JP4781046B2 - Zn系めっき鋼板の溶接継手 - Google Patents
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溶接の種類としては、スポット溶接に代表されるような抵抗溶接と、アーク溶接に代表されるような溶融溶接がある。住宅用構造物や自動車の足廻り部品等では、比較的高い接合強度が必要であることや板厚が比較的厚いこと、抵抗溶接での電極挿入が難しい閉領域の構造があることから、溶融溶接、多くはアーク溶接が用いられている。
Zn系めっき鋼板の場合、めっき層の融点が母材である鋼板の融点よりもかなり低いことから、溶接部の一部の領域や溶接部の周辺では、溶接中あるいは溶接後のある一定期間の間、めっき層が溶融状態で鋼板表面に存在することになる。鋼板上にめっき金属であるZnが溶融状態で存在した状態で、一定以上の引張応力が作用すると、鋼板に割れが発生することが知られている。非特許文献1に記載されている、いわゆる「溶融金属脆化割れ」と称されているものである。
このような溶融金属脆化割れを抑制するために、本出願人は、溶接施工方法の改善による溶融金属脆化割れ抑制方法を提案している。特許文献1〜3に記載しているように、溶融めっき金属が熱影響部近傍へ再流入することを防止して、溶融したZnが熱影響部近傍に存在しないようにした技術である。
本出願人が既に提案している特許文献1〜3の方法は、何れもアーク溶接時に生じる熱影響部での溶融金属脆化割れの抑制には有効であるが、2枚の鋼板のすみ肉部分から溶融Znが侵入するために起きる溶接金属内での溶融金属脆化割れの抑制には有効でない。
本発明は、このような問題を解消するために案出されたものであり、Zn系めっき鋼板をアーク溶接する際に、溶接金属内での溶融金属脆化割れが発生することのない溶接継手を提供することを目的とする。
Zn系めっき鋼板をアーク溶接するとき、Zn系めっき鋼板の母材は1500℃以上にまで昇温する。その温度域では溶接継手における溶接金属はオーステナイト域にあり、オーステナイトの結晶粒は成長しやすい状態にあると考えられる。オーステナイト粒が成長して粗大化するために溶融Znが結晶粒界に沿ってより深く侵入するとともに、引張応力がその結晶粒界に集中しやすくなる。このために、溶融金属脆化割れが発生するものと考えられる。
この技術思想に基づいた対策を実現化するため、種々の検討を行って効果を確認し、本発明に到達した。
以下に具体的な対策内容を示すが、その効果については実施例にて詳記する。
含ませた合金成分の含有量,作用は以下に示す通りである。
材料強度の確保に有効な成分であり、必要強度を得るため0.001質量%以上にC含有量を定める。しかし、フェライト相への固溶,炭化物の形成により溶接金属の延性を低下させるので、上限を0.3質量%に規制する。
フェライト相に固溶して強度を向上させる成分であり、フェライト粒内を硬化して粒界への応力集中を促進させ、粒界の溶融金属脆化を助長するのでSi含有量は低いほど好ましい。1.5質量%を超える過剰量のSiが含まれると、溶接金属の延性が低下する。
Mn:0.05〜2.0質量%
S起因の脆化を防止すると共に強度向上にも有効な元素であり、0.05質量%以上でMnの含有効果がみられる。しかし、2.0質量%を超える過剰量のMnは、溶接金属の加工性を劣化させる。
延性に悪影響を及ぼす成分であることから、高加工性が要求される用途ではP含有量が低いほど好ましい。他方、強度向上に有効な成分であるので、高強度化用途には加工性に悪影響を及ぼさない範囲(具体的には0.2質量%以下,好ましくは0.15質量%以下)の含有量とする。
S:0.03質量%以下
熱間脆化の原因となり、加工性に有害な成分であるので、可能な限り低減することが好ましい。本成分系では、S含有量の上限を0.03質量%(好ましくは、0.015質量%)に定めた。
溶接金属中のC,Nと結合して炭化物,窒化物,炭窒化物等の析出物又は複合析出物としてマトリックスに分散析出し、溶接金属の結晶粒を微細化する作用を現す。結晶粒の微細化により溶融金属脆化割れが抑制される。特に、溶接金属中のNを窒化物として固定し、耐溶融金属脆化割れ性を改善する有効B量を確保する上で重要な成分である。これらの作用は、0.005質量%以上で発揮されるが、0.1質量%を超えて過剰に含有させると溶接した後に何らかの加工を行った場合に溶接金属部の加工性が悪化する。このため、Ti含有量は0.005〜0.1質量%の範囲とする。
