JP4768310B2 - ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、強度が520N/mm級以下の炭素鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用されるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤに関する。
二酸化炭素(CO)ガスをシールドガスとするガスシールドアーク溶接法には能率性が高いという利点があり、近時、建築鉄骨分野においては、この炭酸ガスシールドアーク溶接法が主として使用されている。また、その溶接品質面に関しては、耐震性向上を主眼とし、溶接継ぎ手部の性能向上を図るために、1997年のJASS6改訂及び1999年の建築基準法改定において、溶接時の入熱・パス間温度に上限管理が規定されている。
この動向を受け、溶接ワイヤにおいても、大入熱・高パス間温度対応ワイヤが開発され、1999年に540N/mm級ワイヤとしてJIS(Japanese Industrial Standards:日本工業規格)に規定された。このワイヤを使用すると、例えば490N/mm級鋼板に対しては、溶接時の最大入熱が40kJ/cm、パス間温度が350℃まで許容され、また、520N/mm級鋼板に対しては、溶接時の最大入熱が30kJ/cm、パス間温度が250℃まで許容される。これ以後、今日まで、大入熱・高パス間温度条件下において従来の溶接ワイヤよりも優れた機械的性能が得られることから、この540N/mm級ワイヤが急速に普及している。特に、ロボット溶接とは異なり、人手が必要であり、入熱及びパス間温度の管理が困難である半自動溶接においては、熱管理の許容範囲が広い540N/mm級ワイヤの普及は目覚ましい。
これまでに、炭酸ガスシールドアーク溶接用大電流・高パス間温度対応ワイヤとして、従来よりもSi、Mn及びTi等の脱酸成分を多く含有し、且つMo、B、Cr、Al、Nb及びV等を必要に応じて添加した溶接ワイヤが開発されている(例えば、特許文献1乃至13参照)。
特開平10−230387号公報 特開平11−90678号公報 特開2000−317678号公報 特開2001−287086号公報 特開2002−321087号公報 特開2002−346789号公報 特開2002−79395号公報 特開2003−119550号公報 特開2003−136281号公報 特開2002−103082号公報 特開2004−122170号公報 特開2004−237361号公報 特開平11−239892号公報
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。鉄骨建築分野においてパス間温度管理が導入された当初は、規定の温度に到達すると、冷却するまでの間待ち時間が発生していたため、溶接部にスラグが堆積しても作業者がチッパー等の工具によりスラグ除去を行うことができたが、近時、1人の溶接作業者が多数の溶接継手を同時に担当し、溶接継手が規定の温度に到達すると、他の溶接継手に移動して溶接を行い、先に溶接した継手はその間に冷却されるという手法が開発され、普及してきている。一方、特許文献1乃至13に記載されている溶接ワイヤのように、従来の540N/mm級の炭酸ガス溶接用大電流・高パス間温度対応ワイヤにおいては、スラグ剥離性は考慮されていない。このため、従来の溶接ワイヤを使用して炭酸ガスシールドアーク溶接した場合、作業者の待ち時間がなくなると、従来認識されていなかった大電流・高パス間温度対応ワイヤにおける劣悪なスラグ剥離性により、溶接効率が低下するという問題点がある。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、強度が520N/mm級以下の炭素鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接した際に、高効率で且つ溶接部の機械的性能が優れたガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを提供することを目的とする。
本発明に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、鋼芯線の周面にCuめっき層が形成され、鋼材を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用されるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0035乃至0.0160質量%並びにCuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu:0.15乃至0.45質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn含有量とSi含有量との差が1.10質量%以下、Mn及びMoの総含有量が2.20質量%以下、S及びOの総含有量が0.0290質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Nが0.0080質量%以下に規制されていることを特徴とする。
本発明においては、ワイヤ中のMn含有量、Mo含有量及びTi含有量の上限値並びにS含有量の下限値を夫々規定すると共に、O含有量を最適化し、更に、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])、並びにS及びOの総含有量([S]+[O])の上限値を夫々規定しているため、スラグ剥離性が向上し、半自動溶接における溶接効率を高めることができる。また、各成分の含有量を上述の如く規定しているため、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質を良好な状態に維持できる。更に、Ti含有量の下限値を規定しているため、アークが安定してスパッタ発生量が少なくなると共に、スラグが適性量となり良好なシールド性が得られる。
このガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、更に、B:0.0005乃至0.0050質量%を含有していてもよい。これにより、溶接金属部の強度及び靱性をより向上させることができる。
また、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下含有することもできる。これにより、溶接金属部の強度を更に向上させることができる。
一方、本発明のワイヤは、Mn含有量を1.85質量%以下としてもよい。これにより、強度及び靱性をより高めつつ、スラグ剥離性を向上させることができる。また、S含有量を0.005質量%以上とすることもできる。これにより、スラグ剥離性を更に向上させることができる。更に、Mo含有量は0.22質量%以下でもよい。これにより、更にスラグ剥離性を高めることができる。更にまた、Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu含有量を0.30質量%以下にすることもできる。これにより、スラグ剥離性を高め、且つ耐割れ性を向上させることができる。
更にまた、ワイヤ表面に、前記ワイヤ10kgあたりの質量で、MoSを0.01g/10kg乃至1.00g/10kg付着させてもよい。これにより、スラグ剥離性をより向上させることができる。
本発明によれば、ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの組成を上述の如く規定しているため、強度が520N/mm級以下の炭素鋼を大入熱・高パス間温度条件で炭酸ガスシールドアーク溶接する際のスラグ剥離性が改善され、半自動溶接における溶接効率を向上させることができると共に、機械的性能が優れた溶接金属部を得ることができる。
以下、本発明の実施の形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤについて、添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明者等は、上述の問題点を解決するために、溶接スラグに関する研究を重ね、スラグの生成量及びスラグ剥離性に及ぼす影響要因を明らかにし、以下に示す知見を得た。溶接スラグの生成量は、強脱酸成分、即ち、Mn及びTiの含有量と強い関係があり、これらの含有量が増大すると、スラグ生成量も増加する。また、スラグ剥離性は、溶融状態におけるスラグ/溶接金属間界面エネルギー、凝固後のスラグ自体の強度、溶接金属表面の凹凸、即ち、物理的高低差及びその高低部位生成頻度と強い関係があり、Mn及びMoの増加、S不足又はS過剰により剥離性は低下する。これらは従来知られていなかった知見である。そして、これらの影響因子は、従来の高張力鋼用溶接ワイヤ、低温鋼用溶接ワイヤ及び高電流用溶接ワイヤにおいて、スラグ量増大及びスラグ剥離性低下が避けられなかった要因であると考えられる。
一方、上述の知見に基づき、スラグ生成量の低減及びスラグ剥離性能の向上について過度に追求すると、溶接金属部における強度及び靱性等の機械的性能の低下、高電流溶接時のアーク安定性の低下、並びにスパッタ量の増大といった問題が生じやすくなることも明らかになった。また、本発明者等は、ワイヤ成分以外の要因として、ワイヤ送給が不安定になると、溶融池の形状が乱れて生成するスラグの厚さが不均一となり、スラグ剥離性が劣化することも見出した。
なお、半自動溶接は個人間の技量の差が大きく、技量の低い溶接者は極めて高い溶接電流、過剰なウィービング、又は1パス当たりの溶着量を過剰に増やしてしまう等の要因により、溶融池のシールド性を悪化させ、ブローホール等の気孔欠陥を発生させてしまうことがある。このため、スラグ量を過剰に減らしてしまうと、溶融池がスラグにより保護されずにガス雰囲気に曝され、シールド性が低下するため、より耐気孔欠陥性を劣化させてしまうことになる。
本発明者等は上述の各要素を考慮し、半自動溶接に適した大入熱・高電流溶接用として最適な溶接ワイヤ、即ち、(1)スラグ剥離性が良好であり、(2)スラグ発生量が適切であり、(3)入熱量が40kJ/cmと大きく、パス間温度が350℃と高く、溶接金属部の冷却速度が小さくなる溶接条件においても、溶接金属部の機械的性質が490乃至520N/mm級鋼板用として優れており、更に、ノズル閉塞により連続溶接が阻害されることを防止するために、(4)スパッタ発生量が少ないガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを開発した。
先ず、本発明の第1の実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ(以下、単にワイヤともいう)について説明する。本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、鋼芯線の周面にCuめっき層が形成されたソリッドワイヤであり、490N/mm級鋼板に対して、最大入熱が40kJ/cm、最高パス間温度が350℃の条件で炭酸ガスシールド溶接する際、又は、520N/mm級鋼板に対して、最大入熱が30kJ/cm、最高パス間温度が250℃の条件で炭酸ガスシールド溶接する際に使用されるワイヤである。このワイヤは、例えば、半自動溶接に使用される。
本実施形態のワイヤの組成は、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0025乃至0.0160質量%並びにCuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu:0.15乃至0.45質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である。また、Mn含有量([Mn])とSi含有量([Si])との差([Mn]−[Si])が1.10質量%以下であり、Mn及びMoの総含有量、即ち、Mn含有量([Mn])とMo含有量([Mo])との和([Mn]+[Mo])が2.20質量%以下であり、且つ、S及びOの総含有量、即ち、S含有量([S])とO含有量([O])との和([S]+[O])が0.0290質量%以下である。更に、不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制されると共に、Nが0.0080質量%以下に規制されている。
