前述のように、本発明は、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においても、多点学習値を精度良く学習することができる、内燃機関の点火時期制御装置を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、従来技術においては無条件に実行されていた前記反省処理を、学習頻度が無い又は少ない多点学習領域については実行しないように制御することにより、意図せぬ学習値により点火時期が不適正な時期に変更されることを抑制し得ることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
即ち、本発明の第1態様は、
内燃機関の運転状態に基づいて設定された基本値を、ノッキング発生の有無に応じて更新されるフィードバック補正項と同フィードバック補正項に基づいて更新される学習値とによって補正して点火時期の制御目標値を設定し、前記学習値として、機関回転速度及び機関負荷を座標軸とする機関運転領域を機関回転速度の所定の範囲毎に区画して得られる複数の基本学習領域毎に設定される基本学習値と、これら複数の基本学習領域のうち少なくとも1つの領域内の少なくとも一部を機関回転速度及び機関負荷の所定の範囲毎に更に区画して得られる複数の多点学習領域毎に設定される多点学習値とを、各別に学習する内燃機関の点火時期制御装置において、
前記多点学習領域では前記多点学習値及び前記基本学習値によって前記学習値を補正して前記制御目標値を設定し、前記多点学習領域以外の領域では前記基本学習値のみによって前記学習値を補正して前記制御目標値を設定する学習値設定手段と、
前記多点学習領域では前記多点学習値の学習のみを許可し、前記基本学習領域では前記基本学習値の学習のみを許可する学習許可手段と、
を備える内燃機関の点火時期制御装置であって、
前記複数の多点学習領域の個々の領域の学習頻度をカウントする学習頻度算出手段であって、内燃機関の運転状態が前記複数の多点学習領域の何れかに該当する状況において、同多点学習領域に対応する多点学習値の学習が可能な状態に同運転状態が該当した場合に同多点学習領域の学習頻度をカウントする学習頻度算出手段と、
前記基本学習値が変化した際に、同基本学習値に対応する基本学習領域に含まれる多点学習領域であって、前記学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域に対応する多点学習値のみについて、前記基本学習値の変化の方向と逆方向に同基本学習値の変化量の絶対値以下の量だけ変化した値に変更する反省処理手段と、
を更に備えることを特徴とする、内燃機関の点火時期制御装置である。
上記のように、本発明の第1態様に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、学習値設定手段が、多点学習領域では多点学習値及び基本学習値によって学習値を補正して、同学習値とフィードバック補正項とを用いて点火時期の制御目標値を設定し、多点学習領域以外の領域では基本学習値のみによって学習値を補正して、同学習値とフィードバック補正項とを用いて点火時期の制御目標値を設定する。更に、学習許可手段は、多点学習領域では多点学習値の学習のみを許可し、基本学習領域では基本学習値の学習のみを許可する。
従って、何らかのノッキング限界移行要因(例えば、内燃機関の運転環境(例えば、吸入空気の温度や湿度)や内燃機関に供給される燃料の性状(例えば、オクタン価)の変化、及び内燃機関の経年劣化(例えば、燃焼室内におけるデポジットの付着)等)が発生した直後に多点学習領域に該当する機関運転領域において内燃機関を運転した場合、学習許可手段は、同ノッキング限界移行要因による点火時期(具体的には、フィードバック補正項)の変化分を、同多点学習領域に対応する多点学習値に反映する。
その後、上記多点学習領域を含む基本学習領域に機関運転状態が移ると、点火時期の制御目標値(点火時期指令値)は基本学習値のみによって補正されるようになり、その状態(即ち、上記ノッキング限界移行要因が存在する状態)でのフィードバック補正項に基づいて、今度は基本学習値が学習される。その結果、この時点での基本学習値の変化量が、上記要因に起因する点火時期の変化分に見合う量となる。
更にその後、複数の多点学習領域の何れかに機関運転状態が移ると、上記要因に起因する変化分が同多点学習領域に対応する多点学習値に既に反映されている場合は、その機関運転状態に対応する基本学習値及び多点学習値の両方に、上記要因に起因する変化分が反映されている。その結果、前述のように、多点学習領域における点火時期の補正には、フィードバック補正項に加えて、基本学習値と多点学習値との和(合計学習値)が用いられるので、同機関運転状態においては上記要因に起因する変化分が過剰に(二重に)反映され、点火時期が適正な時期からずれてしまう虞がある。
そこで、上記のように点火時期が適正な時期からずれてしまうことを抑制すべく、反省処理手段が、基本学習値の変化分だけ、基本学習値の変化の方向とは逆方向に多点学習値を変更する、所謂「反省処理」を実行することが従来から提案されている。
しかしながら、前述のように、複数の多点学習領域の中には、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない機関運転状態に該当する領域も含まれている。換言すれば、車両等の実際の運転状況下では実現する機会が無い又は少ない(即ち、学習頻度が無い又は少ない)多点学習領域、あるいは学習できるだけの期間に亘って滞在せず、単に通り過ぎるだけの多点学習領域も存在する。このような領域においては、学習機会が十分に得られず、学習値が収束し難い。
従って、前述のように、当然のことながら、或るノッキング限界移行要因に起因する点火時期の変化分が基本学習値に反映された後、同基本学習値に対応する基本学習領域に含まれる多点学習領域に機関運転状態が移った場合、同多点学習領域は、同要因に起因する点火時期の変化分が同領域に対応する多点学習値に反映されているとは限らない。換言すれば、前述のように基本学習値が学習された後、機関運転状態が多点学習領域に移った場合、同多点学習領域は、学習頻度が無い又は少ない多点学習領域である場合がある。
上記のように、或るノッキング限界移行要因に起因する点火時期の変化分が基本学習値に反映された後、機関運転状態が多点学習領域に移った場合に、同多点学習領域における同要因に起因する点火時期の変化分についての学習頻度が無い又は少ない場合としては、例えば、以下のような場合が挙げられる。
(1)或るノッキング限界移行要因が発生した直後、機関運転状態が多点学習領域にあり、同要因に起因する点火時期の変化分が同領域に対応する多点学習値に反映され、その後、機関運転状態が同多点学習領域を含む基本学習領域に移り、同要因に起因する点火時期の変化分が同領域に対応する基本学習値に反映された後、機関運転状態が上記とは異なる多点学習領域に移った場合。
(2)或るノッキング限界移行要因が発生した直後、機関運転状態が基本学習領域にあり、同要因に起因する点火時期の変化分が同領域に対応する基本学習値に反映され、その後、機関運転状態が同基本学習領域に含まれる多点学習領域に移った場合。
(3)例えば、オクタン価の異なる燃料に入れ替えたり、何らかの事情によりECUを交換したりした際には、基本学習値の優先学習を行うべく、トリップ(内燃機関の始動から停止までの運転期間)の早期において、多点学習値の学習が所定の期間に亘って停止され、また、その間の反省処理も停止される。その後、同優先学習が解除され、同内燃機関の運転中に多点学習値が学習されるようになった場合。
