しかしながら、上記特許文献1に開示された高温用バイメタルでは、使用温度範囲の全域において略一定の湾曲係数(5〜6×10−6/K)を有していると考えられる。ここで、バイメタルの使用態様として、最高許容温度(1200℃)よりも小さい設定温度において、高温用バイメタルの湾曲変形を一定範囲に抑制するためのストッパ部材に高温用バイメタルが当接するように構成されている場合がある。この場合に、設定温度と最高許容温度との間の高温領域の温度範囲においては、ストッパ部材により高温用バイメタルの変形が阻害される。この際、上記特許文献1のような使用温度範囲の全域において略一定の湾曲係数を有する高温用バイメタルでは、低温領域および高温領域の全域に渡って大きな湾曲係数を有するため、高温用バイメタルの内部には熱応力が蓄積されやすい。したがって、常温から最高許容温度近傍まで温度を上昇させた後に、再度常温まで温度を低下(降温)させると、常温時の原点位置が大きく変化してしまうという問題点がある。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、常温に降温した際の原点位置の変化が大きくなるのを抑制することが可能な高温用バイメタルを提供することである。
課題を解決するための手段および発明の効果
この発明の一の局面による高温用バイメタルは、オーステナイト系ステンレスからなる高熱膨張層と、キュリー点を有する感温磁性金属材からなり、高熱膨張層に貼り合わされた低熱膨張層とを備え、キュリー点以上の高温領域とキュリー点未満の低温領域との両方の温度領域に渡って使用されるとともに、キュリー点以上の高温領域における使用温度の上限の温度は、500℃以上であり、キュリー点以上の高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数は、高熱膨張層の熱膨張係数よりも小さい。
この発明の一の局面による高温用バイメタルでは、上記のように、低熱膨張層がキュリー点を有する感温磁性金属材からなるとともに、高温用バイメタルをキュリー点以上の高温領域とキュリー点未満の低温領域との両方の温度領域に渡って使用することによって、感温磁性金属材ではキュリー点以上の高温領域における熱膨張係数はキュリー点未満の低温領域における熱膨張係数よりも大きいので、高温領域における高熱膨張層の熱膨張係数と低熱膨張層の熱膨張係数との差を、低温領域における高熱膨張層の熱膨張係数と低熱膨張層の熱膨張係数との差よりも小さくすることができる。これにより、本発明の高温用バイメタルでは、低温領域における湾曲変形と比べて高温領域における湾曲変形が小さくなるので、キュリー点以上の高温領域における高温用バイメタルの湾曲変形の変位量をキュリー点未満の低温領域における高温用バイメタルの湾曲変形の変位量よりも小さくすることができる。このため、キュリー点以上の高温領域において高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのを抑制することができるので、高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されにくくすることができる。その結果、常温に降温した際の原点位置の変化が大きくなるのを抑制することが可能な高温用バイメタルを提供することができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、使用時において、キュリー点以上の高温領域における湾曲係数は、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数よりも小さい。このように構成すれば、キュリー点以上の高温領域における高温用バイメタルの湾曲変形は、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタルの湾曲変形よりも小さくなるので、キュリー点以上の高温領域において高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのを容易に抑制することができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材のキュリー点は、100℃以上400℃以下であるとともに、キュリー点以上の高温領域における使用温度の上限の温度は、500℃以上700℃以下である。このように構成すれば、100℃以上400℃以下に含まれる温度以上の温度範囲で熱膨張を小さくしたい場合に有用な高温用バイメタルを得ることができる。また、500℃以上700℃以下の温度範囲内に使用温度の上限の温度を有する高温用バイメタルを用いることによって、500℃以上700℃以下に含まれる温度まで用いることが可能な降温時の原点位置の変化が小さい高温用バイメタルを得ることができる。
この場合、好ましくは、キュリー点以上の高温領域における使用温度の範囲は、キュリー点未満の低温領域における使用温度の範囲よりも大きい。このように構成すれば、キュリー点以上の高温領域における高温用バイメタルの変位量が小さい温度領域を、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタルの変位量が大きい温度領域よりも大きくすることができる。その結果、キュリー点以上の高温領域において高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのをより抑制することができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、Ni−Fe合金である。このように構成すれば、容易に、キュリー点を有する感温磁性金属材を得ることができる。
この場合、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、32質量%以上45質量%以下のNiを含むNi−Fe合金である。このように構成すれば、100℃以上400℃以下のキュリー点を有する高温用バイメタルを容易に得ることができる。
上記感温磁性金属材が32質量%以上45質量%以下のNiを含むNi−Fe合金である高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、Ni−Fe合金にNb、Cr、Al、Si、Tiのうちの少なくとも1つを添加することにより形成されている。このように構成すれば、100℃以上400℃以下のキュリー点を有する感温磁性金属材にさらに耐酸化性を付与した高温用バイメタルを得ることができる。
上記感温磁性金属材がNi−Fe合金にNb、Cr、Al、Si、Tiのうちの少なくとも1つを添加することにより形成される高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、Ni−Fe合金に2質量%以上8質量%以下のNbを添加することにより形成されている。このように構成すれば、Ni−Fe合金に2質量%以上Nbが添加されることによって、高温用バイメタルの使用温度の上限まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を感温磁性金属材に付与することができる。また、Ni−Fe合金に8質量%より多くのNbが添加されることにより感温磁性金属材の強度が過度に大きくなることに起因して、感温磁性金属材の加工性が低下するのを抑制することができる。
上記感温磁性金属材がNi−Fe合金に2質量%以上8質量%以下のNbを添加することにより形成される高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、36質量%のNiを含むNi−Fe合金に6質量%のNbを添加することにより形成されている。このように構成すれば、高温用バイメタルの使用温度の上限まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を有するとともに、加工性の低下を抑制することが可能な感温磁性金属材からなる低熱膨張層を有する高温用バイメタルを得ることができる。
上記感温磁性金属材がNi−Fe合金に2質量%以上8質量%以下のNbを添加することにより形成される高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、36質量%のNiを含むNi−Fe合金に2質量%のNbを添加することにより形成されている。このように構成すれば、高温用バイメタルの使用温度の上限まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を有するとともに、加工性の低下を抑制することが可能な感温磁性金属材からなる低熱膨張層を有する高温用バイメタルを得ることができる。
上記感温磁性金属材がNi−Fe合金にNb、Cr、Al、Si、Tiのうちの少なくとも1つを添加することにより形成される高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、Ni−Fe合金に2質量%以上13質量%以下のCrを添加することにより形成されている。このように構成すれば、Ni−Fe合金に2質量%以上Crが添加されることによって、高温用バイメタルの使用温度の上限まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を感温磁性金属材に付与することができる。また、Ni−Fe合金に13質量%より多くのCrが添加されることに起因して、低熱膨張層の熱膨張係数が過度に大きくなるのを抑制することができる。
上記感温磁性金属材がNi−Fe合金に2質量%以上13質量%以下のCrを添加することにより形成される高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の感温磁性金属材は、40質量%のNiを含むNi−Fe合金に10質量%のCrを添加することにより形成されている。このように構成すれば、高温用バイメタルの使用温度の上限まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を有するとともに、熱膨張係数が大きくなるのを抑制することが可能な感温磁性金属材からなる低熱膨張層を有する高温用バイメタルを得ることができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の厚みは、高熱膨張層の厚みよりも大きい。このように構成すれば、キュリー点未満の低温領域において大きな湾曲係数を有する高温用バイメタルを容易に得ることができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、キュリー点以上の高温領域における使用温度の上限の温度まで温度が上昇することにより高熱膨張層および低熱膨張層が酸化される際の、酸化によって増加する高熱膨張層および低熱膨張層の合計の厚みは、高熱膨張層および低熱膨張層が酸化される前の高熱膨張層および低熱膨張層の合計の厚みの1%以下である。このように構成すれば、酸化により高熱膨張層および低熱膨張層の合計の厚みが1%より大きく増加することに起因して、高温用バイメタルの性質(湾曲係数など)が実用上の問題が生じる程度までに変化するのを抑制することができる。
