JP6024643B2 - 母材の低温靭性とHAZ靭性及び合せ材の耐食性に優れたNi合金クラッド鋼板の製造方法 - Google Patents
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C:0.020〜0.100%
Cは鋼の強度を向上させる有効な成分であり、0.020%未満では一般溶接用鋼としては強度が得られないため0.020%以上とする。一方、過剰なCの含有は鋼材ならびに熱影響部の靭性の劣化を招き、また、溶接性の観点からC量の低減が望ましいため上限を0.100%とする。なお、溶接性及びHAZ靭性の観点から、好ましくは0.020〜0.080%の範囲である。より好ましくは0.030〜0.080%の範囲である。
Siは製鋼時の脱酸のために添加され、また、母材の強度確保に必要な成分であるため0.10%以上の含有が必要である。一方、0.50%を超えるSiの含有は靭性、加工性に悪影響を及ぼすためSi量は0.10〜0.50%の範囲とする。脱酸の効果と靭性の観点から好ましくは0.20〜0.40%の範囲である。
Mnは母材の強度及び靭性の確保に有効な成分として0.75%以上の含有が必要であるが、1.80%を超えるMnの含有は靭性、溶接性に悪影響を与えるため、Mn量は0.75〜1.80%の範囲とする。なお、好ましくは、1.00〜1.70%の範囲である。
母材ならびに溶接熱影響部靭性を確保するため、Pを極力低減することが望ましいが、過度の脱Pはコスト上昇を招くためP量は0.015%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
Sは鋼中不純物として不可避な元素であるが、低温靭性を確保するためにはS量は0.0030%以下とする。好ましくは0.0010%以下である。
Cuは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素の1つであるため、0.01%以上の含有が必要であるが、0.50%を超えて含有すると溶接性を阻害することがあるので、Cu量は0.01〜0.50%とする。好ましくは、0.10〜0.40%の範囲である。
Niは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素の1つであるため、0.01%以上の含有が必要であるが、0.45%を超えると効果が飽和し、また、Niの含有は製造コストを上昇させるため、Ni量は0.01〜0.45%の範囲とする。好ましくは、0.10〜0.40%の範囲である。
Crは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素の1つであるため、0.01%以上の含有が必要であるが、0.50%を超えて含有すると溶接熱影響部靭性を劣化させることがあるため、Cr量は0.01〜0.50%の範囲とする。好ましくは、0.05%〜0.35%の範囲である。
Moは母材の強度と靭性を安定的に向上させる元素であり、0.01%以上の含有が必要である。また、0.50%を超えて含有すると効果が飽和し、また、過剰な含有は溶接熱影響部靭性や溶接性を阻害するため、Mo量は0.01〜0.50%の範囲とする。なお、母材強度と靭性の観点から、好ましくは、0.05〜0.35%の範囲である。
Nbは細粒化による析出強化を通じて母材の強度および靭性を向上させるのに有効であるが、その量が0.005%未満ではその効果を有効に発揮することができない。一方、0.080%を超えると溶接熱影響部の靭性を劣化させるため、Nb量は0.005〜0.080%の範囲とする。好ましくは、0.010〜0.050%の範囲である。
TiはTiNを形成してスラブ加熱時や溶接熱影響部の粒成長を抑制し、結果としてミクロ組織の微細化をもたらして強度と母材ならびに溶接熱影響部の靭性を改善する効果がある。その含有量は0.005%未満では効果が少ないため0.005%以上含有させる。また、Tiの含有量が0.030%を超えると、かえって上記効果が得られないのみならず、靭性も劣化させる。したがって、Ti量は0.005〜0.030%の範囲とする。好ましくは、0.010〜0.020%の範囲である。
NはTiNとして析出することで溶接熱影響部靭性の向上に効果があるが、Nの含有量が0.0010%未満では効果が薄れるため下限を0.0010%とする。しかしながら0.0060%を超えると固溶Nが増大し溶接熱影響部靭性の低下がおこる。Tiの含有量と対応させるTiNの微細析出によるHAZ靭性の向上を考慮しN量は0.0010〜0.0060%の範囲とする。好ましくは0.0020〜0.0050%の範囲である。
Alは、製鋼過程の脱酸用として重要な元素であるとともに、溶接熱影響部の靭性向上にも効力を有する。しかし、0.070%を超えて含有しても溶接熱影響部の靭性改善効果は飽和するので、Al量は0.070%以下とする。一方、溶接熱影響部の靭性改善効果を得るためには、0.010%以上の含有が好ましい。
