JP6585679B2 - 熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金 - Google Patents

熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金 Download PDF

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本発明は、熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金に関する。
歪センサは、薄膜、細線または箔形状のセンサ材の電気抵抗が弾性歪によって変化する現象を利用するものであり、その抵抗変化を測定することにより、歪や応力の計測ならびに変換に用いられる。
歪センサの感度は、ゲージ率Kによって決まり、Kの値は一般に以下の(1)式で与えられる。
K=(ΔR/R)/(Δl/l)=1+2σ+(Δρ/ρ)/(Δl/l) (1)
ここで、R、σおよびρは、それぞれセンサ材である薄膜、細線または箔の全抵抗、ポアソン比および比電気抵抗である。またlは被測定体の全長であり、よってΔl/lは被測定体に生じる歪を表す。一般に、金属・合金におけるσはほぼ0.3であるから、前記の式における右辺第1項と第2項の合計は約1.6でほぼ一定の値となる。したがってゲージ率を大きくするためには、前記の式における第3項が大きいことが必須条件である。すなわち、材料に引っ張り変形を与えたとき材料の長さ方向の電子構造が大幅に変化し、比電気抵抗の変化量Δρ/ρが増加することによる。
そこで近年になって注目されたのが、バルクのゲージ率として26〜28という非常に大きい値が報告されていたクロミウム(Cr)である。Crは加工が非常に困難であるが、加工を必要としない薄膜化によって歪センサに応用することができ、薄膜化してもゲージ率が約15と依然として大きいため、Cr薄膜が歪センサとして注目されている(例えば特許文献1)。
一方、歪センサは、高いゲージ率を有するとともに温度に対する安定性が高いことが要求されるが、Cr薄膜では、温度安定性の指標である抵抗温度係数(TCR)が正の大きな値を示し、安定性の点で問題がある。これに対して、ゲージ率が高く、TCRが小さい薄膜材料としてCr−N膜が提案されている(例えば特許文献2)。また、温度安定性の指標としてはゲージ率の温度係数(感度温度係数)(TCS)も重要であり、TCRおよびTCSが低いCr−N薄膜も提案されている(特許文献3)。
特開昭61−256233号公報 特許第3642449号公報 特開2015−031633号公報
ところで、Cr−N膜は、状態図より、単相ではなく複数の相が準安定相として存在するため、熱処理温度でその特性が著しく変化する。このためTCRおよびTCSの双方を小さくするため、非常に限られた温度、時間で熱処理する必要がある。したがって、そのような限られた条件が崩れる条件下では非常に熱的に不安定となり十分な熱安定性が得られないことが判明した。
したがって、本発明は、TCRおよびTCSが小さく熱的安定性に優れ、かつ高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金を提供することを課題とする。
本発明者らは、先に、歪センサ用薄膜合金として、所定組成のCr−Al系薄膜、および所定組成のCr−Alにさらに適量のBを加えたCr−Al−B系薄膜合金は、単相として存在し、優れた熱的安定性を示すことを見出し、特願2016−234833号として特許出願した。しかし、AlはCrの大きいゲージ率を低下させる作用があるため、熱的安定性を良好に維持したまま、高歪ゲージ率が得られる添加元素について検討した。その結果、Mo、Fe、Co、Wが有効であることを見出した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)一般式Cr100−x−yーzAl
(ただし、x、y、zは原子比率(at.%)であり、0.05≦x<12、0≦y<25、0≦z<10であり、Mは、Mo、Fe、Co、Wから選択された少なくとも1種である)で表されることを特徴とする、熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
(2)抵抗の時間変化が、20ppm/H以下であることを特徴とする、(1)に記載の熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