この場合、好ましくは、酸化によって増加する高熱膨張層および低熱膨張層の1平方センチメートル当たりの質量の増加量の合計は、1.5mg以下である。このように構成すれば、容易に、酸化により高熱膨張層および低熱膨張層の合計の厚みが1%より大きく増加したか否かを確認することができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、キュリー点以上の高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数は、キュリー点未満の低温領域における低熱膨張層の熱膨張係数よりも大きい。このように構成すれば、キュリー点以上の高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数がキュリー点未満の低温領域における低熱膨張層の熱膨張係数よりも大きいことによって、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタルの湾曲変形が小さくなるのを抑制することができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、キュリー点以上の高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数は、高熱膨張層の熱膨張係数の70%以上100%未満である。このように構成すれば、高温用バイメタルが高温領域で高熱膨張層側に変形するのを抑制することができるとともに、高熱膨張層の熱膨張係数と高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数とが大きく異なることに起因して、高温領域での高温用バイメタルの湾曲変形が大きくなるのを抑制することができる。
上記高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数が低温領域における低熱膨張層の熱膨張係数よりも大きい高温用バイメタルにおいて、好ましくは、キュリー点以上の高温領域における低熱膨張層の熱膨張係数は、キュリー点未満の低温領域における低熱膨張層の熱膨張係数の2倍以上である。このように構成すれば、キュリー点未満の低温領域において高温用バイメタルの湾曲変形が小さくなるのをより抑制することができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、キュリー点未満の低温領域における低熱膨張層の熱膨張係数は、高熱膨張層の熱膨張係数の50%以下である。このように構成すれば、低温領域における高熱膨張層の熱膨張係数と低熱膨張層の熱膨張係数との差を大きくすることができるので、低温領域において高温用バイメタルをより大きく湾曲変形させることができる。
上記一の局面による高温用バイメタルにおいて、好ましくは、低熱膨張層の一方端部は固定されているとともに、低熱膨張層の他方端部近傍は、キュリー点以上の高温領域において、固定されたストッパ部材に接触するように構成されている。このように構成すれば、高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのが抑制されるキュリー点以上の高温領域で低熱膨張層がストッパ部材に接触するので、ストッパ部材に接触することに起因して生じる熱応力を高温用バイメタルの内部に蓄積しにくくさせることができる。
この場合、好ましくは、低熱膨張層の他方端部近傍は、キュリー点以上の高温領域で、かつ、キュリー点近傍の温度において、ストッパ部材に接触するように構成されている。このように構成すれば、キュリー点近傍の温度で低熱膨張層がストッパ部材に接触するので、ストッパ部材に接触することに起因して生じる熱応力が高温用バイメタルの内部に蓄積されにくい状態を、広い温度範囲に渡って利用可能に構成することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態による高温用バイメタル1の構造について説明する。
本発明の第1実施形態による高温用バイメタル1は、図1に示すように、板状の高熱膨張層2と、高熱膨張層2に貼り合わされた板状の低熱膨張層3との2層のクラッド材により構成されている。また、高温用バイメタル1は、約0.2mmの厚みt1を有する。
また、高温用バイメタル1は、初期状態である常温T1(約25℃)において、湾曲変形しないように構成されている。高温用バイメタル1の使用態様の一例として、第1実施形態では、高温用バイメタル1が所定の機器(図示せず)に使用される場合に、高温用バイメタル1の一方端が固定部4によって固定されている。さらに、高温用バイメタル1の他方端側で、かつ、低熱膨張層3の側には、高温用バイメタル1の一定以上の変形を抑制するためのストッパ5が高温用バイメタル1を使用する所定の機器に設けられている。このストッパ5は、高温用バイメタル1が所定の設定温度T2において湾曲変形した際に当接するように配置されている。なお、ストッパ5は、本発明の「ストッパ部材」の一例である。
また、第1実施形態では、高温用バイメタル1を使用することが可能な使用温度範囲の下限は約−70℃であるとともに、使用温度範囲の上限(最高許容温度T3)は約700℃である。なお、高温用バイメタル1の使用温度範囲の上限は、約500℃以上であればよく、好ましくは、約500℃以上約700℃以下であるのがよい。
また、高熱膨張層2は、約18質量%のCrと、約8質量%のNiと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される18Cr−8Ni−Fe合金(SUS304)からなる。ここで、Feは、SUS304の基本成分であり、Cr、Niおよび不可避的不純物以外の残部を占める。また、高熱膨張層2のSUS304は、オーステナイト系ステンレスであり、約17.3×10−6/Kの熱膨張係数を有する。
ここで、第1実施形態では、低熱膨張層3は、約36質量%のNiと、約6質量%のNbと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される36Ni−6Nb−Fe合金からなる。ここで、Feは、36Ni−6Nb−Fe合金の基本成分であり、Ni、Nbおよび不可避的不純物以外の残部を占める。また、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金は、約200℃のキュリー点を有する感温磁性金属材である。これにより、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金のキュリー点(約200℃)は、高温用バイメタル1を使用することが可能な使用温度範囲である約−70℃以上約700℃以下に含まれる。これにより、第1実施形態の高温用バイメタル1は、キュリー点以上の高温領域とキュリー点未満の低温領域との両方の温度領域に渡って使用されるように構成されている。なお、「キュリー点」は、昇温時において感温磁性金属材が強磁性体から常磁性体に変化する際の温度を意味するとともに、降温時において感温磁性金属材が常磁性体から強磁性体に変化する際の温度を意味する。
また、高温用バイメタル1において、キュリー点(約200℃)以上約700℃以下の高温領域の使用温度範囲(約700℃−約200℃=約500℃)は、約−70℃以上キュリー点(約200℃)未満の低温領域の使用温度範囲(約200℃−(約−70℃)=約270℃)よりも大きくなるように構成されている。
また、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金は、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において約4.1×10−6/Kの熱膨張係数を有するとともに、キュリー点以上の高温領域において約15.8×10−6/Kの熱膨張係数を有するように構成されている。また、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金では、キュリー点未満の低温領域における熱膨張係数(約4.1×10−6/K)が、キュリー点以上の高温領域における熱膨張係数(約15.8×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。なお、高温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数(約15.8×10−6/K)は、低温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数(約4.1×10−6/K)の約3.9倍である。ここで、高温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数は、低温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数の約2倍以上であるのが好ましい。
これにより、高温領域における高熱膨張層2の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)と低熱膨張層3の熱膨張係数(約15.8×10−6/K)との差(約1.5×10−6/K)は、低温領域における高熱膨張層2の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)と低熱膨張層3の熱膨張係数(約4.1×10−6/K)との差(約13.2×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。
