JP5515651B2 - 溶鋼の脱硫方法 - Google Patents

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Description

本発明は、転炉などの脱炭精錬炉から取鍋に出鋼された取鍋内の溶鋼に対してRH真空脱ガス装置にて脱硫剤を添加して行う溶鋼の脱硫方法に関する。
硫黄濃度が0.004〜0.010質量%程度の所謂「低硫鋼」の溶製においては、転炉での脱炭精錬工程の前に溶銑段階で脱硫処理を施すことで対処可能であるが、高級電磁鋼板や高級ラインパイプ用鋼板などの硫黄濃度が0.003質量%以下である所謂「極低硫鋼」では、溶銑段階の脱硫処理のみでは対処できず、溶銑段階で脱硫処理を施した後、転炉から出鋼後の溶鋼段階でも更に脱硫処理が行われている。この溶鋼での脱硫処理は、以前は、加熱手段、攪拌手段及びフラックスのインジェクション手段などを備えた、大気圧で行う所謂「取鍋精錬炉」で行う方法(例えば特許文献1を参照)が一般的であったが、極低硫鋼のような高級品種は、脱水素或いは清浄化などの目的のために脱ガス処理が必須であり、取鍋精錬炉と脱ガス設備との2つの二次精錬設備の間を搬送することの煩雑さや設備の二重投資などの問題点を解決するために、近年では、真空脱ガス設備で脱硫処理を実施する多数の方法が提案され、実用化されている。
例えば、特許文献2には、RH真空脱ガス装置の上昇側浸漬管の下方に配置したランスからCaO−CaF2系脱硫剤を溶鋼中に吹き込み、脱硫剤を溶鋼とともに真空槽内に環流させて溶鋼を脱硫する方法が提案され、特許文献3には、RH真空脱ガス装置の真空槽に設置した多機能バーナーを用い、脱硫剤を加熱しながら溶鋼に上吹きして脱硫する方法が提案され、また、特許文献4には、CaO−Al23系プリメルト脱硫剤を上吹きランスから真空槽内の溶鋼に向けて吹き付けて溶鋼を脱硫する方法が提案されている。
但し、RH真空脱ガス装置などの脱ガス設備は、取鍋精錬炉のように溶鋼を加熱するための電気加熱手段を備えておらず、脱硫剤添加による溶鋼の温度降下の影響を受けやすい。そこで、溶鋼温度が低下したときの脱硫処理方法が特許文献5に開示されている。
特許文献5に開示される溶鋼の脱硫方法は、真空脱ガス設備で精錬されている減圧下の溶鋼表面に向けて脱硫剤を添加して溶鋼を脱硫処理するに当たり、先ず、溶鋼にアルミニウムを添加し、次いで減圧下の溶鋼表面に向けて酸素ガスを供給して、溶鋼中のアルミニウムを燃焼させて溶鋼を昇熱し、溶鋼昇熱のための酸素ガスの供給終了後、3分間以上溶鋼を減圧下で精錬した後に、上吹きランスを介して脱硫剤を搬送用ガスとともに減圧下の溶鋼の表面に向けて吹き付けて添加し、溶鋼を脱硫処理する方法である。
溶鋼を昇熱するべく、溶鋼中のアルミニウムを燃焼させたときに生成するAl23及びアルミニウム燃焼による昇熱後の溶鋼のアルミニウム脱酸により生成するAl23は、CaO系脱硫剤と反応して化合物を生成し、CaO系脱硫剤のCaO/Al23が低下してCaO系脱硫剤の脱硫能力を低下させるが、特許文献5によれば、昇熱後、溶鋼中に溶解するアルミニウム濃度を0.010質量%以上確保した状態で、減圧下で3分間以上溶鋼を環流するので、昇熱時及びその後の脱酸時に生成したAl23の溶鋼からの浮上・分離が促進され、その後の脱硫処理を効率的に行うことができるとしている。
特開昭59−150009号公報 特開昭60−59011号公報 特開平6−74425号公報 特開2008−63647号公報 特開2008−169407号公報
