JP4766958B2 - Zn系めっき鋼板用溶接ワイヤー及びZn系めっき鋼板の溶接方法 - Google Patents
Zn系めっき鋼板用溶接ワイヤー及びZn系めっき鋼板の溶接方法 Download PDFInfo
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Description
溶接の種類としては、スポット溶接に代表されるような抵抗溶接と、アーク溶接に代表されるような溶融溶接がある。住宅用構造物や自動車の足廻り部品等では、比較的高い接合強度が必要であることや板厚が比較的厚いこと、抵抗溶接での電極挿入が難しい閉領域の構造があることから、溶融溶接、多くはアーク溶接が用いられている。
Zn系めっき鋼板の場合、めっき層の融点が母材である鋼板の融点よりもかなり低いことから、溶接部の一部の領域や溶接部の周辺では、溶接中あるいは溶接後のある一定期間の間、めっき層が溶融状態で鋼板表面に存在することになる。鋼板上にめっき金属であるZnが溶融状態で存在した状態で、一定以上の引張応力が作用すると、鋼板に割れが発生することが知られている。非特許文献1に記載されている、いわゆる「溶融金属脆化割れ」と称されているものである。
このような溶融金属脆化割れを抑制するために、本出願人は、溶接施工方法の改善による溶融金属脆化割れ抑制方法を提案している。特許文献1〜3に記載しているように、溶融めっき金属が熱影響部近傍へ再流入することを防止して、溶融したZnが熱影響部近傍に存在しないようにした技術である。
本出願人が既に提案している特許文献1〜3の方法は、何れもアーク溶接時に生じる熱影響部での溶融金属脆化割れの抑制には有効である。しかし、溶接金属内での溶融金属脆化割れは、2枚の鋼板のすみ肉部分から溶融Znが侵入するために抑制することは困難である。すなわち、これまでに提案してきた発明は、熱影響部に発生しやすい溶融金属脆化割れを抑制する方法としては極めて良好な結果をもたらすが、溶接金属内での溶融金属脆化割れの抑制には有効でない。
本発明は、このような問題を解消するために案出されたものであり、Zn系めっき鋼板をアーク溶接する際に、溶接金属内での溶融金属脆化割れが発生することのない溶接ワイヤーを提供することを目的とする。
また、C:0.001〜0.3質量%,Si:1.5質量%以下,Mn:0.05〜2.0質量%,P:0.2質量%以下,S:0.03質量%以下,Ti:0.005〜0.1質量%,B:0.0001〜0.01質量%,Mo:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる金属で構成された外皮と、当該外皮内に充填された溶接用フラックスからなるコアードフラックスワイヤーであってもよい。
この場合、溶接用フラックスには、塩化物系混合物又はフッ化物系混合物が混入されているものが好ましい。
このような溶接ワイヤーを用いて2枚のZn系めっき鋼板のすみ肉継手部をアーク溶接すると、溶融金属脆化割れを起しがたい溶接金属部を形成することができる。
特に、溶接ワイヤーを、塩化物系混合物又はフッ化物系混合物が混入されたフラックスを充填させた、いわゆる溶接コアードフラックスワイヤーとして2枚のZn系めっき鋼板のすみ肉継手部のアーク溶接に用いると、溶融Znの溶接金属結晶粒界への侵入が効果的に抑えられ、溶接金属内での溶融金属脆化割れの発生が抑制される。
Zn系めっき鋼板をアーク溶接するとき、Zn系めっき鋼板の母材は1500℃以上にまで昇温する。その温度域では溶接継手における溶接金属はオーステナイト域にあり、オーステナイトの結晶粒は成長しやすい状態にあると考えられる。オーステナイト粒が成長して粗大化するために溶融Znが結晶粒界に沿ってより深く侵入するとともに、引張応力がその結晶粒界に集中しやすくなる。このために、溶融金属脆化割れが発生するものと考えられる。
また、溶融Znの熱影響部や溶接金属内への侵入は、前記特許文献1〜3に記載したように、溶接部付近でめっき金属が蒸発して活性化し、それによって溶接熱で再溶融しためっき金属が溶接部付近まで流入することが影響していると推定される。
この技術思想に基づいた対策を実現化するため、種々の検討を行って効果を確認し、本発明に到達した。
以下に具体的な対策内容を示すが、その効果については実施例にて詳記する。
含ませた合金成分の含有量,作用は以下に示す通りである。
材料強度の確保に有効な成分であり、必要強度を得るため0.001質量%以上にC含有量を定める。しかし、フェライト相への固溶,炭化物の形成により溶接金属の延性を低下させるので、上限を0.3質量%に規制する。
フェライト相に固溶して強度を向上させる成分であり、フェライト粒内を硬化して粒界への応力集中を促進させ、粒界の溶融金属脆化を助長するのでSi含有量は低いほど好ましい。1.5質量%を超える過剰量のSiが含まれると、溶接金属の延性が低下する。
Mn:0.05〜2.0質量%
S起因の脆化を防止すると共に強度向上にも有効な元素であり、0.05質量%以上でMnの含有効果がみられる。しかし、2.0質量%を超える過剰量のMnは、溶接金属の加工性を劣化させる。
