以下、この発明による交流回転機の制御装置、及びその制御装置を備えた電動パワーステアリング装置の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を示している。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図である。図1において、交流回転機1は、二系統の三相巻線組を有しており、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に印加される交流電圧によって駆動する。ここで、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2は巻線位相差なく配置されている。また、交流回転機1の回転二軸上の第1軸を交流回転機1の回転子磁束と同位相方向とし、回転二軸上の第2軸を回転二軸上の第1軸と直交する方向として、第1軸をd軸、第2軸をq軸とそれぞれ表す。尚、交流回転機1は三相巻線組により構成されているが、三相巻線とは異なる巻線数の巻線組により構成されるようにしてもよい。
回転位置検出器2は、交流回転機1の回転位置を取得し、第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。異常判定器3は、第1の制御手段11が出力する相電圧指令vu1*と第2の制御手段21が出力する相電圧指令vu2*との比較に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
第1の三相電流検出器12は、第1の巻線U1、V1、W1に給電される三相検出電流iu1、iv1、iw1を検出し、第1の制御手段11に出力する。第2の三相電流検出器22は、第2の巻線U2、V2、W2に給電される三相検出電流iu2、iv2、iw2を検出し、第2の制御手段21に出力する。
第1の制御手段11は、第1の電流制御器13と第1の座標変換器14より構成され、d−q軸上の電流指令id1*、iq1*、第1の三相電流検出器12から出力される三相検出電流iu1、iv1、iw1、回転位置検出器2から出力される交流回転機1の回転位置、および異常判定器3から出力される異常判定フラグに基づき、交流回転機1を駆動するための第1の巻線U1、V1、W1に印加する三相電圧指令vu1*、vv1*、vw1*を出力する。
第2の制御手段21は、第2の電流制御器23と第2の座標変換器24より構成され、d−q軸上の電流指令id2*、iq2*、第2の三相電流検出器22から出力される三相検出電流iu2、iv2、iw2、回転位置検出器2から出力される交流回転機1の回転位置、および異常判定器3から出力される異常判定フラグに基づき、交流回転機1を駆動するための第2の巻線U2、V2、W2に印加する三相電圧指令値vu2*、vv2*、vw2*を出力する。
第1の電力変換器15は、三相交流電圧指令vu1*、vv1*、vw1*に基づいた交流電圧を交流回転機1の第1の巻線U1、V1、W1に印加する。第2の電力変換器25は、三相交流電圧指令vu2*、vv2*、vw2*に基づいた交流電圧を交流回転機1の第2の巻線U2、V2、W2に印加する。
尚、実施の形態1では、第1の制御手段11に入力されるd−q軸上の電流指令id1*、iq1*と、第2の制御手段21に入力されるd−q軸上の電流指令id2*、iq2*はそれぞれ同一の値を持つこととし、第1の制御手段11および第2の制御手段21は、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2にそれぞれ同様の交流電圧を印加するように動作することとする。
ここで、第1の制御手段11および第2の制御手段21の内部構成について説明する。
第1の電流制御器13は、d−q軸上の電流指令id1*、iq1*、第1の座標変換器14が出力するd−q軸上の検出電流id1、iq1、および異常判定器3が出力する異常判定に基づき、異常判定フラグがセットされておらず通常状態を表している場合は、d−q軸上の検出電流id1、iq1がd−q軸上の電流指令id1*、iq1*にそれぞれ一致するようなd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を演算し、第1の座標変換器14に出力する。一方で、異常判定フラグがセットされていて交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を表している場合は、交流回転機1を停止させるように、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を第1の座標変換器14に出力する。
第1の座標変換器14は、三相検出電流iu1、iv1、iw1を回転位置に基づきd−q軸上の検出電流id1、iq1に座標変換して第1の電流制御器13に出力し、また、第1の電流制御器13が出力するd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を回転位置に基づき三相電圧指令vu1*、vv1*、vw1*に変換して第1の電力変換器15に出力
する。
第2の電流制御器23は、d−q軸上の電流指令id2*、iq2*、第2の座標変換器24が出力するd−q軸上の検出電流id2、iq2、および異常判定器3が出力する異常判定に基づき、異常判定フラグがセットされておらず通常状態を表している場合は、d−q軸上の検出電流id2、iq2がd−q軸上の電流指令id2*、iq2*にそれぞれ一致するようなd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*を演算し、第2の座標変換器24に出力する。一方で、異常判定フラグがセットされていて交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を表している場合は、交流回転機1を停止させるように、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*を第2の座標変換器24に出力する。
第2の座標変換器24は、三相検出電流iu2、iv2、iw2を回転位置に基づきd−q軸上の検出電流id2、iq2に座標変換して第2の電流制御器23に出力し、また、第2の電流制御器23が出力するd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*を回転位置に基づき三相電圧指令vu2*、vv2*、vw2*に変換して第2の電力変換器25に出力する。
このような構成によって、異常判定器3は第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量である相電圧指令vu1*と第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量である相電圧指令vu2*の比較に基づき、交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を判定し、異常判定器3が異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
尚、実施の形態1では、交流回転機1を停止するためにd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*および電圧指令vd2*、vq2*をそれぞれ0の値としているが、例えば第1の制御手段11および第2の制御手段21が第1の電力変換器15および第2の電力変換器25に停止指示を出力し、第1の電力変換器15および第2の電力変換器25が交流電圧の印加を停止するようにしてもよく、交流回転機1を停止するための手段は問わない。
次に、上記構成にて異常判定器3が交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、第1の制御手段11に入力されるd−q軸上の電流指令id1*、iq1*と第2の制御手段21に入力されるd−q軸上の電流指令id2*、iq2*はそれぞれ同一の値を持ち、第1の制御手段11および第2の制御手段21は、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2にそれぞれ同様の交流電圧を印加するように動作している。
従って、交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置に異常がない場合、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2には同様の交流電圧が印加され、第1の制御手段11に入力される三相検出電流iu1、iv1、iw1と第2の制御手段21に入力される三相検出電流iu2、iv2、iw2はそれぞれ同一の値となる。入力が同一である第1の制御手段11と第2の制御手段21は、同一の三相電圧指令vu1*、vv1*、vw1*、三相電圧指令vu2*、vv2*、vw2*の出力をそれぞれ継続する。このとき、第1の制御手段11におけるd−q軸上の検出電流id1、iq1およびd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*と、第2の制御手段21におけるd−q軸上の検出電流id2、iq2およびd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*もそれぞれ同一の値となることは言うまでもない。
即ち、交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量であるd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*、三相電圧指令vu1*、vv1*、vw1*、三相検出電流iu1、iv1、iw1、d−q軸上の検出電流id1、iq1と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量であるd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*、三相電圧指令vu2*、vv2*、vw2*、三相検出電流iu2、iv2、iw2、d−q軸上の検出電流id2、iq2はそれぞれ同一の値を持つ。
一方で、例えば第1の巻線U1、V1、W1のU1相に関する異常が発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1のU1相に関する状態量、つまり少なくとも相電圧指令vu1*、相検出電流iu1が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関する相電圧指令vu1*、相検出電流iu1は、第2の巻線U2、V2、W2に関する相電圧指令vu2*、相検出電流iu2とそれぞれ一致しないこととなる。
ここで、第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常が発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関する相電圧指令vu1*、相検出電流iu1は、第2の巻線U2、V2、W2に関する相電圧指令vu2*、相検出電流iu2とそれぞれ一致しないこととなることは言うまでもない。
以上より、異常判定器3は相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*を比較してその値が一致しない場合、第1の巻線U1、V1、W1のU1相、あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相の少なくとも一方に関する異常が発生していると判定することになる。実際に異常判定器3の実施する異常判定は図2のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。
図2において、初めのステップS1(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、第1の巻線U1、V1、W1に関する相電圧指令vu1*と第2の巻線U2、V2、W2に関する相電圧指令vu2*の差分の絶対値が所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1は、第1の巻線U1、V1、W1のU1相、あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相のU相電圧指令が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。実施の形態1では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。
相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の差分の絶対値が所定値より大きい場合(S1:YES)、即ち、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の差分の絶対値が所定値以下である場合(S1:NO)、即ち、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*が一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態1では、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の差分の絶対値に基づき相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の一致を判定しているが、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の差分の二乗と0に近い所定値の比較に基づいて相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の一致を判定してもよく、方法は問わない。
次に、S2では異常継続時間のカウンタをインクリメントし、S4へ移行する。S3では異常継続時間のカウンタを0にクリアし、S4へ移行する。
続いて、S4では異常継続時間が所定時間以上経過したか否かを判定する。この異常継続時間の所定時間は、交流回転機1および交流回転機1の制御装置に危険が起こらない範囲で任意に設定可能である。異常継続時間が所定時間以上経過した場合(S4:YES)、S5へ移行する。異常継続時間が所定時間に満たない場合(S4:NO)、第1の巻線U1、V1、W1のU1相および第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常はなく通常状態であると判定し、異常判定器3の処理は終了する。
S4において異常継続時間が所定時間以上経過した場合に移行するS5では、第1の巻線U1、V1、W1のU1相、あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相の少なくとも一方が異常であると判定され、異常判定フラグがセットされ、異常判定器3の処理は終了する。
このように、実施の形態1に示す異常判定器3によると、第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を通常状態との比較ではなく、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*の差分の絶対値と所定値の比較に基づいて判定するので、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2のどの相に関する異常があったかを同時にかつ容易に判定することができ、異常判定に伴う処理負荷を軽減できる。
また、通常状態では第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に同様の交流電圧が印加されるため、異常判定器3は異常判定を実施できない誤判定条件に制約されることなく異常を判定することが可能となる。従って、誤判定条件を判定するための処理負荷が削減され、かつ異常判定を実施できない誤判定条件に該当する場合に異常を判定するための異常判定を別途追加する必要がない。
尚、実施の形態1では、異常判定器3はU相電圧指令一種類のみに基づき、該当する相に関する異常判定を実施しているが、例えば相電圧指令差分の二乗和(vu1*−vu2*)^2+(vv1*−vv2*)^2+(vw1*−vw2*)^2のように複数の相電圧を同時に比較するように構成してもよく、複数種の相電圧指令に基づき異常判定を実施することによって、該当する複数種の相に関する異常を同時に判定することができる。この場合も該当する相に関する異常を同時にかつ容易に判定することができ、異常判定に伴う処理負荷を軽減できる。
