以下においては、MOCVD法によりサファイア基板上に酸化亜鉛(ZnO)系素子構造体(デバイス層)が形成されたウエハの製造方法について図面を参照して詳細に説明する。また、当該半導体素子として半導体発光素子(LED:Light Emitting Diode)を例に説明する。なお、以下に説明する図において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付している。
図1は、結晶成長に用いたMOCVD装置5の構成を模式的に示している。MOCVD装置5の装置構成の詳細について以下に説明する。また、結晶成長材料については後に詳述する。
[装置構成]
MOCVD装置5は、ガス供給部5A、反応容器部5B及び排気部5Cから構成されている。ガス供給部5Aは、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、気体材料ガスを供給する部分と、これらのガスを輸送する機能を備えた輸送部とから構成されている。
常温で液体(または固体)である有機金属化合物材料は、気化し蒸気として供給する。本実施例においては、亜鉛(Zn)源としてDMZn(ジメチル亜鉛)、マグネシウム(Mg)源としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、ガリウム(Ga)源としてTEGa(トリエチルガリウム)をそれぞれ用いた。
まず、DMZnの供給について説明する。図1に示すように、窒素ガスを流量調整装置(マスフローコントローラ)121S にて所定の流量とし、ガス供給弁121Mを通してDMZn格納容器121Cに送り、DMZn蒸気を窒素ガス中に飽和させる。そして、DMZn飽和窒素ガスを取出し弁121E、圧力調整装置121Pを通して、成長待機時には第1ベント配管(以下、第1VENTライン(VENT1)という。)128Vに、成長時には第1ラン配管(以下、第1RUNライン(RUN1)という。)128Rに供給する。なお、この際、圧力調整装置121Pによって格納容器内圧を一定に調整する。またDMZn格納容器は恒温槽121Tで一定温度に保たれる。
また、その他の有機金属化合物材料Cp2Mg、TEGaについても同様である。すなわち、これらの材料をそれぞれ格納する格納容器122C(Cp2Mg),123C(TEGa)に流量調整装置122S、123Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁122E、123E及び圧力調整装置122P、123Pを通して、成長待機時には第1VENTライン(VENT1)128Vに、成長時には第1RUNライン(RUN1)128Rにこれらのガスが供給される。
また、酸素源としての液体材料であるH2O(水蒸気)は格納容器124Cに流量調整装置124Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁124E、圧力調整装置124Pを通して、成長待機時には第2ベント配管(以下、第2VENTライン(VENT2)という。)129Vに、成長時には第2ラン配管(以下、第2RUNライン(RUN2)という。)129Rに供給される。
p型不純物源としては、気体材料であるNH3(アンモニア)ガスを用いた。NH3ガスは、流量調整装置125Sにより所定の流量が供給される。待機時には第2VENTライン129V、成長時には第2RUNライン129Rに供給される。なお、当該ガスは、窒素やAr(アルゴン)などの不活性ガスで希釈されていても構わない。
上記した液体または固体材料の蒸気と気体材料(以下、材料ガスという。)は、第1RUNライン128R、第2RUNライン129Rを通して反応容器部5Bのシャワーヘッド130に供給される。なお、第1RUNライン128R及び第2RUNライン129Rのそれぞれにも流量調整装置120C、120Bが設けられており、材料ガスはキャリアガス(窒素ガス)によって反応容器(チャンバ)139の上部に取付けられたシャワーヘッド130に送り込まれる。
なお、シャワーヘッド130は、基板10の主面(成長面)に対向する噴出面を有し、当該噴出面内に亘って材料ガスの噴出孔が列及び行方向に多数(例えば、数10〜100)形成されている。また、当該噴出面の有効噴出直径は基板の外径よりも大きい。
当該噴出孔は、第1RUNライン128Rから供給される有機金属化合物材料ガス(II族ガス)が噴出される第1の噴出孔と、第2RUNライン129Rから供給されるH2O(水蒸気)(VI族ガス)が噴出される第2の噴出孔と、からなっている。そして、第1RUNライン128Rからのガスと第2RUNライン129Rからのガスは混合されずにそれぞれ第1の噴出孔及び第2の噴出孔から噴出されるように構成されている。第1の噴出孔及び第2の噴出孔はほぼ同数で互いに数mmの間隔で設けられ、有機金属化合物材料ガス及びH2Oが均一に混合するように、各列及び各行において交互に配置されている。
反応容器139内には材料ガスを基板10に吹付けるシャワーヘッド130、基板10、基板10を保持するサセプタ119、サセプタ119を加熱するヒーター149が設置されている。そして、ヒーター149によって基板を室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。
なお、本実施例における基板温度とは、基板を載置するサセプタ119の表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタ119から基板10への熱伝達は直接接触、およびサセプタ119と基板10間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板10の表面温度はサセプタ119の表面温度より0℃〜10℃低い程度である。
また、反応容器139にはサセプタ119を回転させる回転機構が設けられている。より詳細には、サセプタ119はサセプタ支持筒148に支持され、サセプタ支持筒148はステージ141上に回転自在に支持されている。そして、回転モータ43がサセプタ支持筒148を回転させることによりサセプタ119(すなわち、基板10)を回転させる。なお、上記したヒーター149は、サセプタ支持筒148内に設置されている。
排気部5Cは、容器内圧力調整装置151と排気ポンプ152で構成されており、容器内圧力調整装置151にて反応容器139内の圧力を0.01kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
[結晶成長材料]
本実施例においては、有機金属化合物材料(または有機金属材料)として、構成分子内に酸素を含まない材料を用いた。酸素を含まない有機金属材料は、水蒸気(酸素材料又は酸素源)との反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属(MO)の流量比(FH2O/FMO比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
本実施例においては、DMZn、Cp2Mg、TEGaを用いたが、II族材料として、DEZn(ジエチル亜鉛)、MeCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム)等を用いることができる。また、III族材料として、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
酸素材料(以下、酸素源という。)としては、極性酸素材料(極性酸素源)が適している。特に、H2O(水蒸気)は、分子内に水素原子が結合した側と孤立電子対側でδ+、δ−に大きく分極しており、酸化物結晶表面への吸着能力が優れている。
