JP5534815B2 - ポリエーテルエーテルケトン、及び、ポリマー材料の精製方法 - Google Patents

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Description


本発明は、特定の分子量組成を有するポリエーテルエーテルケトン、これを含む樹脂組成物、その製造方法、及び、当該重合体等のポリマー材料の精製方法に関する。

ポリエーテルエーテルケトンは、非常に高い耐熱性を有する熱可塑性樹脂であり、さらに耐薬品性や難燃性に優れ、高度の機械的強度や寸法安定性を備えたスーパーエンジニアリングプラスチックの1種である。当該重合体は、これらの優れた特性のために、自動車部品用途として使用されており、特にエンジン部品の性能向上と軽量化を図るために金属製のエンジン部品を代替する材料としての利用が知られている。さらには、電線の絶縁被覆や、電気・電子関連部品、鉛フリーはんだ素材や、電子回路基板、薬品、溶剤、腐食性ガス製造ラインの部品での利用も知られている。
当該重合体の製造方法としては種々知られているが、工業的な製造法としては、ヒドロキノンと、両端にフッ素等のハロゲン基を有するベンゾフェノンとを、塩基の存在下に求核置換反応させて重合させる方法が最も一般的である。このような方法においては、性質の良好なポリエーテルエーテルケトンを得るために、ジフェニルスルホンを重合溶媒として使用することが広く知られている。この点については特許文献1〜4等を参照することができる。現在ポリエーテルエーテルケトンは、主にビクトレックス社から商品名PEEKとして市販されているが、これら市販品も、前記文献の開示内容に沿って、重合溶媒としてジフェニルスルホンを使用して製造されているものである。

しかしながら市販されているポリエーテルエーテルケトンは、成形流動性に乏しいことが知られている。複雑な形状を持つ成形体を射出成形により簡単に製造するには、良好な成形流動性、すなわち低い溶融粘度が要求される。ポリエーテルエーテルケトンを低分子量化すると溶融粘度は低下するものの、成形体の機械物性が低下するので、良好な成形流動性と機械物性を両立させるのは困難であった。

一方、特許文献6には、重合溶媒としてスルホランを使用してポリエーテルエーテルケトンを製造する方法が記載されている。この文献では、このようにして得られたポリエーテルエーテルケトンの成形流動性に関しては、MIの数値は記載されているものの測定条件が不充分なために不明である。
ところで、ジフェニルスルホンは水に対して不溶性で、かつ高沸点(379℃)であるために、重合後に重合体とジフェニルスルホンを分離して重合体中の無機塩を精製するために、有機溶剤を用いたジフェニルスルホンの分離工程、及び水による精製工程が必要であった。特に、有機溶剤での分離工程では、例えば特許文献5ではアセトン(2回)、水(3回)、アセトン/エタノール(2回)を連続的に使用して、無機塩および溶剤のジフェニルスルホンを除去する方法が述べられている。このため、樹脂の分離に時間がかかり、また、大量の有機溶剤を消費するため、生産コストが上昇する原因になっていた。
さらに、このように煩雑な分離工程、及び水による精製工程を行っても、重合反応時の塩基に由来するアルカリ金属イオンが不純物として、製品の樹脂に混入することを回避することができなかった。この点は、高純度品が特に要求されている電気・電子関連部品に関わる用途への適用を制限することとなっていた。
特許文献7では、高圧(例えば、6.0X10パスカル)および高温(例えば、260℃)の液体の水を用いて精製する方法が述べられている。この方法により、得られた樹脂中のアルカリ金属イオンを含む不純物量は低減されているが、その実施には特殊な耐圧装置が必要となるため、設備が非常に大掛かりなものになり、生産コストが上昇する原因になっていた。
米国特許4,176,222号明細書 米国特許4,320,224号明細書 米国特許4,711,945号明細書 米国特許5,116,933号明細書 特開昭59−93724号公報 中国特許出願公開第1817927号明細書 特表2004−526859号公報

本発明者らが検討したところ、従来のポリエーテルエーテルケトン重合体には、以下の欠点があることが判明した。

(1)ポリエーテルエーテルケトンの優れた重合溶媒として知られるジフェニルスルホン中で重合して得られたポリエーテルエーテルケトンは、成形流動性が乏しく、複雑な形状を持つ成形体を射出成形により簡単に製造することは困難であった。
(2)上述のジフェニルスルホン中で重合して得られたポリエーテルエーテルケトンの成形流動性を良好にすることを目的に低分子量化すると、成形体において充分な機械物性が得られなかった。
(3)重合溶媒としてスルホランを使用して得られたポリエーテルエーテルケトンは、上述のジフェニルスルホン中で重合して得られたポリエーテルエーテルケトンと比較して機械物性は同等でありながら、成形体を200℃程度の高温下に放置しておくと成形体表面に粉状物質が発生するという問題があることが判明し、熱安定性に課題があった。

そこで、第一の本発明は、上記現状に鑑み、成形流動性、機械物性、及び、熱安定性に優れたポリエーテルエーテルケトンを提供することを目的とする。
一方、ポリエーテルエーテルケトンを始めとするポリマー材料の精製には、以下の欠点があった。
(1)最も優れたポリエーテルエーテルケトン類の重合溶媒として知られているジフェニルスルホンは水に対して不溶性で、かつ高沸点(379℃)であるために、ポリマー材料の原料となるモノマーの重合後に樹脂とジフェニルスルホンを分離して樹脂中の副生成物である無機塩を除去するために、有機溶剤を用いたジフェニルスルホンの分離工程、及び水による精製工程が必要であった。特に、有機溶剤での分離工程では、例えばアセトンやエタノールを使用して何度も抽出作業を行って、溶剤のジフェニルスルホンを完全に除去する必要があった。このため、樹脂の分離に時間がかかり、また、大量の有機溶剤を消費するため、ポリマー材料の生産コストの上昇につながっていた。
(2)上述のように煩雑な分離工程、及び水による精製工程を行っても、重合反応時の塩基に由来するアルカリ金属イオンが不純物として、製品の樹脂に混入することを回避することができなかった。この点は、高純度品が特に要求されている電気・電子関連部品に関わる用途への適用を制限することとなっていた。
(3)アルカリ金属イオンが低減された高純度な樹脂は、高圧かつ高温な水を使用することにより得られるが、耐圧設備を必要とし、設備が非常に大掛かりなものになり、設備費の上昇につながっていた。