さらに、異常判定を実施できない誤判定条件に制約されることなく異常を判定することが可能となり、従って、誤判定条件を判定するための処理負荷が削減され、かつ異常判定を実施できない誤判定条件に該当する場合に異常を判定するための異常判定を別途追加する必要がない。
また、実施の形態1では、異常判定器3は、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定したが、相電圧指令vv1*と相電圧指令vv2*、あるいは相電圧指令vw1*と相電圧指令vw2*に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1のV1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のV2相に関する異常、あるいは第1の巻線U1、V1、W1のW1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のW2相に関する異常を判定する場合も同様に構成することができ、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態1では、異常判定器3は第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2の相電圧指令に基づいて異常を判定したが、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2の相検出電圧に基づいて異常を判定することで、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態1では、異常判定器3は二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1に関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は、入力される複数の三相巻線組に関する複数の相電圧指令のうち2つ以上の相電圧指令を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにすることができ、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態1では、異常判定器3は第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に位相差なく配置されている交流回転機1に関する異常を判定するよう構成されているが、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に位相差がある場合であっても同様に構成することができる。この場合、第1の座標変換器14あるいは第2の座標変換器24のいずれか一方に対し、回転位置に巻線位相差を加算した値を回転位置として入力して巻線位相差を考慮した座標変換を実施し、また異常判定器3に対しても巻線位相差を入力して巻線位相差に基づいて相電圧指令vu1*と相電圧指令vu
2*が同位相となるよう補正することで、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態1では、第1の制御手段11に入力されるd−q軸上の電流指令id1*、iq1*と第2の制御手段21に入力されるd−q軸上の電流指令id2*、iq2*が一致する場合について、異常判定器3が異常判定を実施しているが、第1の制御手段11および第2の制御手段21に入力されるd−q軸上の電流指令をそれぞれm:n(m、nは自然数)としてもよい。
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。実施の形態1では、異常判定器3は、相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*との比較に基づいて第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定していた。
これに対し、実施の形態2では、相検出電流iu1と相検出電流iu2に基づいて第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定する異常判定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図3は、実施の形態2による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
図3において、異常判定器3aは、第1の三相電流検出器12が出力する相検出電流iu1と第2の三相電流検出器12が出力する相検出電流iu2との比較に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
このような構成によって、異常判定器3aは第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量である相検出電流iu1と第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量である相検出電流iu2の比較に基づき、交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を判定し、異常判定器3aが異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
以下に上記構成にて異常判定器3aが交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量である三相検出電流iu1、iv1、iw1と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量である三相検出電流iu2、iv2、iw2はそれぞれ同一の値を持つ。
また、例えば第1の巻線U1、V1、W1のU1相に関する異常が発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1のU1相に関する状態量、つまり少なくとも相検出電流iu1が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関する相検出電流iu1は第2の巻線U2、V2、W2に関する相検出電流iu2とそれぞれ一致しないこととなる。
ここで、第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常が発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関する相検出電流iu1は、第2の巻線U2、V2、W2に関する相検出電流iu2と一致しないことになることは言うまでもない。
以上より、異常判定器3aは、第1の三相電流検出器12が出力する相検出電流iu1と第2の三相電流検出器12が出力する相検出電流iu2を比較してその値が一致しない場合、第1の巻線U1、V1、W1のU1相、あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相の少なくとも一方が異常であると判定することになる。実際に異常判定器3aの実施する異常判定は図4のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。尚、実施の形態1におけるフローチャートと同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図4において、初めのステップS1aでは、第1の巻線U1、V1、W1に関する相検出電流iu1と第2の巻線U2、V2、W2に関する相検出電流iu2の差分の絶対値が所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1aは、第1の巻線U1、V1、W1のU1相、あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相のU相検出電流が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。実施の形態2では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。相検出電流iu1と相検出電流iu2の差分の絶対値が所定値より大きい場合(S1a:YES)、即ち、相検出電流iu1と相検出電流iu2が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。相検出電流iu1と相検出電流iu2の差分の絶対値が所定値以下である場合(S1a:NO)、即ち、相検出電流iu1と相検出電流iu2が一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態2では、相検出電流iu1と相検出電流iu2の差分の絶対値に基づき相検出電流iu1と相検出電流iu2の一致を判定しているが、相検出電流iu1と相検出電流iu2の差分の二乗と0に近い所定値の比較に基づいて相検出電流iu1と相検出電流iu2の一致を判定してもよく、方法は問わない。
このように、実施の形態2に示す異常判定器3aによると、第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を通常状態との比較ではなく、相検出電流iu1と相検出電流iu2の差分の絶対値と所定値の比較に基づいて判定するので、実施の形態1と同様に、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2のどの相に関する異常があったかを同時にかつ容易に判定することができ、異常判定に伴う処理負荷を軽減できる。
また、通常状態では第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に同様の交流電圧が印加されるため、異常判定器3aは異常判定を実施できない誤判定条件に制約されることなく異常を判定することが可能となる。従って、誤判定条件を判定するための処理負荷が削減され、かつ異常判定を実施できない誤判定条件に該当する場合に異常を判定するための異常判定を別途追加する必要がない。
尚、実施の形態2では異常判定器3aはU相電圧指令一種類のみに基づき、該当する相に関する異常判定を実施していたが、例えば相検出電流の和iu1+iv1+iw1とiu2+iv2+iw2を比較するように構成してもよく、複数種の相検出電流に基づき異常判定を実施することによって、該当する複数種の相に関する異常を同時に判定することができる。この場合も該当する相に関する異常を同時にかつ容易に判定することができ、異常判定に伴う処理負荷を軽減できる。
さらに、異常判定を実施できない誤判定条件に制約されることなく異常を判定することが可能となり、従って、誤判定条件を判定するための処理負荷が削減され、かつ異常判定を実施できない誤判定条件に該当する場合に異常を判定するための異常判定を別途追加する必要がない。
また、実施の形態2では、異常判定器3aは相検出電流iu1と相検出電流iu2に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定したが、相検出電流iv1と相検出電流iv2、あるいは相検出電流iw1と相検出電流iw2に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1のV1相または第2の巻線U2、V2、W2のV2相に関する異常、あるいは第1の巻線U1、V1、W1のW1相または第2の巻線U2、V2、W2のW2相に関する異常を判定する場合も同様に構成することができ、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態2では、異常判定器3aは二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1に関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は、入力される複数の三相巻線組に関する複数の相検出電流のうち2つ以上の相検出電流を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにすることができ、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態2では、異常判定器3aは第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に位相差なく配置されている交流回転機1に関する異常を判定するよう構成されているが、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に位相差がある場合であっても同様に構成することができる。この場合、第1の座標変換器14あるいは第2の座標変換器14のいずれか一方に対し回転位置に巻線位相差を加算した値を回転位置として入力して巻線位相差を考慮した座標変換を実施し、また異常判定器3aに
対しても巻線位相差を入力して巻線位相差に基づいて相検出電流iu1と相検出電流iu2が同位相となるよう補正することで、同様の効果を得ることができる。
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3について説明する。実施の形態1では、異常判定器3は相電圧指令vu1*と相電圧指令vu2*との比較に基づいて第1の巻線U1、V1、W1のU1相あるいは第2の巻線U2、V2、W2のU2相に関する異常を判定していた。
これに対し、実施の形態3では、d軸上の電圧指令vd1*、vd2*に基づいて交流回転機1bのd軸に関する異常を判定する異常判定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図5は、実施の形態3による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
図5において、交流回転機1bは、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2が巻線位相差を持って配置されているという点で交流回転機1と異なる。尚、交流回転機1bは三相巻線組により構成されているが、三相巻線とは異なる巻線数の巻線組により構成されるようにしてもよい。
異常判定器3bは、第1の電流制御器13が出力するd軸電圧指令vd1*と第2の電流制御器23が出力するd軸電圧指令vd2*との比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
加算器4は、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2の巻線位相差と回転位置検出器2が出力する回転位置を加算し、第2の制御手段21の座標変換器24に出力する。即ち、座標変換器24では第1の巻線U1、V1、W1との巻線位相差を考慮した座標変換が行われ、巻線位相差を反映した相電圧指令vu2*、vv2、vw2を出力する。
このような構成によって、異常判定器3bは、第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量であるd軸電圧指令vd1*と第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量であるd軸電圧指令vd2*の比較に基づき、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定し、異常判定器3bが異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
以下に上記構成にて異常判定器3bが交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量であるd軸電圧指令vd1*と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量であるd軸電圧指令vd2*は同一の値を持つ。
また、例えば交流回転機1bのd軸に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側で発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1側のd軸に関する状態量、つまり少なくともd軸電圧指令vd1*が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*は第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*と一致しないこととなる。ここで、交流回転機1bのd軸に関する異常が第2の巻線U2、V2、W2側で異常が発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*は第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令v
