JP2006185594A - 固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システム - Google Patents

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Abstract

【課題】水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物を含む固体電解質であって、高い膨潤抑制効果を発揮しながらプロトン伝導度の低下が少ない固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムを得るために特に効果的なアルデヒド処理を提供することを目的とするものである。
【解決手段】水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物であって、有機高分子の水酸基の一部あるいは全部が分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物と結合している複合化合物を含有している固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムを基本手段とする。
【選択図】図1

Description

本発明は燃料電池等に適用可能なプロトン(水素イオン)高伝導性固体電解質あるいは水酸化物イオン高伝導性固体電解質と、該高イオン伝導性固体電解質を使用した燃料電池その他の電気化学システムに関するものである。
従来からプロトン伝導性固体電解質を用いた電気化学システムとして、燃料電池、除湿機あるいは電気分解型水素生成装置などの電解装置が実用化されており、特にプロトン伝導性固体電解質の用途は多岐に亘っている。例えば固体高分子型燃料電池は、下記の(1)式に示したように負極に供給される水素の電気化学的酸化反応、(2)式に示したように正極に供給される酸素の電気化学的還元反応及びその間の電解質中のプロトン移動からなる反応によって電流が流れ、電気エネルギーが取り出される。
→ 2H+2e …………………………(1)
1/2O+ 2H+2e → HO ………………(2)
負極に供給される燃料がメタノールである直接メタノール型燃料電池や、水素,メタノール等の水素以外のものを燃料として用いる燃料電池もあるが、この場合でも燃料が負極で電気化学的に酸化されてプロトンを放出する反応は同様に行われており、プロトン伝導性固体電解質を利用して作動させることができる。
電解装置としては例えば電気分解型水素生成装置が実用化されている。この電気分解型水素生成装置は、燃料電池における前記(1)式と(2)式の反応とは逆の反応で水素を生成するものであって、水と電力だけでオンサイトに純度の高い水素が得られるので、水素ボンベが不要になるという利点がある。又、固体電解質の利用によって電解質を含まない真水を導入するだけで容易に電気分解を行うことができる。製紙業の分野においても同様なシステムによって漂白用の過酸化水素を下記の(3)式を用いた電解法によりオンサイトに製造する試みがなされている(非特許文献1参照)。
+ HO+2e → HO + OH ……………(3)
除湿機は燃料電池や水素生成装置と同様にプロトン伝導性固体電解質を正負両極で挟む構造であり、正負両極間に電圧を印加すると、正極では下記の(4)式の反応によって水が酸素とプロトンに分解され、固体電解質を通って負極に移動したプロトンが(5)式の反応によって再び空気中の酸素と結合して水に戻り、これらの反応の結果として正極側から負極側に水が移動したことによって正極側で除湿される。
O → 1/2O+2H+2e …………………(4)
1/2O+ 2H+2e → HO …………………(5)
電気分解型水素生成装置と同様な動作原理によって水を分解して除湿することも可能であり、水分蒸発冷風機と組み合わせた空調機も提案されている(非特許文献2参照)。
また、各種センサ、エレクトロクロミックデバイスなども本質的には上記と同様な動作原理に基づくシステムであり、正極,負極の異なる2種の酸化還元対間の電解質中をプロトンが移動することによって作動するので、プロトン伝導性固体電解質を用いることができる。現在ではこれらプロトン伝導性固体電解質を用いたシステムの実証研究も行われている。
水素センサは、例えば上記(4)式,(5)式の反応において水素が導入された場合の水素濃度による電極電位の変化を利用することができる。更に電極電位の変化あるいはイオン伝導度の変化を利用して湿度センサに応用することも可能である。
エレクトロクロミックデバイスは、例えば負極にWO等を用いて電場をかけると下記の(6)式の反応によって発色することを利用しており、表示デバイスや遮光ガラスへの用途が考えられている。このシステムも負極に対するプロトンの授受によって動作し、プロトン伝導性固体電解質が利用できる。
