JP5479000B2 - 高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システム - Google Patents

高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システム Download PDF

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Description

本発明は、プロトン(水素イオン)や水酸化物イオン等の高イオン伝導性固体電解質であって、低価格で、高いイオン伝導度を示すとともに、特には膨潤を抑制した状態にあっても高いイオン伝導度を得ることができる高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した燃料電池その他の電気化学システムに関するものである。
従来からプロトン伝導性固体電解質を使用した電気化学システムとして、燃料電池,除湿機或いは電気分解型水素生成装置などの電解装置が実用化されており、特に常温作動型プロトン伝導性固体電解質の用途は多岐に亘っている。例えば固体高分子型燃料電池は、下記の(1)式に示したように負極に供給される水素の電気化学的酸化反応、(2)式に示したように正極に供給される酸素の電気化学的還元反応及びその間の電解質中のプロトン移動からなる反応によって電流が流れ、電気エネルギーが取り出される。
→ 2H+2e …………………………(1)
1/2O+ 2H+2e → HO ………………(2)
負極に供給される燃料がメタノールである直接メタノール型燃料電池等の水素以外のものを燃料として用いる燃料電池もあるが、この場合でも燃料が負極で電気化学的に酸化されてプロトンを放出する反応は同様に行われており、プロトン伝導性固体電解質を利用して作動させることができる。
固体電解質がプロトン伝導性でなく、水酸化物伝導性である場合にも同様の反応を起こさせることが可能で、その場合各電極での反応は(3)式,(4)式に示したように水酸化物イオンがプロトンとは逆の方向に電解質中を移動する。ただし、電解質が水分子を持っている場合、水分子から水酸化物イオンにプロトンが移動することによって実質的に水酸化物イオンがその逆向きに移動したのと等価な状態が実現できるので、実際にはプロトンが動くことによって水酸化物イオンが移動することもあり得る。
+ 2OH→ HO+2e ………………(3)
1/2O+ HO+2e → 2OH ………………(4)
燃料電池で使用される電極では、反応速度を上げるために表面積の大きな粉末触媒が使用されており、更に燃料、水、プロトン或いは水酸化物イオンといった反応に関与する物質が出会う反応場を広げるために、電極中にも固体電解質が添加される。即ち、固体電解質は電極間に配置して使用されるだけでなく、電極の中に入れる添加物としても使用される。
電解装置としては例えば電気分解型水素生成装置が実用化されている。この電気分解型水素生成装置は、燃料電池における前記(1)式と(2)式の反応とは逆の反応で水素を生成するものであって、水と電力だけでオンサイトに純度の高い水素が得られるので、水素ボンベが不要になるという利点がある。また、固体電解質の利用によって電解質を含まない真水を導入するだけで容易に電気分解を行うことができる。製紙業の分野においても同様なシステムによって漂白用の過酸化水素を下記の(5)式を用いた電解法によりオンサイトに製造する試みがなされている(非特許文献1)。
+ HO+2e → HO + OH ……………(5)
除湿機は燃料電池や水素生成装置と同様にプロトン伝導性固体電解質を正負両極で挟む構造であり、正負両極間に電圧を印加すると、正極では下記の(6)式の反応によって水が酸素とプロトンに分解され、固体電解質を通って負極に移動したプロトンが(7)式の反応によって再び空気中の酸素と結合して水に戻り、これらの反応の結果として正極側から負極側に水が移動したことによって正極側で除湿される。
O → 1/2O+2H+2e …………………(6)
1/2O+ 2H+2e → HO …………………(7)
電気分解型水素生成装置と同様な動作原理によって水を分解して除湿することも可能であり、水分蒸発冷風機と組み合わせた空調機も提案されている(非特許文献2)。
また、各種センサ、エレクトロクロミックデバイスなども本質的には上記と同様な動作原理に基づくシステムであり、正極,負極の異なる2種の酸化還元対間の電解質中をプロトンが移動することによって作動するので、プロトン伝導性固体電解質を用いることができる。現在ではこれらプロトン伝導性固体電解質を使用したシステムの実証研究も行われている。
水素センサは、例えば上記(6)式,(7)式の反応において水素が導入された場合の水素濃度による電極電位の変化を利用することができる。更に電極電位の変化或いはイオン伝導度の変化を利用して湿度センサに応用することも可能である。
エレクトロクロミックデバイスは、例えば負極にWO等を用いて電場をかけると下記の(8)式の反応によって発色することを利用しており、表示デバイスや遮光ガラスへの用途が考えられている。このシステムも負極に対するプロトンの授受によって動作し、プロトン伝導性固体電解質が利用できる。
WO+xH+xe → HxWO(発色)………………(8)
なお、これら電解装置、除湿機、センサー或いはエレクトロクロミックデバイスもプロトン伝導性固体電解質によって作動できるものであるから、燃料電池と同様の原理で、水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いることによっても作動させることができる。
その外にも原理的にプロトン伝導性固体電解質を利用して作動する電気化学システムとして、一次電池,二次電池,光スイッチ,電解水製造装置等が挙げられる。二次電池の例としてのニッケル水素電池は、負極に水素吸蔵合金、正極に水酸化ニッケル、電解液としてアルカリ電解液を用いており、下記の(9)式,(10)式に示したように充放電時に負極ではプロトンの電気化学的酸化還元と水素吸蔵合金への水素の吸蔵が起こる。
〔充電〕 HO + e → H(吸蔵)+ OH …………(9)
〔放電〕 H(吸蔵)+ OH → HO + e …………(10)
一方、正極では下記の(11)式,(12)式に示したように水酸化ニッケルの電気化学的酸化還元反応が起きる。
〔充電〕 Ni(OH)+OH→ NiOOH+HO+e ……(11)
〔放電〕 NiOOH+HO+e→Ni(OH)+OH ……(12)
このニッケル水素電池の充放電反応は電解質中をプロトンもしくは水酸化物イオンが移動することによって成立し、原理的にはプロトン或いは水酸化物イオン伝導性固体電解質を利用することができるが、従来は固体電解質ではないアルカリ電解液が用いられている。
光スイッチとしては、例えばイットリウムを負極に使用したものが提案されている(非特許文献3)。これは電場をかけることによってイットリウムが下記の(13)式のように水素化されて光を透過するので、光の透過と不透過を電場により切り替えることができる。このシステムも原理的にはプロトン或いは水酸化物イオン伝導性固体電解質を利用することができるが、従来は通常アルカリ電解液が用いられている。
Y+3/2HO+3e → YH+3OH ……………(13)
電解水は電解反応を行った水であり、還元側、酸化側で効能が異なるが、健康に良い作用,殺菌作用,洗浄作用,農作物の生育を促進する作用があり、飲料水,食品用水,洗浄水,農業用水などの様々な用途がある。電解反応は水が電解質を含むことで促進されるが、水に電解質を溶解させると、使用の際その電解質を除去する必要が生じる場合がある。これに対して、固体電解質を使用した場合には電解質除去の手間が必要なくなる。
上記した燃料電池、電解装置、除湿機など既に実用化されている電気化学システムの多くは固体電解質として、デュポン社よりNafionの商品名称で販売されているパーフルオロスルホン酸系電解質膜が用いられている。
一方、本発明者は先にパーフルオロスルホン酸系或いは炭化水素系の電解質に代わる安価な高イオン伝導性の固体電解質材料として、ポリビニルアルコールと各種無機化合物との複合化合物を複数提供している。これらはポリビニルアルコールと珪酸化合物(特許文献1)、ポリビニルアルコールとタングステン酸化合物又はモリブデン酸化合物(特許文献2)、ポリビニルアルコールと錫酸化合物(特許文献3)、ポリビニルアルコールとジルコン酸化合物(特許文献4,5)の分子レベルでの複合化合物を基本とし、他成分としてリン,ホウ素,アルミニウム,チタン,カルシウム,ストロンチウム,バリウム化合物の少なくとも一種類が添加されている固体電解質である。
これらの複合化合物からなる固体電解質は、水溶液中にポリビニルアルコールの共存下で無機化合物の原料塩を中和するという簡単で低コストな方法によって得ることができる。ポリビニルアルコールとジルコン酸化合物との複合化合物については、ポリビニルアルコールの共存する溶液中でジルコニウム塩或いはオキシジルコニウム塩を加熱により加水分解した後に、溶媒を除去し、その後にアルカリに接触させることによって得られる(特許文献6)。また、含窒素有機化合物を溶液中に導入することによって、より高いイオン伝導度を得ることができる(特許文献7)。
更に、前記した複合化合物の湿潤状態における膨潤を防ぐために、複合化合物中のポリビニルアルコールの無機化合物と結合していない水酸基にアセタール化反応によってアルデヒドを結合させ、疎水性の基に変換するか、架橋する方法によってこれらの膨潤の問題が解決し得ることも本発明者らによって示されている(特許文献8,9)。
特開2003−007133公報 特開2003−138084公報 特開2003−208814号公報 特開2003−242832号公報 特開2004−146208号公報 特開2008−243682号 特開2009−16090号 特開2004−296243号公報 特開2006−185594号公報
電気化学,69,No3,154−159(2001) 平成12年電気学会全国大会講演論文集,P3373(2000) J.Electrochem.Soc.,Vol.143,No.10,3348−3353(1996)
しかしながら、前記したパーフルオロスルホン酸系電解質膜は、主として製造工程の複雑さに起因して高価格であるという大きな問題がある。この点は固体電解質の量産効果によってある程度の低価格化が期待されるものの自ずと限界があり、安価な代替材の出現が希求されているのが現状である。パーフルオロスルホン酸系電解質膜の価格を下げるためにポリイミド,ポリエーテルエーテルケトンなどの炭化水素系エンジニアリングプラスチックを主鎖骨格としてプロトン伝導能のあるスルホン酸基を導入した所謂炭化水素系電解質膜も開発されているが、これら炭化水素系エンジニアリングプラスチックも決して安価ではなく、低価格化の効果は少ない。
