JP2010234429A - 凝固結晶粒を微細にする二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒 - Google Patents

凝固結晶粒を微細にする二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒 Download PDF

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Abstract

【課題】成分のみを規定して、靱性および延性の優れた溶接金属を得るための凝固結晶粒を微細化する二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼を心線とし、心線と被覆剤の両方の質量%で、心線中の含有量%+被覆剤中の含有量%×被覆率%/100で示す心線質量%換算で、C:0.008〜0.1%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0〜6.0%、Cr:17.0〜27.0%、Ni:1.0〜10.0%、Mo:0.1〜3.0%、Al:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%、Ti:0.001〜0.5%、N:0.10〜0.30%を含有し、さらに、P:0.03%以下、S:0.01%以下に制限し、かつ、0.73×Cr当量−Ni当量≧4.0及びTi(質量%)×N(質量%)≧0.0004を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、二相ステンレス鋼の被覆アーク溶接棒に関し、特に、溶接凝固時の結晶粒を微細化することで溶接金属の靱性および延性に優れた特性を付与することのでき、かつ、溶接作業性が良好な二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒に関するものである。
二相ステンレス鋼は、Cr、Ni、Moを主要元素とし、フェライトとオーステナイトの相比率が約50%となるように調整して、靱性、耐食性を確保したステンレス鋼である。この二相ステンレス鋼を溶接する場合、その多くが、耐食性の維持の観点から溶接後の熱処理は施さず、溶接金属は凝固のままで使用されるため、圧延、熱処理を経た同組成の鋼材に比べ溶接金属の結晶粒径は著しく粗大化し、靱性、延性が劣化する。したがって、二相ステンレス鋼の溶接では、溶接金属の凝固結晶粒を微細化することが、溶接金属の靱性、延性を向上させる有効な方法となりうる。
ステンレス鋼の結晶粒を微細化する方法としては、ローピング(表面の凹凸)の発生を抑制するために鋳片の圧延条件(圧下率と温度の関係)を規定し(例えば、特許文献1参照。)、鋳造後の熱延および冷却条件を規定する方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されているが、いずれも溶鋼の凝固後の再加熱−熱延、または焼鈍−冷却過程における変態による組織制御を利用したものであり、溶接金属の凝固過程で結晶粒を微細化する技術ではなく、溶接後、凝固のままで使用するような二相ステンレス鋼の溶接金属の微細化には有効な方法ではない。
凝固のままのステンレス鋼溶接金属の結晶粒を微細化する方法としては、介在物を接種核として等軸晶凝固させる方法が開示されているが(特許文献3、4参照)、これらは、マルテンサイト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼であり、本発明の対象である二相ステンレス鋼とはCr/Ni量の比率が異なる。
また、二相ステンレス鋼には、近年のNi、Moの高騰により、Ni、Mo量を低減した廉価型二相ステンレス鋼(例えば、特許文献5参照。)が開発されているが、このような二相ステンレス鋼を溶接する場合にも、従来のままの凝固結晶粒が粗大化する二相ステンレス鋼系溶接材料が使用されている。
このような背景から、廉価型二相ステンレス鋼でも使用可能であり、かつ、溶接金属の凝固結晶粒の微細化が可能となり、その結果、溶接ままでも溶接金属の靱性、延性等の機械的特性が良好な溶接部を得るとともに溶接作業性が良好な二相ステンレス鋼用被覆アーク溶接棒の開発が望まれている。
特開平03−071902号公報 特開平08−277423号公報 特開2002−331387号公報 特開2003−136280号公報 WO−2002−027056号公報
