JP2019058938A - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法 - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶接作業性に優れ、低温割れ及び凝固割れを抑制し、さらに、適正な強度及び靭性を有する溶接金属が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供する。【解決手段】本発明の一態様に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、合金成分としてC:0.001〜0.120%、Si:0.40〜1.60%、Mn:1.5〜2.5%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.05〜0.50%、Ti:0.04〜0.30%、及びAl:0.200%以下を含有し、さらに、弗化物:0.100%超0.300%以下、Si酸化物:0.01〜0.40%、及びNa化合物及びK化合物:合計で0.060〜0.350%を含有し、残部が鋼製外皮、鉄粉、及び鉄合金粉のいずれか一種以上の形態としてのFeと不純物とからなる。【選択図】なし

Description

本発明は、ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法に関する。
溶接に関する技術分野において、溶接施工の能率向上を図るために、溶接用ソリッドワイヤを溶接材料として用いた高電流域でのガスシールドアーク溶接が従来から行われている。溶接用ソリッドワイヤを用いた高電流溶接では、1層毎の溶着量を多くすることができるので、溶接の高能率化が可能である。
しかし、溶接用ソリッドワイヤを用いた高電流溶接では、アークが不安定であるためにスパッタ発生量が多く、ビード外観及びビード形状が不良である等の、溶接作業性が悪いという問題がある。また、溶接用ソリッドワイヤを用いた高電流溶接では、スパッタが大粒になるので、鋼板表面に付着したスパッタの除去作業が困難であり、作業効率も不良になるという問題があった。特に100%COガスをシールドガスとして用いた溶接においては、スパッタの発生に起因する問題が深刻となる。COガスは、安価であるので溶接コストの削減に寄与するが、スパッタを発生させやすいという欠点を有する。このような事情により、COガスをシールドガスとするガスシールドアーク溶接においても、スパッタ発生量を抑制可能な溶接材料の実用化が望まれている。
これらの問題を解決する手段として、スパッタ発生量が少ないガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの開発が試みられている。例えば特許文献1には、ワイヤ表面にワイヤ10kg当たり二硫化モリブデンを0.005〜0.50g、リン脂質を0.008〜0.15g含み残部は常温で液体の潤滑油からなる潤滑剤を合計で0.5〜2.5g有するので、ワイヤ送給性が良好でスパッタ発生量が少なく、さらにチップの摩耗が少なくアークの安定性が良いなど溶接作業性に優れているとされる、高電流炭酸ガスシールドアーク溶接用銅めっきワイヤを提供する技術が開示されている。また特許文献2には、素線中の表面近傍に2種類以上のアルカリ金属が含浸したアルカリ金属含浸部を有することでスパッタ発生量を低減できるとされる溶接用ソリッドワイヤが開示されている。
上述の技術によるソリッドワイヤは、従来のソリッドワイヤよりもスパッタ量を低減したと認められるものである。しかし、上述の技術によるソリッドワイヤは、Ar−CO混合ガス又はCOガスをシールドガスとするガスシールドアーク溶接に供することが可能な程度にスパッタ量を低減できるものではない。
また近年では、更なる溶接施工の高能率化を目的として、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件に対応するガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが開発されており、その具体的な仕様がJIS Z3312 YGW18に規定されている。このようなガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤでは、溶接金属の強度及び靭性の低下を招くことなく溶接施工が可能な条件として、引張強さが490MPa級の高張力鋼に対して、最大入熱40kJ/cm、最高パス間温度350℃の溶接施工条件が許容される。また、引張強さが520MPa級の高張力鋼に対しては、最大入熱30kJ/cm、最高パス間温度250℃の溶接施工条件が許容される。
このような大入熱・高パス間温度の溶接施工条件に対応したガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤとして、例えば特許文献3〜5等にあるように、ワイヤ中にMo、Cr等を多く含有したものが提案されている。これらソリッドワイヤによれば、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても、溶接金属の強度及び靭性を確保することが可能である。
しかし、上述のソリッドワイヤを用いた溶接においても、アークが不安定であるためにスパッタ発生量が多く、ビード外観及びビード形状が不良である等の、溶接作業性が悪いという問題があった。
大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で溶接金属の強度及び靭性を確保しつつ、溶接作業性が良好なガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、例えば特許文献6、7には、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件の下で、良好な溶接作業性が得られるとともに、機械的性能に優れた溶接金属が得られるフラックス入りワイヤが開示されている。
