以下、本発明について詳しく説明する。尚、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示し、「ppm」は特に断らない限り質量換算で求められる値を意味し、例えば、10,000ppmは1質量%を意味する。
また、「アクリル系重合体」とは、(メタ)アクリル酸若しくは(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体を主成分として含有する単量体成分を重合して得られる重合体を意味し、本明細書において「主成分」とは、50質量%以上含有していることを意味する。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下であるアクリル系重合体を主成分として含有し、フッ素含有重合体を含む。
(I)アクリル系重合体
上記アクリル系重合体とは、主に、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体を重合して得られる樹脂であり、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であれば特には限定されず、公知のアクリル系重合体を用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含有する単量体組成物を重合することにより製造することができる。
上記アクリル系重合体のガラス転移温度は、より好ましくは120℃以上190℃以下の範囲内、更に好ましくは130℃以上180℃以下の範囲内である。
上記アクリル系重合体の重量平均分子量は、機械強度、特にフィルムにした場合の可撓性を向上させる観点から、10,000〜2,000,000の範囲内が好ましく、30,000〜1,000,000の範囲内がより好ましく、50,000〜500,000の範囲内が更に好ましい。
上記アクリル酸、及びメタクリル酸の誘導体としては、例えば、一般式(2)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を示す)
で表される構造を有する化合物(単量体)、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸nーブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等が好ましい。これらは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、耐熱性、透明性が優れる点から、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物、メタクリル酸メチルがより好ましい。
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチル等が挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。一般式(2)で表される化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記アクリル系重合体は、上述した(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造を有していてもよい。(メタ)アクリル酸エステルを重合した構造以外の構造としては、特には限定されないが、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)
(式中、R6は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、又はC−O−R8基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7及びR8は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。)
で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
水酸基含有単量体としては、一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体であれば特に限定されないが、例えば、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン等のアリルアルコール;α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等の2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
本実施の形態に係るアクリル系重合体は、耐熱性向上の観点より、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミド等のN−置換マレイミドと共重合していてもよく、分子鎖中(重合体の主骨格中、又は主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造等を導入してもよい。これらの中でも、フィルムの着色(黄変)が起こり難い点で、窒素原子を含まない構造が好ましい。また、環化縮合反応率が高く、高温成形時に架橋等が起こり難く樹脂の劣化が少ないことから、主鎖にラクトン環構造を有することが好ましい。
尚、ラクトン環化反応前の重合体は、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルと良好に共重合させることが可能である。また、重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得やすい点で、主鎖中のラクトン環構造は、後述する一般式(1)で表される構造であることが好ましい。
また、上記アクリル系重合体が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した重合体である場合、上記アクリル系重合体はラクトン環構造を有していることがより好ましい(以下、ラクトン環構造を有するアクリル系重合体を「ラクトン環含有重合体」と記す)。以下、ラクトン環含有重合体について説明する。
上記ラクトン環構造としては、例えば、下記一般式(1)
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。尚、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
で表される構造が挙げられる。
尚、上記一般式(1)、(2)、(3)における有機残基は、炭素数が1〜20の範囲内であれば特には限定されないが、例えば、直鎖若しくは分岐状のアルキル基、直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、アリール基、−OAc基、−CN基等が挙げられる。
上記アクリル系重合体中の上記ラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%の範囲内、より好ましくは10〜85質量%の範囲内、更に好ましくは20〜65質量%の範囲内、特に好ましくは25〜55質量%の範囲内である。上記ラクトン環構造の含有割合が5質量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、またフィルムとした場合に必要な位相差を得ることが難しくなるため好ましくない。上記ラクトン環構造の含有割合が90質量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなる傾向があり、好ましくない。
ラクトン環含有重合体において、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%の範囲内、より好ましくは10〜90質量%の範囲内、更に好ましくは40〜90質量%の範囲内、特に好ましくは50〜90質量%の範囲内である。
また、水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30質量%の範囲内、より好ましくは0〜20質量%の範囲内、更に好ましくは0〜15質量%の範囲内、特に好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
また、不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30質量%の範囲内、より好ましくは0〜20質量%の範囲内、更に好ましくは0〜15質量%の範囲内、特に好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
