JP5480705B2 - 炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ - Google Patents

炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、軟鋼又は490乃至520N/mm級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用される炭酸ガス溶接用銅めっきソリッドワイヤに関する。
近時、建築鉄骨分野では、人手による半自動溶接法が殆どであったが、省人化によるコストダウン、及び、夜間又は休日の無人運転による一層の溶接能率向上を目的として、ロボットによる自動溶接が急速に普及してきている。一方、溶接ワイヤとしては、490N/mm級炭素鋼鋼板に対して最大入熱40kJ/cm、かつパス間温度350℃まで許容できるものとして、また520N/mm級炭素鋼鋼板に対して最大入熱30kJ/cm、かつパス間温度250℃まで許容できるものとして、大入熱・高パス間温度対応ワイヤが開発されている。
このような大入熱・高パス間温度対応ワイヤに関し、1999年に540N/mm級ワイヤとしてJIS化された後、今日まで、従前のワイヤよりも大入熱・高パス間温度で優れた機械的性質が得られる540N/mm級ワイヤが急速に普及している。そして近時のロボット溶接による全自動溶接に対しても、540N/mm級ワイヤが適用されることが多くなってきている。
このような従来の炭酸ガス溶接用の大電流・高パス間温度対応ワイヤとしては、例えば特許文献1〜4に記載のワイヤが公知である。これらのワイヤは、全般的に、Si、Mn、Tiといった脱酸成分を従来ワイヤよりも多く含有し、かつMo、B、Cr、Al、Nb、V、Ni等を必要に応じて添加している。これによって、鋼の焼入れ性を高め、結晶粒微細化による靱性の向上を達成し、更に析出硬化及び固溶硬化の作用とを組み合わせることにより、強度を高めている。
しかしながら、従来の大電流・高パス間温度対応ワイヤでは、スラグ発生量が過剰で、かつ剥離性が劣るという欠点があった。スラグは絶縁性のため、堆積したスラグがアーク安定性を阻害し、スラグ巻き等の欠陥発生の直接原因となる。更に、多少なりともスラグが自然剥離しなければ、溶接ロボットがスタート位置をずらしながら再アークを試みても、アークスタートミスを続けることになり、溶接ロボットはエラー判定して停止してしまう。この問題に対して、スラグ剥離性の改善を図ると共にスラグ発生量を低減したワイヤとして、例えば特許文献5〜9に記載のワイヤが開発されている。
特開2002−103082号公報 特開2002−321087号公報 特開平11−90678号公報 特開平11−239892号公報 特開2006−88187号公報 特開2006−305605号公報 特開2006−150437号公報 特開2006−26643号公報 特開2009−106966号公報
しかしながら、これら従来のワイヤは、近時のロボット溶接には対応できなくなってきている。すなわち、建築鉄骨分野で行われるロボット溶接の特徴は、大電流で長時間の連続溶接を行うことであり、他分野と比較しても、優れたワイヤ送給性が求められている。また、近年の溶接作業の現場でも、様々な設備の場所の配置が見直され、作業スペース・在庫スペースの確保や、動線に沿ったレイアウトが進められている。これに伴い、溶接ワイヤの設置場所から溶接ロボットの配置場所までの距離が長くなり、溶接時におけるワイヤの送給経路の長距離化・複雑化が進んでいる。このように、近時の建築鉄骨分野におけるロボット溶接では、過酷な溶接条件に加え、過酷な送給経路で溶接を行わなければならず、従来のワイヤをそのまま適用しただけでは、ワイヤの送給不良が生じ易くなるといった問題が発生している。
そこで、これらの問題を解決すべく、最大入熱40kJ/cm、かつ最高パス間温度350℃の条件で490N/mm級鋼に、また最大入熱30kJ/cm、かつ最高パス間温度250℃の条件で520N/mm級鋼に必要十分な機械的性質と、優れたワイヤ送給性とを有し、かつスラグ発生量が少なく、スラグ剥離性も良好である溶接ワイヤが望まれていた。
ここで従来、ワイヤ送給性を向上させるために、ワイヤ表面処理技術やワイヤ送給装置に関する発明がなされている。しかしながら、溶接ワイヤ成分の面からワイヤ送給性を向上させる技術を開示したものはない。また、ワイヤ送給性の向上を達成しつつ、強度及び靭性といった機械的性質に優れ、かつスラグ剥離性とスラグ発生量の最小化を実現した溶接ワイヤは存在しない。そこで、機械的性質に優れており、近年の過酷な条件で使用されるロボット溶接に対応できる最適な溶接ワイヤの開発が要望されている。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、540N/mm級ワイヤとしての機械的性質を損なうことなく、ワイヤ送給性、かつスラグ剥離性を向上させた炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤを提供することを課題とする。
本発明者等は、まずワイヤ送給性の向上を図るべく、めっきの密着性に関して研究を行った結果、以下の事象を解明した。溶接ワイヤを製造する上で、必須となる工程に焼鈍がある。溶接ワイヤの製造は冷間加工であるため、加工ひずみの増大に伴って溶接ワイヤが硬化してしまい、ワイヤの破断を引き起こす。そこで、ワイヤの破断を防ぐため、焼鈍により組織を軟化させることが必要となる。しかしながら、この焼鈍工程を経ることで、ワイヤ表面に厚い酸化スケールが形成されてしまう。このスケールは酸洗い工程により剥離・除去されるが、スケール層が厚い、又はスケールと地鉄との密着性が高いと、スケールの除去が不十分となり、めっき後に残留スケール部からめっきが剥離してしまうため、十分なめっき密着性を得ることができない。このような状態を避けるためには、スケールの成長を抑制すると共に、スケールと地鉄との密着性を低下させる事が効果的であり、その影響因子としてワイヤ中のSi、Tiが最も影響を及ぼすことを、本発明者等は見出した。