前述の従来技術においては、上記のような学習頻度が無い又は少ない多点学習領域についても無条件に反省処理が実行されるため、突発的な異常値に基づいて多点学習値が変更されたり、意図せぬ学習値が維持されたりしてしまう。その結果、維持された学習値が、適正な時期より進角側の時期に点火時期を変更する値となってノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり、逆に遅角側の時期に変更する値となって内燃機関の出力低下を招いたりして、ドライバビリティや排気ガスの清浄度の低下を招く虞がある。
一方、本発明の第1態様に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、基本学習値が変化した際に、同基本学習値に対応する基本学習領域に含まれる多点学習領域であって、学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域に対応する多点学習値のみについて、前述の反省処理が実行される(即ち、学習頻度が所定回数以上有りる多点学習値のみ、反省処理手段によって、基本学習値の変化の方向と逆方向に同基本学習値の変化量の絶対値以下の量だけ変更される)。
結果として、本発明の第1態様によれば、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域については、学習頻度が有りと判定されない限り反省処理が実行されないので、突発的な異常値に基づいて多点学習値が変更されたり、意図せぬ学習値が維持されたりすることを抑制することができる。その結果、学習値が、適正な時期より進角側の時期に点火時期を変更する値となってノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり、逆に遅角側の時期に変更する値となって内燃機関の出力低下を招いたりして、ドライバビリティや排気ガスの清浄度の低下を招くことも抑制することができる。
ところで、上記のように学習頻度が有りと判定された多点学習領域の中には、前記学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有るものの、同多点学習領域に対応する多点学習値が未だ収束していない領域も存在し得る。かかる多点学習領域が発生する理由としては、例えば、車両等の実際の運転状況下において、内燃機関の運転状態が当該領域を通過はするものの、当該領域における内燃機関の運転状態の滞在時間が短く、内燃機関の運転状態が他の領域に移る前に当該領域に対応する学習値が収束値に到達することができない等の状況が挙げられる。
上記のように多点学習値が未だ収束していない多点学習領域についても反省処理が実行されると、突発的な異常値に基づいて多点学習値が変更されたり、未だ収束していない、意図せぬ学習値が維持されることとなり、この維持された学習値が、適正な時期より進角側の時期に点火時期を変更する値となってノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり、逆に遅角側の時期に変更する値となって内燃機関の出力低下を招いたりして、ドライバビリティや排気ガスの清浄度の低下を招く虞がある。
従って、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においても、多点学習値を精度良く学習するという本発明の目的をより効果的に達成するためには、上記のように多点学習値が未だ収束していない多点学習領域についても反省処理の対象外とすることが望ましい。
そこで、本発明の第2態様は、本発明の前記第1態様に係る内燃機関の点火時期制御装置であって、
内燃機関の運転状態が前記複数の多点学習領域の何れかに該当する状況において、同運転状態が、同多点学習領域に対応する多点学習値の学習が可能な期間に亘って同多点学習領域内に留まり、且つ同多点学習領域に対応する多点学習値の変化量の絶対値が所定の閾値を超えなかった場合に、同多点学習値が収束したと判定する学習値収束判定手段、
を更に備えること、及び
前記反省処理手段が、前記基本学習値が変化した際に、同基本学習値に対応する基本学習領域に含まれる多点学習領域であって、前記学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有り、且つ前記学習値収束判定手段によって多点学習値が収束したと判定された多点学習領域に対応する多点学習値のみについて、前記基本学習値の変化の方向と逆方向に同基本学習値の変化量の絶対値以下の量だけ変化した値に変更すること、
を特徴とする、内燃機関の点火時期制御装置である。
尚、前記学習値収束判定手段は、前述のように、内燃機関の運転状態が前記複数の多点学習領域の何れかに該当する状況において、同運転状態が、同多点学習領域に対応する多点学習値の学習が可能な期間に亘って同多点学習領域内に留まり、且つ同多点学習領域に対応する多点学習値の変化量の絶対値が所定の閾値を超えなかった場合に、同多点学習値が収束したと判定する。ここで、多点学習値の学習を実施するのに十分な期間とは、例えば、ノッキングの発生の有無に応じてフィードバック補正項が更新され、当該フィードバック補正項に基づいて多点学習値が更新されるのに必要な期間を指すが、制御上の理由等により、これよりも長い期間に設定してもよい。また、所定の閾値は、内燃機関の点火時期制御装置による機関運転状態等の検出誤差や制御誤差等に応じて、及び/又は学習値の収束速度等の制御結果に応じて、適宜設定することができる。
また、前記反省処理手段は、本発明の第2態様においては、前記基本学習値が変化した際に、同基本学習値に対応する基本学習領域に含まれる多点学習領域であって、前記学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有り、且つ前記学習値収束判定手段によって多点学習値が収束したと判定された多点学習領域に対応する多点学習値のみについて、前記基本学習値の変化の方向と逆方向に同基本学習値の変化量の絶対値以下の量だけ変化した値に変更する。
即ち、本発明の第2態様においては、前記学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有るという条件のみならず、前記学習値収束判定手段によって多点学習値が収束したと判定されたという条件をも満足した多点学習領域に対応する多点学習値だけが、前述の反省処理の対象となる。その結果、突発的な異常値に基づいて多点学習値が変更されたり、未だ収束していない、意図せぬ学習値が維持されることが抑制され、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においても、多点学習値を精度良く学習するという本発明の目的がより効果的に達成される。
ところで、前記学習頻度算出手段は、前述のように、内燃機関の運転状態が前記複数の多点学習領域の何れかに該当する状況において、同多点学習領域に対応する多点学習値の学習が可能な状態に同運転状態が該当した場合に、同多点学習領域の学習頻度をカウントする。学習頻度のカウントに当たっては、内燃機関の運転状態が前記複数の多点学習領域の何れかに該当する状況において、多点学習値が所定の閾値を超える量だけ変化したことをもって、同多点学習領域に対応する多点学習値の学習が可能な状態に同運転状態が該当したとみなすことができる。
従って、本発明の第3態様は、本発明の前記第1態様又は第2態様に係る内燃機関の点火時期制御装置であって、前記学習頻度算出手段が、多点学習値が所定の閾値を超える量だけ変化した場合に、同多点学習領域の学習頻度をカウントすることを特徴とする、内燃機関の点火時期制御装置である。ここで、所定の閾値は、内燃機関の点火時期制御装置による機関運転状態等の検出誤差や制御誤差等に応じて、及び/又は学習値の収束速度等の制御結果に応じて、適宜設定することができる。
