JP2013002481A - 車両用無段変速装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】車両が中速乃至高速走行している状態で、シフトレバーがその時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合にも、運転者のアクセル操作に拘わらず車両が急減速する事を防止できて、中速乃至高速走行時の安全性を維持できる構造を実現する。
【解決手段】シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両が低速走行中であるか否かを判定する。そして、低速走行中であれば、ガレージシフト制御を実行するが、中速乃至高速走行中であれば、クラッチ装置の接続を断った状態で、無段変速装置の速度比を、走行状態を表す状態量から得られるその時点の走行状況に応じた値に変化させる(トロイダル型無段変速機の変速比をGN値に調節する)。これにより、上記課題を解決できる。
【選択図】図3

Description

この発明は、例えば、自動車、或いは、建設用車両(建機)、農業用車両(農機)等の作業用車両等の車両の自動変速装置として利用する、車両用無段変速装置の改良に関する。具体的には、車両の走行中にシフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、この車両の挙動の急変化(例えば急減速、タイヤロック、エンスト等)、並びに、この車両や変速装置の損傷(例えばプロペラシャフトの折損、変速装置内部の破損、クラッチバースト等)を防止し、安全且つ迅速に、この車両を減速、停止する事を可能にするものである。
車両用の自動変速機(AT:Automatic Transmission)として、歯車式で有段(例えば前進4〜8段、後進1〜2段等)の変速機構を有する(走行中の変速比を無段階には調整できない)有段変速装置が、従来から使用されている。この様な有段変速装置としては、例えば、トルクコンバータと遊星歯車機構とにより構成するもの(一般的なAT)、或いは、制御器により制御される油圧式或いは電動式のアクチュエータにより、有段式の(手動)変速機の変速操作(シフトダウン、シフトアップ)とクラッチの断接操作とを自動的に行うもの(AMT:Automated Manual Transmission )が知られている。
又、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機等の、変速比を無段階に調節できる無段変速機構により構成した無段変速装置(CVT:Continuously Variable Transmission)に就いても、近年使用する場合が増えている。更には、この様なトロイダル型無段変速機等の無段変速機構と歯車式の差動機構(例えば遊星歯車式変速機)とを、クラッチ装置により動力の伝達経路を切り換え自在とした状態で組み合わせて無限大の変速比を実現可能とした無段変速装置(IVT:Infinitely Variable Transmission)も、従来から知られている。この様な無段変速装置や上述の様な有段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られるその時点での走行状態に応じて、最適な変速段や変速比(目標変速段、目標変速比)に調節する為の変速制御を行うと共に、トルクコンバータのロックアップクラッチ制御や必要なクラッチの断接制御を行っている。
ところで、上述の様な自動変速機を組み込んだ車両の運転時、運転者の誤操作或いは故意(意識して)の操作により、シフトレバーがその時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置に操作される場合がある。即ち、シフトレバーの選択位置が前進位置(例えばD、Lレンジ)で、且つ、車両が前進している状態で、このシフトレバーが後退位置(例えばRレンジ)に操作されたり、同じく後退位置で、且つ、車両が後退している状態で、このシフトレバーが前進位置に操作される場合がある。この様な操作のうち、例えば運転者の故意の操作は、例えば車両を車庫入れする場合等に行われる。即ち、車庫入れの際に、車両が完全には停止していない状態で、例えば「前進走行中にDレンジ→Nレンジ→Rレンジ」や「後退走行中にRレンジ→Nレンジ→Dレンジ」に操作(ガレージシフト)される場合がある。又、農業用車両や建設用車両等の作業用車両では、作業中に前進と後退との切換が頻繁に行われるが、この様な進行方向の切換が、その時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置にシフトレバーを操作(シャトルシフト)する事で行われる場合がある。この様な場合に、そのままこのシフトレバーが操作された位置(操作位置)に対応する変速段や変速比に調節すると共に、この操作位置に対応するクラッチを接続すると、車両の挙動が急激に変化(例えば急減速、タイヤロック、エンスト等)したり、著しい場合には、この車両や変速装置が損傷(例えばプロペラシャフトの折損、変速装置内部の破損、クラッチバースト等)する可能性がある。
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置で、上述の様に、シフトレバーがその時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の挙動が急激に変化したり、この車両や変速装置が損傷する事を防止する技術が記載されている。具体的には、シフトレバーがその時点での走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、無段変速装置の速度比を、一旦その時点の走行状態に応じた値に維持した状態のまま、クラッチ装置を接続し、この速度比を車両の停止状態を実現できる値(0)に調節する技術が記載されている。更に、特許文献1に記載された技術の場合には、逆方向(シフトレバーの選択位置に対応する方向)への走行をより早く実現し、車両の挙動を運転者の意思に合致したものにすべく、運転者のアクセルペダルの踏み込みに応じて、停止状態を実現できる0に向けての速度比の変化速度(変速速度)を大きくする様にしている。
上述の様な特許文献1に記載された技術(ガレージシフト変速制御)は、車両を車庫入れする場合の様に、車両が停止寸前の状態で実行する事を本来意図したものであるが、中速乃至高速走行中の状態で実行される可能性がある。そして、この様に車両の走行速度が速い状態でガレージシフト変速制御が実行された場合には、次の様な問題を生じる可能性がある。例えば、シフトレバーが前進位置(Dレンジ)に選択され、車両が前進方向に高速走行(例えば100km/h)している状態で、シフトレバーが後退位置(Rレンジ)に誤操作された場合に、ガレージシフト変速制御が実行されると、車両は前進走行を維持しながら強制的にシフトダウンし、一旦停止してから、後退走行に移行する様に制御される。
