本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
<I.脳炎または脳症の罹患リスク判定データの取得方法>
本発明にかかる脳炎または脳症の罹患リスク判定データの取得方法(以下、「本発明の判定データ取得方法」ともいう)は、被験者から分離した試料を用いて、該被験者が脳炎または脳症に罹患するリスクを判定するためのデータを取得するための方法である。
なお、上記被験者は特に限定されるものではなく、脳炎または脳症に罹患している者(罹患している可能性のある者)であってもよいし、脳炎または脳症に罹患していない者(罹患している可能性がない者)であってもよい。中でも、乳幼児、または小児に適用することが好ましい。
本明細書において、「脳炎」または「脳症」とは、様々なウイルス感染や薬剤が引き金になって起きる意識障害、けいれん、異常行動、異常なおびえや怒り、幻覚などの精神症状きたす急性脳炎または急性脳症、並びに長期にわたって持続する慢性脳炎または慢性脳症が意図される。具体的には、インフルエンザ脳症、ライ症候群、アスピリンやテオフィリンなどの薬剤でおきる脳症、および種々のウイルス感染に惹起された脳症などの急性脳炎または急性脳症、並びに、ラスムッセン脳炎等の慢性脳症または慢性脳炎を包含する。
これらの脳炎および脳症は、疾患を引き起こす原因はそれぞれ異なるため、すべての疾患を包括的に罹患リスクを判定することは、従来不可能であった。しかし、本発明によれば、後述する構成を備えているため、急性および慢性を問わず、あらゆる脳炎および脳症の罹患リスクを包括的に判定するためのデータを取得することができる。
本発明の判定データ取得方法は、具体的には、生体から分離した試料を用いて、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するαサブユニット1型、β1サブユニット、およびβ2サブユニットをコードする遺伝子群(以下、「ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群」ともいう)に含まれる少なくとも1つの遺伝子について、アミノ酸変化を伴う変異の有無を検出する工程を含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。
なお、本明細書において、「アミノ酸変化を伴う変異」とは、ミスセンス変異(アミノ酸が置換する)、ナンセンス変異(アミノ酸合成が途中で止まる)、フレームシフト(塩基の挿入、欠失により、変異位置より下流のアミノ酸配列が変化し、本来の機能を有しない)、スプライシング異常(該当エキソン領域の欠失等)、少数塩基挿入または欠失(一部のアミノ酸が新生、脱落するが下流は正常アミノ酸のまま合成)、エキソン領域微小欠失(エキソンが1つもしくは複数欠損)などが意図される。
本発明の判定データ取得方法は、具体的には、例えば、上記変異を検出するために、上記生体から分離した試料を前処理する工程等を含んでいてもよい。
上記ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群とは、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成する各サブユニットをそれぞれコードする遺伝子からなる群が意図される。
電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1は、αサブユニット1型、β1サブユニット、およびβ2サブユニットから構成されている。β1サブユニットおよびβ2サブユニットは、補助的なサブユニットである。
αサブユニット1型としては、NCBIアクセション番号BAC21101に登録されるポリペプチドを挙げることができる。また、αサブユニット1型をコードする遺伝子としては、SCN1Aとして、NCBIアクセション番号AB093548に登録されている塩基配列(すなわち、配列番号2に示される塩基配列)からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
β1サブユニットとしては、NCBIアクセション番号AAA60391に登録されるポリペプチドを挙げることができる。また、β1サブユニットをコードする遺伝子としては、SCN1Bとして、NCBIアクセション番号L10338に登録されている塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
また、β2サブユニットとしては、NCBIアクセション番号AAC26013に登録されるポリペプチドを挙げることができる。また、β2サブユニットをコードする遺伝子としては、SCN2Bとして、NCBIアクセション番号AF007783に登録されている塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
本発明の判定データ取得方法では、上記例示したようなナトリウムイオンチャネルを構成する各サブユニットをコードする遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子について、アミノ酸変化を伴う変異の有無を検出すればよい。
具体的には、少なくともαサブユニット1型をコードする遺伝子について、上記変異を検出することが好ましい。
上記構成によれば、脳炎または脳症の罹患リスクを精度よく判定することを可能にするデータを取得することができる。
また、上記変異を検出する対象遺伝子は、1つであってもよいが、複数であることが好ましい。このような構成によれば、脳炎または脳症の罹患リスクをより高精度に判定することを可能にするデータを取得することができる。
上記ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に含まれる遺伝子において検出する変異は、アミノ酸変化を伴うものであればよく、その具体的な変異は特に限定されるものではない。具体的には、変異には、ミスセンス変異(アミノ酸が置換する)、ナンセンス変異(アミノ酸合成が途中で止まる)、フレームシフト(塩基の挿入、欠失によりアミノ酸コドンのフレームがずれ、変異位置より下流のアミノ酸配列が変化し、本来の機能を有しない)、スプライシング異常(該当エキソン領域の欠失等)、少数塩基挿入または欠失(一部のアミノ酸が新生、脱落するが下流は正常アミノ酸のまま合成)、エキソン領域微小欠失(エキソンが1つもしくは複数欠損)が含まれる。また、変異は、遺伝子多型であってもよい。
上記遺伝子における変異の位置は特に限定されるものではないが、ナトリウムイオンチャネルの機能(換言すれば、活性)を変化させる位置における変異であることが好ましい。さらに、上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能の変化は、特に限定されるものではなく、機能亢進であってもよいし、機能低下であってもよい。すなわち、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能異常を示す変化であればよい。
このような変異としては、具体的には、例えば、配列番号2に示される塩基配列の第1702位のシトシン(C)の変異、好ましくは第1702位のシトシン(C)のチミン(T)への置換を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第568位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第568位のアルギニン(R)のストップコドンへの変異を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3006位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3006位のシトシン(C)の欠失を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1002位のアラニン(A)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1009位に終止コドンを生じる変異を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4721位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4721位のシトシン(C)のグアニン(G)への置換を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1574位のセリン(S)の変異、好ましくは第1574位のセリン(S)のストップコドンへの変異を挙げることができる。
さらに別の実施形態して、配列番号2に示される塩基配列の第5020位のグアニン(G)の変異、好ましくは第5020位のグアニン(G)のシトシン(C)への置換を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1674位のグリシン(G)の変異、好ましくは第1674位のグリシン(G)のアルギニン(R)への置換を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5726位のシトシン(C)の変異、好ましくは第5726位のシトシン(C)のチミン(T)への置換を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1909位のスレオニン(T)の変異、好ましくは第1909位のスレオニン(T)のイソロイシン(I)への置換を挙げることができる。
電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能異常にかかる変異は、上記例示的に示した変異に限定されないことはいうまでもない。
なお、本発明の判定データ取得方法において、変異の有無を検出する対象となる遺伝子は、上記のアクセション番号に登録されている塩基配列に限定されるものではない。つまり、上記例示した遺伝子がコードするタンパク質と実質的に同質の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子について、変異の有無を検出する構成も本発明に含まれる。
このような遺伝子としては、具体的には、例えば、上記のアクセション番号に登録されている塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(遺伝子)であり、該ポリヌクレオチドの翻訳産物が電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のサブユニットとしての機能を有する遺伝子を挙げることができる。
また、本発明にかかる判定データ取得方法においては、同じ遺伝子から生じるアイソフォームmRNAやタンパク質を変異の有無を検出する対象としてもよい。
本明細書において、「遺伝子」とは、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用されるものである。さらに、本明細書において、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ」するとは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の具体的な例として、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズし難くなる)。
「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)が包含される。
「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、動物のゲノム中に含まれる形態であるイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、また逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロンなどの非コード配列を含まない「転写」形DNAであってもよい。
本発明の判定データ取得方法において、遺伝子の変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
具体的には、例えば、PCRを利用したシークエンシング、SSCP(Single strand conformation polymorphism)などの変異検出法、リアルタイムPCRやDNAチップを用いた多型検出方法、遺伝子の各エキソンのmicro−deletionを検出する方法、mRNAの増減を検出するNorthern blot法、RT−PCR法, Real-time PCR法、およびcDNAアレイ法、並びに、タンパク質の増減を検出するウエスタンブロット法、免疫染色法、およびタンパクアレイ法等を挙げることができる。
ここでは、(A)生体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出する実施形態、(B)生体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて変異を検出する実施形態、(C)生体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて変異を検出する実施形態に分けて、より具体的に説明する。
(A)ゲノムDNAを用いる実施形態
生体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出する実施形態では、まず、被験者から分離された試料から、従来公知の方法を用いて、ゲノムDNAを抽出する。