また、本実施形態のワイヤの組成において、好ましくは、Mn:1.85質量%以下、S:0.005質量%以上、Mo:0.22質量%以下、O:0.0035質量%以上、全Cu:0.30質量%以下である。
更に、ワイヤの表面には、MoSがワイヤ10kgあたり0.01乃至1.00g付着している。即ち、MoS付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgである。このMoSは、例えば塗布によってワイヤ表面に被着されたものである。
以下、本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおける数値限定理由について説明する。
C:0.020乃至0.080質量%
炭素(C)は、溶接金属の焼入れ性を向上し、溶接金属部の強度を確保するために重要な添加元素ではあるが、C含有量が0.020質量%未満の場合、大入熱・高パス間温度溶接時に必要な強度が確保できない。一方、Cを過剰に添加すると溶接金属部に高温割れが発生しやすくなり、C含有量が0.080質量%を超えると高温割れの発生が顕著になる。よって、C含有量は0.020乃至0.080質量%とする。
Si:0.75乃至0.95質量%
珪素(Si)は、スラグ生成量及びスラグ剥離性には直接的には大きな影響を及ぼさないが、主として強度確保、脱酸による気孔欠陥の発生防止及びなじみ性向上のために添加する。これらの効果は、0.75質量%以上の添加で有効になる。一方、Siを0.95質量%を超えて過剰に添加すると、溶接金属部の靱性が低下する。よって、Si含有量は0.75乃至0.95質量%とする。但し、Mn含有量に比べてSi含有量が低いと、スラグ組成が変化してスラグ剥離性が劣化するため、Mn含有量が多い場合は、Mn含有量に応じてSi含有量の下限値を高くする必要がある。
Mn:1.60乃至1.90質量%
マンガン(Mn)は、脱酸を促進すると共に、溶接金属部の強度及び靱性を向上させる効果があるが、その一方でスラグ剥離性を著しく劣化させる元素でもある。従来の一般的な大入熱用ワイヤはMnを多く含有しているが、本発明においては、Mn含有量を従来のワイヤよりも低くすることにより、溶接金属部の機械的性質とスラグ剥離性のバランスを改善している。具体的には、Mn含有量が1.60質量%未満では大入熱溶接時の溶接金属部の強度及び靱性が不足する。一方、Mn含有量が1.90質量%を超えると、スラグ量が増加してスラグ剥離性が劣化する。よって、Mn含有量は1.60乃至1.90質量%とする。なお、Mn含有量の上限値は1.85質量%とすることが好ましい。但し、Mo含有量が多い場合及びSi含有量が少ない場合は、Mo含有量及びSi含有量に応じてMn含有量の上限を低くする必要がある。
S:0.003乃至0.017質量%
硫黄(S)を添加すると、溶融池の表面張力が低下し、凝固時の物理的凹凸が減少して溶融金属部の表面が滑らかになるという効果が得られ、これにより、スラグ剥離性が向上する。しかしながら、S含有量が0.003質量%未満ではこの効果は得られない。一方、S含有量が0.017質量%を超えると、溶接金属部の表面形状改善効果が飽和してしまう上に、高温割れが発生しやすくなる。また、スラグの形態が粒状化し、アークによる溶融を妨げて不安定要因となる。更に、被溶接材の板厚によっては、スラグが島状に分布し、連続して剥離できなくなり、却ってスラグ剥離性が悪くなることもある。よって、S含有量は0.003乃至0.017質量%とする。なお、S含有量の下限値は0.005質量%とすることが好ましい。但し、O含有量が多い場合は、O含有量に応じてS含有量の上限を低くする必要がある。
Ti:0.19乃至0.25質量%
チタン(Ti)は、高電流域におけるアーク安定性を向上させる効果があり、スラグを生成する主要成分である。Ti含有量が0.19質量%未満では、半自動溶接で使用される430A以上の高電流域においてアーク安定性が低下し、スパッタ発生量が増加すると共に、スラグ量が不足して溶融池のシールド性が劣化する。一方、Ti含有量が0.25質量%を超えると、スラグ量が過剰に多くなり、スラグ剥離性が劣化する。よって、Ti含有量は0.19乃至0.25質量%とする。
Mo:0.14乃至0.35質量%
モリブデン(Mo)は、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属部の強度を向上させる効果がある。半自動溶接においてこの効果を得るためには、Moを0.14質量%以上添加する必要がある。一方、Moはスラグの硬度を上昇させ、スラグを割れ難くして剥離性を低下させる。特に、Mo含有量が0.35質量%を超えると、スラグ剥離性が劣化する。よって、Mo含有量は0.14乃至0.35質量%とする。なお、Mo含有量の上限値は、0.22質量%とすることが好ましい。また、Mn含有量が多い場合は、Mn含有量に応じてMo含有量の上限を低くする必要がある。
O:0.0025乃至0.0160質量%
スラグは酸化物であるため、O含有量が増加すると化学反応によって生じるスラグ生成量も増加し、更にO含有量が過剰になるとスラグ剥離性が劣化する。また、O含有量が増加すると、溶接金属部中の介在物が増加するため、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、溶接金属部の靱性が低下する。O含有量が0.0160質量%以下であれば、これらの問題は発生しないため、O含有量は0.0160質量%以下とする。但し、S含有量が多い場合は、高温割れを防止するため、O含有量の上限値を低くすることが望ましい。一方、Oが過剰に少ないと溶鉄の粘性が高くなって、ワイヤ溶融時の溶滴離脱性が損なわれ、スパッタが増加する。更に、スラグ量が過剰に少なくなり、被溶接材の板厚によっては、均一なスラグで覆われずに島状となってしまうため、スラグを連続して剥離できなくなり、スラグ剥離性が劣化する。適正なスパッタ量及びスパッタ発生量を得るためのO含有量の下限値は0.0025質量%であり、好ましくは0.0035質量%である。なお、上述のO含有量の規定は、ワイヤ中のOの分布、即ち、線材中に含有されているか又はワイヤ表面に存在しているか等のOの存在位置には関係なく、ワイヤ全体に含まれるOの総量である。
Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu:0.15乃至0.45質量%
銅(Cu)は、溶接金属の焼き入れ性を向上させる効果が若干あるが、過剰に添加すると溶接金属部に高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの性質が変化して剥離性が劣化する。そして、Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu含有量が0.45質量%を超えると、これらの問題が顕著になる。一方、全Cu含有量が0.15質量%未満の場合、Cuめっき層の厚さが薄くなり、コンタクトチップとの接触電気抵抗が不安定になり、アーク安定性が損なわれる。よって、全Cu含有量は0.15乃至0.45質量%とする。なお、全Cu含有量の上限値は0.30質量%とすることが望ましい。
[Mn]−[Si]:1.10質量%以下
Si及びMnは、夫々の含有量がスラグ剥離性に影響を及ぼすだけでなく、Si含有量とMn含有量との差もスラグ剥離性に大きく影響する。具体的には、Mn含有量([Mn])とSi含有量([Si])との差([Mn]−[Si])が小さい方がスラグ剥離性は良好になる。一方、[Mn]−[Si]が大きいと、スラグ性状が変化して硬度が上昇し、スラグと溶接金属表面との密着性が高まり、スラグ剥離性が劣化する。そして、[Mn]−[Si]が1.10質量%を超えると、スラグ剥離性が著しく劣化する。よって、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])は1.10質量%以下とする。
[Mn]+[Mo]:2.20質量%以下
Mn及びMoは共にスラグ剥離性を低下する性質があり、Mn及びMoの総含有量、即ち、Mn含有量([Mn])とMo含有量([Mo])との和([Mn]+[Mo])が2.20質量%を超えると、スラグ剥離性の低下が顕著になる。従って、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])は2.20質量%以下とする。
[S]+[O]:0.0290質量%以下
S及びOの総含有量、即ち、S含有量([S])とO含有量([O])との和([S]+[O])が0.0290質量%を超えると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの形態が粒状化してアークによる溶融を妨げ、不安定要因となる。また、被溶接材の板厚によっては、スラグが島状に分布し、スラグを連続して剥離できなくなり、スラグ剥離性が悪くなることもある。更に、溶接金属部の靱性も低下する。従って、S及びOの総含有量([S]+[O])は0.0290質量%以下とする。
P:0.020質量%以下
鋼にはリン(P)が不可避的不純物として混入しているが、Pは高温割れを発生させる主要元素の1つであり、本実施形態のワイヤにおいては、故意に添加する利点は見あたらない。また、P含有量が0.020質量%を超えると溶接金属部に高温割れが発生するため、P含有量は0.020質量%以下に規制する。
N:0.0080質量%以下
鋼には窒素(N)が不可避的不純物として混入しているが、Nは溶接金属を脆化させると共にブローホール発生の原因となる元素である。このため、高靱性の溶接金属部を得ることを目的の1つとしている540N/mm級ワイヤにおいては、N含有量を低くする必要がある。また、N含有量が多いと溶融池の安定性が著しく悪化し、スラグ量が増加すると共にスラグ剥離性が劣化する。従って、ワイヤ中のNは少ないほど好ましく、N含有量は0.0080質量%以下に規制する。
ワイヤの表面のMoS 付着量:0.01g/10kg乃至1.00g/10kg
前述の如く、ワイヤの送給性もスラグ剥離性に大きな影響を及ぼす。ワイヤの送給が安定することにより、溶融池の形成もまた安定となり、生成されたスラグの厚さが均一となり、熱収縮の歪みが均一に作用することにより、スラグが全面剥離しやすくなる。ワイヤ表面に存在するMoSは、チップ−ワイヤ間の給電点における融着を低減し、ワイヤの送給性を向上させる。従来、ワイヤ表面の粒界に沿ってワイヤを過剰酸化させることによりワイヤの送給性を向上させる技術が知られているが、この方法ではO含有量が過剰になってしまい、スラグの生成量の増加に伴いスラグ剥離性が劣化するという欠点がある。これに対して、ワイヤ表面にMoSを付着させる方法は、スラグ剥離性を低下の懸念がないため、本実施形態のワイヤの送給性を向上させる方法として好適である。この効果は、ワイヤ表面にMoSをワイヤ10kgあたり0.01g以上付着させることにより得られる。一方、MoSをワイヤ10kgあたり1.00gよりも多く付着させると、送給機構内にMoSが堆積するため、送給機構内にMoSが詰まって送給不良が発生する。その結果、スラグ性状に影響が及び、スラグ剥離性が劣化する。よって、ワイヤの表面のMoS付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgとする。
上述の各成分の含有量の限定理由を添付の図面を参照してまとめて説明する。図1は横軸にSi含有量をとり、縦軸にTi含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。また、図2は横軸にMn含有量をとり、縦軸にMo含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。更に、図3は横軸にSi含有量をとり、縦軸にMn含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。更にまた、図4は横軸にS含有量をとり、縦軸にO含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。なお、図1乃至4において、領域1は本発明の範囲を示し、領域2は領域1の内部に位置し、本発明におけるより好適な範囲を示す。