そして、この様に高速走行中の車両を停止させるには、車両の安全性を維持(極端な急減速、タイヤロック等の車両の挙動の急変化を防止)すると共に、変速装置の損傷を防止できる範囲で車両を減速させる為、車両の停止までには一定の時間(走行速度によって増減するが少なくとも数秒乃至数十秒)を要する。この為、この様に車両が停止するまでの間は、バックアップ制御中とは言え、車両の進行方向とシフトレバーの選択位置とが一致しない状態が継続する事になる。この様な状態が継続する場合にも、運転者の意図によるものであれば特に問題を生じない。但し、誤操作による場合には、車両の走行速度の低下に伴って、運転者は前進方向への加速を意図してアクセルペダルを踏み込む可能性があり、この場合に、車両はこの様な運転者の前進方向への加速要求に反して急減速する事になる。この様に、車両が中速乃至高速走行中の状態でガレージシフト変速制御が実行されると、誤操作による場合には、運転者が意図していないにも拘らず車両が減速を続ける為、それだけでも運転者に違和感を与える(運転者の混乱を招く)が、加えて前進方向への加速要求に反して車両が急減速する為、運転者に与える違和感はより大きくなる。又、中速乃至高速走行している状態で急減速する為、走行安定性が損なわれると共に、後続車に追突される危険が生じる可能性があり、走行時の安全性を維持する事も難しくなる。
尚、本発明に関連すると考えられる先行技術文献として、特許文献2〜9に記載された発明がある。但し、これら特許文献2〜9に記載された何れの発明の場合にも、上述した様な問題を解決する事はできない。
特開2010−276033号公報 特開2002−181175号公報 特開2003−194199号公報 特開2003−314683号公報 特開2010−255727号公報 特開2007−177834号公報 特開2007−211867号公報 特開2007−239980号公報 特開2009−257464号公報
本発明の車両用無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、車両が中速乃至高速走行している状態で、シフトレバーがその時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合にも、運転者のアクセル操作に拘わらず車両が急減速する事を防止できて、中速乃至高速走行時の安全性を維持できる構造を実現すべく発明したものである。
本発明の車両用無段変速装置は、従来から知られている無段変速装置と同様に、無段変速機構(例えばトロイダル型無段変速機、プーリ式無段変速機等の変速比を無段階に調節できる変速機)と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動機構とを、クラッチ装置により動力の伝達経路を切り換え自在とした状態で組み合わせている。そして、このうちの無段変速機構の変速比の調節に基づいて、前記差動機構を構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事で、駆動源により入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態(ギヤードニュートラル状態)を挟んで正転及び逆転に変換自在としている。
特に、本発明の車両用無段変速装置に於いては、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度(低速と中速との境界の速度であり、例えば20km/h)未満であるか否かを判定し、その判定結果に応じて、次の2つの機能のうちの何れかを実行する。
第一の機能は、車両の走行速度が所定速度未満の場合に、前記クラッチ装置を接続したままの状態で、前記無段変速装置の速度比を、その時点の走行状態に応じた値から、前記停止状態を実現できる0まで変化させる。
第二の機能は、車両の走行速度が所定速度以上である場合に、前記クラッチ装置の接続を断ち、このクラッチ装置の接続を断ったままの状態で、前記無段変速装置の速度比を、走行状態を表す状態量から得られるその時点の走行状況に応じた値に変化させる。
尚、本発明の車両用無段変速装置を実施する場合に好ましくは、前記第一の機能に、運転者のアクセルペダルの踏み込みに応じて、停止状態を実現できる0に向けての速度比の変化速度(変速速度)を大きくする機能を持たせる。
又、上述した請求項1に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2又は請求項3に記載した発明の様に、前記クラッチ装置を、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチと、この高速モードを実現する際に接続されて前記低速モードを実現する際に接続を断たれる高速用クラッチとを備えたものとする。
そして、請求項2に記載した発明の場合には、車両が前進走行している状態でシフトレバーが後退位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度以上である場合には、それまで接続されていた前記低速用クラッチと前記高速用クラッチとのうちの一方のクラッチの接続を断つ事で、これら低速用クラッチと高速用クラッチとの両方のクラッチの接続を断つ。
これに対して、請求項3に記載した発明の場合には、車両が後退走行している状態でシフトレバーが前進位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度以上である場合には、それまで接続されていた前記低速用クラッチの接続を断つ事で、この低速用クラッチと前記高速用クラッチとの両方のクラッチの接続を断つ。
更に、本発明の車両用無段変速装置を実施する場合に好ましくは、例えば請求項4に記載した発明の様に、車両の走行速度が所定速度未満の場合に、無段変速装置の速度比を、停止状態を実現できる0まで、予め設定した条件に沿って変化させた後、シフトレバーの当該操作位置に応じた値に調節する。
上述の様に構成する本発明の車両用無段変速装置によれば、車両が中速乃至高速走行している状態で、シフトレバーがその時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合にも、運転者のアクセル操作(アクセルペダルの踏み込み)に拘わらず車両が急減速する事を防止できて、中速乃至高速走行時の安全性を維持できる。
即ち、本発明の場合には、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度(例えば20km/h)以上である場合には、無段変速機構と差動機構との間で動力を伝達するクラッチ装置の接続を断つ。この為、駆動源の駆動力がそれ以上車輪に伝達される事を防止できる。従って、例えば運転者が進行方向への加速を意図してアクセル操作を行った場合にも、この様なアクセル操作に伴って車両が急減速する事を防止できる。しかも、アクセル操作によりエンジン回転数が上昇する(吹き上がる)為、これによりシフトレバーの選択位置が適正でない(誤操作が行われた)事を運転者に知らせる事もできる。更に、車両の走行速度が所定速度以上である場合には、前記無段変速装置の速度比をその時点の走行状況に応じた値に変化させる(進行方向に応じた通常の変速制御を行う)為、車両を緩やかに減速させる事ができる。この為、運転者に与える違和感(運転者の混乱)を十分に抑えつつ、フェールセーフ性を確保できて、中速乃至高速走行時の安全性を維持できる。
