[低分子化合物(A)]
低分子化合物(A)は、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の一方または双方の末端に結合した芳香族基とを含む長鎖を有する。さらに、この長鎖において、上記炭素原子鎖および上記芳香族基にわたるπ電子共役系が形成されている。低分子化合物(A)がこのような分子構造を有することは、低分子化合物(A)が位相差フィルムの波長分散性を調整する調整剤として機能し、本発明の位相差フィルムが実現するために必要である。
本発明の位相差フィルムは、低分子化合物(A)と、負の固有複屈折を有する重合体(B)とを含む樹脂組成物の延伸配向体からなる。低分子化合物(A)および重合体(B)は、この延伸配向体において、基本的に同一方向に配向する。重合体(B)は負の固有複屈折を有しており、配向した状態で、当該重合体(B)の配向軸の方向が光学的な進相軸となる。一方、低分子化合物(A)は、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の末端に結合した芳香族基とを含む長鎖を有し、その分子鎖が伸びる方向、すなわち低分子化合物(A)の配向方向、に大きく、当該方向に垂直な方向に小さい、静電分極の異方性を有する。これは、低分子化合物(A)が、その配向方向に光学的な遅相軸を有することを意味する。このため、重合体(B)の延伸、配向により生じる複屈折の波長分散性が低分子化合物(A)により打ち消される。
これに加えて、低分子化合物(A)では、上記炭素原子鎖および上記芳香族基にわたるπ電子共役系が形成されている。これは、ある長さ以上の共役長を有するπ共役系が低分子化合物(A)に形成されていることを意味する。このような低分子化合物(A)は紫外域に強い吸収ピークを有する。この吸収ピークの裾野に影響を受けるかたちで、重合体(B)の延伸、配向により生じる複屈折の波長分散性が低分子化合物(A)によって打ち消される程度が、可視光域における紫外域近傍の領域と、紫外域から離れた領域との間で変化する。これらにより、低分子化合物(A)は、位相差フィルムの波長分散性を調整する調整剤としての機能を有し、本発明の位相差フィルムが実現される。
低分子化合物(A)は、上述した分子構造を有する限り、限定されない。
低分子化合物(A)が有する長鎖とは、上記炭素原子鎖における主鎖(炭素原子鎖において、最も長い炭素原子鎖長を有する鎖)の炭素原子鎖長と、上記芳香族基の炭素原子鎖長との合計が、例えば、7以上の鎖をいい、当該合計は、10以上が好ましく、12以上がより好ましい。なお、芳香族基における炭素原子鎖長とは、当該基における芳香環の外周部分の炭素数(芳香環が複素環である場合は、炭素数+複素元素数)を2で除した後に1を足した数であり、例えば、フェニル基、アルコキシフェニル基の場合は4、ナフチル基の場合は6である。
低分子化合物(A)が有する長鎖は、典型的には、1つである。低分子化合物(A)が有する当該長鎖が1つであることにより、低分子化合物(A)における分子鎖が伸びる方向と、当該方向に垂直な方向との間の静電分極の異方性がより強くなる。このような低分子化合物(A)では、可視光域における紫外域近傍の領域と紫外域から離れた領域との間で、重合体(B)の延伸、配向により生じる複屈折の波長分散性が打ち消される程度の変化が大きくなる。すなわち、低分子化合物(A)によって位相差フィルムの波長分散性が調整される範囲が大きくなり、設計の自由度がさらに高い位相差フィルムが実現する。
低分子化合物(A)が有する長鎖は、典型的には、上記炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の一方または双方の末端に結合した芳香族基とにより構成される。このような長鎖を有する低分子化合物(A)では、その分子鎖が伸びる方向と、当該方向に垂直な方向との間の静電分極の異方性がより強くなる。
低分子化合物(A)は上記長鎖からなることが好ましく、この場合、低分子化合物(A)の分子鎖が伸びる方向と、当該方向に垂直な方向との間の静電分極の異方性がより強くなる。
低分子化合物(A)は、炭素原子鎖の双方の末端に芳香族基が結合していることが好ましい。すなわち、低分子化合物(A)は、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の双方の末端に結合した芳香族基とを含む長鎖を有することが好ましい。このような長鎖を有する低分子化合物(A)では、その分子鎖が伸びる方向と、当該方向に垂直な方向との間の静電分極の異方性がより強くなる。また、このような低分子化合物(A)は、比較的合成が容易である。
炭素原子鎖は、直鎖であっても分岐を有していてもよいが、上記静電分極の異方性がより大きいことから、直鎖が好ましい。
炭素原子鎖の主鎖は、4以上の炭素原子鎖長を有することが好ましい。このような炭素原子鎖と、その末端に結合した芳香族基とを含む長鎖を有する低分子化合物(A)によれば、上記静電分極の異方性がさらに大きくなる。
炭素原子鎖の主鎖における炭素原子鎖長の上限は限定されないが、過度に原子鎖長が長くなると、位相差フィルムを製造する際に加えられる熱によって低分子化合物(A)が酸化分解されやすくなるため、例えば18であり、12程度がより好ましい。
炭素原子鎖は、炭化水素鎖が好ましい。炭化水素鎖である炭素原子鎖は、例えば、炭素−炭素不飽和結合と炭素−炭素飽和結合とが交互に存在する鎖である。このような炭素原子鎖は剛直であり、上記静電分極の異方性がより強くなる。
上記π電子共役系が形成される限り、炭素原子鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子が他の原子によって置換されていてもよく、例えば、酸素原子によって置換されていてもよい。より具体的な例として、上記長鎖が、炭素原子鎖を構成する炭素原子に炭素−酸素二重結合を介して結合した酸素原子を含んでもよい。この場合においても、低分子化合物(A)における上記静電分極の異方性が強くなる。なお、当該酸素原子は、炭素−酸素二重結合を介して結合している炭素原子とともに、π共役ケトン構造を形成している。
