JP5910747B2 - 車両用サスペンション装置、これを使用した自動車および転舵制御方法 - Google Patents
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Description
本発明は、車体を懸架する車両用サスペンション装置、これを使用した自動車および転舵制御方法に関する。
従来、車両用のサスペンション装置では、キングピン軸の設定によって、目的とするサスペンション性能の実現を図っている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、アクスルキャリアの車軸の下側および上側で互いに2本のI型のアームで構成されるアッパーアームおよびロアアームを同一点で支持してキングピンを構成する上下ピボット点の転舵時における車両前後方向の動きを抑制するリンク配置とすることにより、操縦性・安定性を向上させることとしている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、アクスルキャリアの車軸の下側および上側で互いに2本のI型のアームで構成されるアッパーアームおよびロアアームを同一点で支持してキングピンを構成する上下ピボット点の転舵時における車両前後方向の動きを抑制するリンク配置とすることにより、操縦性・安定性を向上させることとしている。
また、例えば、特許文献2に記載の技術では、アクスルキャリアの車軸の下側および上側に、互いに交差する2本のアームで構成されるロアトランスバースリンクと2本のアームを共通のリンクベアリングで支持するアッパートランスバースリンクとを設け、ロアトランスバースリンクの2本のアームの交点で表される仮想ロアピボット点とアッパートランスバースリンクのリンクベアリングの中心で表されるアッパーピボット点とを結ぶキングピン軸がネガティブ傾角で延長し路面との接地点が転舵輪の車幅方向内側となるようにしている。
しかしながら、車両の走行中に転舵を行った場合、走行速度に応じた横力がタイヤ接地点に入力するところ、特許文献1に記載の技術では、この横力による影響を考慮していない。さらに、旋回時に制動を行った場合、横力に加えて車輪に車両前後方向の力(後方向きの力)が作用するところ、その前後力が及ぼすリンクの変化についても考慮する必要がある。
ところで、特許文献2に記載の技術のように、2本のアームでロアトランスバースリンクを構成する場合、2本のアームを交差させるクロスリンク構造とすることで、両者の交点を仮想ピボット点とすることができる。このとき、一般に、スクラブ半径は大きくなり、キングピン傾角は小さくなることから、転舵時のラック軸力を低減させることができる。
しかし、ロアリンクの仮想ピボット点は転舵により逐次変化することから、転舵時に所望のスクラブ半径、キングピン傾角を得ることが困難となる。特に、特許文献2に記載の技術では、キングピン軸が車両の前方側から見たときに上方では転舵輪の車幅方向内側端部を通り、下方では転舵輪の車幅方向内側となるキングピン傾角となることから、転舵輪を転舵させたとき、タイヤ接地面積が小さく、車両の安定限界が低い。
しかし、ロアリンクの仮想ピボット点は転舵により逐次変化することから、転舵時に所望のスクラブ半径、キングピン傾角を得ることが困難となる。
本発明の課題は、車両用サスペンション装置において、クロスリンク構造としたロアアームの転舵時のスクラブ半径およびキングピン傾角の変化を抑制することである。
しかし、ロアリンクの仮想ピボット点は転舵により逐次変化することから、転舵時に所望のスクラブ半径、キングピン傾角を得ることが困難となる。
本発明の課題は、車両用サスペンション装置において、クロスリンク構造としたロアアームの転舵時のスクラブ半径およびキングピン傾角の変化を抑制することである。
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用サスペンション装置は、転舵輪を回転自在に支持する車軸を備えたアクスルキャリアと、前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材とを備えたサスペンション装置である。そして、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、平面視で車幅方向外側且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは、平面視における仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされている。
本発明によれば、ロアリンク構造を第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材を交差させた構成とすることにより、第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材との交点が仮想ロアピボット点となる。この仮想ロアピボット点は車輪の転舵時に車幅方向外側に移動する。このため、アッパーリンク構造を第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材で構成し、仮想アッパーピボット点を転舵時に少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有する構成とすることで、スクラブ半径およびキングピン傾角の変化を抑制することができる。
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、操舵角度センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、操舵角度センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3と一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3に伝達する。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
操舵角度センサ4は、入力側ステアリング軸3に備えられ、入力側ステアリング軸3の回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、操舵角度センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵反力アクチュエータ6は、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3の回転に対して反力を付与する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
