加速度aとの位相差が90度であることを利用した行程判別を考慮したりする構成としてもよい。
ここで、図11に示す特性線は、図7に示す輪荷重を減少したい車輪の指令信号演算処理(どちらかといえば応答性を得ることを主眼とした演算処理)を車両のサスペンション制御に適用した場合の縮み行程と伸び行程の試験データを示している。図11中に実線で示す特性線35は、本実施の形態(以下、実施例Cという)による輪荷重を減少したい車輪側での縮み行程と伸び行程における輪荷重の特性を示し、一点鎖線で示す特性線36は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線37は、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性をそれぞれ示している。
また、図11中に実線で示す特性線38は、実施例Cによるダンパ伸縮加速度(即ち、相対加速度a)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線39は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線40は、減衰力をハードに固定した場合の加速度の特性をそれぞれ示している。さらに、図11中に実線で示す特性線41は、実施例Cによるダンパ伸縮速度(即ち、相対速度v)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線42は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線43は、減衰力をハードに固定した場合の速度の特性をそれぞれ示している。図11中に実線で示す特性線44は、実施例Cによる減衰力指令信号の特性を示している。
例えば図11中の時間0〜Tc1までの間は、実線で示す特性線38,41のように、相対加速度aが負で、相対速度vも負の値となる。そこで、この間は図7中のステップ66,67,68の処理により、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとし、該当する車輪側の輪荷重を縮み行程で相対的に減少させ、増加させないように設定する。
そして、図11中の時間Tc1を過ぎた段階で、相対加速度aが負から正の値となり、相対速度vは時間Tc2まで負の値となっているので、時間Tc1〜Tc2の間は、図7中のステップ66,67,69の処理により、減衰力指令信号Iを前記数2式に従ってソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで相対速度vに比例して減少するように設定し(特性線44参照)、該当する車輪側での減衰力がソフトな特性から徐々にハードな特性に切替わるように制御する。
次に、時間Tc2〜Tc3の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aも正の値となっているので、この間は図7中のステップ66,74,75の処理により、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとし、該当する車輪側の輪荷重を伸び行程で減少させるように設定する。このため、例えば時間Tc2〜Tc3までの間、実施例Cによる輪荷重の特性は、実線で示す特性線35の如く設定される。
次に、時間Tc3〜Tc4の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aは正から負の値となっている。そこで、時間Tc3〜Tc4の間は、図7中のステップ66,74,76の処理により、減衰力指令信号Iを前記数1式に従ってハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで相対速度vに比例して増加するように設定し(特性線44参照)、該当する車輪側での減衰力がハードな特性から徐々にソフトな特性に切替わる特性に制御する。時間Tc4以降は、相対速度vが負で、相対加速度aも負の値となるので、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとして設定する。
従って、本実施の形態によれば、輪荷重を減少したい車輪側での応答性を得る場合の制御において、図11中に実線で示す特性線44のように、縮み行程の初期の段階(例えば、時間0〜Tc1までの間)は減衰力指令をソフト側(減衰力指令信号Iをソフト指令信号IS)に設定し、縮み行程の後期の段階(例えば、時間Tc1〜Tc2の間)では、減衰力指令をソフトな特性から徐々にハードな特性に切替えることにより縮み行程ソフト・ハード切替制御を実行する。これにより、輪荷重を減少したい車輪側での縮み行程において、特性線35に示す如く輪荷重の増加を抑えて応答性を向上することができ、急激な輪荷重の変化を抑えて次の伸び行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