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みて、二相ステンレス鋼材の溶接時に使用する溶接材料の成分規定により、溶接金属の凝固結晶粒の微細化を可能とし、溶接ままでも溶接金属の靱性、延性等の機械的特性が良好である溶接部が得られるとともに溶接作業性が良好な二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するものであって、その要旨とするところは下記の通りである。
(1) ステンレス鋼を心線とし、心線と被覆剤の両方の質量%で、心線中の含有量%+被覆剤中の含有量%×被覆率%/100で示す心線質量%換算で、C:0.008〜0.1%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0〜6.0%、Cr:17.0〜27.0%、Ni:1.0〜10.0%、Mo:0.1〜3.0%、Al:0.002〜0.05%、Mg:0.0005〜0.01%、Ti:0.001〜0.5%、N:0.10〜0.30%を含有し、さらに、P:0.03%以下、S:0.01%以下に制限し、かつ、0.73×Cr当量−Ni当量≧4.0及びTi(質量%)×N(質量%)≧0.0004を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする、凝固結晶粒微細化のための二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒。
但し、
Cr当量=Cr質量%)+Mo(質量%)+1.5×Si(質量%)、
Ni当量=Ni(質量%)+0.5×Mn(質量%)+30×C(質量%)
+30×N(質量%)
(2) 前記二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒の化学成分として、心線中の含有量%+被覆剤中の含有量%×被覆率%/100で示す心線質量%換算で、さらに、Cu:0.1〜2.0%を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の凝固結晶粒微細化のための二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒。
(3) 被覆剤全質量に対して質量%で、TiO2:20〜45%、SiO2:1〜10%、
CaCO3:10〜25%、CaF2:2〜12%を含有し、かつ上記被覆剤の比率を、
(TiO2+SiO2)/(CaCO3+CaF2)=1.0〜3.0とし、残部は金属酸化物、金属炭酸塩、金属弗化物および不可避的不純物である被覆剤が前記ステンレス鋼心線に被覆されていることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の凝固結晶粒微細化のための二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒。
本発明によれば、通常の二相ステンレス鋼材および廉価型二相ステンレス鋼材を溶接する際に、使用する溶接材料の成分を規定することにより、溶接金属組織が微細化でき、それにより溶接金属の靱性および延性を大幅に改善できるものであり、本発明の適用により産業の発展に貢献するところが極めて大である。
本発明者らは、種々の化学成分を添加したCr−Ni系ステンレス鋼溶接棒を用いた被覆アーク溶接により二相ステンレス鋼材を突合せ溶接し、形成された溶接金属の組織、靱性及び延性を詳細に調査、検討した。
その結果、フェライト単相で凝固が完了する成分系にMgとTiを複合で添加することにより、溶接金属組織の等軸晶化、微細化が達成され、それによって、溶接金属の靱性、延性が向上することが新たに明らかとなった。また、フェライト単相で凝固が完了する成分系においては、TiとN量の関係を制御することで溶接金属の凝固結晶粒の微細化が容易となり、靱性、延性を改善できる見通しを得た。
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明における「%」とは、特に明記しない限り「質量%」を意味する。
まずはじめに、本発明の溶接金属の結晶粒微細化のための技術思想について説明する。
Cr−Ni系ステンレス鋼の溶接金属は、その成分系により初晶凝固相がフェライト相もしくはオーステナイト相である成分系に分類され、さらに、これらの相が単独で凝固が完了するものとフェライト相+オーステナイト相の二相で凝固が完了するものに分類される。
TiNは、フェライト相との格子整合性が非常に良好なため、フェライト相の凝固核となり、フェライト相の等軸晶化が促進され、凝固時のフェライト結晶粒を微細化するために有効となる。また、Mg系介在物(MgO−Al23スピネル相を含む)は、TiNの生成核となり、TiNの生成を促進し、結果として、フェライト相の等軸晶化を促進し、凝固時のフェライト結晶粒を微細化する。