ここで、鋼材の製造プロセスにおいては、Si含有量の増加により、スケール中のFeSiOが増加し、サブスケールが緻密化してスケール層の密着性が増加することが知られている。しかし、鋼材と異なり、溶接ワイヤ、特に炭酸ガス溶接においては溶接中に脱酸反応が生じ、ワイヤ中のSiは一部スラグやスパッタとなるため、溶接金属中に全てが歩留ることは無いため、機械的性質の維持を目的として一定値以上、特に540N/mm級ワイヤではJIS Z3312により0.55質量%以上のSiを含有しなければならない。そのため、Si含有量を必要以上に低下させることはできず、Si含有量の低下によりスケール層の密着性低下を達成することはできない。この問題に対して、Siと同様に脱酸元素であり、なおかつSi以上に酸素との反応性の高いTiに着目し、ワイヤ中のTi含有量を調整することで、スケール層の密着性を低下させることを可能とした。
また、スラグ剥離性に関しては、S、Nに加え、Si、Ti、Zrを、これらの相互関係をもって規制することで、より一層スラグ剥離性を向上させることができることを見出した。
すなわち、本発明に係る炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ(以下、適宜、ソリッドワイヤという)は、ワイヤ全質量に対し、C:0.02〜0.08質量%、Si:0.55〜0.90質量%、Mn:1.80〜2.50質量%、Ti:0.05〜0.15質量%、Zr:0.05質量%以下、めっき層のCu及び芯線中のCuの合計である全Cu:0.10〜0.45質量%を含有し、S:0.007質量%以下、N:0.007質量%以下、P:0.020質量%以下に抑制し、その他の残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)
CO=[Si]×[Ti]×10・・・(1)
で表されるパラメータPCOが、2.75≦PCO≦11.00
を満たすことを特徴とする。
かかる構成によれば、所定量のC、Si、Mn、Ti、Zrを含有することで、強度、靭性、アーク安定性、スラグ剥離性等が向上すると共に、溶接金属の脱酸による気孔欠陥が防止される。また、Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cuを所定に規定することで、通電性、アーク安定性、スパッタ発生の問題や、高温割れ及びスラグ剥離性の問題が生じることがない。更にS、N、Pを所定量以下に抑制することで、高温割れの発生や靭性の低下等が抑制される。そして、更にSiとTiを所定の関係で規制することで、焼鈍時のスケール密着性が低下し、めっき密着性が向上する。これによりワイヤ送給性が向上する。
ここで、前記式(1)におけるPCOが、2.75≦PCO≦3.20であることが好ましい。
かかる構成によれば、PCOを更に所定範囲とすることで、めっき密着性が更に向上する。
また、ソリッドワイヤは、下記式(2)
SR=50+15[Si]−200([Ti]+[Zr])+30[S]+2500[N]・・・(2)
で表わされるパラメータPSRが、30≦PSR≦70を満たすことが好ましい。
かかる構成によれば、Si、Ti、Zr、S、Nを所定の関係で規制することで、スラグ剥離性が更に向上する。
ここで、前記式(2)におけるPSRが、60≦PSR≦70であることが好ましい。
かかる構成によれば、PSRを更に所定範囲とすることで、スラグ剥離性が更に向上する。
また、ワイヤ全質量に対し、Mo:0.10〜0.30質量%、及びB:0.0020〜0.0060質量%を更に含有することが好ましい。
かかる構成によれば、Mo、Bを所定量含有することで、強度、靭性が更に向上する。
更に、ソリッドワイヤは、下記式(3)
vE=130−55.4([Si]/[Mn])−2180[S]−7.5[Mo]+3000[B]・・・(3)
で表わされるパラメータPvEが、100≦PvE≦135を満たすことが好ましい。
かかる構成によれば、Si、Mn、S、Mo、Bを所定の関係で規制することで、靭性が更に向上する。
前記不可避的不純物に含まれるOにおいて、ワイヤ全質量に対し、O:0.007質量%以下に抑制することが好ましい。
かかる構成によれば、Oを所定量以下に抑制することで、スラグ剥離性、靭性の劣化が抑制されると共に、高温割れの発生が抑制される。
また、ワイヤ全質量に対し、めっき層のCu:0.10〜0.29質量%であることが好ましい。
かかる構成によれば、銅めっきを構成するCuが十分な量であることから、適量のCuによりめっき層が適度に厚くなり、めっき層の厚さが薄すぎないため、通電性、耐錆性、伸線性及び意匠性が改善される。また銅めっきを構成するCuの量が多すぎないことから、適量のCuによりめっき層が適度に厚くなり、めっき層の厚さが厚すぎないため、めっきが剥がれることがない。
また、前記Siが、0.55〜0.65質量%、前記Mnが、1.80〜2.00質量%であることが好ましい。
かかる構成によれば、Si、Mnの上限値を更に低く設定することで、めっき密着性、靭性、スラグ剥離性、アーク安定性、スラグ発生量を更に良好に保つことができる。
本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤは、540N/mm級ワイヤとしての機械的性質が得られるものであり、十分な強度や靭性を有する。そして、スラグ剥離性に優れると共に、焼鈍時のスケール密着性が低く、めっき密着性が向上したものであるため、ワイヤ送給性に優れる。更には、スパッタやスラグの発生を抑制することができ、アーク安定性に優れ、溶接金属における割れやブローホール等が発生しない。