また、H2O分子は、水素原子結合手と孤立電子対で4面体構造をとり、sp3型混成軌道の閃亜鉛鉱構造(Zincblende/Cubic)、ウルツ鉱構造(Wurtzeite/Hexagonal)の酸化物結晶の成長では、優先的に酸素サイトに配向吸着する優れた酸素源である。他の酸素源として、同様に、双極子モーメントが大きくO原子がsp3型混成軌道を取る低級アルコール類でも良い。すなわち、具体的には、酸素源として、H2O(水蒸気)以外に、低級アルコール類、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールの炭素数が1〜5の低級アルコール類が利用できる。なお、本実施例にはH2Oを用い、比較例にはO2(酸素)、N2O(亜酸化窒素)を用いた。
p型不純物源としては、結晶成長過程において閃亜鉛鉱構造、ウルツ鉱構造のO(酸素)サイトに置換し易い化合物が適している。特に、NH3は、上記H2Oと同様な作用があり適している。具体的には、p型不純物材料として、NH3(アンモニア)、(CH3)2NNH2(ジメチルヒドラジン)、(CH3)NHNH2(モノメチルヒドラジン)などのヒドラジン類、PH3(フォスフィン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル燐化合物、AsH3(アルシン)、R1PH2、R2PH、R3Pなどのアルキル砒素化合物などを利用できる。また、n型不純物源としては、TEGa(トリエチルガリウム)を用いた。なお、これらのガスは、窒素やAr(アルゴン)などの不活性ガスで希釈されていても構わない。
キャリアガス(雰囲気ガス)としては、上記した結晶成長材料と反応しない不活性ガスが適している。また、H2O(水蒸気)、NH3など結晶成長材料の基板表面への吸着を妨げないガスが良い。具体的には、キャリアガス及び雰囲気ガスとして、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、またはN2(窒素)などの化学的に不活性なガスを利用できる。液体または固体材料の蒸気と気体材料(以下、材料ガスという。)はキャリアガスによってシャワーヘッドに送り込まれ、基板に供給される。
基板10は、コランダム構造を有するサファイア単結晶のサファイア(Al2O3)基板である。サファイア結晶の代表的な基板切り出し面は、{0002}面であるc面、{11−20}面であるa面、{10−10}面であるm面、{10−12}面であるR面がある。本実施例においては、{11−20}面であるa面(以下、サファイアa面ともいう。)を結晶成長面とした。また、以下においては、サファイアa面を主面(結晶成長面)とする基板をa面サファイア基板とも称する。なお、ここで、ミラー指数{ }は等価な面の代表値を示している。
図2は、本発明により基板10上に成長された酸化亜鉛系半導体結晶層(以下、ZnO系半導体層又はZnO系結晶層という。)を有するZnO系結晶成長層付き基板15の構造を模式的に示す断面図である。より詳細には、MOCVD法を用いて第1のZnO層11Aと、第2のZnO層11Bと、ZnO系半導体層12とをサファイア基板上に成長した。なお、以下においては、ZnO系半導体層12として、MgxZn(1−x)O(0.1≦x≦0.68)を成長する場合を例に説明する。
なお、以下において、ZnO系半導体はZnOベースの他の化合物結晶であってもよい。例えば、Zn(亜鉛)の一部がカルシウム(Ca)で置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。あるいは、O(酸素)の一部がセレン(Se)、硫黄(S)やテルル(Te)などで置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。
図3は、MOCVD法による結晶成長に用いられた結晶成長シーケンスを示している。まず、MOCVD装置内のサセプタ119にa面サファイア基板10をセットし、反応容器圧力を10kPa(キロパスカル)に調整した(時間T=T1)。また、回転機構によりサファイア基板10を10rpmの回転数で回転した。
次に、第1RUNライン128R及び第2RUNライン129Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2000cc/min(合計4000cc/min)の流量でシャワーヘッド130に送気し、サファイア基板10に吹付けた。
なお、第1RUNライン128R及び第2RUNライン129Rからシャワーヘッド130に供給するガス流量は、常に一定流量に保った。すなわち、有機金属材料ガス及び気体材料を供給する際には、有機金属材料ガス及び気体材料の流量分だけ第1RUNライン128R及び第2RUNライン129Rに設けた流量調整装置120C、120Bの流量を増減し、シャワーヘッド130に供給するガス流量を一定に保った。
次に、酸素源としてH2O(水蒸気)を640μmol/minの流量でシャワーヘッドから基板10への供給を開始した(T=T2)。次に、ヒーターで基板10を室温(RT)から900℃まで昇温し、サファイア基板10の熱処理を10分間行った(T=T3〜T4)。これ以降、成長終了までH2O(水蒸気)を同じ流量で流し続けた。なお、これ以降、H2O(水蒸気)は成長終了まで同じ流量で流し続けた。
基板10の熱処理後、基板温度を300℃(第1の低成長温度)まで降下し、亜鉛原料としてDMZn(ジメチル亜鉛)を3μmol/minの流量で基板10に5分間供給した(T=T5〜T6:第1のZnO層11Aの成長期間、図3の期間G1A)。
このように、減圧成長条件(成長圧力Pg=10kPa)において成長温度(Tg)を300℃とし、成長速度が5nm/minで、層厚が25nmのZnO層(第1の低温成長単結晶層、以下、単に第1の単結晶層ともいう。)11Aを成長した。
なお、本明細書において、一般的にZnO単結晶を成長するのに適した結晶成長温度を「高成長温度」といい、当該温度よりも低い温度を「低成長温度」という。
ZnO層11Aの成長後、基板温度を1000℃まで昇温し、20分間の熱処理(アニール)を行った(T=T7〜T8)。この熱処理により、ZnO層11Aの結晶性および平坦性は更に向上した。
第1のZnO層(第1の低温成長単結晶層)11Aの熱処理(アニール)が終了した後、第1のZnO層11Aの場合よりも高い温度かつ高い圧力で第2のZnO層11Bを成長した。より具体的には、基板温度を熱処理温度(1000℃)から、3分間で第1の低成長温度よりも高い600℃(第2の低成長温度)まで降下させた。また、反応容器圧力を10kPa(低成長圧力)から80kPa(高成長圧力)まで昇圧した。そして、1分間待機して基板温度が安定した後、DMZnを10μmol/minの流量でシャワーヘッドからZnO層11A上に供給した(T=T9〜T10:第2のZnO層11Bの成長期間、図3の期間G1B)。DMZnを約2.5分間供給し、成長速度が16nm/minで、層厚が40nmの第2のZnO層(第2の低温成長単結晶層、以下、単に第2の単結晶層ともいう。)11Bを形成した。なお、このときの水蒸気流量と有機金属(DMZn)の流量比(FH2O/FMO比)、いわゆるVI/II比は64である。
第2のZnO層(第2の低温成長単結晶層)11Bの成長が終了した後、第2のZnO層11Bの場合よりも高い温度(高成長温度)でZnO系半導体層12を成長した。より具体的には、反応容器圧力は80kPaを維持しつつ、基板温度を600℃(第2の低成長温度)から800℃(高成長温度)まで昇温した。そして、1分間待機して基板温度が安定した後、DMZnを10μmol/minの流量でシャワーヘッドからZnO層11B上に供給した(T=T11〜T12:ZnO系半導体層12の成長期間、図3の期間G2)。基板10にDMZnを約30分間供給し、成長速度が17nm/minで、層厚が0.5μmのZnO系半導体層(ZnO単結晶層)12を形成した。なお、このときの水蒸気流量と有機金属(DMZn)の流量比(FH2O/FMO比)、いわゆるVI/II比は64である。
