図1は本実施形態の燃料電池システム1の概略構成図である。本実施形態の燃料電池システムでは、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池を用いており、車両に搭載されている。
セルスタック2には、電気化学反応に供される反応ガス(燃料ガスと酸化剤ガス)と、セルスタック2を冷却する冷却媒体が供給される。セルスタック2のアノードには、高圧水素を貯蔵した水素タンク3から燃料ガス供給管4を介して水素が供給される。水素タンク3の代わりに、アルコール、炭化水素などを原料とする改質反応によって水素を生成してもよい。燃料ガス供給管4には、水素の供給量を調整するため調圧バルブ5(燃料ガス流速調整手段、上限圧調整手段)が配置されている。また、セルスタック2には、アノードで消費されなかった燃料ガスと共に不純物(生成水や窒素等)をセルスタック2の外部へ排出するための排出管6の一端が接続されている。
排出管6の他端には、水セパレータタンク7(ガス貯留手段)が接続され、この水セパレータタンク7で燃料ガス中の水蒸気を凝縮水として溜めるようにしている。溜めた水を排出するための配管8が水セパレータタンク7の下部に設けられ、配管8に常閉の排水バルブ9(容積調整機構)が設けられている。
水セパレータタンク7で水蒸気が分離された後の燃料ガスに含まれる窒素を排出するため、水セパレータタンク7の上部に配管10が設けられ、この配管10に窒素パージバルブ11(排気バルブ)が設けられている。
図2はセルスタック2の概略構成図である。セルスタック2は、単位燃料電池セル(単セル)41を複数枚積層したものから構成されている。単セル41は、その積層構造の中央に膜電極接合体(Memrerane Electrode Assembly;以下「MEA」という。)を有している。MEA42は、電解質膜の両面に電極触媒層、ガス拡散層が順次積層された構造である。電解質膜を境に一方の面側がカソードとして、他方の面側がアノードとして用いられる。MEA42の両面には導電性部材であるカーボンや金属で作られたカソード側セパレータ43とアノード側セパレータ44とが配置されている。カソード側セパレータ43がMEA42と対向する面には空気(酸化剤ガス)の流路45が形成され、反対面には冷却水流路47を有している。アノード側セパレータ44がMEA42と対向する面には水素(燃料ガス)の流路46が形成され、反対面には冷却水流路47を有している。このように形成された単セル41を複数枚重ねたうえで、各単セル41に空気、水素、冷却水を分配するマニホールド49、50を両端に備えており、このマニホールド49、50によりセルスタック2の外部から供給される空気、水素、冷却水を各単セル41へと分配している。また、セルスタック2内部の水循環を効率よく行わせるために空気の流路45と水素の流路46とを対向流としている。
なお、以下ではカソードに供給される空気を「カソードガス」、アノードに供給される水素を「アノードガス」ともいう。また、上記空気の流路45を「カソードガス流路」、水素の流路46を「アノードガス流路」ともいう。
セルスタック2のカソードには、コンプレッサ15から供給管16を介して空気が供給される。コンプレッサに代えて、ブロア等の空気供給手段を用いることができる。セルスタック2のカソードから排出された空気は、排出管17を介して大気中に放出される。排出管17には、背圧(カソードガス流路45の圧力)を調整するため調圧バルブ18が配置されている。
セルスタック2には、さらにラジエータ21から配管23を介して冷却水が供給される。冷却水に代えて、エチレングリコール等の不凍液、空気等の冷却媒体を用いることができる。セルスタック2で発生した熱を取り込んで温度上昇した冷却水は、配管22を介してラジエータ21に送られ冷やされた後に再びセルスタック2内部に循環される。配管23には、水循環のための循環ポンプ24が配置されている。また、配管22に三方弁25が設けられている。
このように構成される燃料電池システム1は、燃料が有する化学エネルギを直接電気エネルギに変換する装置であり、アノードにアノードガスを供給すると共に、カソードにカソードガスを供給し、これら一対の電極の電解質膜側の表面で生じる下記の電気化学反応を利用して電極から電気エネルギを取り出すものである。
アノード反応:H2→2H++2e- …(a)
カソード反応:2H++2e-+(1/2)O2→H2O …(b)
アノードに水素が供給されると、アノードでは上記(a)の反応式が進行して水素イオンが生成する。この生成した水素イオンが水和状態で電解質膜を透過(拡散)してカソードに至り、このカソードに酸素が供給されていると、カソードでは上記(b)の反応式が進行する。これら(a)式、(b)式の電極反応が各電極で進行することで、セルスタック2は起電力を生じることとなる。(b)式において、カソードで生成した水分は、カソードガスにより水蒸気あるいは液水としてセルスタック2の外部へ排出されるか、電解質膜を透過してアノードガスによりセルスタック2の外部へと排出される。
排出管6に排出されるガスにはアノードでの発電に消費されなかったアノードガスが含まれるので、これをそのまま廃棄するのでは、アノードガスが無駄になる。このため、セルスタック2内部のアノードガス流路46が昇圧される過程と減圧される過程とからなる圧力脈動の周期を単位周期として、単位周期が繰り返されるようにアノードに燃料ガスを供給することにより、アノードに供給する燃料ガスをセルスタック2及び水セパレータタンク7の外部に排出しないアノードデッドエンド運転を行う。
アノードデッドエンド運転をさらに説明する。図1において、水素調圧バルブ5を開いてセルスタック2内部のアノードに燃料ガスを供給すると共に、コンプレッサ15を起動しセルスタック2内部のカソードに空気を圧送(供給)してMEA42で発電を開始する。MEA42が発電を開始すると、発電に伴いカソードに水が生成される。その生成水はカソードからアノードに向けて移動しアノードにも到達する。アノード反応面48(図3参照)を通過してきた水(汽水・液水)はいずれアノード中のガス拡散層(gas diffusion layer)も透過し、アノードガス流路46上に出てくる。このまま発電を続けていると、アノードガス流路46の圧力は水素調圧バルブ5により決められている上限圧に張り付いたままとなり、タンク3から供給される燃料ガスは発電で消費される質量流量のみとなる。
その質量流量だけ流してセルスタック2を運転する場合、アノードガス流路46上にある水を水セパレータタンク7まで排水するだけの動圧が得られず、いずれはアノードガス流路46上の水が燃料ガスの拡散を阻害して燃料ガスの供給不足からの電圧低下を引き起こし、やがてMEA42が発電不能となってしまうことが発明者の実験から判明している。
この問題を回避するために発電中に水素調圧バルブ5を一時的に全閉状態にすると、タンク3からセルスタック2への燃料ガスの供給は行なわれずに、水素調圧バルブ5から排水バルブ11までを流れるアノードガスの流路に残留する燃料ガスを用いて発電が継続される。この場合に、最大の容積を有するのは、排出管6に設けられている水セパレータタンク7であり、この水セパレータタンク7内に残留する燃料ガスがセルスタック2内部のアノードガス流路46に向けて流れる。そして、アノードガス流路46の容積や水セパレータタンク7中に残留する燃料ガスを発電で消費するためにセルスタック2内部のアノードガス流路46及び水セパレータタンク7内のガス圧力が低下してくる。