WO+xH+xe → HxWO(発色) ………………(6)
その外にも原理的にプロトン伝導性固体電解質を利用して作動する電気化学システムとして、一次電池,二次電池,光スイッチ,電解水製造装置等が挙げられる。二次電池の例としてのニッケル水素電池は、負極に水素吸蔵合金、正極に水酸化ニッケル、電解液としてアルカリ電解液を用いており、下記の(7)式,(8)式に示したように充放電時に負極ではプロトンの電気化学的酸化還元と水素吸蔵合金への水素の吸蔵が起こる。
〔充電〕 HO + e → H(吸蔵)+ OH …………(7)
〔放電〕 H(吸蔵)+ OH → HO + e …………(8)
正極では下記の(9)式,(10)式に示したように水酸化ニッケルの電気化学的酸化還元反応が起きる。
〔充電〕 Ni(OH)+OH→ NiOOH+HO+e ……(9)
〔放電〕 NiOOH+HO+e→Ni(OH)+OH ……(10)
この電池の充放電反応は電解質中をプロトンもしくは水酸化物イオンが移動することによって成立し、原理的にはプロトン伝導性固体電解質を利用することができるが、従来は固体電解質ではないアルカリ電解液が用いられている。
光スイッチとしては例えばイットリウムを負極に使用したものが提案されている(非特許文献3を参照)。これは電場をかけることによってイットリウムが下記の(11)式のように水素化されて光を透過するので、光の透過と不透過を電場により切り替えることができる。このシステムも原理的にはプロトン伝導性固体電解質を利用することができるが、従来は通常アルカリ電解液が用いられている。
Y+3/2HO+3e → YH+3OH ……………(11)
電解水は電解反応を行った水であり、還元側、酸化側で効能が異なるが、健康に良い作用,殺菌作用,洗浄作用,農作物の生育を促進する作用があり、飲料水,食品用水,洗浄水,農業用水などの様々な用途がある。電解反応は水が電解質を含むことで促進されるが、水に電解質を溶解させると、使用の際その電解質を除去する必要が生じる場合がある。固体電解質を用いた場合には電解質除去の手間が必要なくなる。
従来から以上の電気化学システムに使用されている常温作動型プロトン伝導性固体電解質は、多くの場合ナフィオン膜(Nafion)に代表されるパーフルオロスルホン酸系高分子のイオン交換膜である。しかしながらパーフルオロスルホン酸系の電解質は、主として製造工程の複雑さに起因して高価格であるという問題がある。これらの電解質の量産効果によってある程度の低価格化が期待されるものの限界があり、安価な代替材の出現が希求されているのが現状である。
ところでパーフルオロスルホン酸系の電解質に代わる安価で高イオン伝導性の電解質材料として、水酸基を有する有機高分子と各種無機化合物との複合化合物が提案されている。これは例えばポリビニルアルコールと珪酸化合物(特許文献1を参照)、ポリビニルアルコールとタングステン酸化合物(特許文献2を参照)、ポリビニルアルコールとモリブデン酸化合物(特許文献2を参照)、ポリビニルアルコールと錫酸化合物(特許文献3を参照)、ポリビニルアルコールとジルコン酸化合物(特許文献4,5を参照)のミクロレベルでの複合化合物を基本としたものであり、他の成分としてリン,ホウ素,アルミニウム,チタン,カルシウム,ストロンチウム,バリウム化合物のうち少なくとも一種類が添加されている。これらはポリビニルアルコールの共存する溶液中で無機化合物の原料塩を中和するという簡単な工程で製造可能であり、低コストであるという特徴がある。ポリビニルアルコールの側は無機化合物との複合化によって耐水性、強度とともにプロトン伝導性が付与され、無機化合物の側はポリビニルアルコールとの複合化によって柔軟性が付与されるため、結果として高性能な固体電解質が製造される。これらの材料はアルデヒドで処理し、ポリビニルアルコール部の水酸基をアセタール化することによって吸水による過剰な膨潤を抑えることもできる(特許文献6)。
また、上記のうちポリビニルアルコールと珪酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物との複合化合物は、パーフルオロスルホン酸系など従来の固体電解質とは異なり、アルカリ型においても高いイオン伝導性を示すものがあり、特にポリビニルアルコールとジルコン酸化合物との複合化合物においてカルボキシル基を有する化合物あるいはその金属塩を含むものはアルカリ型できわめて高いイオン伝導性を示す(特許文献5を参照)。アルカリ型において高いイオン伝導性を示す場合、従来は適用が困難であった一次電池,二次電池,光スイッチ等にも使用することができる。更にアルカリ型固体電解質膜が開発されることによって実用化が容易となる二次電池,即ち二価以上の多価金属を負極に用いた高エネルギー密度電池もある。例えば負極に酸化亜鉛,正極にニッケル水素電池と同じ水酸化物ニッケルを用いたニッケル亜鉛電池を挙げることができる。ニッケル亜鉛電池は下記の(12)式,(13)式に示すように負極では充電時に酸化亜鉛が還元されて金属亜鉛となり、放電時には逆に亜鉛が電気化学的に酸化されて酸化亜鉛に戻る。
