JP5459332B2 - 車両用サスペンション装置およびそのジオメトリ調整方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1に記載の技術では、キングピンを構成する上下ピボット点の転舵時における車両前後方向の動きを抑制するリンク配置とすることにより、操縦性・安定性を向上させることとしている。
本発明の課題は、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることである。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、操舵角センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
転舵トルクセンサ11は、出力側ステアリング軸10に設置してあり、出力側ステアリング軸10の回転トルク(即ち、ステアリングラック部材14を介した車輪17FR,17FLの転舵トルク)を検出する。そして、転舵トルクセンサ11は、検出した出力側ステアリング軸10の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
ここで、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、ピニオンギヤ12、ステアリングラック部材14、タイロッド15、コントロール/駆動回路26でステアバイワイヤシステムSWBが構成されている。
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。
なお、メカニカルバックアップ27は、例えばケーブル式ステアリング機構等によって構成することができる。
(ラック軸力成分の分析)
図6は、転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
図6に示すように、ラック軸力成分には、主にタイヤの捻りトルクと、車輪の持ち上げトルクとが含まれ、これらのうち、タイヤの捻りトルクが支配的である。
したがって、タイヤの捻りトルクを小さくすることで、ラック軸力を低減することができることとなる。
図7は、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
図7においては、転舵時におけるタイヤ接地面中心の移動量が大きい場合と小さい場合とを併せて示している。
上記ラック軸力成分の分析結果より、ラック軸力を低減するためには、転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化することが有効である。
転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化するためには、図7に示すように、タイヤ接地面中心の軌跡をより小さくすれば良い。
即ち、タイヤ接地面中心とキングピン接地点を一致させることで、タイヤ捩りトルクを最小化できる。
具体的には、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径0mm以上とすることが有効である。
図8は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図8においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
次に、サスペンション装置1Bを実現する具体的な構成例について説明する。
図9は、サスペンション装置1Bをコンプレッション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
即ち、図9に示す例では、車両上面視でトランスバースリンク37(テンションロッド)が車軸に沿い、コンプレッションリンク38(コンプレッションロッド)が車軸から後方に延びた位置で車体と連結している。
また、図9に示す例では、車両上面視において、転舵時に車輪中心は旋回内側に移動する。そのため、本実施形態の図5に示すように、ラック軸14を車軸より前に位置させることで、ラック軸力を低減させる効果をさらに高めることができる。
図10に示すように、本発明の場合、ロアリンク部材を交差させていない場合に比べて、中立位置(トー角が0)付近でのスクラブ半径をより大きくできる。また、旋回外輪となる転舵角が大きくなる方向(図10における−方向)では、スクラブ半径がより大きくなり、ラック軸力をより小さくできる。
図12は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。この図12において、転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)Oに車体の旋回外側に向かう遠心力が作用すると、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力が発生する。なお、βは横すべり角である。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図12参照)をキャスタートレイルとみなすことができる。
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力は大きくなる。
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク37をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、コンプレッションリンク38をトランスバースリンク37と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両後方側に斜行させて設置している。具体的には、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taは、車輪中心よりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点Tbは、コンプレッションリンク38の車輪側支持点Caよりも車両前後方向後側、コンプレッションリンク38の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点Taよりも車両前後方向後側となっている。
本実施形態では、このキングピン軸をキャスタートレイルがタイヤ接地面内に位置する設定としている。
このようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材を交差させて設置しているため、仮想ロアピボット点をタイヤ接地面中心よりも車体内側に配置し易い構造となっている。
また、キャスター角を0度、キャスタートレイルを0mmとしたことに伴い、サスペンション構造上の直進性に影響が生じる可能性があるところ、ポジティブスクラブに設定することにより、その影響を軽減している。さらに、転舵アクチュエータ8による制御と併せて、直進性を確保している。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
また、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる結果、ステアリングラック部材14およびタイロッド15に加わる負荷を低減でき、部材を簡素化することができる。
