はじめに、本発明の鋼板の加工方法の一実施形態について説明する。
図1に示されるように、本発明の鋼板の加工方法の一実施形態では、鋼板の加工装置10が使用される。この鋼板の加工装置10は、一例として、溝形成装置14を備える。加工の材料となる鋼板70は、その長さ方向の一端側から他端側へ順に、上工程12から溝形成装置14を経て下工程16へ、図1中の矢印の向きに送られる。
溝形成装置14では、溝形成工程が実行され、この溝形成工程では、後に詳述するように、鋼板70の表面に複数の溝72が形成される。本発明の鋼板の加工方法の一実施形態では、以上により、鋼板が製造される。
図1、図2に示されるように、溝形成装置14は、より具体的には、歯型ロール30及び押付ロール20を有する。歯型ロール30の外周部には、複数の突条の歯部32が形成されている。複数の歯部32は、歯型ロール30の周方向に等ピッチで並んでいる。図2、図3に示されるように、複数の歯部32の各々は、直線状に形成されており、歯型ロール30の軸方向に対して所定の傾斜角度αで傾斜している。
図4(A)には、歯型ロール30における歯部32の周辺部が断面図にて示されている。図4(A)では、便宜上、歯型ロール30の外周面34が曲線状ではなく直線状に示されている。歯部32の歯先幅Wは、およそ10〜100μmであり、歯部32の高さHは、およそ10〜5000μmであり、歯型ロール30の径方向に対する歯部32の側面の傾斜角度βは、およそ10〜20°である。また、複数の歯部32のピッチPは、およそ2000〜10000μmである。なお、歯部32は歯型ロール30の胴長方向で必ずしも一定形状である必要はない。したがって、ピッチPも、歯型ロール30の胴長方向で必ずしも一定である必要はなく、例えば、ワークサイド側を小、ドライブサイド側を大のように値を変えても良い。
また、図4(A)では、歯部32の断面形状として歯部32が等脚台形形状である場合を例示したが、歯部32は、必ずしも等脚台形形状である必要はなく、図4(B)に示すような偏った楔形状でも良い。この場合に、歯部32の底辺の内角が鈍角である側が先に鋼板に接するように使用すると歯部32の鋼板への食い込みが良く好適である。また、歯部32の斜辺は平面的である必要はなく曲面でも良い。
図1、図2に示されるように、歯型ロール30及び押付ロール20は、互いに平行に配置されている。押付ロール20は、歯型ロール30に近接して配置されている。
そして、溝形成工程では、歯型ロール30と押付ロール20との間を鋼板70が通過する。このとき、押付ロール20によって鋼板70が歯型ロール30の側に押され、鋼板70の表面に歯型ロール30が押し付けられる。歯型ロール30及び押付ロール20は、鋼板70との接触に伴い互いに逆方向に回転する。鋼板70の表面に歯型ロール30が押し付けられると、歯型ロール30に形成された複数の歯部32により鋼板70の表面に複数の溝72が形成される。
図3に示されるように、複数の溝72は、鋼板70の搬送方向である長さ方向と直交する方向、すなわち、鋼板70の幅方向に対して所定の傾斜角度γで傾斜している。この傾斜角度γは、複数の歯部32の傾斜角度αと同一である。
なお、傾斜角度αは、隣り合う一対の歯部32の間に歯型ロール30の軸方向(矢印X方向)に延びる仮想線が存在しないように設定される。つまり、換言すれば、歯型ロール30の軸方向に延びる仮想線が歯型ロール30の外周面のどの位置に設定されても、この仮想線がいずれかの歯部32と必ず交差するように傾斜角度αが設定される。
このように傾斜角度αが設定されると、複数の歯部32により形成された複数の溝72のうち隣り合う溝72の間には、鋼板70の短手方向(矢印X方向)に延びる仮想折曲線が存在しない。傾斜角度αを上記設定とするのは、隣り合う溝72の間に鋼板70の短手方向に延びる仮想折曲線が存在しないようにすることで、鋼板70の搬送時や検査時に鋼板70が折れ曲がらないようにする効果を期待できる。
[第一実施形態]
次に、本発明の歯型ロールの製造方法の第一実施形態について説明する。
本発明の歯型ロールの製造方法の第一実施形態は、粗加工工程と、仕上げ加工工程とを備える。図5には、本発明の歯型ロールの製造方法の第一実施形態が要部拡大断面図にて示されている。図5では、便宜上、歯型ロール30自体の地金である母材40の外周部が、曲線状ではなく直線状に示されている。