又、車両の走行速度が所定速度未満である場合には、前述した従来構造の場合と同様に、前記クラッチ装置を接続し、前記無段変速装置の速度比を車両の停止状態を実現できる0に調節する(ガレージシフト変速制御を実行する)。従って、車両の挙動が急激に変化したり、この車両や変速装置が損傷する事を防止し、安全且つ迅速に、この車両を減速、停止させられる。
以上の様に、本発明の場合には、車両の走行速度を判定し、所定速度未満(低速走行)であれば、従来構造の場合と同様にガレージシフト変速制御を実行し、所定速度以上(中速乃至高速走行)の場合には、ガレージシフト変速制御を実行せずに、クラッチ装置の接続を断った状態で進行方向に応じた通常の変速制御を実行する。従って、この様な本発明によれば、低速走行時での、安全且つ迅速な、減速、停止(更にはシフトレバーの選択位置に応じた走行)の実現と、中速乃至高速走行時の安全性の維持との両立を図れる。
本発明の実施の形態の1例を示す、無段変速装置のブロック図。 この無段変速装置に組み込む油圧回路を示す図。 本例の特徴となる変速制御の動作を示すフローチャート。 シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作されたか否かを判定する為に行う作業のフローチャート。 車両の走行速度とシフトレバーの操作位置とクラッチの断接状態との関係を示す線図。
図1〜5は、本発明の実施の形態の1例を示している。このうちの図1は、特許請求の範囲に記載した無段変速機構に相当するトロイダル型無段変速機1と、同じく歯車式の差動機構に相当する遊星歯車式変速機2とを組み合わせる事により、入力軸3を回転させた状態のまま出力軸4を停止させられる、所謂無限大の変速比(ギヤードニュートラル状態、速度比0の状態)を実現できる無段変速装置のブロック図を示している。又、図2は、同じくこの無段変速装置を制御する為の油圧回路を示している。本例の場合は、この様な無段変速装置の速度比を、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、予め設定した条件に沿って変化させる様に構成している。
エンジン5の出力は、ダンパ6を介して、前記入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又は前記トロイダル型無段変速機1を介して、差動機構である前記遊星歯車式変速機2に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機2の構成部材の差動成分が、クラッチ装置7、即ち、図2の低速用、高速用各クラッチ8、9を介して、前記出力軸4に取り出される。又、前記トロイダル型無段変速機1は、入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、それぞれが支持部材に相当する複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図2参照)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。
このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ、相対回転可能に配置されている。又、前記各パワーローラ12は、互いに対向する前記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、前記各トラニオンは、前記各パワーローラ12を回転可能に支持している。又、前記アクチュエータ13は、油圧式のもので、これら各パワーローラ12を支持した前記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、前記入力側ディスク10と前記出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、前記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、前記入力側ディスク10と前記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、前記変速比制御ユニット15は、前記入力側ディスク10と前記出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、前記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、前記変速比制御ユニット15は、制御器(ECU)16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ローディング圧制御用電磁開閉弁18と、モード切換制御用電磁開閉弁19(図2に示す低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁20、21)と、これら各部材17〜21により作動状態を切り換えられる制御弁装置22とにより構成している。尚、この制御弁装置22は、図2の変速比制御弁23と押圧力調整弁24とに相当する。又、このうちの変速比制御弁23は、前記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、前記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁20、21は、前記低速用、高速用各クラッチ8、9への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ6部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ25から吐出した圧油は、前記制御弁装置22並びに前記押圧装置14に送り込まれる。即ち、油溜26(図2参照)から吸引されて前記オイルポンプ25により吐出された圧油は、前記押圧力調整弁24により所定圧に調整される。本例の場合は、前記アクチュエータ13の各油圧室27a、27bにそれぞれ設けた1対の油圧センサ28a、28b(図1では符号28)の検出信号を、前記制御器16に入力している。そして、この制御器16は、前記各油圧センサ28a、28bにより検出される前記各油圧室27a、27b同士の差圧{この差圧に対応する、トロイダル型無段変速機1を通過するトルク(通過トルク)}と、油温センサ29や入力側、出力側各回転センサ30、31、出力軸回転センサ32、アクセルセンサ33等により検出される他の状態量(変速比や油温、アクセル開度、車速等)とに基づいて、前記ローディング圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を切り換える。そして、この開閉状態の切換に基づき、前記押圧力調整弁24の開弁圧を調節し、プライマリーライン34、延いては、前記押圧装置14が発生する押圧力を、運転状況に応じた最適な値に規制する。
又、前記押圧力調整弁24により調整された圧油は、手動油圧切換弁35、並びに、減圧弁36、前記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁20、21を介して、前記低速用クラッチ8又は前記高速用クラッチ9の油圧室内に送り込まれる。又、これら低速用、高速用各クラッチ8、9のうちの低速用クラッチ8は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、前記高速用クラッチ9は、前記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に前記高速モードを実現する際に接続される。尚、前記低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁20、21の切り換え(開閉)は、前記制御器16により制御される。
