車両(自動車)用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と差動ユニット(例えば歯車式の差動ユニットである遊星歯車式変速機)とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献1〜2等に記載される等により従来から広く知られている。このうちの特許文献1には、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(例えば、第一のモード、低速モード)と、差動ユニットである遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、前記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行う、所謂パワースプリット状態を実現するモード(例えば、第二のモード、高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。又、前記特許文献2には、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を停止させる、所謂ギヤードニュートラル(GN)状態を挟んで、この出力軸の回転状態を正転、逆転に切り換えられるモード(例えば、第一のモード、低速モード)を備えた無段変速装置が記載されている。
図25〜26は、前記特許文献2に記載された、ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置を示している。このうちの図25は無段変速装置のブロック図を、図26は、この無段変速装置を制御する為の油圧回路を、それぞれ示している。エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図26の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。又、前記トロイダル型無段変速機4は、入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図26)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。
このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、前記各パワーローラ12は、互いに対向する前記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、前記各トラニオンは、前記各パワーローラ12を回転自在に支持している。又、前記アクチュエータ13は、油圧式のもので、前記各パワーローラ12を支持した前記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、前記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、前記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、前記入力側ディスク10と前記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、前記変速比制御ユニット15は、前記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、前記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、前記変速比制御ユニット15は、制御器(ECU)16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、変速比補正用電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、変速比制御弁22と、差圧シリンダ23と、補正用制御弁24a、24bと、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26(図26)とを合わせたものである。このうちの変速比制御弁22は、前記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、前記差圧シリンダ23は、前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)に応じて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、前記変速比制御弁22の切換状態を調節する為のものである。又、前記補正用制御弁24a、24bは、前記差圧シリンダ23への圧油の給排を制御するものである。更に、前記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ27(図26の27a、27b)から吐出した圧油は、前記制御弁装置21並びに前記押圧装置14に送り込まれる。即ち、油溜28(図26)から吸引されて前記オイルポンプ27a、27bにより吐出された圧油は、押圧力調整弁29及び低圧側調整弁30(図26)により所定圧に調整される。このうちの押圧力調整弁29は、前記アクチュエータ13にピストンを挟んで設けた1対の油圧室31a、31b同士の間に存在する油圧の差(差圧)に応じた油圧、並びに、前記制御器16からの指令により制御される前記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づく油圧の導入に基づき、開弁圧を調節される。そして、この様な開弁圧の調節に基づき、前記押圧装置14が発生する押圧力を、その時点での運転状態に応じた最適な値に規制する。
又、前記押圧力調整弁29により調整された圧油は、手動油圧切換弁32、並びに、減圧弁33、前記高速クラッチ用切換弁25又は低速クラッチ用切換弁26を介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室内に送り込まれる。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、前記高速用クラッチ8は、前記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に前記高速モードを実現する際に接続される。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の給排状態は、前記シフト用電磁弁20の切り換えに応じて切り換えられる。
図27は、トロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)と無段変速装置全体としての速度比(増速比)との関係の1例を示している。例えば、前記低速用クラッチ7が接続され、前記高速用クラッチ8の接続が断たれた低速モードでは、実線αで示す様に、トロイダル型無段変速機4の変速比を、ギヤードニュートラル状態を実現できる値(GN値、GNポイント)から減速する程、無段変速装置全体としての速度比を停止状態(速度比0の状態)から前進方向(+:正転方向)に増速させられる。又、同じくGN値から増速する程、同じく停止状態から後退方向(−:逆転方向)に増速させられる。一方、前記高速用クラッチ8が接続され、前記低速用クラッチ7の接続が断たれた高速モードでは、実線βで示す様に、前記トロイダル型無段変速機4の変速比を増速する程、前記無段変速装置全体としての速度比を(前進方向に)増速させられる。
尚、一般的には、「変速比」は減速比であり、「速度比」は増速比であり、「変速比」の逆数が「速度比」となる(「速度比」=1/「変速比」)。但し、本明細書並びに特許請求の範囲では、トロイダル型無段変速機に関する入力側と出力側との間の比に就いて「変速比」の言葉を用い、無段変速装置全体に関する入力側と出力側との間の比に就いて「速度比」の言葉を用いている。この理由は、トロイダル型無段変速機の比なのか、無段変速装置全体としての比なのかを明確にし易くする為である。従って、本明細書並びに特許請求の範囲では、「変速比」が減速比に、「速度比」が増速比に、必ずしも対応するものではない。
上述した様な無段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られる、その時点での車両の走行状態(運転状態)に基づいて、制御器16により、前記無段変速装置の最適な速度比(目標速度比)を求める。そして、この目標速度比を実現すべく、前記制御器16の制御信号に基づいてステッピングモータ17を駆動し、変速比制御弁22を切り換える事により、トロイダル型無段変速機4の変速比を、前記目標速度比に対応する目標変速比に調節する。又、これと共に、必要に応じて(無段変速装置の目標速度比に応じて)シフト用電磁弁20を切り換える事により、前記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換え、必要な走行モード(低速モード或いは高速モード)を選択する。これらにより、前記無段変速装置の速度比を、その時点での車両の走行状態に応じた最適な値(目標速度比)に調節する。
又、特許文献3には、上述の様な、無段変速装置の速度比を車両の走行状態(運転状態)に基づいてその時点の最適な値に自動的に調節する自動変速モードの他、運転者の意思(操作)に応じて前記速度比を有段式に変化させる手動変速モード(マニュアル変速モード)でも運転を行える様にした構造が記載されている。この特許文献3に記載された構造の場合には、予め設定した複数段(5段、5速)のうちの何れかの変速段に、運転者の操作に基づいて変速可能としている。ところで、この様な手動変速モードで運転中、運転者の変速操作のみに基づいて、トロイダル型無段変速機の変速比、延いては、無段変速装置の速度比の調節をそのまま行うと、次の様な不都合を生じる可能性がある。
即ち、運転者の操作に基づき複数段のうちの何れかの変速段が選択され、且つ、当該変速段に対応する速度比に調節されている状態で、例えばアクセルペダルを踏み込まずに(アクセル開度が全閉の状態で)上り坂(急な上り勾配)を走行中に、車両の速度が減少しているにも拘らず、運転者により減速側への変速操作が行われないと、駆動源であるエンジンの回転速度が最小許容回転速度(アンダーラン速度)未満となり、このエンジンでノッキングが発生したり、著しい場合にはこのエンジンが停止(エンスト)してしまう可能性がある。又、これとは逆に、例えばアクセルペダルを踏み込まずに(アクセル開度が全閉の状態で)下り坂(急な下り勾配)を走行中に、車両の速度が増大しているにも拘らず、運転者により増速側への変速操作が行われないと、駆動源であるエンジンの回転速度が最大許容回転速度(オーバーラン速度)を超え、このエンジンの耐久性が低下する可能性がある。
この様な不都合を防止すべく、例えば車両の速度が減少し、その変速段に対応する速度比のまま走行を続けると、前記エンジンの回転速度が最小許容回転速度未満となると判定される場合に、運転者の操作がなくても自動的に、減速側に1段変速(シフトダウン)する様にする事が考えられる。但し、この様に減速側に1段変速する場合、この1段変速するタイミングの設定が面倒で、そのタイミングによっては{その時点での車両の速度(車速)によっては}、次の様な不都合を生じる可能性がある。即ち、例えば減速側に1段変速するタイミングが早いと(その時点での車速が高いと)、エンジンブレーキが過大になり、円滑(スムーズ)な減速ができなくなる可能性がある。又、これとは逆に、減速側に1段変速するタイミングが遅いと(その時点での車速が低いと)、加速すべくアクセルペダルを踏み込んでも迅速な加速を得られない可能性がある他、路面状況によっては(例えば段差があったり悪路の場合には)、ノッキングしたりエンストする可能性がある。