ガス圧力が低下したら再び水素調圧バルブ5を開く。すると、タンク3からの燃料ガスがセルスタック2内部のアノード流路46に向けて流れ、セルスタック2内部のアノードガス流路46の圧力が上昇する。そのとき発生する動圧でセルスタック2内部のアノードガス流路46上の水がアノードガス流路46の下流側より水セパレータタンク7まで移動し、これによって発電がある程度継続できるようになる。つまり、セルスタック2内部のアノードガス流路46を昇圧する過程と減圧する過程とを一定周期で繰り返す。このように、セルスタック2内部のアノードガス流路46が昇圧される過程と減圧される過程とからなる圧力脈動の周期を単位周期として、単位周期が繰り返されるようにアノードに燃料ガスを供給する運転が、従ってアノードに供給する燃料ガスをセルスタック2及び水セパレータタンク7の外部に排出しない運転がアノードデッドエンド運転といわれるものである。
アノードデッドエンド運転では、燃料ガスの流れる方向が切換えられるので、セルスタック2内部のアノードガス流路46の昇圧時に水素調圧バルブ5からセルスタック2内部のアノードに向けて流れる方向を順方向とし、順方向に流れるガス流れを「順流」で定義する。また、セルスタック2内部のアノードガス流路46の減圧時に水セパレータタンク7からセルスタック2内部のアノードガス流路46に向けて流れる方向を逆方向とし、逆方向に流れるガス流れを「逆流」で定義する。
セルスタック2の運転中には、カソードで生成した水が電解質膜を介してアノードにも供給される。また、電解質膜は高いガス透過性を有する場合が多く、カソードガスに空気を使用した場合にはカソードからアノードへと透過した窒素がアノードガス流路46上に堆積する。そのため、アノードデッドエンド運転では圧力上昇中のアノードガスの流れ(順流)を利用してアノードガス流路46上に堆積した液水や窒素を除去し、窒素パージバルブ11及び排水バルブ9から外部に排出する。
コントローラ51は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPU(図示せず)と、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROM(図示せず)と、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAM(図示せず)と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)等を備えている。コントローラ51では、アクセル開度センサ52により検出されるアクセル開度(負荷相当)に基づいて、負荷に応じた発電量が得られるようにコンプレッサ15を駆動し、調圧バルブ5、18を制御してセルスタック2内部のMEA42で発電を行わせると共に、セルスタック2内部のアノードに供給する燃料ガスをセルスタック2及び水セパレータタンク7の外部に排出しないアノードデッドエンド運転を行う。アノードデッドエンド運転そのものは公知である(特開2007−149630号公報参照)。
こうした燃料電池システム1において、MEA42内の電解質膜の性能を引き出し、発電効率を向上するためには、電解質膜の水分状態を最適に保つ必要がある。このため、セルスタック2に導入するアノードガス、カソードガスを加湿することが行われる。
この場合、セルスタック2の外部にセルスタック2を加湿する装置を設けるのでは、システムが複雑化する恐れがある。さらに、燃料電池システム1を車載する場合、システム小型化のためにはシステム1の簡素化が必要であり、セルスタック2外部の加湿装置を用いることなくセルスタック2内部で加湿循環を行えることが理想的である。
そこで、セルスタック2内部での加湿循環を促すために、電解質膜を挟んで、アノードガスとカソードガスを対向して流すカウンターフロー構造が通常用いられる。つまり、図2、図3に示したように、電解質膜を挟んでアノードガスの上流側とカソードガスの下流側とが、アノードガスの下流側とカソードガスの上流側とが対向する構成となる。ここで、図3はセル内部加湿方法を示す従来技術(特開2008−97891号公報参照)のMEA42の平面図である。従来技術では、図3に示したように、反応ガスの加湿手段として、MEA42のアクティブエリア48(アノード反応面)の外側に触媒層を持たない電解質層のみからなる部位(加湿エリア49)を設けている。すなわち、セルスタック2に供給されるカソードガスが乾燥していても、カソードガス流路45の下流側ではカソード反応によって生成される水によって、カソードガスは湿潤となる。電解質膜は水蒸気を透過する性質を有しており、生成水によって湿潤となったカソードガス流路45の下流側と乾燥しているアノードガス流路46の上流側との水蒸気濃度差を駆動力とし、水蒸気がカソードガス側からアノードガス側へと輸送される。上流側で加湿されたアノードガスは、アノードガス流路46の下流側において、今度は上記とは反対にカソードガス流路45の側へ水蒸気を輸送する。カウンターフロー構造の場合は、このようにしてセルスタック2内部で加湿循環を行うことによって、セルスタック2外部の加湿装置を廃止することができる。
しかしながら、低負荷運転では、カソードガス流路45のセルスタック2出口側の相対湿度は極めて低下しているので、アノードガス流路46の下流側を加湿できない。すなわち、アノードガスの流量が少なくガス中に保存される水蒸気量が少ないために、アノードガス流路46のセルスタック2出口側の相対湿度が極めて低下しやすい。このため、MEA42のアクティブエリア48の外側に加湿エリア49を設けたとしてもアノードガス流路46の下流側の加湿が不十分であると、カソードガス流路45の上流側を加湿できない。これについて図4を参照して説明すると、図4は再び従来技術のMEA42の平面図である。低負荷側では、図4においてカソードガス流路45の上流側である領域1の電解質膜が最初に乾燥してしまい、発電が行われなくなる。領域1で発電が行われなくなると、領域2〜5で負荷相当分の発電が行われるようになるが、しばらく時間が経過すると、次には領域2の電解質膜が乾燥し領域2で発電が行われなくなる。領域2で発電が行われなくなると、領域3〜5で負荷相当分の発電が行われるようになるが、しばらく時間が経過すると、次には領域3の電解質膜が乾燥し領域3で発電が行われなくなる。このような現象が連鎖的に発生し、条件によっては、最終的に領域5のみが発電するような状態になり、セルスタック2全体の電圧が著しく低下する。
さらに図5を参照して詳述する。図5は図4のセルスタック2に用いられている単セルのモデル図(図4のA−A線断面図)である。図5(a)はアノードに供給される燃料ガス(このアノードに供給する燃料ガスを以下「供給燃料ガス」という。)の流量が大きい高負荷側の運転条件で、図5(b)は供給燃料ガスの流量が小さい低負荷側の運転条件でカソードガス流路45、アノードガス流路46の各流路上の水の挙動がどうなるかを示している。供給燃料ガス流量が大きい高負荷側の運転条件では、発電に伴いカソードガス流路45の下流側で相対湿度が高くなり、カソードガス流路45とアノードガス流路46の相対湿度差をドライビングフォースとして、図5(a)に示したようにMEA42の電解質膜中を水がアノードガス流路46側に向けて逆拡散し、アノードガス流路46の上流側を加湿する。アノードガス流路46に出た水蒸気はアノードガス流路46の下流側に運ばれてカソードガス流路45の上流(図4で領域1)の電解質膜を加湿するので、領域1で電解質質膜が乾燥するという問題が起きない。このように、アノードガス、カソードガスのカウンターフローで互いの極を加湿する技術はかなり以前から公知となっている。しかしながら、図5(B)に示すように生成水量、供給燃料ガス流量ともに少ない低負荷側の運転条件においては、アノードガスが保持できる水の量が少ないためにアノードガス流路46のセルスタック2出口側が乾燥したままであり、従って、カソードガス流路45の上流に乾燥したガス(ドライガス)しか供給されない領域1の電解質膜が乾燥し、図4で前述したような問題が発生してしまうのである。
ここで、改めて考えてみると、アノードデッドエンド運転においては昇圧時にだけアノードガス流路46の上流側からアノードガス流路46の下流側へと向かうアノードガスの流れ(順流)が生じるのであり、この順流によってアノードガス流路46の上流側から下流側へと水蒸気を運び、アノード反応面48の全体を加湿することが可能になる。従って、アノードガス流路46のセルスタック2出口側での電解質膜の乾燥を防止するためには、単位周期当たりの昇圧の割合が大きいことが望ましい。
