JP5464493B2 - 切削加工用インサート - Google Patents

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この発明は、立方晶窒化ほう素基焼結体、多結晶ダイヤモンド基焼結体等で構成された切削加工用インサートに関し、特に、合金鋼、軸受鋼等の焼入れ材からなる高硬度鋼の仕上げ切削加工あるいはAl合金、Cu合金等の非鉄金属材料の仕上げ切削加工において、境界摩耗の発生を抑制し得るとともに、すぐれた仕上げ面精度を長期の使用にわたって維持し得る切削加工用インサートに関するものである。
従来、仕上げ切削加工用インサートとしては、立方晶窒化ほう素(以下、cBNで示す)基焼結体、多結晶ダイヤモンド(以下、PCDで示す)基焼結体等が用いられているが、仕上げ切削加工における被削材の仕上げ面精度の向上を目的として種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1に示されるように、cBN基焼結体製切削工具の表面(特に、すくい面)にTiN皮膜を形成した切削工具(従来インサート1という)は、切屑の溶着を抑制することができるため、溶着発生を原因とする仕上げ面精度の低下を防止し得るとされている。
また、例えば、特許文献2に示されるように、摩耗境界部分に、複数の曲率半径のコーナ群を備えたインサート(従来インサート2という)を用いて切削加工を行うことにより、被削材の仕上げ面精度を改善できることが知られている。
特開平7−75902号公報 特表平10−500363号公報
しかし、上記の従来インサートを用いて仕上げ切削加工を行った場合、例えば、従来インサート1を用いて高硬度被削材の仕上げ切削加工を行った場合には、TiN皮膜が切削途中で剥離してしまうため、溶着抑制効果が持続せず、長期の使用に亘って十分な仕上げ面精度を維持できないという問題点があり、また、従来インサート2を用いて高硬度被削材の仕上げ切削加工を行った場合には、大きな曲率半径のコーナ部において切削抵抗が大きくなるため、ビビリが発生しやすく、これによって十分に満足できる仕上げ面精度は得られないという問題点があった。
さらに、PCD(多結晶ダイヤモンド)基焼結体製切削加工用インサート(以下、PCDインサートという)についても、通常、Al合金、Cu合金等の仕上げ切削加工に用いられているが、摩耗の進行とともに溶着が激しくなるため、長期の使用に亘って、すぐれた仕上げ面精度を維持することができないという問題点があった。
そこで、本発明者等は、合金鋼、軸受鋼等の焼入れ材からなる高硬度鋼の仕上げ切削加工あるいはAl合金、Cu合金等の非鉄金属材料の仕上げ切削加工において、すぐれた仕上げ面精度を長期の使用にわたって発揮すべく、境界摩耗の発生・進展を抑制することができるインサート形状について鋭意研究を行った結果、
cBN基焼結体あるいはPCD基焼結体から所定形状のインサートを作製した後、図1(a)〜(c)に示すように、インサートの逃げ面に、切れ刃稜線と平行に複数の溝を形成し、かつ、該溝のテラス幅、溝幅及び溝高さが特定の数値範囲になるように溝形状を定めたところ、cBNインサート及びPCDインサートのいずれについても、境界摩耗の発生が低減され、その結果、長期の使用に亘って、すぐれた仕上げ面精度を維持しつつ、同時にすぐれた耐摩耗性を発揮し得ることを見出したのである。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 切削加工用インサートの逃げ面に、切れ刃稜線と平行に複数の溝が形成され、該溝は、テラス幅5〜25μm、溝幅1〜5μm、溝高さ0.5〜6μmの溝形状を有することを特徴とする切削加工用インサート。
(2) 切削加工用インサートが、立方晶窒化ほう素基焼結体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削加工用インサート。
(3) 切削加工用インサートが、多結晶ダイヤモンド基焼結体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削加工用インサート。」
を特徴とするものである。
以下、本発明について説明する。
図1に、本発明の切削加工用インサート(以下、単に、インサートという)一つの具体例を示すが、図1(a)は、切れ刃稜線と平行に複数の溝が形成された三角形状の本発明インサートの斜視外観図、図1(b)は、同インサートの逃げ面の拡大図、図1(c)は、同インサートの逃げ面の断面模式図である。
図1(a)に示すように、本発明インサートは、その逃げ面に、切れ刃稜線と平行に複数の溝(図1(a)では、5本の溝)が形成されており、このような本発明インサートを仕上げ切削加工に供した場合、切れ刃に生じた摩耗が次第に進展するが、図1(b)に示すように、本発明インサートでは、切れ刃稜線と平行に複数の溝(図1(b)の溝部)が設けられていることにより、該溝によって摩耗進行が食い止められ、その結果、境界摩耗(図1(b)の境界摩耗)の発生・進展が抑制される。