結晶粒界に偏析することにより界面結合力を高め、耐溶融金属脆化割れ性を改善する。この効果は0.0001質量%以上の含有で現れるが、0.01質量%を超える過剰量のBは硼化物の生成等により溶接金属部の加工性が悪化する。このため、B含有量は0.0001〜0.01質量%の範囲とする。
溶接金属中のC,Nと結合して炭化物,窒化物,炭窒化物等の析出物又は複合析出物としてマトリックスに分散析出し、溶接金属の結晶粒を微細化する作用を現す。結晶粒の微細化により溶融金属脆化割れが抑制される。このような作用は、0.05質量%以上で発揮されるが、過剰に添加すると溶接した後に何らかの加工を行った場合に溶接金属部の加工性が悪化する。このため、上限を0.5質量%に規制する。
V:0.01〜0.3質量%
Zr:0.01〜0.5質量%
何れも、溶接金属中のC,Nと結合して炭化物,窒化物,炭窒化物等の析出物又は複合析出物としてマトリックスに分散析出し、溶接金属の結晶粒を微細化する作用を現す。結晶粒の微細化により溶融金属脆化割れが抑制される。必要に応じて含有させる。
このような作用は、0.001質量%以上のNb,0.01質量%以上のV又は0.01質量%以上のZrで発揮されるが、過剰に添加すると溶接した後に何らかの加工を行った場合に溶接金属部の加工性が悪化する。このため、上限を、Nb:0.1質量%,V:0.3質量%,Zr:0.5質量%に規制する。
本発明における溶接金属は、基本的な成分組成を有する鋼に所定量のTi,B及びMoをさらに含有させていることを特徴とするものである。この基本成分は、めっき鋼板及びアーク溶接時に用いる溶接ワイヤーとも当然備えている程度のものである。したがって、Ti,B及びMo、さらには任意成分を含有させる態様について説明する。
簡便な手段としては、溶接ワイヤーとして所定量のTi,B及びMo、さらには所定量の任意成分を含有するものを用いることが好ましい。溶接部の溶接金属は溶接ワイヤーだけからではなく、被溶接材料であるめっき鋼板の下地鋼からの成分も入り込む。そこで、所定量のTi,B及びMo、さらには所定量の任意成分を含有しためっき鋼板の下地鋼から入り込むものを活用しても良い。
さらに、溶接ワイヤーとめっき鋼板の下地鋼の両方の含有成分が溶接金属中に入り込むように、溶接ワイヤーとめっき鋼板の下地鋼の成分を調整する方法を活用しても良い。
板幅50mm、全長100mmに裁断した同種のめっき鋼板6,7を、図2に示すようにすみ肉継手とし、板幅方向の両端を炭酸アーク溶接でスポット状に仮止めした後、板幅方向全長に渡って材料拘束を与えない状態で炭酸アーク溶接を実施した。その際に用いた溶接ワイヤーは表2に示す成分の鋼とし、各成分において溶接金属内の溶融金属脆化割れの発生状況を観察した。なお、溶接条件は、溶接電流を220A,溶接電圧を25V,溶接速度を0.2m/分とした。
溶接金属の成分と割れ発生の関係を表3に示す。
このような引張応力が作用しても、試験No.1〜11のように溶接金属の組成を請求項で規定した範囲内に調整することにより溶融金属脆化割れの発生がなくなる。
これに対して、試験No.12では、溶接金属中に含まれるTi量が少ないために、また試験No.13及び14では各々溶接金属中に含まれるB量やMo量が少ないために、溶接金属に溶融金属脆化割れが生じていた。
このように、所定量のTi,B及びMoを含ませて溶接金属の結晶粒を微細化し、かつ結晶粒界の強度を強くすると、溶融Znの粒界への侵入が防止され、溶融金属脆化割れが抑制できることがわかる。
5:すみ肉部分 6,7:Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっき鋼板
Claims (2)
- Znを主成分とするめっき層を有する鋼板とアーク溶接部からなるZn系めっき鋼板の溶接継手において、前記アーク溶接部が、C:0.001〜0.3質量%,Si:1.5質量%以下,Mn:0.05〜2.0質量%,P:0.2質量%以下,S:0.03質量%以下,Ti:0.005〜0.1質量%,B:0.0001〜0.01質量%,Mo:0.05〜0.5質量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる金属で構成されていることを特徴とするZn系めっき鋼板の溶接継手。
- アーク溶接部が、さらにNb:0.001〜0.1質量%,V:0.01〜0.3質量%,Zr:0.01〜0.5質量%の一種又は二種以上を含む金属で構成されている請求項1に記載のZn系めっき鋼板の溶接継手。
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