例えば、従来のステアバイワイヤ方式のサスペンション装置と比較した場合、本発明の構成では、主にロアリンク部材の簡素化と転舵アクチュエータ8の小型化によって、重量において約10%、コストにおいて約50%を低減することができる。
また、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点が車体内側に移動するため、スクラブ半径が増大し、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を高めることができる。
さらに、ロアリンク部材を交差させて設置することにより、ロアリンク部材の支持点を車輪中心に近い位置とできるため、アクスルキャリア33の重量を低減することができる。
特に、本発明をコンプレッション型として実現すると、キングピン傾角を0度に近づける効果、および、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくする効果という点で、より高い効果を奏するものとなる。
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
図14において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図14に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図14中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、横力コンプライアンスステアは35%向上し、横剛性は29%向上している。
図15において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図15に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図15中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、前後力コンプライアンスステアは28%向上している。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク37がトランスバースリンク部材に対応し、コンプレッションリンク38がコンプレッションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
次に、コントロール/駆動装置26を実現する具体的な構成例を図16〜図19について説明する。
コントロール/駆動装置26は、図16に示すように、転舵制御装置50を備えている。この転舵制御装置50は、、目標転舵角演算部51、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54、遅延制御部56、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60及びモータ電流制御部62を備えている。
目標転舵角演算部51は、車速V及び操舵角センサ4で検出した操舵角θsが入力され、これらに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
Δfl=af・TL …………(1)
Δfr=af・TR …………(2)
ここで、直進性補完部53におけるセルフアライニングトルクTsaの算出は、先ず、左右輪の駆動力TR及びTLの駆動力差ΔT(=TL−TR)を算出し、算出した駆動力差ΔTをもとに図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。
なお、セルフアライニングトルクTsaの算出は、上述したように左右の駆動力差ΔTに基づいて算出する場合に限らず、左右の制動力差に基づいて同様に算出することができる。
さらには、ステアリングホイール2の操舵角θsと、セルフアライニングトルクTsaとの関係を車速Vをパラメータとして実測するか又はシミュレーションによって算出した制御マップを参照して操舵角センサ4で検出した操舵角θsと車速Vとに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。
遅延制御部56は、図16に示すように、操舵開始検出部56a、単安定回路56b、ゲイン調整部56c及び乗算器56dを有する。
また、単安定回路56bは操舵開始検出部56aから出力される操舵開始信号に基づいて所定の遅延時間例えば0.1秒の間オン状態となる制御開始遅延信号をゲイン調整部56cに出力する。
乗算器56dでは、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力され、この直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗算し、乗算結果を目標転舵角演算部51からの目標転舵角δ*が入力された加算器56eに供給する。
転舵モータ制御部59は、入力される角度偏差Δδが零となるようにアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの目標駆動電流im*を算出し、算出した目標駆動電流im*を電流偏差演算部60に出力する。
モータ電流制御部62は、入力される電流偏差Δiが零となるように、すなわち、実モータ駆動電流imrが目標駆動電流im*に追従するようにフィードバック制御し、実モータ駆動電流imrを転舵モータ8aに出力する。
次に、上記第1実施形態における転舵制御装置の作用を図18及び図19を伴って説明する。
今、ステアリングホイール2を中立位置に保持して直進走行しているものとする。
この直進走行状態では、目標転舵角演算部51で演算される目標転舵角δ*が零となる。このとき、ステアリングホイール2が中立位置を保持しているので、左右の駆動輪となる転舵輪17FL及び17FRの駆動力又は制動力が等しくなる。このため、転舵角制御部52で前記(1)式及び(2)式で算出されるコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの舵角の変位量Δfl及びΔfrは等しい値となる。このため、コンプライアンスステア補正量Acは変位量Δflから変位量Δfr減算した値であるので、コンプライアンスステア補正量Acは零となる。
一方、外乱補償部54では、外乱を抑制する回覧補償値Adisが算出される。したがって、直進性担保制御値δaは回覧補償値Adisのみの値となる。この直進性担保制御値δaが遅延制御部56の乗算器56dに供給される。
また、車両の直進走行状態で、外乱補償部54で外乱を検出していない場合には、直進性担保部SGで算出される直進性担保制御値δaが零となり、目標転舵角演算部51から出力される目標転舵角δ*も零となるので、加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*も零となる。
このため、単安定回路56bから所定時間例えば0.1秒間オン状態となる制御遅延信号がゲイン調整部56cに出力される。したがって、ゲイン調整部56cで、制御遅延信号がオン状態を継続している間制御ゲインGaが“0”に設定される。このため、乗算器56dから出力される乗算出力は“0”となり、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。