d2*と一致しないこととなることは言うまでもない。
以上より、異常判定器3bは、第1の電流制御器13が出力するd軸電圧指令vd1*と第2の電流制御器23が出力するd軸電圧指令vd2*を比較してその値が一致しない場合、交流回転機1bのd軸に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側あるいは第2の巻線U2、V2、W2側の少なくとも一方で発生していると判定する。異常判定器3bの実施する異常判定は図6のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。尚、実施の形態1におけるフローチャートと同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図6において、初めのステップS1bでは、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*と第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値が所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1bは、第1の巻線U1、V1、W1のd軸と第2の巻線U2、V2、W2のd軸電圧指令が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。実施の形態3では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。
d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値が所定値より大きい場合(S1b:YES)、即ち、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値が所定値以下である場合(S1b:NO)、即ち、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*が一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態3では、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値に基づきd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の一致を判定しているが、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の二乗と0に近い所定値の比較に基づいてd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の一致を判定してもよく、方法は問わない。
このように、実施の形態3に示す異常判定器3bによると、交流回転機1bのd軸に関する異常を通常状態との比較ではなく、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と所定値の比較に基づいて判定するので、第1の巻線U1、V1、W1側あるいは前記第2の巻線U2、V2、W2側で発生した交流回転機1bのd軸に関する異常を同時にかつ容易に判定することができ、異常判定に伴う処理負荷を軽減できる。
また、通常状態では第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に同様のd−q軸電圧が印加されるため、異常判定器3bは異常判定を実施できない誤判定条件に制約されることなく異常を判定することが可能となる。従って、誤判定条件を判定するための処理負荷が削減され、かつ異常判定を実施できない誤判定条件に該当する場合に異常を判定するための異常判定を別途追加する必要がない。
さらに、異常判定器3bによると第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2の巻線位相差に依存しないd軸電圧に基づいて異常を判定するので、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2が巻線位相差を持って配置された場合であっても容易に異常を判定することが可能となり、より処理負荷を軽減することができる。
また、異常判定器3bでは交流回転機1bの回転速度に依存せず高速回転時であっても高い値を保持することができる回転二軸上の電圧に基づいて異常を判定しているため、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分に基づいて全ての回転速度域において安定して異常を判定することが可能となる。
尚、実施の形態3では、異常判定器3bはd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定したが、q軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*に基づいて、交流回転機1bのq軸に関する異常を判定する場合も同様に構成することができ、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態3では、異常判定器3bは二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1bに関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は、入力される複数の三相巻線組に関する複数のd軸電圧指令のうち2つ以上のd軸電圧指令を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにでき、同様の効果を得ることができる。
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4について説明する。実施の形態3では、異常判定器3bは、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*との比較に基づいて交流回転機1bのd軸に関する異常を判定していた。しかし、例えば第1の巻線U1、V1、W1のU1相に断線異常が発生し、かつ第1の巻線U1、V1、W1のU1相方向と交流回転機1bのd軸がU1相と直交した状態の場合は、d軸電圧指令vd1*に異常が現れることがなく、異常判定器3bにより異常を検出することができない。
そこで、実施の形態4では、d軸上の電圧指令vd1*、vd2*に加え、q軸上の電圧指令vq1*、vq2*に基づいて、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する異常判定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図7は、実施の形態4による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態3と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
異常判定器3cは、第1の電流制御器13が出力するd軸電圧指令vd1*、q軸電圧指令vq1*と第2の電流制御器23が出力するd軸電圧指令vd2*、q軸電圧指令vq2*とのそれぞれの比較に基づいて、交流回転機1bのd軸およびq軸に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
このような構成によって、異常判定器3cは、第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量であるd軸電圧指令vd1*、q軸電圧指令vq1*と第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量であるd軸電圧指令vd1*、q軸電圧指令vq1*のそれぞれの比較に基づき、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定し、異常判定器3cが異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
以下に上記構成にて異常判定器3cが交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量であるd軸電圧指令vd1*、q軸電圧指令vq1*と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量であるd軸電圧指令vd2*、q軸電圧指令vq2*はそれぞれ同一の値を持つ。
また、例えば交流回転機1bのd軸またはq軸の少なくとも一方に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側で発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1側のd軸またはq軸の少なくとも一方に関する状態量、つまり少なくともd軸電圧指令vd1*、q軸電圧指令vq1*の一方が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*またはq軸電圧指令vq1*は、第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*またはq軸電圧指令vq1*と一致しないことになる。
ここで、交流回転機1bのd軸またはq軸の少なくとも一方に関する異常が第2の巻線U2、V2、W2側で発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*またはq軸電圧指令vq1*は、第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*またはq軸電圧指令vq1*と一致しないこととなることは言うまでもない。
以上より、異常判定器3cは、第1の電流制御器13が出力するd軸電圧指令vd1*、q軸電圧指令vq1*と第2の電流制御器23が出力するd軸電圧指令vd2*、q軸電圧指令vq2*を比較して少なくとも一方の値が一致しない場合、交流回転機1bのd軸またはq軸の少なくとも一方に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側あるいは第2の巻線U2、V2、W2側の少なくとも一方で発生していると判定することになる。実際に異常判定器3cの実施する異常判定は図8のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。尚、実施の形態3におけるフローチャートと同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図8において、初めのステップS1cでは、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*と第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、第1の巻線U1、V1、W1に関するq軸電圧指令vq1*と第2の巻線U2、V2、W2に関するq軸電圧指令vq2*の差分の絶対値の和が、所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1cは、第1の巻線U1、V1、W1のd軸電圧指令と第2の巻線U2、V2、W2のd軸電圧指令、および第1の巻線U1、V1、W1のq軸電圧指令と第2の巻線U2、V2、W2のq軸電圧指令が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。
実施の形態4では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、q軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*の差分の絶対値の和が所定値より大きい場合(S1c:YES)、即ち、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、あるいはq軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*の少なくとも一方が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、q軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*の差分の絶対値の和が所定値以下である場合(S1c:NO)、即ち、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、およびq軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*が共に一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態4では、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、およびq軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*のそれぞれの差分の絶対値に基づきd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、およびq軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*の一致を判定しているが、それぞれd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の二乗と0に近い所定値の比較に基づいてd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の一致を判定し、q軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*の差分の二乗と0に近い所定値の比較に基づいてq軸電圧指令vq1*とq軸電圧指令vq2*の一致を判定してもよく、方法は問わない。
このように、実施の形態4に示す異常判定器3cによると、d軸上の電圧指令vd1*、vd2*、およびq軸上の電圧指令vq1*、vq2*に基づいて交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定するので、d軸上の電圧指令vd1*、vd2*あるいはq軸上の電圧指令vq1*、vq2*のいずれか一方のみで異常判定を行った場合には検知することができない異常を判定することが可能となる。
また、実施の形態4では、異常判定器3cは二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1bに関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は、入力される複数の三相巻線組に関する複数のd軸電圧指令およびq軸電圧指令のうち2つ以上のd軸電圧指令およびq軸電圧指令を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにすることができ、同様の効果を得ることができる。
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5について説明する。実施の形態3では、異常判定器3bは、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*との比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定していた。
これに対し、実施の形態5では、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2に基づいて交流回転機1bのd軸に関する異常を判定する異常判定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図9は、実施の形態5による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態3と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
