以下、本発明について詳しく説明する。尚、本明細書では、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱い、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。また、「主成分」とは、50重量%以上含有していることを意味する。
本実施の形態にかかる位相差フィルムは、アクリル系重合体を主成分し、共役ジエン単量体を重合して構築される共役ジエン単量体構造単位を必須成分として有する弾性有機微粒子を含有している。
〔弾性有機微粒子〕
上記弾性有機微粒子(以下、単に「有機微粒子」と記する場合がある)は、共役ジエン単量体を重合して構築される共役ジエン単量体構造単位を必須成分とするものである。
位相差フィルムにおける上記弾性有機微粒子の含有割合は、5〜50重量%の範囲内であることが好ましく、10〜40重量%の範囲内であることがより好ましく、15〜30重量%の範囲内であることが更に好ましい。弾性有機微粒子の含有割合が5重量%未満であると、所望の可撓性が得られない場合がある。また、弾性有機微粒子の含有割合が50重量%を超えると、弾性有機微粒子の凝集等によって透明性が低下したり、異物の副生が多くなり、位相差フィルムとして使用できなくなったりする場合がある。
上記弾性有機微粒子における「軟質重合体層」とは、層を構成する単量体組成物を重合した場合に得られる重合体のガラス転移温度(以下、単に「軟質重合体層のガラス転移温度」と記する)が20℃未満となる層である。
尚、上記軟質重合体層のガラス転移温度は、重合体のガラス転移温度を求めるFOXの下記式
1/(Tg+273)=Σ〔wi/(Tgi+273)〕
(式中、wiは単量体iの重量割合、Tgiは単量体iの単独重合体のガラス転移温度(℃)である)
により計算したものである。尚、単量体の単独重合体のTgは「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」(J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT著、1989年、John Wiley & Sons,Inc.発行、ページ:VI/209〜VI/277)を引用した。また、「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」にガラス転移温度が複数記載されている場合は、最も低い値を用いる。
「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」に記載されていない単量体については、ガラス転移温度計算ソフト(製品名:「MATERIALS STUDIO」、:バージョン:4.0.0.0、Accelrys Software Inc.製、モジュール:Synthia、条件:重合平均分子量10万で計算)を用いてコンピューターにより求めた値を用いる。但し、上記ソフトを用いても計算できない場合には、該単量体を単量対組成物から除いて、軟質重合体層のガラス転移温度を計算する。
ガラス転移温度の一例を以下に示す。
1,3−ブタジエン:−109℃
イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン):−73℃
クロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン):−40℃
軟質重合体層のガラス転移温度は、より好ましくは−140〜−40℃の範囲内であり、更に好ましくは−130〜−55℃の範囲内であり、特に好ましくは−125〜−70℃の範囲内である。軟質重合体層のガラス転移温度が−40℃未満であることにより、少量の添加で可撓性を向上させることができる。
上記弾性有機微粒子における軟質重合体層の割合は、20〜80重量%の範囲であることが好ましく、30〜70重量%の範囲であることがより好ましく、40〜60重量%の範囲であることが特に好ましい。
上記軟質重合体層は、共役ジエン単量体を含む単量体組成物を重合することによって得ることができる。上記共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン(以下、単に「ブタジエン」と記する場合がある)、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、ミルセン等が挙げられ、これらは1種類のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。上記共役ジエン単量体としては、ブタジエン及び/又はイソプレンがより好ましい。
上記単量体組成物における共役ジエン単量体以外の成分としては、得られる軟質重合体層の低温側のガラス転移温度が−40℃未満であれば特に制限されないが、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン等のシリコーン成分;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン成分;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の二トリル成分;ウレタン成分;エチレン成分;プロピレン成分;イソブテン成分、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアルキル酸エステル成分等が挙げられる。
また、上記単量体以外の成分として、多官能架橋性単量体及び多官能グラフト単量体を含んでいてもよく、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、アリルマレエート、アリルフマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。これらは単独若しくは2種類以上を併用して用いることができる。
上記単量体組成物における共役ジエン単量体の含有割合は25重量%以上であることが好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上が更に好ましく、90重量%以上が特に好ましい。つまり、上記弾性有機微粒子の軟質重合体層には、共役ジエン単量体構造単位が25重量%以上含有されていることがより好ましい。上記弾性有機微粒子の軟質重合体層には、共役ジエン単量体構造単位が50重量%以上含有されていることが更に好ましく、共役ジエン単量体構造単位が70重量%以上含有されていることが特に好ましく、共役ジエン単量体構造単位が90重量%以上含有されていることが最も好ましい。
上記弾性有機微粒子における軟質重合体層以外の構造としては、ガラス転移温度が20℃以上であれば特に限定はされない。中でも、少なくともアクリロニトリル(以下、「AN」と記する場合がある)とスチレン(以下、「St」と略する場合がある)とからなる単量対組成物を重合して構築される構造、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルを主成分とする単量体組成物を重合して構築される構造が、位相差フィルムを構成するアクリル系重合体との相溶性が高い点で好ましい。位相差フィルムを構成するアクリル系重合体がラクトン環含有重合体である場合には、相溶性の点で、少なくともANとStとからなる単量体組成物を重合して構築される構造が好ましい。
上記弾性有機微粒子が、上述した軟質重合体層以外の構造を有していることにより、アクリル系重合体中での弾性有機微粒子の分散性が改善され、フィルムの透明性が向上し、また、弾性有機微粒子の凝集等によって生じる異物の副生をより抑制することができる。これにより、位相差フィルム成形時における濾過工程を短時間で行うことができる。
上記弾性有機微粒子は、多層構造を有していることがより好ましく、具体的にはコア部とシェル部とを有するいわゆるコア・シェル構造を有する弾性有機微粒子であることがより好ましい。尚、多層構造は何層であっても特にかまわないが、合成の容易さの点で、2層若しくは3層がより好ましい。
コア・シェル構造を有する上記弾性有機微粒子は、中心の部分(コア)に共役ジエン単量体構造単位を必須成分とする構造を有し、中心の部分を囲む部分(シェル)には、位相差フィルムを構成するアクリル系重合体との相溶性が高い構造を有することが好ましい。また、シェル部も2層以上であってもかまわないが、最外層は位相差フィルムを構成するアクリル系重合体との相溶性が高い構造を有することが好ましい。
これより、弾性有機微粒子はアクリル系重合体中でより均一に分散することができ、弾性有機微粒子の凝集等によって生じる異物の副生をより抑制することができる。これにより、位相差フィルム成形時における濾過工程をより短時間で行うことができる。このようなコア部が上述した軟質重合体層であるコア・シェル構造を有する弾性有機微粒子は、例えば、上記弾性有機微粒子の重合時に反応せずに残った反応性官能基(二重結合)をグラフト交叉点として、上述した軟質重合体層以外の構造と成り得る単量体(組成物)をグラフト重合させることにより得ることができる。
上記シェル部としては、位相差フィルムを構成するアクリル系重合体との相溶性が高い構造であれば特には限定されない。位相差フィルムを構成するアクリル系重合体との相溶性が高い構造を有するシェル部を構成する構造としては、例えば、アクリル系重合体が後述するラクトン環含有重合体である場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(以下、MHMAと記す)とメタクリル酸メチル(以下、MMAと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、MHMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸シクロヘキシル(以下、CHMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、CHMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸ベンジル(以下、BzMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、BzMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、HEMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、HEMA/MMA構造と記す)、アクリロニトリル(以下、ANと記す)とスチレン(以下、Stと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、AN/St構造と記す)等が挙げられる。
シェル部がMHMA/MMA構造である場合、MHMAとMMAとの割合は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、弾性有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。また、上記MHMA/MMA構造を有するシェルの場合、ラクトン環構造を含んでいることが好ましい。ラクトン環構造は、上記シェルを形成した後、ラクトン化することにより導入することができる。
