JP5539948B2 - 非天然アミノ酸のインビボ組込み用直交翻訳成分 - Google Patents

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Description

(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は米国仮特許出願第60/622,738号(出願日2004年10月27日)の優先権と特典を主張し、その開示内容全体を参考資料として全目的で本明細書に組込む。
(連邦政府支援研究開発から創出された発明の権利に関する陳述)
本発明はエネルギー省助成番号ER45601及び国立衛生研究所助成番号GM62159として米国政府助成下に創出された。米国政府は本発明に所定の権利をもつことができる。
(発明の技術分野)
本発明は翻訳生化学の分野に関する。本発明は非天然アミノ酸を蛋白質に組込む直交tRNA、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ、及びその対を作製及び使用するための組成物と方法に関する。本発明は更に前記対を使用して細胞で蛋白質を生産する方法と前記方法により生産された蛋白質にも関する。
蛋白質構造及び機能の研究は従来、天然アミノ酸の反応基を使用して入手可能な性質と反応化学に依存している。残念ながら、細菌からヒトに至る全公知生物は同一の20種の標準アミノ酸をコードする(稀な例外としてセレノシステイン(例えばA.Bockら,(1991),Molecular Microbiology 5:515−20参照)とピロリジン(例えばG.Srinivasanら,(2002),Science 296:1459−62参照)も挙げられる)。R基のこの限られた選択は蛋白質構造及び機能の研究を制限しており、研究は天然アミノ酸の化学的性質により制限され、例えば、天然アミノ酸は蛋白質の他の全アミノ酸を除外する高度に標的化された蛋白質修飾を実施する能力を制限する。更に、天然アミノ酸はその機能的活性(例えば蛍光、金属キレート化、酸化還元電位、フォトケージング等)を制限される。
蛋白質の選択的修飾に当分野で現在使用されている大半の修飾反応は蛋白質アミノ酸側鎖の天然求核性残基を標的とする求核性反応パートナーと求電子性反応パートナーの間の共有結合形成、例えばα−ハロケトンとヒスチジン又はシステイン側鎖の反応を伴う。これらの場合の選択性は蛋白質の求核性残基の数とアクセシビリティにより決定される。残念ながら、天然蛋白質は反応部位の配置が不良であったり(例えば接近しにくい)、反応ターゲットを複数含む(例えばリジン、ヒスチジン及びシステイン残基)ことが多いため、修飾反応の選択性が低く、求核/求電子試薬による高度に標的化された蛋白質修飾は困難になる。更に、修飾部位は一般にリジン、ヒスチジン及びシステインの天然求核性側鎖に限定される。他の部位の修飾は困難又は不可能になる。
蛋白質構造及び機能を改変及び研究する目的で天然アミノ酸には認められない新規性質(例えば生物学的性質)をもつ非天然アミノ酸を蛋白質に組込むための新規ストラテジーが当分野で必要とされている。蛋白質を高度に選択的に修飾し、更に生理的条件下で蛋白質を修飾する蛋白質修飾反応のための新規ストラテジーの開発が当分野で大いに必要とされている。高度に特異的な蛋白質修飾(例えば、天然アミノ酸が交差反応又は副反応を全く生じないような修飾)を行うための新規方法が当分野で必要とされている。高度に特異的な蛋白質修飾の新規化学は蛋白質構造及び機能の研究に幅広く利用できる。
これらの制限を解決するための1つのストラテジーは遺伝コードを拡張し、顕著な物理的、化学的又は生物学的性質をもつアミノ酸を生物レパートリーに付加する方法である。このアプローチは宿主細胞(例えば真正細菌である大腸菌(E.coli)、酵母又は哺乳動物細胞)のin vivo蛋白質生合成機構を使用して非天然アミノ酸を蛋白質に付加するために直交tRNAと対応する新規直交アミノアシルtRNAシンテターゼを使用することにより実現可能であることが分かっている。このアプローチは各種文献(例えばWangら,(2001),Science 292:498−500;Chinら,(2002)Journal of the American Chemical Society 124:9026−9027;Chin and Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135−1137;Chinら,(2002),PNAS United States of America 99:11020−11024;及びWang and Schultz,(2002),Chem.Comm.,1−10)に記載されている。国際公開WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;WO2005/019415(出願日2004年7月7日);WO2005/007870(出願日2004年7月7日);及びWO2005/007624(出願日2004年7月7日)も参照。
国際公開WO2002/086075 国際公開WO2002/085923 国際公開WO2004/094593 国際公開WO2005/019415 国際公開WO2005/007870 国際公開WO2005/007624 Wangら,(2001),Science 292:498−500 Chinら,(2002)Journal of the American Chemical Society 124:9026−9027 Chin and Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135−1137 Chinら,(2002),PNAS United States of America 99:11020−11024 Wang and Schultz,(2002),Chem.Comm.,1−10
非天然アミノ酸を規定位置に組込むことができ、非天然アミノ酸がこの非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質に新規生物学的性質を付与するように、非天然アミノ酸を蛋白質に組込む直交翻訳成分の開発が当分野で必要とされている。蛋白質の他の部位と交差反応又は副反応することなしに特異的修飾のターゲットとして非天然アミノ酸を利用できるような新規化学的性質をもつ非天然アミノ酸を組込む直交翻訳成分を開発することも必要である。治療用途と生物医学研究に使用できるような有意量の非天然アミノ酸含有蛋白質を生産することが可能な蛋白質発現システムも特に必要である。本発明は以下の開示から明らかなように、上記及び他の必要を満たすものである。
本発明はセレクターコドン(例えばアンバー終止コドン)に応答して成長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸をin vivo(例えば宿主細胞中)で組込むための組成物と方法を提供する。これらの組成物は宿主細胞翻訳機構と相互作用しない直交tRNA(O−tRNA)と直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の対を含む。即ち、O−tRNAは内在宿主細胞アミノアシルtRNAシンテターゼにより(天然又は非天然)アミノ酸を負荷されない(又は有意レベルまで負荷されない)。同様に、本発明により提供されるO−RSは内在tRNAに(天然又は非天然)アミノ酸を有意レベルまで又は場合により検出可能なレベルまで負荷しない。これらの新規組成物は翻訳により組込まれた非天然アミノ酸をもつ大量の蛋白質の生産を可能にする。組込まれる非天然アミノ酸の化学的性質に応じて、これらの蛋白質は例えば治療薬や生物医学研究等の幅広い用途に利用される。
所定側面では、本発明は翻訳系を提供する。これらの系は第1の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、第1の直交tRNA(O−tRNA)と、非天然アミノ酸を含み、第1のO−RSは第1のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。第1の非天然アミノ酸はp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン及びp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンから選択することができる。
翻訳系は各種起源に由来する成分を使用することができる。1態様では、第1のO−RSはMethanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼ(例えば野生型Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ)から誘導される。他の態様では、O−RSは大腸菌アミノアシルtRNAシンテターゼ(例えば野生型大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼ)から誘導される。系で使用されるO−RSは配列番号12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57、59−63、及びこれらの配列の保存変異体から選択されるアミノ酸配列を含むことができる。所定態様では、O−tRNAはアンバーサプレッサーtRNAである。所定態様では、O−tRNAは配列番号1又は2を含むか又は前記配列によりコードされる。
所定側面では、翻訳系は更に該当蛋白質をコードする核酸を含み、核酸はO−tRNAにより認識される少なくとも1個のセレクターコドンを含む。
所定側面では、翻訳系は第2の非天然アミノ酸を使用する第2の直交対(即ち、第2のO−RSと第2のO−tRNA)を含み、従って、系はポリペプチドの異なる選択部位に少なくとも2種の異なる非天然アミノ酸を組込むことが可能になる。このデュアル系では、第2のO−RSは第2のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のO−tRNAは第1のO−tRNAにより認識されるセレクターコドンと異なるセレクターコドンを認識する。
所定態様では、翻訳系は宿主細胞に存在する(宿主細胞を含む)。O−RSとO−tRNAがその宿主細胞環境でその直交性を維持する限り、使用される宿主細胞は特に限定されない。宿主細胞は大腸菌等の真正細菌細胞、又はSaccharomyces cerevisiae等の酵母細胞とすることができる。宿主細胞はO−RS又はO−tRNAを含む翻訳系の成分をコードする1種以上のポリヌクレオチドを含むことができる。所定態様では、O−RSをコードするポリヌクレオチドは配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56又は58のヌクレオチド配列を含む。
本発明は選択位置に1種以上の非天然アミノ酸をもつ蛋白質の生産方法も提供する。これらの方法は上記翻訳系を利用する。一般に、これらの方法は(i)p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン及びp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンから選択される第1の非天然アミノ酸と;(ii)第1の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と;(iii)第1の直交tRNA(O−tRNA)(但し、前記O−RSは前記O−tRNAを前記非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する)と;(iv)前記蛋白質をコードし、第1のO−tRNAにより認識される少なくとも1個のセレクターコドンを含む核酸を含む翻訳系を提供する段階から開始する。方法は次に、セレクターコドンに応答して蛋白質の翻訳中に蛋白質の選択位置に非天然アミノ酸を組込むことにより、選択位置に非天然アミノ酸を含む蛋白質を生産する。
この方法は各種試薬及び段階を使用して広く応用することができる。所定態様では、O−RSをコードするポリヌクレオチドを提供する。所定態様では、Methanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼから誘導されるO−RSを提供し、例えば、野生型Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから誘導されるO−RSを提供することができる。他の態様では、大腸菌アミノアシルtRNAシンテターゼから誘導されるO−RSを提供し、例えば野生型大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼから誘導されるO−RSを提供することができる。所定態様では、提供段階は配列番号12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57、59−63、及びその保存変異体から選択されるアミノ酸配列を含むO−RSを提供する段階を含む。
これらの方法の所定態様では、翻訳系を提供する段階は部位特異的突然変異誘発により野生型アミノアシルtRNAシンテターゼのアミノ酸結合ポケットを突然変異させる段階と、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する得られたO−RSを選択する段階を含む。選択段階は部位特異的突然変異誘発後に得られたアミノアシルtRNAシンテターゼ分子のプールからO−RSをポジティブ選択及びネガティブ選択する段階を含むことができる。所定態様では、提供段階はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNAであるO−tRNAや、配列番号1又は2に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNA)をコードするポリヌクレオチドを提供する。これらの方法では、提供段階は更に翻訳系により利用されるアンバーセレクターコドンを含む核酸を提供することができる。
これらの方法は2種以上の非天然アミノ酸を蛋白質に組込むように改変することもできる。これらの方法では、第2の直交翻訳系を第1の翻訳系と併用し、第2の系は異なるアミノ酸及びセレクターコドン特異性をもつ。例えば、提供段階は第2のO−RSと第2のO−tRNAを提供する段階を含むことができ、第2のO−RSは第2のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のO−tRNAは第1のO−tRNAにより認識されるセレクターコドンと異なる核酸中のセレクターコドンを認識する。
非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の生産方法は宿主細胞で実施することもできる。これらの場合には、非天然アミノ酸と、O−RSと、O−tRNAと、核酸を含む宿主細胞を提供し、宿主細胞を培養することにより非天然アミノ酸を組込む。所定態様では、提供段階は真正細菌宿主細胞(例えば大腸菌)又は酵母宿主細胞を提供する段階を含む。所定態様では、提供段階はO−RSをコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する段階を含む。例えば、O−RSをコードするポリヌクレオチドは配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56又は58のヌクレオチド配列を含むことができる。所定態様では、翻訳系を提供する段階は細胞抽出液を提供することにより実施される。
所定側面では、本発明は3−ニトロ−L−チロシン又はp−ニトロ−L−フェニルアラニンを組込むための翻訳系を提供する。これらの系は第1の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、第1の直交tRNA(O−tRNA)と、非天然アミノ酸を含み、第1のO−RSは同一非天然アミノ酸と、O−tRNAと、配列番号7−10から選択されるアミノ酸配列を含むO−RSを含む翻訳系で観察される効率の少なくとも50%の効率で第1のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。
翻訳系は各種起源に由来する成分を使用することができる。所定態様では、第1のO−RSはMethanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼ(例えば野生型Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ)から誘導される。系で使用されるO−RSは配列番号7−10、及びこれらの配列の保存変異体から選択されるアミノ酸配列を含むことができる。所定態様では、O−tRNAはアンバーサプレッサーtRNAである。所定態様では、O−tRNAは配列番号1を含むか又は前記配列によりコードされる。
所定側面では、翻訳系は更に該当蛋白質をコードする核酸を含み、核酸はO−tRNAにより認識される少なくとも1個のセレクターコドンをもつ。
所定側面では、翻訳系は第2の非天然アミノ酸を使用する第2の直交対(即ち、第2のO−RSと第2のO−tRNA)を含み、従って、系はポリペプチドの異なる選択部位に少なくとも2種の異なる非天然アミノ酸を組込むことが可能になる。このデュアル系では、第2のO−RSは第2のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のO−tRNAは第1のO−tRNAにより認識されるセレクターコドンと異なるセレクターコドンを認識する。
所定態様では、翻訳系は宿主細胞に存在する(宿主細胞を含む)。O−RSとO−tRNAがその宿主細胞環境でその直交性を維持する限り、使用される宿主細胞は特に限定されない。宿主細胞は大腸菌等の真正細菌細胞とすることができる。宿主細胞はO−RS又はO−tRNAを含む翻訳系の成分をコードする1種以上のポリヌクレオチドを含むことができる。所定態様では、O−RSをコードするポリヌクレオチドは配列番号11のヌクレオチド配列を含む。
本発明は選択位置に1種以上の非天然アミノ酸をもつ蛋白質の生産方法も提供する。これらの方法は上記翻訳系を利用する。一般に、これらの方法は(i)3−ニトロ−L−チロシン又はp−ニトロ−L−フェニルアラニンである第1の非天然アミノ酸と;(ii)第1の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と;(iii)第1の直交tRNA(O−tRNA)(但し、O−RSは前記非天然アミノ酸と、前記O−tRNAと、配列番号7−10から選択されるアミノ酸配列を含むO−RSを含む翻訳系で観察される効率の少なくとも50%の効率で前記O−tRNAを前記非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する)と;(iv)前記蛋白質をコードし、前記O−tRNAにより認識される少なくとも1個のセレクターコドンを含む核酸を含む翻訳系を含む宿主細胞を提供する段階から開始する。次に宿主細胞を増殖させ、セレクターコドンに応答して蛋白質の翻訳中に核酸中のセレクターコドンの位置に対応する蛋白質の選択位置に非天然アミノ酸を組込むことにより、選択位置に非天然アミノ酸を含む蛋白質を生産する。
これらの方法は各種試薬及び段階を使用して広く応用することができる。所定態様では、O−RSをコードするポリヌクレオチドを提供する。所定態様では、Methanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼから誘導されるO−RSを提供し、例えば、野生型Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから誘導されるO−RSを提供することができる。所定態様では、提供段階は配列番号7−10、及びその保存変異体から選択されるアミノ酸配列を含むO−RSを提供する段階を含む。
これらの方法の所定態様では、翻訳系を提供する段階は部位特異的突然変異誘発により野生型アミノアシルtRNAシンテターゼのアミノ酸結合ポケットを突然変異させる段階と、O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する得られたO−RSを選択する段階を含む。選択段階は部位特異的突然変異誘発後に得られたアミノアシルtRNAシンテターゼ分子のプールからO−RSをポジティブ選択及びネガティブ選択する段階を含む。所定態様では、提供段階はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNAであるO−tRNAや、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNA)をコードするポリヌクレオチドを提供する。これらの方法では、提供段階は更に翻訳系により利用されるアンバーセレクターコドンを含む核酸を提供することができる。
これらの方法は2種以上の非天然アミノ酸を蛋白質に組込むように改変することもできる。これらの方法では、第2の直交翻訳系を第1の翻訳系と併用し、第2の系は異なるアミノ酸及びセレクターコドン特異性をもつ。例えば、提供段階は第2のO−RSと第2のO−tRNAを提供する段階を含み、第2のO−RSは第2のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のO−tRNAは第1のO−tRNAにより認識されるセレクターコドンと異なる核酸中のセレクターコドンを認識する。
非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の生産方法は宿主細胞で実施される。これらの態様では、宿主細胞は非天然アミノ酸と、O−RSと、O−tRNAと、核酸を含み、宿主細胞を培養することにより非天然アミノ酸を組込む。所定態様では、提供段階は真正細菌宿主細胞(例えば大腸菌)を提供する段階を含む。所定態様では、提供段階はO−RSをコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する段階を含む。例えば、O−RSをコードするポリヌクレオチドは配列番号11のヌクレオチド配列を含むことができる。所定態様では、翻訳系を提供する段階は細胞抽出液を提供することにより実施される。
本発明は更に核酸及び蛋白質を含有する各種組成物を提供する。組成物が特定核酸又は蛋白質を含有する以外に、組成物の種類は特に限定されない。本発明の組成物は任意種類の任意数の付加成分を含むことができる。
例えば、本発明はO−RSポリペプチドを含有する組成物を提供し、ポリペプチドは配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57、59−63、又はその保存変異体を含み、保存変異体ポリペプチドはO−tRNAと、非天然アミノ酸と、配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57及び59−63から選択されるアミノ酸配列を含むアミノアシルtRNAシンテターゼを含む翻訳系で観察される効率の少なくとも50%の効率でコグネイト直交tRNA(O−tRNA)を非天然アミノ酸でアミノアシル化する。本発明はこれらの上記ポリペプチドの任意のものをコードするポリヌクレオチドも提供する。所定態様では、これらのポリヌクレオチドは配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56及び58を含むことができる。所定態様では、ポリペプチドは細胞中に存在する。
本発明は配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56又は58のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド組成物も提供する。所定態様では、本発明は前記ポリヌクレオチドを含むベクター(例えば発現ベクター)を提供する。所定態様では、本発明は上記ベクターを含む細胞を提供する。
(定義)
本発明を詳細に記載する前に、本発明は特定生物系に限定されず、当然のことながら種々のものに適用できると理解すべきである。同様に、本明細書で使用する用語は特定態様のみの記載を目的とし、限定的でないことも理解すべきである。本明細書と特許請求の範囲で使用する単数形はそうでないことが内容から明白である場合を除き、複数形も含む。従って、例えば「細胞」と言う場合には2個以上の細胞の組合せを含み、「ポリヌクレオチド」と言う場合には実際問題としてそのポリヌクレオチドの多数のコピーを含む。
本欄及び以下に特に定義しない限り、本明細書で使用する全科学技術用語は本発明が属する分野の当業者に通常理解されている通りの意味をもつ。
直交:本明細書で使用する「直交」なる用語は細胞又は翻訳系に内在する対応分子に比較して低効率で細胞の内在成分と共働するか、あるいは細胞の内在成分と共働できない分子(例えば直交tRNA(O−tRNA)及び/又は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS))を意味する。tRNA及びアミノアシルtRNAシンテターゼに関して直交とは、内在tRNAが内在tRNAシンテターゼと共働する能力に比較して直交tRNAが内在tRNAシンテターゼと共働できないか又は低効率(例えば20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満の効率)でしか共働できず、あるいは、内在tRNAシンテターゼが内在tRNAと共働する能力に比較して直交アミノアシルtRNAシンテターゼが内在tRNAと共働できないか又は低効率でしか共働できないことを意味する。直交分子は細胞内に機能的に正常な相補的内在分子をもたない。例えば、細胞中の直交tRNAがこの細胞の任意内在RSによりアミノアシル化される効率は内在tRNAが内在RSによりアミノアシル化される効率に比較して低いか又はゼロである。別の例では、直交RSが該当細胞の任意内在tRNAをアミノアシル化する効率は内在tRNAが内在RSによりアミノアシル化される効率に比較して低いか又はゼロである。第1の直交分子と共働する第2の直交分子を細胞に導入することができる。例えば、直交tRNA/RS対は対照(例えば対応するtRNA/RS内在対、又は活性直交対(例えばチロシル直交tRNA/RS対))の効率に比較して所定の効率(例えば45%の効率、50%の効率、60%の効率、70%の効率、75%の効率、80%の効率、90%の効率、95%の効率、又は99%以上の効率)で細胞において共働する導入相補成分を含む。
直交チロシルtRNA:本明細書で使用する直交チロシルtRNA(チロシル−O−tRNA)とは該当翻訳系に直交性のtRNAであり、tRNAは(1)天然に存在するロイシル又はチロシルtRNAと同一であるか又は実質的に類似しているか、(2)自然又は人工突然変異誘発により天然に存在するロイシル又はチロシルtRNAから誘導されるか、(3)(1)又は(2)の野生型又は突然変異体ロイシル又はチロシルtRNA配列の配列を考慮する任意プロセスにより誘導されるか、(4)野生型又は突然変異体ロイシル又はチロシルtRNAと相同であるか;(5)表5にロイシル又はチロシルtRNAシンテターゼの基質として指定する任意特定tRNAと相同であるか、あるいは(6)表5にロイシル又はチロシルtRNAシンテターゼの基質として指定する任意特定tRNAの保存変異体である。ロイシル又はチロシルtRNAはアミノ酸を負荷した状態でも負荷しない状態でも存在することができる。更に当然のことながら、「チロシル−O−tRNA」又は「ロイシル−O−tRNA」は場合によりコグネイトシンテターゼにより夫々チロシン又はロイシン以外のアミノ酸(例えば非天然アミノ酸)を負荷(アミノアシル化)される。実際に、当然のことながら、本発明のロイシル又はチロシル−O−tRNAは翻訳中にセレクターコドンに応答して成長中のポリペプチドに天然又は人工のいずれかに拘わらずほぼ任意アミノ酸を挿入するために有利に使用される。
直交チロシルアミノ酸シンテターゼ:本明細書で使用する直交チロシルアミノ酸シンテターゼ(チロシル−O−RS)とは該当翻訳系においてチロシル−O−tRNAをアミノ酸で優先的にアミノアシル化する酵素である。チロシル−O−RSがチロシル−O−tRNAに負荷するアミノ酸は天然、非天然又は人工のいずれかを問わずに任意アミノ酸とすることができ、本明細書では限定しない。シンテターゼは場合により天然に存在するチロシルアミノ酸シンテターゼと同一又は相同であるか、あるいは表5にO−RSとして指定するシンテターゼと同一又は相同である。例えば、O−RSは表5のチロシル−O−RSの保存変異体とすることができ、及び/又は表5のO−RSと少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ以上配列が一致することができる。
同様に、直交ロイシルアミノ酸シンテターゼ(ロイシル−O−RS)とは該当翻訳系においてロイシル−O−tRNAをアミノ酸で優先的にアミノアシル化する酵素である。ロイシル−O−RSがロイシル−O−tRNAに負荷するアミノ酸は天然、非天然又は人工のいずれかを問わずに任意アミノ酸とすることができ、本明細書では限定しない。シンテターゼは場合により天然に存在するロイシルアミノ酸シンテターゼと同一又は相同であるか、あるいは表5にO−RSとして指定するシンテターゼと同一又は相同である。例えば、O−RSは表5のロイシル−O−RSの保存変異体とすることができ、及び/又は表5のO−RSと少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ以上配列が一致することができる。
コグネイト:「コグネイト」なる用語は共働する成分、例えば直交tRNAと直交アミノアシルtRNAシンテターゼを意味する。これらの成分は「相補的」であると言うこともできる。
優先的にアミノアシル化する:本明細書で直交翻訳系に関して使用する場合に、O−RSはO−RSが発現系で任意内在tRNAに負荷するよりも効率的にO−tRNAにアミノ酸を負荷するときにコグネイトO−tRNAを「優先的にアミノアシル化する」。即ち、O−tRNAと所与の任意内在tRNAがほぼ等モル比で翻訳系に存在するとき、O−RSは内在tRNAに負荷するよりも高頻度でO−tRNAに負荷する。O−RSにより負荷されるO−tRNAとO−RSにより負荷される内在tRNAの相対比は高いことが好ましく、従って、O−tRNAと内在tRNAが等モル濃度で翻訳系に存在する場合にはO−RSはO−tRNAに排他的、又はほぼ排他的に負荷することが好ましい。O−tRNAとO−RSが等モル濃度で存在する場合にO−RSにより負荷されるO−tRNAと内在tRNAの相対比は1:1を上回り、好ましくは少なくとも約2:1、より好ましくは5:1、更に好ましくは10:1、更に好ましくは20:1、更に好ましくは50:1、更に好ましくは75:1、更に好ましくは95:1、98:1、99:1、100:1、500:1、1,000:1、5,000:1又はそれ以上である。
(a)O−RSが内在tRNAに比較してO−tRNAを優先的にアミノアシル化するとき、及び(b)O−RSがO−tRNAを任意天然アミノ酸でアミノアシル化する場合に比較してそのアミノアシル化が非天然アミノ酸に特異的であるときにO−RSは「O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する」。即ち、非天然アミノ酸と天然アミノ酸がO−RSとO−tRNAを含む翻訳系に等モル量で存在するとき、O−RSは天然アミノ酸よりも高頻度で非天然アミノ酸をO−tRNAに負荷する。非天然アミノ酸を負荷されたO−tRNAと天然アミノ酸を負荷されたO−tRNAの相対比は高いことが好ましい。O−RSはO−tRNAに排他的、又はほぼ排他的に非天然アミノ酸を負荷することがより好ましい。天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両者が等モル濃度で翻訳系に存在するとき、O−tRNAの非天然アミノ酸負荷とO−tRNAの天然アミノ酸負荷の相対比は1:1を上回り、好ましくは少なくとも約2:1、より好ましくは5:1、更に好ましくは10:1、更に好ましくは20:1、更に好ましくは50:1、更に好ましくは75:1、更に好ましくは95:1、98:1、99:1、100:1、500:1、1,000:1、5,000:1又はそれ以上である。
セレクターコドン:「セレクターコドン」なる用語は翻訳プロセスでO−tRNAにより認識され、内在tRNAにより認識されないコドンを意味する。O−tRNAアンチコドンループはmRNA上のセレクターコドンを認識し、そのアミノ酸(例えば非天然アミノ酸)をポリペプチドのこの部位に組込む。セレクターコドンとしては例えば終止コドン(例えばアンバー、オーカー及びオパールコドン)等のナンセンスコドン、4塩基以上のコドン、レアコドン、天然又は非天然塩基対から誘導されるコドン及び/又は同等物を挙げることができる。
サプレッサーtRNA:サプレッサーtRNAは例えばセレクターコドンに応答してポリペプチド鎖にアミノ酸を組込むためのメカニズムを提供することにより、所与翻訳系でメッセンジャーRNA(mRNA)の読取りを変更するtRNAである。例えば、サプレッサーtRNAは例えば終止コドン(例えばアンバー、オーカー又はオパールコドン)、4塩基コドン、レアコドン等を読み飛ばすことができる。
抑圧活性:本明細書で使用する「抑圧活性」なる用語は一般に、読み飛ばさないと翻訳終結又は誤訳(例えばフレームシフト)をもたらすコドン(例えばアンバーコドンや4塩基以上のコドンであるセレクターコドン)の翻訳読み飛ばしを行うtRNA(例えばサプレッサーtRNA)の能力を意味する。サプレッサーtRNAの抑圧活性は第2のサプレッサーtRNA又は対照系(例えばO−RSをもたない対照系)に比較して観測される翻訳読み飛ばし活性の百分率として表すことができる。
本発明は抑圧活性を定量することが可能な種々の手段を提供する。該当セレクターコドン(例えばアンバーコドン)に対する特定O−tRNA及びO−RSの抑圧百分率とは、O−tRNA、O−RS及びセレクターコドンをもたない陽性対照構築物に比較して、O−RSとO−tRNAを含む該当翻訳系で発現され、そのコーディング核酸中にセレクターコドンを含む所与試験マーカー(例えばLacZ)の活性百分率を意味する。従って、例えば、セレクターコドンをもたない活性陽性対照マーカー構築物が所与翻訳系において該当マーカーアッセイに関連する単位で表した観測活性Xをもつ場合には、セレクターコドンを含む試験構築物の抑圧百分率は、O−tRNAとO−RSを更に含む翻訳系で発現される以外は陽性対照マーカーが発現される環境条件とほぼ同一の環境条件下で試験マーカー構築物が示すXの百分率である。一般に、試験マーカーを発現する翻訳系は更にO−RSとO−tRNAにより認識されるアミノ酸を含む。場合により、抑圧百分率測定値は、O−tRNA、O−RS及び/又はO−tRNA及び/又はO−RSにより認識される該当アミノ酸を含まない系で試験マーカーと同一のセレクターコドンを含む「バックグラウンド」又は「陰性」対照マーカー構築物に試験マーカーを比較することにより精密化することができる。この陰性対照は該当翻訳系におけるマーカーからのバックグラウンドシグナル効果を考慮するように抑圧百分率測定値を正規化するのに有用である。
抑圧効率は当分野で公知の多数のアッセイの任意のものにより測定することができる。例えば、β−ガラクトシダーゼレポーターアッセイを使用することができ、例えば本発明のO−tRNAを含むプラスミドと共に修飾lacZプラスミド(構築物はlacZ核酸配列中にセレクターコドンをもつ)を適当な生物(例えば直交成分を使用することができる生物)に由来する細胞に導入する。コグネイトシンテターゼも(ポリペプチド又は発現されるとコグネイトシンテターゼをコードするポリヌクレオチドとして)導入することができる。細胞を培地で所望密度(例えばOD600=約0.5)まで増殖させ、例えばBetaFluor(登録商標)β−ガラクトシダーゼアッセイキット(Novagen)を使用してβ−ガラクトシダーゼアッセイを実施する。比較可能な対照(例えば所望位置にセレクターコドンではなく対応するセンスコドンをもつ修飾lacZ構築物から観測される値)に対するサンプルの活性百分率として抑圧百分率を計算することができる。
翻訳系:「翻訳系」なる用語は成長中のポリペプチド鎖(蛋白質)にアミノ酸を組込む成分を意味する。翻訳系の成分としては例えばリボソーム、tRNA、シンテターゼ、mRNA等を挙げることができる。本発明のO−tRNA及び/又はO−RSはin vitro又はin vivo翻訳系に付加するか又はその一部とすることができ、例えば非真核細胞(例えば細菌(例えば大腸菌))、又は真核細胞(例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、藻類細胞、真菌細胞、昆虫細胞、及び/又は同等物)で使用される。
非天然アミノ酸:本明細書で使用する「非天然アミノ酸」なる用語は20種の標準天然アミノ酸の1種又はセレノシステインもしくはピロリジン以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸、及び/又はアミノ酸類似体を意味する。例えば、図1は本発明で利用される17種の非天然アミノ酸を示す。
から誘導:本明細書で使用する「から誘導」なる用語は特定分子もしくは生物から単離されているか、あるいは特定分子もしくは生物を使用するか又は特定分子もしくは生物からの情報を使用して作製された成分を意味する。例えば、第2のポリペプチドから誘導されるポリペプチドは第2のポリペプチドのアミノ酸配列と同一又は実質的に同様のアミノ酸配列を含むことができる。ポリペプチドの場合には、誘導種は例えば自然突然変異誘発、人工的特異的突然変異誘発又は人工的ランダム突然変異誘発により得ることができる。ポリペプチドを誘導するために使用される突然変異誘発は意図的に特異的でも意図的にランダムでもよいし、各々の混合でもよい。第1のポリペプチドから誘導される別のポリペプチドを作製するためのポリペプチドの突然変異誘発は(例えばポリメラーゼの非忠実性に起因する)ランダムなイベントとすることができ、誘導されたポリペプチドの同定は例えば本明細書に記載するような適当なスクリーニング法により実施することができる。ポリペプチドの突然変異誘発は一般にポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの操作を伴う。
ポジティブ選択又はスクリーニングマーカー:本明細書で使用する「ポジティブ選択又はスクリーニングマーカー」なる用語は、このマーカーが存在する(例えば発現、活性化等される)場合に、該当形質をもたない細胞からこの形質を含む細胞(例えばポジティブ選択マーカーをもつ細胞)を識別するマーカーを意味する。
ネガティブ選択又はスクリーニングマーカー:本明細書で使用する「ネガティブ選択又はスクリーニングマーカー」なる用語は、このマーカーが存在する(例えば発現、活性化等される)場合に、(例えば選択性質又は形質をもつ細胞に対して)選択性質又は形質をもたない細胞を識別することができるマーカーを意味する。
レポーター:本明細書で使用する「レポーター」なる用語は該当系のターゲット成分を同定及び/又は選択するために使用することができる成分を意味する。例えば、レポーターとしては蛋白質、例えば抗生物質耐性又は感受性を付与する酵素(例えばβ−ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)等)、蛍光スクリーニングマーカー(例えば緑色蛍光蛋白質(例えばGFP)、YFP、EGFP、RFP等)、発光マーカー(例えばホタルルシフェラーゼ蛋白質)、アフィニティースクリーニングマーカー、又はポジティブもしくはネガティブ選択マーカー遺伝子(例えばlacZ、β−gal/lacZ(β−ガラクトシダーゼ)、ADH(アルコールデヒドロゲナーゼ)、his3、ura3、leu2、lys2等)を挙げることができる。