被験者から分離された試料は、特に限定されるものではなく、ゲノムDNAを抽出可能なものであればよい。具体的には、例えば、血液、骨髄液、毛髪、各臓器、末梢リンパ球、滑膜細胞を挙げることができる。また、被験者から分離した細胞を培養し、増殖したものからゲノムDNAを抽出してもよい。
また、抽出したゲノムDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、およびICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅して用いてもよい。
こうして調製されたゲノムDNAを含有する試料を用いて、変異を検出する対象となる遺伝子における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、アリル特異的オリゴヌクレオチドプローブ法、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(Oligonucleotide Ligation Assay)法、PCR−SSCP法、PCR−CFLP法、PCR−PHFA法、インベーダー法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、プライマーオリゴベースエクステンション(Primer Oligo Base Extension)法等を挙げることができる。
より具体的には、例えば、ゲノムDNAから、変異の有無を検出する対象となる遺伝子のエキソンを含む領域、好ましくは変異位置を含むエキソン領域、または、エキソンとイントロンとの境界領域、好ましくは変異位置を含むエキソンとイントロンとの境界領域を増幅後、得られたPCR産物をダイレクトシークエンスすることによって該遺伝子における変異の有無を検出することができる。
また、ゲノムDNAを適当な制限酵素で消化し、切断されたゲノムDNA断片のサイズの違いをサザンブロッティングなどで検出することによっても、遺伝子における変異の有無を検出することができる。
また、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に含まれる複数の遺伝子について、変異の有無を検出する場合、マルチプレートを用いるなど、従来公知の多サンプルの処理方法を上記方法と組み合わせて用いてもよい。
また、蛍光標識したプライマーを用いて各エキソンを増幅後、ゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動法にて各シグナルの強さを検討する方法により、エキソンの欠失を検出することも可能である。
このように、生体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異を検出することにより、被験者が脳炎または脳症に罹患するリスクを判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に変異が見出された場合には、該被験者は脳炎または脳症に罹患する可能性が高いと判定することができる。
なお、変異の検出方法において使用されるプライマーおよびプローブは、常法により、DNAシンセサイザーなどにより作製することができる。
(B)mRNA(cDNA)を用いる場合
生体から分離された試料に含有されるmRNAを用いて変異を検出する実施形態では、まず、被験者から分離された試料から、従来公知の方法を用いて、mRNAを抽出する。
上記被験者から分離された試料は、特に限定されるものではなく、mRNAを抽出可能であり、変異を検出する対象となる遺伝子を発現している、または発現している可能性があるものであればよい。
具体的には、例えば、患者の末梢血白血球細胞や皮膚線維芽細胞、口腔粘膜細胞、筋細胞が好ましい。
続いて、その抽出したmRNAから逆転写反応によってcDNAを作製する。さらに、得られたcDNAを必要に応じて、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法SDA(Strand Displacement Amplification)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、およびICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅してもよい。
こうして調製されたcDNAを含有する試料を用いて、変異を検出する対象となる遺伝子における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記ゲノムDNAを用いて遺伝子の変異を検出する場合と同様の方法を用いて、変異を検出する対象となる遺伝子の変異の有無を検出することができる。
このように、生体から分離された試料に含有されるmRNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異を検出することにより、被験者が脳炎または脳症に罹患するリスクを判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に変異が見出された場合には、該被験者は脳炎または脳症に罹患する可能性が高いと判定することができる。
(C)タンパク質を用いる場合
生体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて変異を検出する実施形態では、まず、被験者から分離された試料から、従来公知の方法を用いて、タンパク質を抽出する。
上記被験者から分離された試料は、特に限定されるものではなく、タンパク質を抽出可能であり、変異を検出する対象となる遺伝子の翻訳産物(換言すれば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1)を発現している、または発現している可能性があるものであればよい。
こうして調製されたタンパク質を含有する試料を用いて、変異を検出する対象となる遺伝子における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、変異を検出する対象となる遺伝子の翻訳産物(タンパク質)について、特定の変異をもつポリペプチドのみを特異的に認識する抗体を作製し、該抗体を用いたELISA法やウエスタンブロット法により変異を検出することができる。なお、本明細書において、用語「タンパク質」は、「ポリペプチド」又は「ペプチド」と交換可能に使用される。
また、上記タンパク質を含有する試料から、変異を検出する対象となる遺伝子の翻訳産物(タンパク質)を単離し、直接または必要に応じ、酵素等で切断し、プロテインシークエンサーや、質量分析装置を利用して変異を検出することができる。
さらに、上記タンパク質を含有する試料から、変異を検出する対象となる遺伝子の翻訳産物(タンパク質)を単離し、該ポリペプチドの等電点に基づいて、変異を検出することもできる。
このように、生体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異を検出することにより、被験者が脳炎または脳症に罹患するリスクを判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、変異を検出する対象となる遺伝子の翻訳産物(タンパク質)に変異が見出された場合には、該被験者は脳炎または脳症に罹患する可能性が高いと判定することができる。
本発明の判定データ取得方法は、上説した構成を備えているため、該判定データ取得方法により取得したデータによれば、被験者が脳炎または脳症に罹患するリスクの可能性を事前に診断することができる。
そのため、本発明の判定データ取得方法によれば、脳炎または脳症による死亡率や後遺症の成績を向上させることができる。また、家族の精神的負担や経済的負担を軽減し、さらには適切な治療を施すことによって医療費を削減することができる。
<II.脳炎または脳症の罹患リスク判定キット>
本発明には、本発明の判定データ取得方法を用いて、脳炎または脳症の罹患リスクを判定するためのデータを取得するために用いる脳炎または脳症の罹患リスク判定キット(以下、単に「本発明の判定キット」ともいう)も含まれる。
本発明の判定キットは、具体的には、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群(すなわち、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群)のうち、少なくとも1つの遺伝子における変異の有無を検出するための試薬を少なくとも含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。
ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するための試薬としては、例えば、プライマー、プローブ、および抗体などを挙げることができる。これらの試薬は、単独で含まれてもよく、また、複数の組み合わせで含まれていてもよい。さらに、上記判定キットは、上記例示する試薬以外のその他の試薬を含んでいてもよい。
具体的には、ゲノムDNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するキットとしては、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子のエキソン領域もしくはエキソンとイントロンとの境界領域、またはそれらの一部を増幅できるように設計されたプライマーや、変異型または野生型の一方のエキソン領域もしくはエキソンとイントロンとの境界領域、またはそれらの一部(換言すれば、特定の遺伝子型のエキソンもしくはエキソンとイントロンとの境界領域、またはそれらの一部)のみを特異的に検出できるように設計されたプローブを含む構成を挙げることができる。
上記プライマーおよびプローブの配列は特に限定されるものではないが、例えば、プライマーとしては、後述の実施例で用いたプライマーを挙げることができる。ただし、本発明は、後述の実施例に限定されないことはいうまでもない。
さらに、このような判定キットでは、上記プライマーやプローブに加えて、PCR法やサザンブロット法、核酸シークエンシングに用いられる試薬など、上記遺伝子における変異の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
なお、上記試薬は、本発明の検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、PCR法やサザンブロット法、核酸シークエンシングに用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
また、mRNA(cDNA)または全RNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するキットとしては、上記遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子のcDNAまたはその一部の領域を増幅できるように設計されたプライマーや、変異型または野生型の一方のmRNAもしくはその一部(換言すれば、特定の遺伝子型のmRNAまたはその一部)のみを特異的に検出できるように設計されたプローブを含む構成を挙げることができる。
さらに、このような判定キットでは、上記プライマーやプローブに加えて、RT−PCR法やノザンブロット法、核酸シークエンシングに用いられる試薬など、上記遺伝子における変異の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
なお、上記試薬は、本発明の検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、RT−PCR法やノザンブロット法、核酸シークエンシングに用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
また、タンパク質レベルでナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するキットとしては、例えば、該遺伝子群の翻訳産物であるポリペプチド(タンパク質)のうち、野生型または変異型のポリペプチドもしくはその一部の一方のみに特異的に結合する抗体(換言すれば、特定の遺伝子型の翻訳産物であるポリペプチドまたはその一部のみに特異的に結合する抗体)を含むキット等が挙げられる。
さらに、このような判定キットでは、上記抗体に加えて、ELISA法や、ウエスタンブロット法、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の活性測定に用いられる試薬など、上記遺伝子における変異(換言すれば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1における変異)の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
また、本発明の判定キットは、上記例示した構成物をどのように組み合わせて含んでいてもよい。
上説したような本発明の判定キットを用いることにより、被験者が脳炎または脳症に罹患するリスクを、脳炎または脳症の罹患前に判定するためのデータを取得することができる。
本発明の判定キットが適用される被験者は、特に限定されるものではないが、乳幼児、または小児に適用することが好ましい。