上記シェルがCHMA/MMA構造である場合、CHMAとMMAとの割合は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、弾性有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェルがBzMA/MMA構造である場合、BzMAとMMAとの割合は、10:90〜60:40の範囲内であることが好ましく、20:80〜50:50の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、弾性有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェルがHEMA/MMA構造である場合、HEMAとMMAとの割合は、2:98〜50:50の範囲内であることが好ましく、5:95〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、弾性有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェルがAN/St構造である場合、ANとStとの割合は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、弾性有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
中でも、アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性を小さくさせ難い点で、CHMA/MMA構造、BzMA/MMA構造、MHMA/MMA構造を有するシェルが、さらに、MHMA/MMA構造を有するシェルの場合、ラクトン環構造を含んでいることが好ましい。
コア部とシェル部との割合は、重量比で、コア:シェルが20:80〜80:20の範囲内が好ましく、40:60〜60:40の範囲内であることがより好ましい。コア部分が20重量%未満では、得られる弾性有機微粒子から形成したフィルムの耐折曲げ性が悪化する傾向があり、80重量%を超えると、フィルムの硬度及び成形性が低下する傾向がある。
上記シェル部は、架橋構造を有していても有していなくてもよいが、シェル部は架橋構造を有していないものがより好ましい。
弾性有機微粒子の平均粒子径は、0.01〜1μmの範囲内であることが好ましく、0.03〜0.5μmの範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.3μmの範囲内であることが特に好ましい。上記平均粒子径が0.01μm未満では、フィルムを作製した場合、十分な可撓性が得られない傾向があり、上記平均粒子径が1μmを超えると、フィルム製造時における濾過処理工程においてフィルタに弾性有機微粒子が詰まりやすくなる傾向がある。尚、弾性有機微粒子の粒子径は、市販の粒度分布測定装置(例えば、NICOMP社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)等)を用いて測定することができる。
上記弾性有機微粒子の製造方法は特には限定されず、従来公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法又は溶液重合法により、上述した単量体組成物を1段若しくは多段で重合させることにより、上記弾性有機微粒子を製造することができる。これらの中では、乳化重合法がより好ましい。
乳化重合により弾性有機微粒子を製造する場合、乳化重合後の重合液を塩析や再沈により弾性有機微粒子を凝集させた後、濾過、洗浄を行う。洗浄後、弾性有機微粒子を乾燥し、アクリル系重合体と混合することによって位相差フィルムの原料となる重合体組成物を製造することができる。また、洗浄後、弾性有機微粒子を乾燥せずに、得られる弾性有機微粒子のケーキをMIBK(メチルイソブチルケトン)等の有機溶剤に再分散させ、その再分散液にアクリル系重合体を溶解、若しくは再分散液とアクリル系重合体溶液(アクリル系重合体を有機溶剤で溶解させた溶液)とを混合し、その後、水及び/又は有機溶剤を脱揮することによっても位相差フィルムの原料となる重合体組成物を製造することができる。
上記弾性有機微粒子の重合時における重合開始剤としては、従来公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物等の開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)ジハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
上記重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体等の還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
上記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法等、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
また、上記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤及び/又はホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用することが好ましい。
上記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、従来公知の乳化重合用の界面活性剤を使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノ−ル類、脂肪族アルコ−ル類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
得られる弾性有機微粒子のラテックスは、通常の凝固、洗浄及び乾燥の操作により、又は、スプレ−乾燥、凍結乾燥等による処理により、分離、回収することができる。
上述した弾性有機微粒子は、位相差フィルム中に1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
〔アクリル系重合体〕
本発明に係る位相差フィルムの主成分となるアクリル系重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含有する単量体組成物を重合した樹脂であれば特には限定されない。また、2種類以上のアクリル系重合体を主成分とするものでもよい。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、一般式(2)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を示す。)
で表される構造を有する化合物(単量体)、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、耐熱性、透明性が優れる点から、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物、メタクリル酸メチルがより好ましい。また、正の複屈折性(正の位相差)を大きくする点で、(メタ)アクリル酸ベンジルが好ましい。
一般式(2)で表される構造を有する化合物としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチル等が挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。一般式(2)で表される化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アクリル系重合体は、上述した(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造を有していてもよい。(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造としては、特には限定されないが、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)
(式中、R6は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、又はC−O−R8基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7及びR8は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。)
で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
水酸基含有単量体としては、一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体であれば特に限定されないが、例えば、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン等のアリルアルコール、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等の2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸等の2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。尚、これら単量体を用いて得られた重合体の分子鎖中の水酸基を反応させてラクトン環を構築することも可能である。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
上記アクリル系重合体と上記弾性有機微粒子における軟質重合体層との屈折率の差を少なくするという観点から、上記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸ベンジルのような、芳香族基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体構造単位を有することがより好ましい。
一般的に、上述した弾性有機微粒子における軟質重合体層の屈折率は、アクリル系重合体の屈折率と比べて高く(例えば、ポリブタジエンの屈折率:1.515〜1.520)、この屈折率の差が大きいとフィルムの透明性が低下(ヘイズが増加)する。アクリル系重合体の屈折率を軟質重合体層の屈折率に近づける方法としては、高屈折率モノマーであるスチレン系モノマーを共重合させる方法が知られている。しかしながら、アクリル系重合体におけるスチレン系モノマー由来の構造単位は、負の複屈折性に大きく寄与するため、アクリル系重合体の正の複屈折性が低下し、正の位相差値が低下する。
これに対して、芳香族基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体構造単位は、芳香族基を有するため屈折率が高いが、正の複屈折性に寄与する。このため、アクリル系重合体における、(メタ)アクリル酸ベンジルのような、芳香族基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体構造単位の重合割合(含有割合)を調整することにより、正の複屈折性を大幅に低下させることなく、アクリル系重合体の屈折率を制御することができる。よって、得られる位相差フィルムの透明性を損なうことなく、取り扱い性、並びに耐熱性に優れ、且つ優れた位相差性能を有する位相差フィルムを実現することができる。
アクリル系重合体における、芳香族基を有する上記(メタ)アクリル酸エステル単量体構造単位の含有量としては、好ましくは5〜50重量%であり、より好ましくは10〜40重量%であり、更に好ましくは15〜30重量%である。
芳香族基を有する上記(メタ)アクリル酸エステル単量体構造単位を構成する単量体としては、重合性、モノマーの入手の容易さ等の点で、(メタ)アクリル酸ベンジルがより好ましい。更には、耐熱性を低下させ難い点でメタクリル酸ベンジルが好ましい。
尚、上記アクリル系重合体と上記弾性有機微粒子における軟質重合体層との屈折率の差が、好ましくは0.01以下、より好ましくは0.005以下、更に好ましくは0.002以下、となるように、アクリル系重合体における、芳香族基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体構造単位の重合割合(含有割合)を調整することが好ましい。
