JP4768310B2 - ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents
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Description
炭素(C)は、溶接金属の焼入れ性を向上し、溶接金属部の強度を確保するために重要な添加元素ではあるが、C含有量が0.020質量%未満の場合、大入熱・高パス間温度溶接時に必要な強度が確保できない。一方、Cを過剰に添加すると溶接金属部に高温割れが発生しやすくなり、C含有量が0.080質量%を超えると高温割れの発生が顕著になる。よって、C含有量は0.020乃至0.080質量%とする。
珪素(Si)は、スラグ生成量及びスラグ剥離性には直接的には大きな影響を及ぼさないが、主として強度確保、脱酸による気孔欠陥の発生防止及びなじみ性向上のために添加する。これらの効果は、0.75質量%以上の添加で有効になる。一方、Siを0.95質量%を超えて過剰に添加すると、溶接金属部の靱性が低下する。よって、Si含有量は0.75乃至0.95質量%とする。但し、Mn含有量に比べてSi含有量が低いと、スラグ組成が変化してスラグ剥離性が劣化するため、Mn含有量が多い場合は、Mn含有量に応じてSi含有量の下限値を高くする必要がある。
マンガン(Mn)は、脱酸を促進すると共に、溶接金属部の強度及び靱性を向上させる効果があるが、その一方でスラグ剥離性を著しく劣化させる元素でもある。従来の一般的な大入熱用ワイヤはMnを多く含有しているが、本発明においては、Mn含有量を従来のワイヤよりも低くすることにより、溶接金属部の機械的性質とスラグ剥離性のバランスを改善している。具体的には、Mn含有量が1.60質量%未満では大入熱溶接時の溶接金属部の強度及び靱性が不足する。一方、Mn含有量が1.90質量%を超えると、スラグ量が増加してスラグ剥離性が劣化する。よって、Mn含有量は1.60乃至1.90質量%とする。なお、Mn含有量の上限値は1.85質量%とすることが好ましい。但し、Mo含有量が多い場合及びSi含有量が少ない場合は、Mo含有量及びSi含有量に応じてMn含有量の上限を低くする必要がある。
硫黄(S)を添加すると、溶融池の表面張力が低下し、凝固時の物理的凹凸が減少して溶融金属部の表面が滑らかになるという効果が得られ、これにより、スラグ剥離性が向上する。しかしながら、S含有量が0.003質量%未満ではこの効果は得られない。一方、S含有量が0.017質量%を超えると、溶接金属部の表面形状改善効果が飽和してしまう上に、高温割れが発生しやすくなる。また、スラグの形態が粒状化し、アークによる溶融を妨げて不安定要因となる。更に、被溶接材の板厚によっては、スラグが島状に分布し、連続して剥離できなくなり、却ってスラグ剥離性が悪くなることもある。よって、S含有量は0.003乃至0.017質量%とする。なお、S含有量の下限値は0.005質量%とすることが好ましい。但し、O含有量が多い場合は、O含有量に応じてS含有量の上限を低くする必要がある。
チタン(Ti)は、高電流域におけるアーク安定性を向上させる効果があり、スラグを生成する主要成分である。Ti含有量が0.19質量%未満では、半自動溶接で使用される430A以上の高電流域においてアーク安定性が低下し、スパッタ発生量が増加すると共に、スラグ量が不足して溶融池のシールド性が劣化する。一方、Ti含有量が0.25質量%を超えると、スラグ量が過剰に多くなり、スラグ剥離性が劣化する。よって、Ti含有量は0.19乃至0.25質量%とする。
モリブデン(Mo)は、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属部の強度を向上させる効果がある。半自動溶接においてこの効果を得るためには、Moを0.14質量%以上添加する必要がある。一方、Moはスラグの硬度を上昇させ、スラグを割れ難くして剥離性を低下させる。特に、Mo含有量が0.35質量%を超えると、スラグ剥離性が劣化する。よって、Mo含有量は0.14乃至0.35質量%とする。なお、Mo含有量の上限値は、0.22質量%とすることが好ましい。また、Mn含有量が多い場合は、Mn含有量に応じてMo含有量の上限を低くする必要がある。
スラグは酸化物であるため、O含有量が増加すると化学反応によって生じるスラグ生成量も増加し、更にO含有量が過剰になるとスラグ剥離性が劣化する。また、O含有量が増加すると、溶接金属部中の介在物が増加するため、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、溶接金属部の靱性が低下する。O含有量が0.0160質量%以下であれば、これらの問題は発生しないため、O含有量は0.0160質量%以下とする。但し、S含有量が多い場合は、高温割れを防止するため、O含有量の上限値を低くすることが望ましい。一方、Oが過剰に少ないと溶鉄の粘性が高くなって、ワイヤ溶融時の溶滴離脱性が損なわれ、スパッタが増加する。更に、スラグ量が過剰に少なくなり、被溶接材の板厚によっては、均一なスラグで覆われずに島状となってしまうため、スラグを連続して剥離できなくなり、スラグ剥離性が劣化する。適正なスパッタ量及びスパッタ発生量を得るためのO含有量の下限値は0.0025質量%であり、好ましくは0.0035質量%である。なお、上述のO含有量の規定は、ワイヤ中のOの分布、即ち、線材中に含有されているか又はワイヤ表面に存在しているか等のOの存在位置には関係なく、ワイヤ全体に含まれるOの総量である。
