本発明は、減圧下の溶鋼に対して精錬剤を添加して行う溶鋼の精錬方法に関し、詳しくは、精錬剤の添加によって溶鋼を脱硫処理すると同時に溶鋼中の酸化物系非金属介在物を除去する精錬方法に関するものである。
近年、鋼の高付加価値化及び鉄鋼材料の使用用途拡大化に伴う材料特性の向上のために、従来にも増して高純度鋼の要求が増加している。この要求に応えるためには、溶鋼の極低硫化並びに溶鋼の清浄化は極めて重要な条件である。
低硫鋼の溶製においては、転炉での脱炭精錬工程の前に溶銑段階で脱硫処理を施すことが行われているが、高級電磁鋼板や高級ラインパイプ用鋼板などの硫黄濃度が0.0010mass%以下である所謂極低硫鋼では、更に、転炉から出鋼後の溶鋼段階でも脱硫処理が行われている。この溶鋼の脱硫処理は、従来、加熱手段、攪拌手段、及びフラックスのインジェクション(吹き込み)手段などを備えた、大気圧で行う所謂取鍋精錬炉で行われていた。
ところで、極低硫鋼のような高級品種では、脱水素或いは溶鋼の清浄化などの目的のために脱ガス処理が必要であり、そのため、極低硫鋼は、転炉などで脱炭精錬された後、先ず、取鍋精錬炉で脱硫処理され、その後、RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備で脱水素処理などがなされ、取鍋内において2つの二次精錬設備を経て製造されていた。しかし、2つの二次精錬設備の間を搬送することの煩雑さや、設備の二重投資の無駄などの問題点を解決するため、脱水素が主体であった真空脱ガス設備において脱硫処理を行うことで、製造プロセスの簡素化を図る多数の試みが提案されている。
真空脱ガス設備として最も広く使用されているRH真空脱ガス装置における脱硫方法の基本的な1つとして、真空槽に設けられた原料投入口から真空槽内の溶鋼上に脱硫剤を添加して脱硫する方法があるが、投入した脱硫剤が排気系へ吸引されるなどのため、脱硫剤の添加歩留まりが悪いという欠点がある。排気系への吸引を防止するために脱硫剤の粒度を大きくした場合には、反応界面積の低下を招き、反応効率の面から不利になる。更に、添加歩留まりを向上させるために真空槽の溶鋼浴面下に設けた羽口を介して搬送用ガスと共に脱硫剤をインジェクションする方法(例えば、特許文献1参照)もあるが、羽口のメンテナンスが必要であり、羽口に費やすコストが増大することや、溶鋼中にインジェクションすることによる溶鋼の温度低下が問題である。また、この方法では、脱硫剤をインジェクションしない期間も、羽口の内部に溶鋼が侵入しないようにするため、ガスを流す必要があり、コストの点でも問題がある。
これらの問題を解決するために、RH真空脱ガス装置の真空槽に上吹きランスを設け、この上吹きランスから、脱硫剤を搬送用ガスと共に真空槽内の溶鋼浴面に吹き付ける(「投射」ともいう)ことによって溶鋼の脱硫を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この脱硫方法においては、滓化促進のためにCaO−CaF2 系の脱硫剤が使用されることが一般的であり、CaF2 の含有量が高くなるほど、脱硫率は向上する。
しかしながら、CaF2 含有量の高い脱硫剤を使用した場合には、使用後のスラグからフッ素が溶出するという環境上の問題があるのみならず、溶融したCaO−CaF2 系脱硫剤によって取鍋の耐火物、及び、RH真空脱ガス装置の真空槽の耐火物や浸漬管の溶損が激しく、使用命数が短くなるという問題がある。また、CaOとCaF2 との混合物を事前に加熱・溶融し、その後、冷却・粉砕して製造されたプリメルト脱硫剤は非常に高価であり、処理コストが高くなるという問題もある。更に、脱硫効率が溶鋼中のAl濃度に依存するため、高い脱硫率を得るためには溶鋼中のAl濃度を0.100mass%程度の高い濃度にする必要がある(例えば、特許文献3参照)という問題もある。鉄鋼材料においては0.1mass%程度のAl濃度は高すぎる場合があり、その場合には、特許文献3のように、Alを燃焼させるなどして溶鋼中から除去しなければならず、処理時間が延長されるのみならず、過剰なAl使用量によるコストの上昇という問題を発生する。また、特許文献3では、脱硫剤の上吹き前にAlを溶鋼中に添加すると記載するのみで、添加方法の詳細については、なんら言及していない。
また、CaO−CaF2 系脱硫剤の滓化を促進させる手段として、或いは、CaF2 の含有量が低い脱硫剤やCaF2 を含有しない脱硫剤を迅速に溶融させる手段として、脱硫剤をバーナーの火炎中を通過させて加熱し、溶鋼浴面に投射または添加する方法も提案されている(例えば、特許文献4)。しかし、バーナーを使用する場合には、投射設備が複雑になるのみならず、バーナー用の燃料及び酸素ガスが必要であり、処理コストが増大するといった問題がある。
一方、CaF
2 を配合しない脱硫剤として、ドロマイトとAl源とを混合した脱硫剤が特許文献5に提案されている。特許文献5による脱硫剤は、Al源によってドロマイト中のMgOを還元し、発生するMgガスと溶鋼中の硫黄とを反応させ、脱硫するというものである。しかしながら、特許文献5では、ドロマイトとAl源とを予め混合した脱硫剤を用いることが前提であり、溶鋼中にAlが存在する場合に脱硫剤中にAl源を含有させる必要があるのかどうかは不明であり、また、溶鋼の脱硫処理における上吹き(投射)方法や添加速度などの最適な処理方法は言及していない。更に、Al源の混合された脱硫剤を酸素ガス供給用の上吹きランスを用いて投射した場合には、供給流路に残留するAl源が酸素ガスの供給時に燃焼するなどして設備トラブルを起こす恐れがあるが、特許文献5ではこの点について何ら言及していない。