そこで、第二の本発明は、上記現状に鑑み、前記ポリマー材料の精製工程をローコストで簡便に実施することができ、かつ極めて高純度のポリマー材料を与えることができる精製方法を提供することを目的とする。

本発明者らは、特定の分子量組成を有する新規のポリエーテルエーテルケトンが、成形流動性、機械物性、及び、熱安定性に優れていることを見出した。
さらに本発明者らは、100℃以上の温度で水溶性の非プロトン溶媒と前記ポリマー材料を混合した後、得られた混合物と、本質的に水からなる溶剤とを混合することにより、まったく意外なことに、超高圧高温の水を使用せず、大気圧下でも当該ポリマー材料を簡便に精製できる方法を見出した。また、当該方法によると、極めて簡便に、ポリマー材料中のアルカリ金属イオンなどの不純物を低減でき、かつ前述した特定の分子量組成を有するポリマー材料が得られることをも見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち第一の本発明は、下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、
前記ポリエーテルエーテルケトンが、
(A)分子量が5000以上200万未満の重合成分、及び、
(B)分子量が1000以上5000未満の重合成分を含有し、
(A):(B)の重量比が60:40〜97:3であり、

(C)分子量が100以上1000未満の重合成分の含量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対して0〜0.2重量%未満であり、且つ
前記ポリエーテルエーテルケトンの最大ピーク分子量が5000以上200万未満の範囲に存在する多峰性の分子量分布を有する、ことを特徴とするポリエーテルエーテルケトンに関する。

また第一の本発明は、ポリエーテルエーテルケトン、及び、強化充填材を含有する樹脂組成物にも関する。
第二の本発明は、

(A)フェニル部分と、
(B)カルボニル部分およびスルホン部分の少なくともいずれかと、
(C)エーテル部分およびチオエーテル部分の少なくともいずれかを含む種類のポリマー材料を精製する方法であって、

前記ポリマー材料を100℃以上の温度で水溶性の非プロトン溶媒と混合し、得られた混合物と、本質的に水からなる溶剤とを混合した後、前記水溶性の非プロトン溶媒と前記本質的に水からなる溶剤から前記ポリマー材料を分離することを含むことを特徴とする方法に関する。

第一の本発明によるポリエーテルエーテルケトンは、成形流動性に優れているので複雑な形状を有する成形体であっても容易に製造でき、かつ、製造された成形体は、良好な機械物性と優れた熱安定性を保持している。
第二の本発明は以下の効果を奏するものである。
(1)アルカリ金属イオン等の不純物の含有量が極めて少ないポリマー材料を得ることができる。この点は、高純度品が特に要求されている電気・電子関連部品に関わる用途で有用である。
(2)アルカリ金属イオン等の不純物の含有量が極めて少ないポリマー材料を、超高圧高温水を用いることなく、10気圧未満の圧力下で水溶性の非プロトン溶剤と水を用いて得ることができる。したがって、精製に必要なエネルギーを低減することができると同時に、特殊な耐圧設備を必要としないために低コストで精製工程を実施することができる。
(3)上述した成形流動性、機械物性、及び、熱安定性に優れたポリエーテルエーテルケトンを簡便に製造することができる。
実施例1で得られたポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線(なお、横軸は分子量を対数で示し、縦軸は、ピーク面積が1.0になるようにプロットされ、d(重量)/d(分子量の対数)を示す。以下同じ。) 実施例2で得られたポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 実施例3で得られたポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例1で得られたポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例2で得られたポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例3で得られたポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例4のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例5のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例6のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例7のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例8のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例9のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線 比較例10のポリエーテルエーテルケトンの分子量分布曲線
まず、第一の本発明に係るポリエーテルエーテルケトンを説明する。

ポリエーテルエーテルケトンとは、下記式(1):
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
(式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
で示される繰り返し単位を含む重合体である。

Ar及びAr′におけるフェニル環上の置換基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。しかし、Ar及びAr′は無置換のp−フェニレン基を表すことが好ましい。

本発明のポリエーテルエーテルケトンとしては、1種類の繰り返し単位から構成される単独重合体であってもよいし、2種類以上の繰り返し単位から構成される共重合体であってもよい。好ましくは、前記式(1)で表される繰り返し単位1種類から構成される単独重合体である。

また、前記式(1)で表される繰り返し単位と、これ以外の繰り返し単位との共重合体であってもよい。当該他の繰り返し単位としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−SO−Ar−O−Ar−O−
−Ar−SO−Ar−O−Ar−A−Ar−O−

ここで、Ar、及びAは前述のとおりである。
原料たるモノマーの構成比を調整することによって、前記重合体の末端を、フッ素原子等のハロゲン原子とすることもできるし、水酸基とすることもできる。一般にはフッ素原子が重合体末端にあることが好ましい。また、重合体末端に末端封止剤を反応させることにより、ハロゲン末端や水酸基末端を、フェニル基等の不活性置換基に置き換えたものでもよい。

第一の本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、特定の分子量組成を有するものである。当該重合体の分子量組成を、(A)分子量が5000以上200万未満の重合成分、(B)分子量が1000以上5000未満の重合成分、及び、(C)分子量が100以上1000未満の重合成分という3つの成分に分割した場合に、(A)成分:(B)成分の重量比が60:40〜97:3であり、(C)成分の含量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対して0〜0.2重量%であることを特徴とする。なお、本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、分子量が200万以上の重合成分を実質的に含有しないが、極めて微量の成分が排除限界分子量付近で観察されてもよい。

本発明のポリエーテルエーテルケトンでは高分子量成分(A)が分子量組成の主要部分を占めるが、中分子量成分(B)も無視できない量存在する。この中分子量成分の存在によって、本発明のポリエーテルエーテルケトンの成形流動性が従来品のそれよりも向上する。一方、現在市販されているビクトレックス社製のポリエーテルエーテルケトンVictrex 450PFなどは後の比較例で示すように(A):(B)の重量比が98:2であり、(B)成分の含量が少ないために成形流動性に乏しい。