(3)抵抗温度係数(TCR)およびゲージ率の温度係数(TCS)の双方、またはこれらのいずれか一方が、−200〜+200ppm/℃の範囲内であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
(4)比抵抗率が250μΩ・cm以上であることを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載の熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
本発明によれば、TCRおよびTCSが小さいとともに、高い歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金が提供される。
Cr−Al系薄膜合金のAl含有量と0℃でのゲージ率との関係を示す図である。 Cr−Al合金(バルク)のAl含有量とネール温度との関係を示す図である。 X線回折により、Cr−Al系薄膜合金のAl含有量による(110)配向を調査した結果を示す図である。 図3に基づいて、Al含有量と(110)のピークの回折角との関係を示す図である。 Crのネール点を低下させる元素について示す図である。 Crのネール点を低下させる元素について示す図である。 Cr、Cr−Fe、Cr−Co、Cr−Mo、Cr−Wの原子半径、結晶構造、ネール点を示す図である。 Cr−Fe系薄膜合金の温度とゲージ率との関係をCr薄膜と比較して示す図である。 Cr−Co系薄膜合金の温度とゲージ率との関係をCr薄膜と比較して示す図である。 Cr−Mo系薄膜合金の温度とゲージ率との関係をCr薄膜と比較して示す図である。 種々の組成のCr−Fe系薄膜合金およびCr薄膜の、温度とゲージ率との関係を示す図である。 Cr−Fe系薄膜合金のFe含有量とTCRとの関係を示す図である。 Cr−Fe系薄膜合金のFe含有量と0℃でのゲージ率Gfとの関係を示す図である。 実施例1におけるゲージ率Gf(0℃)の組成依存性を示すCr−Fe−Al系薄膜合金の三元系組成図である。 実施例1におけるTCS(0〜50℃)の組成依存性を示すCr−Fe−Al系薄膜合金の三元系組成図である。 実施例1におけるTCR(0〜50℃)の組成依存性を示すCr−Fe−Al系薄膜合金の三元系組成図である。 実施例1における抵抗値R(0℃)の組成依存性を示すCr−Fe−Al系薄膜合金の三元系組成図である。 実施例2におけるTCR(0〜50℃)とゲージ率Gf(0℃)との関係を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、先願である特願2016−234833号に記載されたCr−Al系薄膜合金について特性を把握した。その結果を図1〜4に示す。図1は、Cr−Al系薄膜合金のAl含有量と0℃でのゲージ率との関係を示す図である。図1からAl含有量が6at.%までは、Al含有量が増加するほどゲージ率が低下することがわかる。
その原因を調査すべく、ネール点(ネール温度)および格子定数に着目して検討した。図2は、Cr−Al合金(バルク)のAl含有量とネール温度との関係を示す図である。この図から、Al含有量が増加するに従ってネール点が上昇することがわかる。また、図3は、X線回折により、Al含有量による(110)配向を調査した結果、図4は、図3に基づいて、Al含有量と(110)のピークの回折角との関係を示す図である。これらの図から、Al含有量が増加するに従って格子定数が大きくなる、すなわちAl含有量が減少するほど格子定数が小さくなることがわかる。
このことから、Cr−Al薄膜に、ネール点を低下させる元素、格子定数を小さくする元素を添加することにより、ゲージ率を上昇させることができると考えた。
図5、図6はCrのネール点を低下させる元素について示す図であり、バルクの結果を示す図である。これらの図に示すように、CrにFe、Mo、Co、W、Si、Ta、Nb、V、Niを添加することにより、Crのネール点を低下させることができる。格子定数の低下は、Crと同じBCC構造であれば、Crより原子半径の小さい元素を置換することにより可能と考えられる。図5、図6に示す元素のうち、Crより原子半径の小さい元素は、Fe、Co、Si、Niである。しかし、図5からSi,Ni元素はわずかの置換でネール点を低下させるため、組成制御が困難と推測される。図7に示すように、ネール点を低下させ、格子定数を小さくする元素として、FeおよびCoを選択し、ネール点を下げるが、格子定数を大きくする可能性のある元素としてMoを選択し、これらを添加したCr基薄膜合金のゲージ率を調査した。
