JP5551881B2 - プレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

プレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、プレス成形性、特に、耐型かじり性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
引張強度(TS)が590MPa以上の高強度鋼板(ハイテン)の適用範囲が拡大していく中、プレス成形性の問題が顕在化してきている。高強度鋼板は、鋼板自体の強度が高いため、加工負荷が大きくなり、金型と加工品の面圧が上昇する。このため、鋼板が割れたり、めっき層が剥離して外観低下を与えるといった基本的なプレス成形性の問題に加えて、連続的にプレス成形を行っていると、金型自体が疵付いたり(型かじり)、めっき層からの剥離物が金型に凝着し、凝着物が蓄積されて成形品にも疵がついてしまう、という問題がある。また、鋼板の強度が高まるにつれ、連続プレス成形中にこれらの問題が発生するまでの時間が短くなっており、金型のメンテナンスを従来よりも速く、頻繁に行わなければならないため、より高度にプレス成形性を改善することが求められている。
従来の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)におけるプレス成形性改善方法としては、ケイ酸含有被膜をGAに被覆する方法(特許文献1)、P系、S系の極圧添加剤を含む潤滑剤をプレス時に用いる方法(特許文献2)といった鋼板表面の摺動性を高める方法があるが、プレス後に塗装工程がある場合、潤滑性塗膜や潤滑剤の除去が困難であるという問題がある。また、リン酸系塗布剤で摺動性皮膜を形成した場合、加工品の摺動部と未摺動部とでリン酸塩の結晶状態が変わり、再度化成処理を施しても均一な塗装性が得られないことがあった。
一方、合金化溶融亜鉛めっき層中のζ相は、摩擦係数が高くかつ軟らかいため、プレス成形性を低下させる相であるとして、これまでは、専らδ1相が重視されてきた。例えば、特許文献3には、めっき層をζ/δ1が0.10以下となるように構成し、めっき層の表面粗度PPI/50μinchを5〜130にして、加工性を向上させる技術が報告されている。
しかしながら、これらの従来技術では、高強度鋼板の強度が向上するにつれ、型かじりを起こさずにプレス成形を行える時間が次第に短くなる、という問題を解決することができていないのが現状である。
特開平9−95788号公報 特開2001−59149号公報 特開2004−190074号公報
本発明では、高強度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、型かじりを起こさず(耐型かじり性に優れた)、長期間安定してプレス成形を行うことのできるプレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提供を課題として掲げた。
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき層中のζ相とδ1相のX線回折ピーク強度比ζ/δ1が0.22〜0.70であり、有機樹脂皮膜で被覆した後のPPI/25μinchが200以下であることを特徴とするプレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
上記有機樹脂皮膜の厚みは0.5〜3.0μmであることが好ましく、この有機樹脂皮膜が、カルボキシル基含有アクリル樹脂と、シリカおよびワックスを含有する樹脂組成物から得られる皮膜であることも好ましい。
本発明の樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、高強度鋼板でありながら、プレス成形性に優れており、金型の型かじりを起こしにくく、成形品への凝着物の付着も少ないため、長時間に亘って同じ金型でプレス成形を行うことが可能となり、プレス成形の効率および歩留まりを従来になく高めることができるようになった。
ζ/δ1が0.21の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面SEM写真である(3000倍)。 ζ/δ1が0.71の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面SEM写真である(3000倍)。 耐型かじり性試験の概要を示す説明図である。 耐型かじり性試験後の成形品の写真である。 耐型かじり性試験後の摺動面の疵の状態を示す写真である。
本発明の樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、引張強度が590MPa以上の高強度鋼板であることを前提にしている。より好ましくは引張強度980MPaクラスである。引張強度が590MPaを超えない鋼板では、加工負荷がそれほど高くなく、本発明で課題にしているような金型の型かじりを起こしにくいからである。