これらのパーフルオロスルホン酸系電解質膜、或いは炭化水素系電解質膜は、いずれもスルホン酸基を有することによってプロトン伝導性を持った単一の分子で構成されており、構成分子はプロトン伝導性,強度,化学的安定性,耐熱性など一種の分子であらゆる機能を満足する必要があるため、自ずから限られた高価な材料となってしまうのである。
一方、本発明者の提供した特許文献1〜7に示す複合化合物からなる固体電解質は、安価なポリビニルアルコールを簡単な方法で無機酸化物と分子レベルで複合化することにより、耐水性,耐熱性,化学的安定性を著しく向上させることができ、低価格であるにもかかわらず高性能な固体電解質を得ることができる。従って、これら複合化合物からなる固体電解質は、従来のパーフルオロスルホン酸系電解質膜や所謂炭化水素系膜を使用した固体電解質の問題点を解決することが可能である。
しかしながら、これら複合化合物についても、次のような更なる問題がある。固体電解質は、燃料電池や各種電解装置など、非常に湿度の高い水蒸気中や液体の水と接する状態など水分の多い湿潤環境下で使用される場合が多い。このような湿潤状態におかれた場合、複合化合物からなる固体電解質は、十分に膨潤した状態では高いイオン伝導度を示す。しかし、十分な膨潤を許すと、乾燥状態と膨潤状態とでのサイズ変化が非常に大きくなってしまうため、そのままでは実用に供することが難しい。
そこで、特許文献8,9に示すアルデヒド処理等の膨潤抑制処理を施す必要がある。しかしながら、膨潤抑制処理を施すと、今度はイオン伝導度がかなり低くなってしまう。そのため、サイズ変化を抑えるための膨潤抑制と、イオン伝導度を高めることという2つの課題を同時に高いレベルで満足させることが難しいという問題があった。
上記した2つの課題の関係の詳細は次の通りである。複合化合物において、ポリビニルアルコールは水酸基を介して無機化合物と強固に結合し、緻密な化合物を形成している。この緻密で強固な結合状態では水分の吸収による膨潤は極めて低く抑えられるが、緻密であるが故にイオン伝導を介助する水分を多く吸収するスペースが少なく、又強固な結合によって分子運動も活発でないために、この状態では本来イオン伝導度は高くない。また、実際にはポリビニルアルコールの一部の水酸基は無機化合物と結合せず、ポリビニルアルコールのみの部分を形成しているが、その部分でも乾燥状態では極性を持った水酸基どうしが水素結合で結び付くことによって緻密な結晶構造をとっている。従って、複合化合物は、湿潤状態におかれない限り、緻密で強固な状態にあり、イオン伝導は高くない。
一方、湿潤環境下におかれた場合には、ポリビニルアルコールと無機化合物が結合した部分には大きな変化は起こらないが、ポリビニルアルコールのみの部分が結晶状態から一変して水に溶解した状態と同様に解け、伸びた状態となる。即ち大きな構造転移が起こり、大きく膨潤する。この状態では複合化合物全体としての分子運動の自由度が増え、かつ大幅な吸水量の増大が起こるため、イオン伝導度は急激に上昇する。ただし、この状態ではポリビニルアルコールのみの部分が解けて伸びてしまっているため、膨潤は非常に大きくなり、サイズ変化が大きく実用性には問題がある。
一方、特許文献8,9に示すような疎水化のためのアルデヒド処理を施すと、ポリビニルアルコールのみの部分にアルデヒドが結合し、水酸基を疎水性基に変換させたり、水酸基どうしを架橋したりすることによって膨潤が抑制されるが、その場合複合化合物は乾燥状態にあるときと同様、全体的に緻密で強固に結合された状態になり、イオン伝導度は低下してしまう。
また、これらの複合化合物の膨潤抑制方法として、加熱によって無機化合物部分どうしの結合を進め、無機化合物の強固なネットワークを形成する手段もあるが、その場合にもイオン伝導度が著しく低下してしまうことに変わりはない。即ち、複合化合物は、これら膨潤抑制処理をしない状態では乾燥状態と湿潤状態とでのサイズ変化が非常に大きく、膨潤抑制処理を行わなければ実用に供することが難しいのである。しかし、燃料電池など多くの用途においては、イオン伝導度は現状でも必ずしも満足のできるレベルではなく、更なる向上が望まれる状況であり、膨潤を抑制した状態であっても高いイオン伝導性が得られる固体電解質が希求されている。
そこで本発明は上記の高イオン伝導性固体電解質が有している問題点を解決して、複合化合物からなる固体電解質において、膨潤が抑制された状態にあっても、高いイオン伝導度が得られるようにすることにより、高いイオン伝導度の実現と、膨潤抑制によるサイズ変化の防止という2つの課題を同時に高いレベルで満足させる高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した燃料電池その他の電気化学システムを提供することを目的としている。
本発明は上記課題を解決するために、少なくとも珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物又はジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物とポリビニルアルコールからなり、ポリビニルアルコールが下記の一般式を満足する変性基を導入している複合化合物を含む高イオン伝導性固体電解質を提供する。なお、式中のHiはポリビニルアルコールの水酸基サイトに変性基がm種ついている場合の水酸基サイト全モル数に対するi番目の種の変性基のモル%を、Piはポリビニルアルコールの水酸基サイトに変性基がm種ついている場合のi番目の種の変性基側鎖部分の平均分子量を表す。
Figure 0005479000
そして、前記ポリビニルアルコールの変性基がアセチル基である構成、前記ポリビニルアルコールの変性基が、下記の一般式で表されるオキシアルキレン基である構成を提供する。なお、式中のAOはオキシエチレン,オキシプロピレン,オキシブチレン又はオキシテトラメチレン基を、Xは水素,アルキル基,アルキルエステル基,アルキルアミド基又はその塩を、nは1〜50の整数を表す。
Figure 0005479000
また、前記ポリビニルアルコールの変性基がアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物である構成を提供する。そして、複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸又は錫酸から選択された少なくとも1又は複数のアルカリ金属塩とが共存する水溶液中で、前記アルカリ金属塩を酸により中和し、溶媒としての水を除去して製造される構成、複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とが共存する溶液中で、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩をアルカリにより中和し、溶媒としての水を除去して製造される構成を提供する。
更に、複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とが共存する溶液中において、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩を加熱により加水分解した後に、溶媒を除去し、その後にアルカリに接触させて製造される構成を提供する。
そして、これらの高イオン伝導性固体電解質に、該高イオン伝導性固体電解質によって隔てられた複数の電極を配する構成をとる固体電解質を使用した電気化学システム、これらの高イオン伝導性固体電解質を電極中に含有している電気化学システムを提供する。また、電気化学システムが、燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサ,一次電池,二次電池,光スイッチシステム又は多価金属を用いた電池システムである構成を提供する。
以上記載した本発明によれば、少なくとも珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物又はジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物とポリビニルアルコールからなる複合化合物において、ポリビニルアルコールの水酸基サイトに対して前記した一般式を満足する水酸基以外の変性基を導入して置換している。もし水酸基以外の変性基、例えばアセチル基が導入されていなければ、複合化合物中においてポリビニルアルコールと無機化合物は強固に結合し、緻密な複合化合物を形成することとなるが、ポリビニルアルコールの水酸基が一定量だけアセチル基に置き換わっていることにより、アセチル基は水酸基と比べて分子量が大きく、構造も異なるため、ポリビニルアルコールと無機化合物との緻密な結合を阻害し、ポリビニルアルコールと無機化合物との結合を少し緩んだ構造とする。また、アセチル基そのものは無機化合物と結合しないため、それによっても少し緩んだ構造となる。
また、もし水酸基以外の変性基が導入されていなければ、無機化合物と結合していないポリビニルアルコールだけの部分は、規則的に配置された水酸基同士が水素結合で結びつき、緻密で強固な結晶構造をとることとなる。しかし、水酸基よりも分子量が大きく、構造が異なり、かつ水酸基よりも極性の低いアセチル基が水酸基サイトに導入されて置換されることにより、アセチル基は規則的な構造をもって水酸基と強固に結びつくことができないため、緻密な結晶の生成を阻害することとなる。また、水酸基位置に導入された極性の低いアセチル基同士は会合しようとするため、その効果によっても緻密な結晶の生成は阻害される。よって、ポリビニルアルコールだけの部分も膨潤が抑制されてもなお少し緩んだ状態となる。
これらの効果により、膨潤が抑制された状態にあっても複合化合物全体として緻密性が弱まり、ある程度緩んだ構造をとることとなって複合化合物中に水分を吸収できるスペースが生じ、吸水量が増加するとともに、分子運動に対する自由度が増し、分子運動が活発になる。その結果として膨潤が抑制された状態にあっても、より高いイオン伝導度が得られるようになる。また、乾燥状態においても少し緩んだ構造をとることにより、乾燥状態と湿潤状態とでのサイズ変化が小さくなり、そのことだけでも膨潤率を下げる効果が生じる。以上の効果により、膨潤が抑制された状態にあっても高いイオン伝導度を得ることができる高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した燃料電池その他の電気化学システムを得ることができる。
このように水酸基が他の変性基で置換されている一般的なポリビニルアルコールとして、水酸基の一部がアセチル基に置き換えられたいわゆる部分ケン化型ポリビニルアルコールはよく知られており、本発明者もアセチル基の置換率が10〜14モル%(ケン化度90〜86モル%)の部分ケン化型ポリビニルアルコールを特許文献7〜9等の実施例において原料として使用している。しかしながら、アセチル基の分子量は59であって、必ずしも大きい基ではないため、水酸基に対する置換量が少ないと、本発明の目的とする構造改変に対する効果は必ずしも大きくはなく、一般的な部分ケン化型ポリビニルアルコールのアセチル基量では十分な効果は得られない。