また、低温領域および高温領域の低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の熱膨張係数(約4.1×10−6/Kおよび約15.8×10−6/K)は、共に、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。具体的には、キュリー点(約200℃)未満の低温領域の低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の熱膨張係数(約4.1×10−6/K)は、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約24%である。また、キュリー点以上の高温領域の低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の熱膨張係数(約15.8×10−6/K)は、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約91%である。なお、低温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数は、高熱膨張層2の熱膨張係数の約50%以下であるのが好ましいとともに、高温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数は、高熱膨張層2の熱膨張係数の約70%以上約100%未満であるのが好ましい。
また、高温用バイメタル1では、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において約6.7×10−6/Kの湾曲係数K1を有するとともに、キュリー点以上の高温領域において約3.3×10−6/Kの湾曲係数K2を有する。ここで、湾曲係数K2(約3.3×10−6/K)は、湾曲係数K1(約6.7×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。
また、図1に示すように、高温用バイメタル1の高熱膨張層2のSUS304の厚みt2と、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みt3とは、t2:t3=約47:約53の関係を満たすように構成されている。すなわち、高温用バイメタル1の合計の厚みt1に対する低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みt3の割合が、約0.53であることによって、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みt3は、高熱膨張層2のSUS304の厚みt2よりも大きくなるように構成されている。
また、キュリー点(約200℃)以上の高温領域における使用温度の上限の温度(約700℃)まで温度が上昇することにより高温用バイメタル1(高熱膨張層2および低熱膨張層3)が酸化される際の、酸化によって増加する高温用バイメタル1の質量(酸化増量)が1平方センチメートルあたり約1.5mg以下になるように構成されている。なお、酸化増量が1平方センチメートルあたり約1.5mg(許容値)よりも大きいと、酸化による高温用バイメタル1の厚みの増加分が約2μmよりも大きくなり、酸化される前の高温用バイメタルの厚み(約0.2mm)の約1%を超える。これにより、酸化増量が1平方センチメートルあたり約1.5mgよりも大きいと、高温用バイメタル1の性質(湾曲係数Kなど)が実用上の問題が生じる程度までに変化する。
次に、図1〜図4を参照して、本発明の第1実施形態による高温用バイメタル1の湾曲変形について説明する。
まず、図1に示すように、初期状態(常温T1(約25℃))では、高温用バイメタル1は湾曲変形していない。その状態から温度が上昇させられた場合に、高温用バイメタル1は、低熱膨張層3の側に湾曲変形させられることによって、変位量D(図2参照)を生じる。そして、所定の設定温度T2に達した際に、図2に示すように、高温用バイメタル1の低熱膨張層3の側は、高温用バイメタル1を使用する所定の機器側に設けられたストッパ5に当接(接触)される。
なお、第1実施形態の高温用バイメタル1の使用態様においては、所定の設定温度T2は、高温用バイメタル1の低熱膨張層3のキュリー点(約200℃)の近傍で、かつ、キュリー点よりも大きい温度である。
また、高温用バイメタル1の低熱膨張層3の側とストッパ5とが当接された状態から、さらに温度を上昇させると、所定の設定温度T2から最高許容温度T3(約700℃)まで上昇させる間において、図3に示すように、高温用バイメタル1は、温度上昇によってより低熱膨張層3の側に湾曲変形させられようとする一方、ストッパ5によって所定の設定温度T2における湾曲変形よりも変形しないように制限される。このため、ストッパ5には、高温用バイメタル1から力が加えられるとともに、高温用バイメタル1には、ストッパ5から反作用の力が加えられる。この反作用の力が熱応力となって、高温用バイメタル1に蓄積される。
ここで、第1実施形態では、キュリー点(約200℃)以上の高温領域における高温用バイメタル1の湾曲係数K2(約3.3×10−6/K)は、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタル1の湾曲係数K1(約6.7×10−6/K)よりも小さいので、キュリー点以上の高温領域における湾曲変形はキュリー点未満の低温領域における湾曲変形よりも小さい。これにより、ストッパ5に高温用バイメタル1から加えられる力は、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1のみを有する場合(キュリー点を有しておらず、湾曲係数Kが変化しない場合)に加えられる力と比べて小さくなる。
これにより、最高許容温度T3(約700℃)から温度を低下させることにより再度常温T1(約25℃)に戻す(降温する)と、図4に示すように、高温用バイメタル1の内部に蓄積された熱応力に起因する湾曲変形は、本発明の従来例の高温用バイメタルのようなキュリー点を有しておらず、湾曲係数Kが変化しない場合の湾曲変形(図4に2点鎖線で示す従来例)と比べて小さくなる。すなわち、第1実施形態の高温用バイメタル1は、本発明の従来例の高温用バイメタルと比べて、原点位置の変化が小さくなる。
次に、図1を参照して、本発明の第1実施形態による高温用バイメタル1の製造方法について説明する。
まず、約1.5mmの厚みを有する板状のSUS304と、約1.7mmの厚みを有する板状の36Ni−6Nb−Fe合金とを約60.6%の圧下率によって冷間で圧接接合することにより、約1.3mmの厚みを有する2層のクラッド材からなるバイメタルを形成する。そして、水素雰囲気中で、約1050℃で約3分間の拡散焼鈍を行う。これにより、バイメタルの高熱膨張層と低熱膨張層との接合強度を向上させることが可能である。その後、約1.3mmの厚みを有するバイメタルを約0.2mmの厚みt1(図1参照)になるまで冷間で圧延を行う。これにより、第1実施形態による高温用バイメタル1(図1参照)が形成される。
ここで、上記圧接接合および圧延においても、板状のSUS304の厚みと板状の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みとの比率は変化しない。これにより、SUS304からなる高熱膨張層2の厚みt2(図1参照)と、36Ni−6Nb−Fe合金からなる低熱膨張層3の厚みt3(図1参照)とは、t2:t3=約1.5:約1.7=約47:約53の関係を満たす。
第1実施形態では、上記のように、低熱膨張層3がキュリー点(約200℃)を有する36Ni−6Nb−Fe合金からなるとともに、高温用バイメタル1をキュリー点以上の高温領域(約200℃以上約700℃以下)とキュリー点未満の低温領域(約−70℃以上約200℃未満)との両方の温度領域に渡って使用することによって、36Ni−6Nb−Fe合金ではキュリー点以上の高温領域における熱膨張係数(約15.8×10−6/K)はキュリー点未満の低温領域における熱膨張係数(約4.1×10−6/K)よりも大きいので、高温領域における高熱膨張層2の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)と低熱膨張層3の熱膨張係数との差(約1.5×10−6/K)を、低温領域における高熱膨張層2の熱膨張係数と低熱膨張層3の熱膨張係数との差(約13.2×10−6/K)よりも小さくすることができる。これにより、第1実施形態の高温用バイメタル1では、低温領域における湾曲変形と比べて高温領域における湾曲変形が小さくなるので、キュリー点以上の高温領域における高温用バイメタル1の湾曲変形の変位量Dをキュリー点未満の低温領域における高温用バイメタル1の湾曲変形の変位量Dよりも小さくすることができる。このため、キュリー点近傍よりも高い温度領域を含む高温領域(T2からT3の領域)においてストッパ5により高温用バイメタル1の変形が制限されたとしても、高温用バイメタル1の内部に熱応力が蓄積されるのを抑制することができるので、内部に熱応力が蓄積されにくくすることができる。その結果、常温に降温した際の原点位置の変化が大きくなるのを抑制することが可能な高温用バイメタル1を提供することができる。また、約200℃以上の温度範囲で熱膨張を小さくしたい場合に有用な高温用バイメタル1を得ることができるとともに、約700℃まで用いることが可能な降温時の原点位置の変化が小さい高温用バイメタル1を容易に得ることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、キュリー点(約200℃)以上の高温領域における高温用バイメタル1の湾曲係数K2(約3.3×10−6/K)が、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタル1の湾曲係数K1(約6.7×10−6/K)よりも小さくなるように構成することによって、キュリー点以上の高温領域における高温用バイメタル1の湾曲変形は、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタル1の湾曲変形よりも小さくなるので、キュリー点以上の高温領域において高温用バイメタル1の内部に熱応力が蓄積されるのを容易に抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、キュリー点(約200℃)以上約700℃以下から構成される高温領域の使用温度範囲(約500℃)を、約−70℃以上キュリー点未満から構成される低温領域の使用温度範囲(約270℃)よりも大きくすることによって、キュリー点以上の高温領域における高温用バイメタル1の変位量Dが小さい温度領域を、キュリー点未満の低温領域における高温用バイメタル1の変位量Dが大きい温度領域よりも大きくすることができる。