〔充電〕 ZnO + HO +2e → Zn + 2OH …………(12)
〔放電〕 Zn + 2OH → ZnO + HO + 2e …………(13)
ニッケル亜鉛電池は亜鉛が二価であるため高い貯蔵エネルギーを持つが、酸化亜鉛の溶出やそれに伴う金属亜鉛,即ちデンドライトの生成と短絡の問題、あるいは自己放電の問題により実用化が難しいという課題がある。しかし固体電解質を用いることでこれらの課題を解決することができる。正極として空気極を用いた空気亜鉛電池においても、酸素の亜鉛極への拡散が抑制されるため、不使用時に空気の供給をカットしなくても自己放電の惧れがなく、充電可能な亜鉛空気電池も得られる。更に二価以上の金属は亜鉛以外にも銅,コバルト,鉄,マンガン,クロム,バナジウム,錫,モリブデン,ニオブ,タングステン,珪素,ホウ素,アルミニウム等多数存在するので、固体電解質の適用によってこれらの多価金属を用いた電池の実用化が可能となる。
特開2003−007133号公報 特開2003−138084号公報 特開2003−208814号公報,特願2002−4151号 特願2002−35832号 特願2002−310093号 特願2002−86442号 電気化学,69,No3,154−159(2001) 平成12年電気学会全国大会講演論文集,P3373(2000) J.Electrochem.Soc.,Vol.143,No.10,3348−3353(1996)
上記ポリビニルアルコールと無機化合物との複合化合物からなる固体電解質は安価、高性能で広い用途に適用できるという多くのメリットを持つにも拘わらず、そのままの状態では湿潤状態におかれた場合に吸水による膨張(膨潤)が大きく、膨潤すると強度が低下するという問題がある。特に燃料電池、電解装置などの用途に使用される場合には、固体電解質は湿潤状態に置かれるか、あるいは直接水中に浸漬されるので、膨潤は重要な問題である。特にメタノール直接型燃料電池の用途においては、膨潤によって燃料のメタノールを多量透過してしまい、エネルギー効率を低くしてしまうという問題も生じる。上記以外の用途に使用される場合であっても湿度による寸法変化が大きいことは問題となる。
この膨潤の問題は、複合化合物中のポリビニルアルコール部の水酸基が水と結合することによって起こる。すなわち、複合化合物中ではポリビニルアルコール部の水酸基は無機化合物と水素結合あるいは脱水縮合によって結合しているが、一部の水酸基は結合せずに残される。残された未結合の水酸基は湿潤状態において水と結合して吸水し、膨潤を引き起こす。これを防止するために、複合化合物中の未結合の水酸基に、より親水性の低い基を導入する方法が見出されている(特許文献6を参照)。その代表的な方法は、特許文献6の実施例において開示されているように分子内の一端にアルデヒド基を持ち、他端に疎水性のアルキル基を持つようなモノアルデヒドを固体電解質と反応させて、水酸基をアセタール化するものである。アルデヒド基と水酸基が結合することによって水酸基部分はより親水性の低いアルキル基に置き換わることになり、吸水を防止できる。
このように水酸基をより疎水性の基に変えるだけの方法は膨潤抑制に対して効果を発揮するが、より完全に膨潤を抑制するために処理の度合いを多くするとプロトン伝導度も極端に低下してしまうという問題がある。即ち、このような方法において膨潤抑制効果は疎水性の付与のみに依存しているので、処理量を多くした場合にはプロトン伝播に寄与する水まで少なくなってしまうことになる。特に直接メタノール型燃料電池に使用した場合には燃料のメタノールが固体電解質を透過するのを防止しようとすると、より完全に膨潤を抑制する必要があるが、アルデヒド処理の処理量を多くすると十分なプロトン伝導度が得られなくなってしまうことになりやすい。従って一端にアルデヒド基、他端に疎水基を持つような単純な形態のアルデヒドを結合させるなどの方法で未結合の水酸基をより疎水性に変えるだけでは十分ではない。
ところで、アセタール化反応によってアルデヒドを水酸基に結合する処理は水溶液中で行うのが望ましい。水溶液中では複合化合物が十分水を吸って膨潤するため、複合化合物の内部に存在する水酸基まで十分反応させることができるためである。しかるに、一端にアルデヒド基、他端に疎水基を持つような単純な形態のアルデヒドはそれ自身水に対する溶解度が低いため、水溶液中での処理を均一に、かつ再現性良く行うのが難しい。また、水に対する溶解度が低いために、アルデヒドが内部まで浸透しにくく、表面が過度に処理されているにもかかわらず、内部は吸水してしまう状態になる。このような状態では内部の吸水によって膨潤するにもかかわらず、表面層にはプロトン伝播のための水がなく、プロトン伝導度が低くなってしまうという問題を生じる。