転舵アクチュエータ8は、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸10の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、出力側ステアリング軸10を回転させる。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
出力側ステアリング軸10は、転舵アクチュエータ8を備えており、転舵アクチュエータ8が入力した回転をピニオンギア12に伝達する。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
出力側ステアリング軸10は、転舵アクチュエータ8を備えており、転舵アクチュエータ8が入力した回転をピニオンギア12に伝達する。
転舵トルクセンサ11は、出力側ステアリング軸10に設置してあり、出力側ステアリング軸10の回転トルク(即ち、ステアリングラック部材14を介した車輪17FR,17FLの転舵トルク)を検出する。そして、転舵トルクセンサ11は、検出した出力側ステアリング軸10の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
ピニオンギア12は、ステアリングラック部材14に形成した平歯と噛合しており、出力側ステアリング軸10から入力した回転をステアリングラック部材14に伝達する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
ピニオンギア12は、ステアリングラック部材14に形成した平歯と噛合しており、出力側ステアリング軸10から入力した回転をステアリングラック部材14に伝達する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
ステアリングラック部材14は、ピニオンギア12と噛合するラックを有し、ピニオンギア12の回転を車幅方向の直線運動に変換する。本実施形態において、ステアリングラック部材14は、前輪の車軸よりも車両前方側に位置している。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
タイロッド軸力センサ16は、ステアリングラック部材14の両端部に設置されたタイロッド15それぞれに設置してあり、タイロッド15に作用している軸力を検出する。そして、タイロッド軸力センサ16は、検出したタイロッド15の軸力をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
タイロッド軸力センサ16は、ステアリングラック部材14の両端部に設置されたタイロッド15それぞれに設置してあり、タイロッド15に作用している軸力を検出する。そして、タイロッド軸力センサ16は、検出したタイロッド15の軸力をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
車輪17FR,17FL,17RR,17RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものであり、サスペンション装置1Bを介して車体1Aに設置してある。これらのうち、前輪(車輪17FR,17FL)は、タイロッド15によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する車輪17FR,17FLの向きが変化する。
車両状態パラメータ取得部21は、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLから出力される車輪の回転速度を示すパルス信号を基に車速を取得する。また、車両状態パラメータ取得部21は、車速と各車輪の回転速度とを基に、各車輪のスリップ率を取得する。そして、車両状態パラメータ取得部21は、取得した各パラメータをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
車両状態パラメータ取得部21は、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLから出力される車輪の回転速度を示すパルス信号を基に車速を取得する。また、車両状態パラメータ取得部21は、車速と各車輪の回転速度とを基に、各車輪のスリップ率を取得する。そして、車両状態パラメータ取得部21は、取得した各パラメータをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、車両状態パラメータ取得部21およびコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。
また、コントロール/駆動回路ユニット26は、各センサによる検出値を使用目的に応じた値に換算する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された回転角度を操舵入力角度に換算したり、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された回転角度を車輪の転舵角に換算したり、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を車輪の転舵角に換算したりする。
なお、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵角度センサ4によって検出された入力側ステアリング軸3の回転角度、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された操舵反力アクチュエータ6の回転角度、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された転舵アクチュエータ8の回転角度、および、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を監視し、これらの関係を基に、操舵系統におけるフェールの発生を検出することができる。そして、操舵系統におけるフェールを検出すると、コントロール/駆動回路ユニット26は、メカニカルバックアップ27に対し、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示信号を出力する。
メカニカルバックアップ27は、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結し、入力側ステアリング軸3から出力側ステアリング軸10への力の伝達を確保する機構である。
ここで、メカニカルバックアップ27に対しては、通常時には、コントロール/駆動回路ユニット26から、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結しない状態を指示している。
