JP5517148B2 - 導体およびそれを用いた電線 - Google Patents

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Description

本発明は、メッキ処理を施した高強度有機合成繊維からなる導体およびそれを用いた電線に関するものである。
従来の電線は、心線として銅線を用いたものが主流であり、一般的な絶縁電線は、複数の銅細線を束ねて心線とし、屈曲に対して柔軟性を持たせるため、該心線の外周をポリオレフィン系絶縁体で被覆した構造のものである。しかし、電子機器の可動部など頻繁に屈曲や捩りが加わる用途に用いる電線は、銅線の金属疲労による限界のために断線する、或いは、取付け作業時の引張に対して弱いため断線しやすいという問題点がある。
例えば自動車の場合には、車載設備の増加や電子化に伴い車内の配線箇所が急増したことにより、燃費を向上させるべく車内電線の軽量化に対する要請が強く、しかも、限られた空間に配線することができる柔軟性を備えた電線が求められている。そのため、高導電率を有し、軽量性、高引張強力および柔軟性を兼ね備えた電線、ケーブルを得るため、従来の銅心線に替わる各種心線が検討されて来た。
例えば、ハンダ付け作業性、屈曲性に優れた電線を得るために、熱溶融性のポリベンザゾール繊維からなる芯部の外側に銅線を捲回して導体を形成する技術(特許文献1参照)、或いは、導体を軽量化するために、アラミド繊維束の周りに銅細線を配置して撚線とした電線導体(特許文献2参照)、この撚線をさらに円形圧縮加工して熱処理したコード(特許文献3参照)、金属メッキを施したアラミド繊維と他の合成繊維を撚り合わせ撚線としたコード(特許文献4参照)等が知られている。しかし、これらの導体やコードは、軽量性の点では優れているが、銅細線を撚り合わせた導体に比べると、導電率が低い(即ち、導電性が劣る)という問題点がある。
特許文献5には、導電性を高めるためにアラミド繊維に厚い金属被覆を施し、二層の金属層の合計重量がアラミド繊維の30重量%以上になる量にすることで、金属心線にほぼ相当する導電率を示す導体が得られることが記載されている。実施例では、直径100μmのアラミド繊維に銀を二層メッキし、抵抗値約0.6Ω/フィート(1.97Ω/m)の導体を得ている。
しかしながら、導体の導電率を高めるためにメッキ層を厚くしようとすると、メッキ前処理の影響によって、高強度繊維が本来備えている高強力特性が損われ易くなるという問題があり、単純に高強度繊維に金属メッキ処理を施しただけでは、高引張強力と高導電性を兼ね備えた導体を得ることは困難であった。
特開2008−293831号公報 特開平4−138616号公報 特表2005−510010号公報 特開2008−130241号公報 特開平5−144322号公報
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、軽量性、柔軟性、高引張強力及び高導電性を兼ね備えた導体、ならびにそれを用いた電線を提供することを課題とする。
本発明者等は、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の構成により、上記課題を解決しうることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)引張強度が7cN/dtex以上、単糸直径が5μm〜30μmの高強度有機合成繊維の周囲に金属メッキ処理を施し、金属メッキ層を形成した高強度有機合成繊維の総繊度が10,000dtex以下のフィラメント束を撚り合わせてなる導体であって、撚り数T(回/m)が50≦T≦150の範囲にあることを特徴とする導体。
(2)金属メッキ層の厚さが、0.5μm〜3.0μmである上記(1)記載の導体。
(3)高強度有機合成繊維が、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維又は高強度ポリエチレン繊維である上記(1)または(2)記載の導体。
(4)金属が、金、銀、銅、ニッケルの単独、または、これらのうち少なくとも1つの金属を含む合金である上記(1)〜()いずれか記載の導体。
(5)上記(1)〜()いずれか記載の導体の周りを絶縁樹脂で被覆してなる電線。
本発明によれば、軽量性、柔軟性を備え、高引張強力と高導電性を兼ね備えた導体、並びに電線を提供することができる。この導体は、疲労試験後も引張強力が低下することなく耐久性にも優れている。