また、一般式(3)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0〜30質量%の範囲内、より好ましくは0〜20質量%の範囲内、更に好ましくは0〜15質量%の範囲内、特に好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
ラクトン環含有重合体の製造方法については、特に限定はされないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、得られた重合体を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによってラクトン環含有重合体を得ることができる。
上記一般式(2)で表される化合物を含む単量体組成物の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得ることができる。
上記重合反応(重合工程)において供する単量体組成物中における一般式(2)で表される化合物の含有割合は、好ましくは5〜90質量%の範囲内、より好ましくは10〜50質量%の範囲内、更に好ましくは15〜40質量%の範囲内、特に好ましくは20〜35質量%の範囲内である。重合工程において供する単量体成分中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が5質量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。重合工程において供する単量体組成物中の一般式(2)で表される単量体の含有割合が90質量%よりも多いと、重合時、ラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が乏しくなることがあり、好ましくない。
重合工程において供する単量体組成物中には、一般式(2)で表される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体が好ましく挙げられる。一般式(2)で表される単量体以外の単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
一般式(2)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは10〜95質量%の範囲内、より好ましくは40〜90質量%の範囲内、更に好ましくは50〜90質量%の範囲内、特に好ましくは60〜85質量%の範囲内、最も好ましくは65〜80質量%の範囲内である。
一般式(2)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%の範囲内、より好ましくは0〜20質量%の範囲内、更に好ましくは0〜15質量%の範囲内、特に好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%の範囲内、より好ましくは0〜20質量%の範囲内、更に好ましくは0〜15質量%の範囲内、特に好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
一般式(3)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%の範囲内、より好ましくは0〜20質量%の範囲内、更に好ましくは0〜15質量%の範囲内、特に好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
単量体組成物を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
重合温度、重合時間は、使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0〜150℃の範囲内、重合時間が0.5〜20時間の範囲内であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃の範囲内、重合時間が1〜10時間の範囲内である。
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃の範囲内のものが好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、t−アミルパーオキシイソノナノエート、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が70質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が70質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して70質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。尚、重合反応混合物中の重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基及びエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
以上の重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にエステル基(上記重合体が、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合した場合では、水酸基とエステル基)とを有する重合体であり、重合体の重量平均分子量は、10,000〜2,000,000の範囲内が好ましく、30,000〜1,000,000の範囲内がより好ましく、50,000〜500,000の範囲内が更に好ましい。
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含有する単量体を重合して得られた重合体では、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理によりラクトン環構造を重合体に導入することができ、ラクトン環含有重合体とすることができる。
上記重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれている。上記重合体をラクトン環含有重合体とする場合では、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後に続くラクトン環化縮合工程を行うことが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
上記重合体へラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、重合体に高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在する恐れがあるため好ましくない。
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、上記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
上記重合体を加熱処理する方法については特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
環化縮合反応を行う際に、上記重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等を用いてもよい。
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。更に、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)及びこれらのジエステルあるいはモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステルあるいはモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;等が挙げられる。これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステルあるいはモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、上記重合体に対して、好ましくは0.001〜5質量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5質量%の範囲内、更に好ましくは0.01〜1質量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が十分に図れないおそれがあり、一方、5質量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形しにくくなることがあるため、好ましくない。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、及び、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールとを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こったりする問題等が生じる。
