次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施例:
A−1.スパークプラグの構成:
A−2.スパークプラグ用接地電極の詳細構成:
A−3.スパークプラグ用接地電極の製造方法:
B.変形例:
A.実施例:
A−1.スパークプラグの構成:
図1は、本発明の実施例におけるスパークプラグ100の構成を示す説明図である。図1において、スパークプラグ100の中心軸である軸線OLの右側にはスパークプラグ100の側面構成を示しており、軸線OLの左側にはスパークプラグ100の断面構成を示している。なお、以下の説明では、後述の放電ギャップDG(火花放電のための間隙)側をスパークプラグ100の先端側と呼び、先端側とは反対側を後端側と呼ぶものとする。
図1に示すように、スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極(外側電極)30と、端子金具40と、主体金具50と、を備えている。中心電極20は絶縁碍子10によって保持され、絶縁碍子10は主体金具50によって保持されている。接地電極30は主体金具50の先端側に取り付けられており、端子金具40は絶縁碍子10の後端側に取り付けられている。
絶縁碍子10は、中心電極20および端子金具40を収容する貫通孔である軸孔12が中心に形成された筒状の絶縁体であり、例えばアルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成される。絶縁碍子10における軸線OL方向に沿った中央付近には、他の部分より外径の大きい中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも後端側には、端子金具40と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。中央胴部19よりも先端側には、先端側胴部17が形成され、先端側胴部17のさらに先端側には、先端側胴部17より外径が小さい脚長部13が形成されている。
主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13にわたる部位を包囲して保持する略円筒形状の金具であり、例えば低炭素鋼といった金属により形成されている。主体金具50は、略円筒形状のネジ部52を有しており、ネジ部52の側面には、スパークプラグ100をエンジンヘッドに取り付ける際にエンジンヘッドのネジ孔に螺合するネジ山が形成されている。主体金具50の先端側の端面である先端面57は中空円形状であり、先端面57の中空部分から絶縁碍子10の脚長部13の先端が突出している。主体金具50は、また、スパークプラグ100をエンジンヘッドに取り付ける際に工具が嵌合する工具係合部51と、ネジ部52の後端側に鍔状に形成されたシール部54と、を有している。シール部54とエンジンヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。工具係合部51は、例えば六角形断面形状である。
中心電極20は、略棒状形状の電極であり、例えばニッケルまたはニッケルを主成分とするニッケル合金により形成されている。中心電極20は、先端側が絶縁碍子10の脚長部13の軸孔12から突出した状態で絶縁碍子10の軸孔12内に収容されており、セラミック抵抗3およびシール体4を介して、絶縁碍子10の後端に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。
接地電極30は、屈曲した略棒状形状の電極であり、例えばニッケルまたはニッケルを主成分とするニッケル合金により形成されている。接地電極30の一方の端部である基端部37は主体金具50の先端面57に接合されており、他方の端部である自由端部38は中心電極20の先端側の端部と対向するように屈曲されている。接地電極30の自由端部38と中心電極20の先端側の端部との間には、火花放電のための間隙(放電ギャップDG)が形成される。接地電極30の自由端部38における中心電極20と対向する位置(放電ギャップDGを形成する位置)には、耐火花消耗性や耐酸化消耗性を向上させるために、電極チップ70が接合されている。
A−2.スパークプラグ用接地電極の詳細構成:
図2および図3は、スパークプラグ100用の接地電極30の詳細構成を示す説明図である。図3には、接地電極30の自由端部38付近における中心電極20と対向する側の平面(以下、「内側面31」と呼ぶ)の構成を示している。また、図2には、図3のA1−A1の位置における接地電極30の軸線OLに平行な断面の構成を示している。
上述したように、接地電極30の自由端部38における中心電極20と対向する位置(放電ギャップDGを形成する位置)には、電極チップ70が接合されている。電極チップ70は、略円柱形状であり、耐火花消耗性や耐酸化消耗性に優れた貴金属(例えば白金やイリジウム、ルテニウム、ロジウム)あるいは貴金属を主成分とする合金により形成されている。本実施例では、電極チップ70の中心軸(以下、「チップ中心軸PL」と呼ぶ)は、スパークプラグ100の軸線OLと略一致している。
電極チップ70は、円筒形状の中間部材76の中空部分に挿入されている。中間部材76は、例えばニッケルまたはニッケルを主成分とするニッケル合金により形成されている。なお、本実施例では、中間部材76の中空部分の内径φdと電極チップ70の直径φDとの差Δd(=d−D)は、0.01ミリメートル以上、0.1ミリメートル以下となっている。Δdが0.1ミリメートルより大きいと、電極チップ70の外周面と中間部材76の内周面との隙間が過大となり、後述するレーザー溶接による電極チップ70と中間部材76との接合強度が低下するおそれがある。一方、Δdが0.01ミリメートルより小さいと、電極チップ70を中間部材76の中空部分に挿入する際に中間部材76の内壁が削られてバリが発生するおそれがある。バリが発生すると、電極チップ70と中間部材76との位置関係や電極チップ70と接地電極30との位置関係にずれが生じ、レーザー溶接による電極チップ70と中間部材76との接合強度が低下するおそれがある。本実施例では、Δd(=d−D)を0.01ミリメートル以上、0.1ミリメートル以下とすることにより、電極チップ70の挿入性を良好にすると共に、電極チップ70の外周面と中間部材76の内周面との隙間を適正に保ち、レーザー溶接による電極チップ70と中間部材76との接合強度の低下を抑制している。
電極チップ70と中間部材76とは、電極チップ70が中間部材76の中空部分に挿入された状態で、チップ中心軸PLに向かって外周側から照射されるレーザーによるレーザー溶接によって、互いに接合されている。より具体的には、中間部材76の外周に沿った8つの位置(以下、「溶融部形成位置」と呼ぶ)で行われるレーザー溶接により形成される、中間部材76の外周面から電極チップ70内部まで達する8つの溶融部81(後述する溶融部83と区別するために「径方向溶融部81」とも呼ぶ)により、電極チップ70と中間部材76とが一体となっている。なお、以下の説明では、一体接合された電極チップ70および中間部材76を、チップ接合体と呼ぶ。
図2に示すように、本実施例では、中間部材76の厚さ(チップ中心軸PLに沿った大きさ)T1は、電極チップ70の厚さT0より小さい。また、レーザー溶接は、電極チップ70および中間部材76の底面(接地電極30に対向する面)が揃った状態で実行される。そのため、チップ接合体において、電極チップ70の一部(中心電極20に対向する側の部分)は中間部材76から突出した状態となる。