炭素原子鎖は、その主鎖内にベンゼン環を有していてもよい。この場合、ベンゼン環部分における炭素原子鎖長は、当該環におけるp(パラ)位で主鎖と結合しているときは「4」、m(メタ)位で主鎖と結合しているときは「3」、o(オルト)位で主鎖と結合しているときは「2」となる(図1を参照)。なお、炭素原子鎖の主鎖中にベンゼン環が存在する場合においても、当該炭素原子鎖に分岐が存在しない場合、当該炭素原子鎖は直鎖である。炭素原子鎖の主鎖中に存在するベンゼン環は、置換基を有さないことが好ましい。
低分子化合物(A)において、炭素原子鎖の少なくとも一方の末端に位置する芳香族基は、当該芳香族基と当該炭素原子鎖とにわたるπ電子共役系が形成される限り、限定されない。芳香族基には、縮合環であってもよい多環式芳香族化合物ならびに複素芳香族化合物が含まれる。具体的な芳香族基は、例えば、フェニル基、アルコキシフェニル基、カルボキシフェニル基、アルキルオキシカルボニルフェニル基、シアノフェニル基、クロロフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピリジン基、チオフェニル基、オキサゾイル基、ベンゾトリアゾール基、カルバゾイル基、インドール基、トリアジン基である。炭素原子鎖の両末端に芳香族基が結合している場合、これらの芳香族基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
低分子化合物(A)は、例えば、以下の式(1)に示す分子構造を有する。
式(1)において、Ar1は芳香族基である。Yは、エチレン基(−C=C−)またはアセチレン基(−C≡C−)である。Z1は、炭素−炭素不飽和結合を有する、炭素原子鎖長が2以上16以下の炭素原子鎖を含む基、または式(−Z2−Ar2)により示される基である。ここで、Ar2は芳香族基、Z2は、単結合、または炭素−炭素不飽和結合を有する、炭素原子鎖長が2以上13以下の炭素原子鎖を含む基である。
Ar1およびAr2は、例えば、フェニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基を有するアルコキシフェニル基、カルボキシフェニル基、アルキルオキシカルボニルフェニル基、シアノフェニル基、クロロフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピリジン基、チオフェニル基、オキサゾイル基、ベンゾトリアゾール基、カルバゾイル基、インドール基、トリアジン基である。Ar1およびAr2はフェニル基が好ましく、この場合、上記静電分極の異方性が大きくなり、可視光域における紫外域近傍の領域と紫外域から離れた領域との間で、重合体(B)の延伸、配向により生じる複屈折の波長分散性が打ち消される程度の変化が大きくなる。Ar1とAr2とは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
Yは、上記静電分極の異方性が大きくなることから、置換基を有さないことが好ましい。
Z1は、上記静電分極の異方性が大きくなることから、式(−Z2−Ar2)により示される基が好ましく、この場合、Ar1およびAr2が互いに同一であることがさらに好ましい。
Z1およびZ2は、上述した炭化水素鎖からなる基が好ましい。Z1およびZ2は、炭素原子鎖を構成する炭素原子に炭素−酸素二重結合を介して結合した酸素原子を含む基が好ましい。
Z1およびZ2を構成する炭素原子鎖は、直鎖であっても分岐を有していてもよいが、上記静電分極の異方性が大きいことから、直鎖が好ましい。
Z1およびZ2を構成する炭素原子鎖は、その主鎖内にベンゼン環を有していてもよく、この場合、ベンゼン環部分における炭素原子鎖長は上述したとおりである。Z1およびZ2を構成する炭素原子鎖の主鎖中にベンゼン環が存在する場合においても、当該炭素原子鎖に分岐が存在しない場合、当該炭素原子鎖は直鎖とする。Z1およびZ2を構成する炭素原子鎖に存在するベンゼン環は、置換基を有さないことが好ましい。Z1およびZ2を構成する炭素原子鎖における炭素原子鎖長の上限は、過度に原子鎖長が長い場合、位相差フィルムの製造時に加えられる熱によって低分子化合物(A)が酸化分解されやすくなるため、例えば、Z1について16であり、Z2について13であり、Z1およびZ2の双方について8程度が好ましい。
Z1は、例えば、以下の式(2)、(3)に示す炭化水素基である。式(2)、(3)におけるn1は、0以上の整数である。式(2)、(3)に示す炭化水素基は、1以上の炭素−炭素不飽和結合を有する。式(2)、(3)に示す炭化水素基は、n1が1以上の場合、すなわち2以上の炭素−炭素不飽和結合を有する場合、当該不飽和結合(炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合)が交互に配置された構造を有する。n1が0のとき、式(2)に示す炭化水素基は、ビニル基(−CH=CH2)であり、式(3)に示す炭化水素基は、エチニル基(−C≡CH)である。
Z2は、例えば、以下の式(4)、(5)に示す炭化水素基である。式(4)、(5)におけるn2は、1以上の整数である。式(4)、(5)に示す炭化水素基は、1以上の炭素−炭素不飽和結合を有する。式(4)、(5)に示す炭化水素基は、n2が2以上の場合、すなわち2以上の炭素−炭素不飽和結合を有する場合、当該不飽和結合(炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合)が交互に配置された構造を有する。
低分子化合物(A)の具体例を、以下の式(6)〜(8)に示す。これらの具体例では、Yがエチレン基、Z1が式(−Z2−Ar2)により示される基であり、Ar1およびAr2が互いに同一である。
式(6)に示す化合物は、1,9−ジフェニル−1,3,6,8−ノナテトラエン-5-オンである。当該化合物は、炭素−炭素二重結合が交互に配置された、炭素原子鎖長が9の炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の双方の末端に結合したフェニル基とにより構成される、炭素原子鎖長が17の長鎖からなる。当該炭素原子鎖および当該長鎖は、直鎖である。当該炭素原子鎖は、当該炭素原子鎖を構成する炭素原子に炭素−酸素二重結合を介して結合した酸素原子を含む。すなわち、主鎖にπ共役ケトン構造を有する。式(1)に示す分子構造にあてはめると、Ar1がフェニル基、Yがエチレン基、Zが式(−Z2−Ar2)により示される基であり、Ar2がフェニル基、Z2が、主鎖にケトン構造を有する、炭素原子鎖長が7の炭素原子鎖からなる基である。