一方、車両の速度が増大し、その変速段に対応する速度比で走行を続けると、エンジンの回転速度が最大許容回転速度を超えると判定される場合に、運転者の操作がなくても自動的に、増速側に1段変速(シフトアップ)する事も考えられる。但し、この様に増速側に1段変速する場合にも、この1段変速するタイミングの設定が面倒で、そのタイミングによっては(例えばその時点での車速によっては)、次の様な不都合を生じる可能性がある。即ち、例えば増速側に1段変速するタイミングが早いと(車速が低いと)、必要とするエンジンブレーキを得られず、円滑な減速を行えなくなる可能性があったり、例えば運転者がサービスブレーキ(フットブレーキ)の操作量を大きくしなければ、前方を走行する車両との間隔が過度に狭まってしまう可能性がある。又、下り坂のカーブを走行中であれば、オーバーステアの傾向が過度になる可能性もある。
又、前述の様な手動変速モードで運転中、その時点での運転状態に拘らず、運転者の変速操作にそのまま従って、トロイダル型無段変速機の変速比、延いては、無段変速装置の速度比の調節を行うと、次の様な不都合を生じる可能性がある。即ち、運転者の操作に基づき複数段のうちの何れかの変速段が選択され、且つ、当該変速段に対応する速度比に調節されている状態から、この運転者の変速操作に基づき別の変速段が選択された場合に、この別の変速段に対応する速度比にそのまま調節すると、その時点での運転状態によっては、駆動源であるエンジンの回転速度が最大許容回転速度(オーバーラン速度)を超える、又は、最小許容回転速度(アンダーラン速度)未満になる可能性がある。
例えば、その時点での車速が十分に高くないにも拘らず、運転者の操作に従ってそのまま増速側である別の変速段に対応する速度比に調節すると、駆動源であるエンジンの回転速度が最小許容回転速度未満となり、このエンジンでノッキングが発生したり、著しい場合にはこのエンジンが停止(エンスト)してしまう可能性がある。これとは逆に、その時点での車速が十分に低くないにも拘らず、運転者の変速操作に従ってそのまま減速側である別の変速段に対応する速度比に調節すると、駆動源であるエンジンの回転速度が最大許容回転速度(オーバーラン速度)を超え、このエンジンの耐久性が低下する可能性がある。
この様な不都合を防止すべく、所定の運転状態の場合には、運転者の変速操作に拘らず、当該変速段に対応する速度比に調節しない様にする(運転者の変速指令をキャンセルする)事が考えられる。但し、この場合には、例えば運転者が可能な限り燃費走行すべく、少しでもエンジンの回転速度を低くする為に増速操作を行った場合にも、この操作に拘らず変速が行われず、この変速操作を行った運転者の意思に合致した挙動を実現できなくなる。又、例えば運転者が可能な限りエンジンブレーキを得るべく、減速操作を行った場合にも、この操作に拘らず変速が行われず、この変速操作を行った運転者の意思に合致した挙動を実現できなくなり、サービスブレーキを多用しなければならない等、運転者に不安感を与える可能性がある。
これに対して、例えば特許文献4には、運転者が減速側の変速段に操作を行った場合に、この減速操作の通り変速を行うと、駆動源の回転速度が最大許容回転速度を超えると判定される場合に、この運転者が選択した変速段に対応する速度比を目標速度比(に対応する目標変速比)とせずに、最大許容回転速度となる速度比を目標速度比に設定し、この目標速度比に変速を行う技術が記載されている。又、特許文献5には、同じく最大許容回転速度を超えると判定される場合に、暫定的な目標速度比(に対応する目標変速比)を設定し、この暫定的な目標速度比に変速を行う技術が記載されている。又、特許文献6には、減速度(減速G、減速の加速度、減速の程度)を監視し、この減速度が所定の閾値を超える場合に、変速を停止する事により、変速ショックを低減する(延いては、最大許容回転速度を超えない様にする)技術が記載されている。
これら特許文献4〜6に記載された技術を採用すれば、運転者の減速指令がキャンセルされない為、必要とするエンジンブレーキが全く得られなくなる事は防止できる。但し、例えば前記特許文献4〜5に記載された技術の場合は、目標速度比(に対応する目標変速比)が変更される、即ち、目標速度比が予め設定された変速段に対応する速度比からずれた値になる為、減速操作を行った運転者に違和感を与える(混乱を与える)可能性がある他、運転者が求める減速感を得られない可能性もある。又、前記特許文献6に記載された技術の場合には、制御が複雑になる他、減速度(減速G)の閾値の設定が難しく、この閾値の設定によっては、所望の減速感を得られなかったり、或は、最大許容回転速度を超えてしまう可能性もある。又、上述の特許文献4〜6に記載された技術の何れもが、運転者が増速操作を行った場合の、駆動源であるエンジンの回転速度が最小許容回転速度未満になる事に関しては、考慮していない。
又、前述の様な手動変速モードと自動変速モードとを備えた構造の場合は、自動変速モードで運転中に、運転者が手動変速モードに切り換える事ができる。そして、この様に手動変速モードに切り換えた際に、例えばその時点での速度比が、予め設定された何れかの変速段の速度比と同じであれば、直前の自動変速モードの速度比をそのまま維持し、同じく何れかの変速段の速度比と異なる場合は、その時点での速度比に最も近い変速段の速度比に変速する事が考えられる。但し、この様な場合、運転者は、前記手動変速モードに切り換えた際に、前記速度比がそのまま維持されるのか、或は、減速側に又は増速側に変速されるのかが分からず、運転者に違和感を与える等の不都合を生じる可能性がある。一方、例えば自動変速モードで運転中、運転者が好みに応じた変速パターンを選択できる様に、変速パターンに応じた速度比に調節する為の速度比と運転状態との対応関係(変速マップ)を、予め設定された複数の走行モード、例えばノーマルモード、パワーモード、エコノミーモードの中から選択できる様にした構造も、従来から知られている。
この場合に、ノーマルモードとは、駆動源であるエンジンの最大トルクを得られる回転速度を基準とし、この近傍で運転される様にした自動変速モードであり、パワーモードは、同じく駆動源であるエンジンの最大馬力を得られる回転速度を基準として、この近傍で運転される様にした自動変速モードである。又、エコノミーモードは、同じく駆動源であるエンジンの最大燃費効率を得られる回転速度を基準として、この近傍で運転される様にした自動変速モードである。ここで、例えば運転者が自動変速モードのうち、最大馬力を得るべくパワーモードを選択して運転している状態で、更なる馬力を得るべく(エンジンの回転速度を高くすべく)手動変速モードに切り換えた場合、上述の様に最も近い変速段に対応する速度比に変速が行われると、その時点の速度比によっては増速側に変速され、前記エンジンの回転速度が下がり、必要とする馬力を得られなくなる可能性がある。この様な場合も、運転者の意図する走行が中断する等、運転者に違和感を与える可能性があり、好ましくない。
この様な運転者に違和感を与えると言った不都合を防止すべく、例えば特許文献7には、手動変速モードに切り換えた際に、増速側と減速側とのうちの何れか一方にのみ変速する技術が記載されている。又、特許文献8〜9には、手動変速モードに切り換えた際に、単にモードを切り換えただけでは、そのままの速度比を維持し、運転者が増速側又は減速側に変速操作した場合に、その操作に応じた側の変速段の速度比に変速する技術が記載されている。この様な技術を採用すれば、運転者に違和感を与える程度を低減できる可能性はあるが、手動変速モードに切り換える直前の自動変速モードで選択されているモード(ノーマルモード、パワーモード、エコノミーモード)との関係で、運転者に与える違和感の低減を図る事はできない。
又、前述の様な手動変速モードで運転中、運転者の操作に基づき現在選択されている変速段から1段増速側の変速段に操作された場合、この運転者の意図に沿った変速を行う為には、その変速段に対応する速度比に迅速に調節する事が考えられる。但し、この変速を、例えば最大変速速度で迅速に行うと、短時間に速度比が大きく変化し(短時間に速度比が大きく増速し)、駆動源であるエンジンの回転速度が急に低下する可能性がある。この様な場合、この回転速度の低下に伴い駆動力も低下し、逆に運転者の意図する加速を得られなくなる等、運転者に違和感を与える可能性がある。この様な不都合を防止すべく、例えば、変速段の数を多くし、変速操作の際の速度比の変化量を小さくする事が考えられるが、この場合には、運転者が変速操作を頻繁に行わなければならず、変速操作が煩わしくなる等、好ましくない。
一方、特許文献10には、それぞれの変速段に対応する速度比に幅を持たせ、その変速段で運転中に車両の速度(車速)に応じてその速度比をその幅の中で調節できる様にした技術が記載されている。即ち、何れかの変速段で運転している状態でも、その変速段に対応する速度比を、車速の変動に伴って所定の範囲(幅)内で増減させる。この様な技術を採用すれば、隣り合う変速段同士の間の速度比の差を小さくでき、加速時に増速側に変速操作しても、駆動源であるエンジンの回転速度(駆動力)が低下する程度を小さくできると考えられる。又、特許文献11には、車速が大きくなる程、隣り合う変速段同士の速度比の差を小さくし、変速の前後で回転速度差が過大になる事を防止する技術が記載されている。この様な技術を採用した場合にも、車速が大きい状態で、増速側に変速操作した際に、駆動源であるエンジンの回転速度(駆動力)が低下する程度を小さくできると考えられる。
但し、上述の様な特許文献10〜11に記載された技術を採用した場合は、変速段が多くならないにも拘らず、変速段同士の速度比の差が小さくなる為、運転者が意図する手動変速モードの挙動を得られない可能性がある。即ち、運転者は、変速操作に伴って速度比が段階的に変化する状態での運転を望んで、自動変速モードではなく手動変速モードを選択する。この為、この手動変速モードを選択しても、互いに隣り合う変速段同士の間の速度比の変化が小さい、自動変速モードに近い運転状態が実現されてしまうと、運転者が意図する手動変速モードとの乖離が大きくなり、運転者に違和感を与える可能性がある。
尚、特許文献12には、手動変速モードで運転中、運転者が変速操作した際に、その変速に伴うインナーシャトルク(慣性トルク)に基づくクラッチ滑り等を防止すべく、その時点での変速比と目標変速比との偏差から変速比時定数を設定し、この変速比時定数に応じて変速速度を遅くする技術が記載されている。この技術を採用すれば、隣り合う変速段同士の間の速度比の差を小さくしなくても、増速側に変速操作した場合に、駆動源であるエンジンの回転速度(駆動力)が低下する程度を小さくできると考えられる。但し、この様な特許文献12に記載された技術の場合は、制御が複雑になり、信頼性を確保しにくくなる可能性がある。
[本発明に関する参考例の第1例]