図5の(A)から(B)に示されるように、粗加工工程では、円柱状の母材40の外周部の一部に粗加工が施される。この粗加工は、機械切削、ワイヤ放電、及び、エッチングのいずれかを用いた除去加工である。そして、この粗加工により、想像線(二点鎖線)で示される除去部分42が母材40の外周部から除去され、母材40の外周部には、この母材40の周方向に並ぶ複数の突条の粗加工部44が形成される。この粗加工部44は、後述する歯部32と同じ高さに形成される。
続いて、図5の(C)から(D)に示されるように、仕上げ加工が行われる。仕上げ加工工程では、機械切削やレーザ加工のような公知の加工法(レーザ加工等)を用いることができるが、以下ではレーザ加工を用いた場合について説明を行う。
仕上げ加工工程では、複数の粗加工部44の各々にレーザ加工による仕上げ加工が施される。このレーザ加工には、レーザ光62を照射する照射部64を備えるレーザ加工装置60が使用される。このレーザ加工装置60では、例えば渦流電流センサなどの精度の高いセンサを用いて照射部64と母材40との間の距離が精密に制御される。
そして、この仕上げ加工により、粗加工部44から想像線(二点鎖線)で示される除去部分46が除去され、複数の粗加工部44から複数の突条の歯部32が形成される。本発明の歯型ロールの製造方法の第一実施形態では、以上の要領により、複数の歯部32を有する歯型ロール30が得られる。
なお、図5では、粗加工において歯部32の高さを最適値に合わせており、レーザ加工による仕上げ加工では、歯部32の斜面部分だけを加工する例を示しているが、これに限るものではなく、粗加工で歯部32の高さを高目に加工しておき、歯部32の頂部についてもレーザ加工を行うようにしても良い。特に、ワイヤ放電の場合は表層に白層と呼ばれる熱影響層や微細なクラックが発生する場合があるので、目標形状よりも大きめに加工しておき、レーザ加工によって仕上げを行うことが有効である。
次に、本発明の第一実施形態の作用及び効果について説明する。
以上詳述したように、本発明の歯型ロールの製造方法の第一実施形態によれば、円柱状の母材40の外周部の一部に除去加工である粗加工を施して複数の粗加工部44を形成する。そして、複数の粗加工部44の各々にレーザ加工等による仕上げ加工を施して複数の粗加工部44から複数の歯部32を形成する。
したがって、円柱状の母材40の外周部に初めから仕上げ加工を施して複数の歯部32を形成する場合に比して、歯型ロール30の外周のうち一部分だけに対して、粗加工すなわちワイヤ放電又はエッチングによる除去加工を施す分、歯型ロール30の製造に要する時間を短縮することができる。しかも、粗加工を施した後には、レーザ加工等による仕上げ加工を施すので、歯部32の精度も確保することができる。
また、粗加工は、機械切削、ワイヤ放電、及び、エッチングのいずれかを用いた除去加工である。この除去加工によれば、レーザ加工に比して短時間で除去部分42を除去できるので、粗加工工程における加工時間を確実に短縮することができる。これにより、歯型ロール30の製造コストを低減することができる。なお、機械切削としては、例えば、エンドミルによる切削加工が考えられる。
さらに、本発明の歯型ロールの製造方法の第一実施形態により製造された歯型ロール30を鋼板の加工方法の溝形成工程に用いた場合には、歯型ロール30の製造コストが低減される分、鋼板の加工コストを低減することができる。
[第二実施形態]
次に、本発明の歯型ロールの製造方法の第二実施形態について説明する。
図6には、本発明の歯型ロールの製造方法の第二実施形態が要部拡大断面図にて示されている。図6では、便宜上、歯型ロール30自体の地金である母材50の外周部が、曲線状ではなく直線状に示されている。
図6の(A)から(B)に示されるように、粗加工工程では、円柱状の母材50の外周部の一部に粗加工が施される。この粗加工は、溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工である。そして、この粗加工により、母材50の外周部には、想像線(二点鎖線)で示される付加部分52が付加され、この母材50の周方向に並ぶ複数の突条の粗加工部54が形成される。この粗加工部54は、後述する歯部32よりも高く形成される。なお、肉盛による付加部分52の素材は、母材50の素材と必ずしも同一である必要はなく、別素材とすることも可能である。