<III.脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング細胞およびその製造方法>
本発明によれば、培養細胞において、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群に含まれる少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を導入することにより、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の活性が変化した細胞を製造することができる。
換言すれば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のサブユニットをコードする遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異が導入された形で、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群が発現する培養細胞を製造することができる。
このような細胞は、脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニングに好適に用いることができる。つまり、このような細胞は、治療薬剤のスクリーニング細胞ということができる。
したがって、本発明には、このような脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング細胞(以下、単に「スクリーニング細胞」ともいう)およびその製造方法も含まれる。
本発明にかかるスクリーニング細胞は、具体的には、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を有する細胞である。
例えば、変異型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を発現するように、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異が導入されている細胞が挙げられる。
このような細胞では、変異型の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1が発現しており、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能が変化している。この機能変化は特に限定されるものではない。
上記遺伝子群におけるこのような変異および変異を導入する遺伝子については、<I.脳炎または脳症の罹患リスク判定データの取得方法>で説明した通りであるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
本明細書において、「治療薬剤のスクリーニング細胞」とは、ヒトの疾患に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験用培養細胞をいい、具体的には、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サルなどの哺乳動物、およびその他の脊椎動物が挙げられる。
本発明にかかる脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング細胞の製造方法は、上記の特性を有する細胞を製造する方法であり、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群に含まれる少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を導入する工程を含んでいればよい。
より具体的には、以下の3つの実施形態を挙げることができる。ここでは、以下の3つの実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
(1)発現ベクター等を用いる方法
この方法では、まず、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群(αサブユニット1型、β1サブユニット、およびβ2サブユニット)のうち、少なくとも1つの遺伝子にはアミノ酸変化を伴う変異を含んでいる遺伝子群を、発現ベクター等を用いて、宿主となる培養細胞内において発現させる。これにより、本発明にかかるスクリーニング細胞を製造することができる。
このとき、宿主となる培養細胞は電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1が発現していない細胞であることが好ましい。このような細胞によれば、内在の電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の影響を受けることがない。
なお、本方法において、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されるものではない。
(2)人為的な変異導入を用いる方法
この方法では、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を発現している培養細胞に、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を導入する。これにより、本発明にかかるスクリーニング細胞を製造することができる。
上記培養細胞に変異を導入する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の遺伝子操作技術を適宜組み合わせて用いればよい。
(3)モデル動物を用いる方法
この方法では、まず、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群に含まれる少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を有するモデル動物を作製する。次に、該モデル動物から組織を摘出し、その組織から培養細胞を作製する。これにより、本発明にかかるスクリーニング細胞を製造することができる。
上記モデル動物は、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子に変異が導入されているため、脳炎または脳症を発症する。すなわち、上記モデル動物は、脳炎または脳症を人為的に発症させた脳炎または脳症の発症モデル動物ということができる。
本発明には、このようなモデル動物、すなわち、脳炎または脳症の発症モデル動物、およびその製造方法も含まれる。
本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物は、具体的には、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を有する。該脳炎または脳症の発症モデル動物は、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能に異常があることが好ましい。
上記遺伝子群におけるこのような変異および変異を導入する遺伝子については、<I.脳炎または脳症の罹患リスク判定データの取得方法>で説明した通りであるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
本明細書において、「モデル動物」とは、ヒトの疾患に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験動物をいい、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、イヌなどの非ヒト哺乳動物、およびその他の脊椎動物が挙げられる。
本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物の製造方法は、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異が導入されるように、モデル動物の上記遺伝子群を操作する工程を含んでいればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されるものではない。
本明細書において、「モデル動物の遺伝子を操作する」とは、従来公知の遺伝子操作技術を用いて、モデル動物の遺伝子を操作することが意図される。具体的には、モデル動物の遺伝子を破壊したり、当該遺伝子に変異を導入したり、当該遺伝子を変異型遺伝子で置換したり、さらには、当該モデル動物に外来遺伝子を導入したり、モデル動物を交雑したりすることをすべて包含する意味である。
本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物の製造方法によれば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異が導入されるように、モデル動物の上記遺伝子群を操作することにより、脳炎または脳症を発症したモデル動物を製造することができる。
<IV.脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング方法>
本発明にかかるスクリーニング細胞、および脳炎または脳症の発症モデル動物は、新たな脳炎または脳症の治療方法や治療薬剤の開発に用いることができる。したがって、本発明には、脳炎または脳症の治療薬の治療薬剤をスクリーニングする脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング方法(以下、単に「スクリーニング方法」ともいう)が含まれる。
ここでは、本発明にかかるスクリーニング方法の一実施形態として、本発明にかかるスクリーニング細胞を用いる実施形態と、本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物を用いる実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、例えば、本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物に代えて、他の脳炎または脳症の発症モデル動物を用いる実施形態とすることもできる。
(1)本発明にかかるスクリーング細胞を用いる場合
本発明にかかるスクリーニング細胞に候補薬剤を投与する工程と、該候補薬剤が投与された脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング細胞において、ナトリウムイオンチャネルの活性が変化したかを判定する工程とを少なくとも含む。
つまり、本実施形態にかかるスクリーニング方法によれば、本発明にかかるスクリーニング細胞に候補薬剤を投与し、当該候補薬剤を投与されたスクリーニング細胞におけるナトリウムイオンチャネルの活性が変化していることを指標として、上記候補薬剤が脳炎または脳症の治療薬剤となりうるかを判定することができる。
上記候補薬剤は、特に限定されるものではないが、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の発現に影響を及ぼすことが期待される化合物、または電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の活性に影響を及ぼすことが期待される化合物(例えば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1に対する阻害剤や阻害剤の候補物質、または作動薬や作動薬の候補物質)であることが好ましい。
また、上記候補薬剤は、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子もしくはその核酸配列の一部からなるポリヌクレオチドを含む発現プラスミドベクターもしくはウイルスベクターであってもよい。
このような候補薬剤を本発明にかかるスクリーニング細胞に投与する方法は、特に限定されるものではなく、その候補薬剤の物性等に応じて、それに適した方法を従来公知のものから選択して用いればよい。
また、該候補薬剤が投与されたスクリーニング細胞における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の活性が変化したか否かを判定する方法は特に限定されるものではなく、電気生理学的測定機器や蛍光色素観察機器などを用いて判定すればよい。
(2)本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物を用いる場合
本発明にかかる脳炎または脳症の発症モデル動物に候補薬剤を投与する工程と、該候補薬剤が投与された脳炎または脳症の発症モデル動物の脳炎または脳症が治癒または改善されたか否かを判定する工程とを含んでいればよい。つまり、本発明にかかる脳炎または脳症の治療薬剤のスクリーニング方法によれば、脳炎または脳症の発症モデル動物に候補薬剤を投与し、当該候補薬剤を投与された脳炎または脳症の発症モデル動物において、脳炎または脳症が治癒または改善していることを指標として、上記候補薬剤が脳炎または脳症の治療薬剤となりうるかを判定することができる。
上記候補薬剤は、特に限定されるものではなく、(1)本発明にかかるスクリーング細胞を用いる場合と同様の物質を挙げることができる。
このような候補薬剤を本発明にかかる脳炎または脳症発症モデル動物に投与する方法は、特に限定されるものではなく、その候補薬剤の物性等に応じて、それに適した方法を従来公知のものから選択して用いればよい。
また、該候補薬剤が投与された脳炎または脳症の発症モデル動物の脳炎または脳症が治癒または改善されたか否かを判定する方法は特に限定されるものではなく、脳炎または脳症に特徴的症状を指標に判定すればよい。