本発明の最大の特徴は、樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板における合金化溶融亜鉛めっき層中のζ相がめっき層表面に必ず存在しているところにある。従来は、硬質なδ1相は破壊されにくいと考えられていたが、本発明者等は、めっき層と金型との摺動によってめっき層が大きな剪断応力を受けたとき、δ1相は変形能が低いため破壊されて、鋼板から剥離して、これが金型に凝着する結果、型かじりの原因になっていると考えた。そこで、ζ相に着目して検討を進めたところ、ζ相がめっき層の表層にある場合、ζ相は軟質で変形能が高いことから、金型との間でめっき層が摺動を受けても破壊が起こりにくく、めっき剥離物の金型への凝着が抑制されて、型かじりが低減することが判明した。
そして、めっき層表層にζ相が形成されているか否かは、鋼板サンプル断面のSEM観察によって目視で確認できることを見出した。また、効率的に型かじりを抑制するには、めっき層中にζ相がどの程度存在する必要があるかについても検討した結果、X線回折によって測定されるζ相のピーク強度とδ1相のピーク強度の比率;ζ/δ1が0.22〜0.70であれば、めっき層表面にζ相が確認できることが明らかとなった。
この比率ζ/δ1が0.21では、めっき表層においてζ相以外に、めっき剥離の原因となり得るδ1相が確認された(図1)ことから、ζ/δ1の下限は0.22とした。また、ζ/δ1が0.71のめっき鋼板では、めっき層と鋼板の界面近傍にまでζ相が侵入していることがわかった(図2)。この場合、軟質なζ相の存在によってフレーキングが発生し易くなるおそれがある。また、亜鉛リッチなζ相がめっき層中に多く存在すると、溶接時に電極へ亜鉛が付着して溶接性が劣化することも懸念されるため、ζ/δ1の上限は0.70とした。より好ましいζ/δ1の下限は0.30であり、さらに好ましくは0.35である。また、より好ましいζ/δ1の上限は0.60であり、さらに好ましくは0.50である。なお、図1および2においては、めっき表層の構成を明らかにするため、樹脂皮膜は設けていない。
上記ζ/δ1は、X線回折において、バッググラウンドの強度[I(bg)]を測定すると共に、ζ相に対応する2θ角度が75.35°のときに出現するピークの強度から[I(bg)]を引いたものをζ相のピーク強度[I(ζ)]とし、δ1相に対応する2θ角度が73.90°に出現するピークの強度から[I(bg)]を引いたものをδ1相のピーク強度[I(δ1)]とし、両者の比[I(ζ)]/[I(δ1)]を、ζ/δ1とした。本発明で使用したX線回折装置はリガク社製「RINT1500型」で、ターゲットはCuKα、加速電圧50kV、加速電流200mA、走査速度0.5°/mmの条件で行った。
ζ/δ1が上記範囲の合金化溶融亜鉛めっき層を得るには、合金化溶融亜鉛めっきを製造する際の各種条件のうち、以下の条件を調製すれば良く、その他は従来公知の合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造条件のままで構わない。
<めっき浴中Al濃度>
めっき浴にAlを加えるとFe−Al合金相が形成され、これが、めっき浴中でのFe−Znの合金化反応を抑制する。この抑制効果を適度に発現させるには、めっき浴中のAl濃度を0.1〜0.2質量%にすることが好ましい。
<めっき浴の温度>
めっき浴を高温にすると、Fe−Al合金相の生長が促進される結果、ζ相の生成が抑制される。このため、めっき浴温は440〜500℃程度にすることが好ましい。
<合金化温度>
ζ相の包晶温度は500℃であるので、合金化温度は500〜520℃に調整することが好ましい。加熱様式は特に限定されず、一般的な、ガスやインダクションヒータを用いた加熱方式で構わない。
<合金化後の冷却速度>
合金化温度から冷却する際の冷却速度は、速ければ速いほど、ζ相の消失およびΓ相の析出を抑制できるため好ましい。よって、5℃/秒以上が好ましく、10℃/秒以上がより好ましく、15℃/秒以上がさらに好ましい。
本発明の樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき表層にζ相が存在しているため摩擦係数が大きくなり、摺動性が低下するおそれがある。このため、めっき層表層に有機樹脂皮膜をさらに被覆する必要があり、これにより潤滑性を確保して金型との間の摺動抵抗を小さく維持することができる。また、有機樹脂皮膜被覆後のPPI/25μinchは200以下に調整する。PPI/25μinchが200を超えると、めっき剥離の基点となる凸部が多すぎる結果、めっき剥離による金型への凝着物の付着を有効に抑制することができない。