なお、ZnO系半導体層12の成長前の、基板温度が安定するまでの待機時間を第2のZnO層11Bの熱処理と兼用することもできる。
なお、本実施例においては、ZnO系半導体層12としてZnOを成長する場合を例に説明するが、これに限らない。例えば、DMZnに加えて、同様に酸素原子を含まない有機金属化合物であるCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いることにより三元結晶であるMgxZn(1−x)O結晶を成長することができる。
ZnO系半導体層12の成長が終了した後、基板温度が300℃になるまで水蒸気を流したまま圧力80kPaを維持した。基板温度が300℃以下になったら、水蒸気を止め(T=T13)、基板温度が室温になるまで待ち、反応容器から取出した。
以上、説明したように、基板上に第1のZnO層(第1の単結晶層)11A、第2のZnO層(第2の単結晶層)11B及びZnO系半導体層(第3の単結晶層)12が成長されたZnO系結晶成長層付き基板15(以下、単に、成長層付き基板15ともいう。)の製造を行った。
図4は、本発明の実施例2である半導体発光素子(LED)ウエハ25の構造を模式的に示す断面図である。また、図5は、LEDウエハ(以下、LEDデバイス層付き基板ともいう。)25の結晶成長に用いられた結晶成長シーケンスを示している。
より詳細には、上記実施例1のZnO系結晶成長層付き基板15の成長と同様の方法によって第1のZnO層(第1の単結晶層)11A、第2のZnO層(第2の単結晶層)11B及びZnO系半導体層12を形成し、さらに、第1のn型ZnO系半導体層21、第2のn型ZnO系半導体層22、ZnO系半導体発光層23及びp型ZnO系半導体層24からなる発光デバイス層(以下、LEDデバイス層ともいう。)20を形成した。なお、第1のZnO層11A、第2のZnO層11B及びZnO系半導体層12はアンドープの半導体層である。
ここで、本明細書において、デバイス層とは、半導体素子がその機能を果たすために含まれるべき半導体で構成される層を指す。例えば、単純なトランジスタであればn型半導体層及びp型半導体層及びこれらのpn接合によって構成される構造層を含む。また、n型半導体層、発光層及びp型半導体層から構成され、注入されたキャリアの再結合によって発光動作をなす半導体構造層を、特に、発光デバイス層という。
図5に示すように、ZnO系半導体層12の成長が終わった後、n型ZnO系半導体層21を成長した。より具体的には、成長温度800℃、成長圧力80kPaを維持し、また、H2O(水蒸気)流量を640μmol/minに保った状態で、DMZn流量を10μmol/minから30μmol/minに増加し、同時にn型不純物材料としてTEGaを成長層付き基板15に供給した(T=T12)。これにより、40分間の成長時間(T=T12〜T21:図5の期間D1)で層厚2μm、Ga濃度が1×1018cm−3のGaドープZnO単結晶半導体層である第1のn型ZnO系半導体層21をZnO系半導体層12上に成長した(T=T21)。
次に、基板温度800℃において、圧力を10kPaまで減圧した。また、DMZnの流量を10μmol/min、Cp2Mgの流量を0.5μmol/minとし、同時にn型不純物材料としてTEGaを供給して、MgZnO結晶を成長した(T=T22〜T23:期間D2)。すなわち、層厚が70nm、Ga濃度が3×1017cm−3のMgxZn(1−x)O(x=0.15)単結晶半導体層である第2のn型ZnO系半導体層22を成長した。
次に、ZnO系半導体発光層23を成長した。具体的には、基板温度800℃を維持し、成長圧力を80kPaとし、また、DMZnの供給量を1μmol/minに減らして、層厚が30nmのZnO単結晶半導体層であるZnO系半導体発光層(ACT)23を形成した(T=T24〜T25:期間D3)。
発光層23を成長した後、p型ZnO系半導体層24を成長した。具体的には、基板温度800℃を維持し、成長圧力を10kPaとし、また、DMZnの供給量を10μmol/minとし、同時にp型不純物材料としてNH3(アンモニア)を流量180μmol/minで供給して、層厚が70nm、窒素不純物濃度が8×1019cm−3のMgxZn(1−x)O(x=0.15)単結晶半導体層であるp型ZnO系半導体層24を成長した(T=T26〜T27:期間D4)。
p型ZnO系半導体層24の成長が終了した後、基板温度が300℃になるまで水蒸気を流したまま圧力80kPaを維持し(T=T28)、基板温度が室温になるまで待って反応容器から取出した点は上記実施例1の場合と同様である。
[半導体発光素子の製造]
上記工程で製造したLEDデバイス層付き基板25を用い、以下の工程により半導体発光素子(LED)を製造した。
図6は、LEDデバイス層付き基板25の上面図である。図7は、LEDデバイス層付き基板25に後述する電極形成プロセス等を行い、LEDに個片化する素子分離工程の概略を示す断面図である。また、図8(A)は、半導体発光素子(LED)30の素子上面図であり、図8(B)は、LED30の断面図である。なお、図8(B)には、2つのLED30及びこれらをブレーキングにより分離するための素子区画溝32が形成されていることが図示されている。
まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、素子区画31内の領域(素子領域)を覆う形状のレジストマスクを形成した。次に、ウェットエッチングを用いて、素子区画31外の開口部のp型ZnO系半導体層24、発光層23及びn型ZnO系半導体層22の一部を所定深さまで除去した。最後にレジストを洗浄除去し、素子区画溝32を形成した(図6及び図7のstep2)。なお、図6に示すように、素子区画31は、OF(オリエンテーションフラット)に対して36.3°傾斜させて形成した。また、素子区画溝31の深さは、発光層23とn型ZnO系半導体層22の界面位置より200nm深くなるように形成した。
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、p側電極形状に開口した形状のレジストマスクを形成した。そして、EB(電子ビーム)蒸着によって、p側電極33としてNi(ニッケル)を0.3〜10nm、さらにAu(金)を5〜20nmの厚さで成膜した。最後にリフトオフ法にてp側電極33以外の蒸着材料を取除き、p型Zn酸化物半導体層505の表面にp側電極507を形成した。形成したp側電極33は、RTA(ラピッド・サーマル・アニーラー)にて酸素10%雰囲気下で500℃、30秒処理して透光性電極化した。
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、p側電極33の一部の領域に接するようにp側接続電極34の形状で開口したレジストマスクを形成した。そして、EB蒸着によって、Ni/Pt/Au電極パッド材料をそれぞれ10nm/100nm/1000nmの厚さでこの順に積層してp側接続電極34を形成した(図8(B))。なお、Ni/Pt/Auの表記は、p側電極34側から第1層/第2層/第3層を意味している。
さらに、フォトリソグラフィ技術を用いて、露出したn型ZnO系半導体層22の表面にn側接続電極35の形状で開口したレジストマスクを形成した。そして、EB蒸着によって、Ti/Auをそれぞれ10nm /1000nmの厚さで積層し、その後リフトオフ法にてマスク開口部以外の蒸着材料を除去し、n側接続電極35を形成した。