図1に示すように、本発明の範囲(領域1)よりもSi含有量が多いと、溶接金属部の靱性が低下する。また、本発明の範囲よりもSi含有量が少ないと、溶接金属部の強度が低下する。一方、本発明の範囲よりもTi含有量が多いと、スラグ剥離性が劣化する。また、本発明の範囲よりもTi含有量が少ないと、アークが不安定になって、スパッタ量が増加する。
図2に示すように、本発明の範囲よりもMn含有量が多いと、スラグ量が過剰となり、スラグ剥離性が劣化する。また、本発明の範囲よりもMn含有量が少ないと、溶接金属部の強度及び靱性が低下する。一方、本発明の範囲よりもMo含有量が多いと、スラグ剥離性が劣化する。また、本発明の範囲よりもMo含有量が少ないと、溶接金属部の強度が低下する。
図3に示すように、Mn含有量([Mn])とSi含有量([Si])との差([Mn]−[Si])が本発明の範囲を超えていると、スラグ剥離性が劣化する。図4に示すように、本発明の範囲よりもS含有量が多いと、溶接金属部の靱性が低下すると共に耐高温割れ性が低下する。また、本発明の範囲よりもS含有量が少ないと、スラグ剥離性が劣化する。一方、本発明の範囲よりもO含有量が多いと、スラグ量が過剰になると共にスラグ剥離性が劣化し、更に溶接金属部の靱性及び耐高温割れ性が低下する。また、本発明の範囲よりもO含有量が少ないと、スラグ剥離性が劣化する。
以下、本実施形態の効果について説明する。上述の如く、本実施形態のワイヤにおいては、Mn含有量が1.90質量%以下、Mo含有量が0.35質量%以下、Ti含有量が0.25質量%以下、S含有量が0.003質量%以上、O含有量が0.0025乃至0.0160質量%であり、更に、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])が1.10質量%以下、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])が2.20質量%以下、S及びOの総含有量([S]+[O])が0.0290質量%以下であるため、スラグ剥離性が良好であり、効率よく半自動溶接することができる。また、各成分の含有量を上述の如く規定しているため、大入熱・高パス間温度条件で溶接を行っても、溶接金属部の機械的性質を良好な状態に維持できる。更に、Ti含有量が0.19質量%以上であるため、アークが安定してスパッタ発生量が少なくなると共に、スラグ量が適正化されて溶融池のシールド性が良好になる。
このように、本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいては、ワイヤ諸成分を適性範囲に規定することにより、鉄骨建築用として主に使用される大入熱・高パス間温度用炭酸ガス溶接において、溶接金属部の良好な機械的性質、半自動溶接に必要な優れたアーク安定性が得られ、更にスラグ発生量を適正化することによりシールド不良への耐性を維持したまま、スラグ剥離性を大幅に向上し、半自動溶接工程における能率を向上させることができる。これにより、鉄骨建築のコストを大幅に低減することができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤについて説明する。本実施形態のワイヤは、前述の第1の実施形態のワイヤの各成分に加えて、更にBを添加したものであり、その組成は、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0025乃至0.0160質量%、全Cu:0.15乃至0.45質量%及びB:0.0005乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である。また、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])が1.10質量%以下であり、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])が2.20質量%以下であり、且つ、S及びOの総含有量([S]+[O])が0.0290質量%以下である。更に、不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制されると共に、Nが0.0080質量%以下に規制されている。
また、本実施形態のワイヤの組成において、好ましくは、Mn:1.85質量%以下、S:0.005質量%以上、Mo:0.22質量%以下、O:0.0035質量%以上、全Cu:0.30質量%以下である。
以下、本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおけるB含有量の数値限定理由について説明する。なお、本実施形態のワイヤにおけるB以外の成分の添加理由及び数値限定理由は、前述の第1の実施形態のワイヤと同様である。
B:0.0005乃至0.0050質量%
ホウ素(B)は、少量の添加で溶接金属の焼入れ性を高め、溶接金属部の強度及び靱性を向上させる効果がある。しかしながら、B含有量が0.0005質量%未満の場合、その効果が得られない。一方、B含有量が0.0050質量%を超えると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなる。よって、B含有量は0.0005乃至0.0050質量%とする。
本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいては、Bを0.0005乃至0.0050質量%添加しているため、前述の第1の実施形態のワイヤに比べて、溶接金属部の強度及び靱性を向上させることができる。なお、本実施形態のワイヤにおける上記以外の構成及び効果は、前述の第1の実施形態のワイヤと同様である。