しかしながら、従来技術(特開2007−149630号公報)では、図6に示したように、アノードガス流路46上の液水や、カソードガス流路45の側からアノードガス流路46の側に透過してくる窒素を除去する目的で、昇圧時間T3を減圧時間T2より短く設定し、急激にアノードガス流路46の圧力を上昇させ、この動圧によってアノードガス流路46上の液水や、カソードガス流路45の側からアノードガス流路46の側に透過してくる窒素をアノードガス流路46の下流側に押し流すようにすることが一般的である。この場合、従来技術では、電解質膜が乾燥状態にあるときと、電解質膜が湿潤状態にあるときとを区別して昇圧時間T3(単位周期当たりの昇圧の割合)を設定することはしていない。低負荷側の運転条件のように、特にアノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜が乾燥状態にあるときにおいても、アノードガス流路46の上流側から下流側へと向かうアノードガス流れ(順流)が生じる時間が短いのでは、アノードガス流路46の上流側から下流側へと水蒸気を十分に運ぶことができず、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜の乾燥が生じがちとなる。
そこで本実施形態では、アノードデッドエンド運転を行うに際して、高負荷側の運転条件のように電解質膜が湿潤状態にあるときと、低負荷側の運転条件のように電解質膜が乾燥状態にあるときとで別々に単位周期当たりの昇圧の割合を設定する。すなわち、アノードデッドエンド運転中に電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定し、この判定結果より電解質膜が乾燥状態にあるときに、単位周期当たりの昇圧の割合を電解質膜が湿潤状態にあるときより大きくする。
本実施形態によれば、電解質膜が乾燥状態にあるときに、アノードガス流路46を昇圧する過程におけるアノードガスの流速(順方向)がゼロ以上(存在する)となる時間(昇圧時間T3)が、電解質膜が湿潤状態にあるときよりも長くなるので、アノードガス流路46の上流側から下流側への水の移動量が多くなる。このように、アノードガス流路46の上流側から下流側への水の移動量を多くすることよって、アノードガス流路46のセルスタック2出口側、従ってカソードガス流路45のセルスタック2入口側での加湿を促進することができる。
アノードデッドエンド運転における上記の単位周期は、昇圧される過程に要する時間である昇圧時間T3と、減圧される過程に要する時間である減圧時間T2との合計であるので、「単位周期当たりの昇圧の割合」とは、昇圧時間T3を昇圧時間T3と減圧時間T2の合計で割った値で定義される値である。これを式で表せば、
単位周期当たりの昇圧の割合=T3/(T2+T3) …(1)
の式となる。
前述のアノードデッドエンド運転は、セルスタック2内部のアノードガス流路46の圧力が昇圧される過程と減圧される過程とを繰り返すようにアノードに燃料ガスを供給するものであるが、本発明の対象とするアノードデッドエンド運転は前述したものに限らない。例えば、図6に示したように昇圧過程と減圧過程の間にアノードガス流路の圧力を一定に維持する過程を設けるものも対象である。このときには、アノードデッドエンド運転における単位周期は、圧力が一定に維持される過程に要する維持時間T1と、減圧される過程に要する時間である減圧時間T2と、昇圧される過程に要する時間である昇圧時間T3との合計であるので、「単位周期当たりの昇圧の割合」は、
単位周期当たりの昇圧の割合=T3/(T1+T2+T3) …(2)
の式により定義される値となる。
以下では、上記(2)の場合、つまりアノードデッドエンド運転における単位周期が、維持時間T1と、減圧時間T2と、昇圧時間T3との合計である場合で主に説明する。
電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかの判定には、
〈1〉セルスタック2の温度、
〈2〉セルスタック2を冷却する冷却媒体を有する場合には、その冷却媒体のセルスタ ック2の上流側、下流側いずれかにおける温度、
〈3〉カソードに供給されるカソードガス(このカソードに供給されるカソードガスを 以下「供給カソードガス」という。)の流量、
〈4〉供給カソードガスの圧力、
〈5〉外気圧、
〈6〉セルスタック2の位置する標高、
〈7〉セルスタック2の発電電流量、
〈8〉セルスタック2のインピーダンス、
〈9〉セルスタック2の総電圧、
〈10〉単位セルの各々の電圧
のうち、少なくとも一つの情報(運転パラメータ)を用いる。そして、この運転パラメータに基づいて乾燥状態評価指標Cdryを算出し、その算出した乾燥状態評価指数Cdryに基づいて単位周期当たりの昇圧時間の割合を決定する。
まず、運転パラメータについて詳述する。電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかの判定手段としては、セルスタック2の発電状態を直接的に検出するか診断することにより、電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定する手段の他に、セルスタック2の運転環境から電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを予測(判定)する手法をとることができる。ここで、電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを予測するために用いることのできる運転環境とは、上記〈1〉のセルスタック温度、上記〈2〉の冷却媒体のセルスタック2の上流側、下流側いずれかにおける温度、上記〈3〉の供給カソードガス流量、上記〈4〉の供給カソードガス圧力、上記〈5〉の外気圧、上記〈6〉の標高、上記〈7〉の発電電流量である。
ここで、電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかの判定は、アノードデッドエンド運転時の発電電流量(上記〈7〉)からも行うことができる点が特徴である。一般的に電解質膜は高い水蒸気透過性を有するため、局所的には発電に伴うカソード反応による生成水量よりも、水蒸気透過量が多くなる場合がある。低負荷運転時には特に生成水量が少ないため、水蒸気透過量が相対的に増加し、アノードガス流路46のセルスタック2出口側のガス乾燥が進行しやすい傾向にある。そのため、低負荷の運転になるほど単位周期当たりの昇圧割合を大きくすることが望ましい。
上記〈1〉〜〈6〉の運転環境からも、電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定することができる。乾燥している供給カソードガスの体積流量(上記〈3〉)が多いほどアノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜の乾燥が進むため、供給カソードガスの流量から乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定することができる。また、供給カソードガスの圧力(上記〈4〉)が低いほど供給カソードガスの体積流量が増加し相対湿度が上昇しづらくなるため、供給カソードガス圧力もしくは外気圧(上記〈5〉)が低い場合にはアノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜が乾燥しやすい。そのため、供給カソードガス圧力や外気圧から乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定してもよい。また、外気圧の代替として、セルスタック2の位置する標高(上記〈6〉)から電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかをを判定してもよい。また、高温ほどアノードガスの飽和蒸気圧が増加して相対湿度が低下するため、セルスタック2の温度(上記〈1〉)が高いほど、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜が乾燥状態にあると考えてよい。セルスタック2を冷却媒体により冷却する手段を有する場合には、冷却媒体のセルスタック2の上流側もしくは下流側の少なくともいずれか一つの温度(上記〈2〉)を、セルスタック2の温度の代替として、電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定することができる。