特開昭61−130413号公報
特開平5−311231号公報
特開平6−299229号公報
特開平7−41826号公報
再表02/022891号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備で精錬される溶鋼を、CaF2 を配合した脱硫用の精錬剤のみならず、CaF2 を配合しない脱硫用の精錬剤を用いた場合でも、従来に比べて格段に効率良く脱硫処理することができ、併せて、溶鋼中の酸化物系非金属介在物をも低減することのできる、溶鋼の精錬方法を提供することである。
本発明者等は、上記課題を達成すべく種々試験・研究を重ねた。以下に、試験・研究結果を説明する。
ドロマイト系精錬剤を脱硫剤として用いた脱硫方法は、溶融したスラグを形成させることで脱硫効率を高めるCaO−CaF2 系の脱硫用精錬剤とは異なり、ドロマイト中のMgOがAlによって還元されて生成するMgガスによる脱硫反応と、ドロマイト中のCaOによる脱硫反応とを併用したもので、このようにすることによって高効率の脱硫が達成される。従って、下記の(1)式に示すドロマイト中のMgOとAlとの反応(MgOの還元反応)、(2)式に示す発生するMgガスと溶鋼中のSとの反応(Mgガスによる脱硫反応)、更に、(3)式に示す生成したMgSとドロマイト中のCaOとの反応(CaOによるスラグ中へのSの固定反応)をいかに効率良く行わせるかが重要となる。
ここで、(1)式に示すMgOの還元反応はCaOが介在することにより、カルシウム−アルミネートを生成する反応も考えられる。その場合の反応は、例えば、下記の(4)式に示すような反応が挙げられる。
また、下記の(5)式に示すように、ドロマイト中のCaO成分は通常の脱硫反応にも寄与すると考えられる。
ドロマイトを主成分とする精錬剤を用いた脱硫処理の場合には、上記のように、MgOから生じるMgガスによる脱硫反応と、CaOによる脱硫反応とを併用できることから、脱硫効率を高くすることができ、滓化促進のためにCaF2 などを使用しなくても高効率の脱硫処理が可能となる。但し、ドロマイトの組成と同じになるようにMgO単体とCaO単体とを混合したものでは、ドロマイトと同等の脱硫効果を得ることはできない。これは、ドロマイトにおいては、MgOとCaOとが固溶体として微細な状態で存在しており、上記の(1)式〜(4)式の反応が高効率で起こり得るからである。
ここで、本発明者等は、RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備で精錬される溶鋼を脱硫処理する際に、効率良く脱硫処理が行える方法について検討した結果、Alの存在下の条件では、ドロマイトを主成分とする精錬剤を真空槽槽内の減圧下の溶鋼浴面に向けて投射することにより、バーナーのような複雑な設備を使用することなく、効率良く脱硫処理できるとの知見を得た。溶鋼において脱硫処理を行う場合には、還元反応である脱硫反応を促進させるために、通常、事前に脱酸処理を行う。Alを用いて脱酸処理したアルミキルド鋼の場合には、溶鋼中に溶解したAlが存在する。また、Alの成分規格を満たすために、溶鋼中へ成分調整用のAlを添加することも多い。このような溶鋼に脱硫処理を施す場合には、ドロマイトを主成分とする精錬剤にAlを混合しなくても、ドロマイトを主成分とする精錬剤のみを真空槽内の溶鋼浴面に投射することで、溶鋼中に溶解しているAlによって(1)式及び(4)式の反応が生じ、効率良く脱硫処理できることが確認できた。
また、脱硫効率を向上させるために種々検討した結果、脱硫用の精錬剤を投射して行う脱硫処理においては、溶鋼中のAl濃度が非常に重要であり、未脱酸の溶鋼であってもまた脱酸された溶鋼であっても、脱硫剤としてドロマイトを主成分とする精錬剤を使用した場合もまた石灰を主成分とする精錬剤を使用した場合も、これら精錬剤の投射と同時に、Al源として金属Al若しくは金属Alを含有する物質を溶鋼中へ添加することにより、効率的に脱硫反応を進行させることができることが分かった。特に、ドロマイトを主成分とする精錬剤を用いた脱硫処理では、効率的に(1)式〜(4)式の反応を進行させることができることが分かった。
ここで、Al源を、ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤と同時に添加するとは、ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤の投射時期に、Al源を溶鋼中へ添加することを指しており、これらの精錬剤の投射時期の全期間にわたってAl源を連続添加してもよいし、一時期にAl源を添加してもよい。また、これらの精錬剤の投射時期に何度かに分割してAl源を添加してもよい。Al源の添加方法としては、真空槽に設置された原料投入口或いは上吹きランスを用い、真空槽内の溶鋼、または、上記の精錬剤の投射位置へ添加する。脱硫剤として溶鋼へ投射される精錬剤の近傍のAl濃度を局所的に高めるためには、精錬剤の投射位置へAl源を添加することが望ましい。
ドロマイトを主成分とする精錬剤とAl源とを混合した混合体を用いること、並びに、石灰を主成分とする精錬剤とAl源とを混合した混合体を用いることは、Al源を脱硫用の精錬剤と同時に同一場所へ添加することのできる1例であり、最も効率良く脱硫反応を進行させることができる方法であり、ドロマイトを主成分とする精錬剤における(1)式〜(4)式の反応を効率的に進行させることができる方法である。即ち、Al源が混合された、ドロマイトを主成分とする精錬剤、或いは、Al源が混合された、石灰を主成分とする精錬剤を上吹きランスから投射することで、最も効率良く脱硫処理することが可能となる。