しかし、これらのフラックス入りワイヤでは、従来の溶接用ソリッドワイヤでの高電流溶接と比較するとスパッタ発生量を相対的に低減できるものの、やはりCOガスをシールドガスとするガスシールドアーク溶接に供することが可能な程度にスパッタ量を低減できるものではない。また、これらのフラックス入りワイヤでは、スラグ発生量が多くなるので、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなるという問題があった。
上述された溶接の高能率化、及び溶接作業性の確保という課題に加え、近年は、凝固割れの抑制をすることも溶接材料に求められるようになった。凝固割れとは、高温割れ(溶接部の凝固温度範囲、又はその直下のような高温で発生する割れ)の一種であり、溶接金属が凝固時の収縮応力に耐え切れずに開口することによって発生する割れである。耐摩耗鋼の溶接においては、凝固割れが生じやすい。従って、耐摩耗鋼の需要の増大に伴い、耐摩耗鋼のような凝固割れを生じさせやすい鋼板の溶接に適用されたとしても凝固割れの発生を抑制可能な溶接材料が求められている。
さらに、低温割れの抑制をすることも溶接材料に求められる。低温割れとは、溶接後、溶接部の温度が常温付近に低下してから溶接部に発生する割れの総称であり、ビード下割れ、及び止端割れなどは、低温割れに属する。低温割れの発生は、溶接前に溶接部に予熱を行うことによって抑制することができる。例えば、建設機械に用いられる耐摩耗鋼の溶接では50〜200℃での予熱が必要とされることが通常である。しかし、予熱工程によって溶接作業に要する時間が多くなり、作業効率及び作業コストが著しく増大する。従って、予熱工程を省略するか、又は軽減することが可能な溶接材料が求められている。
しかしながら、溶接の高能率化及び溶接作業性の確保を行いながら低温割れ及び凝固割れの抑制をも可能である溶接材料は得られていない。例えば、特許文献8では、大電流の溶接施工条件においてもアークが安定しスパッタ発生量が少なく、優れた機械的性能の溶接金属が得られるとされるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。しかしながら、特許文献8においては低温割れの抑制に関してなんら検討されていない。特許文献8に記載のフラックス入りワイヤの化学成分によれば、低温割れ発生因子である溶接金属中の拡散性水素量を減少させることができないと考えられる。
特開2006−95551号公報 特開2009−255142号公報 特開平10−230387号公報 特開平11−90678号公報 特開2001−287086号公報 特開2005−279683号公報 特開2011−25298号公報 特開2016−203234号公報
そこで本発明は、上述した問題点を解決するために案出されたものであり、溶接作業性に優れ、低温割れ及び凝固割れを抑制し、さらに、適正な引張強さ及び靭性を有する溶接金属が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮と、前記鋼製外皮に充填されたフラックスとを備え、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、合金成分としてC:0.001〜0.120%、Si:0.40〜1.60%、Mn:1.50〜2.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.05〜0.50%、Ti:0.04〜0.30%、及びAl:0.200%以下を含有し、さらに、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、弗化物:F換算値の合計で0.100%超0.300%以下、Si酸化物:SiO換算値で0.01〜0.40%、及びNa化合物及びK化合物:Na換算値及びK換算値の合計で0.060〜0.350%を含有し、残部が鋼製外皮、鉄粉、及び鉄合金粉のいずれか一種以上の形態としてのFeと不純物とからなる。
(2)上記(1)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、前記合金成分としてNi:0%以上0.80%未満、Mo:0〜0.50%、B:0〜0.0100%、Mg:0〜0.50%、及びSn:0〜0.40%からなる群から選択される一種以上をさらに含有してもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、Ca化合物:Ca換算値で0〜0.300%であってもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記鋼製外皮が、前記鋼製外皮の全質量に対する質量%で、前記合金成分としてAl:0.003〜0.200%を含有してもよい。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、Zr化合物:Zr換算値で0〜0.30%をさらに含有してもよい。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記鋼製外皮がシームレス形状であってもよい。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮の外表面に送給潤滑剤をさらに備え、前記送給潤滑剤の、前記フラックス入りワイヤ10kg当たりの量が0.20〜1.00gであってもよい。
(8)本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法は、上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて鋼板をガスシールドアーク溶接する。
上述した構成からなる本発明によれば、アークの安定性及びビード外観・形状が優れ、スパッタ発生量が少なく、スラグ量が少なく溶接欠陥が防止できるなど溶接作業性が良好で、低温割れ防止のための予熱工程を軽減又は省略することができ、凝固割れが抑制され、さらに、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても溶接金属の引張強さ及び靭性を十分に確保し、高品質な溶接金属を得ることができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供することができる。