また、本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤは、式(2)におけるPSRを所定範囲とすることで、スラグ剥離性が更に優れたものとなり、式(3)におけるPvEを所定範囲とすることで、靭性が更に優れたものとなる。
本発明の実施例における溶接試験体を示す模式図であり、(a)は溶接試験体の平面図、(b)は溶接試験体の正面図である。 本発明の実施例における引張試験での試験片の採取位置を説明するための模式図である。 本発明の実施例におけるシャルピー衝撃試験での試験片の採取位置を説明するための模式図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ(以下、適宜、ソリッドワイヤという)は、ワイヤ全質量に対し、C、Si、Mn、Ti、Zr、めっき層のCu及び芯線中のCuの合計である全Cuを所定量含有し、不可避的不純物としてのS、N、Pを所定量以下に抑制し、その他の残部がFe及び不可避的不純物からなる。さらに、下記式(1)
CO=[Si]×[Ti]×10・・・(1)
で表されるパラメータPCOを、「2.75≦PCO≦11.00」としたものである。
またソリッドワイヤは、Mo、Bを所定量含有してもよく、更に前記不可避的不純物に含まれるO、Alを抑制してもよい。まためっき層のCuを規定してもよい。
以下、本発明のソリッドワイヤの成分添加理由及び組成限定理由について説明した後、本発明で規定するパラメータについて説明する。
<C:0.02〜0.08質量%>
Cは強度を確保するために重要な添加元素であるが、0.02質量%未満では大入熱・高パス間温度溶接時に必要な強度を確保できない。このため、C含有量は0.02質量%以上、好ましくは0.04質量%以上とする。一方、Cを過剰に添加すると高温割れが発生しやすくなる。また、Cを過剰に添加すると、アーク雰囲気中においてCO爆発現象によりスパッタ発生量も増加し、アーク安定性が劣化する。更に、C含有量が多いと、溶接金属の強度が過大となり、靭性が低下する。C含有量が0.08質量%を超えると、これらの影響が顕著になるため、上限値を0.08質量%とする。
<Si:0.55〜0.90質量%>
Siは、主として強度確保と脱酸による気孔欠陥防止のために添加する。また、Siの添加は、スラグ発生量を増大させるものの、スラグ剥離性は向上する。これらの効果はSi含有量が0.55質量%以上で有効である。Si含有量が0.55質量%未満では、めっき密着性は格段に向上するものの、大入熱・高パス間温度溶接時に必要な強度を確保できない。また、スラグ剥離性が向上せず連続溶接性が損なわれて、アーク安定性が劣化する。さらにブローホールが発生する。一方、Siを0.90質量%を超えて過剰に添加すると、焼鈍工程後にワイヤ表面に生じるスケール中のFeSiOを増加させると共に、サブスケールを緻密化させ、スケール層の密着性を増加させる。また、スラグ発生量が過剰となり、アーク安定性が劣化すると共に、靭性が低下する。このため、Si含有量の上限値を0.90質量%とする。また後記するように、式(1)によるパラメータPCOの範囲により、Ti含有量との関係によっては、Si含有量の上限値は更に低く設定され、好ましくは0.65質量%とする。
<Mn:1.80〜2.50質量%>
Mnは溶接金属の脱酸効果があり、また溶接金属の強度を上昇させ、高靭性な溶接金属を得る効果がある。建築鉄骨分野におけるロボットシステムでは最大ワイヤ突出し長さが長く設定され、シールド不良によるブローホール発生及び、強度と靭性の低下が起き易いので、ロボット用ワイヤとしてはMnを比較的多く添加し、これらの欠点を防止することができる。このためには、Mn含有量は少なくとも1.80質量%以上添加することが必要である。一方、Mn含有量が2.50質量%を超えると、スラグ発生量が増大すると共にスラグ剥離性が低下する。また、スパッタ発生量が増加する。その結果、アーク安定性も劣化する。Mn含有量の更に好ましい上限値は2.00質量%である。
<Ti:0.05〜0.15質量%>
Tiは高電流域でのアーク安定性を向上させる効果がある。一般的には、Tiを0.20質量%前後添加するワイヤが多い。本発明のワイヤ組成の特徴の一つは、Ti含有量が一般的なものよりも低いにもかかわらず、アーク安定性が従来なみ以上なことである。Ti含有量が0.05質量%未満では、アーク安定性が劣化し、スパッタ発生量が増加する。よって、Tiは0.05質量%以上、更に好ましくは0.09質量%以上添加することが必要である。一方、Ti含有量を高めると、焼鈍工程後にワイヤ表面に生じるスケール層が厚くなると共にスケールの密着性も増加する。その結果、酸洗いによるスケールの除去が困難となりめっき密着性が低下する。酸洗いによりスケールを除去するためには、Ti含有量を0.15質量%以下にする必要がある。また、スラグ剥離性が劣化し、更にスラグ発生量が過剰となり、アーク安定性が劣化する。なお、後記するように、Si含有量との関係によっては、Ti含有量の上限値は更に低く設定される。ロボット溶接の場合は、ワイヤ突出し長さやアーク長の変動が小さいため、定常的なアークの安定性よりもワイヤ送給性によるアーク安定性への影響が大きいため、Ti含有量を低くし、めっき密着性を高める方がアーク安定性は高い。この点からも低Tiが好ましい。また後記するように、式(1)によるパラメータPCOの範囲により、Si含有量との関係によっては、Ti含有量の上限値は更に低く設定される。
<Zr:0.05質量%以下>
ZrはTiと同様、高電流域でのアーク安定性を向上させる効果がある。一方で、Tiのように焼鈍工程後のワイヤ表面スケールに及ぼす影響は小さい。ただし、Zr含有量が0.05質量%を超えると、焼鈍工程後のスケール層が厚くなると共にスケールの密着性も増加する。従ってZr含有量の上限値を0.05質量%としなければならない。なお、前記効果をより発揮させるため、Zrは0.001質量%以上含有していることが好ましい。