真核生物:本明細書で使用する「真核生物」なる用語は真核生物界に属する生物を意味する。真核生物はその構成が一般に多細胞であり(但し、例えば酵母のように多細胞ではないものもある)、膜結合核と他の膜結合オルガネラが存在し、遺伝物質が線状であり(即ち染色体が線状)、オペロンが存在せず、イントロン、メッセージキャッピング及びポリA mRNAが存在し、更に他の生化学的特徴(例えば特徴的リボソーム構造)により一般に原核生物から区別できる。真核生物としては例えば動物(例えば哺乳動物、昆虫、爬虫類、鳥類等)、繊毛虫、植物(例えば単子葉植物、双子葉植物、藻類等)、真菌類、酵母、鞭毛虫、微胞子虫、原生生物等が挙げられる。
原核生物:本明細書で使用する「原核生物」なる用語はモネラ界(原核生物界とも言う)に属する生物を意味する。原核生物はその構成が単細胞であり、出芽又は分裂による無性生殖であり、膜結合核又は他の膜結合オルガネラをもたず、染色体が環状であり、オペロンが存在し、イントロン、メッセージキャッピング及びポリA mRNAが存在せず、更に他の生化学的特徴(例えば特徴的リボソーム構造)により一般に真核生物から区別できる。原核生物は真正細菌及び古細菌亜界を含む。シアノバクテリア(藍藻類)とマイコプラズマをモネラ界の別々の分類にする場合もある。
細菌:本明細書で使用する「細菌」及び「真正細菌」なる用語は「古細菌」から区別できる原核生物を意味する。同様に、古細菌は真正細菌から区別できる原核生物を意味する。真正細菌と古細菌は多数の形態学的及び生化学的基準により区別することができる。例えば、リボソームRNA配列の相違、RNAポリメラーゼ構造、イントロンの有無、抗生物質感受性、細胞壁ペプチドグリカン及び他の細胞壁成分の有無、膜脂質構造の分岐の有無、並びにヒストン及びヒストン様蛋白質の有無を使用して生物を真正細菌又は古細菌に分類する。
真正細菌の例としては、Escherichia coli、Thermus thermophilus及びBacillus stearothermophilusが挙げられる。古細菌の例としては、Methanococcus jannaschii(Mj)、Methanosarcina mazei(Mm)、Methanobacterium thermoautotrophicum(Mt)、Methanococcus maripaludis、Methanopyrus kandleri、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus(Af)、Pyrococcus furiosus(Pf)、Pyrococcus horikoshii(Ph)、Pyrobaculum aerophilum、Pyrococcus abyssi、Sulfolobus solfataricus(Ss)、Sulfolobus tokodaii、Aeuropyrum pernix(Ap)、Thermoplasma acidophilum及びThermoplasma volcaniumが挙げられる。
保存変異体:翻訳成分に関して本明細書で使用する「保存変異体」なる用語は類似する基本成分(例えばO−tRNA又はO−RS)と同様に機能するが、参照O−tRNA又はO−RSに比較して配列に変異をもつ翻訳成分(例えば保存変異体O−tRNA又は保存変異体O−RS)を意味する。例えば、O−RS、又はこのO−RSの保存変異体はコグネイトO−tRNAを非天然アミノ酸(例えばN−アセチルガラクトサミン部分を含むアミノ酸)でアミノアシル化する。この例では、O−RSと保存変異体O−RSは同一アミノ酸配列をもたない。保存変異体はこの保存変異体が対応するO−tRNA又はO−RSに相補的である限り、例えば配列の1カ所、2カ所、3カ所、4カ所、又は5カ所以上に変異をもつことができる。
所定態様では、保存変異体O−RSは親O−RSに比較して1カ所以上の保存アミノ酸置換を含む。所定態様では、保存変異体O−RSは親O−RSに比較して1カ所以上の保存アミノ酸置換を含むと共に、更にO−RS生物活性を維持し、例えば親O−RS分子の生物活性の少なくとも10%を維持し、あるいは、少なくとも20%、少なくとも30%、又は少なくとも40%を維持する保存変異体O−RSが挙げられる。所定の好ましい態様では、保存変異体O−RSは親O−RS分子の生物活性の少なくとも50%を維持する。保存変異体O−RSの保存アミノ酸置換はアミノ酸結合ポケットを含むO−RSの任意ドメインに生じることができる。
選択又はスクリーニング物質:本明細書で使用する「選択又はスクリーニング物質」なる用語はこのような物質が存在すると、集団から所定成分を選択/スクリーニングすることができる物質を意味する。例えば、選択又はスクリーニング物質としては限定されないが、例えば栄養素、抗生物質、光波長、抗体、発現されたポリヌクレオチド等が挙げられる。選択物質は例えば濃度、強度等を変動させることができる。
〜に応答して:本明細書で使用する「〜に応答して」なる用語は本発明のtRNAがセレクターコドンを認識し、tRNAと結合した非天然アミノ酸を成長中のポリペプチド鎖に組込むのを媒介するプロセスを意味する。
コードする:本明細書で使用する「コードする」なる用語は第1の分子又は配列鎖とは異なる第2の分子又は配列鎖の生産を誘導するためにポリマー巨大分子又は配列鎖中の情報を使用する任意プロセスを意味する。本明細書ではこの用語を広義に使用し、種々に適用することができる。1側面では、「コードする」なる用語は新規に合成された相補的姉妹鎖をDNA依存性DNAポリメラーゼによりコードするための鋳型として2本鎖DNA分子の一方の鎖を使用する半保存的DNA複製プロセスを意味する。
別の側面では、「コードする」なる用語は第1の分子とは異なる化学的性質をもつ第2の分子の生産を誘導するためにある分子中の情報を使用する任意プロセスを意味する。例えば、DNA分子は(例えばDNA依存性RNAポリメラーゼ酵素を含む転写プロセスにより)RNA分子をコードすることができる。また、RNA分子は翻訳プロセスのようにポリペプチドをコードすることができる。翻訳プロセスについて使用する場合には、「コードする」なる用語はアミノ酸をコードするトリプレットコドンにも適用する。所定側面では、RNA分子は例えばRNA依存性DNAポリメラーゼを含む逆転写プロセスによりDNA分子をコードすることができる。別の側面では、DNA分子はポリペプチドをコードすることができ、この場合に使用する「コードする」とは当然のことながら転写プロセスと翻訳プロセスの両者を含む。
本発明は20種の天然アミノ酸により制限される翻訳系を使用する際の固有の問題を解決する方法を提供する。これらの解決方法は直交翻訳系を使用して新規性質をもつ非天然アミノ酸を蛋白質にプログラム下で部位特異的に生合成的に組込む。本明細書ではセレクターコドン(例えば、アンバーナンセンスコドンTAG)に応答して各種非天然アミノ酸を蛋白質に高い効率で特異的に遺伝的に組込むための新規組成物(例えば、新規アミノアシルtRNAシンテターゼ)と新規方法について記載する。
場合により、非天然アミノ酸側鎖をその後、特異的且つ位置選択的に修飾することができる。これらの非天然アミノ酸置換基のユニークな反応化学により、これらを組込んだ蛋白質を非常に高い選択性で修飾することができる。場合により、非天然アミノ酸反応基はin vivo系に対して完全に外来性であるため、反応選択性を改善できるという利点がある。所定側面では、蛋白質に関するin vitro及びin vivo両者の結合反応を可能にする比較的温和な反応条件を使用して修飾反応を実施することができるので、蛋白質の生物活性を維持できる。蛋白質中の非天然アミノ酸と結合する材料の種類は特に限定されず、任意所望物質とすることができ、例えば、色素、フルオロフォア、架橋剤、糖誘導体、ポリマー(例えばポリエチレングリコール誘導体)、光架橋剤、細胞傷害性化合物、アフィニティーラベル、ビオチン誘導体、樹脂、ビーズ、第2(又は第3以下)の蛋白質又はポリペプチド、ポリヌクレオチド(例えばDNA,RNA等)、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物等が挙げられる。
他の側面では、組込まれた非天然アミノ酸はこの非天然アミノ酸が組込まれた蛋白質に新規生物学的性質を付与する。例えば、非天然アミノ酸は蛍光アミノ酸、フォトケージド又は光活性化可能なアミノ酸、供与体又は受容体としてFRET対で使用可能なアミノ酸、レドックス活性アミノ酸、金属キレート化アミノ酸等とすることができる。
所定側面では、(限定されないが)本発明を実証するために、本明細書の開示は非天然アミノ酸部分をモデル蛋白質に組込むことができることを実証する。非天然アミノ酸の組込みをこのようなモデル蛋白質に限定するものではない。本明細書の開示から明らかなように、任意所定該当蛋白質への非天然アミノ酸の組込みは治療及び研究用の多様な蛋白質に有利である。
本発明者らはセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸(例えば、図1に示す非天然アミノ酸)を部位特異的に組込むために真正細菌と酵母で機能する新規直交tRNA/アミノアシルtRNAシンテターゼ対を開発した。要約すると、本発明者らは夫々大腸菌宿主細胞又は酵母宿主細胞でサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸を選択的に負荷するMethanococcus janaschiiチロシルtRNAシンテターゼ及び大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼの新規突然変異体を同定した。
これらの進化型tRNA−シンテターゼ対は各非天然アミノ酸を蛋白質に部位特異的に組込むために使用することができる。非天然アミノ酸の蛋白質組込みは非天然アミノ酸の組込みを指示するセレクターコドンを含むように該当蛋白質をコードするポリヌクレオチドを組換えることにより任意所望位置で行われるようにプログラムすることができる。
直交tRNA/アミノアシルtRNAシンテターゼ技術
本発明の新規組成物及び方法の理解は直交tRNAと直交アミノアシルtRNAシンテターゼの対に関連する活性を理解することにより容易になる。直交tRNA及びアミノアシルtRNAシンテターゼ技術については例えば、国際公開WO2002/085923、WO2002/086075、WO204/09459、WO2005/019415、WO2005/007870及びWO2005/007624に記載されている。その開示内容全体を参考資料として本明細書に組込むWang and Schultz“Expanding the Genetic Code,”Angewandte Chemie Int.Ed.,44(1):34−66(2005)も参照。
付加反応性非天然アミノ酸を遺伝コードに付加するためには、宿主翻訳機構で効率的に機能することができるが、対が翻訳系に内在性のシンテターゼ及びtRNAから独立して機能するという意味で該当翻訳系に対して「直交性」のアミノアシルtRNAシンテターゼと適切なtRNAを含む新規直交対が必要である。直交対の所望特徴としては、内在tRNAによりデコードされない特定コドン(例えばセレクターコドン)のみをデコード又は認識するtRNAと、そのコグネイトtRNAをただ1種の特定非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化(又は負荷)するアミノアシルtRNAシンテターゼが挙げられる。O−tRNAは更に一般に内在シンテターゼによりアミノアシル化されない。例えば大腸菌では、直交対は例えば大腸菌に存在する40種の内在tRNAのいずれとも交差反応しないアミノアシルtRNAシンテターゼと、例えば大腸菌に存在する21種の内在シンテターゼのいずれによってもアミノアシル化されない直交tRNAを含む。
本発明は真正細菌(例えば大腸菌)又は酵母の蛋白質に非天然アミノ酸を遺伝的にコードさせて組込むための直交対を提供し、直交成分は宿主細胞の翻訳機構の内在大腸菌又は酵母成分と交差反応しないが、所望非天然アミノ酸を認識し、セレクターコドン(例えば、アンバーナンセンスコドンTAG)に応答して蛋白質に組込む。本発明により提供される直交成分としては、真正細菌宿主細胞で直交対として機能するMethanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから誘導される直交アミノアシルtRNAシンテターゼと、突然変異体チロシルtRNACUAアンバーサプレッサーが挙げられる。本発明は更に、酵母宿主細胞で直交対として機能する大腸菌ロイシルRNAシンテターゼから誘導される直交成分と突然変異体大腸菌ロイシルtRNACUAアンバーサプレッサーも提供する。これらの系では、突然変異体アミノアシルtRNAシンテターゼはサプレッサーtRNAを夫々の非天然アミノ酸でアミノアシル化するが、20種の標準アミノ酸のいずれでもアミノアシル化しない。
本発明は非天然アミノ酸を蛋白質に組込むために使用することができる付加直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対(例えばO−tRNA/O−RS対)の組成物と、前記対の同定及び作製方法を提供する。本発明のO−tRNA/O−RS対はO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸(例えば図1に示す非天然アミノ酸)の例えばin vivoでの組込みを媒介することができる。O−tRNAのアンチコドンループはmRNA上のセレクターコドンを認識し、そのアミノ酸(例えば図1に示す非天然アミノ酸)をポリペプチドのこの部位に組込む。一般に、本発明の直交アミノアシルtRNAシンテターゼはそのO−tRNAをただ1種の特定非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化(又は負荷)する。
非天然アミノ酸(例えば図1に示す非天然アミノ酸)を蛋白質に部位特異的に組込むことができると、蛋白質の研究を助長できると共に、新規性質をもつ蛋白質の開発が可能になる。例えば、1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質の発現は特異的標識による蛋白質の試験を容易にし、酵素の触媒機能を改変し、生体活性を改善又は基質に対する交差反応性を低減し、蛋白質を他の蛋白質、小分子又は生体分子と架橋し、蛋白質分解を低減又は排除し、(例えば、導入した反応部位のペグ化又は他の修飾により)蛋白質のin vivo半減期を改善すること等が可能になる。
直交tRNA/直交アミノアシルtRNAシンテターゼ及びその対
1種以上の非天然アミノ酸を含む蛋白質の作製に適した翻訳系は例えば国際公開WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITION FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA−AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;WO2005/019415(出願日2004年7月7日);WO2005/007870(出願日2004年7月7日);及びWO2005/007624(出願日2004年7月7日)に記載されている。これらの各出願はその開示内容全体を参考資料として本明細書に組込む。その開示内容全体を参考資料として本明細書に組込むWang and Schultz“Expanding the Genetic Code,”Angewandte Chemie Int.Ed.,44(1):34−66(2005)も参照。このような翻訳系は一般に直交tRNA(O−tRNA)と、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、非天然アミノ酸を含む細胞(例えば大腸菌等の非真核細胞又は酵母等の真核細胞とすることができる)を含み、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。本発明の直交対はO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA、フレームシフトtRNA等)とO−RSを含む。本発明は個々の成分も提供する。
一般に、直交対がセレクターコドンを認識し、セレクターコドンに応答してアミノ酸を負荷するとき、直交対はセレクターコドンを「抑圧」すると言う。即ち、翻訳系の(例えば細胞の)内在機構により認識されないセレクターコドンは通常翻訳されないので、非抑圧下で核酸から翻訳されるポリペプチドの生産を阻止することができる。本発明のO−tRNAはセレクターコドンを認識し、本明細書の配列表に記載するようなポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAの抑圧効率に比較してコグネイトシンテターゼの存在下でセレクターコドンに応答して少なくとも例えば約45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上の抑圧効率を含む。O−RSはO−tRNAを該当非天然アミノ酸でアミノアシル化する。細胞は例えば該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を介して成長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸を組込むためにO−tRNA/O−RS対を使用し、ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。所定の望ましい側面では、細胞は付加O−tRNA/O−RS対を含むことができ、付加O−tRNAは付加O−RSにより別の非天然アミノ酸を負荷される。例えば、O−tRNAの一方は4塩基コドンを認識することができ、他方は終止コドンを認識することができる。あるいは、複数の異なる終止コドン又は複数の異なる4塩基コドンが異なるセレクターコドンを特異的に認識することができる。
本発明の所定態様では、直交tRNA(O−tRNA)と、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、非天然アミノ酸と、該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細胞(例えば大腸菌細胞又は酵母細胞)が提供され、ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。翻訳系は無細胞系でもよく、例えば各種市販「in vitro」転写/翻訳系の任意のものを本明細書に記載するようなO−tRNA/ORS対及び非天然アミノ酸と併用することができる。
1態様では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率はO−RSの不在下のO−tRNAの抑圧効率の例えば約5倍、10倍、15倍、20倍、又は25倍以上である。1側面では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率は本明細書の配列表に記載するような直交シンテターゼ対の抑圧効率の少なくとも例えば約35%、40%、45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上である。
上記のように、本発明は場合により細胞又は他の翻訳系に複数のO−tRNA/O−RS対を含み、2種以上の非天然アミノ酸を組込むことができる。例えば、細胞は更に別の付加O−tRNA/O−RS対と第2の非天然アミノ酸を含むことができ、この付加O−tRNAは第2のセレクターコドンを認識し、この付加O−RSはO−tRNAを第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。例えば、O−tRNA/O−RS対(O−tRNAは例えばアンバーセレクターコドンを認識する)を含む細胞は更に第2の直交対を含むことができ、第2のO−tRNAは別のセレクターコドン(例えばオパールコドン、4塩基コドン等)を認識する。各直交対は異なるセレクターコドンの認識を助長できるように異なる起源に由来することが望ましい。
O−tRNA及び/又はO−RSは天然に存在するものでもよいし、例えば種々の生物の任意のものに由来するtRNAのライブラリー及び/又はRSのライブラリーを作製するか及び/又は種々の利用可能な突然変異ストラテジーの任意のものを使用することにより、天然に存在するtRNA及び/又はRSの突然変異により誘導してもよい。例えば、直交tRNA/アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための1つのストラテジーは例えば宿主細胞以外の起源又は多重起源に由来する(宿主に対して)異種のtRNA/シンテターゼ対を宿主細胞に導入する方法である。異種シンテターゼ候補の特性としては、例えば宿主細胞tRNAに負荷しないことが挙げられ、異種tRNA候補の特性としては、例えば宿主細胞シンテターゼによりアミノアシル化されないことが挙げられる。更に、異種tRNAは全宿主細胞シンテターゼに対して直交性である。
直交対を作製するための第2のストラテジーはO−tRNA又はO−RSをスクリーニング及び/又は選択するための突然変異体ライブラリーを作製する方法である。これらのストラテジーを組み合わせてもよい。
直交tRNA(O−tRNA)
本発明の直交tRNA(O−tRNA)はO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への非天然アミノ酸の例えばin vivo又はin vitroでの組込みを媒介することが望ましい。所定態様では、本発明のO−tRNAは本明細書の配列表のO−tRNA配列に記載するようなポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAに比較してコグネイトシンテターゼの存在下でセレクターコドンに応答して少なくとも例えば約45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上の抑圧効率を含む。
抑圧効率は当分野で公知の多数のアッセイの任意のものにより測定することができる。例えば、β−ガラクトシダーゼレポーターアッセイを使用することができ、例えば本発明のO−tRNAを含むプラスミドと共に修飾lacZプラスミド(構築物はlacZ核酸配列中にセレクターコドンをもつ)を適当な生物(例えば直交成分を使用することができる生物)に由来する細胞に導入する。コグネイトシンテターゼも(ポリペプチド又は発現されるとコグネイトシンテターゼをコードするポリヌクレオチドとして)導入することができる。細胞を培地で所望密度(例えばOD600=約0.5)まで増殖させ、例えばBetaFluor(登録商標)β−ガラクトシダーゼアッセイキット(Novagen)を使用してβ−ガラクトシダーゼアッセイを実施する。比較可能な対照(例えば所望位置にセレクターコドンではなく対応するセンスコドンをもつ修飾lacZ構築物から観測される値)に対するサンプルの活性百分率として抑圧百分率を計算することができる。
本発明のO−tRNAの例を本明細書の配列表に記載する。代表的O−tRNA及びO−RS分子の配列については本明細書の表、実施例及び図面も参照。更に、本明細書の「核酸及びポリペプチド配列と変異体」のセクションも参照。O−RS mRNA又はO−tRNA分子等のRNA分子では、所与配列又はその相補配列に対してチミン(T)がウラシル(U)で置換されている(コーディングDNAでは逆)。塩基に付加修飾を加えてもよい。
本発明は本明細書に記載する特定O−tRNAに対応するO−tRNAの保存変異体も含む。例えば、O−tRNAの保存変異体としては、例えば本明細書の配列表に記載するような特定O−tRNAと同様に機能し、適当な自己相補性によりtRNA L形構造を維持するが、例えば本明細書の配列表、図面又は実施例に記載する配列と同一配列をもたない分子が挙げられる(更に野生型tRNA分子以外のものであることが望ましい)。本明細書の「核酸及びポリペプチド配列と変異体」のセクションも参照。
O−tRNAを含む組成物は更に直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含むことができ、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−tRNAを含む組成物は更に(例えばin vitro又はin vivo)翻訳系を含むことができる。該当ポリペプチドをコードし、O−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを含む核酸、又はこれらの1種以上の組み合わせも細胞に加えることができる。本明細書の「直交アミノアシルtRNAシンテターゼ」のセクションも参照。
直交tRNA(O−tRNA)の作製方法も本発明の特徴である。本方法により作製されたO−tRNAも本発明の特徴である。本発明の所定態様では、O−tRNAは突然変異体ライブラリーを作製することにより作製することができる。突然変異体tRNAのライブラリーは当分野で公知の種々の突然変異誘発技術を使用して作製することができる。例えば、突然変異体tRNAは例えば表5の代表的O−tRNAの部位特異的突然変異、ランダム点突然変異、相同組換え、DNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法、キメラ構築又はその任意組み合わせにより作製することができる。
tRNAの所望ループ又は領域(例えばアンチコドンループ、受容体ステム、Dアーム又はループ、可変ループ、TPCアーム又はループ、tRNA分子の他の領域又はその組合せ)の特定位置(例えば非保存位置又は保存位置)、ランダム位置又は両者の組合せに付加突然変異を導入することができる。一般に、tRNAの突然変異としてはセレクターコドンの認識を可能にするように突然変異体tRNAライブラリーの各メンバーのアンチコドンループを突然変異させる方法が挙げられる。この方法は更にO−tRNAに付加配列を付加する段階を含むことができる。一般に、O−tRNAは所望RSに対するその親和性等を維持しながら、出発材料(例えば複数のtRNA配列)に比較して所望生物に対する直交性が改善されている。
前記方法は場合によりtRNA及び/又はアミノアシルtRNAシンテターゼの配列の類似性(及び/又は推定相同性)を分析し、特定生物に対して直交性であると思われるO−tRNA、O−RS及び/又はその対の潜在候補を決定する段階を含む。分析には、当分野で公知であり、本明細書に記載するコンピュータープログラム(例えばBLAST及びpileupプログラム)を使用することができる。1例では、大腸菌で使用するための潜在的直交翻訳成分を選択するためには、真正細菌生物に密接な配列類似性を示さないシンテターゼ及び/又はtRNAを選択する。
一般に、O−tRNAは複数の潜在的O−tRNAのメンバーを含む第1の種の細胞の集団に例えばネガティブ選択を実施することにより得られる。ネガティブ選択は細胞に内在性のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化される潜在的O−tRNAライブラリーのメンバーを含む細胞を排除する。こうして、第1の種の細胞に直交性のtRNAプールが得られる。
所定態様において、ネガティブ選択では、ネガティブ選択マーカー(例えば抗生物質耐性を付与する酵素(例えばβ−ラクタマーゼ)、検出可能な産物を付与する酵素(例えばβ−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT))、例えば毒性物質(例えばバルナーゼ))をコードするポリヌクレオチドの(例えば機能的バルナーゼを依然として産生する)非必須位置等にセレクターコドンを導入する。場合により選択物質(例えばアンピシリン等の抗生物質)の存在下で細胞集団を増殖させることによりスクリーニング/選択を実施する。1態様では、選択物質の濃度を変動させる。
例えば、サプレッサーtRNAの活性を測定するためには、セレクターコドン(例えばネガティブ選択マーカー(例えばβ−ラクタマーゼ遺伝子(bla))をコードするポリヌクレオチドに導入されたナンセンス(例えば終止)又はフレームシフト突然変異)のin vivo抑圧に基づく選択システムを使用する。例えば、所定位置(例えばA184)にセレクターコドンをもつポリヌクレオチド変異体(例えばbla変異体)を構築する。細胞(例えば細菌)をこれらのポリヌクレオチドで形質転換する。内在大腸菌シンテターゼにより効率的に負荷することができない直交tRNAの場合には、抗生物質耐性(例えばアンピシリン耐性)はプラスミドで形質転換されていない細菌と同等以下のはずである。tRNAが非直交性の場合、又はtRNAに負荷することが可能な異種シンテターゼをシステムで同時発現させる場合には、より高レベルの抗生物質(例えばアンピシリン)耐性が観測される。プラスミドで形質転換されていない細胞と同等の抗生物質濃度のLB寒天プレートで増殖することができない細胞(例えば細菌)を選択する。
毒性物質(例えばリボヌクレアーゼ又はバルナーゼ)の場合には、複数の潜在的tRNAのメンバーが内在宿主(例えば大腸菌)シンテターゼによりアミノアシル化されるとき(即ち、宿主(例えば大腸菌)シンテターゼに非直交性であるとき)には、セレクターコドンは抑圧され、生産される毒性ポリヌクレオチド産物は細胞死を生じる。直交tRNA又は非機能的tRNAを含む細胞は生存する。
1態様では、所望生物に直交性のtRNAプールに次にポジティブ選択を実施し、セレクターコドンを例えばβ−ラクタマーゼ遺伝子等の薬剤耐性遺伝子によりコードされるポジティブ選択マーカーに配置する。ポジティブ選択は細胞に直交性のtRNAプールのメンバーをコードするか又は前記メンバーを含むポリヌクレオチドと、ポジティブ選択マーカーをコードするポリヌクレオチドと、コグネイトRSをコードするポリヌクレオチドを含む細胞で実施される。所定態様では、第2の細胞集団はネガティブ選択により排除されなかった細胞を含む。ポリヌクレオチドを細胞で発現させ、選択物質(例えばアンピシリン)の存在下で細胞を増殖させる。次に、同時発現させたコグネイトシンテターゼによりアミノアシル化され、このセレクターコドンに応答してアミノ酸を挿入することができるtRNAを選択する。一般に、これらの細胞は非機能的tRNA、又は該当シンテターゼにより効率的に認識することができないtRNAを含む細胞に比較して高い抑圧効率を示す。非機能的tRNA又は該当シンテターゼにより効率的に認識されないtRNAを含む細胞は抗生物質に感受性である。従って、(i)内在宿主(例えば大腸菌)シンテターゼの基質ではなく;(ii)該当シンテターゼによりアミノアシル化することができ;(iii)翻訳で機能的なtRNAが両者選択後に生存している。
従って、スクリーニングされる状況に応じて同一マーカーがポジティブマーカーにもネガティブマーカーにもなる。即ち、マーカーがポジティブスクリーニングされる場合にはポジティブマーカーであり、ネガティブスクリーニングされる場合にはネガティブマーカーである。
上記方法における選択(例えばポジティブ選択、ネガティブ選択又はポジティブ選択とネガティブ選択の両者)のストリンジェンシーは場合により選択ストリンジェンシーの変動を含む。例えば、バルナーゼは極毒性蛋白質であるので、異なる数のセレクターコドンをバルナーゼ遺伝子に導入するか及び/又は誘導プロモーターを使用することによりネガティブ選択のストリンジェンシーを制御することができる。別の例では、選択又はスクリーニング物質の濃度(例えばアンピシリン濃度)を変動させる。本発明の1側面では、初期ラウンド中の所望活性は低いと思われるのでストリンジェンシーを変動させる。即ち、初期ラウンドでは低ストリンジェンシー選択基準を適用し、後期ラウンドの選択では高ストリンジェンシー基準を適用する。所定態様では、ネガティブ選択、ポジティブ選択又はネガティブ選択とポジティブ選択の両方を複数回反復することができる。複数の異なるネガティブ選択マーカー、ポジティブ選択マーカー又はネガティブ選択マーカーとポジティブ選択マーカーの両方を使用することができる。所定態様では、ポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーを同一にすることができる。
本発明ではセレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を負荷する直交翻訳成分(例えばO−tRNA、O−RS、及びO−tRNA/O−RS対)を作製するために他の型の選択/スクリーニングを使用することもできる。例えば、ネガティブ選択マーカー、ポジティブ選択マーカー又はポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーの両方として、適切な反応体の存在下で蛍光発光するか又は発光反応を触媒するマーカーを使用することができる。別の態様では、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)又は発光によりマーカーの産物を検出する。場合により、マーカーはアフィニティースクリーニングマーカーを含む。Francisco,J.A.ら,(1993)Production and fluorescence−activated cell sorting of Escherichia coli expressing a functional antibody fragment on the external surface.Proc Natl Acad Sci U S A.90:10444−8も参照。
組換え直交tRNAの他の作製方法も例えば国際出願公開WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;及びWO2005/019415(出願日2004年7月7日)に記載されている。Forsterら,(2003)Programming peptidomimetic synthetases by translating genetic codes designed de novo PNAS 100(11):6353−6357;及びFengら,(2003),Expanding tRNA recognition of a tRNA synthetase by a single amino acid change,PNAS 100(10):5676−5681も参照。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)
本発明のO−RSはin vitro又はin vivoでO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。本発明のO−RSはO−RSを含むポリペプチド及び/又はO−RS又はその一部をコードするポリヌクレオチドにより翻訳系(例えば細胞)に提供することができる。例えば、O−RSの1例は本明細書の配列表と実施例に記載するようなアミノ酸配列、又はその保存変異体を含む。別の例では、O−RS、又はその一部は本明細書の配列表又は実施例に記載する配列を含むアミノ酸をコードするポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。例えば、代表的O−RS分子の配列については本明細書の表及び実施例参照。本明細書の「核酸及びポリペプチド配列と変異体」のセクションも参照。
O−tRNAと併用する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)(例えばO−RS)の同定方法も本発明の特徴である。例えば、1方法は第1の種の細胞集団について選択(例えばポジティブ選択)を実施する段階を含み、前記細胞は1)複数のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のメンバー(例えば複数のRSは突然変異体RS、第1の種以外の種に由来するRS又は突然変異体RSと第1の種以外の種に由来するRSの両方を含むことができる)と;2)(例えば1種以上の種に由来する)直交tRNA(O−tRNA)と;3)(例えばポジティブ)選択マーカーをコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを各々含む。複数のRSのメンバーを含まないか又はその量の少ない細胞に比較して抑圧効率の高い細胞について細胞を選択又はスクリーニングする。抑圧効率は当分野で公知の技術及び本明細書に記載するように測定することができる。抑圧効率の高い細胞はO−tRNAをアミノアシル化する活性RSを含む。第1の種に由来する第1組のtRNAの活性RSによる(in vitro又はin vivo)アミノアシル化レベルを第2の種に由来する第2組のtRNAの活性RSによる(in vitro又はin vivo)アミノアシル化レベルと比較する。アミノアシル化レベルは検出可能な物質(例えば標識非天然アミノ酸)により測定することができる。第1組のtRNAに比較して第2組のtRNAをより効率的にアミノアシル化する活性RSを一般に選択することにより、O−tRNAと併用する効率的(最適化)直交アミノアシルtRNAシンテターゼが得られる。この方法により同定されたO−RSも本発明の特徴である。
アミノアシル化を測定するためには多数のアッセイの任意のものを使用することができる。これらのアッセイはin vitro又はin vivoで実施することができる。例えば、in vitroアミノアシル化アッセイは例えばHoben and Soll(1985)Methods Enzymol.113:55−59に記載されている。アミノアシル化は直交翻訳成分と共にレポーターを使用し、蛋白質をコードする少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを発現する細胞でレポーターを検出することにより測定することもできる。WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;及びWO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」も参照。
同定されたO−RSを更に操作し、所望非天然アミノ酸のみをO−tRNAに負荷し、20種の標準アミノ酸のいずれをも負荷しないようにシンテターゼの基質特異性を改変することができる。非天然アミノ酸に対して基質特異性をもつ直交アミノアシルtRNAシンテターゼの作製方法は例えばシンテターゼの活性部位、シンテターゼの編集メカニズム部位、シンテターゼの各種ドメインを組み合わせることによる各種部位等でシンテターゼを突然変異させる段階と、選択プロセスを適用する段階を含む。ポジティブ選択後にネガティブ選択を行う併用に基づくストラテジーを使用する。ポジティブ選択では、ポジティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンが抑圧されると、細胞はポジティブ選択圧下で生存する。従って、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両者の存在下で生存細胞は直交サプレッサーtRNAに天然又は非天然アミノ酸を負荷する活性シンテターゼをコードする。ネガティブ選択では、ネガティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンが抑圧されると、天然アミノ酸特異性をもつシンテターゼは除去される。ネガティブ選択とポジティブ選択の生存細胞は直交サプレッサーtRNAを非天然アミノ酸のみでアミノアシル化(負荷)するシンテターゼをコードする。その後、これらのシンテターゼを更に突然変異誘発(例えばDNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法)に付すことができる。
突然変異体O−RSのライブラリーは当分野で公知の種々の突然変異誘発技術を使用して作製することができる。例えば、突然変異体RSは部位特異的突然変異、ランダム点突然変異、相同組換え、DNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法、キメラ構築又はその任意組み合わせにより作製することができる。例えば、突然変異体RSのライブラリーは2種以上の他の例えばサイズとダイバーシティーの小さい「サブライブラリー」から作製することができる。RSのキメラライブラリーも本発明に含まれる。なお、場合により各種生物(例えば真正細菌又は古細菌等の微生物)に由来するtRNAシンテターゼのライブラリー(例えば天然ダイバーシティーを含むライブラリー)(例えば米国特許第6,238,884号(Shortら);米国特許第5,756,316号(Schallenbergerら);米国特許第5,783,431号(Petersenら);米国特許第5,824,485号(Thompsonら);米国特許第5,958,672号(Shortら)参照)を構築し、直交対についてスクリーニングする。