本発明者らは、例えば耐摩耗鋼のような凝固割れを生じさせやすい鋼板の溶接においても凝固割れを抑制可能であり、COガスのようなスパッタを生じさせやすいガスをシールドガスとして用いた場合でもスパッタ発生量を抑制可能であり、予熱を省略又は軽減した場合でも低温割れを抑制可能であり、且つ十分な機械特性を有する溶接金属を作製可能である溶接材料について鋭意検討した。その結果、以下の知見を得た。
凝固割れに関して本発明者らは、母材である耐摩耗鋼から溶融金属に溶接中に移行するCが、凝固割れの因子となるので、溶接材料のC含有量を低減させることによって凝固割れを抑制可能であることを知見した。具体的には、合金成分として含まれるCの含有量を、溶接材料であるフラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.120%以下とすることで、炭素量が多い耐摩耗鋼の溶接においても凝固割れを抑制可能であることを知見した。ただし、フラックス入りワイヤのC含有量を減少させると、溶接金属の引張強さが低下し、母材と溶接金属との強度バランスが崩れる。従って、後述するようにC以外の合金元素を好ましく制御して、溶接金属の引張強さを保つ必要がある。
低温割れ防止に関し、本発明者らは、フラックスに弗化物を含有させることが有効である旨を知見した。溶接時にHAZに低温割れを生じさせる因子は、HAZの硬さ、継手拘束力、及び溶接金属中の拡散性水素量である。本発明者らは、フラックス中の弗化物が、低温割れを生じさせる因子の一つである溶接金属の拡散性水素量を減少させて、溶接金属の耐低温割れ性を顕著に向上させる働きを有することを知見した。この理由は明らかではないが、弗化物中のFと水素(H)とが溶接中に結合して弗化水素(HF)となり、このHFが溶接金属外に放出されるからであると推測される。ただし、フラックス中の弗化物は、溶接時にスパッタ量を増大させる。
溶接作業性の確保に関し、本発明者らは、上述の拡散性水素量の低減効果を確保できる範囲内で、スパッタ量増大因子である弗化物、酸化物、及び一部の合金元素の量を可能な限り低減することにより、スパッタ量を許容範囲内まで低減できることを知見した。溶接金属の機械特性に関し、本発明者らは、Mn、Si、Ti等の元素を活用してCの不足を補填し、且つ靱性を確保することが可能であることを知見した。
本発明の実施形態に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、上述の本発明者らの知見に基づき、各成分組成それぞれの単独及び共存による相乗効果によりなし得たもので、以下にそれぞれの各成分組成の限定理由を述べる。なお、各成分組成の含有量は、特に断りが無い限り、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して表すこととする。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮と、この鋼製外皮に充填されたフラックスとを備え、「フラックス入りワイヤの全質量」とは、鋼製外皮の質量とフラックスの質量との合計値である。以下に挙げる成分は、合金成分として(即ち、酸化物又は弗化物ではない状態として)フラックス入りワイヤに含まれる場合、鋼製外皮に含まれても、鋼製外皮の表面のめっきとして含まれても、金属粉又は合金粉としてフラックスに含まれても良い。一方、酸化物又は弗化物としてフラックス入りワイヤに含まれる成分は、フラックス中に含まれる。
まず、フラックス入りワイヤの合金成分について説明する。以下に説明するC、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Mo、Ti、Al、B、及びMgの含有量は、合金成分(即ち、酸化物、弗化物、又は炭酸塩の形態ではなく、単体金属または合金として存在する成分。P及びSも、便宜上、合金成分に含まれるものとする)としてフラックス入りワイヤ中に存在するこれら元素の含有量を意味する。特に断りが無い限り、以下に説明する合金成分の数値範囲は、酸化物及び弗化物の形態でフラックス入りワイヤに含まれる元素の含有量を含まない。
[C:0.001〜0.120%]
Cは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、固溶強化により溶接金属の強度を向上させる。一方、C含有量が過剰であると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が低下する。また、Cは高温割れ感受性を高くし、特に凝固割れの発生因子として働く。例えば耐摩耗鋼のような高炭素鋼の溶接に本実施形態に係るフラックス入りワイヤが適用された場合であっても、凝固割れの発生を確実に防ぐためには、フラックス入りワイヤのC含有量を0.120%以下に抑制する必要がある。従って、C含有量は0.001〜0.120%とする。溶接金属の強度を高める必要がある場合、C含有量の下限値を0.010%、又は0.020%としてもよい。一方、凝固割れの防止を一層確実とする必要がある場合、C含有量の上限値を0.100%、又は0.080%としてもよい。
[Si:0.40〜1.60%]
Siは、合金元素、酸化物、及び弗化物からなる群から選択される一種以上の態様でフラックス入りワイヤに含まれ、合金成分としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、溶接金属の脱酸元素として働く。さらに合金元素としてのSiは、溶接金属に溶け込んで強度向上元素としても働く。合金成分としてのSiのうち脱酸元素として働いたものはSiO等として溶接金属の外部に排出されるが、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、さらに適量のSiを溶接金属に歩留まらせて、溶接金属の強度を確保する必要があるのである。
