JP4628027B2 - ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents
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Description
炭素(C)は溶接金属部の強度を確保する為に重要な添加元素であるが、Cの含有量が0.02質量%未満では、大入熱・高パス間温度溶接時には溶接金属部の冷却速度が小さいため、必要な強度を確保できない。従って、C含有量は0.02質量%以上とする。望ましくは、0.05質量%以上である。一方、ワイヤにCを過剰に添加すると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなる。C含有量が0.10質量%を超えると、高温割れの発生が顕著になるため、C含有量は0.10質量%以下とする。
珪素(Si)はスラグ生成量及びスラグ剥離性には大きな影響を及ぼさないが、主として強度確保、脱酸による気孔欠陥防止、及びなじみ性向上のために添加する。これらの効果は0.65質量%以上の添加で有効になる。従って、Si含有量は0.65質量%以上とする。但し、Ti含有量が少ない場合は、Si含有量を更に増加させる必要がある。一方、Siを1.00質量%を超えて過剰に添加すると、溶接金属部の靭性が低下する。このため、Si含有量は1.00質量%以下とする。
マンガン(Mn)は、脱酸を促進すると共に、溶接金属部の強度及び靱性を向上させる効果がある。従来の一般的な大入熱用ワイヤはMnを多く含有するが、一方でMnはスラグの生成量を増加させ、且つ剥離性を低下させてしまう。ロボット等による自動溶接の場合は、人手による溶接と比較して、ワイヤの突き出し長さが短く、且つ安定することから、シールド性が良好であり、大入熱溶接条件と言えども脱酸元素の酸化消耗量が少ない。このため、本発明においては、Mn含有量を従来よりも低めに設計することにより、溶接金属部の機械的性質とスラグ発生量及びスラグ剥離性とのバランスを改善している。Mn含有量が1.40質量%未満では、大入熱溶接時の溶接金属部の強度及び靭性が不足する。従って、Mn含有量は1.40質量%以上とする。一方、Mn含有量が1.80質量%を超えると、スラグ量が増加し、剥離性が低下する。従って、Mn含有量は1.80質量%以下とする。より好ましくは、1.70質量%以下である。但し、Mo含有量が多い場合は、Mo含有量に応じてMn含有量の上限を減少させる必要がある。
硫黄(S)の添加は、溶融池の表面張力を低減し、凝固時の物理的凹凸を減少させて溶接金属部の表面を滑らかにする効果がある。これによりスラグの剥離性が向上する。但し、S含有量が0.005質量%未満ではこの効果は現れない。従って、S含有量は0.005質量%以上とする。好ましくは、0.009質量%以上である。一方、Sを0.025質量%を超えて添加しても、溶接金属部の表面形状を改善する効果が飽和してしまう上に、溶接金属部の靭性が低下し、高温割れが発生しやすくなる。また、スラグの形態が粒状化し、アークによる溶融を妨げ、不安定要因となる。従って、S含有量は0.025質量%以下とする。但し、O含有量が多い場合は、O含有量に応じてS含有量の上限値を低下させる必要がある。
チタン(Ti)の添加は、高電流域におけるアーク安定性を向上させる効果がある。Ti含有量が0.05質量%未満では、アーク安定性が低下し、スパッタ発生量が増加する。従って、Ti含有量は0.05質量%以上とする。但し、Si含有量が少ない場合にはTi含有量を増加させる必要がある。一方、ワイヤにTiを0.18質量%を超えて添加すると、スラグ量が過剰に多くなり、アークによる溶融が困難となって連続溶接を阻害する。従って、Ti含有量は0.18質量%以下とする。より好ましくは、0.16質量%以下である。
モリブデン(Mo)は、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属部の強度を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Moを最低でも0.10質量%以上添加する必要がある。従って、Mo含有量は0.10質量%以上とする。一方、Moはスラグの硬度を上昇させ、スラグを割れ難くして剥離性を低下させる。Mo含有量が0.35質量%を超えると、スラグ剥離性が急激に低下するため、Mo含有量は0.35質量%以下とする。但し、Mn含有量が多い場合には、Mn含有量に応じてMo含有量の上限値を低下させる必要がある。