シンテターゼにポジティブ及びネガティブ選択/スクリーニングストラテジーを実施した後、これらのシンテターゼを更に突然変異誘発することができる。例えば、O−RSをコードする核酸を単離することができ;(例えばランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、組換え又はその任意組み合わせにより)突然変異O−RSをコードする1組のポリヌクレオチドを核酸から作製することができ;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する突然変異O−RSが得られるまでこれらの個々の段階又はこれらの段階の組み合わせを繰り返すことができる。本発明の所定側面では、前記段階を複数回、例えば少なくとも2回実施する。
O−tRNA、O−RS、又はその対を作製するための本発明の方法では、付加レベルの選択/スクリーニングストリンジェンシーを使用することもできる。選択又はスクリーニングストリンジェンシーはO−RSの作製方法の一方又は両方の段階で変動させることができる。これは例えば選択/スクリーニング物質の使用量等の変動とすることができる。付加ラウンドのポジティブ及び/又はネガティブ選択を実施することもできる。選択又はスクリーニングは更にアミノ酸浸透率の変化、翻訳効率の変化、翻訳忠実度の変化等の1種以上を含むこともできる。一般に、1種以上の変化は蛋白質を生産するために直交tRNA−tRNAシンテターゼ対を使用する生物における1個以上の遺伝子の突然変異に基づく。
O−RSの作製と、シンテターゼの基質特異性の改変に関するその他の一般的な詳細については国際公開WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;及びWO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」に記載されている。その開示内容全体を参考資料として本明細書に組込むWang and Schultz“Expanding the Genetic Code,”Angewandte Chemie Int.Ed.,44(1):34−66(2005)も参照。
資源及び宿主生物
本発明の直交翻訳成分(O−tRNAとO−RS)はO−tRNA/O−RS成分と宿主系が直交に作用するという条件で他の任意種に由来する宿主翻訳系で使用するために任意生物(又は生物組み合わせ)に由来することができる。直交対のO−tRNAとO−RSは同一生物に由来する必要はない。所定側面では、直交成分は真正細菌宿主系で使用するために古細菌遺伝子(即ち古細菌)に由来する。
例えば、直交O−tRNAは古細菌生物、例えばMethanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix、Methanococcus maripaludis、Methanopyrus kandleri、Methanosarcina mazei(Mm)、Pyrobaculum aerophilum、Pyrococcus abyssi、Sulfolobus solfataricus(Ss)、Sulfolobus tokodaii、Thermoplasma acidophilum、Thermoplasma volcanium等の古細菌や、Escherichia coli,Thermus thermophilus,Bacillus stearothermphilus等の真正細菌に由来することができ、直交O−RSは生物又は生物組み合わせ、例えばMethanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix、Methanococcus maripaludis、Methanopyrus kandleri、Methanosarcina mazei、Pyrobaculum aerophilum、Pyrococcus abyssi、Sulfolobus solfataricus、Sulfolobus tokodaii、Thermoplasma acidophilum、Thermoplasma volcanium等の古細菌や、Escherichia coli,Thermus thermophilus,Bacillus stearothermphilus等の真正細菌に由来することができる。1態様では、例えば植物、藻類、原生動物、真菌類、酵母、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等の真核資源もO−tRNA及びO−RSの資源として使用することができる。
O−tRNA/O−RS対の個々の成分は同一生物に由来するものでも異なる生物に由来するものでもよい。1態様では、O−tRNA/O−RS対は同一生物に由来する。あるいは、O−tRNA/O−RS対のO−tRNAとO−RSは異なる生物に由来する。
O−tRNA、O−RS又はO−tRNA/O−RS対はin vivo又はin vitroで選択又はスクリーニングすることができ、及び/又は非天然アミノ酸を組込んだポリペプチドを生産するために細胞(例えば真正細菌細胞)で使用することができる。使用される真正細菌細胞は限定されないが、例えば大腸菌(Escherichia coli)、Thermus thermophilus、Bacillus stearothermphilus等である。本発明の翻訳成分を含む真正細菌細胞の組成物も本発明の特徴である。
別の種で使用するためにある種のO−tRNA及び/又はO−RSをスクリーニングする方法については、国際出願公開WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」(出願日2004年4月16日)も参照。
所定側面では、非天然アミノ酸を組込んだポリペプチドを生産するためにO−tRNA、O−RS又はO−tRNA/O−RS対をin vivo又はin vitroで選択又はスクリーニング及び/又は細胞(例えば真核細胞)で使用することができる。使用する真核細胞は限定されず、例えばSaccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)等の適切な任意酵母細胞を使用することができる。本発明の翻訳成分を組込んだ真核細胞の組成物も本発明の特徴である。
Saccharomyces cerevisiaeは各種利点があるので、真核宿主種として選択することができる。この種は単細胞であり、1世代の寿命が短く、遺伝的に十分に特性決定されている。例えばD.Burkeら,(2000)Methods in Yeast Genetics.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY参照。更に、真核生物の翻訳機構は高度に保存されている(例えば(1996)Translational Control.Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY;Y.Kwok,& J.T.Wong,(1980),Evolutionary relationship between Halobacterium cutirubrum and eukaryotes determined by use of aminoacyl−tRNA synthetases as phylogenetic probes,Canadian Journal of Biochemistry 58:213−218;及び(2001)The Ribosome.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY参照)ので、S.cerevisiaeで発見された非天然アミノ酸の組込み用O−RS遺伝子(例えば、野生型大腸菌RS配列に由来するO−RS遺伝子)を高等真核生物(例えば哺乳動物細胞)に導入し、非天然アミノ酸を組込むためにコグネイトtRNAと併用することができる(例えばK.Sakamotoら,(2002)Site−specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in mammalian cells,Nucleic Acids Res.30:4692−4699;及びC.Kohrerら,(2001),Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells:a general approach to site−specific insertion of amino acid analogues into proteins,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98:14310−14315参照)。
(例えば、O−RSとO−tRNAと非天然アミノ酸を含む)直交翻訳系は非天然アミノ酸をもつ蛋白質を生産するために培養宿主細胞を利用することができるが、本発明の直交翻訳系は無傷の生存宿主細胞を必要とするものではない。例えば、直交翻訳系は細胞抽出液の存在下で無細胞系を利用することができる。実際に、蛋白質生産に無細胞in vitro転写/翻訳系を使用することは確立した技術である。本明細書に記載する直交翻訳系成分を使用して非天然アミノ酸をもつ蛋白質を生産するようにこれらのin vitro系を適応させることは十分に本発明の範囲に含まれる。
セレクターコドン
本発明のセレクターコドンは蛋白質生合成機構の遺伝コドン枠を拡張する。例えば、セレクターコドンとしては例えばユニーク3塩基コドン、ナンセンスコドン(例えばアンバーコドン(UAG)又はオパールコドン(UGA)等の終止コドン)、非天然コドン、少なくとも4塩基のコドン、レアコドン等が挙げられる。例えば1個以上、2個以上、4個以上等の多数のセレクターコドンを所望遺伝子に導入することができる。複数の異なるセレクターコドンを使用することにより、これらの異なるセレクターコドンを使用して(例えば少なくとも1種の非天然アミノ酸を含む)複数の非天然アミノ酸の同時部位特異的組込みを可能にする複数の直交tRNA/シンテターゼ対を使用することができる。
1態様では、本方法は非天然アミノ酸を細胞にin vivo組込むために終止コドンであるセレクターコドンを使用する。例えば、終止コドンを認識し、O−RSにより非天然アミノ酸でアミノアシル化されるO−tRNAを作製する。このO−tRNAは天然に存在する宿主のアミノアシルtRNAシンテターゼにより認識されない。慣用部位特異的突然変異誘発法を使用して該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの該当部位に終止コドンを導入することができる。例えばSayers,J.R.ら,(1988),5’,3’Exonuclease in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis.Nucleic Acids Res.791−802参照。O−RS、O−tRNA及び該当ポリペプチドをコードする核酸を例えばin vivoで併用すると、非天然アミノ酸は終止コドンに応答して組込まれ、特定位置に非天然アミノ酸を含むポリペプチドが得られる。本発明の1態様では、セレクターコドンとして使用される終止コドンはアンバーコドンUAG及び/又はオパールコドンUGAである。1例では、セレクターコドンとしてUAGとUGAの両者を使用する遺伝コードは存在度が最も高い終結シグナルであるオーカーナンセンスコドンUAAを保存しながら22種のアミノ酸をコードすることができる。
非天然アミノ酸のin vivo組込みは宿主細胞をさほど撹乱せずに実施することができる。例えば、大腸菌等の非真核細胞では、UAGコドンの抑圧効率はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNA)と(UAGコドンと結合してリボソームから成長中のペプチドの放出を開始する)放出因子1(RF1)の競合に依存するので、例えばO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA)の発現レベルを増加するか又はRF1欠損株を使用することにより抑圧効率を調節することができる。真核細胞では、UAGコドンの抑圧効率はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNA)と(終止コドンと結合してリボソームから成長中のペプチドの放出を開始する)真核放出因子(例えばeRF)の競合に依存するので、例えばO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA)の発現レベルを増加することにより抑圧効率を調節することができる。更に、付加化合物、例えばジチオスレイトール(DTT)等の還元剤も加えてもよい。
非天然アミノ酸はレアコドンでコードすることもできる。例えば、in vitro蛋白質合成反応でアルギニン濃度を下げると、レアアルギニンコドンAGGはアラニンでアシル化された合成tRNAによるAlaの挿入に有効であることが分かっている。例えばMaら,Biochemistry,32:7939(1993)参照。この場合には、合成tRNAは大腸菌に少量種として存在する天然tRNAArgと競合する。更に、生物によっては全トリプレットコドンを使用しないものもある。Micrococcus luteusで割り当てられないコドンAGAがin vitro転写/翻訳抽出物へのアミノ酸挿入に使用されている。例えばKowal and Oliver,Nucl.Acid.Res.,25:4685(1997)参照。本発明の成分はこれらのレアコドンをin vivo使用するために作製することができる。
セレクターコドンは更に拡張コドン(例えば4、5、6塩基以上のコドン等の4塩基以上のコドン)も含むことができる。4塩基コドンの例としては例えばAGGA、CUAG、UAGA、CCCU等が挙げられる。5塩基コドンの例としては例えばAGGAC、CCCCU、CCCUC、CUAGA、CUACU、UAGGC等が挙げられる。本発明の方法はフレームシフト抑圧に基づく拡張コドンの使用を含む。4塩基以上のコドンは例えば1又は複数の非天然アミノ酸を同一蛋白質に挿入することができる。他の態様では、アンチコドンループは例えば少なくとも4塩基コドン、少なくとも5塩基コドン、又は少なくとも6塩基コドン又はそれ以上をデコードすることができる。4塩基コドンは256種が考えられるので、4塩基以上のコドンを使用すると同一細胞で複数の非天然アミノ酸をコードすることができる。Andersonら,(2002)Exploring the Limits of Codon and Anticodon Size,Chemistry and Biology,9:237−244;及びMagliery,(2001)Expanding the Genetic Code:Selection of Efficient Suppressors of Four−base Codons and Identification of “Shifty” Four−base Codons with a Library Approach in Escherichia coli,J.Mol.Biol.307:755−769も参照。
例えば、in vitro生合成法を使用して非天然アミノ酸を蛋白質に組込むために4塩基コドンが使用されている。例えばMaら,(1993)Biochemistry,32,7939;及びHohsakaら,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:34参照。2個の化学的にアシル化されたフレームシフトサプレッサーtRNAを用いて2−ナフチルアラニンとリジンのNBD誘導体をストレプトアビジンに同時にin vitroで組込むためにCGGGとAGGUが使用されている。例えばHohsakaら,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:12194参照。in vivo試験では、MooreらはNCUAアンチコドンをもつtRNALeu誘導体がUAGNコドン(NはU、A、G又はCであり得る)を抑圧する能力を試験し、4塩基UAGAはUCUAアンチコドンをもつtRNALeuにより13〜26%の効率でデコードすることができるが、0又は−1フレームでは殆どデコードできないことを見出した。Mooreら,(2000)J.Mol.Biol.,298:195参照。1態様では、レアコドン又はナンセンスコドンに基づく拡張コドンを本発明で使用し、他の望ましくない部位でのミスセンス読み飛ばしとフレームシフト抑圧を減らすことができる。4塩基コドンは各種直交系でセレクターコドンとして使用されている。例えば、WO2005/019415;WO2005/007870;及びWO2005/007624参照。その開示内容全体を参考資料として本明細書に組込むWang and Schultz“Expanding the Genetic Code,”Angewandte Chemie Int.Ed.,44(1):34−66(2005)も参照。下記実施例ではアンバーセレクターコドンを使用しているが、4塩基O−tRNAと各種非天然アミノ酸O−RSについて従来記載されている突然変異と同様の突然変異を含むように改変したシンテターゼを使用するように下記実施例を変更することにより、4塩基以上のコドンも使用することができる。
所与系では、セレクターコドンは更に天然3塩基コドンの1種を含むことができ、内在系はこの天然塩基コドンを使用しない(又は殆ど使用しない)。例えば、天然3塩基コドンを認識するtRNAをもたない系、及び/又は3塩基コドンがレアコドンである系がこれに該当する。
セレクターコドンは場合により非天然塩基対を含む。これらの非天然塩基対は更に既存遺伝子アルファベットを拡張する。塩基対が1個増えると、トリプレットコドン数は64から125に増す。第3の塩基対の性質としては安定的且つ選択的な塩基対合、高い忠実度でポリメラーゼによるDNAへの効率的な酵素組込み、及び新生非天然塩基対の合成後の効率的な持続的プライマー伸長が挙げられる。方法と組成物に適応可能な非天然塩基対については、例えばHiraoら,(2002)An unnatural base pair for incorporating amino acid analogues into protein,Nature Biotechnology,20:177−182に記載されている。Wu,Y.ら,(2002)J.Am.Chem.Soc.124:14626−14630も参照。他の関連文献は以下に挙げる。
in vivo使用では、非天然ヌクレオシドは膜透過性であり、リン酸化され、対応する三リン酸塩を形成する。更に、増加した遺伝情報は安定しており、細胞内酵素により破壊されない。Bennerらによる従来の報告はカノニカルワトソンクリック対とは異なる水素結合パターンを利用しており、そのうちで最も注目される例はイソC:イソG対である。例えばSwitzerら,(1989)J.Am.Chem.Soc.,111:8322;及びPiccirilliら,(1990)Nature,343:33;Kool,(2000)Curr.Opin.Chem.Biol.,4:602参照。これらの塩基は一般に天然塩基とある程度まで誤対合し、酵素複製することができない。Koolらは水素結合を塩基間の疎水性パッキング相互作用に置き換えることにより塩基対の形成を誘導できることを立証した。Kool,(2000)Curr.Opin.Chem.Biol.,4:602;及びGuckian and Kool,(1998)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,36,2825参照。上記全要件を満足する非天然塩基対を開発する目的でSchultz,Romesbergらは一連の非天然疎水性塩基を体系的に合成し、試験した。PICS:PICS自己対は天然塩基対よりも安定しており、大腸菌DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント(KF)によりDNAに効率的に組込むことができる。例えばMcMinnら,(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:11586;及びOgawaら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:3274参照。生体機能に十分な効率と選択性でKFにより3MN:3MN自己対を合成することができる。例えばOgawaら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:8803参照。しかし、どちらの塩基も後期複製用チェーンターミネーターとして作用するものである。PICS自己対を複製するために使用できる突然変異体DNAポリメラーゼが最近開発された。更に、7AI自己対も複製することができる。例えばTaeら,(2001)J.Am.Chem.Soc.,123:7439参照。Cu(II)と結合すると安定な対を形成する新規メタロ塩基対Dipic:Pyも開発された。Meggersら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:10714参照。拡張コドンと非天然コドンは天然コドンに本質的に直交性であるので、本発明の方法は天然コドンに直交性のtRNAを作製するためにこの性質を利用することができる。
翻訳バイパス系を使用して非天然アミノ酸を所望ポリペプチドに組込むこともできる。1翻訳バイパス系では、大きい配列が遺伝子に挿入されるが、蛋白質に翻訳されない。この配列はリボソームに配列を飛び越させて挿入の下流の翻訳を再開するための合図として機能する構造を含む。
非天然アミノ酸
本明細書で使用する非天然アミノ酸とはセレノシステイン及び/又はピロリジンと20種の遺伝的にコードされる以下のα−アミノ酸、即ちアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸又はアミノ酸類似体を意味する。α−アミノ酸の一般構造は式I:

により表される。
非天然アミノ酸は一般に式Iをもつ任意構造であり、式中、R基は20種の天然アミノ酸で使用されている以外の任意置換基である。20種の天然アミノ酸の構造については、例えばL.Stryer著Biochemistry,第3版,1988,Freeman and Company,New York参照。なお、本発明の非天然アミノ酸は上記20種のα−アミノ酸以外の天然化合物でもよい。
本発明の非天然アミノ酸は一般に側鎖が天然アミノ酸と異なるので、天然蛋白質と同様に他のアミノ酸(例えば天然又は非天然アミノ酸)とアミド結合を形成する。一方、非天然アミノ酸は天然アミノ酸と異なる側鎖基をもつ。
本発明では図1に示す非天然アミノ酸が特に重要である。例えば、これらの非天然アミノ酸としては限定されないが、p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン及びp−ニトロ−L−フェニルアラニンが挙げられる。本発明ではこれらの非天然アミノ酸のL及びDエナンチオマーのどちらも利用できる。
図1の非天然アミノ酸に加え、例えば本発明により提供される直交対と適切な第2のO−tRNA/O−RS対を併用して他の非天然アミノ酸を同時に該当ポリペプチドに組込むことができる。多数のこのような付加非天然アミノ酸と適切な直交対が公知である。本明細書の引用文献参照。例えば、その開示内容全体を参考資料として本明細書に組込むWang and Schultz“Expanding the Genetic Code,”Angewandte Chemie Int.Ed.,44(1):34−66(2005)参照。
他の非天然アミノ酸では、例えば、式IにおけるRは場合によりアルキル、アリール、アシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、エーテル、硼酸、ボロン酸、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、エノン、イミン、エステル、ヒドロキシルアミン、アミン基等又はその任意組合せを含む。他の該当非天然アミノ酸としては限定されないが、光架橋基をもつアミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属結合性アミノ酸、金属含有アミノ酸、放射性アミノ酸、新規官能基をもつアミノ酸、他の分子と共有又は非共有的に相互作用するアミノ酸、フォトケージド及び/又は光異性化可能なアミノ酸、ビオチン又はビオチン類似体を含有するアミノ酸、ケト含有アミノ酸、グリコシル化アミノ酸、アミノ酸側鎖と結合した糖部分、ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学分解性又は光分解性アミノ酸、天然アミノ酸に比較して延長側鎖(例えばポリエーテル又は例えば約5もしくは約10炭素長を上回る長鎖炭化水素等)をもつアミノ酸、炭素結合糖含有アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、及び1個以上の毒性部分を含むアミノ酸が挙げられる。
別の側面では、本発明は下式IV:

により表される一般構造をもつ非天然アミノ酸を提供する。
この構造をもつ非天然アミノ酸は一般にRが20種の天然アミノ酸の1種で使用される置換基(例えば、チロシン又はフェニルアラニン)であり、Rが置換基である任意構造である。従って、この種のアミノ酸は天然アミノ酸誘導体とみなすことができる。
図1に示す非天然アミノ酸等の新規側鎖を含む非天然アミノ酸に加え、非天然アミノ酸は場合により例えば式II及びIII:

の構造により表されるような修飾主鎖構造も含み、上記式中、Zは一般にOH、NH、SH、NH−R’又はS−R’を含み、XとYは同一でも異なっていてもよく、一般にS又はOであり、RとR’は場合により同一又は異なり、一般に式Iをもつ非天然アミノ酸について上記に記載したR基と同一の基及び水素から選択される。例えば、本発明の非天然アミノ酸は場合により式II及びIIIにより表されるようにアミノ又はカルボキシル基に置換を含む。この種の非天然アミノ酸としては限定されないが、例えば20種の標準天然アミノ酸に対応する側鎖又は非天然側鎖をもつα−ヒドロキシ酸、α−チオ酸、α−アミノチオカルボキシレートが挙げられる。更に、α炭素の置換は場合によりL、D又はα,α−ジ置換アミノ酸(例えばD−グルタミン酸、D−アラニン、D−メチル−O−チロシン、アミノ酪酸等)を含む。他の代替構造としては環状アミノ酸(例えばプロリン類似体や、3、4、6、7、8及び9員環プロリン類似体)、β及びγアミノ酸(例えば置換β−アラニン及びγ−アミノ酪酸)が挙げられる。
所定側面では、本発明はL配置の非天然アミノ酸を利用する。しかし、本発明はL配置非天然アミノ酸の使用に限定されない。本発明ではこれらの非天然アミノ酸のDエナンチオマーも利用できると考えられる。
チロシン類似体としてはパラ置換チロシン、オルト置換チロシン、及びメタ置換チロシンが挙げられ、置換チロシンはアルキニル基、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、チオール基、カルボキシ基、イソプロピル基、メチル基、C−C20直鎖又は分岐鎖炭化水素、飽和又は不飽和炭化水素、O−メチル基、ポリエーテル基、ニトロ基等を含む。更に、多置換アリール環も考えられる。本発明のグルタミン類似体としては限定されないが、α−ヒドロキシ誘導体、γ置換誘導体、環状誘導体及びアミド置換グルタミン誘導体が挙げられる。フェニルアラニン類似体の例としては限定されないが、パラ置換フェニルアラニン、オルト置換フェニルアラニン、及びメタ置換フェニルアラニンが挙げられ、置換基はアルキニル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、メチル基、アリル基、アルデヒド、ニトロ、チオール基又はケト基等を含む。非天然アミノ酸の特定例としては限定されないが、p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリンアミノ酸、7−ヒドロキシ−クマリンアミノ酸、ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン及びp−ニトロ−L−フェニルアラニンが挙げられる。更に、p−プロパルギルオキシフェニルアラニン、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DHP)、3,4,6−トリヒドロキシ−L−フェニルアラニン、3,4,5−トリヒドロキシ−L−フェニルアラニン、4−ニトロ−フェニルアラニン、p−アセチル−L−フェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、3−メチルフェニルアラニン、O−4−アリル−L−チロシン、4−プロピル−L−チロシン、3−ニトロ−チロシン、3−チオール−チロシン、トリ−O−アセチル−GlcNAcβ−セリン、L−Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、p−アシル−L−フェニルアラニン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、L−ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p−ヨードフェニルアラニン、p−ブロモフェニルアラニン、p−アミノ−L−フェニルアラニン、及びイソプロピル−L−フェニルアラニン等が挙げられる。各種非天然アミノ酸の構造は本明細書(例えば図1)に示す。公開国際出願WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」も参照。
非天然アミノ酸の化学的合成
上記非天然アミノ酸の多くは例えばSigma(米国)やAldrich(Milwaukee,WI,米国)から市販されている。市販されていないものは場合により各種刊行物に記載されている方法や当業者に公知の標準方法を使用して合成される。有機合成技術については例えばFessendonとFessendon著Organic Chemistry(1982,第2版,Willard Grant Press,Boston Mass.);March著Advanced Organic Chemistry(第3版,1985,Wiley and Sons,New York);及びCareyとSundberg著Advanced Organic Chemistry(第3版,Parts A and B,1990,Plenum Press,New York)参照。非天然アミノ酸の合成について記載しているその他の刊行物としては例えばWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」;Matsoukasら,(1995)J.Med.Chem.,38,4660−4669;King,F.E.& Kidd,D.A.A.(1949)A New Synthesis of Glutamine and of γ−Dipeptides of Glutamic Acid from Phthylated Intermediates.J.Chem.Soc.,3315−3319;Friedman,O.M.& Chatterrji,R.(1959)Synthesis of Derivatives of Glutamine as Model Substrates for Anti−Tumor Agents.J.Am.Chem.Soc.81,3750−3752;Craig,J.C.ら(1988)Absolute Configuration of the Enantiomers of 7−Chloro−4[[4−(diethylamino)−1−methylbutyl]amino]quinoline(Chloroquine).J.Org.Chem.53,1167−1170;Azoulay,M.,Vilmont,M.& Frappier,F.(1991)Glutamine analogues as Potential Antimalarials.Eur.J.Med.Chem.26,201−5;Koskinen,A.M.P.& Rapoport,H.(1989)Synthesis of 4−Substituted Prolines as Conformationally Constrained Amino Acid Analogues.J.Org.Chem.54,1859−1866;Christie,B.D.& Rapoport,H.(1985)Synthesis of Optically Pure Pipecolates from L−Asparagine.Application to the Total Synthesis of(+)−Apovincamine through Amino Acid Decarbonylation and Iminium Ion Cyclization.J.Org.Chem.1989:1859−1866;Bartonら,(1987)Synthesis of Novel α−Amino−Acids and Derivatives Using Radical Chemistry:Synthesis of L−and D−α−Amino−Adipic Acids,L−α−aminopimelic Acid and Appropriate Unsaturated Derivatives.Tetrahedron Lett.43:4297−4308;及びSubasingheら,(1992)Quisqualic acid analogues:synthesis of beta−heterocyclic 2−aminopropanoic acid derivatives and their activity at a novel quisqualate−sensitized site.J.Med.Chem.35:4602−7が挙げられる。国際公開WO2004/058946、発明の名称「蛋白質アレー(PROTEIN ARRAYS)」(出願日2003年12月22日)も参照。
非天然アミノ酸の細胞取込み
細胞による非天然アミノ酸取り込みは例えば蛋白質に組込むように非天然アミノ酸を設計及び選択する場合に一般に考慮される問題の1つである。例えば、α−アミノ酸は電荷密度が高いため、これらの化合物は細胞に浸透しにくいと思われる。天然アミノ酸は異なる程度のアミノ酸特異性を示すことが多い一連の蛋白質輸送システムにより細胞に取り込まれる。非天然アミノ酸が細胞に取り込まれる場合にはどの非天然アミノ酸が取り込まれるかを判断する迅速なスクリーニングを実施することができる。例えば国際公開WO2004/058946、発明の名称「蛋白質アレー(PROTEIN ARRAYS)」(出願日2003年12月22日);及びLiu and Schultz(1999)Progress toward the evolution of an organism with an expanded genetic code.PNAS 96:4780−4785における毒性アッセイ参照。取込みは種々のアッセイで容易に分析されるが、細胞取込み経路に利用可能な非天然アミノ酸を設計する代替方法は、アミノ酸をin vivo生産する生合成経路を提供する方法である。
非天然アミノ酸の生合成
細胞にはアミノ酸と他の化合物を生産するために多数の生合成経路が元々存在している。特定非天然アミノ酸の生合成法は自然界(例えば細胞中)には存在しないと思われるが、本発明はこのような方法を提供する。例えば、非天然アミノ酸の生合成経路は場合により新規酵素を付加するか又は既存宿主細胞経路を改変することにより宿主細胞で作製される。付加新規酵素は場合により天然酵素又は人工的に進化させた酵素である。例えば、(WO2002/085923、前出の実施例に記載されているような)p−アミノフェニルアラニンの生合成は他の生物に由来する公知酵素の組合せの付加に依存している。これらの酵素の遺伝子はこれらの遺伝子を含むプラスミドで細胞を形質転換することにより細胞に導入することができる。これらの遺伝子は細胞で発現されると、所望化合物を合成するための酵素経路を提供する。場合により付加される酵素種の例は下記実施例に記載する。その他の酵素配列は例えばGenbankに登録されている。人工的に進化させた酵素も場合により同様に細胞に付加する。このように、非天然アミノ酸を生産するように細胞機構と細胞資源を操作する。
実際に、生合成経路で使用する新規酵素を生産するため又は非天然アミノを生産するように既存経路をin vitroもしくはin vivoで進化させるためには種々の方法の任意のものを使用することができる。非天然アミノ酸を生産するため(又は、実際に新規基質特異性もしくは他の該当活性をもつようにシンテターゼを進化させるため)には、酵素及び他の生合成経路成分を進化させる方法として入手可能な多数の方法を本発明に適用することができる。例えば、非天然アミノ酸を生産(又は新規シンテターゼを生産)するように新規酵素及び/又は前記酵素の経路をin vitro又はin vivoで開発するためには、場合によりDNAシャフリングを使用する。例えばStemmer(1994),Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling,Nature 370(4):389−391;及びStemmer,(1994),DNA shuffling by random fragmentation and reassembly:In vitro recombination for molecular evolution,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:10747−10751参照。関連アプローチは所望特性をもつ酵素を迅速に進化させるために関連(例えば相同)遺伝子のファミリーをシャフリングする。このような「ファミリー遺伝子シャフリング」法の1例はCrameriら(1998)“DNA shuffling of a family of genes from diverse species accelerates directed evolution”Nature,391(6664):288−291に記載されている。(生合成経路成分であるか又はシンテターゼであるかを問わずに)新規酵素は例えばOstermeierら(1999)“A combinatorial approach to hybrid enzymes independent of DNA homology”Nature Biotech 17:1205に記載されているような「ハイブリッド酵素作製用インクリメンタルトランケーション(incremental truncation for the creation of hybrid enzymes:ITCHY)」として知られるDNA組換え法を使用して作製することもできる。このアプローチは1種以上のin vitro又はin vivo組換え法の基質として使用することができる酵素又は他の経路変異体のライブラリーを作製するために使用することもできる。Ostermeierら(1999)“Combinatorial Protein Engineering by Incremental Truncation,”Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96:3562−67,及びOstermeierら(1999),“Incremental Truncation as a Strategy in the Engineering of Novel Biocatalysts,” Biological and Medicinal Chemistry,7:2139−44も参照。別のアプローチは例えば非天然アミノ酸(又は新規シンテターゼ)の生産に関連する生合成反応を触媒する能力について選択する酵素又は他の経路変異体のライブラリーを作製するために指数的集合突然変異誘発を使用する。このアプローチでは、該当配列中の小群の残基を並行してランダムに突然変異させ、機能的蛋白質をもたらすアミノ酸を各変異位置で同定する。非天然アミノ酸(又は新規シンテターゼ)の生産用新規酵素を作製するように本発明に応用することができるこのような方法の例はDelegrave & Youvan(1993)Biotechnology Research 11:1548−1552に記載されている。更に別のアプローチでは、例えばArkin and Youvan(1992)“Optimizing nucleotide mixtures to encode specific subsets of amino acids for semi−random mutagenesis”Biotechnology 10:297−300;又はReidhaar−Olsonら(1991)“Random mutagenesis of protein sequences using oligonucleotide cassettes”Methods Enzymol.208:564−86の一般突然変異誘発法を使用することにより、酵素及び/又は経路成分操作にドープ又は縮重オリゴヌクレオチドを使用するランダム又は半ランダム突然変異誘発を使用することができる。ポリヌクレオチドリアセンブリと部位飽和突然変異誘発を使用する更に別のアプローチ(「非確率論的」突然変異誘発と呼ぶことが多い)を使用すると、酵素及び/又は経路成分を作製した後に、(例えば非天然アミノ酸のin vivo生産のための)1種以上のシンテターゼ又は生合成経路機能を実施する能力についてスクリーニングすることができる。例えばShort「遺伝子ワクチン及び酵素の非確率論的作製(NON−STOCHASTIC GENERATION OF GENETIC VACCINES AND ENZYMES)」WO00/46344参照。