以上の事情に鑑みて、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、Si含有量が0.40〜1.60%の範囲内とされる。Siが0.40%未満であると、溶接金属中の酸素量が増大し、さらに溶接金属の焼入れ性が不足するので、溶接金属の強度及び靭性が低下する。一方、Siが1.60%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が安定して得られない。また、Siが1.60%を超えると、生成スラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。Si含有量の下限値を0.50%、又は0.60%としてもよい。Si含有量の上限値を1.40%、又は1.50%としてもよい。
[Mn:1.50〜2.50%]
Mnは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、溶接金属の靭性確保及び強度向上に寄与する。Mn含有量が1.50%未満であると、溶接金属の強度及び靭性が不足する。一方、Mn含有量が2.50%を超えると、溶接金属の靭性が安定して得られない。また、Mn含有量が2.5%を超えると、生成スラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなるとともにスパッタも増加する。従って、Mn含有量は1.50〜2.50%とする。Mn含有量の下限値を1.60%、又は1.70%としてもよい。また、Mn含有量の上限値を2.30%、又は2.40%としてもよい。
[P:0.030%以下]
[S:0.030%以下]
P及びSは、溶接金属の靱性を損ね、溶接金属の割れ発生を助長する一方で、有利な効果を有しない。従って、本実施形態に係るフラックス入りワイヤはP及びSを含む必要がなく、P及びSの含有量の下限値は0%である。しかしながら、鋼製外皮及びフラックス中に不純物としてP及びSが含まれる場合がある。P及びSは可能な限り除去されるべきであるが、0.030%以下のP及び0.030%以下のSの含有は許容される。P及びSそれぞれの上限値を0.020%、又は0.025%としてもよい。
[Cu:0.05〜0.50%]
Cuは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、析出強化作用を有し、溶接金属の変態温度を低下させることにより溶接金属の組織を微細化して、溶接金属の靭性を安定させる。Cu含有量が0.05%未満であると、溶接金属の靭性が不足する。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、析出脆化が生じて溶接金属の靭性が低下し、また、高温割れが発生しやすくなる。従って、Cu含有量は0.05〜0.50%とする。Cu含有量の下限値を0.10%、又は0.15%としてもよい。また、Cu含有量の上限値を0.40%、又は0.45%としてもよい。
[Ti:0.04〜0.30%]
Tiは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中にTiの微細酸化物を生成し、この微細酸化物が溶接金属の組織を微細化して溶接金属の靭性を一層向上させる。Ti含有量が0.04%未満であると、溶接金属の靭性が不足する。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、溶接金属中の固溶Tiが多くなり、溶接金属の靭性が不足する。また、Tiが0.30%を超えると溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、Ti含有量は0.04〜0.30%とする。Ti含有量の下限値を0.08%、又は0.12%としてもよい。また、Ti含有量の上限値を0.25%、又は0.27%としてもよい。
[Ni:0%以上0.80%未満]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてNiの含有は必須ではなく、従ってその含有量の下限値は0%である。しかしNiは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、溶接金属の靱性を高める効果を有する。従って、Ni含有量の下限値を0.15%、又は0.20%としてもよい。一方、0.80%以上のNiの含有は、コスト増大を招く。従って、Ni含有量は0.80%未満とすることが好ましい。Ni含有量の上限値を0.60%、又は0.70%としてもよい。
[Mo:0〜0.50%]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてMoの含有は必須ではなく、従ってその含有量の下限値は0%である。しかしMoは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、溶接金属の焼入れ性を高め、溶接金属の引張強さの確保に寄与する。従って、Mo含有量の下限値を0.05%、又は0.10%としてもよい。一方、0.50%超のMoは、溶接金属を過剰に硬化させることにより、溶接金属の靱性を損なう場合がある。従って、Mo含有量の上限値は0.50%とすることが好ましい。Mo含有量の上限値を0.40%、又は0.45%としてもよい。
[B:0〜0.0100%]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてBの含有は必須ではなく、従ってその含有量の下限値は0%である。しかしBは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれた場合、溶接金属の焼入れ性を高め、溶接金属の引張強さの確保に寄与する。従って、B含有量の下限値を0.00009%、又は0.00013%としてもよい。一方、0.0100%超のBは、溶接金属を過剰に硬化させることにより、溶接金属の靱性を損なう場合がある。従って、B含有量の上限値は0.0100%とすることが好ましい。B含有量の上限値を0.0060%、又は0.0080%としてもよい。