変性基としてアセチル基を導入・置換する場合は、ポリビニルアルコールの水酸基サイトの全数に対して15%以上がアセチル基に置換された場合に複合化合物を局部的にある程度緩んだ構造にすることができて、本発明の効果を得ることができる。よって、本発明では、アセチル基以外の変性基が導入・置換されていない場合(前記一般式のmが1の場合)は、水酸基サイトに15モル%以上の多量のアセチル基が置換するようにしている。
この変性基の導入・置換による効果は、変性基の極性などの性質によっても単位置換量あたりの効果が変わってくるが、基本的には変性基の大きさ、即ち分子量に依存する。変性基の分子量が大きければ少量の置換でも効果が得られ、分子量が小さければ十分な効果を得るために多くの置換量を要する。変性基の分子量が大きいということは構造を緩ませる最小限の効果となり得るため、本発明では導入する変性基のモル%に変性基側鎖部分の平均分子量を乗じた数値(Hi×Pi)が前記した一般式に示すように一定の数値を超えるような変性基を導入するようにしている。
上記のようなポリビニルアルコールに変性基を導入することによって複合化合物の構造を緩ませて得られる効果は、アセチル基の場合のみならず、水酸基以外のあらゆる変性基において起こり得る。水酸基とは大きさ、構造、性質の異なる変性基が導入されることにより、膨潤が抑制された状態でもアセチル基の場合で説明したような規則性の欠如が起こり、複合化合物の構造の緻密さが損なわれることによって高いイオン伝導度が得られる。また、特定の変性基については、置換した変性基の水酸基との極性の違いなどによって、変性基の大きさや分子量以上の効果が発揮されることも有り得る。
アセチル基以外の変性基の例として、複合化合物のポリビニルアルコールの水酸基位置にオキシアルキレン基を導入した場合が挙げられ、構造を緩ませる効果が得られる。オキシアルキレン基はポリビニルアルコールと同様、電気陰性度の大きい酸素原子を持っているが、酸素原子がカーボン骨格内に入った形をしているため、極性の偏りは小さく、水酸基ほど極性は大きくない。また、ポリビニルアルコールと構造的に異質であることもあり、水酸基と強固で緻密な結合を作り得ず、効果的に緩んだ構造とすることができる。また、オキシアルキレン基は、無機化合物と強固な共有結合を形成することがなく、無機化合物との結合部分も緩んだ状態にする。オキシアルキレン基はある程度分子量を大きくすることが可能であり、その場合構造を崩す効果が大きく、少量の置換でも十分な効果を得ることができる。
複合化合物のポリビニルアルコールの水酸基位置にアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が結合した場合にも同様な効果が得られる。アミン,イミンは水分が共存する場合、水中のプロトンと配位結合し、イオン化してアンモニウムイオンを形成する。また、第四アンモニウム化合物はもともとアンモニウムイオンを形成している。従って、これらのものはいずれもアンモニウムイオンを形成するが、アンモニウムイオンは水酸基よりも水との親和性がはるかに高く、ポリビニルアルコールに導入されると、低湿度環境下であっても水と結合し、吸水する。この吸水そのものが低湿度下でのイオン伝導度向上に直接寄与するだけでなく、吸水によってポリビニルアルコールの緻密な結晶が崩されることによる相乗効果が生まれる。このようにしてアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物による置換は特に高い効果を示す。
本発明の固体電解質は水酸化物イオン或いはプロトン伝導性であり、燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサ,一次電池,二次電池,光スイッチシステム又は多価金属を用いた電池システムなどに使用可能である。
本発明にかかる含窒素有機化合物の有する(A)アミンの構造図、(B)イミンの構造図、(C)第四アンモニウム化合物の構造図。
以下本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムの最良の実施形態を説明する。本発明は、少なくとも珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物又はジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物とポリビニルアルコールからなり、ポリビニルアルコールが下記の一般式を満足する変性基を導入している複合化合物を含む高イオン伝導性固体電解質を基本とする。なお、下記の一般式(以下、数式という)中、Hiはポリビニルアルコールの水酸基サイトに変性基がm種ついている場合の水酸基サイト全モル数に対するi番目の種の変性基のモル%を、Piはポリビニルアルコールの水酸基サイトに変性基がm種ついている場合のi番目の種の変性基側鎖部分の平均分子量を表す。
Figure 0005479000
上記数式に示すF値は、導入する変性基のモル%に変性基側鎖部分の平均分子量を乗じた数値(Hi×Pi)であり、変性基の大きさ、即ち分子量を加味した上での変性基の量を表しているといえる。十分な量の変性基を導入・置換することによって、膨潤が抑制された状態にあっても複合化合物の緻密な構造を少し緩んだものとすることができるため、複合化合物中に水分を吸収できるスペースが生じ、吸水量が増加するとともに、分子運動に対する自由度が増し、分子運動が活発になるための十分な効果を得ることができる。その結果として膨潤が抑制された状態にあっても、より高いイオン伝導度が得られるようになる。
上記した本願発明の作用効果は、変性基を導入して複合化合物の緻密な構造を少し緩んだものとすることによって発現されるものなので、水酸基以外のあらゆる変性基において同様な効果が得られる。ただし、十分な作用効果を得るためには大きな変性基(分子量の大きい変性基)であれば導入量は少量でよいが、小さな変性基(分子量の小さい変性基)は導入量を多くする必要がある。そのため、変性基を導入することによる十分な効果を得るためには、F値が885以上であることが必要である。このF値885以上は後述する各実施例及び比較例において、十分な効果の見られた最小のF値から臨界値を得たものである。一方、F値の上限値は特に限定はないが、導入できるF値は50000程度が上限となる。
また、置換する変性基のモル%の下限は、変性基の大きさ、即ち分子量によって決定されるため、F値=885以上となればよく、特に限定はない。一方、変性基のモル%の上限は無機化合物と結合する水酸基が十分確保されていることが条件となるため、90モル%程度である。
本発明において固体電解質に含まれる複合化合物は、不可欠成分として珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物又はジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物を構成成分とする。珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸,ジルコン酸とは、それぞれSiO,WO,MoO,SnO,ZrOを基本単位とし、それがHOを含んでいる化合物であり、それぞれ一般式SiO・xHO,WO・xHO,MoO・xHO,SnO・xHO,ZrO・xHOで表せるものであるが、本発明においては珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物の誘導体、或いはそれらを主体とした化合物全般のことを示す。
よって、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸,ジルコン酸の特性が損なわれない範囲で一部別の元素が置換されていてもよく、化学量論組成からのずれ、或いは添加物を加えることも許容される。例えば珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸,ジルコン酸の塩や水酸化物もSiO,WO,MoO,SnO,ZrOを基本単位としたものであり、塩や水酸化物を基本とした誘導体、或いはそれを主体とした化合物も本発明における珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物に含まれる。
本発明において固体電解質に含まれる複合化合物は、水酸基サイトに対して前記数式を満足するような量の変性基が導入されて水酸基と置換しているポリビニルアルコールを不可欠成分とする。必ずしも複合化合物を構成するポリビニルアルコール分子すべてについて前記数式を満足するモル%の変性基が置換している必要はなく、複合化合物全体の平均として前記数式を満足する量の変性基が導入・置換されていればよい。なお、最も効果の均一性を高めるためには複合化合物を構成するポリビニルアルコール分子のすべてについて前記数式を満足する量の変性基を導入・置換していることが好ましい。
本発明で導入する変性基としてはアセチル基が適当であり、アセチル基以外の変性基が導入されていない場合は、アセチル基は水酸基サイト全数に対して15モル%以上が導入・置換されている必要がある。なお、より好ましくはアセチル基は水酸基サイト全数に対して17モル%以上、更に好ましくは20モル%以上が導入・置換されていることが好ましい。一方、アセチル基の置換量が多すぎると、水への溶解性が低下したり、固体電解質の強度に問題が生じたり、原料液が分離したり、固体電解質を成形(成膜)する際、多くの欠陥を持つものしかできず、成膜性に問題を生じる可能性がある。従って、水酸基サイト全数に対するアセチル基の導入・置換率は40モル%以下、より好ましくは37モル%以下、更に好ましくは35モル%以下に留めるのが好ましい。
アセチル基以外の変性基としては、ポリビニルアルコールの水酸基サイトに置換できる官能基であって前記数式を満たして複合化合物が作製できるものであればどのようなものでも導入することが可能である。例えばスルホン酸基又はその塩;(ジ)カルボン酸基又はその塩;アクリルアミド基;ダイアセトンアクリルアミド基などのアミド基;グリシジル基;ピロリドン基;アルキルエーテル基;ヒドロキシアルキルエーテル基;ニトリル基;シラノール基;カーボネート基;1,2−ジオール基を有する変性基なども使用できる。また、これらの水酸基以外の変性基は複数種同時に導入されていてもよく、その場合、前記数式に示すようにiを1よりはじめて1番目からm番目までの変性基のモル%×変性基側鎖部分の平均分子量(Hi×Pi)の総和が前記数式の条件を満たしていればよい。
また、本発明で使用する変性基としてオキシアルキレン基も有効である。本発明において、オキシアルキレン基とは、下記の一般式で表される基の構造を有するものである。但し、下記の一般式中のAOは、オキシエチレン,オキシプロピレン,オキシブチレン,オキシテトラメチレン基であり、Xは水素,アルキル基,アルキルエステル基,アルキルアミド基又はその塩であり、nは1〜50の整数である。
