JP5475330B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents

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Description

この発明は、タイヤ幅方向に並列するビードワイヤで構成されるビードコアを埋設した一対のビード部と、前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部間に跨って延びるトレッド部とを具え、これら各部に亘ってトロイド状に延び、両端部を前記ビードコアの周りに折り返してなるカーカスを有する空気入りタイヤに関するものである。
一般にタイヤは、空気充填時、荷重負荷時或いは経時変化時にタイヤ径方向外側に膨張するため、ビードコアの周りに折り返して形成されるカーカスは、タイヤ幅方向断面にてタイヤ径方向外側に引っ張られ、カーカス引き抜けが生じる。これに伴い、当該カーカスに周りを囲われているビードコアは、カーカスが引き抜ける方向へ回転する変形を受ける。このような場合に、ビードコアのタイヤ幅方向の断面形状全体が例えば六角形又は長方形であると、個々のビードワイヤが応力による異なる負荷を受け、異なる疲労挙動が生じてしまう。
そこで、特許文献1には、ビードコアの六角形又は長方形の断面形状が角部を四角形又は三角形で削り取った断面形状となるように、ビードワイヤ(線材)を巻き回す構成が提案されている。かかる構成により、個々のビードワイヤにかかる負担が、ビードコアの断面形状の全体にわたって均一になるようにしている。
特開平7−279070号公報
しかしながら、特許文献1に記載されているようなビードコアでは、断面形状においてビードワイヤの巻き回し回数が少ない部分、すなわち、断面形状の角部を四角形又は三角形で削り取った部分であるタイヤ幅方向外側の部分が、リムからの反力に耐えることが出来ず、変形してしまう。つまり、タイヤをリムに装着した際に、ビードコアに対しては、タイヤ径方向内側から外側方向に向かってリムからの反力が加わるが、ビードワイヤの巻き回し回数が少ないタイヤ幅方向外側の位置では、ビードワイヤ相互の拘束が弱いことから、ビードワイヤが互いに離散して、ビードコアの崩れを生ずる。
従ってこの発明では、タイヤ全体の軽量化を図ると共に、このように軽量化をした場合であっても、ビードコアを形成する複数のビードワイヤが離散してしまうのをより効果的に抑制して、耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、タイヤ幅方向に並列するビードワイヤで構成されるビードコアを埋設した一対のビード部と、前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部間に跨って延びるトレッド部とを具え、これら各部に亘ってトロイド状に延び、両端部を前記ビードコアの周りに折り返してなるカーカスを有する空気入りタイヤにおいて、
前記ビードワイヤは、タイヤ径方向に対して傾斜して直線状に延びるとともに相互に平行する2つの直線部を有し、タイヤ幅方向に隣接する前記ビードワイヤは、それぞれのタイヤ径方向内側及び外側の前記直線部が相互に同一直線上に配置され、
タイヤ幅方向断面にて、前記ビードコアは前記ビードワイヤを複数段及び複数列に積み重ねて形成されており、タイヤ径方向最内側から数えて少なくとも一段の前記ビードワイヤ段の列数は残余の段の列数よりも多く、タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列の前記ビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に、タイヤ径方側にかかる力によって前記ビードワイヤが離散するのを抑止する拘束部材を備え
前記ビードコアと前記カーカスとの間、及び前記ビードコアのタイヤ径方向上側の少なくとも一方に、85Hs以上のゴム硬度を有する高硬度ゴムが配置され、
前記拘束部材の圧縮弾性率は、前記高硬度ゴムの圧縮弾性率より大きいことを特徴としている。