式(7)に示す化合物は、1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエンである。当該化合物は、炭素−炭素二重結合が交互に配置された、炭素原子鎖長が6の炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の双方の末端に結合したフェニル基とにより構成される、炭素原子鎖長が14の長鎖からなる。当該炭素原子鎖および当該長鎖は、直鎖である。当該炭素原子鎖は、炭化水素鎖である。式(1)に示す分子構造にあてはめると、Ar1がフェニル基、Yがエチレン基、Zが式(−Z2−Ar2)により示される基であり、Ar2がフェニル基、Z2が、炭素原子鎖長4の炭化水素鎖からなる炭化水素基である。
式(8)に示す化合物は、トランススチルベンである。当該化合物は、炭素−炭素二重結合を1つ有する、炭素原子鎖長が2の炭素原子鎖と、当該炭素原子鎖の双方の末端に結合したフェニル基とにより構成される、炭素原子鎖長が10の長鎖からなる。当該炭素原子鎖および当該長鎖は、直鎖である。当該炭素原子鎖は、炭化水素鎖である。式(1)に示す分子構造にあてはめると、Ar1がフェニル基、Yがエチレン基、Zが式(−Z2−Ar2)により示される基であり、Ar2がフェニル基、Z2が単結合である。
式(6)〜(8)に示す化合物において、両末端のフェニル基を繋ぐ上記炭素原子鎖は、全て分岐を有さない直鎖である。
低分子化合物(A)の分子量は特に限定されないが、例えば、200〜1000であり、250〜750が好ましい。分子量が過度に小さいと、位相差フィルム製造時に低分子化合物(A)のブリードアウトが起きやすくなる。一方、分子量が過度に大きくなると、重合体(B)との相溶性が低下する。
[重合体(B)]
重合体(B)は、負の固有複屈折を有する限り限定されない。固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、フィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。
重合体(B)は、例えば、スチレン系重合体である。
スチレン系重合体は、スチレン系単量体の重合により形成される構成単位が、全構成単位の50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上を占める重合体である。スチレン系単量体は、スチレンならびにスチレンにおけるフェニル基またはビニル基に置換基を有するスチレン誘導体であり、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、クロロスチレンである。
固有複屈折が負である限り、スチレン系重合体は、スチレン系単量体の重合により形成される構成単位以外の構成単位を有していてもよい。当該構成単位は、例えば、以下の単量体の重合により形成される構成単位である:(メタ)アクリル酸メチル、アクリロニトリル、ブタジエン、マレイミド。
スチレン系重合体の具体的な例は、ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体である。
[樹脂組成物]
本発明の位相差フィルムは、低分子化合物(A)と重合体(B)とを含む樹脂組成物の延伸配向体からなる。この樹脂組成物の固有複屈折は負である。
樹脂組成物における固有複屈折の正負は、樹脂組成物を一軸配向させた層(例えば、フィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における樹脂組成物中の重合体の分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n3から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n4を引いた値「n3−n4」に基づいて判断できる。
樹脂組成物における低分子化合物(A)の含有率は、位相差フィルムとして得たい波長分散性に応じて調整すればよく、特に限定されない。当該含有率は、例えば、樹脂組成物100重量部に対して、0.1〜30重量部であり、1〜20重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
樹脂組成物は、低分子化合物(A)および重合体(B)からなってもよい。
樹脂組成物は、位相差フィルムに使用できるだけの十分な相溶性を互いに有する限り、2種以上の重合体(B)を含んでいてもよい。
樹脂組成物は、樹脂組成物としての固有複屈折が負であるとともに、位相差フィルムに使用できるだけの十分な相溶性を重合体(B)に対して有する限り、正の固有複屈折を有する重合体をさらに含んでいてもよい。
正の固有複屈折を有する重合体は、例えば、主鎖に環構造を有するアクリル重合体(C)である。主鎖に環構造を有するアクリル重合体(C)はガラス転移温度(Tg)が高いため、樹脂組成物が重合体(C)をさらに含むことにより、位相差フィルムの耐熱性が向上する。耐熱性が向上した位相差フィルムは、光源などの発熱部の近傍に配置できるなど、画像表示装置への使用に好適である。また、重合体(C)は、スチレン系重合体との相溶性が高い。
アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する重合体である。アクリル重合体が有する全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位の割合の合計は、通常50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。なお、ラクトン環構造など、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造が重合体の主鎖に存在する場合、その全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位の割合と、当該重合体における環構造の含有率との合計が50重量%以上であればアクリル重合体とする。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの各(メタ)アクリル酸エステルの重合により形成される構成単位である。重合体(C)は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、これらの構成単位を2種以上有してもよい。重合体(C)は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、位相差フィルムの光学特性および表面の硬度が向上する。