本実施の形態に係るアクリル系重合体の重合方法は特に限定されず、公知の重合方法を用いることができる。使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等に応じて、適宜適した方法を採用すればよい。
本発明に係る位相差フィルムの主成分となるアクリル系重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110℃〜200℃、より好ましくは115℃〜200℃、さらに好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。
耐熱性を高める点で、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミド等のN−置換マレイミドを共重合してもよいし、分子鎖中(重合体の主骨格中、又は主鎖中ともいう。)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造等を導入してもよい。中でも、フィルムの着色(黄変)し難さの点で、窒素原子を含まない単量体等を用いて分子鎖中に窒素原子を含まない構造を導入することがより好ましく、また、正の複屈折性(正の位相差)を発現させやすい点で、主鎖にラクトン環構造を導入することが好ましい。主鎖中のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、6員環が更に好ましい。また、主鎖中のラクトン環構造が6員環である場合、一般式(1)や特開2004−168882号公報で表される構造等が挙げられるが、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成する上において重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得易い点や、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(1)で表される構造であることが好ましい。
上記アクリル系重合体が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した樹脂である場合、上記アクリル系重合体はラクトン環構造を有していることがより好ましい(以下、ラクトン環構造を有するアクリル系重合体を「ラクトン環含有重合体」と記す)。以下、ラクトン環含有重合体について説明する。
上記ラクトン環構造としては、例えば、下記一般式(1)
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。尚、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
で表される構造が挙げられる。
尚、上記一般式(1)、(2)、(3)における有機残基は、炭素数が1〜20の範囲内であれば特には限定されないが、例えば、直鎖若しくは分岐状のアルキル基、直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、アリール基、−OAc基、−CN基等が挙げられる。
上記アクリル系重合体中の上記ラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%の範囲内、より好ましくは20〜90重量%の範囲内、さらに好ましくは35〜90重量%の範囲内、特に好ましくは40〜80重量%の範囲内、最も好ましくは45〜75重量%の範囲内である。上記ラクトン環構造の含有割合が90重量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなる。また、得られたフィルムの可撓性が低下する傾向があり、好ましくない。上記ラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、フィルムに成形したときに必要な位相差を得ることが難しく、また耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。
ラクトン環含有重合体において、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95重量%の範囲内、より好ましくは10〜80重量%の範囲内、さらに好ましくは10〜65重量%の範囲内、特に好ましくは20〜60重量%の範囲内、最も好ましくは25〜55重量%の範囲内である。水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。一般式(3)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
ラクトン環含有重合体の製造方法については、特に限定はされないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、得られた重合体を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによってラクトン環含有重合体を得ることができる。
上記一般式(2)で表される化合物を含む単量体組成物の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
上記重合反応(重合工程)において供する単量体組成物中における一般式(2)で表される化合物の含有割合は、好ましくは5〜80重量%の範囲内、より好ましくは10〜50重量%の範囲内、さらに好ましくは15〜40重量%の範囲内である。重合工程において供する単量体成分中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が5重量%よりも少ないと、フィルムに成形したときに必要な位相差を得ることが難しく、また耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。重合工程において供する単量体組成物中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が80重量%よりも多いと、重合反応時又はラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られた重合体の可撓性が低下して成形加工性が乏しくなることがあり、好ましくない。
重合工程において供する単量体組成物中には、一般式(2)で表される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体が好ましく挙げられる。一般式(2)で表される単量体以外の単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
一般式(2)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは20〜95重量%の範囲内、より好ましくは50〜90重量%の範囲内、さらに好ましくは60〜85重量%の範囲内である。
一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
一般式(3)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%の範囲内、より好ましくは0〜20重量%の範囲内、さらに好ましくは0〜15重量%の範囲内、特に好ましくは0〜10重量%の範囲内である。
単量体組成物を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
重合温度、重合時間は、使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0〜150℃の範囲内、重合時間が0.5〜20時間の範囲内であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃の範囲内、重合時間が1〜10時間の範囲内である。
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃の範囲内のものが好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が75重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が75重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して75重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。尚、重合反応混合物中の重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基及びエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にエステル基(上記重合体が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した場合では、水酸基とエステル基)を有する重合体であり、重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲内、より好ましくは5,000〜1,000,000の範囲内、さらに好ましくは10,000〜500,000の範囲内、特に好ましくは50,000〜500,000の範囲内である。
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合して得られた重合体では、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理によりラクトン環構造を重合体に導入することができ、ラクトン環含有重合体とすることができる。
上記重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれている。上記重合体をラクトン環含有重合体とする場合では、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後に続くラクトン環化縮合工程を行うことが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
上記重合体へラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、重合体に高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールがフィルム中に泡やシルバーストリークとなって存在したりする恐れがあるため好ましくない。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、上記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
上記重合体を加熱処理する方法については特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
環化縮合反応を行う際に、上記重合体に加えて、他のアクリル系重合体を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等を用いてもよい。