[Al:0.200%以下]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてAlの含有は必須ではない。従ってその含有量の下限値は0%である。Al含有量が0.200%を超えると、アークが不安定となり、スパッタ発生量が増加する。従って、Alの含有量は0.200%以下とする。ただし、極少量含まれるAlは、ビード形状を改善する効果を有するので、Al含有量の下限値を0.004%、又は0.006%としてもよい。なお、鋼製外皮の全質量に対する質量%で、鋼製外皮が0.003〜0.100%、又は0.003〜0.200%のAlを含む場合がある。鋼製外皮に含まれるAlはビード形状を改善する効果を有する。
[Mg:0〜0.50%]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてMgの含有は必須ではない。従ってMgの含有量の下限値は0%である。しかしMgは、合金元素としてフラックス入りワイヤに含まれる場合、脱酸効果を有し、これにより溶接金属の酸素量を低減して溶接金属の靱性を向上させるため、0.06%以上含有させることが望ましい。従って、Mg含有量の下限値を0.03%、又は0.06%としてもよい。一方、Mg含有量が0.50%を超えると、生成スラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、Mg含有量の上限値を0.50%とする。Mg含有量の上限値を0.20%、又は0.35%としてもよい。
[Sn:0〜0.40%]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてSnの含有は必須ではなく、従ってその含有量の下限値は0%である。しかし、Snは溶接金属の耐食性を向上させる働きがあるので、Sn含有量の下限値を0.07%としてもよい。一方、Sn含有量が0.40%を超える場合、液体金属脆化割れが生じるおそれがある。従って、Sn含有量の上限値を0.40%とする。Sn含有量の上限を0.35%、又は0.30%としてもよい。
次に、フラックス入りワイヤの化合物成分について説明する。
[Si酸化物:SiO換算値で0.01〜0.40%]
また、Siは、珪砂(SiO)、ジルコンサンド(ZrSiO)、珪酸ソーダ(NaSiO)、及び珪酸カリウム(KSiO)等のSi酸化物としてフラックス入りワイヤのフラックスに含まれた場合、溶融スラグの粘性を高めてスラグ被包性を向上させてビード止端部のなじみを良好にし、ビード外観及び形状を良好にする働きを有する。
以上の事情に鑑みて、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、Si酸化物の量がSiO換算値で0.01〜0.40%の範囲内とされる。Si酸化物の量がSiO換算値で0.01%未満であると、溶接ビードのビード止端部のなじみが悪くなり、ビード外観及びビード形状が悪くなる。Si酸化物の量がSiO換算値で0.40%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。Si酸化物含有量の下限値をSiO換算値で0.02%、又は0.05%としてもよい。Si酸化物含有量の上限値をSiO換算値で0.35%、又は0.30%としてもよい。
なお、「フラックス入りワイヤ中のSi酸化物のSiO換算値」とは、フラックス入りワイヤ中のSi酸化物に含まれるSiが全てSiOであると見なした場合の、SiOのフラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を意味する。フラックス入りワイヤ中のSi酸化物のSiO換算値は、フラックス入りワイヤに含まれるSi酸化物を構成するSiの量を求め、これに2.14(=(28.1+16.0×2)/28.1、28.1はSiの原子量であり、16.0は酸素の原子量である)を乗じることにより得られる。
[Na化合物及びK化合物:Na換算値とK換算値との合計で0.060〜0.350%]
NaO、及びNaSiO等の酸化物としてフラックス入りワイヤに含有されたNa、並びにKO、及びKSiO等の酸化物としてフラックス入りワイヤに含有されたKは、アークを安定化して、スパッタ量を抑制する働きを有する。また、Naは後述するNaF等の弗化物として、Kは後述するKSiF等の弗化物として含まれた場合はアークを安定化する働きを持つ。また、Na弗化物及びK弗化物は拡散性水素量の低減にも寄与するが、これは後述されるFの効果として理解される。Na化合物及びK化合物は、珪酸ソーダ及び珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分、KSiO、NaSiO、NaF、及びKSiF等の粉末の形態で含有させることができる。
以上の効果を得るために、本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいては、Na化合物及びK化合物の合計含有量(Na+K)をNa換算値とK換算値との合計で0.060%以上とする必要がある。一方、Na換算値とK換算値との合計が0.350%を超える場合、アークが強くなりすぎてスパッタ量が増加する。また、Na換算値とK換算値との合計が0.350%を超える場合、ビード止端部のなじみが悪くなり、ビード外観及びビード形状が不良となる。さらに、Na換算値とK換算値との合計が0.350%を超える場合、生成スラグ量が多くなり、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、Na換算値とK換算値との合計値を0.350%とする。Na換算値及びK換算値の合計の下限値を0.080%、又は0.100%としてもよい。また、Na換算値及びK換算値の合計の上限値を0.250%、又は0.300%としてもよい。
なお、「フラックス入りワイヤ中のNa化合物のNa換算値」とは、フラックス入りワイヤ中のNa化合物に含まれるNaの、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を意味し、「フラックス入りワイヤ中のK化合物のK換算値」とは、フラックス入りワイヤ中のK化合物に含まれるKの、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を意味する。後述する「フラックス入りワイヤ中の弗化物のF換算値」及び「フラックス入りワイヤ中のCa化合物のCa換算値」も、同様に、フラックス入りワイヤ中の弗化物に含まれるFのフラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量、及びフラックス入りワイヤ中のCa化合物に含まれるCaのフラックス入りワイヤの全質量に対する質量%での含有量を示す。