なお、ビードコアは、1本又は複数のビードワイヤをタイヤ周方向に巻き回して、タイヤ幅方向に複数列及びタイヤ径方向に複数段積み重ねることによって形成される。従って、ビードコアのタイヤ幅方向断面は、複数のビードワイヤ断面の束によって形成される。また、ビードコアのタイヤ幅方向断面において、タイヤ径方向最内側の少なくとも一段が最も多くの列を有し、タイヤ径方向外側に向かって各段の列数は減少している。そして、隣接するビードワイヤの直線部が相互に同一直線上となるように、タイヤ径方向の最も内側の直線部によって形成される長い直線部(以下、底辺と呼ぶ)を有する。従って、「タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列の前記ビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部」とは、ビードコア断面形状において、タイヤ幅方向最外側の列の底辺からタイヤ径方向外側までの距離が、他の列の底辺からタイヤ径方向外側までの距離よりも短いことを意味する。
また、前記ビードコアおよび前記拘束部材が、前記高硬度ゴムに埋め込まれることが好ましい。
また、前記拘束部材は、85Hs以上のゴム硬度を有するゴム部材であることが好ましい。
なお、ここで言う「ゴム硬度」とは、JIS K6253に従う、デュロメータ硬さ・タイプA試験機を用いて、試験温度23℃にて測定したときのゴム硬さを意味する。
また、前記ビードワイヤは、前記2つの直線部の間に延びるとともにタイヤ幅方向に隣接する前記ビードワイヤ間で相互補完的な係合を完結する相補的形状部と、前記直線部及び前記相補的形状部間をつなぐ角部とからなる輪郭形状を有することが好ましい。
また、隣接する前記ビードワイヤは、ビードワイヤ間に被覆ゴム等を介在させることなく、互いに接触していることが好ましい。
また、ビードワイヤの前記相補的形状部は、少なくとも1つの凸部を有する補完形状部と、少なくとも1つの凹部を有する被補完形状部とを具え、前記ビードワイヤと、タイヤ幅方向に隣接する前記ビードワイヤと同一形状の他のビードワイヤとを係合する場合に、前記ビードワイヤの前記被補完形状部及び前記他のビードワイヤの前記補完形状部で形成される係合部の、前記直線部と水平方向の距離を表す係合長さが、前記直線部の長さの少なくとも10%の長さであることが好ましい。
この発明によれば、ビードコアのタイヤ幅方向断面を、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側の位置のビードワイヤの段数を少なくすると共に、タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列の前記ビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に拘束部材を設けることによって、軽量化を図ると共に、ビードコアを形成する複数のビードワイヤの離散をより効果的に抑制し、耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することが可能となる。
リムに適用されたこの発明の一実施形態の空気入りタイヤの、ビード部のタイヤ幅方向断面を示す図である。 この発明によるタイヤのビード部のタイヤ幅方向の断面図である。 この発明によるさらに他の実施形態の空気入りタイヤの、ビードコアの一部を拡大して示す拡大断面図である。 (a)〜(u)は、この発明によるタイヤに適応可能な種々のビードワイヤのタイヤ幅方向断面を示す図である。 リムに適用されたこの発明の他の実施形態の空気入りタイヤの、ビード部のタイヤ幅方向断面を示す図である。 (a)〜(e)は、この発明によるタイヤのビードワイヤのタイヤ幅方向の断面図である。 この発明によるタイヤのビードコアの側面図である。 (a)、(b)は、それぞれこの発明によるタイヤのビードコアの巻き始め端及び巻き終わり端を示す斜視図である。 この発明によるタイヤのビード部のタイヤ幅方向の断面図である。
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1は、リムに適用されたこの発明の空気入りタイヤ(以下「タイヤ」と言う)の一実施形態の、ビード部のタイヤ幅方向断面を示す断面図である。
図1に示すこの実施形態のタイヤは、慣例に従い、ビード部1と、図示しないサイドウォール部と、カーカス4と、図示しないトレッド部の補強に供される、カーカス4のクラウン部外周を取り囲んで積層した、図示しないゴム被膜スチールコードの複数層から成る図示しないベルト層とを具える。カーカス4は、ラジアルカーカス又はバイアスカーカスのどちらでも良い。またカーカス4は、例えばスチールコードをラジアル配列又はバイアス配列してなるプライを、一対のビードコア2間に亘ってトロイド状に跨って配置し、ビードコア2の周りにタイヤの内から外へ巻き返すことによって、ビードコア2にその両端が固定されている。