図2に示すように、レーザー照射高さL1(中間部材76の底面からレーザー照射位置までのチップ中心軸PL方向に沿った距離)は、各径方向溶融部81で同じである。また、図3には、径方向溶融部81とチップ接合体との位置関係を示すために、レーザー照射高さL1に対応する平面(中間部材76の底面からチップ中心軸PL方向に距離L1離れた平面)における各径方向溶融部81の形状を破線で示しているが、本実施例では、8つの径方向溶融部81が略均等に(中心位置が45度ずつずれた状態で)配置されている。
図2に示すように、接地電極30の内側面31における中心電極20に対向する位置には、チップ接合体(電極チップ70および中間部材76)の一部分を収容する凹部35が形成されている。凹部35の内径は、チップ接合体を収容できるような大きさであり、凹部35の深さは、中間部材76の厚さT1と略同一である。従って、チップ接合体を底面から凹部35内に挿入すると、中間部材76は全体が凹部35内に収容される。一方、電極チップ70は、中間部材76内に挿入された部分は凹部35内に収容されるが、中間部材76から突出した部分は凹部35内に収容されず、外部に露出される。
チップ接合体は、凹部35内に挿入された状態で、抵抗溶接によって凹部35の底面36に接合されている。さらに、チップ接合部と接地電極30とは、中間部材76の外周と凹部35の内周との境界付近において内側面31側からチップ中心軸PLに平行に照射されるレーザーによるレーザー溶接を用いて接合されている。より具体的には、レーザー溶接により形成される8つの溶融部83(上述の径方向溶融部81と区別するために「厚さ方向溶融部83」とも呼ぶ)により、チップ接合体が接地電極30に接合される。図3に示すように、8つの厚さ方向溶融部83は、径方向溶融部81に干渉しないような位置に、略均等に(中心位置が45度ずつずれた状態で)配置されている。
このように、本実施例では、電極チップ70がレーザー溶接により中間部材76に接合され、電極チップ70が接合された中間部材76(すなわち、チップ接合体)が接地電極30に接合されることによって、電極チップ70が間接的に(すなわち、中間部材76を介して)接地電極30に接合されている。なお、図2には、断面における径方向溶融部81と厚さ方向溶融部83との位置関係等を示すために、A1−A1断面には表れない径方向溶融部81や厚さ方向溶融部83を破線で示している。
ここで、本実施例では、各径方向溶融部81の溶け込み深さkが互いに異なっている。溶け込み深さkとは、図2および図3に示すように、径方向溶融部81の内の電極チップ70内に形成される部位(以下、「チップ溶融部」と呼ぶ)における、チップ中心軸PLに向かう方向(チップ中心軸PLに直交する方向)に沿った最大長を意味する。一般に、チップ溶融部のチップ中心軸PLに向かう方向に沿った長さは、レーザー溶接の際のレーザー光の延長線上の位置で最大となるため、溶け込み深さkは、チップ溶融部におけるレーザー光の延長線上の長さである。
本実施例では、電極チップ70と中間部材76との接合の際に、電極チップ70および中間部材76をチップ中心軸PLを中心に回転させて、溶融部形成位置(径方向溶融部81を形成すべき位置)を順にレーザー照射装置に対向させ、各溶融部形成位置でレーザー溶接を行うことにより、8つの径方向溶融部81を順に形成している。各回のレーザー溶接は同一の条件(レーザー光出力や照射時間)で行われるが、レーザー溶接を行うと電極チップ70および中間部材76の温度が上昇するため、後から行われるレーザー溶接により形成される径方向溶融部81ほど溶け込み深さkは深くなる。従って、本実施例では、各径方向溶融部81の溶け込み深さkが互いに異なることとなる。
図4は、本実施例における径方向溶融部81の形成順序を示す説明図である。図4(a)には、レーザー照射高さL1に対応する平面(中間部材76の底面からチップ中心軸PL方向に距離L1離れた平面)における各径方向溶融部81の形状を示すと共に、各径方向溶融部81が形成される順番を括弧付きの数字で示している。また、図4(b)には、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81が順に形成されていく経過を示している。なお、図4(b)は、単に径方向溶融部81の形成経過を示すための図であるため、便宜的に各径方向溶融部81の溶け込み深さkをすべて同一に表現しているが、各径方向溶融部81の溶け込み深さkは実際には図4(a)に示した通りである。以降の説明においても、径方向溶融部81の形成経過を示す図においては、同様に、各径方向溶融部81の溶け込み深さkをすべて同一に表現するものとする。
形成される8つの径方向溶融部81のそれぞれを、12時の位置から時計回りに、上方向、右上方向、右方向、右下方向、下方向、左下方向、左方向、左上方向の径方向溶融部81と呼ぶものとすると、図4に示すように、本実施例では、最初に下方向の径方向溶融部81が形成され、その後は順に、上方向、左下方向、右上方向、左方向、右方向、左上方向、右下方向の径方向溶融部81が形成される。上述したように、後から行われるレーザー溶接により形成される径方向溶融部81ほど溶け込み深さkは深くなるため、x番目に形成される径方向溶融部81の溶け込み深さをk(x)とすると、k(1)<k(2)<k(3)<k(4)<k(5)<k(6)<k(7)<k(8)となる。
図4に示すように、本実施例では、8つの溶融部形成位置(径方向溶融部81を形成すべき位置)の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81が形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接する溶融部形成位置ではなく、比較的遠くの溶融部形成位置で径方向溶融部81が形成される。例えば、1番目の径方向溶融部81の形成の後には、回転角度で約180度離れた溶融部形成位置で2番目の径方向溶融部81が形成され、両者の間には3つの溶融部形成位置が存在する。また、2番目の径方向溶融部81の形成の後には、回転角度で約135度離れた溶融部形成位置で3番目の径方向溶融部81が形成され、両者の間には2つの溶融部形成位置が存在する。なお、ある溶融部形成位置に径方向溶融部81(チップ溶融部)が形成された直後に、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置に径方向溶融部81(チップ溶融部)が形成されることは、「形成すべき径方向溶融部81(チップ溶融部)の数をN(ただしNは5以上の整数)とし、各径方向溶融部81(チップ溶融部)を任意の径方向溶融部81(チップ溶融部)を起点として周に沿って順番にA1〜ANと表し、Ai(iは1以上かつN以下の整数)を形成するレーザー溶接工程をAi形成工程としたとき、Am形成工程(mは1以上かつ(N−1)以下の整数)とAm+1形成工程との間にAj形成工程(j≠m−1、j≠m、かつ、j≠m+1であり、A0形成工程はAN形成工程を意味する)が存在する」と表現できる。
このように、本実施例では、8つの溶融部形成位置の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81が形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置で径方向溶融部81が形成されるため、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81同士が近い位置に固まったり、溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81同士が近い位置に固まったりすることが抑制される。結果的に、複数のチップ溶融部(径方向溶融部81の内の電極チップ70内に形成される部位)のうちのチップ中心軸PLに最も近い点TPを通り、かつ、チップ中心軸PLに直交する平面(以下、「特定平面」と呼ぶ)において、複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が比較的小さくなる。