なお、ここでPPI/25μinchとは、樹脂皮膜被覆後の鋼板サンプルの粗さ曲線の平均線から正負両方向に25μinch(0.635μm)ずつ変位した高さをそれぞれ正負の基準線とし、粗さ曲線が負の基準線よりも下回った後に正の基準線を超えたものを一山(1ピーク)とカウントしたときの測定長1inch(2.54cm)当たりのピーク数を意味する。
PPI/25μinchを200以下にするには、有機樹脂皮膜形成前のGA原板のPPIを小さくすることが好ましく、具体的には、めっき前の原板のPPIを小さくするか、めっき後の調質圧延(スキンパス圧延)によってPPIを調節することができる。PPI/25μinchの下限は特に限定されないが、製造条件的に40程度が限界である。なお、立方晶のδ1相がめっき層表面に多いと、PPI/25μinchが大きくなる傾向にあるので、ζ/δ1の比率を前記範囲内(特に0.4以上)に制御することも、PPIの調節のために有効である。
また、有機樹脂皮膜の被覆によってもPPI/25μinchを小さくすることができるが、有機樹脂皮膜が厚くなりすぎると皮膜自体が剥離して、樹脂皮膜が接着剤のように作用して剥離した微細なめっき層を集めて金型に貼り付け、型かじりの原因になるため好ましくない。このため、有機樹脂皮膜は3μm以下の厚みとすることが好ましく、この厚さの有機樹脂皮膜を被覆した後のPPI/25μinchが200以下になるように、めっき前の原板のPPIを調整するか、めっき後の調質圧延条件を調整することが好ましい。有機樹脂皮膜を被覆する前のPPI/25μinchの具体的な目安としては、300〜400程度である。一方、有機樹脂皮膜の厚みが小さすぎると潤滑性向上効果が発現しない。よって、有機樹脂皮膜の厚みは0.5μm以上とすることが好ましい。より好ましい皮膜厚は1.0〜2.5μm、さらに好ましくは1.5〜2μmである。有機樹脂皮膜の厚みは、SEMによる断面観察で測定することができる。例えば、樹脂皮膜被覆鋼板から10mm×10mm程度の小片サンプルを切り出し、包埋用樹脂に埋め込んだ後、表面を研磨して断面(評価面)を露出させる。このサンプルをSEMを使用して、例えば倍率3000倍程度で5点ほど任意に観察し、平均皮膜厚を決定すればよい。また、樹脂皮膜中のシリカ配合量が予めわかっていれば、蛍光X線分析でSi量を分析し、換算することでも皮膜厚を算出できる。
有機樹脂皮膜としては特に限定されないが、プレス加工性を考慮すると潤滑性に優れた皮膜であることが好ましく、また、高強度鋼板の主用途である自動車用鋼板のプレス後の塗装工程を考慮すると、塗装工程前のアルカリ脱脂工程で防錆油と共に樹脂皮膜も脱膜することが望ましい。よって、カルボキシル基含有アクリル樹脂、シリカおよびワックスを含有する樹脂組成物から得られる皮膜が好ましい。カルボキシル基の存在によって、アルカリ脱膜性が確保されると共に、シリカおよびワックスの存在によって良好な潤滑性が発揮される。
カルボキシル基含有アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸,クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸またはその無水物等のうち1種以上を含む共重合体が好ましい。これらのカルボキシル基導入用モノマー成分をアクリル樹脂形成用モノマー成分100質量%中、20〜40質量%用いることで、アルカリ脱膜性が発現する。
上記カルボキシル基導入用モノマーと共に、アクリル樹脂形成用モノマー成分として用いることのできるモノマーは特に限定されないが、公知の(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。具体的な(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸−N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸n−ステアリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、(メタ)アクリル酸1,9−ノナンジオール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。その他スチレン系モノマーやビニル系モノマー等も好適である。これらは、アクリル樹脂形成用モノマー成分100質量%中、60〜80質量%の範囲の使用が好ましい。
上記アクリル樹脂形成用モノマー成分は、公知の方法で重合すれば良く、環境保全を考慮すれば、乳化重合を行ってエマルジョンの形態で得ることが好ましい。
シリカとしては、コロイダルシリカを用いればよく、潤滑性を確保する観点からは,有機樹脂皮膜用の樹脂組成物の固形分100質量%中、1〜30質量%の範囲内で用いることが好ましい。1質量%未満では配合した効果が発現せず、30質量%を超えて使用すると、造膜性や脱膜性等の各種特性が低下するおそれがある。より好ましい配合量は5〜20質量%である。コロイダルシリカとしては、例えば、「スノーテックス(登録商標)」シリーズ(日産化学工業社製)の「OL」、「O」、「40」、「N」、「UP」等が好適である。