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)及びこれらのジエステルあるいはモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステルあるいはモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;等が挙げられる。これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステルあるいはモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、上記重合体に対して、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が十分に図れないおそれがあり、一方、5重量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形しにくくなったりすることがあるため、好ましくない。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、及び、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こったりする問題等が生じる。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、前記脱揮装置と前記押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置又はベント付き押出機を用いることがより好ましい。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
前記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
前記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
尚、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、二軸押出し機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
上述のように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、ラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、環化縮合反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、実施例に示すダイナッミクTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、及び、前記(i)又は(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
尚、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフラン等でもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等が挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体の重量に対し、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。方法(i)の加熱温度と加熱時間とは特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜等を用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。また、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。重量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が十分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下するおそれがある。尚、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他のアクリル系重合体を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤とを分離することなく、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行ってもよい。また、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を分離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても構わない。
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することのみには限定されず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
得られたラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲内、より好ましくは5,000〜1,000,000の範囲内、さらに好ましくは10,000〜500,000の範囲内、特に好ましくは50,000〜500,000の範囲内である。
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後のフィルム中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に十分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体が十分に高い耐熱性を有している。
ラクトン環含有重合体は、15重量%のクロロホルム溶液中での着色度(YI)が6以下となるものが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を越えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
ラクトン環含有重合体は、熱重量分析(TG)における5%重量減少温度が、330℃以上であることが好ましく、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱重量分析(TG)における5%重量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、十分な熱安定性を発揮できないおそれがある。
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110℃〜200℃、より好ましくは115℃〜200℃、さらに好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。残存揮発分の総量が1500ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる。
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。
〔アクリル系重合体以外の含有成分〕
本発明に係る位相差フィルムは、主成分であるアクリル系重合体と、共役ジエン単量体構造単位を必須成分として有する弾性有機微粒子以外の成分を含有していてもよい。
アクリル系重合体及び弾性有機微粒子以外の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;等が挙げられる。
中でも、アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、フィルムは正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性(正の位相差)を増加させる点で、塩化ビニル、ポリカーボネート、その他の主鎖に芳香族環を含有する重合体等、正の複屈折性(正の位相差)を示す重合体が好ましい。
本発明に係る位相差フィルム中のその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜30重量%、特に好ましくは0〜20重量%である。
本発明に係る位相差フィルムは、位相差値(レターデーション値、あるいは単に位相差と記する場合がある)を上げるために、上述したアクリル系重合体に添加させた際に、上述したアクリル系重合体の示す複屈折性の符号と同じ符号を示す低分子物質を含有してもよい。低分子物質としては、一般に分子量5000以下、好ましくは1000以下の分子物質を指し、具体的には特許第3696645号に記載された低分子物質が挙げられる。
中でも、アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、フィルムは正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性(正の位相差)を増加させる点で、スチルベン、ビフェニル、ジフェニルアセチレン、通常の液晶物質等の正の複屈折性(正の位相差)を示す低分子物質が好ましい。
本発明に係る位相差フィルム中の上記低分子物質の含有割合は、好ましくは0〜20重量%、より好ましくは0〜10重量%、さらに好ましくは0〜5重量%である。
また、本発明に係る位相差フィルムは、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2´−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;等が挙げられる。
本発明に係る位相差フィルム中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜2重量%、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
〔位相差フィルム〕
本発明に係る位相差フィルムは、主成分であるアクリル系重合体と、共役ジエン単量体構造単位を必須成分として有する弾性有機微粒子と、必要により、その他の重合体やその他の添加剤等を、従来公知の混合方法にて混合し、フィルム状に成形することで得られる。また、延伸することによって延伸フィルムとしてもよい。位相差性能を発現させるためには、位相差フィルム中の分子鎖を配向させることが重要であり、分子鎖の配向が可能であれば如何なる方法を用いることも可能である。例えば、延伸、圧延、引き取り等の各種方法を用いることができる。これらの中でも、生産効率が高いため、延伸により位相差性能を発現させることが好ましい。
フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、Tダイ法やインフレーション法等の溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、公知のフィルム成形方法が挙げられる。これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶媒等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;等が挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、その際の、フィルムの成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
また、上記アクリル系重合体と、上記弾性有機微粒子と、必要により、その他の重合体やその他の添加剤等の混合物を、Tダイ等から溶融押出しし、得られるフィルム状物の少なくとも片面をロール若しくはベルトに接触させて製膜する方法が、表面性状の良好なフィルムが得られる点で好ましい。更には、フィルムの表面平滑性及び表面光沢性を向上させる観点から、上記混合物を溶融押出成形して得られるフィルム状物の両面をロール表面若しくはベルト表面に接触させてフィルム化する方法が好ましい。
尚、上記ロールは、「タッチロール」若しくは「冷却ロール」と呼ばれることがあるが、本明細書中における用語「ロール」とは、これらの両方の意味を包含する。