図1〜8は、本発明に関する参考例の第1例を示している。尚、本参考例の特徴は、運転者の操作に応じて所定の速度比(変速段に対応する速度比)に調節される手動変速機能に基づいて運転を行っている(手動変速モードで運転を行っている)場合に、運転者の変速操作がなくても駆動源であるエンジン1が許容限度を超える状態で運転される事を防止すべく、トロイダル型無段変速機4の(入力側、出力側両ディスク10、11同士の間の)変速比、延いては、無段変速装置全体としての(入力軸3と出力軸9との間の)速度比の調節を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図25〜26に示した従来構造と同様であるから、重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本参考例の特徴部分を中心に説明する。尚、本参考例の場合は、無段変速装置全体としての速度比(増速比)とトロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)との関係を、例えば前述の図27に示す様に設定している。この様な設定は、例えば遊星歯車式変速機5等の減速比や伝達歯車の歯数比等を規制する事により行える。
本参考例の場合は、前述の図25〜26に示した従来構造の様な、押圧装置14に導入する油圧を調整する為の押圧力調整弁29に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室31a、31b同士の間の油圧の差(差圧)を直接導入すると言った構成は、採用していない。即ち、本参考例の場合は、前記各油圧室31a、31bに設けた1対の油圧センサ34a、34b(図1の34)の検出信号を、制御器16に入力している。そして、これら各油圧センサ34a、34bにより検出される前記差圧{この差圧に対応する、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)}と、後述する他のセンサ36〜40等により検出される他の状態量(変速比や油温、アクセル開度、車速等)とに基づいて、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を切り換える。そして、この開閉状態の切換に基づき、前記押圧力調整弁29の開弁圧を調節し、プライマリーライン35、延いては、前記押圧装置14が発生する押圧力を、運転状況に応じた最適な値に規制する様にしている。
又、本参考例の場合には、前記制御器16に、前記油圧センサ34(34a、34b)の検出信号の他、入力側、出力側各回転センサ36、37並びに出力軸回転センサ38の検出信号と、油温センサ39の検出信号と、アクセルセンサ40並びにブレーキスイッチ41、パーキングブレーキスイッチ42、ポジションスイッチ43の検出信号とを入力している。又、前記制御器16は、少なくとも、前記出力軸回転センサ38(又は運転席の速度メータ用の速度センサ)の出力信号から検出される車両の走行速度(車速)と、前記アクセルセンサ40の出力信号から検出されるアクセル開度とから得られる、その時点での車両の走行状態に基づいて、無段変速装置の目標速度比(その時点での走行状態に応じた最適な速度比)に対応する、トロイダル型無段変速機4の目標変速比を求めると共に、このトロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置の速度比)を、この目標変速比(目標速度比)に調節する機能(自動変速機能)を有する。
尚、前記車速並びにアクセル開度(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との関係は、前記制御器16のメモリに予めマップ(後述する図3に示す様な変速マップ)や計算式として記憶させておく。そして、この様なマップ(MAP)や計算式を用いて、その時点での状態量(車速、アクセル開度)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。又、この様なトロイダル型無段変速機4の変速比、延いては無段変速装置全体としての速度比の調節は、前記制御器16からの制御信号により、ステッピングモータ17を駆動し、前記アクチュエータ13への油圧の給排を切り換えると共に、必要に応じて低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁44、45の開閉に基づき前記低速用、高速用両クラッチ7、8の断接状態(高速、低速各モード)を切り換える事により行う。
尚、前述の図25〜26に示した従来構造の場合は、低速用、高速用各クラッチ7、8の接続状態の切り換え(低速モードと高速モードとの切り換え)を、1個のシフト用電磁弁20(図25〜26)により行っていたのに対して、本参考例の場合には、前記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁44、45(2個の電磁弁44、45)により行う。即ち、これら低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁44、45を、ソレノイドへの通電に基づいてスプールをそれぞれ変位させるものとし、このスプールの変位に基づき、前記低速用、高速用各クラッチ7、8の油圧室内への圧油の導入状態を調節し、これら低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換える様にしている。
又、本参考例の場合は、前記トロイダル型無段変速機4の目標変速比を、前記制御器16に予め記憶させた、図3に示す様な変速マップに基づいて求める。この変速マップ(Shift MAP)は、車両の走行速度(横軸)と、最適な減速力又は駆動力を得る為に必要な無段変速装置の速度比に対応する前記目標変速比(縦軸)との関係を、アクセル開度毎に表したものである。又、アクセル開度毎にそれぞれ表された、車両の走行速度と目標変速比との関係に対応する各線は、それぞれモード切換ポイントを挟んで低速側(図3の左側)が「低速モード用変速マップ」に、同じく高速側(図3の右側)が「高速モード用変速マップ」に、それぞれ相当する。この様な本参考例の場合は、前記低速用クラッチ7が接続されると共に、前記高速用クラッチ8の接続を断たれた低速モード状態では、前記低速モード用変速マップを用いて、その時点でのアクセル開度と車両の走行速度とに対応する目標変速比を求め、前記トロイダル型無段変速機4の変速比をその目標変速比に調節する。一方、前記高速用クラッチ8が接続されると共に、前記低速用クラッチ7の接続を断たれた高速モード状態では、前記高速モード用変速マップを用いて、その時点でのアクセル開度と車両の走行速度とに対応する目標変速比を求め、前記トロイダル型無段変速機4の変速比をその目標変速比に調節する。
尚、上述の様な変速マップに基づいて求められる目標変速比は、前記油圧センサ34(34a、34b)や油温センサ39等により検出される、その時点での差圧(通過トルク)や油温等に応じて補正(微調整)する事ができる。この様に差圧(通過トルク)や油温等に応じて目標変速比を補正すれば、その時点の運転状況により合致した変速比(延いては速度比)の調節(変速制御)を行える。又、前述の図25〜26に示した従来構造の場合には、変速比補正用電磁弁19を設け、この変速比補正用電磁弁19により差圧シリンダ23(を構成するロッド)を変位させ、変速比制御弁22(図25〜26参照)の流路を切り換える事により、例えば車両の停止時並びに発進時等の、ギヤードニュートラル状態乃至はその近傍の状態で必要とされる変速比の補正(微調整)を行っていた。これに対して、本参考例の場合には、この様な補正を行う為の変速比補正用電磁弁19や差圧シリンダ23、補正用制御弁24a、24b(図25〜26参照)を設けていない。但し、本参考例の場合には、上述の様な、車両の停止時や発進時等の、ギヤードニュートラル状態乃至はその近傍の状態で必要とされる変速比の補正(微調整)を、前記ステッピングモータ17で行える様にしている。即ち、必要な変速比の補正量(油温等に基づく補正も含む)を制御器16で算出すると共に、この算出された補正量に応じて目標変速比を補正し、この補正した目標変速比に調節すべく、前記ステッピングモータ17を駆動する様にしている。
又、本参考例の場合には、前記トロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置の速度比)の調節を、上述の様な、その時点での運転状態に応じた最適な値に自動的に調節する自動変速機能により行える他、図8に示す様な、それぞれが予め設定された互いに異なる速度比である複数段(例えば第1〜6段、第1〜6速)の値の何れかに、運転者の操作に基づいて調節する手動変速機能によっても行える様にしている{自動変速モード(オート変速モード)と手動変速モード(マニュアル変速モード)とを備えている}。そして、少なくとも運転者の操作に基づいて選択される、前記自動変速機能(自動変速モード)と手動変速機能(手動変速モード)とのうちの何れかの機能(変速モード)に基づいて、前記変速比延いては速度比の調節を行える様にしている。
この為に、本参考例の場合は、運転者が所望の変速段を選択する為(変速段を増速したり減速したりする為)のパドルシフトを設けている。そして、このパドルシフトの操作状況{増速(UP)、減速(DOWN)}を検出する為のパドルシフトスイッチ46の検出信号を、前記制御器16に入力自在としている。又、これと共に、この検出信号に基づいて、この制御器16により、当該選択された変速段に対応する変速比延いては速度比に調節する様にしている。尚、この様なパドルシフトに代えて、後述する図16の(A)に示す様な、シフトレバーの操作に基づいて、変速段を選択{増速(UP)、減速(DOWN)}する様にする事もできる。又、前記自動変速モードと前記手動変速モードとの切り換えは、同じく図16の(B)に示す様な、シフトレバーの操作{M(マニュアル)への操作}に基づいて行える他、インストルメントパネルやダッシュボード等に設けた、同じく図16の(C)(D)に示す様なスイッチ47のON、OFF操作に基づいて行う事ができる。何れの場合にも、手動変速モードが選択されている場合には、前記制御器16により、運転者の選択した変速段を検出し、この選択された変速段に対応する変速比延いては速度比に、前記ステッピングモータ17の駆動に基づいて調節する。
但し、前記手動変速モードに基づいて変速比延いては速度比の調節を行っている場合に、例えば車両の速度が減少しているにも拘らず、運転者により減速側への変速操作が行われないと、駆動源であるエンジン1の回転速度が最小許容回転速度(アンダーラン速度、アンダーレブ速度)未満となり、このエンジン1でノッキングが発生したり、著しい場合にはこのエンジン1が停止(エンスト)してしまう可能性がある。又、これとは逆に、例えばアクセルペダルを踏み込まずに(アクセル開度が全閉の状態で)下り坂(急な下り勾配)を走行中に、車両の速度が増大しているにも拘らず、運転者により増速側への変速操作が行われないと、駆動源であるエンジン1の回転速度が最大許容回転速度(オーバーラン速度、オーバーレブ速度)を超え、このエンジン1の耐久性が低下する可能性がある。