[弗化物:F換算値の合計で0.100%超0.300%以下]
Fは、CaF、NaF、LiF、MgF、KSiF、KZrF6、NaAlF、AlF等の弗化物としてフラックス入りワイヤに含有され、溶接金属の拡散性水素量を低減して低温割れを防止する効果を有する。F含有量が0.10%以下である場合、低温割れを十分に抑制することができない。また、NaF、NaAlF、AlF、KSiF、及びMgF等は、含有量が適切であれば、アーク安定剤としての働きも有する。一方、弗化物はスパッタを増大させる働きを有し、特にF含有量が0.300%を超えると、アークが荒く不安定になり、スパッタ発生量が許容上限を超える。従って、F含有量は0.100%超0.300%以下とする。F含有量の下限値を0.110%、または0.120%としてもよい。F含有量の上限値を0.250%、または0.270%としてもよい。
[Ca化合物:好ましくはCa換算値で0〜0.300%]
Caは、上述のように弗化物、又はCa酸化物のようなCa化合物としてフラックス入りワイヤに含まれる場合がある。ただし、Ca化合物はスパッタ量を特に増大させやすい化合物である。Ca化合物がフラックス入りワイヤに含まれないことが好ましく、その含有量の下限値は、フラックスワイヤの全質量に対するCa換算値で0%である。但し、Ca化合物が不純物としてフラックス中に混入する場合がある。不純物としてのCa化合物は、フラックスワイヤの全質量に対するCa換算値で約0.300%まで含有を許容される。Ca化合物の含有量の上限値をフラックスワイヤの全質量に対するCa換算値で0.200%、又は0.150%としてもよい。
[Zr化合物:Zr換算値で0〜0.30%]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいてZr化合物の含有は必須ではない。従ってZr化合物の含有量の下限値は0%である。しかし、Zr化合物は、フラックス入りワイヤに含まれる場合、脱酸効果を有しておりこれにより溶接金属の酸素量を低減させる。また、Zr化合物にはビード止端部の形状を改善する効果がある。このため、0.06%以上のZr化合物を含有させても良い。一方、Zr化合物の含有量が0.30%を超えると、生成スラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、Zr化合物の含有量の上限値は0.30%とされる。Zr化合物の含有量の上限値を0.20%、又は0.25%としてもよい。Zr化合物は、ZrSiOやKZrFなどとして含有される。
なお、本実施形態に係るフラックス入りワイヤの成分である弗化物、Si酸化物、Na化合物、K化合物、Ca化合物、及びZr化合物のうち2以上に該当する化合物の含有量は、その化合物が属する物質それぞれの含有量に算入することとする。例えばZrSiOはZr化合物に該当し、且つSi酸化物にも該当するが、ZrSiOがフラックス入りワイヤに含まれる場合、ZrSiOの含有量は、Zr化合物の含有量(Zr換算値)、及びSi酸化物の含有量(SiO換算値)のいずれにも算入するものとする。換言すると、ZrSiOの含有量のうちZrが占める部分が、Zr化合物の含有量(Zr換算値)に算入され、ZrSiOの含有量のうちSiが占める部分が、Si酸化物の含有量(SiO換算値)に算入される。同様に、KZrFがフラックス入りワイヤに含まれる場合、KZrFの含有量は、Zr化合物の含有量(Zr換算値)、K化合物の含有量(K換算値)及び弗化物の含有量(F換算値)のいずれにも算入するものとする。
[残部:Fe及び不純物]
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分の残部は、Fe及び不純物である。Feは、鋼製外皮、充填率調整用の鉄粉、及び合金元素量制御用の鉄合金粉からなる群から選択されるいずれか一種以上の形態としてフラックス入りワイヤに含まれることとなる。鉄粉の種類は特に限定されないが、溶接金属の酸素量の増加を抑制するためにアトマイズ鉄粉が望ましい。不純物とは、本実施形態に係るフラックス入りワイヤを工業的に製造する際に、原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係るフラックス入りワイヤに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば不純物として鋼製外皮の製鋼時に含有されうるAlは、上述されたように溶接金属中に非金属介在物を形成して靭性を低下させるので少ない方が好ましいが、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.200%以下であれば許容される。P及びSは、上述されたように溶接金属の靭性を低下させるが、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.030%以下であれば許容される。Nは、固溶Nとして溶接金属に含まれた場合に溶接金属の靭性を損なうが、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で0.01%以下であれば許容される。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいて、フラックス充填率(フラックス入りワイヤの全質量に対するフラックスの全質量の割合)は特に限定しないが、生産性の観点から8〜20%とするのが好ましい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成型し、その内部にフラックスを充填し、次いで鋼製外皮の継ぎ目を溶接するか又はかしめることにより得られる。