Caは硫化物系介在物の形態を制御し母材の靭性と溶接熱影響部靭性を改善する効果があるため、0.0010%以上含有する。しかし、0.0040%を超えると効果が飽和し、逆に清浄度を低下させ溶接熱影響部靭性を劣化させるためCa量は0.0010〜0.0040%の範囲とする。好ましくは0.0020〜0.0030%の範囲である。
なお、TiおよびNは、各元素の含有量(質量%)を表す。
Ti及びNは、上記のようにTiNを生成してHAZの靱性を改善するのに重要な元素であり、該効果を充分に発揮するためには両元素の含有量の相関関係も重要となる。すなわち、質量%比で、Ti/Nが2.00未満であると結晶粒が粗大化し、靱性値が大きく低下することがある。また、Ti/Nが4.00を超えると同様の理由により靭性値が低下することがある。したがって、Ti/Nは2.00〜4.00の範囲とすることが好ましい。
C:0.020%以下
Cはクラッド鋼板の製造において、圧延の熱履歴で炭化物として粒界に析出し、耐食性を阻害するため多量の含有は避けるべき元素である。0.020%を超えて含有すると、炭化物の析出が促進されて耐食性が劣化するため、C量は0.020%以下とする。好ましくは、0.015%以下である。
Siは製造時の脱酸に有効な成分であり、0.02%以上の含有から効果が発現する。
しかしながら、0.50%を超えて含有すると非金属介在物として残存し、耐食性が劣化し、また熱間加工性も劣化するため、Si量は0.02〜0.50%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.20%の範囲である。
Mnは脱酸成分として必要な成分であり、0.02%以上の含有から効果が発現する。
しかしながら、0.50%を超えて含有すると非金属介在物として残存し、耐食性が劣化し、また熱間加工性も劣化するため、Mn量は0.02〜0.50%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.15%の範囲である。
Pは不純物元素であり、クラッド鋼板の接合性確保のため、900℃以上で圧延する際に、粒界に偏析し、耐食性を劣化させる元素である。したがって、P量は0.010%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。
SはPと同様で不純物元素であり、クラッド鋼板の接合性確保のため、900℃以上で圧延する際に、粒界に偏析し、耐食性を劣化させる元素である。したがって、S量は0.0010%以下とする。好ましくは、0.0005%以下である。
Crは、金属の表面に保護性の高い酸化物皮膜を形成し、耐孔食性や耐粒界腐食性を向上させる元素である。また、Niとの複合添加によって、サワー環境中での耐応力腐食割れ感受性も改善するため、Niやその他の合金とのバランスも考え、Cr量は20.0〜23.0%の範囲とする。好ましくは21.5〜23.0%の範囲である。
Moは、耐孔食性、耐隙間腐食性を向上させる。また、Niとの複合添加によって、サワー環境中での耐応力腐食割れ感受性も改善するため、Niやその他の合金とのバランスも考え、Mo量は8.0〜10.0%の範囲とする。好ましくは8.5〜10.0%の範囲である。
Feは、原料としてフェロクロム、フェロモリブデン等を用いた場合、不可避的に混入する不純物であり、5.0%を超えるとNi量が低下して耐食性が低下するため、Fe量は5%以下とする。好ましくは3.5%以下である。
Alは有効な脱酸元素であり、0.02%以上から効果が発現する。しかしながら、0.40%を超えて含有すると耐応力腐食割れ性が劣化するため、Al量は0.02〜0.40%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.25%の範囲である。
TiはCの固定化元素として有効であり、クラッド鋼板製造時の熱履歴で炭化物として析出する。しかしながら、多量に含有すると、クラッド鋼板の接合界面で金属間化合物として析出し、接合性を阻害するため、Ti量は0.10〜0.40%の範囲とする。好ましくは0.10〜0.30%の範囲である。なお、0.10%未満の含有量では、Cの固定が不完全となり、耐食性を劣化する炭化物の析出原因となるため、下限を0.10%以上とする。
NbとTaはCの固定化元素として有効であり、クラッド鋼板製造時の熱履歴で炭化物として析出する。しかし、多量に含有すると低融点の金属間化合物を形成し、熱間加工性が低下するため、Nb+Taは3.15〜4.15%の範囲とする。
Niは高Ni合金の主要元素であり、耐食性を向上させる元素である。特に、サワー環境での耐応力腐食割れ性を著しく改善する。前述したように、CrとMoとの複合添加効果でさらに耐食性は向上する。なお、Ni合金とは、合金成分のうちでNi含有量が最も多い合金をいう。本願でのNi量は58%以上とするのが好ましい。