また、学習頻度のカウントに当たっては、多点学習値の学習を実施するのに十分な期間に亘って機関運転状態が上記多点学習領域に滞在したことをもって、同多点学習領域に対応する多点学習値の学習が可能な状態に同運転状態が該当したとみなすこともできる。これは、或る多点学習領域に対応する学習値がノッキングの発生を抑制するのに適切な値に既に収束している場合、同領域においては最早、フィードバック補正項に基づいて学習値が更新されることは無く、かかる場合は、学習がなされた結果として、多点学習値が所定の閾値を超える量だけ変化しなかったという場合もあるためである。
従って、本発明の第4態様は、本発明の前記第1態様乃至第3態様の何れかに係る内燃機関の点火時期制御装置であって、前記学習頻度算出手段が、多点学習値の学習を実施するのに十分な期間に亘って前記運転状態が前記多点学習領域に滞在した場合にも、同多点学習領域の学習頻度をカウントすることを特徴とする、内燃機関の点火時期制御装置である。ここで、多点学習値の学習を実施するのに十分な期間とは、例えば、ノッキングの発生の有無に応じてフィードバック補正項が更新され、当該フィードバック補正項に基づいて多点学習値が更新されるのに必要な期間を指すが、制御上の理由等により、これよりも長い期間に設定してもよい。
前述のように、或る多点学習領域に対応する学習値がノッキングの発生を抑制するのに適切な値に既に収束している場合、同領域においては最早、フィードバック補正項に基づいて学習値が更新されることは無い。そのため、学習頻度算出手段を、多点学習値が変化した場合にのみ多点学習領域の学習頻度が有ると判定するように構成した場合、上記のように学習値が既に収束している多点学習領域については学習頻度が有ると判定されない(例えば、学習頻度算出手段が学習頻度のカウント値を増やさない)。
その結果、上記多点学習領域には前述の反省処理が実行されないことになり、同多点学習領域を含む基本学習領域に対応する基本学習値が変化した際、前述のように、その変化分が基本学習値及び多点学習値の両方に反映されてしまう。即ち、同多点学習領域における学習値は適正な値に既に収束していたにもかかわらず、フィードバック補正項に基づいて学習値が過剰に更新され、点火時期が適正な時期からずれてしまう虞がある。
しかしながら、本発明の第4態様に係る内燃機関の点火時期制御装置に備えられた学習頻度算出手段は、内燃機関の運転状態が複数の多点学習領域の何れかに該当する状況において、多点学習値が変化した場合のみならず、多点学習値が変化していなくても、多点学習値の学習を実施するのに十分な期間に亘って、内燃機関の運転状態が多点学習領域内に滞在した場合にもまた、同運転状態に該当する多点学習領域の学習頻度が有ると判定する(例えば、学習頻度算出手段が学習頻度のカウント値を増やす)。
これにより、学習値が既に収束しているが故に学習値が変化しない多点学習領域についても反省処理が実行されるようになり、同多点学習領域を含む基本学習領域に対応する基本学習値が変化した際に、その変化分が基本学習値及び多点学習値の両方に反映されてしまうことが抑制される。即ち、学習値が適正な値に既に収束している多点学習領域についても、適正な学習値が維持され、点火時期が適正な時期からずれてしまうことが抑制される。
次に、本発明の第5態様は、本発明の前記第3態様に係る内燃機関の点火時期制御装置であって、内燃機関の運転状態がMBT(Minimum Spark Advance for Best Torque)域に入っている場合は、前記学習頻度算出手段が、同運転状態に該当する多点学習領域における滞在期間をゼロとみなすことを特徴とする、内燃機関の点火時期制御装置である。
上記構成により、内燃機関の運転状態が或る多点学習領域に移った際に、同運転状態がMBT域に該当する場合、同運転状態が同多点学習領域内に滞在した時間の長短にかかわらず、同多点学習領域の学習頻度はカウントされない。その結果、同多点学習領域は反省処理の対象から外れることになる。かかる制御を行う理由について、以下に説明する。
MBT域においては、そもそもノッキングが発生する点火時期を採らない。即ち、内燃機関点火時期制御においては、MBT点火時期よりも進角側に来るときは進角側への点火時期フィードバックが停止されるため、MBT域においては、ノッキングが発生する点火時期を学習機会が得られない。かかる状況にあるにもかかわらず、多点学習値が変化していないからといって学習値が既に収束している(即ち、学習が安定している)と判定するのは誤りであるためである。
そこで、本発明の第5態様に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、前述のように、内燃機関の運転状態がMBT域に入っている場合は、同運転状態に該当する多点学習領域における滞在期間をゼロとみなすように学習頻度算出手段が構成される。これにより、点火時期がMBT域に入っている多点学習領域については、本発明の前記第4態様に係る内燃機関の点火時期制御装置において学習頻度をカウントする条件(多点学習値が変化していなくても、多点学習値の学習を実施するのに十分な期間に亘って内燃機関の運転状態が多点学習領域内に滞在する)を満足していても、学習頻度がカウントされない。その結果、同多点学習領域については学習頻度がカウントされず、反省処理の対象外とされる。
上記のように、本発明によれば、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においても、多点学習値を精度良く学習することができる、内燃機関の点火時期制御装置を提供することができる。
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を自動車用エンジンの点火時期制御装置として具現化した実施態様について説明する。
前述のように、図1は、本発明の1つの実施態様に係る点火時期制御装置が適用される内燃機関の概略構成を示す略図である。
図1に示すように、内燃機関10の燃焼室11には、吸気通路12を通じて空気が吸入されるとともに、燃料噴射弁13から噴射された燃料が供給される。当該吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ16による点火が行われると、当該混合気が燃焼してピストン17が往復移動し、内燃機関10のクランクシャフト18が回転する。燃焼後の混合気は排気として内燃機関10の燃焼室11から排気通路19に送り出される。
本実施態様に係る点火時期制御装置は、内燃機関10を運転するための各種制御を実行する電子制御装置30を備えている。当該電子制御装置30は、各種制御に関係する各種演算処理を実行する中央処理装置(CPU)、これらの演算処理に必要なプログラムやデータが記憶された不揮発性メモリ(ROM)、CPUの演算結果等が一時的に記憶される揮発性メモリ(RAM)、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等を備えている。
電子制御装置30の入力ポートには各種センサが接続されている。これらのセンサとしては、例えば、アクセルペダル20の踏み込み量(アクセル踏み込み量AC)を検出するためのアクセルセンサ31、吸気通路12に設けられたスロットルバルブ21の開度(スロットル開度TA)を検出するためのスロットルセンサ32、及び内燃機関10におけるノッキングの発生を検出するためのノックセンサ33等が設けられている。その他、吸気通路12を通過する空気の量(通路空気量GA)を検出するための空気量センサ34、並びにクランクシャフト18の回転速度(機関回転速度NE)及び回転角(クランク角)を検出するためのクランクセンサ35等も設けられている。