<V.熱性けいれんのてんかんへの移行リスク判定データの取得方法>
本発明にかかる熱性けいれんのてんかんへの移行リスク判定データの取得方法は、熱性けいれん既往者である被験者から分離した試料を用いて、該被験者がてんかん患者へ移行するリスクを判定するためのデータを取得するための方法である。
上記被験者は、熱性けいれんの既往者であれば特に限定されるものではないが、小児には約8%の高い確率で熱性けいれんが発症し、大多数は6歳までに治癒することに鑑み、生後6歳未満の小児であることが好ましく、1歳未満に熱性けいれんを発症した者の中に、6歳以降もてんかんが持続する難治性てんかん患者が含まれることが多いため、1歳未満の小児であることが好ましい。
本明細書において、「熱性けいれん」とは、発熱によって起こるけいれん発作が意図される。例えば、感冒などのウイルス感染や細菌感染などによる38℃以上の発熱に伴って1−5分持続する全身のけいれんを挙げることができる。また、本明細書において、「てんかん」とは、発熱とは無関係に生じうる慢性的なけいれん発作が意図される。
本発明の判定データ取得方法は、具体的には、生体から分離した試料を用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に含まれる少なくとも1つの遺伝子について、アミノ酸変化を伴う変異の有無を検出する工程を含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。
本発明の判定データ取得方法は、具体的には、例えば、上記変異を検出するために、上記生体から分離した試料を前処理する工程等を含んでいてもよい。
本発明の判定データ取得方法では、上記例示したようなナトリウムイオンチャネルを構成する各サブユニットをコードする遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子について、アミノ酸変化を伴う変異の有無を検出すればよい。
具体的には、少なくともαサブユニット1型をコードする遺伝子について、上記変異を検出することが好ましい。
上記構成によれば、熱性けいれんのてんかんへの移行リスクを精度よく判定することを可能にするデータを取得することができる。
また、上記変異を検出する対象遺伝子は、1つであってもよいが、複数であることが好ましい。このような構成によれば、熱性けいれんのてんかんへの移行リスクをより高精度に判定することを可能にするデータを取得することができる。
上記ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に含まれる遺伝子において検出する変異は、アミノ酸変化を伴うものであればよく、その具体的な変異は特に限定されるものではない。具体的には、変異には、ミスセンス変異(アミノ酸が置換する)、ナンセンス変異(アミノ酸合成が途中で止まる)、フレームシフト(塩基の挿入、欠失によりアミノ酸コドンのフレームがずれ、変異位置より下流のアミノ酸配列が変化し、本来の機能を有しない)、スプライシング異常(該当エキソン領域の欠失等)、少数塩基挿入または欠失(一部のアミノ酸が新生、脱落するが下流は正常アミノ酸のまま合成)、エキソン領域微小欠失(エキソンが1つもしくは複数欠損)が含まれる。また、変異は、遺伝子多型であってもよい。
上記遺伝子における変異の位置は特に限定されるものではないが、ナトリウムイオンチャネルの機能(換言すれば、活性)を変化させる位置における変異であることが好ましい。さらに、上記電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能の変化は、特に限定されるものではなく、機能亢進であってもよいし、機能低下であってもよい。すなわち、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能異常を示す変化であればよい。
このような変異としては、具体的には、例えば、配列番号2に示される塩基配列の第4723位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4723位のシトシン(C)がチミン(T)に置換された変異(C4723T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1575位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第1575位のアルギニン(R)のシステイン(C)への変異(R1575C)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4847位のチミン(T)の変異、好ましくは第4847位のチミン(T)がシトシン(C)に置換された変異(T4847C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1616位のイソロイシン(I)の変異、好ましくは第1616位のイソロイシン(I)のスレオニン(T)への変異(I1616T)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5305位のチミン(T)の変異、好ましくは第5305位のチミン(T)がシトシン(C)に置換された変異(T5305C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1769位のチロシン(Y)の変異、好ましくは第1769位のチロシン(Y)のヒスチジン(H)への変異(Y1769H)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5567位のチミン(T)の変異、好ましくは第5567位のチミン(T)がシトシン(C)に置換された変異(T5567C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1856位のメチオニン(M)の変異、好ましくは第1856位のメチオニン(M)のスレオニン(T)への変異(M1856T)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第488位のグアニン(G)の変異、好ましくは第488位のグアニン(G)がアデニン(A)に置換された変異(G488A)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第163位のグリシン(G)の変異、好ましくは第163位のグリシン(G)のグルタミン酸(E)への変異(G163E)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4615位のアデニン(A)の変異、好ましくは第4615位のアデニン(A)がシトシン(C)に置換された変異(A4615C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1539位のスレオニン(T)の変異、好ましくは第1539位のスレオニン(T)のプロリン(P)への変異(T1539P)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4284位と4285位との間のゲノムDNAに存在するイントロン21のうち、最後から2つ目の位置(-2位)のアデニン(A)の変異、好ましくはイントロン21の最後から2つ目の位置(-2位)のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異(イントロン21 ag(−2)gg)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1429位以降のスプライシング異常、好ましくは第1429位以降の欠失を挙げることができる。
配列番号2に示される塩基配列の第4284(エキソン21)と4285位(エキソン22)の間のゲノムDNAに存在するイントロン21の最後から2つの塩基配列はagであり、エキソン22の始めにつながる。一般的に、イントロン21の上記agはスプライシングを受ける認識配列であるため、ここに異常があると、イントロンがまだ続いているとみなされ、その直後のエキソン(もしくはその下流)は異常なスプライシングを生じてしまい、全長蛋白ができなくなってしまう。
さらに、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3006位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3006位のシトシン(C)の欠失(C3006del)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1002位のアラニン(A)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1009位に終止コドンを生じる変異(A1002fsX1009)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4168位のグアニン(G)の変異、好ましくは第4168位のグアニン(G)がアデニン(A)に置換された変異(G4168A)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1390位のバリン(V)の変異、好ましくは第1390位のバリン(V)のメチオニン(M)への変異(V1390M)を挙げることができる。
さらに、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4286位から第4290位間の5塩基CCACAの変異、好ましくは第4286位から第4290位間のCCACAのATGTCCへの置換を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1429位のアラニン(A)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1443位に終止コドンを生じる変異(A1429fsX1443)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2705位のチミン(T)の変異、好ましくは第2705位のチミン(T)がグアニン(G)に置換された変異(T2705G)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第902位のフェニルアラニン(F)の変異、好ましくは第902位のフェニルアラニン(F)のシステイン(C)への変異(F902C)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4721位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4721位のシトシン(C)のグアニン(G)への置換(C4721G)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1574位のセリン(S)の変異、好ましくは第1574位のセリン(S)のストップコドンへの変異(S1574X)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3829位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3829位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C3829T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1277位のグルタミン(Q)の変異、好ましくは第1277位のグルタミン(Q)のストップコドンへの変異(Q1277X)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3867位のシトシン(C)、第3868位のチミン(T)および第3869位のチミン(T)の変異、好ましくは第3867位のシトシン(C)、第3868位のチミン(T)および第3869位のチミン(T)の欠失を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1289位のフェニルアラニン(F)の変異、好ましくは第1289位のフェニルアラニン(F)欠失(F1289del)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第529位のグアニン(G)の変異、好ましくは529位のグアニン(G)がアデニン(A)に置換された変異(G529A)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第177位のグリシン(G)の変異、好ましくは第177位のグリシン(G)のアルギニン(R)への変異(G177R)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3794位のチミン(T)の変異、好ましくは第3794位のチミン(T)がシトシン(C)に置換された変異(T3794C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1265位のロイシン(L)の変異、好ましくは第1265位のロイシン(L)のプロリン(P)への変異(L1265P)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2970位のグアニン(G)の変異、好ましくは第2970位のグアニン(