このため、操舵角センサ4で検出した操舵角θsが目標転舵角演算部51に供給され、この目標転舵角演算部51で演算された目標転舵角δ*がそのまま転舵角偏差演算部58に供給される。このため、目標転舵角δ*に一致するように転舵モータ8aが回転駆動される。この間、直進性担保部SGにおける直進性担保制御が停止される。
このとき、サスペンション装置1Bのキャスター角が零に設定されている。このキャスター角と転舵応答性と操縦安定性との関係は、図18(a)に示すように、キャスター角が零であるときには転舵応答性が高い状態をとなるが、操縦安定性を確保することはできない、すなわち、キャスター角に対する転舵応答性と操縦安定性とはトレードオフの関係が存在する。
この初期応答期間T1では、サスペンション装置1Bは、上述したように、キャスター角が零あり、操縦応答性が高いので、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、一点鎖線図示の特性線L2で示す一般的なステアバイワイヤ形式の操舵系を有する車両における転舵応答特性(ヨーレイト)より高い転舵応答特性(ヨーレイト)とすることができる。このとき、運転者のステアリングホイール2の操舵による操舵角変化に対応した転舵角変化となるので、運転者に違和感を与えることはない。
このように、上記第1実施形態では、少なくともキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通るように設定することにより、サスペンション装置1B自体が転舵応答性を向上させた構成とされ、これに加えてステアバイワイヤシステムSBWの直進性担保部SGによって転舵特性を制御する転舵角制御、直進性補完及び外乱補償を行ってサスペンション装置1Bの直進性を担保している。
このステップS5では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
次いで、ステップS6に移行して、前述した転舵角制御部52と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRにコンプライアンスステア係数sfを乗算してコンプライアンスステアによる転舵輪17FL及び17FRの変位量Δfl及びΔfrを算出し、これらに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。
次いで、ステップS9に移行して、目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Acと、セルフアライニングトルク制御値Asaと、外乱補償値Adisとに基づいて下記(3)式の演算を行って加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(3)
また、ステップS2の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS11に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS12に移行する。さらに、ステップS3の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS12に移行する。
また、ステップS12の判定結果が、所定の遅延時間(例えば0.1秒)が経過したときには、ステップS14に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定する。
この転舵制御処理でも、車両の直進走行状態では、目標転舵角δ*が零となり、外乱が生じない場合には、この目標転舵角δ*が直接図16の転舵角偏差演算部58に供給されるので、前述したと同様にアクチュエータ制御装置63によって直進性が担保される。
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、転舵角制御部52、直進性補完部53及び外乱補償部54の何れか1つ又は2つを省略するようにしてもよい。
(1)車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構WHと車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部がトランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、ホイールハブ機構WHとの連結部がトランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向前方に位置するコンプレッションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結し、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
したがって、旋回外輪としての横力が入力したとき、トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部を車両内向きに移動させることができるため、旋回外輪にトーアウト特性を与えることができる。
(3)トランスバースリンク部材と車体との連結部は、コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後方に位置する。
したがって、トランスバースリンク部材を車軸に略平行としつつ、横力が入力した場合の回転方向を一方向に定めることができる。
このような構成により、コンプレッションリンク部材の車軸に対する傾斜角を大きくすることができ、仮想ロアピボット点の位置を車体内側により近づけることが可能となる。
このような構成により、キング軸周りのモーメントを最小とすることができるため、さらに小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、本実施形態では、サスペンション装置の軽量化を図りながら操縦性・安定性を向上させることができる。
したがって、ステアバイワイヤシステムにおける転舵アクチュエータを利用して、本発明におけるキャスタートレイルの設定に対応する制御を行うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスター角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。
そして、サスペンション装置の転舵応答性を確保することによる直進性の低下を直進性担保部で担保することができる。
これにより、直進性担保部を独立して設ける必要がなく、構成を簡略化することができる。
しかも、直進性担保部としては、転舵応答特性設定部SRSの直進性担保部SGを主直進性担保部とし、アクチュエータ制御装置63を副直進性担保部とすることにより、双方の直進性担保部によって、サスペンション装置の直進性をより確実に担保することができる。
したがって、中立位置から転舵を開始したときに、初期応答特性を高転舵応答性とすることができる。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整することにより、理想的な転舵応答性を確保することができる。