ところで、真空脱ガス設備では、真空脱炭処理など酸素ガスを上吹きして行う精錬のために、上吹き酸素ランスを備えた設備が多い。この上吹き酸素ランスを用いてAl源を混合した脱硫用精錬剤を投射して添加することは可能ではある。しかし、Al源を混合した脱硫用精錬剤を添加した後に、同じ供給経路を用いて上吹き酸素ランスから酸素ガスを供給した場合、上吹き酸素ランスへの供給経路に付着残留したAl源が酸素ガスと反応して燃焼し、供給配管の破損などの設備トラブルを招く恐れがある。この残留したAl源による問題は、酸素ガス吹き込み用の上吹きランスと、Al源を混合した精錬剤吹き込み用の上吹きランスとの2本の上吹きランスを独立して使用すること、或いは、酸素ガス用の上吹きランスとAl源を混合した精錬剤用の上吹きランスとの2本の上吹きランスを準備し、その都度上吹きランスを取り替えることによって解決されるが、設備が極めて煩雑になる、或いは生産性が極端に低下するなど新たな問題が発生する。
そこで、本発明では、ドロマイトを主成分とする精錬剤または石灰を主成分とする精錬剤と、Al源とを混合した混合体を投射する場合には、Al源を混合した精錬剤を供給する経路と、酸素ガスを供給する経路とが分離された上吹きランスを用い、その内のどちらか一方からAl源を混合した精錬剤を吹き付けることとした。他方の供給経路は酸素ガス、Arガスなどの供給経路となる。
更に、精錬剤の投射速度を変更した実験結果から、ドロマイトを主成分とする精錬剤の投射速度を最適化することにより、上記(1)式〜(4)式の反応を高効率で行わせることができることが分かった。即ち、溶鋼トン当たり1.5kg/min(以下、「kg/min・t」と記す)を越える投射速度でドロマイトを主成分とする精錬剤を添加した場合には、投射速度が速すぎ、(1)式〜(4)式の反応効率が悪化してしまう。つまり、(1)式及び(4)式に示したドロマイト中のMgOと溶鋼中のAlとが反応する割合が減少したり、発生したMgガスが溶鋼中のSと反応せずにガスとして抜け出してしまうなどにより、反応効率が悪化するものと考えられる。従って、1.5kg/min・t以下の投射速度で添加することが好ましい。しかし、投射速度が0.1kg/min・t未満の投射速度になると、脱硫効率が悪化する。これは、投射速度が遅すぎると、真空槽の排気系への精錬剤の吸引により、ドロマイトを主成分とする精錬剤の溶鋼中への添加歩留まりが悪くなることに起因しているものと考えられる。
これらの結果から、ドロマイトを主成分とする精錬剤を、0.1〜1.5kg/min・tの投射速度で投射することが好ましいことが分かった。但し、0.1〜1.5kg/min・tの投射速度の範囲においては、投射速度が遅くなるほど脱硫反応の効率は良くなるので、処理時間に余裕があるならば0.1〜1.0kg/min・tの範囲とすることが望ましいことも確認できた。
また、ドロマイトを主成分とする精錬剤または石灰を主成分とする精錬剤を溶鋼に投射して添加するので、微粉の精錬剤も歩留まり良く溶鋼に添加され、この微粉の精錬剤によって溶鋼中の酸化物系非金属介在物(以下「介在物」と記す)が効率良く除去され、溶鋼が効率良く清浄化されることも分かった。これは、精錬剤が微粉であるために溶鋼中の介在物と精錬剤との衝突する頻度が高くなり、介在物が精錬剤に吸収されて効率的に除去されるものと思われる。
尚、本発明において、ドロマイトを主成分とする精錬剤とは、生ドロマイト、生ドロマイトを焼成して得られる軽焼ドロマイトや焼成ドロマイト、及び、これらの混合物を50mass%以上含有しているものであるが、通常は80mass%以上で使用する。その他の成分としてはSiO2 やAl2 O3 などを含有してもよいが、CaF2 などのフッ化物、及び、金属Al、金属Zrなどの溶鋼温度においてMgOの還元剤となる酸素との親和力の強い金属は、含有していないものである。また、石灰を主成分とする精錬剤とは、CaOを50mass%以上含有しているものであるが、通常は80mass%以上で使用する。その他の成分としてはCaF2 、SiO2 、Al2 O3 などを含有してもよく、具体的には生石灰単独、或いは、生石灰と蛍石との混合体などである。尚、ドロマイトを主成分とする精錬剤と石灰を主成分とする精錬剤とを併用する場合には、生ドロマイト、軽焼ドロマイトなどドロマイト質成分とCaOとを併せて50mass%以上含有していればよいが、その場合も、通常は併せて80mass%以上で使用する。
本発明は、上記試験・研究結果に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る溶鋼の精錬方法は、真空脱ガス設備において精錬されている溶鋼に精錬剤を添加して溶鋼を精錬するに際し、上吹きランスの先端に、中心孔と該中心孔の周囲に設けられた周孔とを有し、中心孔及び周孔のどちらか一方は前記精錬剤を吹き付けるためのノズルであり、他方は溶鋼の真空脱炭処理時に酸素ガスを吹き付けるためのノズルであり、中心孔及び周孔への供給経路が分離された上吹きランスを用い、ドロマイトを主成分とした精錬剤か石灰を主成分とした精錬剤のうちの何れか一方または双方と、金属Alまたは金属Alを含有した物質とを、中心孔または周孔のどちらか一方から、希ガスを搬送用ガスとして該搬送用ガスと共に減圧下の溶鋼の湯面に向けて吹き付けて添加し、溶鋼を精錬することを特徴とするものである。
