JP6191839B2 - ダイヤモンド焼結体ボールエンドミルとその製造方法 - Google Patents
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Description
このような硬脆材や高硬度鋼材等からなる被削材をボールエンドミルで切削加工する場合、高硬度なダイヤモンドと結合剤のコバルト等を高温高圧で焼結したダイヤモンド焼結体からなるダイヤモンド焼結体ボールエンドミルが提案されている。
そして、このボールエンドミルによって超硬合金等の被削材を切削するには、ボールエンドミルを高速回転させながら切り込んで横移動させ、刃部のダイヤモンド粒子からなる極めて微少な凸部が被削材に切り込むことで切削加工を行うことができる。
そのため、ボールエンドミルの多結晶焼結ダイヤ層の表面に上述した熱影響層が形成されたり、ワイヤ成分やその他の不純物が付着したりすることによっても凹凸部の表面粗さが大きくなってしまい、被削材の加工面粗さを低下させるという欠点があった。
本発明によれば、刃部の半球状の球体面は表面がダイヤモンドとコバルト等の結合剤の焼結体からなっていてダイヤモンドの凸部とコバルト等の結合剤の凹部とで比較的面粗さの大きい凹凸形状を呈しており、その凸部を研磨加工することで、凸部等に付着している高温高圧で焼結した際に劣化したダイヤモンド粒子や酸化物等を除去することでダイヤモンド焼結体本来の組成でない劣化した成分を除去するため、加工時に生成する切屑や加工面にクラックが入ることを抑制して高精度の切削加工を行える。
しかも、刃部の半球状の球体面の表面粗さが最大1μm以下、そして平均0.18μm以下に設定されていることで、高精度な切削加工を行えると共に切屑や加工面にクラックが生じることを抑制して面粗さの小さい高精度な加工面が得られる延性モード切削を行える。
本発明によれば、ダイヤモンド焼結体を放電加工によって半球状に形成する際に放電ワイヤや電極の成分である銅や亜鉛等が表面に付着しており、これを研磨によって除去することで不純物の少ない面粗度の良好な刃部を形成できる。
刃部の半球状の球体面における逃げ面の逃げ角が0°であると逃げ面の凸部によっても切削加工を行える。
ダイヤモンド焼結体の球体面に付着する酸化物を表面の研磨によって10wt%以下にすることで、耐摩耗性が上がり面粗さの小さい切削加工面を得られる。
本発明によれば、刃部のダイヤモンド焼結体の表面を研磨して凸部と凹部の面粗さを向上できる上に半球状の球体面をすくい面で除去してすくい角が負角の切刃を形成することで切刃強度を確保して切り込みを大きくできて、切れ味と切削効率が向上する。
切刃を芯上がりまたは芯下がりに形成することで刃部の回転軸線近傍の低速域での切刃の欠損を防ぐと共に、この領域ではダイヤモンド粒子の凸部によって高精度に切削加工できる。また、切刃の刃先によって切り込みが大きい利点がある。
切刃を刃部の回転軸線の両側に対向させて形成したことで加工効率が向上する。
回転軸線の両側に形成した切刃をそれぞれ芯上がりに形成したことで、刃部の回転軸線近傍の低速域での両側の切刃の欠損を防ぐと共に、この領域ではダイヤモンド粒子の凸部によって高精度に被削材を切削加工できる。
切刃にネガランドまたはホーニングを形成することで、切刃の刃先を強化できると共に加工面や切屑にクラックが生じることを抑制して延性モード切削を進めて加工面の面粗さが向上する。
ダイヤモンド焼結体の粒子径が30μm以下であれば高精度の切削加工を行える。
本発明によれば、ダイヤモンド焼結体の半球状の球体面を、ワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削(研磨)加工の少なくともいずれかの手段で平面に切除して、平面と球体面との交差稜線からなる切刃を形成することで、ワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削(研磨)加工のいずれかの手段で切除したすくい面となる平面に、当該加工手段に基づく表面粗さが形成される。その表面粗さの凹部が切削加工時に油溜まりを形成するので生成された切屑が付着しにくく、切刃による切削時の潤滑性が高くなる。
しかも、ダイヤモンド焼結体の表面の面粗さが向上するために切削加工によって生じる被削材の切屑が付着することを妨げるので被削材の加工精度が一層向上するという利点が得られる。
図1において、本実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミル1は、工具本体2の先端部が例えば略半球状の球体面を有するダイヤモンド焼結体(PCD)からなる刃部3として形成されている。刃部3はその外径Dが例えば1mmからなり、実際には半球形状より大きく球体に近い球体面形状を有している。そのため、刃部3は工具本体2の先端より拡径された外径形状を有している。