導体の撚り数(T/m)と導体抵抗率(Ω/cm)との関係を示すグラフである。 導体の撚り数(T/m)と引張強力(N)との関係を示すグラフである。(a)総繊度440dtex、(b)総繊度1670dtex
本発明に係る導体は、引張強度が7cN/dtex以上の高強度有機合成繊維の周囲に金属メッキ処理を施し、金属メッキ層を形成した高強度有機合成繊維のフィラメント束を撚り合わせてなる導体であって、その撚り数T(回/m)が50≦T≦150の範囲にあることを特徴とするものである。
本発明で用いられる高強度有機合成繊維の引張強度とは、金属メッキ処理する前の前記繊維の引張強度を言う。かかる強度は、JIS L l013:1999 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5.1に従って測定することにより求められる。
高強度有機合成繊維の引張強度は、7cN/dtex以上を必要とし、この値未満では導体の強度を維持できなくなる。引張強度の値は、好ましくは13cN/dtex〜60cN/dtex、より好ましくは17cN/dtex〜60cN/dtexである。
本発明で用いられる高強度有機合成繊維としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維(例えば東洋紡績株式会社製、商品名「ザイロン」)、ポリケトン繊維(旭化成株式会社製、商品名「サイバロン」等)、高強度ポリエチレン繊維(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ」、ハネウエル社製「スペクトラ」等)、LCP(液晶ポリマー)繊維、ポリビニルアルコール系繊維、フッ素繊維などが挙げられる。本発明で用いる高強度有機合成繊維は、前記繊維の1種類から構成されていてもよいし、任意の2種以上から構成されていてもよい。
上記高強度有機合成繊維は、最終製品の用途、要求性能、繊維の製造コストまたは製品の加工コスト等に応じて、適宜選択されうる。本発明においては、引張弾性率が高く、しなやかで耐熱性が有り、限界酸素指数が高く燃え難いこと等の点から、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維又は高強度ポリエチレン繊維を用いることが好ましい。
特に、上記高強度有機合成繊維のなかでも、耐熱性および耐切創性に優れているため、熱による電線の変形や鋭利な刃物による電線の切断等の恐れがない点から、アラミド繊維が好ましい。該アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製、商品名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。
上記アラミド繊維の中でも、引張弾性率が高く、しなやかであることからパラ系アラミド繊維が望ましく、更には、熱溶融性ではないこと及び限界酸素指数が高いことから、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維がより望ましい。
上記高強度有機合成繊維の単糸繊度は、小さすぎると導体の引張強力を低下させる恐れがあり、一方、大きすぎると繊維の周囲に均一な金属メッキ層を形成することが困難となり、結果的に導体の導電性を低下させる恐れがある。従って、導体の導電性と引張強力を両立させる観点からは、単糸直径が5μm〜30μmの範囲にあることが好ましい。また、高強度有機合成繊維の形態としては、均一なメッキ層を形成しやすいことから、フィラメントが用いられる。
上記フィラメントの形状は特に限定されるものではなく、繊維の断面形状等は任意である。高強度有機合成繊維のフィラメント束の総繊度は、特に限定されるものではないが、総繊度(フィラメントの数)が小さい場合、繊維の周囲に均一な金属メッキ層を形成し易くなる利点はあるが、導体に十分な引張強力を付与できなくなる恐れがある。一方、総繊度(フィラメントの数)が大きいと、導体が屈曲し難くなるため、狭いスペースに配線することができなくなる恐れがある。
従って、高強度有機合成繊維のフィラメント束の総繊度は、10,000dtex以下が好ましく、より好ましくは50〜10,000dtex、更に好ましくは50〜1,700dtexである。
また、高強度有機合成繊維のフィラメント束の総繊度が500dtex以下であると、後述するように、高強度有機合成繊維を金属メッキ処理する際にフィラメント同士がばらけ易く、開繊処理が不要となるため、工程の簡略化による経済的な利点もある。