ビードコア2は、タイヤ幅方向に複数列に並列し、且つ、複数段の積層状に積み重ねて配列される環状のビードワイヤ3から構成される。ここで、この発明のビードコアは、タイヤ幅方向断面にて、ビードワイヤを複数段及び複数列に積み重ねて形成されており、タイヤ径方向最内側から数えて少なくとも一段のビードワイヤ段の列数が残余の段の列数よりも多く、タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列のビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部を有するようになっている。例えば図1に示すように、ビードコア2を形成するビードワイヤ3が、ビードコア2の(タイヤ径方向内側から)下側3段では8列並列して配置され、また、(タイヤ径方向外側から)上側4段には、タイヤ幅方向の内側4列だけにビードワイヤ3が配置されることで構成されている。但し、図1の形状のように、必ずしも1段のみの段数を有する形状に限定されるものではなく、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側に位置するビードワイヤの数を調節することで、段数が異なる段を複数有する形状にすることもできる。
このように、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側の位置のビードワイヤの段数を少なくする理由は、ビードコア回転の中心となるビードコア重心位置(ビードコアの回転軸心)を変位させることができるからである。すなわち、例えば上記のようにビードコアの断面形状を変化させると、ビードコア重心位置がトゥ部30側に変位するので、このビードコア重心位置を軸心としてビードコアが回転した場合に、リム5とビード部1との接触面であるリムベースからの反力によってビードコアが支えられる範囲を増加させることができる。従って、カーカス4の引き抜き方向への力が同等である場合には、ビードコア重心位置をずらさない場合と比較して、実施例のようにビードコア重心位置をずらす構成とする場合の方が、ビードコア回転に対する抗力となるリムベースからの反力が有効に作用し、ビードコア回転抑止効果(カーカス引き抜け防止力)を向上させることができるのである。
また、上記理由から、タイヤ径方向内側ではなく外側のビードワイヤの段数を減らせば、ビードコアのタイヤ径方向内側部分(すなわち、ビードコア断面形状における上記底辺)を維持することができるので、リムベースからの反力によってビードコアが支えられる範囲を十分に確保して、反力による作用を効果的に利用することが可能となる。
また更に、この削除したビードワイヤ分だけビードコアを軽くすることができ、タイヤ全体の軽量化を図ることが可能となる。
また、ビードワイヤ3aの直線部7aは、ビードワイヤ3bの直線部7aと同一直線上にあり、ビードワイヤ3aの直線部7bは、ビードワイヤ3bの直線部7bと同一直線上にある。
さらにビードコア2は、タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列の前記ビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に、拘束部材6を配置する。すなわち、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側のビードワイヤ段数が少ない部分を覆うように、拘束部材6が配置される。
これにより、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側のビードワイヤの段数が少ないビードコア部分が、リムからの反力によってタイヤ径方向外側へ変位し、ビードワイヤが離散してしまうのを、効果的に抑制することができる。従って、ビードコアの断面形状を安定化させることができ、ビードコアの変形を防ぐことができるので、タイヤ全体の耐久性を向上させることができる。なお、上記のように拘束部材6を、少なくとも、残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に配置するのは、この部分のビードワイヤ段数が最も少なく隣接するビードワイヤ同士の係合強度が弱いためにビードワイヤの離散が生じやすいので、これを抑制しようとするためである。また上述の通り、各ビードワイヤは、隣接する直線部が同一直線上に位置するように配置されている。従って、ビードコアのタイヤ径方向下側及び上側に凹凸が生じることがないので、このように拘束部材を配置する際にも、より効果的にビードワイヤを拘束することができる。