特許文献5の方法を採用することにより、アルミニウムの燃焼による溶鋼の昇熱処理後の脱硫反応は従来に比較して促進化されたが、特許文献5においても生成するAl23の影響を完全には回避することができず、アルミニウムの燃焼による溶鋼の昇熱処理を実施しない場合に比べて脱硫反応が妨げられ、脱硫率は低下する。そのために、アルミニウムの燃焼による溶鋼の昇熱処理を実施した場合に、溶鋼の昇熱処理を実施しない場合と同等の脱硫率を得るためには、脱硫剤の原単位を増加させる或いは脱硫処理時間を延長させるなどの処置が必要であり、脱硫処理コストの増加を余儀なくされていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、RH真空脱ガス装置において、アルミニウムの燃焼による溶鋼の昇熱処理を実施した後に減圧下で溶鋼を脱硫処理するにあたり、従来に比べて格段に効率良く脱硫処理することのできる、溶鋼の脱硫方法を提供することである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る溶鋼の脱硫方法は、大気圧下で脱炭精錬を行う脱炭精錬炉から取鍋に溶鋼を出鋼した後、前記取鍋をRH真空脱ガス装置に搬送し、RH真空脱ガス装置の真空槽内に吸引した溶鋼にアルミニウムを添加し、次いで減圧下の溶鋼表面に向けて酸素ガスを供給して溶鋼中のアルミニウムを燃焼させて溶鋼を昇熱し、溶鋼昇熱のための酸素ガスの供給終了後、溶鋼中に溶解するアルミニウム濃度を0.005質量%以上確保した状態で2分間以上溶鋼を環流し、その後、真空槽内の溶鋼にスラグ固化材を投入し、次いで、上吹きランスを介してCaO系脱硫剤を搬送用ガスとともに真空槽内の溶鋼の表面に向けて吹き付け添加して溶鋼を脱硫処理することを特徴とする。
第2の発明に係る溶鋼の脱硫方法は、第1の発明において、前記スラグ固化材がMgOクリンカーまたはドロマイトであることを特徴とする。
第3の発明に係る溶鋼の脱硫方法は、第1または第2の発明において、前記CaO系脱硫剤がCaOとAl23とからなることを特徴とする。
本発明によれば、アルミニウムの燃焼による溶鋼の昇熱後、溶鋼中に溶解するアルミニウム濃度を0.005質量%以上確保した状態で2分間以上溶鋼を環流してAl23の浮上・分離を促進させ、その後、真空槽内の溶鋼にスラグ固化材を投入するので、溶鋼の昇熱処理或いはその後の溶鋼の脱酸処理で生成した、溶鋼中に懸濁するAl23とCaO系脱硫剤との反応が抑制され、CaO系脱硫剤の脱硫能力が維持されて効率的な脱硫処理が可能になるとともに、投入されたスラグ固化材が真空槽から取鍋内に流出し且つ取鍋内で浮上して取鍋内スラグの下面側に溜まり、その後に添加されるCaO系脱硫剤とAl23の富化された取鍋内溶鋼浴面上のスラグとの接触が阻害され、溶鋼の昇熱処理或いはその後の溶鋼の脱酸処理で生成した、スラグ中のAl23によるCaO系脱硫剤の脱硫能力の低下を防止することができ、その結果、溶鋼の脱硫処理を効率的に行うことが実現される。
本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス装置の例を示す図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋やトーピードカーなどの溶銑搬送用容器で受銑し、次工程の大気圧下で脱炭精錬を行う転炉に搬送する。この搬送途中で溶銑に対して脱硫処理を実施する。これは、転炉精錬後の溶鋼段階で脱硫処理を実施する鋼種は、一般的に極低硫鋼であるので、予め溶銑段階で脱硫処理を施し、溶鋼段階での脱硫処理の負荷を軽減させるためである。この溶銑段階における脱硫処理は、機械的に攪拌している溶銑にCaO系脱硫剤を上置き添加する機械攪拌式脱硫法や、搬送用ガスとともに溶銑中にCaO系脱硫剤を吹き込むインジェクション法などの脱硫方法を用いればよい。脱硫処理後、生成した脱硫スラグを溶銑搬送用容器から排出し、溶銑を転炉に搬送する。