Figure 0005479000
中でもAOで表されるオキシアルキレン基はオキシエチレン基が好ましい。また、オキシアルキレン基は、単独又は2種以上を含んでいてもよい。2種以上のオキシアルキレン基を含む場合には、ブロック状付加又はランダム状付加のいずれでもよい。水への溶解度をより高く得られる点から、一方にオキシエチレン基を有することが好ましい。また、Xは、水への溶解性を高めるなどの点から水素,スルホン酸又はその塩が好ましい。また、nはオキシアルキレン基の数を表しており、nの範囲は1〜50、より好ましくは3〜30、更に好ましくは5〜20である。
変性基がオキシアルキレン基の場合、上記数式を満足する範囲の置換量であれば効果が得られるが、置換量が多すぎたり、鎖長が長すぎたりすると、原料液が分離したり、固体電解質を成膜する際に、多くの欠陥を持つものしかできず、成膜性に問題を生じる可能性がある。従って、ポリビニルアルコールの水酸基サイト全数に対するオキシアルキレン基の置換率は30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは20モル%以下に留めるのが好ましい。
本発明で使用する変性基としてアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物も有効である。本発明においてアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物とは、分子内にそれぞれ図1(A),(B),(C)に示したような含窒素部を持つ化合物を意味する。なお、アミンは一般的に図1(A)のように第一アミン,第二アミン,第三アミンがある。水酸基位置に置換するアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物は、図1(A),(B),(C)に示したような含窒素部を持つ化合物であればどのようなものでもよく、一つの化合物中に複数の含窒素部を持っていてもよい。これらアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物は上記数式を満足する範囲の置換量であれば効果が得られるが、あまり置換量が多すぎると、原料液が分離したり、固体電解質を成膜する際に多くの欠陥を持つものしかできず、成膜性に問題を生じたりする可能性がある。従って、ポリビニルアルコールの水酸基サイト全数に対するアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物の置換率は30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは20モル%以下に留めるのが好ましい。
本願発明は上記したように、膨潤が抑制された状態にあっても、より高いイオン伝導度が得られるようにするため、複合化合物の緻密な構造を少し緩んだものとすることに特徴を有するものである。そのため、F値が885以上であれば、水酸基以外のあらゆる変性基において、複合化合物の緻密な構造を少し緩んだものとするために十分な量の変性基を導入・置換することができる。よって、導入する変性基そのものに限定はない。
本発明において、複合化合物中のポリビニルアルコールに変性基としてアセチル基を導入するには、アセチル基を有するポリビニルアルコール系樹脂を原料として複合化合物を製造することによって導入することができる。そして、アセチル基を有するポリビニルアルコール系樹脂は脂肪族ビニルエステル系単量体を重合し、得られた脂肪族ポリビニルエステルをケン化することにより得られる。
本発明において、複合化合物中のポリビニルアルコールに変性基としてオキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物を導入するには、オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物を有するポリビニルアルコール系樹脂を原料として複合化合物を製造することによって導入することができる。そして、オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物を有するポリビニルアルコール系樹脂は、それらの構造を有する不飽和単量体と脂肪族ビニルエステル系単量体とを共重合させ、得られた共重合体をケン化することにより得ることができ、又ポリビニルアルコール系樹脂への該不飽和単量体をグラフト共重合することによっても得ることができるが、その手段はこれらに限られるものではない。なお、該不飽和単量体は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の脂肪族ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,ピバリン酸ビニル,ステアリン酸ビニル等の公知の脂肪族ビニルエステルを挙げることができる。工業的に製造する目的では、特に酢酸ビニルが好ましい。
上記の脂肪族ビニルエステル系単量体の重合方法、共重合方法は公知の方法でよく、ラジカル重合、例えば塊状重合法,溶液重合法,懸濁重合法,乳化重合方法などにより重合されるが、中でもメチルアルコールなどの溶剤中でα,α’−アゾビスイソブチロニトリル;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系、又は過酸化ベンゾイル;過酢酸;ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートなどの過酸化物系の開始剤を用いてラジカル重合する方法が一般的である。メルカプタン類;アルデヒド類などを添加して重合度を調整したり、分子鎖末端を変性したりすることも可能である。また、未反応の不飽和単量体の除去方法および乾燥、粉砕方法なども公知の方法でよく、特に制限はない。上記の重合法等により得られたポリビニルエステルのケン化方法は、公知の方法でよく、例えばメチルアルコール等のアルコール類;酢酸メチル;酢酸エチル等のエステル類とアルコール類との混合溶媒中で、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物やナトリウムメチラートなどのアルコラート等をケン化触媒として用いた方法が一般的である。
本発明におけるオキシアルキレン基を含有するポリビニルアルコール系樹脂を製造する際に用いられる不飽和単量体としては、オキシアルキレン基構造を持つ不飽和単量体であればどのようなものでもよく、例えばポリオキシエチレン(メタ)アクリレート,ポリオキプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類,ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド,ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類,ポリオキシエチレンビニルエーテル,ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル類,ポリオキシエチレンアリルエーテル,ポリオキシプロピレンアリルエーテル,ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル,ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類等が挙げられる。
本発明におけるアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物を有するポリビニルアルコール系樹脂を製造する際に用いられる不飽和単量体としては図1(A),(B),(C)に示す構造を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えばN,N−ジメチルアリルアミン;N−アリルピペラジン;3−ピペリジンアクリル酸エチルエステル;2−ビニルピリジン;4−ビニルピリジン;2−メチル−6−ビニルピリジン;5−エチル−2−ビニルピリジン;5−ブテニルピリジン;4−ペンテニルピリジン;2−(4−ピリジル)アリルアルコール;ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩;N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩などが挙げられる。また、加水分解によってアミン構造となる、N−ビニルホルムアミドなどの不飽和単量体を用いてもよく、ポリビニルアルコール系樹脂にアルカリ触媒下のもと3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド;グリシジルトリメチルアンモニウムクロライドを水酸基に付加させる方法なども用いることができる。
本発明におけるポリビニルアルコールはアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物に加えて、それら以外の官能基が結合されていてもよい。また、ポリビニルアルコールとして機能するとみなせる範囲であれば、一部分に他のポリマーを共重合することもできる。その場合、それら官能基の導入或いは他のポリマーの共重合は、本発明の複合化合物の原料となるポリビニルアルコール系樹脂に、アセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物に加えて、それら以外の官能基を結合することによって、或いは一部分に他の不飽和単量体を共重合することによって実施される。