このような突然変異法の代替方法は生物の全ゲノムを組換え、得られた子孫を特定経路機能について選択する方法である(「全ゲノムシャフリング」と呼ぶことが多い)。このアプローチは、例えばゲノム組換えと非天然アミノ酸(又はその中間体)の生産能に関する生物(例えば大腸菌又は他の細胞)の選択により本発明に適用することができる。例えば、非天然アミノ酸をin vivo生産するように細胞で既存及び/又は新規経路を進化させるための経路設計には、以下の刊行物に教示されている方法を適用することができる:Patnaikら(2002)“Genome shuffling of lactobacillus for improved acid tolerance”Nature Biotechnology,20(7):707−712;及びZhangら(2002)“Genome shuffling leads to rapid phenotypic improvement in bacteria”Nature,February 7,415(6872):644−646。
例えば所望化合物を生産するための他の生物及び代謝経路組換え技術も利用可能であり、同様に非天然アミノ酸の生産に適用することができる。有用な経路組換えアプローチを教示している刊行物の例としては、Nakamura and White(2003)“Metabolic engineering for the microbial production of 1,3 propanediol”Curr.Opin.Biotechnol.14(5):454−9;Berryら(2002)“Application of Metabolic Engineering to improve both the production and use of Biotech Indigo”J.Industrial Microbiology and Biotechnology 28:127−133;Bantaら(2002)“Optimizing an artificial metabolic pathway:Engineering the cofactor specificity of Corynebacterium 2,5−diketo−D−gluconic acid reductase for use in vitamin C biosynthesis” Biochemistry,41(20),6226−36;Selivonovaら(2001)“Rapid Evolution of Novel Traits in Microorganisms”Applied and Environmental Microbiology,67:3645、及び他の多数の文献が挙げられる。
使用する方法に関係なく、一般に本発明の組換え生合成経路を使用して生産される非天然アミノ酸は効率的な蛋白質生合成に十分な濃度(例えば天然細胞内量)で生産されるが、他の細胞内アミノ酸濃度を有意に変化させたり細胞内資源を枯渇させる程ではない。このようにin vivo生産される典型的な濃度は約10mM〜約0.05mMである。特定経路に所望される酵素を生産するように細胞を組換え、非天然アミノ酸を作製したら、場合によりin vivo選択を使用してリボソーム蛋白質合成と細胞増殖の両方に適合するように非天然アミノ酸の生産を更に最適化させる。
非天然アミノ酸を組込むための直交成分
本発明はセレクターコドン(例えばアンバー終止コドン、ナンセンスコドン、4塩基以上のコドン等)に応答して成長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸(例えば図1に示す非天然アミノ酸)を例えばin vivoで組込むための直交成分を作製する組成物及び方法を提供する。例えば、本発明は直交tRNA(O−tRNA)、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)及びその対を提供する。これらの対は成長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸を組込むために使用することができる。
本発明の組成物は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含み、O−RSはO−tRNAをp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン又はp−ニトロ−L−フェニルアラニンで優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−RSは配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57及び59−63とその保存変異体のいずれか1種を含むアミノ酸配列を含む。本発明の所定態様では、O−RSは内在tRNAよりもO−tRNAを優先的に特定非天然アミノ酸でアミノアシル化し、O−RSはO−tRNAを優先し、非天然アミノ酸を負荷されるO−tRNAと同一非天然アミノ酸を負荷される内在tRNAの比は1:1を上回り、O−RSはO−tRNAに排他的又はほぼ排他的に負荷することがより好ましい。
O−RSを含む組成物は場合により更に直交tRNA(O−tRNA)を含むことができ、O−tRNAはセレクターコドンを認識する。一般に、本発明のO−tRNAは本明細書の配列表(例えば配列番号1)及び実施例に記載するようなポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAの抑圧効率に比較してコグネイトシンテターゼの存在下でセレクターコドンに応答して少なくとも例えば約45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上の抑圧効率を含む。1態様では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率はO−RSの不在下のO−tRNAの抑圧効率の例えば5倍、10倍、15倍、20倍、25倍又はそれ以上である。所定側面では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率はMethanococcus jannaschiiに由来する直交チロシルtRNAシンテターゼ対、あるいは大腸菌に由来する直交ロイシルtRNAシンテターゼ対の抑圧効率の少なくとも45%である。
O−tRNAを含む組成物は場合により細胞(例えば大腸菌細胞等の真正細菌細胞、又は酵母細胞等の真核細胞)、及び/又は翻訳系を含むことができる。
本発明は翻訳系を含む細胞(例えば真正細菌細胞又は酵母細胞)も提供し、前記翻訳系は直交tRNA(O−tRNA)と;直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と;非天然アミノ酸(例えば図1に示すアミノ酸)を含む。一般に、O−RSは内在tRNAよりもO−tRNAを優先的に非天然アミノ酸でアミノアシル化し、O−RSはO−tRNAを優先し、非天然アミノ酸を負荷されるO−tRNAと非天然アミノ酸を負荷される内在tRNAの比は1:1を上回り、O−RSはO−tRNAに排他的又はほぼ排他的に負荷することがより好ましい。O−tRNAは第1のセレクターコドンを認識し、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。1態様では、O−tRNAは配列番号1、配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされる。1態様では、O−RSは配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57、59−63及びその保存変異体の任意1種に記載のアミノ酸配列を含む。
本発明の細胞は場合により異なる付加O−tRNA/O−RS対と第2の非天然アミノ酸を更に含むことができ、例えばこのO−tRNAは第2のセレクターコドンを認識し、このO−RSは対応するO−tRNAを第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のアミノ酸は第1の非天然アミノ酸と異なる。場合により、本発明の細胞は該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含み、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。
所定態様では、本発明の細胞は直交−tRNA(O−tRNA)と、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、非天然アミノ酸と、該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む真正細菌細胞(例えば大腸菌細胞)又は酵母細胞であり、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。本発明の所定態様では、O−RSはO−RSが任意内在tRNAをアミノアシル化する効率よりも高い効率でO−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。
本発明の所定態様では、本発明のO−tRNAは本明細書の配列表(例えば配列番号1又は配列番号2)もしくは実施例に記載するようなポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされる。本発明の所定態様では、O−RSは本明細書の配列表に記載するようなアミノ酸配列、又はその保存変異体を含む。1態様では、O−RS又はその一部は本明細書の配列表もしくは実施例に記載するようなアミノ酸をコードするポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。
本発明のO−tRNA及び/又はO−RSは種々の生物(例えば真核及び/又は非真核生物)の任意のものに由来することができる。
ポリヌクレオチドも本発明の特徴である。本発明のポリヌクレオチドは本明細書の配列表に記載するようなポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む人工(例えば人為的に作製され、天然には存在しない)ポリヌクレオチドを含むか、及び/又は前記ポリヌクレオチド配列に相補的であるか又は前記配列をコードする。本発明のポリヌクレオチドは更に核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする核酸も含むことができる。本発明のポリヌクレオチドは更に天然に存在するtRNA又は対応するコーディング核酸のポリヌクレオチドと例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又はそれ以上一致するポリヌクレオチドを含み(但し、本発明のポリヌクレオチドは天然に存在するtRNA又は対応するコーディング核酸以外のものである)、前記tRNAはセレクターコドン(例えば4塩基コドン)を認識する。上記任意ポリヌクレオチド及び/又は上記任意ポリヌクレオチドの保存変異体を含むポリヌクレオチドと例えば少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又はそれ以上一致する人工ポリヌクレオチドも本発明のポリヌクレオチドに含まれる。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクターも本発明の特徴である。例えば、本発明のベクターはプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、発現ベクター及び/又は同等物を含むことができる。本発明のベクターを含む細胞も本発明の特徴である。
O−tRNA/O−RS対の成分の作製方法も本発明の特徴である。これらの方法により作製された成分も本発明の特徴である。例えば、細胞に対して直交性である少なくとも1種のtRNA(O−tRNA)の作製方法は突然変異体tRNAのライブラリーを作製する段階と;セレクターコドンを認識できるように突然変異体tRNAのライブラリーの各メンバーのアンチコドンループを突然変異させることにより、潜在的O−tRNAのライブラリーを提供する段階と、潜在的O−tRNAのライブラリーのメンバーを含む第1の種の第1の細胞集団についてネガティブ選択を実施する段階を含む。ネガティブ選択は細胞に内在性のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)によりアミノアシル化される潜在的O−tRNAライブラリーのメンバーを含む細胞を排除する。こうして、第1の種の細胞に対して直交性のtRNAプールが得られ、それにより少なくとも1種のO−tRNAが得られる。本発明の方法により作製されたO−tRNAも提供する。
所定態様では、前記方法は更に第1の種の第2の細胞集団についてポジティブ選択を実施する段階を含み、前記細胞は第1の種の細胞に対して直交性のtRNAプールのメンバーと、コグネイトアミノアシルtRNAシンテターゼと、ポジティブ選択マーカーを含む。ポジティブ選択を使用し、コグネイトアミノアシルtRNAシンテターゼによりアミノアシル化され、ポジティブ選択マーカーの存在下で所望応答を示すtRNAプールのメンバーを含む細胞について細胞を選択又はスクリーニングすることにより、O−tRNAを得る。所定態様では、第2の細胞集団はネガティブ選択により排除されなかった細胞を含む。
非天然アミノ酸をO−tRNAに負荷する直交アミノアシルtRNAシンテターゼの同定方法も提供する。例えば、方法は第1の種の細胞集団に選択を実施する段階を含み、前記細胞は、1)複数のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)(例えば複数のRSは突然変異体RS、第1の種以外の種に由来するRS、又は突然変異体RSと第1の種以外の種に由来するRSの両方を含むことができる)のメンバーと;2)(例えば1種以上の種に由来する)直交−tRNA(O−tRNA)と;3)ポジティブ選択マーカーをコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを各々含む。
複数のRSのメンバーを含まないか又はその量の少ない細胞に比較して抑圧効率の高い細胞について細胞(例えば宿主細胞)を選択又はスクリーニングする。これらの選択/スクリーニングした細胞はO−tRNAをアミノアシル化する活性RSを含む。この方法により同定された直交アミノアシルtRNAシンテターゼも本発明の特徴である。
非天然アミノ酸を選択位置にもつ蛋白質を細胞(例えば大腸菌細胞等の真正細菌細胞、又は酵母細胞)で生産する方法も本発明の特徴である。例えば、1方法は、少なくとも1個のセレクターコドンを含み、蛋白質をコードする核酸を含む細胞を適当な培地で増殖させる段階と、非天然アミノ酸を提供する段階と、少なくとも1個のセレクターコドンによる核酸の翻訳中に蛋白質の特定位置に非天然アミノ酸を組込むことにより、蛋白質を生産する段階を含む。細胞は更に、細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNA(O−tRNA)と;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含む。この方法により生産された蛋白質も本発明の特徴である。
本発明は例えばp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン又はp−ニトロ−L−フェニルアラニンを組込んだ蛋白質を含有する組成物も提供する。所定態様では、蛋白質は公知蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分)のアミノ酸配列と少なくとも75%一致するアミノ酸配列を含む。場合により、組成物は医薬的に許容可能なキャリヤーを含有する。
核酸及びポリペプチド配列と変異体
本明細書に記載するように、本発明は例えばO−tRNA及びO−RSをコードするポリヌクレオチド配列と、ポリペプチドアミノ酸配列(例えばO−RS)と、例えば前記ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列を含む組成物、系及び方法を提供する。前記配列(例えばO−tRNA及びO−RSアミノ酸及びヌクレオチド配列)の例を本明細書に開示する(表5、例えば配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57及び59−63参照)。しかし、当業者に自明の通り、本発明は本明細書、例えば実施例や配列表に開示する配列に限定されない。当業者に自明の通り、本発明は本明細書に記載する機能をもつ多数の関連配列(例えば、本明細書に開示するO−RSの保存変異体をコードするポリヌクレオチド及びポリペプチド)も提供する。
O−tRNAを非天然アミノ酸(例えば図1に示す非天然アミノ酸)でアミノアシル化することが可能な直交シンテターゼ種(O−RS)の構築と分析を実施例1〜16に記載する。これらの実施例は非天然アミノ酸p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン及びp−ニトロ−L−フェニルアラニンを組込むことが可能なO−RS種の構築と分析について記載する。
本発明はポリペプチド(O−RS)とポリヌクレオチド(例えばO−tRNA、O−RS又はその部分をコードするポリヌクレオチド、アミノアシルtRNAシンテターゼクローンを単離するために使用されるオリゴヌクレオチド等)を提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、1個以上のセレクターコドンをもつ本発明の該当蛋白質又はポリペプチドをコードするものが挙げられる。更に、本発明のポリヌクレオチドとしては、例えば配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56及び58に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;そのポリヌクレオチド配列に相補的であるか又は前記配列をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは更に配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57及び59−63を含むO−RSアミノ酸配列をコードする任意ポリヌクレオチドを含む。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする人工核酸(天然ポリヌクレオチド以外のもの)も本発明のポリヌクレオチドである。1態様では、組成物は本発明のポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、水、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。本発明は本発明のポリペプチドに対して特異的に免疫反応性の抗体又は抗血清も提供する。人工ポリヌクレオチドは人為的に作製され、天然には存在しないポリヌクレオチドである。
本発明のポリヌクレオチドは天然に存在するtRNAのポリヌクレオチドと例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又はそれ以上一致する人工ポリヌクレオチド(但し、天然に存在するtRNA以外のもの)も含む。ポリヌクレオチドは天然に存在するtRNAのポリヌクレオチドと例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又はそれ以上一致する(但し100%は一致しない)人工ポリヌクレオチドも含む。
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。別の態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
同様に当業者に自明の通り、開示配列の多数の変異体も本発明に含まれる。例えば、機能的に同一配列となる開示配列の保存変異体も本発明に含まれる。少なくとも1種の開示配列とハイブリダイスする核酸ポリヌクレオチド配列の変異体も本発明に含むものとする。例えば標準配列比較法により判定した場合に本明細書に開示する配列のユニークサブ配列であると判断される配列も本発明に含まれる。
保存変異
遺伝コードの縮重により、「サイレント置換」(即ちコードされるポリペプチドに変化を生じない核酸配列の置換)はアミノ酸配列をコードする全核酸配列の暗黙の特徴である。同様に、「保存アミノ酸置換」はアミノ酸配列中の1個又は少数のアミノ酸を高度に類似する性質をもつ別のアミノ酸で置換するものであり、このような置換も開示構築物と高度に類似することが容易に認められる。各開示配列のこのような保存変異体は本発明の特徴である。
特定核酸配列の「保存変異体」とは同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を意味する。当業者に自明の通り、コードされる配列中の単一アミノ酸又は低百分率(一般に5%未満、より一般には4%、2%又は1%未満)のアミノ酸を置換、付加又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加の結果としてアミノ酸を欠失するか、アミノ酸が付加されるか、又はアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸で置換される場合には、これらの変異は「保存修飾変異」である。従って、本発明の指定ポリペプチド配列の「保存変異体」としては、ポリペプチド配列のアミノ酸の低百分率、一般に5%未満、より一般には2%又は1%未満が同一保存置換基のアミノ酸で置換される場合が挙げられる。最後に、非機能的配列の付加のように核酸分子のコードされる活性を変えない配列の付加も基本核酸の保存変異である。
機能的に類似するアミノ酸を示す保存置換表は当分野で周知であり、このようなアミノ酸では、あるアミノ酸残基が類似の化学的性質(例えば芳香族側鎖又は正荷電側鎖)をもつ別のアミノ酸残基に置換しているため、ポリペプチド分子の機能的性質は実質的に変化しない。化学的性質が類似する天然アミノ酸を含む代表的グループを以下に示すが、これらのグループ内の置換は「保存置換」である。

核酸ハイブリダイゼーション
本発明の核酸の保存変異体を含めて本発明の核酸を同定するためには比較ハイブリダイゼーションを使用することができ、この比較ハイブリダイゼーション法は本発明の核酸を識別する1好適方法である。更に、高、超高及び超々高ストリンジェンシー条件下で配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56及び58により表される核酸とハイブリダイズするターゲット核酸も本発明の特徴である。このような核酸の例としては所与核酸配列と比較して1又は少数のサイレント又は保存核酸置換をもつものが挙げられる。
試験核酸が完全にマッチする相補的ターゲットに比較して少なくとも50%の割合でプローブとハイブリダイズする場合、即ちマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍〜10倍で完全にマッチするプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合する条件下におけるプローブとターゲットのハイブリダイゼーションに比較してシグナル対ノイズ比が少なくとも1/2である場合に試験核酸はプローブ核酸と特異的にハイブリダイズすると言う。
核酸は一般に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は水素結合、溶媒排除、塩基スタッキング等の種々の十分に特性決定された物理化学的力によりハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2,“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,”(Elsevier,New York)、及びCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)(「Ausubel」)に記載されており、Hames and Higgins(1995)Gene Probes 1 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England,(Hames and Higgins 1)と、Hames and Higgins(1995)Gene Probes 2 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England(Hames and Higgins 2)はオリゴヌクレオチドを含むDNAとRNAの合成、標識、検出及び定量について詳細に記載している。
サザン又はノーザンブロットで100個を上回る相補的残基をもつ相補的核酸のハイブリダイゼーションをフィルター上で行うためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の1例は、50%ホルマリンにヘパリン1mgを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを実施する。ストリンジェント洗浄条件の1例は65℃、0.2×SSCで15分間洗浄する(SSC緩衝液の説明についてはSambrook,前出参照)。多くの場合には高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を実施してバックグラウンドプローブシグナルを除去する。低ストリンジェンシー洗浄の1例は40℃、2×SSCで15分間である。一般に、シグナル対ノイズ比が特定ハイブリダイゼーションアッセイで無関係プローブに観測される比の5倍(以上)である場合に特異的ハイブリダイゼーションが検出されたとみなす。
サザン及びノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験において「ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存性であり、各種環境パラメーターにより異なる。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993),前出やHames and Higgins 1及び2に記載されている。ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件は任意試験核酸について経験により容易に決定することができる。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定するには、一連の選択基準に合致するまで(例えばハイブリダイゼーション又は洗浄における温度上昇、塩濃度低下、界面活性剤濃度増加及び/又はホルマリン等の有機溶媒濃度増加により)ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件では、マッチしないターゲットとプローブのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍でプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合するまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。
「超ストリンジェント」条件は特定プローブの熱融点(T)に等しくなるように選択される。Tは(規定イオン強度及びpH下で)試験配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。本発明の目的には、一般に規定イオン強度及びpHで特定配列のTよりも約5℃低くなるように「高ストリンジェント」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を選択する。
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
同様に、該当ハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加することにより更に高レベルのストリンジェンシーを決定することもできる。例えば、完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍又は500倍以上になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
ストリンジェント条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、これらの核酸によりコードされるポリペプチドが実質的に同一である場合には実質的に同一である。これは、例えば遺伝コードに許容される最大コドン縮重を使用して核酸のコピーを作製する場合に該当する。
ユニークサブ配列
所定側面では、本発明は本明細書に開示するO−tRNA及びO−RSの配列から選択される核酸中にユニークサブ配列を含む核酸を提供する。ユニークサブ配列は任意公知O−tRNA及びO−RS核酸配列に対応する核酸に比較してユニークである。例えばデフォルトパラメーターに設定したBLASTを使用してアラインメントを実施することができる。任意ユニークサブ配列は例えば本発明の核酸を同定するためのプローブとして有用である。
同様に、本発明は本明細書に開示するO−RSの配列から選択されるポリペプチド中にユニークサブ配列を含むポリペプチドを含む。この場合には、ユニークサブ配列は任意公知ポリペプチド配列に対応するポリペプチドに比較してユニークである。
本発明はO−RSの配列から選択されるポリペプチド中のユニークサブ配列をコードするユニークコーディングオリゴヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も提供し、この場合には、ユニークサブ配列は対照ポリペプチド(例えば本発明のシンテターゼを例えば突然変異により誘導した元の親配列)の任意のものに対応するポリペプチドに比較してユニークである。ユニーク配列は上記のように決定する。
配列比較、一致度及び相同度
2種以上の核酸又はポリペプチド配列に関して「一致」又は「一致度百分率」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、以下に記載する配列比較アルゴリズム(又は当業者に入手可能な他のアルゴリズム)の1種を使用するか又は目視により測定した場合に相互に同一であるか又は同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの百分率が特定値であることを意味する。
2種以上の核酸又はポリペプチド(例えばO−tRNAもしくはO−RSをコードするDNA又はO−RSのアミノ酸配列)に関して「実質的に一致」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、配列比較アルゴリズムを使用するか又は目視により測定した場合にヌクレオチド又はアミノ酸残基一致度が少なくとも約60%、約80%、約90〜95%、約98%、約99%又はそれ以上であることを意味する。このような「実質的に一致」する配列は一般に実際の起源が記載されていなくても「相同」であるとみなす。少なくとも約50残基長の配列の領域、より好ましくは少なくとも約100残基長の領域にわたって「実質的一致」が存在していることが好ましく、少なくとも約150残基又は比較する2配列の全長にわたって配列が実質的に一致していることが最も好ましい。
蛋白質及び/又は蛋白質配列は共通の祖先蛋白質又は蛋白質配列から天然又は人工的に誘導される場合に「相同」である。同様に、核酸及び/又は核酸配列は共通の祖先核酸又は核酸配列から天然又は人工的に誘導される場合に相同である。例えば、1個以上のセレクターコドンを含むように任意天然核酸を利用可能な任意突然変異誘発法により改変することができる。この突然変異誘発した核酸は発現されると、1種以上の非天然アミノ酸を含むポリペプチドをコードする。突然変異法は当然のことながら更に1個以上の標準コドンを変異させ、得られる突然変異体蛋白質の1個以上の標準アミノ酸も変異させることができる。相同性は一般に2種以上の核酸又は蛋白質(又はその配列)間の配列類似度から推定される。相同性の判定に有用な配列間類似度の厳密な百分率は該当核酸及び蛋白質により異なるが、通常は25%程度の低い配列類似度を使用して相同性を判定する。例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%以上のより高レベルの配列類似度を使用して相同性を判定することもできる。配列類似度百分率の決定方法(例えばデフォルトパラメーターを使用するBLASTP及びBLASTN)は本明細書に記載し、一般に入手可能である。
配列比較及び相同性判定には、一般にある配列を参照配列としてこれに試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対して試験配列の配列一致度百分率を計算する。
比較のための最適な配列アラインメントは例えばSmith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピューターソフトウェア(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視(一般にCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)参照)により実施することができる。
配列一致度及び配列類似度百分率を決定するのに適したアルゴリズムの1例はAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公共入手可能である。このアルゴリズムはデータベース配列中の同一長さの単語と整列した場合に所定の正の閾値スコアTと一致するか又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短い単語を識別することによりまず高スコア配列対(HSP)を識別する。Tを隣接単語スコア閾値と言う(Altschulら,前出)。これらの初期隣接単語ヒットをシードとして検索を開始し、これらの単語を含むもっと長いHSPを探索する。次に、累積アラインメントスコアを増加できる限り、単語ヒットを各配列に沿って両方向に延長する。ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(1対のマッチ残基のリウォードスコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基のペナルティースコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合には、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下するか、累積スコアが1カ所以上の負スコア残基アラインメントの累積によりゼロ以下になるか、又はどちらかの配列の末端に達したら各方向の単語ヒットの延長を停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用として、BLASTPプログラムは語長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリクスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915参照)。
配列一致度百分率の計算に加え、BLASTアルゴリズムは2配列間の類似性の統計分析も実施する(例えばKarlin & Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787(1993)参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1尺度は2種のヌクレオチド又はアミノ酸配列間に偶然にマッチが起こる確率を示す最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸を参照核酸に比較した場合の最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に核酸は参照核酸に類似しているとみなす。
突然変異誘発及び他の分子生物学技術
本発明のポリヌクレオチドとポリペプチド及び本発明で使用されるポリヌクレオチドとポリペプチドは分子生物学技術を使用して操作することができる。分子生物学技術について記載している一般教科書としてはBerger and Kimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(Berger);Sambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第3版),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2001(「Sambrook」)及びCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)(「Ausubel」)が挙げられる。これらの教科書は突然変異誘発法、ベクターの使用、プロモーター、更に例えば非天然アミノ酸、直交tRNA、直交シンテターゼ及びその対を含む蛋白質を生産するためのセレクターコドンを含む遺伝子の作製に関連する他の多くの関連事項について記載している。
例えばtRNA分子を突然変異させるため、tRNAのライブラリーを作製するため、シンテターゼのライブラリーを作製するため、非天然アミノ酸をコードするセレクターコドンを該当蛋白質又はポリペプチドに挿入するために、本発明では各種突然変異誘発法を使用する。これらの方法としては限定されないが、部位特異的、ランダム点突然変異誘発、相同組換え、DNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法、キメラ構築、ウラシル含有鋳型を使用する突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップデュプレクスDNAを使用する突然変異誘発等、又はその任意組み合わせが挙げられる。他の適切な方法としては点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する突然変異誘発、制限−選択及び制限−精製、欠失突然変異誘発、完全遺伝子合成による突然変異誘発、2本鎖切断修復等が挙げられる。例えばキメラ構築物を使用する突然変異誘発も本発明に含まれる。1態様では、天然分子又は改変もしくは突然変異させた天然分子の既知情報(例えば配列、配列比較、物性、結晶構造等)に基づいて突然変異誘発を誘導することができる。