なお、上述したように、各径方向溶融部81において、チップ中心軸PLに最も近い点は、レーザー光の延長線上の点である。そのため、本実施例において、複数のチップ溶融部のうちのチップ中心軸PLに最も近い点TPとは、最後(8番目)に形成された径方向溶融部81におけるレーザー光の延長線上の点である(図2および図3参照)。従って、上記特定平面とは、図4(a)に示した平面である。また、複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gは、特定平面におけるすべてのチップ溶融部の輪郭線により規定される図形の幾何学的重心である。
より具体的には、本実施例では、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離をS・D(Dは、電極チップ70の直径(図3参照))と表すと、値Sは0.2以下となっている。値Sが0.2以下であるとは、図4(a)に示すように、特定平面において、幾何学的重心Gが、チップ中心軸PLを中心とした半径0.2Dの規定範囲AR内に位置することを意味する。なお、このS・Dは、特定平面における複数のチップ溶融部と電極チップ70との同軸度に対応している。
また、本実施例では、1番目に形成される径方向溶融部81は、チップ中心軸PLを挟んで、2番目に形成される径方向溶融部81に対向している。また、3番目に形成される径方向溶融部81は、4番目に形成される径方向溶融部81に対向している。ここで、1ないし4番目に形成される径方向溶融部81は、溶け込み深さkが平均値より小さい。そのため、本実施例では、形成される複数の径方向溶融部81は、溶け込み深さkが平均より浅く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81の組を含んでいると言える。また、本実施例では、5番目に形成される径方向溶融部81は、6番目に形成される径方向溶融部81に対向し、7番目に形成される径方向溶融部81は、8番目に形成される径方向溶融部81に対向している。ここで、5ないし8番目に形成される径方向溶融部81は、溶け込み深さkが平均値より大きい。そのため、本実施例では、形成される複数の径方向溶融部81は、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81の組を含んでいると言える。このように、本実施例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81(1ないし4番目に形成される径方向溶融部81)同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81(5ないし8番目に形成される径方向溶融部81)同士がチップ中心軸PLを挟んで対向している。
以上説明したように、本実施例では、各径方向溶融部81の溶け込み深さkが互いに異なっているため、より確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81は、物理的な接合強度が比較的高い。一方、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81は、物理的な接合強度が比較的低いが、使用時の亀裂発生の態様が深い径方向溶融部81とは異なっている。すなわち、比較的深い径方向溶融部81では、電極チップ70と中間部材76との界面に亀裂が発生する傾向にあるのに対し、比較的浅い径方向溶融部81では、径方向溶融部81と電極チップ70との界面に亀裂が発生する傾向にある。これは、比較的浅い径方向溶融部81では、電極チップ70の成分に対して中間部材76の成分の割合が高いからである。従って、基本的には、比較的深い径方向溶融部81が主体となって電極チップ70と中間部材76との接合を保持するが、仮に、比較的深い径方向溶融部81における電極チップ70と中間部材76との界面に亀裂が発生した場合にも、比較的浅い径方向溶融部81の存在により、電極チップ70と中間部材76との接合が保持される。従って、本実施例では、より確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。
なお、溶け込み深さkが、8つの径方向溶融部81の溶け込み深さkの平均値の1.1倍以上である径方向溶融部81を「深い」径方向溶融部81と呼び(ただし、溶け込み深さkの上限値は電極チップ70の直径Dの2分の1)、溶け込み深さkが、8つの径方向溶融部81の溶け込み深さkの平均値の0.1倍以上、0.9倍以下である径方向溶融部81を「浅い」径方向溶融部81と呼ぶものとすると、8つの径方向溶融部81に、「深い」径方向溶融部81と「浅い」径方向溶融部81とが混在していることが、電極チップ70の脱落防止の点で、より好ましい。
また、本実施例では、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81の配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。図5は、比較例における径方向溶融部81'の形成順序を示す説明図である。図5(a)には、図4(a)と同様に、レーザー照射高さL1に対応する平面における各径方向溶融部81'の形状を示すと共に、各径方向溶融部81'が形成される順番を括弧付きの数字で示している。また、図5(b)には、図4(b)と同様に、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81'が順に形成されていく経過を示している。なお、本明細書では、各実施例や比較例を互いに区別して説明するときには、各構成要素の符号の末尾に「’」やアルファベット等の区別記号を付加するものとし、各実施例や比較例について共通して説明するときには、上記区別記号を適宜省略するものとする。
図5に示した比較例では、最初に下方向の径方向溶融部81'が形成され、その後は順に、右下方向、右方向、右上方向、上方向、左上方向、左方向、左下方向の径方向溶融部81'が形成される。すなわち、図5に示した比較例では、8つの溶融部形成位置の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81'が形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接する溶融部形成位置で径方向溶融部81'が形成される。そのため、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81'(1ないし4番目に形成される径方向溶融部81')は、チップ中心軸PLを挟んで、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81'(5ないし8番目に形成される径方向溶融部81')と対向する。従って、この比較例では、比較的浅い径方向溶融部81同士が近い位置に固まると共に、比較的深い径方向溶融部81同士が近い位置に固まり、結果的に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gは規定範囲AR外(6番目や7番目の径方向溶融部81'付近)に位置することとなる。従って、図5に示した比較例では、特定平面方向における径方向溶融部81'の配置が偏るため、電極チップ70の脱落を有効に抑制できない。これに対し、本実施例では、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81の配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。