<めっき層のCu及び芯線中のCuの合計である全Cu:0.10〜0.45質量%>
めっき層のCu及び芯線中のCuは過剰添加で高温割れを発生しやすくさせると共に、スラグの性質を変化させて剥離性を劣化させる。その結果、アーク安定性が劣化する。なお、ワイヤ素線にCuを積極的に添加させる必要は無く、通電性、耐錆性、伸線性及び意匠性改善のために、ワイヤ表面に施される銅めっき中のCu分として添加されるものが殆どである。全Cu含有量が0.45質量%を超えると、高温割れ及びスラグ剥離性及びアーク安定性が問題となるので、全Cu含有量の上限値は0.45質量%とする。なお、Cuは線材に含まれるものと、銅めっき分とを合計した値とする。そのため、全Cu含有量はめっき層のCu含有量以上である必要があり、全Cu含有量の下限値は、0.10質量%とする。0.10質量%未満では、通電性が悪く、アーク不安定が生じ、スパッタが増加する。
<めっき層のCu:0.10〜0.29質量%>
前記Cuの規定理由の通り、ワイヤ中のCuはワイヤ表面に施される銅めっきとして添加されるものが殆どである。このため、銅めっきの量を規定することが好ましい。めっき層のCu含有量が0.10質量%未満のめっき量では、めっき膜の膜厚が薄くなり通電性が低下し、アーク不安定が生じやすく、スパッタが増加しやすくなる。従って、めっき層のCu含有量の下限値を0.10質量%とすることが好ましい。一方、めっき層のCu含有量が0.29質量%を超えると、銅めっきが剥がれやすくなり、送給経路中に銅粉が溜まりやすくなるため、ワイヤ送給性が劣化しやすくなる。従って、めっき層のCu含有量の上限値を0.29質量%とすることが好ましい。
<S:0.007質量%以下>
Sは溶融池の表面張力を低下させ、凝固時の物理的凹凸を減少させて溶接金属の表面を滑らかにする効果がある。これにより、スラグ剥離性を向上させる事ができる。一方で、所定量以上の含有で顕著にスラグ剥離性が向上するが、靱性低下の欠点が著しく、また多量に含有すると、高温割れも生じる。このように、Sはその欠点への影響が極めて大きいため、抑制することが必要である。不可避的不純物として、S含有量を0.007質量%以下に抑制すると、これらの欠点は生じないので、0.007質量%を上限値とする。なお、前記のような効果はあるが、本発明ではSが添加されていなくとも本発明の効果を実現できるので、Sは不可避的不純物として設定する。
<N:0.007質量%以下>
鋼には不可避的不純物としてNが混入しているが、Nは溶接金属中に固溶して溶接金属の強度を高める効果がある。また、溶接金属の物性を変化させることにより、スラグ剥離性を向上させる事ができる。この原因は明確にはわかっていないが、NがSi、Tiと反応して、スラグ中に高融点化合物であるSi、TiNの核を生成するため、スラグと溶接金属との凝固温度の差が大きくなるためであると推測される。その一方で、溶接金属を脆化させると共にブローホール発生の原因となる元素でもある。このため、N含有量は低くする必要がある。従って、N含有量は0.007質量%以下としなければならない。なお、前記のような効果はあるが、本発明ではNが添加されていなくとも本発明の効果を実現できるので、Nは不可避的不純物として設定する。
<P:0.020質量%以下>
Pは高温割れを発生させる主要元素の一つであり、不可避的不純物である。更に靭性を低下させるため、Pを積極的に添加する必要性は無い。従って、高温割れや靭性の低下が問題とならない上限値として、P含有量の上限値を0.020質量%に設定する。一方、ワイヤの原線を溶製する製鋼段階でPを完全に除去するためには長時間を要するため、生産性向上の観点から、P含有量は0より大きい。
<Mo:0.10〜0.30質量%、及びB:0.0020〜0.0060質量%>
Moは溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属部の強度及び靱性を更に向上させる効果がある。高入熱・高パス間温度の溶接において、この効果を得るためには、Moを0.10質量%以上添加する必要がある。一方、0.30質量%を超えて添加すると、溶接金属のミクロ組織がマルテンサイト化し、靱性が低下してしまう。従って、Moを添加する場合には、Mo含有量は0.10質量%以上0.30質量%以下とする必要がある。
また、Bは少量の添加で溶接金属の結晶粒の微細化による強度と靱性を更に向上させる効果がある。B含有量が0.0020質量%未満では、溶接金属の強度と靱性の向上効果が現れない。一方、0.0060質量%を超えて過剰に添加すると、高温割れが発生しやすくなる。従って、Bを添加する場合には、B含有量は0.0020質量%以上0.0060質量%以下とする必要がある。なお、Mo、Bは両方添加してもよいが、いずれか一種を添加することとしてもよい。
また、含有時に同様の効果を持つ元素にNb、V、Cr、Niがある。これらの元素も少量添加で結晶粒を微細にし、靱性を向上させる。しかし、Nb、Vは0.03質量%を超えて、Cr、Niは0.3質量%を超えて添加すると、スラグ発生量の増加とスラグ剥離性の低下が起こり、アークが不安定化する。更に溶接金属の低靱性化をもたらす。そのため、Nb、V含有量は0.03質量%を上限値、Cr、Ni含有量は0.3質量%を上限値とする。
<O:0.007質量%以下>
スラグは酸化物であるため、O含有量が増加すると化学反応によって生じるスラグ発生量も増加し、更にO含有量が過剰になるとスラグ剥離性が劣化する。また、O含有量が増加すると、溶接金属部中の介在物が増加するため、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、溶接金属部の靱性が低下しやすくなる。よって、O含有量は0.007質量%以下とすることが好ましい。だだし、前記の悪影響を及ぼさない範囲であれば、不可避的不純物としての0.007質量%を超えた含有は許容される。一方、ワイヤの原線を溶製する製鋼段階でOを完全に除去することは事実上不可能であるため、生産性向上の観点から、O含有量は不可避的に0より大きい。
