JP6738671B2 - ステンレス鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、例えばスイッチのばね等の材料として用いられるステンレス鋼板に関する。
近年、携帯電話端末や家電製品等の電子機器の小型化が進み、これら電子機器に設けられているタクトスイッチ等の薄型の押しボタンスイッチの部品としては、一般的に、小型化および薄肉化に対応できる機械的性質と、繰り返し負荷に対する耐久性(疲労特性)とが求められている。
また、電子機器のスイッチには、いわゆるクリック感を奏するように、薄い金属板によりドーム状に形成されたメタルドームが内蔵される。
そのため、この種のスイッチのクリック感は内蔵されたメタルドームの特性によって大きく影響される。
メタルドームの特性は、荷重変位測定器で測定される荷重と移動量との関係によって表され、具体的には、測定された荷重の極大値をP1とし、荷重の極小値をP2とした場合に、(P1−P2)/P1の式で示すクリック率により評価される。
なお、クリック率が高いほど、良好な操作感が得られるが、反転不良等の不具合が起こりやすくなったり耐久性が低下して寿命が短くなったりするため、メタルドーム等のスイッチ用のばねに用いられる材料は、一般的にクリック率が30〜60%の範囲となるように調整されている。
このようなスイッチ用のばねの材料としては、特許文献1に示すように、Md30の値が−50〜−20となるように成分調整され、加工誘起マルテンサイト相を50〜80体積%有しかつそのマルテンサイト相のマトリックス中にCuリッチ相が0.1体積%以上の割合で分散した金属組織を有し、疲労特性および加工性に優れた表面接触電気抵抗の小さいステンレス鋼板等が知られている。
特開2005−29827号公報
ここで、スイッチを製造する際の加工工程では、ステンレス鋼板のプレス成形後、リフローはんだ付けのために250℃程度の熱処理が施される。
そして、例えば特許文献1等のステンレス鋼板では、このような加工工程中の熱処理によってクリック率が変化し、性能にばらつきが生じてしまう可能性が考えられる。
そこで、特性が変化しにくいステンレス鋼板が求められていた。
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、特性が変化しにくいステンレス鋼板を提供することを目的とする。
請求項1に記載されたステンレス鋼板は、C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下、Mn:0.1質量%以上7.0質量%以下、Ni:1.0質量%以上7.0質量%以下、Cr:15.0質量%以上19.0質量%以下、Cu:0質量%以上3.5質量%以下、N:0.05質量%以上0.30質量%以下およびMo:0質量%以上2.0質量%以下を含有し、C含有量とN含有量との合計が0.20質量%以上で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moで示すオーステナイト安定指標であるMd30の値が17.3以上22.6以下で、SFE=2.2Ni+6Cu−1.1Cr−13Si−1.2Mn+32−77Nで示す積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値が35以下で、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、その複相組織における加工誘起マルテンサイト量が20%以上で、結晶粒径が20μm以下で、弾性限界応力が1500N/mm以上で、硬さが550HV以上650HV以下であるものである。
本発明によれば、C含有量とN含有量の合計、Md30の値およびSFEの値が所定の範囲に調整されているため、特性の変化を抑制できる。
メタルドームが設けられたスイッチの分解状態を示す斜視図である。 メタルドームが設けられたスイッチの組付状態を示す断面図である。 本実施例および比較例のクリック率の変動と弾性限界応力との関係を示すグラフである。
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
本発明に係るステンレス鋼板は、例えば図1および図2に示すスイッチ1の部品等の材料として用いられる。
スイッチ1は、固定接点2が設けられたベース部材3を備えている。また、ベース部材3内にステンレス鋼板で形成された反転ばねとしてのドーム状のメタルドーム4が設けられ、このメタルドーム4の上部にプランジャ5が設けられて、カバー部材6が取り付けられている。
これらプランジャ5とカバー部材6とは、カバー部材6の開口部6aからプランジャ5の突起部5aが突出するように配置されている。