そこで、本参考例の場合には、運転者が選択した変速段に対応する速度比のまま運転を続けると、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になると判定される場合に、前記自動変速機能に基づいて、前記トロイダル型無段変速機4の変速比、延いては、無段変速装置全体としての速度比を、当該変速段に対応する速度比から、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超えない様に、又は、最小許容回転速度未満にならない様に、調節(減速、増速)する。即ち、前記手動変速モードが選択されていても、この選択に拘らず、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超えない様に、又は、最小許容回転速度未満にならない様に{例えば、最大許容回転速度(乃至はそれよりも僅かに低い回転速度)又は最小許容回転速度(乃至はそれよりも僅かに高い回転速度)のまま運転される様に}、前記自動変速機能に基づいて、前記変速比延いては速度比を、当該変速段に対応する速度比から(自動的に)調節する。例えば、前記エンジン1の回転速度が所定の閾値{例えば最大許容回転速度である8000min−1(rpm)、又は、最小許容回転速度である600min−1(rpm)}に達した事を条件に、所定の変速速度で(例えば徐々に)調節(減速、増速)する事ができる。又は、前記エンジン1の回転速度が所定の閾値の範囲で運転される様に、その時点での回転速度との関係で前記速度比を調節(減速、増速)する事もできる。何れの場合も、前記手動変速モードが選択されているにも拘らず、自動変速モードで運転されている(自動変速機能に基づいて速度比の調節が行われている)状態では、運転者に注意を促すべく、警報を発したり、警告表示を点灯する事が好ましい。
上述の様な変速比延いては速度比の調節を行う為に、前記制御器16が備える機能(変速制御機能)に就いて、図4〜7のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばイグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、前記制御器16は、ステップ1で、その時点での(現在の)変速モードが手動変速モードであるか否かを判定する。この判定は、例えば、シフトレバーが手動変速機能に基づく変速を行える位置(シフトレバーにより変速段の増速、減速が行える位置、或は、パドルシフトで変速を行う旨の選択位置)に切り換えられているか否か、或は、前記スイッチ47(図16参照)が手動変速モードの位置であるか否か(ONかOFFか)等により判定できる。このステップ1で、現在の変速モードが手動変速モードではない、即ち、自動変速モードであると判定された場合には、ステップ2に進み、前述した自動変速機能に基づく運転を行う。そして、終了に進むと共に、開始に戻る。
一方、前記ステップ1で、現在の変速モードが手動変速モードであると判定された場合には、ステップ3に進み、車両が実質的に停止している{例えば車両の速度(車速)が1km/h以下である}か否かを判定する。この判定は、例えば車輪の回転速度に比例する前記出力軸9の回転速度を検出する為の、前記出力軸回転センサ38の検出信号、或は、運転席の速度メータ用の速度センサの検出信号等に基づいて行う事ができる。このステップ3で、車両が実質的に停止していると判定された場合は、ステップ4に進み、停止GN制御を行う。即ち、例えば前記特許文献2等に記載された様な、車両の停止時や発進時等の、ギヤードニュートラル(GN)状態乃至はその近傍の状態で必要とされる変速制御を行う。そして、終了に進むと共に、開始に戻る。
一方、前記ステップ3で、車両が停止していない、即ち、車両が走行中であると判定された場合には、ステップ5に進み、運転者(ドライバー)が変速操作を行ったか否かを判定する。この判定は、前記ポジションスイッチ43や前記パドルシフトスイッチ46の信号に基づいて行う。このステップ5で、運転者が変速操作を行っていない(Yes:変速操作無し)と判定された場合には、ステップ6に進み、現在オーバーラン制御(OVR制御)中であるか否かを判定する。この判定は、オーバーラン制御中である事を意味するオーバーランフラグOVR_Fが立ち上がっている(OVR_F=ON)か否(OVR_F=OFF)かにより判定する。この様なステップ6で、現在オーバーラン制御中でない、即ち、オーバーランフラグOVR_Fが立ち上がっていない(OVR_F=OFF)と判定された場合は、ステップ7に進み、現在アンダーラン制御(UNR制御)中であるか否かを判定する。この判定は、アンダーラン制御中である事を意味するアンダーランフラグUNR_Fが立ち上がっている(UNR_F=ON)か否(UNR_F=OFF)かにより判定する。この様なステップ7で、現在アンダーラン制御中でない、即ち、アンダーランフラグUNR_Fが立ち上がっていない(UNR_F =OFF)と判定された場合は、ステップ8に進み、オーバーラン&アンダーラン判定制御(OVR&UNR判定制御)を行う。
このステップ8で行うオーバーラン&アンダーラン判定制御は、図5に示すフローチャートに基づいて行う。この制御は、先ず、図5のステップ1で、エンジン1の回転速度が、このエンジン1の性能との関係で予め設定した第一のオーバーラン閾値OVR1{例えば、最大許容回転速度で、本例の場合は例えば8000min−1}以上であるか否かを判定する。このステップ1で、前記エンジン1の回転速度が第一のオーバーラン閾値OVR1以上でない、即ち、第一のオーバーラン閾値OVR1未満であると判定された場合には、図5のステップ2に進み、エンジン1の回転速度が、このエンジン1の性能との関係で予め設定した第一のアンダーラン閾値UNR1{例えば、最小許容回転速度で、本例の場合は例えば600min−1}以下であるか否かを判定する。このステップ2で、前記エンジン1の回転速度が第一のアンダーラン閾値UNR1以下でない、即ち、第一のアンダーラン閾値UNR1を超えていると判定された場合には、図5のステップ3に進み、現在の速度比をそのまま維持する。そして、図5の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。
一方、前記図5のステップ1で、前記エンジン1の回転速度が第一のオーバーラン閾値OVR1以上であると判定された場合には、図5のステップ4に進み、現在の速度比から増速側に変速(シフトアップ変速)すると共に、続く図5のステップ5でオーバーランフラグOVR_Fを立ち上げる(OVR_F=ON)。そして、図5の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。又、前記図5のステップ2で、前記エンジン1の回転速度が第一のアンダーラン閾値UNR1以下であると判定された場合には、図5のステップ6に進み、現在の速度比から減速側に変速(シフトダウン変速)すると共に、続く図5のステップ7でアンダーランフラグUNR_Fを立ち上げる(UNR_F=ON)。そして、図5の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。
一方、この図4のステップ6で、現在オーバーラン制御中である、即ち、オーバーランフラグOVR_Fが立ち上がっている(OVR_F= ON )と判定された場合は、図4のステップ9に進み、オーバーラン変速制御(OVR変速制御)を行う。このステップ9で行うオーバーラン変速制御は、図6に示すフローチャートに基づいて行う。この制御は、先ず、図6のステップ1で、エンジン1の回転速度が前記第一のオーバーラン閾値OVR1{例えば8000min−1(rpm)}以上であるか否かを判定する。このステップ1で、このエンジン1の回転速度が第一のオーバーラン閾値OVR1以上であると判定された場合には、図6のステップ2に進み、現在の速度比から増速側に変速(シフトアップ変速)すると共に、続く図6のステップ3でオーバーランフラグOVR_Fを立ち上げたままとする(OVR_F=ON)。そして、図6の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。
一方、前記図6のステップ1で、前記エンジン1の回転速度が第一のオーバーラン閾値OVR1未満であると判定された場合には、図6のステップ4に進み、このエンジン1の回転速度が第二のオーバーラン閾値OVR2{本例の場合は例えば7900min−1(rpm)}以下であるか否かを判定する。このステップ4で、前記エンジン1の回転速度が第二のオーバーラン閾値OVR2以下であると判定された場合には、図6のステップ5に進み、現在の速度比から減速側に変速(シフトダウン変速)すると共に、続く図6のステップ6でオーバーランフラグOVR_Fを降ろす(OVR_F= OFF)。そして、図6の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。又、前記ステップ4で、前記エンジン1の回転速度が第二のオーバーラン閾値OVR2を超えていると判定された場合には、図6のステップ7に進み、現在の速度比を維持する。そして、図6の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。
一方、この図4のステップ7で、現在アンダーラン制御中である、即ち、アンダーランフラグUNR_Fが立ち上がっている(UNR_F=ON)と判定された場合は、図4のステップ10に進み、アンダーラン変速制御(UNR変速制御)を行う。このステップ10で行うアンダーラン変速制御は、図7に示すフローチャートに基づいて行う。この制御は、先ず、図7のステップ1で、エンジン1の回転速度が前記第一のアンダーラン閾値UNR1{例えば600min−1(rpm)}以下であるか否かを判定する。このステップ1で、このエンジン1の回転速度が第一のアンダーラン閾値UNR1以下であると判定された場合には、図7のステップ2に進み、現在の速度比から減速側に変速(シフトダウン変速)すると共に、続く図7のステップ3でアンダーランフラグUNR_Fを立ち上げたままとする(UNR_F=ON)。そして、図7の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。
一方、前記図7のステップ1で、前記エンジン1の回転速度が第一のアンダーラン閾値UNR1を超えていると判定された場合には、図7のステップ4に進み、このエンジン1の回転速度が第二のアンダーラン閾値UNR2{本例の場合は例えば700min−1(rpm)}以上であるか否かを判定する。このステップ4で、前記エンジン1の回転速度が第二のアンダーラン閾値UNR2以上であると判定された場合には、図7のステップ5に進み、現在の速度比から増速側に変速(シフトアップ変速)すると共に、続く図7のステップ6でアンダーランフラグUNR_Fを降ろす(UNR_F= OFF)。そして、図7の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。又、前記ステップ4で、前記エンジン1の回転速度が第二のアンダーラン閾値UNR2未満であると判定された場合には、図7のステップ7に進み、現在の速度比を維持する。そして、図7の終了に進むと共に、図4の終了を介して、この図4の開始に戻る。
一方、この図4のステップ5で、運転者が変速操作を行った(No:操作有)と判定された場合には、ステップ11に進み、運転者が選択した変速段に対応する速度比を目標速度比に設定する。そして、続くステップ12に進み、この目標速度比に変速可能か否かの判定を行う。この判定は、この目標速度比にそのまま調節すると、エンジン1の回転速度が、例えば前記第一のオーバーラン閾値OVR1を超えるか否か、並びに、前記第一のアンダーラン閾値UNR1未満になるか否かによって行う事ができる。この様なステップ12で、前記目標速度比に変速可能、即ち、前記第一のオーバーラン閾値OVR1を超えない、並びに、前記第一のアンダーラン閾値UNR1未満にならないと判定された場合には、ステップ13に進み、設定された目標速度比に変速する。そして、終了に進むと共に、開始に戻る。一方、前記ステップ12で、前記目標速度比に変速可能でない、即ち、前記第一のオーバーラン閾値OVR1を超える、或は、前記第一のアンダーラン閾値UNR1未満になると判定された場合には、ステップ14に進み、設定された目標速度比に変速せずに、現在の速度比をそのまま維持する。