以上の通り、この発明の構成によれば、軽量化を目指すためにビードワイヤの巻き回数を減らそうとすればするほど、ビードコアの構造がリムからの反力に耐え難い構造となってしまう問題を解消し、軽量化を実現してもなお、リムからの反力に対しても耐え得る、耐久性の向上した空気入りタイヤを提供することができる。
図2は、空気入りタイヤのビードコアのタイヤ幅方向断面を示す図であり、ここに示すように、通常、ビードコア2とカーカス4との間、及びビードコア2のタイヤ径方向上側の少なくとも一方には、85Hs以上のゴム硬度を有する高硬度ゴム20が配置されている。一般に、ゴム硬度の高いゴムは、ゴム硬度の低いゴムに比べて加硫時の流動が小さいことから、このようにビードコア2とカーカス4との間に高硬度ゴム20を配置することで、加硫時のビードコア2の周りのゴムの流動を小さくすることができ、ビードコア2の崩れを抑制することができる。また、ビードコア2のタイヤ径方向上側に高硬度ゴム20を配置することで、荷重負荷時のビード部1の倒れ込みを抑制し、ビード部1内に発生するせん断歪みを小さくすることができるので、ビード部1の耐久性を向上させることができる。
そして、この発明では、拘束部材6の圧縮弾性率が、ビード部を構成するゴムの圧縮弾性率より大きいことが好ましい。上記のように、ビードコア2とカーカス4との間、及びビードコア2のタイヤ径方向上側の少なくとも一方にゴムが配置され、ビード部は、ビードコア2が、このゴムに埋め込まれるような形で構成されている。従って、拘束部材6の圧縮弾性率がビード部を構成するゴムの圧縮弾性率より大きいとは、タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列の前記ビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に配置される拘束部材6が、ビードコア2周囲の高硬度ゴム20よりも硬いということを意味している。
このように、少なくともタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に高硬度ゴム20よりも硬い部材を配置することによって、ビードワイヤをタイヤ径方向外側からより強固に押さえることができるので、高硬度ゴム20だけを配置する場合と比較して、リムからの反力によってビードワイヤが離散してしまうことを更に効果的に抑制することができる。



またこの発明では、拘束部材6を、85Hs以上のゴム硬度を有するゴム部材とすることが好ましい。リムからの反力が加わると、ビードコアは、加えられた力の方向に回転しようとする。この時ゴム硬度が85Hs未満であると、ゴムが十分に硬くないために、ビードコアの回転を抑制することができない。従ってゴム部材には、ビードコアの回転を十分に抑制することができるように、85Hs以上のゴム硬度を有するものを用いるのが好ましい。
なお、このゴム部材は、ビードコアのタイヤ径方向外側に載置した場合に、タイヤ幅方向最外側の列を形成するビードワイヤと載置したゴム部材とによって形成される、ビードコア全体形状の上記底辺に対して垂直方向の高さが、タイヤ幅方向最内側の列の高さと同じか、又はそれ以上であることが好ましい。すなわち、ビードコア2に載置した際のゴム部材の高さは、底辺に対して垂直な方向において、最も多い段数を有するビードワイヤの列の高さと最も少ない段数を有するビードワイヤの列の高さとの差以上であることが好ましい。従って、図1で示すように、タイヤ径方向外側且つタイヤ幅方向外側のビードワイヤの段数が少ない部分だけでなく、ビードコアの断面形状全体が覆われるように、タイヤ径方向外側全体にゴム部材を載置することもできる。
このように、ビードワイヤよりも軽量であって、且つ高い硬度を有するゴム部材を拘束部材として用いることによって、ビードコアが軽量化のためにビードワイヤの巻き回し回数が少ない部分を有する場合であっても、タイヤ全体の軽量化を保ったままの状態で、ビードコアを形成する複数のビードワイヤが離散してしまうのを効果的に抑制することができる。