メタルドーム4は、台座部7を有し、この台座部7の下端部がベース部材3内の底部に接触するように設置される。
また、メタルドーム4は、台座部7から上方に膨出するように湾曲した湾曲部8が一体に設けられている。
このようなドーム状のメタルドーム4は、通常時には、湾曲部8の上側面がプランジャ5の突起部5bと接触し、かつ、湾曲部8の下側面が固定接点に接触しないように配置されている。
そして、プランジャ5を下方へ押圧して押し込むことにより、メタルドーム4が弾性変形し、そのメタルドーム4における湾曲部8の下側面が固定接点2と接触して、スイッチ1が作動する。
また、プランジャ5を下方へ押圧する力を解放することにより、メタルドーム4の復元力によって、湾曲部8の下側面が固定接点から離間する。
ここで、例えばスイッチ1の反転ばねであるメタルドーム4用の材料としてステンレス鋼板が用いられる際には、一般的に、プレス成形によって台座部7と湾曲部8とが形成される。
このプレス成形では、同一成形荷重の場合には、そのステンレス鋼板の弾性限界応力が高いほど、塑性ひずみが小さくなる。
そのため、弾性限界応力の高いステンレス鋼板は、加工工程中のリフロー加熱でのひずみ時効による弾性限の変化が小さくなり、加熱前後のクリック率の変化が小さくなると考えられる。
クリック率は、荷重変位測定器で測定される荷重の極大値をP1とし、荷重の極小値をP2とした場合に、(P1−P2)/P1の式で示される。
本発明に係るステンレス鋼板で形成されたメタルドーム4は、クリック率が40%以上60%以下であることが好ましい。
また、加工工程中のリフローはんだ付けのための熱処理によりクリック率の変化が10%以下であることが好ましい。
すなわち、例えばクリック率が40%以上60%以下であるステンレス鋼板(メタルドーム4)を熱処理した後のクリック率は、30%以上50%以下の範囲であることが好ましい。
そして、このように熱処理後のクリック率の変化を10%以下にするには、弾性限界応力を1500N/mm以上にすることが有効である。
具体的には、準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、加工誘起マルテンサイト相(α´相)とオーステナイト相(γ相)とが存在し、加工誘起マルテンサイト相に比べてオーステナイト相の強度が低い。そのため、弾性限界応力を向上するには、オーステナイト相を高強度化すること、および、積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値を低下させることが重要である。
以下、本発明の一実施の形態に係るステンレス鋼板について説明する。
ステンレス鋼板は、0.05質量%以上0.30質量%以下のC(炭素)、1.50質量%以下のSi(ケイ素)、0.1質量%以上7.0質量%以下のMn(マンガン)、1.0質量%以上7.0質量%以下のNi(ニッケル)、15.0質量%以上19.0質量%以下のCr(クロム)、0質量%以上3.5質量%以下のCu(銅)、0.05質量%以上0.30質量%以下のN(窒素)、および、0質量%以上2.0質量%以下のMo(モリブデン)を含有し、C含有量とN含有量との合計が0.20質量%以上で、残部がFe(鉄)および不可避的不純物で構成される。
また、上記各元素の含有量の範囲において、Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moの(1)式で示すオーステナイト安定指標であるMd30の値が5以上30以下となるように成分調整されている。
さらに、各元素の含有量の範囲において、SFE=2.2Ni+6Cu−1.1Cr−13Si−1.2Mn+32−77Nの(2)式で示す積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値が35以下となるように成分調整されている。
なお、上記Md30およびSFEを示す式の元素記号には、そのステンレス鋼が含有している各元素の含有量が代入され、各式に含まれる元素のうち、無添加のものは0が代入される。
また、上記組成で構成されたステンレス鋼板は、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、加工誘起マルテンサイト量が20%以上の組織で、結晶粒径が20μm以下である。
さらに、上記ステンレス鋼板は、弾性限界応力が1500N/mm以上で、硬さが550HV以上650HV以下である。
