JP5450260B2 - 耐高温割れ性に優れた溶接金属 - Google Patents
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また、ガスシールドアーク溶接に適用されるフラックス入りワイヤにより溶接された溶接金属には、溶接金属中に多量の酸素が存在し、Ti窒化物を生成すべく添加したTiの大部分は酸化物として消費されてしまう。そのため、Ti窒化物を生成すべく多量のTiを添加する必要があるが、その場合には、溶接金属中にTiの大部分が溶存し、溶接金属の凝固温度を下げるため、かえって高温割れが発生し易くなってしまう。加えて、靭性などの機械的性質も低下すると共に、多量のTi添加は経済的な観点からも好ましくない。
なお、詳細には、以下の通りである。
なお、ワイヤのTiおよびNのみを増量しただけでは、溶接金属の凝固段階でTi酸化物が生成し、凝固組織を微細化するのに十分なTiNが得られないだけでなく、多量に残存した溶存Tiによって、溶接金属の凝固温度が下がり高温割れが発生しやすくなる。さらに、多量に残存した溶存Nによりブローホールが発生し、溶接金属の靭性値も低下する。よって、ワイヤのTiとNの増量に加え、Alを増量するとともに、Siを低減することで、溶接金属の凝固段階でSi系酸化物が生成することを抑制し、溶接金属の凝固段階で生成する酸化物をAl系酸化物とすることができる。
また、本発明に係る耐高温割れ性に優れた溶接金属は、TiNが溶接金属中に1〜500個/mm 2 存在することを特徴とする。
本発明に係る耐高温割れ性に優れた溶接金属は、鋼製外皮内にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤにより溶接された溶接金属であって、C:0.03〜0.10質量%、Si:0.7質量%以下、Mn:0.5〜3.0質量%、Ti:0.05〜0.50質量%、Al:0.02〜0.10質量%、O:0.03〜0.10質量%、P:0.02質量%以下、S:0.02質量%以下、N:0.010〜0.03質量%、B:0.0003〜0.005質量%、を含有する。さらに、希土類元素:0.0001〜0.01質量%、Ca:0.0001〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.01質量%、からなる群から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。さらに、Mo:0.001〜0.2質量%、Co:0.005〜0.1質量%、Zr:0.001〜0.5質量%、Ni:0.01〜1.0質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。
以下に、本発明に係る耐高温割れ性に優れた溶接金属に含まれる各合金成分を数値限定した理由について説明する。
Cは、溶接金属の焼入れ性を確保するために添加する。C量が0.03質量%未満では、焼入れ性不足により、溶接金属の強度・靭性が不足する。また、低C量により溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。C量が0.10質量%を超えると、溶接金属の固相線温度が低下しすぎるため、凝固組織微細化による溶接金属の耐高温割れ性改善効果を打消し、高温割れが発生しやすくなる。よって、C量は、0.03〜0.10質量%とする。
Siは、後記するP、Sと同様に溶接金属の最終凝固部で低融点の共晶反応を起こし、高温割れを助長する。さらに、脱酸元素でもあり、溶接金属中の介在物をSiを含んだ酸化物とし、凝固組織微細化に効果的なTiNの生成を促進するAl系酸化物の生成を阻害するため、高温割れが発生しやすくなる。よって、Si量は、0.7質量%以下(0質量%を含まない)とする。
Mnは不純物元素として含有されるSと結合してMnSを生成し、耐高温割れ性を改善する効果がある。Mn量が0.5質量%未満では、MnSによる高温割れの抑制作用が小さくなり、溶接部に高温割れが発生する。また、Mn量が3.0質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、溶接部に低温割れが発生する。よって、Mn量は、3.0質量%以下とする。
