JP4357334B2 - フェライト系ステンレス鋼を基材とする高弾性歪みセンサ - Google Patents
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歪みの検出領域は、弾性領域における歪み範囲の広い基材の選択により拡げられる。通常のフェライト系又はオーステナイト系ステンレス鋼は、強度,耐食性等に優れているものの、弾性領域で測定に使用可能な歪みの範囲が狭いため歪みセンサの基材に不適と扱われている。この点、特許文献1は、フェライト系よりも二相系ステンレス鋼の方が歪みセンサの基材に適していると開示している。
フェライト系ステンレス鋼は、Cuの他にC:0.03質量%以下,Si:3.0質量%以下,Mn:3.0質量%以下,Ni:3.0質量%以下,Cr:10〜35質量%,Cu:0.3〜3.0質量%,N:0.03質量%以下,更にTi:0.5質量%以下,Nb:1.0質量%以下,Mo:2.0質量%以下,Al:3.5質量%以下の1種又は2種以上を含むステンレス鋼が好適である。
そして、室温で450MPa以上の0.2%耐力(JIS G0202)を呈するものが好ましい。
図1は歪みセンサの構造を示す側断面図,図2は上面図である。
図1,2において、11は金属からなる基材であり、基材11に第一の絶縁層12が設けられ、更にAgからなる回路パターン13が第一の絶縁層12に備えられている。14は四つの歪抵抗素子を示し、回路パターン13と電気的に接続されるように第一の絶縁層12上に設けられている。15は第二の絶縁層であり、少なくとも四つの歪抵抗素子14及び回路パターン13を覆っている。16は四つのAgからなる電極を示し、回路パターン13から延出して設けられている。電極16は、第二の絶縁層15で覆われておらず外部に露出している。
基材11として使用されるフェライト系ステンレス鋼には、以下の合金成分を含んでいる。
C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下
何れもオーステナイト形成元素であり、多量に含まれるとマルテンサイト相が生成し、鋼材が高強度化する。マルテンサイト相を生成すると相変態で発生する歪みにより絶縁層12との密着性が損なわれるので、可能な限りC,Nを低減しマルテンサイト相の生成を抑制することが好ましい。そこで、C,N含有量を共に0.03質量%以下としている。
高温での耐酸化性を改善する合金成分として知られているが、本成分系においては、室温の強度上昇に固溶強化元素として働く。このような作用は、0.1質量%以上のSiで顕著になる。しかし、Siの過剰添加はσ相の生成を促進させて低温靭性を劣化させるので、Si含有量の上限を3.0質量%としている。
フェライト系ステンレス鋼の高温酸化特性,溶接性を改善する合金成分であり、0.1質量%以上でMnの添加効果が顕著になる。しかし、オーステナイト形成元素であり過剰添加はC,Nと同様な悪影響を及ぼすので、Mn含有量の上限を3.0質量%としている。
本成分系においては、室温強度の上昇に有効な固溶強化元素として働く。このような作用はNi:0.05質量%以上で顕著になる。しかし、オーステナイト形成元素であるため、Cr含有量の少ないフェライト系ステンレス鋼にNiを過剰添加すると、Mnと同様にマルテンサイト相が生成しやすくなる。そこで、Ni含有量の上限を3.0質量%とした。
フェライト相を安定させると共に、耐食性,耐酸化性の改善に不可欠な合金成分である。室温での強度上昇に有効な固溶強化元素としても働き、Crの増量に応じて添加効果が大きくなる。しかし、過剰量のCrを添加するとσ相の生成によって鋼材が脆化しやすくなる。このようなことから、Cr含有量を10〜35質量%の範囲とする。
Cu添加量の増加に伴い、固溶強化作用によって鋼材強度が向上し、0.3質量%以上でCuの添加効果がみられる。特にセンサ用途の製造工程では、600〜700℃の熱処理時にε-Cu相が活発に析出し鋼材強度が大幅に向上する。しかし、過剰量のCu添加は低温靭性や耐食性に悪影響を及ぼすので、Cu含有量の上限を3.0質量%とした。
C,Nを固定してマルテンサイト相の生成を抑制すると共に、耐食性を向上させる合金成分であり、好ましくは0.05質量%以上でTiの添加効果が顕著になる。しかし、Tiを過剰添加するとTiNを生成し鋼材の表面性状を劣化させるので、Ti含有量の上限を0.5質量%とする。