ダイヤモンド焼結体からなる刃部3は、図2(b)に示すように多数のダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coからなる凹部6とからなっていて、ダイヤモンド粒子の凸部5は不規則な形状を有している。凹部6は放電加工によって結合剤Coが抜け落ちることで形成され、それによって多数のダイヤモンド粒子が残って凸部5を形成し、この凸部5が切刃として被削材を切削加工する。
なお、砥石による刃部3のダイヤモンド焼結体の研磨厚さ(深さ)は例えば3μm〜20μmの範囲とするが、ダイヤモンド砥粒Cの粒径によって増減調整可能である。また、砥石に代えて、バレルやラップ盤(鋳鉄の基板にダイヤモンドパウダーを塗布したスカイフ盤)等によってダイヤモンド焼結体の表面を研磨してもよい。
そのため、刃部3の表面のダイヤモンド焼結体は図2(b)に示す研磨前(従来技術と同様)の面粗さは凸部5と凹部6の差が大きく例えば最大2μm程度、平均0.3μm程度であったが、図2(a)に示す研磨後の最大の面粗さRzは1μm以下、平均の面粗さRaは0.18μm以下となっている。そのため、本実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミル1は面粗さの小さい高精度な切削加工を行える。
一方、研磨前の凸部5と凹部6の図4(b)に示すポイント1には、表2に示すようにダイヤモンドCと結合剤Co以外に、不純物として酸化物O、銅Cu、亜鉛Znが検出され、ポイント2には更にタングステンWが検出されている。
一方、図5(b)において、従来技術による凸部5のダイヤモンド粒子ではGバンド1580m-1、Dバンド1350m-1、D´バンド1620m-1が測定され、グラファイトが検出されたが、上述したダイヤモンド粒子のピーク値は検出されなかった。そのため、実施形態による刃部3のダイヤモンド焼結体では従来技術で表面の凸部5を被覆する炭化されたダイヤモンドが研磨によって除去されたことを検出できる。
図6において、本実施形態によるPCDボールエンドミル1によって被削材として超硬合金からなる被削材8の溝加工を行った。切削に際してPCDボールエンドミル1の刃部3を回転軸線O周りに回転切削を行いながら被削材8に所定深さAaだけ切り込ませ、溝加工の切り込み深さAaを変えながら横送り切削加工を行う。そして、ダイヤモンド焼結体の凸部5による回転切削加工によって送り方向の一方の側部には切屑が盛り上がり、対向する他方の側部には切屑が流動して分断され加工面の周辺に飛び散ることになる。
図7(a)において、単結晶ダイヤモンドのバイトを用いて脆性材である超硬合金やセラミック等の被削材8を回転させながら刃部3で切削を行う場合、切り込み厚さが1μm以上であるとして、被削材8は切刃3aで生じる切屑がすくい面9の方向にまた被削材8の一部が逃げ面10の方向にそれぞれ引っ張られるため、切刃3aの領域に両方への引っ張り応力が集中してクラックが発生する。
一方、図7(b)に示すように、被削材8への切り込み深さを0.1μm以下に小さくして刃部3を拡大して示した場合、静水圧の応力で押しつけ圧力や引張応力をなくすと被削材にクラックが入らず、切屑を流動させながら切削することになる。これが一般的な延性モード切削の原理である。
一方、図8(b)に示す本実施形態によるPCDボールエンドミル1では、ダイヤモンド焼結体による刃部3における凸部5と凹部6の面粗さが小さいため、切屑と被削材8にクラックが入らず延性モード切削になる。しかも、凸部5の切刃はすくい角γが大きな負角になり、切屑を盛り上げて長い切屑が生じる。
しかも、通常、延性モード切削は切り込み0.1μmまであるが、本実施形態によるPCDボールエンドミル1では、図9(a)、(b)、(c)に示すように被削材8の切削加工によって、切り込み0.1μmに限らず、0.5μm、1μm、2μmまで延性モード切削が可能であり、従来技術の10倍から20倍の切り込みに亘って延性モード切削を行えることがわかった。図9に示す切屑を生成する切削条件は下記の表3に示す通りである。
被削材として超硬合金からなる図10に示す凹曲面12aのレンズ金型12を切削加工するものとし、実施形態によるPCDボールエンドミル1によって三次元切削加工を行う。切削に際し、刃部3の切り込み深さAaを0.5μmとし、図11に示すようにPCDボールエンドミル1を凹曲面12aに対して縦送りしつつ1μm(=ar)のピッチで横送りしてUターンさせてジグザグ状の軌跡Kで送り切削加工するものとした。そして、レンズ金型12の凹曲面12aは半径R=0.75mmの球面レンズ形状とした。