電子制御装置30は、各種センサの出力信号に基づいて、機関回転速度NEや機関負荷KL等の内燃機関10の運転状態を把握する。尚、機関負荷KLは、アクセル踏み込み量AC、スロットル開度TA、及び通路空気量GAから求められる内燃機関10の吸入空気量と機関回転速度NEとに基づいて算出される。斯くして把握された内燃機関10の運転状態に応じて、電子制御装置30は、出力ポートに接続された各種駆動回路に指令信号を出力する。斯くして、電子制御装置30は、内燃機関10の点火時期制御等の各種制御を実行する。
次に、図2を参照しながら、内燃機関10の点火時期制御について以下に説明する。図2は、点火時期指令値の算出手順の概要を示す模式図である。
本実施態様に係る点火時期制御においては、内燃機関10の運転状態等から求められる制御目標値(具体的には、点火時期指令値ST)に基づいて内燃機関10の点火時期が制御される。具体的には、同点火時期指令値STの値が大きいほど内燃機関10の点火時期が進角側の時期に制御され、同点火時期指令値STの値が小さいほど内燃機関10の点火時期が遅角側の時期に制御される。
図2に示すように、点火時期指令値STは、内燃機関10の運転状態に基づいて算出されるノック限界点火時期(BT−R)に対して、ノッキングの発生の有無に応じて増減するフィードバック補正項Fによる補正と同フィードバック補正項Fに基づいて更新される基本学習値AG[i]による補正とを加えることによって算出される。
ここで、ノック限界点火時期(BT−R)とは、ベース点火時期BT(実線L1)からノック余裕代Rを減算した値として算出される。尚、ベース点火時期BTは、標準的な環境条件下においてノッキングを生じさせない最も進角側の点火時期に相当する値であり、機関負荷KL及び機関回転速度NEに基づいて算出される。また、ノック余裕代Rは、実験等によって予め定められた固定値である。
上記のようにして算出されるノック限界点火時期(BT−R)は、ベース点火時期BTからノック余裕代Rだけ遅角させた値(破線L2)である。換言すれば、ノック限界点火時期(BT−R)とは、最もノッキングが発生し易い環境条件下においてノッキングを生じさせない点火時期の範囲における最も進角側の点火時期を表す値であると言える。尚、上記環境条件としては気温、湿度、大気圧、及び機関の冷却水温等を挙げることができ、これらの条件に応じて内燃機関10におけるノッキングの発生し易さが変化する。本実施態様においては、ノック限界点火時期(BT−R)が基本値として機能する。
フィードバック補正項Fは、ノックセンサ33の出力信号に基づいてノッキングが発生していると判断された場合には予め定められた遅角更新量(a)だけ点火時期を遅角させる一方、ノッキングが発生していないと判断された場合には予め定められた進角更新量(b)だけ点火時期を進角させるように機能する値である。このフィードバック補正項Fによって、ノッキングが発生しているときには点火時期が直ちに遅角されて、ノッキングの発生の抑制が図られ、ノッキングが発生していないときには点火時期が進角されて、機関出力の増大が図られる。
図2に示すように、点火時期指令値STは、ノック限界点火時期(BT−R)に対して基本学習値AG[i]による補正を加えることにより、通常はノック限界点火時期(BT−R)よりも進角側の時期に相当する値に設定される。この状態において、ノッキングの発生の有無に応じてフィードバック補正項Fが増減されると、図中に矢印Y1または矢印Y2によって示すように、フィードバック補正項Fの増減分だけ点火時期指令値STが増減される。更に、このように増減されるフィードバック補正項Fを基本学習値AG[i]に対して徐変処理した値が新たな基本学習値AG[i]として記憶される。これにより、同基本学習値AG[i]の更新が行われる。
尚、上記徐変処理とは、直前の算出周期において更新された基本学習値AG[i]及びフィードバック補正項Fから、例えば、以下の関係式(1)を用いて、新たな基本学習値AG[i]を算出する処理を指す。
上式中、PREV−AG[i]は直前の算出周期において更新された基本学習値AG[i]を表し、nは正の整数を表す。
図3は、機関運転領域における基本学習領域及び多点学習領域を示す模式図である。図3に示す例においては、機関回転速度NEに応じて、3つの基本学習領域i[i=1,2,3]が区画されている。上記基本学習値AG[i]は、機関運転状態によって区画された複数の基本学習領域毎に用意される。即ち、点火時期指令値STを算出する際には、基本学習値AG[i]として、そのときどきの機関回転速度NEに対応する基本学習領域iに対応する値が用いられる。
前述のように、基本学習値AG[i]は、フィードバック補正項Fの変化に基づいて学習され、更新される。具体的には、上記フィードバック補正項Fに基づいて前述のように徐変処理を施した値が、そのときどきの機関回転速度NEにより定まる基本学習領域iに対応する新たな基本学習値AG[i]として記憶される。こうした基本学習値AG[i]により、ノッキングの発生を抑制するべく点火時期(具体的には、点火時期指令値ST)が補正される。
ここで、同内燃機関10においてノッキングが発生し易くなる要因(例えば、内燃機関10の燃焼室11内にデポジットが付着する等の内燃機関10の経時変化)が生じた場合を検討する。かかる場合には、基本学習値AG[i]が減少側の値に更新されるようになる。この場合の基本学習値AG[i]の更新量は、同要因に起因して点火時期のノック限界が遅角側に移行する移行量に対応した値となる。従って、更新後の基本学習値AG[i]を用いて点火時期(直接的には、ノック限界点火時期(BT−R))を補正することにより、内燃機関10の経時変化に伴ってノッキングが発生し易くなる等の不都合の発生が抑制される。
ここで更に、同要因のノッキングの発生に対する影響が、同一の基本学習領域i内であっても、その領域内における更に細かな機関運転領域毎に大きく異なる場合を検討する。かかる場合、基本学習領域i毎に設定された基本学習値AG[i]のみを用いて点火時期の補正を行うと、同基本学習領域i内における機関運転状態によっては、上記基本学習値AG[i]が、内燃機関10の経時変化に起因するノッキングの発生を抑制するのに不適切な値となる虞がある。具体的には、上記基本学習値AG[i]がノッキングの発生を抑制するには大き過ぎる値となってノッキング発生を効果的に抑制することができなくなったり、上記基本学習値AG[i]が小さ過ぎる値となって点火時期が過度に遅角側に補正されて内燃機関10の出力低下を招いたりする虞がある。
そこで、本実施態様においては、図3に示すように、複数の基本学習領域iのうちの機関回転速度NEが最も低回転側に存在する基本学習領域i[i=1]内において、機関負荷KLの低い側の領域に複数の多点学習領域nが設定され、これらの多点学習領域n毎に多点学習値が設定されている。これは、本実施態様においては、内燃機関10においてノッキングが発生し易くなる要因として、かかる領域においてノッキング発生に対する影響のばらつきが大きいノッキング限界移行要因(例えば、内燃機関10の燃焼室11内にデポジットが付着する等の内燃機関10の経時変化等)を想定しているためである。
また、上記多点学習領域nは、機関回転速度NEの変化方向において4つに区画されると共に機関負荷KLの変化方向において6つに区画されており、結果として同領域には合計で24の多点学習領域n[n=1〜24]が設定されている。