また、伸び行程の初期の段階(例えば、時間Tc2〜Tc3までの間)は減衰力指令をハード側(減衰力指令信号Iをハード指令信号IH)に設定し、後期の段階(例えば、時間Tc3〜Tc4の間)では、減衰力指令をハードな特性から徐々にソフトな特性に切替えることにより伸び行程ハード・ソフト切替制御を実行する。これにより、輪荷重を減少したい車輪側での伸び行程において、時間Tc2〜Tc3の間で輪荷重を素速く減少させて輪荷重抜けの応答性を向上することができ、時間Tc3〜Tc4の間では急激な輪荷重の変化を抑え、次の縮み行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
次に、輪荷重の絶対量を得る場合の演算処理を図8に示す。この処理は、前記ステップ15による輪荷重を減少したい車輪側での減衰力の指令信号を演算するものである。この場合、図8中のステップ81〜87にわたる処理は、前述した図6中のステップ41〜47と同様の処理を行うものである。
ステップ87で「NO」(即ち、相対加速度aが正)と判定するときには、次のステップ88に移って減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとして設定し、その後はステップ84でリターンする。ステップ87で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ89に移って減衰力指令信号Iを前記数4式を満たすように演算する。これにより、減衰力指令信号Iは、相対加速度aに比例してソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで減少する信号として演算される。
そして、次のステップ90〜93では、前記ステップ89で求められた減衰力指令信号Iに対して飽和処理を行い、その後は、次のステップ84でリターンする。一方、ステップ94で「YES」(即ち、相対加速度aが負)と判定するときには、次のステップ95に移って減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとし、該当する車輪側の輪荷重を伸び行程で増大させる。ステップ95の処理後は次のステップ84でリターンする。
ステップ94で「NO」(即ち、相対加速度aが正)と判定するときには、ステップ96に移って減衰力指令信号Iを前記数3式を満たすように演算する。これにより、減衰力指令信号Iは、相対加速度aに比例してハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで漸次増加する信号として演算される。そして、前記ステップ96により求められた減衰力指令信号Iについても、ステップ90〜93で飽和処理を行い、その後はステップ84でリターンする。
ここで、図12に示す特性線は、図7に示す輪荷重を減少したい車輪の指令信号演算処理(どちらかといえば絶対量を得ることを主眼とした演算処理)を車両のサスペンション制御に適用した場合の縮み行程と伸び行程の試験データを示している。図12中に実線で示す特性線45は、本実施の形態(以下、実施例Dという)による輪荷重を減少したい車輪側での絶対量を得る輪荷重の特性を示し、一点鎖線で示す特性線46は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線47は、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性をそれぞれ示している。
また、図12中に実線で示す特性線48は、実施例Dによるダンパ伸縮加速度(即ち、相対加速度a)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線49は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線50は、減衰力をハードに固定した場合の加速度の特性をそれぞれ示している。さらに、図12中に実線で示す特性線51は、実施例Dによるダンパ伸縮速度(即ち、相対速度v)の特性を示し、一点鎖線で示す特性線52は、減衰力をソフトに固定した場合、二点鎖線で示す特性線53は、減衰力をハードに固定した場合の速度の特性をそれぞれ示している。図12中に実線で示す特性線54は、実施例Dによる減衰力指令信号の特性を示している。