銅(Cu)は、溶接金属の焼き入れ性を向上させる効果が若干あるが、過剰に添加すると溶接金属部に高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの性質が変化して剥離性が劣化する。そして、Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu含有量が0.45質量%を超えると、これらの問題が顕著になる。一方、全Cu含有量が0.15質量%未満の場合、Cuめっき層の厚さが薄くなり、コンタクトチップとの接触電気抵抗が不安定になり、アーク安定性が損なわれる。よって、全Cu含有量は0.15乃至0.45質量%とする。なお、全Cu含有量の上限値は0.30質量%とすることが望ましい。
Si及びMnは、夫々の含有量がスラグ剥離性に影響を及ぼすだけでなく、Si含有量とMn含有量との差もスラグ剥離性に大きく影響する。具体的には、Mn含有量([Mn])とSi含有量([Si])との差([Mn]−[Si])が小さい方がスラグ剥離性は良好になる。一方、[Mn]−[Si]が大きいと、スラグ性状が変化して硬度が上昇し、スラグと溶接金属表面との密着性が高まり、スラグ剥離性が劣化する。そして、[Mn]−[Si]が1.10質量%を超えると、スラグ剥離性が著しく劣化する。よって、Mn含有量とSi含有量との差([Mn]−[Si])は1.10質量%以下とする。
Mn及びMoは共にスラグ剥離性を低下する性質があり、Mn及びMoの総含有量、即ち、Mn含有量([Mn])とMo含有量([Mo])との和([Mn]+[Mo])が2.20質量%を超えると、スラグ剥離性の低下が顕著になる。従って、Mn及びMoの総含有量([Mn]+[Mo])は2.20質量%以下とする。
S及びOの総含有量、即ち、S含有量([S])とO含有量([O])との和([S]+[O])が0.0290質量%を超えると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの形態が粒状化してアークによる溶融を妨げ、不安定要因となる。また、被溶接材の板厚によっては、スラグが島状に分布し、スラグを連続して剥離できなくなり、スラグ剥離性が悪くなることもある。更に、溶接金属部の靱性も低下する。従って、S及びOの総含有量([S]+[O])は0.0290質量%以下とする。
鋼にはリン(P)が不可避的不純物として混入しているが、Pは高温割れを発生させる主要元素の1つであり、本実施形態のワイヤにおいては、故意に添加する利点は見あたらない。また、P含有量が0.020質量%を超えると溶接金属部に高温割れが発生するため、P含有量は0.020質量%以下に規制する。
鋼には窒素(N)が不可避的不純物として混入しているが、Nは溶接金属を脆化させると共にブローホール発生の原因となる元素である。このため、高靱性の溶接金属部を得ることを目的の1つとしている540N/mm2級ワイヤにおいては、N含有量を低くする必要がある。また、N含有量が多いと溶融池の安定性が著しく悪化し、スラグ量が増加すると共にスラグ剥離性が劣化する。従って、ワイヤ中のNは少ないほど好ましく、N含有量は0.0080質量%以下に規制する。
前述の如く、ワイヤの送給性もスラグ剥離性に大きな影響を及ぼす。ワイヤの送給が安定することにより、溶融池の形成もまた安定となり、生成されたスラグの厚さが均一となり、熱収縮の歪みが均一に作用することにより、スラグが全面剥離しやすくなる。ワイヤ表面に存在するMoS2は、チップ−ワイヤ間の給電点における融着を低減し、ワイヤの送給性を向上させる。従来、ワイヤ表面の粒界に沿ってワイヤを過剰酸化させることによりワイヤの送給性を向上させる技術が知られているが、この方法ではO含有量が過剰になってしまい、スラグの生成量の増加に伴いスラグ剥離性が劣化するという欠点がある。これに対して、ワイヤ表面にMoS2を付着させる方法は、スラグ剥離性を低下の懸念がないため、本実施形態のワイヤの送給性を向上させる方法として好適である。この効果は、ワイヤ表面にMoS2をワイヤ10kgあたり0.01g以上付着させることにより得られる。一方、MoS2をワイヤ10kgあたり1.00gよりも多く付着させると、送給機構内にMoS2が堆積するため、送給機構内にMoS2が詰まって送給不良が発生する。その結果、スラグ性状に影響が及び、スラグ剥離性が劣化する。よって、ワイヤの表面のMoS2付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgとする。
ホウ素(B)は、少量の添加で溶接金属の焼入れ性を高め、溶接金属部の強度及び靱性を向上させる効果がある。しかしながら、B含有量が0.0005質量%未満の場合、その効果が得られない。一方、B含有量が0.0050質量%を超えると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなる。よって、B含有量は0.0005乃至0.0050質量%とする。
Nb、V、Al、Cr及びNiは、溶接金属部の強度を向上させるために、必要に応じて微量添加される元素である。しかしながら、これらの成分の含有量が夫々0.20質量%を超えると、スラグ剥離性が劣化すると共にスパッタ発生量が増加する。また、Nb、V、Al及びCrの含有量が夫々0.20質量%を超えると、溶接金属部の靱性が低下する。よって、Nb、V、Al、Cr及びNiを添加する場合は、その含有量が夫々0.20質量%以下になるようにする。
アーク安定性は、溶接中の官能試験によって評価した。ワイヤ送給性が優れ、溶滴移行性が円滑であり、全体としてアーク安定性が極めて優れていた場合を極めて良好(◎)と判定し、ワイヤ送給性が瞬間的に劣ることがあったり、液滴移行性が一時的に不安定になったりすることがあったものの、アーク安定性が実用上問題のないレベルであった場合を良好(○)と判定し、これらが顕著で問題となる場合を不良(×)と判定した。