本発明において(A):(B)の重量比は必要な成形流動性と機械物性のバランスの観点から60:40〜97:3の範囲内で適宜決定すればよいが、(B)成分が多いと機械物性が低下する傾向があることから、機械物性を保持しながら成形流動性を向上させる観点から、80:20〜97:3の範囲が好ましく、90:10〜97:3の範囲がより好ましく、最も好ましくは95:5〜97:3の範囲である。
さらに本発明のポリエーテルエーテルケトンは、分子量が1000以下の(C)成分を、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対して0.2重量%以下と極微量含有するか、又は、含有しない((A)成分と(B)成分の合計量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対して98.8重量%以上である)。低分子量成分(C)は成形体の熱安定性に関与し、(C)成分の含量が0.2重量%以下であると、製造された成形体を高温下で保持した場合に、成形体表面に粉状物質が発生するといった現象は観察されない。特許文献6に記載の、スルホランを重合溶媒として得られたポリエーテルエーテルケトンは、0.4重量%以上という比較的高濃度で(C)成分を含有し、上記の粉状物質発生の欠点を有するものであった。
本発明において(C)成分は少ないほど好ましいので、(C)成分の含量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対して0.1重量%以下であることがより好ましく、0.0重量%であることが最も好ましい。

以上の分子量組成を決定するにあたって、ポリエーテルエーテルケトンの分子量は、ガス浸透クラマトグラフを用い、ポリスチレン基準で測定する。

本発明のポリエーテルエーテルケトンは、分子量で5000以上200万未満の高分子量の範囲に最大ピーク分子量を有する。最大ピーク分子量とは、図1〜13に示すような分子量分布を示すグラフにおいて、重合体全体に占める、ある分子量における重量割合が最大を示す場合の、その分子量のことをいう。最大ピーク分子量は成形体の機械物性に大きく影響するので、求められる物性に応じて5000以上200万未満の範囲内で適宜決定すればよいが、1万〜50万の範囲内に存在することが好ましく、3万〜20万の範囲内に存在することが最も好ましい。この高分子量の範囲内には最大ピーク以外にも比較的小さなピークを有しても良い。

また本発明のポリエーテルエーテルケトンは、二峰性以上の多峰性の分子量分布を有する。特に、分子量で1000以上5000未満の中分子量の範囲に、前記最大ピーク分子量よりも小さい、ピーク分子量を有することが好ましい。当該ピーク分子量は、前記最大ピークに次いで2番目に高い分子量であることが好ましい。このように中分子量の範囲にピーク分子量を有すると、容易に(B)成分の重量比が3重量%以上になり得る。一方、市販品のビクトレックス社製ポリエーテルエーテルケトンは、単峰性の分子量分布を有し、多峰性の分子量分布は示さない。
なお、分子量1000以上5000未満の範囲には、通常の鎖状重合体に加えて、重合末端同士が結合して生じる環状の重合体も含まれていると考えられる。この環状重合体が形成されることで、1000以上5000未満の中分子量成分(B)の含量が増加し、この範囲にピークが生じるものと推定される。
本発明のポリエーテルエーテルケトンの数平均分子量は、上述した最大ピーク分子量と同様、成形体の機械物性に大きく影響するので、所望の物性に応じて適宜決定すればよいが、1万〜5万の範囲であることが好ましく、1万5千〜4万の範囲であることが最も好ましい。分子量の測定方法は上述と同様である。

本発明におけるポリエーテルエーテルケトンは、十分な機械物性を達成するために、当該重合体を0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.40dL/g以上を示すことが好ましい。より好ましくは0.50dL/g以上であり、さらに好ましくは0.60dL/g以上であり、特に好ましくは0.80dL/g以上である。溶液粘度が0.40dL/gより低いポリエーテルエーテルケトンは脆く、成型用途に使用するのに適していない。溶液粘度が2.5dL/gを超えると溶融粘度が高すぎて成型加工性が悪く使用できないので、溶液粘度が2.5dL/g以下、特に1.8dL/g以下であるポリエーテルエーテルケトンが好ましい。当該溶液粘度は、具体的には、ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めることができる。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL
本発明のポリエーテルエーテルケトンは、後述のように、当該ポリエーテルエーテルケトン中のナトリウムカチオン濃度として、25ppm未満、適切には20ppm未満、好ましくは15ppm未満、より好ましくは10ppm未満、特に好ましくは5ppm未満に到達することが可能である。

本発明では機械的強度や耐熱性などを改善する目的で、ポリエーテルエーテルケトンに強化充填剤を添加して樹脂組成物とすることができる。強化充填剤としては特に限定されず、樹脂に配合して樹脂を強化するものであれば、有機充填剤でも無機充填剤でもよい。形状についても、ガラス繊維、炭素繊維、各種ミルドファイバーなどに代表される繊維状充填剤、炭酸カルシウム、窒化硼素、シリカ、ガラスビーズ、セラミック粉末などに代表される球状充填剤、タルク、マイカ、ガラスフレークなどに代表される板状充填剤、有機化クレー、カーボンナノチューブに代表されるナノサイズ充填剤などを任意に使用することができる。
強化充填材を添加する場合、その添加量は、ポリエーテルエーテルケトン100重量部に対して10〜250重量部であることが好ましく、より好ましくは30〜210重量部、さらに好ましくは60〜180重量部である。添加量が10重量部未満では強化充填材を添加する意義が乏しく、250重量部を越えると成形流動性や押出加工時の安定性が低下する傾向にある。

さらに、本発明のポリエーテルエーテルケトン又は樹脂組成物には、通常の樹脂用添加物、例えば、酸化防止剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤、分散剤、相溶化剤、蛍光増白剤、難燃剤、難燃助剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加することもできる。