G)がチミン(T)に置換された変異(G2970T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第990位のロイシン(L)の変異、好ましくは第990位のロイシン(L)のフェニルアラニン(F)への変異(L990F)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4349位のアデニン(A)の変異、好ましくは第4349位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異(A4349G)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1450位のグルタミン(Q)の変異、好ましくは第1450位のグルタミン(Q)のアルギニン(R)への変異(Q1450R)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3245位のシトシン(C)の変異、好ましくは第3245位のシトシン(C)の欠失(C3245del)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1082位のスレオニン(T)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1086位に終止コドンを生じる変異を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5726位のシトシン(C)の変異、好ましくは第5726位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C5726T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1909位のスレオニン(T)の変異、好ましくは第1909位のスレオニン(T)のイソロイシン(I)への置換(T1909I)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2791位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2791位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C2791T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第931位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第931位のアルギニン(R)のシステイン(C)への置換(R931C)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2213位のグアニン(G)の変異、好ましくは第2213位のグアニン(G)の欠失(G2213del)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第738位のトリプトファン(W)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第746位に終止コドンを生じる変異(W738fsX746)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5640位から第
5645位間の6塩基AGAGATの変異、好ましくは第5640位から第5645位間の6塩基AGAGATのCTAGAGTAへの置換を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1880位のグリシン(G)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第1881位に終止コドンを生じる変異(G1880fsX1881)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2134位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2134位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C2134T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第712位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第712位のアルギニン(R)のストップコドンへの変異(R712X)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4721位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4721位のシトシン(C)のグアニン(G)への置換(C4721G)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1574位のセリン(S)の変異、好ましくは第1574位のセリン(S)のストップコドンへの変異(S1574X)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5020位のグアニン(G)の変異、好ましくは第5020位のグアニン(G)のシトシン(C)への置換(G5020C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1674位のグリシン(G)の変異、好ましくは第1674位のグリシン(G)のアルギニン(R)への置換(G1674R)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第5054位のシトシン(C)の変異、好ましくは第5054位のシトシン(C)のアデニン(A)への置換(C5054A)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1685位のアラニン(A)の変異、好ましくは第1685位のアラニン(A)のアスパラギン酸(D)への置換(A1685D)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3079位のアデニン(A)の変異、好ましくは第3079位のアデニン(A)のチミン(T)への置換(A3079T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1027位のリシン(K)の変異、好ましくは第1027位のリシン(K)のストップコドンへの変異(K1027X)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第1641位の変異、好ましくは第1641位へのアデニン(A)の挿入(1641insA)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第547位のリシン(K)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第570位に終止コドンを生じる変異(K547fsX570)を挙げることができる。
さらに、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2120位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2120位のシトシン(C)の欠失(C2120del)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第707位のプロリン(P)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第714位に終止コドンを生じる変異(P707fsX714)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4942位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4942位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C4942T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1648位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第1648位のアルギニン(R)のシステイン(C)への置換(R1648C)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第1130位のグアニン(G)の変異、好ましくは第1130位のグアニン(G)のチミン(T)への置換(G1130T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第377位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第377位のアルギニン(R)のロイシン(L)への置換(R377L)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第1502位のグアニン(G)の変異、好ましくは第1502位のグアニン(G)の欠失(G1502del)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第501位のアルギニン(R)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第543位に終止コドンを生じる変異(R501fsX543)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2593位のシトシン(C)の変異、好ましくは第2593位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C2593T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第865位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第865位のアルギニン(R)のストップコドンへの変異(R865X)を挙げることができる。
また、別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第1820位のシトシン(C)の変異、好ましくは第1820位のシトシン(C)の欠失(C1820del)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第607位のセリン(S)の変異、好ましくは、フレームシフトにより第622位に終止コドンを生じる変異(S607fsX622)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第635位のチミン(T)の変異、好ましくは第635位のチミン(T)のシトシン(C)への置換(T635C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第212位のバリン(V)の変異、好ましくは第212位のバリン(V)のアラニン(A)への置換(V212A)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第3812位のグアニン(G)の変異、好ましくは第3812位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G3812A)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1271位のトリプトファン(W)の変異、好ましくは第1271位のトリプトファン(W)のストップコドンへの変異(W1271X)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4300位のチミン(T)の変異、好ましくは第4300位のチミン(T)のシトシン(C)への置換(T4300C)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1434位のトリプトファン(W)の変異、好ましくは第1434位のトリプトファン(W)のアルギニン(R)への置換(W1434R)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第2362位のグアニン(G)の変異、好ましくは第2362位のグアニン(G)のアデニン(A)への置換(G2362A)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第788位のグルタミン酸(E)の変異、好ましくは第788位のグルタミン酸(E)のリシン(K)への置換(E788K)を挙げることができる。
さらに別の実施形態として、配列番号2に示される塩基配列の第4786位のシトシン(C)の変異、好ましくは第4786位のシトシン(C)のチミン(T)への置換(C4786T)を挙げることができる。つまり、αサブユニット1型(NCBIアクセション番号BAC21101)のアミノ酸配列における第1596位のアルギニン(R)の変異、好ましくは第1596位のアルギニン(R)のシステイン(C)への置換(R1596C)を挙げることができる。