上述の様な本参考例の無段変速装置によれば、手動変速機能に基づいて運転を行っている場合に、運転者の変速操作がなくても、駆動源であるエンジン1が許容限度を超える状態で運転される事を防止できる。
即ち、本参考例の場合には、運転者の選択した変速段に対応する速度比で運転を行っている状態で、その速度比のまま運転を続けると、駆動源であるエンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になると判定される場合に、自動変速機能に基づいて前記速度比を、当該変速段に対応する速度比から、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超えない様に、又は、最小許容回転速度未満にならない様に、(自動的に)調節(減速、増速)する。即ち、図8に示す様に、前記速度比は、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度(例えば8000min−1、例えば第3速なら90Km/h)を超えない様に、又は、最小許容回転速度(600min−1、例えば第5速なら30Km/h)未満にならない様に調節(減速、増速)される。より具体的には、前記エンジン1の回転速度が第一のオーバーラン閾値OVR1(例えば8000min−1)と第二のオーバーラン閾値OVR2(例えば7900min−1)との間で運転される様に、前記速度比が調節される。又、これと共に、前記エンジン1の回転速度が第一のアンダーラン閾値UNR1(例えば600min−1)と第二のアンダーラン閾値UNR2(例えば700min−1)との間で運転される様に、前記速度比が調節される。尚、前進走行中も後退走行中も同様に(最大許容回転速度を超えない様に、又は、最小許容回転速度未満にならない様に)速度比の調節を行える。
この為、例えばアクセルペダルを踏み込まずに(アクセル開度が全閉の状態で)上り坂(急な上り勾配)を走行中に、車両の速度が減少しているにも拘らず、運転者により減速側への変速操作が行われない場合でも、前記エンジン1の回転速度が最小許容回転速度未満となる事を防止でき、このエンジン1でノッキングが発生したり停止(エンスト)する事を防止できる。又、連続的に(無段階に)減速側に変速させられる他、最小許容回転速度近傍(最小許容回転速度よりも僅かに高い回転速度)で運転を継続できる為、円滑な低速走行、微速走行を行える。又、これとは逆に、例えばアクセルペダルを踏み込まずに(アクセル開度が全閉の状態で)下り坂(急な下り勾配)を走行中に、車両の速度が増大しているにも拘らず、運転者により増速側への変速操作が行われない場合でも、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える事を防止でき、この駆動源の耐久性が低下する事を防止できる。又、連続的に(無段階に)増速側に変速させられる他、最大許容回転速度近傍(最大許容回転速度よりも僅かに低い回転速度)で運転を継続できる為、適切なエンジンブレーキを確保できる(急なエンジンブレーキの低下を防止できる)。
又、上述の様に、車両の速度が増大した場合は最大許容回転速度近傍で、同じく車両の速度が減少した場合は最小許容回転速度近傍で、それぞれ運転される(連続的に自動変速される)為、減速側や増速側への変速のタイミングが早くなり過ぎる事や、遅くなり過ぎる事も防止できる。即ち、車両の速度が増大した場合に、増速側への変速のタイミングが早くなり過ぎて、必要とするエンジンブレーキを得られずに、円滑な減速走行を行えなくなる事や、運転者がサービスブレーキ(フットブレーキ)の操作量を大きくしなければならなくなる事を防止できる。又、車両の速度が減少した場合に、減速側への変速のタイミングが早くなり過ぎて、エンジンブレーキが過大になり、円滑(スムーズ)な減速ができなくなる事や、同じくタイミングが遅くなりすぎて、加速すべくアクセルペダルを踏み込んだ際に迅速な加速(必要なレスポンス)を得られなくなる事や、ノッキング(ギクシャク走行)したりエンストする事を防止できる。
[本発明に関する参考例の第2例]
図9〜13は、本発明に関する参考例の第2例を示している。上述した参考例の第1例の場合は、運転者が変速操作を行わない場合に、エンジン1(図1参照)の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になる事を防止する。これに対して、本参考例の場合は、運転者が変速操作を行った場合に、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になる事を防止する。即ち、手動変速モードに基づいて、トロイダル型無段変速機4の変速比、延いては、無段変速装置全体としての速度比の調節を行っている場合に、運転者の変速操作に従って、前記変速比延いては速度比の調節をそのまま行うと、その時点での運転状態によっては、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になる可能性がある。そして、最大許容回転速度を超えた場合には、エンジン1の耐久性が低下する可能性があり、最小許容回転速度未満になった場合には、このエンジン1でノッキングが発生したり、著しい場合にはこのエンジン1が停止(エンスト)してしまう可能性がある。
そこで、本参考例の場合には、運転者の操作に基づき複数段のうちの何れかの変速段が選択され、且つ、当該変速段に対応する速度比に調節されている状態から、運転者の操作に基づき別の変速段が選択された場合に、この別の変速段に対応する速度比にそのまま調節すると、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になると判定される場合に、次の様な変速制御を行う。先ず、この様に判定される場合にも、この別の変速段に対応する速度比を目標速度比(乃至は、この目標速度比に対応する目標変速比)に設定し、この目標速度比(目標変速比)に向けて変速を開始する。但し、この目標速度比(目標変速比)に向けて変速をしている過程で、前記エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超えない様に、又は、最小許容回転速度未満にならない様に、その時点での前記エンジン1の回転速度に応じて、前記目標速度比(目標変速比)への変速状態を調節しつつ、この目標速度比(目標変速比)となるまで変速を行う。
この様な変速比延いては速度比の調節を行う為に、制御器16が備える機能(変速制御機能)に就いて、図9〜11のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばイグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。又、この図9のステップ1〜ステップ4は、前述の参考例の第1例のステップ1〜ステップ4と同じである。又、この図9のステップ5の「オーバーラン&アンダーラン変速制御(OVR&UNR変速制御)」は、図4の破線で囲んだ部分(図4のステップ6〜ステップ10)の制御に対応する。
本参考例の場合は、ステップ6で、運転者(ドライバー)が変速操作を行ったか否か(変速要求があるか否か)を判定する。この判定は、前述の図4のステップ5と同様に、ポジションスイッチ43やパドルシフトスイッチ46(図1参照)の信号に基づいて行う事ができる。このステップ6で、運転者が変速操作を行った(変速要求あり)と判定された場合には、ステップ7に進み、運転者の選択した変速段(目標変速段)に対応する速度比(目標速度比)とその時点での(現在の)車速とから、この速度比(目標速度比)にそのまま変速したと仮定した場合のエンジン1の回転速度(目標エンジン回転速度)を算出する。そして、ステップ8で、運転者の変速操作が、減速側(ダウンシフト)か増速側(アップシフト)かを判定する。この判定も、前記ポジションスイッチ43やパドルシフトスイッチ46の信号に基づいて行う事ができる。
前記ステップ8で、運転者の変速操作が減速側(ダウンシフト)と判定された場合には、ステップ9に進み、前記ステップ7で算出した目標エンジン回転速度が、前記エンジン1の性能との関係で予め設定したオーバーラン閾値OVR{例えば、最大許容回転速度で、本参考例の場合は例えば8000min−1(rpm)}よりも大きいか否かを判定する。このステップ9で、前記ステップ7で算出した目標エンジン回転速度がオーバーラン閾値OVR(8000min−1)以下であると判定された場合には、ステップ10に進み、運転者の選択した変速段(目標変速段)に対応する速度比(目標速度比)に変速する。この場合の変速速度は、最大変速速度とする事ができる。
一方、前記ステップ9で、前記ステップ7で算出した目標エンジン回転速度がオーバーラン閾値OVR(8000min−1)を超えると判定された場合には、ステップ11に進み、減速側に変速した際のオーバーラン制御(ダウンシフトOVR変速制御)中である事を意味するダウンシフトオーバーランフラグF_OVRDNを立ち上げる(F_OVRDN=ON)。そして、ステップ12に進み、ダウンシフトOVR変速制御を行う。このステップ12で行うダウンシフトOVR変速制御は、図10に示すフローチャートに基づいて行う。この制御は、先ず、図10のステップ1で、その時点での(現在の)速度比(現在速度比)が、運転者の選択した変速段(目標変速段)に対応する速度比(目標速度比)に達している(現在速度比=目標速度比)か否かを判定する。このステップ1で、現在の速度比が目標速度比である(現在速度比=目標速度比)と判定された場合(ダウンシフトOVR変速制御の終了段階)には、図10のステップ2に進み、ダウンシフトオーバーランフラグF_OVRDNを降ろす(F_OVRDN=OFF)。そして、図10の終了に進むと共に、図9の終了を介して、この図9の開始に戻る。
一方、図10のステップ1で、現在の速度比と目標速度比とが異なる(現在速度比≠目標速度比)と判定された場合には、ステップ3に進み、運転者の選択した変速段(要求変速段)に対応する速度比を、目標速度比に設定すると共に、この目標速度比に向けて減速側への変速を開始する。尚、この変速の速度(変速速度)は、例えば最大変速速度とする事ができる他、所望の性能を得られる様に、即ち、例えば、運転者の望む挙動を実現でき(運転者の望む減速感、エンジンブレーキを得られ)、且つ、後述するエンジン1のオーバーラン閾値OVR近傍で変速を停止できる速度となる様に、予め設定(チューニング、調節)しておく(例えば後述する図12の斜線で示す部分の範囲で調節する)。又、前記変速速度は、その時点でのエンジン1の回転速度の変化{例えば、変化速度(上昇速度)、オーバーラン閾値OVRとの差等}に応じて調節する(例えばPID制御を行い、エンジン1の回転速度をフィードバック制御する)事もできる。又、前記変速速度を、その時点でのエンジン1の回転速度とオーバーラン閾値OVRとの差と、それに対応する予め設定した最適な変速速度との関係(相関関係)に基づいて調節する事もできる。この様な関係は、例えば制御器16(図1参照)のメモリにマップ(MAP)や式等として記憶させておく。