異常判定器3dは、第1の座標変換器14が出力するd軸検出電流id1と第2の座標変換器24が出力するd軸検出電流id2との比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
このような構成によって、異常判定器3dは、第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量であるd軸検出電流id1と第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量であるd軸検出電流id2の比較に基づき、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定し、異常判定器3dが異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
以下に上記構成にて異常判定器3dが交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量であるd軸検出電流id1と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量であるd軸検出電流id2は同一の値を持つ。
また、例えば交流回転機1bのd軸に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側で発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1側のd軸に関する状態量、つまり少なくともd軸検出電流id1が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1は第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2と一致しないことになる。
ここで、交流回転機1bのd軸に関する異常が第2の巻線U2、V2、W2側で異常が発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1は第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2と一致しないことになることは言う
までもない。
以上より、異常判定器3dは、第1の座標変換器14が出力するd軸検出電流id1と第2の座標変換器24が出力するd軸検出電流id2をそれぞれ比較してその値が一致しない場合、交流回転機1bのd軸に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側あるいは第2の巻線U2、V2、W2側の少なくとも一方で発生していると判定することになる。実際に異常判定器3cの実施する異常判定は図10のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。尚、実施の形態1におけるフローチャートと同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図10において、初めのステップS1dでは、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1と第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2の差分の絶対値が所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1dは第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2のd軸検出電流が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。実施の形態5では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値が所定値より大きい場合(S1d:YES)、即ち、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値が所定値以下である場合(S1d:NO)、即ち、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2が一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態5では、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値に基づきd軸検出電流id1とd軸検出電流id2の一致を判定しているが、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の二乗と0に近い所定値の比較に基づいてd軸検出電流id1とd軸検出電流id2の一致を判定してもよく、方法は問わない。
このように、実施の形態5に示す異常判定器3dによると、交流回転機1bのd軸に関する異常を通常状態との比較ではなく、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値と所定値の比較に基づいて判定するので、第1の巻線U1、V1、W1側あるいは第2の巻線U2、V2、W2側で発生した交流回転機1bのd軸に関する異常を同時にかつ容易に判定することができ、異常判定に伴う処理負荷を軽減できる。
また、通常状態では第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2に同様のd−q軸電圧が印加されるため、異常判定器3dは異常判定を実施できない誤判定条件に制約されることなく異常を判定することが可能となる。従って、誤判定条件を判定するための処理負荷が削減され、かつ異常判定を実施できない誤判定条件に該当する場合に異常を判定するための異常判定を別途追加する必要がない。
さらに、異常判定器3dによると、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2の巻線位相差に依存しないd軸電流に基づいて異常を判定するので、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2が巻線位相差を持って配置された場合であっても容易に異常を判定することが可能となり、より処理負荷を軽減することができる。
また、異常判定器3dでは、交流回転機1bのトルクに依存せず高トルク時であっても高い値を保持することができる回転二軸上の電流に基づいて異常を判定しているため、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分に基づいて全てのトルク域において安定して異常を判定することが可能となる。
尚、実施の形態5では異常判定器3dは、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2に基づいて交流回転機1bのd軸に関する異常を判定したが、q軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2に基づいて交流回転機1bのq軸に関する異常を判定する場合も同様に構成することができ、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態5では、異常判定器3dは二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1bに関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は、入力される複数の三相巻線組に関する複数のd軸検出電流のうち2つ以上のd軸検出電流を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにすることができ、同様の効果を得ることができる。
実施の形態6.
次に、この発明の実施の形態6について説明する。実施の形態5では、異常判定器3dは、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2との比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定していた。しかし、例えば第1の巻線U1、V1、W1のU1相に断線異常が発生し、かつ第1の巻線U1、V1、W1のU1相方向と交流回転機1bのd軸がU1相と直交した状態の場合は、d軸電圧指令vd1*に異常が現れることなく、異常判定器3dにより異常を検出することができない。
そこで、実施の形態6では、d軸上の検出電流id1、id2に加え、q軸上の検出電流id1、id2に基づいて、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する異常判定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図11は、実施の形態6による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態5と同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
異常判定器3eは、第1の座標変換器14が出力するd軸検出電流id1、q軸検出電流iq1と第2の座標変換器24が出力するd軸検出電流id2、q軸検出電流iq2とのそれぞれの比較に基づいて、交流回転機1bのd軸およびq軸に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
このような構成によって、異常判定器3eは、第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量であるd軸検出電流id1、q軸検出電流iq1と、第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量であるd軸検出電流id2、q軸検出電流iq2のそれぞれの比較に基づき、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定し、異常判定器3eが異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
以下に上記構成にて異常判定器3eが、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量であるd軸検出電流id1、q軸検出電流iq1と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量であるd軸検出電流id2、q軸検出電流iq2はそれぞれ同一の値を持つ。
また、例えば交流回転機1bのd軸またはq軸の少なくとも一方に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側で発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1側のd軸またはq軸の少なくとも一方に関する状態量、つまり少なくともd軸検出電流id1、q軸検出電流iq1の一方が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1またはq軸検出電流iq1は、第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2またはq軸検出電流iq2と一致しないことになる。
ここで、交流回転機1bのd軸またはq軸の少なくとも一方に関する異常が、第2の巻線U2、V2、W2側で発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1またはq軸検出電流iq1は、第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2またはq軸検出電流iq2と一致しないことになることは言うまでもない。
以上より、異常判定器3eは、第1の電流制御器13が出力するd軸検出電流id1、q軸検出電流iq1と、第2の電流制御器23が出力するd軸検出電流id2、q軸検出電流iq2をそれぞれ比較して少なくとも一方の値が一致しない場合、交流回転機1bのd軸またはq軸の少なくとも一方に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側あるいは第2の巻線U2、V2、W2側の少なくとも一方で発生していると判定することになる。実際に異常判定器3eの実施する異常判定は図12のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。尚、実施の形態5におけるフローチャートと同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図12において、初めのステップS1eでは、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1と第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2の差分の絶対値と、第1の巻線U1、V1、W1に関するq軸検出電流iq1と第2の巻線U2、V2、W2に関するq軸検出電流iq2の差分の絶対値の和が所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1eは、第1の巻線U1、V1、W1のd軸検出電流と第2の巻線U2、V2、W2のd軸検出電流、および第1の巻線U1、V1、W1のq軸検出電流と第2の巻線U2、V2、W2のq軸検出電流が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。
実施の形態6では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値と、q軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2の差分の絶対値の和が所定値より大きい場合(S1e:YES)、即ち、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2、あるいはq軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2の少なくとも一方が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値とq軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2の差分の絶対値の和が所定値以下である場合(S1e:NO)、即ち、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2、およびq軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2が共に一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態6では、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2、およびq軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2のそれぞれの差分の絶対値に基づきd軸検出電流id1とd軸検出電流id2、およびq軸検出電流iq1とq軸検出電流iq2の一致を判定しているが、この方法は問わない。
このように、実施の形態6に示す異常判定器3eによると、d軸上の検出電流id1、id2、およびq軸上の検出電流iq1、iq2に基づいて交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定するので、d軸上の検出電流id1、id2、あるいはq軸上の検出電流iq1、iq2のいずれか一方のみで異常判定を行った場合には検知することができない異常を判定することが可能となる。
また、実施の形態6では、異常判定器3eは二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1bに関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は入力される複数の三相巻線組に関する複数のd軸検出電流およびq軸検出電流のうち2つ以上のd軸検出電流およびq軸検出電流を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにすることができ、同様の効果を得ることができる。
実施の形態7.