又、前記低速用クラッチ8が接続され、前記高速用クラッチ9の接続が断たれた低速モードでは、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、ギヤードニュートラル状態を実現できる値(GN値、ギヤードニュートラルポイント)から減速する程、無段変速装置全体としての速度比を停止状態(速度比0の状態)から前進方向に増速させられる。又、同じくGN値から増速する程、同じく停止状態から後退方向に増速させられる。一方、前記高速用クラッチ9が接続され、前記低速用クラッチ8の接続が断たれた高速モードでは、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を増速する程、前記無段変速装置全体としての速度比を(前進方向に)増速させられる。
尚、一般的には、「変速比」は減速比であり、「速度比」は増速比であり、「変速比」の逆数が「速度比」となる(「速度比」=1/「変速比」)。但し、本明細書では、トロイダル型無段変速機に関する入力側と出力側との間の比に就いて「変速比」の言葉を用い、無段変速装置全体に関する入力側と出力側との間の比に就いて「速度比」の言葉を用いている。この理由は、トロイダル型無段変速機の比なのか、無段変速装置全体としての比なのかを明確にし易くする為である。従って、本明細書では、「変速比」が減速比に、「速度比」が増速比に、必ずしも対応するものではない。
上述した様な無段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られる、その時点での車両の走行状態(運転状況)に基づいて、前記制御器16により、前記無段変速装置の最適な速度比(目標速度比)を求める。そして、この目標速度比を実現すべく、前記制御器16の制御信号に基づいてステッピングモータ17を駆動し、変速比制御弁23を切り換える事により、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、前記目標速度比に対応する目標変速比に調節する。尚、この場合には、前記アクセル開度並びに前記車速(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との相関関係を、前記制御器16のメモリに予めマップ(MAP)や式として記憶させておき、その時点の状態量(車速、アクセル開度等)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。又、これと共に、必要に応じて(無段変速装置の目標速度比に応じて)低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁20、21を切り換える事により、前記低速用、高速用各クラッチ8、9の断接状態を切り換えて、必要な走行モード(低速モード或いは高速モード)を選択する。これらにより、前記無段変速装置の速度比を、その時点での車両の走行状態に応じた最適な値(目標速度比)に調節する。
更に、本例の場合には、運転席に設けたシフトレバー(操作レバー、セレクトレバー)がその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度(低速と中速との境界の速度であり、例えば20km/h)未満であるか否か判定する。そして、所定速度未満である(低速走行している)と判定された場合には、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8)を接続した状態で、前記無段変速装置の速度比を、その時点の走行状態に応じた値から、前記停止状態を実現できる0まで変化させる機能(第一の機能)を、前記制御器16に持たせている。尚、前記所定速度は、一般的な普通自動車を対象とした場合、車両を車庫入れする際の通常の走行速度よりも高い値に設定する。
即ち、シフトレバーが前進位置(D、Lレンジ)に操作された状態で、車両が低速で前進走行中に、このシフトレバーが後退位置(Rレンジ)に操作された場合には、前記無段変速装置の速度比を、その時点の前進走行に応じた値から、停止状態を実現できる0まで変化(減速)させる(低速用クラッチ8が接続されている状態である為、トロイダル型無段変速機1の変速比を増速側に変化させる)。次いで、後退方向に発進させるべく、前記無段変速装置の速度比を、後退位置に応じた値に調節(後退方向に増速)する(低速用クラッチ8が接続されている状態である為、トロイダル型無段変速機1の変速比を増速側に変化させる)。又、これとは逆に、シフトレバーが後退位置に操作された状態で、車両が低速で後退走行中に、このシフトレバーが前進位置に操作された場合には、前記無段変速装置の速度比を、その時点の後退走行に応じた値から、停止状態を実現できる0まで変化(減速)させる(低速用クラッチ7が接続されている状態である為、トロイダル型無段変速機1の変速比を減速側に変化させる)。次いで、前進方向に発進させるべく、前記無段変速装置の速度比を、前進位置に応じた値に調節(前進方向に増速)する(低速用クラッチ8が接続されている状態である為、トロイダル型無段変速機1の変速比を減速側に変化させる)。
又、本例の場合には、前記制御器16に、無段変速装置の速度比を、停止状態を実現できる0まで変化させた後、シフトレバーが操作された位置(操作位置)に応じた値に調節する{当該操作位置に応じた(発進)変速制御を行う}機能、並びに、運転者のアクセル開度の変更(アクセルペダルの踏み込み)に応じて、停止状態を実現できる0に向けての速度比の変化速度(変速速度)を大きくする機能も持たせている。
更に、本例の場合には、前記制御器16に、上述の様な第一の機能の他、次の第二の機能も持たせている。即ち、本例の場合には、この第二の機能により、運転席に設けたシフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度(低速と中速との境界の速度であり、例えば20km/h)以上である場合には、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)の接続を断つ(接続を断った状態を維持する)。更に、この状態で、前記無段変速装置の速度比を、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られるその時点の走行状況に応じた値に変化させる。
この様な制御器16が有する機能に就いて、図3に示したフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した制御は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行われる。