環構造は、例えばラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造およびN−置換マレイミド構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造は、重合体(C)のガラス転移温度(Tg)を上昇させ、位相差フィルムの耐熱性を向上させる。
環構造は、環構造としての安定性に優れること、光学特性に優れる位相差フィルムが得られることから、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。
重合体(C)が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば特開2004-168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体(前駆体を環化縮合反応させることで、ラクトン環構造を主鎖に有する重合体が得られる)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応によって高いラクトン環含有率を有する重合体が得られること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から、以下の式(9)に示す構造が好ましい。
式(9)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでもよい。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
ラクトン環構造は、分子鎖内に水酸基およびエステル基を有する前駆体を脱アルコール環化縮合させて形成できる。式(9)に示すラクトン環は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)との共重合体を形成した後、当該共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させることで形成できる。このとき、R1はH、R2およびR3はCH3である。
重合体(C)が主鎖にラクトン環構造を有する場合、重合体(C)におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されないが、通常10〜70重量%であり、20〜60重量%が好ましい。また、当該含有率は、25〜55重量%、30〜55重量%になるほど、さらに好ましい。
重合体(C)におけるラクトン環構造の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めることができる。最初に、ラクトン環構造を有する重合体(C)に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とする。150℃は、重合体(C)に残存する水酸基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、重合体(C)の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体である重合体に含まれる全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とする。理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。なお、前駆体の組成は、重合体(C)の組成から導くことが可能である。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)により、重合体(C)の脱アルコール反応率を求める。重合体(C)では、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、重合体(C)におけるラクトン環構造の含有率を求めることができる。
重合体(C)は、以下の式(10)に示す環構造を主鎖に有してもよい。
式(10)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR6は存在せず、X1が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X1が窒素原子のとき、式(10)に示す環構造は、グルタルイミド構造である。グルタルイミド構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えば(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
X1が酸素原子のとき、式(10)に示す環構造は、無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えば(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
重合体(C)は、以下の式(11)に示す環構造を主鎖に有してもよい。
式(11)におけるR7およびR8は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR9は存在せず、X2が窒素原子のとき、R9は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X2が窒素原子のとき、式(11)に示す環構造は、N−置換マレイミド構造である。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えばN−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
X2が酸素原子のとき、式(11)に示す環構造は、無水マレイン酸構造である。無水マレイン酸構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えば無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