したがって、直進性担保部で、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(12)直進性担保部は、少なくともコンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行うようにした。
したがって、サスペンション装置を構成するロアアームの車体側支持部に介挿したブッシュの剛性を低下させることが可能となり、車両の乗心地を向上させることができる。
これにより、初期転舵にサスペンション装置の高い転舵応答特性を確保し、初期設定時間経過後に直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を行うことができ、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
したがって、サスペンション装置を高い転舵応答特性とし、サスペンション装置の直進性を直進性担保部で担保することで、理想的な転舵応答特性を確保することができる。
このため、遅延制御部で、直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせるので、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答性とすることができる。
これにより、ゲイン調整部で、例えば直進性担保制御における直進性担保制御値に対するゲインを“0”に設定することにより、直進性担保制御を行わず、ゲインを“0”より大きい値例えば“1”に設定することにより、直進性担保制御を開始することができる。このため、ゲイン調整部を設けることにより、直進性担保制御の開始の調整を容易に行うことができる。
したがって、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
このため、制御開始時点で直ちに転舵角制御や直進性補完によって転舵応答特性を調整することができる。
(19)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御を開始させる場合に、前記直進性担保制御を徐々に開始させる。
このため、制御開始時点で転舵応答特性の変化を滑らかにして運転者に実際の操舵感覚と異なる感触を与えることを抑制することができる。
したがって、ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、サスペンション装置の高転舵応答特性と直進性担保部による直進性担保制御による転舵応答性の調整とによって理想的な転舵応答特性を得ることができる。
なお、上記第1実施形態においては、転舵制御装置50において、外乱補償部54を直進性担保部SGに設けた場合について説明した。しかしながら本発明は、上記構成に限定されるものではなく、図21に示すように、外乱補償部54を直進性担保部SGから独立させ、この外乱補償部54から出力される外乱補償値Adisを加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算するようにしてもよい。この場合には、常時目標転舵角δ*に対して外乱補償値Adisを加算するので、操舵開始状態であるか否かに関わらず常時外乱の影響を抑制することができる。
ここで、直進性補償部111の一の構成としては、転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出する転舵アクチュエータ8の回転角θmoに基づいて実転舵角を算出し、算出した実転舵角に基づいて予め設定された実転舵角と直進性補償値Ascとの関係を表す制御マップを参照して実転舵角に応じた直進性補償値Ascを算出する。
さらに、直進性補償部111のさらに他の構成としては、転舵アクチュエータ回転角度センサ9で検出する転舵アクチュエータ8の回転角θmoに基づいて実転舵角を算出し、算出した実転舵角が中立位置を中心とする所定値以下の範囲内である場合に、予め設定された一定値の直進性補償値Ascを加算後目標転舵角δ*aに加算器57で加算する。
また、上記第1実施形態では、遅延制御部56のゲイン調整部56cで、ステアリングホイール2が中立位置を維持している状態から操舵を開始した操舵開始状態で、初期期間T1の間制御ゲインGaを“0”に設定し、その他の期間で制御ゲインGaを“1”に設定する場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、初期期間T1で制御ゲインGaを“1”に設定し、初期期間T1を経過して中期期間T2及び後期期間T3で制御ゲインGaを例えば“0.8”に設定し、その他の期間で制御ゲインGaを“1”に設定し、車両の走行状態に応じてサスペンション装置1Bの直進性担保制御の態様を変化させることもできる。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態に係る自動車1の機能構成は、第1実施形態における図1と同様である。
一方、本実施形態に係る自動車1は、サスペンション装置1Bの構成が第1実施形態と異なっている。
したがって、以下、サスペンション装置1Bの構成について説明する。
図23は、第2実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図24は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図25は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。図26は、図23のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
図27は、サスペンション装置1Bをテンション型のサスペンション装置によって構成した例を示す模式図である。
図27に示すように、テンション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(破線の状態)。このとき、仮想ロアピボット点は、ロアリンク部材が交差する点となるが、ロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体内側に仮想ロアピボット点を形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク137をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、テンションリンク138をトランスバースリンク137と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両前方側に斜行させて設置している。具体的には、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは、車輪中心よりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車輪側支持点Caは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク137の車体側支持点Tbは、テンションリンク138の車輪側支持点Caよりも車両前後方向前側、テンションリンク138の車体側支持点Cbは、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taよりも車両前後方向前側となっている。