何れにしても、前記ステップ3で、上述の様な変速速度で変速を開始したならば、続くステップ4で、その時点での(現在の)エンジン1の回転速度がオーバーラン閾値OVR(8000min−1)以上であるか否かを判定する。このステップ4で、その時点での(現在の)エンジン1の回転速度がオーバーラン閾値OVR(8000min−1)以上でない、即ち、オーバーラン閾値OVR未満であると判定された場合には、ステップ5に進み、(目標速度比に向けて)減速側に変速(シフトダウン変速)を行う(変速を続ける)。そして、図10の終了に進むと共に、図9の終了を介して、この図9の開始に戻る。一方、図10のステップ4で、その時点での(現在の)エンジン1の回転速度がオーバーラン閾値OVR(8000min−1)以上であると判定された場合には、ステップ6に進み、変速を停止する{その時点での(現在の)変速比を維持する}。そして、図10の終了に進むと共に、図9の終了を介して、この図9の開始に戻る。
一方、図9の前記ステップ8で、運転者の変速操作が増速側(アップシフト)と判定された場合には、ステップ13に進み、前記ステップ7で算出した目標エンジン回転速度が、前記エンジン1の性能との関係で予め設定したアンダーラン閾値UNR{例えば、最小許容回転速度で、本例の場合は例えば600min−1(rpm)}よりも小さいか否かを判定する。このステップ13で、前記ステップ7で算出した目標エンジン回転速度がアンダーラン閾値UNR(600min−1)以上であると判定された場合には、前記ステップ10に進み、運転者の選択した変速段(目標変速段)に対応する速度比(目標速度比)に変速する。この場合の変速速度は、最大変速速度とする事ができる。
一方、前記ステップ13で、前記ステップ7で算出した目標エンジン回転速度がアンダーラン閾値UNR(600min−1)未満であると判定された場合には、ステップ14に進み、増速側に変速した際のアンダーラン制御(アップシフトUNR変速制御)中である事を意味するアップシフトアンダーランフラグF_UNRUPを立ち上げる(F_UNRUP=ON)。そして、ステップ15に進み、アップシフトUNR変速制御を行う。このステップ15で行うアップシフトUNR変速制御は、図11に示すフローチャートに基づいて行う。この制御は、先ず、図11のステップ1で、その時点での(現在の)速度比(現在速度比)が、運転者の選択した変速段(目標変速段)に対応する速度比(目標速度比)に達している(現在速度比=目標速度比)か否かを判定する。このステップ1で、現在の速度比が目標速度比である(現在速度比=目標速度比)と判定された場合(アップシフトUNR変速制御の終了段階)には、図11のステップ2に進み、アップシフトアンダーランフラグF_UNRUPを降ろす(F_OVRDN=OFF)。そして、図11の終了に進むと共に、図9の終了を介して、この図9の開始に戻る。
一方、図11のステップ1で、現在の速度比と目標速度比とが異なる(現在速度比≠目標速度比)と判定された場合には、ステップ3に進み、運転者の選択した変速段(要求変速段)に対応する速度比を、目標速度比に設定すると共に、この目標速度比に向けて増速側への変速を開始する。尚、この変速の速度(変速速度)は、例えば最大変速速度とする事ができる他、所望の性能を得られる様に、即ち、例えば、運転者の望む挙動を実現でき(運転者の望む増速感、燃費性能を得られ)、且つ、後述するエンジン1のアンダーラン閾値UNR近傍で変速を停止できる速度となる様に、予め設定(チューニング、調節)しておく(例えば後述する図13の斜線で示す部分の範囲で調節する)。又、前記変速速度は、その時点でのエンジン1の回転速度の変化{例えば、変化速度(下降速度)、アンダーラン閾値UNRとの差等}に応じて調節する(例えばPID制御を行い、エンジン1の回転速度をフィードバック制御する)事もできる。又、前記変速速度を、その時点でのエンジン1の回転速度とアンダーラン閾値UNRとの差と、それに対応する予め設定した、最適な変速速度との関係(相関関係)に基づいて調節する事もできる。この様な関係も、例えば制御器16のメモリにマップ(MAP)や式等として記憶させておく。
何れにしても、前記ステップ3で、上述の様な変速速度で変速を開始したならば、続くステップ4で、その時点での(現在の)エンジン1の回転速度がアンダーラン閾値UNR(600min−1)以下であるか否かを判定する。このステップ4で、その時点での(現在の)エンジン1の回転速度がアンダーラン閾値UNR(600min−1)以下でない、即ち、アンダーラン閾値UNRを超えていると判定された場合には、ステップ5に進み、(目標速度比に向けて)増速側に変速(シフトアップ変速)を行う(変速を続ける)。そして、図11の終了に進むと共に、図9の終了を介して、この図9の開始に戻る。一方、図11のステップ4で、その時点での(現在の)エンジン1の回転速度がアンダーラン閾値UNR(600min−1)以下であると判定された場合には、ステップ6に進み、変速を停止する(現在の変速比を維持する)。そして、図11の終了に進むと共に、図9の終了を介して、この図9の開始に戻る。
一方、図9の前記ステップ6で、運転者(ドライバー)が変速操作を行っていない(変速要求なし)と判定された場合には、ステップ16に進み、現在ダウンシフトオーバーラン制御(ダウンシフトOVR制御)中であるか否か、即ち、ダウンシフトオーバーランフラグF_OVRDNが立ち上がっている(F_OVRDN=ON)か否かを判定する。このステップ16で、現在ダウンシフトオーバーラン制御(ダウンシフトOVR制御)中である(F_OVRDN=ON)と判定された場合には、前記ステップ12に進み、このダウンシフトオーバーラン制御(ダウンシフトOVR制御)を継続する。一方、前記ステップ16で、現在ダウンシフトオーバーラン制御(ダウンシフトOVR制御)中でないと判定された場合には、ステップ17に進み、現在アップシフトアンダーラン制御(アップシフトUNR変速制御)中であるか否か、即ち、アップシフトアンダーランフラグF_UNRUPが立ち上がっている(F_UNRUP=ON)か否かを判定する。このステップ17で、現在アップシフトアンダーラン制御(アップシフトUNR変速制御)中である(F_UNRUP=ON)と判定された場合には、前記ステップ15に進み、このアップシフトアンダーラン制御(アップシフトUNR変速制御)を継続する。又、前記ステップ17で、現在アップシフトアンダーラン制御(アップシフトUNR変速制御)中でないと判定された場合には、前記ステップ5に進み、オーバーラン&アンダーラン変速制御(OVR&UNR変速制御)を行う。この制御は、前述した様に、図4の破線で囲んだ部分(図4のステップ6〜ステップ10)に対応する。
上述の様な本参考例の無段変速装置によれば、手動変速モードで運転を行っている場合に、運転者の変速操作に伴ってエンジン1が許容限度を超える状態で運転される事を防止しつつ、この変速操作を行った運転者の意思に合致した挙動を確保できる。
即ち、運転者の操作に基づきその時点の変速段から別の変速段に操作された場合に、この別の変速段に対応する速度比にそのまま調節すると、エンジン1の回転速度が最大許容回転速度を超える、又は、最小許容回転速度未満になると判定される場合でも、この別の変速段に対応する速度比を目標速度比に設定し、この目標速度比に向けて変速を開始する。この様に運転者の変速指令がキャンセルされない(目標速度比に向けて変速が開始される)為、減速側への変速時であれば所望のエンジンブレーキを得られ、増速側への変速時であれば低燃費走行を行えると言った、運転者の意思に合致した挙動を確保できる。
即ち、図12に示す様に、例えば運転者が第5段(第5速)から第4段(第4速)に変速操作した場合に、そのまま変速すると、エンジン1の回転速度がイ点、即ち、このエンジン1のオーバーラン閾値(8000min−1)を超える場合でも、第4段に対応する速度比を目標速度比に設定し、この目標速度比に向けて減速側への変速を開始する。そして、この目標速度比に向けて変速をしている過程で、前記エンジン1の回転速度がオーバーラン閾値を超えない様に、その時点でのこのエンジン1の回転速度に応じて、前記目標速度比への変速状態を調節する。具体的には、このエンジン1の回転速度がオーバーラン閾値以上と判定される場合に、減速側への変速を停止し、このオーバーラン閾値未満と判定される場合に、減速側への変速をし(変速を継続し、乃至は、変速を再開し)、前記目標速度比となるまで変速制御を行う。
又、図13に示す様に、例えば運転者が第4段(第4速)から第5段(第5速)に変速操作した場合に、そのまま変速すると、エンジン1の回転速度がロ点、即ち、このエンジン1のアンダーラン閾値(600min−1)未満となる場合でも、第5段に対応する速度比を目標速度比に設定し、この目標速度比に向けて増速側への変速を開始する。そして、この目標速度比に向けて変速をしている過程で、前記エンジン1の回転速度がアンダーラン閾値未満とならない様に、その時点でのこのエンジン1の回転速度に応じて、前記目標速度比への変速を調節する。具体的には、このエンジン1の回転速度がアンダーラン閾値以下と判定される場合に、増速側への変速を停止し、このアンダーラン閾値を超えていると判定される場合に、増速側への変速をし(変速を継続し、乃至は、変速を再開し)、前記目標速度比となるまで変速制御を行う。
この様に本参考例の場合には、前記目標速度比に向けて変速をしている過程で、前記エンジン1の回転速度がオーバーラン閾値を超えない様に、又は、アンダーラン閾値未満にならない様に、その時点でのエンジン1の回転速度に応じて、前記目標速度比への変速状態を調節(減速、増速、停止)する。この為、前記エンジン1の回転速度がアンダーラン閾値未満となる事を防止でき、このエンジン1でノッキングが発生したり停止(エンスト)する事を防止できると共に、同じくオーバーラン閾値を超える事も防止でき、前記エンジン1の耐久性が低下する事も防止できる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した参考例の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
[実施の形態の第1例]
図14〜18は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の場合は、自動変速機能(自動変速モード)で運転中、運転者は、トロイダル型無段変速機4(図1参照)の変速比(延いては無段変速装置全体としての速度比)を所望の変速パターンに応じて調節する為の、変速比(速度比)と運転状態との対応関係{例えば、アクセル開度と車速と目標変速比(目標速度比)との対応関係を表すマップ}を、予め設定された複数の走行モードから選択できる様にしている。例えば、第一の走行モードであるノーマルモード(NORMAL)と、第二の走行モードであるパワーモード(POWER)と、第三の走行モードであるエコノミーモード(ECONOMY)とのうちから選択できる様にしている。尚、ノーマルモード(NORMAL)とは、エンジン1(図1参照)の最大トルクを得られる回転速度を基準とし、この近傍で運転される様にした自動変速モードであり、パワーモード(POWER)は、同じくエンジン1の最大馬力を得られる回転速度を基準として、この近傍で運転される様にした自動変速モードであり、エコノミーモード(ECONOMY)は、同じくエンジン1の最大燃費効率を得られる回転速度を基準として、この近傍で運転される様にした自動変速モードである。そして、運転者は、例えば、シフトレバーやその近傍、或は、インストルメントパネルやダッシュボード等に設けたスイッチ等を操作する事により、自動変速モードでの運転モードを、上述の様な複数の走行モード(「NORMAL」、「POWER」、「ECONOMY」)の中から選択する。