そこで本発明は上記従来から提供されている珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物などの無機化合物と、ポリビニルアルコール等の水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物からなる複合化合物を含む高イオン伝導性固体電解質において、高い膨潤抑制効果を発揮しながら、プロトン伝導度の低下が少ない固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムを得るために特に効果的なアルデヒド処理を提供することを目的とするものである。
本発明は上記目的を達成するため、水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物であって、有機高分子の水酸基の一部あるいは全部が分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物と結合している複合化合物を含有している固体電解質を基本構成としている。上記有機高分子の水酸基の一部あるいは全部と分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物とは水酸基とアルデヒド基のアセタール化反応で結合させることができる。
前記複合化合物は、無機化合物成分として、珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物のうち少なくとも一種類を含有している。複合化合物は、水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物の共存する原料溶液中で、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸のうち少なくとも一種類の塩を酸で中和するか、ハロゲン化ジルコニウムあるいはオキシハロゲン化ジルコニウムをアルカリで中和し、溶媒を除去することによって作成する。
本発明では水酸基を有する有機高分子としてポリビニルアルコールを使用する。また、本発明における分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物は好ましくはグルタルアルデヒドを用いる。
本発明の固体電解質は燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサ,一次電池,二次電池,光スイッチシステムあるいは多価金属を用いた新たな電池システムなどの電気化学システムに使用される。
本発明によれば水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物であって、有機高分子の水酸基の一部あるいは全部が分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物と結合している複合化合物を含有していることを基本手段としたことにより、高い膨潤抑制効果を発揮するとともにプロトン伝導度の低下が少ない固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムを提供することができる。即ち、分子内に複数のアルデヒド基を持つアルデヒドは一つの分子で二ヶ所以上のポリビニルアルコールの水酸基を掴み、その間の距離の伸張を抑制するため、水酸基をより疎水性に変えるだけでなく膨張を強制的に防止する効果が得られる。
従って本発明によれば、電解質中の水分の過剰な減少を起こすことなく、少量の処理量で効果的に膨潤を抑制することができる。また、分子内に複数のアルデヒド基を持つアルデヒド分子は極性基を多く持つことになるため、他の基と結合していない段階では水との親和性が高く、水系処理液に対する溶解性が高い。従ってアルデヒドが電解質内部に浸潤しやすく処理の均一性が得やすく、その結果としてモノアルデヒドの場合と異なり、電解質内部まで十分処理を施した時点では既に表面の処理が過度になって伝導度が大きく低下してしまうというような問題は発生しない。
以下本発明にかかる固体電解質及び該固体電解質を使用した電気化学システムの具体的な実施形態を説明する。本発明は水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物であって、有機高分子の水酸基の一部あるいは全部が分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物と結合している複合化合物を含有している固体電解質であることが特徴となっている。