ここで、フィルム状物の両面をロール若しくはベルト表面に最初に接触させる際のフィルム状物の温度は、当該フィルム状物のガラス転移温度以上の温度、好ましくは当該ガラス転移温度よりも約20℃以上高い温度である。
上記ロール若しくはベルト表面の材質としては、冷却効率が良いこと、及び平滑性に優れたフィルムが得易いことから、金属が好ましい。具体的にはステンレス、鋼鉄等が挙げられる。鋼鉄を用いる場合には、その表面にクロームメッキ等の処理が施されていてもよい。またロールは、その表面が鏡面となっているものがより好ましい。
上記フィルム状物と接触させる際の上記ロール若しくはベルト表面の温度は特に限定されないが、フィルムに成形し易い点で、一定温度に保持されていることが好ましい。
また、使用する上記ロールの本数は特には限定されないが、3〜4本を使用し、多段でフィルム厚み及び表面状態を調整することが望ましい。
尚、ロール表面若しくはベルト表面との接触はフィルム状物の一方の面に接触した後に他方の面に接触させることにより段階的に行ってもよいが、両面を同時に接触させることが好ましい。
このようにして得られるフィルムは、十分な厚み精度、表面平滑性を有しているが、更に厚み精度及び表面平滑性を向上させるために、その両面若しくは片面を、ロール表面若しくはベルト表面に接触させた状態で加熱し、ロール表面若しくはベルト表面に接触させた状態のままで冷却してもよい。
尚、本実施形態においては、フィルム化の前に、用いるアクリル系重合体等のフィルム原料を予備乾燥させることがより好ましい。予備乾燥は、例えば、原料をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行われる。予備乾燥は、押し出される樹脂の発泡を防ぐことができるので非常に有用である。
また、押出機内で加熱溶融されたフィルム原料を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給することが好ましい。ギアポンプの使用は、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させる効果が高く、非常に有用である。また、フィルターの使用は、樹脂中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得るのに有用である。
更には、Tダイ等から押し出されるフィルム状物を2つのロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜する際、2つのロールの内の一方が、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方が、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが特に好ましい。
剛体性のロールとフレキシブルなロールとで、Tダイ等から押し出されるフィルム状物を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面の平滑な、厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
ここで、Tダイ等から押し出されるシート状の溶融樹脂を剛体性のロールとフレキシブルなロールとで挟み込みながら冷却して、厚さが薄いフィルムを成形する場合、一方のロールが弾性変形可能であったとしても、何れのロール表面も金属で構成されているために、ロールの面同士が接触してロール外面に傷が付き易い。また、ロールそのものが破損し易い。従って、このような方法で成形する場合、フィルムの厚さは10μm以上とすることが好ましく、50μm以上とすることがより好ましく、更に好ましくは80μm以上、特に好ましくは100μm以上である。
また、Tダイ等から押し出されるフィルム状物を剛体性のロールとフレキシブルなロールとで挟み込みながら冷却して、厚さが厚いフィルムを成形する場合、フィルムの冷却が不均一になり易く、光学的特性が不均一になり易い。従って、このような方法で成形する場合、フィルムの厚さは300μm以下とすることが好ましく、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは170μm以下である。
尚、厚さが100μmより薄いフィルムを製造する場合には、このような挟み込み成形で比較的厚さの厚い原料フィルムを得た後、一軸延伸若しくは二軸延伸して所定の厚さのフィルムを製造することが好ましい。実施態様の一例を挙げれば、このような挟み込み成形で厚さ150μmの原料フィルムを製造した後、縦横二軸延伸により、厚さ40μmのフィルムを製造することができる。
本発明に係る位相差フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;フィルムの延伸時にその片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。耐折り曲げ性が向上する点で、二軸延伸が好ましい。さらに、フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、同時二軸延伸が好ましい。面内の任意の直交する二方向としては、例えば、フィルム面内の遅相軸と平行方向及びフィルム面内の遅相軸と垂直な方向が挙げられる。尚、所望の位相差値、所望の耐折れ曲げ性に応じて、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件を適宜設定すればよく、特に限定はされない。
また、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内でnxと垂直方向の屈折率をny、フィルム厚さ方向の屈折率をnzとした場合、nx>ny=nzもしくはnx=nz>nyを満たす位相差フィルムが得られる点で、自由幅一軸延伸が好ましい。また、nx=ny>nzもしくはnx=ny<nzを満たす位相差フィルムが得られる点で二軸延伸が好ましい。さらには、nx>nyで0<(nx−nz)/(nx−ny)<1を満足する位相差フィルムが得られるという点で、フィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与する延伸方法が好ましい。
延伸等を行なう装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これら何れの装置を用いても、本発明に係る位相差フィルムを得ることができる。
延伸温度としては、フィルム原料の重合体組成物、又は延伸前のアクリル系重合体を主成分とするフィルムの高温側のガラス転移温度近辺で行うことが好ましい。具体的には、(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+50)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+20)℃、さらに好ましくは(ガラス転移温度−10)℃〜(ガラス転移温度+10)℃である。特に二軸延伸においては、(ガラス転移温度−5℃)〜(ガラス転移温度+15℃)で行うことが好ましい。
(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。(ガラス転移温度+50)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.2〜10倍の範囲、さらに好ましくは1.3〜5倍の範囲で行われる。1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う位相差性能の発現や靭性の向上につながらないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、好ましくは1.05〜10倍の範囲、より好ましくは1.1〜5倍の範囲、さらに好ましくは1.2〜3倍の範囲で行われる。1.05倍よりも小さいと、所望の位相差値が得られない場合があり好ましくない。10倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
本発明に係る位相差フィルムの厚さは、例えば、5μm〜1mm、好ましくは5μm〜600μm、より好ましくは5〜350μm、更に好ましくは20〜200μm、更に好ましくは30〜150μmであり、特に好ましくは30〜100μmであり、いわゆるフィルム状のもののみならず、シート状のものも含まれる。
膜厚が5μmより薄いと強度に乏しく、また、所望の位相差値(レターデーション値)を得ることが困難となる。膜厚が350μmより厚いと液晶表示装置の薄型化に不利となる。
フィルムの厚さは、例えばデジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)等の市販の測定機器を用いて測定することができる。
本発明に係る位相差フィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値が20〜500nmであることが好ましく、より好ましくは50〜500nmである。更に好ましくは130〜500nmであり、更に好ましくは170〜500nm、特に好ましくは200〜450nmである。上記位相差値が20mより小さいと、所望の位相差値(レターデーション値)を得るためにフィルムの厚さが厚くなるため好ましくない。また、500nmを超えると延伸条件の少しの変化で位相差値(レターデーション値)が変化してしまい、安定的に生産することが難しくなる場合があるため好ましくない。さらには、大きな位相差値を得るためには、延伸倍率を大きくし、延伸温度を低くする必要があり、延伸工程中にフィルムの破断等が起こり、安定的に生産することが難しくなる場合がある。
本発明に係る位相差フィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値の絶対値が30〜400nmであることが好ましい。より好ましくは70〜400nmであり、さらに好ましくは120〜350nmであり、特に好ましくは150〜300nmである。
「位相差値」はレターデーション値ともいう。ここでいう面内位相差値(Re)は、
Re=(nx−ny)×d
で、厚さ方向位相差値(Rth)は、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
で、定義される。尚、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率が最大となる方向とする。また、延伸方向の屈折率が大きくなるものを正の複屈折性があると言い、フィルム面内で延伸方向と垂直方向の屈折率が大きくなるものを負の複屈折性があると言う。
尚、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値」とは、面内位相差値(Re)を求める上記式において、d=100×103nmでの値のことである。また、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値」とは、厚さ方向位相差値(Rth)を求める上記式において、d=100×103nmでの値のことである。
本発明に係る位相差フィルムの589nmにおける面内位相差値Reは、20nm〜1000nmであることが好ましい。より好ましくは20〜500nmであり、さらに好ましくは50〜500nmであり、特に好ましくは100〜350nmである。
本発明に係る位相差フィルムをλ/2板として用いる場合、589nmにおけるReが200〜350nmであることが好ましく、さらに好ましくは240〜300nmであり、特に好ましくは260〜280nmであり、最も好ましくは265〜275nmである。
本発明に係る位相差フィルムをλ/4板として用いる場合、589nmにおけるReが100〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは120〜160nmであり、特に好ましくは130〜150nmであり、最も好ましくは135〜145nmである。