次に、本発明の第3の実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤについて説明する。本実施形態のワイヤは、前述の第1の実施形態のワイヤの各成分に加えて、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を添加したものであり、その組成は、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0025乃至0.0160質量%及び全Cu:0.15乃至0.45質量%を含有すると共に、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物である。また、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])が1.10質量%以下であり、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])が2.20質量%以下であり、且つ、S及びOの総含有量([S]+[O])が0.0290質量%以下である。更に、不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制されると共に、Nが0.0080質量%以下に規制されている。
また、本実施形態のワイヤの組成において、好ましくは、Mn:1.85質量%以下、S:0.005質量%以上、Mo:0.22質量%以下、O:0.0035質量%以上、全Cu:0.30質量%以下である。
以下、本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおけるNb、V、Cr、Al及びNiの含有量の数値限定理由について説明する。なお、本実施形態のワイヤにおける上記以外の成分における添加理由及び数値限定理由は、前述の第1の実施形態のワイヤと同様である。
Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素:夫々0.20質量%以下
Nb、V、Al、Cr及びNiは、溶接金属部の強度を向上させるために、必要に応じて微量添加される元素である。しかしながら、これらの成分の含有量が夫々0.20質量%を超えると、スラグ剥離性が劣化すると共にスパッタ発生量が増加する。また、Nb、V、Al及びCrの含有量が夫々0.20質量%を超えると、溶接金属部の靱性が低下する。よって、Nb、V、Al、Cr及びNiを添加する場合は、その含有量が夫々0.20質量%以下になるようにする。
本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいては、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下添加しているため、前述の第1の実施形態のワイヤに比べて、溶接金属部の強度を向上させることができる。なお、本実施形態のワイヤにおける上記以外の構成及び効果は、前述の第1の実施形態のワイヤと同様である。
次に、本発明の第4の実施形態に係るガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤについて説明する。本実施形態のワイヤは、前述の第1の実施形態のワイヤの各成分に加えて、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素、並びにBを添加したものであり、その組成は、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0025乃至0.0160質量%、全Cu:0.15乃至0.45質量%及びB:0.0005乃至0.0050質量を含有すると共に、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物である。また、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])が1.10質量%以下であり、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])が2.20質量%以下であり、且つ、S及びOの総含有量([S]+[O])が0.0290質量%以下である。更に、不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制されると共に、Nが0.0080質量%以下に規制されている。
また、本実施形態のワイヤの組成において、好ましくは、Mn:1.85質量%以下、S:0.005質量%以上、Mo:0.22質量%以下、O:0.0035質量%以上、全Cu:0.30質量%以下である。
なお、本実施形態のワイヤにおけるBの添加理由及び数値限定理由は前述の第2の実施形態のワイヤと同様であり、Nb、V、Al、Cr及びNiの添加理由及び数値限定理由は前述の第3の実施形態のワイヤと同様であり、これら以外の元素の添加理由及び数値限定理由は前述の第1の実施形態のワイヤと同様である。
本実施形態のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいては、Bを0.0005乃至0.0050質量%添加すると共に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下添加しているため、前述の第2及び第3の実施形態のワイヤに比べて、溶接金属部の強度をより向上させることができる。なお、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述の第1の実施形態のワイヤと同様である。
以下、本発明の実施例の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。図5は溶接試験片の形状及び寸法を示す平面図及び側面図である。図5に示すように、母材として、下記表1に示す組成(JIS G3136 SN490C)で、縦が350mm、横が125mm、厚さが28mmである鋼板11と、縦が300mm、横が125mm、厚さが28mmである鋼板12とを準備した。鋼板12には、開先角度が30°であるレ型開先を形成した。そして、鋼板11及び12の長辺間に6mmの間隔が形成されるように、鋼板11及び12を平行に配置した。また、鋼板12の表面における長手方向中央部で且つ開先から10mmの位置に、パス間温度測定位置Tを設定した。そして、鋼板11及び鋼板12の対向部分の裏側には、裏当金13を配置した。また、鋼板12の長手方向両側には夫々固定タブ14を配置し、鋼板11及び12を相互に固定した。なお、図5の側面図においては、固定タブ14は図示が省略されている。