この溶銑を転炉に装入し、上吹き酸素、底吹き酸素などによって脱炭精錬する。脱炭精錬の終了後、脱炭精錬によって得られた溶鋼を転炉から取鍋に出鋼する。この出鋼の際に、金属アルミニウムを取鍋内に添加して溶鋼を脱酸しても構わない。金属アルミニウムを添加する場合にはその添加量を、溶鋼の酸素ポテンシャルを低位に安定させるために、溶鋼中に溶解するアルミニウム濃度が0.01質量%以上となるように調整することが好ましい。また更に、スラグ中のトータル・Fe及び酸化マンガンを低下するために、出鋼時に生石灰またはAl灰(「アルミドロス」ともいう)などを添加しても構わない。
次いで、この溶鋼をRH真空脱ガス装置に搬送し、RH真空脱ガス装置において脱硫処理並びに所定の真空精錬を実施する。図1は、本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス装置の例を示す図である。尚、RH真空脱ガス装置にて脱硫処理を施す溶鋼としては、高炉から出銑された溶銑を転炉で脱炭精錬した溶鋼に限るものではなく、冷銑、鉄スクラップなどを電気炉で溶解して電気炉で脱炭精錬して溶製した溶鋼であっても構わない。
図1に示すように、RH真空脱ガス装置1は、上部槽6及び下部槽7からなる真空槽5と、下部槽7の下部に設けられた上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9とを備え、上部槽6には、排気装置(図示せず)と接続するダクト11と、原料投入口12と、真空槽5の内部を上下方向に移動可能な上吹きランス13とが設けられ、また、上昇側浸漬管8には環流用ガス吹き込み管10が設けられている。環流用ガス吹き込み管10からは環流用ガスとしてArガスが上昇側浸漬管8の内部に吹き込まれる構造となっている。
上吹きランス13は、酸素ガスを真空槽5の内部の溶鋼3に向かって吹き付けることや、脱硫剤を非酸化性ガスや希ガスを搬送用ガスとして真空槽5の内部の溶鋼3に向かって吹き付けることができるように構成されている。当然ながら非酸化性ガスや希ガスのみを吹き込んだり、非酸化性ガス及び希ガスと、酸素ガスとの混合ガスを吹き込んだりすることもできるように構成されている。
このような構成のRH真空脱ガス装置1では、次のようにして溶鋼3の脱ガス精錬が実施される。先ず、溶鋼3を収納する取鍋2を真空槽5の直下に搬送する。取鍋2の内部には転炉での脱炭精錬で発生したスラグ4が溶鋼3の湯面を覆っている。次いで、取鍋2を昇降装置(図示せず)によって上昇させ、上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋2に収容された溶鋼3に浸漬させる。そして、環流用ガス吹き込み管10から上昇側浸漬管8の内部にArガスを環流用ガスとして吹き込むとともに、真空槽5の内部をダクト11に連結される排気装置にて排気して真空槽5の内部を減圧する。真空槽5の内部が減圧されると、取鍋2に収容された溶鋼3は、真空槽5の内部に吸引されるとともに上昇側浸漬管8では環流用ガス吹き込み管10から吹き込まれるArガスとともにガスリフト効果によって上昇側浸漬管8を上昇して真空槽5の内部に流入し、その後、下降側浸漬管9を介して取鍋2に戻る流れ、所謂、「環流」を形成してRH真空脱ガス精錬が施される。
本発明においては、RH真空脱ガス装置1において、アルミニウムの燃焼による昇熱処理(以下、単に「昇熱処理」とも記す)及び脱硫処理を実施するが、溶鋼3をRH真空脱ガス装置1で精錬する場合、本来の目的である、脱水素処理及び脱窒素処理などのガス成分の除去処理以外に、真空脱炭処理や溶鋼3の成分調整を行う必要のある場合がある。これらの処理のうちで、真空脱炭処理及び昇熱処理は酸化反応であり、特に真空脱炭処理は、酸素ガスの付与などによって溶鋼3の酸素ポテンシャルを高める必要がある。一方、脱硫処理は還元反応であるため、溶鋼3の酸素ポテンシャルは低いほど好ましい。