本発明の有機樹脂皮膜形成用の樹脂組成物には、ワックスが含まれていることが好ましい。ワックスとしては、(酸化)ポリエチレンワックス、(酸化)ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ライスワックス等が挙げられる。中でも、粒子径が0.1〜3μm程度の球形のポリエチレンワックスが最も好適であり、例えば、三洋化成工業社製の「KUE−1」、「KUE−5」、「KUE−8」等、三井化学社製の「ケミパール(登録商標)」シリーズの「W−100」、「W−200」、「W−300」、「W−400」、「W−500」、「W−640」、「W−700」等のような市販品を用いることができる。ワックスの添加量としては、樹脂皮膜中の量として、1〜20質量%、より好ましくは2〜10質量%となるように使用することが好ましい。ワックス量が少なすぎると添加効果が発現せず、多すぎると有機樹脂皮膜の耐食性が低下したり、脱膜性や塗装性が低下するおそれがある。また、エマルジョン系樹脂組成物の安定性が低下するおそれがある。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、有機樹脂皮膜が形成された状態での動摩擦係数が0.10以下であることが好ましい。潤滑性が良好であることを表すからである。
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明に包含される。
[合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法]
めっき母材として、C:0.09質量%、Si:0.03質量%、Mn:2.80質量%、P:0.02質量%、S:0.001質量%、Al:0.06質量%、Cr:0.30質量%、Mo:0.10質量%、残部Feおよび不可避不純物よりなる鋼を転炉で溶製し、これを連続鋳造してスラブを得た。得られたスラブを1250℃に加熱、保持し、仕上げ温度900℃、圧下率99%で、厚み2.4mmまで熱間圧延し、次いで、平均冷却速度50℃/秒で冷却した後、480℃で巻き取り、熱延鋼板を得た。
得られた熱延鋼板を酸洗後、圧下率50%で厚み1.2mmまで冷間圧延し、冷延鋼板を得た。この冷延鋼板は、TSが980MPa以上の高強度鋼板である。この冷延鋼板を連続式溶融亜鉛めっきラインで830℃に加熱し、この温度で30秒間保持して均熱処理した後、めっき浴温の460℃まで平均冷却速度15℃/秒で冷却した。その後めっき浴に3秒間浸漬して、冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成した。めっき浴中Al濃度は、有効Al濃度として0.11質量%、めっき浴温は460℃と一定にした。その後、510℃もしくは550℃に加熱して20秒間保持して合金化処理し、冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を形成した。合金化処理後は常温まで平均冷却速度20℃/秒で冷却した。
[有機樹脂皮膜の被覆]
撹拌機、温度計、還流冷却器および滴下ロートを備えた容器に、400質量部の水を仕込み、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.4質量部を水200質量部に溶解させた開始剤水溶液と、メタクリル酸n−ブチル130質量部、アクリル酸60質量部、水200質量部および「ラテムル(登録商標)S−180」(反応性界面活性剤;花王社製)15質量部を入れて乳化したプレモノマーエマルションとを、それぞれ滴下ロートを用いて1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成した後、40℃まで冷却し、150メッシュの金網で濾過した。
得られたエマルション型アクリル樹脂に、シリカ(「スノーテックス(登録商標)OL」:日産化学工業社製)を固形分で10質量%、ワックス(「ケミパール(登録商標)W−700」:三井化学社製)を固形分で3質量%加え、混合し、有機樹脂皮膜用樹脂組成物を調製した。
上記で得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いて、塗装ラインで樹脂組成物を表1に示した膜厚(乾燥後)となるように塗装し、供試材を得た。なお、この樹脂皮膜はアルカリで脱膜可能であった。
上記で得られた各供試材について、下記の特性評価を行い、評価結果を表2に示した。
[ピーク強度比:ζ/δ1]