続いて、図6の(C)から(D)に示されるように、仕上げ加工が行われる。仕上げ加工工程では、機械切削やレーザ加工のような公知の加工法(レーザ加工等)を用いることができるが、以下ではレーザ加工を用いた場合について説明を行う。
仕上げ加工工程では、複数の粗加工部54の各々にレーザ加工による仕上げ加工が施される。このレーザ加工には、第一実施形態と同様に、レーザ光62を照射する照射部64を備えるレーザ加工装置60が使用される。
そして、この仕上げ加工により、粗加工部54から想像線(二点鎖線)で示される除去部分56が除去され、複数の粗加工部54から複数の突条の歯部32が形成される。本発明の歯型ロールの製造方法の第二実施形態では、以上の要領により、複数の歯部32を有する歯型ロール30が得られる。
なお、図6では、粗加工において付加部分52の高さを最終的な歯部32の高さより高くしており、レーザ加工による仕上げ加工では、歯部32の頂部を含む加工を行う例を示しているが、これに限るものではなく、粗加工において付加部分52の高さを最終的な歯部32の高さに合わせておき、歯部32の斜面部分のみにレーザ加工を行うようにしても良い。また、粗加工において付加部分52を形成する際に、セラミックス等の型枠を用いても良い。
さらに、図6では、粗加工において付加部分52を離散的に付加する場合を示したが、連続させても良い。また、付加部分52を多層に形成するようにしても良い。例えば、母材50上に形成する第1層をA材で全面的に付加しておき、第1層の上に形成する第2層をB材で離散的に付加するといったように、多層構造化しても良い。このようにすれば、母材50との親和性は良くないが、耐摩耗性に優れるB材を、母材50と親和性が良いA材を介して用いることも可能となる。A材としては、溶射または肉盛をする際に、母材50の予熱を要するような素材を用いることもできる。また、第1層を全面形成する場合、メッキによって形成しても良い。
次に、本発明の第二実施形態の作用及び効果について説明する。
以上詳述したように、本発明の歯型ロールの製造方法の第二実施形態によれば、円柱状の母材50の外周部の一部に付加加工である粗加工を施して複数の粗加工部54を形成する。そして、複数の粗加工部54の各々にレーザ加工等による仕上げ加工を施して複数の粗加工部54から複数の歯部32を形成する。
したがって、円柱状の母材50の外周部に初めから仕上げ加工を施して複数の歯部32を形成する場合に比して、歯型ロール30の外周のうち一部分だけに対して、粗加工すなわち溶射又は肉盛溶接による付加加工を施す分、歯型ロール30の製造に要する時間を短縮することができる。しかも、粗加工を施した後には、レーザ加工等による仕上げ加工を施すので、歯部32の精度も確保することができる。
また、粗加工は、溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工である。この付加加工によれば、例えばレーザ加工による除去加工で粗加工部54を形成する場合に比して短時間で粗加工部54を形成できるので、粗加工工程における加工時間を確実に短縮することができる。これにより、歯型ロール30の製造コストを低減することができる。
さらに、本発明の歯型ロールの製造方法の第二実施形態により製造された歯型ロール30を鋼板の加工方法の溝形成工程に用いた場合には、歯型ロール30の製造コストが低減される分、鋼板の加工コストを低減することができる。
次に、上記第一及び第二実施形態に共通の変形例について説明する。
上記第一及び第二実施形態では、新品の歯型ロール30が製造される。しかしながら、複数の歯部32が使用に伴い摩耗した歯型ロール30に対し、粗加工工程及び仕上げ加工工程を実行して歯型ロール30を再生し、新品と同様の歯型ロール30が製造されても良い。この場合は、疲労層を除去するため、歯型ロール30の表層を、一旦、ロールグラインダ等で所定の深さまで全面研削して平滑な円筒面とし、その後に歯型ロール30を再生することもできる。
なお、歯型ロール30を再生する場合に、図5に示される第一実施形態のように、粗加工工程における粗加工として除去加工を用いると、この除去工程において母材40の外周部の表層部が除去されるため、歯型ロール30の外径が小さくなる。一方、歯型ロール30を再生する場合に、図6に示される第二実施形態のように、粗加工工程における粗加工として付加加工を用いると、この付加工程において母材50の外周部が肉盛りされるため、歯型ロール30の外径の減少を最小限とすることができる。