共重合可能な他の不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸;マレイン酸;無水マレイン酸;フマル酸;クロトン酸;イタコン酸などのカルボキシル基含有不飽和単量体、マレイン酸モノメチル;イタコン酸モノメチルなどの不飽和二塩基酸のアルキルエステル類、アクリルアミド;ジメチルアクリルアミド;メタクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド;N−ビニルアセトアミドなどのアミド基含有不飽和単量体、塩化ビニル;フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類、アリルグリシジルエーテル;グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基を有する不飽和単量体、N−ビニル−2−ピロリドン;N−ビニル−3−プロピル−2−ピロリドン;N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン;N−ビニル−5,5−ジメチル−2−ピロリドン;N−ビニル−3,5−ジメチル−2−ピロリドン;N−アリル−2−ピロリドンなどの2−ピロリドン環含有不飽和単量体、メチルビニルエーテル;n−プロピルビニルエーテル;i−プロピルビニルエーテル;n−ブチルビニルエーテル;i−ブチルビニルエーテル;t−ブチルビニルエーテル;ラウリルビニルエーテル;ドデシルビニルエーテル;ステアリルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、アクリロニトリル;メタアクリロニトリルなどのニトリル類、アリルアルコール;ジメチルアリルアルコール;イソプロペニルアルコール;ヒドロキシエチルビニルエーテル;ヒドロキシブチルビニルエーテルなどの水酸基含有不飽和単量体、アリルアセテート;ジメチルアリルアセテート;イソプロペニルアリルアセテートなどのアセチル基含有不飽和単量体、(メタ)アクリル酸メチル;(メタ)アクリル酸エチル;アクリル酸−2−エチルヘキシル;アクリル酸−n−ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、トリメトキシビニルシラン;トリブチルビニルシラン;ジフェニルメチルビニルシランなどのビニルシラン類、エチレン;プロピレン;n−ブテン;1−ヘキセンなどのα−オレフィン類、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン;3,4−ジアシロキシ−1−ブテン;3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン;4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン;3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテンなどのブテン類、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン;4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン;4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン;4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテンなどのペンテン類、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン;5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどのヘキセン類、スチレンなどの芳香族不飽和単量体、グリセリンモノアリルエーテル;2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン;2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン;3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン;グリセリンモノビニルエーテル;グリセリンモノイソプロペニルエーテル;ダイアセトンアクリルアミド;ビニルエチレンカーボネートなどと共重合してもよい。
この他、原料のポリビニルアルコール系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で部分的にウレタン化,エーテル化,グラフト化,リン酸エステル化などの反応によって変性してもよく、ジケテンを用いたアセトアセチル化されたものを用いてもよい。
本発明における原料のポリビニルアルコールの重合度としては特に制限されないが、20℃における4%水溶液粘度が2.0mPa・s以上が好ましい。これより低いと原料液の粘度が実用的なレベルまで上げられないという問題が生じるためである。
本発明におけるポリビニルアルコールの機能が十分発現する範囲であれば、他のポリマー、例えばポリエチレン;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系ポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー;ポリエチレンオキシド;ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン;ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマー、メチルセルロースなどの糖鎖系ポリマー、ポリ酢酸ビニル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、エポキシ樹脂系ポリマー或いはその他の有機,無機添加物などを混合することもできる。
本発明においてポリビニルアルコールと珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物とは複合化合物を形成している。即ち、複合化合物中においてポリビニルアルコールとこれら無機化合物は分子レベルでお互いに絡み合い、ポリビニルアルコールの水酸基を介して両者は水素結合、脱水縮合によって強固に結びついている。複合化合物は化合物であってポリビニルアルコールと無機化合物との物理的な混合による混合物とは区別される。よって、混合物と異なり複合化合物においては各構成成分の化学的性質は複合化後は必ずしも保持されない。例えば、本発明の場合、複合化合物の構成成分であるポリビニルアルコールはそれ単独では水溶性(熱水溶解性)であるが、珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物との複合化合物形成後は熱水には基本的に溶解しない。
複合化合物においてはポリビニルアルコールに対する無機化合物の量が少なすぎると十分な耐水性,耐熱性,耐酸化性,耐アルカリ性或いは強度が得られない。また、無機化合物が多すぎると柔軟性が損なわれ、脆性の点で問題が生じる。従って複合化合物における無機化合物を、各基本単位であるSiO,WO,MoO,SnO,ZrOのみの重量に換算した場合に、その重量の総和のポリビニルアルコール重量に対する重量比が0.01〜1になるように制御するのが好ましい。
次に、本発明にかかる複合化合物の製造工程を説明する。本発明では、固体電解質に含まれる複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸又は錫酸から選択された少なくとも1又は複数のアルカリ金属塩とが共存する水溶液中で、前記アルカリ金属塩を酸により中和し、溶媒としての水を除去して製造される。或いは、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とが共存する溶液中で、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩をアルカリにより中和し、溶媒としての水を除去して製造される。
このとき、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸のアルカリ金属塩は水に溶解するものであればどのような種類の金属塩でもよく、アルカリ金属イオンの種類,酸素,陽イオンの比率,含水率もどのようなものでもよい。ジルコニウム塩及びオキシジルコニウム塩も水に溶解するものであればどのような種類のものでもよく、酸素,陰イオンの比率,含水率もどのようなものでもよい。例えば塩化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウムやオキシ塩化ジルコニウムなどのオキシハロゲン化ジルコニウムなどが使用される。
なお、本発明における水溶液とは本質的に水が溶媒となっていることを意味しており、水分含有量よりも少量の他の溶媒成分が存在してもよい。中和に用いる酸又はアルカリの種類は、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸のアルカリ金属塩又は塩化ジルコニウム或いはジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩の中和が行えるものであればどのようなものでもよく、塩酸,硫酸,リン酸,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム,アンモニア等が使用可能である。
本発明では、固体電解質に含まれる複合化合物が、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物など水酸基以外のものが導入・置換したポリビニルアルコール系樹脂と、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とが共存する溶液において、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩を加熱により加水分解した後に、溶媒を除去し、その後にアルカリに接触させて製造される。このときジルコニウム塩及びオキシジルコニウム塩は、水を含む溶媒に溶解するものであればどのような種類のものでもよく、酸素,陰イオンの比率,含水率もどのようなものでもよい。また、加水分解は水の存在する溶媒中で進行するため、溶媒中には最低限反応に必要な分だけの水が存在することが不可欠であるが、純粋な水だけの溶媒である必要はない。しかし、ジルコニウム塩或いはオキシジルコニウム塩の溶解性、及びポリビニルアルコールの溶解性から水が最も好ましい溶媒である。
加水分解のための原料溶液の加熱温度は40℃以上が好ましい。それより低いと、生産上の実際的な時間範囲の中で十分なジルコニウム塩の加水分解を起こさせることが困難である。一方、加熱温度を極端に高温にし過ぎると、ジルコニウム塩の加水分解、及びその後のジルコン酸の縮合反応が過度に進み、ゲル化が始まってしまう問題が生じるが、その場合は加熱時間を調節することによって制御可能であるため、特に加熱温度の上限はない。ただ、原料溶液の温度を均一に保った状態で昇温、降温する必要があるという観点から、現実的には80℃くらいまでが好ましい範囲といえる。
加水分解した後には、溶媒を除去し、その後にアルカリに接触させて複合化合物が製造されるが、このとき接触させるアルカリは、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩の中和が行えるものであればどのようなものでもよく、アンモニア,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム,水酸化カルシウム,水酸化ストロンチウム,水酸化バリウム,炭酸塩などが使用可能である。これらは単独でも、複数混合した状態で使用してもよい。また、得られた複合化合物をアルカリと接触させる方法としては、アルカリの溶液に浸漬するか、アルカリ溶液を複合化合物に塗布或いは噴霧するか、アルカリの蒸気に曝すなどの方法がある。