また、不可避的不純物として混入するAlも酸化物形成元素であるため、低く規定する必要がある。Alはその含有により、スパッタ発生量を増加させ、また溶接金属部の靱性も低下させる。従って、Alは積極的に排除することが好ましく、0.01質量%以下とすることが好ましい。だだし、前記の悪影響を及ぼさない範囲であれば、不可避的不純物としての0.01質量%を超えた含有は許容される。なお、不可避的不純物以外にはAlは含有させない。
<残部:Fe及び不可避的不純物>
ソリッドワイヤの成分は前記の他、残部がFe及び不可避的不純物からなるものである。不可避的不純物としては、前記したS、N、P、O、Al等が挙げられる。
<式(1):PCO=[Si]×[Ti]×10 (2.75≦PCO≦11.00)>
SiとTiは共に脱酸元素であり、焼鈍によるスケールの主要生成元素である。本発明では、Siと共にTiの添加量を調整することでスケール密着性の低下を達成しているため、夫々単独で規定すること以外に、両元素を相互に相関をもって規制する必要がある。
本発明におけるSi、Tiの含有量の範囲では、2.75≦PCO≦13.50であるが、11.00<PCOの範囲では、Si及びTiがいずれも本発明の規定範囲内でも、両元素とも含有量が高いため、焼鈍時のスケール密着性が高くなり、めっき密着性を低下させることを本願発明者等は知見した。従って、相関パラメータPCOを[Si]×[Ti]×10と定義した場合、このPCOを11.00以下とすることが必要である。
更には、PCOの上限値を3.20とし、下限値は、Si、Tiの下限値から2.75であることから、2.75≦PCO≦3.20とすることが好ましい。PCOをこの範囲とすることで、更にめっき密着性が向上する。
本発明においては、更に以下の条件を満たすことが好ましい。
すなわち、下記式(2)
SR=50+15[Si]−200([Ti]+[Zr])+30[S]+2500[N]・・・(2)
で表わされるパラメータPSRが、30≦PSR≦70を満たすことが好ましい。
また、 下記式(3)
vE=130−55.4([Si]/[Mn])−2180[S]−7.5[Mo]+3000[B]・・・(3)
で表わされるパラメータPvEが、100≦PvE≦135を満たすことが好ましい。
<式(2):PSR=50+15[Si]−200([Ti]+[Zr])+30[S]+2500[N] (30≦PSR≦70)>
Si、Ti、Zrといった脱酸元素はスラグの主要構成元素であり、スラグ剥離性に大きく関係してくる。また、S、Nは溶接金属の物性に大きな影響を及ぼし、スラグ剥離性を大きく左右する。そのため、これらの元素を夫々単独で規定すること以外に、各元素を相互に関係をもって規制することが好ましい。そこで、後記するスラグ剥離性評価方法で評価したスラグ剥離率を独立変数、ワイヤ中の各元素の成分を従属変数とする重回帰分析を行い、得られた回帰係数と定数から相関パラメータを求めた。この相関パラメータをPSRとすると、「50+15[Si]−200([Ti]+[Zr])+30[S]+2500[N]」で表される。この式の値が「30以上70以下」の範囲を満たすことで、スラグ剥離性がより向上する。なお、Mnも脱酸元素として知られているが、本成分系での実験結果から、スラグ剥離性への寄与度が極めて微小であることが判明したため除外している。PSR<30の範囲では、前記範囲を満たす場合に比べてスラグの粘性が高まり、溶融池の表面張力が過度に低下するため、スラグが局部的に厚くなり、スラグ剥離性の更なる向上が得られない。一方、70<PSRの範囲では、前記範囲を満たす場合に比べてスラグ発生量が多くなり、スラグ剥離性の更なる向上が得られない。従って、PSRの範囲を30以上70以下とすることが好ましい。
更には、PSRの下限値を、60とし、60≦PSR≦70とすることが好ましい。PSRをこの範囲とすることで、更にスラグ剥離性が向上する。
<式(3):PvE=130−55.4([Si]/[Mn])−2180[S]−7.5[Mo]+3000[B] (100≦PvE≦135)>
本発明は、高入熱・高パス間温度の溶接条件においても高靱性の溶接金属部を得ることを一つの目的としており、特に溶接金属中にNが混入した場合であっても高靱性を得られることが好ましい。そこで、靱性の評価として行ったシャルピー衝撃試験値を独立変数、ワイヤ中の元素で溶接金属の靱性に大きく影響する元素を従属変数として重回帰分析を行い、靱性評価パラメータを導出することで、より好ましい靱性が得られる範囲を規定した。この靱性評価パラメータをPvEとすると、「130−55.4([Si]/[Mn])−2180[S]−7.5[Mo]+3000[B]」で表される。本発明における[Si]、[Mn]、[S]、[Mo]、[B]の成分範囲では、およそ、91≦PvE≦135であるが、PvE<100の範囲では、各元素がいずれも本発明の規定範囲内であっても、溶接金属中にNが混入した場合、靱性の更なる向上が得られない。そのため、PvEを100以上の範囲に規定することが好ましい。
次に、本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤの製造方法について説明する。
本発明のソリッドワイヤは、常法により製造することができる。例えば、まず、転炉あるいは電気炉等を用いて、前記した成分組成を有する溶鋼を溶製し、得られた溶鋼から連続鋳造や造塊法等によって鋼材(ビレット等)を製造する。次に、製造した鋼材を加熱した後、熱間圧延(押出圧延)を施し、更に乾式の冷間圧延(冷間伸線)を施して、例えば、φ5.5mmの溶接用原線(鋼素線とも言う)を製造する。次いで、この溶接用原線を必要に応じて焼鈍や酸洗を実施して伸線加工を行い、最終ワイヤ径(例えば1.2mm)を有するソリッドワイヤとして製造する。