本発明のポリエーテルエーテルケトンと強化充填剤の組成物の製造方法としては特に限定されないが、単軸、二軸等の押出機、プラストミル、ブラベンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いて混練する方法が挙げられる。なかでも、作業性や、強化充填材の分散性が優れることから、二軸押出機が好ましい。二軸押出機を用いた混練方法としては、例えば、樹脂成分と強化充填剤をドライブレンドしたものをホッパーより投入し混練する方法、樹脂成分をホッパーより投入し、強化充填剤をサイドフィーダーより投入する方法、樹脂成分と強化充填剤の混練物をホッパーより投入し、更に強化充填剤をサイドフィーダーより追加投入する方法などが例示できる。
本発明のポリエーテルエーテルケトン及び樹脂組成物は成形体に加工して使用することができる。成形体を得るための加工法としては特に限定されないが、例えば、射出成形、インモールド成形、ブロー成形(中空成形)、押出成形(共押出成形を含む)、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、圧縮成形等が挙げられる。
前記成形体の代表的な利用分野としては、自動車部品用部材、半導体の処理工程で用いられる部材、電気電子用部材、一般工業用部材、医療用部材、食品加工用部材、航空宇宙用部材が挙げられる。各利用分野における用途を具体的に挙げると、自動車部品用部材としては、シールリング、スラストワッシャーなどのトランスミッション関連部材、ターボチャージャーファン、オイルポンプ、ワッシャー、インペラーなどのエンジン周辺部材、ステアリングコラムアジャスト、ボールジョイント、センサー、オイルシール部品、オイルフィルター、ダンパー部材、プランジャー、クラッチ部材、アクチュエータ、各種ギヤ、バルブリフタ、各種の流量調整ピストンなどが挙げられる。半導体の処理工程で用いられる部材としては、CMPリテーナリング、ウエハキャリア、FOUP、エッチングリング、ガスケット、チップトレイ、スピンチャック、ウエハ吸着テーブル、ウエハバスケット、ローラー、ソケット、ウエハ保持具、ウエハ輸送用ピンセット、ウエハ輸送用アーム、ウエハ洗浄工程ローラーなどが挙げられる。電気電子用部材としては、プリント回路基板、変圧器、絶縁フィルム、搬送用ローラーユニット、電位差計、スピーカー部品、抵抗器、掃除機インペラー、携帯電話ヒンジ、電熱ヒーター部品、コンデンサ、スイッチ、リレー、LED部品、コネクタ、スピンチャック、ベアリングゲージなどが挙げられる。一般工業用部材としては、ネジ、ボルト、パイプ、ファスナー、メーター、ローラーのスリーブ、各種容器、継ぎ手、軸受け、インナーケーブル、ブッシュ、バルブ、ポンプ部品、コンプレッサー部品、OA用分離爪、ハウジングなどが挙げられる。医療用部材としては、滅菌器具、ガスクロマトグラフィー部材、液体クロマトグラフィー部材、人工骨、チューブ、プロセス用配管などが挙げられる。食品加工用部材としては、破砕器、コンベアベルトチェーン、コーティングなどが挙げられる。航空宇宙用部材としては、電線被覆部材、ケーブル保護部材、ジェットエンジン、キャビンの内装材などが挙げられる。

ポリエーテルエーテルケトンを合成するには、例えば、下記式(2)で表される4,4′−ジハロベンゾフェノン類と、下記式(3)で表されるヒドロキノン類との重合反応を、スルホラン、ジフェニルスルホン等の重合溶媒中、200〜400℃程度の温度で、塩基の存在下で行うことができる。
X−Ar−C(=O)−Ar−X (2)
RO−Ar−OR (3)
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp−フェニレン基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子、R′−基、R′C(O)−基、R′OC(O)−基、R′Si−基、又はR′NC(O)−基を表す。ここでR′は、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
式(2)で表される4,4′−ジハロベンゾフェノン類としては、例えば、4,4′−ジフルオロベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン等が挙げられるが、Arが無置換のp−フェニレン基、Xがフッ素原子である4,4′−ジフルオロベンゾフェノンが好ましい。式(3)で表されるヒドロキノン類としては、Arが無置換のp−フェニレン基、Rが水素原子であるp−ヒドロキノンが好ましい。
4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)と、ヒドロキノン類(3)とのモル比を調整することによって、重合体末端に導入される基の種類(フッ素原子等のハロゲン原子、又は水酸基等の−OR基)や、分子量を調整することができる。すなわち、4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)のモル数がより多い場合には、フッ素原子等のハロゲン原子が(おそらく)末端に導入され、ヒドロキノン類(3)のモル数がより多い場合には、水酸基等の−OR基が末端に導入される。また、両者のモルの差が小さい(すなわちモル比か1:1に近い)ほど、重合体の分子量は大きくなり、モル差が大きくなると、重合体の分子量は小さくなる。末端にフッ素原子等のハロゲン原子を導入する場合には、通常、両者のモル比は1.1:1〜1.0001:1の範囲内に調整される。すなわち、通常、ヒドロキノン類(3)に対して4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)が0.01〜10モル%多く、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.1〜2モル%である。一方、末端に水酸基等の−OR基を導入する場合には、通常、両者のモル比は1:1.1〜1:1.0001の範囲内に調整される。すなわち、通常、4,4′−ジハロベンゾフェノン類(2)に対してヒドロキノン類(3)が0.01〜10モル%多く、好ましくは0.1〜5モル%、より好ましくは0.1〜2モル%である。
以上の重合反応は、塩基による求核置換反応に基づいた重縮合によって達成されるものである。前記塩基の具体例としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、アルキル化リチウム、リチウムアルミニウムハライド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムハイドライド、ナトリウムアルコキサイド、カリウムアルコキサイド、フォスファゼン塩基、Verkade塩基等が挙げられる。これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
塩基は、通常、モル基準でヒドロキノン類(3)よりも多く使用されるが、ヒドロキノン類(3)に対して30モル%以下の範囲で多いことが好ましく、10モル%以下の範囲がより好ましく、1〜5%の範囲が特に好ましい。
前記重縮合反応は有機溶媒中で行うものであるが、有機溶媒としては、例えば、スルホラン、及び/又は、ジフェニルスルホンを用いることができる。重合溶媒は、系の固形分が90重量%以下となるような量で使用すればよい。好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは15〜30重量%である。
また、系中の水を共沸によって効率よく除去するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の共沸溶媒を反応系に補充することが好ましい。
本反応は系を加熱することによって進行する。具体的な反応温度としては、系の還流温度以下であればよく、重合溶媒としてスルホランを使用する場合は、通常300℃未満、好ましくは200℃〜280℃の範囲、より好ましくは230〜260℃の範囲である。重合溶媒としてジフェニルスルホンを用いる場合には、通常300℃以上、好ましくは320〜340℃の範囲である。これらの温度を維持することによって反応が効率よく進行する。
反応時間は特に限定されず、所望の粘度又は分子量を考慮して適宜設定すればよいが、通常、24時間以下であり、好ましくは12時間以下であり、より好ましくは6時間以下、特に好ましくは1〜3時間である。