さらに、各ビードワイヤ3は、図3に示すように(ここでは説明の簡単のために、図1に示されるビードコア2を形成する複数のビードワイヤの一部である、3つのビードワイヤを、ビードワイヤ3a、ビードワイヤ3b、ビードワイヤ3cとする)、タイヤ幅方向断面において、タイヤ径方向に対して傾斜して直線状に延びる直線部7と相互に隣接するビードワイヤ3a、3b、3c間で形状的に相互に補完し合う相補的形状部9とそれらをつなぐ角部10とを具えて構成される断面形状を有する。直線部7は、タイヤ径方向外側(図3で示す上側)とタイヤ径方向内側(図3で示す下側)に相互に平行する上側直線部7a及び下側直線部7bで構成される。相補的形状部9は、例えば、ビードワイヤ3bにおいて、これら2つの直線部7a、7bの間に延びると共に、タイヤ幅方向に隣接する他のビードワイヤ3aを補完する部分である、少なくとも一つの凸部を有する補完形状部9aと、上記他のビードワイヤ3aのタイヤ幅方向反対側に隣接するビードワイヤ3cの凸部に補完される部分である少なくとも一つの凹部を有する被補完形状部9bで構成される。つまり、図3に示すように、それぞれの補完形状部9a及び被補完形状部9bにより、ビードワイヤ3aとビードワイヤ3bが、及び、ビードワイヤ3bとビードワイヤ3cが、係合される。
タイヤ幅方向に隣接するビードワイヤ3を上記のような構成にして、それぞれを相補的形状部で係合することによって、空気充填時、荷重負荷時或いは経時変化時等にビードコアに加えられる回転応力が、ビードワイヤ相互間で伝達され易くなる。また、直線部7が隣接するビードワイヤ同士で一直線になっているので、リムからの押圧力がビードワイヤの特定の箇所に集中することがない。これにより、ビードコアに加えられる回転応力が分散され、ビードコア全体としての回転変形が小さくなる。すなわち、回転剛性は大きくなる。さらに、回転応力が加えられたときに、上記相補的形状部が相互に束縛するように作用するため、隣接するビードワイヤをタイヤ径方向上側又は下側に押し動かすことが難しくなり、ビードコア全体としてビードワイヤの周方向の張力分布が均一化される。このように、ビードコア全体としての回転剛性を大きくしてカーカス4の引き抜けを抑制することができるので、ビード部1の耐久性の向上が可能な空気入りタイヤを提供することが可能となる。
なお、相補的形状部9を構成する補完形状部9a及び被補完形状部9bの形状は、タイヤ幅方向に隣接するビードワイヤ3に対して形状的に相互に補完し合うものであれば特に限定されず、例えば、図4(a)〜(u)に示すように、凸部及び凹部が複数であったり、曲線状であったり、キー及びキー溝型であっても良い。なお、図4に示す図はいずれも、図3に示すビードコア2を形成する、複数のビードワイヤ3のタイヤ幅方向の断面形状の一部(タイヤ幅方向3列且つタイヤ径方向3段のビードワイヤ)である。また、例えば図4(a)と図4(b)で異なるように、凸部及び凹部を左右逆向きにしても良い。さらに、図4(a)及び図4(b)に示すように、タイヤ径方向に上下で隣接するビードワイヤ3の角部10が、相互に揃うように配置しても良く、或いは、図4(c)及び図4(d)に示すように、タイヤ径方向に上下で隣接するビードワイヤ3の角部10が、タイヤ幅方向にずれるように配置しても良いが、図5は、図4(a)を採用した場合のビードコアを有するこの発明の他の実施形態の空気入りタイヤを、リムに適用した際のタイヤ幅方向断面を示している。
以上の通り、この発明の構成によれば、軽量化を目指すために、ビードワイヤの巻き回数を減らそうとすればするほど、ビードコアの構造がリムからの反力に耐え難い構造となってしまうという問題を解消し、軽量化を実現してもなお、リムからの反力にも耐え得る耐久性の向上した空気入りタイヤを提供することができる。
またこの発明では、ビードワイヤと、タイヤ幅方向に隣接する他のビードワイヤとを係合する場合に、前記ビードワイヤの前記被補完形状部及び前記他のビードワイヤの前記補完形状部で形成される係合部の、前記直線部と水平方向の距離を表す係合長さは、前記直線部の長さの少なくとも10%の長さを有する。ここで「係合部」とは、例えばビードワイヤ3aの補完形状部9aとビードワイヤ3bの被補完形状部9bが係合する場合に、直線部7に対して垂直な平面において、ビードワイヤ3aとビードワイヤ3bが重なる部分のことを言う(図3で言う点線PとP’の間)。また「係合長さ」とは、上記係合部の、直線部7と水平な方向における距離L(点線P及びP’間の距離)のことを言う。すなわち、ビードワイヤ3aの補完形状部9aとビードワイヤ3bの被補完形状部9bが係合する場合、ビードワイヤ3bの被補完形状部9aの端部は、当該ビードワイヤ3aの上側直線部7a又は下側直線部7bの長さの少なくとも10%の長さ(深さ)まで到達するように、直線部と平行に、ビードワイヤ3bの被補完形状部9bに差し込まれることが好ましい。ここで、ビードワイヤ3aの補完形状部9aとビードワイヤ3bの被補完形状部9bは接触して係合することがより好ましいが、隙間が空いた状態であっても、係合部の係合長さLが直線部7の長さの少なくとも10%以上となるように係合されれば良い。