スパッタ発生量は、溶接終了後にシールドノズルに付着したスパッタを回収し、その質量を測定することによって評価した。回収されたスパッタ量が2.5g以下である場合を良好(○)と判定し、2.5gよりも多かった場合を不良(×)と判定した。
本実施例においては、定量評価法として自然剥離性を評価した。先ず、溶接完了後、図5に示すパス間温度測定位置Tにおいて測定される鋼板表面温度が250℃まで冷却した時点で、ビード15の外観を写真撮影した。次に、そのビード外観写真をコンピュータに取り込んで画像解析ソフトにより二値化処理を行い、スラグが自然剥離した領域と、スラグが付着したままの領域とを区別した。そして、前記画像解析ソフトにより、スラグが自然剥離した領域の面積と、スラグが付着したままの領域の面積とを夫々算出した。そして、これらの面積に基づいて、スラグ剥離率を求めた。スラグが自然剥離した領域の面積をaとし、スラグが付着したままの領域の面積をbとし、スラグ剥離率をR(%)とするとき、スラグ剥離率Rを下記数式1により計算した。スラグ剥離率Rが13%以上である場合を良好(○)と判定し、13%未満である場合を不良(×)と判定した。
溶接効率E(%)は、1パス目から最終パスの1パス前の溶接までの間にスラグ除去に要した時間の合計値ΣSTと、1パス目から最終パスの1パス前の溶接までの間のアーク発生時間ΣATとを測定し、下記数式2により計算した。溶接効率Eは、スラグ除去が容易で、短時間で終了する程高くなり、優れていることになる。そこで、溶接効率Eが70%以上である場合を良好(○)とし、70%未満の場合を不良(×)とした。
溶接金属部の機械的性質の評価は、引張試験により強度を測定し、シャルピー衝撃試験により靭性を測定して行った。図5に示す溶接試験片から、JIS Z3111に規定される試験片を、その中心がビード表面下10mm、ビード幅中央部となるように採取して、引張試験及びシャルピー衝撃試験に供した。なお、引張試験は室温(20℃)の雰囲気で行った。また、シャルピー衝撃試験は0℃の雰囲気で行い、3本の試験片を夫々測定してその平均値を評価値とした。そして、強度については、引張強さが490N/mm2(=490MPa)以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。また、靭性については、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが70J以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。
溶接金属部における高温割れの有無は、超音波探傷試験により調査した。
2;領域(本発明の好適範囲)
11、12;鋼板
13;裏当金
14;固定タブ
15;ビード
T;パス間温度測定位置
Claims (8)
- 鋼芯線の周面にCuめっき層が形成され、鋼材を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用されるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて、C:0.020乃至0.080質量%、Si:0.75乃至0.95質量%、Mn:1.60乃至1.90質量%、S:0.003乃至0.017質量%、Ti:0.19乃至0.25質量%、Mo:0.14乃至0.35質量%、O:0.0035乃至0.0160質量%並びにCuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu:0.15乃至0.45質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn含有量とSi含有量との差が1.10質量%以下、Mn及びMoの総含有量が2.20質量%以下、S及びOの総含有量が0.0290質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Nが0.0080質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 更に、B:0.0005乃至0.0050質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素を夫々0.20質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- Mn含有量が1.85質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- S含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- Mo含有量が0.22質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- Cuめっき層及び芯線中のCuを含めた全Cu含有量が0.30質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- ワイヤ表面に、前記ワイヤ10kgあたりの質量で、MoS2を0.01g/10kg乃至1.00g/10kg付着させたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
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