次に、この発明の実施の形態7について説明する。実施の形態3では、異常判定器3bは、d軸上の電圧指令vd1*、vd2*との比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定していた。また、実施の形態5では、異常判定器3dは、d軸上の検出電流id1、id2との比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定していた。これに対し、実施の形態7では、d軸上の電圧指令vd1*、vd2*に加え、検出電流id1、id2に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定する異常判定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図13は、実施の形態7による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態3と同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図13において、異常判定器3fは、第1の電流制御器13が出力するd軸電圧指令vd1*と第2の電流制御器23が出力するd軸電圧指令vd2*、および第1の座標変換器14が出力するd軸検出電流id1と第2の座標変換器24が出力するd軸検出電流id2とのそれぞれの比較に基づいて、交流回転機1bのd軸に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして、異常判定フラグを第1の制御手段11、第2の制御手段21に出力する。
このような構成によって、異常判定器3fは、第1の巻線U1、V1、W1に関する状態量であるd軸電圧指令vd1*とd軸検出電流id1、第2の巻線U2、V2、W2に関する状態量であるd軸電圧指令vd2*とd軸検出電流id2のそれぞれの比較に基づき、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定し、異常判定器3fが異常と判定した場合は、第1の制御手段11および第2の制御手段21はそれぞれ第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2に対する電力供給を停止するように制御する。
以下に上記構成にて異常判定器3fが交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置の異常を判定する手法を説明する。
前述の通り、交流回転機1b若しくは交流回転機1bの制御装置に異常がない場合、第1の制御手段11における第1の巻線U1、V1、W1を制御するための閉ループの状態量であるd軸電圧指令vd1*とd軸検出電流id1と、第2の制御手段21における第2の巻線U2、V2、W2を制御するための閉ループの状態量であるd軸電圧指令vd2*とd軸検出電流id2はそれぞれ同一の値を持つ。
また、例えば交流回転機1bのd軸に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側で発生した場合、第1の巻線U1、V1、W1側のd軸に関する状態量、つまり少なくともd軸電圧指令vd1*とd軸検出電流id1が通常状態と異なる異常な値となる。その結果、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*とd軸検出電流id1は、第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*とd軸検出電流id2とそれぞれ一致しないことになる。
ここで、交流回転機1bのd軸に関する異常が第2の巻線U2、V2、W2側で発生した場合も同様に、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*とd軸検出電流id1は、第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*とd軸検出電流id2とそれぞれ一致しないことになることは言うまでもない。
以上より、異常判定器3fは、第1の電流制御器13が出力するd軸電圧指令vd1*と第2の電流制御器23が出力するd軸電圧指令vd2*、および第1の座標変換器14が出力するd軸検出電流id1と第2の座標変換器24が出力するd軸検出電流id2のそれぞれを比較して少なくとも一方の値が一致しない場合、交流回転機1bのd軸に関する異常が第1の巻線U1、V1、W1側あるいは第2の巻線U2、V2、W2側の少なくとも一方で発生していると判定することになる。実際に異常判定器3fの実施する異常判定は図14のフローチャートに基づく。このフローチャートは、異常を検出する必要がある間隔よりも短い所定の間隔で行われるものである。尚、実施の形態3におけるフローチャートと同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図14において、初めのステップS1fでは、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸電圧指令vd1*と第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、第1の巻線U1、V1、W1に関するd軸検出電流id1と第2の巻線U2、V2、W2に関するd軸検出電流id2の差分の絶対値の和が所定値より大きい値であるか否かを判定する。所定値を0とした場合、S1fは、第1の巻線U1、V1、W1と第2の巻線U2、V2、W2のd軸電圧指令およびd軸検出電流が完全に一致するかどうかを判定するものとなる。実施の形態7では、第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して、所定値を0に近い正の値に設定する。
d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値の和が所定値より大きい場合(S1f:YES)、即ち、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、あるいはd軸検出電流id1とd軸検出電流id2の少なくとも一方が一致しないと判定される場合、S2へ移行する。d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値の和が所定値以下である場合(S1f:NO)、即ち、d軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、およびd軸検出電流id1とd軸検出電流id2が共に一致すると判定される場合、S3へ移行する。尚、実施の形態7ではd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*の差分の絶対値と、d軸検出電流id1とd軸検出電流id2の差分の絶対値の和に基づきd軸電圧指令vd1*とd軸電圧指令vd2*、およびd軸検出電流id1とd軸検出電流id2の一致を判定しているが、この方法は問わない。
このように、実施の形態7に示す異常判定器3fによると、交流回転機1bの回転速度に依存せず高速回転時であっても高い値を保持することができる回転二軸上の電圧、および交流回転機1bのトルクに依存せず高トルク時であっても高い値を保持することができる回転二軸上の電流に基づいて異常を判定しているため、全ての回転速度域、全てのトルク域において安定して異常を判定することが可能となる。
また、実施の形態7では、異常判定器3fは二系統の三相巻線組から構成される交流回転機1bに関する異常を判定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から構成される交流回転機の異常を判定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器は入力される複数の三相巻線組に関する複数のd軸電圧指令およびd軸検出電流のうち2つ以上のd軸電圧指令およびd軸検出電流を比較することによって該当する巻線組に関する異常を判定するようにでき、同様の効果を得ることができる。
実施の形態8.
次に、この発明の実施の形態8について説明する。実施の形態1では、異常判定器3が異常を判定し、異常判定フラグをセットした場合、第1の電流制御器13および第2の電流制御器23は共にそれぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令を第1の座標変換器14および第2の座標変換器24に出力し、交流回転機1を完全に停止させていた。しかし、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2のどちらが異常であるかを特定できた場合、異常のない巻線組により交流回転機1の駆動を継続することができ、異常発生による交流回転機1の出力への影響を軽減することが可能となる。
そこで、実施の形態8では異常判定器が異常判定フラグをセットしている場合、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2のどちらが異常であるかを特定する異常特定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図15は、実施の形態8による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態1と同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
図15において、異常判定器3gは、第1の三相電流検出器12が出力する相検出電流iu1、iv1、iw1および第2の三相電流検出器22が出力する相検出電流iu2、iv2、iw2に基づいて、第1の巻線U1、V1、W1あるいは第2の巻線U2、V2、W2に関する異常を判定し、異常であると判定した場合は異常判定フラグをセットして異常判定フラグを異常特定器5gに出力する。実施の形態2における異常判定器3aは、U相検出電流のみに基づき、U相に関する異常判定のみを実施していたが、実施の形態8における異常判定器3gは全ての相に関する相電圧指令の和に基づき、全ての相に関する異常を同時に判定している。
異常特定器5gは、異常判定器3gが出力する異常判定フラグと出力電圧監視回路16gが出力する第1の監視電圧、および出力電圧監視回路26gが出力する第2の監視電圧に基づいて、異常判定器3gが判定した異常が第1の巻線U1、V1、W1あるいは第2の巻線U2、V2、W2のどちらで発生したものかを特定し、異常特定状態と異常組をそれぞれ第1の電流制御器13gおよび第2の電流制御器23gに出力する。異常特定状態は、異常特定器5gの動作状態を「第1組特定中」、「第2組特定中」、「停止中」のいずれかで示すものであり、第1の巻線U1、V1、W1の状態量に基づき第1の巻線U1、V1、W1の異常の有無を確認している間は「第1組特定中」を、同様に第2の巻線U2、V2、W2の状態量に基づき第2の巻線U2、V2、W2の異常の有無を確認している間は「第2組特定中」を、前記いずれにも該当しない場合は「停止中」となる。異常組は異常特定器5gが特定した異常な巻線組を示すものである。
第1の制御手段11gは、第1の電流制御器13gと第1の座標変換器14より構成され、d−q軸上の電流指令id1*、iq1*、第1の三相電流検出器12から出力される三相検出電流iu1、iv1、iw1、回転位置検出器2から出力される交流回転機1の回転位置、異常判定器3gから出力される前記異常判定フラグ、および異常特定器5gから出力される異常特定状態、異常組に基づき、交流回転機1を駆動するための第1の巻線U1、V1、W1に印加する三相電圧指令vu1*、vv1*、vw1*を出力する。
第1の電流制御器13gは、入力される異常特定状態、異常組に応じてその動作を切り替える。異常特定状態が「停止中」であり通常状態を表している場合、電流制御器13gは、第1の座標変換器14が出力するd−q軸上の検出電流id1、iq1がd−q軸上の電流指令id1*、iq1*にそれぞれ一致するようなd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を演算し、第1の座標変換器14に出力する。
異常特定状態が「第1組特定中」である場合、電流制御器13gは、異常特定器5gが第1の巻線U1、V1、W1における異常を特定しやすいように第1の巻線U1、V1、W1への交流電圧印加を停止する。異常特定状態が「第2組特定中」である場合、電流制御器13gは異常特定によって交流電圧印加を停止している第2の巻線U2、V2、W2を補うように動作する。