当然ながら、セルスタック2の発電状態を直接計測して電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定してもよい。電解質膜が乾燥状態にあるときにはセルスタック2内の高湿度な領域に発電が偏るため、電圧低下が生じやすい。そのため、セルスタック2の総電圧(上記〈9〉)の低下から電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定することができる。また、各々の単位セルの電圧(上記〈10〉)、もしくは1枚以上の積層セル間の電圧をセル電圧モニタにより計測し、その低下から電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定してもよい。
また、電解質膜が乾燥状態にあるときには電解質膜の抵抗が上昇するため、セルスタック2のインピーダンス(上記〈8〉)から電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定することができる。ここで、セルスタック2のインピーダンスとは、セルスタック2に印加される電流の変動に対する、セルスタック2の電圧応答の比率である。セルスタック2のインピーダンスを検出する簡便な方法としては、交流抵抗計によりセルスタック2の抵抗を計測することが代表的である。さらには、抵抗計を用いる代わりに、アノードデッドエンド運転中の電流変動に対する電圧応答から電解質膜が乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを判定してもよい。例えば、発電指令電流量に対して微小な交流成分を重畳し、その電圧応答から電解質膜の抵抗を推測することができる。また、過渡的な負荷変動に対して、速やかに大きな電圧降下が生じる場合などを電解質膜が乾燥状態にあるときであるとして判定してもよい。
図7は上記の運転パラメータと、乾燥状態評価指数Cdryとの関係を、図8は乾燥状態評価指数Cdryと、単位周期当たりの昇圧の割合であるT3/(T1+T2+T3)との関係を示している。
上記〈1〉〜〈10〉に示したように運転パラメータの単位は様々であるので、様々な単位を有する運転パラメータから図7の関係を用いて乾燥状態評価指標Cdryを算出する。乾燥状態評価指標Cdryは、様々な単位を有する運転パラメータを、電解質膜の乾燥状態の程度を表す共通の指標へと換算するためのものである。乾燥状態評価指標Cdryの範囲と数値とは任意に設定できるため、扱いやすい正の値の範囲と、具体的数値[無名数]とを定めればよい。ここでは、乾燥状態評価指標Cdryの数値が正の値で大きいほど、電解質膜の乾燥状態の程度が大きいものとしている。
このようにして正の値で数値化した乾燥状態評価指数Cdryから図8の関係を用いて単位周期当たりの昇圧の割合T3/(T1+T2+T3)を設定する。乾燥状態評価指標Cdryの数値が正の値で大きくなるほど、単位周期当たりの昇圧の割合を大きくするのが基本である。
ただし、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)の乾燥は運転パラメータの変化に伴いある点から急激に進行することが特徴的である。この点を考慮して、乾燥状態評価指標Cdryと、単位周期当たりの昇圧の割合とが単に比例関係を有するものとはしない。すなわち、乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1に到達するまでは単位周期当たりの昇圧の割合を一定とし、乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1に到達した時点で、単位周期当たりの昇圧の割合がステップ的に大きくなるようにする(図8の実線参照)。また、第1の閾値C1よりも大きな第2の閾値C2(C1<C2)を設け、この第2の閾値C2に到達した時点で単位周期当たりの昇圧の割合をさらにステップ的に大きくする(図8の実線参照)。もちろん、上記〈1〉〜〈10〉に示した運転パラメータを検出する(あるいは推測する)に際して検出誤差(推測誤差)や検出時間遅れ(推測時間遅れ)が生じ得るので、これらの影響を受けて判定精度が悪化することを避けるため、図8一点鎖線に示したように乾燥状態評価指標Cdryが第3の閾値C3(C3<C1)に到達した点より単位周期当たりの昇圧の割合を滑らかに増加させてもよい。
図8は見方を変えると、次のように扱っていることを意味する。すなわち、図8の実線の特性によれば、乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1未満にあるときに電解質膜が湿潤状態にあると、また乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1以上であるときに電解質膜が乾燥状態にあるとみなしている。さらに、乾燥状態を、第1の閾値C1以上第2の閾値未満であるときと、第2の閾値C2以上であるときの2つに分け、乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1以上第2の閾値未満であるときに電解質膜が乾燥状態1(つまり乾燥の程度が相対的に小さい状態)にあると、乾燥状態評価指標Cdryが第2の閾値C2以上であるときに電解質膜が乾燥状態2(乾燥の程度が相対的に大きい状態)にあるとみなしている。ここで、乾燥状態にあるのか湿潤状態にあるのかを考えている電解質膜とは、特にアノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)の電解質膜のことである。
一方、図8の一点鎖線の特性によれば、乾燥状態評価指標Cdryが第3の閾値C3未満にあるときに電解質膜が湿潤状態にあると、また乾燥状態評価指標Cdryが第3の閾値C3以上であるときに電解質膜が乾燥状態にあるとみなしている。
このように、図8には乾燥状態をどのように表すかについて、離散値で表す場合(実線)と連続値で表す場合(一点鎖線)の2つを挙げているが、本発明は図8に限定されるものでない。例えば、乾燥の程度を2つに分けることに代えて、乾燥の程度をさらに3つ以上に分けることができる。
上記(2)式において、単位周期当たりの昇圧の割合を大きくするには、(2)式右辺の分子である昇圧時間T3を長くするか、(2)式右辺の分母である時間を短くすればよい。(2)式右辺の分母である時間を短くするには減圧時間T2を短くするか、維持時間T1を短くすればよい。ここで、上記の本実施形態のように「単位周期当たりの昇圧の割合を大きくする」ことを上位概念とすれば、「昇圧時間T3を長くする」こと、「維持時間T1を短くする」こと、「減圧時間T2を短くする」ことは下位概念に相当する。そこで、次にはこの下位概念を第1〜第5の実施形態で説明する。すなわち、「昇圧時間T3を長くする」場合を第1、第2、第3の実施形態で、「維持時間T1を短くする」場合を第4実施形態で、「減圧時間T2を短くする」場合を第5実施形態で説明する。