CおよびNは、オーステナイト生成元素であり、これらの元素の含有量が少なすぎるとδフェライト相の生成量が増大し、熱間加工性が低下する。また、CおよびNは、加工誘起マルテンサイト相を固溶強化するために有用な元素である。そして、Cの含有量およびNの含有量をいずれも、0.05質量%以上にすることが、顕著な延性向上作用を安定して得るとともに高強度化のために重要である。一方、CおよびNを、0.30質量%を超えて過剰に含有させると、鋼が過度に硬質化し加工性を阻害する要因となる可能性がある。したがって、Cの含有量およびNの含有量は、いずれも0.05質量%以上0.30質量%以下とする。
また、加工誘起マルテンサイト相の生成等による加工誘起変態塑性(TRIP)現象にて高強度を得るには、C+N(CおよびNの合計含有量)を0.20質量%以上とする必要がある。したがって、CおよびNは、上記それぞれの含有量の範囲において、C+N≧0.20質量%となるように調整する。
Siは、製鋼での脱酸に有用な元素であるとともに、固溶強化に寄与する元素である。しかし、1.50質量%を超えて過剰に含有させると、鋼が硬質化し加工性を損なう要因となる。また、Siはフェライト生成元素であるため、過剰添加は高温域でのδフェライト相の多量生成を招き、熱間加工性を阻害する。したがって、Siの含有量は、1.50質量%以下とする。
Mnは、Niに比べて安価で、Niの作用を代替できる有用なオーステナイト形成元素である。また、鋼を固溶強化する有用な元素でもある。さらに、SFEを低下させて、変形双晶によって加工硬化能を向上させる。これらの作用を奏するには、Mnを0.1質量%以上含有させる必要がある。一方、Mnを、7.0質量%を超えて過剰に含有させると、熱間加工性を阻害する要因となる。したがって、Mnの含有量は、0.1質量%以上7.0質量%以下とする。
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼に必須の元素であり、延性や靭性の向上に有効である。その作用を十分に奏するには、1.0質量%以上含有させる必要がある。一方、Niを7.0質量%を超えて過剰に含有させると、強度特性を低下させる要因になるとともに、コストの増大により経済性も低下する。したがって、Niの含有量は、1.0質量%以上7.0質量%以下とする。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を担保する不動態皮膜の形成に必須の元素であり、15.0質量%以上含有させることで、耐食性を十分に確保できる。一方、Crは、フェライト生成元素であるため、過度に含有させると熱延前加熱温度が(γ+δ)の2相域となり、加熱後もδフェライトの多量生成を招き、熱間加工性を損なう要因となる。この一実施の形態では、オーステナイト生成元素の含有量の調整により19.0質量%まで含有させることができる。したがって、Crの含有量は、15.0質量%以上19.0質量%以下とする。
Cuは、加工誘起マルテンサイト相の生成に起因して加工硬化を抑制するため、製造工程の負荷を低減できる有効な元素である。一方、Cuを3.5質量%を超えて過剰に含有させると、熱間加工性の低下につながる。したがって、Cuの含有量は0質量%以上3.5質量%以下(無添加を含む。)とする。
Moは、耐食性の向上に有用な元素であるとともに、固溶強化に寄与する元素であるが、2.0質量%を超えて過剰に含有させると、熱間加工性を損なう要因となる。したがって、Moの含有量は、0質量%以上2.0質量%以下(無添加を含む。)とする。
(1)式で表されるオーステナイト安定度指標であるMd30は、その値が大きいほど、オーステナイト相から加工誘起マルテンサイト相への変態が起こりやすく、軽度の冷延ひずみの付与で高強度が得られるとともに、優れた延性を確保できる。また、成形が施される場合においても、曲げ部など加工ひずみが付与された部分はTRIP現象によりさらに高い強度が得られやすい。このような高強度化作用は、Md30の値が5以上の場合に顕著に現れる。一方、Md30の値が30を超えると、曲げ加工を施した部分における加工誘起マルテンサイト生成量が多くなり過ぎるため、割れが誘発され曲げ性が劣化する可能性がある。したがって、高強度でかつ良好な延性を安定して確保するために、オーステナイト安定度指標であるMd30の値は、5以上30以下とする。
また、(2)式で表される積層欠陥エネルギー指標であるSFEは、その値が大きい場合、例えばSFEが35を超える場合、オーステナイト相の加工硬化が小さくなって、加工時に生じた加工誘起マルテンサイト相とオーステナイト相との硬度差により、亀裂が生じやすくなる。また、オーステナイト相を高強度化するには、MnやNを添加することによりSFEを20以下に低下させて、変形双晶で加工硬化能を向上させることが有効である。したがって、積層欠陥エネルギー指標であるSFEの値は、35以下とする。