延性に悪影響を及ぼす成分であることから、高加工性が要求される用途ではP含有量が低いほど好ましい。他方、強度向上に有効な成分であるので、高強度化用途には加工性に悪影響を及ぼさない範囲(具体的には0.2質量%以下,好ましくは0.15質量%以下)の含有量とする。
S:0.03質量%以下
熱間脆化の原因となり、加工性に有害な成分であるので、可能な限り低減することが好ましい。本成分系では、S含有量の上限を0.03質量%(好ましくは、0.015質量%)に定めた。
溶接金属中のC,Nと結合して炭化物,窒化物,炭窒化物等の析出物又は複合析出物としてマトリックスに分散析出し、溶接金属の結晶粒を微細化する作用を現す。結晶粒の微細化により溶融金属脆化割れが抑制される。特に、溶接金属中のNを窒化物として固定し、耐溶融金属脆化割れ性を改善する有効B量を確保する上で重要な成分である。これらの作用は、0.005質量%以上で発揮されるが、0.1質量%を超えて過剰に含有させると溶接した後に何らかの加工を行った場合に溶接金属部の加工性が悪化する。このため、Ti含有量は0.005〜0.1質量%の範囲とする。
結晶粒界に偏析することにより界面結合力を高め、耐溶融金属脆化割れ性を改善する。この効果は0.0001質量%以上の含有で現れるが、0.01質量%を超える過剰量のBは硼化物の生成等により溶接金属の加工性が悪化する。このため、B含有量は0.0001〜0.01質量%の範囲とする。
溶接金属中のC,Nと結合して炭化物,窒化物,炭窒化物等の析出物又は複合析出物としてマトリックスに分散析出し、溶接金属の結晶粒を微細化する作用を現す。結晶粒の微細化により溶融金属脆化割れが抑制される。このような作用は、0.05質量%以上で発揮されるが、過剰に添加すると溶接した後に何らかの加工を行った場合に溶接金属部の加工性が悪化する。このため、上限を0.5質量%に規制する。
V:0.01〜0.3質量%
Zr:0.01〜0.5質量%
何れも、溶接金属中のC,Nと結合して炭化物,窒化物,炭窒化物等の析出物又は複合析出物としてマトリックスに分散析出し、溶接金属の結晶粒を微細化する作用を現す。結晶粒の微細化により溶融金属脆化割れが抑制される。
このような作用は、0.001質量%以上のNb,0.01質量%以上のV又は0.01質量%以上のZrで発揮されるが、過剰に添加すると溶接した後に何らかの加工を行った場合に溶接金属部の加工性が悪化する。このため、上限を、Nb:0.1質量%,V:0.3質量%,Zr:0.5質量%に規制する。
溶接用フラックスを用いてアーク溶接する際には、溶接心線材料で外皮を形作りその内部に溶接用フラックスを充填した、いわゆる溶接コアードフラックスワイヤーが用いられる場合が多いので、本発明でも同様に、溶接コアードフラックスワイヤー形態で用いることが好ましい。
溶接時に使用する溶接用フラックスの本来の働きは、溶接部の脱酸作用である。その脱酸作用によって、溶接部に、いわゆるスラグと称される酸化物が形成される。このスラグの形成により、溶接部が溶融Znに接触することを防ぎ、これによって熱影響部でのZn系めっき鋼板・母材の結晶粒界への溶融Znの侵入を防止することができることになる。
さらに、Zn合金めっき鋼板では、Znめっき鋼板よりもめっき金属に添加されている金属成分が多いことから、めっき金属の融点が低下している場合がある。例えば、Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板をアーク溶接する場合、めっき金属は融点が低いために溶融状態になっている時間が長く、その分、溶接金属内や熱影響部の母材内の結晶粒界に侵入しやすくなる。
塩化物やフッ化物は、金属系や非金属系において様々な形態のものがあるが、Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板に対しては、塩化物系混合物としてZnCl2+NH4Clが、フッ化物系混合物としてKAlF4+K3AlF6を用いることが好ましい。
そのメカニズムは、下式の反応に基づいていると推測される。
ZnCl 2 +NH 4 Clの場合
Mg+ZnCl2 → MgCl2+Zn
2Al+3ZnCl2 → 2AlCl3+3Zn
Mg+2NH4Cl → MgCl2+2NH3+H2
Al+3NH4Cl → AlCl3+3NH3+3/2H2
これらの反応式に従い、Mg,Alの塩化物を形成することで、めっき金属中のMg成分及びAl成分が除去される。加えて加熱によるFe−Al系金属間化合物の形成によるAl除去も作用してくる。
3Mg+2KAlF4 → 2MgF3+MgF2+2Al
この反応式に従い、Mgフッ化物が形成されて、めっき金属中のMg成分が除去される。加えて加熱によるFe−Al系金属間化合物の形成によるAl除去も作用してくる。
上記で示した反応により、Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっき金属の融点は、335℃から420℃になる。
このように、ZnCl2+NH4ClやKAlF4+K3AlF6の混合物を溶接用のフラックスに含ませた溶接コアードフラックスワイヤーを用いてZn合金めっき鋼板を溶接すると、めっき金属を融点の高い溶融金属に変換することができ、結果的により効果の高い溶融金属脆化割れ防止方法を実現することができる。