図9は第1実施形態のアノードデッドエンド運転における単位周期での水素調圧バルブ5の作動状態、アノードガス流路圧力、アノードガス流れの各変化を示すタイミングチャートである。なお、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときを一点鎖線で、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときを実線で示している。比較のため、図6に従来技術のアノードデッドエンド運転における単位周期での水素調圧バルブ5の作動状態、アノードガス流路圧力、アノードガス流れの各変化を示している。
第1実施形態では、図9中段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、昇圧時間T3を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより長くする。これにより、図9下段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも供給燃料ガスが順流で流れる時間が長くなる。この結果、アノードガス流路46の上流側から下流側へと移動する水蒸気の量が、電解質膜が湿潤状態にあるときよりも多くなる。これによって、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときにおいても、アノードガス流路46のセルスタック2出口側で(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)の電解質膜の加湿を実現できる。
図9において、アノードデッドエンド運転における単位周期は、セルスタック2内部のアノードガス流路46の圧力が上限圧P1に維持される時間(維持時間)T1と、セルスタック2内部のアノードガス流路46の圧力が上限圧P1から下限圧P2まで減圧される過程に要する時間(減圧時間)T2と、セルスタック2内部のアノードガス流路46の圧力が下限圧P2から上限圧P1まで昇圧される過程に要する時間(昇圧時間)T3との3つの時間の合計(=T1+T2+T3)である。そして、昇圧時間T3を長くすることによって、単位周期当たりの昇圧の割合(T3/(T1+T2+T3))が大きくなっている。
電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも昇圧時間T3を長くするための方策としては、水素調圧バルブ5(燃料ガス流速調整手段)の開度を調整することで、供給燃料ガスの流速(単位時間当たりの供給燃料ガス流量)を小さくすることが望ましい。すなわち、図9上段に示したように、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときの水素調圧バルブ5の開度aよりも電解質膜が乾燥状態にあると判定したときの水素調圧バルブ5の開度bを小さくする。
このように、供給燃料ガスの流速を小さくすると、高湿度な排出カソードガス(カソードから排出されてくるセルスタック2出口側の高湿度なガスのこと)からアノードガス流路46のセルスタック2入口側での供給燃料ガスへの湿度交換効率が、供給燃料ガスの流速を小さくしない場合より増加する。そのため、アノードガス流路46のセルスタック2出口側での供給燃料ガスの相対湿度が上昇し、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜を加湿する効果を高めることができる。
アノードガス流路46のセルスタック2出口側でアノードガスの湿度を十分に上昇させるためには、供給燃料ガスの流速に影響する昇圧時間T3が、
T3>(Ps/P1)×T2 …(3)
ただし、Ps;アノードガスの飽和蒸気圧(セルスタック温度から計算される)、
P1;アノードデッドエンド運転におけるアノードガス流路の上限圧、
T2;減圧時間、
の関係を満足するように設定することが望ましい。
これについて説明すると、アノードガス流路46のセルスタック2出口側でのアノードガスを湿度100%近傍に近付けることができる水準まで、供給燃料ガスの流速を下げることができる。アノードガス中の飽和蒸気圧が高いほど相対湿度が上昇しづらいため、昇圧時間T3を長くして単位時間当たりの供給燃料ガス流量を下げることが望ましい。また、供給燃料ガスの圧力が低いほど、供給燃料ガスの体積流量が増加し相対湿度が上昇しづらくなるため、昇圧時間T3を長くして単位時間当たりの供給燃料ガス流量を下げることが望ましい。
さらに、アノードデッドエンド運転における昇圧時の供給燃料ガス流量は、直前のアノードデッドエンド運転における減圧時のアノードガスの消費量に比例する。そのため、減圧時間T2の長さに比例して、昇圧時間T3を決めることが効果的である。
これらをまとめると、
T3∝{(アノードガスの飽和蒸気圧)/(供給燃料ガス圧力)}×T2
…(補1)
の関係が得られる。(補1)式の供給燃料ガス圧力としては、セルスタック2内部のアノードガス流路46の圧力が昇圧される過程と減圧される過程とからなる圧力脈動の周期(単位周期)のうちの上限圧P1を代表値として用いることが最も効果的である。
この結果、(補1)式を書き直して
T3∝(Ps/P1)×T2 …(補2)
ただし、Ps;アノードガスの飽和蒸気圧(セルスタック温度から計算される)、
P1;アノードデッドエンド運転におけるアノードガス流路の上限圧、
T2;減圧時間、
の式が得られる。この(補2)式より上記(3)式を得た。
このように、上記(3)式より昇圧時間T3を決定し、アノードガス流路46のセルスタック2出口側でのアノードガスの水蒸気交換効率を上昇させるので、アノードガス流路46のセルスタック2出口側により高湿度なガスを供給できる。
上記(3)式について具体的な数値を挙げると、アノードガス流路46の上限圧P1が120kPa(絶対圧)、セルスタック2の温度から計算されるアノードガスの飽和蒸気圧が30kPaの場合には、Ps/P1=30/120=25%となる。このとき、上記(3)式より昇圧時間T3は減圧時間T2の25%を超えるようにすることが効果的である。例えば、減圧時間T2が10秒の場合には、昇圧時間T3は2.5秒(=10秒×25%)を超えるようにすることが望ましい。
また、アノードガス中に保持される水蒸気を電解質膜の膜中に効果的に取り入れるためには、膜中の水の拡散時間を考慮して昇圧時間T3を決めることが効果的である。すなわち、昇圧時間T3は、電解質膜中の水拡散時間Tdよりも長くすることが望ましい。
ここで、上記の水拡散時間Tdは、電解質膜の膜厚Lと電解質膜中の水の拡散係数Dとを用いて、
Td=L2/D …(4)
の式により計算される。
アノードガス流路46のセルスタック2出口側でのアノードガスに含まれる水蒸気は、電解質膜中を拡散によってアノード側からカソード側へと移動する。そのため、電解質膜がアノードガス流路46のセルスタック2出口側でのアノードガスから水蒸気を吸湿するのに要する時間は、上記(4)式の水拡散時間Tdと同程度とみなすことができる。従って、このように電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、昇圧時間T3を、電解質膜の膜厚L及び電解質膜中の水の拡散係数Dから計算される水の拡散時間L2/Dよりも長くすることで、アノードガス流路46のセルスタック2出口側でのアノードガス中に保持される水蒸気を電解質膜の膜中に効果的に取り入れることができる。
上記(4)式について具体的な数値を挙げると、固体高分子型燃料電池の電解質膜として一般的なNafion211(膜厚Lは25μm)の場合、電解質膜中の水拡散時間Tdは2秒程度である。従って、Nafion211(膜厚Lは25μm)を用いる場合、昇圧時間T3は2秒を超えることが望ましい。この場合、上記(3)式をも満足させるには、昇圧時間T3として2.5秒を超えることが望ましい。なお、「Nafion」はDuPont社の登録商標である。
一方、昇圧時間T3は減圧時間T2(例えば10秒程度)よりも短いことが好ましいので、結局、昇圧時間T3は2.5〜10秒の範囲とすることが望ましい。