従って、フラックス入りワイヤの種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継目の無い形状(いわゆるシームレス形状)であるフラックス入りワイヤと、鋼製外皮に合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継目を有するフラックス入りワイヤとに大別できる。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいては、何れの断面構造のワイヤをも採用することができる。しかし、鋼製外皮に継目を有するワイヤは低温割れを生じさせやすい。継ぎ目からフラックス入りワイヤ中に水分が侵入し、この水分が水素源となって溶接金属の拡散性水素量を増大させる場合があるからである。一方、鋼製外皮に継目が無いワイヤは、ワイヤ中の全水素量を低減することを目的とした熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、一層好ましい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮の外表面に送給潤滑剤をさらに備えてもよい。フラックス入りワイヤの表面の送給潤滑剤は、特に半自動溶接の場合にフラックス入りワイヤの送給性を良好にして、アークが安定でスパッタの発生量を少なくするとともに、溶接欠陥の発生を防止する。送給潤滑剤の塗布量は特に限定されないが、例えばワイヤ10kgあたり0.20〜1.00gとすることが好ましい。フラックス入りワイヤの表面の送給潤滑剤の量がワイヤ10kg当たり0.20g未満であると、ワイヤ送給性が不良となりアークが不安定でスパッタ発生量が多くなる場合がある。また、この場合、スラグ巻込み欠陥が生じやすくなる場合がある。一方、フラックス入りワイヤ表面の送給潤滑剤がワイヤ10kg当たり1.00gを超えると、送給ローラ部でフラックス入りワイヤがスリップして、アークが不安定となってスパッタ発生量が多くなる場合がある。また、この場合、溶接金属の拡散性水素量が多くなって低温割れが生じやすくなる場合がある。
送給潤滑剤は、動植物油、鉱物油あるいは合成油の何れでもよい。動植物油としてはパーム油、菜種油、ひまし油、豚油、牛油、魚油等を、鉱物油としてはマシン油、タービン油、スピンドル油等を用いることができる。合成油としては炭化水素系、エステル系、ポリグリコール系、ポリフェノール系、シリコーン系、フロロカーボン系を用いることができる。さらに、油脂またはエステルの1種以上の基油に硫黄を含有する硫化油脂、硫化エステル、硫化脂肪酸または硫化オレフィンの1種または2種以上である硫黄含有の潤滑油を用いることもできる。なお、上述したフラックス入りワイヤの成分規定は、フラックス入りワイヤの鋼製外皮及びフラックスに関するものであり、送給潤滑剤の成分は含まない。送給潤滑剤の塗布量はフラックス入りワイヤの質量に対して非常に小さいので、フラックス入りワイヤの成分を規定するにあたり、送給潤滑剤は実質的な影響を有しない。
次に、本実施形態に係る溶接継手の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、上述された本実施形態に係るフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することを特徴とする。本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、溶接作業性が良好であり、低温割れ防止のための予熱工程を軽減又は省略することができ、凝固割れが抑制され、さらに、溶接金属の強度及び靭性を十分に確保することができる。
本実施形態に係る溶接継手の製造方法において、溶接条件は特に限定されず、通常の範囲内から適宜選択可能である。例えば、シールドガス種は特に限定されずArとCOとの混合ガスでも効果はあるが、安価な100%COガスとした場合、特に従来技術に対する顕著な効果を奏する。スパッタ量を許容範囲内に抑制しながら、溶接コストを削減することができるからである。また、溶接継手の母材は特に限定されないが、耐摩耗鋼のような炭素量が多く凝固割れが生じやすい鋼材である場合、特に従来技術に対する顕著な効果を奏する。本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、従来の方法よりも効果的に凝固割れを抑制することができるからである。
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
低炭素鋼又は極低炭素鋼(C :0.001〜0.08%)を鋼製外皮として使用し、鋼製外皮を成形する工程でU字型に成形した後、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継目が無いワイヤ(シームレスワイヤ)を造管して伸線し、表に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。鋼製外皮のAl含有量は、鋼製外皮の全質量に対する質量%で0.20%以下であった。鋼製外皮の外表面には、フラックス入りワイヤ10kg当たりの量が0.20〜0.60gとなるように送給潤滑剤を塗布した。フラックスには、充填率調整のために鉄粉(アトマイズ鉄粉)を適宜添加した。ワイヤ径は1.2mmとした。また、フラックスを含まない中実のソリッドワイヤも、本発明の効果を確認するために作成し、評価した。ソリッドワイヤは、所定の化学成分を有する原材料を伸線及び焼鈍することによって得られた。
表に記載の「F換算値」は、溶接材料に含まれる弗化物のF換算値であり、「SiO」は、溶接材料に含まれるSi酸化物のSiO換算値であり、「Na+K」は、溶接材料に含まれるNa化合物のNa換算値と、K化合物のK換算値との合計値であり、「Ca」は、溶接材料に含まれるCa化合物のCa換算値であり、「Zr」は、溶接材料に含まれるZr化合物のZr換算値である。なお、上述の項目のうち2以上に該当する物質の含有量は、その物質が属する項目それぞれの値に算入した。例えば、Zr化合物及びSi酸化物の何れにも該当するZrSiOの含有量は、Zr化合物のZr換算値にもSi酸化物のSiO換算値にも算入した。本発明で規定される範囲から外れる数値、又は本発明の合否基準に満たない値には下線を付した。また、化学成分や化合物などの含有量に係る表中の空欄は、その化学成分や化合物などが意図的に添加されていないことを意味する。