以下に本発明の実施例に基づいて固体電解質の作成方法を説明する。尚、本願発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
複合化合物を作成するため、先ず平均重合度が3100〜3900でケン化度が86〜90%のポリビニルアルコールの10重量%水溶液100mlに、タングステン酸ナトリウム二水和物(NaWO・2HO)6.2gとリン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)0.7gを水20ccに溶かしたものを加えて原料水溶液とし、この原料水溶液を撹拌しながら50重量%のリン酸32mlに続いて2.4M濃度の塩酸16mlを滴下して中和し、粘稠な前駆体水溶液を作成した。この前駆体水溶液を密閉容器内に入れ、遠心機により脱泡処理した。
複合化合物から成る固体電解質膜は以下の方法で作成した。マイクロメータを用いて台座とのギャップを調節できるブレードが装着されたコーティング装置(R K Print Coat Instruments Ltd.製 Kコントロールコータ202)の平滑な台座の上にポリエステルフィルムを敷き、その上に脱泡処理した複合化合物液を流延した。この時台座は50℃になるように制御しながら加熱した。
複合化合物液を台座の上に流延してすぐにギャップを0.6mmに調節したブレードを一定速度で複合化合物液上を掃引して一定の厚みにならした。そのまま50℃で加熱しながら放置することによって水分を飛ばし、流動性がほぼ消失した段階で再びその上から重ねて複合化合物液を流延し、すぐに再びブレードを一定速度で複合化合物液上を掃引し、一定の厚みにならした。その後台座の温度を105℃〜110℃まで引き上げ、その状態を保って1.5時間の加熱処理を行った。
台座の上に生成した膜を剥離し、直径30mmに切り取り、分子内に二つのアルデヒド基を持つグルタルアルデヒド0.5mlを加えた1.2M濃度の塩酸50mlに室温でそれぞれ1時間、2時間、4時間撹拌しながら浸漬した。その後70℃〜100℃の熱水で洗浄した後、乾燥した。
アルデヒド処理した固体電解質膜は乾燥状態での寸法を測定した後、200mlの水中に浸漬し、室温で1時間放置してから取り出して再び寸法を測定し、水に浸漬する前後の面積の変化率を出して膨潤率を求めた。
固体電解質膜のイオン伝導度の測定は以下の方法により行った。先ず固体電解質の試料膜を直径28mmの2枚の白金円板と、該白金円板の外側に配置した真ちゅうの円板で挟み、更に絶縁されたクリップで挟み込んで固定する。真ちゅうの円板に取り付けたリード線にLCRメータを使って電圧10mVの交流電圧を周波数5MHzから50Hzまで変えながら印加し、電流と位相角の応答を測定した。イオン伝導度は一般的に行われているCole−Coleプロットの実数軸との切片から求めた。尚、この測定は試料を水を入れたビーカー内に漬けた状態で恒温槽の中に入れて60℃に制御しながら行った。膨潤率及びイオン伝導度の測定結果は図1中に記載した。
[比較例]
実施例1と同じ固体電解質膜を直径30mmに切り取り、1.2モル濃度の塩酸50mlにモノアルデヒドのイソブチルアルデヒドを1ml加えた処理液に室温でそれぞれ1時間、2時間、4時間撹拌しながら浸漬した。その後70℃〜100℃の熱水で洗浄した後、乾燥した。処理後の試料は実施例1と同じ方法で膨潤率とイオン伝導度を測定した。測定結果は実施例1と同じく、図1中に記載した。
図1からわかるとおり、膨潤率を同程度に抑えた場合、実施例1のように分子内に複数のアルデヒドを持つグルタルアルデヒドで処理を行なった方が比較例のようにモノアルデヒドのイソブチルアルデヒドで処理した場合よりもイオン伝導度が高い。また、同レベルのイオン伝導度で比較すると、分子内に複数のアルデヒドを持つものの方が膨潤は小さく抑えられる。
本発明においては分子内に複数のアルデヒドを持つものであれば、ポリビニルアルコールの複数の水酸基を掴むことができ、その間のサイズを規制する効果も加わって膨張を効果的に抑制できるので、グルタルアルデヒドと同様の効果を得ることができる。従って、分子内に複数のアルデヒド基を持っていれば、アルデヒドの種類はどのようなものでもよい。分子内に複数のアルデヒド基を持つものの例としては、例えばグリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジプアルデヒド、マレアルデヒド、フマルアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどがある。ただし、複数のアルデヒド基どうしの距離が短すぎると一つのアルデヒド分子で複数の水酸基を掴むのが困難になり、十分な効果が得られなくなる。