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、上記脱揮装置と上記押出機とを直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置又はベント付き押出機を用いることがより好ましい。
上記熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
上記熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難となるという問題がある。
上記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
上記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
上記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
尚、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、更に加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、2軸押出機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、即ち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
上述のように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、ラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、環化縮合反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、実施例に示すダイナッミクTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、更に好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、更に、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、及び、上記(i)又は(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
尚、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフラン等でもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等が挙げられるが、本実施の形態においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体の重量に対し、好ましくは0.001〜5質量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5質量%の範囲内、更に好ましくは0.01〜0.1質量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内である。方法(i)の加熱温度と加熱時間とは特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜等を用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、更に好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。また、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、即ち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、更に好ましくは1%以下である。重量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が十分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下するおそれがある。尚、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤とを単離することなく、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行ってもよい。また、必要に応じて、上記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても構わない。
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することのみには限定されず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
また、触媒を添加して環化反応を十分行った後にも、重合体中に微量の未反応の反応性基が残存しているため、成形時、特にポリマーフィルタによる濾過を行う工程で異物の増加や、ポリマー分子間での架橋による増粘等の問題が起こることがある。このため、触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後に、環化縮合触媒の失活剤を添加することが好ましい。
環化縮合反応には、酸性触媒若しくは塩基性触媒が用いられることが多く、その場合、中和反応により失活剤は触媒を失活させる。このため、触媒が酸性物質である場合には失活剤は塩基性物質を用いればよく、逆に触媒が塩基性物質である場合には失活剤は酸性物質を用いればよい。
上記失活剤としては、熱加工時に樹脂組成物の物性を阻害する物質等を発生しない限り特に限定されないが、失活剤に塩基性物質を用いる場合、例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物等が挙げられる。これらの中で金属カルボン酸塩、及び金属酸化物が好ましく、金属カルボン酸塩が特に好ましい。
上記塩基性物質における金属としては、樹脂組成物の物性を阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム等が挙げられる。
上記金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては特には限定されないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸等が挙げられる。
上記金属錯体における有機成分としては、特には限定されないが、アセチルアセトン等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、酸化亜鉛が好ましい。
また、失活剤に酸性物質を用いる場合には、例えば、有機リン酸化合物やカルボン酸等が挙げられる。本実施の形態で用ることができる失活剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。尚、失活剤は粉末状等の固形物や、懸濁液、水溶液等の溶媒に分散した状態等の何れの形態で用いてもよい。
上記失活剤の添加量は、環化縮合反応に使用した触媒の量に応じて適宜調製すればよく、特に限定されないが、好ましくは、アクリル系重合体に対して10〜10,000ppmの範囲内、より好ましくは50〜5,000ppmの範囲内、更に好ましくは100〜3,000ppmの範囲内である。
失活剤の添加量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不十分となり、成形時に発泡やポリマー分子間の架橋による増粘が起こることがある。逆に、失活剤の添加量が10,000ppmを超えると、必要以上に失活剤を使用することになり、分子量低下が起こる等、樹脂組成物の物性を阻害することがある。