PCDボールエンドミル1を用いてレンズ金型12の凹曲面12aをレンズ形状に3次元加工するために用いた切削条件は下記の表4に示すとおりである。
また、図14、図15、図16はレンズ金型12の凹曲面12aの上記交点a,b,cの領域における実施形態と従来技術によるPCDボールエンドミルによる切削加工面の表面粗さの測定データを示すものである。これらのグラフから、測定箇所である交点a,b,cの領域における最大表面粗さRz、平均面粗さRaについて表5に示す測定結果が得られた。
そのため、本実施形態によるレンズ金型12の凹曲面12aの切削加工について加工面粗さの向上は従来技術の2倍〜3倍という顕著な効果が得られた。
従来技術の場合には、送り方向に沿った加工面には筋状の加工跡とその加工跡上の筋に沿って周囲に飛散した細かな切屑が開示されている。一方、実施形態の場合には送り方向に沿った筋状の加工跡はほとんどなく、比較的薄く幅広の切屑が加工面に沿って飛散している。
しかも、刃部3の被削材8に対する切り込み深さが0.5μm程度の浅いものに限定されることなく、1μm〜2μmに至るまで深い切り込み切削においても同様に延性モード切削を行えるという効果を奏する。
次に本発明の他の実施形態や変形例について説明するが、上述した実施形態の部分や部品と同一または同様なものについては同一の符号を用いて説明を行うものとする。
図21から図23において、本第二実施形態によるダイヤモンド焼結体ボールエンドミル20は、工具本体2の先端部が例えば略半球状のダイヤモンド焼結体(PCD)を形成し、その外周面には多数のダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coの凹部6とで半球面状の凹凸形状を有している刃部3を形成している。
このようにして成形された第一実施形態による略半球状のダイヤモンド焼結体の刃部3を斜めにカットしたすくい面21を形成することで本第二実施形態によるPCDボールエンドミル20が形成されている。
しかも、本第二実施形態では、刃部3も研磨されたダイヤモンド粒子Cの凸部5と結合剤Coからなる凹部6とで凹凸形状を形成している。
すくい面21の成形方法はダイヤモンド焼結体からなる半球状の外周面22を斜めに切除するものであれば、適宜成形方法を採用できる。例えば、砥石による機械研削(研磨)によってすくい面21を形成してもよい。砥石による機械研削は手間がかかるが、すくい面21の仕上げ面粗さが良いという利点がある。
また、他のすくい面21の成形方法を説明すると、例えばワイヤ放電加工によって半球状の刃部3からすくい面21を切除して形成してもよい。この場合、全加工行程をワイヤ放電加工で行ってもよいし、粗加工をワイヤ放電で行って仕上げ研削(研磨)加工を砥石による機械研削で行ってもよい。仕上げ加工を砥石で行うとワイヤ放電加工よりも仕上げ面粗さが小さくなる。
同様に、レーザ加工によって半球状の刃部3からすくい面21を切除してもよい。この場合、全加工行程をレーザ加工で行ってもよいし、粗加工をレーザ加工で行って、仕上げ研削(研磨)加工を砥石による機械研削で行ってもよい。
いずれの場合も仕上げ加工を砥石による機械研削で行うと、手間がかかるが仕上げ面粗さが向上する利点がある。
そのため、刃部3の全周を略半球状に形成した第一実施形態によるPCDボールエンドミル1よりも切刃23の切り込みを5〜10倍深くすることができて切削効率が向上し、焼き入れ鋼のような高硬度材や超硬合金、セラミック等の硬脆材による被削材8を高効率で面粗さの良好な切削加工を行える。
ここで、切刃23のすくい角αが上記範囲であれば切刃23の欠損を防いで第一実施形態による半球状の刃部3と比較してより高い切り込みで切削加工が行える。一方、すくい角αが−10°より大きいと、超硬合金のような高硬度な被削材を切削加工する際に切刃23を欠損し易いおそれが生じる。また、すくい角αが−80°より小さいと負角が大きすぎて切刃23の切れ味が著しく低下して切削加工を効率よく行えない。
例えば図25に示すように切刃23Aは芯上がりに形成してもよいし、或いは切刃23Bとして芯下がりに形成してもよい。この場合、刃部3の先端部において、基準となるすくい面21を形成する回転軸線Oと先端部で交差する切刃23のすくい角αを−10°〜−80°の範囲として、すくい面21を形成する切刃23の芯上がりと芯下がりの範囲は、回転軸線Oと刃部3の先端部との交差部を中心として回転軸線Oに直交する方向に、略半球状の刃部3の半径をR(=0.5mm)として±2%の範囲内に設定するものとする。例えば、刃部3の半径Rを500μmとして±25μmの範囲に設定することが好ましい。