先ず、前記制御器16は、ステップ1で、シフトレバーの選択位置が非走行位置(P、Nレンジ)か否かを判定する。この判定は、ポジションスイッチ37(図1参照)の検出信号に基づいて行う。この様なステップ1で、シフトレバーの選択位置が非走行位置(P、Nレンジ)であると判定された場合は、ステップ2に進み、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)の接続を断つ。一方、前記ステップ1で、シフトレバーの選択位置が走行位置であると判定された場合には、ステップ6に進む。
前記ステップ2で、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)の接続を断った後は、続くステップ3に進み、車両が走行中であるか否かを判定する。この判定は、前記出力軸回転センサ32の検出信号により、前記出力軸9の回転速度から分かる、前記車両の走行速度(Vkm/h)が、0km/hよりも大きい(V>0km/h)か否かにより判定する。
又、本例の場合は、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作されたか否かを判定する為に、走行中にシフトレバーがNレンジに操作された場合に、その直前の選択位置を記憶しておく。そして、この状態から、車両が停止する以前に、このNレンジからシフトレバーが操作された場合に、この操作された選択位置と前記記憶しておいた選択位置とが同じか否かを判定する事で、走行方向と逆方向の選択位置にシフトレバーが操作されたか否かを判定する。具体的には、図3のステップ3の次で(ステップ3とステップ4との間で)、シフトレバーがNレンジに操作される直前の選択位置の判定及び記憶作業を行う。この様な判定及び記憶作業は、図4に示すフローチャートの手順に沿って行う。即ち、前記図3のフローチャートのステップ1〜3で、シフトレバーがNレンジであるが、車両が走行中であると判定されると(Pレンジではロック機構が作動し、車両が走行する事はない)、図4のフローチャートのステップ1に進む。このステップ1では、このシフトレバーがNレンジに操作される直前の操作位置が前進位置(D、Lレンジ)であったか否かを判定する。即ち、図4のフローチャートのステップ1に進む前(図3のフローチャートで1ループ前)のシフトレバーの選択位置が、前進位置(D、Lレンジ)であったか否かを、前記ポジションスイッチ37の検出信号に基づいて(検出信号を監視し、記憶しておく事で)判定する。
この様な図4のステップ1で、シフトレバーがNレンジに操作される直前の選択位置が前進位置(D、Lレンジ)であった(D、Lレンジ→Nレンジ)と判定した場合には、ステップ2に進み、この選択位置を記憶させるべく、F_DNとF_RNのフラグのうち、F_DNを1にし(F_DN=1、F_RN=0とし)、終了する(図3のステップ4に進む)。一方、前記ステップ1で、シフトレバーがNレンジに操作される直前の選択位置が前進位置(D、Lレンジ)でないと判定した場合には、ステップ3に進む。このステップ3では、このシフトレバーがNレンジに操作される直前の操作位置が後退位置(Rレンジ)であった(Rレンジ→Nレンジ)か否かを判定する。この様なステップ3で、シフトレバーがNレンジに操作される直前の選択位置が後退位置(Rレンジ)であったと判定した場合には、ステップ4に進み、この選択位置を記憶させるべく、F_DNとF_RNのフラグのうち、F_RNを1にし(F_DN=0、F_RN=1とし)、終了する(図3のステップ4に進む)。
一方、前記ステップ3で、シフトレバーがNレンジに操作される直前の選択位置が後退位置(Rレンジ)でないと判定した場合には、ステップ5に進む。このステップ5では、F_DNとF_RNのうちの何れかのフラグが1か否を判定する。言い換えれば、直前のシフトレバーの位置がNレンジ(Nレンジで車両が停止した状態から動き出した)か否かを判定する。この様なステップ5で、F_DNとF_RNのうちの何れかのフラグが1であれば、続くステップ6で、そのフラグ状態を保持して、終了する。(図3のステップ4に進む)。又、F_DNとF_RNのうちの何れかのフラグが1でなくても、即ち、F_DN=0、F_RN=0である場合(直前のシフトレバーの位置かNレンジである場合)も、ステップ7で、それを確認して終了する(図3のステップ4に進む)。尚、フラグ(F_DN、F_RN)の詳しい立て方に就いては、図4中に記載している。
何れにしても、上述の様な図4に示すフローチャートの手順に沿って、シフトレバーがNレンジに操作される直前の選択位置の判定及び記憶作業(フラグのセット)を行ったならば、そのフラグを維持した状態で、図3のステップ4に進む。そして、前記制御器16のメモリに予めマップ(MAP)や式として記憶されている、前記アクセル開度並びに前記車速(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との相関関係に基づき、無段変速装置の速度比(トロイダル型無段変速機1の変速比)を、その時点の状態量(車速、アクセル開度等)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。
これに対し、前記図3のステップ3で、車両の走行速度(Vkm/h)が0km/hであり(V=0km/h)、車両が停止していると判定された場合には、前記フラグをクリアする(F_DN=0、F_RN=0にする)。そして、続くステップ5に進み、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、GN値(目標変速比=1.306)に調節すると共に、終了する(開始に戻る)。
一方、前記図3の前記ステップ1で、シフトレバーの選択位置が非走行位置(P、Nレンジ)でないと判定された場合には、ステップ6に進み、シフトレバーの選択位置が前進位置(D、Lレンジ)であるか否かを判定する。この判定は、前記ステップ1と同様に前記ポジションスイッチ37の検出信号に基づいて行う。この様なステップ6で、シフトレバーの選択位置が前進位置(D、Lレンジ)であると判定された場合には、続くステップ7で、車両が走行中であるか否かを判定する。この判定は、前記ステップ3と同様にして行う。この様なステップ7で、車両の走行速度(Vkm/h)が0km/hである(走行中でない)と判定された場合には、前記フラグをクリアし(F_DN=0、F_RN=0にし)、丸付き数字1に進む(通常の前進方向の発進制御を行う)と共に、終了する(開始に戻る)。即ち、シフトレバーの選択位置が前進位置(D、Lレンジ)で、車両が停止している状態である為、運転者は車両を発進させる事を意図していると判定できる。この為、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、潤滑油(トラクションオイル)の温度等、出力させるべき駆動力(クリープ力)に影響を及ぼす状態量に応じて定まる、その時点の最適な駆動力を前記出力軸4から出力させられる値(前進方向の最適なクリープ力を出力できる値)に調節すると共に、終了する(開始に戻る)。この状態で、例えばブレーキの踏み込みが解除されれば、前記出力軸4から前進方向の最適なクリープ力が出力され、車両を円滑に発進させられる。