本発明のNi合金クラッド鋼板の製造方法について以下に述べる。
加熱時に合せ材を十分溶体化するために1050℃以上に加熱する。クラッド鋼の接合性の観点からは、加熱温度は高温である方が好ましいが、1200℃を超えて加熱すると、Ni合金の熱間延性が劣化して、圧延中に素材割れが生じる、また、1200℃を越えて加熱すると、母材の結晶粒粗大化によって靭性劣化を招く。よって、耐食性、低温靭性、接合性の観点から、加熱温度は1050℃以上、1200℃以下の範囲とする。
クラッド鋼は高温域での圧延によって、接合性が確保される。高温域での圧延が重要な理由としては、合せ材であるNi合金と母材である低合金鋼の変形抵抗差が小さくなるため、圧延で理想的な接合界面となる点と、高温域では合せ材と母材との境界で元素相互拡散が進行しやすいためである。得に、Ni合金はオーステナイト系ステンレス鋼より変形抵抗が大きいことから、オーステナイト系ステンレスクラッド鋼板の場合より、高温での大きな圧下比が必要となる。よって、クラッド圧延用組立スラブを作製する段階で、組立スラブ内の真空度が10−4torr以上の高真空を確保できれば、合せ材/母材界面で十分な金属接合を得るためには、950℃以上での圧下比(=(圧延前の板厚)÷(圧延後の板厚))が2.0以上であれば良い。接合性の確保のためには、好ましくは、温度範囲は1000℃以上であり、圧下比は2.5以上である。
母材中のオーステナイト未再結晶にて累積圧下率が50%以上の圧延を行うことにより、オーステナイト粒が伸展し、その後の加速冷却で変態生成するベイナイトが微細化し靭性が向上する。圧延仕上げ温度が750℃未満まで低下しすぎると、元素拡散の進行が生じにくく接合性の劣化に繋がり、また、合せ材中の炭化物の析出が促進し、耐食性が劣化する。よって、制御圧延は、母材の強度、低温靭性と合せ材の耐食性、クラッド鋼の接合性を全て確保するために、制御圧延開始温度は900℃以下、累積圧下率は50%以上とし、750℃以上の温度で仕上げ圧延を終了することとした。
圧延終了後に600℃以下まで加速冷却するのは、母材の強度、低温靭性を担保するためである。冷却速度は、耐食性に大きく影響し、冷却速度は3℃/s未満では、圧延直後からの冷却過程において、合せ材中に炭化物が析出し、耐食性が劣化する。よって、冷却停止温度は600℃以下とし、冷却速度は3℃/s以上とする。冷却速度は、好ましくは、5℃/s以上である。
Claims (2)
- 化学成分が質量%で、C:0.020%以下、Si:0.02〜0.50%、Mn:0.02〜0.50%、P:0.010%以下、S:0.0010%以下、Cr:20.0〜23.0%、Mo:8.0〜10.0%、Fe:5.0%以下、Al:0.02〜0.40%、Ti:0.10〜0.40%を含有し、さらに、Nb+Ta:3.15〜4.15%を含有し、残部Ni及び不可避的不純物からなるNi合金を合せ材とし、低合金鋼を母材とするクラッド鋼板において、前記母材の化学成分が質量%で、C:0.020〜0.100%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.75〜1.80%、P:0.015%以下、S:0.0030%以下、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.45%、Cr:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Nb:0.005〜0.080%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0010〜0.0060%、Al:0.070%以下、Ca:0.0010〜0.0040%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材の低温靭性とHAZ靭性及び合せ材の耐食性に優れたNi合金クラッド鋼板の製造方法であって、
クラッド鋼板の素材を用いて、1050℃〜1200℃に加熱後、鋼板表面温度が950℃以上での圧下比を2.0以上とし、900℃以下の温度域における累積圧下率を50%以上、圧延終了温度を750℃以上とする熱間圧延を行った後に、冷却速度3℃/s以上、冷却停止温度500℃以上600℃以下とする加速冷却を行った後に放冷することを特徴とする母材の低温靭性とHAZ靭性及び合せ材の耐食性に優れたNi合金クラッド鋼板の製造方法。 - さらに、前記Tiと前記Nとの質量%比であるTi/Nが2.00〜4.00の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の母材の低温靭性とHAZ靭性及び合せ材の耐食性に優れたNi合金クラッド鋼板の製造方法。
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