図8はCr−Fe系薄膜合金の温度とゲージ率との関係をCr薄膜と比較して示す図であり、図9はCr−Co系薄膜合金の温度とゲージ率との関係をCr薄膜と比較して示す図であり、図10はCr−Mo系薄膜合金の温度とゲージ率との関係をCr薄膜と比較して示す図である。図8に示すように、Cr−Fe系薄膜合金の場合、低温側でCr薄膜よりも高いゲージ率を示し、ゲージ率の潜在能力がCr薄膜よりも高いことがわかる。また、図9、図10に示すように、Cr−Co系薄膜合金およびCr−Mo系薄膜合金については、ゲージ率の潜在能力がCr−Fe系薄膜合金よりも低いが、Cr薄膜よりも若干低い程度であり、また、Cr−Mo系薄膜合金は、MoがCrの格子定数を大きくする可能性のある元素であるにもかかわらず、ゲージ率の潜在能力がCr薄膜と同等であり、十分なゲージ率の潜在能力を有していることが確認された。
次に、Cr−Fe系薄膜合金のゲージ率およびTCRについて詳細に検討した。
図11は、種々の組成のCr−Fe系薄膜合金およびCr薄膜の、温度とゲージ率との関係を示す図である。なお、−50℃以下の点線は高温側からの外挿および期待値である。この図に示すように、CrにFeを加えることによりゲージ率のピークが低温側にシフトし、そのピークが高くなる傾向にあり、Feが7.8at.%において−200℃付近で最も高いゲージ率である42程度が得られることが予想される。ただし、Feが17at.%になると、ゲージ率は、温度にかかわらず、4程度と低い値を示すことが判明した。
また、図12はCr−Fe系薄膜合金のFe含有量とTCRとの関係を示す図、図13はCr−Fe系薄膜合金のFe含有量と0℃でのゲージ率Gfとの関係を示す図である。これらに示すように、Fe含有量が0近傍から12at.%程度の範囲でTCRが1000ppm/℃以下と比較的低い値を示し、熱的安定性が比較的高く、かつ0℃でのゲージ率が5〜30と高い値を示すことがわかる。
上述したように、Fe以外のネール点を低下させる元素のうち、Co、Moは、Crと安定した合金を形成し、高いゲージ率が得られる元素であり、Co、Moについても、熱的安定性およびゲージ率の挙動はFeと類似した挙動を有するものと考えられる。また、上述した図7に示すように、ネール点を低下させる元素であるWはMoと同様の原子半径を有しており、WについてもMoと同様、熱的安定性およびゲージ率の挙動はFeと類似した挙動を有するものと考えられる。したがって、Crに添加することにより高いゲージ率および比較的高い熱安定性が得られる元素Mとして、Mo、Fe、Co、Wを選択した。
また、本発明では、Crに対しMを含有させるとともに、先願である特願2016−234833号において、熱的安定性が高いことが確認されたCr−Al系薄膜、Cr−Al−B三元系薄膜合金に基づき、さらにAl、またはAlおよびBをも所定量含有させた、Cr−M−Al三元系薄膜合金、またはCr−M−Al−B四元系薄膜合金とする。これにより、熱的安定性が一層高く、ゲージ率が高い歪センサ用薄膜合金が得られる。
具体的には、一般式Cr100−x−yーzAl
(ただし、x、y、zは原子比率(at.%)であり、0.05≦x<12、0<y<25、0≦z<10であり、Mは、Mo、Fe、Co、Wから選択された少なくとも1種である)で表される薄膜合金である。
at.%で0.05≦x<12としたのは、上述した図12、13に基づくものである。また0≦y<25、0≦z<10としたのは、これらの範囲とすることにより、熱的安定性を高くすることができるからである。また、これらの範囲内で、TCRおよびTCSの双方、またはいずれか一方が−200〜+200ppm/℃であることが好ましい。これは、TCRおよびTCSは極力小さいことが好ましく、特にブリッジを組むことで調整することができない、TCSは±200ppm/℃程度が必要だからである。
また、Cr−M−Al系薄膜合金、またはCr−M−Al−B系薄膜合金において、歪センサを回路に組むときに高抵抗ほど小電流ですむため、比抵抗率は高いほうが好ましい。組成を選択することにより熱的安定性が高い範囲で、抵抗値が4000Ω以上と高い値となる範囲が存在し、4000Ωを比抵抗率に換算すると250μΩ・cmとなることから、比抵抗率は250μΩ・cm以上であることが好ましい。