また、本実施例では、形成される複数の径方向溶融部81は、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81の組を含んでいるため、径方向溶融部81の配置の偏りがさらに良好に抑制され、さらに確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。特に、本実施例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、径方向溶融部81の配置の偏りが極めて良好に抑制され、さらに確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。
図6は、電極チップ70と中間部材76との接合強度についての第1の試験結果を示す説明図である。第1の試験では、各径方向溶融部81の溶け込み深さkが均一のサンプルと均一でないサンプルを用いて、6気筒コージェネレーションエンジンにて高負荷条件(定格出力の100%)と低負荷条件(定格出力の50%)とのそれぞれの試験環境における耐久試験後に、電極チップ70と中間部材76との接合強度を測定した。なお、一般に、高負荷条件とは定格出力の60%以上を意味し、低負荷条件とは定格出力の60%未満を意味する。各サンプルにおいて、径方向溶融部81の数は10個であり、電極チップ70の直径Dは2.5ミリメートルである。溶け込み深さkが均一でないサンプルについては、上述した同軸度に対応する値Sを0.1から0.4の間で変化させた複数のサンプル(溶け込み深さkの平均値はいずれも0.5ミリメートル)について試験を行った。また、溶け込み深さkが均一のサンプルについては、溶け込み深さkが浅い(0.1ミリメートル)サンプルと、中間(0.5ミリメートル)のサンプルと、深い(1.0ミリメートル)サンプルとの3つについて試験を行った。なお、溶け込み深さkが均一のサンプルは、例えば、レーザー光の出力を調整しつつ順に径方向溶融部81を形成したり、すべての径方向溶融部81を同時に形成したりすることにより、製造することができる。
図6に示すように、溶け込み深さkが均一でないサンプルの接合強度は、いずれも、必要最低値350Nを上回った。一方、溶け込み深さkが均一のサンプルの接合強度は、少なくとも高負荷条件の試験環境に関して必要最低値350Nを下回り、溶け込み深さkが浅いサンプルでは、低負荷条件の試験環境に関しても必要最低値350Nを下回った。また、溶け込み深さkが均一でないサンプルの内、値Sが0.2以下のサンプルでは、いずれも接合強度が目標値380Nを上回った。このように、第1の試験結果から、電極チップ70と中間部材76との接合のために溶け込み深さkが異なる複数の径方向溶融部81を形成すると共に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離をS・D(Dは電極チップ70の直径)としたときの値Sが0.2以下であれば、冷熱サイクルに晒されても電極チップ70と中間部材76との間で十分な接合強度を保つことができ、より確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができることがわかる。
図7は、電極チップ70と中間部材76との接合強度についての第2の試験結果を示す説明図である。第2の試験では、各径方向溶融部81の溶け込み深さkが均一でないサンプルについて、上述したレーザー照射高さL1(図2参照)を0.1T1(T1は中間部材76の厚さであり、本試験では0.9ミリメートルとした)から0.9T1の間で変化させた複数のサンプル(溶け込み深さkの平均値はいずれも0.5ミリメートル)について試験を行った。各サンプルにおいて、径方向溶融部81の数は10個であり、電極チップ70の直径Dは2.5ミリメートルであり、値Sは0.2である。なお、レーザー照射高さL1は、中間部材76の底面から径方向溶融部81におけるチップ中心軸PLに最も近い点までのチップ中心軸PLに沿った距離であるとも表現できる。
図7に示すように、レーザー照射高さL1が0.3T1から0.7T1の間のサンプルの接合強度は、いずれも、さらに高い目標値420Nを上回った。従って、第2の試験結果から、電極チップ70と中間部材76との接合のために溶け込み深さkが異なる複数の径方向溶融部81を形成すると共に、値Sが0.2以下であり、さらにレーザー照射高さL1が0.3T1以上0.7T1以下であれば、電極チップ70と中間部材76との間で非常に大きな接合強度を保つことができ、さらに確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができることがわかる。
A−3.スパークプラグ用接地電極の製造方法:
図8は、本実施例におけるスパークプラグ100用の接地電極30の製造方法を示すフローチャートである。最初に、電極チップ70と中間部材76とを、径方向溶融部81を形成するレーザー溶接を用いて接合し、チップ接合体を製造する(ステップS110)。次に、接地電極30を所定の長さに切断する切断加工を行い(ステップS120)、接地電極30の内側面31に凹部35を形成する穴加工を行う(ステップS130)。その後、チップ接合体を接地電極30の凹部35内に挿入してチップ接合体と接地電極30とを抵抗溶接し(ステップS140)、最後に、チップ接合体と接地電極30とを、厚さ方向溶融部83を形成するレーザー溶接により接合する(ステップS150)。
このように、本実施例における接地電極30の製造方法では、接地電極30の切断加工(ステップS120)の後にチップ接合体と接地電極30との接合(ステップS140およびS150)を行うため、チップ接合体と接地電極30との接合を行った後に接地電極30の切断加工を行う従来の製造方法と比較して、接地電極30の切断加工の際に加わる応力によってチップ接合体と接地電極30との接合強度やチップ接合体内の接合強度(電極チップ70と中間部材76との接合強度)が低下することを抑制することができる。
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
B−1.第1変形例:
図9は、第1変形例における径方向溶融部81aの形成順序を示す説明図である。第1変形例では、径方向溶融部81aの形成順序が、図4に示した実施例とは異なっている。図9(a)には、図4(a)と同様に、レーザー照射高さL1に対応する平面における各径方向溶融部81aの形状を示すと共に、各径方向溶融部81aが形成される順番を括弧付きの数字で示している。また、図9(b)には、図4(b)と同様に、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81aが順に形成されていく経過を示している。
図9に示すように、第1変形例では、最初に下方向の径方向溶融部81aが形成され、その後は順に、右方向、上方向、左方向、右下方向、右上方向、左上方向、左下方向の径方向溶融部81aが形成される。すなわち、第1変形例では、8つの溶融部形成位置(径方向溶融部81aを形成すべき位置)の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81aが形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置で径方向溶融部81aが形成される。例えば、1番目の径方向溶融部81aの形成の後には、回転角度で約90度離れた溶融部形成位置で2番目の径方向溶融部81aが形成され、両者の間には1つの溶融部形成位置が存在する。また、4番目の径方向溶融部81aの形成の後には、回転角度で約135度離れた溶融部形成位置で5番目の径方向溶融部81aが形成され、両者の間には2つの溶融部形成位置が存在する。従って、第1変形例では、上述した実施例と同様に、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81a同士が近い位置に固まったり、溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81a同士が近い位置に固まったりすることが抑制され、結果的に、上述した同軸度に対応する値Sが0.2以下となる。