係合長さLを、直線部7の長さの少なくとも10%以上とすることによって、隣接するビードワイヤ同士を強固に係合させることができる。これにより、回転応力が加えられたときに、強固に係合された相補的形状部が相互に束縛されるため、隣接するビードワイヤをタイヤ径方向上側又は下側に押し動かすことが難しくなる。そうすると、ビードコアのタイヤ幅方向断面の回転剛性が大きくなってビードコア全体としての回転変形が小さくなり、また、ビードコア全体としてビードワイヤの周方向の張力分布を、より効果的に均一化することができる。
係合長さLが直線部7の長さの10%未満であると、回転応力が加えられた場合に、隣接するビードワイヤが互いに離散して、ビードコアの崩れが生じてしまう。すなわち、隣接するビードワイヤが相互に拘束されるように、効果的に係合されていない。従って、係合長さLは、直線部7の長さの少なくとも10%以上とするのが好ましい。
なお、係合部の係合長さLは、直線部7の長さの30%であることがより好ましい。係合長さLをこのようにすることで、隣接するビードワイヤ同士がより強固に係合されるので、回転応力が加えられた際のビードコア全体の回転変形を更に効果的に抑制し、また、ビードワイヤの周方向の張力分布を更に効果的に均一化することができる。
また、係合部の係合長さLは、直線部7の長さの50%以下であることが好ましい。係合長さLを長くすることで、隣接するビードワイヤ同士を強固に係合することはできるが、係合長さLが長くなるような断面を有するビードワイヤを、隣接するビードワイヤ同士で相互に係合させながら配置することは非常に困難であり、製造工程を複雑にすると共に、製造時間を増加させてしまう。従って、係合長さLを直線部7の長さの50%以下とすれば、複雑な製造工程を必要とすることなく、隣接するビードワイヤ同士を効果的に係合させることができる。
また、この発明において、隣接するビードワイヤ間に被覆ゴム等を介在させ(図示していない)、隣接するビードワイヤを相互に接着しても良い。しかしならが、このような被覆ゴムを隣接するビードワイヤ3間に設けると、この被覆ゴムが経時的にクリープ変形して潰されビードコア全体としての変形が大きくなる。従って、ビードコア全体としての経時的変化の低減という視点から見た場合、隣接するビードワイヤ3は、互いに接触していることが好ましい(図1〜5参照)。
このように、隣接するビードワイヤ3を相互に直接接触させることで、被覆ゴムを介在させた場合に比べてビードコア2の全体としての経時的変化を小さくすることができるので、さらにカーカス4の引き抜けを抑制することができるとともにカーカス4の端部の歪みを小さくすることができる。
さらに、ビードワイヤ3の下側直線部7bとタイヤ径方向のなす角は、90度以上115度以下の範囲にあることが好ましい。このようにすることで、ビードワイヤ3を巻回してビードコア2を形成した際にビードコア2に所定のテーパ角度与え、ひいてはリムと当接するビード部1の下部に適正なテーパ角度を与えることができる。
図6(a)〜(e)は、この発明に従う他のビードワイヤの断面の例を示す断面図である。この発明に従うビードワイヤは、直線部7及び相補的形状部9が交わる角部10を有するが、これによりこの角部、特には鋭角となる角部において応力集中が生じる。この応力集中によりビードコア周りに亀裂が生じると、ビード部の耐久性は著しく低下する。そこでこのような角部に発生する応力集中を低減させるべく、図6に示すように、ビードワイヤの直線部7及び相補的形状部9とを結合している角部10は、面取りされていることが好ましい。これにより、ビードコア2に回転応力が生じた際にその角部10に加わる応力が分散し、ビードコア2とカーカス4の接触部の損傷(亀裂)を防止できる。