本発明により得られた高イオン伝導性固体電解質はアルカリ型においても高いプロトン或いは水酸化物イオン伝導性を示すものがあるが、アルカリ型にすることによって電極その他のシステム構成材料としてニッケルなど比較的安価な素材を用いることが可能となり、システム全体の低コスト化をはかることができる。
更にアルカリ型にすることによって一次電池,二次電池への応用が可能であり、従来のアルカリ電解液を本発明の電解質材料にすることで漏液の惧れをなくすことができる。このアルカリ型固体電解質を使用することで従来から実用化が困難であった二次電池、例えば2価以上の多価金属を負極に用いたような高エネルギー密度電池の実用化をも可能にする。具体的には負極に酸化亜鉛、正極にニッケル水素電池と同じ水酸化物ニッケルを用いたニッケル亜鉛電池を例に挙げることができる。ニッケル亜鉛電池は、下記の(14)式,(15)式に示すように負極では充電時に酸化亜鉛が還元されて金属亜鉛となり、放電時には逆に亜鉛が電気化学的に酸化されて酸化亜鉛に戻る。
〔充電〕 ZnO + HO +2e→ Zn+ 2OH ………(14)
〔放電〕 Zn+2OH→ ZnO + HO+2e ………(15)
ニッケル亜鉛電池は亜鉛が2価であるため高い貯蔵エネルギー密度を持つが、酸化亜鉛がアルカリ電解液に溶解しやすく、電極から亜鉛イオンが溶出したり、溶出した亜鉛イオンが充電時に還元される際に針状金属亜鉛(デンドライト)が生成し、これがセパレータを貫通して短絡を引き起こすという問題がある。更に亜鉛の酸化還元電位が水素よりも低いため、充電状態での放置中に亜鉛が水によって酸化されて自己放電を起こしやすく、又充電時に亜鉛極から水素を発生して充電効率が低下する等の難点があり、特に液性の電解質を用いた電池の実用化が難しいという問題がある。しかし、本発明の高イオン伝導性固体電解質を用いると金属イオンの溶解が抑制され、僅かに溶解しても金属イオンが電極から拡散していく速度が遅いため、金属のデンドライトが生成する可能性は低く、仮にデンドライトが生じても固体電解質自体が負極から正極へ貫通することを防ぐことができる。
更に固体電解質中の水は反応性に乏しく、水素よりも酸化還元電位の低い金属に対しても自己放電の問題が起こりにくくなり、金属の還元反応と競合する水の電気分解、即ちプロトンの還元反応も起こりにくいため、充電効率も改善される。上記金属イオンの溶解と拡散の抑制作用、デンドライトの生成防止作用は一次電池或いはニッケル水素電池に対しても同様な作用効果を及ぼすことができる。更に正極として空気極を用いた空気亜鉛電池に上記と同様なメリットがあり、酸素の亜鉛極への拡散が抑制されて容易に充電可能な電池が得られる。
2価以上の金属は亜鉛以外にも銅,コバルト,鉄,マンガン,クロム,バナジウム,錫,モリブデン,ニオブ,タングステン,珪素,ホウ素,アルミニウム等多数存在するので、本発明にかかる電解質の適用によって上記金属を用いた二次電池の実用化が可能となる。
ニッケル水素電池などアルカリ二次電池では、従来多孔性セパレータに染みこませたアルカリ電解液が使用されているが、本発明にかかる電解質は電解液とセパレータとの両方の機能を兼ね備えているので、電解液が不要となるか或いはその量を軽減することが可能となり、その分だけ電池のエネルギー密度を向上させることができる。また、多孔性のセパレータとは異なって薄膜にしても短絡を防止することができるので、薄膜型で表面積が大きい電極を使用することができる。
本発明の固体電解質は安価な原料を使用しており、簡単な水溶液プロセスを基本としているため、既存のパーフルオロスルホン酸系電解質よりも大幅に安価である。更に無機固体材料とは異なって柔軟性があるため、薄膜加工がし易い。従来試みられているポリエチレンオキシドと珪素化合物の複合化を選択した場合には、本発明方法を適用しても耐熱水性のある複合化合物を作製することができず、ゾルゲル製法のようなコストの高い方法を用いる必要がある。しかし本発明のようにポリビニルアルコールを選択することにより、製造が容易で低コストの水溶液製法が適用可能である。
本発明にかかる固体電解質はプロトン伝導性であることにより、従来のパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜と同様に燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサに応用することができる。この固体電解質材料はアルカリ型でも高いイオン伝導性を示すため、一次電池,二次電池,光スイッチシステム等の電気化学システム或いは多価金属を用いた新たな電池システムに適用することができる。
以下に本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムの具体的な実施例を説明する。なお、本願発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質の電解質膜を作製するため、先ず4%水溶液粘度が89.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が20.0モル%(ケン化度80.0モル%)のポリビニルアルコール(PVA1)を、酢酸ビニルのラジカル重合によって得られたポリ酢酸ビニルをメチルアルコール中で水酸化ナトリウムを用いてケン化することにより作製した。このポリビニルアルコール10重量%水溶液100ccに、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)5.8g、リン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)0.7g、及び珪酸ナトリウム18重量%水溶液9ccを加えて原料水溶液とし、この原料水溶液を撹拌しながら1.2M濃度の塩酸を20cc滴下して中和し、粘稠な原料水溶液を作製した。この原料水溶液を密閉容器内に入れ、真空ポンプで減圧することにより脱泡処理した後、マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)の平滑な台座の上に敷いたポリエステルフィルム上に流延した。この時台座は80℃になるように制御しながら加熱した。原料溶液を台座の上に流延した後、すぐにギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま80℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で再度上から重ねて原料溶液を流延し、すぐに再びギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならし、台座の温度を135℃まで引き上げ、その状態を保って1時間の加熱処理を行った。その後台座の上に生成した膜を剥離し、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄する操作を2回行った後、常温で乾燥させた。本実施例において得られた複合化合物は、m=1であり、H=20,P=59,F=H×P=1180であって、前記数式の条件を満足する。
膨潤抑制処理として、実施例1で作製した膜を1重量%のテレフタルアルデヒドを含む1M濃度の塩酸水溶液に1時間浸漬し、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄する操作を2回行った後、常温で乾燥させた。
膨潤抑制処理として、実施例1で作製した膜を大気中120℃で5時間加熱した。
本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質の電解質膜を作製するため、先ず4%水溶液粘度が73.5mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が15.0モル%(ケン化度85.0モル%)のポリビニルアルコール(PVA2)を実施例1と同様の方法により作製した。このPVA2を使用して実施例1と同様の方法で複合化合物から固体電解質膜を作製した。本実施例において得られた複合化合物は、m=1であり、H=15,P=59,F=H×P=885であって、前記数式の条件を満足する。
膨潤抑制処理として、実施例4で作製した膜を1重量%のテレフタルアルデヒドを含む1M濃度の塩酸水溶液に1時間浸漬し、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄する操作を2回行った後、常温で乾燥させた。
膨潤抑制処理として、実施例4で作製した膜を大気中120℃で5時間加熱した。
本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質の電解質膜を作製するため、先ず4%水溶液粘度が18.8mPa・s、水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.7モル%でオキシアルキレン基の置換率が0.8モル%(オキシアルキレン基はオキシエチレン基で平均付加モル数がn=10、X=H)のポリビニルアルコール(PVA3)を酢酸ビニルとオキシエチレンブチルビニルエーテル(オキシアルキレン基はオキシエチレン基で平均付加モル数がn=10)とのラジカル共重合によって得られた変性ポリ酢酸ビニルをメチルアルコール中で水酸化ナトリウムを用いてケン化することにより作製した。このポリビニルアルコール10重量%水溶液40ccと、4%水溶液粘度が80.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.0モル%(ケン化度88.0モル%)のポリビニルアルコール(PVA4)10重量%水溶液60ccを混合したものに、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)5.8g、リン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)0.7g、及び珪酸ナトリウム18重量%水溶液9ccを加えて原料水溶液とし、この原料水溶液を撹拌しながら1.2M濃度の塩酸を20cc滴下して中和し、粘稠な原料水溶液を作製した。以下、実施例1と同様の方法で複合化合物からなる固体電解質膜を作製した。本実施例では二種類のPVAが使用されており、得られた複合化合物は、m=2である。オキシアルキレン基の平均変性率はH(オキシアルキレン基)=0.32となる。また、アセチル基の平均変性率はH(アセチル基)=12.3となる。そしてP(オキシアルキレン基)=529,P(アセチル基)=59であるから、F=H×P+H×P=895であって、前記数式の条件を満足する。
膨潤抑制処理として、実施例7で作製した膜を1重量%のテレフタルアルデヒドを含む1M濃度の塩酸水溶液に1時間浸漬し、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄する操作を2回行った後、常温で乾燥させた。
膨潤抑制処理として、実施例7で作製した膜を大気中120℃で5時間加熱した。