また、処理液が水系の場合、アルデヒド基以外の部分の疎水性があまり高すぎるとアルデヒド分子の溶解度が低くなり、十分な効果が得られなくなる。グルタルアルデヒドは分子内の二つのアルデヒド基の間の距離とアルデヒド基以外の疎水性が適度であるため使用するアルデヒドとして好適である。尚、アルデヒドは一つの固体電解質に対して二種類以上反応させることもでき、モノアルデヒドと混合して使用することもできる。共存させる酸もアルデヒドの反応を促進するものであればどのようなものでも使用可能であり、例えば塩酸,硫酸,リン酸などが用いられる。ただし、反応が十分に進むのであれば必ずしも処理液が酸を含む必要はない。例えば実施例のように中和法によって作成した膜は、作成後に膜が酸を含んでいるため、アルデヒド処理液内には必ずしも酸を入れなくてもよい。また、タングステン酸を含む膜はタングステン酸自体が強い酸性を持つのでその場合にも必ずしも処理液内に酸を入れる必要はない。
アルデヒドと反応させる処理において、反応が十分に進行するならば反応形態はどのようなものでもよい。反応中に加温することも可能であり、アルデヒド及び共存する酸は気体状でも液体状でもよい。また、アルデヒドと反応させる処理においては、実施例のようにアルデヒドをより固体電解質内部まで浸透させた状態で反応させるために、水を吸収して膨潤した状態の固体電解質を反応させるのが好ましい。
本発明は分子内に複数のアルデヒド基を持つアルデヒドを有機高分子の水酸基に結合させ、効果的に膨潤を抑制することを基本としているため、水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物との複合化合物を含む固体電解質全般に効果的である。本発明において水酸基を有する有機高分子としてはポリビニルアルコール,各種セルロース,ポリエチレングリコール,あるいは各種有機高分子に水酸基を導入したもの、あるいは水酸基をもつ有機高分子を共重合,グラフト重合したものなどがある。例えばポリビニルアルコールが本発明に対して最も代表的なものであるが、ポリビニルアルコールは完全なものである必要がなく、本質的にポリビニルアルコールとして機能するものであれば使用することができる。例えば水酸基の一部が他の基で置換されているもの、一部分に他のポリマーが共重合、あるいはグラフト重合されているものもポリビニルアルコールとして機能することができる。また、反応過程でポリビニルアルコールを経由すれば同様な効果が得られるので、ポリビニルアルコールの原料となるポリ酢酸ビニル等を出発原料とすることもできる。
また、各実施例において水酸基を有する有機高分子の機能が十分発現する範囲であれば、他のポリマー、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリ酢酸ビニル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、エポキシ樹脂系ポリマーあるいはその他の有機,無機添加物などを混合することもできる。
実施例において示したように水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物の共存する原料溶液中で無機化合物塩を酸又はアルカリによって中和し、溶媒を除去することによって有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物を作成することができる。この場合、無機化合物塩の代表的な例は金属の酸素酸塩であって、例えば珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸のうち少なくとも一種類の金属塩を用いることができる。この場合中和には酸が用いられる。珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸の金属塩は使用する溶媒に溶解するものであればどのような種類の金属塩でもよく、金属イオンの種類,酸素,陽イオンの比率,含水率もどのようなものでもよい。
また、無機化合物塩のもう1つの代表的な例は金属のハロゲン化物塩あるいはオキシハロゲン化物塩であって、例えばハロゲン化ジルコニウムあるいはオキシハロゲン化ジルコニウムが使用でき、この場合中和にはアルカリが用いられる。ジルコニウム塩及びオキシジルコニウム塩も使用する溶媒に溶解するものであればどのような種類のものでもよく、酸素,陰イオンの比率、含水率もどのようなものでもよい。原料溶液の溶媒は原料となる金属塩及び有機高分子を溶解することができればどのようなものでもよいが、金属塩の溶解性が高い点では水が好適である。また、原料の珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸の金属塩については溶解性の点ではアルカリ金属塩が好ましい。