失活剤を添加するタイミングは、アクリル系重合体の製造において、触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後であり、且つ、得られた樹脂組成物が熱加工される前である限り、特には限定されない。例えば、アクリル系重合体を製造中に所定の段階で失活剤を添加するか、あるいはアクリル系重合体を製造した後、アクリル系重合体、失活剤、及びその他の成分等を同時に加熱溶融させて混練する方法;アクリル系重合体、及びその他の成分等を加熱溶融させた後に失活剤を添加して混練する方法;アクリル系重合体を加熱溶融させた後に失活剤、及びその他の成分等を添加して混練する方法等が挙げられる。
また、失活剤を添加する場合、得られたアクリル系重合体が熱加工時に発泡をほとんど起こさないという観点から、失活剤と混練した後に脱揮工程を行うことが好ましい。脱揮工程としては、上述した、ラクトン環含有重合体の製造に際して行う脱揮工程と同様の工程を行うことができる。
得られたラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下である。
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。更に、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に十分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体が十分に高い耐熱性を有している。
ラクトン環含有重合体は、15質量%のクロロホルム溶液中での着色度(YI)が6以下となるものが好ましく、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を越えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
ラクトン環含有重合体は、熱重量分析(TG)における5%重量減少温度が、330℃以上であることが好ましく、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは360℃以上である。熱重量分析(TG)における5%重量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、十分な熱安定性を発揮できないおそれがある。
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1,500ppmよりも多いと、成形時の変質等による着色、発泡、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる。
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。
(II)フッ素含有重合体
上記フッ素含有重合体とは、フッ素原子を含む重合体であれば特には限定されず、従来公知のフッ素含有重合体を用いることができる。上記フッ素含有重合体として、例えば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等を単独若しくは2種以上含む単量体成分を重合して得られる重合体が挙げられる。
これらの中では、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性の観点から、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル及びエチレンからなる群から選択される少なくとも1種の単量体とフッ化ビニリデンとを共重合させた重合体、フッ化ビニリデンを単独で重合した重合体(ポリフッ化ビニリデン)がより好ましい。
尚、上記フッ素含有重合体がポリフッ化ビニリデンを含有する場合における、フッ素含有重合体中のポリフッ化ビニリデンの割合は、20質量%〜100質量%の範囲内であることが好ましく、50質量%〜100質量%の範囲内であることがより好ましい。
また、当然のことながら、上記フッ素原子を含む重合体は、更にフッ素を含有しない単量体を共重合させてもかまわないが、この場合、得られる熱可塑性樹脂組成物の可撓性若しくは位相差性能に悪影響を与えるおそれがある。このため、上記フッ素含有重合体におけるフッ素を含有しない単量体由来の構造の割合は、0〜80質量%の範囲内がより好ましく、0〜50質量%の範囲内が更に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
尚、本明細書では、「単量体由来の構造」とは、単量体を重合したときに形成される構造を意味し、例えば、「フッ化ビニリデン由来の構造」は、フッ化ビニリデンを重合したときに形成される構造を意味する。
上記フッ素含有重合体の重量平均分子量は、5万〜70万の範囲内であることが好ましく、10万〜60万の範囲内であることがより好ましい。フッ素含有重合体の重量平均分子量が10万未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の可撓性が低下する傾向があり、70万を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形が困難となる傾向がある。
(III)熱可塑性樹脂組成物
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、上述したアクリル系重合体と上述したフッ素含有重合体とを含む。
上記熱可塑性樹脂組成物中のアクリル系重合体の含有量は50質量%以上であり、得られる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度、透明性の観点から、75質量%〜99質量%の範囲内であることがより好ましく、80質量%〜99質量%の範囲内であることが更に好ましく、85質量%〜95質量%の範囲内であることが特に好ましい。上記アクリル系重合体の含有量が50質量%未満である場合、耐熱性及びフィルムとした場合の光学特性が低下する傾向がある。
上記熱可塑性樹脂組成物中のフッ素含有重合体の含有量は、得られる熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度及び透明性を阻害させないという観点から、1質量%〜25質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%〜20質量%の範囲内であることがより好ましく、5質量%〜15質量%の範囲内であることが更に好ましい。
尚、熱可塑性樹脂組成物の複屈折性の正負は用途に合わせて任意の値に調整することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン等の正の複屈折性のフッ素含有重合体を用いる場合、位相差をより発現させるために、正の複屈折性のアクリル系重合体を用いることができる。また、正の複屈折性のフッ素含有重合体を用いる場合で、位相差の発現を抑制したいときには、負の複屈折性を示すアクリル系重合体を、所望の位相差となるように選択することができる。熱可塑性樹脂組成物を位相差フィルムとして使用する場合には、熱可塑性樹脂組成物は正の複屈折性であることが好ましいため、ポリフッ化ビニリデン等の正の複屈折性のフッ素含有重合体を用いる場合には、正の複屈折性のアクリル系重合体を用いることが好ましい。
上記アクリル系重合体と上記フッ素含有重合体との混合は、例えば、オムニミキサー等、従来公知の混合機で上記アクリル系重合体と上記フッ素含有重合体とをプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練することにより行うことができる。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等、従来公知の混合機を用いることができる。
上記混合工程の後、上記熱可塑性樹脂組成物を、ポリマーフィルタで濾過する工程を行うことが好ましい。ポリマーフィルタで濾過する工程を行うことにより、異物の少ない熱可塑性樹脂組成物を実現することができる。
上記熱可塑性樹脂組成物中の異物の数は、具体的には、粒子径が20μm以上の異物が1,000個/m2以下であることが好ましく、500個/m2以下であることがより好ましく、200個/m2以下であることが更に好ましく、理想的には0個/m2である。