更に、本例の場合は、上述の様な自動変速モードで運転を行っている(自動変速機能に基づいてトロイダル型無段変速機の変速比、延いては、無段変速装置全体としての速度比の調節を行っている)状態から、運転者の操作に基づいて手動変速モード(手動変速機能)が選択された場合に、この手動変速モードで運転を開始する(手動変速機能に基づいて速度比の調節を開始する)初期速度比(初期変速比)、即ち、この手動変速モードに切り換えられた際の初期目標速度比(初期目標変速比)を、その直前の自動変速モードの運転中に選択されていた走行モード(変速パターン、変速マップ)に応じて設定する様にしている。具体的には、初期速度比(初期目標速度比)を次の様に設定する。
先ず、手動変速モードに切り換える直前の自動変速モードがノーマルモード(NORMAL)の場合は、前記初期速度比(初期目標速度比)を、その時点の速度比に設定する(その時点での速度比をそのまま維持する)。この場合に、その時点の速度比が、予め設定された複数の変速段のうちの何れかの変速段に対応する速度比と一致する(その時点での速度比=何れかの変速段に対応する速度比)場合は勿論、一致しない(その時点での速度比≠何れかの変速段に対応する速度比)場合にも、その時点の速度比を、前記初期速度比に設定し、その時点での速度比をそのまま維持する。尚、その時点の速度比が第1段(第1速)に対応する速度比未満の場合には、この第1段に対応する速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事もできる。又、その時点の速度比が最終段{例えば第6段(第6速)}に対応する速度比を超えている場合には、この最終段に対応する速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事もできる。
又、直前の自動変速モードがパワーモード(POWER)の場合は、前記初期速度比(初期目標速度比)を、その時点での速度比に最も近い、減速側の変速段に対応する速度比に設定する。又、その時点の速度比が、予め設定された複数の変速段のうちの何れかの変速段に対応する速度比と一致する(その時点での速度比=何れかの変速段に対応する速度比)場合は、この一致する変速段よりも1段減速側の変速段に対応する速度比を、前記初期速度比に設定する事ができる。又、同じく一致しない(その時点での速度比≠何れかの変速段に対応する速度比)場合には、減速側で最も近い変速段に対応する速度比を、前記初期速度比に設定する事ができる。何れの場合も、この設定した初期速度比に速度比を調節(減速)する。尚、その時点の速度比が第1段(第1速)に対応する速度比以下の場合には、この第1段に対応する速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事ができる他、例えばその時点の運転状況(車速や路面状況等)に対応した、実際に走行する事が可能な最小速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事もできる。又、第1段に対応する速度比よりも小さい予め設定した所定の速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事もできる。
又、同じく直前の自動変速機能(自動変速モード)がエコノミーモード(ECONOMY)の場合は、前記初期速度比(初期目標速度比)を、その時点での速度比に最も近い、増速側の変速段に対応する速度比に設定する。又、その時点の速度比が、予め設定された複数の変速段のうちの何れかの変速段に対応する速度比と一致する(その時点での速度比=何れかの変速段に対応する速度比)場合は、この一致する変速段よりも1段増速側の変速段に対応する速度比を、前記初期速度比に設定する事ができる。又、同じく一致しない(その時点での速度比≠何れかの変速段に対応する速度比)場合には、増速側で最も近い変速段に対応する速度比を、前記初期速度比に設定する事ができる。何れの場合も、この設定した初期速度比に速度比を調節(増速)する。尚、その時点の速度比が最終段{例えば第6段(第6速)}に対応する速度比以上の場合には、この最終段に対応する速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事ができる他、実際に走行する事が可能な最大速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事もできる。又、最終段に対応する速度比よりも大きい予め設定した所定の速度比を初期速度比に設定し、この初期速度比に調節する事もできる。
この様な速度比の設定、並びに、その調節を行う為に、制御器16(図1参照)が備える機能(変速制御機能)に就いて、図14〜15のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばイグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、前記制御器16は、ステップ1で、自動変速モードから手動変速モードへの切り換えが行われた(手動変速モードへ操作された)か否かを判定する。この判定は、例えば、図16の(A)(B)に示す様に、シフトレバーが手動変速モードの選択位置に操作された事、又は、同図の(C)(D)に示す様に、インストルメントパネルやダッシュボード等に設けたスイッチ47が手動変速モードに切り換えられた事を検出する事により行える。この様なステップ1で、手動変速モードに切り換えられていない、即ち、現在自動変速モードが選択されていると判定された場合には、ステップ2に進み、前述の様なノーマルモード(NORMAL)とパワーモード(POWER)とエコノミーモード(ECONOMY)とのうちの何れかの走行モード(前述のスイッチにより運転者が選択した走行モード)の自動変速モードで運転を行う。そして、終了に進むと共に、開始に戻る。
一方、前記ステップ1で、手動変速モードへの切り換えが行われた(手動変速モードへ操作された)と判定された場合には、ステップ3に進み、車両が実質的に停止している{例えば車両の速度(車速)が1km/h以下である}か否かを判定する。この判定は、前述の参考例の第1〜2例と同様に、例えば出力軸回転センサ38(図1参照)の検出信号、或は、運転席の速度メータ用の速度センサの検出信号等に基づいて行う事ができる。このステップ3で、車両が実質的に停止していると判定された場合は、ステップ4に進み、停止GN制御を行う。即ち、例えば前記特許文献2等に記載された様な、車両の停止時や発進時等の、ギヤードニュートラル(GN)状態乃至はその近傍の状態で必要とされる変速制御を行う。そして、終了に進むと共に、開始に戻る。
一方、前記ステップ3で、車両が停止していない、即ち、車両が走行中であると判定された場合には、ステップ5に進み、前記初期速度比(初期目標速度比)の準備設定(目標速度比準備設定制御)を行う。このステップ5で行う準備設定制御は、予め設定した変速段に対応する各速度比{例えば第1段(第1速)〜第6段(第6速)にそれぞれ対応する速度比}とその時点での(現在の)速度比との関係から、自動変速モードの各走行モード(例えばノーマルモードとパワーモードとエコノミーモードと)にそれぞれ対応する初期速度比を準備設定するもので、図15に示すフローチャートに基づいて行う。この図15のステップ1では、現在の速度比が第1段(第1速)に対応する速度比未満か否かを判定する。このステップ1で、現在の速度比が第1段に対応する速度比未満であると判定された場合には、ステップ2に進み、自動変速モードの各走行モードに対応する初期速度比を次の様に準備設定する。即ち、パワーモードに対応する初期速度比(PWR_SFT)、エコノミーモードに対応する初期速度比(ECO_SFT)、ノーマルモードに対応する初期速度比(NOM_SFT)を、それぞれ第1段に対応する速度比に準備設定する。そして、図15の終了に進むと共に、図14のステップ6に進む。
一方、図15のステップ1で、現在の速度比が第1段に対応する速度比以上であると判定された場合には、ステップ3に進み、現在の速度比が第1段に対応する速度比と同じか否かを判定する。このステップ3で、現在の速度比が第1段に対応する速度比と同じと判定された場合には、ステップ4に進み、自動変速モードの各走行モードに対応する初期速度比を次の様に準備設定する。即ち、パワーモードに対応する初期速度比(PWR_SFT)、及び、ノーマルモードに対応する初期速度比(NOM_SFT)を、第1段に対応する速度比に、エコノミーモードに対応する初期速度比(ECO_SFT)を、第2段(第2速)に対応する速度比に、それぞれ準備設定する。そして、図15の終了に進むと共に、図14のステップ6に進む。
一方、図15のステップ3で、現在の速度比が第1段に対応する速度比と同じでないと判定された場合には、ステップ5に進み、現在の速度比が、第1段に対応する速度比よりも大きく、且つ、第2段に対応する速度比よりも小さいか否かを判定する。このステップ5で、現在の速度比が、第1段に対応する速度比よりも大きく、且つ、第2段に対応する速度比よりも小さいと判定された場合には、ステップ6に進み、自動変速モードの各走行モードに対応する初期速度比を次の様に準備設定する。即ち、パワーモードに対応する初期速度比(PWR_SFT)を第1段に対応する速度比に、エコノミーモードに対応する初期速度比(ECO_SFT)を、第2段に対応する速度比に、ノーマルモードに対応する初期速度比(NOM_SFT)をその時点での(現在の)速度比に、それぞれ準備設定する。そして、図15の終了に進むと共に、図14のステップ6に進む。尚、図15のステップ7〜26に関しては、上述の場合と同様に、この図15に記載されている通り各走行モードの初期速度比(PWR_SFT、ECO_SFT、NOM_SFT)が準備設定される為、それ以上の説明は省略する。
上述の様な図15に示す初期速度比の準備設定(目標速度比準備設定制御)を行ったならば、図14のステップ6に進み、直前の自動変速モード(走行モード)がパワーモード(POWER)か否かを判定する。このステップ6で、パワーモードであると判定された場合には、ステップ7に進み、上述のステップ5で準備設定された各走行モードの各初期速度比のうちのパワーモードの初期速度比(PWR_SFT)を実際の目標速度比(実目標速度比)に設定する。そして、ステップ8に進み、その実際の目標速度比(実目標速度比)に変速を行うと共に、図14の終了を介して、この図14の開始に戻る。尚、前記ステップ8で行う変速は、例えば最大変速速度で行う。一方、前記ステップ6で、直前の自動変速モード(走行モード)がパワーモードでないと判定された場合には、ステップ9に進み、同じくエコノミーモード(ECONOMY)か否かを判定する。このステップ9で、エコノミーモードであると判定された場合には、ステップ10に進み、上述のステップ5で準備設定された各走行モードの各初期速度比のうちのエコノミーモードの初期速度比(ECO_SFT)を実際の目標速度比(実目標速度比)に設定する。