Tiは、溶接金属の耐高温割れ性を改善するために添加する。TiはTiNを生成することで、溶接金属の凝固組織を微細にし、溶接部の耐高温割れ性を改善するのに不可欠な元素である。Ti量が0.05質量%未満では、上記効果が充分では無く、溶接部に高温割れが発生する。Ti量が0.50質量%を超えると、TiNが生成し凝固組織が微細化し耐高温割れ性は改善するが、Ti量の大部分が溶存し、溶接金属の凝固温度を低下させるため凝固組織微細化による耐高温割れ性改善効果を上回って高温割れが発生しやすくなる。よって、Ti量は、0.05〜0.50質量%とする。
Alは強脱酸剤であり溶接金属中に生成する酸化物系介在物から、Alに比べ脱酸力の弱いSiからなるSiO2やMnからなるMnOやTiからなるTiO2を還元し、酸化物系介在物の組成を凝固組織微細化に効果的なTiNの生成を促進するAl系酸化物に制御できる。その結果、溶接金属の高温割れ抑制作用が改善する。Al量が0.02質量%未満では、上記作用が充分でなく、高温割れが発生する。Al量が0.10質量%を超えると、介在物サイズの粗大なAl系酸化物が増え靭性が低下する。よって、Al量は、0.02〜0.10質量%とする。
Oは溶接金属の凝固組織を微細化するTiNの生成を促進するAl系酸化物を構成する元素であり、溶接金属の耐高温割れ性改善に寄与している。O量が0.03質量%未満では、酸化物量が不足し、凝固組織微細化効果が充分でなく、高温割れが発生する。O量が0.10質量%を超えると、酸化物の個数の増加および粗大化を招き、靭性が低下するため好ましくない。よって、O量は、0.03〜0.10質量%とする。
Pは不純物元素であり、P量が0.02質量%を超えると、著しく耐高温割れ性が劣るため、P量は0.02質量%以下(0質量%を含まない)とする。
Sは不純物元素であり、S量が0.02質量%を超えると、著しく耐高温割れ性が劣るため、S量は0.02質量%以下(0質量%を含まない)とする。
Nは、溶接金属の耐高温割れ性を改善するために添加する。NはTiNを生成し、溶接金属の凝固組織を微細にし、溶接部の耐高温割れ性を改善するのに不可欠な元素である。N量が0.010質量%未満では、上記効果が充分では無く、溶接部に高温割れが発生する。N量が0.03質量%を超えると、溶接金属中にブローホールが発生し、靭性も低下する。よって、N量は、0.010〜0.03質量%とする。
Bはγ粒界に偏析し、初析フェライトの生成を抑制する効果があり、溶接金属の靭性改善に有効である。B量が0.0003質量%未満では、大部分のBがBNとして窒化物に固定化され、初析フェライトの生成を抑制する効果が無く、靭性が低下する。B量が0.005質量%を超えると、溶接金属の凝固温度を著しく低下させ、高温割れが発生しやすくなる。よって、B量は、0.0003〜0.005質量%とする。
残部のFeは、ワイヤの鋼製外皮を構成するFe、ワイヤのフラックスに添加されている鉄粉、合金粉のFe、および母材のFeのうち、少なくともいずれか1つに相当するものである。
残部の不可避的不純物としては、W、Ta、Cr、Cu、Nb、V等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有することが許容される。W量は1.0質量%以下が好ましく、Ta量は0.1質量%以下が好ましく、Cr量は0.5質量%以下が好ましく、Cu量は1.0質量%以下が好ましく、Nb量は0.1質量%以下が好ましく、V量は0.1質量%以下が好ましい。W、Ta、Cr、Cu、Nb、Vが上記値を超えると、溶接金属の強度が大きくなり、靭性が低下するからである。
希土類元素、Ca、Mgはいずれも脱酸力、脱硫力に優れている。優れた脱酸力は、溶接金属中に生成する酸化物系介在物から、脱酸力の弱いSiO2やMnOやTiO2を還元し、酸化物系介在物の組成を凝固組織微細化に効果的なTiNの生成を促進するAl系酸化物に制御できる。その結果、溶接金属の高温割れ抑制作用が改善する。さらに、優れた脱硫力は、不純物元素として含有されるSと結合し硫化物を形成する。これらの効果から、溶接部の耐高温割れ性が改善する。
希土類元素、Ca、Mgが0.0001質量%未満では、上記効果が十分ではない。一方、希土類元素、Ca、Mgが0.01質量%を超えると酸化物の粗大化を招き、靭性が低下するため好ましくない。
Mo、Coはいずれも溶接金属の強度を向上させる効果を有する。必要に応じて強度調整の目的のために含有させることが可能である。上記効果を有するためには、Mo、Coをそれぞれ上記下限濃度以上添加する必要がある。一方、上記上限濃度を超えて添加した場合、溶接金属の強度が過度に大きくなり、靭性が低下する。
Zrは、溶接金属中に炭化物を析出させ、溶接金属の強度を向上させる効果を有する。