また、第1変形例では、1番目に形成される径方向溶融部81aは、チップ中心軸PLを挟んで、3番目に形成される径方向溶融部81aに対向し、2番目に形成される径方向溶融部81aは、4番目に形成される径方向溶融部81aに対向している。そのため、第1変形例では、形成される複数の径方向溶融部81aは、溶け込み深さkが平均より浅く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81aの組を含んでいると言える。また、第1変形例では、5番目に形成される径方向溶融部81aは、7番目に形成される径方向溶融部81aに対向し、6番目に形成される径方向溶融部81aは、8番目に形成される径方向溶融部81aに対向している。そのため、第1変形例では、形成される複数の径方向溶融部81aは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81aの組を含んでいると言える。このように、第1変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81a(1ないし4番目に形成される径方向溶融部81a)同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81a(5ないし8番目に形成される径方向溶融部81a)同士がチップ中心軸PLを挟んで対向している。
以上のように、第1変形例では、上記実施例と同様に、各径方向溶融部81aの溶け込み深さkが互いに異なっているため、より確実に電極チップ70aの脱落を防止することができる。また、第1変形例では、上記実施例と同様に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81aの配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70aの脱落を防止することができる。また、第1変形例では、上記実施例と同様に、形成される複数の径方向溶融部81aは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81aの組を含んでいるため、径方向溶融部81aの配置の偏りがさらに良好に抑制され、さらに確実に電極チップ70aの接地電極30の脱落を防止することができる。特に、第1変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81a同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81a同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、径方向溶融部81aの配置の偏りが極めて良好に抑制され、さらに確実に電極チップ70aの脱落を防止することができる。
B−2.第2変形例:
図10は、第2変形例における径方向溶融部81bの形成順序を示す説明図である。第2変形例では、径方向溶融部81bの形成順序が、図4に示した実施例とは異なっている。図10(a)には、図4(a)と同様に、レーザー照射高さL1に対応する平面における各径方向溶融部81bの形状を示すと共に、各径方向溶融部81bが形成される順番を括弧付きの数字で示している。また、図10(b)には、図4(b)と同様に、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81bが順に形成されていく経過を示している。
図10に示すように、第2変形例では、最初に下方向の径方向溶融部81bが形成され、その後は順に、右上方向、左方向、右下方向、上方向、左下方向、右方向、左上方向の径方向溶融部81bが形成される。すなわち、第2変形例では、8つの溶融部形成位置(径方向溶融部81bを形成すべき位置)の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81bが形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置で径方向溶融部81bが形成される。例えば、1番目の径方向溶融部81bの形成の後には、回転角度で約135度離れた溶融部形成位置で2番目の径方向溶融部81bが形成され、両者の間には2つの溶融部形成位置が存在する。また、2番目の径方向溶融部81bの形成の後には、回転角度で約135度離れた溶融部形成位置で3番目の径方向溶融部81bが形成され、両者の間には2つの溶融部形成位置が存在する。従って、第2変形例では、上述した実施例と同様に、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81b同士が近い位置に固まったり、溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81b同士が近い位置に固まったりすることが抑制され、結果的に、上述した同軸度に対応する値Sが0.2以下となる。
また、第2変形例では、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81bが形成された直後に径方向溶融部81bが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度は、常に一定(約135度)となっている。なお、このことは、「複数の径方向溶融部81b(チップ溶融部)が電極チップ70の全周にわたって形成され、x回目(xは1以上かつ(N−1)以下の整数)のレーザー照射工程により形成される径方向溶融部81b(チップ溶融部)と(x+1)回目のレーザー照射工程により形成される径方向溶融部81b(チップ溶融部)との間の径方向溶融部81b(チップ溶融部)の数をnとしたとき、N、x、及びnは、次の(1)及び(2)の条件を満たしている。
(1)1+n≦N−2
(2){(1+n)(x−1)+1}をVx,nとし、Nの整数倍がVx,n未満で最大となる数をNx,nとし、Vx,n−Nx,nをYx,nとしたとき、Yx1,n=Yx2,nを満たすx1、x2が存在しない(ただし、x1≠x2、x1≦N、x2≦N)」と表現できる。上記条件(1)は、上述したように各径方向溶融部81bを任意の径方向溶融部81bを起点として周に沿って順番にA1〜ANと表したとき、2回目のレーザー照射工程により形成される径方向溶融部81bがANである場合(すなわち、1+n=N−1の場合)を避けるための条件である。また、上記条件(2)は、x回目のレーザー照射工程までに数える径方向溶融部81bの数は(1+n)(x−1)+1であることから、この{(1+n)(x−1)+1}をVx,nとし、Nの整数倍がVx,n未満で最大となる数をNx,nとし、Vx,n−Nx,nをYx,nとしたとき、Yx1,n=Yx2,nを満たすx1、x2が存在する(つまり、x1回目のレーザー照射工程とx2回目のレーザー照射工程とが同じ位置で実行される)ことを避けるための条件である。なお、「複数の径方向溶融部81bが電極チップ70の全周にわたって形成され」とは、電極チップ70の全周にわたって複数の径方向溶融部81bが均等間隔で配置されていることまでを意味するものではなく、電極チップ70の全周にわたって複数の径方向溶融部81bが満遍なく配置されていることを意味する。