本発明の導体は、上記高強度有機合成繊維の周囲に金属メッキ処理を施し、金属メッキ層を形成した高強度有機合成繊維のフィラメント束を引き揃えたものを撚り合わせることで作製される。メッキ金属としては、金、銀、銅、ニッケルの単独、または、これらのうち少なくとも1つの金属を含む合金が、導電性に優れている。また、一層目に、金、銀、銅、ニッケルの単独、または、これらのうち少なくとも1つの金属を含む合金でメッキした後に、上から金、銀、銅、ニッケルの単独、または、これらのうち少なくとも1つの金属を含む合金でメッキを行って成る、少なくとも二層の金属層を持つものでも良い。かかる金属メッキ層を形成した高強度有機合成繊維のフィラメント束を、撚糸機にかけ、所定の撚りをかける。撚りはS撚り、Z撚り、いずれでもよい。また、撚り合わせ本数は、2本撚り(双糸)、3本撚り(三子糸)、4本撚り(四子糸)等任意であり、1本単糸でも良いが、柔軟性を持たせることができる点からは双糸が好ましい。撚りを加える撚糸工程は、例えば、リング撚糸機、ダブルツイスター撚糸機或いは、イタリー式撚糸機等の撚糸機で行うことができる。
上記の撚りをかける場合は、1m当たりの撚り数T(回/m)が、50≦T≦150の範囲にあることが必要である。T(回/m)の値が上記範囲であると、引張強力が高く、かつ導体抵抗率の低い導電性に優れた導体を得ることができる。
本発明では、導体の撚り数とその引張強力との間には、最適な範囲が存在する。この理由は明らかではないが以下のように推察する。即ち、一般的な金属メッキ処理を施していないフィラメント束の場合、撚り数が増えるに従い撚糸の引張強力は向上する傾向にある。しかし、高強度有機合成繊維の場合、撚り数が増大しても引張強力が向上するとは限らず、撚り数と引張強力との間に極大値が出現することがある。高強度有機合成繊維に金属メッキ処理を施す場合、一般的に高強度有機合成繊維の表面は疎水的で金属との親和性に欠けるため、高強度有機合成繊維の表面を親水化処理した後に、金属メッキ処理を施すこととなる。高強度有機合成繊維の親水化処理の方法としては、プラズマ処理等があるが、例えばプラズマ処理を行った場合、高強度有機合成繊維の表面層の化学結合が変化して切断され易くなる。この切断され易くなった化学結合が、金属メッキ処理後のフィラメント束に撚りを掛けることで切断され易くなるために、撚り数と引張強力との間に極大値が出現するものと推察される。
また、導体の撚り数とその導体抵抗率との間には、撚り数が増加するに従い、導体抵抗率が低下する傾向がある。この観点からすれば、撚り数を増やすほど導体抵抗率が低下するため良好な導電性を付与することができるが、一方、撚り数を多くし過ぎると導体が柔軟性に乏しくなり狭いスペースでの配線に適さなくなる。導体を実用化するには、導体抵抗率は銅心線と同等程度であることが望まれるわけであるが、本発明では、撚り数を上記の範囲内にすることで、導体抵抗率が低い導体を作製することが可能となる。
本発明で用いられる、周囲に金属メッキ処理を施し、金属メッキ層を形成した高強度有機合成繊維のフィラメント束は、高強度有機合成繊維のフィラメント束をメッキ前処理工程及び金属メッキ工程に付し、繊維表面を金属メッキ処理することにより、製造することができる。金属メッキ処理は公知の方法で行われてよく、例えば蒸着法、スパッタ法、電解メッキ法、無電解メッキ法、又は超臨界メッキ法等が挙げられる。これらのメッキ方法を組み合せてもよく、例えば、無電解メッキ或いは超臨界メッキした後に電解メッキすることもできる。中でも、無電解メッキ法が好ましく用いられる。以下、好ましい実施の態様である無電解メッキ法について説明する。
無電解メッキ法の好ましい実施態様のひとつによれば、表面に金属メッキ層を有する高強度有機合成繊維は次のようにして製造される。すなわち、高強度有機合成繊維のフィラメント束(以下、「繊維材料」という)をプラズマ処理する工程と、有機金属錯体を含む超臨界流体または亜臨界流体に浸漬して繊維表面に有機金属錯体を吸着させる工程と、繊維表面に吸着した有機金属錯体を還元して活性化させる工程とを含む、メッキ前処理工程を行う。次いで、メッキ前処理された繊維材料を、メッキ液に浸漬して無電解メッキ処理を行う。
先ず、繊維材料は油剤を含有していないものを用いるのが良い。油剤が存在すると、後工程で繊維材料に有機金属錯体が吸着しにくくなり、また、メッキ処理で形成させた金属皮膜も剥離脱落を起こし易くなるからである。油剤を含有しない繊維材料としては、油剤による処理が施されていないものを用いることが好ましいが、一般にマルチフィラメントを製造する際には、植物油等の油剤をフィラメントに被覆するか又は含有させるので、油剤を含有するマルチフィラメントを用いる場合は、油剤の除去処理を行ったものを用いるのが良い。