電極形成を行った電極形成したLED動作層20側を保護基板に貼付け、それを研削盤にセットし、基板厚さが120μmとなるまで研削した。そして、研磨装置にて研削面が鏡面になるまで研磨材の番手を徐々に下げて磨き、厚さ約100μmのウエハに成形した。
次に、電極形成された表面側に保護シートを貼った後、例えば、ダイヤモンドポイントを用いたスクライブ装置により素子区画溝32の中央部に対応する裏面に互いに直交するスクライブ溝36を形成した(図7のstep2、図8(B))。
後に詳述するように、ブレーキングにおいては、ナイフエッジ37をスクライブ溝36の対向面の素子区画溝32側より当て、ナイフエッジ37で荷重しスクライブ溝方向に劈開を行った。同様に、基板を90°回転させ、直交するスクライブ溝36方向にも劈開を行った。
このようにして半導体発光素子30を製造した(図8(A)、図8(B))。半導体発光素子30の各種サイズは、これには限定されないが、例示すれば、ダイサイズは400μm角(図6、L1=L2=400μm)、素子区画サイズは300μm角、p側電極パッドの直径はφ100μm、n側電極パッドの直径はφ100μm、厚さは約100μmである。
なお、Mgを含む結晶層(MgxZn1−xO層)として組成X=0.15の場合を例に説明したが、これに限らない。半導体素子の所要特性等に応じ、各半導体層の組成(バンドギャップ)を0≦x≦0.68の範囲で選択すればよい。また、層厚、導電型及びドープ濃度(キャリア濃度)などについても、半導体発光素子の所要特性等に応じて適宜改変又は選択することができる。
[比較例]
上記した実施例により成長した成長層付き基板15のZnO系単結晶層との比較評価のため、比較例として以下の成長方法、成長条件で結晶成長を行った。
図9は、比較例の結晶成長層の構造を模式的に示す断面図である。具体的には、RF−MBE(ラジカルソースMBE)装置により、a面サファイア基板100上にZnO単結晶層101及びZnO系結晶層102を形成した。
すなわち、比較例の結晶成長に用いたRF−MBE装置は、Zn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)、Ga(ガリウム)はクヌーセンセルで照射し、O(酸素)とp型不純物であるN(窒素)はRFラジカルガン(発生装置)で照射する構成を有している。また各クヌーセンセル、RFラジカルガンの出口には、シャッターが付いており、基板に個別に分子線を照射できる。また、基板は抵抗加熱ヒーターにて加熱する構造である。より詳細には、当該比較例の結晶成長層付き基板105は、次の手順で成長した。
まず、a面サファイア基板100を、真空下、温度900℃において10分間の熱処理を行って基板表面の吸着物等を放散脱離させた。
次に、基板温度を900℃から300℃に降温し、温度が安定したらO(酸素)ラジカルガンのシャッターを開けてOラジカルを基板に照射した。続けてZnクヌーセンセルのシャッターを開けZnビームを基板に照射し、低温(300℃)で第1のZnO層101として厚さ30nmのZnO単結晶層(緩衝層)を形成した。
次に、第1のZnO層101の熱処理を行った。より詳細には、基板にOラジカルを照射しながら、基板温度を300℃から800℃まで昇温し、5分間の熱処理を行い、低温300℃で形成したZnO単結晶層(第1のZnO層101)の結晶性の回復を行った。
第1のZnO層101の熱処理後、再び基板温度を800℃から700℃に降温した。基板温度が安定したら、Znのクヌーセンセルのシャッターを開け、第1のZnO層101上にZnビームを照射し、第2のZnO層として厚さ1μmのZnO単結晶層を形成した。 以上、説明した工程により、比較例のZnO結晶層付き基板105を形成した。
1.成長層付き基板15の結晶成長層の評価結果
1.1 成長層付き基板15の結晶成長層の評価
以下に、上記した成長層付き基板15及び比較例の結晶成長層の評価結果及び物性等について図を参照して詳細に説明する。また、上記した結晶成長層については、以下の方法により評価・分析を行った。
表面モフォロジは、微分偏光顕微鏡、SEM(Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。結晶配向性及び平坦性は、RHEED(reflection high-energy electron diffraction)により評価を行った。また、結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
図10は、成長層付き基板15の結晶成長層(以下、<EMB1>とも表記する。)のSIMS分析結果である。すなわち、Al(アルミニウム)及びSi(シリコン)の深さ方向の濃度プロファイルを示している。なお、図中、LM(Al)はAlの検出下限界を示している。
図10に示すように、Al(アルミニウム)の濃度は、サファイア基板とZnO結晶成長層(図中、「ZnO epi」と表記)の界面(X)から成長方向に向かって減少している。なお、サファイア基板(図中、「Sub」と表記)とZnO結晶成長層の界面(X)は、Znイオン強度が急峻に低下する位置として同定した。また、SIMS測定の上限値は、1×1021(個/cm3)である。なお、図中、1E+nは指数表記であり、例えば、1E17又は1E+17は1×1017を表している。
すなわち、基板であるサファイアの構成元素であるAlは、界面(X)において完全に急峻に(ステップ状に)減少しているのではなく、ZnO結晶成長層中に拡散していることがわかった。より詳細には、AlのZnO成長層への拡散によって、ZnO成長層には、界面(X)近傍においてAlが固溶状態で存在する固溶層(図中、区間A)が形成されるとともに、Alが高濃度に拡散した高濃度拡散層(区間B)が形成されることがわかった。以下に、より詳細に説明する。
図11は、図10のAl濃度及びZnイオン強度の界面(X)付近におけるプロファイルを拡大して示す図である。なお、横軸は成長層厚を示しており、界面(X)においてはゼロである。ZnO成長層中のAl濃度が、一定値(上限濃度CC;図中、点P1)以上においては、Alが固溶状態で結晶中に存在する固溶状態であるということができる。一般に、Alがn型不純物として作用する上限濃度(CC)は8×1020個/cm3であるとされており、これ以上のAl濃度の領域が固溶状態領域であるといえる。すなわち、図10から、界面(X)から点P1までの領域がAl固溶層(区間A)であり、当該上限濃度(CC)を8×1020個/cm3としたとき、固溶層(区間A)の厚さは、20nmである。前述したように固溶層のAl濃度はn型不純物としての上限値を超えている。よって、n型層の不純物濃度がいかなる値でも抵抗値は固溶層の方が小さく、電流がn型層に到達する前に固溶層によって拡がる効果が期待できる。
なお、n型不純物として作用する上限濃度(CC)については、例えば、「ZnO薄膜の低温成長」、秋葉敦也、平成18年度、博士前期課程、電気電子工学専攻、三重大学大学院工学研究科、H19年2月6日、第6頁(http://hdl.handle.net/10076/9109参照)、に記載されている。
また、図11に示すように、Alの濃度は、界面から成長方向に向かって急激な濃度傾斜で減少する領域(R1)と、緩やかな濃度傾斜で減少する領域(R2)とからなっている。これらの領域R1及びR2における濃度変化の接線の交点をQとすると、界面(X)からQ点までの領域が固溶状態の層から拡散状態の層(拡散層)への遷移層である高濃度拡散層(固溶拡散層ともいう。)(区間B)であり、高濃度拡散層(区間B)の厚さは、70nmである。なお、上記した方法で求めた交点Qの層厚におけるAl濃度(点P1)は、1×1019個/cm3であった。従って、Al濃度が1×1019個/cm3以上(8×1020個/cm3未満)の領域を高濃度拡散層(区間B)と規定した。