電解質膜が乾燥状態にあると判定したとき、昇圧時間T3を2.5〜10秒の範囲に切換えるが、このように昇圧時間T3を長くした後にも再び電解質膜が乾燥状態にあると判定した場合(つまり電解質膜の乾燥がさらに進む場合)には上記の範囲で昇圧時間T3を長くしていくことが最も効果的である。
ここで、減圧時間T2は、図9上段、中段に示したように、水素調圧バルブ5を全閉とする時間で置き換えてもよい。
アノードデッドエンド運転における減圧時に水素調圧バルブ5を微小に開き減圧を遅くするような制御を実行する場合には、
T2eff=T2×(1−水素調圧バルブ開度) …(5)
ただし、T2eff;実質的な減圧時間、
の式により実質的な減圧時間T2effを計算し、この実質的な減圧時間T2effを改めて減圧時間T2とみなしてもよい。
ここで、水素調圧バルブ5を全閉とするときには、水素調圧バルブ開度=0であるので、(5)式より実質的な減圧時間T2effは、減圧時間T2と一致する。一方、水素調圧バルブ5を微小に開けば水素調圧バルブ開度はゼロでない小さな値となるため、実質的な減圧時間T2effは、減圧時間T2より短くなる。
図10は第2実施形態のアノードデッドエンド運転における単位周期での水素調圧バルブ5の作動状態、アノードガス流路圧力、アノードガス流れの各変化を示すタイミングチャートである。なお、第2実施形態でも、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときを一点鎖線で、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときを実線で示している。
第2実施形態では、図10中段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、水素調圧バルブ5(上限圧調整手段)を用いてアノードデッドエンド運転における上限圧P1’を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときのアノードデッドエンド運転における上限圧P1より高くする。
第2実施形態では、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときからの上限圧の上昇量(=P1’−P1)に比例して、減圧時間T2および昇圧時間T3が増加し、これによって電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも単位周期当たりの昇圧の割合が大きくなる。すなわち、第2実施形態によっても、図10下段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも供給燃料ガスが順流で流れる時間が長くなる。この結果、アノードガス流路46の上流側から下流側への水蒸気の移動量が多くなる。そのため、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜を加湿することが可能となり、カソードガス流路45のセルスタック2入口側での電解質膜の乾燥による発電性能低下を防止することができる。
ただし、第1実施形態と比較して、第2実施形態ではアノードデッドエンド運転における昇圧時に供給燃料ガスの流速を下げる作用は得られないため、アノードガス流路46のセルスタック2出口側でのアノードガスへの湿度交換効率が上昇する効果は得られない。
図11は第3実施形態の燃料電池システムの概略構成図で、第1実施形態に対して、水セパレータタンク7内に貯留されている液水量を検出する水量センサ54を追加して設けている。第1実施形態の図1と同一部分には同一番号を付している。
第3実施形態は、水量センサ54により検出される水セパレータタンク7(ガス貯留手段)内の液水量Qwが液水量の上限値Q2未満である場合において、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、排水バルブ9(容積調整機構)を開いて液水を外部に排出し、水セパレータタンク7内の気相部分の容積を電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも大きくすることにより、昇圧時間T3を長くし、これによって、セルスタック2内部のアノードガス流路46から排出管6や水セパレータタンク7への排水性を向上させるものである。
この原理を説明する。水素調圧バルブ5で上限圧P1を設定した状態で、供給燃料ガスを順方向に流してセルスタック2内部のアノードガス流路46を上限圧P1まで上昇させる場合において、水素調圧バルブ5から排水バルブ9までを流れるアノードガスの流路の容積が、相対的に大きい場合と相対的に小さい場合との2つの場合を考え、両者で水素調圧バルブ5から順方向に流す供給燃料ガスの質量流量が等しいとする。このとき、水素調圧バルブ5から排水バルブ9までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に大きい場合のほうが、水素調圧バルブ5から排水バルブ9までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に小さい場合より、セルスタック2内部のアノードガス流路46が上限圧P1に到達するまで時間(つまり昇圧時間T3)が長くなる。このため、水素調圧バルブ5から排水バルブ9までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に大きい場合のほうが、セルスタック2内部のアノードガス流路46上の液水に対して長い時間、下流側に向かう動圧をかけることができる。その結果として、水素調圧バルブ5から排水バルブ9までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に大きい場合のほうが、セルスタック2内部のアノードガス流路46から排出管6や水セパレータタンク7への排水性が向上することとなる。
このように、第3実施形態によっても、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも供給燃料ガスが順流で流れる時間が長くなる。この結果、アノードガス流路46の上流側から下流側への水蒸気の移動量が多くなる。そのため、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜を加湿することが可能となり、カソードガス流路45のセルスタック2入口側での電解質膜の乾燥による発電性能低下を防止することができる。
第3実施形態では、これに限らず、水セパレータタンク7内に貯留される液水の量に関係なく、水セパレータタンク7の容積そのものを調整し得る容積調整機構を設けた構造にしてもよい。このものでは、水量センサ54により検出される水セパレータタンク7内の液水量Qwが液水量の上限値Q2未満である場合において、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、容積調整機構を用いて水セパレータタンク7の容積を電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより大きくすることにより、昇圧時間T3を長くする。これによって、セルスタック2内部のアノードガス流路46から排出管6や水セパレータタンク7への排水性を向上させることができる。
水量センサに代えて、水セパレータタンク7内の液水の水位を検出する水位センサを用いることができる。
第3実施形態のコントーラ51で行われる制御を図12を参照して説明する。図12は排水バルブ9を開閉するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。図12のフローはアノードデッドエンド運転の開始と共にあるいはアノードデッドエンド運転の開始直前に実行しておく。