尚、本実施態様においては、上述のように、機関回転速度NEの範囲が最も低い側(i=1)の基本学習領域i内の機関負荷KLが低い範囲に複数の多点学習領域nを設けたが、想定されるノッキング限界移行要因に応じて、他の範囲(例えば、他の基本学習領域iに含まれる範囲や、機関負荷KLが高い範囲等)に複数の多点学習領域nを設けてもよく、また複数の多点学習領域nを2つ以上の範囲に設けてもよい。
次に、図4及び図5を参照しながら、ノッキング限界移行要因の有無による点火時期指令値STの変化における、その領域内に多点学習領域nが設けられている基本学習領域i(本実施態様においては、最も低回転側の基本学習領域i[i=1])内での多点学習領域nとそれ以外の領域との違いを説明する。
図4は、ノッキング限界移行要因の有無による点火時期指令値の変化の一例を示すグラフである。具体的には、図4は、上記基本学習領域i内における多点学習領域n以外の領域における、上記ノッキング限界移行要因の有無による点火時期指令値STの変化の一例を示したものである。尚、同図における実線及び二点差線は何れも機関回転速度NEが一定の条件下での機関負荷KLの変化に対する点火時期指令値STの推移の一例を示しており、実線は上記ノッキング限界移行要因が無い条件下での推移の一例を、二点差線は同要因が有る条件下での推移の一例をそれぞれ示している。
図4に示すように、上記基本学習領域i内での多点学習領域n以外の領域においては、ノッキング限界移行要因が生じてノッキングが発生し易くなると、点火時期指令値STが実線で示す状態から二点差線で示す状態へと機関負荷KLの変化方向について一律の幅をもって遅角側に変化する。この点火時期指令値STの遅角側への変化量は、上記ノッキング限界移行要因の発生に起因するノッキングの発生を抑えるために上記基本学習領域iの基本学習値AG[i]が遅角側に変化した変化分に対応している。このように基本学習値AG[i]による点火時期の補正により、上記基本学習領域i内での多点学習領域n以外の領域においては、ノッキング限界移行要因によってノッキングが発生し易くなることを抑制することができる。これは、上記領域内においては、ノッキングの発生に対する上記ノッキング限界移行要因による影響がほぼ一律であるためである。
一方、図5は、ノッキング限界移行要因の有無による点火時期指令値の変化の一例を示すグラフである。具体的には、図5は、上記基本学習領域i内における各多点学習領域nの設定された領域(ここでは、例えば、n=1〜6の多点学習領域nに対応する領域)において、ノッキング限界移行要因の有無による点火時期指令値STの変化を示したものである。尚、同図における実線及び破線は何れも機関回転速度NE一定の条件下での機関負荷KLの変化に対する点火時期指令値STの推移の一例を示しており、実線はノッキング限界移行要因が無い条件下での推移の一例を、破線は同要因が有る条件下での推移の一例をそれぞれ示している。
図5に示すように、上記基本学習領域i内での多点学習領域nにおいては、ノッキング限界移行要因が生じてノッキングが発生し易くなると、点火時期指令値STが実線で示される状態から破線で示される状態へと、機関負荷KL毎に異なる変化量にて、遅角側に変化する。これは、多点学習領域nにおいてはノッキング限界移行要因のノッキング発生に対する影響が一様ではなく、機関運転状態(この場合は機関負荷KL)によるばらつきが大きいことを示している。
従って、多点学習領域nにおいては、基本学習値AG[i]のみでは上記のようなノッキング限界の変化量のばらつきに対応しきれないことから、基本学習値AG[i]に基づく遅角側への一様な変化分に加えて、各多点学習領域nの多点学習値AGm[n]をも用いて、点火時期指令値STの変化量をきめ細かく調整することにより、ノッキング限界の変化量のばらつきに対応する。
上記のようにして、多点学習領域n毎の多点学習値AGm[n]がそれぞれノッキングの発生を抑制するのに適切な値に更新され、これらの多点学習値AGm[n]を用いて点火時期の補正が行われるので、ノッキング限界移行要因のノッキング発生に対する影響がばらつく多点学習領域nにおいても、ノッキング限界移行要因に起因してノッキングが発生し易くなることを抑制することができる。
具体的には、多点学習値AGm[n]は、その時々の内燃機関10の運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する値がフィードバック補正項Fに基づき更新される。詳しくは、基本学習値AG[i]の更新と同様に、フィードバック補正項Fに徐変処理を施した値を新たな多点学習値AGm[n]として記憶することにより、同多点学習値AGm[n]の更新が行われる。
このように多点学習値AGm[n]を更新することにより、ノッキング発生に対する上記要因による影響のばらつきが大きい領域において、同影響のばらつきに応じて、同領域を細分化した多点学習領域n毎の多点学習値AGm[n]をそれぞれノッキングの発生を抑制するのに適切な値とすることができる。
本実施態様においては、前述のように、その時々の内燃機関10の運転状態が多点学習領域n内にある場合は、同多点学習領域nの存在する基本学習領域iの基本学習値AG[i]の更新は行われず、同多点学習領域nに対応する多点学習値AGm[n]の更新のみが行われる。即ち、機関運転状態が多点学習領域nの何れかに含まれる場合には同多点学習領域に対応する多点学習値AGm[n]のみが学習され、機関運転状態が多点学習領域n以外の領域に含まれる場合には、内燃機関10の運転状態が該当する基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]のみが学習される。
また、前述のように、多点学習領域nにおいては、多点学習値AGm[n]及び基本学習値AG[i]によって学習値が補正されて点火時期の制御目標値(点火時期指令値ST)が設定され、多点学習領域n以外の領域においては、基本学習値AG[i]のみによって学習値が補正されて点火時期の制御目標値(点火時期指令値ST)が設定される。
即ち、本実施態様においては、点火時期指令値STを以下の関係式(2)によって表すことができる。
上式中、BT−Rはノック限界点火時期を表し、Fはフィードバック補正項を表すことは既に述べた通りである。
また、上記AGTは、基本学習値AG[i]及び多点学習値AGm[n]から求められる合計学習値であり、以下の関係式(3)によって表される。
前述のように、上記関係式(3)における多点学習値AGm[n]は、ノッキング限界移行要因のノッキング限界の移行量が機関運転状態の比較的小さな変動に対応して大きく変化する領域(即ち、多点学習領域n)において、ノッキングの発生に対する同要因の影響のばらつきに応じてきめ細かく点火時期(具体的には、点火時期指令値ST)を補正するための補正項である。
本実施態様においては、上記基本学習領域i内の中でもノッキング発生に対する上記要因による影響のばらつきが大きい領域(即ち、多点学習領域n)に、内燃機関10の運転状態(詳しくは、機関負荷KL及び機関回転速度NE)に応じて区画された同基本学習領域iよりも更に細かい複数の多点学習領域nが設定されている。そして、上記多点学習値AGm[n]は、これらの多点学習領域n毎に設定されている。
この多点学習値AGm[n]は、その時々の内燃機関10の運転状態が該当する多点学習領域nに対応する値がフィードバック補正項Fに基づいて更新されることによって更新される。詳しくは、基本学習値AG[i]の更新と同様に、フィードバック補正項Fに徐変処理を施した値を新たな多点学習値AGm[n]として記憶することにより、同多点学習値AGm[n]の更新が行われる。
上記のように多点学習値AGm[n]を更新することにより、ノッキング発生に対する上記要因による影響のばらつきが大きい領域において、そのばらつきに応じて同領域を細分化した多点学習領域n毎に設定される多点学習値AGm[n]を、それぞれノッキングの発生を抑制するのに適切な値とすることができる。