本発明による特定の分子量組成を示すポリエーテルエーテルケトンは、分子量が異なる2種類のポリエーテルエーテルケトンを混合することによって調製することができる。具体的には、分子量で5000以上200万未満の高分子量の範囲に単一ピークを示すポリエーテルエーテルケトンと、分子量で1000以上5000未満の中分子量の範囲に単一ピークを示すポリエーテルエーテルケトンとを、前述した(A)成分:(B)成分の重量比を満足できるような割合で混合すればよい。この場合、使用する単一ピークを持つ2種類のポリエーテルエーテルケトンとしては、(C)成分の含量が十分に少ないものを選択する必要があるが、ビクトレックス社製の市販品など、重合溶媒としてジフェニルスルホンを用いて製造された重合体は、単一ピークを持ち、(C)成分の含量が少ないものであるので、これを使用することができる。
また、重合溶媒としてスルホランを用いて製造された重合体は、(A):(B)の重量比は上述の範囲を満足するものの、(C)成分の含量が多いものであるが、後述する本発明の精製方法を適用することによって、(C)成分の含量を低減して本発明のポリエーテルエーテルケトンを得ることができる。

次に第二の本発明の精製方法を説明する。
第二の本発明の精製方法によれば、
(A)フェニル部分と、
(B)カルボニル部分およびスルホン部分の少なくともいずれかと、
(C)エーテル部分およびチオエーテル部分の少なくともいずれかを含む種類のポリマー材料を精製する方法であって、
前記ポリマー材料を100℃以上の温度で水溶性の非プロトン溶媒と混合し、得られた混合物と、本質的に水からなる溶剤とを混合した後、前記水溶性の非プロトン溶媒と前記本質的に水からなる溶剤から前記ポリマー材料を分離することを含む。

前記ポリマー材料は以下に示した繰り返し単位を有し、これらは単独であっても、これらの組み合わせであってもよい。

−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−O−
−Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
−Ar−SO−Ar−O−Ar−O−
−Ar−SO−Ar−O−Ar−A−Ar−O−
式中、Arは、同一又は異なって、置換又は無置換のp−フェニレン基を表す。
フェニル環上の置換基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。

一単位中に含まれるArはすべて同一であってもよいし、異なるものであってもよいが、すべてのArが無置換のp−フェニレン基を表すことが好ましい。
Aは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−、−CO−、又は2価の炭化水素基を表す。
前記ポリマー材料の具体的な種類としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等が挙げられるが、第二の本発明は、ポリエーテルエーテルケトンに対して特に好適に適用することができる。ポリエーテルエーテルケトンは上述した式(1)で示される繰り返し単位を含むものであってよい。
これらポリマー材料の製法は特に限定されるものではないが、求電子的または求核的な反応により製造される。
第二の本発明の精製方法を実施するにあたっては、まず、前記ポリマー材料を100℃以上の温度で水溶性の非プロトン溶媒と混合する。使用するポリマー材料の形状は特に限定されず、粉末、ペレット、顆粒等の形状であってよい。あるいは、すでに成形した製品を使用することもできる。また、前記ポリマー材料の重合溶媒として水溶性の非プロトン溶媒を使用した場合には、重合後の反応液をそのまま、本発明の方法に適用することができる。
水溶性の非プロトン溶媒としては、水と任意の割合で混合する溶媒であり、かつ非プロトン性のものである。すなわちアルコール類や、カルボン酸類は除外される。当該溶剤とポリマー材料との混合は100℃以上で行われるが、この際、前記溶剤は液体の状態で使用されるので、前記溶剤としては沸点が100℃以上のものを選択する。具体的には、スルホラン(沸点287℃)、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、ジメチルホルムアミド(沸点153℃)、ジメチルアセトアミド(沸点166℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(沸点224℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)等が挙げられる。これらは1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。なかでも、不純物除去の効率性の観点から、スルホランが最も好ましい。なお、本発明の効果を達成することができる範囲で他の高沸点溶媒を併用してもよい。
前記ポリマー材料を水溶性の非プロトン溶媒と混合する際の温度は100℃以上であればよいが、より高温である方が、不純物を効率よく除去することができるため、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。その温度の上限は使用する溶剤の沸点であり、例えば非プロトン溶剤としてスルホランを使用する場合には、スルホランの沸点287℃以下で混合すればよい。
前記ポリマー材料と前記水溶性の非プロトン溶媒の混合時の圧力としては特に限定されないが、好ましくは10気圧未満の圧力下で、より好ましくは大気圧以上10気圧未満の圧力下で、最も好ましくは大気圧下で好適に実施することができる。
前記水溶性の非プロトン溶媒の使用量は、特に限定されるものではなく、不純物の除去率を考慮して適宜決定すればよいが、前記ポリマー材料100重量部に対して10〜3000重量部が好ましく、より好ましくは100〜2000重量部、さらに好ましくは200〜1500重量部である。当該使用量が少なすぎると十分に不純物を除去することができない場合があり、多すぎると装置が大規模になり好ましくない。
100℃以上でポリマー材料と前記溶媒を混合すると、ポリマー材料の一部又は全部が前記溶媒に溶解する傾向にある。しかし、必ずしも全体が均一に溶解する必要があるわけではなく、通常は一部分(例えば、固体表面や、一部の粒子)しか溶解しない。たとえ一部分が溶解しただけであっても、不純物量を低減する効果を達成できる。これによって、ポリマー材料中に取り込まれていたアルカリ金属イオンを、水溶性の非プロトン性溶媒中に放出させることができるものと考えられる。
前記混合は、100℃以上の所定の温度に加熱した前記非プロトン溶媒に固体のポリマー材料を添加することによって行ってもよいし、常温で前記非プロトン溶媒と固体のポリマー材料とを混合した後、所定の温度に加熱することによって行ってもよい。
得られた混合物は、100℃以上の所定の温度で一定時間保持することが好ましい。これによって不純物の除去効率を向上させることができる。当該保持の時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは10分〜12時間、さらに好ましくは30分〜6時間である。当該保持の期間は、混合物を機械的に攪拌することが好ましい。
以上の処理が終了した後、次の工程との関連から、当該混合物を100℃未満の温度に冷却することが好ましい。当該冷却は何らかの冷却装置を使用して強制的に行ってもよいし、常温で放置することによって行ってもよい。なお、非プロトン溶剤としてスルホランを使用した場合には、スルホランの融点が27.5℃と低いために、常温まで冷却すると、前記混合物は固化する場合が多い。
以上のようにして得られた混合物を、次いで、本質的に水からなる溶剤と混合する。
前記本質的に水からなる溶剤とは、実質的に水のみからなる溶剤のことをいうが、前記水溶性の非プロトン溶媒と溶解し、かつ不純物を除去することができる範囲で他の溶剤(特に、メタノールやエタノール等の水溶性溶媒)を含んでいてもよい。具体的な水の含量としては、前記溶剤の総量のうち水が90重量%以上を占めることが好ましく、95重量%以上が好ましく、99重量%以上がさらに好ましい。最も好ましくは水のみからなる溶剤である。ここで使用する水としては、脱イオン水が好ましい。このように本質的に水からなる溶剤を混合することによって、アルカリ金属イオン等の水溶性不純物の、溶剤中への溶解度が向上し、効率よく精製を行うことができるものと考えられる。