ここで、メカニカルバックアップ27に対しては、通常時には、コントロール/駆動回路ユニット26から、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結しない状態を指示している。
そして、操舵系統におけるフェールの発生により、操舵角度センサ4、操舵トルクセンサ5および転舵アクチュエータ8等を介することなく操舵操作を行う必要が生じた場合に、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示が入力する。
なお、メカニカルバックアップ27は、例えばケーブル式ステアリング機構等によって構成することができる。
なお、メカニカルバックアップ27は、例えばケーブル式ステアリング機構等によって構成することができる。
図2は、第1実施形態に係るサスペンション装置1Bを模式的に示す斜視図である。図3は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に
示す平面図である。図4は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す正面図、図5は図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す側面図である。図6は、図2のサスペンション装置1Bのロアリンク構造を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
示す平面図である。図4は、図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す正面図、図5は図2のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す側面図である。図6は、図2のサスペンション装置1Bのロアリンク構造を模式的に示す(a)部分平面図(左前輪)および(b)タイヤ接地面(右前輪)を示す図である。
図2から図6に示すように、サスペンション装置1Bは、ホイールハブ機構WHに取り付けられた車輪17FR,17FLを懸架するサスペンション装置であり、車輪17FR,17FLを回転自在に支持する車軸(アクスル)32を有するアクスルキャリア33、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア33に連結する複数のリンク部材、およびコイルスプリング等のバネ部材34を備えている。
複数のリンク部材は、ロアリンク構造を構成する第1ロアリンク部材としてのトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)37と第2ロアリンク部材としてのテンションリンク(テンションリンク部材)38、アッパーリンク構造を構成する第1アッパーリンク部材としてのトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)39と第2アッパーリンク部材としてのテンションリンク(テンションリンク部材)40、タイロッド(タイロッド部材)15、ストラット(バネ部材34およびショックアブソーバ41)、およびスタビライザ42から構成されている。
ロアリンク構造を構成するトランスバースリンク37とテンションリンク38は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端とを連結する。本実施形態において、トランスバースリンク37とテンションリンク38とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク37およびテンションリンク38は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、アクスルキャリア33側と各1箇所の取り付け部で連結している。さらに、本実施形態におけるトランスバースリンク37とテンションリンク38とは、互いに交差した状態で車体1Aとアクスルキャリア33とを連結する(以下、トランスバースリンク37とテンションリンク38とが構成する仮想リンクの交点を適宜「仮想ロアピボット点PL」と称する。)。
これらロアリンク構造のうち、トランスバースリンク37は、車軸と略平行に設置してあり、車両平面視において、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBaは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク38は、トランスバースリンク37よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置してある。そして、テンションリンク38の車輪側支持点TSaは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点TBbは、テンションリンク38の車輪側支持点TSaよりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク38の車体側支持点TSbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBaよりも車両前後方向前側となっている。
このようなリンク配置とした場合、車輪に入力する横力を主にトランスバースリンク37に受け持たせることができる。また、上記リンク配置では、トランスバースリンク37の車体側支持点TBLbを車輪中心よりも車両前後方向前側に位置させている。
このようなリンク配置を行う理由は以下の通りである。
転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)に車体の旋回外側に向かう遠心力が作用すると、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力が発生する。この横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両内向きに移動し、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーイン方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。すなわち、車両の横方向コンプライアンスステアを確保することができる。
このようなリンク配置を行う理由は以下の通りである。