本発明に係る位相差フィルムの589nmにおける厚さ方向位相差値(Rth)の絶対値は、10nm〜500nmであることが好ましい。より好ましくは50〜400nmであり、さらに好ましくは100〜300nmである。
尚、複屈折率の正負の判断は、「高分子素材の偏光顕微鏡入門」(粟屋裕著、アグネ技術センター版、第5章、pp78〜82(2001))に記載の偏光顕微鏡を用いたλ/4板による加色判定法により判定を行なうことができる。また、位相差フィルムそのものを、又は位相差フィルムを加熱収縮させた後、単軸延伸し、延伸方向の屈折率が大きくなるかどうかで判断することもできる。
本発明に係る位相差フィルムは、高温側のガラス転移温度が100℃〜200℃であることが好ましい。より好ましくは110℃〜200℃、さらに好ましくは115℃〜200℃、さらに好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。100℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足し、フィルムが変形して位相差のムラが発生しやすくなることがあるため好ましくない。また、200℃を超えると、超高耐熱性の位相差フィルムとなるが、該フィルムを得るための成形加工性が悪かったり、フィルムの可撓性が大きく低下したりする場合があるため好ましくない。
尚、高温側のガラス転移温度は、弾性有機微粒子を含有する位相差フィルムのマトリックス部分のガラス転移温度、即ち、アクリル系重合体、又は弾性有機微粒子を除いた位相差フィルムを構成するアクリル系重合体の組成物のガラス転移温度近辺の値を示す。
また、本発明に係る位相差フィルムの低温側のガラス転移温度は、位相差フィルム中に存在する弾性有機微粒子の軟質重合体層のガラス転移温度であるため、より好ましくは−140℃〜−40℃であり、更に好ましくは−130℃〜−55℃、特に好ましくは−125℃〜−70℃である。
本明細書においては、ガラス転移温度(Tg)は、フィルムから一部切り取った試料を用い、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めたものが意図される。具体的な測定方法については、後述する実施例にて説明する。
本発明に係る位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
本発明に係る位相差フィルムは、ヘイズが5%以下であることが好ましい。より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。ヘイズが5%を超えると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
本発明に係る位相差フィルムの視野角依存性については、波長589nmの入射ビームを用いてフィルム面に垂直に入射したときの位相差値をRe(0°)、フィルム面の法線と為す角度が40度における位相差値(具体的には、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定した位相差値)をRe(40°)としたとき、Re(40°)/Re(0°)が、好ましくは0.85〜1.20、より好ましくは0.90から1.15、さらに好ましくは0.95〜1.12の範囲内である。Re(40°)/Re(0°)が0.85未満又は1.20を超える場合は、視野角依存性が大きくなり好ましくない。
本発明に係る位相差フィルムの波長分散性については、波長589nmにおける位相差値をReと、波長450nmにおける位相差値をR’としたときのR’/Re比が、好ましくは0.9〜1.2、より好ましくは0.95〜1.15である。
本発明に係る位相差フィルムは、可撓性を有することが好ましい。フィルム面内の任意の直交する2方向に対して可撓性を有することがより好ましく、具体的には、25℃、65%RH(relative humidity:相対湿度)の雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて、フィルム面内の遅相軸と平行方向及びフィルム面内の遅相軸と垂直方向に180°折り曲げた際、どちらの方向でもクラックを生じないことが好ましい。ここで、折り曲げ半径とは、フィルムの折り曲げの中心から屈曲部の最端部までの距離を意味する。折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じない位相差フィルムは、取り扱いが非常に容易であり、工業的に有用である。25℃で65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じるフィルムは、可撓性が不十分であり、取り扱いが困難である。尚、折り曲げ試験は、JISに準拠して行えばよい。例えば、K5600−5−1(1999年)に準拠して行うことが好ましい。上記クラックの形状は、特には限定されず、例えば、長さが1mm以上の割れのことを意味する。
また、本発明に係る位相差フィルムは、後述する実施例において実施する耐折回数が、3以上であることが好ましく、5回以上がより好ましく、10回以上が更に好ましい。尚、耐折回数の測定は、フィルムの可撓性を評価する1つの方法であり、回数が多いほど可撓性に優れ、フィルムの取り扱い性が良いことを意味する。
本発明に係る位相差フィルムの主成分であるアクリル系重合体は、ラクトン環構造を有するものであることが好ましく、当該ラクトン環構造は上記一般式(1)で表される構造であることがより好ましい。さらに、ラクトン環構造を有するアクリル系重合体を製造する際には、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物(単量体)と上記一般式(2)で表される構造を有する化合物(単量体)以外の(メタ)アクリル酸エステル(単量体)とを好ましくは5重量%:95重量%〜80重量%:20重量%の割合、より好ましくは10重量%:90重量%〜50重量%:50重量%の割合、さらに好ましくは15重量%:85重量%〜40重量%:60重量%の割合で含有させた単量体成分を重合して得られたアクリル系重合体を環化縮合して得られるアクリル系重合体であることがより好ましい。上記一般式(2)で表される構造を有する化合物(単量体)の含有率が22重量%未満であれば、所望の位相差を発現することが難しい。また、所望の位相差を得ようとして大きな延伸倍率や低い延伸温度等の位相差値が出やすい条件で延伸しようとした場合、フィルムが裂けたりして、延伸できない場合がある。上記一般式(2)で表される構造を有する化合物(単量体)の含有率が80重量%を超えると、重合反応時又は環化縮合反応時にゲル化したり、成型加工性に乏しくなったりする傾向にある。また、得られたフィルムの可撓性が低下する。
本発明に係る位相差フィルムは、単独での使用以外に、同種光学材料及び/又は異種光学材料と積層して用いることにより、さらに光学特性を制御することができる。この際に積層される光学材料としては、特には限定されないが、例えば、偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルム、環状ポリオレフィン製延伸配向フィルム等が挙げられる。
本発明に係る位相差フィルムは、液晶表示装置用の光学補償部材や、液晶表示装置用の偏光板に用いる偏光子保護フィルム等の光学用保護フィルムとして好適に用いられる。具体的には、例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCD等のLCD用位相差フィルム;1/2波長板;1/4波長板;逆波長分散特性フィルム;光学補償フィルム;カラーフィルター;偏光板との積層フィルム;偏光板光学補償フィルム等が挙げられる。また、本発明に係る位相差フィルムを応用した用途は、これらに制限されるものではない。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の説明では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記すことがあり、「部」は特に断らない限り「重量部」を意味する。
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応時の反応率及び重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC17A)を用いて測定して求めた。
<ダイナミックTG>
重合体(もしくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解もしくは希釈し、過剰のヘキサンもしくはメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分等を除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG((株)リガク社製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 200ml/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で重量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム、クロロホルム溶媒)のポリスチレン換算により求めた。
<樹脂及びフィルムの熱分析>
樹脂及びフィルムの熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。尚、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。
尚、上記ガラス転移温度の測定は、30〜250℃の温度範囲で行い、弾性有機微粒子を含有するフィルムのガラス転移温度の測定の場合には、−150℃から昇温して測定を行った。ここで、観測されたガラス転移温度のうち、最も低いガラス転移温度を「低温側のガラス転移温度」とし、最も高いガラス転移温度を「高温側のガラス転移温度」とした。
<メルトフローレート>
メルトフローレートは、JIS K6874に基づき、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
<光学特性>
波長589nmにおける、フィルム厚さ100μmあたりのフィルム面内の位相差値及び厚さ方向位相差は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて測定したフィルム面内位相差値(Re)及び厚さ方向位相差値(Rth)の値から算出した。
アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚d、傾斜中心軸として遅相軸、入射角を40°と入力し、面内位相差値(Re)及び厚さ方向位相差値(Rth)、遅相軸を傾斜軸として40°傾斜させて測定した位相差値(Re(40°))、三次元屈折率nx、ny、nzの値を得た。
全光線透過率及びヘイズは、日本電色工業社製NDH−1001DPを用いて測定した。屈折率は、JIS K 7142に準拠して、測定波長589nmに対する、23℃での値を屈折計((株)アタゴ社製、装置名:デジタルアッベ屈折計DR−M2)を用いて測定した。
<フィルムの厚さ>
デジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて測定した。
<耐折回数>
フィルムの耐折回数は、耐折度試験機(テスター産業(株)製、MIT、BE−201型)を用いて、25℃、65%RHの状態に1時間以上静置させた、幅15mm、長さ80mmの試料フィルムを使用し、荷重50gの条件で、JIS P8115に準拠して測定した。尚、測定の方向は可撓性の場合と同様に2方向で折り曲げ、何回目で折れるかを測定した。各方向で測定をそれぞれ3回行い、各方向における平均値を求め、平均値が小さかった方向の平均値を耐折回数とした。