上記繊維材料は、開繊処理して用いることもできる。開繊処理されることにより、糸条を形成するフィラメントが解き放たれ、後工程で後述のプラズマ照射が均一になされ、有機金属錯体が均一に吸着し易くなるからである。開繊処理は、公知の方法に従って行えばよく、例えば水流による開繊、液体を媒体とした振動による開繊、ロールによる加圧での加工による開繊又は空気流或いは吸引気流を用いた開繊等が挙げられる。
必要に応じて開繊処理された繊維材料の表面には、有機金属錯体の吸着が容易になるように、親水性の極性基(例えば、水酸基、アミド基、カルボキシル基、ケトン基等)を導入する。親水性の極性基の導入方法としては、公知の任意の方法を用いることができ、例えば、プラズマ処理、電子線照射処理、グラフト化処理、極性基を有する化合物の溶液に浸漬する処理等が挙げられる。なかでも、均一なメッキ層を形成するためには、プラズマ処理を行うことが好ましい。
プラズマ処理におけるプラズマの種類としては、窒素プラズマ、アルゴンプラズマ等が挙げられ、プラズマ処理の方法としては、大気圧プラズマ処理装置を用い、周波数5〜30kHz、プラズマ照射時間1秒〜15分程度の条件で行うことが好ましい。
次いで、プラズマ処理後の繊維材料は、有機金属錯体を含む超臨界流体あるいは亜臨界流体に浸漬して繊維表面に有機金属錯体を吸着させる。超臨界流体又は亜臨界流体は、特に限定されず、公知の1種又は2種以上を混合して使用することができ、二酸化炭素、一酸化二窒素、トリフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、メタン、エタン及びエチレンからなる群より選ばれる1種以上から主としてなる超臨界流体又は亜臨界流体が好ましい。超臨界流体又は亜臨界流体の温度は、特に限定されないが、温度が50℃以下の超臨界流体又は亜臨界流体を用いることは、省エネルギー、設備設置コストの削減、設備面メンテナンスの容易性や低コスト化等の点より特に好ましい。二酸化炭素は、臨界温度304K(31℃)、臨界圧力7.4MPaで超臨界流体となり、かつ引火性や爆発性がなく安全であり、入手も容易であることから最も好適に用いることができる。
繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬する際の温度および圧力条件は、超臨界状態又は亜臨界状態が実現される温度および圧力条件の範囲で適宜設定すればよい。好ましい条件は、繊維の種類や、超臨界流体又は亜臨界流体の種類によっても異なるが、一般には温度を臨界温度以上650K以下、圧力を臨界圧力以上35MPa以下とすることが好ましい。浸漬時間は5〜120分間程度が好ましい。超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合には、浸漬温度は304K以上423K以下、圧力は臨界圧力〜35MPa、浸漬時間5〜60分間の条件が好ましく、より好ましい温度条件は304K以上323K(50℃)である。こうした低温で浸漬処理を行う利点として、上記の省エネルギーや設備コスト等の利点の他に、耐熱性に乏しい有機繊維を処理する場合でも、繊維の特性を損なうことなく処理できる点が挙げられる。
上記の有機金属錯体としては、例えば、M(OR)、M(OCOR)、M(OSOR)もしくはM(RCOCHCOR)の化学式で示される錯体、あるいは下記(1)の化学式で示されるジエン類の錯体、下記(2)の化学式で示されるメタロセン類の錯体が挙げられる。なお、それらいずれの化学式においても、Mは金属を表わし、Rは水素、炭化水素基又はCFを表わす。




上記化学式中のRで表わされる炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1〜50である。かかる炭化水素基としては、例えば飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、脂環式−脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、芳香族−脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