以上のように、第2変形例では、上記実施例と同様に、各径方向溶融部81bの溶け込み深さkが互いに異なっているため、より確実に電極チップ70bの脱落を防止することができる。また、第2変形例では、上記実施例と同様に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81bの配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70bの脱落を防止することができる。また、第2変形例では、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81bが形成された直後に径方向溶融部81bが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度が常に一定であるため、電極チップ70bと中間部材76bとの接合の際に、所定の回転数γ(rps)で電極チップ70bおよび中間部材76bをレーザー照射源に対して相対的に回転させ、レーザー照射源により一定の周波数fでレーザー照射を行えばよく、電極チップ70bの接合を効率的に実行することができる。
なお、このときのレーザー照射の周波数fは、(a)Nが奇数の場合には、f=γ・N/2であり、(b)N=4u(≠4v−2)(uは2以上の整数、vは3以上の整数)の場合には、f=γ・N/(N/2−1)であり、(c)N=4v−2(≠4u)の場合には、f=2γ・N/(N−4)であり、(d)N=4u=4v−2の場合には、f=γ・N/(N/2−1)又はf=2γ・N/(N−4)である。すなわち、第2変形例ではN=8であるため、式(b)に従って、周波数fは8/3γとなる。
B−3.第3変形例:
図11は、第3変形例における径方向溶融部81cの形成順序を示す説明図である。第3変形例では、径方向溶融部81cの数Nが9個である点が、図4に示した実施例とは異なっている。図11には、図4(b)と同様に、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81cが順に形成されていく経過を示している。なお、上述したように、本明細書では、図11のように径方向溶融部81cの形成経過を示す図においては、各径方向溶融部81cの溶け込み深さkを便宜的にすべて同一に表現している。
図11に示すように、第3変形例では、9つの溶融部形成位置(径方向溶融部81cを形成すべき位置)の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81cが形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置で径方向溶融部81cが形成される。例えば、1番目の径方向溶融部81cの形成の後には、回転角度で約80度離れた溶融部形成位置で2番目の径方向溶融部81cが形成され、両者の間には1つの溶融部形成位置が存在する。また、2番目の径方向溶融部81cの形成の後には、回転角度で約80度離れた溶融部形成位置で3番目の径方向溶融部81cが形成され、両者の間には1つの溶融部形成位置が存在する。従って、第3変形例では、上述した実施例と同様に、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81c同士が近い位置に固まったり、溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81c同士が近い位置に固まったりすることが抑制され、結果的に、上述した同軸度に対応する値Sが0.2以下となる。
また、第3変形例では、第2変形例と同様に、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81cが形成された直後に径方向溶融部81cが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度は、常に一定(約80度)となっている。
以上のように、第3変形例では、上記実施例と同様に、各径方向溶融部81cの溶け込み深さkが互いに異なっているため、より確実に電極チップ70cの脱落を防止することができる。また、第3変形例では、上記実施例と同様に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81cの配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70cの脱落を防止することができる。また、第3変形例では、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81cが形成された直後に径方向溶融部81cが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度が常に一定であるため、電極チップ70cと中間部材76cとの接合の際に、所定の回転数γ(rps)で電極チップ70cおよび中間部材76cをレーザー照射源に対して相対的に回転させ、レーザー照射源により一定の周波数fでレーザー照射を行えばよく、電極チップ70cの接合を効率的に実行することができる。第3変形例ではN=9であるため、レーザー照射の周波数fを示す上記式(a)に従って、周波数fは9/2γとなる。
B−4.第4変形例:
図12は、第4変形例における径方向溶融部81dの形成順序を示す説明図である。第4変形例では、径方向溶融部81dの数Nが10個である点が、図4に示した実施例とは異なっている。図12には、図4(b)と同様に、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81dが順に形成されていく経過を示している。なお、上述したように、本明細書では、図12のように径方向溶融部81dの形成経過を示す図においては、各径方向溶融部81dの溶け込み深さkを便宜的にすべて同一に表現している。
図12に示すように、第4変形例では、10個の溶融部形成位置(径方向溶融部81dを形成すべき位置)の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81dが形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置で径方向溶融部81dが形成される。例えば、1番目の径方向溶融部81dの形成の後には、回転角度で約108度離れた溶融部形成位置で2番目の径方向溶融部81dが形成され、両者の間には2つの溶融部形成位置が存在する。また、2番目の径方向溶融部81dの形成の後には、回転角度で約108度離れた溶融部形成位置で3番目の径方向溶融部81dが形成され、両者の間には2つの溶融部形成位置が存在する。従って、第4変形例では、上述した実施例と同様に、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81d同士が近い位置に固まったり、溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81d同士が近い位置に固まったりすることが抑制され、結果的に、上述した同軸度に対応する値Sが0.2以下となる。
また、第4変形例では、第2変形例と同様に、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81dが形成された直後に径方向溶融部81dが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度は、常に一定(約108度)となっている。