重合体(C)が式(10)、(11)に示す環構造を主鎖に有する場合、重合体(C)における式(10)、(11)に示す環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量であり、10〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。
重合体(C)のTgは、主鎖に環構造を有することから、通常110℃以上である。環構造の種類およびその含有率によっては、重合体(C)のTgは、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。
重合体(C)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位以外の構成単位を有していてもよい。当該構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレンなどの各単量体の重合により形成される構成単位である。重合体(C)がこれらの構成単位を有する場合、スチレン系単量体に対する重合体(C)の相溶性がさらに高くなる。重合体(C)は、これらの構成単位を2種以上有してもよい。
重合体(C)の重量平均分子量は、例えば1000〜300000の範囲であり、5000〜250000の範囲が好ましく、10000〜200000の範囲がより好ましく、50000〜200000の範囲がさらに好ましい。
重合体(C)は、公知の方法により製造できる。ラクトン環構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えば特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007-63541号公報に記載の方法により製造できる。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する重合体(C)、無水グルタル酸構造を主鎖に有する重合体(C)およびグルタルイミド構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えば特開2007-31537号公報、国際公開第2007/26659号、国際公開第2005/108438号に記載の方法により製造できる。無水マレイン酸構造を主鎖に有する重合体(C)は、例えば特開昭57-153008号公報に記載の方法により製造できる。
重合体(B)がスチレン系重合体であり、樹脂組成物が、主鎖に環構造を有するアクリル重合体(C)をさらに含む場合、樹脂組成物におけるスチレン系重合体の含有率は、例えば、25重量%以上である。
樹脂組成物は、本発明の位相差フィルムが得られる限り、低分子化合物(A)、重合体(B)およびその他の重合体以外の任意の材料を含んでいてもよい。当該材料は、例えば、酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤である。樹脂組成物におけるこれらの材料の含有率は、例えば0〜5重量%であり、0〜2重量%が好ましく、0〜0.5重量%がより好ましい。
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、低分子化合物(A)と重合体(B)とを含む、負の固有複屈折を有する樹脂組成物の延伸配向体からなる。本発明の位相差フィルムは、その延伸方向に光学的な進相軸を有する負の位相差フィルムである。
本発明の位相差フィルムは、低分子化合物(A)の添加により、逆波長分散性、または当該フィルムを構成する樹脂組成物に含まれる重合体の組成は同一であるが当該化合物(A)が含まれない場合に比べてよりフラットな波長分散性を示す。低分子化合物(A)の種類および樹脂組成物(位相差フィルム)における低分子化合物(A)の含有率によっては、本発明の位相差フィルムは逆波長分散性を示す。
低分子化合物(A)と重合体(B)とを含む樹脂組成物から、本発明の位相差フィルムを得る方法は特に限定されない。例えば、樹脂組成物を成形して得た原フィルムを延伸すればよい。
原フィルムは、低分子化合物(A)と重合体(B)とを含む樹脂組成物に対して、溶融押出あるいはキャストなどの公知のフィルム成形手法を適用することで製造できる。原フィルムの延伸は、一軸延伸(自由端一軸延伸、固定端一軸延伸など)または二軸延伸(逐次二軸延伸、同時二軸延伸など)などの公知の延伸法に基づいて実施すればよい。
本発明の位相差フィルムの用途は特に限定されず、従来の位相差フィルムと同様の用途、例えば、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)などの画像表示装置に使用が可能である。
具体的には、本発明の位相差フィルムは、LCDの光学補償部材として好適である。例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCDなどの各種LCDの位相差フィルム、光学補償フィルム、偏光板との積層フィルム、偏光板光学補償フィルムに好適に使用できる。本発明の位相差フィルムの好ましい光学特性は、使用する液晶の表示モードによって異なる。
本発明の位相差フィルムは、LCDの偏光板に用いる偏光子保護フィルムとして好適である。
本発明の位相差フィルムは、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、本発明の位相差フィルムを備える。これにより、画像表示特性に優れる、例えば、高コントラストかつ広視野角の画像表示装置となる。本発明の画像表示装置は、例えば、LCDである。
[波長分散性調整剤]
本発明を別の側面から見ると、低分子化合物(A)は、負の位相差フィルムの波長分散性を調整する波長分散性調整剤である。
すなわち、本発明は、低分子化合物(A)の、負の固有複屈折を有する樹脂組成物の延伸配向体からなる位相差フィルム(負の位相差フィルム)の波長分散性を調整する波長分散性調整剤としての使用方法、を含む。波長分散性の調整の方向は、位相差フィルムが逆波長分散性を示す方向、あるいは位相差フィルムを構成する樹脂組成物に含まれる重合体の組成は同一であるが当該化合物(A)が含まれない場合に比べて、よりフラットな波長分散性を示す方向である。樹脂組成物は、負の固有複屈折を有する重合体(B)を含む。低分子化合物(A)の種類および樹脂組成物における低分子化合物(A)の含有率によっては、当該使用方法は、低分子化合物(A)の、負の固有複屈折を有する樹脂組成物の延伸配向体からなる位相差フィルム(負の位相差フィルム)の波長分散性を逆波長分散性とする波長分散性調整剤としての使用方法、となる。