例えば、図12中の時間0〜Td1までの間は、実線で示す特性線48,51のように、相対加速度aが負で、相対速度vも負の値となる。そこで、この間は図8中のステップ86,87,89の処理により、減衰力指令信号Iを前記数4式に従ってソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで相対加速度aに比例して増加するように設定し(特性線54参照)、該当する車輪側での減衰力がソフトな特性から徐々にハードな特性に切替わるように制御する。
そして、図12中の時間Td1を過ぎた段階で、相対加速度aが負から正の値となり、相対速度vは時間Td2までは負の値となっているので、時間Td1〜Td2の間は、図8中のステップ86,87,88の処理により、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHとし、該当する車輪側の輪荷重を縮み行程で相対的に減少させ、輪荷重の増加を抑えるように設定する。
次に、時間Td2〜Td3の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aも正の値となっているので、この間は図8中のステップ86,94,96の処理により、減衰力指令信号Iを前記数3式に従ってハード指令信号IHからソフト指令信号ISまで相対加速度aに比例して増加するように設定し(特性線54参照)、該当する車輪側での減衰力がハードな特性から漸次ソフトな特性に切替わるように制御する。
次に、時間Td3〜Td4の間は、相対速度vが正の値となり、相対加速度aは正から負の値となっている。そこで、時間Td3〜Td4の間は、図6中のステップ86,94,95の処理により、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISとし、該当する車輪側の輪荷重を伸び行程で相対的に減少させ、輪荷重の増加を抑えるように設定する。時間Td4以降は、相対速度vが負で、相対加速度aも負の値となるので、減衰力指令信号Iを前記数4式に従ってソフト指令信号ISからハード指令信号IHまで相対加速度aに比例して増加するように設定する。
上述の如く、本実施の形態によれば、輪荷重を減少したい車輪側での絶対量を得る場合の制御において、縮み行程ソフト・ハード切替制御を実行する。この場合、縮み行程の初期の段階(例えば、時間0〜Td1までの間)は、相対加速度aが負のピークから零に変化するので、相対加速度aに比例して減衰力指令をソフト側からハード側に切替えることにより、例えば時間Td1までに減衰力の切替えを完了することができ、図12中に実線で示す特性線54のように、急激な輪荷重の変化を抑えて次の後期の段階へと輪荷重を滑らかに制御することができる。そして、縮み行程の後期(例えば、時間Td1〜Td2の間)では、減衰力指令をハードな特性に設定することにより、輪荷重の最大量を大きくすることができ、急激な輪荷重の変化を抑えて次の伸び行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
また、伸び行程中の初期をハード側とし、後期をソフト側に切替える伸び行程ハード・ソフト切替制御を実行する。この場合、伸び行程の初期の段階(例えば、時間Td2〜Td3までの間)は減衰力指令をハード側からソフト側に切替えることにより、例えば時間Td3までに減衰力の切替えを完了することができ、急激な輪荷重の変化を抑えて次の後期の段階へと輪荷重を滑らかに制御することができる。そして、伸び行程の後期(例えば、時間Td3〜Td4の間)では、減衰力指令をソフトな特性に設定することにより、輪荷重を増加させないようにして最大量の効果を得ることができ、急激な輪荷重の変化を抑え、次の縮み行程へと輪荷重を滑らかに制御することができる。
かくして、第1の実施の形態によれば、上述の如き構成を採用することにより、左,右の前輪2と左,右の後輪3のうち輪荷重を増加したい車輪については、その応答性を向上することができ、輪荷重増加時の最大量(絶対量)についても大きくすることができる。また、輪荷重を減少したい車輪についても、その応答性を向上することができ、輪荷重減少、抜けの最大量(絶対量)を大きくすることができる。しかも、縮み行程と伸び行程との間で輪荷重を滑らかに切替えて制御することができ、急激な輪荷重の変化を抑えることができる。
従って、各減衰力可変ダンパ6(9)の伸び行程または縮み行程において、減衰力特性を切替えるパラメータとしての切替時間を必要とせず、ピストン動作の位相、相対速度v、相対加速度aに応じた滑らかな減衰力の切替えが可能となる。このため、車両条件や走行条件によらず、輪荷重の増加または減少の応答性と絶対量を制御することができる。これによって、車両をより安全に運転制御することができる。