また、上記第一及び第二実施形態において、複数の歯部32の各々は、その長さ方向の全長に亘って直線状に形成される。しかしながら、例えば、図7に示されるように、歯型ロール30には、複数の歯部32の各々の長さ方向の一部に湾曲部からなる識別部転写部36が形成されても良い。
このように、複数の歯部32に識別部転写部36が形成されていると、識別部転写部36が鋼板70の表面に押し付けられることにより、鋼板70の表面に識別部転写部36の形状が転写した識別部76を形成することができる。これにより、鋼板70に識別性を付与することができる。
なお、図7に示される変形例では、一例として、識別部転写部36の全体が湾曲部により形成されているが、識別部転写部36は、屈曲部により形成されていても良く、また、屈曲部及び湾曲部が組み合わされた形状で形成されていても良い。また、識別部転写部36は、その一部に湾曲部及び屈曲部の少なくとも一方を含んで形成されていても良い。
この識別部転写部36は、例えば、社名、ロゴ、商品名、標章、及び、ロット番号等の少なくともいずれかに対応する形状であると、鋼板70の識別性が増すので好適である。ただし、例えば、鋼板70に互いに平行な複数の溝72を形成する場合には、複数の溝72の各々に形成される識別部76は、互いに平行な形状であることが望ましい。したがって、この識別部76を形成するための複数の識別部転写部36も、互いに平行な形状であることが望ましい。
また、上記第一及び第二実施形態では、上述のように、複数の歯部32の各々が長さ方向の全長に亘って直線状に形成される。しかしながら、例えば、図8に示されるように、複数の歯部32の各々は、湾曲形状を成していても良い。この図8に示される例において、複数の歯部32の各々は、より具体的には、湾曲形状の一例として、S字状を成している。
このように、複数の歯部32の各々が湾曲形状を成していると、鋼板70の表面に湾曲形状を成す複数の溝72を形成することができる。これにより、複数の溝72に意匠性を付与することができ、ひいては、鋼板70に識別性を付与することができる。
また、複数の歯部32の各々が湾曲形状を成していると、複数の歯部32の各々が直線形状を成す場合に比して、鋼板70の曲げ剛性及びねじり剛性を向上させることができる。
なお、図8に示される変形例では、一例として、複数の歯部32の各々が湾曲形状を成しているが、複数の歯部32の各々は、屈曲形状を成していても良く、また、湾曲形状及び屈曲形状が組み合わされた形状を成していても良い。ただし、鋼板70に互いに平行な複数の溝72を形成する場合には、この複数の溝72を形成するための複数の歯部32も、互いに平行な形状であることが望ましい。
[第三実施形態]
次に、本発明の歯型ロールの製造方法の第三実施形態について説明する。
図9、図10には、本発明の歯型ロールの製造方法の第三実施形態が示されている。第三実施形態では、図1に示される歯型ロール30に適用可能な歯型ロール80(図10参照)を製造する。この歯型ロール80を製造するために、第三実施形態では、図9に示される加工工程(粗加工工程及び仕上げ加工工程)が実行され、その後に、図10に示される焼嵌め工程が実行される。
また、第三実施形態では、母材として耐摩耗鋼で形成された円筒状のスリーブ82が用いられる。この場合の耐摩耗鋼とは、摩擦や衝撃による磨耗や割れ、凹みに強い鋼材である。このような耐摩耗鋼には、例えば、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)がある。以下、加工工程及び焼嵌め工程について順に説明する。
先ず、図9に示されるように、加工工程では、芯材84が用いられる。芯材84は、例えば、機械構造用炭素鋼(S45C)で形成される。芯材84は、円柱状の本体部86と、この本体部86から軸方向両側に突出する一対の軸部88とを有する。芯材84の本体部86は、スリーブ82の内側に嵌入される。そして、加工工程では、スリーブ82の内側に芯材84の本体部86が嵌入された状態で、スリーブ82の外周部に対して皮むき加工が施され、その後、スリーブ82に対して粗加工及び仕上げ加工が施される。