以下、本発明の効果を説明するために、本発明の範囲に入る実施例のソリッドワイヤと、本発明の範囲から外れる比較例のソリッドワイヤとについて、溶接試験を実施した結果について説明する。
まず、電気炉にて、溶鋼を造塊し、押出圧延、冷間伸線し、φ5.5mmの溶接用原線を製造後、この溶接用原線を伸線してφ2.4mmとした。次に、中間焼鈍及び銅めっき処理して中間伸線とし、更に仕上伸線し、スキンパス及び潤滑油を塗布して、最終ワイヤ径φ1.2mmの表1、2に示す化学組成(質量%)を有するソリッドワイヤを製造した。
ソリッドワイヤの化学組成及びパラメータを表1、2に示す。なお、表1、2の組成で、「<0.***」としているのは、組成の分析結果が一般的な分析精度の下限値未満の値であることを示し、工業的には含有していないものである。よって、パラメータの計算においては「0」として計算する。また、「Cu」はCuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cuの含有量であり、「M.Cu」はめっき層のCuの含有量である。「Al」は不可避的不純物として含有するものである。パラメータについては、「PCO=[Si]×[Ti]×10」、「PSR=50+15[Si]−200([Ti]+[Zr])+30[S]+2500[N]」、「PvE=130−55.4([Si]/[Mn])−2180[S]−7.5[Mo]+3000[B]」である。なお、これらパラメータの計算結果の値は、小数点以下を適宜、四捨五入した値を記している。そして本発明の範囲を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。
なお、請求項1に規定した成分である、C、Si、Mn、Ti、Zr、S、N、P、めっき層のCu及び芯線中のCuの合計である全Cuの含有量が、請求項1に規定した範囲を満たし、かつ「2.75≦PCO≦11.00」を満たすものは、本発明の範囲に含まれるものである。
また、請求項5に規定した成分である、Mo、Bを更に含有するものについては、請求項1の成分とあわせ、C、Si、Mn、Ti、Zr、S、N、P、めっき層のCu及び芯線中のCuの合計である全Cu、Mo、Bの含有量が、請求項1及び請求項5に規定した範囲を満たし、かつ「2.75≦PCO≦11.00」を満たすものは、本発明の範囲に含まれるものである。
すなわち、これらの条件を満たせば、PSR、PvEについては、それぞれ「30≦PSR≦70」「100≦PvE≦135」を満たさなくとも、本発明の範囲に含まれるものであり、それぞれ前記範囲を満たせば、より好ましいというものである。
Figure 0005480705
Figure 0005480705
このようにして製造したNo.1〜56の各ソリッドワイヤに対して、鉄骨造のダイヤフラム/角型鋼管継手を模擬し、図1に示す開先形状を持つ溶接試験体を用いて、市販の鉄骨建築用ロボット溶接システムを使用して表3に示す溶接条件で溶接した。なお、図1は溶接試験体を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。図1において、符号1はダイヤフラム、符号2は角型鋼管、符号3は拘束板、符号4はエンドタブ、符号5は裏当金、符号6はパス間温度測定位置である。また、表3は溶接条件を示し、表4はダイヤフラム1、角型鋼管2及び裏当金5の鋼板の組合せを示し、表5はダイヤフラム1、角型鋼管2及び裏当金5の化学組成(質量%)を示す。表3〜5を以下に示す。
Figure 0005480705
Figure 0005480705
Figure 0005480705
このようにして製造したソリッドワイヤの各特性について以下の評価を行った。各特性の評価方法については以下の通りである。
<めっき密着性>
めっき密着性については、ワイヤを直径約1.2mmの棒に巻きつけ、ワイヤを強制的に湾曲させた際のめっきの剥離度を官能評価した。めっき剥離が認められなかったもの、及び、鉄地の露出が認められなかったものを合格(前者を◎、後者を○)、めっき剥離が認められたものを不合格(×)とした。
<スラグ剥離性>
スラグ剥離性については、下記の方法により、表4に示す角型鋼管の板厚が薄い条件1でのみ評価を行った。なお、条件1でスラグ剥離性が良好であった溶接ワイヤは条件2でも同じく良好であることを確認している。まず、溶接完了後、図1(a)に示す一般的なパス間温度測定位置6における鋼板表面温度が150℃まで冷却した時点でビード外観を写真撮影した。次に、そのビード外観写真を(a)スラグが自然剥離した部分と(b)スラグが付着したままの部分に2値化した。そして画像解析ソフトにより夫々のピクセルの合計を計算し、(a)/((a)+(b))×100でスラグ剥離率(%)を求めた。スラグ剥離率が30%以上のものを合格(○)、30%未満のものを不合格(×)とし、表中、(○)、(×)を数値の右側に記した。
<スラグ発生量>
スラグ発生量については、表4に示す角型鋼管の板厚が薄い条件1でのみ評価を行った。前記のビード外観写真撮影時に自然剥離したものも含めて全てのスラグを回収し、質量を測定することで評価した。このスラグ発生量が12g以下のものを合格(○)、12gを超えるものを不合格(×)とし、表中、(○)、(×)を数値の右側に記した。
<強度及び靭性>
強度については、溶接金属の引張試験での引張強さにより評価した。靭性については、シャルピー衝撃試験での吸収エネルギーにより評価した。
溶接金属の引張試験とシャルピー衝撃試験は、表4に示す角型鋼管の板厚が厚い条件2において、図2、3に示すように、JIS Z3111のA2号の引張試験用試験片(平行部直径6mm)7及びシャルピー衝撃試験用標準試験片(10mm角)8を、夫々図2及び図3に示す位置より採取し、これらを各試験に供することにより行った。なお、引張試験は室温の20℃の条件で行った。シャルピー衝撃試験は0℃の条件で行い、3本の平均を評価値とした。強度については、引張強さが490MPa以上のものを合格(○)、490MPa未満のものを不合格(×)とし、靭性については、シャルピー吸収エネルギーが平均100J以上のものを合格(○)、100J未満のものを不合格(×)とし、表中、(○)、(×)を数値の右側に記した。