これに対し、前記ステップ7で、車両の走行速度(Vkm/h)が0km/hよりも大きい(走行中である)と判定された場合には、ステップ8に進み、F_RN=1か否かを判定する。即ち、シフトレバーがDレンジに操作される前にRレンジで後退走行しており、現在Dレンジで後退走行中であるか否かを、F_RN=1か否かにより判定する。この様なステップ8でF_RN=1であると判定された場合には、現在Dレンジが選択されているにも拘らず、後退走行中であると考えられる。この為、続くステップ9で、この様な車両の走行速度(Vkm/h)が所定速度(Va km/h、例えば20km/h)未満であり、低速走行中であるか否かを判定する。そして、低速走行中であると判定されれば、ステップ10に進み、前記クラッチ装置7(後退走行中である為、低速用クラッチ8)の接続状態を維持したまま(低速クラッチ8を接続したまま)、続くステップ12に進む。
これに対して、前記ステップ9で、車両の走行速度(Vkm/h)が所定速度(Va km/h、例えば20km/h)以上であり、中速乃至高速走行中であると判定された場合には、ステップ11に進む。そして、前記クラッチ装置7の接続を断った後(低速用クラッチ8の接続を断つ事で、この低速用クラッチ8と高速用クラッチ9との両方のクラッチの接続を断った後)、続くステップ12に進む。尚、この様にしてクラッチ装置7の接続状態を切り換えるには、前記モード切換制御用電磁開閉弁19(低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁20、21)により、前記低速用、高速用各クラッチ8、9への圧油の導入状態を切り換える事により行う。
そして、前記ステップ12では、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)の接続が完了しているか否かを判定する。この様な判定は、クラッチ圧が所定値(Cp:例えば0.5MPaであり、クラッチ特性によって異なる値)よりも大きくなったか否かにより判定する。尚、前記クラッチ圧とは、当該クラッチにより、その時点でのエンジントルクを伝達できる(互いに当接するクラッチ板同士が滑らない)締結圧に相当する。そして、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)の接続が完了していると判定された場合には、続くステップ13で、前記トロイダル型無段変速機1の目標変速比をGN値(1.306)に設定する(無段変速装置の目標速度比を0に設定する事と同じである)。そして、続くステップ14で、エンジンブレーキ力に基づいて車両を減速、停止させるべく、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、所定の条件、例えば変速速度αで、GN値に向けて変速させる{変速を開始すると共に終了する(開始に戻る)}。尚、この変速は、前記ステッピングモータ17の駆動に基づいて行う。
前記変速速度αは、予め実験、シミュレーション等により、車両の挙動の急変化(例えば急減速、タイヤロック、エンスト等)、並びに、この車両や無段変速装置の損傷(例えばプロペラシャフトの折損、無段変速装置内部の破損、クラッチバースト等)が生じない値の範囲内で、無段変速装置の速度比を、連続的に、且つ、可及的速やかに減速できる値(本例の場合にはαを運転者のアクセルペダルの踏み込みに応じて大きくなる可変値とし、その上限値を例えばステッピングモータの駆動速度で1step/50ms)に設定しておく。この様に設定した変速速度αで、前記トロイダル型無段変速機1の変速比をGN値に向けて変化させれば、上述の様な車両の挙動の急変化や損傷を生じる事なく、エンジンブレーキ力に基づいて車両を、減速、停止させられる。尚、前記トロイダル型無段変速機1の変速比がGN値に調節される以前にシフトレバーが操作された場合には、前記ステップ1、6、16で、その操作された位置に応じた判定がされ、その判定に応じた変速制御が行われる。尚、上述の様なステップ9→ステップ10→ステップ12→ステップ13→ステップ14の制御が、前記制御器16が有する第一の機能に基づく制御(ガレージシフト変速制御)である。
これに対して、前記ステップ12で、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)の接続が完了していない、言い換えれば、このクラッチ装置7の接続が断たれた状態が維持されていると判定された場合には、ステップ15に進む。そして、前記制御器16のメモリに予めマップ(MAP)や式として記憶されている、前記アクセル開度並びに前記車速(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との相関関係に基づき、無段変速装置の速度比(トロイダル型無段変速機1の変速比)を、その時点の状態量(車速、アクセル開度等)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。尚、この様なステップ9→ステップ11→ステップ12→ステップ15の制御が、前記制御器16が有する第二の機能に基づく制御である。
一方、図3の前記ステップ6で、シフトレバーの選択位置が前進位置(D、Lレンジ)でないと判定された場合には、ステップ16に進み、このシフトレバーの選択位置が後退位置(Rレンジ)であるか否かを判定する。この様なステップ16で、シフトレバーの選択位置が後退位置(Rレンジ)でないと判定された場合には、終了する(開始に戻る)。
これに対し、前記ステップ16で、シフトレバーの選択位置が後退位置(Rレンジ)であると判定された場合には、続くステップ17で、車両が走行中であるか否かを判定する。この判定は、前記ステップ3、7と同様にして行う。この様なステップ17で、車両の走行速度(Vkm/h)が0km/hである(走行中でない)と判定された場合には、前記フラグをクリアし(F_DN=0、F_RN=0にし)、丸付き数字3に進む(通常の後退方向の発進制御を行う)と共に、終了する(開始に戻る)。この場合には、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、潤滑油(トラクションオイル)の温度等、出力させるべき駆動力に影響を及ぼす状態量に応じて定まる、その時点の最適な駆動力を、前記出力軸4から出力させられる値(後退方向の最適なクリープ力を出力できる値)に調節すると共に、終了する(開始に戻る)。
一方、前記ステップ17で、前記走行速度(Vkm/h)が0km/hよりも大きい(走行中である)と判定された場合には、続くステップ18で、車両が前進しているか否か(F_DN=1か否か)を判定する。この判定は、前記ステップ8と同様にして行う。
この様なステップ18で、車両が前進していない(後退している)と判定された場合には、丸付き数字4に進む(後退方向の通常の変速制御を行う)と共に、終了する(開始に戻る)。この場合には、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、ステッピングモータ17の駆動に基づいて、その時点の走行状態(車速、アクセル開度等)に応じた目標変速比に調節する(後退方向の通常の変速制御を行う)。
一方、前記ステップ18で、車両が前進していると判定された場合には、前記ステップ1、6、16〜18の判定に基づいて、車両が前進しているにも拘らず、シフトレバーが走行方向とは逆方向である後退位置(Rレンジ)に操作された事になる。この為、続くステップ19で、この様な車両の走行速度(Vkm/h)が所定速度(Va km/h、例えば20km/h)未満であり、低速走行中であるか否かを判定する。そして、低速走行中であると判定されれば、続くステップ20に進み、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8)の接続状態を維持したまま、続くステップ22に進む。