一方、TiNは、オーステナイト相との格子整合性が良くないため、オーステナイト相の凝固核にはほとんどならない。また、液相/オーステナイト相間の界面エネルギーは、液相/フェライト相間の界面エネルギーより大きいため、フェライト相上にオーステナイト相は形成されにくく、オーステナイト相は、フェライト相の生成、成長に関係なく独自に成長する。すなわち、オーステナイト相の微細化は期待できない。
したがって、本発明では、溶接金属において、TiNおよびMg系介在物を核として、フェライト相の等軸晶化を促進し、よって凝固時のフェライト結晶粒を微細化するためには、溶接金属の成分系を初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する成分系に限定する必要がある。
溶接金属が初晶フェライト相+オーステナイト相の二相凝固の成分系では、フェライト相が等軸晶凝固しても、オーステナイト相はフェライト相の生成・成長に関係なく独自に成長するため、オーステナイト相は柱状晶凝固してオーステナイト相の微細化は達成されない。
本発明者らの実験の結果、溶接金属の初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する成分系としては、0.73×Cr当量−Ni当量≧4.0の関係式を満足する成分系であれば、初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する。ここで、Cr当量及びNi当量は、以下の(式1)及び(式2)でそれぞれ規定させるものである。
Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5×Si(質量%)・・・(式1)
Ni当量=Ni(質量%)+0.5×Mn(質量%)+30×C(質量%)
+30×N(質量%) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (式2)
また、本発明では、溶接金属の凝固結晶粒の微細化のために、上記の初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する成分系において、初晶フェライトが凝固する前にTiNが形成する必要がある。そのためには、本発明者らの実験によれば、初晶フェライト相が凝固する温度(液相線温度)より高温でTiNが晶出するようにTi含有量とN含有量を限定すれば良く、Ti(質量%)×N(質量%)≧0.0004の関係を満足するように成分を制御することで初晶フェライトが凝固する前にTiNが確実に生成し、凝固結晶粒微細化効果が得られる。
以上から本発明では、溶接金属の初晶凝固相がフェライト相でフェライト単相で凝固が完了せるとともに、初晶フェライトが凝固する前にTiNを確実に生成させることにより凝固結晶粒微細化効果を得るために、二相ステンレス鋼を溶接する際に用いる被覆アーク溶接棒の成分系が0.73×Cr当量−Ni当量≧4.0かつTi×N≧0.0004を満たすことを要件とする。
ここで、
Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5×Si(質量%)・・・(式1)
Ni当量=Ni(質量%)+0.5×Mn(質量%)+30×C(質量%)
+30×N(質量%) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (式2)
次に、本発明のワイヤ成分の限定理由を以下に述べる。なお、下記の成分含有量は、心線と被覆剤の両方の質量%で、以下の(式3)で表される心線質量%換算で示される。
心線質量%換算=心線中の含有量%
+被覆剤中の含有量%×被覆率%/100 ・・・・・・ (式3)
なお、(式3)中の被覆剤中の含有量%とは被覆剤全質量に対する割合を意味し、さらに被覆率とは溶接棒全質量に対して被覆剤の占める割合を意味する。被覆率としては、25〜40%、好ましくは30〜35%とするのが通常である。
まず、本発明では、TiNおよびMg系介在物(MgO−Al23スピネル相を含む)を溶接金属中で形成するために以下の心線成分の含有量を規定する。
Al:Alは、脱酸元素であるとともに、Mgと共存してMgO−Al23スピネル相を形成してTiNの生成核となり、溶接金属組織を微細化する。この効果を発揮するのは0.002%でありこれを下限とした。また、多量に添加するとAl酸化物が大量に生成し機械的特性が劣化するので0.05%を上限とした。
Mg:Mgは、Mg系介在物を形成してTiNの生成核となり、溶接金属組織を微細化する。この効果が発揮するのは0.0005%でありこれを下限とした。また多量に添加してもその効果は飽和し、耐食性の低下や溶接部の溶込み減少、溶接ビード上にスラグ生成などの問題が生じるため、0.01%を上限とした。Mg系介在物は、酸化物、硫化物等のMgを含有する化合物であれば凝固結晶粒の微細化には効果があり、MgO−Al23スピネル相も同様の効果を持つ。