<アーク安定性>
アーク安定性の評価は溶接中の官能評価によるもので、特にスラグがアークの発生を邪魔し、乱すことが無かったか、又は溶滴移行が乱れてスパッタを多量に発生することがなかった場合を合格として、その頻度が少ない場合を◎、多い場合を○とし、ワイヤ送給不良に起因するアークの乱れが生じた場合を不合格(×)とした。
<スパッタ発生量>
スパッタ発生量については、表4に示す条件1での溶接終了後にシールドノズルに付着したスパッタを回収し、質量を測定することで評価した。スパッタ発生量が8g以下のものを合格(○)、8gを超えるものを不合格(×)とし、表中、(○)、(×)を数値の右側に記した。
<割れ及びブローホール>
割れ及びブローホールについては、高温割れ及びブローホールの発生の有無を超音波探傷試験にて調べた。割れについては、割れの発生が認められなかったものを合格、割れの発生が認められたものを不合格とし、ブローホールについては、ブローホールの発生が認められなかったものを合格、ブローホールの発生が認められたものを不合格とした。
前記評価を総括して、次のように点数付けを行い、総合評価を判定した。各評価において合格範囲のうち特に、めっき密着性が◎、スラグ剥離率が60%以上、スラグ発生量が6.0g以下、引張強さが580MPa以上、シャルピー衝撃試験値の平均が140J以上、アーク安定性が◎、スパッタ発生量が5.0g以下をそれぞれ2点とし、それ以外を1点とした。これらの評価点の合計が12点以上を総合評価◎、7〜11点を〇とした。また、評価項目のうち1つでも合格圏外であれば△、割れ及びブローホールのうちの1つ以上が発生したものを×と判定した。そして、総合評価が◎または○のものを総合評価で合格とした。
これらの結果を表6、7に示す。
Figure 0005480705
Figure 0005480705
表6に示すように、本発明の実施例であるNo.1〜30は、各成分の組成範囲が本発明の範囲内にあるので、全ての評価において良好であり、優れた溶接作業性と溶接金属の優れた機械的性質が得られている。
一方、表7に示すように、比較例であるNo.31〜56は本発明の範囲から外れるものであり、以下の結果となった。
No.31はCが過少であり、溶接金属の強度が不足した。No.32はCが過剰であり、溶接金属に高温割れが発生し、強度が過剰で低靭性化した。また、スパッタも多く、アーク安定性が悪かったため、連続溶接性も劣化した。No.33はSiが過少であり、溶接金属の強度が不足し、スラグ剥離性も悪く、スラグが邪魔でアーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。また、脱酸不足でブローホールが発生した。
No.34はSiが過剰であり、No.35はSi、Moが過剰である。よってこれらはワイヤ表面のスケール層が厚くなるとともに密着性が増加し、めっき工程後のめっき密着性が損なわれた。また、溶接金属の靭性が不足した。さらに、スラグ発生量が多く、アーク安定性を損ない、連続溶接性が劣化した。No.36はMnが過少であり、溶接金属の強度が不足した。また、靭性が低く、脱酸不足でブローホールも発生した。No.37はMn、Bが過剰であり、スラグ発生量が多くスラグ剥離性も悪かった。また、スラグが邪魔でアーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。さらにスパッタ発生量が多く、高温割れも生じた。
No.38はTiが過少であり、スパッタ発生量が多く、アーク安定性が劣り、シールドノズル詰まりが生じやすいため、連続溶接性が劣化した。No.39はTiが過剰であり、スケール層の密着性が増加し、めっき密着性が損なわれた。また、スラグ発生量が多くスラグ剥離性も悪かった。また、スラグが邪魔でアーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。No.40はZrが過剰であり、めっき密着性が劣化した。また、Mo、Bが過剰であり、靭性が低くなり、高温割れも発生した。No.41はSが過剰であり、靱性が低下すると共に、溶接金属に高温割れが発生した。No.42はNが過剰であり、低靱性化をもたらした。また、ブローホールも発生した。No.43はPが過剰であり、靭性が低くなり、高温割れも発生した。
No.44はCuが不足しており、同時にめっき層のCuも不足している。従って、通電不良となり、微少融着が多発してアークが不安定化し、スパッタも増加した。
また、Mo、Bが過剰であり、靭性が低くなり、高温割れも発生した。No.45はCuが過剰であり、高温割れが発生すると共に、スラグ剥離性も悪く、スラグが邪魔でアーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。No.46はSi、Tiの各元素は、夫々単独で本発明の規定範囲を満足しているが、パラメータPCOが本発明の規定範囲を超えている。このため、スケール層の密着性が増加し、めっき密着性が低下した。
No.47はTiが下限値未満であり、スパッタが極めて多く、アーク安定性が悪かった。またZrが過剰であり、めっき密着性が低下した。また、Mo、Bが過剰であり、靭性が低くなり、高温割れも発生した。No.48はSiが下限値未満であり、Tiが過剰である。そのため、ワイヤ表面のスケール層が薄く、スケールの密着性が低下し、めっき密着性は向上したが、スラグ発生量が多くスラグ剥離性も悪く、アーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。更に溶接金属の強度が不足し、また脱酸不足のためブローホールが発生した。No.49はCが過剰であり、Mnが過少であり、Tiが下限値未満である。Mn不足により、強度及び靭性が不足し、脱酸不足でブローホールが発生した。C過剰により高温割れが発生し、更にTiの下限値未満も相乗してスパッタが極めて多く、アーク安定性が悪かった。