以上、説明したように、本発明によれば、サファイア基板からZnO成長層にかけてAl組成が連続的に変化した層が形成され、また、Al固溶層(区間A)及び高濃度拡散層(区間B)が形成される。
また、Al濃度が1×1019個/cm3未満で4×1017個/cm3以上のAl拡散層を区間C(厚さ220nm)、Al濃度が4×1017個/cm3未満のAl低濃度拡散層を区間D(厚さ600nm)と定義する。しかしながら、後述するように、デバイス層を形成する場合などには、Al濃度が1×1019個/cm3未満となった(固溶層(区間A)及び高濃度拡散層(区間B)が形成された)以降においてドープを行って、導電型制御を行ってもよい。すなわち、Al拡散層(区間C)又はAl低濃度拡散層(区間D)の形成途中においてドーパントを添加し、例えばn型ZnO系結晶層が形成されるようにすることができる。
すなわち、基板との界面に基板のアルミニウム(Al)が8×1020個/cm3以上の濃度で固溶した固溶層(区間A)、及び基板から拡散したAlの濃度が1×1019cm3以上である高濃度拡散層(区間B)、Al拡散層(区間C)及びAl低濃度拡散層(区間D)からなり、基板のAlが固溶・拡散したZnO系結晶層が形成される。
また、図10に示すように、高濃度拡散層(区間B)上の拡散層(図中、Q点以降の成長層)においては、Al濃度は更に減少し、ZnO単結晶層の層厚が1μm付近において3.0×1015個/cm3まで減少する。サファイアからのAl濃度は欠陥密度と比例関係であるため1μm以上では同様に欠陥密度も十分に低下しているものとみなせる。そのため、1μm以上に成長されたZnO層は欠陥密度が十分に低下しており、製造の際に問題とはならない。なお、n型ZnO系半導体層、発光層、p型ZnO系半導体層を形成する場合、ZnO単結晶層とn型ZnO系半導体層を含めて1μm以上であればよい。Alは、n型ドーパントとしても作用するため、n型ZnO系半導体層に含まれていても問題はなく、1μm以上の欠陥密度が十分に低下した領域が存在し、かつ発光層、p型ZnO系半導体層へのAl拡散は問題にならない濃度となっている。すなわち、例えば、導電型制御のために不純物をドープしたn型ZnO系半導体層、発光層、p型ZnO系半導体層を形成するLEDのような半導体発光素子を製造する場合にもサファイア基板からのAl拡散は問題とはならない。
他方、図12は、比較例のサンプルのSIMS分析結果である。より詳細には、RF−MBE法により形成した、a面サファイア基板上のZnO系結晶成長層(以下、<CMP>とも表記する。)のSIMS分析結果を示している。すなわち、Al(アルミニウム)及びSi(シリコン)の深さ方向の濃度プロファイルを示している。RF−MBE法により形成した場合では、サファイア基板及びZnO成長層間には急峻な界面が形成され、Alは成長層中に拡散せず、固溶層は形成されないことがわかった。
本発明において、さらに注目すべき点は、サファイア基板とZnO層と界面にAl固溶層が形成されているにも関わらず、表面モフォロジが良好なことである。 図13、図14は、それぞれ成長層付き基板15の成長層表面の微分顕微鏡像及びSEM像を示している。このように、微分顕微鏡及びSEMの観察結果から広域領域から微小領域に至るまで(巨視的及び微視的にも)高い平坦性を有していることが確認された。
また、成長層への欠陥や転位の導入が減少される点にある。図15(A),(B)は、ZnO層12の層厚(t)が1μmの場合について、また図16(A),(B)は、層厚(t)が3μmの場合のXRD(002)ωロッキングカーブ、及び(100)ωロッキングカーブを示している。また、これらの測定結果の比較表を以下に示す。
例えば、(002)ωロッキングカーブの半値幅(FWHM:full width at half maximum)は、層厚t=1μmで274arcsecであるが、t=3μmでは144arcsecと向上している。また、(100)ωロッキングカーブのFWHMも631arcsec(t=1μm)から270arcsec(t=3μm)と成長層厚が大きくなるに従い改善していることがわかった。サファイア基板のc軸方向<0001> とZnO成長層のa軸方向<11−20>との格子ミスマッチは0.07%であり、サファイア基板のm軸方向<10−10> と ZnO成長層のm軸方向<10−10>との格子ミスマッチは2.46%であるが、上記したように、これらの測定結果から格子ミスマッチが緩和されて成長していることがわかった。また、表面モフォロジも鏡面であり、良好であった。
ところで、従来のGaN、GaAs等の半導体結晶においては、ZnやMg等の不純物が1×1020cm−3程度以上混入すると結晶配列が乱れ始め、欠陥や転位密度が高くなる。さらに5×1020cm−3程度以上加えると表面モフォロジが悪化する、または多結晶化する。このように不純物元素が成長層に高濃度に拡散した場合、非酸素系の化合物半導体結晶は劣化することが知られている。本発明においては、上記したように、表面モフォロジ、格子整合も良好であり、欠陥や転位の低減など、高品質な結晶性を有する成長層を形成できることがわかった。
1.2 成長層付き基板15の結晶成長層の電気的特性
成長層付き基板15の結晶成長層の電気的特性について以下に詳細に説明する。当該結晶成長層の電気的特性を、van der Pauw法により測定した。測定は、Bio-Rad Microscience社製HL5500 Hall Systemを用いて実施した。本装置を用い、電流と電圧よりシート抵抗(RS)を求め、次に磁界を印加してシートHall係数(RHS)を求めた。そして、その値を用いてシートキャリア密度(NS)と移動度(μ)を算出した。また、予め、触針式段差計(DEKTAK)により測定した膜厚(t)を用いて、比抵抗(ρ)とキャリア密度(N)を求めた。
成長層付き基板15の結晶成長層の層厚は約1μm、シート抵抗(Rs)は132Ω/□(Ω/square)、比抵抗(ρ)は0.0132Ω・cm、キャリア密度(N)は1×1019cm−3であった。しかし、膜中のAl濃度は、基板界面で1×1021cm−3を超え、表面方向に向かって減少し、表面において1×1016cm−3以下に達する。すなわち、成長層付き基板15の成長層のシート抵抗および比抵抗は、少なくとも不純物密度が1×1019cm−3より高い層領域(区間A+区間B=90nm)の特性値によるものである。
ところで、最大キャリア密度はプラズマ振動を無視すれば約2×1021cm−3とされている(北海道工業技術センター研究報告、No.6(2000)、「ZnO−Based Transparent Conducting Oxide Film」)。プラズマ振動等を考慮しても1×1021cm−3程度までは可能である。すなわち、Alが固溶している領域(区間A=20nm)のキャリア密度は非常に高い状態にある。
次に、上記区間別の比抵抗を見積った結果を表2に示す。なお、当該見積りは独立行政法人産業技術研究所の資料(日本MRSニュースVol.13 No.3 Aug. 2001、図3:「酸化物半導体酸化亜鉛の新展開」、独立行政法人産業技術総合研究所、仁木栄:http://www.mrs-j.org/mrsjnews/news13-3/2001_3topics.PDF)を参照して行った。すなわち、当該資料から移動度、キャリア密度の範囲をそれぞれ読み取り、区間Aの比抵抗の理論的範囲を求めた。移動度は、15〜25cm2/(V・s)の範囲内であり、キャリア密度は、6×1020〜1×1021cm−3の範囲内になると考えられる。これから比抵抗の範囲を求めると、2.5×10−4〜6.9×10−3Ω・cmとなる。本実施例における区間Aの比抵抗値は上記範囲内に含まれている。上限でも下限でも比抵抗の値は大きく変わらないものであり、状況によって値が多少異なってもこの範囲内の比抵抗値が期待できる。