リガク社製「RINT1500型」を用いて、ターゲット:CuKα、加速電圧:50kV、加速電流:200mA、走査速度:0.5°/mmの条件でX線回折を行った。バッググラウンドの強度[I(bg)]を測定すると共に、ζ相に対応する2θ角度が75.35°のときに出現するピークの強度から[I(bg)]を引いたものをζ相のピーク強度[I(ζ)]とし、δ1相に対応する2θ角度が73.90°に出現するピークの強度から[I(bg)]を引いたものをδ1相のピーク強度[I(δ1)]とし、両者の比[I(ζ)]/[I(δ1)]を、ζ/δ1とした。
[PPI/25μinch]
触針式の粗度計で樹脂皮膜被覆後の鋼板サンプルの任意の位置の粗さ曲線(断面曲線)を測定する。粗さ曲線の平均線から正負両方向に25μinch(0.635μm)ずつ変位した高さをそれぞれ正負の基準線とし、粗さ曲線が負の基準線よりも下回った後に正の基準線を超えたものを一山(1ピーク)とカウントしたときの測定長1inch(2.54cm)当たりのピーク数を数えた。なお、原板の圧延方向と直交方向の2方向について、それぞれ任意に3箇所選んで粗さ曲線の測定を行い、その平均値をPPI/25μinchとした。
[動摩擦係数]
樹脂皮膜被覆後の鋼板サンプルに防錆油(「ノックスラスト550HN」:パーカー興産社製)を塗布した後、摺動試験装置を用いて、18mm角の平面治具(SKD11製)で加圧力300kgf/cm2(29.42MPa)となるように鋼板サンプルを挟み、引き抜き速度300mm/分で引き抜いたときの引き抜き荷重を測定し、下記式で動摩擦係数を算出した。なお、動摩擦係数は、鋼板サンプル両面の平均値とした。
μ=F/(2×P)
ここで、μ:動摩擦係数、F:引き抜き荷重(N)、P:加圧力(MPa)である。
[耐型かじり性]
上記供試材を100mm幅で長さ約400m程度のスリットコイルにし、上記防錆油を塗布した後、110tonクランクプレスで連続的に90°L曲げ加工を行った。図3に、耐型かじり性試験(プレス試験)の概要を示した。プレスの下側の金型の湾曲部は型かじりを促進させるために設けたものである。下側の金型は、幅は鋼板サンプルと同一の100mmで、高さ40mm、湾曲部の張り出し長さは27mm、湾曲部の全長(周長)125mm、曲率半径60mmである。上型の湾曲部の肩部のRは5mmである。加工速度は、60spmとした。なお、金型の材質はSKD11である。プレスと同時に1個ずつ成形品を切断した。切断後の成形品を図4に示した。成形品の摺動部、特に、湾曲部の頂部の表面状態を目視で観察し、成形品に疵が入った(図5参照)打点を、金型に型かじりが起こった打点(型かじり打点)として、耐型かじり性を下記基準で評価した。
◎:2000打点まで型かじりが起こらない
○:型かじり打点が1000以上2000未満
△:型かじり打点が600以上1000未満
×:型かじり打点が600未満
表2から明らかなように、ζ/δ1およびPPI/25μinchが本発明の範囲を満たす実施例の樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、耐型かじり性試験において、1000打点以上のプレス成形を行っても型かじりが発生せず、優れたプレス成形性を示すことがわかった。特に、No.5および6では、2000打点以上連続プレスを行っても型かじりが発生しないという、極めて優れたプレス成形性を示した。No.1および2は、樹脂皮膜がないため、耐型かじり性が極めて劣っていた。No.3は、ζ/δ1は本発明の規定範囲を満足しているものの、PPI/25μinchが本発明の規定範囲の上限を超えており、めっき剥離の基点となる凸部が多かったため、耐型かじり性が劣っていたと考えられる。
本発明の樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、高強度であるにもかかわらず、優れたプレス成形性を示すので、自動車分野を初めとする各種分野に適用可能である。

Claims (3)

  1. 合金化溶融亜鉛めっき層中のζ相とδ1相のX線回折ピーク強度比ζ/δ1が0.22〜0.70であり、有機樹脂皮膜で被覆した後のPPI/25μinchが200以下であり、引張強度が590MPa以上であることを特徴とするプレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 上記有機樹脂皮膜の厚みが0.5〜3.0μmである請求項1に記載のプレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 上記有機樹脂皮膜が、カルボキシル基含有アクリル樹脂と、シリカおよびワックスを含有する樹脂組成物から得られる皮膜である請求項1または2に記載のプレス成形性に優れた樹脂被覆高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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