<脱アルコール反応率(ラクトン環化率)>
脱アルコール反応率(ラクトン環化率)を、重合で得られた重合体組成からすべての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる重量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において重量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による重量減少から求めた。
すなわち、ラクトン環構造を有した重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の重量減少率の測定を行い、得られた実測重量減少率を(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の理論重量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した重量減少率)を(Y)とする。なお、理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における前記原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値(X、Y)を脱アルコール計算式:
1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))
に代入してその値を求め、%で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
例として、後述の製造例1で得られるペレット(P−1)においてラクトン環構造の占める割合を計算する。この重合体の理論重量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルのラクトン環化前の重合体中の含有率(重量比)は29.7重量%であるから、(32/116)×29.7≒8.19重量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測重量減少率(X)は0.25重量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.25/8.19)≒0.969となるので、脱アルコール反応率は96.9%である。
そして、上記脱アルコール反応率の分だけラクトン環化反応が行われたと仮定して、下記式
ラクトン環の含有割合(重量%)=B×A×MR/Mm
(式中、Bは、ラクトン環化前の重合体における、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体構造単位の重量含有割合であり、MRは生成するラクトン環構造単位の式量であり、Mmはラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の分子量であり、Aは脱アルコール反応率である)
により、ラクトン環含有割合を算出することができる。
例えば、製造例1の場合、アクリル樹脂(ペレット(P−1))のラクトン環化前の重合体における2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率が29.7重量%、算出した脱アルコール反応率が96.9%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造単位の式量が170であることから、アクリル系樹脂におけるラクトン環の含有割合は42.2(=29.7×0.969×170/116)重量%となる。
〔製造例1〕(アクリル樹脂(P−1)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)7000g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)3000g、メチルイソブチルケトン(MIBK)とメチルエチルケトン(MEK)とからなる混合溶媒(重量比9:1)6667gを仕込んだ。
次に、上記反応釜に窒素を流しながら、反応釜の内容物を105℃まで昇温させ、還流開始後に、開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(商品名:ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)6.0gを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0gとMIBK及びMEKの混合溶媒(重量比9:1)3315gとからなる開始剤溶液を3時間かけて滴下しながら、還流下(約95〜110℃)で溶液重合を行った。上記開始剤溶液の滴下後、更に4時間熟成を行った。
得られた重合体の反応率は94.5%であり、重合体中のMHMA構造単位の含有量は29.7重量%であった。
得られた上記重合体溶液に、リン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(商品名:Phoslex A−8、堺化学製)20gを加え、還流下(約85〜100℃)で2時間環化縮合反応を行い、更に240℃の熱媒を用いてオートクレーブ中で加圧下(ゲージ圧が最高約2MPa)、1.5時間環化縮合反応を行った。
上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、押出し機内で環化縮合反応と脱揮とを行い、押出すことにより、透明なペレット(P−1)を得た。
得られたペレット(P−1)の重量平均分子量は127,000であり、メルトフローレート(MFR)は6.5g/10分、ガラス転移温度(Tg)は140℃であり、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.25重量%の重量減少を検知した。また、プレスフィルムを作製して測定した屈折率は1.504であった。
〔製造例2〕(アクリル樹脂(P−2)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、MMA5000g、MHMA3000g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)2000g、トルエン10,000gを仕込んだ。
次に、上記反応釜に窒素を流しながら、反応釜の内容物を105℃まで昇温させ、還流開始後に、開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(商品名:ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)6.0gを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0gとトルエン100gとからなる開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行った。上記開始剤溶液の滴下後、更に2時間熟成を行った。
得られた重合体の反応率は96.4%であり、重合体中のMHMA構造単位の含有量は30.1重量%であり、BzMA構造単位の含有量は20.1重量%であった。
得られた上記重合体溶液に、リン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(商品名:Phoslex A−8、堺化学製)20gを加え、還流下(約80〜105℃)で2時間環化縮合反応を行い、更に240℃の熱媒を用いてオートクレーブ中で加圧下(ゲージ圧が最高約1.6MPa)で1.5時間環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度を250℃に変更したこと以外は製造例1と同様にベントタイプスクリュー二軸押出し機内で環化縮合反応と脱揮とを行い、押出すことにより、透明なペレット(P−2)を得た。
得られたペレット(P−2)の重量平均分子量は130,000であり、メルトフローレート(MFR)は18.2g/10分、ガラス転移温度(Tg)は135℃であった。尚、1H−NMR(製品名:FT−NMR UNITYPlus400、400MHz、Varian社製)測定より求めた、ペレット(P−2)中のBzMA構造単位の含有量は20.5重量%であった。また、プレスフィルムを作製して測定した屈折率は1.517であった。
〔製造例3〕(弾性有機微粒子(G−1)の製造)
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120部、ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(平均粒子径240nm)を固形分として50部、オレイン酸カリウム1.5部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6部を投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
続いて、内温を70℃に昇温させた後、スチレン36.5部、アクリロニトリル13.5部からなる混合モノマー溶液と、クメンハイドロキシパーオキサイド0.27部、脱イオン水20.0部からなる重合開始剤溶液とを別々に2時間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後、内温を80℃に昇温して2時間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させて弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。
得られた弾性有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(G−1、平均粒子径:0.260μm、軟質重合体層の屈折率:1.516)を得た。
尚、弾性有機微粒子の平均粒子径の測定には、NICOMP社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)を用いた。
また、上記「ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(平均粒子径240nm)」は、以下の方法により製造した。耐圧反応容器に、脱イオン水70部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、オレイン酸カリウム0.2部、硫酸第一鉄0.005部、デキストロース0.2部、p−メンタンハイドロパーオキシド0.1部、1,3−ブタジエン28部からなる反応混合物を加え、65℃に昇温し、2時間重合を行った。次に、該反応混合物にp−ハイドロパーオキシド0.2部を加え、1,3−ブタジエン72部、オレイン酸カリウム1.33部、脱イオン水75部を2時間で連続滴下した。重合開始から21時間反応させて、上記ブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
〔製造例4〕(弾性有機微粒子(G−2)の製造)
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水710部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解し、内温を70℃に昇温した。次いで、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.93部、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.003部、脱イオン水20部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