Ti:Tiは、TiNを形成してフェライト相の凝固核となり、溶接金属組織を微細化する。Mgと複合で添加することでさらにその効果は向上する。この効果が発揮されるのは0.001%以上であるのでこれを下限とした。しかし、0.5%を越えて添加した場合は延性、靱性を低下させるので、これを上限とした。
N:Nは、TiNを形成して凝固核となり、溶接金属組織を微細化する。また、Nは強力なオーステナイト生成元素であり、オーステナイト生成元素であるNi含有量を1.0〜4.0%とした場合にフェライト相とオーステナイト相の相バランスの観点から必要であるとともに、塩化物環境での耐孔食性を向上させる。これらの効果が発揮されるのは0.10%以上でありこれを下限とした。また、多量に添加すると硬化して靱性が低下するため0.30%を上限とした。
また、その他の効果を得るために、以下の成分の含有量を規定する。
C:Cは、耐食性に有害であるが、強度の観点からある程度の含有が必要である。また、Cは溶接時に溶滴を細粒化させ、スパッタを低減する効果があるため、0.008%以上添加する。また、その含有量が0.1%超では溶接金属の靱性、延性が著しく低下するとともに、溶接のままの状態および再熱を受けるとCrなどと結合し、これらの領域の耐食性を著しく劣化させるため、その含有量を0.008〜0.1%に限定した。
Si:Siは、脱酸元素として、また、スラグ剥離性を良好とする目的で添加されるが、0.1%未満ではその効果が十分でなく、一方、その含有量が1.5%超ではフェライト相の延性低下に伴い、靱性が大きく低下するとともに、スパッタが多発し、実用溶接上の問題になる。したがって、その含有量を0.1〜1.5%に限定した。
Mn:Mnは、脱酸を目的とし、耐ブローホール性を向上させる目的で添加する。また、Mnはオーステナイト生成元素であり、オーステナイト生成元素であるNi含有量を1.0〜10.0%とした場合にフェライト相とオーステナイト相の相バランスの観点から1.0%以上必要である。一方、6.0%を越えて添加すると溶接時に多量のヒュームが発生し、スラグ剥離性が悪くなるとともに、延性が低下するのでその含有量を1.0〜6.0%に限定した。
Cr:Crは、フェライト形成元素であり二相ステンレス鋼の主要元素として耐食性の向上に寄与するが、その含有量が17.0%未満では十分な耐食性が得られない。一方、その含有量が27.0%を超えると、靱性が劣化するため、その含有量を17.0〜27.0%に限定した。
Ni:Niは、オーステナイト形成元素であり二相ステンレス鋼の主要元素であるが、本発明では、フェライト単相で凝固が完了する必要があるため、フェライト形成元素であるCrを17.0〜27.0%添加した場合の凝固形態および相バランスの観点から、および、原料コストが高くなるため、その上限を10.0%とした。一方、その含有量が1.0%未満では靱性が著しく低下するため、その含有量を1.0〜10.0%に限定した。
Mo:Moは、特に塩化物環境での耐食性を向上させる元素であり、耐食性向上のために0.1%添加できるが、その含有量が3.0%を越えるとシグマ相など脆い金属間化合物を生成して溶接金属の靱性が低下するため、その含有量を0.1〜3.0%に限定した。
P、Sは、溶接金属において不可避成分であり、以下の理由で少なく制限する。
P:Pは、多量に存在すると凝固時の耐高温溶接割れ性および靱性を低下させるので少ない方が望ましく、その含有量の上限を0.03%とした。
S:Sも、多量に存在すると耐高温割れ性、延性および耐食性を低下させるので少ない方が望ましく、0.01%を上限とした。
以上を本発明のワイヤの基本成分とするが、以下の成分を選択的に添加できる。
Cu:Cuは、強度と耐食性を高めるのに顕著な効果があり、また、靱性を確保するためのオーステナイト生成元素として0.1%以上添加できるが、2.0%を越えて添加してもその効果は飽和するので、添加する場合は、その含有量を0.1〜2.0%とする。
次に、本発明では、必要に応じて、被覆アーク溶接棒に被覆する被覆剤中に、スラグ形成剤として含有するTiO2、SiO2、CaCO3、CaF2を被覆剤全質量に対して質量%で、以下のように限定する。
TiO2:TiO2は、被包性の良好なスラグを得るため20%以上必要である。一方、45%を越えて添加すると、スパッタが多くなる。従って、TiO2は、20〜45%にする必要がある。
SiO2:SiO2は、スラグ剥離性を良好とするため1%以上添加する。一方、10%を超えて添加するとビード形状が凸状となり悪くなる。従って、SiO2は、1〜10%にする必要がある。