溶接用フラックスに混入させる塩化物系混合物やフッ化物系混合物としては、上記のように、Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板ではZnCl2+NH4ClやKAlF4+K3AlF6の混合物が好ましいが、被溶接材のめっき金属の成分組成により種々の混合物を選択・採用することが好ましい。
表1に示す板厚4.5mmの鋼板を下地材とし、いずれもめっき付着量が片面当り90g/m2のZn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板を準備した。
板幅50mm、全長100mmに裁断した同種のめっき鋼板6,7を、図2に示すようにすみ肉継手とし、板幅方向の両端をアーク溶接でスポット状に仮止めした後、板幅方向全長に亘って材料拘束を与えない状態で炭酸アーク溶接を実施した。
その際に用いた溶接ワイヤーは表2に示すものとし、各成分において溶接金属内の溶融金属脆化割れの発生状況を観察した。なお、溶接条件は、溶接電流を220A,溶接電圧を25V,溶接速度を0.2m/分とした。
各溶接ワイヤーの成分と割れ発生の関係を表2に示す。
このような引張応力が作用しても、溶接ワイヤーA1〜A10のように、溶接ワイヤーの組成を請求項で規定した範囲内に調整することにより、溶接金属の溶融金属脆化割れの発生が無くなる。
溶接ワイヤー中に含まれるTi量が少なかった溶接ワイヤーA11や、Mo量が少なかったA13を用いた場合の溶接金属部を断面組織観察すると、他の溶接ワイヤーを用いた場合よりも結晶粒が大きくなっていた。また、溶接ワイヤー中に含まれるB量が少なかった溶接ワイヤーA12を用いた場合では、結晶粒界の強度が不足していたものと予測される。
表1に示す板厚4.5mmの鋼板を下地材とし、いずれもめっき付着量が片面当り90g/m2のZn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板を準備した。
板幅50mm、全長100mmに裁断した同種のめっき鋼板6,7を、図3に示すようにすみ肉継手とし、板幅方向の両端をアーク溶接でスポット状に仮止めした後、鋼板7を治具8によって土台9に固定した状態で板幅方向全長に亘って材料拘束を与えない状態で炭酸アーク溶接を実施した。
その際に用いた溶接ワイヤーは、表2に示した溶接ワイヤーA2とA11と同じ鋼成分を外皮とし、その外皮内に、表3に示した成分組み合わせのフラックスを充填したものとした。各溶接ワイヤーを用いた際の溶融金属脆化割れの発生状況を観察した。なお、溶接条件は、溶接電流を220A,溶接電圧を25V,溶接速度を0.2m/分とした。
各溶接ワイヤーと割れ発生の関係を表4に示す。
フラックス入り溶接ワイヤーの外皮組成を請求項で規定した範囲内に調整することにより、溶接金属1の溶融金属脆化割れの発生がなくなる。しかし、外皮組成が請求項で規定した範囲を外れると、溶接金属1に溶融金属脆化割れが発生する。
また、溶接ワイヤーの外皮内にフラックスを充填させていると、フラックスの組成に影響されることなく、めっき鋼板の熱影響部に溶融金属脆化割れの発生がない良好な溶接品質を得ることができる。
5:すみ肉部分 6,7:Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板
8:治具 9:土台
Claims (5)
- C:0.001〜0.3質量%,Si:1.5質量%以下,Mn:0.05〜2.0質量%,P:0.2質量%以下,S:0.03質量%以下,Ti:0.005〜0.1質量%,B:0.0001〜0.01質量%,Mo:0.05〜0.5質量%を含み、さらにNb:0.001〜0.1質量%,V:0.01〜0.3質量%,Zr:0.01〜0.5質量%の一種又は二種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる金属で構成されていることを特徴とするZn系めっき鋼板用溶接ワイヤー。
- 請求項1に記載の金属で構成された外皮と、当該外皮内に充填された溶接用フラックスからなるZn系めっき鋼板用溶接ワイヤー。
- C:0.001〜0.3質量%,Si:1.5質量%以下,Mn:0.05〜2.0質量%,P:0.2質量%以下,S:0.03質量%以下,Ti:0.005〜0.1質量%,B:0.0001〜0.01質量%,Mo:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる金属で構成された外皮と、当該外皮内に充填された溶接用フラックスからなるZn系めっき鋼板用溶接ワイヤー。
- 溶接用フラックスに、塩化物系混合物又はフッ化物系混合物が混入されている請求項2又は3に記載のZn系めっき鋼板用溶接ワイヤー。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の溶接ワイヤーを用いて2枚のZn系めっき鋼板のすみ肉継手部をアーク溶接するZn系めっき鋼板の溶接方法。
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