このようなリンク配置とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク137の車輪側支持点Taは車両外向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、コンプレッションリンク138の車輪側支持点Caは車両内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
第1実施形態および第2実施形態において、本発明をコンプレッション型およびテンション型のリンク構造を有するサスペンション装置に適用するものとして説明したが、これら以外の方式のサスペンション装置にも同様に適用することができる。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク137が第1のリンク部材に対応し、テンションリンク138がテンションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
(1)車軸よりも車両上下方向の下側においてホイールハブ機構WHと車体とを連結し、車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材を備える。また、車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構WHとの連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後方に位置するテンションリンク部材を備える。さらに、トランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両幅方向外側においてホイールハブ機構WHと連結し、該ホイールハブ機構WHとの連結部よりも車両前後方向後側において車体と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材を備える。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
したがって、旋回外輪としての横力が入力したとき、トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部を車両内向きに移動させることができるため、旋回外輪にトーイン特性を与えることができる。
したがって、トランスバースリンク部材を車軸に略平行としつつ、横力が入力した場合の回転方向を一方向に定めることができる。
(4)テンションリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部は車軸より車両前後方向後方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構WHとの連結部より車両前後方向前方に位置する。
このような構成により、テンションリンク部材の車軸に対する傾斜角を大きくすることができ、仮想ロアピボット点の位置を車体内側により近づけることが可能となる。
この構成により、キング軸周りのモーメントを最小とすることができるため、さらに小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、本実施形態では、サスペンション装置の軽量化を図りながら操縦性・安定性を向上させることができる。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
第1および第2実施形態において、サスペンション装置1Bを転舵輪である前輪のサスペンション装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、サスペンション装置1Bを非転舵輪である後輪のサスペンション装置に適用することも可能である。
この場合、転舵によって車両が旋回状態となり、後輪に横力が作用すると、その横力によって、テンションリンクおよびコンプレッションリンクが撓み、それらの車両上面視における交点が移動して、車体に対する車輪の向きが変化する(図9,27参照)。即ち、車軸に沿うロアリンク部材は横力による前後方向への移動が少なく、車軸に対して前後方向に角度をもって設置した他方のロアリンク部材は横力による前後方向への移動が大きいものとなる。
この特性を利用して、目的とする横力コンプライアンスステアを実現することができる。
特に、第2実施形態におけるテンション型のサスペンション装置1Bは、旋回外輪をトーイン方向に向ける特性を実現できるため、後輪のサスペンション装置として利用すると効果的である。
車軸よりも車両上下方向の下側でホイールハブ機構WHと車体とを連結する第1のリンク部材と第2のリンク部材とを車両上面視で交差させて配置した。
これにより、旋回時における横力によってリンク部材に撓みが生じ、車両上面視におけるリンク部材の交点が移動することにより、車体に対する車輪の向きを変化させることができる。
したがって、目的とする横力コンプライアンスステアを実現することができる。
第1および第2実施形態において、サスペンション装置1Bを転舵輪である前輪のサスペンション装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、サスペンション装置1Bを転舵輪である後輪のサスペンション装置に適用することも可能である。
この場合にも、第1実施形態と同様に、仮想ロアピボット点を車幅方向において車体内側に近づけることができる。そして、この仮想ロアピボット点が定義するキングピン軸を、タイヤ接地面内にキャスタートレイルが位置する設定としたため、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
第1および第2実施形態では、タイヤ接地面内にキャスタートレイルを設定するものとし、その一例として、キャスタートレイルをゼロに近い値とする場合について説明した。
これに対し、本応用例では、キャスタートレイルの設定条件をタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までの範囲に限定するものとする。
(効果)
キャスタートレイルをタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までに設定すると、直進性の確保と操舵操作の重さの低減を両立できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
第1および第2実施形態においては、図8に示す座標平面において、一点鎖線で囲んだ領域を設定に適する領域として例に挙げた。これに対し、注目するラック軸力の等値線を境界線とし、その境界線が示す範囲より内側の領域(キングピン傾角の減少方向でスクラブ半径の増加方向)を設定に適する領域とすることができる。
(効果)
ラック軸力の最大値を想定して、その最大値以下の範囲にサスペンションジオメトリを設定することができる。