CaCO3:CaCO3は、溶滴を細粒化し、スパッタを低減する目的で10%以上添加する。一方、25%を超えて添加すると、スラグの剥離性が劣化する。従って、CaCO3は10〜25%にする必要がある。
CaF2:CaF2は、ビード形状を良好とする目的で2%以上添加する。一方、12%を超えて添加するとスラグの被包性が悪くなる。従って、CaF2は、2〜12%にする必要がある。
(TiO2+SiO2)/(CaCO3+CaF2):CaCO3+CaF2量に比して、TiO2及びSiO2を多く添加するほど、アークの安定性不良を抑制して、良好なアーク状態が得られる。一方、ガス発生剤としてのCaCO3およびCaF2を多く添加するほど、CO2及びFガスをアーク中に安定して供給し、大気の溶接金属中への浸入を防止する。このようなアーク安定性とシールド性の両方を満足するには、(TiO2+SiO2)/(CaCO3+CaF2)の比率を1.0以上、3.0以下とする必要がある。
上記TiO2、SiO2、CaCO3、CaF2以外のその他スラグ形成剤として、被覆アーク溶接棒製造工程の固着剤として添加される珪酸カリおよび珪酸ソーダや、主としてスラグ粘性の調整やスラグ剥離性確保のために用いられるAlF3、NaF、K2ZrF6、LiF等の金属弗化物、Al23、FeO、Fe23等の金属酸化物、MgCO3等の金属炭酸塩などを適宜添加することができる。
本発明の二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒の製造方法について言及すると、心線と配合・混合した被覆剤を準備してから被覆剤に固着剤(珪酸カリおよび珪酸ソーダの水溶液)を添加しながら湿式混合を行い、心線周囲に被覆剤を塗装し、さらに塗装後150〜450℃で約1〜3時間の乾燥・焼成を行うことにより製造することができる。
以下、実施例にて本発明を説明する。
表1に化学組成を示す二種類のステンレス鋼心線を用いて、表2および表3に示す組成の被覆アーク溶接棒を作製した。溶接棒のサイズ径は3.2mmとした。次に、表4に成分を示す板厚12mmの二相ステンレス鋼板に、開先角度:60゜、ルートフェース:0.5mmのV開先を設けた後、上記溶接棒を用いて、被覆アーク溶接により突合せ溶接して、溶接継手を作製した。なお、この際の溶接は、交流電源を用いて、溶接電流:80〜120A、下向き溶接にて実施した。
なお、表2および表3における凝固モードは、フェライト単相で凝固が完了するものをF、初晶フェライト+オーステナイトの二相で凝固が完了するものをFAで示す。
溶接で得られた溶接継手は、それぞれ溶接金属の組織観察、溶接金属のシャルピー衝撃試験、および溶接継手の表・裏曲げ試験を実施し、凝固結晶粒の微細化・等軸晶化、靱性、曲げ延性をそれぞれ評価した。表5にそれぞれの評価結果および溶接作業性判定結果を示す。
表5の結晶粒径の評価結果は、フェライトおよびオーステナイトの結晶粒径がともに50μm以下で、かつ、等軸晶率が90%以上のものを○、それ以外の組織は×とした。表5の靱性評価結果は、溶接継手から溶接方向に垂直方向から2mmVノッチシャルピー試験片を採取し、0℃にてシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーが27J以上を○、27J未満は×とした。表5の表曲げおよび裏曲げの試験結果は、溶接継手から溶接方向に垂直方向から余盛を削除した試験片(10t×30w×250Lmm)を採取し、溶接部を表または裏からローラ曲げ(曲げ半径:R=20mm)を行い、割れが発生しないものを良好、割れが発生したものを不良とした。また、表5の溶接作業性は、溶接継手作製時の官能評価により判定を行った。
表3において、No.11の比較例は、(0.73×Cr当量−Ni当量)の値が本発明範囲より低いために、溶接金属がフェライト+オーステナイトの二相凝固となり、凝固結晶粒が粗大化し、溶接金属の靱性、曲げ延性がいずれも低下した。また、TiO2が本発明範囲より低いため、スラグの被包性が悪かった。No.12の比較例は、Niが本発明の範囲外であり、(0.73×Cr当量−Ni当量)の値も本発明範囲より低いために、溶接金属が二相凝固となり、凝固結晶粒が粗大化し、溶接金属の靱性および曲げ延性が低下した。また、TiO2が本発明範囲より高いため、スパッタの発生量が多くなった。No.13の比較例は、(Ti×N)の値が本発明範囲より低く、No.14の比較例は、Al含有量およびMg含有量が本発明範囲より低いために、溶接金属はフェライト単相凝固ではあったが、フェライトの等軸晶化および微細化ができず、凝固結晶粒が粗大化し、溶接金属の靱性、曲げ延性がいずれも低下した。さらに、No.13の比較例は、CaF2が本発明範囲より低いためビード形状が悪く、No.14の比較例は、CaF2が本発明範囲より高いためスラグの被包性が悪かった。