本質的に水からなる溶剤の全使用量は、特に限定されるものではなく、不純物の除去率を考慮して適宜決定すればよいが、ポリマー材料と前記水溶性の非プロトン溶媒との混合物100重量部に対して、好ましくは100〜5000重量部、より好ましくは200〜3000重量部、さらに好ましくは200〜2000重量部である。本質的に水からなる溶剤は一括で添加してもよいし、分割で添加してもよい。非プロトン溶媒での洗浄工程と、本質的に水からなる溶剤による洗浄工程のサイクルを複数回、行ってもよい。

前記ポリマー材料と前記非プロトン溶媒との混合物と、本質的に水からなる溶剤が混合された系は、不純物の除去効率を向上させるため、必要に応じて攪拌しながら、所定の温度下で一定時間保持することが好ましい。その保持時間は特に限定されないが、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは10分〜12時間、さらに好ましくは30分〜6時間である。前記所定の温度は特に限定されるものではないが、高温での保持によって、不純物をより効率的に除去することが可能になることから、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、最も好ましくは100℃以上である。すなわち、水が沸騰している条件下で前記混合系を保持することが最も好ましい。ただしこの際の圧力に関しては特に限定されないが、超高圧(例えば6x10パスカル)であれば特殊な耐圧設備が必要となることから、このような設備を必要としない10気圧未満の圧力であることが好ましく、大気圧以上10気圧未満の圧力であることがより好ましく、大気圧であることがさらに好ましい。
得られた混合系では、溶剤同士が相溶しているので液相は実質的に一相となり、その液相に固体のポリマー材料が含まれることになる。
得られた混合系を処理操作に適した温度に冷却した後、前記水溶性の非プロトン溶媒と前記本質的に水からなる溶剤とからなる液相と、前記ポリマー材料からなる固相とを、例えばろ過等によって分離し、分離したポリマー材料を、必要に応じて脱イオン水で洗浄し、乾燥させることによって、精製されたポリマー材料を得ることができる。なお、このポリマー材料に対して、再度水を添加し、加熱を行うと、より高純度を達成することができる。
以上の第二の本発明の精製方法は、一連の操作を、好ましくは10気圧未満の圧力下で、より好ましくは大気圧以上10気圧未満の圧力下で、さらに好ましくは大気圧下で行うことができ、この点において超高圧高温水の使用が必要であった従来法と比較すると、産業上非常に有利である。
本発明は、ポリマー材料からのアルカリ金属イオンの除去、なかでもナトリウムカチオンの除去に適しており、前記ポリマー材料中のナトリウムカチオン濃度として、25ppm未満、適切には20ppm未満、好ましくは15ppm未満、より好ましくは10ppm未満、特に好ましくは5ppm未満に到達することが可能である。また、本発明の好適な態様では、精製される前の前記ポリマー材料中のナトリウムカチオン濃度と精製された後の同濃度との差が、5ppm以上であり、精製される前の前記ポリマー材料中のナトリウムカチオン濃度が、精製された後の同濃度の2倍以上である。
さらに第二の本発明の精製方法によれば、ポリマー材料に含まれる、分子量が100以上1000未満という低分子量重合成分を除去することができるので、第一の本発明における特定の分子量組成を有するポリエーテルエーテルケトンを製造することができる。

以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。

<第一の本発明>

(比較例1)
温度計、窒素ガス導入管、凝縮水分離器及び攪拌器が取り付けられた三つ口反応器にスルホラン(住友精化社製 スルホランSG)164g、4,4′−ジフルオロベンゾフェノン22.04g(0.101mol、ヒドロキノンの使用量0.10molに対して1モル%過量)、ヒドロキノン11.01g(0.100mol)、キシレン25g(溶剤の15重量%)を加えた。その後、攪拌、加熱し、温度が80℃に上昇したら、KCO6.98g(0.0505mol)およびNaCO5.35g(0.0505mol)を加えた。さらに引き続き昇温し、温度が150℃に上昇したら、系が共沸しはじめ、水分離器中でキシレンと水とが凝縮され、上層のキシレンを還流させ、下層の水を絶えず排出した。水を理論量まで回収したとき、上層のキシレンが透明になりはじめ、さらに引き続き系からキシレンを留去し、このとき、系の温度が加熱により絶えず上昇し、温度が260℃になったら恒温を保持した。260℃で3時間持続した後に加熱を停止し放冷した。充分に冷却して得られた固体混合物を、粉砕機で粉砕し得られた粉末材料にイオン交換水400mLを加え、三つ口反応器において1時間煮沸してから濾過し、新たに水400mLで洗い流した。以上の煮沸及び濾過の工程を合計4度繰り返した。
精製後の粉末材料を、真空乾燥装置において120℃で12時間加熱乾燥し、水分含有量を0.5%より低くして粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
(比較例2)
4,4′−ジフルオロベンゾフェノンの使用量を0.1015mol(ヒドロキノンの使用量0.100molに対して1.5モル%過量)に変更したこと以外は比較例1を繰り返して、粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
(比較例3)
4,4′−ジフルオロベンゾフェノンの使用量を0.102mol(ヒドロキノンの使用量0.100molに対して2モル%過量)に変更したこと以外は比較例1を繰り返して、粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。このようにして得られたポリエーテルエーテルケトンのナトリウムカチオン含有量は79ppmであった。
(比較例4)
対照品として、Victrex PEEK 151G(商品名、Victrex社製)を使用した。
(比較例5)
対照品として、Victrex PEEK 450PF(商品名、Victrex社製)を使用した。