同様に、区間Bの比抵抗の範囲についても求めた。移動度は、35〜80cm2/(V・s)の範囲内であり、キャリア密度は、1×1019〜4×1020cm−3の範囲内になると考えられる。これから比抵抗の範囲は、4.5×10−4〜7.8×10−3Ω・cmとなる。区間Bについても本実施例の比抵抗値はこの範囲内に含まれ、上限でも下限でも比抵抗の値は大きく変わらないものであり、状況によって値が多少異なってもこの範囲内の比抵抗値が期待できる。
Alが固溶している区間A(厚さ20nm)、Alが高濃度拡散している区間B(厚さ70nm)、Al拡散区間=C(厚さ220nm)、Al低濃度拡散区間=D(厚さ600nm)とした場合、A,B,C,D区間の比抵抗は、それぞれ4.2×10−4Ω・cm、3.1×0−3Ω・cm、4.5×10−2Ω・cm、8.9×10−1Ω・cmと見積もられた。またシート抵抗は、それぞれ208Ω/□、509Ω/□、2027Ω/□、14860Ω/□と見積もられた。そして、区間A〜Dの合成シート抵抗は136Ω/□と計算でき、実測値132Ω/□と良く一致することがわかった。
なお、区間Aの比抵抗の範囲については、区間Aの移動度を25cm2/(V・s)とした場合、プラズマ振動を加味した最大キャリア密度を1×1021cm−3と仮定すれば、区間Aの比抵抗は2.5×10−4Ω・cmになる。また、移動度が15cm2/(V・s)、不純物による補償の影響が大きいことを考慮すれば、キャリア密度を6×1020cm−3とした場合で区間Aの比抵抗は6.9×10−4Ω・cmとなる。
同様に、区間Bの比抵抗の範囲については、区間Bの移動度を35cm2/(V・s)とした場合、不純物補償等で不純物濃度限界の半分のキャリア密度4×1020cm−3になったと仮定すれば、区間Bの比抵抗は4.5×10−4Ω・cmになる。また、移動度が80cm2/(V・s)、区間最低のキャリア密度1×1019cm−3の場合でも区間Bの比抵抗は7.8×10−3Ω・cmとなる。
1.3 第1及び第2の単結晶層11A、11Bの層厚
電流拡散を促進するには、シート抵抗が低い必要がある。比抵抗が十分低い場合にシート抵抗を下げるには、膜厚を厚くすれば良い。すなわち、第1及び第2の単結晶層11A、11Bを厚く形成すれば良いことになる。
第1の単結晶層11Aは、サファイア結晶上にZnO単結晶を積層するための配向制御層なので、配向性が乱れないような厚さを有する必要がある。第1の単結晶層11Aの層厚が5nm〜100nmの範囲であれば配向性を乱さず厚膜化できる。具体的には、膜厚30nmまでは400℃で成長速度0.4〜0.8nm/minの範囲で成長し、次の30nmを成長温度350℃で成長速度0.8〜3.2nm/minで成長し、最後の40nmを成長速度300℃で成長速度3.2〜9nm/minで成長する。初期の成長速度を遅くすることで、結晶配向性の向上とAl溶出(固溶)を促進できる。また厚み方向に成長温度を下げることで平坦性を保つことができる。
例えば、層厚が20nmの場合、シート抵抗は208Ω/□であるが、その他の条件を同一にして第1の単結晶層11Aの厚さのみ100nmに厚膜化するとシート抵抗を42Ω/□に低減できる。特に、Al固溶層及び固溶拡散層(区間A+区間B)のシート抵抗を低くするには、第1の単結晶層11Aの厚膜化が効果的である。
第2の単結晶層11Bは、第2の単結晶層11B上に成長するZnO系半導体層12の2次元結晶成長過程を容易(促進)にするための機能層であり、その機能を引き出す成膜条件は、層厚に対して比較的鈍感(緩慢)である。第2の単結晶層11Bの層厚は、5nm〜200nmの範囲であれば厚膜化しても問題はない。第2の単結晶層11Bの厚膜化は、600℃〜800℃に昇温成長する工程時間を長くする方法で膜厚200nm程度まで可能である。具体的には、600℃で40nm成長し、800℃までの昇温時間を10分にすることで160nm成長できる。昇温速度を100℃/minから30℃/minとすることで、成長膜への熱ストレスが緩やかになり、第2の単結晶層11Bの機能(2D成長促進機能)を低下せず成長できる。
例えば、層厚が70nmの場合シート抵抗は510Ω/□であるが、その他の条件を同一にして第2の単結晶層11Bの厚さのみ200nmに厚膜化するとシート抵抗を178Ω/□に低減できる。
1.4 ZnO系半導体層12の成長温度と比抵抗
ZnO系半導体層12の成長温度を800℃、700℃、600℃としたときの成長層付き基板15(#1,#2,#3)のHall測定結果を表3に示す。
成長温度が600℃、700℃、800℃の場合の比抵抗値は、それぞれ0.043、0.034、0.013Ω・cmであり、成長温度が高いほど良好なAl固溶拡散層が形成できる。また、ZnO系半導体層12の結晶性および表面モフォロジの観点からも、成長温度は高いほど良い。具体的には、600℃〜850℃の温度が適している。特に、結晶性の観点からは740℃〜810℃の範囲が良い。この層は、第2の単結晶層11BからAlが拡散する層なので、層厚方向にAl濃度は低下する。なお、この特性を用いて、Al固溶拡散層(区間A+区間B)と第1のn型Zn系半導体層(後述する)の抵抗を調整することもできる。
1.5 比較例の電気的特性
上記したように、MBE法で作成した比較例においては、サファイア基板からのAl拡散は認められない。従って、単結晶透明導電膜に相当するAl固溶拡散層は存在しない。また、比抵抗値は0.80Ω・cmと高いことがわかった。
以上、説明したように、本発明における比抵抗の低いAl固溶拡散層(固溶層及び高濃度拡散層)は、酸素を含まない有機金属材料と水蒸気を用いたMOCVD法によって第1の低温単結晶層形成と熱処理、および第2の低温単結晶層形成の工程により形成が可能となった。特に、第1の低温単結晶形成の工程でサファイア基板中のAlがZnO結晶層中に溶出(固溶)することによるものである。
具体的には、サファイア基板とZnO成長層との界面にAl不純物濃度が、高濃度に拡散した層が存在し、区間Aから区間Bの比抵抗値が2.5×10−4Ω・cm〜7.8×10−3Ω・cmと低い層を形成しているといえる。言い換えれば、絶縁性基板とZn酸化物層の界面に透明導電膜が形成されているともいえる。また、第1の低温単結晶層11Aは100nmまで、第2の低温単結晶層11Bは200nmまで厚膜化が可能であり、ZnO系結晶層12は高温(800℃など)で形成することで比抵抗の低いAl固溶拡散層の形成が可能である。
2.LEDウエハ25の結晶成長層及び比抵抗
LEDウエハ25は、Al固溶層及びAl高濃度拡散層が形成されたZnO系結晶層上にn型ZnO系結晶層(第1及び第2のZnO系半導体層)、発光層及びp型ZnO系半導体層を積層した構成を有している。
LED素子30の発光領域(素子区画31内の領域)内の電流分布を均一にするには、p型ZnO系半導体層/発光層/n型ZnO系半導体層からなる積層構造体を導電性の良好な層で挟んだ構造にすれば良い。ただし、当該良導電性層は、基板にエピタキシャル成長し、かつ、その上にデバイス層をエピタキシャル成長させることができる結晶層でなければならない。さらに、本発明においては、基板側に存在する当該良導電性層は、Al固溶層及びAl高濃度拡散層であるため基板にエピタキシャル成長し、かつ、その上にデバイス層をエピタキシャル成長させることが可能である。
