JP5843164B2 - サブマージアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
充填フラックス中に融点が高い金属粉末が添加されていると、通電部の鋼製外皮との間で溶融速度に差が生じ、溶融池における均一な混合・攪拌が困難になるため、溶着金属で成分の偏析や不均一化が発生する。一方、本発明のサブマージアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、融点の低いアルカリ金属化合物(Li,Na,K等)を含有しているため、これらが、溶融補助剤として機能することで、充填フラックス中の金属粉末の溶融が容易になり、溶着金属に成分偏析や不均一が発生しなくなる。
このサブマージアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、前記アルカリ金属化合物がLi化合物であってもよい。
その場合、前記Li化合物としては、例えばLiを含む合金を使用することができ、その中でも特に、Li−Fe、Li−Al、及びLi−Mgからなる群から選択される少なくとも1種の合金が好適である。
なお、ここでいう「合金」には、固溶体、共晶、金属間化合物のいずれの形態も含まれ、以下の説明においても同様である。
サブマージアーク溶接では、ガスシールドアーク溶接用ワイヤに比べて、ワイヤ径とその適正電流範囲から決定される電流密度が低く、フラックスを溶融させるためにもアーク熱が消費される。このため、サブマージアーク溶接では、ガスシールドアーク溶接ワイヤでは問題にならなかった比較的溶けやすい原料粉末でも溶接金属の成分偏析が発生しやすく、これが低温割れの発生や靭性の不安定化の原因になることが判った。
Cは脱酸元素であり、適当量の添加により溶接金属中の酸素量を低減し、靱性を向上させる。しかしながら、C含有量が0.005質量%未満では、この効果が得られず、強度も不足する。一方、C含有量が0.4質量%を超えると、強度が過大になって靱性が劣化すると共に、溶接金属の凝固時に粒界に偏析しやすくなって高温割れを生じる。従って、C含有量は0.005〜0.4質量%とする。なお、C含有量は0.01〜0.3質量%が好ましく、これにより、強度が過大になることによる靱性劣化及び高温割れを回避することができる。
Mnは、靱性を得るために必須の成分であるが、Mn含有量が4.0質量%を超えると強度が過大となり、かえって靱性が劣化する。一方、Mn含有量が0.5質量%未満では十分な靱性を得られない。従って、Mn含有量は0.5〜4.0質量%とする。なお、Mn含有量は1.0〜3.0質量%が好ましく、これにより十分な靭性を得ることができる。なお、MnはMn単体の他、Fe−Mn等の形態で添加することができる。
アルカリ金属化合物は、一般的な金属粉体と比べて融点が低く、充填フラックス中に添加すると溶融補助剤として金属粉体の溶融を促進する効果がある。しかしながら、アルカリ金属化合物の含有量が、アルカリ金属元素換算で0.01質量%未満の場合、その効果が得られない。一方、アルカリ金属化合物の含有量が5.5質量%を超えると、フラックスが吸湿しやすくなり、耐低温割れ性が劣化する。
Siは脱酸元素であり、特定量添加することで溶接金属中の酸素量を低減し、靱性を向上させる効果はあるが、母材である鋼板成分にSiが適当量含まれている場合は積極的に添加しなくてもよい。一方、母材にSiが含まれていない場合は、ワイヤ成分として添加する必要があるが、ワイヤ中に含有されるSiの量が1.5質量%を超えると、強度が過大となり、溶接金属の靱性が劣化する。
Niは、溶接金属の強度及び靭性を向上させる効果があるが、積極的に添加する必要はない。一方、高張力鋼や低温用鋼の溶接においては、ワイヤ成分にNiを添加することにより、溶接金属の強度や低温域での靭性を向上させることができる。ただし、その場合でも、ワイヤ中に含有されるNiの量が8.0質量%を超えると、オーステナイト粒径が粗大化し、靭性が劣化するため、本実施形態のフラックス入りワイヤにおいては、Ni含有量を8.0質量%以下に規制する。