異常組が第1の巻線U1、V1、W1の異常を示している場合は第2の巻線U2、V2、W2の異常の有無に関わらず、第1の巻線U1、V1、W1への交流電圧印加を停止させるように動作する。異常組が第1の巻線U1、V1、W1の異常を示しておらず第2の巻線U2、V2、W2の異常の場合、電流制御器13gは異常によって交流電圧印加を停止している第2の巻線U2、V2、W2を補うように動作する。
第2の制御手段21gは、第2の電流制御器23gと第2の座標変換器24より構成され、d−q軸上の電流指令id2*、iq2*、第2の三相電流検出器22から出力される三相検出電流iu2、iv2、iw2、回転位置検出器2から出力される交流回転機1の回転位置、異常判定器3gから出力される前記異常判定フラグ、および異常特定器5gから出力される異常特定状態、異常組に基づき、交流回転機1を駆動するための第2の巻線U2、V2、W2に印加する三相電圧指令vu2*、vv2*、vw2*を出力する。
第2の電流制御器23gは、入力される異常特定状態、異常組に応じてその動作を切り替える。異常特定状態が「停止中」であり通常状態を表している場合、電流制御器23gは、第2の座標変換器24が出力するd−q軸上の検出電流id2、iq2がd−q軸上の電流指令id2*、iq2*にそれぞれ一致するようなd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*を演算し、第2の座標変換器24に出力する。
異常特定状態が「第2組特定中」である場合、電流制御器23gは異常特定器5gが第2の巻線U2、V2、W2における異常を特定しやすいように第2の巻線U2、V2、W2への交流電圧印加を停止する。異常特定状態が「第1組特定中」である場合、電流制御器23gは異常特定によって交流電圧印加を停止している第1の巻線U1、V1、W1を補うように動作する。
異常組が第2の巻線U2、V2、W2の異常を示している場合は第1の巻線U1、V1、W1の異常の有無に関わらず、第2の巻線U2、V2、W2への交流電圧印加を停止させるように動作する。異常組が第2の巻線U2、V2、W2の異常を示しておらず第1の巻線U1、V1、W1の異常の場合、電流制御器23gは異常によって交流電圧印加を停止している第1の巻線U1、V1、W1を補うように動作する。
第1の出力電圧監視回路16gは、第1の巻線U1、V1、W1に印加される相検出vu1、vv1、vw1の加算値に基づく第1の監視電圧を異常特定器5gに出力する。第2の出力電圧監視回路26gは、第2の巻線U2、V2、W2に印加される相電圧vu2、vv2、vw2の加算値に基づく第2の監視電圧を異常特定器5gに出力する。ここで、第1の出力電圧監視回路16gおよび第2の出力電圧監視回路26gは、例えば特許文献1の実施の形態1に示す出力電圧監視回路と同様に構成してもよく、この場合出力される監視電圧は相電圧の加算値に対し低域通過特性を有するフィルタを介したものとなる。
このような構成によって、異常判定器3gが交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を判定し、異常特定器5gが、異常判定器3gが異常であると判定した場合に異常な巻線組を特定して、第1の電流制御器13gおよび第2の電流制御器23gが異常な巻線組に対してのみ電力供給を停止するように動作する。
ここで、上記構成にて実施の形態8による交流回転機の制御装置が巻線組の異常を特定して、巻線組に対する交流電圧の印加を停止する手法を説明する。
まず、交流回転機1あるいは交流回転機1の制御装置において異常が発生した場合、異常判定器3gは以下に示す手法により異常を判定する。
異常判定器3gは、第2の三相電流検出器12が出力する相検出電流iu1、iv1、iw1および第2の三相電流検出器22が出力する相検出電流iu2、iv2、iw2により、第1の巻線U1、V1、W1の相検出電流の和iu1+iv1+iw1および第2の巻線U2、V2、W2の相検出電流の和iu2+iv2+iw2を演算し、第1の巻線U1、V1、W1の相検出電流の和と第2の巻線U2、V2、W2の相検出電流の和の差分の絶対値が所定値以下である場合、相検出電流iu1、iv1、iw1と相検出電流iu2、iv2、iw2はそれぞれ一致しているものと見なし、第1の巻線U1、V1、W1および第2の巻線U2、V2、W2には異常はないと判定する。
一方で、第1の巻線U1、V1、W1の相電圧指令の和と第2の巻線U2、V2、W2の相電圧指令の和の差分の絶対値が所定値より大きい場合、相検出電流iu1、iv1、iw1と相検出電流iu2、iv2、iw2の少なくともいずかにおいて不一致があると見なし、第1の巻線U1、V1、W1あるいは第2の巻線U2、V2、W2の少なくとも一方において、少なくともいずれかの相に関する異常があると判定して異常判定フラグをセットする。ここで、所定値は第1の電流検出器12、第2の電流検出器22の測定誤差等を考慮して0に近い正の値に設定したものである。
続いて、異常判定器3gが異常判定フラグをセットした後、異常特定器5gにおいて異常がある巻線組の特定が行われる。
異常特定器5gが、第1の巻線U1、V1、W1あるいは第2の巻線U2、V2、W2の異常判定を行っていない場合、処理を行わずに異常特定状態を「停止中」として出力する。異常特定状態が「停止中」を示している場合、第1の電流制御器13gおよび第2の電流制御器23gは異常がない通常状態としてd−q軸上の検出電流id1、iq1、およびd−q軸上の検出電流id2、iq2がd−q軸上の電流指令id1*、iq1*、およびd−q軸上の電流指令id2*、iq2*にそれぞれ一致するように動作する。
一方で、異常判定器3gが異常判定フラグをセットしている場合、異常特定器5gは、それぞれの巻線組毎に異常判定を実施し、異常と判定された巻線組を異常組として特定する。ここで、第1の巻線U1、V1、W1に関する異常判定を実施している間は、異常特定器5gは異常特定状態を「第1組特定中」として出力する。同様に、第2の巻線U2、V2、W2に関する異常判定を実施している間は、異常特定器5gは異常特定状態を「第2組特定中」として出力する。また、双方の異常判定が完了した後、異常特定器5gは、異常特定状態を再び「停止中」として出力する。
第1の電流制御器13gおよび第2の電流制御器23gは異常特定状態に基づき、異常特定状態が「第1組特定中」である場合は、異常特定器5gが第1の巻線U1、V1、W1に関する異常を判定しやすいように、また異常特定状態が「第2組特定中」である場合は、異常特定器5gが第2の巻線U2、V2、W2に関する異常を判定しやすいように動作する。
異常特定器5gは、特許文献1に記載されるように第1の監視電圧および第2の監視電圧に基づき、相電圧の加算値(即ち、交流回転機1の中性点の電圧)が0かどうかを判定することによって、各々の巻線組における異常判定を実施する。ただし、同じく特許文献1に記載されるように、上記異常判定は交流回転機の回転速度が小さくなるような相電圧を印加している場合のみ実施可能であり、回転速度が大きくなるような相電圧を印加している場合に異常と誤って判定してしまう誤判定条件が存在する。
そこで、実施の形態8では、異常特定器5gが第1の巻線U1、V1、W1に関する異常判定を実施している場合、即ち異常特定状態が「第1組特定中」を示している場合、第1の電流制御器13gは誤判定条件を回避するため、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を第1の座標変換器14に出力し、第1の巻線U1、V1、W1に印加する相電圧を、交流回転機1を停止するようなものとする。一方で、第2の電流制御器23gは、第2の巻線U2、V2、W2が第1の電流制御器13gに入力されるd−q軸上の電流指令id1*、iq1*をも出力するように、d−q軸上の検出電流id2、iq2がそれぞれ2倍のd−q軸上の電流指令2×id1*、2×iq1*にそれぞれ一致するように動作する。
同様に、異常特定状態が「第2組特定中」を示している場合、第2の電流制御器23gは誤判定条件を回避するため、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*を第2の座標変換器24に出力し、第2の巻線U2、V2、W2に印加する相電圧を、交流回転機1を停止するようなものとする。一方で、第1の電流制御器13gは、第1の巻線U1、V1、W1が第2の電流制御器23gに入力されるd−q軸上の電流指令id2*、iq2*をも出力するように、d−q軸上の検出電流id1、iq1がそれぞれ2倍のd−q軸上の電流指令2×id2*、2×iq2*にそれぞれ一致するように動作する。
上記により、異常特定器5gは誤判定条件を回避でき、確実に各巻線組の異常判定を実施することができる。また、異常判定を実施していない巻線組に関する電流制御器によって誤判定条件回避に伴う交流回転機1の出力低下を軽減する。異常特定器5gは、上記各巻線組の異常判定実施後、異常であると特定された巻線組を異常組として第1の電流制御器13gおよび第2の電流制御器23g出力する。
異常特定器5gによる異常特定が完了した後、異常であると特定された巻線組に関する制御手段の電流制御器、即ち異常組が第1の巻線U1、V1、W1を示している場合の第1の電流制御器13g、異常組が第2の巻線U2、V2、W2を示している場合の第2の電流制御器23gは、異常な巻線に対する相電圧の印加を停止するように、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令を各々に関する座標変換器に出力する。
この時、異常でない巻線組に関する制御手段は、異常であると特定された巻線組に関する制御手段に入力されるd−q軸上の電流指令をも出力するように、該巻線組に関するd−q軸上の検出電流がd−q軸上の電流指令2倍のd−q軸上の電流指令にそれぞれ一致するように動作する。尚、異常組が第1の巻線U1、V1、W1および第2の巻線U2、V2、W2の双方を示している場合、第1の電流制御器13gおよび第2の電流制御器23gは共にそれぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令を出力し、交流回転機1は停止することとなる。
このように、実施の形態8に示す交流回転機の制御装置によると、異常判定器3gが異常であると判定した場合、異常特定器5gが異常である巻線組を特定するので、異常な巻線組に対する相電圧の印加のみ停止することができ、一方で異常でない巻線組に印加する相電圧を変更することができるため、異常発生に伴う交流回転機1の出力低下を軽減することができる。
また、従来の交流回転機の制御装置によると、各巻線組の異常判定を所定の間隔で行う必要があったが、異常特定器5gは、各巻線の異常判定を異常判定器3gが異常であると判定した場合にのみ実施するので、演算負荷を軽減することが可能となる。
さらに、異常特定器5gは、各巻線の異常判定を異常判定器3gが異常であると判定した場合のみ異常特定を実施するので、例えば異常判定に伴う誤判定条件を回避するように該巻線組に印加する相電圧指令を変更するなど、巻線組の異常を判定するための制御を実施することが可能となる。
尚、実施の形態8では、異常特定器5gは二系統の三相巻線組から異常を特定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から異常を特定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器が入力される複数の三相巻線組のうち2つ以上の複数の三相巻線組に関する異常を判定し、異常特定器が、異常判定器の判定した巻線組のみから異常な巻線組を特定するようにすればよく、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態9では異常特定器5hはU相の異常を特定し、異常であると特定された部位を含む巻線組に関する制御手段の座標変換器、即ち異常部位がU1相である場合の第1の座標変換器14h、異常部位がU2相である場合の第2の座標変換器24hは、該巻線のU相に対する交流電圧の印加を停止するように、0の値のU相電圧指令vu1*、あるいはvu2*を各々に関する電力変換器に出力したが、V相あるいはW相の異常を特定し、異常であると特定された部位を含む巻線組U相あるいはV相に対する交流電圧の印加を停止するような場合であっても同様に構成することができ、同様の効果を得ることができる。
実施の形態9.