ステップ1では水量センサ54により検出される水セパレータタンク7内の液水量Qw、乾燥状態評価指標Cdryを読み込む。ここで、乾燥状態評価指標Cdryは、前述した〈1〉〜〈10〉のいずれかの運転パラメータから上記の図7を参照することより算出されている。
ステップ2では乾燥状態フラグをみる。このフラグはゼロに初期設定されている。今は、乾燥状態フラグ=0であるとしてステップ3、4に進む。ステップ3では水セパレータタンク7内の液水量Qwと水セパレータタンク7内液水量の上限値Q2とを、ステップ4では乾燥状態評価指標Cdryと乾燥状態にあることを判定するための閾値(図7に示す実線の特性を用いる場合であれば第1の閾値C1)とを比較する。ここで、水セパレータタンク7内の液水量の上限値Q2は水セパレータタンク7の仕様から予め定められている。
水セパレータタンク7内の液水量Qwが水セパレータタンク7内の液水量の上限値Q2未満でありかつ乾燥状態評価指標Cdryが閾値C1以上であるときには、電解質膜が乾燥状態にあると判断し、ステップ5に進んで乾燥状態フラグ=1とする。ステップ6では、水セパレータタンク7内の気相部分の容積を増加させるため、排水バルブ9を開く。これによって、水セパレータタンク7内の液水が外部に排出され、水セパレータタンク7内の気相部分の容積を増加させる操作が開始される。
一方、ステップ4で乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1未満であるときには、電解質膜が湿潤状態にあると判断し、ステップ7に進んで排水バルブ9を全閉状態のままとする。
ステップ3で水セパレータタンク7内の液水量Qwが水セパレータタンク7内の液水量の上限値Q2以上であるときにはステップ8に進んで即座に排水バルブ9を開き、水セパレータタンク7内の液水を外部に排出する。これは、次の理由による。すなわち、アノードデッドエンド運転における減圧時に水セパレータタンク内に貯留されているアノードガスをセルスタック2内部のアノードガス流路46に向けて逆流させる必要がある。しかしながら、水セパレータタンク7内に上限値Q2以上の液水が貯留されていると、セルスタック2内部のアノードガス流路46に向けて逆流させるアノードガスが不足することが考えられる。そこで、アノードデッドエンド運転における減圧時にセルスタック2内部のアノードガス流路46に向けて逆流させるアノードガスが不足することのないようにするため、水セパレータタンク7内に上限値Q2以上の液水が貯留されているときには、水セパレータタンク7内の液水を排出させて、水セパレータタンク7内に一定量のアノードガスを確保するためである。
前回にステップ5で乾燥状態フラグ=1となったときには、次回よりステップ1、2よりステップ9に進み乾燥状態評価指標Cdryと第1の閾値C1とを比較する。乾燥状態フラグ=1となった直後には乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1以上であるので、ステップ10に進み水セパレータタンク7内の液水量Qwと水セパレータタンク7内の液水量の下限値Q1とを比較する。ここで、水セパレータタンク7内の液水量の下限値Q1も予め定められている。水セパレータタンク7内の液水量Qwが水セパレータタンク7内の液水量の下限値Q1未満になっていない場合にはステップ6に進んでステップ6の操作を実行する。すなわち、排水バルブ9を継続して開き、水セパレータタンク7内の液水を排出する。
ステップ1、2、9、10、6の繰り返しによりやがて水セパレータタンク7内の液水量Qwが水セパレータタンク内の液水量の下限値Q1未満になれば、ステップ11に進んで排水バルブ9を全閉状態にする。この状態でも、ステップ9で乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1以上である限り、ステップ1、2、9、10、11の操作を繰り返す。
このようにして、アノードデッドエンド運転中において電解質膜が乾燥状態にあるときに、排水バルブ9から液水の排出を行い水セパレータタンク7内の気相部分の容積を電解質膜が湿潤状態にあるときよりも大きくすることができる(図12のステップ2、5、6、ステップ2、9、10、6、ステップ2、9、10、11参照)。
水セパレータタンク7の気相部分の容積を大きくすることにより、昇圧時間T3が長くなり、これによって、セルスタック2内部のアノードガス流路46から排出管6や水セパレータタンク7への排水性が向上する。これによってステップ9で乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1未満となり、電解質膜が湿潤状態になったと判断される。このときには、ステップ9よりステップ12、13に進み、乾燥状態フラグ=0とし、排水バルブ9を全閉状態とする。
図13は第4実施形態のアノードデッドエンド運転における単位周期での水素調圧バルブ5の作動状態、アノードガス流路圧力、アノードガス流れの各変化を示すタイミングチャートである。なお、第4実施形態でも、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときを一点鎖線で、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときを実線で示している。
アノードデッドエンド運転における維持時間T1の間は、アノードガス流路46の上流側から下流側へ向かう供給燃料ガスの流速がゼロであり、アノードガス流路46の上流から下流側へと水蒸気を移動させることができないので、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜の乾燥が進行し易い。すなわち、一定圧力維持中は、発電に伴うアノードガス消費分の供給燃料ガスのみがアノードへと供給され、アノードガス流路46の下流側に向かうほど供給燃ガスの流速が低下する。このため、アノードガス流路46の上流側から下流側へと輸送できる水蒸気量は、アノードガス流路46の下流側へ向かうほど減少する。低負荷運転時に、アノードガス流路46の下流側では、アノードガス流路46の上流側から輸送される水蒸気量よりもカソードガスにより奪われる水蒸気量が多くなるため、アノードガス流路46の下流側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜の乾燥が進行する。
そこで、第4実施形態では、図13中段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、アノードデッドエンド運転における維持時間T1を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより維持時間T1を短くする。
このように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに維持時間T1を短くすると、昇圧時間T3は電解質膜が湿潤状態にあると判定したときと変わらないのであるが、単位周期当たりの圧力維持の割合が減少するため、単位周期当たりの昇圧の割合は、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも大きくなる。すなわち、第4実施形態では、図13下段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも、単位周期当たりに供給燃料ガスが順流で流れる時間の割合が大きくなる。この結果、単位周期当たりに供給燃料ガスが順流で流れる時間の割合が大きくなる分、アノードガス流路46の上流側から下流側への水蒸気の移動量が多くなる。そのため、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜を加湿することが可能となり、カソードガス流路45のセルスタック2入口側での電解質膜の乾燥による発電性能低下を防止することができる。