前述のように、本実施態様においても、その時々の内燃機関10の運転状態が多点学習領域n内にある場合は、その多点学習領域nの存在する基本学習領域iの基本学習値AG[i]の更新は行われず、多点学習値AGm[n]の更新のみが行われる。即ち、機関運転状態が多点学習領域nの何れかに含まれる場合は多点学習値AGm[n]のみが学習され、機関運転状態が多点学習領域n以外の領域に含まれる場合は、基本学習値AG[i]のみが学習される。
尚、本実施態様においては、点火時期指令値STを求める際に、その時々の内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域nの何れかに含まれる場合は、多点学習値AGm[n]として、同運転状態が含まれる多点学習領域nに対応する値が用いられる。一方、その時々の内燃機関10の運転状態が複数の多点学習領域nの何れにも含まれない場合は、多点学習値AGm[n]として「0」が設定される。即ち、その時々の機関運転状態が複数の多点学習領域nの何れにも含まれない場合は、多点学習値AGm[n]を用いずに点火時期指令値STが算出される(多点学習値AGm[n]による点火時期の補正は行われない)。
上記のようにして点火時期指令値STを求めることにより、上記基本学習領域i内にあってノッキング発生に対する上記要因による影響のばらつきが大きい領域(即ち、多点学習領域n)においては、ノック限界点火時期(BT−R)に対して、基本学習値AG[i]及び多点学習値AGm[n]の両方によって補正が加えられる。
これにより、上記基本学習領域i内であってノッキング発生に対する上記要因による影響のばらつきが大きい領域においても、同要因に起因する内燃機関10でのノッキングの発生を的確に抑制することができるようになる。言い換えれば、上記基本学習領域i内であってノッキング発生に対する上記要因による影響のばらつきが大きい領域(多点学習領域)において、点火時期が適正な時期より進角側に補正されてノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり点火時期が適正な時期より遅角側に補正されて内燃機関10の出力低下を招いたりする不具合の発生を抑えることができるようになる。
前述のように、本実施態様においても、その時々の内燃機関10の運転状態が多点学習領域n内にある場合は、その多点学習領域nの存在する基本学習領域iの基本学習値AG[i]の更新は行われず、多点学習値AGm[n]の更新のみが行われる。即ち、機関運転状態が多点学習領域nの何れかに含まれる場合は多点学習値AGm[n]のみが学習され、機関運転状態が多点学習領域n以外の領域に含まれる場合は、基本学習値AG[i]のみが学習される。
しかしながら、上記のように内燃機関10の運転状態に応じて多点学習値AGm[n]が学習される状態と同学習が禁止される状態(基本学習値AG[i]が学習される状態)とを切り替えるようにすると、以下のような不都合が生じる虞がある。
即ち、ノッキング限界移行要因の発生直後における内燃機関10の運転状態が多点学習領域nにあった場合、同要因に起因する点火時期(詳しくは、フィードバック補正項F)の変化分は、前述のように、同多点学習領域nに対応する多点学習値AGm[n]に反映される。その後、内燃機関10の運転状態が、同多点学習領域nの存在する上記基本学習領域iに移ると、同要因に起因する点火時期の変化分が今度は同基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]に反映される。その後再び、同運転状態が上記多点学習領域nに戻ると、その時点では、同要因に起因する点火時期の変化分は、多点学習値AGm[n]及び基本学習値AG[i]の両方に既に反映されている。しかしながら、前述のように、多点学習領域においては、多点学習値AGm[n]と基本学習値AG[i]との和であるAGTを用いて点火時期指令値STが算出されるので、同要因に起因する点火時期の変化分が二重に(過剰に)反映されることとなり、点火時期が適正な時期からずれてしまう虞がある。
本実施態様においても、かかる不都合を抑制すべく、以下に詳述する反省処理を実行して、ノッキング限界移行要因に起因する点火時期の変化分が点火時期指令値STに二重に(過剰に)反映されることを抑制するようにしている。そこで先ず、同反省処理の概要について、図6を参照しながら以下に説明する。
図6は、反省処理の具体的な実行手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、所定のクランク角毎の割り込み処理として、電子制御装置30によって実行される。
図6に示すように、この処理では先ず、その領域内に多点学習領域nが設けられている基本学習領域i(本実施態様においては、最も低回転側の基本学習領域i[i=1])における基本学習値AG[i]が変化したか否かが判断される(ステップS101)。本ステップにおいては、基本学習値AG[i]の本処理の前回実行時における値Pと今回実行時における値Qとが異なる値であることをもって、基本学習値AG[i]が変化したものと判断される。
そして、基本学習値AG[i]が変化したと判断される場合には(ステップS101:YES)、同基本学習値AG[i]の変化量ΔAG(=Q−P)が算出されると共に(ステップS102)、同基本学習領域iに含まれる全ての多点学習領域nの多点学習値AGm[n]をそれぞれ上記基本学習値AG[i]の変化方向とは逆方向に上記変化量ΔAGの絶対値分だけ変化させる(ステップS103)。その後、本処理は一旦終了される。
一方、基本学習値AG[i]が変化していないと判断される場合には(ステップS101:NO)、多点学習値AGm[n]を変更すること無く(ステップS102の処理及びステップS103の処理をジャンプして)、本処理が一旦終了される。
上記のような反省処理を実行することによる作用効果について、図7を参照しながら以下に説明する。
図7は、ノッキング限界移行要因(例えば、内燃機関の運転環境(例えば、吸入空気の温度や湿度)や内燃機関に供給される燃料の性状(例えば、オクタン価)の変化、及び内燃機関の経年劣化(例えば、燃焼室内におけるデポジットの付着)等)が発生した場合の、反省処理の有無による、合計学習値AGTの推移の違いの一例を示す模式図である。
図7は、内燃機関10の運転状態が「多点学習領域n」→「基本学習領域i[i=1]」→「多点学習領域n」と移行する場合における合計学習値AGTの推移の一例を示している。尚、図7(a)は、ノッキング限界移行要因が発生していない場合の合計学習値AGTの推移の一例を示している。また、図7(b)は、ノッキング限界移行要因が発生した場合であって、反省処理が実行されない場合の合計学習値AGTの推移の一例を示し、図7(c)は、ノッキング限界移行要因が発生した場合であって、反省処理が実行される場合の合計学習値AGTの推移の一例を示している。
図7(a)に示すように、ノッキング限界移行要因が発生していない場合は、多点学習値AGm[n]や基本学習値AG[i]も変化しないので、内燃機関10の運転状態が上述のように移行しても、多点学習領域nにおける合計学習値AGTの前回値と今回値とが大きく異なる値となることは無い。
一方、ノッキング限界移行要因が発生すると、前述のように、多点学習値AGm[n]や基本学習値AG[i]が更新されて変化する。その結果、図7(b)に示すように、反省処理が実行されない場合は、内燃機関10の運転状態が多点学習領域nに戻った際に基本学習値AG[i]の変化分(図中に矢印C2で示す変化分)だけ合計学習値AGTの今回値と前回値とが異なる値となる。