電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能異常にかかる変異は、上記例示的に示した変異に限定されないことはいうまでもない。
なお、本発明の判定データ取得方法において、変異の有無を検出する対象となる遺伝子は、上記のアクセション番号に登録されている塩基配列に限定されるものではない。つまり、上記例示した遺伝子がコードするタンパク質と実質的に同質の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子について、変異の有無を検出する構成も本発明に含まれる。
このような遺伝子としては、具体的には、例えば、上記のアクセション番号に登録されている塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(遺伝子)であり、該ポリヌクレオチドの翻訳産物が電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のサブユニットとしての機能を有する遺伝子を挙げることができる。
また、本発明にかかる判定データ取得方法においては、同じ遺伝子から生じるアイソフォームmRNAやタンパク質を変異の有無を検出する対象としてもよい。
本発明の判定データ取得方法において、遺伝子の変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
具体的には、例えば、PCRを利用したシークエンシング、SSCP(Single strand conformation polymorphism)などの変異検出法、リアルタイムPCRやDNAチップを用いた多型検出方法、遺伝子の各エキソンのmicro−deletionを検出する方法、mRNAの増減を検出するNorthern blot法、RT−PCR法, Real-time PCR法、およびcDNAアレイ法、並びに、タンパク質の増減を検出するウエスタンブロット法、免疫染色法、およびタンパクアレイ法等を挙げることができる。
遺伝子の変異の有無を検出する方法の実施形態としては、例えば、(A)生体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出する実施形態、(B)生体から分離された試料に含有されるmRNA(cDNA)を用いて変異を検出する実施形態、(C)生体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて変異を検出する実施形態を挙げることができる。上記(A)〜(C)の具体的内容については、<I.脳炎または脳症の罹患リスク判定データの取得方法>と同じである。
生体から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いてナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異を検出することにより、熱性けいれんがてんかんに移行するリスクを判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に変異が見出された場合には、熱性けいれんの既往者はてんかん患者に移行する可能性が高いと判定することができる。
また、生体から分離された試料に含有されるmRNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異を検出することにより、熱性けいれんがてんかんに移行するリスクを判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群に変異が見出された場合には、熱性けいれんの既往者はてんかん患者に移行する可能性が高いと判定することができる。
さらに、生体から分離された試料に含有されるタンパク質を用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異を検出することにより、熱性けいれんがてんかんに移行するリスクを判定するためのデータを取得することができる。具体的には、取得されたデータにおいて、変異を検出する対象となる遺伝子の翻訳産物(タンパク質)に変異が見出された場合には、熱性けいれんの既往者はてんかん患者に移行する可能性が高いと判定することができる。
本発明にかかる、熱性けいれんのてんかんへの移行リスク判定データの取得方法は上説した構成を備えているため、該判定データ取得方法により取得したデータによれば、熱性けいれんがてんかんへ移行するリスクの可能性を事前に診断することができる。
そのため、本発明の判定データ取得方法によれば、てんかんへ移行する可能性のある患者に対して早期に適切な処置を施すことが可能となり、死亡率や後遺症の低減のみならず、家族の精神的負担や経済的負担の軽減、さらには適切な治療を施すことによる医療費の削減に貢献することができる。
(VI.熱性けいれんのてんかんへの移行リスク判定キット)
本発明には、本発明の判定データ取得方法を用いて、熱性けいれんのてんかんへの移行リスクを判定するためのデータを取得するために用いる、熱性けいれんのてんかんへの移行リスク判定キット(以下、単に「てんかんへの移行リスク判定キット」ともいう)も含まれる。
てんかんへの移行リスク判定キットは、具体的には、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1を構成するサブユニットをコードする遺伝子群(すなわち、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群)のうち、少なくとも1つの遺伝子における変異の有無を検出するための試薬を少なくとも含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。
ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するための試薬としては、例えば、プライマー、プローブ、および抗体などを挙げることができる。これらの試薬は、単独で含まれてもよく、また、複数の組み合わせで含まれていてもよい。さらに、上記判定キットは、上記例示する試薬以外のその他の試薬を含んでいてもよい。
具体的には、ゲノムDNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するキットとしては、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子のエキソン領域もしくはエキソンとイントロンとの境界領域、またはそれらの一部を増幅できるように設計されたプライマーや、変異型または野生型の一方のエキソン領域もしくはエキソンとイントロンとの境界領域、またはそれらの一部(換言すれば、特定の遺伝子型のエキソンもしくはエキソンとイントロンとの境界領域、またはそれらの一部)のみを特異的に検出できるように設計されたプローブを含む構成を挙げることができる。
上記プライマーおよびプローブの配列は特に限定されるものではないが、例えば、プライマーとしては、後述の実施例で用いたプライマーを挙げることができる。ただし、本発明は、後述の実施例に限定されないことはいうまでもない。
さらに、このような判定キットでは、上記プライマーやプローブに加えて、PCR法やサザンブロット法、核酸シークエンシングに用いられる試薬など、上記遺伝子における変異の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
なお、上記試薬は、本発明の検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、PCR法やサザンブロット法、核酸シークエンシングに用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
また、mRNA(cDNA)または全RNAを用いて、ナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するキットとしては、上記遺伝子群のうち、少なくとも1つの遺伝子のcDNAまたはその一部の領域を増幅できるように設計されたプライマーや、変異型または野生型の一方のmRNAもしくはその一部(換言すれば、特定の遺伝子型のmRNAまたはその一部)のみを特異的に検出できるように設計されたプローブを含む構成を挙げることができる。
さらに、このような判定キットでは、上記プライマーやプローブに加えて、RT−PCR法やノザンブロット法、核酸シークエンシングに用いられる試薬など、上記遺伝子における変異の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
なお、上記試薬は、本発明の検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、RT−PCR法やノザンブロット法、核酸シークエンシングに用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
また、タンパク質レベルでナトリウムイオンチャネルサブユニット遺伝子群における変異の有無を検出するキットとしては、例えば、該遺伝子群の翻訳産物であるポリペプチド(タンパク質)のうち、野生型または変異型のポリペプチドもしくはその一部の一方のみに特異的に結合する抗体(換言すれば、特定の遺伝子型の翻訳産物であるポリペプチドまたはその一部のみに特異的に結合する抗体)を含むキット等が挙げられる。
さらに、このような判定キットでは、上記抗体に加えて、ELISA法や、ウエスタンブロット法、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の活性測定に用いられる試薬など、上記遺伝子における変異(換言すれば、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1における変異)の有無を検出するために必要な試薬を1つ以上組み合わせて含む構成とすることもできる。
また、てんかんへの移行リスク判定キットは、上記例示した構成物をどのように組み合わせて含んでいてもよい。
上説したようなてんかんへの移行リスク判定キットを用いることにより、熱性けいれん既往者がてんかんに移行するリスクを、てんかんへの移行前に判定するためのデータを取得することができる。
本発明のてんかんへの移行リスク判定キットが適用される被験者は、特に限定されるものではないが、生後6歳未満の熱性けいれん既往者に適用することが好ましく、生後1歳未満の熱性けいれん既往者に適用することがより好ましい。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明について、実施例および図1〜図9に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
〔実施例1:インフルエンザ脳症に罹患した患者における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の変異〕
小児てんかん患者について、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子の解析を行った。具体的には、まず、遺伝子解析の同意を得た後に末梢血を採取した。DNA抽出キット(WB kit;Nippon gene, Tokyo, Japan)を用いて患者の末梢血からゲノムDNAを抽出し、SCN1A遺伝子の全エキソン(エキソン1〜26)をPCRで増幅した。
PCRは50ng ヒトゲノムDNA、20pmol 各プライマー、0.8mM dNTPs、1×reaction buffer、1.5mM MgCl2、0.7ユニットのAmpliTaq Gold DNA polymerase (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を含む25μlの反応液中で行った。
なお、各エキソンを増幅させるためのプライマーセットとしては、それぞれ、以下のプライマーセットを用いた。また、SCN1A遺伝子のゲノム配列は、配列番号1に示す。
エキソン1増幅
Sense primer:5'- tcatggcacagttcctgtatc -3' (配列番号3)
Antisense primer:5'- gcagtaggcaattagcagcaa -3' (配列番号30)
エキソン2増幅
Sense primer:5'- tggggcactttagaaattgtg -3' (配列番号4)
Antisense primer:5'- tgacaaagatgcaaaatgagag -3' (配列番号31)
エキソン3増幅
Sense primer:5'- gcagtttgggcttttcaatg -3' (配列番号5)
Antisense primer:5'- tgagcattgtcctcttgctg -3' (配列番号32)
エキソン4増幅
Sense primer:5'- agggctacgtttcatttgtatg -3' (配列番号6)
Antisense primer:5'- tgtgctaaattgaaatccagag -3' (配列番号33)
エキソン5増幅
Sense primer:5'- cagctcttcgcactttcaga -3' (配列番号7)
Antisense primer:5'- tcaagcagagaaggatgctga -3' (配列番号34)
エキソン6増幅
Sense primer:5'- agcgttgcaaacattcttgg -3' (配列番号8)
Antisense primer:5'- gggatatccagcccctcaag -3' (配列番号35)
エキソン7増幅