図14は第5実施形態のアノードデッドエンド運転における単位周期での水素調圧バルブの作動状態、アノードガス流路圧力、アノードガス流れの各変化を示すタイミングチャートである。なお、第5実施形態でも、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときを一点鎖線で、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときを実線で示している。
アノードデッドエンド運転における減圧時には、発電に伴うアノードガスの消費によって水セパレータタンク7からセルスタック2内部のアノードガス流路46に向かうアノードガスの逆流が生じる。低負荷運転時に、アノードガス流路46のセルスタック2出口側には排出管6や水セパレータタンク7内の水蒸気が少量戻るのみであり、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)が乾燥しやすい。
そこで、第5実施形態では、図14中段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、アノードデッドエンド運転における減圧時間T2を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより短くする。
このように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに減圧時間T2を短くしたとき、昇圧時間T3は電解質膜が湿潤状態にあると判定したときと変わらないのであるが、単位周期当たりの減圧の割合が減少するため、単位周期当たりの昇圧の割合は、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも大きくなる。すなわち、第5実施形態では、図14下段に示したように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも、単位周期当たりに供給燃料ガスが順流で流れる時間の割合が大きくなる。この結果、単位周期当たりに供給燃料ガスが順流で流れる時間の割合が大きくなる分、アノードガス流路46の上流側から下流側への水蒸気の移動量が多くなる。そのため、アノードガス流路46のセルスタック側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜を加湿することが可能となり、カソードガス流路45のセルスタック2入口側での電解質膜の乾燥による発電性能低下を防止することができる。
減圧時間T2は、発電によるアノードガスの消費量が多くなるほど、また窒素パージバルブ11からのガス排出量が多くなるほど短くなるため、アノードデッドエンド運転における減圧時に電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、アノードデッドエンド運転における減圧時の窒素パージバルブ11(排気バルブ)の開度を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより大きくするようにしてもよい。
このように、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときにアノードデッドエンド運転における減圧時の窒素パージバルブ11(排気バルブ)の開度を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより大きくすると、アノードガス流路46の減圧が速やかになり、減圧時間T2が短くなる。これによって、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも、単位周期当たりに供給燃料ガスが順流で流れる時間の割合が大きくなるので、その分アノードガス流路46の上流側から下流側への水蒸気の移動量が多くなる。そのため、アノードガス流路46のセルスタック出口(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜を加湿することが可能となり、カソードガス流路45のセルスタック2入口側での電解質膜の乾燥による発電性能低下を防止することができる。
電解質膜が乾燥状態にあると判定したときに、上記第1〜第5の実施形態を2つ以上を組み合わせて単位周期当たりの昇圧の割合を大きくするようにしてもよい。例えば、第5実施形態のように窒素パージバルブ11の開度を大きくすることにより減圧時間T2を短くする場合には、排出管6へと排出されてくるガス中のアノードガスが増加して燃料利用率が悪化する。この場合には、図8に実線で示したように乾燥状態を2つに分割し、乾燥状態評価指標Cdryが第2の閾値C2未満である乾燥状態1の場合に第1から第4までのいずれか一つの実施形態を採用し、乾燥状態評価指標Cdryが第2の閾値C2以上である乾燥状態2の場合にのみ第5実施形態を採用するようにするとよい。
上記の図9、図10、図13、図14では、簡単のため、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときと、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときとの2つの場合に分けて(つまり2値的に)扱っている。図9、図10、図13、図14において、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときとは、図8の実線の特性によれば乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1未満にあるとき、図8の一点鎖線の特性によれば乾燥状態評価指標Cdryが第3の閾値C3未満にあるときである。同様にして、電解質膜が乾燥状態にあると判定したときとは図8の実線の特性によれば乾燥状態評価指標Cdryが第1の閾値C1以上であるとき、図8の一点鎖線の特性によれば乾燥状態評価指標Cdryが第3の閾値C3以上であるときである。
ただし、本発明はこれら図9、図10、図13、図14に示した場合に限られない。例えば、図8の実線の特性を採用し、乾燥状態を乾燥状態1と乾燥状態2の2つに分割する場合のアノードデッドエンド運転における単位周期での水素調圧バルブ5の作動状態、アノードガス流路圧力、アノードガス流れの各変化を示すタイミングチャートは、第1実施形態の図9に代えて図15に示したようになる。第1実施形態の他の例を示す図15では、電解質膜が乾燥状態1にあると判定したときを破線で、電解質膜が乾燥状態2にあると判定したときを実線で、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときを一点鎖線で表している。
第1実施形態の他の例では、図15中段に示したように、電解質膜が乾燥状態1にあると判定したときに、昇圧時間T3を、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときより長くする。電図15中段に示したように、解質膜が乾燥状態2にあると判定したときには、昇圧時間T3を、電解質膜が乾燥状態1にあると判定したときよりもさらに長くする。
これによって、図15下段に示したように、電解質膜が乾燥状態1にあると判定したときに電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも供給燃料ガスが順流で流れる時間が長くなり、電解質膜が乾燥状態2にあると判定したときには電解質膜が乾燥状態1にあると判定したときよりも供給燃料ガスが順流で流れる時間がさらに長くなる。この結果、アノードガス流路46の上流側から下流側へと移動する水蒸気の量が、電解質膜が湿潤状態にあると判定したときよりも多くなる。これによって、アノードガス流路46のセルスタック2出口側(カソードガス流路45のセルスタック2入口側)での電解質膜の加湿を乾燥の程度に応じて実現できる。