Figure 2019058938
Figure 2019058938
表に示す試作した溶接材料(フラックス入りワイヤ及びソリッドワイヤ)を用いて、溶接作業性、スパッタ発生量の測定、溶接欠陥の有無及び溶接金属性能の調査を行った。
溶接金属性能は、表に示す溶着金属試験条件に従った溶接を実施することにより実施した。なお、溶接時のワイヤ送給は6m長さのコンジットケーブルを用いた。各項目の具体的な評価方法は以下の通りである。
引張強さは、JIS Z3111に準じて製造した溶着金属からA0号引張試験片を採取し、これに引張試験を行うことによって測定した。490MPa以上の引張強さを有する溶着金属が得られる溶接材料を、引張強さに関して合格と判定した。
溶接金属の靱性は、上述の手順で得られた溶着金属部から衝撃試験片を採取し、0℃でシャルピー衝撃試験を行うことによって評価した。3回のシャルピー衝撃試験を行い、全ての試験において吸収エネルギーが60J以上であり、且つ3回の試験結果の平均値が80J以上である溶接金属が得られる溶接材料を、低温靱性に関して合格と判定した。
耐低温割れ性、及び耐凝固割れ性を評価するための耐割れ性の試験は、ABREX500に規定される板厚50mmの耐摩耗鋼板を用いて、JIS Z3158に準拠して表に示す溶接割れ試験条件でy形溶接割れ試験を実施した。試験温度は5度、予熱はなしで、溶接後48時間経過した試験体について、表面割れ及び断面割れ(5断面)で凝固割れおよび低温割れの割れ発生有無を調査した。
さらに、スパッタの発生量及びスラグ状態の評価は、銅製の捕集箱を用いて、表に示すスラグ、スパッタ試験条件でビードオンプレート溶接を30秒×5回繰り返し行うことにより実施した。1分間当たりのスパッタ発生量において粒径1mm以上が0.30g以下となる溶接材料を、スパッタ抑制能に関して良好と判断した。また、溶接部において、不適切な量のスラグ等に起因したスラグ巻込みやスラグ剥離不良、又はアーク不安定等のその他の溶接作業性不良を生じさせた溶接材料を、スラグ等に関して不合格と判定し「ビード」列にその旨を記載した。
Figure 2019058938
Figure 2019058938
本発明の範囲内である発明例A1〜A18は、溶接作業性(ビード形状及びスパッタ量)に優れ、低温割れ及び凝固割れを抑制し、さらに、適正な引張強さ及び靭性を有する溶接金属が得られた。一方、本発明の範囲外である比較例B1〜B15については、評価項目の1つ以上に関し不合格となり、総合評価が不合格と判定された。

Claims (8)

  1. 鋼製外皮と、前記鋼製外皮に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、
    前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、合金成分として
    C:0.001〜0.120%、
    Si:0.40〜1.60%、
    Mn:1.50〜2.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Cu:0.05〜0.50%、
    Ti:0.04〜0.30%、及び
    Al:0.200%以下を含有し、
    さらに、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、
    弗化物:F換算値の合計で0.100%超0.300%以下、
    Si酸化物:SiO換算値で0.01〜0.40%、及び
    Na化合物及びK化合物:Na換算値及びK換算値の合計で0.060〜0.350%
    を含有し、
    残部が鋼製外皮、鉄粉、及び鉄合金粉のいずれか一種以上の形態としてのFeと不純物とからなる
    ことを特徴するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  2. 前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、前記合金成分として
    Ni:0%以上0.80%未満、
    Mo:0〜0.50%、
    B:0〜0.0100%、
    Mg:0〜0.50%、及び
    Sn:0〜0.40%
    からなる群から選択される一種以上をさらに含有する
    ことを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  3. 前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、
    Ca化合物:Ca換算値で0〜0.300%
    であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  4. 前記鋼製外皮が、前記鋼製外皮の全質量に対する質量%で、前記合金成分として
    Al:0.003〜0.200%を含有する
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  5. 前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、
    Zr化合物:Zr換算値で0〜0.30%
    をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  6. 前記鋼製外皮がシームレス形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  7. 前記鋼製外皮の外表面に送給潤滑剤をさらに備え、
    前記送給潤滑剤の、前記フラックス入りワイヤ10kg当たりの量が0.20〜1.00gである
    ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて鋼板をガスシールドアーク溶接することを特徴とする溶接継手の製造方法。
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