しかも、対向する一対の切刃23は芯上がりに形成されており、各切刃23の先端部の回転軸線Oからの芯上がりの長さSは刃部3の半径Rの1〜5%の範囲に設定されていることが好ましい。例えば、刃部3の半径Rを500μmとして芯上がりの長さSは±25μmの範囲に設定することが好ましい。各切刃23を芯上がりに形成することで回転軸線O近傍の低速域での切刃23の欠損を防ぐと共に切刃23による切り込みが大きく、この領域ではダイヤモンド粒子Cの凸部5によって延性モード切削で高精度に切削加工することができる。
また、放電加工として実施形態ではワイヤ放電加工によってダイヤモンド焼結体の刃部3に半球状の球体面を形成したが、ワイヤ放電加工に代えて形彫り放電加工等で行ってもよい。また、刃部3の先端に半球状の球体面を形成するに際し、必ずしも放電加工によって行わなくてもよく、例えば砥石で研磨して半球状または部分的な球面形状に形成してもよい。
2 工具本体
3 刃部
5 凸部
6 凹部
8 被削材
12 レンズ金型
12a 凹曲面
21 すくい面
22 外周面
23 切刃
Claims (10)
- ダイヤモンド焼結体ボールエンドミルであって、
工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有し、該半球状の球体面の表面はダイヤモンド粒子と結合剤によるダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子からなる凸部が切刃として研磨加工されたものであり、
前記刃部の球体面は前記凸部と前記結合剤が脱落した凹部の表面粗さが最大1μm以下に設定されていると共に平均で0.18μm以下に設定されていることを特徴とするダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。 - 前記刃部の半球状の面は逃げ角が0°である請求項1に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記刃部は球体面に付着する酸化物が10wt%以下である請求項1または2に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記刃部は半球状の球体面を平面で切除したすくい面と、該すくい面と球体面との交差稜線からなる切刃とを有しており、前記切刃は−10°から−80°の負角のすくい角を有している請求項1から3のいずれか1項に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記刃部は半球状の球体面とすくい面との交差稜線からなる切刃が半球状の球体面の半径の−5%から+5%の範囲の芯上がりまたは芯下がりに設定されている請求項4に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記刃部はすくい面と切刃とを回転軸線に対して両側に対向させて形成した請求項4または5に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記刃部の先端において、前記回転軸線の両側に形成した切刃間の幅は前記半球状の球体面の半径の1〜10%に設定されている請求項6に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記切刃にはネガランドまたはホーニングが形成されている請求項4から請求項7のいずれか1項に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 前記切刃におけるダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子の粒子径は30μm以下に設定されている請求項1から請求項8のいずれか1項に記載されたダイヤモンド焼結体ボールエンドミル。
- 工具本体の先端の刃部が半球状の球体面を有すると共に、その球体面の表面はダイヤモンド粒子と結合剤によるダイヤモンド焼結体のダイヤモンド粒子からなる凸部が切刃として研磨加工されたことで、前記刃部の球体面は前記凸部と前記結合剤が脱落した凹部の表面粗さが最大1μm以下に設定されていると共に平均で0.18μm以下に設定され、
前記半球状の球体面をワイヤ放電加工、型彫り放電加工、レーザ加工、研削加工の少なくとも1つ以上の手段によってすくい面となる平面に切除することで、該平面と球体面との交差稜線からなる切刃を形成するようにしたことを特徴とするダイヤモンド焼結体ボールエンドミルの製造方法。
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