これに対して、前記ステップ19で、車両の走行速度(Vkm/h)が所定速度(Va km/h、例えば20km/h)以上であり、中速乃至高速走行中であると判定された場合には、ステップ21に進む。そして、前記クラッチ装置7の接続を断った後(それまで接続されていた低速用クラッチ8と高速用クラッチ9とのうちの一方のクラッチの接続を断つ事で、これら低速用クラッチ8と高速用クラッチ9との両方のクラッチの接続を断った後)、続くステップ22に進む。
そして、前記ステップ22では、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)の接続が完了しているか否かを判定する。この様な判定は、前述したステップ12の場合と同様である。そして、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)の接続が完了していると判定された場合には、続くステップ23で、前記トロイダル型無段変速機1の目標変速比をGN値(1.306)に設定する。そして、続くステップ24で、エンジンブレーキ力に基づいて車両を減速、停止させるべく、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を、所定の条件、例えば変速速度βで、GN値に向けて変速させる{変速を開始すると共に終了する(開始に戻る)}。尚、この変速は、前記ステッピングモータ17の駆動に基づいて行う。
前記変速速度βも、予め実験、シミュレーション等により、車両の挙動の急変化、並びに、この車両や無段変速装置の損傷が生じない値の範囲内で、無段変速装置の速度比を、連続的に、且つ、可及的速やかに減速できる値(本例の場合にはβを運転者のアクセルペダルの踏み込みに応じて大きくなる可変値とし、その上限値を例えばステッピングモータの駆動速度で1step/20ms)に設定しておく。この様に設定した変速速度βで、前記トロイダル型無段変速機1の変速比をGN値に向けて変化させれば、上述の様な車両の挙動の急変化や損傷を生じる事なく、エンジンブレーキ力に基づいて車両を、減速、停止させられる。尚、前記トロイダル型無段変速機1の変速比がGN値に調節され、車両が停止した場合には、前記ステップ17で車両が停止していると判定される。即ち、この様に車両が停止すると、このステップ17で丸付き数字3に進み、シフトレバーの選択位置に応じた(後退方向の)発進制御が行われる。又、前記トロイダル型無段変速機1の変速比がGN値に調節される以前にシフトレバーが操作された場合には、前記ステップ1、6、16で、その操作された位置に応じた判定がされ、その判定に応じた変速制御が行われる。尚、この様なステップ19→ステップ20→ステップ22→ステップ23→ステップ24の制御も、前記制御器16が有する第一の機能に基づく制御(ガレージシフト変速制御)である。
これに対して、前記ステップ22で、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)の接続が完了していない、言い換えれば、このクラッチ装置7の接続が断たれた状態が維持されていると判定された場合には、前記ステップ15に進み、前記制御器16のメモリに予めマップ(MAP)や式として記憶されている、前記アクセル開度並びに前記車速(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との相関関係に基づき、無段変速装置の速度比(トロイダル型無段変速機1の変速比)を、その時点の状態量(車速、アクセル開度等)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。尚、この様なステップ19→ステップ21→ステップ22→ステップ15の制御も、前記制御器16が有する第二の機能に基づく制御である。
上述した様な手順に沿って本例の変速制御を実行した場合、車両の走行速度(トロイダル型無段変速機1の変速比)とシフトレバーの操作位置とクラッチの断接状態との関係は、図5に示した様になる。尚、図5の上段及び下段に示した走行速度とクラッチの断接状態のうち、実線が本例による変速制御を実行した場合を示しており、一点鎖線が従来構造による変速制御を実行した場合を示している。図5からも明らかな通り、車両が前進方向(後進方向)に所定速度(Va =20km/h)以上の速度で走行している状態で、シフトレバーがDレンジからNレンジを介してRレンジに操作(RレンジからNレンジを介してDレンジに操作)された場合にも、シフトレバーがDレンジからNレンジに操作(RレンジからNレンジに操作)されるまでの間では、従来構造の場合と本例の場合とで違いはない。但し、NレンジからRレンジに操作(NレンジからDレンジに操作)された場合に、次の様な違いを生じる。
即ち、従来構造の場合には、ガレージシフト変速制御が実行される為、NレンジからRレンジ(Dレンジ)に操作された直後に、クラッチ装置7(低速用クラッチ8又は高速用クラッチ9)が接続され、無段変速装置の速度比を0に変化させる(トロイダル型無段変速機1の変速比をGN値に調節する)。この為、車両の走行速度は、高速状態から低下(減速)する。そして、この様な減速状態で運転者がアクセルペダルを踏み込んだとすると、車両は急減速する(一点鎖線の傾斜角度がより直角に近くなる)。
これに対し、本例の場合には、NレンジからRレンジ(Dレンジ)に操作された場合にも、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)が接続されず、接続を断った状態のまま、無段変速装置の速度比(トロイダル型無段変速機1の変速比)を、その時点の状態量(車速、アクセル開度等)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する(通常の変速制御を行う)。この為、車両の走行速度は、その後、緩やかに低下している。そして、この様な通常の変速制御を、車両の速度が所定速度(Va =20km/h)未満になるまで行い、所定速度未満(低速走行)になった時点で、ガレージシフト変速制御の実行に移行する。即ち、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8)を接続し、無段変速装置の速度比を、その時点の走行状態に応じた値から0まで変化させる(トロイダル型無段変速機1の変速比をGN値に調節する)。この為、車両の走行速度は、低速状態から低下(減速)する。又、車両の走行速度が所定速度未満になるまでは、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)が接続されない為、この間に運転者がアクセルペダルを踏み込んだ場合にも、エンジン5の回転数が上昇するだけで、車両の走行速度が変化(急減速)する事はない。
前述の様に構成し上述の様に動作する、本例の車両用無段変速装置によれば、車両が中速乃至高速走行している状態で、シフトレバーがその時点の車両の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合にも、運転者のアクセル操作に拘わらず車両が急減速する事を防止できて、中速乃至高速走行時の安全性を維持できる。
