JP3934399B2 - 凝固結晶粒を微細にするオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接ワイヤに関し、特に溶接凝固時の結晶粒を微細化することを可能とする、溶接金属の靭性及び延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、オーステナイト系ステンレス鋼を溶接する際に形成される溶接金属の靭性及び延性を向上させる方法としては、溶接金属組織中のフェライトの低減が有効な方法であることが知られており、例えば、Welding Jornal,vol.59(1980),p104sには、タイプ316L溶接金属中において組織中のフェライト含有量が減少するにしたがいその低温靭性が向上することが確認されている。一方、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属中のフェライトは、溶接凝固割れを防止する作用を有し、溶接金属中に数%程度含有する必要があることが知られており、靭性向上のために溶接金属中のフェライト含有量を減少させ過ぎると、溶接凝固割れが発生しやすくなり、健全な溶接金属が得られない。
【0003】
また、一般に溶接金属の靭性及び延性を向上させる手段として、溶接金属組織の結晶粒粒の微細化が有効であることも知られている。特に、オーステナイト系ステンレス鋼を溶接する場合は、その多くが、耐食性の維持の観点から溶接後の熱処理は施さず、溶接金属は凝固のままで使用されるため、圧延、熱処理を経た同組成の鋼材に比べ溶接金属組織の結晶粒径は著しく粗大化し、その靭性、延性が劣る。したがって、オーステナイト系ステンレス鋼を溶接では、溶接金属の凝固結晶粒を微細化することが、溶接凝固割れを抑制しつつ溶接金属の靭性、延性を向上させる有効な方法となりうる。
【0004】
また、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒を微細化する方法としては、例えば、特開平3−71902号公報等では、ローピング(表面の凹凸)の発生を抑制するために鋳片の圧延条件(圧下率と温度の関係)を規定し、特開平8−277423号公報等では、鋳造後の熱延および冷却条件を規定する方法が開示されているが、いずれも溶鋼の凝固後の再加熱―熱延、または焼鈍―冷却過程における変態による組織制御を利用したものであり、溶接時の溶接金属の凝固過程で組織結晶粒を微細化する技術ではなく、溶接後、凝固のままで使用するようなオーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属の微細化には有効な方法ではない。
【0005】
以上のように、従来、オーステナイト系ステンレス鋼材の溶接において、被溶接鋼材の成分組成を厳格に規制しないで、一般に市販されているオーステナイト系ステンレス鋼材の溶接材料を用いてTIG溶接、MIG溶接、MAG溶接等により溶接する際に、溶接金属の凝固組織の結晶粒が微細化して、溶接ままでも溶接金属の靭性、延性等の機械的特性が良好な溶接部を得ることができるオーステナイト系ステンレス鋼材の溶接方法は確立されていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みて、被溶接鋼材の成分組成を厳格に規制しなくとも、通常のオーステナイト系ステンレス鋼材の溶接時に使用する溶接材料の成分規定により、溶接金属の凝固組織の結晶粒の微細化を可能とし、溶接ままでも溶接金属の靭性、延性等の機械的特性が良好である溶接部が得られるオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するものであって、その要旨とするところは下記の通りである。
【0008】
(1) オーステナイト系ステンレス鋼からなる外皮の内部に、フラックスが充填されたオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤにおいて、外皮及びフラックスに含有される金属酸化物および金属フッカ物以外の合金成分として、ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.01〜2.0%、
Cr:10.5〜30%、
Ni:4.0〜20%、
Al:0.002〜0.05%、
Mg:0.0005〜0.01%、