上記ポリマーフィルタとしては、濾過精度が1μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上10μm以下の範囲内であることがより好ましく、1μm以上5μm以下の範囲内であることが更に好ましい。濾過精度が1μm未満であると、濾過滞留時間が長くなり、生産効率が低下するため好ましくない。また、濾過滞留時間が長くなると、熱可塑性樹脂等が熱劣化し易くなるため、異物の増加を招く恐れがある。濾過精度が20μmを超えると、異物が混入し易くなるため好ましくない。
また、上記ポリマーフィルタは、上記範囲内の濾過精度を有するポリマーフィルタであれば特には限定されず、従来公知のポリマーフィルタを使用することができる。上記ポリマーフィルタとしては、例えば、リーフディスクタイプのポリマーフィルタ、パックディスクフィルタ、円筒型フィルタ、キャンドル状フィルタ等が挙げられる。これらの中では、濾過面積が広く、高粘度の樹脂を濾過した場合でも圧力損失が少ないため、リーフディスクタイプのポリマーフィルタがより好ましい。
上記ポリマーフィルタがリーフディスクタイプのポリマーフィルタである場合、フィルタとしては、金属繊維不織布を焼結した材料からなるもの、金属粉末を焼結した材料からなるもの、金網を数枚積層したもの等が挙げられる。これらの中では、金属繊維不織布を焼結した材料からなるものがより好ましい。
上記ポリマーフィルタにおける時間当たりの樹脂(熱可塑性樹脂組成物)処理量に対する濾過面積は、処理量に応じて適宜選択されるため、特には限定されず、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/h)の範囲内とすることができる。
上記ポリマーフィルタでの濾過において、上記熱可塑性樹脂組成物の温度は、240℃以上であることが好ましく、260℃以上であることがより好ましく、270℃以上であることが更に好ましい。また、310℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることが更に好ましい。
上記ポリマーフィルタでの濾過時における、上記熱可塑性樹脂組成物の粘度(剪断速度100/sで測定した場合)は、500Pa・s以下が好ましく、450Pa・s以下がより好ましく、400Pa・s以下が更に好ましい。
上記ポリマーフィルタでの濾過時における、上記熱可塑性樹脂組成物の滞留時間は、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下が更に好ましい。また、上記ポリマーフィルタでの濾過時におけるフィルタの入口圧は、例えば3〜15MPaの範囲内、フィルタの出口圧は、例えば0.3〜10MPaの範囲内とすることができる。また、フィルタにおける圧力損失は、1〜15MPaの範囲内であることが好ましい。圧力損失が1MPa未満では、樹脂がポリマーフィルタを通過する流路に偏りが生じ易く、濾過後の樹脂の品質の低下が起こる傾向がある。逆に、圧力損失が15MPaを超えると、フィルタの破損が起こり易くなる。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、透明性や耐熱性に優れるのみならず、低着色性、機械的強度、成形加工性等の所望の特性を備えるので、例えば、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスク等の用途に有用である。これらの中でも特に、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルムの用途に用いることがより好ましい。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、用途に応じて様々な形状に成形することができる。形成可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コード、ファイバー等が挙げられる。成形方法としては、従来公知の形成方法の中から形状に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記アクリル系重合体及び上記フッ素含有重合体以外の重合体を含有していてもよい。
上記アクリル系重合体及び上記フッ素含有重合体以外の重合体としては、例えば、弾性有機微粒子や、その他の重合体として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;等が挙げられる。
中でも、上記アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、熱可塑性樹脂組成物は正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性(正の位相差)を増加させる点で、塩化ビニル、ポリカーボネート、その他の主鎖に芳香族環を含有する重合体等、正の複屈折性(正の位相差)を示す重合体を含有させることが好ましい。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物が弾性有機微粒子を含有する場合、その含有割合は、好ましくは0〜49質量%の範囲内、より好ましくは10〜40質量%の範囲内、更に好ましくは15〜30質量%の範囲内である。弾性有機微粒子の含有割合が49質量%を超えると、弾性有機微粒子の凝集等によって透明性が低下したり、異物の副生が多くなり、光学用途に使用できない場合がある。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物中のその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜49質量%の範囲内、より好ましくは0〜40質量%の範囲内、更に好ましくは0〜30質量%の範囲内、特に好ましくは0〜20質量%の範囲内である。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、位相差値(レターデーション値、あるいは単に位相差と記する場合がある)を高めるために、アクリル系重合体の示す複屈折性の符号と同じ符号の複屈折性を示す低分子物質を含有してもよい。低分子物質としては、一般に分子量5,000以下、好ましくは1,000以下の分子量を有する物質を指し、具体的には特許第3696645号に記載される低分子物質が挙げられる。
中でも、上記アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、得られる熱可塑性樹脂組成物は正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性(正の位相差)を増加させる点で、スチルベン、ビフェニル、ジフェニルアセチレン、通常の液晶物質等の正の複屈折性(正の位相差)を示す低分子物質が好ましい。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物中の上記低分子物質の含有割合は、好ましくは0〜20質量%の範囲内、より好ましくは0〜10質量%の範囲内、更に好ましくは0〜5質量%の範囲内である。
また、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2´−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;等が挙げられる。
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%の範囲内、より好ましくは0〜2質量%の範囲内、更に好ましくは0〜0.5質量%の範囲内である。
上記弾性有機微粒子(以下、「有機微粒子」と記す)は、可撓性(耐折曲げ性)等の熱可塑性樹脂組成物の物性を改善する効果を有するものであることが好ましい。このため、上記有機微粒子は架橋構造を有していることがより好ましい。
上記架橋構造を有する有機微粒子としては、例えば、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性化合物を含む単量体組成物を重合することによって得ることができる。
上記多官能性化合物としては、ジビニルベンゼン、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール、ジメタクリル酸エチレングリコール、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−ト及びジプロピレングリコ−ルジアクリレ−ト等が挙げられ、これらは1種類のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記有機微粒子は、上記多官能性化合物を重合した構造(以下、多官能性化合物由来の構造と記す)以外の構造を有していてもよい。上記多官能性化合物由来の構造以外の構造としては、上述したアクリル系重合体を構成する、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の構造を有していていることが好ましい。