本発明のポリヌクレオチド又は本発明のポリヌクレオチドを組込んだ構築物(例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の本発明のベクター)で宿主細胞を遺伝子組換え(例えば形質転換、形質導入又はトランスフェクション)する。例えば、直交tRNA、直交tRNAシンテターゼ、及び修飾すべき蛋白質のコーディング領域を所望宿主細胞で機能的な遺伝子発現制御エレメントに機能的に連結する。典型的なベクターは転写及び翻訳ターミネーターと、転写及び翻訳開始配列と、特定ターゲット核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは場合により少なくとも1個の独立ターミネーター配列と、真核生物又は原核生物又は両者(例えばシャトルベクター)でカセットの複製を可能にする配列と、原核系と真核系の両者の選択マーカーを含む包括的発現カセットを含む。ベクターは原核生物、真核生物、又は好ましくは両者での複製及び/又は組込みに適している。Giliman & Smith,Gene 8:81(1979);Robertsら,Nature,328:731(1987);Schneider,B.ら,Protein Expr.Purif.6435:10(1995);Ausubel,Sambrook,Berger(いずれも前出)参照。ベクターは例えばプラスミド、細菌、ウイルス、裸のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドコンジュゲートの形態とすることができる。ベクターはエレクトロポレーション(Fromら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,5824(1985))、ウイルスベクターによる感染、核酸を小ビーズもしくは粒子のマトリックスに埋込むか又は表面に付着させて小粒子形態で高速射入する方法(Kleinら,Nature 327,70−73(1987))、及び/又は同等方法等の標準方法により細胞及び/又は微生物に導入する。
大腸菌でアンバー終止コドン(UAG)に応答して非天然アミノ酸を蛋白質に部位特異的に組込むための非常に効率的で多目的な単一プラスミドシステムが開発された。新規システムでは、M.jannaschiiサプレッサーtRNAtyr(CUA)とチロシルtRNAシンテターゼの対は大半の大腸菌発現ベクターと適合可能な単一プラスミドでコードされる。最適二次構造とtRNAプロセシングのためにproKプロモーター及びターミネーターの制御下のモノシストロンtRNAオペロンが構築された。シンテターゼのglnSプロモーターの突然変異形を導入すると、抑圧効率と忠実度の両者が有意に増加した。抑圧効率の増加はtRNA遺伝子の多重コピーとシンテターゼの特異的突然変異(D286R)によっても得られた(Kobayashiら,“Structural basis for orthogonal tRNA specificities of tyrosyl−tRNA synthetases for genetic code expansion,”Nat.Struct.Biol.,10(6):425−432[2003])。最適化システムの汎用性は蛋白質機能及び構造の研究におけるそのユニークな有用性が従来認められている数種の異なる非天然アミノ酸が非常に効率的且つ正確に組込まれることによっても実証された。
クローニングに有用な細菌とバクテリオファージのカタログは例えばATCCから入手でき、例えばATCCから刊行されたThe ATCC Catalogue of Bacteria and Bacteriophage(1996)Ghernaら(編)が挙げられる。シーケンシング、クローニング及び分子生物学の他の側面のその他の基本手順と基礎理論事項もSambrook(前出)、Ausubel(前出)、及びWatsonら(1992)Recombinant DNA Second Edition,Scientific American Books,NYに記載されている。更に、Midland Certified Reagent Company(Midland,TX mcrc.com)、The Great American Gene Company(Ramona,CA,ワールドワイドウェブgenco.comで販売)、ExpressGen Inc.(Chicago,IL,ワールドワイドウェブexpressgen.comで販売)、Operon Technologies Inc.(Alameda,CA)及び他の多数の企業等の各種販売会社からほぼ任意核酸(及び標準又は標準外を問わずほぼ任意標識核酸)をオーダーメード又は標準注文することができる。
遺伝子組換えした宿主細胞は例えばスクリーニング段階、プロモーター活性化又は形質転換細胞選択等の操作に合うように適宜改変した慣用栄養培地で培養することができる。これらの細胞は場合によりトランスジェニック生物で培養することができる。例えば細胞単離及び培養(例えば後期核酸単離)に有用な他の文献としては、Freshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,第3版,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Payneら(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(編)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(編)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
該当蛋白質及びポリペプチド
特定位置に非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞で生産する方法も本発明の特徴である。例えば、1方法は、少なくとも1個のセレクターコドンを含み、蛋白質をコードする核酸を含む細胞を適当な培地で増殖させる段階と、非天然アミノ酸を提供する段階を含み、細胞は更に、細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNA(O−tRNA)と;O−tRNAを非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含む。この方法により生産された蛋白質も本発明の特徴である。
所定態様では、O−RSは発現系において内在tRNAよりもコグネイトO−tRNAのアミノアシル化を優先する。O−tRNAとO−RSが等モル濃度で存在する場合にO−RSにより負荷されるO−tRNAと内在tRNAの相対比は1:1を上回り、好ましくは少なくとも約2:1、より好ましくは5:1、更に好ましくは10:1、更に好ましくは20:1、更に好ましくは50:1、更に好ましくは75:1、更に好ましくは95:1、98:1、99:1、100:1、500:1、1,000:1、5,000:1又はそれ以上である。
本発明は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を含有する組成物も提供する。所定態様では、蛋白質は治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分のアミノ酸配列と少なくとも75%一致するアミノ酸配列を含む。
本発明の組成物と本発明の方法により作製された組成物は場合により細胞に導入する。その後、本発明のO−tRNA/O−RS対又は個々の成分を宿主系の翻訳機構で使用することができ、その結果として、非天然アミノ酸が蛋白質に組込まれる。国際公開WO2004/094593、出願日2004年4月16日、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」、及びWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」はこのプロセスを記載しており、参考資料として本明細書に組込む。例えば、O−tRNA/O−RS対を宿主(例えば大腸菌細胞又は酵母細胞)に導入すると、前記対はセレクターコドンに応答してp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリン−アラニン、7−ヒドロキシ−クマリン−アラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン又はp−ニトロ−L−フェニルアラニン等の非天然アミノ酸のin vivo蛋白質組込みを誘導する。系に付加される非天然アミノ酸は合成アミノ酸(例えばフェニルアラニン又はチロシン誘導体)とすることができ、外部から増殖培地に添加することができる。場合により、本発明の組成物はin vitro翻訳系に導入してもよいし、in vivo系に導入してもよい。
本発明の細胞は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を大量の有用な量で合成することができる。所定側面では、組成物は場合により、非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を例えば少なくとも10μg、少なくとも50μg、少なくとも75μg、少なくとも100μg、少なくとも200μg、少なくとも250μg、少なくとも500μg、少なくとも1mg、少なくとも10mg、又はそれ以上、あるいはin vivo蛋白質生産方法で達成可能な量で含有する(組換え蛋白質生産及び精製に関する詳細は本明細書に記載する)。別の側面では、蛋白質は場合により例えば細胞溶解液、緩衝液、医薬緩衝液、又は他の懸濁液中(例えば約1nl〜約100Lの任意の容量中)に例えば少なくとも10μg蛋白質/l、少なくとも50μg蛋白質/l、少なくとも75μg蛋白質/l、少なくとも100μg蛋白質/l、少なくとも200μg蛋白質/l、少なくとも250μg蛋白質/l、少なくとも500μg蛋白質/l、少なくとも1mg蛋白質/l、又は少なくとも10mg蛋白質/l以上の濃度で組成物中に存在する。少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞で大量(例えば他の方法、例えばin vitro翻訳で一般に可能な量よりも多量)に生産することも本発明の特徴である。
非天然アミノ酸の組込みは例えば寸法、酸性度、求核性、水素結合、疎水性、プロテアーゼ標的部位接近性、(例えば蛋白質アレーのための)部分へのターゲット、ラベル又は反応基の組込み等を変化させるように例えば蛋白質構造及び/又は機能の変化を調整するために実施することができる。非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質は触媒性又は物性を強化するか又は全く新規にすることができる。例えば、非天然アミノ酸を蛋白質に組込むことにより、場合により毒性、生体分布、構造的性質、分光学的性質、化学及び/又は光化学的性質、触媒能、半減期(例えば血清半減期)、他の分子との(例えば共有又は非共有)反応性等の性質を改変する。少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を含有する組成物は例えば新規治療薬、診断薬、触媒酵素、産業用酵素、結合蛋白質(例えば抗体)、及び例えば蛋白質構造と機能の研究に有用である。例えばDougherty,(2000)Unnatural Amino Acids as Probes of Protein Structure and Function,Current Opinion in Chemical Biology,4:645−652参照。
本発明の所定側面では、組成物は少なくとも1個、例えば少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は少なくとも10個以上の非天然アミノ酸を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を含有する。非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種以上の異なる非天然アミノ酸を含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個以上の異なる部位が蛋白質に存在することができる。別の側面では、組成物は蛋白質に存在する特定アミノ酸の全部よりは少ないが少なくとも1個が非天然アミノ酸で置換された蛋白質を含有する。2個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよい(例えば蛋白質は2個以上の異なる型の非天然アミノ酸を組込んでもよいし、2個の同一非天然アミノ酸を組込んでもよい)。3個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよいし、同一種の複数の非天然アミノ酸と少なくとも1個の別の非天然アミノ酸の組み合わせでもよい。
本明細書に記載する組成物と方法を使用して非天然アミノ酸を含むほぼ任意蛋白質(又はその部分)(及び例えば1個以上のセレクターコドンを含む対応する任意コーディング核酸)を生産することができる。数十万種の公知蛋白質を列挙するには及ばないが、例えば該当翻訳系に1個以上の適当なセレクターコドンを含むように入手可能な任意突然変異法を調整することにより、1種以上の非天然アミノ酸を組込むように公知蛋白質の任意のものを改変することができる。公知蛋白質の一般的な配列寄託機関としてはGenBank、EMBL、DDBJ及びNCBIが挙げられる。他の寄託機関もインターネットを検索することにより容易に確認できる。
一般に、蛋白質は入手可能な任意蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分等)と例えば少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%以上一致しており、1種以上の非天然アミノ酸を含む。1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる治療用、診断用、及び他の蛋白質の例としては限定されないが、国際公開WO2004/094593、出願日2004年4月16日、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(Expanding the Eukaryotic Genetic Code)」;及びWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」に記載されているものが挙げられる。1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる治療用、診断用、及び他の蛋白質の例としては限定されないが、例えばα1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗血友病因子、抗体(抗体の詳細については後述する)、アポリポ蛋白質、アポ蛋白質、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、心房性ペプチド、C−X−Cケモカイン(例えばT39765、NAP−2、ENA−78、Gro−a、Gro−b、Gro−c、IP−10、GCP−2、NAP−4、SDF−1、PF−4、MIG)、カルシトニン、CCケモカイン(例えば単球化学誘引蛋白質−1、単球化学誘引蛋白質−2、単球化学誘引蛋白質−3、単球炎症性蛋白質−1α、単球炎症性蛋白質−1β、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262)、CD40リガンド、Cキットリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補体因子5a、補体阻害剤、補体受容体1、サイトカイン(例えば上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1)、表皮増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(「EPO」)、表皮剥離毒素A及びB、IX因子、VII因子、VIII因子、X因子、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G−CSF、GM−CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、増殖因子、ヘッジホッグ蛋白質(例えばソニック、インディアン、デザート)、ヘモグロビン、肝細胞増殖因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−β、IFN−γ)、インターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12等)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールチュリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチンM、骨形成蛋白質、副甲状腺ホルモン、PD−ECSF、PDGF、ペプチドホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、プレイオトロピン、プロテインA、プロテインG、発熱外毒素A、B及びC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補体受容体I、可溶性I−CAM1、可溶性インターロイキン受容体(IL−1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、15)、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原即ちブドウ球菌エンテロトキシン(SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、毒素性ショック症候群毒素(TSST−1)、チモシンα1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、血管内皮増殖因子(VEGEF)、ウロキナーゼ並びに他の多数の蛋白質が挙げられる。
本明細書に記載する非天然アミノ酸のin vivo組込み用組成物及び方法を使用して生産することができる蛋白質の1類としては転写モジュレーター又はその部分が挙げられる。転写モジュレーターの例としては細胞増殖、分化、制御等を調節する遺伝子及び転写モジュレーター蛋白質が挙げられる。転写モジュレーターは原核生物、ウイルス及び真核生物(例えば真菌、植物、酵母、昆虫、及び哺乳動物を含む動物)に存在し、広範な治療ターゲットを提供する。当然のことながら、発現及び転写アクチベーターは例えば受容体との結合、シグナル伝達カスケードの刺激、転写因子の発現調節、プロモーターやエンハンサーとの結合、プロモーターやエンハンサーと結合する蛋白質との結合、DNA巻き戻し、プレmRNAスプライシング、RNAポリアデニル化及びRNA分解等の多数のメカニズムにより転写を調節する。
本発明の蛋白質(例えば1種以上の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質)の1類としてはサイトカイン、炎症性分子、増殖因子、その受容体、及び腫瘍遺伝子産物等の生体活性蛋白質が挙げられ、例えばインターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−8等)、インターフェロン、FGF、IGF−I、IGF−II、FGF、PDGF、TNF、TGF−α、TGF−β、EGF、KGF、SCF/c−キット、CD40L/CD40、VLA−4/VCAM−1、ICAM−1/LFA−1及びヒアルリン/CD44;シグナル伝達分子及び対応する腫瘍遺伝子産物(例えばMos、Ras、Raf及びMet);並びに転写アクチベーター及びサプレッサー(例えばp53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、及びステロイドホルモン受容体(例えばエストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、アルドステロン、LDL受容体リガンド及びコルチコステロン))が挙げられる。
少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ酵素(例えば産業用酵素)又はその部分も本発明により提供される。酵素の例としては限定されないが、例えばアミダーゼ、アミノ酸ラセマーゼ、アシラーゼ、デハロゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、ジアリールプロパンペルオキシダーゼ、エピメラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、グルコースイソメラーゼ、グリコシダーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、ハロペルオキシダーゼ、モノオキシゲナーゼ(例えばp450類)、リパーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ニトリルヒドラターゼ、ニトリラーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼ、スブチリシン、トランスアミナーゼ及びヌクレアーゼが挙げられる。
これらの蛋白質の多くは市販されており(例えばSigma BioSciences 2002カタログ及び価格表参照)、対応する蛋白質配列と遺伝子及び、一般に多くのその変異体も周知である(例えばGenbank参照)。例えば1種以上の該当治療、診断又は酵素特性に関して蛋白質を改変するように本発明に従って1種以上の非天然アミノ酸を挿入することにより前記蛋白質の任意のものを改変することができる。治療関連特性の例としては血清半減期、貯蔵半減期、安定性、免疫原性、治療活性、(例えば非天然アミノ酸へのレポーター基(例えばラベル又はラベル結合部位)の付加による)検出性、LD50又は他の副作用の低減、胃管を経由して体内に導入できること(例えば経口利用性)等が挙げられる。診断特性の例としては貯蔵半減期、安定性、診断活性、検出性等が挙げられる。該当酵素特性の例としては貯蔵半減期、安定性、酵素活性、産生能等が挙げられる。
他の各種蛋白質も本発明の組成物と方法を使用して1種以上の非天然アミノ酸を組込むように改変することができる。例えば、本発明は例えば感染性真菌(例えばAspergillus、Candida種);細菌、特に病原細菌モデルとして利用できる大腸菌や医学的に重要な細菌(例えばStaphylococci(例えばaureus)又はStreptococci(例えばpneumoniae));原生動物(例えば胞子虫類(例えばPlasmodia)、根足虫類(例えばEntamoeba)及び鞭毛虫類(Trypanosoma、Leishmania、Trichomonas、Giardia等));ウイルス(例えば(+)RNAウイルス(例えばポックスウイルス(例えばワクシニア)、ピコルナウイルス(例えばポリオ)、トガウイルス(例えば風疹)、フラビウイルス(例えばHCV)、及びコロナウイルス)、(−)RNAウイルス(例えばラブドウイルス(例えばVSV)、パラミクソウイルス(例えばRSV)、オルトミクソウイルス(例えばインフルエンザ)、ブンヤウイルス及びアレナウイルス)、dsDNAウイルス(例えばレオウイルス)、RNA→DNAウイルス(即ちレトロウイルス、例えばHIV及びHTLV)、及び所定のDNA→RNAウイルス(例えばB型肝炎))に由来する蛋白質において、1種以上のワクチン蛋白質中の1種以上の天然アミノ酸を非天然アミノ酸で置換することができる。
昆虫耐性蛋白質(例えばCry蛋白質)、澱粉及び脂質産生酵素、植物及び昆虫毒素、毒素耐性蛋白質、マイコトキシン解毒蛋白質、植物成長酵素(例えばリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、「RUBISCO」)、リポキシゲナーゼ(LOX)及びホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ等の農業関連蛋白質も非天然アミノ酸修飾の適切なターゲットである。
所定態様では、本発明の方法及び/又は組成物における該当蛋白質又はポリペプチド(又はその部分)は核酸によりコードされる。一般に、核酸は少なくとも1個のセレクターコドン、少なくとも2個のセレクターコドン、少なくとも3個のセレクターコドン、少なくとも4個のセレクターコドン、少なくとも5個のセレクターコドン、少なくとも6個のセレクターコドン、少なくとも7個のセレクターコドン、少なくとも8個のセレクターコドン、少なくとも9個のセレクターコドン、10個以上のセレクターコドンを含む。
該当蛋白質又はポリペプチドをコードする遺伝子は例えば非天然アミノ酸を組込むための1個以上のセレクターコドンを付加するように本明細書の「突然変異誘発及び他の分子生物学技術」のセクションに記載する当業者に周知の方法を使用して突然変異誘発することができる。例えば、1個以上のセレクターコドンを付加するように該当蛋白質の核酸を突然変異誘発し、1種以上の非天然アミノ酸を挿入できるようにする。本発明は例えば少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ任意蛋白質のこのような任意変異体(例えば突然変異体、変形)を含む。同様に、本発明は対応する核酸、即ち1種以上の非天然アミノ酸をコードする1個以上のセレクターコドンを含む任意核酸も含む。
非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を生産するためには、直交tRNA/RS対による非天然アミノ酸のin vivo組込みに適した宿主細胞及び生物を使用することができる。直交tRNA、直交tRNAシンテターゼ、及び修飾すべき蛋白質をコードするベクターを発現する1種以上のベクターで宿主細胞を遺伝子組換え(例えば形質転換、形質導入又はトランスフェクション)する。これらの成分の各々を同一ベクターに配置してもよいし、各々別々のベクターに配置してもよいし、2成分を第1のベクターに配置し、第3の成分を第2のベクターに配置してもよい。ベクターは例えばプラスミド、細菌、ウイルス、裸のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドコンジュゲートの形態とすることができる。
免疫反応性によるポリペプチドの定義
本発明のポリペプチドは種々の新規ポリペプチド配列(例えば本発明の翻訳系で合成される蛋白質の場合には非天然アミノ酸を含み、例えば新規シンテターゼの場合には標準アミノ酸の新規配列を含むポリペプチド)を提供するので、ポリペプチドは例えばイムノアッセイで認識することができる新規構造特徴も提供する。本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗血清の作製及び前記抗血清と結合するポリペプチドも本発明の特徴である。本明細書で使用する「抗体」なる用語は限定されないが、検体(抗原)と特異的に結合してこれを認識する1又は複数の免疫グロブリン遺伝子又はそのフラグメントにより実質的にコードされるポリペプチドを意味する。例としてはポリクローナル、モノクローナル、キメラ、及び1本鎖抗体等が挙げられる。Fabフラグメントやファージディスプレイを含む発現ライブラリーにより生産されるフラグメント等の免疫グロブリンフラグメントも本明細書で使用する「抗体」なる用語に含まれる。抗体構造及び用語については、例えばPaul,Fundamental Immunology,4th Ed.,1999,Raven Press,New York参照。
イムノアッセイ用抗血清を作製するためには、免疫原性ポリペプチドの1種以上を本明細書に記載するように作製し、精製する。例えば、組換え蛋白質を組換え細胞で生産することができる。(マウスの仮想遺伝子一致により結果の再現性が高いのでこのアッセイで使用する)近交系マウスに標準マウス免疫プロトコールに従って標準アジュバント(例えばフロイントアジュバント)と共に免疫原性蛋白質を免疫する(抗体作製、イムノアッセイフォーマット及び特異的免疫反応性を測定するために使用可能な条件の標準解説については例えばHarlow and Lane(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New York参照)。蛋白質、抗体、抗血清等に関するその他の詳細は国際公開WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;WO2004/035605、発明の名称「糖蛋白質合成(GLYCOPROTEIN SYNTHESIS)」;及びWO2004/058946、発明の名称「蛋白質アレー(PROTEIN ARRAYS)」に記載されている。
O−tRNA及びO−RS及びO−tRNA/O−RS対の使用
本発明の組成物と本発明の方法により作製された組成物は場合により細胞に導入する。その後、本発明のO−tRNA/O−RS対又は個々の成分を宿主系の翻訳機構で使用することができ、その結果として、非天然アミノ酸が蛋白質に組込まれる。国際公開WO2002/085923、発明者Schultzら、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」はこのプロセスを記載しており、参考資料として本明細書に組込む。例えば、O−tRNA/O−RS対を宿主(例えば大腸菌又は酵母)に導入すると、前記対はセレクターコドン(例えばアンバーナンセンスコドン)に応答して外部から増殖培地に添加することができる非天然アミノ酸の蛋白質(例えばミオグロビン試験蛋白質又は治療用蛋白質)へのin vivo組込みを誘導する。場合により、本発明の組成物はin vitro翻訳系に導入してもよいし、細胞内in vivo系に導入してもよい。非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質は多様な用途の任意のものに使用することができる。例えば、蛋白質に組込まれた非天然部分は例えば、他の蛋白質、小分子(例えばラベルや色素)及び/又は生体分子との架橋をはじめとする多様な修飾の任意のもののターゲットとして利用することができる。これらの修飾により、非天然アミノ酸の組込みの結果、治療用蛋白質を改善することができ、更に酵素の触媒機能を改変又は改善するために使用することもできる。所定側面では、非天然アミノ酸の蛋白質組込みとその後の修飾は蛋白質構造、他の蛋白質との相互作用等の研究を助長することができる。
光調節及びフォトケージング
例えば酵素、受容体、イオンチャネル等の活性を直接調節するか、又は各種シグナル伝達分子の細胞内濃度を調節することにより、光調節型アミノ酸(例えばフォトクロミック、光分解性、光異性化可能等)を使用して各種生体プロセスを空間的及び時間的に制御することができる。例えばShigeriら,Pharmacol.Therapeut.,2001,91:85;Curleyら,Pharmacol.Therapeut.,1999,82:347;Curleyら,Curr.Op.Chem.Bio.,1999,3:84;“Caged Compounds”Methods in Enzymology,Marriott,G.,Ed,Academic Press,NY,1998,V.291;Adamsら,Annu.Rev.Physiol,1993,55:755+;及びBochetら,J.Chem.Soc,Perkin 1,2002,125参照。本発明の各種態様では、組成物及び方法は光調節型アミノ酸を含む。例えば、本発明は光調節型非天然アミノ酸であるo−ニトロベンジル−セリンとO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンの組込み用直交翻訳系を提供する(図1、並びに実施例8及び9参照)。
「光調節型アミノ酸」は一般に例えば感光性アミノ酸である。光調節型アミノ酸は一般に所定方法で光(例えばUV、IR等)により制御されるアミノ酸である。従って、例えば、光調節型アミノ酸が生体活性をもつペプチドに含まれる場合には、照射によりアミノ酸を改変することにより、ペプチドの生体活性を変化させることができる。光調節型アミノ酸には、「フォトケージドアミノ酸」、「感光性アミノ酸」、「フォトレービルアミノ酸」、「光異性化可能なアミノ酸」等も含まれる。ケージドアミノ酸やケージドペプチド等の「ケージド種」は大きな部分(例えば分子)の内側にトラップされ、特定照射を受けると遊離する種である。例えばAdamsら,Annu.Rev.Physiol,1993,55:755−784参照。アミノ酸の「ケージング」基は(例えばターゲット分子との相互作用を通常は安定化させる結合を切断するか、特定側鎖の疎水性又はイオン特性を変化させるか、あるいは立体障害等により)分子(例えばこのようなアミノ酸を含むペプチド)内の生体活性を阻害又は隠蔽することができる。「光異性化可能な」アミノ酸は露光により異性体形に転換することができる。このようなアミノ酸の各種異性体が組込まれると、蛋白質の他の側鎖との相互作用が変化する。実施例2参照。こうして光調節型アミノ酸はそれらが組込まれたペプチドの生体活性を(活性化、部分活性化、不活化、部分不活化、変形活性化等により)制御することができる。光調節型アミノ酸及び分子の詳細な定義と例についてはAdams前出と本セクションの他の引用文献参照。
多数の光調節型アミノ酸が当業者に公知であり、多数のものが市販されている。光調節分子をアミノ酸と結合及び/又は会合する方法も公知である。このような光調節型アミノ酸は一般に本発明の各種態様に利用可能である。当然のことながら、本明細書には考えられる多数の光調節部分(例えばフォトケージング基等)と多数の光調節型アミノ酸を挙げるが、これらの例は限定的であるとみなすべきではない。従って、本発明は本明細書に具体的に記載しない光調節部分及び光調節型アミノ酸にも利用可能である。
上記のように、光調節型アミノ酸を作製するために場合により多数の方法が適用可能である。例えば、光調節型アミノ酸(例えばフォトケージドアミノ酸)はそのα−アミノ基をBOC(ブチルカルボニル)等の化合物で保護し、α−カルボキシル基をt−ブチルエステル等の化合物で保護することにより作製することができる。このような保護後にクロロギ酸2−ニトロベンジル、臭化α−カルボキシル2−ニトロベンジルメチルエステル、又は2−ニトロベンジルジアゾエタン等の反応形の2−ニトロベンジル等のフォトレービルケージング基とアミノ酸側鎖を反応させることができる。フォトレービルケージ基を付加した後に標準手順により保護基を除去することができる。例えばUSPN5,998,580参照。
別例として、クロロギ酸2−ニトロベンジルを使用してリジン残基をケージングし、ε−リジンアミノ基を修飾し、正電荷を除去することもできる。あるいは、α−カルボキシ2−ニトロベンジルオキシカルボニルケージング基の使用により(このようなリジンをもつ)ペプチドに負電荷を導入することによりリジンをケージングすることもできる。更に、ホスホアミノ酸又はホスホペプチドを1(2−ニトロベンジル)ジアゾエタンで処理することによりホスホセリンとホスホスレオニンをケージングすることができる。例えばWalkerら,Meth Enzymol.172:288−301,1989参照。例えばセリン、スレオニン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸及びグルタミン酸等の他の多数のアミノ酸も容易に標準ケージング化学に適用可能である。例えばWilcoxら,J.Org.Chem.55:1585−1589,1990参照。この場合も当然のことながら、特定光調節型(アミノ酸及び/又は光調節形に変換可能なアミノ酸)の記載は必ずしも限定的とみなすべきではない。
アミノ酸残基は他の方法で光調節型(例えば感光性又はフォトレービル)にすることもできる。例えば、特定アミノ酸残基をもつペプチド主鎖が放射線照射により開裂するような所定アミノ酸残基を作製することができる。例えば、フォトレービルグリシンである2−ニトロフェニルグリシンはこのように機能することができる。例えばDavisら,1973,J.Med.Chem.,16:1043−1045参照。2−ニトロフェニルグリシンを組込んだペプチドに放射線を照射すると、2−ニトロフェニルグリシンのα炭素とα−アミノ基の間のペプチド主鎖は開裂する。2−ニトロベンジル基をα炭素とα−アミノ基の間に挿入するならば、グリシン以外のアミノ酸にもこのような開裂ストラテジーを一般に適用することができる。