その結果、キュリー点以上の高温領域において高温用バイメタル1の内部に熱応力が蓄積されるのをより抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、低熱膨張層3を、約36質量%のNiと、約6質量%のNbと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される36Ni−6Nb−Fe合金からなるように構成することによって、約200℃のキュリー点を有する感温磁性金属材を有する高温用バイメタル1を得ることができる。また、高温用バイメタル1の使用温度の上限(約700℃)まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を有するとともに、加工性の低下を抑制することが可能な感温磁性金属材を有する高温用バイメタル1を得ることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みt3を、高熱膨張層2のSUS304の厚みt2よりも大きくすることによって、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において大きな湾曲係数K1を有する高温用バイメタル1を容易に得ることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、キュリー点(約200℃)以上の高温領域における使用温度の上限の温度(約700℃)まで温度が上昇することにより高温用バイメタル1(高熱膨張層2および低熱膨張層3)が酸化される際の、高温用バイメタル1の質量(酸化増量)が1平方センチメートルあたり約1.5mg以下になるように構成することによって、酸化によって増加する高温用バイメタル1の厚みが、高温用バイメタル1が酸化される前の高温用バイメタル1の合計の厚みt1(=t2+t3)の約1%以下になるように構成することができる。これにより、酸化により高温用バイメタル1の合計の厚みt1が約1%より大きく増加することに起因して、高温用バイメタル1の性質(湾曲係数K1およびK2など)が実用上の問題が生じる程度までに変化するのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、キュリー点(約200℃)以上の高温領域の低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の熱膨張係数(約15.8×10−6/K)を、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約91%にすることによって、高温用バイメタル1が高温領域で高熱膨張層2側に変形するのを抑制することができるとともに、高熱膨張層2の熱膨張係数と高温領域における低熱膨張層3の熱膨張係数とが大きく異なることに起因して、高温領域での高温用バイメタル1の湾曲変形が大きくなるのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、高温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数(約15.8×10−6/K)を、キュリー点(約200℃)未満の低温領域の低熱膨張層3の熱膨張係数(約4.1×10−6/K)の約3.9倍にすることによって、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において高温用バイメタル1の湾曲変形が小さくなるのをより抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、低温領域の低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の熱膨張係数(約4.1×10−6/K)を、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約24%にすることによって、低温領域における高熱膨張層2の熱膨張係数と低熱膨張層3の熱膨張係数との差を大きくすることができるので、低温領域において高温用バイメタル1をより大きく湾曲変形させることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、高温用バイメタル1の低熱膨張層3の側が高温用バイメタル1を使用する所定の機器側に設けられたストッパ5に当接(接触)する際の設定温度T2を、高温用バイメタル1の低熱膨張層3のキュリー点(約200℃)の近傍で、かつ、キュリー点よりも大きい温度にすることによって、高温用バイメタル1の内部に熱応力が蓄積されるのが抑制されるキュリー点以上の高温領域で低熱膨張層3がストッパ部材5に接触するので、ストッパ部材5に接触することに起因して生じる熱応力を高温用バイメタル1の内部に蓄積しにくくさせることができる。さらに、キュリー点近傍の温度で低熱膨張層3がストッパ部材5に接触するので、ストッパ部材5に接触することに起因して生じる熱応力が高温用バイメタル1の内部に蓄積されにくい状態を、広い温度範囲に渡って利用可能に構成することができる。
(第2実施形態)
次に、図1を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態による高温用バイメタル101では、上記第1実施形態と異なり、低熱膨張層103が40Ni−10Cr−Fe合金からなる場合について説明する。
本発明の第2実施形態による高温用バイメタル101では、低熱膨張層103は、約40質量%のNiと、約10質量%のCrと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される40Ni−10Cr−Fe合金からなる。ここで、Feは、40Ni−10Cr−Fe合金の基本成分であり、Ni、Crおよび不可避的不純物以外の残部を占める。また、低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金は、約200℃のキュリー点を有する。これにより、低熱膨張層103の感温磁性金属材のキュリー点(約200℃)は、高温用バイメタル101を使用することが可能な使用温度範囲である約−70℃以上約700℃以下に含まれる。また、高温用バイメタル101において、キュリー点(約200℃)以上約700℃以下から構成される高温領域の使用温度範囲(約500℃)は、約−70℃以上約200℃未満から構成される低温領域の使用温度範囲(約270℃)よりも大きくなるように構成されている。
また、低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金は、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において約8.2×10−6/Kの熱膨張係数を有するとともに、キュリー点以上の高温領域において約16.8×10−6/Kの熱膨張係数を有するように構成されている。また、低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金では、キュリー点未満の低温領域における熱膨張係数(約8.2×10−6/K)が、キュリー点以上の高温領域における熱膨張係数(約16.8×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。なお、高温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数(約16.8×10−6/K)は、低温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数(約8.2×10−6/K)の約2倍である。
これにより、高温領域における高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)と低熱膨張層103の熱膨張係数(約16.8×10−6/K)との差(約0.5×10−6/K)は、低温領域における高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)と低熱膨張層103の熱膨張係数(約8.2×10−6/K)との差(約9.1×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。
また、キュリー点(約200℃)未満およびキュリー点以上の低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の熱膨張係数(約8.2×10−6/Kおよび約16.8×10−6/K)は、共に、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。具体的には、キュリー点(約200℃)未満の低温領域の低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の熱膨張係数(約8.2×10−6/K)は、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約47%である。また、キュリー点以上の高温領域の低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の熱膨張係数(約16.8×10−6/K)は、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約97%である。なお、低温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数は、高熱膨張層2の熱膨張係数の約50%以下であるのが好ましいとともに、高温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数は、高熱膨張層2の熱膨張係数の約70%以上約100%未満であるのが好ましい。