No.50はS、P、Cu、Moが夫々過剰である。Cuが過剰なため、スラグ剥離率が低下し、アーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。またS、P、Moの過剰が相乗し、靱性が低下した。更にCu、P、Sが過剰なため、高温割れが発生した。No.51はSiが過少であり、Mnが過剰である。Mnが過剰なため、脱酸不足による強度不足及びブローホール発生は無かったが、スパッタ発生量が多かった。また、Siの低下によりめっき密着性は向上したが、過剰なMnとも相まって、スラグ発生量が多くスラグ剥離性も悪く、アーク不安定となり、連続溶接性が劣化した。
No.52はSiとSが過剰であり、Tiが過少である。Siが過剰のため、めっき密着性を損なう上、スラグ発生量が多く、アーク安定性を損なった。その結果、連続溶接性が劣化した。また、過剰なSとも相まって溶接金属の靭性が不足した。更にTi不足によりスパッタが多発し、S過剰のため、高温割れも発生した。No.53はSiが不足し、Zr、Nが過剰である。Siの不足により、溶接金属の強度が不足し、スラグ剥離性も悪かった。従って、アーク安定性を阻害し、連続溶接性が劣化した。また、Zrが過剰なため、めっき密着性が損なわれ、Nが過剰なため、靱性も低かった。更に脱酸不足のためブローホールも発生した。また、Bが過剰であり、高温割れが発生した。
No.54、55はSiが過剰であり、ワイヤ表面のスケール層が厚くなるとともに密着性が増加し、めっき工程後のめっき密着性が損なわれた。また、過剰なSとも相まって溶接金属の靭性が不足した。さらに、スラグ発生量が多く、アーク安定性を損ない、連続溶接性が劣化した。更にSが過剰であり、靱性が低下すると共に、溶接金属に高温割れが発生した。No.56はTiが過剰であり、スケール層の密着性が増加、めっき密着性が損なわれた。また、スラグ発生量も多かった。従って、アーク安定性を阻害し、連続溶接性が劣化した。更にSも過剰であるため、スラグ剥離性は損なわれなかったが、靱性が低下すると共に、溶接金属に高温割れが発生した。
以上、本発明について実施の形態及び実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することが可能であることはいうまでもない。
1 ダイヤフラム
2 角型鋼管
3 拘束板
4 エンドタブ
5 裏当金
6 パス間温度測定位置
7 引張試験用試験片
8 シャルピー衝撃試験用標準試験片

Claims (9)

  1. ワイヤ全質量に対し、C:0.02〜0.08質量%、Si:0.55〜0.90質量%、Mn:1.80〜2.50質量%、Ti:0.05〜0.15質量%、Zr:0.05質量%以下、めっき層のCu及び芯線中のCuの合計である全Cu:0.10〜0.45質量%を含有し、S:0.007質量%以下、N:0.007質量%以下、P:0.020質量%以下に抑制し、その他の残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式(1)
    CO=[Si]×[Ti]×10・・・(1)
    で表されるパラメータPCOが、2.75≦PCO≦11.00
    を満たすことを特徴とする炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  2. 前記式(1)におけるPCOが、2.75≦PCO≦3.20
    であることを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  3. 下記式(2)
    SR=50+15[Si]−200([Ti]+[Zr])+30[S]+2500[N]・・・(2)
    で表わされるパラメータPSRが、30≦PSR≦70を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  4. 前記式(2)におけるPSRが、60≦PSR≦70
    であることを特徴とする請求項3に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  5. ワイヤ全質量に対し、Mo:0.10〜0.30質量%、及びB:0.0020〜0.0060質量%を更に含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  6. 下記式(3)
    vE=130−55.4([Si]/[Mn])−2180[S]−7.5[Mo]+3000[B]・・・(3)
    で表わされるパラメータPvEが、100≦PvE≦135を満たすことを特徴とする請求項5に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  7. 前記不可避的不純物に含まれるOにおいて、ワイヤ全質量に対し、O:0.007質量%以下に抑制しことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  8. ワイヤ全質量に対し、めっき層のCu:0.10〜0.29質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
  9. 前記Siが、0.55〜0.65質量%、前記Mnが、1.80〜2.00質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
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