上記ステンレス鋼板は、オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有している。
この複相組織における加工誘起マルテンサイト量が20%未満であると、十分な強度を確保できない可能性がある。したがって、複相組織における加工誘起マルテンサイト量は20%以上とし、好ましくは70%以上である。
さらに、複相組織の結晶粒径が20μmより大きいと、十分な強度(弾性限)を確保できない可能性があるため、複相組織の結晶粒径は20μm以下とする。
また、薄肉化および小型化に対応するには、繰り返し負荷に対する耐久性が得られる強度と硬度とが必要である。しかし、強度を過度に上げると、クリック率が悪化する可能性がある。したがって、ステンレス鋼板の引張強度および硬度は、繰り返し負荷に対する耐久性とクリック率との関係を考慮して、弾性限界応力が1500N/mm以上で、硬さが550HV以上650HV以下とし、この範囲でクリック率が40%以上60%以下となるように調整することが好ましい。
次に、上記ステンレス鋼板の製造方法を説明する。
上記ステンレス鋼板を製造するに際には、真空溶解によって原料を溶解および精製し、上述のように成分調整したステンレス鋼を溶製する。
また、そのステンレス鋼を熱間圧延し、熱間圧延した鋼板を焼鈍および酸洗し、焼鈍および酸洗した鋼板を冷間圧延し、冷間圧延した鋼板を時効処理する。
なお、焼鈍・酸洗工程および冷間圧延工程では、鋼板が所望の厚さになるまで必要に応じて焼鈍および酸洗と冷間圧延とを繰り返し、必要に応じて、光輝焼鈍(BA)を行ってもよい。
冷間圧延工程では、所望の板厚にするとともに、加工硬化によって強度を向上させ、かつ、複相組織における加工誘起マルテンサイト相が所望の割合になるような条件で冷間圧延が行われる。
具体的には、圧延温度が高く、圧延率が低いほど加工誘起マルテンサイトが生成されにくく、圧延温度が50℃より高い場合や、圧延率が40%より低い場合には、加工誘起マルテンサイト量が20%未満となる可能性がある。そのため、冷間圧延率が40%以上75%以下で、かつ、圧延温度が50℃以下の条件で冷間圧延を行う。
時効処理工程では、炭化物や窒化物等の高強度析出物を析出させて、高強度化するとともに、弾性限界応力例えば1500N/mm以上に向上するような条件で時効処理が行われることが好ましい。
具体的には、時効温度が300℃以上700℃以下で、かつ、時効温度をT(K)とし、時効時間をt(時間)とした場合に、時効温度と時効時間との関係が12000<T(logt+20)<16500となる条件で時効処理する。
また、時効処理は、加工誘起マルテンサイトのひずみ時効硬化によって、硬さが40HV以上向上される条件で行うことが好ましい。
そして、上記一実施の形態によれば、C含有量およびN含有量の合計が0.20質量%以上で、Md30の値が10以上30以下で、SFEの値が20以下であるため、加工誘起マルテンサイトによって強度を向上できるとともに、複相組織におけるオーステナイト相の強度を向上できる。そのため、弾性限度応力を向上でき、加工工程での熱処理によるクリック率の変化等の特性の変化を抑制できる。
また、所定条件で冷間圧延を行うことにより、加工硬化によって強度を向上でき、所定条件で時効処理を行うことにより、高強度析出物の析出によってオーステナイト相の強度を向上でき、弾性限度応力を向上できる。
ここで、450℃で時効処理したステンレス鋼板について、時効処理前後での疲労特性の変化を確認した。
具体的には、450℃で時効処理した後のステンレス鋼板を直径4mmで厚さ50μmのメタルドームに加工し、そのメタルドームについて、荷重500gfとして、1秒あたりのスイッチング繰り返し数を3回として、割れが発生するまでのスイッチング回数を測定した。この結果を表1に示す。
Figure 0006738671
表1に示すように、時効処理前の状態での割れ発生までのスイッチング回数に比べて、450℃で時効処理した後の割れ発生までのスイッチング回数の方が著しく向上している。
すなわち、時効処理工程では、時効温度を調整することにより、繰り返し荷重に対する耐久性(疲労特性)を向上できる。その結果、薄肉化および小型化に対応できる強度を確保できるとともに、特性の変化を抑制して長寿命化できかつ製品毎の寿命のばらつきを低減できる。
また、強度を向上できるとともに、弾性限度応力を向上できるため、高強度化できるとともに、クリック率を40%以上60%以下の範囲に調整でき、小型化および薄肉化しても良好なクリック率を確保できる。
以下、本実施例および比較例について説明する。
まず、表2に示す組成のステンレス鋼を溶製した。表2において、A1〜Aが上記一実施の形態の条件を満たす本実施例で、B1〜Bが比較例である。
なお、B1〜B4は、C+Nが0.20未満である