次に、図13〜図17は本発明の第2の実施の形態を示している。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
しかし、第2の実施の形態の特徴は、複数の車輪2,3のうち輪荷重を増加させる車輪側に設けられた減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力特性を、当該減衰力可変ダンパの伸縮加速度に比例した特性として可変に制御し、前記輪荷重を減少させる車輪側に設けられた減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力特性を、当該減衰力可変ダンパの伸縮加速度に比例した減衰力特性として可変に制御する構成としたことにある。
ここで、図13は輪荷重を増加したい車輪の指令信号演算処理を示している。処理動作がスタートすると、ステップ101で下記の数5式による演算を実行し、輪荷重を増加したい車輪側での減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力特性、即ち減衰力指令信号Iを当該減衰力可変ダンパの伸縮加速度(相対加速度a)に比例した特性として演算する。
ここで、比例係数Kuは、輪荷重を増加したい場合に用いる定数であり、後述する輪荷重を減少したい場合の比例係数Kdとは、下記の数6式による関係に設定されている。また、定数Io は、例えば試験データ等に従って決められる定数である。比例係数Ku,Kdについても、例えば試験データ等に従って決められるものである。
次のステップ102では、ステップ101による減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISより大きな値(I>IS)であるか否かを判定し、「YES」と判定したときには、次のステップ103に移って飽和処理を行い、減衰力指令信号Iをソフト指令信号ISに設定する。また、ステップ102で「NO」と判定するときには、減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISよりも小さいので、次のステップ104に移って減衰力指令信号Iがハード指令信号IHより小さい値(I<IH)であるか否かを判定する。そして、ステップ104で「YES」と判定したときには、次のステップ105に移って飽和処理を行い、減衰力指令信号Iをハード指令信号IHに設定する。その後はステップ106でリターンする。
ここで、図15は、減衰力をソフト固定にした場合、ハード固定にした場合と輪荷重を増加したい車輪の制御を行った場合との輪荷重、相対加速度a、相対速度vおよび減衰力指令の比較データを示している。図15中に実線で示す特性線61は、第2の実施の形態(以下、実施例Eという)による輪荷重を増加したい車輪側での縮み行程と伸び行程における輪荷重の特性を示し、一点鎖線で示す特性線62は、減衰力をソフトに固定した場合の輪荷重特性を示し、二点鎖線で示す特性線63は、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性を示している。
また、図15中に実線で示す特性線64は、実施例Eによる相対加速度aの特性を示し、一点鎖線で示す特性線65は、減衰力をソフトに固定した場合の加速度の特性を示し、二点鎖線で示す特性線66は、減衰力をハードに固定した場合の加速度の特性を示している。さらに、図15中に実線で示す特性線67は、実施例Eによるダンパ相対速度vの特性を示し、一点鎖線で示す特性線68は、減衰力をソフトに固定した場合の速度の特性を示し、二点鎖線で示す特性線69は、減衰力をハードに固定した場合の速度の特性を示している。
図15中に実線で示す特性線70は、実施例Eによる減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力指令信号Iを示し、この減衰力指令信号Iは、前記数5式により相対加速度aに比例した特性として演算されるものである。但し、時間0〜Te0までの間は、減衰力指令信号Iがハード指令信号IHに固定されている。これは図13中のステップ104〜105の飽和処理によるものである。
時間Te0〜Te2の間では、減衰力指令信号Iがハード指令信号IHからソフト側に滑らかに増大するように、相対加速度aに比例して制御されている。時間0〜Te2にわたるダンパの縮み行程において、図15に示す特性線70のように初期の減衰力指令信号をハードにし、後期がソフトとなるように徐々に信号を増加させて減衰力を滑らかに切替える構成としている。