第2の発明に係る溶鋼の精錬方法は、第1の発明において、溶鋼を予めAlによって脱酸し、次いで、前記上吹きランスを用いて、ドロマイトを主成分とした精錬剤か石灰を主成分とした精錬剤のうちの何れか一方または双方と、金属Alまたは金属Alを含有した物質とを、添加することを特徴とするものである。
第3の発明に係る溶鋼の精錬方法は、第1または第2の発明において、前記ドロマイトを主成分とした精錬剤を、0.1〜1.5kg/min・tの投射速度で吹き付けることを特徴とするものである。
本発明によれば、Alの存在下の条件で、ドロマイトを主成分とする精錬剤を真空脱ガス設備で精錬されている減圧下の溶鋼の湯面に投射して精錬する、或いは、Al源の添加と同時に、ドロマイトを主成分とする精錬剤または石灰を主成分とする精錬剤を真空脱ガス設備で精錬されている減圧下の溶鋼の湯面に投射して精錬するので、高い脱硫効率で溶鋼を脱硫処理することができると同時に、溶鋼中の介在物を効率良く除去することができる。
また、ドロマイトを主成分とする精錬剤を用いた場合には、CaF2 などのフッ化物を使用していないので、取鍋の耐火物、或いは溶鋼と接触する真空脱ガス設備の耐火物の溶損を抑制することが可能になると同時に、処理後のスラグにはフッ素が含有されないため、スラグの処理が極めて容易になる。更に、ドロマイトを主成分とする精錬剤はCaO−CaF2 系の脱硫用精錬剤に比較して非常に安価であるため、処理費用が低減するという経済的なメリットもある。
以下、本発明を具体的に説明する。高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋やトーピードカーなどの溶銑保持・搬送用容器で受銑し、次工程の脱炭精錬を行う転炉に搬送する。この搬送途中で溶銑に対して脱硫処理を施す。この溶銑を転炉において脱炭精錬して得た溶鋼を転炉から取鍋に出鋼し、次いで、この溶鋼をRH真空脱ガス装置、DH真空脱ガス装置、或いはVOD炉などの真空脱ガス設備に搬送し、真空脱ガス設備において所定の真空精錬並びに本発明に係る精錬方法を実施する。この場合、使用する溶鋼としては、高炉から出銑された溶銑を転炉で脱炭精錬した溶鋼に限るものではなく、鉄スクラップなどを電気炉で溶解して精錬した溶鋼であってもよい。
真空脱ガス設備の代表的な設備はRH真空脱ガス装置であり、以下、真空脱ガス設備としてRH真空脱ガス装置を用いて精錬する例で説明する。図1に、本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス装置の例を示し、図2に、図1に示す上吹きランスの概略拡大断面図を示す。
図1に示すように、RH真空脱ガス装置1は、上部槽6及び下部槽7からなる真空槽5と、下部槽7の下部に設けられた上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9とを備え、上部槽6には、排気装置(図示せず)と接続するダクト11と、原料投入口12と、真空槽5の内部を上下方向に移動可能な上吹きランス13とが設けられ、また、上昇側浸漬管8には環流用ガス吹き込み管10が設けられている。環流用ガス吹き込み管10からは環流用ガスとしてArガスが上昇側浸漬管8の内部に吹き込まれる構造となっている。
上吹きランス13は、図2に示すように、円筒状のランス本体14と、このランス本体14の下端に溶接などにより接続された銅製のランスノズル15とで構成されており、ランス本体14は、外管16、中管17、内管18、最内管19からなる同心円状の4種の鋼管、即ち四重管で構成されている。ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤は、Arガスなどの希ガスを搬送用ガスとして最内管19の内部を通って供給され、また、これらの精錬剤以外の酸素ガス、Arガスなどが、最内管19と内管18との間隙を通って供給されるようになっている。内管18と中管17との間隙及び中管17と外管16との間隙は、冷却水の給排水流路となっている。
最内管19はランスノズル15のほぼ中心位置に配置された中心孔20と連通し、内管18は、中心孔20の周囲に複数個設置された周孔21に連通している。中心孔20は、ドロマイトを主成分とする精錬剤または石灰を主成分とする精錬剤を搬送用ガスと共に吹き付けるためのノズルであり、周孔21は、精錬剤以外の酸素ガスなどを吹き付けるためのノズルであり、例えば、脱硫処理時には搬送用ガスを供給し、脱炭処理時には酸素ガスを供給する。尚、中心孔20から脱硫用の精錬剤以外の酸素ガスなどを吹き付け、周孔21からドロマイトまたは石灰を主成分とする精錬剤を吹き付けるようにしてもよいが、中心孔20から精錬剤を吹き付ける方が精錬剤の飛散が抑制されるので好ましい。Alが混合された精錬剤の供給配管と酸素ガスの供給配管とが異なることが重要である。また、図2に示すように、中心孔20及び周孔21は、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成された、所謂ラバールノズルの形状を採っているが、ストレート形状であってもよく、更に、図2では、中心孔20及び周孔21共に鉛直下向き方向であるが、周孔21は斜め下向きとしても構わない。更にまた、周孔21の代わりに、円弧状のスリットノズルとしてもよい。
尚、Alが混合された精錬剤を吹き込まない場合には、即ち、ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤のみを投射する場合には、供給配管にAlが残留することがないので、通常の三重管構造の上吹きランスを使用することもできる。Alが混合された精錬剤を投射する場合には、上記に示す四重管構造の上吹きランス13を用いることが好ましい。