銅(Cu)は、焼入性の向上を目的としてワイヤ中に含有させることがある。また、ワイヤの送給性の向上を目的として、ワイヤ表面にCuめっきを施すことがある。但し、ワイヤにCuを過剰に添加又はめっきすると、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの性質が変化して剥離性が低下する。ワイヤ中にCuを0.45質量%を超えて添加すると、これらの問題が顕著になるため、Cu含有量は0.45質量%以下とする。一方、焼入性又は送給性を向上させるためには、Cu含有量は0.10質量%以上とすることが好ましい。なお、線材の表面に銅めっきが施されているワイヤにおいては、上述のCu含有量は、線材に含まれるCu量と銅めっきに含まれるCu量との合計量とする。
Mn及びMoは共にスラグの剥離性を低下させる性質があり、Mn及びMoの含有量が合計で2.10質量%を超えると、スラグ剥離性の低下が顕著となる。また、スラグ量も増加する。従って、Mn及びMoの合計含有量は2.10質量%以下とする。
SiとTiとには多少の補完関係があり、一方の効果を他方が補うことができるが、合計含有量が0.75質量%以上でなければ、スパッタ量が増加すると共に、溶接金属部の強度が低下する。従って、Si及びTiの合計含有量は0.75質量%以上とする。
S及びOの合計含有量が0.030質量%を超えると、溶接金属部に高温割れが発生しやすくなると共に、スラグの形態が粒状化するため、アークによる溶融を妨げ、不安定要因となる。また、溶接金属部の靭性も低下する。従って、S及びOの合計含有量は0.030%以下とする。
鋼にはPが不可避的不純物として混入しているが、りん(P)は高温割れを発生させる主要元素の一つであり、本発明に係るワイヤに故意に添加する利点はない。P含有量が0.020質量%を超えると、高温割れが問題となる。従って、P含有量は0.020質量%以下に規制する。
鋼には酸素(O)が不可避的不純物として混入しているが、スラグは酸化物であるため、ワイヤ中のO量が増加すると、化学反応によって生じるスラグ生成量も増加する。また、O含有量が増加すると、溶接金属部中の介在物が増加するため、溶接金属部において高温割れが発生しやすくなると共に、溶接金属部の靭性が低下する。通常、O含有量が0.0100質量%以下であれば問題ないので、O含有量は0.0100質量%以下に規制する。但し、S含有量が多い場合は、高温割れを防止するために、O含有量の上限値を減少させる。なお、上述のO含有量の規定は、ワイヤ中のOの分布、即ち、線材のバルク中に含有されているか表面に存在しているかといったOの存在位置には無関係であり、総合計で規定することができる。
前述の如く、ワイヤの送給性もスラグ剥離性に大きな影響を及ぼす。ワイヤの送給が安定することにより、溶融池の形成もまた安定となり、生成されたスラグの厚さが均一となり、熱収縮の歪が均一に作用することにより、スラグが全面剥離しやすくなる。ワイヤ表面に存在するMoS2は、チップ−ワイヤ間の給電点における融着を低減し、ワイヤの送給性を向上させる。従来、ワイヤ表面の粒界に沿ってワイヤを過剰酸化させることによりワイヤの送給性を向上させる技術が知られているが、この方法ではO含有量が過剰になってしまい、スラグの生成量が増加するという欠点がある。これに対して、ワイヤ表面にMoS2を付着させる方法は、スラグ生成量の増加等の懸念がないため、ワイヤの送給性を向上させる方法として好適である。この効果は、ワイヤ表面にMoS2をワイヤ10kgあたり0.01g以上付着させることにより、顕著になる。一方、MoS2をワイヤ10kgあたり1.00gより多く付着させると、送給機構内にMoS2が堆積し、送給機構内にMoS2が詰まり、却ってワイヤ送給性を低下させてしまう。これにより、スラグ性状に影響を及ぼして、スラグの剥離性を低下させることになる。従って、ワイヤ表面のMoS2付着量は0.01g/10kg乃至1.00g/10kgであることが好ましい。
ホウ素(B)は少量の添加で溶接金属部の靭性を向上させる効果がある。但し、B含有量が0.0015質量%未満では、靭性向上効果が現れないので、0.0015質量%をB含有量の下限値とする。一方、0.0050質量%を超えて過剰にBを添加すると、溶接金属部の高温割れが発生しやすくなる。従って、0.0050質量%をB含有量の上限値とする。
Nb、V、Al、Cr及びNiは、溶接金属部の強度を向上させるために、必要に応じて微量添加される元素である。しかし、夫々の含有量が0.20質量%を超えると、スラグ量が増加する。また、Nb、V、Al、Crの含有量が夫々0.20質量%を超えると、溶接金属部の靭性が低下する。従って、Nb、V、Al、Cr及びNiの含有量は、夫々0.20質量%を上限とする。
アーク安定性は、溶接中の官能試験によって評価した。スラグがアークの発生を邪魔してアークを乱すことがなく、アーク安定性が極めて優れていた場合を極めて良好(◎)と判定し、スラグが若干アークを乱したものの、アーク安定性が実用上問題のないレベルであった場合を良好(○)と判定し、それ以外の場合を不良(×)と判定した。なお、ワイヤの送給不良に起因してアークの乱れが生じた場合も不良(×)とした。