(比較例6)

対照品として、Victrex PEEK 381G(商品名、Victrex社製)を使用した。
(比較例7)
対照品として、Victrex PEEK 90G(商品名、Victrex社製)を使用した。

(比較例8)

対照品として、VESTAKEEP 1000G(商品名、ダイセル・エボニック社製)を使用した。

(比較例9)

対照品として、VESTAKEEP 2000G(商品名、ダイセル・エボニック社製)を使用した。

(比較例10)

対照品として、VESTAKEEP 4000G(商品名、ダイセル・エボニック社製)を使用した。

(実施例1)
温度計、冷却管及び攪拌器が取り付けられた反応器に、比較例1で得られた粉末ポリエーテルエーテルケトン20gとジメチルスルホキサイド(DMSO)180gを加えて攪拌し、180℃まで昇温し2時間攪拌した。これを60℃まで冷却した後に濾過し、新たにDMSO100gで洗い流した。以上の180℃2時間加熱及び濾過の工程を合計4度繰り返した。反応器に濾過後の粉末樹脂とイオン交換水140gを入れ室温で1時間攪拌後、濾過しイオン交換水140gで洗い流した。反応器に濾過後の粉末樹脂とアセトン100gを入れ室温で1時間攪拌後、濾過しアセトン100gで洗い流した。得られた粉末樹脂を真空乾燥装置において120℃で12時間加熱乾燥し、水分含有量を0.5%より低くして粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
(実施例2)
実施例1において、比較例1で得られた粉末ポリエーテルエーテルケトンを比較例2で得られた粉末ポリエーテルエーテルケトンに変更したこと以外は実施例1を繰り返して、粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。
(実施例3)
温度計、冷却管及び攪拌器が取り付けられた反応器に、比較例3で得られた粉末ポリエーテルエーテルケトン15gおよびスルホラン170gを加え、攪拌しながら加熱し、温度が260℃になったら恒温を2時間保持した。この混合液を冷却した後に、水300mLを加えて1時間煮沸してから冷却し、濾過し新たに水300mLを用いて洗い流した。以上の煮沸、濾過、洗い流しの工程を合計4回繰り返した。精製後の樹脂を、加熱乾燥装置において120℃で12時間加熱乾燥し、水分含有量を0.5%より低くして粉末状のポリエーテルエーテルケトンを得た。このようにして得られたポリエーテルエーテルケトンのナトリウムカチオン含有量は1.9ppmに低減していた。

(溶液粘度測定法)

ISO1628−1:1998の5.1、又はISO3105:1994の表B4に記載のサイズ番号1C(毛細管直径0.77mm)のウベローデ形粘度計を用いて、25℃で0.1g/dLの95%濃硫酸溶液、及び95%濃硫酸について流出時間を測定し、得られた値を以下の式に代入して求めた。
溶液粘度ηi=ln(t/t0)/c
t:95%濃硫酸溶液の流出時間(秒)
t0:95%濃硫酸の流出時間(秒)
c:溶液濃度、すなわち0.1g/dL

(分子量測定法)
各実施例及び比較例の各ポリエーテルエーテルケトンの分子量分布はGPC装置を用いて以下の条件により測定した。
装置: ゲル浸透クロマトグラフ(GPC) PL−220(PL社製)
検出器:示差屈折率検出器 RI(PL社製)
カラム:Shodex HT−806M(昭和電工社製)2本を直列に接続

溶媒: o−ジクロロベンゼン/p−クロロフェノール(体積比7/3)(ナカライテスク社製/東京化成社製)
流速: 0.7mL/分
温度: 80℃
注入量:0.20mL
各実施例及び比較例において校正曲線は、以下の標準ポリスチレンを用いて作成した。

分子量 500、1.01x10、2.63x10、5.97x10、1.81x10、3.79x10、9.64x10、1.90x10、4.27x10、7.06x10、1.09x10、3.84x10
各実施例及び比較例においてGPC測定用サンプル溶液は次のように調製した。冷却管つきフラスコに、ポリエーテルエーテルケトン0.1gおよびp−クロロフェノール10mLを入れ180℃で20分間攪拌させて溶解させた。ついで該溶液を室温になるまで放冷した。該溶液3mLをo−ジクロロベンゼン7mLで希釈して用いた。

以上により得た数分子量分布の分布曲線を図1〜8に示す。図1〜8はそれぞれ、実施例1〜3及び比較例1〜5に対応する。この分布曲線において、各重合成分:
(A)分子量が5000以上200万未満の重合成分
(B)分子量が1000以上5000未満の重合成分
(C)分子量が100以上1000未満の重合成分
の重量比を以下の方法により求めた。図1〜8において、(A)、(B)及び(C)それぞれに対応する部分をチャートより切り取り、それぞれの重量を測定することにより算出した。その結果を表1に示す。

(評価用ペレットの作成)
ポリエーテルエーテルケトン100重量部を、ノズル部分から溶融部分におけるシリンダー温度を390〜360℃に設定したφ25mm(L/D=41)の同方向二軸押出機により溶融混練した。先端ダイスより排出されたストランドは、長さ約120cmの水槽で冷却し、ペレタイザーに通すことで評価用の押出ペレットを得た。得られたペレットは流動性試験に用いた。
(評価用成形体の作成)

次に、得られたペレットを、ノズル部分から溶融部分におけるシリンダー温度を390〜360℃に設定した型閉め力40t射出成形機に投入し、金型温度190℃の条件下でASTM1号ダンベル試験片(厚み3.1mm)を成形した。得られた評価用成形体は引張試験、曲げ試験及び長期耐熱性の評価に用いた。

(引張試験)

ASTM1号ダンベル試験片を用い、ASTM D638に準拠して引張降伏強度を測定した。試験速度は、5mm/minとし、測定装置は万能材料試験機(インストロン製:5582型)を用いた。