Figure 0004768310
そして、複数の種類のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ(図示せず)を使用して、開先溶接を行った。これにより、鋼板11と鋼板12との間に、ビード15が形成された。このときの溶接条件を下記表2に示す。また、使用したワイヤの組成を下記表3及び表4示す。なお、下記表3及び表4に示すワイヤ組成における残部はFe及び不可避的不純物である。また、下記表3及び表4に示すMoS付着量の単位は[g/10kg]、即ち、ワイヤ10kgあたりのg数である。また、下記表3及び表4に示すワイヤはいずれも芯線の表面にCuめっきが施されており、本実施例においてはCuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu含有量(質量%)を指標として整理している。
Figure 0004768310
Figure 0004768310
Figure 0004768310
そして、溶接中の(1)アーク安定性及び(2)スパッタ発生量を評価した。また、溶接終了後に、デジタル画像処理により(3)スラグの剥離性を評価し、また、(4)溶接効率を算出した。更に、(5)溶接金属部の機械的性質を評価した。更にまた、(6)溶接金属部における高温割れの発生の有無を調査した。以下、これらの評価方法について説明する。
(1)アーク安定性
アーク安定性は、溶接中の官能試験によって評価した。ワイヤ送給性が優れ、溶滴移行性が円滑であり、全体としてアーク安定性が極めて優れていた場合を極めて良好(◎)と判定し、ワイヤ送給性が瞬間的に劣ることがあったり、液滴移行性が一時的に不安定になったりすることがあったものの、アーク安定性が実用上問題のないレベルであった場合を良好(○)と判定し、これらが顕著で問題となる場合を不良(×)と判定した。
(2)スパッタ発生量
スパッタ発生量は、溶接終了後にシールドノズルに付着したスパッタを回収し、その質量を測定することによって評価した。回収されたスパッタ量が2.5g以下である場合を良好(○)と判定し、2.5gよりも多かった場合を不良(×)と判定した。
(3)スラグの剥離性
本実施例においては、定量評価法として自然剥離性を評価した。先ず、溶接完了後、図5に示すパス間温度測定位置Tにおいて測定される鋼板表面温度が250℃まで冷却した時点で、ビード15の外観を写真撮影した。次に、そのビード外観写真をコンピュータに取り込んで画像解析ソフトにより二値化処理を行い、スラグが自然剥離した領域と、スラグが付着したままの領域とを区別した。そして、前記画像解析ソフトにより、スラグが自然剥離した領域の面積と、スラグが付着したままの領域の面積とを夫々算出した。そして、これらの面積に基づいて、スラグ剥離率を求めた。スラグが自然剥離した領域の面積をaとし、スラグが付着したままの領域の面積をbとし、スラグ剥離率をR(%)とするとき、スラグ剥離率Rを下記数式1により計算した。スラグ剥離率Rが13%以上である場合を良好(○)と判定し、13%未満である場合を不良(×)と判定した。
Figure 0004768310
(4)溶接効率
溶接効率E(%)は、1パス目から最終パスの1パス前の溶接までの間にスラグ除去に要した時間の合計値ΣSと、1パス目から最終パスの1パス前の溶接までの間のアーク発生時間ΣAとを測定し、下記数式2により計算した。溶接効率Eは、スラグ除去が容易で、短時間で終了する程高くなり、優れていることになる。そこで、溶接効率Eが70%以上である場合を良好(○)とし、70%未満の場合を不良(×)とした。
Figure 0004768310
(5)溶接金属部の機械的性質
溶接金属部の機械的性質の評価は、引張試験により強度を測定し、シャルピー衝撃試験により靭性を測定して行った。図5に示す溶接試験片から、JIS Z3111に規定される試験片を、その中心がビード表面下10mm、ビード幅中央部となるように採取して、引張試験及びシャルピー衝撃試験に供した。なお、引張試験は室温(20℃)の雰囲気で行った。また、シャルピー衝撃試験は0℃の雰囲気で行い、3本の試験片を夫々測定してその平均値を評価値とした。そして、強度については、引張強さが490N/mm(=490MPa)以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。また、靭性については、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが70J以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。
(6)高温割れ
溶接金属部における高温割れの有無は、超音波探傷試験により調査した。
これらの評価結果を下記表5及び表6にまとめて示す。
Figure 0004768310
Figure 0004768310
上記表5に示すように、本発明の実施例であるNo.1乃至No.28のワイヤは、各成分の含有量が本発明の範囲内にあるため、スラグ剥離性が良好で、溶接効率が高く、溶接金属部の強度及び靱性が高く、アークの安定性が優れ、スパッタの発生量が少なく、耐高温割れ性が良好であった。このため、優れた溶接作業性及び溶接金属の機械的性質が得られた。
一方、上記表6に示すNo.29乃至No.59のワイヤは本発明の比較例である。No.29のワイヤはCが過少であり溶接金属部の強度及び靱性が不足した。No.30及び31のワイヤはCが過剰であり溶接金属部に高温割れが発生した。No.32のワイヤはSiが過少であり溶接金属部の強度が不足した。No.33のワイヤはSiが過剰であり溶接金属部の靭性が不足した。No.34及びNo.35のワイヤはTiが過少でありスパッタ発生量が多くアーク安定性も劣っていた。No.36のワイヤはTiが過剰であり、スラグ剥離性が悪く、溶接効率も劣っていた。No.37のワイヤはMnが過少であり溶接金属部の引張強度及び靭性が共に低かった。No.38のワイヤはMnが過剰であり、スラグ剥離性が悪く、溶接効率も劣っていた。