また、時間Te2〜2.0秒にわたるダンパの伸び行程では、その初期をソフトとし、その後にソフト側からハード側に漸次切替えるように減衰力指令信号を制御している。特に、時間Te3〜2.0秒にわたる伸び行程の後期は、減衰力指令信号をハードとソフトのほぼ中間に維持するように制御している。なお、この場合でも、相対加速度aは、ノイズの影響等により零(0)付近で振動し、正,負の反転を繰返すことがある。そこで、このような場合には、相対加速度aが零付近となる値に幅を設けたり、相対速度vと相対加速度aとの位相差が90度であることを利用した行程判別を考慮したりする構成としてもよい。
図16は、輪荷重を増加したい車輪側に設けられた減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力指令信号と、当該ダンパの相対加速度a、相対速度vおよびピストン変位との関係を参考例として示す特性線図である。即ち、減衰力可変ダンパ6(9)のピストンが図16中に実線で示す特性線71に沿って変位する場合を例に挙げると、ピストンの伸縮速度である相対速度vは特性線72で示すことができる。また、ピストンの伸縮加速度である相対加速度aは特性線73で示すことができる。実線で示す特性線74は、輪荷重を増加したい車輪側での減衰力指令信号をハードとソフトの間で不連続に切替えた場合の特性を示している。
(1)相対速度vが負(v<0)かつ相対加速度aが負(a<0)の区間
図16中の時間0〜0.25秒の間は、相対速度vが負(v<0)かつ相対加速度aが負(a<0)の区間である。一般的に、ダンパの減衰力は相対速度vに比例した力であり、ばね力(図1に示すばね5,8の力)は相対速度vの積分値、即ちピストン変位に比例した力であるため、この区間では、減衰力とばね力が共に増加するが、減衰力の傾きの方が大きい。従って、この区間で減衰力指令信号を実線で示す特性線74のようにハード設定した場合、減衰力を大きくできるため、輪荷重を素速く増加することができ、その応答性を向上できる。逆に、この区間をソフトにした場合は、輪荷重の増加を遅くでき、応答性は低下する。
(2)相対速度vが負(v<0)かつ相対加速度aが正(a>0)の区間
図16中の時間0.25〜0.5秒の間は、相対速度vが負(v<0)かつ相対加速度aが正(a>0)の区間で、ばね力は増加するが、減衰力は低下する区間である。この区間では必ず減衰力は低下するため、減衰力特性をどのように切替えても、減衰力では輪荷重を増加することができない。一方で、ばね力はまだ増加をする。従って、この区間で減衰力指令信号を実線で示す特性線74のようにソフトに設定することで、ばねを縮み易くし、ばね力を増加させることで輪荷重の最大量を増加できる(絶対量大)。逆に、この区間をハードにすれば、ばねは縮みにくくなるため、輪荷重の最大量を小さくできる(絶対量小)。
(3)相対速度vが正(v>0)かつ相対加速度aが正(a>0)の区間
図16中の時間0.5〜0.75秒の間は、相対速度vが正(v>0)かつ相対加速度aが正(a>0)の区間で、ばね力と減衰力がともに低下する区間である。この区間では、減衰力とばね力が共に低下し、輪荷重は減少する。上記区間(1)と同様の考え方で、この区間で減衰力指令信号をソフトに設定した場合、輪荷重の減少を遅くすることができる(応答性小)。逆に、この区間で指令信号をハードに設定した場合は、輪荷重を素速く減少することができる(応答性大)。
(4)相対速度vが正(v>0)かつ相対加速度aが負(a<0)の区間
図16中の時間0.75〜1.0秒の間は、相対速度vが正(v>0)かつ相対加速度aが負(a<0)の区間である。この区間では、減衰力が増加し、ばね力は低下するので、上記区間(2)と同様の考え方で、減衰力指令信号を実線で示す特性線74のようにハードに固定することで、ばねを伸びにくくし、輪荷重の減少の最大量を低下できる(最大量小)。逆に、この区間で指令信号をソフトにした場合には、ばねを伸びやすくし、輪荷重の減少の最大量を増加できる(絶対量大)。
また、図16中に二点鎖線で示す特性線75は、例えば前記数5式による比例係数Kuを小さくした場合の特性で、相対加速度aの特性線73とほぼ同様な特性で示されている。一点鎖線で示す特性線76は、前記比例係数Kuを中間の値に設定した場合の特性で、点線で示す特性線77は、前記比例係数Kuを大きな値に設定した場合の特性である。