さらに、ビードコア2は、複数本のビードワイヤ3をタイヤ径方向に積層状に複数回巻回したものをタイヤ幅方向に並列に配置して構成したものであり、図7に示すように、同一ビードワイヤ3の巻き始め端15と、巻き終わり端17とのタイヤ周方向位置が相互に異なることが好ましい。このように複数本のビードワイヤ3で構成されるビードコア2は、1本のビードワイヤ3をタイヤ径方向に順次巻回して構成されたビードコア2に比べ、ビードコア2の生産に要する時間が大幅に短縮できる。しかしながら、ビードワイヤ3の巻き始め端15や巻き終わり端17がビードコア2周上の一箇所に集中すると、この段差に応力集中しやすく破壊強度の低下を招き、特に巻き始め端15が曲げ応力の支点となりビード部1の損傷を起こすことがある。そこで、同一ビードワイヤ3の巻き始め端15と巻き終わり端17とをタイヤ周方向位置で異ならせることにより、ビードコア2の生産効率を向上させつつ、応力集中を低減させることができる。さらには、図7に示すように、巻き始め端15及び巻き終わり端17とビードコア2の中心点Cとをそれぞれ結んでなる線分が相互に交わってなる角度θは、40度以上100度以下の範囲内にあることが好ましく、特には60度であるのが好ましい。なぜなら、この角度θが40度未満の場合は、応力集中の低減の効果が十分でなく、100度を超えるとビードコア2の周上の重量バランスを低下させタイヤのユニフォミティーが悪化するからである。
図8(a)、(b)は、それぞれこの発明に従うビードコアの巻き始め端及び巻き終わり端を示す斜視図であり、ビードコア2は、図8(a)、(b)に示すように複数本のビードワイヤ3をタイヤ径方向に積層状に複数回巻回したものをタイヤ幅方向に並列に配置して構成したものであり、各ビードワイヤ3の巻き始め端15及び巻き終わり端17のタイヤ周方向位置がそれぞれ相互に異なることが好ましい。ビードコア2を複数本のビードワイヤ3で構成すると生産効率の面から有利であることは、上述の通りである。しかしながら、各ビードワイヤ3の巻き始め端15及び巻き終わり端17のタイヤ周方向位置がそれぞれ相互に同一の場合、すなわちこれら端15及び17がタイヤ幅方向に揃っている場合、これら段差に応力集中しやすく破壊強度の低下を招くとともに応力の支点となりビード部1の損傷を起こすことがある。そこで、各ビードワイヤ3の端15及び17を、周方向位置でそれぞれに異ならせることで、ビードコア2の生産効率を向上させつつ、応力集中を低減させることができる。
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したに過ぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。例えば、ビードコア2の周りにタイヤの内から外へ巻き返して配置されたカーカス4を、図9に示すようにさらにビードコア2の周りを包囲するように配置させても良く、このようにすることでカーカス4をさらに引き抜かれ難くしビード部1の耐久性を一層高めることができる。また、ビードワイヤ3のタイヤ幅方向断面における断面形状も、この明細書に例示的に示したものには限られるものではない。
次に、この発明の効果を確認するために、この発明によるタイヤ(実施例)及び従来技術のタイヤ(従来例)を試作し、以下の試験により比較検討を行った。
試験に用いたタイヤはいずれも、タイヤサイズ11R22.5のチューブレスのトラック・バス用ラジアルタイヤであり、以下の諸元を有する。
実施例1のタイヤは、図1に示したビード部を有するタイヤであって、タイヤ幅方向断面が長方形であるビードワイヤを用いてビードコアを形成したものである。すなわち、タイヤ幅方向断面が長方形である金属製のビードワイヤを、タイヤ径方向内側3段が8列及びタイヤ径方向外側4段が4列となるように並列に配置している。さらに、ビードコアのタイヤ幅方向断面において、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側に、拘束部材として85Hsのゴム硬度を有するゴム部材を載置している。また、ビードワイヤ間は直接接触しており、ビードワイヤの直線部とタイヤ径方向のなす角度は105度である。またこのタイヤは、1層のカーカスの両端部がビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返され、トレッド部のカーカス外周側には4層のベルト層が配置される構成となっている。なお、ビード部以外の構造は、慣例の空気タイヤに従うものであるので、説明を省略する。
従来例のタイヤでは、タイヤ幅方向断面が長方形であるビードワイヤを用いてビードコアを形成したものである。すなわち、タイヤ幅方向断面が長方形である金属製のビードワイヤを、タイヤ径方向内側3段が8列及びタイヤ径方向外側4段が4列となるように並列に配置しているだけであって、ビードコアのタイヤ幅方向断面のタイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側に、本発明のように、拘束部材は一切載置していない。その他の構成及び条件は、実施例1と同じである。
これらの各試験タイヤを、以下に示す方法により、ビード部1の耐久性の試験を行った。