Sense primer:5'- gacaaatacttgtgcctttgaatg -3' (配列番号9)
Antisense primer:5'- acataatctcatactttatcaaaaacc -3' (配列番号36)
エキソン8増幅
Sense primer:5'- gaaatggaggtgttgaaaatgc -3' (配列番号10)
Antisense primer:5'- aatccttggcatcactctgc -3' (配列番号37)
エキソン9増幅
Sense primer:5'- agtacagggtgctatgaccaac -3' (配列番号11)
Antisense primer:5'- tcctcatacaaccacctgctc -3' (配列番号38)
エキソン10増幅
Sense primer:5'- tctccaaaagccttcattagg -3' (配列番号12)
Antisense primer:5'- ttctaattctccccctctctcc -3' (配列番号39)
エキソン11増幅
Sense primer:5'- tcctcattctttaatcccaagg -3' (配列番号13)
Antisense primer:5'- gccgttctgtagaaacactgg -3' (配列番号40)
エキソン12増幅
Sense primer:5'- gtcagaaatatctgccatcacc -3' (配列番号14)
Antisense primer:5'- gaatgcactattcccaactcac -3' (配列番号41)
エキソン13増幅
Sense primer:5'- tgggctctatgtgtgtgtctg -3' (配列番号15)
Antisense primer:5'- ggaagcatgaaggatggttg -3' (配列番号42)
エキソン14増幅
Sense primer:5'- tacttcgcgtttccacaagg -3' (配列番号16)
Antisense primer:5'- gctatgcaagaaccctgattg -3' (配列番号43)
エキソン15増幅
Sense primer:5'- atgagcctgagacggttagg -3' (配列番号17)
Antisense primer:5'- atacatgtgccatgctggtg -3' (配列番号44)
エキソン16増幅
Sense primer:5'- tgctgtggtgtttccttctc -3' (配列番号18)
Antisense primer:5'- tgtattcataccttcccacacc -3' (配列番号45)
エキソン17増幅
Sense primer:5'- aaaagggttagcacagacaatg -3' (配列番号19)
Antisense primer:5'- attgggcagatataatcaaagc -3' (配列番号46)
エキソン18増幅
Sense primer:5'- cacacagctgatgaatgtgc -3' (配列番号20)
Antisense primer:5'- tgaagggctacactttctgg -3' (配列番号47)
エキソン19増幅
Sense primer:5'- tctgccctcctattccaatg -3' (配列番号21)
Antisense primer:5'- gcccttgtcttccagaaatg -3' (配列番号48)
エキソン20増幅
Sense primer:5'- aaaaattacatcctttacatcaaactg -3' (配列番号22)
Antisense primer:5'- ttttgcatgcatagattttcc -3' (配列番号49)
エキソン21増幅
Sense primer:5'- tgaaccttgcttttacatatcc -3' (配列番号23)
Antisense primer:5'- acccatctgggctcataaac -3' (配列番号50)
エキソン22増幅
Sense primer:5'- tgtcttggtccaaaatctgtg -3' (配列番号24)
Antisense primer:5'- ttggtcgtttatgctttattcg -3' (配列番号51)
エキソン23増幅
Sense primer:5'- ccctaaaggccaatttcagg -3' (配列番号25)
Antisense primer:5'- atttggcagagaaaacactcc -3' (配列番号52)
エキソン24増幅
Sense primer:5'- gagatttgggggtgtttgtc -3' (配列番号26)
Antisense primer:5'- ggattgtaatggggtgcttc -3' (配列番号53)
エキソン25増幅
Sense primer:5'- caaaaatcagggccaatgac -3' (配列番号27)
Antisense primer:5'- tgattgctgggatgatcttg -3' (配列番号54)
エキソン26(1)増幅
Sense primer:5'- aggactctgaaccttaccttgg -3' (配列番号28)
Antisense primer:5'- ccatgaatcgctcttccatc -3' (配列番号55)
エキソン26(2)増幅
Sense primer:5'- tgtgggaacccatctgttg -3' (配列番号29)
Antisense primer:5'- gtttgctgacaaggggtcac -3' (配列番号56)。
得られたPCR産物を、PCR products pre-sequencing kit (Amersham Biosciences, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)を用いて精製した。続いて、Big Dye Terminator FS ready-reaction kit (Applied Biosystems)を用いて、シークエンス反応を行い、蛍光シークエンサー(ABI PRISM3100 sequencer ;Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。
その結果、表1に示すように、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子にアミノ酸変化をもたらす変異を有する患者43人を見いだした。
これら43人の患者のうち、図1に変異の詳細を示す5人は、その後、急性脳炎または急性脳症を発症した。つまり、SCN1A遺伝子に変異を有する者の急性脳炎または急性脳症の罹患率は、11.63%であった。一方、一般的な急性脳炎または急性脳症の発症頻度は、0.003%である。
したがって、上記の結果は、SCN1A遺伝子に変異を有する者では、急性脳炎または急性脳症の罹患率が、3877倍も高いことを示している。
なお、急性脳炎または急性脳症を発症した5人の臨床的特徴を表2に示す。
また、上記5人の患者のうち、表2に示す患者番号13の患者の脳波の測定結果を図2(a)〜(d)に示す。なお、脳波は10−20法という電極配置法で記録した。電極配置記号は頭部の部位を示すもので、一般にFp1,Fp2は前部極、F3,F4は前頭部、C3,C4は中心部、P3,P4は頭頂部、O1,O2は後頭部、F7,F8は前側頭部、T3,T4は中側頭部、T5,T6は後側頭部、Fzは正中前頭部、Czは正中中心部、Pzは正中頭頂部を意味する。
図2(a)は、インフルエンザ脳症を発症して13時間後のけいれん重積時の脳波を示す図である。全ての電極配置記号から、棘徐波複合が連続的に認められ、脳全体の広汎な領域からけいれん発射が出現していることを示している。
その後、図2(b)に示すように、インフルエンザ発症38時間後には、けいれんは収まっているが、すでに、脳波の低電位化が始まっていた。さらに、図2(c)に示すように、インフルエンザ発症62時間後の脳波では、さらに、低電位化が進行した。そして、図2(d)に示すように、7日目には、脳波が平坦になって、急速な病状の進行で脳の全般的な活動停止に近い状態に至った。
また、上記患者について、インフルエンザ脳症を発症して8日目の聴性脳幹反応を調べた。図3(a)〜(c)は、それぞれ、右側を刺激したときの聴性脳幹反応の結果、左側を刺激したときの聴性脳幹反応の結果、および左右両側を刺激したときの聴性脳幹反応の結果を示す。
図3(a)〜(c)に示すように、いずれの刺激に対しても無反応であった。脳波所見、聴性脳幹反応所見、そして自発呼吸の消失や臨床的脳幹反応の消失など総合的に判断して、脳死状態になったと診断された。患者は、多臓器不全も合併し、インフルエンザ脳症を発症して27日目に死亡した。
〔実施例2:変異型ナトリウムイオンチャネルの機能解析〕
変異型SCN1A遺伝子(C1702T)を発現させることによって、実施例1で見出された電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型における変異のうち、変異型ナトリウムイオンチャネル(R568X)を作製した。コントロールとして、野生型(正常型)SCN1A遺伝子を発現させることによって、野生型(正常型)ナトリウムイオンチャネルを作製した。
そして、該変異型ナトリウムイオンチャネルおよび野生型ナトリウムイオンチャネルについて、機能解析を行った。SCN1A遺伝子産物である電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型は、β1サブユニットおよびβ2サブユニットによる機能調節を受けているため、変異型プラスミドとβサブユニットのSCN1B、SCN2B発現ベクターとを、トランスフェクション試薬を用いてヒト腎細胞HEK293に共発現させた。全細胞記録によるパッチクランプ法で電気生理学的特性を検討した。
ナトリウムチャネル電流の記録は、22℃〜24℃の室温で、トランスフェクション24時間〜48時間に行った。パッチ電極はborosilicate glassを用い、multistage P-97 Flaming-Brown micropipette pullerで作成した。
細胞内液の組成は、110mM CsF、10mM NaF、20mM CsCl、2mM EGTA、10mM HEPESとした。一方、細胞外液の組成は、145mM NaCl、4mM KCl、1.8mM CaCl2、1mM MgCl2、10mM HEPESとした。アンプはAxopatch200B (Axon Instruments)を用いた。電気生理学的特性は、電位依存性チャネル活性化を調べ、正常型と比較検討した。データ解析にはClampfit 8.2ソフトウエアを使用した。
その結果、図4(a)に示すように、野生型ナトリウムイオンチャネルは、チャネルとしての機能を有していた。一方、変異型ナトリウムイオンチャネルは、正常型と比較して、電位の変化に伴うナトリウム電流がほとんどなく、チャネルとしての活性を有しなかった。
さらに、上記変異型ナトリウムチャネルおよび野生型ナトリウムチャネルについて、細胞内局在性を調べるために、蛍光タンパク質を野生型ナトリウムイオンチャネルおよび変異型ナトリウムイオンチャネルに融合させ解析した。その結果、図4(b)に示すように、野生型ナトリウムチャネルは細胞膜に局在したのに対して、変異型ナトリウムチャネルは、細胞膜に局在することなく、細胞質に留まっていた。
〔実施例3:ラスムッセン脳炎に罹患した患者における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の変異〕
進行性の右半身麻痺と難治な部分発作を主訴に来院したラスムッセン脳炎患者について、まず、脳波を測定した。脳波電極は10−20法に従って配置した。その結果、図5(a)に示すように、左半球に徐波が増強し、左前頭部、左前側頭部からてんかん発射が出現していた。これは、左半球の機能が低下し、同部がてんかん焦点になっていることを意味している。
次に、上記患者について、頭部MRI画像を撮影した。その結果、図5(b)に示すように、左半球の軽度萎縮と左脳室拡大とが認められた。なお、図5(b)に示す3つの画像は、左から順に、T1強調画像(B1)、T2強調画像(B2)、FLAR画像(B3)で、図5(c)は脳血流シンチグラフィーで、C1は初発時、C2は病状が進行したときの所見である。C1では異常所見は認められないが、C2では左半球の血流低下が新たに出現しており、機能が低下したことを示す所見である。これらの脳波および神経画像検査から、左半球の機能が低下して萎縮が進行し、てんかん焦点になっていることが明らかになった。
当該ラスムッセン脳炎患者の抹消血を採取後、DNAを抽出し、SCN1A遺伝子について解析した。なお、本実験は、岡山大学「ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会」の承認を得て行われた。
DNA抽出キット(WB kit;Nippon gene, Tokyo, Japan)を用いて患者の末梢血からゲノムDNAを抽出し、SCN1A遺伝子の全エキソンをPCRで増幅した。PCRは50ng ヒトゲノムDNA、20pmol 各プライマー、0.8mM dNTPs、1×reaction buffer、1.5mM MgCl2、0.7ユニットのAmpliTaq Gold DNA polymerase (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を含む25μlの反応液中で行った。なお、プライマーセットには、実施例1に記載したプライマーセットを用いた。