従来技術においても、p型ZnO系結晶層側にはp側透光性電極を形成することは可能だが、n型ZnO系結晶層側には透明電極を形成することはできない。すなわち、ZnO結晶は、ZnサイトをAl、Ga、In原子で数%オーダー置換することでAZO、GZO、IZO透明導電膜を形成することができる。これらの透明導電膜は、スパッタ法等でガラスや樹脂(アクリル、ポリイミドなど)上に形成でき、LCD、有機EL、太陽電池用の電極等に用いられる。これの膜は、基板面に対してc軸が垂直に配向した多結晶で構成されている。そして、成長条件や構成元素、組成によるが、10−4〜10−3オーダーの比抵抗値が得られる。しかしながら、これらの透明導電膜上に単結晶ZnO系結晶層を形成することはできない。つまり、本発明は、Al固溶拡散層により単結晶透明導電膜層の形成を可能とし、さらに、その上に単結晶ZnO系半導体層の形成を可能とする点において、上記透明導電膜によっては得られない効果を有している。
2.1 シート抵抗及び放射強度分布
本実施例のLEDウエハ25の各層の比抵抗およびシート抵抗値を次表に示す。
ここで、区間Cの層厚を0.220μm、区間A〜Cの合成シート抵抗を138Ω/□とした。また、第1のn型ZnO系半導体層21の層厚を2.0μm、シート抵抗を312Ω/□とした。このとき、区間A〜C及び第1のn型ZnO系半導体層の合成シート抵抗は96Ω/□であった。また、第2のn型ZnO系半導体層22の層厚を0.070μm、シート抵抗を22863Ω/□とした。
このように形成したLED素子の発光区画面内の放射強度分布(発光強度分布)は、Al固溶層及びAl高濃度拡散層)を設けない場合に比べ、大きく改善された。また、電流密度分布が均一化されたことによって発光層への電流注入効率も高まり、発光強度も向上した。
上記したように、本実施例においては、Al固溶層及び高濃度拡散層(透明導電層)が形成されたZnO系結晶層(区間A,B,C)上にデバイス層を積層した構成を有している。n型半導体層において電流分布を均一化するには、n型半導体層よりも基板側の層の合成シート抵抗値がn型半導体層よりも小さい必要がある。Al固溶層及び高濃度拡散層(区間A及びB)の合成シート抵抗値(SR(AB))が第1のn型ZnO系半導体層21のシート抵抗値(SR(1))よりも小さいことが最も望ましいが、ZnO系結晶層12(区間A,B,C)及び第1のn型ZnO系半導体層21の合成シート抵抗値(SR(ABC1))が第2のn型ZnO系半導体層22のシート抵抗値(SR(2))よりも小さければ第2のn型ZnO系半導体層22における電流分布を均一化できる。表4に示した条件では、SR(ABC1)<SR(2)となっている。また、Al固溶拡散層(区間A,B)によって第1のn型ZnO系半導体層21の薄膜化が可能となっている。つまり、例えば、Al固溶拡散層が無い場合に本実施例と同じシート抵抗を得るには、第1のn型ZnO系半導体層21の層厚として6μmが必要である。この場合、成膜時間が長くなり生産性が低下する。
本実施例においては、ZnO系結晶層12の成長の際、区間Cの成長途中からn型不純物のドープを行ったため、区間Dは第1のn型ZnO系半導体層21に含まれているが、区間Dの成長途中からn型不純物のドープを始めた場合ではZnO系結晶層12にはさらに区間Dが存在する。この場合でも同様に、ZnO系結晶層12と第1のn型ZnO系半導体層21の合成シート抵抗値(SR(ABCD1))が第2のn型ZnO系半導体層22のシート抵抗値(SR(2))よりも小さければ(SR(ABCD1)<SR(2))、第2のn型ZnO系半導体層22における電流分布を均一化できる。
2.2 本実施例の改変例
本実施例の改変例の層構造及びシート抵抗等を表5に示す。
本改変例においては、区間Aを100nm、区間Bを200nm、区間Cを100nmとしたLED素子を作製した。このように形成したLED素子の発光区画面内の発光強度分布、発光強度は、上記実施例(表4)の場合に比べ更に向上した。また、順方向電圧(Vf)も上記実施例よりも低減された。
以上、詳細に説明したように、半導体発光素子構造において、電気抵抗の低いAl固溶拡散層は電流拡散作用を有し、素子区画面内の発光強度分布を改善することを確認した。また、Al固溶拡散層のシート抵抗が最小になるような層構成とすることで、さらに素子区画面内の発光強度分布、発光強度が改善されることを確認した。
3.固溶層の形成
上記実施例においては、MOCVD法によりAl固溶層及び固溶拡散層を形成する場合を例に説明したが、他の成長方法、例えば、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ハライドVPE(HVPE)法、プラズマCVD法、スパッタ法等で固溶層を形成しても構わない、要は、サファイア基板とZnO系結晶成長層との界面にAl固溶層を備えていればよい。
また、上記実施例において示した、サファイア基板とZnO系結晶成長層との界面にAl固溶層を形成するためのZnO系結晶の成長条件は例示にすぎず、これらに限定されない。以下に、MOCVD法を用いてサファイア基板上にZnO系結晶を成長し、基板と当該成長層との界面にAl固溶層を形成するためのZnO系結晶成長層の性質及び成長条件について詳細に説明する。
なお、以下においては、説明及び理解の容易さのため、サファイア基板上に成長する成長層を接続層(又は第1の成長層)と称し、当該接続層上に成長する結晶層をデバイス層(又は第2の成長層)として説明する。
3.1 ZnO系結晶成長層(接続層)の性質
基板のAlを固溶させる場合のZnO系結晶成長層(接続層)の性質、状態としては、ドメイン径が小さく、また、表面の凹凸差が大きい方が良い。すなわち、熱処理工程において、成長層の形状変化率が大きい方がサファイア基板のAlを固溶させ易くなるからである。
しかしながら、過度な条件で成長すると、単結晶性が損なわれ、また、成長後の熱処理での結晶性回復が不十分になる。すなわち、当該接続層上に成長するデバイス層などのZnO系結晶層の結晶性を低下させ、固溶したAlの拡散を抑制できなくなるからである。また、接続層が、例えば、多結晶、アモルファス状結晶の場合、熱処理工程においてAl成分が粒界に偏析するなどして、十分な結晶性回復ができず、高成長温度でのデバイス層の成長段階で欠陥や転位が高密度に導入され、Al拡散を抑制できなくなるからである。
なお、上記実施例においては、サファイア基板上に、接続層として低成長温度で第1のZnO層(第1の単結晶層)11A及び第2のZnO層(第2の単結晶層)11Bを形成し、その上に高成長温度でZnO系半導体層12を形成する場合について説明した。しかし、接続層として当該第1の単結晶層(ZnO系単結晶層)のみを形成し、当該第1の単結晶層(接続層)上にデバイス層などのZnO系結晶層を成長してもよい。
3.2 第1の低温成長単結晶層11Aの成長条件
<成長温度>
第1の低温成長単結晶層11Aの成長温度は、一般的にZnO単結晶を成長するための結晶成長温度(「高成長温度」という。)よりも低い温度(「低成長温度」という。)であることが適切である。当該高成長温度では、島状成長しやすく、層状単結晶になりにくいからである。
より詳細には、成長温度は、250℃〜450℃の範囲内が好ましい。さらに、300℃〜400℃の温度範囲内であることがより好ましい。250℃以下ではマイグレーション長が短くなるため、アモルファス化、多結晶化し易くなる。また、上記したように、450℃以上になると島状成長しやすくなり、接続層上の成長層が層状単結晶になりにくいからである。
<成長圧力>
第1の単結晶層11Aが成長後の熱処理によって偏析等を生じず、十分な結晶性回復がなされるために、また、第1の単結晶層11A上の成長層が単結晶成長するために、第1の単結晶層11Aの単結晶性が損なわれないことが必要である。すなわち、第1の単結晶層11Aの単結晶成長のためには、基板面上での反応化学種(DMZn、H2O、中間生成物、結晶化前のZn原子、結晶化前のO原子等)のマイグレーション長が大きい方がよい。従って、減圧成長が好適であり、具体的には、成長圧力として1kPa〜30kPaが好適であり、より好ましくは5kPa〜20kPaである。成長圧力が1kPa以下になると著しく成長速度が遅くなる。