さらに、No.15〜No.17の比較例は、フェライト単相凝固であり、(Ti×N)も本発明範囲内で、凝固結晶粒の微細化は見られるが、Mn含有量、Si含有量、Cr含有量、Mo含有量、N含有量のいずれかが本発明の範囲外であるため、溶接金属の靱性、曲げ延性がいずれも低下した。また、No.15の比較例は、(TiO2+SiO2)/(CaCO3+CaF2)が本発明範囲より低いためアークの安定性が悪く、No.16の比較例は(TiO2+SiO2)/(CaCO3+CaF2)が本発明範囲より高いためシールド性が悪く、No.17の比較例は、CaCO3が本発明範囲より低いためスパッタが多く発生した。No.18の比較例は、(0.73×Cr当量−Ni当量)の値が本発明範囲より低いために、溶接金属が二相凝固となり、凝固結晶粒が粗大化し、溶接金属の靱性、曲げ延性が低下した。また、CaCO3が本発明範囲より高いためスラグの剥離性が悪かった。No.19、No.20の比較例は、フェライト単相凝固であり、(Ti×N)も本発明範囲内で、凝固結晶粒の微細化は見られるが、Al含有量、Ti含有量がそれぞれ本発明の範囲外であるため、溶接金属の靱性、曲げ延性がいずれも低下した。また、No.19の比較例は、SiO2が本発明範囲より低いためスラグの剥離性が悪く、No.20の比較例は、SiO2が本発明範囲より高いためビード形状が悪くなった。
一方、表2のNo.1〜10の本発明例は、成分含有量が本発明の範囲内であるため、比較例に比べ、溶接金属の結晶粒が微細化しており、それにより靱性および延性が著しく優れているとともに、溶接作業性も優れている。
Figure 2010234429
Figure 2010234429
Figure 2010234429
Figure 2010234429
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Claims (3)

  1. ステンレス鋼を心線とし、心線と被覆剤の両方の質量%で、心線中の含有量%+被覆剤中の含有量%×被覆率%/100で示す心線質量%換算で、
    C :0.008〜0.1%、
    Si:0.1〜1.5%、
    Mn:1.0〜6.0%、
    Cr:17.0〜27.0%、
    Ni:1.0〜10.0%、
    Mo:0.1〜3.0%、
    Al:0.002〜0.05%、
    Mg:0.0005〜0.01%、
    Ti:0.001〜0.5%、
    N :0.10〜0.30%
    を含有し、さらに、
    P :0.03%以下、
    S :0.01%以下
    に制限し、かつ、
    0.73×Cr当量−Ni当量≧4.0
    及び
    Ti(質量%)×N(質量%)≧0.0004
    を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする、凝固結晶粒微細化のための二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒。
    但し、
    Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5×Si(質量%)
    Ni当量=Ni(質量%)+0.5×Mn(質量%)+30×C(質量%)
    +30×N(質量%)
  2. 前記二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒の化学成分として、心線中の含有量%+被覆剤中の含有量%×被覆率%/100で示す心線質量%換算で、さらに、Cu:0.1〜2.0%を含有することを特徴とする、請求項1に記載の凝固結晶粒微細化のための二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒。
  3. 被覆剤全質量に対して質量%で、
    TiO2:20〜45%、
    SiO2:1〜10%、
    CaCO3:10〜25%、
    CaF2:2〜12%
    を含有し、かつ上記被覆剤の比率を、
    (TiO2+SiO2)/(CaCO3+CaF2)=1.0〜3.0
    とし、残部は金属酸化物、金属炭酸塩、金属弗化物および不可避的不純物である被覆剤が前記ステンレス鋼心線に被覆されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の凝固結晶粒微細化のための二相ステンレス鋼溶接用被覆アーク溶接棒。
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