Tiと同様に、C,Nを炭窒化物として固定する作用を呈し、好ましくは0.1質量%以上でNbの添加効果が顕著になる。しかし、Nbの過剰添加は低温靭性を低下させ、溶接高温割れ感受性を高くする原因となるので、Nb含有量の上限を1.0質量%とした。
フェライト系ステンレス鋼の高強度化に有効な合金成分であり、耐食性,高温強度の向上にも顕著な作用を呈し、好ましくは0.1質量%以上でMoの添加効果がみられる。しかし、過剰量のMoを添加すると加工性,溶接性が劣化し、σ相が生成しやすくなり、低温靭性に悪影響が現れる。このようなことから、Mo含有量の上限を2.0質量%とする。
フェライト系ステンレス鋼を高強度化し、耐高温酸化性の向上にも有効な合金成分であり、好ましくは0.05質量%以上でAlの添加効果がみられる。しかし、過剰量のAlを添加すると加工性,溶接性が劣化し、σ相が生成しやすくなり、低温靭性にも悪影響が現れるので、Al含有量を3.5質量%以下とする。
〔絶縁層形成工程〕
先ず、基材11の表面にペースト状のガラス材料をスクリーン印刷等で塗布し、800〜900℃の温度で焼成することにより第一の絶縁層12を形成する。-図3(a)-
次いで、絶縁層12上の所望個所にペースト状電極材料をスクリーン印刷等で塗布し、800〜900℃の温度で焼成することにより回路パターン13及びこの回路パターン13を延出してなる電極16(本図では図示せず)を形成する。-図3(b)-
更に、回路パターン13の上にペースト状の抵抗材料をスクリーン印刷等で塗布し、800〜900℃の温度で焼成することにより四つの歪抵抗素子14を形成する。-図3(c)-
最後に、少なくとも歪抵抗素子14及び回路パターン13を覆うようにペースト状の絶縁材料をスクリーン印刷等で塗布し、600〜700℃の温度で焼成することにより第二の絶縁層15を形成する。-図3(d)-
しかも、高温雰囲気に曝される時間が合計でも数時間程度と比較的短く、Cr,Si等のフェライト形成元素を比較的多量に含む成分系であってもσ相も生じていないため、センサ基材が優れた低温靭性を呈し、第一の絶縁層12,回路パターン13,電極16,歪抵抗素子14,第二の絶縁層15が強固に接合された高弾性歪みセンサが得られる。
表2の調査結果にみられるように、本発明例では、基材11と第一の絶縁層12及び第二の絶縁層15の密着性が優れ、0.2%耐力も550MPaと高い値であった。したがって、広範囲の弾性領域にわたって歪み量を高精度測定できる歪みセンサとして使用可能なことが理解できる。
他方、SUS430ステンレス鋼を基材とした歪みセンサでは、焼成時の昇温過程で相変態したオーステナイト相が冷却過程でマルテンサイト変態するため、相変態に起因する体積変化の影響を受けて基材11と第一の絶縁層12及び第二の絶縁層15の密着性が悪く電極破断が生じていた。0.2%耐力も低いため、測定可能な歪み範囲が本発明例より限られていると考えられる。
SUH21鋼を基材とした歪みセンサは、基材11と第一の絶縁層12及び第二の絶縁層15の密着性が良好であるものの、ε-Cu相が生成していないため焼成後の基材の0.2%耐力が低かった。しかも、焼成時に若干のσ相が生成したため、基材の低温靭性が低くなっていた。
Claims (3)
- Cu:0.3〜3.0質量%を含むフェライト系ステンレス鋼を基材とし、この基材に800〜900℃で焼成された第一の絶縁層,電極,回路パターン,歪抵抗素子,600〜700℃で焼成された第二の絶縁層を順次設けている歪みセンサであって、当該歪みセンサを構成する基材のフェライト系ステンレス鋼が、0.2体積%以上のε−Cu相を含み、オーステナイト相,σ相の生成が抑制されたフェライト組織を有していることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼を基材とする高弾性歪みセンサ。
- フェライト系ステンレス鋼がC:0.03質量%以下,Si:3.0質量%以下,Mn:3.0質量%以下,Ni:3.0質量%以下,Cr:10〜35質量%,Cu:0.3〜3.0質量%,N:0.03質量%以下,更にTi:0.5質量%以下,Nb:1.0質量%以下,Mo:2.0質量%以下,Al:3.5質量%以下の1種又は2種以上を含んでいる請求項1記載の高弾性歪みセンサ。
- 室温での0.2%耐力:450MPa以上のフェライト系ステンレス鋼を基材に使用している請求項1又は2記載の高弾性歪みセンサ。
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