上記有機微粒子が、上述したアクリル系重合体を構成する重合体構造単位の構造を有していることにより、アクリル系重合体中での有機微粒子の分散性が改善され、フィルムの透明性が向上し、また、有機微粒子の凝集等によって生じる異物の副生をより抑制することができる。これにより、フィルム等の成形時における濾過工程を短時間で行うことができる。
上記有機微粒子は、上記多官能性化合物を含む単量体組成物を重合することにより得られる場合、架橋弾性を示す。これにより、成形したフィルム等の可撓性は改善され、成形性及び耐折曲げ性に優れるフィルム等を得ることができる。
有機微粒子は、平均粒子径0.01μm以上1μm以下の範囲内のコア部となる粒子状重合体に、シェル部として(メタ)アクリル酸エステルを更に重合してなるコア部とシェル部とからなる多層構造を有する有機微粒子であって、上記コア部とシェル部との質量比は、20:80〜80:20の範囲内であり、上記シェル部は、5質量%以上50質量%以下の範囲内の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステルの単量体の構造単位を含むことが好ましい。上記有機微粒子はコア・シェル構造を有するため、アクリル系重合体中でより均一に分散することができる。また、本実施の形態に係る有機微粒子は、平均粒子径が0.01μm以上1μm以下の範囲内の架橋構造を有する有機微粒子であって、1質量%以上100質量%以下の範囲内の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステルの単量体の構造単位を含むことが好ましい。
上記2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステルとしては、上述した一般式(2)で表される構造を有する化合物が好ましく、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがより好ましい。
上記有機微粒子は、中心の部分(コア)のみに多官能性化合物由来の構造を有し、中心の部分を囲む部分(シェル)には、位相差フィルムを構成するアクリル系重合体との相溶性が高い構造を有することが好ましい。これより、有機微粒子はアクリル系重合体中でより均一に分散することができ、有機微粒子の凝集等によって生じる異物の副生をより抑制することができる。これにより、濾過工程をより短時間で行うことができる。このようなコア・シェル構造を有する有機微粒子は、例えば、上記有機微粒子の重合時に反応せずに残った反応性官能基(二重結合)をグラフト交叉点として、上述した(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、一般式(3)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種をグラフト重合させることにより得ることができる。以下、上記コア・シェル構造のシェル部及びコア部について説明する。
上記シェル部としては、熱可塑性樹脂組成物を構成するアクリル系重合体との相溶性が高い構造であれば特には限定されない。上記アクリル系重合体との相溶性が高い構造を有するシェル部を構成する構造としては、例えば、アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(以下、MHMAと記す)とメタクリル酸メチル(以下、MMAと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、MHMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸シクロヘキシル(以下、CHMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、CHMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸ベンジル(以下、BzMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、BzMA/MMA構造と記す)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、HEMAと記す)とMMAとからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、HEMA/MMA構造と記す)、アクリロニトリル(以下、ANと記す)とスチレン(以下、Stと記す)とからなる単量体組成物を重合して構築される構造(以下、AN/St構造と記す)等が挙げられる。
シェル部がMHMA/MMA構造である場合、MHMAとMMAとの割合(質量比)は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。また、上記MHMA/MMA構造を有するシェルの場合、ラクトン環構造を含んでいることが好ましい。ラクトン環構造は、上記シェルを形成した後、ラクトン化することにより導入することができる。
上記シェルがCHMA/MMA構造である場合、CHMAとMMAとの割合(質量比)は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェルがBzMA/MMA構造である場合、BzMAとMMAとの割合(質量比)は、10:90〜60:40の範囲内であることが好ましく、20:80〜50:50の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェルがHEMA/MMA構造である場合、HEMAとMMAとの割合(質量比)は、2:98〜50:50の範囲内であることが好ましく、5:95〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
上記シェルがAN/St構造である場合、ANとStとの割合(質量比)は、5:95〜50:50の範囲内であることが好ましく、10:90〜40:60の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であれば、ラクトン環含有重合体との相溶性は良好であり、有機微粒子はラクトン環含有重合体中に均一に分散することができる。
中でも、アクリル系重合体が上述したラクトン環含有重合体である場合、正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性を小さくさせ難い点で、CHMA/MMA構造、BzMA/MMA構造、MHMA/MMA構造を有するシェルが、更に、MHMA/MMA構造を有するシェルの場合、ラクトン環構造を含んでいることが好ましい。
上記コア部としては、上記熱可塑性樹脂組成物の可撓性を改善する効果を発現する構造であれば特には限定されず、例えば、架橋を有する構造が挙げられる。また、架橋を有する構造としては、架橋ゴム構造であることが好ましい。
上記架橋ゴム構造とは、ガラス転移点が−140℃から25℃の範囲内である重合体を主鎖とし、多官能性化合物によって、その主鎖間を架橋することによって弾性を持たせたゴムの構造を意味する。架橋ゴム構造としては、例えばアクリル系ゴム、ポリブタジエン系ゴム、オレフィン系ゴムの構造(繰り返し構造単位)が挙げられる。
上記架橋を有する構造としては、例えば、上述した多官能性化合物由来の構造が挙げられる。上記多官能性化合物の中でも、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ジシクロペンテニルがより好ましい。
上記コア部の製造時における多官能性単量体の使用量は、用いる単量体組成物の0.01〜15質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜10質量%の範囲内であることがより好ましい。多官能性単量体を上記範囲内で使用することにより、得られる樹脂組成物を成形したフィルムは良好な耐折曲げ性を示す。
コア部とシェル部との割合は、質量比で、コア:シェルが20:80〜80:20の範囲内であることが好ましく、40:60〜60:40の範囲内であることがより好ましい。コア部分が20質量%未満では、得られる有機微粒子から形成したフィルムの耐折曲げ性が悪化する傾向があり、80質量%を超えると、フィルムの硬度及び成形性が低下する傾向がある。