具体的には、ノッキング限界移行要因が発生すると、同要因の影響によりノッキングの発生状況が変化するため、フィードバック補正項Fも変化するようになる。この際、機関運転状態が多点学習領域nにあると、点火時期を適切な時期に調節するために、フィードバック補正項Fに基づいて多点学習値AGm[n]が更新・学習される。一方、このとき基本学習値AG[i]は、前述のように更新・学習されない。
その後、上記多点学習領域nの存在する基本学習領域i(本実施態様においては、i=1)に機関運転状態が移るが、図7(b)に示す例においては、上記ノッキング限界移行要因が発生した以降、基本学習値AG[i]は未だ学習されていない。即ち、この時点での基本学習値AG[i]は未だ上記ノッキング限界移行要因が発生する前の状態に見合う値になったままであり、同要因が発生した後の状態に見合う値になっていない。そのため、この時点でのノッキング限界に応じてフィードバック補正項Fが変化し、その変化に応じて上記基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]が点火時期を適切な時期に調節すべく更新・学習される。これにより、上記ノッキング限界移行要因の発生による点火時期の変化分を補償する補正分(図中に矢印C2で示す変化分)が基本学習領域i[i=1]に対応する基本学習値AG[i]にも反映される。
更にその後、機関運転状態が前述の多点学習領域nに戻ると、上記補正分(C1)が反映された多点学習値AGm[n]と上記補正分(C2)が反映された基本学習値AG[i]とに基づいて点火時期指令値STが設定され、図中に矢印C2で示す変化分だけ点火時期が適切な時期からずれてしまう。このようにして点火時期がずれると、同点火時期がノッキングの発生を抑える上で不適切な時期になったり機関出力の低下を招く時期になったりする虞がある。
そこで、上記のように点火時期が適切な時期からずれてしまうことを抑制すべく、本実施態様においても、前述の従来技術において行われているように反省処理が実行される。即ち、図7(c)に示すように、各多点学習領域nの多点学習値AGm[n]が、基本学習値AG[i]の変化分(矢印C3(=C2の絶対値)によって図示されている変化分)だけ、同基本学習値AG[i]の変化方向とは逆方向の値に変更される。
具体的には先ず、機関運転状態が上記基本学習領域iに移ると、同基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]が合計学習値AGTとして設定され、同基本学習値AG[i]のみによって点火時期指令値STが設定される。また、この際、上記基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]の上記フィードバック補正項Fに基づく学習が実行される。
そのため、図7(c)に示す例においては、機関運転状態が上記基本学習領域iに移った際、ノッキング限界移行要因の発生に起因する点火時期の変化分が、同基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]に反映される。その結果、この時点での基本学習値AG[i]の変化量は、ノッキング限界移行要因の発生に起因する点火時期の変化分に見合う量となる。
上記のように基本学習値AG[i]が変化した際、前述の反省処理において、同基本学習値AG[i]の変化量ΔAG(即ち、ノッキング限界移行要因の発生に起因する点火時期の変化分に見合う量)の絶対値と等しい量だけ、同基本学習値AG[i]の変化方向とは逆方向に、同基本学習値AG[i]に対応する基本学習領域iに含まれる全ての多点学習値AGm[n]が一括して変更される。これにより、前述のようにノッキング限界移行要因の発生直後に点火時期の変化分が多点学習値AGm[n]に既に反映された場合であっても、基本学習値AG[i]が変化した時点で、その変化分が多点学習値AGm[n]から差し引かれ、結果として、多点学習値AGm[n]から基本学習値AG[i]に移行されることになる。
因みに、上述のように上記基本学習領域iに対応する基本学習値AG[i]の変化に合わせて多点学習値AGm[n]を変更しなくても(即ち、反省処理を実行しなくても)、同基本学習値AG[i]が学習された後に機関運転状態が多点学習領域nに戻って多点学習値AGm[n]の学習が実行されると、同多点学習値AGm[n]が徐々に更新されて、やがて合計学習値AGTは、ノッキング限界移行要因の発生に起因する点火時期の変化分に見合う量となる。
但し、この場合は、基本学習値AG[i]が変化した後に機関運転状態が多点学習領域nに移行して初めて点火時期指令値STが算出される際に、図7(b)に示す例のように同点火時期指令値STが上記基本学習値AG[i]の変化量ΔAG分(図中に矢印C2で示す分)だけずれることは回避できない。
一方、前述のように反省処理を実行する場合は、機関運転状態が多点学習領域nに移るのを待たずに、基本学習値AG[i]が変化した時点で、その変化分に見合う量が、多点学習値AGm[n]から予め差し引かれるので、点火時期指令値STが上記変化量ΔAG分だけ過剰に変更されることが抑制される。
しかしながら、前述のように、複数の多点学習領域nの中には、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない機関運転状態に該当する領域も含まれている。換言すれば、車両等の実際の運転状況下では実現する機会が無い又は少ない(即ち、学習頻度が無い又は少ない)多点学習領域n、あるいは学習できるだけの期間に亘って滞在せず、単に通り過ぎるだけの多点学習領域nも存在する。このような領域においては、学習機会が十分に得られず、学習値が収束し難い。
従って、当然のことながら、前述のように、或るノッキング限界移行要因に起因する点火時期の変化分が基本学習値AG[i]に反映された後、同基本学習値AG[i]に対応する基本学習領域iに含まれる多点学習領域nに機関運転状態が移った場合、同多点学習領域nは、同要因に起因する点火時期の変化分が同領域に対応する多点学習値AGm[n]に反映されているとは限らない。換言すれば、前述のように基本学習値AG[i]が学習された後、機関運転状態が多点学習領域nに移った場合、同多点学習領域nは、学習頻度が無い又は少ない多点学習領域である場合がある。
前述の従来技術においては、上記のような学習頻度が無い又は少ない多点学習領域nについても無条件に反省処理が実行されるため、突発的な異常値に基づいて多点学習値AGm[n]が変更されたり、意図せぬ学習値が維持されたりしてしまう。その結果、維持された学習値が、適正な時期より進角側の時期に点火時期を変更する値となってノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり、逆に遅角側の時期に変更する値となって内燃機関の出力低下を招いたりして、ドライバビリティや排気ガスの清浄度の低下を招く虞がある。
一方、本実施態様に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、基本学習値AG[i]が変化した際に、同基本学習値AG[i]に対応する基本学習領域iに含まれる多点学習領域nであって、学習頻度算出手段によってカウントされた学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域nに対応する多点学習値AGm[n]のみについて、前述の反省処理が実行される(即ち、学習頻度が所定回数以上有る多点学習値AGm[n]のみ、反省処理手段によって、基本学習値AG[i]の変化の方向と逆方向に同基本学習値AG[i]の変化量の絶対値以下の量だけ変更される)。