Figure 0006738671
表2に示す組成のステンレス鋼の100kgの鋼塊を得た後に、抽出温度1230℃で熱間圧延することにより板厚3mmの熱延鋼帯を製造した。
この熱延鋼帯に1080℃で均熱5分の中間焼鈍を施した後、所定の条件の冷間圧延と、1080℃で均熱1分の焼鈍を繰り返し、中間鋼帯を得た。
また、調質圧延後の板厚が0.2mmとなる圧延率をそれぞれの鋼についてあらかじめ調べておき、その調質圧延率をもとに仕上焼鈍時の板厚を設定して、その板厚まで冷間圧延を行った後に1080℃で均熱1分の仕上焼鈍を施した。
仕上焼鈍後に板厚0.2mmまで調質圧延を行った。この調質圧延は、鋼板の温度が70℃となるよう加温した上で7〜10パス行った。
調質圧延後に、各鋼板について硬さを測定し、時効温度を450℃とし、時効時間を1時間として時効処理を行った。
そして、時効処理後の各鋼板について、硬さ、弾性限界応力およびクリック率を測定した。なお、弾性限界応力の測定では、JIS 13B号試験片(L方向:圧延方向に平行)を用い、5mm/分の試験速度から求められる0.02%耐力値を弾性限界応力とした。
また、各鋼板について、所定の条件でリフロー熱処理し、熱処理後のクリック率を測定して、熱処理前後でのクリック率の変動を算出した。
リフロー熱処理では、(1)常温、(2)予熱、(3)昇温、(4)本加熱および(5)冷却の順に処理を進行した。
具体的には、常温から予熱温度まで30〜60秒で加熱し、予熱は150〜180℃の温度で60〜120秒加熱した。予熱後には、230℃まで30〜50秒で加熱し、本加熱では、200〜230℃(260℃以下)で40〜50秒加熱した。その後、230℃から100℃mで2〜4℃/秒の冷却速度で冷却した。
表3には、本実施例および比較例に関する冷間圧延条件と、各試験結果とを示し、図3には、本実施例および比較例に関するクリック率変動と弾性限界応力との関係を示す。
なお、弾性限界応力は1500N/mmを基準に評価し、クリック率変動は10%を基準に評価した。
Figure 0006738671
本実施例は、いずれも弾性限界応力が1500N/mm以上であり、かつ、クリック率の変動が10%未満であった。
一方、比較例であるB1〜Bは、いずれもクリック率の変動が10%を超えており、加熱処理によってクリック率の変動が大きかった。
したがって、本実施例の条件を満たすことにより、熱処理前後でのクリック率の変動を抑制できることが確認された。
次に、上記本実施例および比較例について、時効処理した後のステンレス鋼板を直径4mmで厚さ50μmのメタルドームに加工し、そのメタルドームについて、荷重500gfとして、1秒あたりのスイッチング繰り返し数を3回として、割れが発生するまでのスイッチング回数を測定した。このスイッチング回数の測定結果を表4に示す。
Figure 0006738671
表4に示すように、本実施例のいずれも割れが発生するまでのスイッチング回数が500万回以上であった。
これに対して、比較例であるB1ないしBのいずれも割れが発生するまでのスイッチング回数が370万回以下であった。
したがって、本実施例の条件を満たすことにより、疲労特性を向上できることが確認された。

Claims (1)

  1. C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下、Mn:0.1質量%以上7.0質量%以下、Ni:1.0質量%以上7.0質量%以下、Cr:15.0質量%以上19.0質量%以下、Cu:0質量%以上3.5質量%以下、N:0.05質量%以上0.30質量%以下およびMo:0質量%以上2.0質量%以下を含有し、C含有量とN含有量との合計が0.20質量%以上で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    Md30=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moで示すオーステナイト安定指標であるMd30の値が17.3以上22.6以下で、
    SFE=2.2Ni+6Cu−1.1Cr−13Si−1.2Mn+32−77Nで示す積層欠陥エネルギー生成指標であるSFEの値が35以下で、
    オーステナイト相および加工誘起マルテンサイト相の複相組織を有し、その複相組織における加工誘起マルテンサイト量が20%以上で、
    結晶粒径が20μm以下で、
    弾性限界応力が1500N/mm以上で、
    硬さが550HV以上650HV以下である
    ことを特徴とするステンレス鋼板。
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