超臨界流体又は亜臨界流体には、有機金属錯体の溶解性の向上や超臨界流体又は亜臨界流体と繊維との親和性の向上、あるいはメッキ金属皮膜の密着性の向上等の目的で、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジベンジルエーテル、トリアジンチオール類、アミン類及びシランカップリング剤類からなる群より選ばれる1種以上の添加剤(以下、「エントレーナ」という)が添加されることが好ましい。エントレーナの添加量は、特に限定されないが、一般に、超臨界流体又は亜臨界流体の物質量に対して1〜25モル%が好ましい。
上記トリアジンチオール類としては、例えば、トリアジンチオール誘導体の6−位の置換基が−SH、−N(C、−NHC及びこれらの金属塩からなる群より選ばれる基であるトリアジンチオール誘導体等が挙げられる。また、アミン類としては、例えば、n−ブチルアブチルアミン、3−アミノ−5−メチルイソオキサゾール等が挙げられる。また、シランカップリング剤類としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
上記有機金属錯体を構成する金属(M)としては、例えば、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ、クロム、リチウム、カリウム、ランタノイド族57番〜71番の元素からなる群より選ばれる1種以上の金属が挙げられる。ランタノイド族57番〜71番の元素の中では、ネオジウム、サマリウムおよびジスプロシウムが好ましい。
二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体を用いる場合の好ましい有機金属錯体としては、例えば、β−ジケトネート類(例えば、フッ素系パラジウム錯体)、ジエン類(例えば、ジメチルシクロオクタジエン白金)、メタロセン類(例えば、ニッケロセン)が好ましい。中でも、二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体に対する溶解度が高いこと、メッキ処理の際に金属皮膜が均一に成長すること、酸化による触媒活性の低下が小さいこと、あるいは繊維フィラメントに吸着し易いこと等の理由から、フッ素系パラジウム錯体が好ましい。
有機金属錯体の使用量は、有機金属錯体の種類によっても変わるが、一般的に繊維材料の質量に対して0.1〜10質量%が好ましく、特に好ましくは0.2〜3.0質量%である。有機金属錯体の使用量が少なすぎると、繊維の表面への有機金属錯体の吸着が不均一になる場合があり、一方、有機金属錯体の使用量を多くしても、繊維の表面への有機金属錯体の飽和吸着量を越えると、繊維の内部に染み込むだけで表面への吸着量は増大しないので不経済となる。
繊維材料を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより繊維表面に有機金属錯体を吸着させるには、例えば、耐圧容器からなる反応槽内に繊維材料を配置し、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体、好ましくは有機金属錯体が溶解した超臨界流体又は亜臨界流体を導入することにより、該超臨界流体又は亜臨界流体に繊維材料を浸漬すればよい。
所定の時間浸漬処理を行って、繊維表面に有機金属錯体を吸着させた後、繊維材料の表面に吸着した有機金属錯体は、還元処理を行うことで活性化されることでメッキ前処理が完了する。
有機金属錯体を還元する方法は、特に限定されないが、熱還元法が好ましい。具体的には、有機金属錯体を吸着させた繊維材料を、該有機金属錯体の熱還元温度以上に設定された温度雰囲気下に置くことで熱還元させることができる。この熱還元処理は、浸漬処理装置から取り出した繊維材料をオーブン等に投入して行うこともできるが、浸漬処理装置に適宜加熱装置を備えさせれば、浸漬処理と同時に、あるいは浸漬処理後流体を排出する前又は排出した後に、浸漬処理装置内で熱還元処理を行うこともできる。すなわち、浸漬処理装置と熱還元処理装置を兼ねることのできる装置を用いることができる。
また、用いた繊維材料が熱に弱く、熱還元処理温度まで昇温させることが適当でない場合には、還元剤を用いるとよい。還元剤としては、例えば、水素、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、ヒドロキノン等が挙げられ、これらの中から1種を選択して用いることができ、2種以上を選択して併用することもできる。
還元剤の使用量は、用いる還元剤の種類によって異なるが、例えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウム等の還元剤を使用する場合は、0.1〜15モル濃度の水溶液を添加し、2〜15分間処理すればよい。還元処理によって有機金属錯体内のリガンドが外され、金属になる。