ここで、急激な輪荷重の変動がなく、応答性と絶対量の両方の効果を得るためには、応答性と絶対量の両方の効果を低下させなければならない(即ち、制御による応答性の効果と絶対量の効果を最大限発揮できない)。このためには、前述した区間(1)〜(4)のそれぞれで、減衰力特性の固定と切替えの両方の制御を行えばよいものである。
そこで、図15に示す第2の実施の形態による実施例Eでは、時間0〜Te2にわたる縮み行程において、まず時間0〜Te1の前半(時間0〜Te0)に固定区間を設けて減衰力指令信号をハードに固定し、これにより応答性の効果を得ている。時間0〜Te1の後半(時間Te0〜Te1)には、次なる区間(時間Te1〜Te2)への切替区間を設けて減衰力指令信号をハードから徐々にソフト側に切替える構成としている。
また、区間(時間Te1〜Te2)の前半には、前の区間(時間0〜Te1)からの切替区間を設け、区間(時間Te1〜Te2)の後半には固定区間(どちらかいえば固定に近い区間)を設ければ、これにより最大量の効果を得ることができる。つまり、区間(時間0〜Te2)を通した減衰力特性の切替えを行うことになる。
区間(時間0〜Te1)は、相対加速度aが負のピークから零(a=0)になる区間であり、区間(時間Te1〜Te2)は、相対加速度aが零(a=0)から正のピークになる区間である。このため、相対加速度aを定数倍(比例係数Ku倍)したものを減衰力特性の指令信号とすれば、縮み行程全体(時間0〜Te2)を通した減衰力指令信号のハードからソフト(または、ソフトからハード)への連続的な切替制御が可能になる。
また、伸び行程(時間Te2〜2.0秒)についても同様であり、減衰力指令信号Iを、前記数5式の示すように相対加速度aに比例させればよい。即ち、伸縮加速度(相対加速度a)の波形信号の大きさに比例した減衰力特性となるように減衰力指令信号Iを演算により求めるものである。
以上のように、減衰力指令信号Iを相対加速度aに比例させるように減衰力特性を可変に制御することにより、減衰力可変ダンパ6(9)の縮み行程および伸び行程の両方で応答性と絶対量の効果を得ることができる。ここで、減衰力指令信号Iは、図13中のステップ102〜105による飽和処理によりソフト指令信号ISもしくはハード指令信号IHで飽和するため、前記数5式中の比例係数Kuを大きくするほど、本制御の基本概念である減衰力特性の切替え方(不連続切替)に近づく(図16参照)。
次に、図14は輪荷重を減少したい車輪の指令信号演算処理を示している。処理動作がスタートすると、ステップ111で下記の数7式による演算を実行し、輪荷重を減少したい車輪側での減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力特性、即ち減衰力指令信号Iを当該減衰力可変ダンパの伸縮加速度(相対加速度a)に比例した特性として演算する。
ここで、比例係数Kdは、輪荷重を減少したい場合に用いる定数であり、前述した輪荷重を増加したい場合の比例係数Kuとは、前記の数6式による関係に設定されている。数6式により、例えば比例係数Kuが正の値に設定される場合には、比例係数Kdが負の値に設定されるものである。
次にステップ112〜115では、前述した図13のステップ102〜105と同様に飽和処理を行い、減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISよりも大きくなるのを抑えると共に、減衰力指令信号Iがハード指令信号IHよりも小さくなるのを抑えるようにしている。
ここで、図17は、減衰力をソフト固定にした場合、ハード固定にした場合と輪荷重を減少したい車輪の制御を行った場合との輪荷重、相対加速度a、相対速度vおよび減衰力指令の比較データを示している。図17中に実線で示す特性線81は、第2の実施の形態(以下、実施例Fという)による輪荷重を増加したい車輪側での縮み行程と伸び行程における輪荷重の特性を示し、一点鎖線で示す特性線82は、減衰力をソフトに固定した場合の輪荷重特性を示し、二点鎖線で示す特性線83は、減衰力をハードに固定した場合の輪荷重特性を示している。
また、図17中に実線で示す特性線84は、実施例Fによる相対加速度aの特性を示し、一点鎖線で示す特性線85は、減衰力をソフトに固定した場合の加速度の特性を示し、二点鎖線で示す特性線86は、減衰力をハードに固定した場合の加速度の特性を示している。さらに、図17中に実線で示す特性線87は、実施例Fによるダンパ相対速度vの特性を示し、一点鎖線で示す特性線88は、減衰力をソフトに固定した場合の速度の特性を示し、二点鎖線で示す特性線89は、減衰力をハードに固定した場合の速度の特性を示している。