従って、脱硫処理の後に真空脱炭処理及びアルミニウムの燃焼による昇熱処理を実施すると、脱硫処理で使用した還元剤即ち脱酸剤が酸化されてしまうために無駄となるのみならず、一旦、溶鋼3からスラグ4に移行した硫黄が、真空脱炭処理時及び昇熱処理時の酸素ポテンシャルの上昇に伴って溶鋼3に戻る反応、所謂「復硫反応」が生じるため、安定して溶鋼3の硫黄濃度を下げることができない。
そこで、本発明においては、酸化反応である真空脱炭処理及びアルミニウムの燃焼による昇熱処理を実施した後に脱硫処理を実施し、脱硫処理後に成分調整を実施する。真空脱炭処理と昇熱処理との双方を実施する場合には、真空脱炭処理においても溶鋼3は昇熱するので、先ず、真空脱炭処理を実施し、次いで、アルミニウムの燃焼による昇熱処理を実施する。脱水素処理及び脱窒素処理などのガス成分の除去処理は、脱硫処理や成分調整処理での減圧下の精錬と同時に進行するので、特別にその期間を設けなくても十分であるが、不足する場合には処理時間を延長すればよい。
以下、真空脱炭処理、昇熱処理、脱硫処理、成分調整処理の順でRH真空脱ガス精錬を実施する場合を例として説明する。尚、真空脱炭処理を実施する場合には、転炉からの出鋼時に溶鋼3を脱酸せず、未脱酸のままRH真空脱ガス装置1に搬送する。
上記のようにして、溶鋼3の還流が開始されたなら、先ず、上吹きランス13から酸素ガスを供給する或いは原料投入口12から鉄鉱石などの酸化鉄を投入するなどして、減圧下での脱炭処理つまり真空脱炭処理を実施する。そして、溶鋼中の炭素濃度が目的とする炭素濃度まで低下したならば酸素ガス及び酸化鉄の供給を停止し、原料投入口12から金属アルミニウムを真空槽内の溶鋼3に投入する。金属アルミニウムの投入により、溶鋼3の溶存酸素濃度が低下して真空脱炭処理が自ずと停止する。
次いで、原料投入口12からの金属アルミニウムの投入によって溶鋼中のアルミニウム濃度を十分に高め、その状態で上吹きランス13から酸素ガスを溶鋼表面に向けて吹き付け、溶鋼中のアルミニウムを酸化し、この酸化反応による熱を利用して溶鋼3を昇熱させる。溶鋼3の昇熱量はアルミニウムの燃焼量に比例するので、昇熱処理前の溶鋼中のアルミニウム濃度は、溶鋼3を目的とする温度に昇熱することができる濃度以上とする。昇熱量は、RH真空脱ガス装置1の設備規模のみならず、RH真空脱ガス装置1や取鍋2の耐火物組成によっても変化するので、昇熱処理前の溶鋼中のアルミニウム濃度は、一概に決定できず経験に基づき設定される。
この昇熱処理の終了後、溶鋼3に溶解するアルミニウム濃度が0.005質量%以上確保されるように、原料投入口12から金属アルミニウムを添加して溶鋼3を脱酸する。溶鋼3に溶解するアルミニウム濃度が0.005質量%以上になれば、溶鋼3はアルミニウムによって脱酸された状態になり、溶鋼中の溶存酸素濃度は実質的にゼロになり、脱酸生成物はAl23になる。昇熱処理の終了時、溶鋼3に溶解するアルミニウム濃度が0.005質量%以上である場合には、昇熱処理後の金属アルミニウムの添加は不要である。
昇熱処理によって生成するAl23及びその後の脱酸処理によって生成するAl23が、溶鋼中に懸濁した状態のままでCaO系脱硫剤を真空槽内の溶鋼3に添加すると、懸濁したAl23とCaO系脱硫剤のCaOとが反応して、CaO系脱硫剤のCaO濃度とAl23濃度との比(質量%CaO/質量%Al23)が低下してCaO系脱硫剤の脱硫能力が低下する。これを防止するために、本発明では、Al23の溶鋼中からの浮上・分離を促進させるべく、昇熱処理後、溶鋼中に溶解するアルミニウム濃度を0.005質量%以上確保した状態で、溶鋼3を2分間以上環流する。溶鋼3から浮上・分離したAl23は取鍋内のスラグ4に吸収される。尚、RH真空脱ガス装置1における環流量は0.5〜0.7t/(min・t)(環流量/ヒートサイズ)であるので、環流時間が2分間以上という意味は、少なくともヒートサイズ分以上の溶鋼を環流させるという意味である。