また、水素等の気体の還元剤を用いる場合は、浸漬処理後の繊維材料を気密性の容器内に設置してから気体の還元剤を導入し、該容器内の空間に気体の還元剤を満たす方法が好ましく採用される。あるいは、浸漬処理に引き続いて、流体を排出する前に、該流体中に気体の還元剤、例えば、水素を0.01〜15%の濃度になるように吹き込むことで有機金属錯体を還元させてもよい。
有機金属錯体の吸着と還元処理によるメッキ前処理を施された繊維材料は、その後にメッキ処理が実施される。該メッキ処理は、無電解メッキ液に繊維材料を浸漬する無電解メッキによって実施される。メッキ前処理方法で処理された繊維材料は、繊維表面が超臨界流体又は亜臨界流体に接触することによって、繊維が膨潤し、超臨界流体又は亜臨界流体に含まれる有機金属錯体が膨潤で生じた隙間に埋め込まれるようになると考えられ、その後還元されると、繊維表面に活性化された触媒活性点が露出するので、繊維表面にアンカー効果のある活性化された金属が形成される。従って、その後に無電解メッキ処理を施すことで繊維表面に密着したメッキ(金属)皮膜を形成することが可能となる。
無電解メッキ処理は、大気圧下で実施することもできるし、あるいは超臨界流体又は亜臨界流体の存在下で実施することもできる。無電解メッキ処理により繊維表面に形成されるメッキ皮膜としては、金属単体からなる皮膜、合金からなる皮膜或いはそれらの混合物からなる皮膜であれば特に限定されない。大気圧下で実施する場合は、メッキ前処理された繊維材料を、メッキ液が貯蔵された無電解メッキ槽に浸漬して無電解メッキ処理すればよい。超臨界流体又は亜臨界流体の存在下で無電解メッキを実施する場合は、上記反応槽内で繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬して有機金属錯体を吸着させ、次いで有機金属錯体を還元した後、反応槽内に無電解メッキ液を供給して無電解メッキ処理すればよい。
上記無電解メッキ処理のためのメッキ液としては、特に限定されず、一般的に常用されるメッキ液を使用することができるが、金、銀、銅あるいはニッケルの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含有するメッキ液が好ましい。
メッキ皮膜の厚さは、通常0.2μm以上であり、好ましくは0.4μm以上、更に好ましくは0.5μm〜3.0μmである。厚さが0.2μm未満では、導電性が十分に発現できない場合がある。また、3.0μmより厚くすると導体の柔軟性が低下する傾向にあり、折れてしまう場合があるので好ましくない。
無電解メッキ処理を行う際には、繊維糸条全体にメッキ液が十分に浸透するよう、無電解メッキ槽の底面に超音波振動子を設置する等により、メッキ液に振動を与えながら処理することが好ましい。振動を与えて処理することにより、繊維糸条の内部にメッキ液を迅速に浸透させることができ、又、無電解メッキ処理によって発生する気泡が繊維糸条に吸着してもメッキ液の振動によって直ちに除去できるので、繊維糸条の表面にメッキ液が万遍なく作用して均一な金属皮膜が形成されるようになるので好ましい。
上記の無電解メッキ処理によれば、均一な厚みの金属皮膜を形成することができる。また、無電解メッキ処理の後に、電解メッキ処理を行うこともできる。こうした電解メッキ処理を行うことで、使用目的に応じてメッキ皮膜の厚さを適宜調整し、ひいてはメッキされた繊維の硬さ等の機械的特性や、導電性、導電安定性、耐電圧性等の電気的特性等を調整することができる。なお、無電解メッキ処理と電解メッキ処理を併用する場合には両方のメッキによるメッキ皮膜の厚さが上記の範囲内になるように調整するのが好ましい。
上記の方法で作製された導体の周りを被覆する絶縁樹脂としては、導体が銅等の金属からなる一般的な電線の絶縁体に使用されている樹脂を用いれば良い。例えば、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。また、フッ素系の樹脂も誘電率、誘電正接が低いため、高周波領域での使用に於いて有利である。電線の製造は、導体に絶縁樹脂を押し出しにより被覆して行うと良い。
本発明の導体は、そのままの形態でスピーカの金糸線として、また、絶縁樹脂を周りに設けることにより電線、ケーブルの心線、或いは、心線補強材として用いることができる。又、電線は、軽量、高強度、柔軟性を有しているため、自動車のハーネス配線として狭いスパースの配線に好適に用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例等において、各特性の評価は次のようにして行った。