Ti:0.005〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下を含有し、
さらに、
Mo:0.1〜6.5%、
Cu:0.1〜2.0%、
Nb:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、
かつ、0.73×Cr当量−Ni当量≧4.4及びTi(質量%)×N(質量%)≧0.0005を満たすことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ。
但し、Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5×Si(質量%)
Ni当量=Ni(質量%)+0.5×Mn(質量%)+30×C(質量%)
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、種々の化学成分を添加したオーステナイト系ステンレス鋼ワイヤを用いてTIG溶接によりオーステナイト系ステンレス鋼材を突合せ溶接し、形成された溶接金属の組織、靭性及び延性を詳細に調査、検討した。
【0011】
その結果、フェライト単相で凝固が完了する成分系にMgとTiを複合で添加することにより、溶接金属組織の等軸晶化、微細化が達成され、それによって、溶接金属の靭性、延性が向上することが新たに明らかとなった。また、フェライト単相で凝固が完了する成分系においては、TiとN量の関係を制御することで溶接金属の凝固結晶粒の微細化が容易となり、靭性、延性を改善できる見通しを得た。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明における「%」とは、特に明記しない限り「質量%」を意味する。
【0013】
先ずはじめに、本発明の溶接金属の結晶粒微細化のための技術思想について説明する。
【0014】
オーステナイト系ステンレス鋼の溶接金属は、その成分系により初晶凝固相がフェライト相もしくはオーステナイト相である成分系に分類され、さらに、これらの相が単独で凝固が完了するものとフェライト相+オーステナイト相の二相で凝固が完了するものに分類させる。
【0015】
TiN及びMg系介在物(MgO−Al2O3スピネル相を含む)は、フェライト相との格子整合性が非常に良好なため、フェライト相の凝固核となり、フェライト相の等軸晶化及び初晶フェライト相の安定生成効果が促進され、凝固時のフェライト結晶粒を微細化するために有効となる。
【0016】
一方、TiN及びMg系介在物は、オーステナイト相との格子整合性が良くないため、オーステナイト相の凝固核にはほとんどならない。また、液相/オーステナイト相間の界面エネルギーは、液相/フェライト相間の界面エネルギーより大きいため、フェライト相上にオーステナイト相は形成されにくく、オーステナイト相は、フェライト相の生成、成長に関係なく独自に成長する。
【0017】
したがって、本発明では、溶接金属において、TiN及びMg系介在物を核にして、フェライト相の凝固核となり、フェライト相の等軸晶化及び初晶フェライト相の安定生成効果が促進され、よって凝固時のフェライト結晶粒を微細化するために、溶接金属の成分系を初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する成分系に限定する必要がある。
【0018】
溶接金属が初晶フェライト相+オーステナイト相の二相凝固の成分系では、フェライト相が等軸晶凝固しても、オーステナイト相はフェライト相の生成・成長に関係なく独自に成長するため、オーステナイト相は柱状晶凝固してオーステナイト相の微細化は達成されない。
【0019】
本発明者らの実験の結果、溶接金属の初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する成分系としては、0.73×Cr当量−Ni当量≧4.4の関係式を満足する成分系であれば、初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する。ここで、Cr当量及びNi当量は、以下の(1)式及び(2)式でそれぞれ規定させるものである。
【0020】