そして、溶鋼3を2分間以上環流させた後、原料投入口12からスラグ固化材を真空槽内の溶鋼3に投入する。スラグ固化材としては、Al23以外の融点の高い酸化物や窒化物などが使用できるが、安価であり且つ脱硫反応を阻害しないことから、MgOクリンカーまたはドロマイト(MgCO3・CaCO3)が好適である。ドロマイトとしては、焼成したドロマイト(MgO・CaO)がより好適である。
投入されたスラグ固化材は環流する溶鋼3とともに取鍋内に流出し、取鍋内で浮上して取鍋内のスラグ4の下面側に蓄積され、スラグ4の下面側に脱硫反応に無害なスラグ固化材の層が形成される。つまり、溶鋼3とAl23の富化されたスラグ4との接触がスラグ固化材によって遮断される。
この状態で、上吹きランス13から搬送用ガスとともに粉状のCaO系脱硫剤を、真空槽5の内部の溶鋼3に向けて吹き付けて添加(「投射」ともいう)し、溶鋼3の脱硫処理を実施する。使用するCaO系脱硫剤は特に規定する必要はないが、環境問題などからフッ素を含有しないCaO系脱硫剤が好適である。但し、CaO単体では滓化性が悪く、脱硫効率が低いので、CaOの滓化促進剤としてAl23を含有したCaO−Al23系のCaO系脱硫剤(CaO:45〜65質量%、Al23:35〜55質量%)が特に好適である。
投射したCaO系脱硫剤は、溶鋼3に巻き込まれ、下降側浸漬管9を通って取鍋2に至り、取鍋内で浮上してスラグ4の下面に到達する。CaO系脱硫剤がスラグ4に到達するまでの過程において溶鋼中の硫黄とCaO系脱硫剤との反応が起こり、脱硫反応生成物(CaS)がCaO系脱硫剤の表面に形成される。
本発明においては、溶鋼中に懸濁するAl23が少ないので、CaO系脱硫剤と懸濁したAl23との反応が抑制され、つまり、CaO系脱硫剤のCaO濃度とAl23濃度との比の変化が少なく、CaO系脱硫剤の脱硫能力は低下せず維持されて、効率的な脱硫が行なわれる。また、スラグ4の下面側には、スラグ固化材の層が形成されているので、Al23が富化されたスラグ4とCaO系脱硫剤との接触が断たれ、CaO系脱硫剤の脱硫能力は低下せず、脱硫反応生成物(CaS)が解離する反応つまり復硫が防止される。尚、前述した2分間以上の環流によって溶鋼中に懸濁するAl23の全てが浮上・分離するわけではなく、溶鋼中に残留するAl23もCaO系脱硫剤と反応するが、その量は少なく、脱硫反応への影響は無視できる。
CaO系脱硫剤を真空槽5の内部の溶鋼3に投射して脱硫処理する場合、真空槽5の内部の真空度を高くする(圧力を低くする)と、上吹きランス13からの噴出ガス速度の減衰が少なくなるため、搬送用ガス流量を一定とした場合でも、噴出ガスの溶鋼3の浴面におけるガス動圧が高くなり、脱硫剤の歩留まりが向上すると同時に投射位置における脱硫反応が促進されることから有利である。従って、真空槽5の内部の圧力は50torr(66.7hPa)以下にすることが好ましく、高真空までの排気が可能であるならば、10torr(13.3hPa)以下にすることがより好ましい。
このようにしてCaO系脱硫剤を所定時間投射して溶鋼3の硫黄濃度を目的とする濃度以下まで脱硫する。この脱硫処理後に、原料投入口12から合金鉄や冷却材を添加して溶鋼3の成分及び温度の調整を実施し、その後、RH真空脱ガス精錬を終了する。ここで、冷却材とは、チョッパー屑のような小型の薄鋼板屑を丸い形状に加工したものである。
真空脱炭処理を実施しない場合には、溶鋼3の還流が開始されたなら直ちに昇熱処理を実施し、その後、脱硫処理、溶鋼3の成分及び温度の調整処理の順で実施する。
このようにして溶鋼3の脱硫処理を実施することで、昇熱処理或いは脱酸処理で生成した、溶鋼中に懸濁するAl23とCaO系脱硫剤との反応が抑制され、CaO系脱硫剤の脱硫能力が維持されて効率的な脱硫処理が可能になるとともに、Al23の富化された取鍋内のスラグ4とCaO系脱硫剤との接触が阻害され、昇熱処理或いは脱酸処理で生成した、スラグ中のAl23によるCaO系脱硫剤の脱硫能力の低下を防止することができ、その結果、溶鋼3の脱硫処理を効率的に行うことが実現される。