つまり、本実施態様に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域nのうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においては反省処理が実行されないので、突発的な異常値に基づいて多点学習値AGm[n]が変更されたり、意図せぬ学習値が維持されたりすることを抑制することができる。その結果、学習値が、適正な時期より進角側の時期に点火時期を変更する値となってノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり、逆に遅角側の時期に変更する値となって内燃機関の出力低下を招いたりして、ドライバビリティや排気ガスの清浄度の低下を招くことも抑制することができる。
即ち、本発明によれば、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においても、多点学習値を精度良く学習することができる、内燃機関の点火時期制御装置を提供することができる。
上記のように、学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域nについてのみ反省処理を実行する、本実施態様に係る制御手順について、図8を参照しながら以下に説明する。
図8は、本発明の1つの実施態様に係る反省処理の具体的な実行手順の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、この処理では先ず、その領域内に多点学習領域nが設けられている基本学習領域i(本実施態様においては、最も低回転側の基本学習領域i[i=1])における基本学習値AG[i]が変化したか否かが判断される(ステップS201)。本ステップにおいては、基本学習値AG[i]の本処理の前回実行時における値Pと今回実行時における値Qとが異なる値であることをもって、基本学習値AG[i]が変化したものと判断される。
基本学習値AG[i]が変化していないと判断される場合は(ステップS201:NO)、多点学習値AGm[n]を変更すること無く(ステップS202乃至S204の処理をジャンプして)、本処理が一旦終了される。
一方、基本学習値AG[i]が変化したと判断される場合には(ステップS201:YES)、同基本学習値AG[i]の変化量ΔAG(=Q−P)が算出される(ステップS202)。次に、本実施態様においては、同基本学習領域iに含まれる各多点学習領域nにつき、学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域であるか否かが判断される(ステップS203)。
学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域ではないと判断される場合は(ステップS203:NO)、多点学習値AGm[n]を変更すること無く(ステップS204の処理をジャンプして)、本処理が一旦終了される。
一方、学習頻度が所定回数以上有りと判定された多点学習領域であると判断される判断される場合は(ステップS203:YES)、同多点学習領域nに対応する多点学習値AGm[n]を上記基本学習値AG[i]の変化方向とは逆方向に上記変化量ΔAGの絶対値分だけ変化させる(ステップS204)。その後、本処理は一旦終了される。
上記のように、本実施態様においては、従来技術におけるように無条件に全ての多点学習値AGm[n]に対して反省処理を実行するのではなく、内燃機関10の点火時期制御のための複数の多点学習領域nのうち、学習頻度が有りと判定された多点学習値AGm[n]のみに反省処理が適用される。従って、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域については、学習頻度が有りと判定されない限り反省処理が実行されないので、突発的な異常値に基づいて多点学習値AGm[n]が変更されたり、意図せぬ学習値が維持されたりすることを抑制することができる。その結果、学習値が、適正な時期より進角側の時期に点火時期を変更する値となってノッキングの発生を効果的に抑制できなくなったり、逆に遅角側の時期に変更する値となって内燃機関の出力低下を招いたりして、ドライバビリティや排気ガスの清浄度の低下を招くことも抑制することができる。
尚、本実施態様に関する上記説明においては、学習頻度が所定回数以上有る多点学習値AGm[n]が、反省処理手段によって、基本学習値AG[i]の変化の方向と逆方向に同基本学習値AG[i]の変化量ΔAGの絶対値分だけ変更される場合について説明したが、前述のように、基本学習値AG[i]の変化量ΔAGの絶対値以下の量だけ多点学習値AGm[n]を変更してもよい。換言すれば、基本学習領域i(本実施態様においては、i=1)に対応する基本学習値AG[i]の変化量ΔAGの絶対値と等しい量だけ多点学習値AGm[n]を変更するのではなく、その変化量ΔAGの絶対値に所定の係数K(但し、0<K<1.0)を乗じた量(=ΔAG×K)だけ多点学習値AGm[n]を変更するようにしてもよい。
かかる構成によれば、基本学習値AG[i]の変更に合わせて反省処理手段が多点学習値AGm[n]を変更する際に、その変更量が小さく抑えられるようになる。その結果、例えば、何らかの原因によって基本学習値AG[i]が誤って変更された場合に、基本学習値AG[i]の変化量ΔAGの多点学習値AGm[n]に対する影響を小さくし、その結果として点火時期への影響を小さく抑えることができるようになる。
また、かかる係数Kとして、多点学習値AGm[n]の変更方向(進角方向又は遅角方向)に応じて異なる値を設定してもよい。具体的には、例えば、多点学習値AGm[n]を進角側の値に変更する場合における係数K(例えば、0.5)より、同多点学習値AGm[n]を遅角側の値に変更する場合における係数K(例えば、1.0)を大きい値に設定してもよい。
かかる構成によれば、ノッキングが生じ難くなる遅角方向への多点学習値AGm[n]の変更に際しては同多点学習値AGm[n]を速やかに変更することができる。一方、ノッキングが生じ易くなる進角方向への多点学習値AGm[n]の変更に際しては、その変更量を少なくして、ノッキングの発生を抑制しつつ、少しずつ進角側に同多点学習値AGm[n]を変更することができる。尚、場合によっては、上記構成とは反対に、多点学習値AGm[n]を進角方向に変更する場合における係数Kより、同多点学習値AGm[n]を遅角方向に変更する場合における係数Kを小さい値に設定することもできる。
更に、上記係数Kとして、多点学習領域n毎に異なる値を設定してもよい。具体的には、例えば、機関回転速度NEが高い領域や機関負荷KLが大きい領域における所定係数K(例えば「1.0」)を、機関回転速度NEが低い領域や機関負荷KLが小さい領域における所定係数K(例えば「0.5」)より大きい値に設定してもよい。
かかる構成によれば、機関回転速度NEが高い領域や機関負荷KLが大きい領域、すなわちノッキングが生じやすくなる機関運転領域において、多点学習値AGm[n]を適正な値にまで早期に変化させることができる。尚、場合によっては、上記構成とは反対に、機関回転速度NEが高い領域や機関負荷KLが大きい領域における係数Kを、機関回転速度NEが低い領域や機関負荷KLが小さい領域における係数Kより小さい値に設定することもできる。
以上説明したように、本発明によれば、内燃機関の点火時期制御のための複数の多点学習領域のうち、車両等の実際の運転状況下では学習頻度が無い又は少ない領域においても、多点学習値を精度良く学習することができる、内燃機関の点火時期制御装置を提供することができる。