そして、前記ステップ8に進み、その実際の目標速度比(実目標速度比)に変速を行うと共に、図14の終了を介して、この図14の開始に戻る。又、前記ステップ9で、直前の自動変速モード(走行モード)がエコノミーモードでないと判定された場合には、ステップ11に進み、同じくノーマルモード(NORMAL)か否かを判定する。このステップ11で、ノーマルモードであると判定された場合には、ステップ12に進み、上述のステップ5で準備設定された各走行モードの各初期速度比のうちのノーマルモードの初期速度比(NOM_SFT)を実際の目標速度比(実目標速度比)に設定する。そして、前記ステップ8に進み、その実際の目標速度比(実目標速度比)に変速を行うと共に、図14の終了を介して、この図14の開始に戻る。又、前記ステップ11で、ノーマルモードでないと判定された場合には、ステップ13に進み、その時点での(現在の)速度比を実際の目標速度比(実目標速度比)に設定する。そして、前記ステップ8に進み、その実際の目標速度比(実目標速度比)に変速を行うと共に、図14の終了を介して、この図14の開始に戻る。
上述の様な本例の無段変速装置によれば、自動変速モードで運転を行っている状態から、手動変速モードに切り換えた際に、運転者の意思に合致した挙動を確保できる。
即ち、自動変速モードから手動変速モードに切り換えた際の、この手動変速モードに基づいて変速を開始する初期速度比(初期目標速度比)が、その直前に自動変速モードで選択されていた走行モード(NORMAL、POWER、ECONOMY)に応じて設定される。より具体的には、例えば図17に示す様に、自動変速モードで且つ変速比Aで運転中に、手動変速モードに切り換えられた場合は、この自動変速モードで選択されている走行モードに応じて、現在の変速比が維持されたり、第4段(第4速)或は第5段(第5速)に変速される。又、例えば図18に示す様に、同じく自動変速モードで且つ変速比B{第5段(第5速)に対応する変速比}で運転中に、手動変速モードに切り換えられた場合も、この自動変速モードで選択されている走行モードに応じて、現在の変速比{第5段(第5速)に対応する変速比}が維持されたり、第4段(第4速)或は第6段(第6速)に変速される。
この様に、手動変速モードに基づく運転に切り換えられた際の速度比の調節が、その直前の自動変速モードで選択されていた走行モードとの関係で行われる。この為、この走行モードとの関係で速度比の調節を、運転者の意思に沿ったものにでき(運転者の意図しない変速が行われる事を防止でき)、この運転者の意思に合致した挙動を確保できると共に、前記手動変速モードに切り換えた際の運転性能の向上を図れる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した参考例の第1〜2例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
[実施の形態の第2例]
図19〜24は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合は、手動変速モードで運転中、その時点で選択されている(現在選択されている)変速段から、運転者の操作に基づき1段増速側に変速操作された場合に、この変速段に対応する速度比へ変速する変速速度、即ち、この1段増速側の変速段に対応する速度比に変速されるまでのその変速速度を、その時点での(現在の)運転状況に応じて変化させる。即ち、本例の場合には、その時点での速度比と前記1段増速側の変速段に対応する速度比(目標速度比)との差に応じて、この目標速度比に変速されるまでのその変速速度を調節する様にしている。
尚、この様な変速速度の調節は、無段変速装置の速度比の他、トロイダル型無段変速機4(図1参照)の変速比を用いて行う事もできる。即ち、この変速速度を、その時点でのトロイダル型無段変速機4の変速比と、1段増速側の変速段の速度比に対応する変速比(目標変速比)との差に応じて調節する事もできる。又、この様なトロイダル型無段変速機4の変速比に代えて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を変更する為のステッピングモータ17(図1、2参照)の位置(駆動位置、ステップ位置)を用いる事もできる。即ち、その時点でのステッピングモータ17の位置と、1段増速側の変速段の速度比に対応する変速比を実現する位置(目標駆動位置、目標ステップ位置)との差に応じて調節する事もできる。
何れにしても、本例の場合は、前記変速速度を、例えば下記の表1、又は、図20に示す対応関係(MAP)に従って調節する。尚、この図20は、表1中のステッピングモータの位置の差と変速速度との関係に対応する。
この様な表1及び図20に示す様に、本例の場合は、変速開始直後で、速度比(ステップ位置)の差が大きい場合は、前記変速速度を小さくし(緩徐にし、緩やかにし)、ゆっくり変速させる。そしてこの差が小さくなるに従って、この変速速度を漸次大きく(速く)し、この差が所定値(例えば速度比の差で0.8、ステップ位置の差で80)となった状態で、この変速速度を最大にする。そして、この差がこの所定値よりも小さくなった場合に、この変速速度を漸次小さくする。更に、変速終了間近で、前記差が小さい場合(例えば速度比の差で0.2、ステップ位置の差で20未満となった場合)は、この変速速度をより小さくし(緩徐にし、緩やかにし)、ゆっくり変速させる。この様な変速速度で、前記速度比(変速比、ステップ位置)を前記目標速度比(目標変速比、目標ステップ位置)まで変速する。要するに、速度比(ステップ位置)の差と変速速度との関係を表すグラフが山形状となる様に、変速速度を調節する。又、例えば変速開始直後から所定時間(例えば0.1秒間)は、前記変速速度を小さくし、所定時間経過後は、変速速度を漸次大きくする事もできる。そして、この様な場合にも、速度比で0.2、ステップ位置の差で20未満となった場合に、この変速速度をより小さくする事ができる。
上述の様な変速速度で速度比の調節を行う為に、制御器16(図1参照)が備える機能(変速制御機能)に就いて、図19のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、例えばイグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、前記制御器16は、ステップ1で、その時点での(現在の)変速モードが手動変速モードであるか否かを判定する。この判定は、例えば、シフトレバーが手動変速機能に基づく変速を行える位置(シフトレバーにより変速段の増速、減速が行える位置、或は、パドルシフトで変速を行う旨の選択位置)に切り換えられているか否か、或は、スイッチ47(図16参照)が手動変速モードの位置であるか否か(ONかOFFか)等により判定できる。このステップ1で、現在の変速モードが手動変速モードではない、即ち、自動変速モードであると判定された場合には、終了に進み、自動変速機能に基づく運転を行うと共に、開始に戻る。
一方、前記ステップ1で、現在の変速モードが手動変速モードであると判定された場合には、ステップ2に進み、運転者(ドライバー)が変速操作を行ったか否か(変速要求が有るか否か)を判定する。この判定は、ポジションスイッチ43やパドルシフトスイッチ46(図1参照)の信号に基づいて行う。このステップ2で、運転者が変速操作を行っていない(No:変速操作無し)と判定された場合には、終了を介して、開始に戻る。一方、前記ステップ2で、運転者が変速操作を行った(Yes:操作有)と判定された場合には、ステップ3に進み、その変速操作がシフトアップ変速(増速側への変速要求)か否かを判定する。このステップ3で、シフトアップ変速でない{No:シフトダウン変速(減速側への変速)要求である}と判定された場合には、ステップ4に進み、その操作された変速段に対応する目標速度比(目標変速比)に最大変速速度で変速する。そして、終了を介して、開始に戻る。
一方、前記ステップ3で、シフトアップ変速である(Yes:シフトアップ変速要求)と判定された場合には、ステップ5に進み、現在の速度比(変速比)が目標速度比(目標変速比)に到達しているか否かを判定する。このステップ5で、現在の速度比(変速比)が目標速度比(目標変速比)に到達していると判定された場合(シフトアップ変速制御の終了段階)には、終了を介して、開始に戻る。一方、前記ステップ5で、現在の速度比(変速比)が目標速度比(目標変速比)に到達していないと判定された場合には、ステップ6に進み、現在の速度比(変速比)と目標速度比(目標変速比)との差を算出する。この算出は、前記ステッピングモータ17のステップ位置の差{現在の速度比(変速比)に対応するステップ位置と目標速度比(変速比)に対応するステップ位置の差}に基づいて算出する事もできる。何れにしても、この様なステップ6で、速度比(変速比、ステップ位置)の差を算出したならば、ステップ7に進み、例えば上述した表1や図20に示す対応関係(MAP)に基づいて、その時点の速度比(変速比、ステップ位置)の差に応じた変速速度を求める(判定する)。そして、ステップ8に進み、前記ステップ7で求めた(判定した)変速速度で変速(ステッピングモータ17の駆動)を行うと共に、終了を介して、開始に戻る。
上述の様な本例の無段変速装置によれば、手動変速機能に基づいて運転を行っている状態で、運転者が1段増速側に変速操作した際に、運転者の意図する加速(円滑且つ迅速な加速)を得られる。
即ち、運転者が1段増速側に変速操作した場合に、この1段増速側の変速段に対応する速度比へ変速する変速速度を、その時点での速度比と前記1段増速側の変速段に対応する速度比(目標速度比)との差に応じて調節する。具体的には、変速開始時に変速速度を小さくする事で、エンジン1(図1参照)の回転速度、延いては、このエンジン1の駆動力が低下する事を防止できると共に、変速が進むに従って変速速度を大きくする事で、目標変速比に迅速に変速する事ができ、円滑な変速も行える。例えば、図21に示す様に、運転者が第2速から第3速に変速操作(図21のAの操作)をした後、この第3速から第4速に変速操作(図21のBの操作)をした場合の、変速速度と車両に加わる加速度とエンジンの回転速度との関係を、図22に模式的に示す。又、本例の変速制御を行った場合の各部の状態量変化を図23に、従来の変速制御を行った(本例の変速制御を行わない)場合の各部の状態量変化を図24に、それぞれ示す。この様な図22〜24に示す線図から明らかな様に、本例の変速制御を行った場合には、従来の変速操作を行った場合に比べ、エンジン1の回転速度、延いては、このエンジン1の駆動力が低下する事を防止できると共に、目標変速比に迅速に変速する事ができ、円滑な変速も行える。この為、運転者の増速操作に伴って、この運転者の意図する加速(円滑で素早い加速)を得られる(エンジン1の駆動力が低下する事によるもたつき防止と、1段増速側の変速段に対応する速度比への迅速な変速との両立を高次元で図れる)。しかも、本例の場合には、前述した従来技術の様な、変速段同士の速度比の差が小さくならない為、運転者が意図する手動変速モードの挙動が得られなくなる事も防止できる。又、同じく前述した従来技術の様な、複雑な制御を必要としない為、信頼性も確保し易くできる。
尚、上述した説明は、運転者の操作に基づき1段増速側に変速操作された場合を中心に行ったが、1段減速側に変速操作された場合にも、必要に応じて可変制御を行っても良い。即ち、運転者が1段減速側に変速操作した場合は、この1段減速側の変速段に対応する速度比へ変速する変速速度を、その時点での速度比を前記1段減速側の変速段に対応する速度比(目標速度比)との差に応じて調節する事ができる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した参考例の第1〜2例、及び、実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。