図1に示すRH真空脱ガス装置を用いて、本発明の脱硫方法を実施した例を説明する。
転炉で脱炭精錬された約350トンの溶鋼を取鍋に出鋼した。この出鋼時、取鍋内に金属アルミニウムを添加して溶鋼中の溶解アルミニウムを0.010質量%以上として脱酸した。その後、溶鋼を収容した取鍋をRH真空脱ガス装置に搬送した。
RH真空脱ガス装置では、先ず、昇熱処理を実施し、昇熱処理後、金属アルミニウムを添加して溶鋼中のアルミニウム濃度を0.010〜0.030質量%の範囲に調整し、その後、2分間の環流を実施した後にスラグ固化材を投入し、次いで、脱硫処理、成分調整処理の順で精錬した(本発明例)。脱硫処理前の溶鋼の硫黄濃度は0.004〜0.005質量%であり、処理後の硫黄濃度は0.002〜0.003質量%であった。昇熱処理後に添加するスラグ固化材としては、MgOクリンカーを使用し、また、脱硫処理時のCaO系脱硫剤としては、CaO濃度が51質量%、Al23濃度が45質量%の脱硫剤を使用した。この脱硫剤のCaOとAl23との比(質量%CaO/質量%Al23)は1.13(=51/45)である。
また、比較のために、スラグ固化材を使用せず、それ以外の条件は本発明例と同一である比較例も実施した。
脱硫処理後、取鍋内からスラグとともに脱硫剤を回収し、CaO系脱硫剤のCaOとAl23との比(質量%CaO/質量%Al23)を調査した。また、所定の濃度まで脱硫するために必要な脱硫剤の原単位も調査した。
その結果、本発明例では、回収したCaO系脱硫剤のCaOとAl23との比(質量%CaO/質量%Al23)は0.50程度であったのに対し、比較例では0.35程度であり、比較例では昇熱処理及び脱酸処理により生成したAl23によってCaO系脱硫剤のCaOとAl23との比が大幅に低下することが確認された。即ち、比較例ではAl23によってCaO系脱硫剤の脱硫能力が阻害されることが分かった。
また、脱硫剤の原単位は、本発明例では2.2〜6.2kg/tであったのに対し、比較例では3.5〜7.5kg/tであり、本発明を適用することにより脱硫剤の原単位を1.3kg/t程度削減できることが確認できた。
1 RH真空脱ガス装置
2 取鍋
3 溶鋼
4 スラグ
5 真空槽
6 上部槽
7 下部槽
8 上昇側浸漬管
9 下降側浸漬管
10 環流用ガス吹き込み管
11 ダクト
12 原料投入口
13 上吹きランス

Claims (3)

  1. 大気圧下で脱炭精錬を行う脱炭精錬炉から取鍋に溶鋼を出鋼した後、前記取鍋をRH真空脱ガス装置に搬送し、RH真空脱ガス装置の真空槽内に吸引した溶鋼にアルミニウムを添加し、次いで減圧下の溶鋼表面に向けて酸素ガスを供給して溶鋼中のアルミニウムを燃焼させて溶鋼を昇熱し、溶鋼昇熱のための酸素ガスの供給終了後、溶鋼中に溶解するアルミニウム濃度を0.005質量%以上確保した状態で2分間以上溶鋼を環流し、その後、真空槽内の溶鋼にスラグ固化材(但し、ドロマイトを除く)を投入し、次いで、上吹きランスを介してCaO系脱硫剤を搬送用ガスとともに真空槽内の溶鋼の表面に向けて吹き付け添加して溶鋼を脱硫処理することを特徴とする、溶鋼の脱硫方法。
  2. 前記スラグ固化材がMgOクリンカーであることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の脱硫方法。
  3. 前記CaO系脱硫剤がCaOとAl23とからなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶鋼の脱硫方法。
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