即ち、本例の場合には、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度(例えば20km/h)以上である場合には、前記トロイダル型無段変速機1と遊星歯車式変速機2との間で動力を伝達する前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)の接続が断たれる。この為、駆動原であるエンジン5の駆動力がそれ以上車輪に伝達される事を防止できる。従って、例えば運転者が進行方向への加速を意図してアクセルペダルを踏み込んだ場合にも、この様なアクセルペダルの操作に伴って車両が急減速する事を防止できる。しかも、アクセルペダルを踏み込む事によりエンジン回転数が上昇する(吹き上がる)為、これによりシフトレバーの選択位置が適正でない(誤操作が行われた事)を運転者に知らせる事もできる。更に、車両の走行速度が所定速度以上(中速乃至高速)である場合には、前記無段変速装置の速度比をその時点の走行状況に応じた値に変化させる(進行方向に応じた通常の変速制御を行う)為、車両を緩やかに減速させる事ができる。この為、運転者に与える違和感(運転者の混乱)を十分に抑えつつ、フェールセーフ性を確保できて、中速乃至高速走行時の安全性を維持できる。尚、エンジンの吹き上がりによっては、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作されている事までは運転者に知らせる事ができないが、少なくとも進行方向の選択位置に操作されていない事を知らせる事ができる(運転者はNレンジが選択されていると誤解する可能性があるが、この様に誤解した場合にもシフトレバーの選択位置が適正でない事を知らせるには十分である)。
又、車両の走行速度が所定速度未満(低速走行)である場合には、従来構造の場合と同様に、ガレージシフト変速制御を実行する。即ち、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8)を接続し、前記無段変速装置の速度比を車両の停止状態を実現できる0に調節する(トロイダル型無段変速機の変速比をGN値に調節する)。従って、車両の挙動が急激に変化(例えば急減速、タイヤロック、エンスト等)したり、この車両や変速装置が損傷(例えばプロペラシャフトの折損、変速装置内部の破損、クラッチバースト等)する事を防止し、安全且つ迅速に、この車両を減速、停止させられる。
以上の様に、本例の場合には、車両の走行速度を判定し、所定速度未満(低速走行中)であれば、従来構造の場合と同様にガレージシフト変速制御を実行し、所定速度以上(中速乃至高速走行中)の場合には、ガレージシフト変速制御を実行せずに、前記クラッチ装置7(低速用クラッチ8及び高速用クラッチ9)の接続を断った状態で、進行方向に応じた通常の変速制御を実行する。従って、この様な本例の構造によれば、低速走行時での、安全且つ迅速な、減速、停止、更にはシフトレバーの選択位置に応じた走行の実現と、中速乃至高速走行時の安全性の維持との両立を図れる。
1 トロイダル型無段変速機
2 遊星歯車式変速機
3 入力軸
4 出力軸
5 エンジン
6 ダンパ
7 クラッチ装置
8 低速用クラッチ
9 高速用クラッチ
10 入力側ディスク
11 出力側ディスク
12 パワーローラ
13 アクチュエータ
14 押圧装置
15 変速比制御ユニット
16 制御器
17 ステッピングモータ
18 ローディング圧制御用電磁開閉弁
19 モード切換制御用電磁開閉弁
20 低速クラッチ用電磁弁
21 高速クラッチ用電磁弁
22 制御弁装置
23 変速比制御弁
24 押圧力調整弁
25 オイルポンプ
26 油溜
27a、27b 油圧室
28a、28b 油圧センサ
29 油温センサ
30 入力側回転センサ
31 出力側回転センサ
32 出力軸回転センサ
33 アクセルセンサ
34 プライマリーライン
35 手動油圧切換弁
36 減圧弁
37 ポジションスイッチ

Claims (4)

  1. 無段変速機構と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動機構とを、クラッチ装置により動力の伝達経路を切り換え自在とした状態で組み合わせ、このうちの無段変速機構の変速比の調節に基づいて、前記差動機構を構成する複数の歯車の相対的変位速度を変化させる事で、駆動源により入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換自在とした車両用無段変速装置に於いて、
    この無段変速装置の速度比を調節する制御器は、シフトレバーがその時点の走行方向と逆方向の選択位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度未満の場合には、前記クラッチ装置を接続したままの状態で、前記無段変速装置の速度比を、その時点の走行状態に応じた値から、前記停止状態を実現できる0まで変化させる第一の機能と、車両の走行速度が所定速度以上である場合には、前記クラッチ装置の接続を断ち、このクラッチ装置の接続を断ったままの状態で、前記無段変速装置の速度比を、その時点の走行状況に応じた値に変化させる第二の機能とを備える事を特徴とする車両用無段変速装置。
  2. クラッチ装置は、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチと、この高速モードを実現する際に接続されて前記低速モードを実現する際に接続を断たれる高速用クラッチとを備えたものであり、車両が前進走行中にシフトレバーが後退位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度以上である場合には、それまで接続されていた前記低速用クラッチと前記高速用クラッチとのうちの一方のクラッチの接続を断つ事で、これら低速用クラッチと高速用クラッチとの両方のクラッチの接続を断つ、請求項1に記載した車両用無段変速装置。
  3. クラッチ装置は、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチと、この高速モードを実現する際に接続されて前記低速モードを実現する際に接続を断たれる高速用クラッチとを備えたものであり、車両が後退走行中にシフトレバーが前進位置に操作された場合に、車両の走行速度が所定速度以上である場合には、それまで接続されていた前記低速用クラッチの接続を断つ事で、この低速用クラッチと前記高速用クラッチとの両方のクラッチの接続を断つ、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した車両用無段変速装置。
  4. 車両の走行速度が所定速度未満の場合には、無段変速装置の速度比を、停止状態を実現できる0まで、予め設定した条件に沿って変化させた後、シフトレバーの当該操作位置に応じた値に調節する、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した車両用無段変速装置。
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