Crは、溶接金属の強度を向上させる効果があるが、積極的に添加する必要はない。一方、高張力鋼の溶接においては、ワイヤ成分にCrを添加することにより、溶接金属の強度を向上させることができる。ただし、その場合でも、ワイヤ中に含有されるCrの量が1.5質量%を超えると、強度が過大となり、溶接金属の靭性が低下するため、本実施形態のフラックス入りワイヤにおいては、Cr含有量を1.5質量%以下に規制する。
Moは、溶接金属の強度を向上させる効果があるが、積極的に添加する必要はない。一方、高張力鋼の溶接においては、ワイヤ成分にMoを添加することにより、溶接金属の強度を向上させることができる。ただし、その場合でも、ワイヤ中に含有されるMoの量が3.0質量%を超えると、金属間化合物を生成して硬化するため、溶接金属の靭性が低下する。従って、本実施形態のフラックス入りワイヤにおいては、Mo含有量を3.0質量%以下に規制する。
Tiは、フェライト粒内に酸化物を生成して、組織を微細化することにより溶接金属の靭性を向上させる効果があるが、積極的に添加する必要はない。一方、溶接金属組織がフェライトである場合は、ワイヤ成分にTiを添加することにより、溶接金属の靭性を向上させることができる。ただし、ワイヤ中に含有されるTiの量が1.0質量%を超えると、強度が過大となり、溶接金属の靭性が劣化するため、本実施形態のフラックス入りワイヤにおいては、Ti含有量を1.0%質量以下に規制する。
本実施形態のフラックス入りワイヤにおいては、前述した各成分に加えて、Cu(めっき膜成分も含む):0.6質量%以下、P:0.03質量%以下及びS:0.03質量%以下を含有していてもよい。また、その他残部は、Fe及び不可避的不純物である。
本実施形態のフラックス入りワイヤの構造は特に限定されず、バット型、ラップ型、溶接シーム型、又はシームレス型のいずれのタイプにも適用することができる。
フラックスのタイプは限定されず、溶融型、焼結型のいずれのタイプでも組み合わせることができる。表1は、フラックスS1〜S9についての溶融タイプ若しくは焼結タイプ、フラックスS1〜S9についてのフラックス組成(質量%)、及び、フラックスS1〜S9についての塩基度BIを示す。
そして、実施例及び比較例の各フラックス入りワイヤについて、水分量、各種鋼板をサブマージアーク溶接したときの低温割れの発生、低温靭性及び溶接金属の窒素量について評価した。図1(a)〜(c)は本実施例で使用した鋼板の開先形状を示す図である。また、図2(a)〜(c)は電極配置を示す図であり、図2(a)は1電極溶接、図2(b)は2電極溶接、図2(c)は4電極溶接を示す。
溶接金属の低温靱性は、試験温度を−20℃、−40℃又は−60℃にして、JIS Z2242に準拠した衝撃試験によって、吸収エネルギーを測定することにより評価した。
溶接金属の窒素量は、JIS G1228に規定される不活性ガス融解−熱伝導度法によって、抽出した窒素ガスを測定することにより評価した。
低温割れは、窓枠拘束割れ試験により評価した。図3はその使用した試験体の形状及び寸法を示す図であり、図3(a)は平面図であり、図3(b)は側面図である。。具体的には、図3に示す試験板12を、下記表7に示す条件で、鋼製拘束板13に拘束溶接し、低温割れの発生の有無を確認した。
ワイヤの水分量については、JIS K0113に規定されるカールフィッシャー法の電量滴定法に基づいて測定した。以上の評価結果を下記表8にまとめて示す。
11 裏当材
12 試験板
13 鋼製拘束板
Claims (1)
- 鋼製外皮と該外皮内に充填されたフラックスとからなり、軟鋼又は低合金鋼のサブマージアーク溶接に使用されるフラックス入り溶接ワイヤであって、
ワイヤ全質量あたり、
C:0.005〜0.4質量%、
Mn:0.5〜4.0質量%、
アルカリ金属化合物(アルカリ金属元素換算):0.01〜5.5質量%
を含有すると共に、
Si:1.5質量%以下、
Ni:8.0質量%以下、
Cr:1.5質量%以下、
Mo:3.0質量%以下、
Ti:1.0質量%以下
に規制され、
残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記アルカリ金属化合物が、Li−Feであることを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス入り溶接ワイヤ。
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