続いて、モノマー混合液(M−1)(アクリル酸n−ブチル(BA)7.10部、スチレン(St)2.86部、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール(BDMA)0.02部、メタクリル酸アリル(AMA)0.02部)と重合開始剤溶液(t−ブチルハイドロパーオキサイド(PBH)0.13部、脱イオン水10.0部)とを上記重合容器の中に一括添加し、60分間重合反応を行った。
続いて、モノマー混合液(M−2)(BA63.90部、St25.20部、AMA0.9部)と重合開始剤溶液(PBH0.246部、脱イオン水20.0部)とを別々に90分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後さらに60分間重合を継続させた。これにより、弾性有機微粒子のコア・シェル構造のコアとなる部分を得た。
続いて、モノマー混合液(M−3)(St73.0部、アクリロニトリル(AN)27.0部)と重合開始剤溶液(PBH0.27部、脱イオン水20.0部)とを別々に100分間かけて連続滴下しながら重合を行い、滴下終了後内温を80℃に昇温して120分間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させて弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。
得られた弾性有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(G−2、平均粒子径:0.105μm)を得た。
尚、弾性有機微粒子の平均粒子径の測定には、NICOMP社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)を用いた。
〔製造例5〕(弾性有機微粒子混練樹脂(B−1)の製造)
製造例1で得られたペレット(P−1)と製造例3で得られた弾性有機微粒子(G−1)とを(P−1)/(G−1)=80/20の重量比となるようにフィーダーを用いてフィードしながら、シリンダー径が20mmの二軸押出し機を用いて280℃で混練し、ペレット(B−1)を得た。
〔製造例6〜9〕(弾性有機微粒子混練樹脂(B−2)〜(B−5)の製造)
ペレットの種類、弾性有機微粒子の種類、混練する重量比を表1に示すように変更したこと以外は製造例5と同様の操作を行い、ペレット(B−2)〜(B−5)を得た。
〔製造例10〕(アクリル樹脂(P−3)の製造)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)5200g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2500g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)2300g、トルエン10000gを仕込んだ。次に、上記反応釜に窒素を流しながら、反応釜の内容物を105℃まで昇温させ、還流開始後に、開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(商品名:ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)6.0gを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0g及びトルエン100gからなる開始剤溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行った。t−アミルパーオキシイソノナノエート・トルエン溶液の滴下後、更に2時間熟成を行った。
得られた重合体の反応率は96.4%であり、重合体中のMHMA構造単位の含有量は25.1重量%であり、BzMA構造単位の含有量は23.2重量%であった。
得られた上記重合体溶液に、リン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(商品名:Phoslex A−8、堺化学製)20gを加え、還流下(約80〜105℃)で2時間環化縮合反応を行い、更に240℃の熱媒を用いて、オートクレーブ中で加圧下(ゲージ圧が最高約1.6MPaまで)、240℃で1.5時間環化縮合反応を行った。
上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、押出し機内で環化縮合反応と脱揮とを行い、押出すことにより、透明なペレット(P−3)を得た。
得られたペレット(P−3)について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.15重量%の重量減少を検知した。また、ペレット(P−3)の重量平均分子量は150,000であり、メルトフローレート(MFR)は20g/10分、ガラス転移温度(Tg)は130℃であった。
尚、1H−NMR(製品名:FT−NMR UNITY plus400、400MHz、Varian社製、溶媒:重クロロホルム、内部標準:メシチレン)測定より求めた、ペレット(P−3)中のBzMA構造単位の含有量は23.6重量%であった。また、プレスフィルムを作製して測定した屈折率は1.517であった。
〔製造例11〕(弾性有機微粒子混練樹脂(B−6)の製造)
製造例10で得られたペレット(P−3)と製造例3で得られた弾性有機微粒子(G−1)とを(P−3)/(G−1)=70/30の重量比となるようにフィーダーを用いてフィードしながら、シリンダー径が20mmの二軸押出し機を用いて240℃で混練し、ペレット(B−6)を得た。
〔実施例1〕
製造例5で得られたペレット(B−1)を、20mmφのスクリューを有する二軸押出し機を用いて、幅150mmのコートハンガータイプTダイから溶融押出しし、厚さ約140μmのフィルムを作製した。オートグラフ(AGS−100D)、島津製作所製)を用いて、このフィルムを141℃で400%/分の速度で2.0倍に単軸延伸することで、厚さ100μmの延伸フィルム(FB1a)を得た。得られた延伸フィルム(FB1a)の各種測定結果と延伸前の位相差値とを表2に示す。尚、延伸フィルム(FB1a)は正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔実施例2〕
延伸倍率を2.5倍に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FB1b)を得た。得られた延伸フィルム(FB1b)の各種測定結果を表2に示す。尚、延伸フィルム(FB1b)は正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔実施例3、4〕
ペレット(B−1)を製造例6で得られたぺレット(B−2)に変更し、延伸倍率をそれぞれ2.0倍(実施例3)、2.5倍(実施例4)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FB2a)、(FB2b)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔実施例5、6〕
ペレット(B−1)を製造例7で得られたぺレット(B−3)に変更し、延伸温度を136℃に変更し、延伸倍率をそれぞれ2.0倍(実施例5)、2.5倍(実施例6)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FB3a)、(FB3b)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔比較例1〕
ペレット(B−1)を製造例1で得られたぺレット(P−1)に変更し、延伸温度を144℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FP1a)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔比較例2〕
延伸倍率を2.5倍に変更したこと以外は比較例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FP1b)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔比較例3〕
ペレット(B−1)を製造例8で得られたぺレット(B−4)に変更し、延伸温度を139℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FB4a)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔比較例4〕
延伸倍率を2.5倍に変更したこと以外は比較例3と同様の操作を行い、延伸フィルム(FB4b)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
〔比較例5〕
ペレット(B−1)を製造例8で得られたぺレット(B−5)に変更し、延伸温度を138℃に変更し、延伸倍率を2.5倍に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(FB5)を得た。得られた延伸フィルムの各種測定結果を表2に示す。尚、得られた延伸フィルムは正の複屈折を示す位相差フィルムであった。
尚、表2中、比較例1,2のガラス転移温度は、高温側Tgと低温側Tgとが同じであるが、これはガラス転移温度が1点のみしか観測されていないことを意味する。
表2に示すように、実施例1〜6のフィルムは、可撓性の特性に優れており、Tgが高いにもかかわらず、優れた位相差性能を有している。
具体的には、表2に示すように、実施例1のフィルムは、弾性有機微粒子の種類、並びに延伸温度のみが異なる比較例3のフィルムと比較して、全光線透過率、ヘイズ、Tgは同程度であるが、100μmあたりの面内位相差値及び厚さ方向の位相差値は2倍以上であり、可撓性(耐折回数)は8倍以上である。
〔実施例7〕
製造例11で得られたペレット(B−6)を30mmφのスクリューを有する一軸押出機を用いて幅300mmのT型ダイから溶融押出しし、表面が鏡面である金属キャストロールと表面が鏡面で弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルタッチロールとを用いてフィルム両面が同時に完全にロールに接触するように成形をして、厚さ約150μmのフィルムを作製した。
得られた未延伸フィルムをコーナーストレッチ式二軸延伸試験装置X6−S(東洋精機製作所製)を用いて延伸を行った。
具体的には、まず、未延伸フィルムを、一辺の長さが97mmの正方形に切り出し、MD方向が1段目の延伸方向となるように延伸機のチャックにセットした。チャックの内側の距離は縦横共に80mmとした。135℃で3分間予熱後、延伸倍率1.5倍、延伸速度240mm/分でMD方向に1段目の一軸延伸を行った。尚、この際、幅方向(延伸方向に対して直交する方向)は収縮しないようにした。続いて、延伸倍率1.8倍、延伸速度240mm/分でTD方向に2段目の延伸を行った。この際、一段目の延伸と同様に、幅方向は収縮しないようにした。得られた二軸延伸フィルム(FB6a)の結果を表3に示す。
〔実施例8〕
延伸での設定温度を140℃、1段目の延伸倍率を1.6倍に変更したこと以外は実施例7と同様の操作を行い、二軸延伸フィルム(FB6b)を得た。得られた二軸延伸フィルムの結果を表3に示す。
〔実施例9〕
1段目の延伸倍率を1.8倍、2段目の延伸倍率を2.1倍に変更したこと以外は実施例7と同様の操作を行い、二軸延伸フィルム(FB6c)を得た。得られた二軸延伸フィルムの結果を表3に示す。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。