したがって、本発明インサートでは、シャープな刃先を長期間の使用に亘って維持することができ、良好な仕上げ面精度が得られ、かつ、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮し、工具の長寿命化が図られる。
図1(c)に、本発明インサートの溝の具体的な形状寸法の一例を示す。
図1(c)では、5本の溝が形成され、各溝のテラス幅は25μm、溝幅は5μm、溝高さは3μmとされている。
本発明では、切れ刃稜線と平行に形成する溝のサイズは、それぞれ、テラス幅5〜25μm、溝幅1〜5μm、溝高さ0.5〜6μmとし、また、本発明で形成する溝の数は、2〜5本とすることが望ましい。
ここで、テラス幅が5μmより小さくなると強度が不足して欠損が発生する可能性が高くなり、一方、25μmを超えると切削液の回りこみが不十分となることから、テラス幅は5〜25μmとする。
溝幅は、これが1μmより小さくなると切削液を溝に保持することが難しくなり、一方、5μmを超えると切屑が溝に入り込み溶着が発生しやすくなることから、溝幅は、1〜5μmと定めた。
溝高さは、これが0.5μmより小さくなると摩耗進行を分断する効果が少なくなり、一方、6μmを超えるとテラス幅に対して溝が深くなりすぎてテラス部の破損を生じやすくなることから、溝高さは0.5〜6μmと定めた。
本発明インサートにおいて、その逃げ面に、例えば、レーザー加工によって、切れ刃稜線と平行に複数の溝を形成することができるが、平滑な溝仕上げを行うためには、紫外域波長のレーザーを用いてレーザー加工を行うことが望ましい。
例えば、YAGレーザーの4倍波を用いて、出力1W、走査速度10mm/sec、繰り返し10kHzの条件でレーザー加工することにより、インサートのすくい面に、本発明で規定する形状・寸法の溝を、形成することができる。
本発明の切削加工用インサートは、その逃げ面に、切れ刃稜線と平行に所定形状の複数の溝が形成されていることによって、これを仕上げ切削加工に供した場合、上記溝によって、境界摩耗の発生・進展が抑制されるため、シャープな刃先を維持することができ、また、長期間の使用に亘って良好な仕上げ面精度とすぐれた耐摩耗性が得ることができる。
(a)は、切れ刃稜線と平行に複数の溝が形成された三角形状のインサートの斜視外観図、(b)は、同インサートの逃げ面の拡大図、(c)は、同インサートの逃げ面の断面模式図を示す。
つぎに、本発明の切削加工用インサートを実施例により具体的に説明する。
最初に、cBNインサートの実施例について説明する。
(a)cBNインサートの硬質相を構成する1〜3μmの平均粒径のcBN粉末と、結合相を構成する1〜3μmのTiN粉末およびAl粉末とを、容量%にて、cBN粉末:(TiN粉末+Al粉末)=1:1の割合となるように配合調製し、これをボールミルで72時間、アセトンを用いて湿式混合する。
(b)得られた混合粉末を乾燥後、油圧プレスにて1MPaの圧力で成形する。
(c)成形体を、真空中1Pa、1000℃×30分の条件で熱処理し、揮発成分および粉末表面への吸着成分を除去する。
(d)成形体とWC超硬合金を積層し、圧力5Ga、温度1500℃、保持時間30分の条件で超高圧高温処理し、cBN焼結体を作製する。
(e)cBN焼結体をワイヤ放電加工機で所定寸法に切断する。
(f)WC超硬合金製インサート本体のコーナ部に設けたくぼみに、切断したcBN片を重ねあわせ、950℃でAg−Cu−Ti系ろう材でろう付けする。
(g)上下面および外周研磨、ホーニング処理を施し、CNGA120408に規定する形状のcBNインサート1〜10を作製する。
(h)上記で得たcBNインサート1〜10の逃げ面に、YAGレーザーの4倍波を用いて、出力1W、走査速度10mm/sec、繰り返し10kHzの条件でレーザー加工を施し、表1に示される寸法形状の溝を形成することにより、本発明インサート1〜10を作製した。
比較のため、上記(a)〜(g)にしたがってcBNインサート1〜10を作製した後、各インサートの逃げ面にレーザー加工を行い、表2に示される溝(本発明外の寸法形状の溝)を形成することにより、比較例インサート1〜10を作製した。
上記本発明インサート1〜10、比較例インサート1〜10の溝の寸法形状については、レーザ顕微鏡により観察・測定した。測定箇所と方法は、インサートの刃先コーナ部と直線部の交点近傍の直線側で5点測定し平均値を求めた。また、図1(c)に示すようにテラス幅、溝幅は溝の入口側の大きさとし、高さは溝の最大深さとした。
表1、表2に、溝の寸法形状を示す。
Figure 0005464493
Figure 0005464493