図17中に実線で示す特性線90は、実施例Fによる減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力指令信号Iを示し、この減衰力指令信号Iは、前記数7式により相対加速度aに比例した特性として演算されるものである。但し、時間0〜Tf0までの間は、減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISに固定されている。これは図14中のステップ112〜113の飽和処理によるものである。
時間Tf0〜Tf2の間では、減衰力指令信号Iがソフト指令信号ISからハード側に滑らかに減少するように、相対加速度aに比例して制御されている。時間0〜Tf2にわたるダンパの縮み行程において、図17に示す特性線90のように初期の減衰力指令信号をソフトにし、後期がハードとなるように徐々に信号を減少させて減衰力を滑らかに切替える構成としている。
また、時間Tf2〜2.0秒にわたるダンパの伸び行程では、その初期をハード側とし、その後にハード側から相対的にソフト側に切替えるように減衰力指令信号を制御している。特に、時間Tf3〜2.0秒にわたる伸び行程の後期は、減衰力指令信号をハードとソフトのほぼ中間に維持するように制御している。なお、この場合でも、相対加速度aは、ノイズの影響等により零(0)付近で振動し、正,負の反転を繰返すことがある。そこで、このような場合には、相対加速度aが零付近となる値に幅を設けたり、相対速度vと相対加速度aとの位相差が90度であることを利用した行程判別を考慮したりする構成としてもよい。
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、輪荷重を増加または減少したい車輪のダンパ制御を図13〜図15、図17に示すように、縮み行程の初期と後期、伸び行程の初期と後期でそれぞれ減衰力特性を切替えることにより、輪荷重増加の応答性と最大量、輪荷重抜けの応答性と最大量に関してハードとソフトとの両方の特徴を達成している。
特に、第2の実施の形態では、輪荷重を増加したい車輪の縮み行程では、図15に示す特性線70のように初期の減衰力特性をハードにし、徐々に信号を増加させて減衰力を滑らかに切替えることで、輪荷重が急激に抜けることなく、輪荷重増加の応答性をハードに固定した場合(特性線63)と同等にし、輪荷重の最大値をソフトに固定した場合(特性線62)に近付けて、応答性と最大値の両方の特徴を達成している。また、輪荷重を増加したい車輪の伸び行程においても、減衰力をソフトからハード側に滑らかに切替えることにより、輪荷重が急激に抜けることがなくなり、ソフトに固定した場合(特性線62)よりも輪荷重抜けを低減している。
一方、輪荷重を減少したい車輪の縮み行程においては、図17に示す特性線90のように初期の減衰力特性をソフトにし、減衰力をソフトからハード側に滑らかに切替えることによって、輪荷重が急激に変動することがなくなり、ソフトに固定した場合(特性線82)よりも輪荷重の増加を抑えて絶対量を低減できるようにしている。
また、輪荷重を減少したい車輪の伸び行程では、図17に示す特性線90のように伸び行程の初期の減衰力特性をハード側にし、徐々に信号をソフト側へと増加させて減衰力を滑らかに切替えることで、輪荷重が急激に変動することなく、輪荷重減少(抜け)の応答性をハードに固定した場合(特性線83)と同等にし、輪荷重抜けの最大値をソフトに固定した場合(特性線82)よりも大きくし、応答性と最大値の両方の特徴を達成している。
なお、前記第1の実施の形態では、ばね上加速度センサ10とばね下加速度センサ11とを用いて相対加速度a、相対速度vを演算により求める場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば車体1の高さを検出する車高センサからの信号を用いて相対加速度a、相対速度vを演算により求める構成としてもよい。この点は第2の実施の形態についても同様である。
また、前記第2の実施の形態では、複数の車輪2,3のうち輪荷重を増加または減少させる車輪側に設けられた減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力特性を、当該ダンパの伸縮加速度に比例した特性として可変に制御する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば減衰力可変ダンパ6(9)の伸縮速度、即ち相対速度vに比例した特性として、減衰力可変ダンパ6(9)の減衰力特性を可変に制御する構成としてもよい。