第1および第2実施形態および各応用例では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用する場合を例に挙げて説明したが、ステアバイワイヤ方式ではなく、機械的な操舵機構の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用することが可能である。
この場合、キングピン軸を上記検討結果に基づく条件に従って決定し、キャスタートレイルをタイヤ接地面内に設定した上で、機械的な操舵機構のリンク配置をそれに合わせて構成する。
(効果)
機械的な構造を有する操舵機構においても、キングピン周りのモーメントを低減して運転者に要する操舵力をより小さいものとでき、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
第1実施形態、第2実施形態および各応用例においては、ストラット式のサスペンション装置に本発明を適用する場合を例に挙げて説明したが、アッパーアームを備える形式のサスペンション装置に本発明を適用することもできる。
この場合、アッパーアームとアクスルキャリアとの連結点がアッパーピボット点となる。
次に、本発明の第3実施形態を図28について説明する。
この第3実施形態では、第1実施形態における転舵制御部50における遅延制御部56の構成を変更したものである。
すなわち、第3実施形態では、遅延制御部56を図28に示すように構成している。この遅延制御部56は、操舵開始検出部56aと、加算器56eと、選択部56gと、ゲイン調整部56hとを備えている。
そして、選択部56gは、操舵開始検出部56aから出力される操舵開始検出信号Sssがオフ状態であるときに、可動端子tcが常閉固定端子taを選択する。また、選択部56gは、操舵開始検出信号Sssがオン状態であるときに、可動端子tcが常開固定端子tbを選択する。
ここで、第1のゲイン調整部56h及び第2のゲイン調整部56iで設定するゲインについては、0〜1の範囲に限らずサスペンション装置1Bの特性に応じて任意の値に設定することができる。
このように、第3実施形態によっても、ステアリングホイール2が中立状態を維持している状態から右又は左に操舵する操舵開始時に、ゲイン調整部56hで初期応答期間T1となる例えば0.1秒の間に直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力を停止する。その後、初期応答期間T1が経過した後に直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力を開始する。このため、前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、上記第3実施形態においては、操舵開始検出部56aで操舵開始状態を検出してから次にステアリングホイール2の中立状態を検出するまで、操舵開始検出信号Sssをオン状態とする場合について説明した。しかしながら、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、操舵開始検出部56aで、前述した第1実施形態と同様に、操舵開始状態を検出したときにパルス状の操舵開始検出信号Sssを出力する場合には、第1実施形態と同様に、例えば操舵開始検出時点から後期応答期間T3が終了する迄の間オン状態となる操舵開始検出部56a及び選択部56g間に単安定回路を介挿する。これにより、操舵開始時から後期応答期間T3が終了するまでの間選択部56gの可動端子tcを常開固定端子tb側に切り換えておくようにしてもよい。
この転舵制御処理は、図29に示すように、先ず、ステップS21で、車速V、操舵角センサ4で検出した操舵角θs、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS22に移行して、操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右又は左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS23に移行する。
このステップS25では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
次いで、ステップS27に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TL及びTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定し、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。
次いで、ステップS29に移行して、下記(4)式にしたがって目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa、外乱補償値Adisの加算値に制御ゲインGaを乗算した値とを加算して加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(4)
また、ステップS22の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS31に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS32に移行する。さらに、ステップS23の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS32に移行する。
また、ステップS32の判定結果が、遅延時間が経過したときには、ステップS34に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS25に移行し、ステップS32の判定結果が、遅延時間が経過していないときには、直接ステップS25に移行する。
この図29に示す転舵制御処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右又は左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、制御ゲインGaが“1”に設定されるので、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa及び外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaに基づいて転舵制御が行われ、サスペンション装置1Bの直進性が担保される。
なお、上記第1および第3実施形態では、ステアリングホイール2が中立位置を保持している状態で、右又は左に操舵が開始されたときに、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaを加算する直進性担保制御を停止する場合について説明した。しかしながら、本発明では、上記に限定されるものではなく、図30に示すように、操舵周波数によって目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を行うか否かを判定して、転舵応答性を調整する転舵応答性調処理を行うようにしてもよい。