固体電解質を構成する複合化合物中にリン,ホウ素,アルミニウム,カルシウム,ストロンチウム,バリウム化合物の少なくとも一種類を含ませることができるが、中和法で作成する場合これらの化合物の添加は中和前の原料液にリン酸,ホウ酸から選択された少なくとも一種類の金属塩を含ませるか、又はアルミニウム塩,チタン塩,カルシウム塩,ストロンチウム塩,バリウム塩,ホウ酸から選択された少なくとも一種類を含ませることによって行われる。リン酸,ホウ酸の金属塩は使用する溶媒に溶解するものであればどのような種類のものでもよく、金属イオンの種類,酸素,陽イオンの比率,含水率もどのようなものでもよい。しかし、金属塩の溶解性の点ではアルカリ金属塩を使用するのが好ましい。アルミニウム塩,チタン塩,カルシウム塩,ストロンチウム塩,バリウム塩も使用する溶媒に溶解するものであればどのような種類のものでもよく、陰イオンの種類,含水率はどのようなものでもよい。また、リン、ホウ素、珪素を添加する際、予めタングステン酸あるいはモリブデン酸とリン酸,珪酸,ホウ酸が化合したタングストリン酸,モリブドリン酸,シリコタングステン酸,シリコモリブデン酸,タングストホウ酸,モリブドホウ酸などヘテロポリ酸あるいはその塩を原料として用いることができる。
中和法で作成する場合、中和に用いる酸又はアルカリの種類は、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸の金属塩又は塩化ジルコニウムあるいはジルコニウム塩又はオキシジルコニウム塩の中和が行えるものであればどのようなものでもよく、塩酸,硫酸,リン酸,水酸化ナトリウム,水酸化リチウム等が使用可能である。
本発明により得られた固体電解質は安価な原料を使用しており、簡単な製造プロセスを基本としているため、既存のパーフルオロスルホン酸系電解質よりも大幅に安価である。更に本発明にかかる固体電解質は、従来のポリビニルアルコールと無機化合物との複合化合物から成る固体電解質と同様の機能を持つものであり、同様の用途に使用できることから、燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサ、一次電池,二次電池,光スイッチシステム等の電気化学システムあるいは多価金属を用いた新たな電池システムに適用することができる。
無機/有機複合化合物を含有する固体電解質膜の膨潤率とイオン伝導度の関係を示すグラフ。

Claims (8)

  1. 水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物と無機化合物及び水から成る複合化合物であって、有機高分子の水酸基の一部あるいは全部が分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物と結合している複合化合物を含有していることを特徴とする固体電解質。
  2. 有機高分子の水酸基の一部あるいは全部と分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物との結合様式が水酸基とアルデヒド基のアセタール化反応による脱水縮合である請求項1に記載の固体電解質。
  3. 無機化合物が、珪酸化合物,タングステン酸化合物,モリブデン酸化合物,錫酸化合物,ジルコン酸化合物のうち少なくとも一種類を含有している請求項1又は2に記載の固体電解質。
  4. 複合化合物が、水酸基を有する有機高分子を含む有機化合物の共存する原料溶液中で、珪酸,タングステン酸,モリブデン酸,錫酸のうち少なくとも一種類の塩を酸で中和するか、ハロゲン化ジルコニウムあるいはオキシハロゲン化ジルコニウムをアルカリで中和し、溶媒を除去することによって作成される有機化合物と無機化合物及び水から成る請求項3に記載の固体電解質。
  5. 水酸基を有する有機高分子がポリビニルアルコールである請求項1,2,3又は4に記載の固体電解質。
  6. 分子内に複数のアルデヒド基を持つ化合物がグルタルアルデヒドである請求項1,2,3,4又は5に記載の固体電解質。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の高イオン伝導性固体電解質を用いたことを特徴とする固体電解質を使用した電気化学システム。
  8. 上記電気化学システムが、燃料電池,スチームポンプ,除湿機,空調機器,エレクトロクロミックデバイス,電解装置,電気分解型水素生成装置,電解過酸化水素製造装置,電解水製造装置,湿度センサ,水素センサ,一次電池,二次電池,光スイッチシステムあるいは多価金属を用いた新たな電池システムである請求項7に記載の固体電解質を使用した電気化学システム。
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