必要に応じて強度調整の目的のために含有させることが可能である。上記効果を有するためには、Zrを0.001質量%以上添加する必要がある。一方、0.5質量%を超えて添加した場合、溶接金属の強度が過度に大きくなり、靭性が低下する。
Niは、溶接金属の靭性を向上させるのに極めて有効な効果を有する元素である。上記効果を有するためには、Niを0.01質量%以上添加する必要がある。一方、1.0質量%を超えて添加した場合、溶接金属中のNの飽和溶解度が低下し、ブローホールが発生し、靭性が低下する恐れがある。
TiNは、前述した方法で測定したとき、溶接金属中に1〜500個/mm2存在していることが好ましい。TiNの個数が上記の下限を下回ると、凝固組織微細化効果が充分でなく高温割れが発生する場合がある。一方、TiNの個数が上記の上限を上回ると、破壊時のボイドの起点が過剰となり、靭性が低下する場合があり好ましくない。
なお、TiNの個数の制御は、後記する溶接材料(フラックス入りワイヤ)の組成を制御することで対応することができる。
次に、本発明に係る溶接金属の製造方法について説明する。
(溶接材料)
本発明に係る溶接金属は、溶接材料(フラックス入りワイヤ)の組成を以下のように適切に制御することによって得ることができる。なお、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ突き出し長さ、溶接方法等の溶接条件を適切に制御することが好ましい。
フラックス入りワイヤの詳細な組成は、溶接条件等によっても相違するが、例えば、溶接効率に優れたガスシールドアーク溶接を用いて溶接する場合、所望の成分の介在物が得られるように、フラックス入りワイヤの組成を以下のように制御することが望ましい。すなわち、C:0.02〜0.10質量%、Si:0.05〜1.50質量%、Mn:1.7〜4.0質量%、Ti:0.05〜1.00質量%、TiO2:1.0〜8.0質量%、Al:0.20〜1.50質量%、Al2O3:0.05〜1.0質量%、B:0.003〜0.02質量%、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下、N:0.005〜0.035質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることが好ましい。
上記組成のフラックス入りワイヤの鋼製外皮は、特に限定されず、例えば、C:0.02質量%、Si:0.02質量%、Mn:0.25質量%、P:0.010質量%、S:0.008質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるものを使用することが好ましい。
溶接母材の組成は特に限定されないが、例えば、JIS G3106 SM400B鋼(C:0.12質量%、Si:0.2質量%、Mn:1.1質量%、P:0.008質量%、S:0.003質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物)等を用いることができる。
溶接方法に関しては、溶接効率等を考慮すると、ガスシールドアーク溶接を行うことが好ましい。なお、溶接金属の化学組成は、一般に、フラックス入りワイヤ等の溶接材料のほか、母材の希釈による影響等も受けるが、ガスシールドアーク溶接を行う場合には、その影響は少ない。
ガスシールドアーク溶接の方法は、特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。例えば、シールドガスとしては、100%CO2ガスの他、ArガスとCO2ガスとの混合ガス、ArガスとO2ガスとの混合ガス、ArガスとCO2ガスとO2ガスとの3種類の混合ガス等が用いられる。
ただし、本発明に用いられる溶接方法は、上記のガスシールドアーク溶接法のみに限定されず、例えば、被覆アーク溶接法、ティグ溶接、サブマージアーク溶接法等のいずれの溶接法にも適用可能である。
作製された溶接金属を用いて、以下に示す方法で、高温割れ抑制作用、機械的性質(引張強さ、吸収エネルギー)について評価した。その評価結果に基づいて、実施例および比較例の溶接金属の総合評価を行った。その結果を表6、7に示す。
溶接終了後、初層溶接部(クレータ部を除く)について、X線透過試験(JIS Z 3104)にて、内部割れの有無を確認し、割れ発生部分のトータル長さを測定し、割れ率を算出した。ここで、割れ率は、割れ率W=(割れ発生部分のトータル長さ)/(初層溶接部長さ(クレータ部を除く))×100により算出される。その割れ率で耐高温割れ性を評価した。