一方、前記ステップS43の判定結果が、F<Fthであるときには、高転舵応答性を必要とせず、操縦安定性が必要であると判断してステップS46に移行して、目標転舵角δ*を算出し、次いでステップS47に移行して、コンプライアンスステア制御値Acを算出し、次いでステップS48に移行して、セルフアライニングトルク制御値Ascを算出する。
次に、本発明の第4実施形態を図31〜図33について説明する。
この第4実施形態は、直進性担保制御を開始する遅延時間τを可変するようにしたものである。
すなわち、第4実施形態では、図30に示すように、遅延制御部56に遅延時間設定回路56mが設けられている。この遅延時間設定回路56mで設定された遅延時間τが単安定回路56bに供給されて遅延時間τに応じたパルス幅が設定される。
操舵角速度演算部56nは、操舵角センサ4で検出されたステアリングホイール2の操舵角θsが入力され、この操舵角θsを微分して操舵角速度θsvを演算する。
この単安定回路56bは、操舵開始検出部56aから入力される操舵開始検出信号をトリガとして加算器56qから入力される遅延時間τに応じた区間オン状態となるパルス信号を形成し、このパルス信号をゲイン調整部56cに供給する。
したがって、遅延時間τは、図33に示すように、車速Vが低い低速領域では操舵速度θsvが遅いときに遅延時間τは最小で0.11秒となり、操舵速度θsvの増加に応じて遅延時間τが増加して最大遅延時間は0.13秒まで増加する。
また、車速Vが中速領域では、遅延時間τは、操舵速度θsvが遅いときには最小で0.09秒となり、操舵速度θsvの増加に応じて遅延時間τが増加して、最大で0.11秒まで増加する。
このため、車速Vが低速領域にあるときには、遅延時間τは全体的に長くなって、遅延時間τ=0.12を中心として±0.01秒の範囲となる。また、中速領域では前述した第3及び第4の実施形態で設定した遅延時間τ=0.10を中心として±0.01秒の範囲となる。さらに、高速領域では遅延時間τ=0.08を中心として±0.01秒の範囲となる。
この転舵角制御処理では、前述した図20の転舵角制御処理において、ステップS2とステップS11との間に、操舵角速度θsvを算出するステップS16、第1遅延時間τ1を算出するステップS17、第2遅延時間τ2を算出するステップS18及び遅延時間τを算出するステップS19が介挿されていることを除いては同一の処理を行っている。
この図35の転舵角制御処理では、前述した図31の第3の実施形態と同様に、操舵開始状態を検出したときに、操舵角速度θsvに基づいて第1遅延時間τ1を算出し、車速Vに基づいて第2遅延時間τ2を算出し、両者を加算して遅延時間τを算出する。
したがって、低車速領域では、直進担保制御の開始が遅くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性で機敏な操舵状態を得ることができる。また、中速領域では、直進担保制御の開始が中庸の範囲となって、適度な操舵応答性の操舵状態を得ることができる。さらに、高速領域では、直進担保制御の開始が速くなるので、サスペンション装置1Bで設定される高追う都政の転舵応答性が早めに抑制されて安定性の良い操舵状態を得ることができる。
(1)直進性担保制御を開始する遅延時間τを、操舵速度θsvに応じて第1の遅延時間を演算する第1の遅延時間演算部と、車速Vに応じて第2の遅延時間を演算する第2の遅延時間演算部とを設け、第1の遅延時間と第2の遅延時間とを加算部で加算して算出するように構成した。
このため、操舵速度に応じた第1の遅延時間と車速に応じた第2の遅延時間とを個別に設定することが可能となり、様々な操舵状態に応じた最適な遅延時間配分を行うことができる。
このため、操舵速度θsvが遅い緩操舵状態では第1の遅延時間を短くして直進性担保制御の開始を早めて安定した操舵特性を確保することができ、操舵速度θsvが速い急操舵状態では第1の遅延時間を長くして直進性担保制御の開始を遅らせて機敏な操舵特性を確保することができる。
このため、車速Vが遅い低車速領域では、機敏な操舵特性を確保することができ、車速が速い高車速領域では、安定した操舵特性を確保することができる。
上記第4実施形態では、遅延時間演算部56mで、直進担保制御を開始する遅延時間τを操舵速度θsv及び車速Vの双方に基づいて遅延時間τを演算する場合について説明した。しかしながら、本発明は上記構成に限定されるものではなく、図36に示すように、第2の遅延時間演算部56p及び加算器56qを省略して操舵速度θsvに基づいて第1の遅延時間τ1を設定する第1の遅延時間演算部56oのみで遅延時間τを設定するようにしてもよい。
(効果)
この場合には、車速Vにかかわらず、操舵速度θsvに応じた最適な転舵応答特性を得ることができる。
また、遅延時間演算部56mを、図37に示すように、操舵角速度演算部56n、第1遅延時間演算部56o及び加算器56qを省略して、車速Vに基づいて第2の遅延時間τ2を演算する第2遅延時間演算部56pのみを設けるようにしてもよい。
(効果)
この場合には、操舵速度θsvにかかわらず、車速Vに応じた最適な転舵応答特性を得ることができる。
さらには、遅延時間演算部56mを、図38に示すように、第1遅延時間演算部56o、第2遅延時間演算部56p及び加算器56qの何れかの遅延時間を任意に選択することが可能な遅延時間選択部56rを設けるようにしてもよい。
(効果)
この場合には、遅延時間選択部56rで運転者の好みに応じた遅延時間を選択することが可能になる。
なおさらに、上記第4実施形態では、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とを加算器56qで加算して遅延時間τを算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第1の遅延時間τ1と第2の遅延時間τ2とを乗算して遅延時間τを算出するようにしてもよい。この場合には、車速Vに応じて算出される第2の遅延時間を遅延ゲインとして設定し、例えば車速Vに応じて例えば0.7〜1.0の範囲で遅延ゲインを設定するようにすればよい。
さらに、本発明は自動車に適用する場合に限らず、転舵装置を有する他の車両にも適用することができる。
Claims (11)
- タイヤを取り付けるタイヤホイールと、
前記タイヤホイールを支持するホイールハブ機構と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、前記ホイールハブ機構との連結部が前記車軸よりも車両前後方向後方に位置するとともに、前記車体との連結部が前記車軸よりも車両前後方向前方に位置し、前記車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、
前記車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と前記車体とを連結し、前記車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と車体との連結部よりも車両前後方向後方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置し、前記トランスバースリンク部材と交差するコンプレッションリンク部材と、