このような構成のRH真空脱ガス装置1において、本発明に係る精錬方法を次のようにして実施する。先ず、溶鋼3を収納する取鍋2を真空槽5の直下に搬送する。取鍋2の内部には転炉や電気炉などにおける精錬で発生したスラグ4が一部混入し、溶鋼3の湯面を覆っている。次いで、取鍋2を昇降装置(図示せず)によって上昇させ、上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋2に収容された溶鋼3に浸漬させる。そして、環流用ガス吹き込み管10から上昇側浸漬管8の内部にArガスを環流用ガスとして吹き込むと共に、真空槽5の内部をダクト11に連結される排気装置にて排気して真空槽5の内部を減圧する。真空槽5の内部が減圧されると、取鍋2に収容された溶鋼3は、環流用ガス吹き込み管10から吹き込まれるArガスと共に上昇側浸漬管8を上昇して真空槽5の内部に流入し、その後、下降側浸漬管9を介して取鍋2に戻る流れ、所謂、環流を形成してRH真空脱ガス精錬が施される。
このRH真空脱ガス精錬中に、上吹きランス13から搬送用ガスと共に粉状のドロマイトを主成分とする精錬剤或いは粉状の石灰を主成分とする精錬剤を、真空槽5の内部の溶鋼3に向けて吹き付けて添加(「投射」ともいう)し、溶鋼3に脱硫処理を施す。
脱硫処理の方法としては、次の3種類の方法で行うことができる。1つ目の方法は、脱硫処理の前に予め溶鋼3に原料投入口12などから金属Alなどを添加し、溶鋼3のAl濃度を0.03〜0.4mass%程度とした上で上吹きランス13からドロマイトを主成分とする精錬剤を投射して脱硫する方法である。2つ目の方法は、上吹きランス13からドロマイトを主成分とした精錬剤か石灰を主成分とした精錬剤のうちの何れか一方または双方を投射すると同時に、金属Alまたはアルミドロスなどの金属Alを含有する物質を、原料投入口12から真空槽5の内部の溶鋼3に添加して脱硫する方法である。また、3つ目の方法は、上吹きランス13から、ドロマイトを主成分とした精錬剤か石灰を主成分とした精錬剤のうちの何れか一方または双方と、金属Alまたは金属Alを含有する物質とを、搬送用ガスと共に真空槽5の内部の溶鋼3に投射して脱硫する方法である。ここで、1つ目の方法及び2つ目の方法では、ドロマイト或いは石灰を主成分とする精錬剤のみを投射するため、供給配管にAlの残留がなく、通常の三重管構造の上吹きランスでも、また図2に示す四重管構造の上吹きランス13でもどちらでも使用可能であるが、3つ目の方法は、精錬剤と金属Alまたは金属Alを含有する物質とを同時に添加するため、図2に示す四重間構造の上吹きランス13を用いることが好ましい。
2つ目の方法の場合、金属Alまたはアルミドロスなどの金属Alを含有する物質の添加量は、Al純分で溶鋼トン当たり0.2〜4kgで十分であり、3つ目の方法の場合、ドロマイトを主成分とする精錬剤または石灰を主成分とする精錬剤と、金属Alまたはアルミドロスなどの金属Alを含有する物質との混合比率は、ドロマイトまたは石灰を主成分とする精錬剤の質量に対し、金属Alまたは金属Alを含有する物資のAl純分に換算した質量の比率で3〜20mass%で十分である。これらの範囲を外れても溶鋼3を脱硫することはできるが、脱硫用の精錬剤としての効率が悪化する或いはAlが無駄になるなどのデメリットが発生する。また、2つ目の方法及び3つ目の方法の場合、脱硫処理前に溶鋼3はAlにより脱酸されていても、脱酸されていなくてもどちらでも構わないが、介在物を低減して溶鋼3の清浄性を高めるためには、予め脱酸することが好ましい。更に、ドロマイトを主成分とする精錬剤の投射速度は、どの方法の場合でも、脱硫効率を高める観点から0.1〜1.5kg/min・tの範囲、望ましくは0.1〜1.0kg/min・tの範囲とすることが好ましい。
本発明に係る精錬方法を実施する際、真空度を高くする(圧力を低くする)と、上吹きランス13からの噴出ガス速度の減衰が少なくなるため、搬送用ガス流量を一定とした場合でも、噴出ガスの溶鋼3の浴面におけるガス動圧が高くなり、精錬剤の歩留まりが向上すると同時に投射位置における脱硫反応が促進されることから有利である。従って、真空槽5の内部の圧力は50torr(66.7hPa)以下にすることが好ましく、高真空までの排気が可能であるならば、10torr(13.3hPa)以下にすることが望ましい。
本発明においてドロマイトを主成分とする精錬剤の主たる原料として使用するドロマイトとしては、生ドロマイト(鉱石としてのドロマイト(MgCO3 ・CaCO3 ))、生ドロマイトを焼成して得られる軽焼ドロマイト(生ドロマイトを1000〜1300℃で加熱焼成したもの)、焼成ドロマイト、及びこれらの混合物を用いることができる。また、ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤と混合して投射する、金属Alまたは金属Alを含有する物質としては、安価に入手できることから、アルミニウムスクラップを溶解再生するときに発生するアルミドロス粉末(金属Alを30〜50mass%程度含有する)が好ましいが、アルミニウム融液をガスでアトマイズして得られるアトマイズAl粉末やアルミニウム合金を研磨・切削する際に発生する切削粉などを用いることもできる。この場合、投射して添加することからAl源も粉末である必要がある。粉末のサイズは、精錬剤及びAl源共に平均粒径が1.0mm程度以下であれば十分である。