また、本発明では、溶接金属の凝固結晶粒の微細化のために、上記の初晶凝固相がフェライト相で、フェライト単相で凝固が完了する成分系において、初晶フェライトが凝固する前にTi窒化物が形成する必要がある。そのためには、本発明者らの実験によれば、初晶フェライト相が凝固する温度(液相線温度)より高温でTi窒化物が晶出するようにTi含有量とN含有量を限定すれば良く、Ti(質量%)×N(質量%)≧0.0005の関係を満足するように成分を制御することで初晶フェライトが凝固する前にTi窒化物が確実に生成し、凝固結晶粒微細化効果が得られる。
【0021】
以上から本発明では、溶接金属の初晶凝固相がフェライト相でフェライト単相で凝固が完了せるとともに、初晶フェライトが凝固する前にTi窒化物を確実に生成させることにより凝固結晶粒微細化効果を得るために、オーステナイト系ステンレス鋼を溶接する際に用いるフラックス入りワイヤの成分系が0.73×Cr当量−Ni当量≧4.4かつTi×N≧0.0005を満たすことを要件とする。
ここで、Cr当量=Cr+Mo+1.5×Si
Ni当量=Ni+0.5×Mn+30×C
【0022】
本発明のワイヤ成分の限定理由を以下に述べる。
【0023】
なお、下記の成分含有量は、ワイヤ全質量に対する全外皮及びフラックスに含有される合計量(質量%)である。
【0024】
先ず、本発明では、TiN及びMg系介在物(MgO−Al2O3スピネル相を含む)を溶接金属中で形成するために以下のワイヤ成分の含有量を規定する。
【0025】
Al:Alは脱酸元素であるとともに、Mgと共存してMgO−Al2O3スピネル相を形成して凝固核となり、溶接金属組織を微細化する。この効果を発揮するのは0.002%でありこれを下限とした。また、多量に添加するとAl酸化物が大量に生成し機械的特性が劣化するので0.05%を上限とした。
【0026】
Mg:MgはMg系介在物を形成して凝固核となり、溶接金属組織を微細化する。Tiと複合で添加した場合にはさらにその効果が向上する。この効果が発揮するのは0.0005%でありこれを下限とした。また多量に添加してもその効果は飽和し、耐食性の低下や溶接部の溶込み減少、溶接ビード上にスラグ生成などの問題が生じるため、0.01%を上限とした。Mg系介在物は、酸化物、硫化物等のMgを含有する化合物であれば凝固結晶粒の微細化には効果があり、MgO−Al2O3スピネル相も同様の効果を持つ。
【0027】
Ti:TiはTi窒化物を形成して凝固核となり、溶接金属組織を微細化する。Mgと複合で添加することでさらにその効果は向上する。この効果が発揮されるのは0.005%以上であるのでこれを下限とした。しかし、0.5%を超えて添加した場合は延性、靭性を低下させるので、これを上限とした。
【0028】
N:NはTi窒化物を形成して凝固核となり、溶接金属組織を微細化する。この効果が発揮されるのは0.001%以上でありこれを下限とした。また、多量に添加すると硬化して靭性が低下するため0.1%を上限とした。
【0029】
また、その他の効果を得るために、以下の成分の含有量を規定する。
【0030】
C:Cは耐食性に有害であるが、強度の観点からある程度の含有が必要であるため、0.001%以上添加する。また、その含有量が0.1%超では溶接金属の靭性、延性が著しく低下するとともに、溶接のままの状態及び再熱を受けるとCrなどと結合し、これらの領域の耐食性を著しく劣化させるため、その含有量を0.001〜0.1%に限定した。
【0031】
Si:Siは脱酸元素として添加されるが、0.01%未満ではその効果が十分でなく、一方、その含有量が1.5%超ではフェライト相の延性低下に伴い、靭性が大きく低下するとともに、溶接時の溶融溶込みも減少し、実用溶接上の問題になる。したがって、その含有量を0.01〜1.5%に限定した。
【0032】
Mn:Mnは脱酸元素として添加するが、その含有量が0.01%未満では効果が十分でなく、一方、2.0%を超えて添加すると延性が低下するのでその含有量を0.01〜2.0%に限定した。
【0033】
Cr:Crはフェライト形成元素でありオーステナイト系ステンレス鋼の主要元素として耐食性の向上に寄与する。耐食性に寄与するとともにその含有量が10.5%未満では十分な耐食性が得られないため、その含有量の下限を10.5%とした。一方、その含有量が30%を超えると、靭性が劣化する。そのため、その含有量を10.5〜30%に限定した。
【0034】