このような基を他の分子(例えばアミノ酸)と共有結合させるために使用される多数の光調節基(例えばケージング基)と多数の反応性化合物が当分野で周知である。光調節(例えばフォトレービル、ケージング)基の例としては限定されないが、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、ニトロインドリン;N−アシル−7−ニトロインドリン;フェナシル;ヒドロキシフェナシル;臭素化7−ヒドロキシクマリン−4−イルメチル(例えばBhc);ベンゾインエステル;ジメトキシベンゾイン;メタフェノール;2−ニトロベンジル;1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチル(DMNPE);4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル(DMNB);α−カルボキシ−2−ニトロベンジル(CNB);1−(2−ニトロフェニル)エチル(NPE);5−カルボキシメトキシ−2−ニトロベンジル(CMNB);(5−カルボキシメトキシ−2−ニトロベンジル)オキシ)カルボニル;(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)オキシ)カルボニル;デオキシベンゾイニル等が挙げられる。例えばUSPN5,635,608(Haugland and Gee)(1997年6月3日)、発明の名称「α−カルボキシケージド化合物(α−carboxy caged compounds)」Neuro 19,465(1997);J Physiol 508.3,801(1998);Proc Natl Acad Sci USA 1988 Sep,85(17):6571−5;J Biol Chem 1997 Feb 14,272(7):4172−8;Neuron 20,619−624,1998;Nature Genetics,vol.28:2001:317−325;Nature,vol.392,1998:936−941;Pan,P.,and Bayley,H.“Caged cysteine and thiophosphoryl peptides”FEBS Letters 405:81−85(1997);Pettitら(1997)“Chemical two−photon uncaging:a novel approach to mapping glutamate receptors”Neuron 19:465−471;Furutaら(1999)“Brominated 7−hydroxycoumarin−4−ylmethyls:novel photolabile protecting groups with biologically useful cross−sections for two photon photolysis”Proc.Natl.Acad.Sci.96(4):1193−1200;Zouら“Catalytic subunit of protein kinase A caged at the activating phosphothreonine”J.Amer.Chem.Soc.(2002)124:8220−8229;Zouら“Caged Thiophosphotyrosine Peptides”Angew.Chem.Int.Ed.(2001)40:3049−3051;Conrad IIら“p−Hydroxyphenacyl Phototriggers:The reactive Excited State of Phosphate Photorelease”J.Am.Chem.Soc.(2000)122:9346−9347;Conrad IIら“New Phototriggers 10:Extending the π,π* Absorption to Release Peptides in Biological Media”Org.Lett.(2000)2:1545−1547;Givensら“A New Phototriggers 9:p−Hydroxyphenacyl as a C−Terminus Photoremovable Protecting Group for Oligopeptides”J.Am.Chem.Soc.(2000)122:2687−2697;Bishopら“40−Aminomethyl−2,20−bipyridyl−4−carboxylic Acid(Abc)and Related Derivatives:Novel Bipyridine Amino Acids for the Solid−Phase Incorporation of a Metal Coordination Site Within a Peptide Backbone”Tetrahedron(2000)56:4629−4638;Chingら“Polymers As Surface−Based Tethers with Photolytic triggers Enabling Laser−Induced Release/Desorption of Covalently Bound Molecules”Bioconjugate Chemistry(1996)7:525−8;BioProbes Handbook,2002,Molecular Probes,Inc.;及びHandbook of Fluorescent Probes and Research Products,Ninth Edition又はWeb Edition,Molecular Probes,Inc、並びにその引用文献参照。各種分子のケージング用の多数の化合物、キット等が例えばMolecular Probes,Inc.から市販されている。その他の情報は例えばMerrifield,Science 232:341(1986)及びCorrie,J.E.T.and Trentham,D.R.(1993)In:Biological Applications of Photochemical Switches,ed.,Morrison,H.,John Wiley and Sons,Inc.New York,pp.243−305に記載されている。適切な感光性ケージング基の例としては限定されないが、2−ニトロベンジル、ベンゾインエステル、N−アシル−7−ニトロインドリン、メタフェノール、及びフェナシルが挙げられる。
所定態様では、光調節(例えばケージング)基は第2の結合部分と結合することができる第1の結合部分を場合により含むことができる。例えば、市販ケージドホスホロアミダイト[1−N−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−(6−ビオチンアミドカプロアミドメチル)−1−(2−ニトロフェニル)−エチル]−2−シアノエチル−(N,N−ジイソプロピル)−ホスホロアミダイト(Glen Research Corp.,www.glenres.com製品PC Biotin Phosphoramadite)はフォトレービル基とビオチン(第1の結合部分)を含む。従って、第2の結合部分(例えばストレプトアビジン又はアビジン)をケージング基と結合することができ、その嵩とケージング効力を増すことができる。所定態様では、ケージド成分は第1の結合部分を各々含む2個以上のケージング基を含み、第2の結合部分は2個以上の第1の結合部分と同時に結合することができる。例えば、ケージド成分は少なくとも2個のビオチン化ケージング基を含むことができ、ストレプトアビジンが複数のケージド成分分子上の複数のビオチン部分と結合すると、ケージド成分は相互に結合して大きな網状構造とする。ビオチンを前記成分と結合するフォトレービル基が開裂すると、網状構造は解離する。
ケージドポリペプチド(例えば抗体や転写因子等のペプチド基質及び蛋白質を含む)を作製する「従来」方法としては、例えばポリペプチドをケージング化合物と反応させる方法や、ポリペプチドの合成中にケージドアミノ酸を組込む方法がある。例えば米国特許第5,998,580号(Fayら)(1999年12月7日)発明の名称「感光性ケージド巨大分子(Photosensitive caged macromolecules)」;Kosselら(2001)PNAS 98:14702−14707;Trends Plant Sci(1999)4:330−334;PNAS(1998)95:1568−1573;J.Am.Chem.Soc.(2002)124:8220−8229;Pharmacology & Therapeutics(2001)91:85−92;及びAngew.Chem.Int.Ed.Engl.(2001)40:3049−3051参照。(例えば蛋白質形質導入ドメイン及びセンサー等を結合するための)フォトレービルポリペプチドリンカーは例えば米国特許第5,998,580号に記載されているもの等のフォトレービルアミノ酸を含むことができる。
光を照射すると、例えばこのようなアミノ酸を含むペプチドの活性に重要なアミノ酸の側鎖残基を遊離させることができる。更に、所定態様では、ケージ解除したアミノ酸はアミノ酸を含むペプチドのペプチド主鎖を開裂し、従って、例えば環状ペプチドを開環し、別の生物学的性質等をもつ線状ペプチドとすることができる。
ケージドペプチドの活性化は当業者に公知の任意標準方法により光調節型アミノ酸上の感光性ケージング基の破壊により実施することができる。例えば、感光性アミノ酸は(例えばUV域又は赤外域で発光する)レーザー等の適切な慣用光源に暴露することによりケージ解除又は活性化することができる。本発明で使用するもの等の光調節型アミノ酸と併用するために適用可能な適切な波長及びエネルギーのその他の多数のレーザー並びに適切な適用プロトコール(例えば照射時間等)が当業者に自明である。光調節型ケージドアミノ酸の遊離はこのようなアミノ酸を含むペプチドの制御を可能にする。このような制御は位置と時間の両面で可能である。例えば、集束レーザー照射は他の位置のアミノ酸をケージ解除せずに、ある位置のアミノ酸をケージ解除することができる。
当業者に自明のとおり、光調節型アミノ酸の活性を評価するためには各種アッセイ(例えば下記実施例に記載するアッセイ)を使用することができる。光調節型アミノ酸を組込んだペプチドを細胞又は組織に導入する前後と、光調節型分子の遊離後に多様な例えば細胞機能、組織機能等をアッセイすることができる。
本発明の組成物及び方法は多数の側面で利用することができる。例えば、光調節型アミノ酸の遊離又は活性化/不活化/等は標的光照射等により局在化することができるので、(例えばペプチド中の)光調節型アミノ酸は治療用組成物を身体の個別位置に送達することができる。同様に当然のことながら、本発明の方法、構造、及び組成物は光調節型天然アミノ酸(例えば光調節部分を結合/会合したアミノ酸)の組込み/使用にも適用可能である。
酵素(例えばWestmarkら,J.Am.Chem.Soc.1993,115:3416−19及びHohsakaら,J.Am.Chem.Soc.1994,116:413−4参照)、受容体(例えばBartelsら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1971,68:1820−3;Lesterら,Nature 1977,266:373−4:Cruzら,J.Am.Chem.Soc,2000,122:8777−8;及びPollittら,Angew.Chem.Int.Ed.Engl,1998,37:2104−7参照)、又はイオンチャネル(例えばLienら,J.Am.Chem.Soc.1996,118:12222−3;Borisenkoら,J.Am.Chem.Soc.2000,122:6364−70;及びBanghartら,Nat.Neurosci.2004,7:1381−6参照)の活性を直接調節するか、あるいは各種シグナル伝達分子の細胞内濃度(例えばAdamsら,Annu.Rev.Physiol.1993,55:755−84参照)を調節することにより、フォトクロミック及び光分解性基を使用して各種生体プロセスを空間的及び時間的に制御することができる。一般に、このためには蛋白質又は小分子をアゾベンゼン又はニトロベンジル基等の光反応性リガンドで化学的に修飾する必要がある。光反応性アミノ酸を生体の蛋白質の規定部位に直接遺伝的に組込むことができるならば、この技術の範囲は有意に拡大すると思われる。例えばWuら,J.Am.Chem.Soc.2004,126:14306−7参照。
キット
キットも本発明の特徴である。例えば、少なくとも1種の非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を細胞で生産するためのキットが提供され、前記キットはO−tRNAをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又はO−tRNA、及び/又はO−RSをコードするポリヌクレオチド配列、及び/又はO−RSを収容する容器を含む。1態様では、キットは更にp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシルアラニン、7−アミノ−クマリンアラニン、7−ヒドロキシ−クマリンアラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン、p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、3−ニトロ−L−チロシン又はp−ニトロ−L−フェニルアラニン等の非天然アミノ酸を含む。別の態様では、キットは更に蛋白質を生産するための説明書を含む。
以下、実施例により本発明を例証するが、これらの実施例により本発明を限定するものではない。本発明の範囲から逸脱せずに変更可能な種々の非必須パラメーターが当業者に自明である。
3−ニトロ−L−チロシンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用して3−ニトロ−L−チロシン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能する新規直交tRNA/シンテターゼ対を単離した。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーチロシルtRNACUA(配列番号1)と併用した。これらの新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーチロシルtRNACUAに3−ニトロ−L−チロシンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答して3−ニトロ−L−チロシンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して送達される。
従来記載されているプロトコール(例えば、Alfontaら,Journal of the American Chemical Society 125(48):14662−14663(2003);及び国際公開WO2005/038002、公開日2005年4月28日参照)を使用して新規シンテターゼを単離した。
野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ分子のアミノ酸配列とポリヌクレオチド配列を表5に夫々配列番号3及び4で示す。突然変異誘発はBacillus stearothermophilusに由来する相同チロシルtRNAシンテターゼの結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体ライブラリーのシンテターゼプールを5ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAに3−ニトロ−L−チロシンを負荷することが可能な7個のシンテターゼクローン(クローンA〜G)が得られた。これらの選択シンテターゼクローンをシーケンシングし、そのアミノ酸配列を以下のように決定した。
クローンA、B、C、E及びGはいずれも同一突然変異体配列に収束した。クローンD及びFは異なる配列を示した。これらの突然変異体シンテターゼのアミノ酸配列を表5、配列番号7〜9に示す。
p−ニトロ−L−フェニルアラニン(NO−Phe)を大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は新規直交翻訳系を使用してp−ニトロ−L−フェニルアラニン(図1参照;NO−Pheとも言う)を大腸菌の蛋白質に遺伝的プログラム下で部位特異的に組込む方法について記載する。
非天然アミノ酸NO−Pheは蛋白質−受容体構造を研究するための光親和性標識プローブ(Dong,Mol.Pharmacol.2005,69,1892)や、プロテアーゼ活性(Wang,Biochem.Biophys.Res.Comm.1994,201:835)及び蛋白質構造(Sisido,J.Am.Chem.Soc.1998,120:1520;2002,724:14586)を調査するための蛍光クエンチャーとして使用されている。このアミノ酸は3塩基(Schultz,Science 1989,244:182)、4塩基(M.Sisido)及び5塩基(M.Sisido,Nucleic Acids Res.2001,29,3646)コドンを使用するin vitro生合成法により蛋白質に部位特異的に組込まれている。しかし、このアプローチでは一般に少量の蛋白質しか生産されない。更に、この方法は化学量論的量のアシル化tRNAが必要であることと、アミノアシルtRNAを再生できないことにより制限されている。これらの欠点に鑑み、本発明者らは以下に記載するように、この非天然アミノ酸を蛋白質に直接組込むための新規in vivo直交翻訳系を開発した。
大腸菌でNO−Pheを遺伝的にコードさせるために、シンテターゼが突然変異体チロシンアンバーサプレッサーtRNA(mutRNACUA Tyr)に非天然アミノ酸NO−Pheを特異的に負荷するように直交Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ(MjTyrRS)の特異性を改変した。突然変異体シンテターゼは突然変異体MjTyrRSライブラリーのスクリーニングから誘導した。mutRNACUA Tyrにp−ブロモフェニルアラニンを選択的に負荷する突然変異体MjTyrRSの結晶構造の分析に鑑み、この突然変異体ライブラリーの突然変異誘発位置を選択した。
夫々1mM NO−Pheの存在下又は不在下でmutRNACUA Tyrと突然変異体MjTyrRSライブラリーを使用して数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択後に、高濃度クロラムフェニコール(90μg/mL)下の生存がNO−Pheの存在に依存するクローンが出現した。更に、NO−PheにT7/GFPuvレポーターを付加し、レポーター遺伝子内の部位にアンバーセレクターコドンを配置した場合には、選択クローンのみで緑色蛍光が観察された。この結果は進化型シンテターゼが他の全天然アミノ酸よりもNO−Pheに高い特異性をもつことを示唆している。クローンのシーケンシングの結果、この進化型シンテターゼには以下の突然変異:
Tyr32→Leu
Glu107→Ser
Asp158→Pro
Ile159→Leu
His160→Asn
Leu162→Glu
が判明した。このクローンのヌクレオチド配列を表5、配列番号11に示し、対応するアミノ酸配列を表5、配列番号10に示す。
進化型シンテターゼ(mutNO−PheRS)とmutRNACUA TyrがNO−Pheを蛋白質に選択的に組込む能力を試験するために、C末端ヘキサマーHisタグを付けたZドメイン蛋白質の遺伝子の許容部位(Lys7)をアンバー終止コドンに置換した。mutNO−PheRS、mutRNACUA Tyr及びZドメイン遺伝子で形質転換した細胞をGMML最少培地中1mM NO−Pheの存在下で増殖させた。Ni2+アフィニティーカラムを使用して突然変異体蛋白質を精製した後、SDS−PAGE(図2参照)とMALDI−TOF(図3)により分析した。NO−Pheを組込んだZドメイン蛋白質ではMALDI−TOF分析からの実測質量(m/e=7958)は予想質量(m/e=7958)に一致する。NO−Phe(図1参照)の不在下ではZドメインは得られず、非天然アミノ酸の組込みの忠実度が非常に高いことを示した。
次に、組込まれたNO−Pheを蛍光クエンチャーとして使用できるかどうかを試験した。NO−Pheの報告されているフルオロフォア対応部分(例えばチロシン、トリプトファン、1−ピレニルアラニン、及びβ−アントラニロイル−l−α,β−ジアミノプロピオン酸)からトリプトファン/NO−Phe対を選択し、平行コイルドコイルホモダイマーを形成するモデルGCN4ロイシンジッパーに組込んだ。トリプトファンをコードしないGCN4遺伝子のDNA結合領域(676−840bp)を酵母ゲノムから蛋白質発現ベクターpET−26bにクローニングした。次に、部位特異的突然変異誘発を利用してこの蛋白質の特定部位のアミノ酸をトリプトファン又は(TAGセレクターコドンによりコードされる)NO−Phe非天然アミノ酸で置換した。GCN4発現ベクターと、mutNO−PheRSとmutRNACUA Tyrの両者を含むプラスミドを大腸菌BL21(DE3)細胞に同時形質転換した後、GMML最少培地中1mM NO−Pheの存在下で増殖させた。蓄積したGCN4p1突然変異体蛋白質をNi2+アフィニティーカラムにより精製し、SDS−PAGE及びMALDI−TOF分析により確認した。
精製した突然変異体蛋白質の定常状態蛍光スペクトルを測定した。図4Aは22Trp突然変異体蛋白質単独の蛍光スペクトルと、22Trp及び22NO−Phe突然変異体の混合物の蛍光スペクトルを示し、図4Bは55Trp突然変異体蛋白質の蛍光スペクトルと、55Trp及び22NO−Phe突然変異体の混合物の蛍光スペクトルを示す。22Trp/22NO−Phe突然変異体対では顕著な蛍光消光が観察されたが、55Trp/22NO−Phe突然変異体対では有意蛍光消光は得られなかった。この結果はTrp/NO−Phe対間のフルオロフォア/クエンチャー相互作用が距離依存的であることを明白に示している。従って、このシステムは蛋白質フォールディングと蛋白質−蛋白質及び蛋白質−リガンド相互作用の研究に容易に適用することができる。
レドックス活性アミノ酸3−アミノ−L−チロシンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用して3−アミノ−L−チロシン(図1参照;NH−YRSとも言う)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
この非天然アミノ側鎖は対応するセミキノン及びキノンに酸化し易いので、蛋白質で電子移動プロセスを探査及び操作するために使用することができる。酸化キノン形はヘテロ・ディールズ・アルダー反応によりアクリルアミドと効率的に結合することができる。この性質により別の用途が得られ、即ちこの非天然アミノ酸は蛋白質の化学修飾基として機能する。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUA(配列番号1)と併用した。この新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAに3−アミノ−L−チロシンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答して3−アミノ−L−チロシンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して送達される。
従来記載されているプロトコールを使用して新規シンテターゼを単離した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製した。突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体ライブラリーのシンテターゼプールを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAに3−アミノ−L−チロシンを負荷することが可能な1個のシンテターゼクローンが得られた。この選択シンテターゼクローンは表5、配列番号12に示すアミノ酸配列と、表5、配列番号13に示すポリヌクレオチド配列をもつ。
ホスホチロシンミミックアミノ酸p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してp−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン(図1参照;pCMFとも言う)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
この非天然アミノ側鎖はチロシンリン酸化の安定的ミミックとして使用することができる。チロシンリン酸化は細胞増殖、代謝調節、転写調節、及び増殖等の多様な細胞プロセスで細胞内シグナル伝達の調節に重要な役割を果たす。チロシンリン酸化はin vivoで可逆的プロセスである。内在チロシンホスファターゼによるチロシンの脱リン酸化傾向はチロシンリン酸化の効果の研究を妨げるため、この研究の解釈の妨げとなっている。アミノ酸p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンはホスホチロシンミミックであり、細胞浸透性であり、更に、チロシンホスファターゼの基質として作用しない。この非天然アミノ酸を蛋白質に組込むと、構成的に活性な蛋白質突然変異体を作製するために使用することができる。この非天然アミノ酸はp−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンを含むペプチドライブラリーから蛋白質チロシンホスファターゼに対する阻害剤を選択するためにファージディスプレイで使用することもできる。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用した。これらの新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにp−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してp−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して送達される。
直交tRNAにp−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにp−カルボキシメチル−L−フェニルアラニンを負荷することが可能な5個のシンテターゼクローンが得られた。これらのシンテターゼクローンをシーケンシングし、アミノ酸配列を決定した(表5参照)。これらのO−RSクローンのアミノ酸配列は配列番号14、16、18、20及び22に示す。これらの同一O−RSクローンのヌクレオチド配列は配列番号15、17、19、21及び23に示す。
疎水性非天然アミノ酸ビフェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してビフェニルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
ビフェニルアラニン非天然アミノ酸は大きな芳香族側鎖をもつ。疎水性相互作用は蛋白質フォールディングと蛋白質−蛋白質相互作用を誘導する主要な力の1つである(他の主要な力は静電相互作用、水素結合、及びファン・デル・ワールス力である)。疎水性相互作用は細胞膜を通る蛋白質輸送、蛋白質凝集、及び酵素触媒等の多数の生体イベントに関与している。ビフェニルアラニンの疎水性は20種の標準アミノ酸のどれよりも高い。ビフェニルアラニンの蛋白質組込みは蛋白質における分子内及び分子間疎水性パッキング相互作用の研究と調節に有用なツールである。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用した。これらの新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにビフェニルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してビフェニルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して送達される。
直交tRNAにビフェニルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにビフェニルアラニンを負荷することが可能な7個のシンテターゼクローンが得られた。これらのシンテターゼクローンをシーケンシングした(表5参照)。これらのO−RSクローンのアミノ酸配列は配列番号24、26、28、30、32、34及び36に示す。これらの同一O−RSクローンの対応するヌクレオチド配列は配列番号25、27、29、31、33、35及び37に示す。
金属キレート化非天然アミノ酸ビピリジルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してビピリジルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
ビピリジルアラニン非天然アミノ酸は金属イオンをキレート化する能力をもつ。このアミノ酸側鎖のN、N−二座部分はCu2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+及びRu2+等の遷移金属イオンの強力なキレート剤である。この金属キレート化アミノ酸は(1)レドックス活性又は求電子性金属イオンを蛋白質に導入するため、(2)Ru(bpy)等の蛍光金属イオン錯体を形成するため、又は(3)ビピリジルアラニンを含む蛋白質の金属イオン依存性二量化を媒介するために使用することができる。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用した。新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにビピリジルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してビピリジルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して送達される。
直交tRNAにビピリジルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにビピリジルアラニンを負荷することが可能な2個のシンテターゼクローンが得られた。これらのシンテターゼクローンをシーケンシングした(表5参照)。これらのO−RSクローンのアミノ酸配列は配列番号38及び40に示す。これらの同一O−RSクローンの対応するヌクレオチド配列は配列番号39及び41に示す。
蛍光非天然アミノ酸1,5−ダンシルアラニンを酵母宿主細胞の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は酵母宿主細胞翻訳機構を使用して1,5−ダンシルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。大腸菌に由来し、酵母宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
蛍光はその操作の感度と安全性の高さにより、バイオテクノロジーで最重要検出シグナルの1つになっている。更に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法や蛍光偏光法等の方法は生体分子結合イベント、移動又はコンホメーション変化のリアルタイム分析を可能にする。蛋白質をin vivo試験するための現行蛍光法は大きな蛍光蛋白質との融合構築物に依存することが多い。あるいは、小さい有機ラベルを使用して構造変化を最小限にすることができるが、位置選択性が不良であり、細胞傷害性であるか又は色素結合蛋白質モチーフを導入する必要があり、蛋白質表面に限定される傾向がある。これに対して、蛍光アミノ酸は細胞傷害性の可能性のある基を必ずしも含まず、その導入により蛋白質構造の変化が非常に少なく、in vivoで蛋白質の任意位置の特異的標識が可能である。
本発明は蛍光アミノ酸1,5−ダンシル修飾アラニン(図5A参照)を酵母の成長中のポリペプチド鎖に組込む直交翻訳系成分を提供する。この非天然アミノ酸はそのIUPAC名2−アミノ−3−(5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホニルアミノ)プロピオン酸で指称する場合もある。ダンシルクロモフォアは励起波長と発光波長の最大値の差が非常に大きく(>200nm)、発光強度の環境極性依存性が高い等の有利なスペクトル特性をもつ。このため、蛋白質コンホメーション変化や、局所蛋白質環境、従って極性が変化する結合イベントの研究に好適である。ジクロロメタン中でトリエチルアミンを使用してN−Boc−アミノアラニンをダンシルクロリドと結合した後にジクロロメタン中でTFAにより酸脱保護する2段階法でこの非天然アミノ酸の合成を実施した。
従来記載されているプロトコール(例えば、Wuら,Journal of the American Chemical Society 126:14306−14307(2004);及び国際出願PCT/US2005/034002、出願日2005年9月21日、発明者Deitersら参照)を使用して1,5−ダンシルアラニンを組込むための新規シンテターゼを単離した。酵母宿主細胞系でランダム突然変異させた大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼライブラリーから初期負荷活性を示した突然変異体大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼクローン(クローンB8)を単離した。表5と配列番号42及び43参照。突然変異体大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼライブラリーの部位はM40、L41、Y499、Y527及びH537とした。ライブラリーの全クローンに認められた(ライブラリー作製に起因する)付加突然変異はH67R、N196T、R262A及びS497Cであった。
しかし、B8突然変異体大腸菌シンテターゼは33位に許容アンバーヒドンをもつ発現されたモデル蛋白質ヒトスーパーオキシドジスムターゼ(hSOD−33TAG−His6)のMALDI TOF MSによると、ロイシンに類似の分子量をもつ1種以上の天然アミノ酸に対してバックグラウンド活性を示した。ダンシルアラニン−AMPアミドとの理論的ドッキング試験とThermus thermophilus(T.th.)に由来する相同ロイシルtRNAシンテターゼの結晶構造によると、πスタッキングがナフチル部分に作用することなく、主に疎水性の相互作用によりリガンドと結合する拡大結合ポケットが形成されることが示唆された(図5B参照)。
大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼにはプルーフリーディング活性が存在し、選択した突然変異体では1,5−ダンシルアラニンに対する活性化及び負荷活性が既に生じていたので、活性化又は負荷された天然アミノ酸を編集部位のリモデリングにより選択的に除去することを目的とするストラテジーを考案した。観察されたバックグラウンドはMALDI TOF MSにより示唆されるようにロイシンの組込みに起因すると考えられた。T.th.に由来する相同ロイシルtRNAシンテターゼの結晶構造と突然変異試験によると、活性化又は負荷されたロイシンはγ−メチル側鎖に対する非極性アミノ酸の単なる立体障害により加水分解部位と結合できないと考えられる(Lincecumら,Mol Cell.,4:951−963[2003])。
ロイシンに対する加水分解活性を増加するために、大腸菌シンテターゼ編集ドメインの残基T252及びV338をQuikchange突然変異誘発によりアラニンに交換して結合ポケットを拡大した(図6A参照)。V338Aシンテターゼ(表5、配列番号46及び47参照)はモデル蛋白質ヒトスーパーオキシドジスムターゼ(hSOD)を使用する発現試験で有意差を示さなかったが、T252Aシンテターゼ(表5、配列番号44及び45参照)は顕著なバックグラウンド低下を示した(図6B参照)。この突然変異体の高い選択性はhSOD−33TAG−His6のMALDI TOF MSにより更に確認された。
従って、本発明は酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞翻訳機構を使用して1,5−ダンシルアラニンを蛋白質に生合成的に組込むことが可能な大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼに由来する新規突然変異体tRNAシンテターゼを提供する。
フォトケージド非天然アミノ酸o−ニトロベンジルセリンを酵母宿主細胞の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は酵母宿主細胞翻訳機構を使用してo−ニトロベンジルセリン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。大腸菌に由来し、酵母宿主細胞系で機能するこの非天然アラニンを組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
生体における特定遺伝子の機能の調査は主にその不活性化又は活性化と得られる効果の試験に依存している。古典的な遺伝子ノックアウト試験はDNAレベルで遺伝子を標的化しているため、コードされる全蛋白質変異体の生産が不活性化され、得られる効果をリアルタイムで調べることができない。近年、有機小分子の使用により遺伝子不活性化の特異性は劇的に増加した。このようなツールを使用すると、単一蛋白質変異体(又はこの変異体の単一ドメイン)を標的化することができ、分子の付加後にリアルタイムで効果を調べることができる。
一過的な活性化可能なノックアウトとして蛋白質にフォトケージドアミノ酸を導入すると、このような試験の確度を更に増加することができる。化学的ノックアウトストラテジーを使用すると、その標的蛋白質への化合物の拡散時間は律速的となり、全細胞調査することしかできない。これに対して、特定アミノ酸のフォトアンケージングは迅速な時間スケールで実施することができ、高度集束レーザー光パルスを使用して細胞の特定区画を調査することができる。
ケージドシステイン誘導体o−ニトロベンジルシステイン(o−NBCとも言う)を特異的に認識する突然変異体大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼが酵母宿主細胞で突然変異体大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼライブラリーから既に作製されている(Wuら,Journal of the American Chemical Society 126:14306−14307(2004);及び国際出願PCT/US2005/034002,出願日2005年9月21日,発明者Deitersら参照)。このアプローチの適用可能性を拡大するために、o−ニトロベンジルセリン(oNBS)を特異的に組込むtRNAシンテターゼの開発を検討した。このフォトケージドアミノ酸が蛋白質に遺伝的に組込まれると、シグナル伝達経路の最重要化学マーカーの1つであるセリン残基に関する任意機能(限定されないが、例えばキナーゼによるセリンリン酸化)を光調節するために使用することができると考えられる。oNBSアミノ酸は塩基としてNaHを使用してDMF中でo−ニトロベンジルブロミドをBoc−N−Ser−O−tBuと結合した後にスカベンジャーとしてトリエチルシランの存在下に塩化メチレン中TFAで酸脱保護することにより総収率52%で合成することができる。
oNBC組込み用に開発した突然変異体大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼ(クローン3H11;表5、配列番号48及び49参照)は既に多少のoNBS組込み活性を示したが、oNBCアミノ酸に比較して効率は約2分の1であった。より効率的なoNBS翻訳系を開発するために、同様に遺伝子当たり1、2又は5カ所の突然変異を導入するように3種の異なる突然変異原性を使用して、選択クローン3H11シンテターゼをエラープローンPCRにより多様化させ、総ダイバーシティ1×10個のクローンを得た。ランダム突然変異に使用したロイシルtRNAシンテターゼ酵素の位置はM40、L41、Y499、Y527及びH537とした。本実施例で使用したプロトコールは従来技術(例えば、Wuら,Journal of the American Chemical Society 126:14306−14307(2004);及び国際出願PCT/US2005/034002、出願日2005年9月21日、発明者Deitersら)に記載されている一般方法に従った。
新規突然変異体シンテターゼライブラリーのスクリーニングの結果、oNBS組込み効率が2倍に増加したシンテターゼ(クローンG2−6)が得られた。G2−6クローンのシーケンシングの結果、初期3H11シンテターゼ出発材料に比較して酵素全体で5カ所の付加突然変異(位置S31G、T247A、T248S、M617I及びV673A)が確認された。ライブラリーの全クローンに認められた(ライブラリー作製中に生じた)付加突然変異H67R、N196T、R262A及びS497Cも観察された。このシンテターゼ単離体の完全アミノ酸配列及びヌクレオチド配列を表5、配列番号50及び51に示す。この改良型突然変異体シンテターゼを図7Aに模式的に示し、G2−6シンテターゼ突然変異体におけるoNBS組込み活性の改善を図7Bに実験により示す。oNBSの選択的組込みは発現試験のモデルシステムとして同様にhSODを使用するMALDI MSにより更に確認された。
従って、本発明は酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)宿主細胞翻訳機構を使用してoNBSを蛋白質に生合成的に組込むことが可能な大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼに由来する新規突然変異体tRNAシンテターゼを提供する。
フォトケージド非天然アミノ酸O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は古細菌シンテターゼ種と大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
「ケージド蛋白質」は光、通常は不活性形態から活性化形態への光分解変換により生物活性を制御することができる修飾蛋白質である。照射のタイミング、位置及び振幅を容易に制御することができ、蛋白質機能の詳細な研究が可能になるのでこれは特に有用である(詳細については、Shigeriら,Pharmacol.Therapeut.2001,97:85;Curley and Lawrence Pharmacol.Therapeut.1999,82:341;Curley and Lawrence,Curr.Op.Chem.Bio.1999,3:84;“Caged Compounds”,Methods in Enzymology;Marriott,G.,Ed.;Academic Press:New York,1998;V.291;及びAdams and Tsien,Annu.Rev.Physiol.1993,55:755参照)。