溶鋼3をRH真空脱ガス装置1で精錬する場合、本来の目的である、脱水素処理及び脱窒素処理などのガス成分の除去処理以外に、脱硫処理のみならず、真空脱炭処理や成分調整を行う必要のある場合が多い。これらの処理のうちで真空脱炭処理は酸化反応であり、酸素ガスの付与などによって溶鋼3の酸素ポテンシャルを高める必要がある。一方、脱硫処理は還元反応であるため、溶鋼3の酸素ポテンシャルは低いほど好ましい。従って、脱硫処理の後に真空脱炭処理を施すと、脱硫処理で使用する還元剤即ち脱酸剤が真空脱炭処理において酸化されてしまうために無駄となるのみならず、一旦、溶鋼3からスラグ4に移行した硫黄が、真空脱炭処理時の酸素ポテンシャルの上昇に伴って溶鋼3に戻る反応、所謂復硫反応が生じるため、安定して溶鋼3の硫黄濃度を下げることができない。これらから、真空脱炭処理を施す必要のある場合には、真空脱炭処理を実施した後に本発明に係る精錬方法即ち脱硫処理を実施することが好ましい。但し、品質上に問題が生ずるなど不都合が生ずる場合には、この限りではない。
図2に示した、酸素ガスと精錬剤との供給経路を分離した上吹きランス13の真空脱炭処理時及び脱硫処理時における使用方法について説明する。真空脱炭処理時には、例えば、周孔21から脱炭処理用の酸素ガスを流し、中心孔20からは詰まり防止または搬送用ガスとしてArガスなどの希ガスを流し、逆に、脱硫処理の際には、中心孔20から搬送用のArガスなどと共に精錬剤或いは精錬剤と金属Alまたは金属Alを含有する物質とを上吹きし、周孔21からは詰まり防止または搬送ガスとしてArガスなどを流す。これにより、上吹きランスの取り替えなどすることなく、同一の上吹きランス13で、真空脱炭処理と脱硫処理の双方の処理を効率良く行うことが可能となる。また、酸素ガスと精錬剤とが別の経路で供給されるので、精錬剤に金属Alを混合した場合でも、供給配管内における残留Alの燃焼或いは爆発による配管の破損、建家の火災などの生じる懸念がなく、安全に高効率の脱硫処理を実施することができる。更に、この上吹きランス13から酸素ガスを供給して行う真空脱炭処理も問題なく行うことができる。
また、成分調整のための合金剤の添加は、原料投入口12から所定の合金鉄或いは金属を溶鋼3に投入して実施する。本発明に係る精錬方法即ち脱硫処理後にAl濃度が目標値よりも高い場合には、酸素ガスなどの酸素源を付与してAlを酸化・除去する場合もあるが、成分調整のうちで溶鋼3のAl濃度の調整は、脱硫処理後には目標Al濃度となるように、ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤の投射が終了するまでに調整することが好ましい。脱硫処理後にAl濃度が目標値よりも高い場合には、酸素ガスなどの酸素源を付与してAlを酸化・除去する必要が生じ、前述したように、脱硫処理後に酸素源を付与すると復硫反応が発生して溶鋼3の硫黄濃度が上昇してしまうからである。この復硫を防止するために精錬剤の投射が終了するまでにAlの調整を実施する。具体的なAl濃度の調整方法は、脱硫処理中に溶鋼3のAl濃度分析を実施し、添加するAl源の量を調整したり、過剰のAl源が添加されて脱硫処理中の(1)式及び(4)式の反応だけでは目標値まで下がらないと判断された場合には、脱硫処理後の還流時間を延長したりして目標値まで低減させる。
本発明においては、溶鋼3をRH真空脱ガス装置1などの真空脱ガス設備で精錬する際に、必要に応じて先ず真空脱炭処理を行った後、合金剤の添加により溶鋼3のAl濃度を調整すると同時に溶鋼温度を調整し、次いで、ドロマイトを主成分とする精錬剤を搬送用ガスによって溶鋼3の表面へ投射して脱硫処理する、或いは、必要に応じて先ず真空脱炭処理を行った後、溶鋼温度を調整し、次いで、ドロマイトを主成分とする精錬剤の添加或いは石灰を主成分とする精錬剤の添加と同時に、金属Alまたは金属Alを含有する物質を添加して脱硫処理し、その後、環流しながら合金成分の確認・調整を行って真空精錬を終了する。その結果、高い脱硫率で安定して溶鋼3を真空脱ガス設備において脱硫処理することが達成されると同時に、溶鋼3の清浄性を高めることが達成される。また、酸素ガスと精錬剤との供給経路を分離した上吹きランス13を用いることで、Al源を混合した精錬剤であっても、供給配管内に残留するAl源による設備トラブルを未然に防止して、同一の上吹きランス13を用いて脱硫処理及び真空脱ガス処理を行うことが可能となる。更に、ドロマイトを主成分とした精錬剤を用いた場合には、CaF2 などのフッ化物を使用しなくても高効率で脱硫できるので、取鍋2の耐火物、或いは溶鋼3と接触する真空脱ガス設備の耐火物の溶損を抑制することが可能となると同時に、処理後のスラグ4にはフッ素が含有されないため、スラグ4の処理が極めて容易になる。
尚、上記説明は真空脱ガス設備としてRH真空脱ガス装置1を使用した例で説明したが、本発明はRH真空脱ガス装置1に限るものではなく、上吹きランスを有するならば、DH真空脱ガス装置、VOD設備、VAD設備などにも上記説明に沿って実施することができる。
図1に示すRH真空脱ガス装置を用い、本発明に係る精錬方法を実施した例を説明する。使用した上吹きランスは、通常の三重管構造の1孔の上吹きランスと、1つの中心孔の周囲に3つの周孔が設置された、図2に示す四重管構造の上吹きランスの2種類である。転炉で脱炭精錬した約350トンの溶鋼を取鍋に受け、RH真空脱ガス装置に搬送した。RH真空脱ガス装置による処理前の溶鋼は、炭素濃度が0.02〜0.1mass%、硫黄濃度が0.0025〜0.004mass%で、溶鋼温度は1600〜1650℃であった。この溶鋼を用い、本発明に係る精錬方法を以下の4つの水準で実施した。