また、高温用バイメタル101では、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において約2.3×10−6/Kの湾曲係数K1を有するとともに、キュリー点以上の高温領域において約1.1×10−6/Kの湾曲係数K2を有する。ここで、湾曲係数K2(約1.1×10−6/K)は、湾曲係数K1(約2.3×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。
また、図1に示すように、高温用バイメタル101の高熱膨張層2のSUS304の厚みt2と、低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みt3とは、t2:t3=約45:約55の関係を満たすように構成されている。すなわち、低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みt3は、高熱膨張層2のSUS304の厚みt2よりも大きくなるように構成されている。なお、第2実施形態の高温用バイメタルの構成および湾曲変形は、上記第1実施形態と同様である。
次に、図1を参照して、本発明の第2実施形態による高温用バイメタル101の製造方法について説明する。
まず、約1.5mmの厚みを有する板状のSUS304と、約1.8mmの厚みを有する板状の40Ni−10Cr−Fe合金とを約60.6%の圧下率によって冷間で圧接接合することにより、約1.3mmの厚みを有する2層のクラッド材からなるバイメタルを形成する。そして、水素雰囲気中で、約1050℃で約3分間の拡散焼鈍を行う。これにより、バイメタルの高熱膨張層と低熱膨張層との接合強度を向上させることが可能である。その後、約1.3mmの厚みを有するバイメタルを約0.2mmの厚みt1(図1参照)になるまで冷間で圧延を行う。これにより、第2実施形態による高温用バイメタル101(図1参照)が形成される。
ここで、上記圧接接合および圧延においても、板状のSUS304の厚みと板状の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みとの比率は変化しない。これにより、SUS304からなる高熱膨張層2の厚みt2(図1参照)と、40Ni−10Cr−Fe合金からなる低熱膨張層103の厚みt3(図1参照)とは、t2:t3=約1.5:約1.8=約45:約55の関係を満たす。すなわち、高温用バイメタル101の厚みt1に対する低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みt3の割合が、約0.55であることによって、低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みt3は、高熱膨張層2のSUS304の厚みt2よりも大きくなるように構成されている。
第2実施形態では、上記のように、低熱膨張層103を、約40質量%のNiと、約10質量%のCrと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される40Ni−10Cr−Fe合金からなるように構成することによって、約200℃のキュリー点を有する感温磁性金属材を有する高温用バイメタル101を得ることができる。また、高温用バイメタル101の使用温度の上限(約700℃)まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を有するとともに、熱膨張係数が過度に大きくなるのを抑制することが可能な感温磁性金属材を有する高温用バイメタル101を得ることができる。
また、第2実施形態では、上記のように、キュリー点(約200℃)以上の高温領域の低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の熱膨張係数(約16.8×10−6/K)を、高熱膨張層2のSUS304の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約97%にすることによって、高温用バイメタル101が高温領域で高熱膨張層2側に変形するのを抑制することができるとともに、高熱膨張層2の熱膨張係数と高温領域における低熱膨張層103の熱膨張係数とが大きく異なることに起因して、高温領域での高温用バイメタル101の湾曲変形が大きくなるのを抑制することができる。
また、第2実施形態では、上記のように、高温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数(約16.8×10−6/K)を、キュリー点(約200℃)未満の低温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数(約8.2×10−6/K)の約2倍にすることによって、キュリー点(約200℃)未満の低温領域において高温用バイメタル101の湾曲変形が小さくなるのをより抑制することができる。
また、第2実施形態では、上記のように、低温領域の低熱膨張層103の熱膨張係数(約8.2×10−6/K)を、高熱膨張層2の熱膨張係数(約17.3×10−6/K)の約47%にすることによって、低温領域における高熱膨張層2の熱膨張係数と低熱膨張層103の熱膨張係数との差を大きくすることができるので、低温領域において高温用バイメタル101をより大きく湾曲変形させることができる。なお、第2実施形態の高温用バイメタルのその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
(第3実施形態)
次に、図1を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態による高温用バイメタル201では、上記第1実施形態と異なり、高熱膨張層202が12Cr−18Ni−Fe合金からなるとともに、低熱膨張層203が36Ni−2Nb−Fe合金からなる場合について説明する。
本発明の第3実施形態による高温用バイメタル201では、高熱膨張層202は、約12質量%のCrと、約18質量%のNiと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される12Cr−18Ni−Fe合金からなる。ここで、Feは、12Cr−18Ni−Fe合金の基本成分であり、Ni、Crおよび不可避的不純物以外の残部を占める。また、高熱膨張層202の12Cr−18Ni−Fe合金は、オーステナイト系ステンレスであり、約19.0×10−6/Kの熱膨張係数を有する。
ここで、第3実施形態では、低熱膨張層203は、約36質量%のNiと、約2質量%のNbと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される36Ni−2Nb−Fe合金からなる。ここで、Feは、36Ni−2Nb−Fe合金の基本成分であり、Ni、Nbおよび不可避的不純物以外の残部を占める。また、低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金は、約170℃のキュリー点を有する。これにより、低熱膨張層203の感温磁性金属材のキュリー点(約170℃)は、高温用バイメタル201を使用することが可能な使用温度範囲である約−70℃以上約700℃以下に含まれる。また、高温用バイメタル201において、キュリー点(約170℃)以上約700℃以下から構成される高温領域の使用温度範囲(約530℃)は、約−70℃以上約170℃未満から構成される低温領域の使用温度範囲(約200℃)よりも大きくなるように構成されている。
また、低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金は、キュリー点(約170℃)未満の低温領域において約3.0×10−6/Kの熱膨張係数を有するとともに、キュリー点以上の高温領域において約15.7×10−6/Kの熱膨張係数を有するように構成されている。また、低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金では、キュリー点未満の低温領域における熱膨張係数(約3.0×10−6/K)が、キュリー点以上の高温領域における熱膨張係数(約15.7×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。なお、高温領域の低熱膨張層203の熱膨張係数(約15.7×10−6/K)は、低温領域の低熱膨張層203の熱膨張係数(約3.0×10−6/K)の約5.2倍である。
これにより、高温領域における高熱膨張層202の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)と低熱膨張層203の熱膨張係数(約15.7×10−6/K)との差(約3.3×10−6/K)は、低温領域における高熱膨張層202の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)と低熱膨張層203の熱膨張係数(約3.0×10−6/K)との差(約16.0×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。
また、キュリー点(約170℃)未満およびキュリー点以上の低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金の熱膨張係数(約3.0×10−6/Kおよび約15.7×10−6/K)は、共に、高熱膨張層202の12Cr−18Ni−Fe合金の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。具体的には、キュリー点(約170℃)未満の低温領域の低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金の熱膨張係数(約3.0×10−6/K)は、高熱膨張層202の12Cr−18Ni−Fe合金の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)の約16%である。また、キュリー点以上の高温領域の低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金の熱膨張係数(約15.7×10−6/K)は、高熱膨張層202の12Cr−18Ni−Fe合金の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)の約83%である。