[メッキ繊維の導体抵抗率]
JIS C 2525「金属抵抗材料の導体抵抗及び体積抵抗率試験方法」に準拠し、デジタル抵抗計法により2端子測定を行った。測定を5回実施して平均値を求めた。
[メッキ繊維の引張強力]
JIS L l013:1999 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5.1に従って測定した。20℃、湿度65%の恒温恒湿室で、サンプルを引っ張り試験機AGS-1KNG(島津株式会社製)のチャック上に設置し、チャックつかみ間隔25cm、100mm/min試験速度で引っ張り、サンプルの引張強力を測定した。測定を8回実施して平均値を求めた。
開繊処理
直径約12μm(単糸繊度1.7dtex)のフィラメント267本よりなるアラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標);総繊度440dtex)無油剤糸を開繊処理して、幅約4mmの平板状の開繊されたフィラメント束を得た。厚み方向のフィラメント数は3本であった。これを幅2cmの鍔付きリールに20m巻き取った。
ダイレクト方式のグロー放電プラズマ処理
ダイレクト方式のグロー放電プラズマ処理装置を用いた。上部電極及び下部電極は、SUS304製である。プラズマ処理部は、有効長さ15cm、有効幅3cm、高さ2cmの処理ヘッドを長さ方向に2台直列に連結して用いた。固体誘電体と固体誘電体の間隔は2mmである。
開繊されたフィラメント束を上記グロー放電プラズマ処理装置に供給し、大気圧下において、グロー放電プラズマ処理(電源波形:パルス、電圧:15kV、周波数:10kHz)を行った。プラズマ処理を行うチャンバーは外気から遮蔽し、中には窒素ガスを25L/分ずつ各1台それぞれにパージして窒素雰囲気下でプラズマ処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、フィラメント束を5m/分の速度にて搬送した(処理時間3.6秒)。フィラメントはプラズマ照射部の誘電体に接触することなく、確実に両面がプラズマ処理されていた。処理後のフィラメント束は幅2cmのリールに再度巻き取った。
超臨界流体による浸漬処理
有機金属錯体の超臨界流体による浸漬処理と金属の活性化は以下のように行い、プラズマ処理と有機金属錯体の超臨界流体による浸漬処理は同じ日に行った。先ず、上記条件でプラズマ処理したフィラメント束からなる直径10cmのカセ状繊維材料を作製した。次いで、以下に記載する操作により、カセ状繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体に浸漬させる浸漬処理を行った。超臨界流体としては二酸化炭素を用い、エントレーナとしてエタノールを添加し、有機金属錯体としてはPd錯体であるパラジウム(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナートを用いた。攪拌子を備えた、内容積50mlの反応槽内に、エントレーナであるエタノール2.5mlを事前に添加すると同時に、上記カセ状繊維材料に対して1重量%のパラジウム(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナートを添加した。上記のカセ状繊維材料をフィラメント束の置き台に載せた後、超臨界二酸化炭素流体を、流体導入口より反応槽に導入した。超臨界流体の注入圧力を示す圧力計の圧力は15MPa、反応槽の内部温度を80℃に保ち、攪拌子の回転数は500〜1,200rpmに維持した。
超臨界二酸化炭素流体注入後から30分間の浸漬処理を行った後、超臨界二酸化炭素流体を流体排出口から大気圧になるまで放出し、カセ状繊維材料を反応槽から取り出した。この浸漬処理後のアラミド繊維を蛍光X線分析装置で分析したところ、Pd元素ピークが検出され、有機金属錯体の付着が確認できた。またSEMによる繊維断面の写真観察からは、表面に付着および表面付近に注入されたPd金属が観察された。
有機金属錯体の還元、活性化処理
次いで、上記の反応槽から取り出したカセ状繊維材料を、140℃に温度設定したオーブン内に10分間置くことにより、フィラメント表面に付着した有機金属錯体の還元、活性化処理を行った。
無電解メッキ処理