この粗加工及び仕上げ加工には、例えば、上述の第二実施形態(図6参照)における粗加工、つまり溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工、及び、その後のレーザ加工等による仕上げ加工が適用される。付加加工である粗加工によりスリーブ82の外周部に肉盛される材料には、例えば、スリーブ82の材料と同じ高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)等が用いられる。
そして、このようにスリーブ82に対して粗加工及び仕上げ加工が施されることにより、スリーブ82の外周部に複数の歯部32が形成される。芯材84は、スリーブ82に対して粗加工及び仕上げ加工が施された後、スリーブ82から抜去される。
ところで、上述の加工工程では、後述するロール芯90(図10参照)の代わりに、ロール芯90よりも軸長Lが短い芯材84が用いられる。その理由は、後述するロール芯90には一般に軸長Lが長いものが使用されるため、小型の汎用加工機にはロール芯90をセットできない場合があるからである。芯材84にロール芯90よりも軸長Lが短いものを使用することで、小型の汎用加工機での加工が可能になる。
なお、上述の皮むき加工、粗加工、及び仕上げ加工は、スリーブ82を旋盤式回転装置に保持して行うことになる。保持の手段として、芯材84を用いることができる他に、スリーブ82自体をチャックの爪により保持することも可能である。その場合は、芯材84を不要とすることもできる。
続いて、図10に示されるように、焼嵌め工程では、ロール芯90が用いられる。ロール芯90も、上述の芯材84と同様に、円柱状の本体部92と、この本体部92から軸方向両側に突出する一対の軸部94とを有する。このロール芯90は、例えば工具鋼で形成されており、一般に耐摩耗鋼よりも安価とされる。ロール芯90は、例えば、機械構造用炭素鋼(S45C)で形成される。
そして、焼嵌め工程では、焼嵌めによりスリーブ82の内側にロール芯90の本体部92が嵌入される。つまり、スリーブ82を加熱して熱膨張した状態とし、この状態でスリーブ82の内側にロール芯90の本体部92を挿入し、スリーブ82を冷却して熱収縮させ、スリーブ82の内側にロール芯90の本体部92を嵌合させる。このように焼嵌めによってスリーブ82の内側にロール芯90の本体部92が嵌入されることにより、スリーブ82及びロール芯90を有する歯型ロール80が得られる。
なお、焼嵌め後、歯型ロール80の芯出しのために、スリーブ82の表面が研磨されても良い。歯型ロール80の芯振れは、例えば数百μm程度に及ぶ場合もあり、研磨量は、それ以上あると好適である。
また、上記製造方法は、新品の歯型ロール80を製造する場合についての説明であるが、複数の歯部32が使用に伴い摩耗した場合、又は、芯振れ等によって歯部32の形状に不均一が生じた場合には、焼外しによりスリーブ82をロール芯90から取り外し、再度、上述の加工工程及び焼嵌め工程を実行して歯型ロール80を再生し、新品と同様の歯型ロール80を得ても良い。
また、2回目以降の再生加工である場合には、肉盛された部分の一部を残して歯型ロール80の表面を研削することで、必要な肉盛の回数を削減しても良い。
次に、本発明の第三実施形態の作用及び効果について説明する。
以上詳述したように、本発明の歯型ロールの製造方法の第三実施形態によれば、耐摩耗鋼で形成されたスリーブ82の内側に芯材84の本体部86を嵌入した状態で、スリーブ82に対して、溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工である粗加工、及び、レーザ加工等による仕上げ加工を施して、スリーブ82の外周部に複数の歯部32を形成する。そして、スリーブ82から芯材84を抜去した後、焼嵌めによりスリーブ82の内側にロール芯90を嵌入することにより、スリーブ82及びロール芯90を有する歯型ロール80を得る。
したがって、例えば、全体が耐摩耗鋼で形成された円柱状の母材に対して粗加工及び仕上げ加工を施して歯型ロール80を得る場合に比して、歯型ロール80の一部に安価な工具鋼で形成されたロール芯90を用いる分、歯型ロール80の製造コストを低減することができる。