また、高温用バイメタル201では、キュリー点(約170℃)未満の低温領域において約11.9×10−6/Kの湾曲係数K1を有するとともに、キュリー点以上の高温領域において約6.5×10−6/Kの湾曲係数K2を有する。ここで、湾曲係数K2(約6.5×10−6/K)は、湾曲係数K1(約11.9×10−6/K)よりも小さくなるように構成されている。なお、第3実施形態の高温用バイメタルの構成、湾曲変形および製造方法は、上記第1実施形態と同様である。
第3実施形態では、上記のように、低熱膨張層203を、約36質量%のNiと、約2質量%のNbと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される36Ni−2Nb−Fe合金からなるように構成することによって、約170℃のキュリー点を有する感温磁性金属材を有する高温用バイメタル201を得ることができる。また、高温用バイメタル201の使用温度の上限(約700℃)まで温度が上昇したとしても問題がない程度に十分な耐酸化性を有するとともに、加工性の低下を抑制することが可能な感温磁性金属材を有する高温用バイメタル201を得ることができる。
また、第3実施形態では、上記のように、キュリー点(約170℃)以上の高温領域の低熱膨張層203の36Ni−2Nb−Fe合金の熱膨張係数(約15.7×10−6/K)を、高熱膨張層202の12Cr−18Ni−Fe合金の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)の約83%にすることによって、高温用バイメタル201が高温領域で高熱膨張層202側に変形するのを抑制することができるとともに、高熱膨張層202の熱膨張係数と高温領域における低熱膨張層203の熱膨張係数とが大きく異なることに起因して、高温領域での高温用バイメタル201の湾曲変形が大きくなるのを抑制することができる。
また、第3実施形態では、上記のように、高温領域の低熱膨張層203の熱膨張係数(約15.7×10−6/K)を、キュリー点(約170℃)未満の低温領域の低熱膨張層203の熱膨張係数(約3.0×10−6/K)の約5.2倍にすることによって、キュリー点(約170℃)未満の低温領域において高温用バイメタル201の湾曲変形が小さくなるのをより抑制することができる。
また、第3実施形態では、上記のように、低温領域の低熱膨張層203の熱膨張係数(約3.0×10−6/K)を、高熱膨張層202の熱膨張係数(約19.0×10−6/K)の約16%にすることによって、低温領域における高熱膨張層202の熱膨張係数と低熱膨張層203の熱膨張係数との差を大きくすることができるので、低温領域において高温用バイメタル201をより大きく湾曲変形させることができる。なお、第3実施形態の高温用バイメタルのその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
[実施例]
次に、図1および図5〜図10を参照して、上記第1〜第3実施形態による高温用バイメタル1(101、201)の効果を確認するために行った変位量測定および酸化増量測定について説明する。
以下に説明する変位量測定および酸化増量測定では、上記第1実施形態の高温用バイメタル1(図1参照)に対応する実施例1として、上記第1実施形態の高温用バイメタル1の製造方法によって作製された高温用バイメタルを用いた。具体的には、SUS304からなる高熱膨張層と、36Ni−6Nb−Fe合金からなる低熱膨張層とにより構成された高温用バイメタル(SUS304/36Ni−6Nb−Fe合金)を実施例1として用いた。また、実施例1の高温用バイメタルの厚みt1(図5参照)は、0.2mmであるとともに、高熱膨張層のSUS304の厚みt2(図5参照)と、低熱膨張層の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みt3(図5参照)とは、t2:t3=47:53(=0.094mm:0.106mm)の関係を満たす。
また、上記第2実施形態の高温用バイメタル101(図1参照)に対応する実施例2として、上記第2実施形態の高温用バイメタル101の製造方法によって作製された高温用バイメタルを用いた。具体的には、SUS304からなる高熱膨張層と、40Ni−10Cr−Fe合金からなる低熱膨張層とにより構成された高温用バイメタル(SUS304/40Ni−10Cr−Fe合金)を実施例2として用いた。また、実施例2の高温用バイメタルの厚みt1(図5参照)は、0.2mmであるとともに、高熱膨張層のSUS304の厚みt2(図5参照)と、低熱膨張層の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みt3(図5参照)とは、t2:t3=45:55(=0.09mm:0.11mm)の関係を満たす。
また、上記第3実施形態の高温用バイメタル201(図1参照)に対応する実施例3として、上記第3実施形態の高温用バイメタル201の製造方法(第1実施形態の高温用バイメタル1の製造方法と同様)によって作製された高温用バイメタルを用いた。具体的には、12Cr−18Ni−Fe合金からなる高熱膨張層と、36Ni−2Nb−Fe合金からなる低熱膨張層とにより構成された高温用バイメタル(12Cr−18Ni−Fe合金/36Ni−2Nb−Fe合金)を実施例3として用いた。
(変位量測定)
まず、変位量測定について説明する。この変位量測定では、図5に示すように、0.2mmの厚みt1と、15mmの長さLと、2mmの幅(図示せず)とを有する高温用バイメタル301を用いて測定を行った。また、初期状態(常温T1(25℃))では、高温用バイメタル301は湾曲変形しないように構成した。
また、変位量測定では、高温用バイメタル301の長さ方向の一方端を固定部304によって固定した。そして、初期状態から温度を最高700℃まで上昇させることによって、図6に示すように、高温用バイメタル301を低熱膨張層303の側に湾曲変形させた。この際、温度T(℃)の変化に伴う高温用バイメタル301の湾曲変形による変位量D(mm)を測定した。また、測定した変位量Dと下記の式(1)とに基づいて、高温用バイメタル301の湾曲係数Kを算出した。
K=(t1)ΔD/L2ΔT・・・(1)
ここで、t1は、高温用バイメタル301の厚み(図5参照)であり、t1=0.2mmである。また、Lは、高温用バイメタル301の幅(図5参照)であり、L=15mmである。また、ΔDは、任意の第1温度における第1変位量と、第1温度とは異なる任意の第2温度における第2変位量との差である。また、ΔTは、第1温度と第2温度との差である。
また、変位量測定では、上記した実施例1(SUS304/36Ni−6Nb−Fe合金)、実施例2(SUS304/40Ni−10Cr−Fe合金)および実施例3(12Cr−18Ni−Fe合金/36Ni−2Nb−Fe合金)を高温用バイメタル301としてそれぞれ用いた。一方、実施例1と比較するための比較例1として、高熱膨張層302がSUS304からなり、低熱膨張層303が18質量%のCrと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される18Cr−Fe合金からなる高温用バイメタル301(SUS304/18Cr−Fe合金)を用いた。この比較例1の高温用バイメタル301の低熱膨張層303の18Cr−Fe合金はキュリー点を有しない。また、比較例1の高温用バイメタル301の厚みt1は、0.2mmであるとともに、比較例1の高温用バイメタル301の高熱膨張層302のSUS304の厚みt2(図5参照)と、低熱膨張層303の18Cr−Fe合金の厚みt3(図5参照)とは、t2:t3=50:50(=0.1mm:0.1mm)の関係を満たす。また、実施例2と比較するための比較例2として、実施例2におけるキュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1と同じ湾曲係数Kを有するとともに、キュリー点を有さない(湾曲係数Kが変化しない)高温用バイメタルを仮定した。同様に、実施例3と比較するための比較例3として、実施例3におけるキュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1と同じ湾曲係数Kを有するとともに、キュリー点を有さない(湾曲係数Kが変化しない)高温用バイメタルを仮定した。
なお、湾曲係数Kを算出する際、実施例1〜3のようなキュリー点を有する試料の場合には、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1と、キュリー点以上の高温領域における湾曲係数K2とに分けてそれぞれ算出した。具体的には、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1は、常温T1(25℃)における変位量D1(=0)と100℃における変位量D2とに基づいて算出した。つまり、上記式(1)において、ΔT=75(=100−25)と、ΔD=D2−D1(=D2)とをそれぞれ代入するとともに、t1=0.2mmと、L=15mmとをそれぞれ代入することによって、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1を算出した。また、キュリー点以上の高温領域における湾曲係数K2は、250℃における変位量D3と300℃における変位量D4とに基づいて算出した。つまり、上記式(1)において、ΔT=50(=300−250)と、ΔD=D4−D3とをそれぞれ代入するとともに、t1=0.2mmと、L=15mmとをそれぞれ代入することによって、キュリー点以上の高温領域における湾曲係数K2を算出した。
また、湾曲係数Kを算出する際、比較例1のようなキュリー点を有さない試料の場合には、湾曲係数Kを、常温T1(25℃)における変位量D1(=0)と100℃における変位量D2とに基づいて算出した。つまり、上記式(1)において、ΔT=75(=100−25)と、ΔD=D2−D1(=D2)とをそれぞれ代入するとともに、t1=0.2mmと、L=15mmとをそれぞれ代入することによって、湾曲係数Kを算出した。