同様に、本発明は、負の固有複屈折を有する重合体(B)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂組成物に低分子化合物(A)を添加し、当該化合物(A)を添加した後の樹脂組成物をフィルムに成形し、これを延伸して、逆波長分散性を示すか、あるいは樹脂組成物に含まれる重合体の組成は同一であるが当該化合物(A)が含まれない場合に比べて、よりフラットな波長分散性を示す位相差フィルム(負の位相差フィルム)を製造する方法、を含む。低分子化合物(A)の種類および樹脂組成物における低分子化合物(A)の含有率によっては、当該製造方法は、負の固有複屈折を有する重合体(B)を含む、負の固有複屈折を有する樹脂組成物に低分子化合物(A)を添加し、当該化合物(A)を添加した後の樹脂組成物をフィルムに成形し、これを延伸して、逆波長分散性を示す位相差フィルム(負の位相差フィルム)を製造する方法、となる。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作成した重合体(C)、樹脂組成物および位相差フィルムの評価方法を示す。
[重合体(C)および樹脂組成物のTg]
重合体(C)および樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重合体(C)の重量平均分子量]
重合体(C)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の測定条件に従って求めた:
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSK-GEL SuperHZ-L、4.6X35、1本)、分離カラム(東ソー製、TSK-GEL Super HZM-M、6.0X150、2本直列接続)
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSK-GEL SuperH-RC、6.0X150、2本直列接続)
カラム温度:40℃。
[位相差フィルムの面内位相差Re]
位相差フィルムの面内位相差Reと、その波長分散性は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS-100)を用いて評価した。面内位相差Reは、波長590nmの光に対する値である。
位相差フィルムの面内位相差Reは、式Re=(nx−ny)×dにより示される。ここで、nxは位相差フィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyは位相差フィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内におけるnxと垂直な方向)の屈折率、dは位相差フィルムの厚さ(nm)である。
[位相差フィルムの厚さ方向の位相差Rth]
位相差フィルムの厚さ方向の位相差Rthは、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS-100)を用いて評価した。具体的には、遅相軸を傾斜軸として40°傾斜させて測定した値を基に算出した。厚さ方向の位相差Rthは、波長590nmの光に対する値である。
位相差フィルムの厚さ方向の位相差Rthは、式Rth={(nx+ny)/2−nz}×dにより示される。ここで、nxは位相差フィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyは位相差フィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内におけるnxと垂直な方向)の屈折率、nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率、dは位相差フィルムの厚さ(nm)である。
[樹脂組成物の固有複屈折]
位相差フィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS-100)を用いて測定した配向角の値に基づいて評価した。具体的には、測定対象である樹脂組成物からなる未延伸フィルムを、当該組成物のTgよりも5〜10℃高い温度に加熱した状態で自由端一軸延伸して延伸フィルムを作製した。次に、作製した延伸フィルムの配向角を測定し、測定された配向角が延伸方向に対して0°近傍である場合に樹脂組成物の固有複屈折を正、90°近傍である場合に樹脂組成物の固有複屈折を負とした。
重合体の固有複屈折の正負も、当該重合体からなる未延伸フィルムおよび延伸フィルムを準備することによって、これと同様に評価した。
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積1000Lの反応容器に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50重量部のトルエンおよび酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。続いて、重合溶液を240℃のオートクレーブにより30分間加熱して、環化縮合反応をさらに進行させた。
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)であり、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを備え、リーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μm、濾過面積1.5m2)が先端部に配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=50.0mm、L/D=30)に、樹脂量換算で45kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。脱揮時には、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を、0.68kg/時の投入速度で第1ベントの後ろから、、イオン交換水を、0.22kg/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。これに加えて、負の固有複屈折を有する重合体であるスチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比が73重量%/27重量%、重量平均分子量が22万)を、19kg/時の投入速度でサイドフィーダーから投入した。