得られたPCR産物を、PCR products pre-sequencing kit (Amersham Biosciences, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)を用いて精製した。続いて、Big Dye Terminator FS ready-reaction kit (Applied Biosystems)を用いて、シークエンス反応を行い、蛍光シークエンサー(ABI PRISM3100 sequencer ;Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。
その結果、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子において、アミノ酸変異をもたらす遺伝子変異が検出された。そのSCN1A遺伝子変異の配列を図5(d)に示す。この変異は、配列番号2に示される塩基配列の第4723位のヌクレオチドであるシトシン(C)がチミン(T)に置換された変異(C4723T)であった。
この変異により、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型は、第1575位のアミノ酸残基であるアルギニン(R)がシステイン(C)に置換(R1575C)されることになる。
以上の結果、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子における変異が、ラスムッセン脳炎の発症に関連することが分かった。
〔実施例4:変異型ナトリウムイオンチャネルの機能解析〕
実施例3で見出された変異型SCN1A遺伝子(C4723T)を発現させることによって、変異型ナトリウムイオンチャネル(R1575C)を作製した。コントロールとして、野生型(正常型)SCN1A遺伝子を発現させることによって、野生型(正常型)ナトリウムイオンチャネルを作製した。
そして、該変異型ナトリウムイオンチャネルおよび野生型ナトリウムイオンチャネルについて、機能解析を行った。SCN1A遺伝子産物である電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型は、β1サブユニットおよびβ2サブユニットによる機能調節を受けているため、変異型プラスミドと、β1サブユニットをコードするSCN1B遺伝子およびβ2サブユニットをコードするSCN2B遺伝子を含む発現ベクターとを、トランスフェクション試薬を用いてヒト腎細胞HEK293に共発現させた。全細胞記録によるパッチクランプ法で電気生理学的特性を検討した。
ナトリウムチャネル電流の記録は、22℃〜24℃の室温で、トランスフェクション24時間〜48時間に行った。パッチ電極はborosilicate glassを用い、multistage P-97 Flaming-Brown micropipette pullerで作成した。
細胞内液の組成は、110mM CsF、10mM NaF、20mM CsCl、2mM EGTA、10mM HEPESとした。一方、細胞外液の組成は、145mM NaCl、4mM KCl、1.8mM CaCl2、1mM MgCl2、10mM HEPESとした。アンプはAxopatch200B(Axon Instruments)を用いた。電気生理学的特性は、電位依存性チャネル活性化を調べ、正常型と比較検討した。データ解析にはClampfit 8.2ソフトウエアを使用した。
その結果、図6(a)および(b)に示すように、野生型ナトリウムイオンチャネルおよび変異型ナトリウムイオンチャネルともに、チャネルとしての機能を有しており、両者に有意差はなかった。なお、図6(a)は、野生型ナトリウムチャネルおよび変異型ナトリウムチャネル(R1575C)の電位の変化に伴うナトリウム電流の代表例を示す。図6(b)は、不活性化の時定数を検討した結果を示す。
一方、−10mVの脱分極刺激を与えたとき、図6(c)に示すように、変異型ナトリウムチャネル(R1575C)では、野生型よりも持続性ナトリウム電流が増大していた。なお、図6(c)は、−10mVの脱分極刺激を与えたときの代表的なナトリウム電流曲線を示す。
さらに、持続性ナトリウム電流の大きさを野生型ナトリウムチャネルおよび変異型ナトリウムチャネル(R1575C)について、それぞれ7つの細胞で測定したところ、図6(d)に示すように、変異型ナトリウムチャネル(R1575C)では、有意に持続性ナトリウム電流が大きかった。なお、図6(d)は、持続性ナトリウム電流の大きさを野生型ナトリウムチャネルおよび変異型ナトリウムチャネル(R1575C)について、それぞれ7つの細胞で測定し、統計学処理をした結果を示す図である。
次に、チャネルの電気生理学的特性を詳細に検討するため、電流−電圧関連(図7(a))、チャネルの活性化(図7(b))、チャネルの不活性化(図7(c))、およびチャネルの不活性化からの回復(図7(d))を測定した。
その結果、図7(a)、(b)、および(d)に示すように、電流−電圧関連、チャネルの活性化、およびチャネルの不活性化からの回復には、両者で有意差は認められなかった。
これに対して、チャネルの不活性化については、図7(c)に示すように、変異型ナトリウムイオンチャネル(R1575C)では脱分極側に有意にシフトしていた。
以上の機能解析の結果、変異型ナトリウムイオンチャネル(R1575C)は持続性ナトリウム電流が増大し、チャネルの不活性化が遅いという特性を持つことが明らかになった。これらのデータは、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の機能が亢進していることを示している。つまり、上記変異を有すると、神経細胞が過剰に興奮しやすい、すなわち、けいれんを起こしやすいことを意味している。
〔実施例5:急性脳炎または急性脳症に罹患した非てんかん患者における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の変異〕
実施例1では小児てんかん患者を対象として、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子の解析を行った。本実施例では、てんかんやけいれんの既往がない人でも、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の変異を調べることによって脳炎または脳症の罹患リスクを判定することができるか否かについて検討した。
急性脳炎または急性脳症に罹患した患者で、発症前にけいれんの既往がない13人について、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子の解析を行った。具体的には、まず、遺伝子解析の同意を得た後に末梢血を採取した。DNA抽出キット(WB kit;Nippon gene, Tokyo, Japan)を用いて患者の末梢血からゲノムDNAを抽出し、SCN1A遺伝子の全エキソン(エキソン1〜26)をPCRで増幅した。
PCRは50ng ヒトゲノムDNA、20pmol 各プライマー、0.8mMdNTPs、1×reaction buffer、1.5mM MgCl2、0.7ユニットのAmpliTaq Gold DNA polymerase (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を含む25μlの反応液中で行った。なお、各エキソンを増幅させるためのプライマーセットは、実施例1で用いたものと同じである。
得られたPCR産物を、PCR products pre-sequencing kit (Amersham Biosciences, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)を用いて精製した。続いて、Big Dye Terminator FS ready-reaction kit (Applied Biosystems)を用いて、シークエンス反応を行い、蛍光シークエンサー(ABI PRISM3100 sequencer ;Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。
その結果、表3に示すように、一般の急性脳炎または急性脳症に罹患した患者13人中1名(7.69%)に、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子にアミノ酸変化をもたらすミスセンス変異を見いだした。
図8の(a)は正常な患者のSCN1A遺伝子解析結果を示す図であり、図8の(b)は、表3に示す番号8の患者におけるSCN1A遺伝子解析結果を示す図である。図8の(b)におけるSCN1A遺伝子変異は、配列番号2に示される塩基配列の第4723位のヌクレオチドであるシトシン(C)がチミン(T)に置換された変異(C4723T)であった。
この変異により、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型は、第1575位のアミノ酸残基であるアルギニン(R)がシステイン(C)に置換(R1575C)された。この患者はCGC(Rをコード)とTGC(Cをコード)とのヘテロ接合型であった。
以上より、てんかんやけいれんの既往がない一般の人でも、SCN1A遺伝子に変異を有する場合、急性脳炎または急性脳症に罹患する危険性が高いことが分かった。よって、本発明にかかる脳炎または脳症の罹患リスク判定データの取得方法は、てんかん患者に限らず、広く一般に、当該遺伝子の変異の検査は脳炎または脳症に罹患するリスクを判定する方法となることが明らかになった。
〔実施例6:熱性けいれん既往者における電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1の変異〕
熱性けいれん既往者について、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1A遺伝子の解析を行った。具体的には、まず、遺伝子解析の同意を得た後に抹消血を採取した。DNA抽出キット(WB kit;Nippon gene, Tokyo, Japan)を用いて患者の末梢血からゲノムDNAを抽出し、SCN1A遺伝子の全エキソン(エキソン1〜26)をPCRで増幅した。
PCRは50ng ヒトゲノムDNA、20pmol 各プライマー、0.8mM dNTPs、1×reaction buffer、1.5mM MgCl2、0.7ユニットのAmpliTaq Gold DNA polymerase (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を含む25μlの反応液中で行った。各エキソンを増幅させるためのプライマーセットは、実施例1で用いたものと同じものを用いた。
得られたPCR産物を、PCR products pre-sequencing kit (Amersham Biosciences, Little Chalfont, Buckinghamshire, England)を用いて精製した。続いて、Big Dye Terminator FS ready-reaction kit (Applied Biosystems)を用いて、シークエンス反応を行い、蛍光シークエンサー(ABI PRISM3100 sequencer ;Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。
熱性けいれん既往者110人について、電位依存性ナトリウムイオンチャネルNaV1.1のαサブユニット1型をコードするSCN1Aの遺伝子変異解析を行ったところ、表4〜6に示すように、そのうち46人にアミノ酸変異をもたらす遺伝子変異を検出した。一方、患者の発作の追跡調査を進めたところ、110人のうち追跡調査を行えたのは98人であった。生後96ヵ月を区切りとして、予後とSCN1A遺伝子変異の相関をKaplan Meier法にて統計解析を行った。
表4〜6は、追跡できた患者の最終時の年齢(追跡最終年齢)と、発作が起きた最終年齢(発作最終年齢)をまとめたものである。発作持続は6歳、すなわち96カ月を区切りとして、それ以上続く患者は発作最終年齢=continue、発作持続期間=96カ月、として記載している。96カ月以上発作が続くことはてんかんへ移行していることを意味している。また、表4〜6には、遺伝子変異の種類として、アミノ酸に変化を生じるミスセンス変異か、アミノ酸が途中で合成停止するナンセンス変異か、該当するものに+を記した。表4の番号1の患者はSCN1Aの変異を持たず、発作は47カ月で止まったことを示している。
図9は、ミスセンス変異またはナンセンス変異のどちらか一方でも持つこと(つまり、遺伝子に変異があること)と発作持続期間との関係をKaplan Meier法(SPSS ver12J)で解析した結果を示す図である。図9において、横軸は発作持続期間(月)を表し、縦軸は表4〜6に示す98人の患者のうち、けいれん発作が持続している患者の割合を示している。また、実線はSCN1A遺伝子に変異がある患者における、発作持続期間(月)とけいれん発作が持続している患者の割合との関係を示し、点線はSCN1A遺伝子に変異がない患者における、上記関係を示している。
Log Rank Testで、SCN1A遺伝子の変異と、けいれん発作の持続との相関の有意差検定を行ったところ、SCN1A遺伝子に変異がある患者は96カ月まで発作が持続すること(すなわち、てんかんへの移行)と非常に強い相関を示した(p=0.0001)。このように、本発明にかかる方法により、熱性けいれん患者のてんかんへの移行を高精度に予測できることが明らかとなった。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。