以上のように、第4変形例では、上記実施例と同様に、各径方向溶融部81dの溶け込み深さkが互いに異なっているため、より確実に電極チップ70dの脱落を防止することができる。また、第4変形例では、上記実施例と同様に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81dの配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70dの脱落を防止することができる。また、第4変形例では、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81dが形成された直後に径方向溶融部81dが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度が常に一定であるため、電極チップ70dと中間部材76dとの接合の際に、所定の回転数γ(rps)で電極チップ70dおよび中間部材76dをレーザー照射源に対して相対的に回転させ、レーザー照射源により一定の周波数fでレーザー照射を行えばよく、電極チップ70dの接合を効率的に実行することができる。第4変形例ではN=10であるため、レーザー照射の周波数fを示す上記式(c)に従って、周波数fは10/3γとなる。
B−5.第5変形例:
図13は、第5変形例における径方向溶融部81eの形成順序を示す説明図である。第5変形例では、径方向溶融部81eの数Nが12個である点が、図4に示した実施例とは異なっている。図13には、図4(b)と同様に、一連のレーザー溶接によって径方向溶融部81eが順に形成されていく経過を示している。なお、上述したように、本明細書では、図13のように径方向溶融部81eの形成経過を示す図においては、各径方向溶融部81eの溶け込み深さkを便宜的にすべて同一に表現している。
図13に示すように、第5変形例では、12個の溶融部形成位置(径方向溶融部81eを形成すべき位置)の内のある溶融部形成位置に径方向溶融部81eが形成された直後には、当該溶融部形成位置に隣接しない溶融部形成位置で径方向溶融部81eが形成される。例えば、1番目の径方向溶融部81eの形成の後には、回転角度で約150度離れた溶融部形成位置で2番目の径方向溶融部81eが形成され、両者の間には4つの溶融部形成位置が存在する。また、2番目の径方向溶融部81eの形成の後には、回転角度で約150度離れた溶融部形成位置で3番目の径方向溶融部81eが形成され、両者の間には4つの溶融部形成位置が存在する。従って、第5変形例では、上述した実施例と同様に、溶け込み深さkが比較的浅い径方向溶融部81e同士が近い位置に固まったり、溶け込み深さkが比較的深い径方向溶融部81e同士が近い位置に固まったりすることが抑制され、結果的に、上述した同軸度に対応する値Sが0.2以下となる。
また、第5変形例では、第2変形例と同様に、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81eが形成された直後に径方向溶融部81eが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度は、常に一定(約150度)となっている。
以上のように、第5変形例では、上記実施例と同様に、各径方向溶融部81eの溶け込み深さkが互いに異なっているため、より確実に電極チップ70eの脱落を防止することができる。また、第5変形例では、上記実施例と同様に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下であるため、当該平面方向における径方向溶融部81eの配置の偏りが抑制され、さらに確実に電極チップ70eの脱落を防止することができる。また、第5変形例では、ある溶融部形成位置と、当該溶融部形成位置に径方向溶融部81eが形成された直後に径方向溶融部81eが形成される溶融部形成位置と、の間の回転角度が常に一定であるため、電極チップ70eと中間部材76eとの接合の際に、所定の回転数γ(rps)で電極チップ70eおよび中間部材76eをレーザー照射源に対して相対的に回転させ、レーザー照射源により一定の周波数fでレーザー照射を行えばよく、電極チップ70eの接合を効率的に実行することができる。第5変形例ではN=12であるため、レーザー照射の周波数fを示す上記式(b)に従って、周波数fは12/5γとなる。
B−6.その他の変形例:
図14ないし図16は、その他の変形例における径方向溶融部81の形成態様を示す説明図である。図14(a)に示す変形例では、溶け込み深さkの異なる2種類の径方向溶融部81fがそれぞれ5つずつ形成されている。2種類の径方向溶融部81fは、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76fの外周に沿って互い違いに配置されている。そのため、図14(a)に示す変形例では、より確実に電極チップ70fの脱落を防止することができる。
図14(b)に示す変形例では、溶け込み深さkの異なる3種類の径方向溶融部81gがそれぞれ3つずつ形成されている。3種類の径方向溶融部81gは、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76gの外周に沿って各種類が1つずつ順に並ぶように配置されている。そのため、図14(b)に示す変形例では、より確実に電極チップ70gの脱落を防止することができる。
図14(c)に示す変形例では、溶け込み深さkの異なる2種類の径方向溶融部81hの内、溶け込み深さkが深い方が4つ、溶け込み深さkが浅い方が6つ形成されている。2種類の径方向溶融部81hは、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76hの外周に沿って配置されている。また、図14(c)に示す変形例では、形成される複数の径方向溶融部81hは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81hの組を含んでいるため、より確実に電極チップ70hの脱落を防止することができる。特に、図14(c)に示す変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81h同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81h同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、より確実に電極チップ70hの脱落を防止することができる。
図15(a)に示す変形例では、径方向溶融部81iが電極チップ70iおよび中間部材76iの外周に沿って連続的に形成されているが、同様に、径方向溶融部81iは溶け込み深さkの異なる2種類の径方向溶融部によって構成されている。径方向溶融部81iは、特定平面におけるチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76iの外周に沿って配置されている。また、図15(a)に示す変形例では、形成される複数の径方向溶融部81iは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81iの組を含んでいるため、より確実に電極チップ70iの脱落を防止することができる。特に、図15(a)に示す変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81i同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81i同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、より確実に電極チップ70iの脱落を防止することができる。