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、50重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、Irganox1010)と、失活剤として35重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン200重量部に溶解させた溶液を用いた。
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態の樹脂組成物を、押出機の先端から、ポリマーフィルタによる濾過を行いながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、熱可塑性樹脂組成物(D−1)のペレットを得た。組成物(D−1)のTgは122℃、重量平均分子量は16.1万、固有複屈折は負であった。組成物(D−1)は、重合体(B)としてスチレン系重合体であるスチレン−アクリロニトリル共重合体と、重合体(C)として主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体とを含む。組成物(D−1)における重合体(B)の含有率は30重量%であった。
(製造例2)
サイドフィーダーから投入するスチレン−アクリロニトリル共重合体の投入速度を、19kg/時から23kg/時に変更した以外は、製造例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物(D−2)のペレットを得た。組成物(D−2)における重合体(B)の含有率は34重量%であった。
(参考例1)
製造例1で作製した組成物(D−1)のペレット98重量部と、低分子化合物(A)として上記式(6)に示す1,9−ジフェニル−1,3,6,8−ノナテトラエン-5-オン2重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(E−1)を得た。次に、得られた組成物(E−1)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムをオートグラフ(島津製作所製、AG−1KNX)を用いて、延伸倍率1.8倍、延伸温度129℃(=組成物(E−1)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ110μmの位相差フィルム(F1)を得た。なお、以降の実施例、参考例および比較例における原フィルムの延伸には、上記オートグラフを用いた。
位相差フィルム(F1)の配向角は89.2°であり、すなわち、組成物(E−1)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F1)は負の位相差フィルムであった。
(実施例2)
製造例1で作製した組成物(D−1)のペレット95重量部と、低分子化合物(A)として上記式(6)に示す1,9−ジフェニル−1,3,6,8−ノナテトラエン-5-オン5重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(E−2)を得た。次に、得られた組成物(E−2)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度124℃(=組成物(E−2)のTg+8℃)で自由端一軸延伸して、厚さ116μmの位相差フィルム(F2)を得た。
位相差フィルム(F2)の配向角は88.9°であり、すなわち、組成物(E−2)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F2)は負の位相差フィルムであった。
(実施例3)
製造例1で作製した組成物(D−1)のペレット98重量部と、低分子化合物(A)として上記式(7)に示す1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン2重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(E−3)を得た。次に、得られた組成物(E−3)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度120℃(=組成物(E−3)のTg+3℃)で自由端一軸延伸して、厚さ103μmの位相差フィルム(F3)を得た。
位相差フィルム(F3)の配向角は89.4°であり、すなわち、組成物(E−3)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F3)は負の位相差フィルムであった。
(参考例4)
製造例1で作製した組成物(D−1)のペレット95重量部と、低分子化合物(A)として上記式(8)に示すトランススチルベン5重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(E−4)を得た。次に、得られた組成物(E−4)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度117℃(=組成物(E−4)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ103μmの位相差フィルム(F4)を得た。
位相差フィルム(F4)の配向角は88.5°であり、すなわち、組成物(E−4)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F4)は負の位相差フィルムであった。
(実施例5)
スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比が73重量%/27重量%、重量平均分子量が22万)95重量部と、低分子化合物(A)として上記式(7)に示す1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン5重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(E−5)を得た。次に、得られた組成物(E−5)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度107℃(=組成物(E−5)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ101μmの位相差フィルム(F5)を得た。
位相差フィルム(F5)の配向角は88.0°であり、すなわち、組成物(E−5)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F5)は負の位相差フィルムであった。
(実施例6)
スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比が73重量%/27重量%、重量平均分子量が22万)90重量部と、低分子化合物(A)として上記式(7)に示す1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン10重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(E−6)を得た。次に、得られた組成物(E−6)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度98℃(=組成物(E−6)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ106μmの位相差フィルム(F6)を得た。
位相差フィルム(F6)の配向角は89.7°であり、すなわち、組成物(E−6)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F6)は負の位相差フィルムであった。
(比較例1)
製造例1で作製した組成物(D−1)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度132℃(=組成物(D−1)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ119μmの位相差フィルム(F7)を得た。
位相差フィルム(F7)の配向角は88.4°であり、すなわち、組成物(D−1)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F7)は負の位相差フィルムであった。
(比較例2)
製造例2で作製した組成物(D−2)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度131℃(=組成物(D−2)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ119μmの位相差フィルム(F8)を得た。
位相差フィルム(F8)の配向角は88.5°であり、すなわち、組成物(D−2)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F8)は負の位相差フィルムであった。
(比較例3)
スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比が73重量%/27重量%、重量平均分子量が22万)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度117℃(=当該共重合体のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ111μmの位相差フィルム(F9)を得た。
位相差フィルム(F9)の配向角は88.1°であり、すなわち、位相差フィルム(F9)は負の位相差フィルムであった。
(比較例4)
製造例1で作製した組成物(D−1)のペレット95重量部と、以下の式(12)に示すペンチルベンゼン5重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製、R−60H)を用いて溶融混練して、樹脂組成物(G−1)を得た。次に、得られた組成物(G−1)を240℃でプレス成形して、厚さ180μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。
次に、作製した原フィルムを、延伸倍率1.8倍、延伸温度113℃(=組成物(G−1)のTg+10℃)で自由端一軸延伸して、厚さ103μmの位相差フィルム(F10)を得た。
位相差フィルム(F10)の配向角は88.2°であり、すなわち、組成物(G−1)は負の固有複屈折を有し、位相差フィルム(F10)は負の位相差フィルムであった。
各実施例、参考例および比較例で作製した位相差フィルムについて、波長590nmの光に対する面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthの評価結果、ならびに波長550nmの光に対する面内位相差と、波長450nmの光に対する面内位相差との比(Re450/Re550)を、以下の表1に示す。比(Re450/Re550)が1以上の場合、当該比が1に近いほど、位相差フィルムの波長分散性がフラットとなる。比(Re450/Re550)が1未満の場合、位相差フィルムは逆波長分散性を示し、当該比が1より小さくなるほど、逆波長分散性が強くなる。
これとともに、各実施例、参考例および比較例で作製した位相差フィルムの波長分散性を、図2に示す。図2では、波長550nmの光に対する面内位相差Re550を基準として、当該基準の面内位相差Re550と、その他の波長の光に対する面内位相差Reとの比Re/Re550によって、各実施例、参考例および比較例で作製した位相差フィルムの波長分散性を示す。
表1および図2に示すように、上記式(6)〜(8)に示す低分子化合物(A−1)〜(A−3)の添加により、位相差フィルムの波長分散性が変化し、逆波長分散性、または低分子化合物(A)を添加していない場合に比べてよりフラットな波長分散性となった。特に、上記式(6)、(7)に示す低分子化合物(A−1)、(A−2)を用いた場合、逆波長分散性を示す位相差フィルムが得られた。位相差フィルムの波長分散性を調整する作用は、上記式(6)、(7)に示す低分子化合物(A−1)、(A−2)が強く、上記式(7)に示す低分子化合物(A−2)が最も強かった。