上記コア部は、架橋構造を有していても有していなくてもよく、また同様に、上記シェル部も、架橋構造を有していても有していなくてもよいが、コア部のみが架橋構造を有し、シェル部は架橋構造を有していないものがより好ましい。
有機微粒子の平均粒子径は、0.01〜1μmの範囲内であることが好ましく、0.03〜0.5μmの範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.3μmの範囲内であることが特に好ましい。上記平均粒子径が0.01μm未満では、フィルムを作成した場合、十分な可撓性が得られない傾向があり、上記平均粒子径が1μmを超えると、フィルム製造時における濾過処理工程においてフィルタに有機微粒子が詰まり易くなる傾向がある。尚、有機微粒子の粒子径は、市販の粒度分布測定装置(例えば、NICOMP社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)等)を用いて測定することができる。
上記有機微粒子の製造方法は特には限定されず、従来公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法又は溶液重合法により、上述した単量体組成物を1段若しくは多段で重合させることにより、上記有機微粒子を製造することができる。これらの中では、乳化重合法がより好ましい。
乳化重合により有機微粒子を製造する場合、乳化重合後の重合液を塩析や再沈により有機微粒子を凝集させた後、濾過、洗浄を行う。洗浄後、有機微粒子を乾燥し、アクリル系重合体及びフッ素含有重合体と混合することによって熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。また、洗浄後、有機微粒子を乾燥せずに、得られる有機微粒子のケーキをMIBK(メチルイソブチルケトン)等の有機溶剤に再分散させ、その再分散液にアクリル系重合体及びフッ素含有重合体を溶解、若しくは再分散液とアクリル系重合体及びフッ素含有重合体溶液(アクリル系重合体及びフッ素含有重合体を有機溶剤で溶解させた溶液)とを混合し、その後、水及び/又は有機溶剤を脱揮することによっても熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
上記有機微粒子の重合時における重合開始剤としては、従来公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物等の開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)ジハイドロクロライド、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
上記重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体等の還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
上記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法等、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
また、上記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤及び/又はホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用することが好ましい。
上記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、従来公知の乳化重合用の界面活性剤を使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノ−ル類、脂肪族アルコ−ル類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
得られる有機微粒子のラテックスは、通常の凝固、洗浄及び乾燥の操作により、又は、スプレ−乾燥、凍結乾燥等による処理により、分離、回収することができる。
上述した有機微粒子は、位相差フィルム中に1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
(IV)フィルム
本実施の形態に係るフィルムは、上記熱可塑性樹脂組成物と、必要により、その他の成分を、従来公知の混合方法にて混合し、フィルム状に成形することで得られる。また、延伸することによって延伸フィルムとしてもよい。
尚、当然のことながら、上記熱可塑性樹脂組成物の替わりに、上記熱可塑性樹脂組成物に含まれるアクリル系重合体やフッ素含有重合体を別々の樹脂材料として用いてもかまわない。
上記その他の成分としては、例えば、「(III)熱可塑性樹脂組成物」の項において記載した、上記アクリル系重合体及び上記フッ素含有重合体以外の成分が挙げられる。
フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、公知のフィルム成形方法が挙げられる。これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶媒等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;等が挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、その際の、フィルムの成形温度は、好ましくは150〜350℃の範囲内、より好ましくは200〜300℃の範囲内である。
位相差性能を発現するフィルム(位相差フィルム)とするためには、フィルム中の分子鎖を配向させることが重要であり、分子鎖の配向が可能であれば如何なる方法を用いることも可能である。例えば、延伸、圧延、引き取り等の各種方法を用いることができる。これらの中でも、生産効率が高いため、延伸により位相差性能を発現させることが好ましい。
上記位相差フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;フィルムの延伸時にその片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。耐折り曲げ性が向上する点で、二軸延伸が好ましい。更に、フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、同時二軸延伸が好ましい。面内の任意の直交する二方向としては、例えば、フィルム面内の遅相軸と平行方向及びフィルム面内の遅相軸と垂直な方向が挙げられる。尚、所望の位相差値、所望の耐折れ曲げ性に応じて、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件を適宜設定すればよく、延伸条件は特に限定されない。
また、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内でnxと垂直方向の屈折率をny、フィルム厚さ方向の屈折率をnzとした場合、nx>ny=nz若しくはnx=nz>nyを満たす位相差フィルムが得られる点で、自由幅一軸延伸が好ましい。また、nx=ny>nz若しくはnx=ny<nzを満たす位相差フィルムが得られる点で二軸延伸が好ましい。更には、nx>nyで0<(nx−nz)/(nx−ny)<1を満足する位相差フィルムが得られるという点で、フィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与する延伸方法が好ましい。
延伸等を行なう装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これら何れの装置を用いても、本実施の形態に係る位相差フィルムを得ることができる。
延伸温度としては、フィルム原料の重合体のガラス転移温度近辺で行うことが好ましい。具体的には、(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+50)℃の範囲内で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+20)℃の範囲内、更に好ましくは(ガラス転移温度−10)℃〜(ガラス転移温度+10)℃の範囲内である。(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。(ガラス転移温度+50)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲内、より好ましくは1.2〜10倍の範囲内、更に好ましくは1.3〜5倍の範囲内で行われる。1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う位相差性能の発現や靭性の向上につながらないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率の増加に対する効果が小さくなる。
ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、好ましくは1.05〜10倍の範囲内、より好ましくは1.1〜5倍の範囲内、更に好ましくは1.2〜3倍の範囲内で行われる。1.05倍よりも小さいと、所望の位相差値が得られない場合があり好ましくない。10倍よりも大きいと、延伸倍率の増加に対する効果が小さくなり、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20,000%/分の範囲内、より好ましくは100〜10,000%/分の範囲内である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20,000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
本実施の形態に係る位相差フィルムの厚さは、5〜350μmの範囲内が好ましく、より好ましくは20〜200μmの範囲内、更に好ましくは30〜150μmの範囲内である。膜厚が5μmより薄いと強度に乏しく、また、所望の位相差値(レターデーション値)を得ることが困難となる。膜厚が350μmより厚いと液晶表示装置の薄型化に不利となる。
本実施の形態に係る位相差フィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値が20〜500nmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは50〜500nmの範囲内であり、更に好ましくは130〜500nmの範囲内、特に好ましくは170〜500nmの範囲内であり、最も好ましくは200〜450nmの範囲内である。20nmより小さいと、所望の位相差値(レターデーション値)を得るためにフィルムの厚さが厚くなるため好ましくない。また、500nmを超えると延伸条件の少しの変化で位相差値(レターデーション値)が変化してしまい、安定的に生産することが難しくなる場合があるため好ましくない。更には、大きな位相差値を得るためには、延伸倍率を大きくし、延伸温度を低くする必要があり、延伸工程中にフィルムの破断等が起こり、安定的に生産することが難しくなる場合がある。
本実施の形態に係る位相差フィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値の絶対値が30〜400nmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは70〜400nmの範囲内であり、更に好ましくは120〜350nmの範囲内であり、特に好ましくは150〜300nmの範囲内である。
「位相差値」はレターデーション値ともいう。ここでいう面内位相差値(Re)は、
Re=(nx−ny)×d
で、厚さ方向位相差値(Rth)は、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
で、定義される。尚、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率が最大となる方向とする。また、延伸方向の屈折率が大きくなるものを正の複屈折性があると言い、フィルム面内で延伸方向と垂直方向の屈折率が大きくなるものを負の複屈折性があると言う。
尚、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値」とは、面内位相差値(Re)を求める上記式において、d=100×103nmでの値のことである。また、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値」とは、厚さ方向位相差値(Rth)を求める上記式において、d=100×103nmでの値のことである。
本実施の形態に係る位相差フィルムの589nmにおける面内位相差値Reは、20nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは20〜500nmの範囲内であり、更に好ましくは50〜500nmの範囲内であり、特に好ましくは100〜350nmの範囲内である。
本発明に係る位相差フィルムをλ/2板として用いる場合、589nmにおけるReが200〜350nmの範囲内であることが好ましく、更に好ましくは240〜300nmの範囲内であり、特に好ましくは260〜280nmの範囲内であり、最も好ましくは265〜275nmの範囲内である。
本実施の形態に係る位相差フィルムをλ/4板として用いる場合、589nmにおけるReが100〜200nmの範囲内であることが好ましく、更に好ましくは120〜160nmの範囲内であり、特に好ましくは130〜150nmの範囲内であり、最も好ましくは135〜145nmの範囲内である。
本実施の形態に係る位相差フィルムの589nmにおける厚さ方向位相差値(Rth)の絶対値は、10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは50〜400nmの範囲内であり、更に好ましくは100〜300nmの範囲内である。
尚、複屈折率の正負の判断は、「高分子素材の偏光顕微鏡入門」(粟屋裕著、アグネ技術センター版、第5章、pp78〜82(2001))に記載の偏光顕微鏡を用いたλ/4板による加色判定法により判定を行なうことができる。また、位相差フィルムそのものを、又は位相差フィルムを加熱収縮させた後、単軸延伸し、延伸方向の屈折率が大きくなるかどうかで判断することもできる。
本実施の形態に係る位相差フィルム等のフィルムは、ガラス転移温度が110℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。より好ましくは115℃〜200℃の範囲内、更に好ましくは120℃〜200℃の範囲内、特に好ましくは125℃〜190℃の範囲内、最も好ましくは130℃〜180℃の範囲内である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足し、フィルムが変形して位相差のムラが発生し易くなることがあるため好ましくない。また、200℃を超えると、超高耐熱性のフィルムとなるが、該フィルムを得るための成形加工性が悪かったり、フィルムの可撓性が大きく低下する場合があるため好ましくない。
本実施の形態に係る位相差フィルム等のフィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、更に好ましくは91%である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
本実施の形態に係る位相差フィルム等のフィルムは、ヘイズが5%以下であることが好ましい。より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。ヘイズが5%を超えると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
本実施の形態に係る位相差フィルム等のフィルムは、単独での使用以外に、同種光学材料及び/又は異種光学材料と積層させて用いることにより、更に光学特性を制御することができる。この際に積層される光学材料としては、特には限定されないが、例えば、偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルム、環状ポリオレフィン製延伸配向フィルム等が挙げられる。
本実施の形態に係る位相差フィルム等のフィルムは、液晶表示装置用の光学補償部材として好適に用いられる。具体的には、例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCD等のLCD用位相差フィルム;1/2波長板;1/4波長板;逆波長分散特性フィルム;光学補償フィルム;カラーフィルター;偏光板との積層フィルム;偏光板光学補償フィルム等が挙げられる。また、本実施の形態に係る位相差フィルムを応用した用途は、これらに制限されるものではない。
尚、上述した実施の形態における説明で挙げた各分析の具体的な方法は、以下の実施例にて説明する。