次に、この発明の実施の形態9について説明する。実施の形態8では、異常特定器5gは、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2のどちらが異常であるか判定し異常組を特定していたが、異常特定器が実施する異常判定によっては異常組だけでなく、異常組のうちどの部位が異常であるかを特定することが可能となる。
そこで、実施の形態9では異常判定器が異常判定フラグをセットしている場合、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2のどちらが異常であるかを特定し、なおかつ異常組のU相を異常部位として特定する異常特定器を備えた交流回転機の制御装置について説明する。
図16は、実施の形態9による交流回転機の制御装置の全体構成を示す図であり、実施の形態8と同一符号は、同一またはこれに相当するものである。
異常特定器5hは、異常判定器3gが出力する異常判定フラグと、第1の制御手段11hが出力する相電圧指令vu1*と、第2の制御手段21hが出力する相電圧指令vu2*と、第1の三相電流検出器12から出力される相検出電流iu1と、第2の三相電流検出器22から出力される相検出電流iu2に基づいて、異常判定器3gが判定した異常が第1の巻線U1、V1、W1あるいは第2の巻線U2、V2、W2のどの部位で発生したものかを特定し、異常特定状態を第1の電流制御器13hおよび第2の電流制御器23hに、異常部位を第1の座標変換器14hおよび第2の座標変換器24hに出力する。
異常特定状態は、異常特定器5hの動作状態を「第1組特定中」、「第2組特定中」、「停止中」のいずれかで示すものであり、第1の巻線U1、V1、W1の状態量に基づき第1の巻線U1、V1、W1の異常の有無を確認している間は「第1組特定中」を、同様に第2の巻線U2、V2、W2の状態量に基づき第2の巻線U2、V2、W2の異常の有無を確認している間は「第2組特定中」を、前記いずれにも該当しない場合は「停止中」となる。異常部位は、異常特定器5hが特定した異常な巻線組および異常な巻線組における異常な部位を示すものである。
第1の制御手段11hは、第1の電流制御器13hと第1の座標変換器14hより構成され、d−q軸上の電流指令id1*、iq1*、第1の三相電流検出器12から出力される三相検出電流iu1、iv1、iw1、回転位置検出器2から出力される交流回転機1の回転位置、異常判定器3gから出力される前記異常判定フラグ、および異常特定器5hから出力される異常特定状態、異常部位に基づき交流回転機1を駆動するための第1の巻線U1、V1、W1に印加する三相電圧指令vu1*、vv1*、vw1*を出力する。
第1の電流制御器13hは、入力される異常特定状態、異常組に応じてその動作を切り替える。異常特定状態が「停止中」であり通常状態を表している場合、電流制御器13gは第1の座標変換器14hが出力するd−q軸上の検出電流id1、iq1がd−q軸上の電流指令id1*、iq1*にそれぞれ一致するようなd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を演算し、第1の座標変換器14hに出力する。
異常特定状態が「第1組特定中」である場合、電流制御器13gは異常特定器5gが第1の巻線U1、V1、W1における異常を特定しやすいように第1の巻線U1、V1、W1への交流電圧印加を停止する。異常特定状態が「第2組特定中」である場合、電流制御器13gは異常特定によって交流電圧印加を停止している第2の巻線U2、V2、W2を補うように動作する。異常組が第1の巻線U1、V1、W1の異常を示している場合は、第2の巻線U2、V2、W2の異常の有無に関わらず、第1の巻線U1、V1、W1への交流電圧印加を停止させるように動作する。
第1の座標変換器14hは、入力される異常部位がU1相を示している場合には該異常部位を使用しないように動作するという点で座標変換器14と異なり、異常部位がU1相を示していない場合の動作は座標変換器14と同様である。
第2の制御手段21hは、第2の電流制御器23hと第2の座標変換器24より構成され、d−q軸上の電流指令id2*、iq2*、第2の三相電流検出器22から出力される三相検出電流iu2、iv2、iw2、回転位置検出器2から出力される交流回転機1の回転位置、異常判定器3gから出力される前記異常判定フラグ、および異常特定器5hから出力される異常特定状態、異常部位に基づき、交流回転機1を駆動するための第2の巻線U2、V2、W2に印加する三相電圧指令vu2*、vv2*、vw2*を出力する。
第2の電流制御器23hは、入力される異常特定状態、異常組に応じてその動作を切り替える。異常特定状態が「停止中」であり通常状態を表している場合、電流制御器23gは、第1の座標変換器24hが出力するd−q軸上の検出電流id1、iq1がd−q軸上の電流指令id1*、iq1*にそれぞれ一致するようなd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を演算し、第1の座標変換器24hに出力する。
異常特定状態が「第2組特定中」である場合、電流制御器23gは異常特定器5gが第2の巻線U2、V2、W2における異常を特定しやすいように第1の巻線U1、V1、W1への交流電圧印加を停止する。異常特定状態が「第1組特定中」である場合、電流制御器23gは異常特定によって交流電圧印加を停止している第1の巻線U1、V1、W1を補うように動作する。異常組が第2の巻線U2、V2、W2の異常を示している場合は、第1の巻線U1、V1、W1の異常の有無に関わらず、第2の巻線U2、V2、W2への交流電圧印加を停止させるように動作する。
第2の座標変換器24hは、入力される異常部位がU2相を示している場合には該異常部位を使用しないように動作するという点で座標変換器24と異なり、異常部位がU2相を示していない場合の動作は座標変換器24と同様である。
このような構成によって、異常判定器3gが交流回転機1若しくは交流回転機1の制御装置の異常を判定し、異常特定器5hが、異常判定器3gが異常であると判定した場合に異常部位を特定して、第1の座標変換器14hおよび第2の座標変換器24hが異常部位に対してのみ電力供給を停止するように動作する。
ここで、上記構成にて実施の形態9における交流回転機の制御装置が異常部位を特定して、巻線部位を使用しないようにする手法を説明する。尚、以下においては三相巻線のU相を異常部位として特定する場合についてのみ説明するが、三相巻線のV相、W相を異常部位として特定する場合も同様の手法にて実施することが可能であり、同様の効果を得ることができる。
まず、交流回転機1あるいは交流回転機1の制御装置において異常が発生した場合、異常判定器3gが異常を判定し、異常判定フラグをセットする。続いて、異常特定器5hにおいて異常部位の特定が行われる。
異常特定器5hは、異常判定フラグがセットされていない場合、処理を行わずに異常特定状態を「停止中」として出力する。異常特定状態が「停止中」を示している場合、第1の電流制御器13hおよび第2の電流制御器23hは異常がない通常状態としてd−q軸上の検出電流id1、iq1、およびd−q軸上の検出電流id2、iq2がd−q軸上の電流指令id1*、iq1*、およびd−q軸上の電流指令id2*、iq2*にそれぞれ一致するように動作する。
一方で、異常判定器3hが異常判定フラグをセットしている場合、異常特定器5hはそれぞれの巻線組毎に異常部位の判定を実施し、異常と判定されたな部位を異常部位として特定する。ここで、第1の巻線U1、V1、W1に関する異常部位判定を実施している間は、異常特定器5hは異常特定状態を「第1組特定中」として出力する。同様に、第2の巻線U2、V2、W2に関する異常部位判定を実施している間は、異常特定器5hは異常特定状態を「第2組特定中」として出力する。また、双方の異常判定が完了した後、異常特定器5hは異常特定状態を再び「停止中」として出力する。
第1の電流制御器13hおよび第2の電流制御器23hは異常特定状態に基づき、異常特定状態が「第1組特定中」である場合は、異常特定器5hが第1の巻線U1、V1、W1に関する異常を判定しやすいように、また異常特定状態が「第2組特定中」である場合は、異常特定器5hが第2の巻線U2、V2、W2に関する異常を判定しやすいように動作する。