本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質の電解質膜を作製するため、先ず4%水溶液粘度が28.6mPa・s、水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.5モル%でスルホン酸ナトリウム基の平均置換率が1.5モル%のポリビニルアルコール(PVA5)を酢酸ビニルとビニルスルホン酸ナトリウムとのラジカル共重合によって得られた変性ポリ酢酸ビニルをメチルアルコール中で水酸化ナトリウムを用いてケン化することにより作製した。このポリビニルアルコール10重量%水溶液100ccに、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)5.8g、リン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)0.7g、及び珪酸ナトリウム18重量%水溶液9ccを加えて原料水溶液とし、この原料水溶液を撹拌しながら1.2M濃度の塩酸を20cc滴下して中和し、粘稠な原料水溶液を作製した。以下、実施例1と同様の方法で複合化合物からなる固体電解質膜を作製した。得られた複合化合物は、m=2,H(スルホン酸ナトリウム基)=1.5,P(スルホン酸ナトリウム基)=103,H(アセチル基)=12.5,P(アセチル基)=59であり、F=H×P+H×P=892であって、前記数式の条件を満足する。
膨潤抑制処理として、実施例10で作製した膜を1重量%のテレフタルアルデヒドを含む1M濃度の塩酸水溶液に1時間浸漬し、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄する操作を2回行った後、常温で乾燥した。
膨潤抑制処理として、実施例10作製した膜を大気中120℃で5時間加熱した。
本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質の電解質膜を作製するため、先ず実施例7で使用したのと同じ4%水溶液粘度が18.8mPa・s、水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.7モル%でオキシアルキレン基の平均置換率が0.8モル%(オキシアルキレン基はオキシエチレン基で平均付加モル数がn=10、X=H)のポリビニルアルコール(PVA3)10重量%水溶液50ccに、含窒素有機化合物として分子量100,000〜200,000のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド20重量%水溶液を、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドのポリビニルアルコールに対する重量比が0.19となる量だけ混合し、さらにオキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrClO・8HO)2.0gを混合して撹拌しながら40℃で1時間加熱したものを原料溶液とした。この原料溶液を脱泡処理した後、マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)の平滑な台座の上に敷いたポリエステルフィルム上に流延した。この時台座は80℃になるように制御しながら加熱した。原料溶液を台座の上に流延した後、すぐにギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま80℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で再度上から重ねて原料溶液を流延し、すぐに再びギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。その後、台座の温度を145℃まで引き上げ、その状態を保って1.5時間の加熱処理を行った。その後台座の上に生成した膜を剥離し、1.67重量%のアンモニア水溶液に常温で4時間浸漬した後、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄操作を2回行った後、常温で乾燥し、さらに120℃で1時間加熱した。得られた複合化合物は、m=2,H(オキシアルキレン基)=0.8,P(オキシアルキレン基)=529,H(アセチル基)=12.7,P(アセチル基)=59であって、F=H×P+H×P=1173であって、前記数式の条件を満足する。
実施例13において、コーティング装置の台座から剥がした膜を、膨潤抑制処理として、アンモニア水溶液浸漬処理する前に大気中130℃で8時間加熱し、その後1.67重量%のアンモニア水溶液に常温で24時間浸漬し、以後実施例10と同様の操作を行った。
本発明にかかる高イオン伝導性固体電解質の電解質膜を作製するため、先ず4%水溶液粘度が18.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が2.4モル%で第四アンモニウム化合物の平均置換率が4.2モル%のポリビニルアルコール(PVA6)を酢酸ビニルとN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩とのラジカル共重合によって得られた変性ポリ酢酸ビニルをメチルアルコール中で水酸化ナトリウムを用いてケン化することにより作製した。10重量%水溶液50ccに、含窒素有機化合物として分子量100,000〜200,000のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド20重量%水溶液を、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドのポリビニルアルコールに対する重量比が0.19となる量だけ混合し、さらにオキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrClO・8HO)2.0gを混合して撹拌しながら40℃で1時間加熱したものを原料溶液とした。この原料溶液を脱泡処理した後、マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)の平滑な台座の上に敷いたポリエステルフィルム上に流延した。この時台座は80℃になるように制御しながら加熱した。原料溶液を台座の上に流延した後、すぐにギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま80℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で再度上から重ねて原料溶液を流延し、すぐに再びギャップを0.5mmに調節したブレードを一定速度で原料溶液上を掃引して一定の厚みにならした。その後、台座の温度を145℃まで引き上げ、その状態を保って1.5時間の加熱処理を行った。その後台座の上に生成した膜を剥離し、1.67重量%のアンモニア水溶液に常温で4時間浸漬した後、60℃〜70℃熱水中で30分洗浄操作を2回行った後、常温で乾燥し、さらに120℃で1時間加熱した。得られた複合化合物は、m=2,H(第4級アンモニウム基)=4.2,P(第4級アンモニウム基)=179.5,H(アセチル基)=2.4,P(アセチル基)=59であり、F=H×P+H×P=895.5であって、前記数式の条件を満足する。
膨潤抑制処理として、実施例15において、コーティング装置の台座から剥がした膜をアンモニア水溶液浸漬処理する前に大気中130℃で8時間加熱し、その後1.67重量%のアンモニア水溶液に常温で24時間浸漬し、以後実施例15と同様の操作を行った。
[比較例1]→実施例1,4,7,10に対応
実施例1,4,7,10の比較例として、4%水溶液粘度が80.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.0モル%(ケン化度88.0モル%)のポリビニルアルコール(PVA4)を実施例1と同様の方法で作製し、実施例1,4,7,10と同様の製法で固体電解質膜を作製した。本比較例において得られた複合化合物は、m=1,H=12,P=59であり、F=H×P=708であって、前記数式への条件を満足しない。
[比較例2]→実施例2,5,8,11に対応
実施例2,5,8,11の比較例として、4%水溶液粘度が80.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.0モル%(ケン化度88.0モル%)のポリビニルアルコール(PVA4)を実施例1と同様の方法で作製し、実施例2,5,8,11と同様の製法で電解質膜を作製した。
[比較例3]→実施例3,6,9,12に対応
実施例3,6,9,12の比較例として、4%水溶液粘度が80.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が12.0モル%(ケン化度88.0モル%)のポリビニルアルコール(PVA4)を実施例1と同様の方法で作製し、実施例3,6,9,12と同様の製法で電解質膜を作製した。
[比較例4]→実施例13,15に対応
実施例13,15の比較例として、4%水溶液粘度が30.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が1.5モル%(ケン化度98.5モル%)のポリビニルアルコール(PVA7)を使用して実施例13,15と同様の製法で電解質膜を作製した。得られた複合化合物は、m=1,H=0.8,P=59であり、F=H×P=47.2であって、前記数式の条件を満足しない。
[比較例5]→実施例14,16に対応
実施例14,16の比較例として、4%水溶液粘度が30.0mPa・sで水酸基サイト数に対するアセチル基の平均置換率が1.5モル%(ケン化度98.5モル%)のポリビニルアルコール(PVA7)を使用して実施例14,16と同様の製法で電解質膜を作製した。
作製した固体電解質のイオン伝導度の測定は以下の方法により行った。先ず固体電解質膜を幅15mm、長さ35mmの短冊状に切り抜き、幅10mmの白金板2枚を電解質膜の両端に設置し、それをポリテトラフルオロエチレン製治具で挟みこんだ。ポリテトラフルオロエチレン製治具は真ん中に1辺15mmの正方形の窓があり、電解質膜が常に外部環境と接することができるようになっている。白金板にLCRメータを使って電圧10mVの交流電圧を周波数50Hzから5MHzまで変えながら印加し、電流と位相角の応答を測定した。イオン伝導度は一般的に行われているようにCole−Coleプロットから求めた。なお、この測定は固体電解質を純水中に浸漬した状態で行い、恒温槽中で温度60℃に制御しながら行った。測定は純水に浸漬してから約30分後に行った。また、測定後膜のサイズを測定し膜面積を求め、乾燥状態との違いから面積膨潤率を求めた。