図15(b)に示す変形例では、径方向溶融部81jが電極チップ70jおよび中間部材76jの外周に沿って連続的に形成されているが、同様に、径方向溶融部81jは溶け込み深さkの異なる3種類の径方向溶融部によって構成されている。径方向溶融部81jは、特定平面におけるチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76jの外周に沿って配置されている。また、図15(b)に示す変形例では、形成される複数の径方向溶融部81jは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81jの組を含んでいるため、より確実に電極チップ70jの脱落を防止することができる。特に、図15(b)に示す変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81j同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81j同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、より確実に電極チップ70jの脱落を防止することができる。
図16(a)に示す変形例では、電極チップ70kおよび中間部材76kの平面形状が矩形であるが、同様に、溶け込み深さkの異なる2種類の径方向溶融部81kがそれぞれ4つずつ形成されている。2種類の径方向溶融部81kは、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76kの外周に沿って互い違いに配置されている。なお、電極チップ70の平面形状が円形でないときに、電極チップ70の径Dとは、特定平面におけるチップ中心軸PLを中心とする電極チップ70に内接する円の径である。また、図16(a)に示す変形例では、形成される複数の径方向溶融部81kは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81kの組を含んでいるため、より確実に電極チップ70kの脱落を防止することができる。特に、図16(a)に示す変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81k同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81k同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、より確実に電極チップ70kの脱落を防止することができる。
図16(b)に示す変形例では、中間部材76lの平面形状が矩形であるが、同様に、溶け込み深さkの異なる2種類の径方向溶融部81lがそれぞれ4つずつ形成されている。2種類の径方向溶融部81lは、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように、中間部材76lの外周に沿って互い違いに配置されている。また、図16(b)に示す変形例では、形成される複数の径方向溶融部81lは、溶け込み深さkが平均より深く、かつ、チップ中心軸PLを挟んで対向する径方向溶融部81lの組を含んでいるため、より確実に電極チップ70lの脱落を防止することができる。特に、図16(b)に示す変形例では、溶け込み深さkが平均値より小さい径方向溶融部81l同士がチップ中心軸PLを挟んで対向し、溶け込み深さkが平均値より大きい径方向溶融部81l同士がチップ中心軸PLを挟んで対向しているため、より確実に電極チップ70lの脱落を防止することができる。
上記実施例では、電極チップ70がレーザー溶接により中間部材76に接合され、電極チップ70が接合された中間部材76が接地電極30に接合されることによって、電極チップ70が間接的に接地電極30に接合されているが、電極チップ70が直接的に(中間部材76を介さず)接地電極30に接合されているとしてもよい。図17は、その他の変形例におけるスパークプラグ用の接地電極30mの詳細構成を示す説明図である。図17に示す変形例では、電極チップ70mが接地電極30mの凹部35m内に挿入された状態で、チップ中心軸PLに向かって外周側から照射されるレーザーによるレーザー溶接によって、接地電極30mの外周面から電極チップ70m内部まで達する径方向溶融部81mが形成され、これにより電極チップ70mが接地電極30mに直接的に接合されている。このような変形例においても、溶け込み深さkが異なる径方向溶融部81mを形成すると共に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように径方向溶融部81mを配置することにより、より確実に電極チップ70mの接地電極30mからの脱落を防止することができる。
また、上記実施例におけるスパークプラグ100およびその構成部品としての接地電極30の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、接地電極30や電極チップ70を形成する材料は、上記実施例に記載された材料に限られない。また、上記実施例では、各径方向溶融部81の溶け込み深さkが互いに異なっているとしているが、すべての径方向溶融部81の溶け込み深さkが互いに異なっている必要はない。複数の径方向溶融部81の中に、溶け込み深さkが互いに同じである径方向溶融部81が含まれていても、溶け込み深さkが互いに異なる少なくとも2つの径方向溶融部81が含まれていれば、より確実に電極チップ70の接地電極30からの脱落を防止することができる。
また、上記実施例では、各回のレーザー溶接を同一の条件(レーザー光出力や照射時間)で行い、後から行われるレーザー溶接により形成される径方向溶融部81ほど溶け込み深さkが深くなるようにしているが、各回のレーザー溶接の条件を変更することにより、溶け込み深さkの異なる径方向溶融部81を形成するとしてもよい。
また、上記実施例では、電極チップ70と中間部材76との接合の際に、電極チップ70および中間部材76をチップ中心軸PLを中心に回転させて径方向溶融部81を形成すべき各位置を順にレーザー照射装置に対向させ、各位置でレーザー溶接を行うことにより、各径方向溶融部81を順に形成しているが、反対に、電極チップ70および中間部材76を固定し、レーザー照射装置を電極チップ70および中間部材76の周囲に回転させて径方向溶融部81を形成すべき各位置を順にレーザー照射装置に対向させるものとしてもよい。また、電極チップ70および中間部材76の周囲に複数のレーザー照射装置を設置し、所定の順番に従って各レーザー照射装置を用いたレーザー溶接を行うとしてもよい。また、レーザー溶接は1箇所ずつ行う必要はなく、同時に複数の位置でレーザー溶接を行うことにより複数の径方向溶融部81を同時に形成するとしてもよい。
また、上記実施例では、本発明を接地電極30に適用した場合について説明したが、本発明は、中心電極20にも適用可能である。図18は、変形例における中心電極20nの構成を示す説明図である。図18に示す変形例の中心電極20nは、先端側の端部に電極チップ70nが接合されている。チップ中心軸PLに向かって外周側から照射されるレーザーによるレーザー溶接によって、中心電極20nの外周面から電極チップ70n内部まで達する径方向溶融部81nが形成され、これにより電極チップ70nが中心電極20nに直接的に接合される。図18に示す変形例において、溶け込み深さkが異なる径方向溶融部81nを形成すると共に、特定平面における複数のチップ溶融部の幾何学的重心Gとチップ中心軸PLとの距離が0.2D以下となるように径方向溶融部81nを配置することにより、より確実に電極チップ70nの中心電極20nからの脱落を防止することができる。
なお、上述した実施形態における本発明の構成要素のうち、独立請求項に記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。