次に、上記の実施の形態に含まれる発明について記載する。即ち、本発明は、複数の車輪のうち輪荷重を増加させる車輪側に設けられた減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、当該減衰力調整式緩衝器の伸縮加速度に比例した特性として可変に制御し、前記複数の車輪のうち前記輪荷重を減少させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、当該減衰力調整式緩衝器の伸縮加速度に比例した減衰力特性として可変に制御する構成としている。
このように、減衰力調整式緩衝器の伸縮加速度(ばね上,ばね下間の相対加速度)に比例させるように減衰力特性を可変に制御することにより、減衰力調整式緩衝器の縮み行程および伸び行程の両方で応答性と絶対量の効果を得ることができる。
また、本発明によると、制御手段は、前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を前記伸縮加速度の波形信号の大きさに比例した特性としてハード側とソフト側との間で切替え制御する構成としている。これにより、輪荷重増加の応答性と最大量、輪荷重抜けの応答性と最大量に関してハードとソフトとの両方の特徴を達成することができる。
また、本発明は、車両の車体と複数の車輪との間にそれぞれ介装して設けられ、減衰力特性がソフトとハードの間で調整可能な複数の減衰力調整式緩衝器と、該各減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を可変に制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記複数の車輪のうち輪荷重を増加させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、当該減衰力調整式緩衝器の伸縮速度に比例した特性として可変に制御し、前記複数の車輪のうち前記輪荷重を減少させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、当該減衰力調整式緩衝器の伸縮速度に比例した減衰力特性として可変に制御する構成としている。
また、本発明は、車両の車体と複数の車輪との間にそれぞれ介装して設けられ、減衰力特性がソフトとハードの間で調整可能な複数の減衰力調整式緩衝器と、該各減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を可変に制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記複数の車輪のうち輪荷重を増加させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、縮み行程中の初期をハード側にすると共に後期をソフト側に切替える縮み行程ハード・ソフト切替制御と、前記複数の車輪のうち輪荷重を増加させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、伸び行程中の初期をソフト側にすると共に後期をハード側に切替える伸び行程ソフト・ハード切替制御と、前記複数の車輪のうち輪荷重を減少させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、縮み行程中の初期をソフト側にすると共に後期をハード側に切替える縮み行程ソフト・ハード切替制御と、前記複数の車輪のうち輪荷重を減少させる車輪側に設けられた前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、伸び行程中の初期をハード側とすると共に後期をソフト側に切替える伸び行程ハード・ソフト切替制御と、のうち少なくとも一つの切替制御を実行し、前記切替制御の途中では、前記減衰力調整式緩衝器の伸縮速度または伸縮加速度に比例するように前記減衰力特性を可変に制御する構成としている。
また、本発明は、縮み行程ハード・ソフト切替制御、伸び行程ソフト・ハード切替制御、縮み行程ソフト・ハード切替制御および伸び行程ハード・ソフト切替制御のうち少なくともいずれかの制御において、減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を、初期から後期にわたって徐々に特性を切替える構成としている。これにより、減衰力特性をハードとソフトとの間で切替える制御を滑らかに行うことができ、輪荷重が急激に抜けたり、急激に増加したりして変動するのを抑えることができる。
さらに、本発明によると、複数の車輪のうち輪荷重を増加させる前記車輪には、制動力が付与されていることを特徴としている。これにより、ブレーキによる制動操作に伴う車両の姿勢変化等を抑え、走行安定性の向上化を図ることができる。