また、加工工程では、小型の汎用加工機での加工を可能にするために、芯材84には、ロール芯90よりも軸長Lが短く、小型の汎用加工機にセット可能であるものが使用される。これにより、ロール芯90を収容し得るような大型で特注の加工機を使用しなくて済むので、小型の汎用加工機を用いる分、歯型ロール80の製造コストをより一層低減することができる。
ところで、スリーブ82の外周部に複数の歯部32を形成する方法としては、上述の粗加工及び仕上げ加工に、例えば、上述の第一実施形態(図5参照)における粗加工、つまり機械切削、ワイヤ放電、及び、エッチングのいずれかを用いた除去加工、及び、その後のレーザ加工等による仕上げ加工を適用することが考えられる。
しかしながら、粗加工としての除去加工をスリーブ82の外周部に対して適用する場合には、次の不都合がある。すなわち、複数の歯部32が使用に伴い摩耗した歯型ロール80を再生するために、粗加工を繰り返し行うと、スリーブ82の外径が徐々に縮小する。ここで、複数の歯部32のピッチを不変とするためには、複数の歯部32の本数を減らす必要がある。しかしながら、複数の歯部32の本数を減らすと、鋼板に溝を転写する際に、所望の本数の溝を得ることができなくなる。一方、複数の歯部32の本数を不変のままピッチを短くすることも考えられるが、そのようにすると、複数の歯部32によって転写される複数の溝の本来の機能が得られなくなる。
これに対し、本発明の歯型ロールの製造方法の第三実施形態によれば、粗加工として、溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工が適用される。したがって、歯型ロール80の再生のための加工を繰り返し行っても、スリーブ82の外径が縮小することを抑制することができるので、複数の歯部32のピッチ及び本数を維持することができる。
次に、本発明の第三実施形態の変形例について説明する。
上記第三実施形態の加工工程では、ロール芯90の軸長Lが長く、このロール芯90を小型の汎用加工機にセットできないという理由から、ロール芯90の代わりに、ロール芯90よりも軸長Lが短い芯材84が用いられている。しかしながら、例えば、ロール芯90をセット可能な汎用加工機がある場合、又は、ロール芯90の軸長Lが汎用加工機にセット可能な寸法である場合には、加工工程の段階からロール芯90が用いられても良い。
[第四実施形態]
次に、本発明の歯型ロールの製造方法の第四実施形態について説明する。
図11には、本発明の歯型ロールの製造方法の第四実施形態が示されている。第四実施形態では、図1に示される歯型ロール30に適用可能な歯型ロール100を製造する。この第四実施形態では、母材として工具鋼で形成された円柱状のロール材102が用いられる。この場合の工具鋼とは、強度と耐衝撃性、耐摩耗性に優れた鋼材である。このような工具鋼には、例えば、機械構造用炭素鋼(S45C)がある。ロール材102には、軸方向両側に突出する一対の軸部104が形成されている。
そして、第四実施形態では、ロール材102に対して粗加工及び仕上げ加工が施される。この粗加工及び仕上げ加工には、例えば、上述の第二実施形態における粗加工、つまり溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工、及び、その後のレーザ加工による仕上げ加工が適用される。付加加工である粗加工によりロール材102の外周部に肉盛される材料には、例えば、コバルト系軸受鋼鋼材(ステライト(登録商標))等が用いられる。このようにロール材102に対して粗加工及び仕上げ加工が施されることにより、複数の歯部32が形成された歯型ロール100が得られる。
なお、上記製造方法は、新品の歯型ロール100を製造する場合についての説明であるが、複数の歯部32が使用に伴い摩耗した場合には、歯型ロール100に皮むき加工を施してロール材102の状態に戻し、再度、上述の粗加工工程及び仕上げ加工工程を実行して歯型ロール100を再生し、新品と同様の歯型ロール100を得ても良い。
次に、本発明の第四実施形態の作用及び効果について説明する。
以上詳述したように、本発明の歯型ロールの製造方法の第四実施形態によれば、工具鋼で形成されたロール材102に対して、溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工である粗加工、及び、レーザ加工等による仕上げ加工を施して、ロール材102の外周部に複数の歯部32を形成し、歯型ロール100を得る。したがって、例えば、母材であるロール材102が耐摩耗鋼で形成される場合に比して、ロール材102が安価な工具鋼で形成される分、歯型ロール100の製造コストを低減することができる。