図7〜図10に示した変位量測定の実験結果としては、実施例1に関しては、図7に示すキュリー点(200℃)未満の低温領域では、図8に示すように、実施例1の高温用バイメタル301は、比較例1の高温用バイメタル301と略同様の湾曲変形をした。一方、キュリー点以上の高温領域では、実施例1の高温用バイメタル301は、比較例1の高温用バイメタル301と比べて湾曲変形の変位量Dは小さくなった。すなわち、キュリー点以上の高温領域では、実施例1の高温用バイメタル301の変位量Dのグラフの傾き(単位温度あたりの変位量)が、比較例1の高温用バイメタル301の変位量Dのグラフの傾き(単位温度あたりの変位量)よりも小さくなることが確認された。
これにより、実施例1の高温用バイメタル301の使用温度範囲の上限である700℃において、実施例1の高温用バイメタル301の700℃における湾曲変形の変位量Dとキュリー点である200℃における湾曲変形の変位量Dとの差(高温領域における実施例1の変位量)D5は、比較例1の高温用バイメタル301の700℃における湾曲変形の変位量Dと200℃における湾曲変形の変位量Dとの差(高温領域における比較例1の変位量)D6と比べて、約3分の1になると推測される。これにより、実施例1の高温用バイメタル301は、キュリー点以上の高温領域において、比較例1の高温用バイメタル301よりも熱応力の増加を抑制することが可能であると考えられる。
また、実施例2に関しては、図7に示すキュリー点(200℃)未満の低温領域では、図8に示すように、実施例2の高温用バイメタル301は、仮定的な比較例2の高温用バイメタルと同様の湾曲変形をした。一方、キュリー点以上の高温領域では、実施例2の高温用バイメタル301は、仮定的な比較例2の高温用バイメタルと比べて湾曲変形の変位量Dは小さくなった。すなわち、キュリー点以上の高温領域では、実施例2の高温用バイメタル301の変位量Dのグラフの傾き(単位温度あたりの変位量)が、仮定的な比較例2の高温用バイメタルの変位量Dのグラフの傾き(単位温度あたりの変位量)よりも小さくなることが確認された。
これにより、実施例2の高温用バイメタル301の使用温度範囲の上限である700℃において、実施例2の高温用バイメタル301の700℃における湾曲変形の変位量Dとキュリー点である200℃における湾曲変形の変位量Dとの差(高温領域における実施例2の変位量)D7は、仮定的な比較例2の高温用バイメタルの700℃における湾曲変形の変位量Dと200℃における湾曲変形の変位量Dとの差(高温領域における比較例2の変位量)D8と比べて、約6分の1になると推測される。これにより、実施例2の高温用バイメタル301は、キュリー点以上の高温領域において、仮定的な比較例2の高温用バイメタルよりも熱応力の増加を抑制することが可能であると考えられる。
また、実施例3に関しては、図7に示すキュリー点(170℃)未満の低温領域では、図8に示すように、実施例3の高温用バイメタル301は、仮定的な比較例3の高温用バイメタルと同様の湾曲変形をした。一方、キュリー点以上の高温領域では、実施例3の高温用バイメタル301は、仮定的な比較例3の高温用バイメタルと比べて湾曲変形の変位量Dは小さくなった。すなわち、キュリー点以上の高温領域では、実施例3の高温用バイメタル301の変位量Dのグラフの傾き(単位温度あたりの変位量)が、仮定的な比較例3の高温用バイメタルの変位量Dのグラフの傾き(単位温度あたりの変位量)よりも小さくなることが確認された。これにより、実施例3の高温用バイメタル301は、キュリー点以上の高温領域において、仮定的な比較例3の高温用バイメタルよりも熱応力の増加を抑制することが可能であると考えられる。
また、図9に示す所定の温度T(100℃、250℃および300℃)における変位量Dのデータを用いて、図10に示す湾曲係数Kを算出した。これにより、実施例1における高温用バイメタル301では、キュリー点(200℃)以上の高温領域における湾曲係数K2(3.3×10−6/K)は、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1(6.7×10−6/K)よりも小さいことが確認できた。また、実施例2における高温用バイメタル301では、キュリー点(200℃)以上の高温領域における湾曲係数K2(1.1×10−6/K)は、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1(2.3×10−6/K)よりも小さいことが確認できた。また、実施例3における高温用バイメタル301では、キュリー点(170℃)以上の高温領域における湾曲係数K2(6.5×10−6/K)は、キュリー点未満の低温領域における湾曲係数K1(11.9×10−6/K)よりも小さいことが確認できた。
(酸化増量測定)
次に、酸化増量測定について説明する。この酸化増量測定では、0.2mmの厚みと、1.0cmの幅と、3.0cmの長さとを有し、高熱膨張層と低熱膨張層とから構成されている高温用バイメタルを用いて測定を行った。また、酸化増量測定では、500℃、600℃および700℃(最高許容温度)において、それぞれ、15時間保持することによって熱処理をした際の、試料の熱処理後の質量をそれぞれ測定した。そして、酸化増量を下記の式(2)を用いて算出した。
酸化増量=(熱処理後の質量−熱処理前の質量)/(1.0cm×3.0cm)・・・(2)
また、酸化増量測定では、上記した変位量測定で用いた実施例1(SUS304/36Ni−6Nb−Fe合金)、実施例2(SUS304/40Ni−10Cr−Fe合金)および実施例3(12Cr−18Ni−Fe合金/36Ni−2Nb−Fe合金)と、上記した変位量測定において実施例1と比較するために用いた比較例1(SUS304/18Cr−Fe合金)とを高温用バイメタルとしてそれぞれ用いた。一方、比較例4として、高熱膨張層が23質量%のNiと、5質量%のMnと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される23Ni−5Mn−Fe合金からなり、低熱膨張層が36質量%のNiと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される36Ni−Fe合金からなるバイメタルを用いた。また、比較例5として、高熱膨張層が20質量%のNiと、6質量%のCrと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される20Ni−6Cr−Fe合金からなり、低熱膨張層が36Ni−Fe合金からなるバイメタルを用いた。また、比較例6として、高熱膨張層が20Ni−6Cr−Fe合金からなり、低熱膨張層が42質量%のNiと、Feと、微量の不可避的不純物とから構成される42Ni−Fe合金からなるバイメタルを用いた。
なお、酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg(許容値)よりも大きいと、酸化による高温用バイメタルの厚みの増加分が2μmよりも大きくなり、酸化される前の高温用バイメタルの合計の厚み(0.2mm)の1%を超える。これにより、酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mgよりも大きいと、高温用バイメタルの性質(湾曲係数Kなど)が実用上の問題が生じる程度までに変化する。
図11に示した酸化増量測定の実験結果としては、500℃および600℃において熱処理を行った場合には、実施例1、2、3および比較例1の高温用バイメタルと比較例4〜6のバイメタルとにおいて、酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg以下となった。しかしながら、700℃(最高許容温度)において熱処理を行った場合には、実施例1、2、3および比較例1の高温用バイメタルにおいて、酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg以下(実施例1:1.03mg、実施例2:0.26mg、実施例3:1.38mg、比較例1:0.07mg)となった一方、比較例4〜6のバイメタルにおいて、酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mgより大きい値(比較例4:2.83mg、比較例5:2.01mg、比較例6:2.09mg)となった。これにより、最高許容温度(700℃)まで温度を上昇させると、実施例1、2、3および比較例1の高温用バイメタルでは、高温用バイメタルの性質(湾曲係数Kなど)が実用上の問題が生じる程度までには変化しない一方、比較例4〜6のバイメタルでは、高温用バイメタルの性質が実用上の問題が生じる程度までに変化すると考えられる。
なお、実施例1の高温用バイメタルにおいて酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg以下となったのは、SUS304からなる高熱膨張層にCrが含有されるとともに、36Ni−6Nb−Fe合金からなる低熱膨張層にNbが含有されることによって、高熱膨張層および低熱膨張層のそれぞれの耐酸化性が向上されたからであると考えられる。また、実施例2の高温用バイメタルにおいて酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg以下となったのは、SUS304からなる高熱膨張層と40Ni−10Cr−Fe合金からなる低熱膨張層とにそれぞれCrが含有されることによって、高熱膨張層および低熱膨張層のそれぞれの耐酸化性が向上されたからであると考えられる。また、実施例3の高温用バイメタルにおいて酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg以下となったのは、12Cr−18Ni−Fe合金からなる高熱膨張層にCrが含有されるとともに、36Ni−2Nb−Fe合金からなる低熱膨張層にNbが含有されることによって、高熱膨張層および低熱膨張層のそれぞれの耐酸化性が向上されたからであると考えられる。
なお、比較例1の高温用バイメタルにおいて酸化増量が1平方センチメートルあたり1.5mg以下(0.07mg)となったのは、SUS304からなる高熱膨張層および18Cr−Fe合金からなる低熱膨張層のそれぞれに含まれるCrによって、高熱膨張層および低熱膨張層のそれぞれの耐酸化性が向上されたためであると考えられる。