Ni:Niはオーステナイト形成元素でありオーステナイト系ステンレス鋼の主要元素として、オーステナイト相を生成・安定にする。本発明におけるステンレス鋼溶接金属組織は、オーステナイト相を主要組織とするため、フェライト形成元素であるCrを10.5%以上添加した場合の相バランスの観点から、Ni含有量を4.0%以上とする必要があり、その含有量の下限を4.0%とした。Ni含有量の上限は、特に規定する必要はないが、経済性の観点からはその上限を20%とするのが好ましい。
【0035】
P、Sは溶接金属において不可避成分であり、以下の理由で少なく制限する。
【0036】
P:Pは多量に存在すると凝固時の耐高温溶接割れ性及び靭性を低下させるので少ない方が望ましく、その含有量の上限を0.03%とした。
【0037】
S:Sも多量に存在すると耐高温割れ性、延性及び耐食性を低下させるので少ない方が望ましく、0.01%を上限とした。
【0038】
以上を本発明のワイヤの基本成分とするが、以下の成分を選択的に添加する。
【0039】
Mo:Moは特に塩化物環境での耐食性を向上させる元素であり、耐食性向上のために0.1%添加できるが、その含有量が6.5%を超えるとシグマ相など脆い金属間化合物を生成して溶接金属の靭性が低下するため、添加する場合には、その含有量を6.5%を上限とする。
【0040】
Cu:Cuは強度と耐食性を高めるのに顕著な効果があり、また、靭性を確保するためのオーステナイト生成元素として0.1%以上添加できるが、2.0%を超えて添加してもその効果は飽和するので、添加する場合は、その含有量を0.1〜2.0%とする。
【0041】
Nb:NbはCと結合してCr炭化物の析出を抑え、溶接金属の耐食性を向上させる作用をつため、その効果を得るために0.01%以上の添加が有効であるが、0.5%超の添加は延性、靭性を低下させるので、添加する場合は、その含有量を0.01〜0.5%とする。
【0042】
なお、本発明では、外皮の内部に充填するフラックスは、溶接金属中の成分組成を制御するために、上記の含有範囲で添加する合金成分以外は特に規定する必要はない。また、合金成分の残部は実質的に鉄及び不可避不純物であれば、本発明の目的を達成することができる。
【0043】
したがって、フラック入りワイヤにおいて、外皮の内部に充填するフラックスとして、例えば、スラグ被包性やアーク安定性の向上のために通常含有される、例えば、TiO2:1〜2%、SiO2:2〜3%、ZrO2:1〜2%、Al2O3:0.3〜0.8%、Fe2O3:0.2〜0.6%、Na2O:0.05〜0.2%、K2O:0.01〜0.1%、AlF3:0.01〜0.1%などの金属酸化物または金属フッ化物を添加しても良い。
【0044】
但し、このようなスラグ被包性やアーク安定性の向上のために添加する金属酸化物または金属フッ化物として含ませる金属成分は、本発明で規定した上記の合金としての金属成分の含有量の範囲から除かれる。
【0045】
本発明では、被溶接材であるオーステナイト系ステンレス鋼の成分及びTIG溶接、MIG溶接、MAG溶接、プラズマ溶接、サブマージアーク溶接などの溶接方法を特に限定する必要がなく、溶接に用いるフラック入りワイヤの外皮及びフラックスに含有される成分を上述のように規定することにより、凝固過程での組織の等軸晶化及び微細化が可能となり、溶接部の靭性及び延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼溶接継手が得られる。
【0046】
したがって、従来のような被溶接材であるオーステナイト系ステンレス鋼の成分を厳格に規定したり、溶接条件の厳格な規定による凝固条件の制御を行う溶接方法に比べて、経済的に溶接部の靭性及び延性を向上することができるため、工業的意義は大きい。
【0047】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を説明する。
【0048】
表1に示す成分を有する外皮の内部にフラックスを充填し、表2に示す成分をワイヤ全質量に対する質量%として有するワイヤ径:1.6φのフラックス入りワイヤを作製した。表3にフラックスと外皮との成分をワイヤ全質量に対する質量%で示す。なお、表に示す成分の残部は鉄と不可避的不純物である。次に、これらのワイヤ外皮と同成分の板厚:11mmのステンレス鋼板の突合せ端部に、開先角度:60゜、ルートフェース:0.5mmのY開先を設けた後、上記フラックス入りワイヤを用いて、TIG溶接により突合せ溶接して、溶接継手を作製した。なお、この際の溶接条件は、溶接電流:150〜180A、アーク電圧:10〜13V、溶接速度:10〜35cm/minとした。