No.39のワイヤは、Si及びMn単独量は問題ないものの、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])が過大で、バランスが悪いため、スラグ剥離性が悪く、溶接効率も劣っていた。No.40及びNo.41のワイヤは、Si及びTiが過少で且つMn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])が過大であるため、溶接金属部の強度が不足し、また、スラグ剥離性が悪く、それに伴い溶接効率が劣っており、更に、アーク安定性が劣化し、スパッタ発生量も過剰であった。No.42のワイヤはMoが過少であり引張強さが低かった。No.43のワイヤはMoが過剰であり、スラグの剥離性が悪く、溶接効率も劣っていた。No.44のワイヤはMn及びMoの単独量は問題ないものの、Mn及びMoの総含有量が過剰であったため、スラグ剥離性が悪く、溶接効率も悪かった。No.45のワイヤはSが過少であり、スラグの剥離性が悪く、溶接効率も悪かった。No.46のワイヤはSが過剰であり、靭性が低いと共に高温割れも発生した。
No.47のワイヤはOが過剰であり、スラグ量が増加して剥離性も低下した。また、溶接金属中の介在物が過剰となって高温割れが発生し、靭性も低かった。No.48のワイヤはS及びOの単独量は問題ないものの、S及びOの総含有量が過剰であり、靭性が低いと共に高温割れも発生した。No.49のワイヤはPが過剰であり、高温割れが発生した。No.50のワイヤはCuが過剰であり、スラグ剥離性が悪く、溶接効率が低下し、更に、高温割れも発生した。No.51のワイヤはBが過剰であり、高温割れが発生した。No.52のワイヤは、Oが不足しているため、スラグ量が過剰に少なくなり、スラグ剥離性が劣化して溶接効率が低下した。更に、液滴脱離性も劣化し、スパッタが増加した。No.53のワイヤは、Cuが不足しているため、Cuめっき層の厚さが薄くなり、溶接時のチップとワイヤとの間の通電性が劣化し、スパッタが増加した。
No.54乃至No.58のワイヤは、夫々Nb、V、Al、Cr又はNiが過剰であり、スラグ剥離性が劣化し、溶接効率も低下した。また、アークが不安定になり、スパッタ量も増加した。更に、No.54乃至No.57のワイヤでは、溶接金属部の靱性も低下した。No.59のワイヤは表面のMoSの付着量が過剰であり、コンジットライナー等の送給系にMoSが堆積して詰まり、ワイヤ送給が不安定となった。その結果、アーク安定性が損なわれ、スラグ分布が不均一化して悪影響を及ぼし、スラグの剥離性が低下した。また、溶接効率も低下し、スパッタ量も増加した。
横軸にSi含有量をとり、縦軸にTi含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。 横軸にMn含有量をとり、縦軸にMo含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。 横軸にSi含有量をとり、縦軸にMn含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。 横軸にS含有量をとり、縦軸にO含有量をとって、本発明の成分範囲及びこの成分範囲を外れることによる影響を示すグラフ図である。 溶接試験片の形状及び寸法を示す平面図及び側面図である。
符号の説明
1;領域(本発明の範囲)
2;領域(本発明の好適範囲)
11、12;鋼板
13;裏当金
14;固定タブ
15;ビード
T;パス間温度測定位置

Claims (8)

  1. 鋼芯線の周面にCuめっき層が形成され、鋼材を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用されるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0035乃至0.0160質量%並びにCuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu:0.15乃至0.45質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn含有量とSi含有量との差が1.10質量%以下、Mn及びMoの総含有量が2.20質量%以下、S及びOの総含有量が0.0290質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Nが0.0080質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  2. 更に、B:0.0005乃至0.0050質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  3. 更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  4. Mn含有量が1.85質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  5. S含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  6. Mo含有量が0.22質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  7. Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu含有量が0.30質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
  8. ワイヤ表面に、前記ワイヤ10kgあたりの質量で、MoSを0.01g/10kg乃至1.00g/10kg付着させたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
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