実施例1〜実施例12及び比較例1〜比較例3、実施例13〜実施例16及び比較例4,比較例5にかかる複合化合物を含む固体電解質のイオン伝導度(Scm−1)及び面積膨潤率(%)をそれぞれ表1、表2に示す。また、実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例5において使用したポリビニルアルコール(PVA1〜PVA7)の詳細を表3に示す。
Figure 0005479000
Figure 0005479000
Figure 0005479000
表1に示すように、タングステン酸化合物、珪酸化合物とポリビニルアルコールが複合化された複合化合物において、水酸基サイトのうち12.0モル%しかアセチル基と置換していない従来のポリビニルアルコール(PVA4)を使用し、F値が708であって、前記数式の条件を満たしていない比較例1は5.8×10−2Scm−1の高いイオン伝導度を示したが、膨潤率も56%と極めて高かった。それに対して、実施例1に示すように水酸基サイトのうち20.0モル%がアセチル基に置換したポリビニルアルコール(PVA1)を使用し、F値が1180であって、前記数式を満たすものは、従来のものよりもイオン伝導度が少し大きく(6.6×10−2Scm−1)、かつ、膨潤率が少し低かった(47%)。
また、比較例2,3のように、水酸基サイトのうち12.0モル%しかアセチル基と置換していない従来のポリビニルアルコールを使用したもの(F=708)は、アルデヒド処理や120℃での加熱処理を施した場合に、膨潤率こそ、それぞれ34%と27%と低く抑えることができたものの、比較例1に対してイオン伝導度が40〜53%程度低下してしまった。それに対し、実施例2,3に示した水酸基サイトのうち20.0モル%がアセチル基に置換したポリビニルアルコールを使用した本発明のもの(F=1180)は、アルデヒド処理や加熱処理によって膨潤率を低く抑えながらも、実施例1に対してイオン伝導度低下は24〜33%に抑えられた。即ち、本発明のように複合化合物中のポリビニルアルコールの水酸基サイトにアセチル基が置換されており、F値が前記数式を満たす場合には、アルデヒド処理や加熱処理などの膨潤抑制処理を施してもイオン伝導度の低下が小さく、高イオン伝導度と低膨潤を両立できることがわかる。
同様の効果は実施例4,5,6に示したとおり、水酸基サイトのうち15.0モル%がアセチル基に置換したポリビニルアルコール(PVA2)を使用し、F値が885である固体電解質においても認められた。よって、F値が885あれば、膨潤が抑制された状態にあっても、より高いイオン伝導度が得られるようになる。一方、比較例1〜3に示すように、F値が708では、その効果が得られなかったため、F値の下限値を885とした。即ち、F値が885以上あれば、膨潤が抑制された状態にあっても複合化合物の緻密な構造を少し緩んだものとすることができ、複合化合物中に水分を吸収できるスペースが生じ、吸水量が増加するとともに、分子運動に対する自由度が増し、分子運動が活発になるのである。一方、F値の上限値は特に限定はない。
また、実施例7,8,9のとおり、水酸基サイトにアセチル基とともにオキシアルキレン基を置換した場合、或いは実施例10,11,12の水酸基サイトにアセチル基とともにスルホン酸ナトリウム基を置換した場合において、アセチル基置換率だけでは前記数式を満たさない場合であっても、オキシアルキレン基との共置換或いはスルホン酸ナトリウム基との共置換によって前記数式を満たす場合には、実施例1,2,3,4,5,6と同様の効果が確認された。
実施例13,14には、ジルコン酸化合物とポリビニルアルコールとの複合化合物においてポリビニルアルコールの水酸基サイトにアセチル基とオキシアルキレン基を置換し、かつ、前記数式を満たす(F=1173)場合の例を示した。水酸基サイトにアセチル基しか置換しておらず、かつ、前記数式を満たさない比較例4,5と比較すると、この場合にも、膨潤抑制処理を施していない場合(実施例13と比較例4)、及び加熱によって膨潤抑制処理を施した場合(実施例14と比較例5)のいずれの場合においても、実施例の方がイオン伝導度が高く、膨潤抑制処理を施した実施例14において、低い膨潤度と高いイオン伝導度を両立することができた。また、同様の効果はポリビニルアルコールの水酸基サイトにアセチル基と第四アンモニウム化合物を置換した実施例15,16でも確認された。
上記した実施例1〜実施例16においては、無機化合物として、タングステン酸化合物,珪酸化合物,ジルコン酸化合物を使用した例を示したが、本願発明はポリビニルアルコールの水酸基サイトに対して前記した数式を満足する水酸基以外の変性基を導入して置換することに特徴を有するものであり、無機化合物としてモリブデン酸化合物,錫酸化合物を使用した場合にも同様の効果を生じる。また、実施例15,16にはポリビニルアルコールの水酸基を第四アンモニウム化合物で置換した例について示したが、前記のとおり、アミン,イミン,第四アンモニウム化合物は水が存在する環境下ではいずれもアンモニウムイオンを形成し、その強い親水性によって効果が発現されるため、本実施例以外のアミン,イミンについても同様の効果を得ることができる。
なお、実施例1,4,7,10,13,15は、いずれも膨潤抑制処理を施していない例であるが、これらの各実施例に示す通り、膨潤抑制処理を施していなくても本願発明を実施することによって、少しではあるがイオン伝導度が向上し、膨潤度が減少している。よって、膨潤抑制処理の有無にかかわらず、本願発明はその効果を奏する。また、膨潤抑制処理を施した実施例2,3,5,6,8,9,11,12,14,16に示すように、膨潤が抑制された状態においても本願発明を実施することによって、高いイオン伝導度を得ることができる。よって、これらの各実施例及び各比較例のデータからわかるとおり、本願発明はアルデヒド処理や加熱処理の膨潤抑制処理を施して、膨潤をコントロールした状態その他の膨潤が抑制された状態においても高いイオン伝導度を得ることができる。
以上記載した本発明によれば、少なくとも珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物又はジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物とポリビニルアルコールからなる複合化合物において、ポリビニルアルコールの水酸基サイトに対して前記数式を満足する水酸基以外の変性基を導入して置換することにより、複合化合物全体として緻密性が弱まり、ある程度緩んだ構造をとることとなって複合化合物中に水分を吸収できるスペースが生じ、吸水量が増加するとともに、分子運動に対する自由度が増し、分子運動が活発になる。その結果として膨潤が抑制された状態にあってもより高いイオン伝導度が得られるようになる。また、乾燥状態においても少し緩んだ構造をとることにより、乾燥状態と湿潤状態とでのサイズ変化が小さくなり、そのことだけでも膨潤率を下げる効果が生じる。これにより、高いイオン伝導度の実現と、膨潤抑制によるサイズ変化の防止という2つの課題を同時に高いレベルで満足させることができ、低価格であり、高い伝導度を示し、かつ、水分を吸収した場合の膨潤が小さい高イオン伝導性固体電解質及び該固体電解質を使用した燃料電池その他の電気化学システムを提供することができる。

Claims (10)

  1. 少なくとも珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物又はジルコン酸化合物から選択した1又は複数の無機化合物とポリビニルアルコールからなり、ポリビニルアルコールが下記の一般式を満足する変性基を導入している複合化合物を含むことを特徴とする高イオン伝導性固体電解質。
    Figure 0005479000
    (式中のHiはポリビニルアルコールの水酸基サイトに変性基がm種ついている場合の水酸基サイト全モル数に対するi番目の種の変性基のモル%を、Piはポリビニルアルコールの水酸基サイトに変性基がm種ついている場合のi番目の種の変性基側鎖部分の平均分子量を表す。)
  2. 前記ポリビニルアルコールの変性基がアセチル基である請求項1記載の高イオン伝導性固体電解質。
  3. 前記ポリビニルアルコールの変性基が、下記の一般式で表されるオキシアルキレン基である請求項1記載の高イオン伝導性固体電解質。
    Figure 0005479000
    (式中のAOはオキシエチレン,オキシプロピレン,オキシブチレン又はオキシテトラメチレン基を、Xは水素,アルキル基,アルキルエステル基,アルキルアミド基又はその塩を、nは1〜50の整数を表す。)
  4. 前記ポリビニルアルコールの変性基がアミン,イミン又は第四アンモニウム化合物である請求項1記載の高イオン伝導性固体電解質。
  5. 複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸又は錫酸から選択された少なくとも1又は複数のアルカリ金属塩とが共存する水溶液中で、前記アルカリ金属塩を酸により中和し、溶媒としての水を除去して製造された請求項1,2,3又は4に記載の高イオン伝導性固体電解質。
  6. 複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とが共存する溶液中で、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩をアルカリにより中和し、溶媒としての水を除去して製造された請求項1,2,3又は4に記載の高イオン伝導性固体電解質。
  7. 複合化合物が、水を含む溶媒と、水酸基サイトにアセチル基,オキシアルキレン基,アミン,イミン又は第四アンモニウム化合物が置換したポリビニルアルコールと、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩とが共存する溶液中において、ジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩を加熱により加水分解した後に、溶媒を除去し、その後にアルカリに接触させて製造された請求項1,2,3又は4に記載の高イオン伝導性固体電解質。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の高イオン伝導性固体電解質に、該高イオン伝導性固体電解質によって隔てられた複数の電極を配する構成をとることを特徴とする高イオン伝導性固体電解質を使用した電気化学システム。
  9. 請求項1〜7のいずれかに記載の高イオン伝導性固体電解質を電極中に含有していることを特徴とする高イオン伝導性固体電解質を使用した電気化学システム。
  10. 電気化学システムが、燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサ,一次電池,二次電池,光スイッチシステム又は多価金属を用いた電池システムである請求項8又は9に記載の高イオン伝導性固体電解質を使用した電気化学システム。
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