上述した変位量測定および酸化増量測定の結果から、SUS304からなる高熱膨張層と、36Ni−6Nb−Fe合金からなる低熱膨張層とにより構成された実施例1の高温用バイメタルは、キュリー点(200℃)以上の高温領域において、キュリー点を有さない比較例1の高温用バイメタルよりも熱応力の増加を抑制することが可能であるとともに、最高許容温度(700℃)まで温度を上昇させても、高温用バイメタルの性質(湾曲係数Kなど)が実用上の問題が生じる程度までには変化しないと考えられる。これにより、実施例1の高温用バイメタルは、キュリー点(200℃)以上の高温領域において高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのを抑制することが可能であるとともに、高温用バイメタルの性質が実用上の問題が生じる程度までに変化するのを抑制することが可能であることが確認できた。
また、SUS304からなる高熱膨張層と、40Ni−10Cr−Fe合金からなる低熱膨張層とにより構成された実施例2の高温用バイメタルは、キュリー点(200℃)以上の高温領域において、キュリー点を有さない比較例2の想定した高温用バイメタルよりも熱応力の増加を抑制することが可能であるとともに、最高許容温度(700℃)まで温度を上昇させても、高温用バイメタルの性質(湾曲係数Kなど)が実用上の問題が生じる程度までには変化しないと考えられる。これにより、実施例2の高温用バイメタルは、キュリー点(200℃)以上の高温領域において高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのを抑制することが可能であるとともに、高温用バイメタルの性質が実用上の問題が生じる程度までに変化するのを抑制することが可能であることが確認できた。
また、12Cr−18Ni−Fe合金からなる高熱膨張層と、36Ni−2Nb−Fe合金からなる低熱膨張層とにより構成された実施例3の高温用バイメタルは、キュリー点(170℃)以上の高温領域において、キュリー点を有さない比較例3の想定した高温用バイメタルよりも熱応力の増加を抑制することが可能であるとともに、最高許容温度(700℃)まで温度を上昇させても、高温用バイメタルの性質(湾曲係数Kなど)が実用上の問題が生じる程度までには変化しないと考えられる。これにより、実施例3の高温用バイメタルは、キュリー点(170℃)以上の高温領域において高温用バイメタルの内部に熱応力が蓄積されるのを抑制することが可能であるとともに、高温用バイメタルの性質が実用上の問題が生じる程度までに変化するのを抑制することが可能であることが確認できた。
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1および第2実施形態では、高熱膨張層2をSUS304(18Cr−8Ni−Fe合金)からなるように構成するとともに、上記第3実施形態では、高熱膨張層202を12Cr−18Ni−Fe合金からなるように構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、高熱膨張層はオーステナイト系ステンレスであれば特に限定されず、たとえばSUS305((17〜19)Cr−(8〜10.5)Ni−Fe合金)などであってもよい。
また、上記第1実施形態では、低熱膨張層3が36Ni−6Nb−Fe合金からなる例を示し、上記第2実施形態では、低熱膨張層103が40Ni−10Cr−Fe合金からなる例を示すとともに、上記第3実施形態では、低熱膨張層203が36Ni−2Nb−Fe合金からなる例を示したが、本発明はこれに限らず、低熱膨張層は感温磁性金属材であれば、特に限定されない。ここで、低熱膨張層の感温磁性金属材がNiを約32質量%以上含有することにより、約100℃以上のキュリー点を有することが可能である。また、低熱膨張層の感温磁性金属材がNiを約45質量%以下含有することにより、約400℃以下のキュリー点を有することが可能である。したがって、低熱膨張層の感温磁性金属材は約32質量%以上約45質量%以下のNiを含有するNi−Fe合金からなるのが好ましい。
また、上記第1実施形態では、低熱膨張層3が36Ni−6Nb−Fe合金からなる例を示し、上記第2実施形態では、低熱膨張層103が40Ni−10Cr−Fe合金からなる例を示すとともに、上記第3実施形態では、低熱膨張層203が36Ni−2Nb−Fe合金からなる例を示したが、本発明はこれに限らず、低熱膨張層の感温磁性金属材が約32質量%以上約45質量%以下のNiを含有するNi−Fe合金にNb、Cr、Al、Si、Tiのうちの少なくとも1つを添加したNi−Fe合金からなるように構成してもよい。この際、低熱膨張層の感温磁性金属材において、Ni−Fe合金にAlが添加される際には、Alが約1質量%以上約5質量%以下の範囲で添加されるのが好ましい。その理由は以下のとおりである。Ni−Fe合金にAlが約1質量%以上添加されることによって、感温磁性金属材の耐酸化性を向上させることが可能である。また、Ni−Fe合金にAlが約5質量%以下添加されることによって、感温磁性金属材の強度が過度に大きくなることに起因して、感温磁性金属材の加工性が低下するのを抑制することが可能である。
また、低熱膨張層の感温磁性金属材において、Ni−Fe合金にSiが添加される際には、Siが約1質量%以上約5質量%以下の範囲で添加されるのが好ましい。その理由は以下のとおりである。Ni−Fe合金にSiが約1質量%以上添加されることによって、感温磁性金属材の耐酸化性を向上させることが可能である。また、Ni−Fe合金にSiが約5質量%以下添加されることによって、感温磁性金属材の強度が過度に大きくなることに起因して、感温磁性金属材の加工性が低下するのを抑制することが可能である。
また、低熱膨張層の感温磁性金属材において、Ni−Fe合金にTiが添加される際には、Tiが約0.2質量%以上約1質量%以下の範囲で添加されるのが好ましい。その理由は以下のとおりである。Ni−Fe合金にTiが約0.2質量%以上添加されることによって、感温磁性金属材の耐酸化性を向上させることが可能である。また、Ni−Fe合金にTiが約1質量%以下添加されることによって、感温磁性金属材の強度が過度に大きくなることに起因して、感温磁性金属材の加工性が低下するのを抑制することが可能である。
また、上記第1実施形態では、低熱膨張層3が36Ni−6Nb−Fe合金からなる例を示すとともに、上記第3実施形態では、低熱膨張層203が36Ni−2Nb−Fe合金からなる例を示したが、本発明はこれに限らず、低熱膨張層の感温磁性金属材が約32質量%以上約45質量%以下のNiを含有するNi−Fe合金にNbが約2質量%以上約8質量%以下の範囲で添加されたものからなるように構成してもよい。
また、上記第2実施形態では、低熱膨張層103が40Ni−10Cr−Fe合金からなる例を示したが、本発明はこれに限らず、低熱膨張層の感温磁性金属材が約32質量%以上約45質量%以下のNiを含有するNi−Fe合金にCrが約2質量%以上約13質量%以下の範囲で添加されたものからなるように構成してもよい。
また、上記第1実施形態では、高温用バイメタル1の合計の厚みt1に対する低熱膨張層3の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みt3の割合が、約0.53である例を示したが、本発明はこれに限らず、高温用バイメタルの合計の厚みに対する低熱膨張層の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みの割合は、約0.48以上約0.58以下であってもよい。このように構成すれば、36Ni−6Nb−Fe合金の厚みの割合が約0.48以上約0.58以下である場合の湾曲係数K1およびK2の変動幅を、最適比率(約0.53)である場合の湾曲係数K1およびK2の約3%以下に抑制することが可能である。なお、高温用バイメタルの合計の厚みに対する低熱膨張層の36Ni−6Nb−Fe合金の厚みの割合は、約0.50より大きい方が好ましい。
また、上記第2実施形態では、高温用バイメタル101の合計の厚みt1に対する低熱膨張層103の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みt3の割合が、約0.55である例を示したが、本発明はこれに限らず、高温用バイメタルの合計の厚みに対する低熱膨張層の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みの割合は、約0.50以上約0.60以下であってもよい。このように構成すれば、40Ni−10Cr−Fe合金の厚みの割合が約0.50以上約0.60以下である場合の湾曲係数K1およびK2の変動幅を、最適比率(約0.55)である場合の湾曲係数K1およびK2の約3%以下に抑制することが可能である。なお、高温用バイメタルの合計の厚みに対する低熱膨張層の40Ni−10Cr−Fe合金の厚みの割合は、約0.50より大きい方が好ましい。
また、上記第1〜第3実施形態では、高温用バイメタル1(101、201)を使用することが可能な使用温度範囲の下限が約−70℃である例を示したが、本発明はこれに限らず、高温用バイメタルを使用することが可能な使用温度範囲の下限は約−70℃でなくてもよく、約−70℃より高い温度または約−70℃より低い温度であってもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、高熱膨張層2(202)の厚みt2を、低熱膨張層3(103、203)の厚みt3よりも小さくした例を示したが、本発明はこれに限らず、高熱膨張層の厚みは、低熱膨張層の厚みと略同一でもよいし、低熱膨張層の厚みよりも大きくてもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、高温用バイメタル1(101、201)が約0.2mmの厚みt1を有する例を示したが、本発明はこれに限らず、高温用バイメタルの厚みは、約0.2mmより大きくてもよいし、約0.2mm未満であってもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、所定の設定温度T2が、高温用バイメタル1(101、201)の低熱膨張層3(103、203)のキュリー点(約200℃、約170℃)の近傍で、かつ、キュリー点よりも大きい温度である例を示したが、本発明はこれに限らず、設定温度T2は、キュリー点の近傍でなくてもよいし、キュリー点以下の温度でもよい。