異常特定器5hは、特許文献2に記載されるように相電圧指令vu1*、相検出電流iu1、および相電圧指令vu2*、相検出電流iu2に基づき各々の巻線組における異常判定を実施する。前記異常判定によると相電圧指令の絶対値が所定以上であり、かつ該当する相検出電流が流れていない場合、該当する相に異常があると判定するので、第1の巻線U1、V1、W1、第2の巻線U2、V2、W2それぞれのU相について異常判定を実施することで異常部位を特定することができる。ただし、同じく特許文献2に記載されるように、上記異常判定は交流回転機の回転速度が所定値以下となるような相電流を給電している場合のみ実施可能であり、回転速度が所定値より大きくなるような相電流を給電している場合に異常と誤って判定してしまう誤判定条件が存在する。
そこで、実施の形態9では、異常特定器5hが第1の巻線U1、V1、W1に関する異常判定を実施している場合、即ち異常特定状態が「第1組特定中」を示している場合、第1の電流制御器13hは誤判定条件を回避するため、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令vd1*、vq1*を第1の座標変換器14hに出力し、第1の巻線U1、V1、W1に印加する相電圧を、交流回転機1を停止するようなものとする。一方で、第2の電流制御器23hは、第2の巻線U2、V2、W2が第1の電流制御器13hに入力されるd−q軸上の電流指令id1*、iq1*をも出力するように、d−q軸上の検出電流id2、iq2がそれぞれ2倍のd−q軸上の電流指令2×id2*、2×iq2*にそれぞれ一致するように動作する。
同様に、異常特定状態が「第2組特定中」を示している場合、第2の電流制御器23hは誤判定条件を回避するため、それぞれ0の値のd−q軸上の電圧指令vd2*、vq2*を第2の座標変換器24hに出力し、第2の巻線U2、V2、W2に印加する相電圧を交流回転機1を停止するようなものとする。一方で、第1の電流制御器13hは、第1の巻線U1、V1、W1が第2の電流制御器23hに入力されるd−q軸上の電流指令id2*、iq2*をも出力するように、d−q軸上の検出電流id1、iq1がそれぞれ2倍のd−q軸上の電流指令2×id1*、2×iq1*にそれぞれ一致するように動作する。
上記により、異常特定器5hは、誤判定条件を回避でき、確実に各巻線組の異常判定を実施することができる。また、異常判定を実施していない巻線組に関する電流制御器によって誤判定条件回避に伴う交流回転機1の出力低下を軽減する。
異常特定器5hは、上記各巻線組の異常判定実施後、異常であると判定された巻線組のU相を異常部位として、第1の座標変換器14hおよび第2の座標変換器24hに出力する。異常特定器5hによる異常特定が完了した後、異常であると特定された部位を含む巻線組に関する制御手段の座標変換器、即ち異常部位がU1相である場合の第1の座標変換器14h、異常部位がU2相である場合の第2の座標変換器24hは、該巻線のU相に対する交流電圧の印加を停止するように、0の値のU相電圧指令vu1*、あるいはvu2*を各々に関する電力変換器に出力する。
このように、実施の形態9に示す交流回転機の制御装置によると、異常判定器3gが異常であると判定した場合、異常特定器5hが異常である部位を特定するので、異常な部位のみ使用しないようにすることができる。
また、従来の交流回転機の制御装置によると各巻線組の各々の部位の異常判定を所定の間隔で行う必要があったが、異常特定器5gは各巻線の各々の部位の異常判定を異常判定器3gが異常であると判定した場合にのみ実施するので、演算負荷を軽減することが可能となる。
さらに、異常特定器5hは、各巻線の異常判定を異常判定器3gが異常であると判定した場合のみ異常特定を実施するので、例えば異常判定に伴う誤判定条件を回避するように該巻線組に印加する相電圧指令を変更するなど、巻線組の異常を判定するための制御を実施することが可能となる。
尚、実施の形態9では、異常特定器5gは二系統の三相巻線組から異常を特定するよう構成されているが、二系統以上の複数の三相巻線組から異常を特定する場合であっても同様に構成することができる。この場合、異常判定器が入力される複数の三相巻線組のうち2つ以上の複数の三相巻線組に関する異常を判定し、異常特定器が、異常判定器が判定した巻線組のみから異常な巻線組を特定するようにすればよく、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態9では異常特定器5gがU相の異常を特定したとき、制御手段は該当する巻線組のU相に対する電圧印加を停止するだけであったが、異常でないV相、W相の印加電圧を停止したU相の電圧指令を補うような値に変更してもよく、この場合異常発生に伴う交流回転機1の出力低下を軽減することができる。
実施の形態10.
次に、この発明の実施の形態10について説明する。上記各実施の形態では交流回転機の制御装置について説明したが、該交流回転機の制御装置によって操舵トルクを補助するトルクを発生させるようにして電動パワーステアリングの制御装置を構成するようにしてもよい。電動パワーステアリング装置が備える交流回転機の制御装置は高速な演算が要求される。また、電動パワーステアリング装置が備える交流回転機にはその用途から異常が発生した場合であっても可能な限り操舵補助を継続することが要求される。
従って、異常を判定するための演算負荷を軽減することが可能となる上記実施の形態1から7に示した交流回転機の制御装置、乃至異常発生時も異常組あるいは異常部位のみ使用しないように交流回転機の動作を継続することが可能となる実施の形態8あるいは9に示した交流回転機の制御装置はより効果的となる。
そこで、実施の形態10では、実施の形態9に示した交流回転機の制御装置を備えた電動パワーステアリング装置について説明する。
図17は、実施の形態10による電動パワーステアリング装置の全体構成を示す図であり、実施の形態9と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。運転手は、ハンドル30を左右に回転させて前輪31の操舵を行う。トルク検出手段32はステアリング系の操舵トルクを検出してトルク検出値を電流指令演算手段33に出力する。電流指令演算手段33はステアリング系の操舵トルクを補助するトルクを交流回転機1が発生するように、前記トルク検出値に基づいてd軸電流指令id*とq軸電流指令iq*を算出し、出力する。
電流指令分配器34は、d軸電流指令id*とq軸電流指令iq*を、第1の巻線U1、V1、W1に給電するためのd軸電流指令id1*とq軸電流指令iq1*および第2の巻線U2、V2、W2に給電するためのd軸電流指令id2*とq軸電流指令iq2*に分配する。ここで、実施の形態9と同様にdーq軸上の電流指令id1*、iq1*とid2*、iq2*はそれぞれ同一の値とし、dーq軸上の電流指令id1*、iq1*とid2*、iq2*はそれぞれdーq軸上の電流指令id1、iq1の半分の値とする。ギア35は、交流回転機1の回転によるトルクをハンドル30及び前輪31に伝達し、運転者の操舵を補助する。
このような構成によって、実施の形態10に示す電動パワーステアリング装置は、交流回転機1あるいは交流回転機1の制御装置に異常が発生した場合、異常判定器3gによって異常を判定し、異常特定器5gによって異常部位を特定する。また、前記複数の制御手段は異常と特定された部位のみを使用しないで交流回転機1の駆動、すなわちハンドル30に対する操舵補助を継続する。
このように、実施の形態10に示す電動パワーステアリング装置によると、所定の間隔で実施する異常判定器3gによる異常判定は容易に実施可能なものであり、また、異常特定器5gによる異常部位の特定は異常であると判定された場合のみ実施するので、異常判定を実施する際の演算負荷が軽減することが可能となる。
また、異常特定器5gにより異常である部位を特定するので、異常が発生した場合であっても異常である部位のみを停止し交流回転機1の動作を継続することができ、操舵補助が停止することがなく電動パワーステアリング装置の安全性が向上する。
以上、この発明の実施の形態1から10について説明したが、この発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。