<成長速度>
成長速度は0.4nm/min〜9nm/minの範囲内であることが好ましい。さらに、0.8nm/min〜4nm/minの範囲内であることがより好ましい。成長速度が、9nm/min以上では表面の凹凸が大きくなり、十分な平坦性が得られない場合がある。
<材料ガス>
低成長圧力、低成長温度下でZnO単結晶層を形成し、固溶層形成を促進するには高い相互反応性を有する材料選択が必要である。相互反応性が低いと結晶成長しなかったり、アモルファス化あるいは多結晶化するからである。Zn源としては、構成分子中に酸素を含まず、酸素源材料と高い反応性を有する有機金属化合物が好適である。上記したDMZnの他には、例えば、DEZn(ジエチル亜鉛)がある。また、酸素源としては、分子内での分極が大きく、高い反応性を有するH2O(水蒸気)が適している。
<熱処理条件>
上記したように、固溶層の形成には、第1の単結晶層11Aが単結晶化していること、及び極性酸素源(H2O:水蒸気)中での熱処理が必要である。より詳細には、接続層は、単結晶ではあるが、ドメイン及び凹凸を有し、熱処理によって界面エネルギーを最小にする方向に、結晶性状が変化する。このとき、サファイア基板のAl元素がZnO単結晶中に高濃度に固溶される。従って、熱処理温度が高く処理時間が長い方が、Alの固溶濃度が増加する。
また、サファイアは、非常に安定な物質であるため、低温では第1の単結晶層11AにAlを十分に固溶及び拡散させることが難しい。この熱処理温度は、700℃〜1000℃の範囲で可能であるが、Alを高濃度に含んだ状態での第1の単結晶層11Aの結晶性回復の観点から800℃以上の高い温度が好ましい。
従って、接続層の熱処理は、高温で行われることが適切である。具体的には、デバイス層などのZnO系結晶層の成長温度よりも100°以上高い温度、あるいは900°以上であることがさらに好ましい。また、Alの固溶化をより促進する観点から950℃以上1000℃の範囲での高温熱処理が、特に好ましい。
また、単結晶性及び平坦性を向上させる上でも、マイグレーション長が長くなる低圧力下において熱処理を行うのがよい。なお、熱処理に適した圧力範囲は上記した第1の単結晶層11Aの成長圧力の範囲と同じである。
3.3 第2の低温成長単結晶層11Bの成長条件
<成長温度>
第1の単結晶層11A上に均等で層状に成膜する条件として、500℃〜650℃が好ましい。成長温度が500℃より低いと結晶性が十分でなく熱処理が必要となる。また、650℃以上ではZnO層11A上に島状成長するようになる。この温度領域では、基板面上での反応化学種(DMZn、H2O、中間生成物、結晶化前のZn原子、結晶化前のO原子)の安定サイト(キンク点)選択性が高温ほど高くなく、被覆性も優れている。
<成長圧力>
第2の単結晶層11Bの成長圧力は、40kPa〜120kPaが好適である。尚、この上限値はMOCVD装置の気密性の上限値であり、成膜条件ではない。
<成長速度>
成長速度は60nm/min以下が良く、5nm/min〜60nm/minの範囲内であることが好ましい。異常成長の発生を防止するためである。
3.3 ZnO系半導体層(高温成長単結晶層)12の成長条件
サブナノレベルで平坦で、かつ単結晶性に優れた第2のZnO層(第2の単結晶層)11Bの上に、2次元結晶成長モード(横方向成長モード)での成長が行われる条件を用い、ZnO系半導体層(高温成長単結晶層、第3の単結晶層)12を成長している。
ここで、本実施例においては、ZnO層11Bの上に、酸素を含まない有機金属化合物材料(DMZn)と水蒸気を用い、高温成長(800℃)とし、成長圧力をZnO層11Bの場合と同様に、ZnO層11Aの成長圧力よりも高い80kPaとして、ZnO層11B上にMgxZn(1−x)O結晶層(第2の結晶層)12の成長を行う場合を例に説明した。また、成長速度が17nm/minで、成長層厚が1μmの場合を例に説明した。
しかし、上記実施例において示したZnO層11B上へのZnO系半導体層12の成長条件は例示にすぎず、これらに限定されない。成長条件を変えてZnO層11B上にZnO系半導体層を成長し、平坦性及び単結晶に優れたZnO系半導体層12を成長するための条件について検討した。以下に、第2のZnO層(第2の単結晶層)11B上にZnO系半導体層(第3の単結晶層)12を成長する場合の成長条件について詳細に説明する。
<成長圧力>
成長圧力を高くすることによって結晶性が向上することがわかった。すなわち、成長圧力を高くすると成長表面のH2O(水蒸気)密度を高くできるので、特に点欠陥を防止できる。結晶性が良好で、ZnO系半導体層(高温成長単結晶層)表面に凹凸やピットが無く平坦な結晶成長面を得るには、高い成長圧力が望ましいことがわかった。具体的には、成長圧力は40kPa以上が好ましい。また、60kPa以上がより好ましく、80kPa以上であることがさらに好ましい。上限としては、120kPa程度が適切である。尚、この上限値はMOCVD装置の気密性の上限値であり、成膜条件ではない。
<成長温度>
成長温度が高温になるに従い転移密度が減少して結晶性が向上するとともに、平坦性が向上することがわかった。具体的には、横方向成長(2次元成長モード)が促進され、c軸に直交する面(C面)が平坦化される650℃以上が良い。上限はH2O(水蒸気)で成長が困難になる850℃程度である。特には、700℃〜810℃の温度範囲内が好ましく、さらに好ましくは740℃〜810℃である。
<成長速度>
成長速度は、5〜60nm/minの範囲内であることが好ましい。成長速度が60nm/min以上では異常成長が発生し易くなる。
<結晶組成>
ZnO系半導体層12としては、例えば、MgxZn(1−x)O (0≦x≦0.43)結晶を用いることができる。しかし、Mg組成xが大きくなると、a軸方向の格子定数差が大きくなり成膜した半導体結晶層の欠陥密度が高くなるので、0≦x≦0.3の範囲内であることがより好ましい。
また、上記したように、ZnO系半導体層12は、ZnOベースの他の化合物結晶であってもよい。例えば、Zn(亜鉛)の一部がCaで置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよく、あるいは、O(酸素)の一部がSe、SやTeなどで置き換えられたZnO系化合物結晶であってもよい。
<材料ガス>
高温での成長は、結晶成長面における反応化学種のマイグレーション長が十分得られ高品質なZnO結晶が成長可能になる。反面、酸素源になる気体材料の基板表面への付着が困難になり、成長が阻害される。酸素源として、分子内での分極が大きく、高温においても基板表面に吸着するH2O(水蒸気)が適している。
Zn源としては、酸素を含まず、酸素源材料と高い反応性を有する有機金属化合物が好適である。上記したDMZnの他には、例えば、DEZn(ジエチル亜鉛)がある。Mg源としては、Cp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)がある。
以上、詳細に説明したように、基板との界面に基板由来のアルミニウム(Al)が固溶した固溶層と、Alが高濃度に拡散した高濃度拡散層を形成することによって、電流密度分布の面内不均一が改善される。半導体発光素子構造においては、均一な電流密度分布によって発光領域面内の発光強度分布が大きく改善された。また、電流密度分布が均一化されたことによって発光層への電流注入効率も高まり、発光強度も向上した。