無電解メッキ液の処方は以下のようにして行った。430mlの純水に、「ATS−ADDCOPPER IW−A(奥野製薬工業株式会社製)」25mlを添加し、更に「ATS−ADDCOPPER IW−M(奥野製薬工業株式会社製)」40ml及び「ATS−ADDCOPPER C(奥野製薬工業株式会社製)」5mlを添加して、無電解銅メッキ液を調製した。この無電解メッキ液に、上記活性化処理後のカセ状繊維材料を吊り状に20分間浸漬することにより、銅メッキされたアラミド繊維を得た。このとき、無電解メッキ液には42kHzの超音波振動を付与し、無電解メッキ液の温度は42±2℃に設定して処理を行った。
撚糸
得られた銅メッキされたカセ状繊維材料の繊維をカセ状から紙管に巻き直し、銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):50の導体を作製した。
(実施例2)
実施例1で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):80の導体を作製した。
(実施例3)
実施例1で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):100の導体を作製した。
(実施例4)
実施例1で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):150の導体を作製した。
(比較例1)
実施例1で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を撚糸せずに用いた。
(実施例5)
直径約12μm(単糸繊度1.7dtex)のフィラメント1000本よりなるアラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標);総繊度1670dtex)無油剤糸を用いた他は、実施例1と同様の方法で、銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を作製し、それを撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):50の導体を作製した。
(実施例6)
実施例5で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):80の導体を作製した。
(実施例7)
実施例5で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):100の導体を作製した。
(実施例8)
実施例5で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を、撚糸機でS方向に撚りを掛け、撚り数T(回/m):150の導体を作製した。
(比較例2)
実施例5で得た銅メッキされたアラミド繊維のフィラメント束を撚糸せずに用いた。
実施例1〜8及び比較例1〜2の導体について、各々の導体抵抗率及び引張強力を測定した。結果を表1に示す。
上記で作製した導体の導体抵抗率(Ω/m)と撚り数T(回/m)との関係を図1に、引張強力(N)と撚り数T(回/m)との関係を図2に、それぞれ示す。これらの図から明らかな様に、撚り数T/mが50〜150の範囲で引張強力(N)が高い値を示し、また、導体抵抗率(Ω/m)も低い値を示すことが分かる。
本発明の導体は、軽量性、柔軟性、導電性及び引張強力に優れているので、回路の高集積化、複雑化の要求に対応することができる。

Claims (5)

  1. 引張強度が7cN/dtex以上、単糸直径が5μm〜30μmの高強度有機合成繊維の周囲に金属メッキ処理を施し、金属メッキ層を形成した高強度有機合成繊維の総繊度が10,000dtex以下のフィラメント束を撚り合わせてなる導体であって、撚り数T(回/m)が50≦T≦150の範囲にあることを特徴とする導体。
  2. 金属メッキ層の厚さが、0.5μm〜3.0μmである請求項1記載の導体。
  3. 高強度有機合成繊維が、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維又は高強度ポリエチレン繊維である請求項1または2記載の導体。
  4. 金属が、金、銀、銅、ニッケルの単独、または、これらのうち少なくとも1つの金属を含む合金である請求項1〜いずれか記載の導体。
  5. 請求項1〜いずれか記載の導体の周りを絶縁樹脂で被覆してなる電線。
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