さらに、Cr−M−Al系薄膜合金、またはCr−M−Al−B系薄膜合金において、抵抗の時間変化は20ppm/H以下であることが好ましい。
本発明の薄膜合金を成膜する手法は特に限定されないがスパッタリング、特に高周波スパッタリングが好ましい。歪センサの歪抵抗膜として用いる薄膜のパターンとしては、歪センサとして通常用いるパターンでよく、例えば格子状パターンを用いることができる。なお、本発明の薄膜合金は、成膜後、所定温度で熱処理する必要がある。
以下、本発明の実施例について説明する。
ここでは、基板上に、高周波スパッタリングにより所定パターンで、種々の組成のCr−Fe−Al三元系薄膜合金を作成し、0℃でのゲージ率Gf、0〜50℃でのTCS,0〜50℃でのTCR、0℃での抵抗値Rを測定した。
図14〜17は、Cr−Fe−Al系薄膜合金の三元系組成図であり、図14はゲージ率Gf(0℃)の組成依存性を示し、図15はTCS(0〜50℃)の組成依存性を示し、図16はTCR(0〜50℃)の組成依存性を示し、図17は抵抗値R(0℃)の組成依存性を示す。図14に示すように、Fe含有量が12at.%以下、Al含有量が2〜20at.%の範囲でGf(0℃)が7以上の高い値が得られた。また、図15、図16に示すように、Fe含有量が12at.%以下、Al含有量が2〜20at.%の範囲で、TCRおよびTCSの値が低く、TCRおよびTCSの双方、またはいずれか一方が−200〜+200ppm/℃の範囲内という非常に小さい値の範囲が存在していることが確認された。さらに、図17に示すように、Feが6at.%以下、Alが12at.%以上で抵抗値が4000μΩ以上となり、比抵抗率250μΩ・cm以上となる組成範囲が存在することが確認された。
種々の合金についてすでに報告されているゲージ率をTCRに対して図示すると図18のようになる。Fe基合金、Al系合金、Cr基合金と大別できる。一方、Cr−Fe合金は図12よりFe1.5〜5%の範囲でTCRはほぼ500ppm/℃で図18の点線で囲まれた領域にある。したがって、上記本発明の実施例で得られたCr−Fe−Al合金の特性を考慮すると、CrFe基合金のゲージ率とTCRの関係は太い点線のように推察できる。
この図に示すように、Cr、CrN等のCr基材料は、TCRを低下させようとするとゲージ率Gfも低下していき、最もTCRが小さいCr−Al(Cr−14.5at.%Al)は、TCRが100ppm/℃以下と小さい値であったが、ゲージ率Gfも6程度であった。
これに対し、CrFe基材料は、Cr基材料と同様、TCRの低下にともなってゲージ率Gfも低下する傾向にあるが、Cr基材料よりもゲージ率が高い傾向にあり、TCRが最も低いCr−Fe−Alにおいて、Cr−3at.%Fe−8at.%Alは、TCRが5ppm/℃以下と極めて低い値であるのに対し、ゲージ率Gfは、Cr−14.5at.%Alと同等の6程度であり、Cr−12at.%Fe−8at.%Alは、TCRが10ppm/℃で、ゲージ率Gfが11程度であり、低いTCRと高いゲージ率Gfとを両立できることがわかる。

Claims (4)

  1. 一般式Cr100−x−yーzAl
    (ただし、x、y、zは原子比率(at.%)であり、0.05≦x<12、0≦y<25、0≦z<10であり、Mは、Mo、Fe、Co、Wから選択された少なくとも1種である)で表されることを特徴とする、熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
  2. 抵抗の時間変化が、20ppm/H以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
  3. 抵抗温度係数(TCR)およびゲージ率の温度係数(TCS)の双方、またはこれらのいずれか一方が、−200〜+200ppm/℃の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
  4. 比抵抗率が250μΩ・cm以上であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱安定性に優れ、高歪ゲージ率を有する歪センサ用薄膜合金。
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