つぎに、上記本発明インサート1〜10および比較例インサート1〜10について、次の切削条件で合金鋼の焼入れ材の連続湿式仕上げ切削加工試験を行った。
被削材: SCr420の焼入れ材(HRc60)の丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
送り: 0.15 mm/rev、
切込み: 0.2 mm、
切削距離: 2 km、
本発明インサート1〜10については、試験を開始し2000m切削後の仕上げ面粗さを触針式表面粗さ測定器により測定した。
比較例インサート1〜10については、欠損等の発生を原因とし、切削距離2kmに届かずに寿命に至ったため、寿命に至るまでの切削距離を測定した。
これらの測定結果を表1、表2に示す。
次に、PCDインサートの実施例について説明する。

(a)PCDインサートの硬質相を構成する6〜12μmの平均粒径のダイヤモンド粉末を、ダイヤモンド層厚みが1mmになるように秤量し、WC超硬合金と積層し、圧力5.5Ga、温度1500℃、保持時間30分の条件で超高圧高温処理し、PCD焼結体を作製する。
(b)PCD焼結体をワイヤ放電加工機で所定寸法に切断する。
(c)WC超硬合金製インサート本体のコーナ部に設けたくぼみに、切断したPCD片を重ねあわせ、800℃でAg−Cu−Ti−In系ろう材でろう付けする。
(d)上下面および外周研磨、ホーニング処理を施し、TNGA160408に規定する形状のPCDインサート11〜20を作製する。
(e)上記で得たPCDインサート11〜20の逃げ面に、YAGレーザーの4倍波を用いて、出力1W、走査速度10mm/sec、繰り返し10kHzの条件でレーザー加工を施し、表3に示される寸法形状の溝を形成することにより、本発明インサート11〜20を作製した。
比較のため、上記(a)〜(e)にしたがってPCDインサート11〜20を作製した後、各インサートの逃げ面にレーザー加工を行い、表4に示される溝(本発明外の寸法形状の溝)を形成することにより、比較例インサート11〜20を作製した。
上記本発明インサート11〜20、比較例インサート11〜20の溝の寸法形状については、レーザ顕微鏡により観察・測定した。測定方法と測定箇所の定義は、cBNインサートの場合と同様である。
表3、表4に、溝の寸法形状を示す。
Figure 0005464493
Figure 0005464493
つぎに、上記本発明インサート11〜20および比較例インサート11〜20について、次の切削条件で高Si−Al合金の連続湿式仕上げ切削加工試験を行った。
被削材: A390−T6処理の丸棒、
切削速度: 1,000 m/min.、
送り: 0.1 mm/rev、
切込み: 0.2 mm、
切削距離: 20 km、
本発明インサート11〜20については、試験を開始し20000m切削後の仕上げ面粗さを触針式表面粗さ測定器により測定した。
比較例インサート11〜20については、欠損等の発生を原因とし、切削距離20kmに届かずに寿命に至ったため、寿命に至るまでの切削距離を測定した。
これらの測定結果を表3、表4に示す。
表1〜4に示される結果から、本発明の切削加工用インサートは、その逃げ面に、切れ刃稜線と平行に所定形状の複数の溝が形成されていることによって、高硬度鋼の仕上げ切削加工においても、境界摩耗の発生・進展が抑制されるため、良好な仕上げ面精度が得ることができ、同時に、長期間の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮した。
これに対して、本発明で規定する溝形状から外れる溝を形成した比較例の切削加工用インサートでは、境界摩耗の発生・進展により短時間で欠損等が発生するため、短時間で使用寿命に至ることは明らかである。
この発明の切削加工用インサートは、cBNインサートを用いた高硬度鋼の仕上げ切削およびPCDインサートを用いたAl合金、Cu合金等の非鉄金属材料の仕上げ切削のいずれにおいても、すぐれた仕上げ面精度を長時間に亘って維持することが可能である。

Claims (3)

  1. 切削加工用インサートの逃げ面に、切れ刃稜線と平行に複数の溝が形成され、該溝は、テラス幅5〜25μm、溝幅1〜5μm、溝高さ0.5〜6μmの溝形状を有することを特徴とする切削加工用インサート。
  2. 切削加工用インサートが、立方晶窒化ほう素基焼結体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削加工用インサート。
  3. 切削加工用インサートが、多結晶ダイヤモンド基焼結体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削加工用インサート。
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