最も一般的なケージング基は2−ニトロベンジル基であり(Bochet,J.Chem.Soc,Perkin 1 2002,125;Givensら,Methods in Enzymology 1998,291,1;及びPillai,Synthesis 1980,1参照)、ポリペプチド又は蛋白質のヒドロキシ、カルボキシ、チオ、又はアミノ基に配置し、非光損傷性紫外光を照射すると、容易に開裂する。従来、ケージング基の配置を位置制御せずに単離蛋白質の化学修飾によりケージド蛋白質が作製されているが、そのため、複数のケージング基を組込むことが多い(例えば、Self and Thompson,Nature Med.1996,2,817)。ナンセンスコドン抑圧技術を使用してケージドアミノ酸のin vitro組込みを利用している例もある(Philipsonら,Am.J.Physiol.Cell.Physiol.2001,281,C195;Pollitt and Schultz Angew.Chem.Int.Ed.1998,37,2105;Cookら,Angew.Chem.Int.Ed.1995,34,1629参照)。アミノアシル化tRNAを化学的に合成しなければならないので、少量の蛋白質しか得られず、in vivo試験は制限されている。
直交翻訳系技術の使用によりこれらの技術の固有の問題が解決された。細胞系を使用し、大腸菌の翻訳機構に新規成分を付加することにより非天然アミノ酸を高い翻訳忠実度で蛋白質にin vivoで部位特異的に組込むことができる(詳細については、例えば、Wang and Schultz,Angew.Chem.Int.Ed.2004,44,34;Cropp and Schultz,Trend.Gen.2004,20,625;及びWang and Schultz,Chem.Commun.2002,1参照)。
本実施例は大腸菌の遺伝コードにフォトケージドチロシン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(図1参照)を付加する方法について記載する。チロシンは蛋白質チロシンキナーゼ及びホスファターゼ基質における重要なアミノ酸であり、数個の酵素活性部位の必須残基であり、蛋白質−蛋白質界面に位置することが多い。
(Millerら,Neuron 1998,20,619に記載されているようにL−チロシンから合成した)O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンに365nmで照射すると、図8に模式的に示すように、ベンジルCO結合の開裂と脱ケージドアミノ酸の迅速な形成が誘導される(t1/2=4分,関連情報参照)。
図9に示す実験結果に例証するように、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンのフォトケージングを実験により観察することができる。同図に示すように、ハンドヘルドUVランプ(365nm、距離10mm)を使用して0.2mM水溶液(6ウェルプレートのウェル1個)の照射によりO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンのフォトケージングを試験した。特定時点でアリコートを分取し、LC/MSにより分析した。O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(四角)と脱ケージド種(円)の濃度を図に示す。約4分後に50%脱ケージングが達成された。
O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンを受容するが、20種の標準アミノ酸は基質として受容しない直交シンテターゼを作製するための出発点としてMethanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ(MjYRS)を使用した。MjYRSは内在大腸菌tRNAをチロシンでアミノアシル化しないが、突然変異体チロシンアンバーサプレッサー(mutRNACUA)をアミノアシル化する。O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンを選択的に認識するようにMjYRSの特異性を改変するために、M.jannaschii YRS/tRNATyr−チロシン複合体(Zhangら,Prot.Sci.2005,14,1340;Kobayashiら,Nat.Struct.Biol.2003,10,425)の結晶構造に基づいてチロシン結合ポケットの6個の残基(Tyr32、Leu65、Phe108、Gln109、Asp158及びLeu162)をランダムに突然変異させることにより、YRS突然変異体約10個からなるライブラリーを作製した。これらの6個の残基はチロシンのフェニル環のパラ位とのその近接性に基づいて選択し、そのうち、Tyr32とAsp158はチロシンのヒドロキシル基と水素結合を形成する。これらの残基の突然変異はO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンと他の非天然アミノ酸を特異的に認識するようにシンテターゼの基質結合ポケットを拡大すると予想される。
ポジティブ選択とネガティブ選択に夫々クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)及びバルナーゼレポーターシステムを使用して突然変異体MjYRSライブラリーから活性シンテターゼ変異体をスクリーニングした。交互に5ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択後に、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンの存在下と不在下で96個のクローンの表現型をスクリーニングした。CAT遺伝子のAsp112TAGコドンの抑圧に基づくin vivoアッセイを使用して3個のシンテターゼを更に特性決定した。3個のMjYRS/mutRNACUA対を発現する大腸菌はクロラムフェニコール上で生存し、IC50値はO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(1mM)の存在下と不在下で夫々110mg/Lと10mg/L未満であった。クロラムフェニコール耐性の大きな差は選択したシンテターゼ/tRNA対がアンバーコドンに応答して20種の全天然アミノ酸よりもO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンの挿入に実質的なin vivo特異性をもつこと示唆している。
これらの3個のO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン−tRNAシンテターゼをコードする核酸をシーケンシングし、それらのアミノ酸配列を推定した。3個のONBYシンテターゼクローンの完全アミノ酸配列を表5、配列番号52〜54に示す。このシーケンシングの結果を表3に示す。
突然変異Tyr32→Gly32/Ala32及びAsp158→Glu158、Ala158、又はSer158の結果、Tyr32、Asp158と天然基質チロシンの間の水素結合が失われ、その結合が低下すると考えられる。
3個のONB−MjYRSの忠実度と効率を測定するために、C末端にヘキサヒスチジンタグを付けた突然変異体マッコウクジラミオグロビン遺伝子の4位のアンバーコドンに応答してO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンを組込んだ。組換え蛋白質を発現させるために、シンテターゼ/mutRNACUA対とO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(1mM)の共存下で(アラビノースプロモーターとrrnBターミネーターの制御下の突然変異体マッコウクジラミオグロビン遺伝子と;lppプロモーターとrrnCターミネーターの制御下のチロシルtRNACUAと;テトラサイクリン耐性マーカーをコードする)プラスミドpBAD/JYAMB−4TAGを(突然変異体シンテターゼとカナマイシン耐性遺伝子をコードする)pBKベクターと共にDH10B大腸菌に同時形質転換した。テトラサイクリン(25mg/L)とカナマイシン(30mg/L)を補充したLuria−Bertani培地(5mL)で細胞を増幅させ、リン酸緩衝液で洗浄し、適当な抗生物質、フォトケージドチロシン(1mM)、及びアラビノース(0.002%)を加えた液体グリセロール最少培地(GMML;0.3mMロイシンを補充したグリセロール最少培地)500mLに接種するために使用した。細胞を飽和まで増殖させた後、遠心により回収した。
Ni−NTAアフィニティークロマトグラフィーにより収量約2〜3mg/Lで精製突然変異体ミオグロビン蛋白質が得られ、SDS−PAGE及びGelcode Blue染色により>90%均質であると判定された。収量は同一アンバーコドンを抑圧する野生型MjYRS/mutRNACUA対を使用するミオグロビン発現と同等である。非天然アミノ酸の不在下又は1mMチロシンの存在下ではミオグロビンを検出することができず、全3個のシンテターゼはO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンに対して非常に高い選択性をもつことが判明した(図10参照)。
部位特異的フォトケージド蛋白質の存在を更に確認するために、(高い質量分析特性により)Gly74にアンバーコドンをもつ別のミオグロビン突然変異体をpONB−MjYRS−1、tRNACUA、及びO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(1mM)の存在下で発現させた。O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(1mM)の存在下でシンテターゼpONB−1を使用し、4TAG突然変異体と同一条件下でミオグロビン突然変異体74TAGを発現させ、ニッケルアフィニティーカラムにより精製した。SDS−PAGEゲルのGelcode Blue染色により蛋白質バンドを可視化し、ポリアクリルアミドゲルから切り出した。ゲル切片を1.5mm立方体にスライスし、ほぼ従来の記載通りにトリプシン加水分解した(Shevchenkoら(1996)Anal.Chem.,68:850−858)。Nanospray HPLC(Agilent 1100シリーズ)を取付たFinnigan LCQ Decaイオントラップ質量分析計(Thermo Finnigan)で液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC−MS/MS)によりトリプシンペプチドを分析した。非天然アミノ酸(Jで示す)を含むペプチドHGVTVLTALGJILK(配列番号65)の単一及び二重荷電イオンに対応する前駆体イオンをイオントラップ質量分析計で分離分画した。LC−MS/MS分析は74位にチロシンを示す(トリプシンペプチドHGVTVLTALGYILK(配列番号64))。フラグメントイオン質量は帰属させることができ、チロシン(3)が74位に部位特異的に組込まれたことが確認された(図11A及び11B参照)。Tyr74の検出はMS分析中にO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンの不安定なベンジルエーテルが分解したためである可能性が高い。
ケージドアミノ酸O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンの上記組込みを確認するために、重水素化誘導体を合成し、同一条件下で同一ミオグロビン突然変異体の発現に使用した。次に蛋白質をトリプシン処理し、質量分析により分析した。フラグメントイオン質量の帰属の結果、ミオグロビンの74位にd−チロシンの組込みが判明し、非天然アミノ酸2の組込みが明白に実証された(図12A及び12B参照)。LC MS/MS分析はこの位置に天然アミノ酸の組込みを示さず、進化型シンテターゼの高い忠実度が更に証明された。
更に、lacZをレポーター遺伝子として使用することにより、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンをもつ蛋白質のin vivo光化学的活性化を実証することができる。大腸菌β−ガラクトシダーゼは503位に必須チロシンを示す(Juersら,Biochemistry 2001,40,14781;Pennerら,Biochem.Cell Biol.1999,77,229)。ケージドO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンを組込むために、対応するコドンをアンバー終止コドンTAGに突然変異させた。β−ガラクトシダーゼをチロシン脱ケージングの前後にモニターする。in vivo照射後にβ−ガラクトシダーゼ活性は回復する。
非天然アミノ酸p−シアノフェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してp−シアノフェニルアラニン(図1参照;4−シアノフェニルアラニンとも言う)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
シアノ基は疎水性又は親水性環境で移動させると、そのCN伸縮振動(v)が10のオーダーの波数で周波数シフトするので、優れた局所環境IRプローブである(Getahunら,“Using Nitrile−Derivatized Amino Acids as Infrared Probes of Local Environment,”JACS 125,405−411[2003])。従って、パラ(4位)及びメタ(3位)シアノフェニルアラニンは蛋白質−蛋白質結合、蛋白質コンホメーション、及び疎水性崩壊を含む各種蛋白質特性の研究に有用である。
パラ形とメタ形のシアノフェニルアラニンはペプチド鎖中にあるときには極性環境と疎水性環境の両者に存在することができ、コンホメーションに及ぼすそれらの効果はごく僅かである。従って、どちらも蛋白質又はペプチドにおいてこれらが置換する野生型残基と同一環境に存在すると思われる。更に、これらの化合物のCN伸縮振動は狭く、他の蛋白質吸収とオーバーラップせず、蛋白質の他の振動から分離されていることが多く、溶媒極性の変化に対して極めて感受性である。これらの理由から、どちらもペプチドコンホメーション研究の優れたツールである。
小ペプチドにおける局所環境IRプローブとしての芳香族ニトリル
Getahunら(Getahunら,“Using Nitrile−Derivatized Amino Acids as Infrared Probes of Local Environment,”JACS 125,405−411[2003])はパラ−シアノフェニルアラニンのシアノ伸縮振動が水中ではTHF中よりも10波数大きいことを示した(図13参照)。パラ−シアノフェニルアラニンをその脂質結合部分に組込むように14残基両親媒性ペプチドマストパランx(MPx)を突然変異させると、MPxをPOPC脂質二重層に結合した場合にシアノ伸縮は2229.6cm−1で生じる。水中では、MPx PheCN突然変異体のCN伸縮振動は2235.7cm−1で生じる。つまり、水和ペプチド中のシアノ伸縮は水中の遊離パラ−シアノフェニルアラニンシアノ伸縮と同等であるが、埋設型ペプチド中のPheCNシアノ伸縮はTHF中の遊離PheCNシアノ伸縮と同等である(Tuckerら,“A New Method for Determining the Local Environment and Orientation of Individual Side Chains of Membrane−Binding Peptides,”JACS 126 5078−5079[2004])。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用した。この新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにp−シアノフェニルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してp−シアノフェニルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して送達される。
直交tRNAにp−シアノフェニルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにp−シアノフェニルアラニンを負荷することが可能な1個のシンテターゼクローンが得られた。このシンテターゼクローンをシーケンシングし、アミノ酸配列を決定した(表5、配列番号55及び56参照)。このシンテターゼ突然変異体は野生型シンテターゼ配列に対して以下の置換:Tyr32Leu、Leu65Val、Phe108Trp、Gln109Met、Asp158Gly及びIle159Alaを示す。
非天然アミノ酸m−シアノフェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してm−シアノフェニルアラニン(図1参照;3−シアノフェニルアラニンとも言う)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
シアノ基は疎水性又は親水性環境で移動させると、そのCN伸縮振動(v)が10のオーダーの波数で周波数シフトするので、優れた局所環境IRプローブである(Getahunら,“Using Nitrile−Derivatized Amino Acids as Infrared Probes of Local Environment,”JACS 125,405−411[2003])。従って、パラ(4位)及びメタ(3位)シアノフェニルアラニンは蛋白質−蛋白質結合、蛋白質コンホメーション、及び疎水性崩壊を含む各種蛋白質特性の研究に有用である。
パラ形とメタ形のシアノフェニルアラニンはペプチド鎖中にあるときには極性環境と疎水性環境の両者に存在することができ、コンホメーションに及ぼすそれらの効果はごく僅かである。従って、どちらも蛋白質又はペプチドにおいてこれらが置換する野生型残基と同一環境に存在すると思われる。更に、これらの化合物のCN伸縮振動は狭く、他の蛋白質吸収とオーバーラップせず、蛋白質の他の振動から分離されていることが多く、溶媒極性の変化に対して極めて感受性である。これらの理由から、どちらもペプチドコンホメーション研究の優れたツールである。
蛋白質における芳香族ニトリル
確立されている特異的進化プロトコールに従い、アンバーTAGコドンに応答して高い忠実度でメタ−シアノフェニルアラニンを部位特異的に組込む新規Methanococcus jannaschii tRNATyrCUA−チロシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)対を開発した。この直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにm−シアノフェニルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してm−シアノフェニルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。これらのtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はアンバーナンセンスコドンTAGのみに応答して送達される。
直交tRNAにm−シアノフェニルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの作製は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにm−シアノフェニルアラニンを負荷することが可能な1個のシンテターゼクローンが得られた。このシンテターゼクローンをシーケンシングし、アミノ酸配列を決定した(表5、配列番号57及び58参照)。このシンテターゼ突然変異体は野生型シンテターゼ配列に対して以下の置換:Tyr32His、His70Ser、Asp158Ser、Ile159Ser及びLeu162Proを示す。
夫々の直交tRNA/シンテターゼ対を使用してm−シアノフェニルアラニンとp−シアノフェニルアラニンの存在下と不在下の両者でc末端Hisタグ付きZドメイン蛋白質のTyr7→TAG突然変異体を抑圧しようと試みた。どちらの場合も、非天然アミノ酸の存在下では全長蛋白質が産生されたが、各非天然アミノ酸の不在下ではSDS−PAGEゲルでクーマシーブルー染色により生成物は検出できなかった。
更に、メタ及びパラ−シアノフェニルアラニンの両者を7位に組込んだこの蛋白質のIRスペクトルを得た。野生型zドメインIRスペクトルのバックグラウンドを差し引いた後に、図14A及び14Bに示すスペクトルが得られた。図14Aはパラ−シアノフェニルアラニンが図13に示す極大値の中間に単一吸光度をもつことを示し、残基番号7は蛋白質の表面に位置するが、直接分解しないことを示唆している。図14Bは2236cm−1と2228cm−1にピークをもつ2つのガウス分布の和としてメタ−シアノフェニルアラニンのスペクトルを示す。曲線のR値は非常に良好な曲線フィットである0.99よりも大きく、従って、図14Bのデータはm−シアノフェニルアラニンが2個のコンホメーションをもつことを示唆している。2228cm−1のピークから明らかなように、一方のコンホメーションはシアノ基を蛋白質の疎水性領域に配置する。2236cm−1のピークは他方のコンホメーションがシアノ基を水和環境に配置することを示唆している。
非天然アミノ酸p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してp−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
生体物理学的プローブ、細胞傷害剤、架橋剤、及び他の物質による蛋白質の部位特異的修飾は蛋白質構造及び機能の分析と、診断薬、治療薬、及び高スループットスクリーニングの開発に広く使用されている。蛋白質を選択的に修飾する1つのアプローチはN末端セリン又はスレオニンを酸化して対応するアルデヒドとした後にヒドラジン、アルコキシアミン、又はヒドラジン誘導体と結合する方法である。残念ながら、この方法は蛋白質のN末端位置を修飾するためにしか使用することができないので限定されている。2−アミノ−1−ヒドロキシエチルのアミノアルコール必須官能基を標的蛋白質の側鎖に配置する本発明のアプローチはN末端に限定された選択的蛋白質修飾の問題を解決すると共に、更に蛋白質中のアミノアルコール基の位置を制御できるという利点もある。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用した。この新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにp−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してp−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。このtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はアンバーナンセンスコドンTAGのみに応答して組込まれる。
直交tRNAにp−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにp−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニンを負荷することが可能な1個のシンテターゼクローンが得られた。このシンテターゼクローンをシーケンシングし、アミノ酸配列を決定した(表5、配列番号59参照)。このシンテターゼ突然変異体は野生型M.jannaschiiシンテターゼ配列に対して以下の置換を示す。
非天然アミノ酸p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
半合成蛋白質の作製に有用な1つの方法は全く保護されていない2個のペプチドフラグメントを室温で温和な生理的条件下にアミド結合により結合することができる天然化学ライゲーションである(Nilssonら,Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.2005,34,91−118;Dawsonら,Science 1994,266,776−779)。一方又は両方の反応パートナーを組換え手段により作製した発現蛋白質ライゲーションと呼ぶこの方法の変法は100残基を上回る蛋白質の合成に有用である(Muir,Annu.Rev.Biochem 2003,72,249−289;Davidら,Eur.J.Biochem.2004,271,663−677)。実際に、どちらの技術もC末端α−チオエステルの存在が必要であるため、これらの方法はペプチドフラグメントのC末端の修飾に限定されている。細菌で発現されたペプチド/蛋白質の任意残基に反応性チオエステル基を配置できるならば、これらの技術の範囲は著しく拡大し、例えば、環状又は分岐構造の合成や、生体物理学的プローブ、ポリエチレングリコール又は各種タグによる側鎖の選択的修飾が可能になると思われる。チオエステル含有側鎖をもつ蛋白質の作製方法は、チオエステル含有側鎖がin vitro及び場合によりin vivoでの後期化学ライゲーション反応に関与し得る用途に利用される(Camarero and Muir,J.Am.Chem.Soc.1999,121,5597−5598;Camareroら,Bioorg Med Chem.2001,9,2479−2484;Scottら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999,96,13638−13643;Evansら,J.Biol.Chem.2000,275,9091−9094;Yeoら,Chem.Commun.2003,2870−2871)。
p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの合成
市販のα−ブロモ−p−トルイル酸(1a)とN−(ジフェニルメチレン)グリシンtert−ブチルエステル(1c)から出発して4段階(図15参照)でp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン(構造1;4−(エチルチオカルボニル)−L−フェニルアラニンとも言う)を合成した。これらの段階を以下に要約する。
4−(ブロモメチル)ベンゾチオ酸S−エチル(構造1b)の合成:1a(2.15g,10.0mmol)のTHF(50ml)溶液に塩化チオニル(2ml,28mmol)とDMF(50μl)を順次加え、反応混合物を5時間室温で撹拌した。白色固体が出現するまで有機溶媒を減圧除去した後、白色固体をTHF(50ml)に溶かし、溶液を0℃まで冷却した。エタンチオール(0.78ml,10.0mmol)とトリエチルアミン(2ml,14mmol)のTHF(10ml)溶液を30分間かけて滴下した。反応混合物を更に4時間撹拌し、溶媒を除去した。水(100ml)とエーテル(200ml)を加えた。有機相をHO(2×50mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧除去した。粗生成物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中8%酢酸エチル)により精製すると、1b(2.18g,78%)が無色油状物として得られた。H NMR(400MHz,CDCl)δ7.94(d,J=8.0Hz,2H),7.46(d,J=8.0Hz,2H),4.50(s,2H),3.07(q,J=7.6,15.2Hz,2H),1.35(t,J=9.2Hz,3H)。精密質量m/z C1011BrOSの計算値258.0/260.0,実測値(LC/MS)259.1/260.1。
2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(4−(エチルチオカルボニル)フェニル)プロパン酸tert−ブチル(構造1d)の合成:1b(0.455g,1.76mmol)、1c(0.47g,1.60mmol)、18−クラウン−6(0.42g,1.59mmol)及び無水KCO(0.344g,2.50mmol)の無水CHCN(10ml)溶液を24時間室温で撹拌した。有機溶媒を減圧除去した。水(100ml)とCHCl(200ml)を加えた。有機相をHO(2×50mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、減圧除去した。粗生成物を精製せずに次段階で直接使用した。精密質量m/z C2931NOSの計算値473.2,実測値(LC/MS)474.3。
(4−(エチルチオカルボニル))フェニルアラニン(1)の合成:前段階からの1d(0.94g,2.0mmol)のトリフルオロ酢酸(8ml)及びCHCl(2ml)溶液を1時間室温で撹拌した。有機溶媒を完全に減圧除去した後、濃HCl溶液(0.8ml)とMeOH(10ml)を加え、得られた溶液を1時間室温で撹拌した後、全溶媒を除去し、無水アセトン(10ml)を加えた。溶液を濾過し、回収した固体に無水MeOH(2ml)を加えて研和した。濾過後、メタノール濾液を減圧すると、1が白色固体として得られた(>0.55g,95%)。H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ7.85(d,J=8.0Hz,2H),7.44(d,J=8.0Hz,2H),4.21(t,J=6.4Hz,1H),3.06(q,J=14.8,17.2Hz,2H),3.00(s,2H),1.26(t,J=7.2Hz,3H)。精密質量m/z C1215NOSの計算値253.1,実測値(LC/MS)254.2。
p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン組込みの遺伝的プログラミング
p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを大腸菌で遺伝的にコードさせるためには、このアミノ酸に特異的な直交アミノアシルtRNAシンテターゼ/tRNA対を作製することが必要であった。M.jannaschii TyrRS−tRNAL−チロシン複合体(Kobayashiら,Nat.Struct.Biol.2003,10,425−432)の結晶構造に基づき、M.jannaschii TyrRSのチロシン結合部位の6個の残基(Tyr32,Leu65,Phe108,Gln109,Asp158及びLeu162)をランダムに突然変異させた。夫々p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの存在下と不在下でTyrRS突然変異体10個のライブラリーに(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼのアンバーコドンの抑圧に基づく)ポジティブ選択3ラウンドと(バルナーゼ遺伝子の3個のアンバーコドンの抑圧に基づく)ネガティブ選択2ラウンドを交互に実施すると、クロラムフェニコール中の生存がp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンに依存する多数のクローンが出現した。これらの突然変異体のうちの1個はp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの存在下で120μg mL−1クロラムフェニコールと、その不在下で10μg mL−1クロラムフェニコール中で細胞増殖に対応することが判明した。
このクローンのシーケンシングの結果、以下の突然変異が判明した:Tyr32Ala、Leu65Phe、Phe108Trp、Gln109Ser、Asp158Ser及びLeu162His(表5、配列番号60参照)。Tyr32→Ala32の突然変異は結合チロシンのフェノールヒドロキシル基とTyr32の間の水素結合を除去すると思われる。
観察される表現型がmutRNACUA−mutTyrRS対によるp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの部位特異的組込みに起因することを確認するために、C末端Hisタグに融合したZドメイン蛋白質(Nilssonら,Protein Eng.1987,1,107−113)をコードする遺伝子の7番目のコドン(Tyr)をアンバーコドンで置換した。1mM p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの存在下又は不在下で蛋白質を発現させ、Ni−NTAクロマトグラフィーにより精製した。SDS−PAGEによる分析の結果、突然変異体Zドメイン蛋白質の発現はp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの存在に完全に依存することが判明した。突然変異体蛋白質は野生型Zドメイン蛋白質(1%グリセロール、0.3mMロイシン及び1mM p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンと適当な抗生物質を添加した最少培地中〜8mg/L)に対して約10〜30%の収率で発現された。
p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの部位特異的組込みはマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析(MALDI−TOF MS)により更に確証された。無傷のTyr→p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン蛋白質(MTheoretical=8002Da,図16参照)で8006Daの平均質量実験値が観察されたことに加え、最初のメチオニン部分をもたないアセチル化形態の突然変異体蛋白質(MTheoretical=7913Daに対してMExperimental=7913Da)に対応する弱いピークと、最初のメチオニン部分をもたない突然変異体蛋白質(MTheoretical=7871Daに対してMExperimental=7871Da)に対応する主ピークも検出された(図16)。7位にチオエステル部分ではなく遊離カルボン酸基を含むZドメイン蛋白質に対応する7828Daの別の主ピークも存在していた(プロトン化形態の質量計算値7827Da)。酸とチオエステルを含有する突然変異体蛋白質の両者が質量検出条件下で同等のイオン化効率をもつと仮定すると、それらの対応する質量ピーク面積の積分は約40%のチオエステル含有突然変異体蛋白質が加水分解されることを示唆している。突然変異体シンテターゼがその加水分解形態の非天然アミノ酸p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンをin vivoで組込まず、p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンがin vitroとin vivoの両者で安定しているらしいという事実は、チオエステルから酸への加水分解がチオエステル特異的突然変異体シンテターゼによるZドメイン蛋白質へのその組込み後に生じることを示唆している。
突然変異体蛋白質のチオエステル側鎖を選択的に修飾できるか否かを調べるために、100mMジチオスレイトール(DTT)と2M塩化グアニジニウムを加えたリン酸緩衝液(pH8.0)中、20〜60μg/ml粗チオエステル含有突然変異体蛋白質と10mMシステインエチルエステルを使用してin vitro化学ライゲーションを実施した。得られた修飾蛋白質を次に精製し、MALDI−TOF MSにより分析した。システイン1分子で修飾したチオエステル含有蛋白質に対応する7956Daと7998Daの平均質量実験値が得られた(夫々最初のメチオニン部分をもたない蛋白質と最初のメチオニン部分をもたないアセチル化形態の蛋白質のMTheoretical=7958Da及び8000Da)(図17)。標識効率はそれらの質量ピーク面積の積分により85%を上回ると定量的に推定することができる。
図16に示すように、Zドメイン蛋白質は主に最初のメチオニン残基なしに発現される。この形態では、未修飾チオエステル含有突然変異体蛋白質は分子量7872であり、アセチル化形態の酸含有蛋白質(MTheoretical=7869Da)とオーバーラップしていると思われる。従って、標識効率を計算する際には、7867Daのピーク面積を未修飾チオエステル含有蛋白質の上限値としたため、85%を上回る標識効率推定値が得られた。
7825Daと7867Da(MTheoretical=7827Da及び7869Da)のピークはシステインエチルエステルに対して非反応性の7位カルボン酸基を含むZドメイン蛋白質の存在を示す。予想通り、WT Zドメイン蛋白質に標識物は検出されず、標識反応はシステイン分子とチオエステル基の間のみで生じ、WT蛋白質の既存官能基間には生じないことが判明した。他方、チオエステル含有突然変異体蛋白質ではチオエステル基と5個のリジン残基のε−アミノ基に関する分子内側鎖環化も自己二量化も観察されなかった。従って、これらのデータはチオエステル基が確実で選択的なin vitro蛋白質修飾に優れた選択性と反応性をもつことを実証するものである。
システインエチルエステルとチオエステルを含有するZドメイン蛋白質の化学ライゲーション
突然変異体tRNAシンテターゼをコードするプラスミドと、7位アンバーコドンとCOOH末端His−6タグをもつZドメイン遺伝子をコードする発現ベクターpLEIZを導入した大腸菌DH10B細胞(60ml)を37℃で増殖させ、1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えることによりOD600=0.5で4時間誘導し、ペレット化した。ペレット化した細胞に緩衝液(6M塩化グアニジニウム、100mMリン酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウムpH=8.0)1mlを加えた。溶液を1時間室温で振盪し、3分間音波処理し、遠心して細胞破片を除去した。透明上清にリン酸緩衝液(100mMリン酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウム、0.01Mシステインエチルエステル、pH=8.0)2mlと、ジチオスレイトール溶液(2M)150μlと、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(MESNA)60mgを加えた。溶液混合物を12時間室温で振盪した。修飾蛋白質を含有する溶液を交換し、緩衝液(8M尿素、100mMリン酸ナトリウム、10mM Trizma,pH8.0)500μlに濃縮した。修飾蛋白質を製造業者のプロトコール(Qiagen,Chatsworth,CA)に従ってNi2+アフィニティークロマトグラフィーにより精製し、蒸留水で透析し、MALDI−TOF MSにより分析した。
結論
結論として、本発明ではM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから誘導される新規直交シンテターゼを提供した。M.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用すると、これらの試薬はポリペプチド鎖への非天然アミノ酸p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンのin vivo組込みを可能にする。本実施例は規定部位に側鎖チオエステル基を含む蛋白質の細菌による生産のための生合成プロトコールを例証する。従って、アミノ酸の蛋白質組込み後にp−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンアミノ酸残基上の反応基に多様なリガンドを高度に選択的で効率的に化学ライゲーションすることが可能になる。