なお、耐高温割れ性の評価基準については、割れ率0%のときを耐高温割れ性が良好とし、割れ率が0%を超えるときを不良とした。
JIS Z3313に準じて、引張強さ、0℃吸収エネルギー(靭性)について評価した。
引張強さの評価基準は、490MPa以上640MPa以下のときを良好とし、490MPa未満または640MPa超のときを不良とした。また、0℃吸収エネルギーの評価基準は、60J以上のときを良好とし、60J未満のときを不良とした。
総合評価の評価基準は、前記評価項目のうち、耐高温割れ性が良好であり、機械的性質が良好であるときを、溶接金属として優れている:「○」とし、前記評価項目の少なくとも1つが不良であるときを、溶接金属として劣っている:「×」で示した。
一方、表5、7に示すように、比較例23〜39は、本発明の規定するいずれかの要件を満たさないため、良好な結果とならなかった。
比較例No.26は、Mn量が上限値を超えるため、機械的特性が劣っていた。一方、比較例No.27は、Mn量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣っていた。
比較例No.30は、Al量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣っていた。一方、比較例No.31は、Al量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣っていた。
なお、比較例No.32は、ワイヤの化学組成として、酸素源となるTiO2、Al2O3の添加量が多く、脱酸剤であるTi、Al添加量が少ないため脱酸不足となり、溶接金属中の酸素濃度が上限値を越える結果となった。一方、比較例No.33は、ワイヤの化学組成として、酸素源となるTiO2、Al2O3の添加量が少なく、脱酸剤であるTi、Al添加量が多いため十分に脱酸され、溶接金属中の酸素量が下限値未満となる結果となった。
比較例No.35は、S量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣っていた。
比較例No.36は、N量が上限値を超えるため、溶接金属にブローホールが発生し機械的性質に劣っていた。一方、比較例No.37は、N量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣っていた。
比較例No.38は、B量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣っていた。一方、比較例No.39は、B量が下限値未満であるため、機械的性質に劣っていた。
2 耐火物
3 裏当て材
Claims (4)
- 鋼製外皮内にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤにより溶接された溶接金属であって、
C:0.03〜0.10質量%、Si:0.7質量%以下、Mn:0.5〜3.0質量%、Ti:0.05〜0.50質量%、Al:0.02〜0.10質量%、O:0.03〜0.10質量%、P:0.02質量%以下、S:0.02質量%以下、N:0.010〜0.03質量%、B:0.0003〜0.005質量%、を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする耐高温割れ性に優れた溶接金属。 - さらに、希土類元素:0.0001〜0.01質量%、Ca:0.0001〜0.01質量%、Mg:0.0001〜0.01質量%、からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐高温割れ性に優れた溶接金属。
- さらに、Mo:0.001〜0.2質量%、Co:0.005〜0.1質量%、Zr:0.001〜0.5質量%、Ni:0.01〜1.0質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐高温割れ性に優れた溶接金属。
- TiNが溶接金属中に1〜500個/mm 2 存在することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の耐高温割れ性に優れた溶接金属。
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