ところで、ロール材102の外周部に複数の歯部32を形成する方法としては、上述の粗加工及び仕上げ加工に、例えば、上述の第一実施形態(図5参照)における粗加工、つまり機械切削、ワイヤ放電、及び、エッチングのいずれかを用いた除去加工、及び、その後のレーザ加工等による仕上げ加工を適用することが考えられる。
しかしながら、粗加工としての除去加工をロール材102の外周部に対して適用する場合には、次の不都合がある。すなわち、複数の歯部32が使用に伴い摩耗した歯型ロール100を再生するために、粗加工を繰り返し行うと、ロール材102の外径が徐々に縮小する。ここで、複数の歯部32のピッチを不変とするためには、複数の歯部32の本数を減らす必要がある。しかしながら、複数の歯部32の本数を減らすと、鋼板に溝を転写する際に、所望の本数の溝を得ることができなくなる。一方、複数の歯部32の本数を不変のままピッチを短くすることも考えられるが、そのようにすると、複数の歯部32によって転写される複数の溝の本来の機能が得られなくなる。
これに対し、本発明の歯型ロールの製造方法の第四実施形態によれば、粗加工として、溶射及び肉盛溶接のいずれかを用いた付加加工が適用される。したがって、歯型ロール100の再生のための加工を繰り返し行っても、歯型ロール100の外径が縮小することを抑制することができるので、複数の歯部32のピッチ及び本数を維持することができる。
[第五実施形態]
次に、本発明の歯型ロールの製造方法の第五実施形態について説明する。
例えば、上述の第三及び第四実施形態における粗加工に、肉盛溶接の一例であるレーザ肉盛溶接を用いた付加加工が適用される場合、この付加加工では、母材にレーザ光を照射して溶融させた部分に金属粉末を投入して金属粉末を溶解させ、その溶解した部分を凝固させることにより肉盛部が形成される。このレーザ肉盛溶接では、投入された金属粉末の全てが溶解するわけではなく、一部は半溶解状態のまま未溶解粉末として飛散する。
このような未溶解粉末は、溶解した金属粉末が凝固して形成された凝固部に固定される場合がある。未溶解粉末の大きさは、例えば100μm弱のため、未溶解粉末が固定された部位(未溶解部)が歯部32の先端部に一致すると、歯部32の加工の際に、未溶解部が歯部32から剥がれ落ち、歯こぼれになる虞がある。
そこで、本発明の歯型ロールの製造方法の第五実施形態では、粗加工としてレーザ肉盛溶接による付加加工が施された場合、レーザ加工や機械切削による仕上げ加工工程の後に、レーザを用いた平滑化工程(追加処理工程)を実行する。
すなわち、機械切削で歯部形状の加工を行う場合や、レーザ加工で歯部形状の加工を行ったとしても歯部32へ加わる熱量が少ない場合には、前述の未溶解部が歯部32に生成されて歯こぼれの虞があるが、レーザを用いることで、未溶解部に適切な熱量を加えて溶解させ、歯部32自体と同化させることで平滑化し、歯こぼれを抑制することが可能となる。
図12には、本発明の歯型ロールの製造方法の第五実施形態における平滑化工程が示されている。図12では、一例として、レーザ肉盛溶接によって歯型ロール30に凝固部108が形成され、さらに、この凝固部108に形成された歯部32の先端側に未溶解部110が形成されている。なお、図12では、便宜上、歯型ロール30の外周面34が曲線状ではなく直線状に示されている。
そして、第五実施形態における平滑化工程では、図12の上図に示されるように、照射部64からレーザ光62が歯部32の未溶解部110に照射される。これにより、図12の下図に示されるように、未溶解部110が溶解され、歯部32の表面(傾斜面)が平滑化される。
このように、第五実施形態では、歯部32の未溶解部110を溶解させて歯部32の表面を平滑化するので、歯こぼれを抑制することができる。
なお、第五実施形態では、レーザ光62を歯部32に照射して焼入れを行い、歯部32の表層部を硬化させても良い。
また、上記第三乃至第五実施形態には、上述の図7、図8に示される変形例が適用されても良い。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。