スパッタ発生量は、溶接終了後にシールドノズルに付着したスパッタを回収し、その質量を測定することによって評価した。回収されたスパッタ量が3g以下である場合を良好(○)と判定し、3gよりも多かった場合を不良(×)と判定した。
溶接完了後、図4に示すパス間温度測定位置Tにおいて測定される鋼板表面温度が250℃まで冷却した時点で、ビード15の外観を写真撮影した。次に、そのビード外観写真をコンピュータに取り込んで画像解析ソフトにより二値化処理を行い、スラグが自然剥離した領域と、スラグが付着したままの領域とを区別した。そして、前記画像解析ソフトにより、スラグが自然剥離した領域の面積と、スラグが付着したままの領域の面積とを夫々算出した。そして、これらの面積に基づいて、スラグ剥離率を求めた。スラグが自然剥離した領域の面積をaとし、スラグが付着したままの領域の面積をbとし、スラグ剥離率をR(%)とするとき、スラグ剥離率Rを下記数式1により計算した。スラグ剥離率Rが15%以上である場合を良好(○)と判定し、15%未満である場合を不良(×)と判定した。
スラグ生成量については、ビード外観写真の撮影後に自然剥離したものも含めて全てのスラグを回収し、その質量を測定して評価した。回収されたスラグの質量が6g以下である場合を良好(○)とし、6gを超える場合を不良(×)とした。
溶接金属部の機械的性質の評価は、引張試験により強度を測定し、シャルピー衝撃試験により靭性を測定して行った。図4に示す試験片から、JIS Z3111に規定される試験片を、その中心がビード表面下10mm、ビード幅中央部となるように採取して、引張試験及びシャルピー衝撃試験に供した。なお、引張試験は室温(20℃)の雰囲気で行った。また、シャルピー衝撃試験は0℃の雰囲気で行い、3本の試験片を夫々測定してその平均値を評価値とした。そして、強度については、引張強さが490N/mm2(=490MPa)以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。また、靭性については、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが70J以上である場合を合格(○)とし、それ未満である場合を不合格(×)とした。
溶接金属部における高温割れの有無は、超音波探傷試験により調査した。
2;領域(本発明の好適範囲)
11、12;鋼板
13;裏当金
14;固定タブ
15;ビード
T;パス間温度測定位置
Claims (9)
- C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、Cu:0.45質量%以下、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びCu:0.45質量%以下を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、及びMo:0.10乃至0.35質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- C:0.02乃至0.10質量%、Si:0.65乃至1.00質量%、Mn:1.40乃至1.80質量%、S:0.005乃至0.025質量%、Ti:0.05乃至0.18質量%、Mo:0.10乃至0.35質量%、及びB:0.0015乃至0.0050質量%を含有し、更に、Nb、V、Al、Cr及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を夫々0.20質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Mn及びMoの合計含有量が2.10質量%以下、Si及びTiの合計含有量が0.75質量%以上、S及びOの合計含有量が0.030質量%以下であり、前記不可避的不純物のうち、Pが0.020質量%以下に規制され、Oが0.0100質量%以下に規制されていることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- Cの含有量が0.05質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- Tiの含有量が0.16質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- ワイヤ10kgあたりの質量でワイヤ表面にMoS2を0.01g/10kg乃至1.00g/10kg付着させたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
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