(曲げ試験)
ASTM1号ダンベル試験片を用い、ASTM D790に準拠して曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験速度は、1.3mm/minとし、測定装置は万能材料試験機(インストロン製:5582型)を用いた。
(流動性試験)

押出後のペレットを用い、JIS K7210に準拠して、測定荷重:2.16kg、予熱:5min、測定温度:400℃にて測定を実施した。測定装置は、メルトインデクサー(東洋精機製)を用いた。

(長期耐熱性評価)
ASTM1号ダンベル試験片を、200℃に設定した熱風循環式乾燥機内に250hr静置した。その後、室温まで放冷し試験片表面を指触し、指に白色の微粉末が付着した場合を不良、何も付着しなかった場合を良好と判定した。
以上で得られた結果を表1及び表2に示す。
Figure 0005534815
Figure 0005534815
表1及び表2より、実施例1によって提供された第一の本発明の重合体は、流動性が高いので成形加工性に優れたものでありながら、得られた成形体は良好な機械物性と優れた熱安定性を兼ね備えている。一方、比較例1では、流動性は優れているものの、成形体の熱安定性に乏しく、比較例5では、成形体の熱安定性は良好であるものの、流動性が著しく低下している。

<第二の本発明>
以下の実施例中のナトリウムカチオン濃度は、ICP質量分析法(ICP−MS)を用いて測定した。前処理として、試料約0.1gをPTFE製分解容器に精秤し超高純度硫酸(関東化学社製、Ultrapure)および超高純度硝酸(関東化学社製、EL級)を加え、マイルストーンゼネラル社製マイクロウェーブ分解装置MLS−1200MEGAで加圧酸分解をした。分解液を50mLに定容したのち、適宜希釈して測定溶液とした。Agilient 7500C(ORS付き)(横河アナリティカルシステムズ社製)を使用し、Coを内部標準に用い絶対検量線法で測定した。なお妨害となる分子イオンなどの影響を抑制するため、装置のORSセルに水素ガスを3.5mL/分導入しながら測定した。いずれの場合もナトリウムカチオンの定量下限値は0.5ppm。

(実施例4)
温度計、窒素ガス導入管、凝縮水分離器、及び攪拌器が取り付けられたセパラブルフラスコに、ナトリウムカチオンを150ppm含む粉末状ポリエーテルエーテルケトン(Victrex PEEK 450PF(商品名))15gおよびスルホラン(住友精化社製)85gを加え、攪拌しながら加熱し、温度が260℃になったら恒温を2時間保持した。
この混合液を冷却した後に、水150mLを加えて再度加熱し、1時間煮沸してから冷却し、濾過によって樹脂粉末を液相から分離した後、当該粉末を新たに水150mLを用いて洗浄した。以上の煮沸、濾過、及び洗浄の工程を合計4回繰り返した。以上の操作はすべて大気圧下で行った。精製後の樹脂を、加熱乾燥装置において120℃で12時間加熱乾燥し、水分含有量を0.5%より低くしてポリエーテルエーテルケトンを得た。このようにして得られたポリエーテルエーテルケトンのナトリウムカチオン含有量は14ppmに低減していた。
本発明によれば、成形流動性、機械物性、及び、熱安定性に優れたポリエーテルエーテルケトンを製造することができる。

Claims (13)

  1. 下記式(1):
    −Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
    (式中、Ar及びAr′は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
    で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンであって、
    前記ポリエーテルエーテルケトンが、
    (A)分子量が5000以上200万未満の重合成分、及び、
    (B)分子量が1000以上5000未満の重合成分を含有し、
    (A):(B)の重量比が60:40〜97:3であり、
    (C)分子量が100以上1000未満の重合成分の含量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計に対して0〜0.2重量%未満であり、且つ
    前記ポリエーテルエーテルケトンの最大ピーク分子量が5000以上200万未満の範囲に存在する多峰性の分子量分布を有する、ことを特徴とするポリエーテルエーテルケトン、及び、強化充填材を含有する樹脂組成物
  2. 前記ポリエーテルエーテルケトンは、分子量が1000以上5000未満の範囲に、ピーク分子量を有する、請求項1に記載の樹脂組成物
  3. 前記ポリエーテルエーテルケトンを0.1g/dLの濃度で含む濃硫酸溶液について測定したインヘレント粘度が0.4dL/g以上を示す、請求項1又は2に記載の樹脂組成物
  4. 前記ポリエーテルエーテルケトンのナトリウムカチオン濃度が25ppm未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物
  5. ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンおよびポリエーテルエーテルケトンケトンからなる群より選択されるポリマー材料を精製する方法であって、
    前記ポリマー材料を100℃以上の温度で、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びN−メチルピロリドンからなる群より選択される水溶性の非プロトン溶媒と混合し、得られた混合物と、溶剤総量のうち水が90重量%以上を占める溶剤とを混合した後、前記水溶性の非プロトン溶媒と前記溶剤総量のうち水が90重量%以上を占める溶剤から前記ポリマー材料を分離することを含むことを特徴とする方法。
  6. 前記温度が200℃以上である、請求項記載の方法。
  7. 前記温度が250℃以上である、請求項記載の方法。
  8. 前記水溶性の非プロトン溶媒の使用量が、前記ポリマー材料100重量部に対して10〜3000重量部である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記水溶性の非プロトン溶媒の使用量が、前記ポリマー材料100重量部に対して100〜2000重量部である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記方法で精製される前の前記ポリマー材料中のナトリウムカチオン濃度と前記方法で精製された後の同濃度との差が、5ppm以上であり、前記方法で精製される前の前記ポリマー材料中のナトリウムカチオン濃度が、前記方法で精製された後の同濃度の2倍以上である、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記ポリマー材料が、下記式(1):
    −Ar−C(=O)−Ar−O−Ar′−O− (1)
    (式中、Ar及びAr’は、同一又は異なって、置換又は無置換のフェニレン基を表す。)
    で示される繰り返し単位を含むポリエーテルエーテルケトンである、請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 水溶性の非プロトン溶媒がスルホランである、請求項5〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 一連の操作を、10気圧未満の圧力下で行う、請求項5〜12のいずれか1項に記載の方法。
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