前記トランスバースリンク部材および前記コンプレッションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材とを備え、
前記車輪に前後方向の後方向きの力が作用したときに、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させると共に、前記コンプレッションリンク部材の車輪側の連結部および前記タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させて、当該車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステア特性を得ることを特徴とする車両用サスペンション装置。 - 前記トランスバースリンク部材と車体との連結部は、前記コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項1記載の車両用サスペンション装置。
- 前記コンプレッションリンク部材とホイールハブ機構との連結部は車軸より車両前後方向前方に位置し、車体との連結部は前記トランスバースリンク部材とホイールハブ機構との連結部より車両前後方向後方に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用サスペンション装置。
- タイヤを取り付けるタイヤホイールと、
前記タイヤホイールを支持するホイールハブ機構と、
車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と車体とを連結し、前記ホイールハブ機構との連結部が前記車軸よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記車体との連結部が前記車軸よりも車両前後方向後方に位置し、前記車軸に沿って配置したトランスバースリンク部材と、
前記車軸よりも車両上下方向の下側において前記ホイールハブ機構と前記車体とを連結し、前記車体との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記車体との連結部よりも車両前後方向前方に位置すると共に、前記ホイールハブ機構との連結部が前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後方に位置し、前記トランスバースリンク部材と交差するテンションリンク部材と、
前記トランスバースリンク部材および前記テンションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結し、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結し、車輪を転舵させるタイロッド部材とを備え、
前記車輪に前後方向の後方向きの力が作用したときに、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させると共に、前記テンションリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させ且つ前記タイロッド部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させて、当該車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステア特性を得ることを特徴とする車両用サスペンション装置。 - 前記トランスバースリンク部材と前記車体との連結部は、前記テンションリンク部材とホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項4記載の車両用サスペンション装置。
- 前記テンションリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部は前記車軸より車両前後方向後方に位置し、前記車体との連結部は前記トランスバースリンク部材と前記ホイールハブ機構との連結部より車両前後方向前方に位置することを特徴とする請求項4又は5に記載の車両用サスペンション装置。
- ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材と前記コンプレッションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
- ステアリングホイールが中立位置である状態で、車両上面視における前記トランスバースリンク部材と前記テンションリンク部材との交点をロアピボット点とするキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
- ステアリングホイールの変位を検出し、検出結果に基づいてステアリングラックをアクチュエータで変位させるステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
- 車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびコンプレッションリンク部材のうち、前記トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、前記コンプレッションリンク部材を前記車輪側の連結部がより前側かつ前記車体側の連結部がより後側となるように前記トランスバースリンク部材と交差させて設置し、前記車輪を転舵させるタイロッド部材を、前記トランスバースリンク部材および前記コンプレッションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結させ、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結させて配置し、前記車輪に対する車両後向きの前後力に対して、前記トランスバースリンク部材の前記車輪側の連結部を車両内向きに移動させると共に、前記コンプレッションリンク部材の前記車輪側の連結部および前記タイロッド部材の前記車輪側の連結部を車両外向きに移動させることを特徴とする車両用サスペンション装置のジオメトリ調整方法。
- 車両上面視において、車体と車輪とを連結するトランスバースリンク部材およびテンションリンク部材のうち、前記トランスバースリンク部材を車軸に沿って配置すると共に、前記テンションリンク部材を前記車輪側の連結部がより後側かつ前記車体側の連結部がより前側となるように前記トランスバースリンク部材と交差させて設置し、前記車輪を転舵させるタイロッド部材を、前記トランスバースリンク部材および前記テンションリンク部材の前記ホイールハブ機構との連結部よりも車両幅方向外側において前記ホイールハブ機構と連結させ、該ホイールハブ機構との連結部よりも車両前後方向後側においてステアリングラック部材と連結させて配置し、前記車輪に対する車両後向きの前後力に対して、前記トランスバースリンク部材の車輪側の連結部を車両外向きに移動させると共に、前記テンションリンク部材の車輪側の連結部を車両内向きに移動させ且つ前記タイロッド部材の前記車輪側の連結部を車両外向きに移動させることを特徴とする車両用サスペンション装置のジオメトリ調整方法。
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