ジケトン非天然アミノ酸p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してジケトン非天然アミノ酸p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
単純なモノケトン又はβ−ジケトン官能基がブチルアミンとイミンを形成する能力と、こうして形成されたイミンの各種pHのリン酸緩衝液中における安定性に関する比較試験によると、pH6.5〜10.5でβ−ジケトン部分から形成されるエノールイミンが生成し易いことと、pH3.9までの酸加水分解に対してその安定性が高いことが明らかである。他方、同一条件下でpH10.5までモノケトン基は主に遊離形態のままであり、イミン形成は検出できない。従って、β−ジケトン部分をその側鎖にもつ非天然アミノ酸を合成し、この非天然アミノ酸を組込むことが可能な直交tRNA−シンテターゼ対の同定を行った。本発明はこのジケトン含有アミノ酸を高い翻訳効率及び忠実度で蛋白質に特異的にin vivoで組込む有効な進化型突然変異体シンテターゼを提供する。以下に詳述するように、Zドメイン蛋白質に遺伝的にコードさせたこのジケトン基に次にビオチンヒドロキシルアミン誘導体が選択的に結合し、ジケトン部分は各種外部性質を標的蛋白質に導入するために標準生化学成分に対して直交性の反応性をもつ強力な化学基として機能し得ることを示唆された。
大腸菌又は酵母の翻訳機構に新規成分を付加することにより、直交翻訳成分を使用して非カノニカルアミノ酸を高い翻訳忠実度及び効率で蛋白質に部位特異的にin vitro又はin vivoで組込むことができることは従来実証されている。このアプローチはケトン含有アミノ酸を蛋白質に遺伝的に組込むために使用されており、その後、ヒドラゾン及びオキシム結合の形成により各種生物学的及び/又は物理的性質をもつ非ペプチド分子(例えば、ポリエチレングリコール、ビオチン、糖ミメティクス等)と結合することができる。これらのヒドラゾン及びオキシム結合は生理的条件下で安定であるが、20種の標準アミノ酸に存在しない2個の官能基の共存を必要とするという欠点がある。リジンのε−アミノ基又はα−アミノ基と安定な付加物を直接形成するチオエステル又はβ−ジケトン等の反応性官能基があったならば、分子間又は分子内蛋白質架橋を形成することができよう。このために、本実施例では大腸菌におけるジケトン含有アミノ酸2の遺伝的コーディングを報告する。図21参照。
アリールジケトン2と脂肪族アミンの結合物は6員分子内水素結合により安定化された対応するエナミンに互変異性化することが可能なイミン付加物3(図21参照)を形成できるのではないかと考えた。その結果、生理的pHで安定な付加物が得られると思われる。この根拠を実験により検証するために、まず6.5〜10.5の各種pHの100mMリン酸緩衝液中でブチルアミンとアリールモノケトン1a及びアリールジケトン2の間の一連のイミン形成を含む単純なモデルシステムの相対反応性を測定した。液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)を使用して各種付加物(1b及び3a−3d)をアッセイした。表4参照。同表は各種pHのPBS緩衝液(100mM K(PO,500mM NaCl)中でブチルアミン(10mM)とアリールモノケトン1(1mM)又は2(1mM)のイミン形成の結果を示す。反応は室温で1週間実施した。

この分析の結果、10.5までのpHでは1aほぼ遊離形態のままであり、1bの形成は検出できなかった。他方、pH7.4で2の50%が3に変換されており、この百分率はpH10.5では75%という高い値まで増加する。
即ち、ケト形態2bとエノール−イミン形態3bは水性媒体中で他の対応する互変異性体よりも多いという従来の知見(Iglesias,Curr.Org.Chem.2004,8,1−24;Patteuxら,Org.Lett.2003,5,3061−3063;Aly,Tetrahedron 2003,50,1739−1747;Lopezら,Tetrahedron:Asymmetry 1998,9,3741−3744;Mazzoneら,S.Eur.J.Med.Chem.1986,21,277−284;及びKim and Ryu,Bull.Korean.Chem.Soc.1992,13,184−187)と総合すると、水素結合により誘導された安定化は1aと比較した場合に3(主に3b)の生成を有意に助長することが確認される。
安定化された分子内H結合が単純イミン1bよりも3の加水分解安定性を増加することを更に確証するために、1.9〜9.4のpHで1bと3の両者にLC/MS分析も実施した。図1に実証するように、3(主に3b)は7.4以上の生理的pHでほぼ無傷のままである。pHを3.9まで下げると、室温で4日後に僅かに〜40%の3から2への変換が生じる。より酸性度の高い処理を3に実施すると、アミノ基は完全に除去された(図18)。予想されたことではあるが、全く対照的に、1bはpH10.5でも一晩撹拌後に容易に加水分解される(データは示さず)。
非天然アミノ酸合成
これらの知見に力を得て、β−ジケトン部分をその側鎖に含む非天然アミノ酸p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンを修飾するための化学を確立したいと思った。本発明の合成ストラテジー(図19参照)はまず主鎖アミノ基と酸基をBoc化学とエステル化により夫々保護することにより入手し易いp−アセチル−(±)−L−フェニルアラニンから出発する。第2のカルボニル基の付加は混合溶媒(2:3[v/v]酢酸メチル:THF)中、カリウムtert−ブトキシドを使用する反応条件下で実施した。Boc基をTFAで除去した後にアルカリ加水分解すると、所望p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンが総収率40%で得られた。
直交翻訳成分の同定
確立プロトコールを使用してp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンを蛋白質にin vivo組込むための新規直交アミノアシルtRNAシンテターゼ/tRNA対を作製した。M.jannaschii TyrRS−tRNA(Tyr)L−チロシン複合体(Kobayashiら,Nat.Struct.Biol.2003,10,425−432)の結晶構造に基づき、M.jannaschii TyrRSのチロシン結合部位の周囲の6個の残基(Tyr32,Leu65,Phe108,Gln109,Asp158及びLeu162)をランダムに突然変異させた。作製した突然変異体約10個からなるライブラリーに本発明者らの公開プロトコールに従ってポジティブ選択3ラウンドとネガティブ選択2ラウンドを順次実施した後に、クロラムフェニコール中の生存がp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの存在に依存する多数のクローンが出現した。CAT遺伝子のAsp112TAGコドンの抑圧に基づくin vivoアッセイを使用することにより2個のTyrRS突然変異体を同定した。これらの2個の突然変異体はp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの存在下で120μg mL−1クロラムフェニコールと、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの不在下で10μg mL−1クロラムフェニコール中で細胞増殖が可能である。この結果は、2個の進化型シンテターゼがいずれも天然アミノ酸よりもp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンに対して高い活性をもつことを示唆している。これらの突然変異体のDNAをシーケンシングした処、同一配列に収束することが判明した(表5、配列番号61参照)。
結合チロシンのフェノールヒドロキシ基とTyr32及びAsp158の間の水素結合はいずれもGlyへの突然変異により破壊される。Leu65をVal65に変換すると、恐らくβ−ジケトンの延長主鎖を受容するためにより大きなスペースが得られる。従って、Phe108Thr及びLeu162Serの突然変異とGln109の保存はβ−ジケトン部分のカルボニル酸素とのH結合にそれらが関与していることを示すものであると思われる。これらのシンテターゼクローンの配列を以下に要約する。
観察される表現型がmutRNACUA Tyr−mutTyrRS対によるp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの部位特異的組込みに起因することを確認するために、C末端Hisタグに融合したZドメイン蛋白質(Nilssonら,Protein Eng.1987,1,107−113)をコードする遺伝子の7位のチロシンのコドンの代わりにアンバーコドンを導入した。1mM p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの存在下又は不在下で蛋白質を発現させ、Ni−NTAクロマトグラフィーにより精製した。SDS−PAGEによる分析の結果、非天然アミノ酸に依存的な蛋白質発現が判明した(図20)。ゲルに負荷された突然変異体蛋白質の容量はジケトン含有非天然アミノ酸をチロシン残基で置換した野生型(WT)蛋白質の3倍であり、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの組込み効率はチロシンに比較して約30%であることが判明した。
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析(MALDI−TOF MS)によりp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの明白な組込みが更に確証された。無傷の蛋白質で7991Da(MTheoretical=7997Da)の平均質量実験値が観察されたことに加え、最初のメチオニン部分をもたない蛋白質(MExperimental=7867Da,MTheoretical=7866Da)に対応する主ピークも検出された。シグナル対ノイズ比は>400であり、進化型mutRNACUA Tyr−mutTyrRS対を使用すると、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの組込みの忠実度は99%よりも良好であることが示唆された。
発現されたジケトン含有蛋白質をビオチンヒドロキシルアミン誘導体(MW=331.39,Molecular Probesから購入)でin vitro標識することにより、蛋白質を外部性質で部位特異的に修飾するための化学基としてジケトン部分を使用する可能性を試験した。精製突然変異体及びWT Zドメイン蛋白質をpH4.0のリン酸緩衝液中、2mMビオチンヒドロキシルアミンで25℃にて12時間処理した。水で透析して過剰のビオチンヒドロキシルアミンを除去した後に、蛋白質をMALDI−TOF MSにより分析した。8315Da(MTheoretical=8310Da,無傷の突然変異体蛋白質をビオチンで標識したもの)、8182Da(MTheoretical=8179Da,最初のメチオニン残基をもたない突然変異体蛋白質をビオチンて標識したもの)、及び8225Da(MTheoretical=8221Da,最初のメチオニン残基をもたないそのアセチル化形態の突然変異体蛋白質をビオチンで標識したもの)の平均質量実験値が得られ、ビオチンヒドロキシルアミンは突然変異体Zドメイン蛋白質と1:1のモル比で反応したことが確認された。予想通り、WT Zドメイン蛋白質に標識物は検出されず、標識反応はヒドロキシルアミンとジケトン基の間のみで生じ、WT蛋白質の既存官能基間には生じないことが判明した。質量スペクトルに未標識ジケトン含有突然変異体蛋白質は観察されなかったことと総合すると、これらのデータはジケトン基が選択的なin vitro蛋白質修飾に優れた選択性と高い反応性をもつことを実証するものである。
本実施例は進化型高特異性直交翻訳系を使用するβ−ジケトン基のin vivo蛋白質組込みがその天然対応部分と適合可能な高い忠実度と効率で部位特異的に行われることを実証するものである。3は広いpH範囲で安定性が高く且つ生成し易いため、特にp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンを有利な疎水性環境に配置する場合には、β−ジケトン部分とリジン残基のアミノ基の間のシッフ塩基の形成により蛋白質−蛋白質相互作用の調節が行われる可能性が非常に高い。
非天然アミノ酸p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用してp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。この非天然アミノ酸を蛋白質に組込むと、翻訳後修飾のターゲットとして利用でき、更に、非天然アミノ酸上の化学反応性部分が細胞内酵素の加水分解活性に対して耐性であるので有利である。
M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用した。この新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAにp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答してp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。このtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はアンバーナンセンスコドンTAGのみに応答して組込まれる。
直交tRNAにp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAにp−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニンを負荷することが可能な1個のシンテターゼクローンが得られた。このシンテターゼクローンをシーケンシングし、アミノ酸配列を決定した(表5、配列番号62参照)。このシンテターゼ突然変異体は野生型M.janaschiiシンテターゼ配列に対して以下の置換を示す。
クマリンを含む蛍光非天然アミノ酸を大腸菌の蛋白質にin vivo組込むための直交翻訳成分
本実施例は大腸菌宿主細胞翻訳機構を使用して7−アミノ−クマリンアラニンと7−ヒドロキシ−クマリンアラニン(図1参照)を蛋白質に生合成的に組込むための組成物と方法について記載する。M.jannaschiiに由来し、大腸菌宿主細胞系で機能するこの非天然アミノ酸を組込むための新規直交シンテターゼ/tRNA対を単離した。
蛍光は分子生物学で最も高感度で有用な技術の1つである。緑色蛍光蛋白質(GFP)の発見により細胞生物学は劇的に進歩し、直接可視化により生きた細胞における蛋白質発現、局在、ダイナミクス及び相互作用の試験が可能になった(Lippincott−Schwartzら,Nat.Rev.Mol.Cell Bio.(2001)2:444−456)。しかし、蛋白質相互作用及びダイナミクスはGFPの寸法により原子レベルの分解能でピンポイントすることができない。更に、GFPは適切なシグナルを得るために多数の転写産物が必要であり、そのフォールディングとフルオロフォア成熟にラグタイムを要した。
完全蛍光蛋白質部分に対し、蛍光アミノ酸の組込みはGFP蛍光システムの問題の一部を解消すると考えられる。蛍光アミノ酸の部位特異的組込みは宿主蛋白質に最小限の撹乱しか導入しないので、著しく高精度で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を測定することが可能になる(Truong and Ikura,Curr.Opin.Struct.Bio.2001,11:573−578)。更に、蛍光アミノ酸を使用すると、各アミノ酸位置の局所環境を探索し、蛋白質中の蛍光アミノ酸の位置を変えることにより他の細胞成分との相互作用を媒介する残基をピンポイントできる。通常、蛋白質1分子は2個以上のトリプトファン残基を含み、蛍光プローブによる蛋白質の特異的化学標識は極めて困難であるため、これは特に単分子システム(Lipmanら,Science 2003,301:1233−1235)における蛋白質フォールディングのin vitro試験(Lakowicz,J.R.Principles of Fluorescence Spectroscopy Ed.2;Kluwer Academic/Plenum Publishers:New York,1999)にも非常に有用であると思われる。
図1に示すクマリンアラニンは化学的に合成されている。M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから新規直交シンテターゼを誘導し、従来記載されているM.jannaschiiサプレッサーtRNACUAと併用してこれらのクマリンアミノ酸を組込んだ。この新規直交対は標準(即ち天然)アミノ酸に対して親和性がないか又は非常に低い。誘導した直交tRNAシンテターゼはアンバーサプレッサーtRNACUAに7−アミノ−クマリンアラニンと7−ヒドロキシ−クマリンアラニンを選択的に負荷する。アミノアシル化されたサプレッサーtRNA(即ち「負荷されたtRNA」)は転写産物中で遭遇したTAGアンバー終止コドン(セレクターコドン)に応答して7−アミノ−クマリンアラニンと7−ヒドロキシ−クマリンアラニンを組込むために内在大腸菌翻訳機構により基質として使用される。このtRNA/シンテターゼ対の直交性により、tRNAもシンテターゼも内在大腸菌tRNA又はシンテターゼと交差反応せず、非天然アミノ酸はTAGのみに応答して組込まれる。
直交tRNAに7−アミノ−クマリンアラニン又は7−ヒドロキシ−クマリンアラニンを特異的に負荷することが可能な直交シンテターゼの探索を実施した。この探索は従来記載されているプロトコールを使用した。野生型M.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼの突然変異誘発によりM.jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼ突然変異体のライブラリーを作製し、突然変異誘発は他のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子の結晶構造に基づいて6個の予想活性部位残基をランダムに突然変異させることにより実施した。ライブラリーは約10種のダシバーシティをもつ。
突然変異誘発後、突然変異体シンテターゼライブラリーを複数ラウンドのポジティブ選択とネガティブ選択に付した。この選択の結果、O−tRNAに7−アミノ−クマリンアラニン又は7−ヒドロキシ−クマリンアラニンを負荷することが可能な1個のシンテターゼクローンが得られた。このシンテターゼクローンをシーケンシングし、アミノ酸配列を決定した(表5、配列番号63参照)。このシンテターゼ突然変異体は野生型M.janaschiiチロシルtRNAシンテターゼ配列に対して以下の置換:Y32R、L65A、H70M、D158N及びL162Tを示す。
単離シンテターゼ種を含む直交翻訳系でセレクターコドンに応答してクマリンアラニンアミノ酸が蛋白質に選択的に組込まれることを実証する付加データも取得されている。このデータとしては、(a)発現試験においてTAGセレクターコドンを4位にもつミオグロビン遺伝子は非天然アミノ酸の存在下でしか発現されず;(b)非天然アミノ酸の存在下で合成された突然変異体ミオグロビンはSDS−PAGEゲル分析で蛍光バンドとして出現し;(c)単離突然変異体シンテターゼは結晶化され、非天然アミノ酸の存在下の突然変異体シンテターゼの共結晶構造は蛍光発光することが挙げられる。
非天然アミノ酸を組込むためのO−RS及びO−tRNA種
本発明では各種O−tRNA種を使用することができ、本発明は任意特定O−tRNAの使用に限定されない。例えば、本発明では配列番号1又は配列番号2のヌクレオチド配列を含むO−tRNA種を利用する。本明細書の教示に従い、本発明で使用する付加O−tRNA種を作製することができる。
同様に、非天然アミノ酸(例えば、p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニン、p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニン、1,5−ダンシル−アラニン、7−アミノ−クマリンアラニン、7−ヒドロキシ−クマリンアラニン、o−ニトロベンジル−セリン、O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン、p−カルボキシメチル−L−フェニルアラニン、p−シアノ−L−フェニルアラニン、m−シアノ−L−フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3−アミノ−L−チロシン、ビピリジルアラニン、p−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−L−フェニルアラニン;p−イソプロピルチオカルボニル−L−フェニルアラニン;3−ニトロ−L−チロシン及びp−ニトロ−L−フェニルアラニンから選択される非天然アミノ酸)を組込むためのプロトコールで使用するO−RS種も記載する(表5参照)。本発明のO−RSポリペプチドとしては、表5、配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57及び59−63に記載するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
O−RS又はその部分をコードするポリヌクレオチドの例も記載する。例えば、本発明のO−RS分子をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、51、56、58が挙げられる。しかし、本発明のポリヌクレオチドは表5に記載するポリヌクレオチドに限定するものではない。実際に、本発明のO−RSアミノ酸配列(例えば、配列番号7−10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、50、52−55、57及び59−63)をコードする任意ポリヌクレオチドも本発明の特徴である。
当然のことながら、本明細書に記載する実施例及び態様は例証の目的に過ぎず、これらの記載に鑑みて種々の変形又は変更が当業者に示唆され、このような変形又は変更も本願の精神及び範囲と特許請求の範囲に含むものとする。
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献はその開示内容全体を全目的で参考資料として組込み、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を全目的で参考資料として組込むと個々に記載しているものとして扱う。
ヌクレオチド及びアミノ酸配列
本実施例は夫々各種ポリヌクレオチド及びポリペプチドのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を記載する。下表5に記載する配列は例示に過ぎず、本発明を表5に記載する配列に限定するものではない。



















図1Aは各種非天然アミノ酸の化学構造を示す。 図1Aは各種非天然アミノ酸の化学構造を示す。 図1Aは各種非天然アミノ酸の化学構造を示す。 p−ニトロ−L−フェニルアラニンの存在下(レーン2)又は不在下(レーン3)で蓄積したZドメイン蛋白質の染色SDS−PAGE分析の写真である。レーン1は分子量マーカーを含む。 p−ニトロ−L−フェニルアラニンを組込んだZドメイン蛋白質のMALDI−TOF分析を示す。予想質量:7958,7826(最初のメチオニンを除く);実測値:7958,7828。 図4Aは22Trp GCN4p1突然変異体(実線)と、22Trp及び22p−ニトロ−L−フェニルアラニンGCN4p1突然変異体の混合物(破線)の蛍光スペクトルを示す。図4Bは55Trp GCN4p1突然変異体(実線)と、55Trp及び22p−ニトロ−L−フェニルアラニンGCN4p1突然変異体の混合物(破線)の蛍光スペクトルを示す。 図5Aは1,5−ダンシルアラニンの化学構造を示す。図5Bは1,5−ダンシルアラニン−AMP−アミドを結合したThermus thermophilusロイシルtRNAシンテターゼ(LRS)活性部位のモデルを示す。ランダム突然変異領域を構成する突然変異体LRSクローンB8の活性部位残基を棒線として示す。ナンバリングは大腸菌LRSに対応する。 図6A及び6Bは突然変異体B8ロイシルtRNAシンテターゼ編集部位の再設計ストラテジーを示す。図6Aは荷電tRNA 3’末端を模倣する2’−(L−ノルバリル)−アミノ−2’−デオキシアデノシンとの複合体におけるThermus thermophilusロイシルtRNAシンテターゼの編集部位の結晶構造を示す。図6BはロイシルtRNAシンテターゼクローンB8と2種の突然変異体V338A及びT252Aを使用して33位にダンシルアラニンをもつNi−NTA精製hSODに実施したSDS−PAGE分析を示す。上段ゲルはクーマシー染色の写真である。下段ゲルは励起波長302nm及び発光検出波長520nmの蛍光画像である。L=分子量ラダー;UAA=非天然アミノ酸。 図7A及び7BはエラープローンPCRと選択により作製した大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼクローンG2−6の高いアンバー抑圧効率を示す。図7AはThermus thermophilusロイシルtRNAシンテターゼの結晶構造を示す(Cusackら,EMBO J.,19(10):2351−2361[2000])。G2−6クローンクローンに存在する合成ドメイン、編集ドメイン、相同大腸菌シンテターゼでランダム突然変異させたアミノ酸、及びエラープローンPCRにより置換したアミノ酸を全て示す。図7Bはo−ニトロベンジルシステインを組込むように設計した大腸菌ロイシルtRNA突然変異体シンテターゼクローン3H11と、o−ニトロベンジルセリンによる効率的抑圧のために進化させた突然変異体大腸菌ロイシルtRNAシンテターゼクローンG2−6を使用して33位にo−ニトロベンジルセリンをもつ発現したhSODに実施したクーマシー染色SDS−PAGE分析を示す。L=分子量ラダー;UAA=非天然アミノ酸(oNBS)。 365nm照射によるケージドチロシン分子O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンのフォトデケージング(光活性化)の結果として、ベンジルCO−結合の開裂と、脱ケージドアミノ酸の迅速な形成が生じる反応を模式的に示す。 実験により観察されたケージドチロシン分子O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンのフォトデケージング(光活性化)を示す濃度曲線アッセイを示す。O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンのフォトデケージングはハンドヘルドUVランプ(365nm、距離10mm)を使用して0.2mMアミノ酸水溶液の照射により実施した。特定時点でアリコートを分取し、LC/MSにより分析した。O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシン(四角)と対応する脱ケージド種(円)の濃度を示す。 3種の異なる突然変異体シンテターゼを使用してO−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンの存在下又は不在下で発現させたミオグロビン74TAGのGelcode Blue染色SDS−PAGEを示す。 図11A及び11Bは74位にチロシンを示す74TAG突然変異体ミオグロビン蛋白質(トリプシンペプチドHGVTVLTALGYILK(配列番号64))のLC−MS/MS分析を示す。 図12A及び12Bは重水素化O−(2−ニトロベンジル)−L−チロシンを使用する以外は図11A及び11Bに示したと同様のLC−MS/MS分析を示し、Jは重水素化アミノ酸を表す(トリプシンペプチドHGVTVLTALGJILK(配列番号65))。 THFと水中で取得したパラ−シアノフェニルアラニンIRスペクトルの重ねグラフである。 図14Aはガウス曲線(破線)にフィットさせたパラ−シアノフェニルアラニン(実線)のバックグラウンドを差し引いたスペクトルを示す。図14Bは2つのガウス曲線(破線)にフィットさせたメタ−シアノフェニルアラニン(実線)のバックグラウンドを差し引いたスペクトルを示す。 p−エチルチオカルボニル−L−フェニルアラニンの合成を示す模式図である。 7位に非天然アミノ酸を含む突然変異体Zドメイン蛋白質のMALDI−TOF質量スペクトル分析結果を示す。実験により得られた全質量データはチオエステル基又はカルボン酸基を含む無傷の蛋白質の質量計算値と非常によく一致している。 化学ライゲーションによる蛋白質標識の模式図である。 図18A−18Dは340nmでモニターしたLC/MS溶出プロフィル(最初のピーク:3;2番目のピーク:2)を示す。図18AはMeOH中で3と2の1:1混合物を使用したプロフィルを示す。図18BはPBS(pH=7.4,反応時間:1週間)中で3を使用したプロフィルを示す。図18CはPBS(pH=3.9,反応時間:4日間)中で3を使用したプロフィルを示す。図18Dは希HSO溶液(pH=1.9,反応時間:12時間)中で3を使用したプロフィルを示す。全反応は室温で一定撹拌下に実施した。 ジケトン含有非天然アミノ酸p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの合成を示す模式図である。 p−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンの存在下又は不在下で発現させたZドメイン蛋白質のGelcode Blue染色SDS−PAGE分析を示す。分析はp−(3−オキソブタノイル)−L−フェニルアラニンを含む突然変異体Zドメイン蛋白質のフルオレセインヒドラジドによるin vitro標識を示す。wt=野生型。 ジケトン含有部分の各種付加物の合成を示すスキームである。

Claims (38)

  1. (a)p−ニトロ−L−フェニルアラニンである第1の非天然アミノ酸と;
    (b)第1の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と;
    (c)第1の直交tRNA(O−tRNA)を含む翻訳系であって
    前記第1のO−RSが、配列番号10に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有すると共に、32位にLeuを、107位にSerを、158位にProを、159位にLeuを、160位にAsnを、162位にGluを有し、且つ、
    前記第1のO−RSが、前記第1の非天然アミノ酸と配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有するO−tRNAと、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有するO−RSを含む翻訳系で観察される効率の少なくとも50%の効率で前記第1のO−tRNAを前記第1の非天然アミノ酸でアミノアシル化する翻訳系。
  2. 前記第1のO−RSがMethanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼから誘導される請求項1に記載の翻訳系。
  3. 前記第1のO−RSが野生型Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから誘導される請求項1に記載の翻訳系。
  4. 前記第1のO−tRNAがアンバーサプレッサーtRNAである請求項1に記載の翻訳系。
  5. 前記第1のO−tRNAが配列番号1に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるものである請求項1に記載の翻訳系。
  6. 該当蛋白質をコードする核酸を更に含み、その核酸が少なくとも1個のセレクターコドンを含み、そのセレクターコドンが前記第1のO−tRNAにより認識される請求項1に記載の翻訳系。
  7. 第2のO−RSと第2のO−tRNAを更に含み、第2のO−RSが第2のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のO−tRNAが第1のO−tRNAにより認識されるセレクターコドンと異なるセレクターコドンを認識する請求項7に記載の翻訳系。
  8. 前記翻訳系が宿主細胞を含み、その宿主細胞が前記第1の非天然アミノ酸と、前記第1のO−RSと、前記第1のO−tRNAを含む請求項1に記載の翻訳系。
  9. 前記宿主細胞が真正細菌細胞である請求項に記載の翻訳系。
  10. 前記真正細菌細胞が大腸菌細胞ある請求項に記載の翻訳系。
  11. 前記宿主細胞が前記第1のO−RSをコードするポリヌクレオチドを含む請求項に記載の翻訳系。
  12. 前記ポリヌクレオチドが配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含む請求項11に記載の翻訳系。
  13. 前記宿主細胞が前記第1のO−tRNをコードするポリヌクレオチドを含む請求項に記載の翻訳系。
  14. 特定位置に非天然アミノ酸を含む蛋白質を宿主細胞で生産する方法であって、
    (a)(i)p−ニトロ−L−フェニルアラニンである第1の非天然アミノ酸と;
    (ii)第1の直交tRNA(O−tRNA)と;
    (iii)第1の直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と
    (iv)前記蛋白質をコードし、前記第1のO−tRNAにより認識される少なくとも1個のセレクターコドンを含む核酸と、
    を含む宿主細胞を提供する段階と;
    (b)前記宿主細胞を増殖させる段階と;
    (c)前記蛋白質の翻訳中に前記核酸のセレクターコドンの位置に対応する前記蛋白質の前記選択位置に前記非天然アミノ酸を組込むことにより、前記選択位置に前記非天然アミノ酸を含む前記蛋白質を生産する段階とを含み、
    ここで、前記第1のO−RSが、配列番号10に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有すると共に、32位にLeuを、107位にSerを、158位にProを、159位にLeuを、160位にAsnを、162位にGluを有し、且つ、
    前記第1のO−RSが、前記第1の非天然アミノ酸と配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有するO−tRNAと、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有するO−RSを含む翻訳系で観察される効率の少なくとも50%の効率で、前記第1のO−tRNAを前記第1の非天然アミノ酸でアミノアシル化する、方法。
  15. 段階(a)が前記O−RSをコードするポリヌクレオチドを提供する段階を含む請求項14に記載の方法。
  16. 前記O−RSがMethanococcus jannaschiiアミノアシルtRNAシンテターゼから誘導される請求項14に記載の方法。
  17. 前記O−RSが野生型Methanococcus jannaschiiチロシルtRNAシンテターゼから誘導される請求項14に記載の方法。
  18. 段階(a)が、部位特異的突然変異誘発後により野生型のアミノアシルtRNAシンテターゼのアミノ酸結合ポッケトを突然変異させる段階と、前記O−tRNAを前記非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する得られたO−RSを選択する段階を含む請求項14に記載の方法。
  19. 前記選択段階が部位特異的突然変異誘発後に得られた複数のアミノアシルtRNAシンテターゼ分子を含むプールから前記O−RSをポジティブ選択及びネガティブ選択する段階を含む請求項18に記載の方法。
  20. 段階(a)が前記O−tRNAをコードするポリヌクレオチドを提供する段階を含む請求項14に記載の方法。
  21. 段階(a)がアンバーサプレッサーtRNAであるO−tRNAを提供する段階を含む請求項14に記載の方法。
  22. 段階(a)が配列番号1に記載のポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAを提供する段階を含む請求項14に記載の方法。
  23. 段階(a)がアンバーセレクターコドンを含む核酸を提供する段階を含む請求項14に記載の方法。
  24. 前記蛋白質が第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸を更に含み、第2のO−RSと第2のO−tRNAを更に含む翻訳系を提供し、第2のO−RSが第2のO−tRNAを第1の非天然アミノ酸と異なる第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化し、第2のO−tRNAが第1のO−tRNAにより認識されるセレクターコドンと異なる核酸中のセレクターコドンを認識する請求項14に記載の方法。
  25. 段階(a)が宿主細胞を提供する段階を含み、前記宿主細胞が前記第1の非天然アミノ酸と、前記第1のO−RSと、前記第1のO−tRNAと、前記核酸を含み、段階(c)が前記宿主細胞を培養する段階を含む請求項14に記載の方法。
  26. 前記宿主細胞が真正細菌宿主細胞又は酵母宿主細胞である請求項25に記載の方法。
  27. 前記真正細菌宿主細胞が大腸菌宿主細胞である請求項26に記載の方法。
  28. 前記宿主細胞が前記O−RSをコードするポリヌクレオチドを含む請求項25に記載の方法。
  29. 記ポリヌクレオチドが配列番号11に記載のヌクレオチド配列を有する請求項28に記載の方法。
  30. 段階(a)が細胞抽出液を提供する段階を含む請求項14に記載の方法。
  31. 配列番号10に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有すると共に、32位にLeuを、107位にSerを、158位にProを、159位にLeuを、160位にAsnを、162位にGluを有するポリペプチドであって、
    p−ニトロ−L−フェニルアラニンである第1の非天然アミノ酸と、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有する直交tRNA(O−tRNA)と、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)とを含む翻訳系で観察される効率の少なくとも50%の効率で、コグネートO−tRNAを前記第1の非天然アミノ酸でアミノアシル化するO−RSとして機能する、ポリペプチド。
  32. 請求項31に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
  33. 列番号11に記載のヌクレオチド配列を有する請求項32に記載のポリヌクレオチド。
  34. 請求項31に記載のポリペプチド、及び/又は、請求項32又は33に記載のポリヌクレオチドを含む組成物。
  35. 前記組成物が当該ポリペプチド及び/又は当該ポリヌクレオチドを含む細胞である請求項34に記載の組成物。
  36. 請求項32又は33に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
  37. 現ベクターである請求項36に記載のベクター
  38. 請求項36又は37に記載のベクターを含む細胞。
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