ビード部の耐久性試験は、上記タイヤを同じく8.25インチのリムに装着し、室温が30〜50℃以下の下、内部に87.5kPaの空気圧を適用し、室内ドラム試験機を用いて、これらタイヤを58kNの荷重の作用下で60km/hの速度で負荷転動させ、ビード部1が故障するまでの走行距離を計測した。結果を表1に示す。
Figure 0005475330
表1の結果から明らかなように、タイヤ幅方向外側且つタイヤ径方向外側のビードワイヤの段数が少ない部分に、拘束部材を配置することによって、ビード部の耐久性は顕著に向上することが確認された。
この発明によって、タイヤ全体の軽量化を図ると共に、このように軽量化をした場合であっても、ビードコアを形成する複数のビードワイヤが離散してしまうのをより効果的に抑制して、耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することが可能となった。
1 ビード部
2 ビードコア
3 ビードワイヤ
4 カーカス
5 リム
6 拘束部材
6a くせ付けバンド
7 直線部
7a 上側直線部
7b 下側直線部
9 相補的形状部
9a 補完形状部
9b 被補完形状部
10 角部
15 巻き始め端
17 巻き終わり端
20 高硬度ゴム
30 トゥ部

Claims (6)

  1. タイヤ幅方向に並列するビードワイヤで構成されるビードコアを埋設した一対のビード部と、前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部間に跨って延びるトレッド部とを具え、これら各部に亘ってトロイド状に延び、両端部を前記ビードコアの周りに折り返してなるカーカスを有する空気入りタイヤにおいて、
    前記ビードワイヤは、タイヤ径方向に対して傾斜して直線状に延びるとともに相互に平行する2つの直線部を有し、タイヤ幅方向に隣接する前記ビードワイヤは、それぞれのタイヤ径方向内側及び外側の前記直線部が相互に同一直線上に配置され、
    タイヤ幅方向断面にて、前記ビードコアは前記ビードワイヤを複数段及び複数列に積み重ねて形成されており、タイヤ径方向最内側から数えて少なくとも一段の前記ビードワイヤ段の列数は残余の段の列数よりも多く、タイヤ幅方向最外側から数えて少なくとも一列の前記ビードワイヤ列からなり且つ各列の段数が残余の列の段数よりも少ないタイヤ幅方向外側部のタイヤ径方向外側に、タイヤ径方外側にかかる力によって前記ビードワイヤが離散するのを抑止する拘束部材を備え
    前記ビードコアと前記カーカスとの間、及び前記ビードコアのタイヤ径方向上側の少なくとも一方に、85Hs以上のゴム硬度を有する高硬度ゴムが配置され、
    前記拘束部材の圧縮弾性率は、前記高硬度ゴムの圧縮弾性率より大きい、空気入りタイヤ。
  2. 前記ビードコアおよび前記拘束部材が、前記高硬度ゴムに埋め込まれる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
  3. 前記拘束部材は、85Hs以上のゴム硬度を有するゴム部材である、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
  4. 前記ビードワイヤは、前記2つの直線部の間に延びるとともにタイヤ幅方向に隣接する前記ビードワイヤ間で相互補完的な係合を完結する相補的形状部と、前記直線部及び前記相補的形状部間をつなぐ角部とからなる輪郭形状を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
  5. 隣接する前記ビードワイヤは、互いに接触している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
  6. 前記ビードワイヤの前記相補的形状部は、少なくとも1つの凸部を有する補完形状部と、少なくとも1つの凹部を有する被補完形状部とを具え、
    前記ビードワイヤと、タイヤ幅方向に隣接する前記ビードワイヤと同一形状の他のビードワイヤとを係合する場合に、
    前記ビードワイヤの前記被補完形状部及び前記他のビードワイヤの前記補完形状部で形成される係合部の、前記直線部と水平方向の距離を表す係合長さが、前記直線部の長さの少なくとも10%の長さである請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
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