水準1:予め溶鋼をAlによって脱酸しておき、上吹きランスからドロマイトを主成分とする精錬剤のみを投射して脱硫精錬する方法である。使用した上吹きランスは、通常の三重管構造の1孔の上吹きランスである。具体的には、以下のようにして実施した。即ち、RH真空脱ガス装置での処理開始後、必要に応じて酸素ガスを上吹きランスから上吹きする真空脱炭処理を施した後、溶鋼温度を測定し、脱硫処理開始前に必要な温度が確保されているか確認した。必要な温度とは、脱硫処理の経過に伴う温度低下と、精錬剤の添加による温度低下とを考慮して、処理条件毎に決められる温度である。温度不足の場合には、原料投入口から金属Alを添加し、上吹きランスから酸素ガスを供給してAlを酸化・燃焼させ、その燃焼熱で溶鋼の温度を上昇させ、所定の温度に調整した。溶鋼の温度が確保されたなら、上吹きランスの先端位置を溶鋼の浴面から1.5m〜2.5mの位置に固定し、真空槽内の圧力を50torr以下に調整した後、原料投入口から0.3〜4kg/t程度の金属Alを溶鋼中に投入し、その直後、上吹きランスから、Arガスを搬送用ガスとしてドロマイトを主成分とする精錬剤を投射した。ドロマイトを主成分とする精錬剤としては軽焼ドロマイトを使用した。その際に、軽焼ドロマイトの総添加量を8kg/tとし、軽焼ドロマイトの投射速度を0.05〜2.0kg/min・tの範囲で変化させ、脱硫率への影響を調査した。脱硫率とは、脱硫処理前後の硫黄濃度の差分を、脱硫処理前の硫黄濃度に対して百分率で表示したものである。
水準2:上吹きランスからドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤を投射すると同時に、金属Alまたは金属Alを含有する物質を原料投入口から添加して脱硫する方法である。使用した上吹きランスは、1つの中心孔と、その周囲に3つの周孔が設置された、図2に示す四重管構造の上吹きランスである。具体的には、以下のようにして実施した。即ち、水準1の場合と同様に、RH真空脱ガス装置での処理開始後、必要に応じて真空脱炭処理及び溶鋼の温度調整を行った後、真空槽内の圧力を50torr以下に調整し、その先端位置を溶鋼の浴面から1.5m〜2.5mの位置に固定した上吹きランスの中心孔から、Arガスを搬送用ガスとしてドロマイト主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤を投射すると同時に、これらの精錬剤の添加期間中、精錬剤投射速度の約5%の添加速度で金属Alを原料投入口から連続添加しながら脱硫処理を行った。ドロマイトを主成分とする精錬剤としては軽焼ドロマイトを使用し、石灰を主成分とする精錬剤としては、60mass%CaO−40mass%CaF2 を用いた。精錬剤の総添加量は全て8kg/tとし、精錬剤の投射速度を0.05〜2.0kg/min・tの範囲で変化させ、脱硫率への影響を調査した。
水準2の比較例として、石灰を主成分とする精錬剤を投射する際に、金属Alを添加せず、水準2で連続添加した金属Al量と同量の金属Al量を、石灰を主成分とする精錬剤の投射前に溶鋼中へ一括添加した操業(「比較例1」と呼ぶ)も実施した。
水準3:ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤と、金属Alまたは金属Alを含有する物質との混合体を、上吹きランスから投射して脱硫する方法である。使用した上吹きランスは、1つの中心孔と、その周囲に3つの周孔が設置された、図2に示す四重管構造の上吹きランスである。具体的には、以下のようにして実施した。即ち、水準1の場合と同様に、RH真空脱ガス装置での処理開始後、必要に応じて真空脱炭処理及び溶鋼の温度調整を行った後、真空槽内の圧力を50torr以下に調整し、その先端位置を溶鋼の浴面から1.5m〜2.5mの位置に固定した上吹きランスの中心孔から、Arガスを搬送用ガスとしてドロマイトを主成分とする精錬剤または石灰を主成分とする精錬剤とアルミドロスとの混合体を投射して脱硫処理を行った。ドロマイトを主成分とする精錬剤としては軽焼ドロマイトを使用し、石灰を主成分とする精錬剤としては60mass%CaO−40mass%CaF2 を使用し、ドロマイトを主成分とする精錬剤及び石灰を主成分とする精錬剤とアルミドロスとは9:1の質量比率で配合した。精錬剤の総添加量は全て6kg/tとし、精錬剤(アルミドロスは含まず)の投射速度を0.05〜2.0kg/min・tの範囲で変化させ、脱硫率への影響を調査した。
水準3の比較例として、石灰を主成分とする精錬剤を投射する際に、アルミドロスを混合添加せず、水準3で混合添加したアルミドロス量と同量のアルミドロス量を、石灰を主成分とする精錬剤の投射前に溶鋼中へ一括添加した操業(「比較例2」と呼ぶ)も実施した。