【0049】
なお、表2における凝固モードは、フェライト単相で凝固が完了するものをF、初晶フェライト+オーステナイトの二相で凝固が完了するものをFAで示す。
【0050】
溶接で得られた溶接継手は、それぞれ溶接金属の組織観察、溶接金属のシャルピー衝撃試験、及び溶接継手の表・裏曲げ試験を実施し、凝固結晶粒の微細化・等軸晶化、靭性、曲げ延性をそれぞれ評価した。表4にそれぞれの評価結果を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表4の結晶粒径の評価結果は、フェライト及びオーステナイトの結晶粒径がともに50μm以下で、かつ、等軸晶率が90%以上のものを○、それ以外の組織は×とした。表4の靭性評価結果である、シャルピー吸収エネルギーは、溶接継手から溶接方向に垂直方向から2mmVノッチシャルピー試験片を採取し、0℃にてシャルピー衝撃試験を行い、その吸収エネルギーを求めたものである。表4の溶接継手の曲げ延性評価結果である、表曲げまたは裏曲げの試験結果は、溶接継手から溶接方向に垂直方向から余盛を削除した試験片(10t×30w×250Lmm)を採取し、溶接部を表または裏からローラ曲げ(曲げ半径:R=20mm)を行い、割れが発生しないものを良好、割れが発生したものを不良とした。
【0055】
表4において、実施No.6の比較例は、(0.73×Cr当量−Ni当量)の値が本発明範囲より低く、実施No.7の比較例は、Al含有量と(0.73×Cr当量−Ni当量)の値が本発明範囲より低いために、溶接金属の凝固組織がフェライト+オーステナイトの2相となっため、凝固組織の結晶粒が粗大化し、溶接金属の靭性、曲げ延性がいずれも低下した。
【0056】
また、実施No.8の比較例は、Ti含有量、Al含有量及び(Ti×N)の値が本発明範囲より低く、実施No.9の比較例は、Mg含有量が本発明範囲より低いために、溶接金属の凝固組織がフェライト単相ではあったが、フェライトの等軸晶化及び微細化ができず、凝固組織の結晶粒が粗大化し、溶接金属の靭性、曲げ延性がいずれも低下した。
【0057】
一方、実施No.1〜5の本発明例は、成分含有量が本発明の範囲内であるため、比較例に比べ、溶接金属の結晶粒が微細化しており、それにより靭性及び延性が著しく優れている。
【0058】
【表4】
【0059】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、溶接する鋼板を特に限定しなくとも、通常のオーステナイト系ステンレス鋼材の溶接の際に、使用する溶接材料の成分を規定することにより、溶接金属組織が微細化でき、それにより溶接金属の靭性及び延性を大幅に改善できるものであり、本発明の適用により産業の発展に貢献するところが極めて大である。
Claims (1)
- オーステナイト系ステンレス鋼からなる外皮の内部に、フラックスが充填されたオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤにおいて、外皮及びフラックスに含有される金属酸化物および金属フッカ物以外の合金成分として、ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.01〜2.0%、
Cr:10.5〜30%、
Ni:4.0〜20%、
Al:0.002〜0.05%、
Mg:0.0005〜0.01%、
Ti:0.005〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下を含有し、
さらに、
Mo:0.1〜6.5%、
Cu:0.1〜2.0%、
Nb:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、
かつ、0.73×Cr当量−Ni当量≧4.4及びTi(質量%)×N(質量%)≧0.0005を満たすことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ。
但し、Cr当量=Cr(質量%)+Mo(質量%)+1.5×Si(質量%)
Ni当量=Ni(質量%)+0.5×Mn(質量%)+30×C(質量%)
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