水準4:ドロマイトを主成分とする精錬剤と、石灰を主成分とする精錬剤と、金属Alまたは金属Alを含有する物質との混合体を、上吹きランスから投射して脱硫する方法である。使用した上吹きランスは、1つの中心孔と、その周囲に3つの周孔が設置された、図2に示す四重管構造の上吹きランスである。具体的には、以下のようにして実施した。即ち、水準1の場合と同様に、RH真空脱ガス装置での処理開始後、必要に応じて真空脱炭処理及び溶鋼の温度調整を行った後、真空槽内の圧力を50torr以下に調整し、その先端位置を溶鋼の浴面から1.5m〜2.5mの位置に固定した上吹きランスの中心孔から、Arガスを搬送用ガスとしてドロマイトを主成分とする精錬剤と石灰を主成分とする精錬剤とアルミドロスとの混合体を投射して脱硫処理を行った。ドロマイトを主成分とする精錬剤としては軽焼ドロマイトを使用し、石灰を主成分とする精錬剤としては60mass%CaO−40mass%CaF2 を使用し、軽焼ドロマイトを主成分とする精錬剤と、石灰を主成分とする精錬剤と、アルミドロスとは8:1:1の質量比率で配合した。軽焼ドロマイトを主成分とする精錬剤と石灰を主成分とする精錬剤とを混合した精錬剤の総添加量は全て6kg/tとし、その投射速度(アルミドロスは含まず)は0.8kg/min・とした。
図3に、水準1〜3においてドロマイトを主成分とする精錬剤を用いた場合に得られた精錬剤の投射速度と脱硫率との関係を示す。図3に示すように、水準1においても50%以上の脱硫率が得られており、溶鋼がAlによって脱酸されている場合には、溶鋼中のAlによって(1)式または(4)式の反応が生じ、ドロマイトを投射しただけであっても脱硫処理が可能であることが確認できた。この場合、50%以上の脱硫率が得られていることから、例えば、硫黄濃度が0.002mass%以下といった低硫鋼の溶製に十分適用可能であることが分かった。
ドロマイトを主成分とする精錬剤の投射速度が0.1〜1.5kg/min・tの範囲においては、水準2及び水準3のみならず水準1においても75%以上の脱硫率が得られた。特に、ドロマイトを主成分とする精錬剤の投射速度が0.1〜1.0kg/min・tの範囲においては80%以上の脱硫率が得られ、処理後の硫黄濃度は0.0003〜0.0007mass%まで低下しており、極低硫鋼の溶製が可能であることが分かった。また、水準4においても、水準2及び水準3と同等の脱硫率が得られることが確認できた。尚、図3に示す精錬剤の投射速度は軽焼ドロマイトのみの投射速度で、水準3におけるアルミドロス分は含まれていない。
比較例1及び比較例2における脱硫処理では、石灰を主成分とする精錬剤を使用して行った水準2及び水準3に比較して5%程度脱硫率が低い結果が得られた。このことから、石灰を主成分とする精錬剤を使用する場合においては、精錬剤を投射すると同時に金属Alを溶鋼中へ添加したり、精錬剤と金属Alを含有する物質との混合体を投射することで、脱硫効率の向上が期待できることが分かった。
また、水準3の他の比較例として、図2に示す四重管構造の上吹きランスを用いず、従来の三重管構造の上吹きランスを用いてアルミドロスと軽焼ドロマイトとの混合体を投射して脱硫する操業(「比較例3」と呼ぶ)も実施した。比較例3で使用した上吹きランスは、ラバールノズル型の中心孔のみのランスである。比較例3は以下のようにして実施した。
RH真空脱ガス装置での処理開始後、先ず、その先端位置を溶鋼の浴面から1.5m〜2.5mの位置に固定した上吹きランスの中心孔から酸素ガスを上吹きして真空脱炭処理を実施した。真空脱炭処理後に溶鋼の温度調整を行い、次いで、真空槽内の圧力を50torr以下に調整し、酸素ガスを上吹きした際に使用した上吹きランスの中心孔から、Arガスを搬送用ガスとし、ドロマイトを主成分とする精錬剤としての軽焼ドロマイトとアルミドロスとの混合体を投射して脱硫処理を実施した。軽焼ドロマイトとアルミドロスとは9:1の質量比率で配合した。軽焼ドロマイトの投射速度を1.0kg/min・tとし、軽焼ドロマイトの総添加量を6kg/tとして軽焼ドロマイトとアルミドロスとの混合体を投射した結果、約90%の高い脱硫率が得られた。
しかし、RH真空脱ガス装置で次のヒートの溶鋼を処理した際、上吹きランスから真空脱炭処理のために酸素ガスを吹き付けたところ、上吹きランスの配管内でAlが燃焼したことに起因すると思われる配管の破損が生じ、RH真空脱ガス装置での精錬の続行が不可能となった。これは、配管内にAlが残留しており、そこを酸素ガスが通過したため、Alが燃焼したものと推定された。このことから、ドロマイトを主成分とする精錬剤或いは石灰を主成分とする精錬剤と、Al源との混合体を投射する場合には、三重管構造の中心孔のみの上吹きランスを使用することは危険であり、酸素ガスと精錬剤との供給経路を分離した四重管構造の上吹きランスを用いることが好ましいことが分かった。
以上の結果から、水準1でも溶鋼の脱硫処理が十分可能であることが分かった。また、水準2、水準3及び水準4の場合には、水準1に比べて脱硫率を高められることが分かった。更に、ドロマイトを主成分とする精錬剤を0.1〜1.5kg/min・tの投射速度で投射することによって、より一層高効率の脱硫処理を行えることが分かった。また、酸素ガスと精錬剤との供給経路を分離した四重管構造の上吹きランスを用いることで、酸素ガスを供給して行う真空脱炭処理と脱硫処理の双方を安全に効率良く行うことが可能であることが分かった。
本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス装置の例を示す図である。
図1に示す上吹きランスの概略拡大断面図である。
ドロマイトを主成分とする精錬剤の投射速度と脱硫率との関係を示す図である。
符号の説明
1 RH真空脱ガス装置
2 取鍋
3 溶鋼
4 スラグ
5 真空槽
6 上部槽
7 下部槽
8 上昇側浸漬管
9 下降側浸漬管
10 環流用ガス吹き込み管
11 ダクト
12 原料投入口
13 上吹きランス
14 ランス本体
15 ランスノズル
16 外管
17 中管
18 内管
19 最内管
20 中心孔
21 周孔