転舵時にタイヤ接地中心点(着力点)に車体の旋回外側に向かう遠心力が作用すると、この遠心力に抗するように旋回中心に向かう横力が発生する。この横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両内向きに移動し、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーイン方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。すなわち、車両の横方向コンプライアンスステアを確保することができる。
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ステアリングラック部材14とアクスルキャリア33を連結し、ステアリングラック部材14は、ステアリングホイール2から入力した回転力(操舵力)を伝達して転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスルキャリア33に車幅方向の軸力が加わり、アクスルキャリア33を介して車輪17FR,17FLを転舵する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bのロアリンク構造では、車両平面視において、タイロッド15の車輪側(アクスルキャリア33側)の支持点Xaがトランスバースリンク37およびテンションリンク38の車輪側支持点TBa,TSaよりも車幅方向内側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xb(ステアリングラック部材14の端部との連結部となるボールジョイント位置)が、図2に示すように、車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
なお、上述の通り、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaが車輪中心よりも車両前後方向後側、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaが車輪中心よりも車両前後方向前側に位置している。また、トランスバースリンク37の車体側支持点TBLaがテンションリンク38の車輪側支持点TSLaよりも車両前後方向前側、テンションリンク38の車体側支持点TSbがトランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaよりも車両前後方向前側に位置している。
このようなリンク配置としたため、車両前後方向の力が支配的な状況(比較的強い制動を行っている旋回制動時等)において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両外向きに移動し、テンションリンク38の車輪側支持点TSaは車両内向きに移動する。また、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両外向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。即ち、車両の前後方向コンプライアンスステアを確保することができる。
本願発明においては、図6(b)に示すように、上記サスペンション装置1Bのキングピン軸を、ステアリングホイール2が中立位置にある状態で、キングピン軸の路面との接地点がタイヤ接地面内に位置させている。また、キャスタトレイルがタイヤ接地面内に位置するよう設定している。より具体的には、本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、キャスタ角をゼロに近い値とし、キャスタトレイルがゼロに近づくようにキングピン軸を設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタトレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
また、本願発明においては、ロアリンク構造を構成するトランスバースリンク37およびテンションリンク38は、互いに交差した状態で車体1Aとアクスルキャリア33下端を連結している。これにより、トランスバースリンク37およびテンションリンク38が交差していない構造に比べて、初期キングピン傾角を小さくすることができると共に、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きくすることができる。そのため、転舵時のタイヤ捻りトルクを小さくでき、転舵に要するラック軸力を低減できる。さらに、本願発明においては、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点PLが車体外側に移動するため、転舵応答性を高めることができる。
(具体的構成例)
図7は本発明におけるサスペンション装置1Bのアッパーリンク構造およびロアリンク構造を共にテンション型によって構成した例を示す模式図である。図7(a)はアッパーリンク構造、図7(b)はロアリンク構造をそれぞれ示す。
サスペンション装置1Bのロアリンク構造は、図7(b)に示すように、前述したテンション型によって構成されている。
テンション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(一点鎖線図示の状態)。このとき、仮想ロアピボット点PLは、ロアリンク部材が交差する点となるが、この仮想ロアピボット点PLをロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体車幅方向内側に形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
図7は本発明におけるサスペンション装置1Bのアッパーリンク構造およびロアリンク構造を共にテンション型によって構成した例を示す模式図である。図7(a)はアッパーリンク構造、図7(b)はロアリンク構造をそれぞれ示す。
サスペンション装置1Bのロアリンク構造は、図7(b)に示すように、前述したテンション型によって構成されている。
テンション型のサスペンション装置において、ロアリンク部材を互いに交差させたダブルピボット方式とした場合、各ロアリンク部材は、車体側支持点を中心に車両前方に回転することで旋回外輪としての転舵が可能となる(一点鎖線図示の状態)。このとき、仮想ロアピボット点PLは、ロアリンク部材が交差する点となるが、この仮想ロアピボット点PLをロアリンク部材が交差していないサスペンション形式よりも車体車幅方向内側に形成できるため、初期スクラブ半径をポジティブスクラブ方向に大きくできる。
図7(b)に示すテンション型のロアリンク構造では、転舵時におけるテンションリンク38の回転角が大きいため、仮想ロアピボット点PLは車体外側に移動する。この場合、車両平面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ロアピボット点までの距離に着目すると、アッパーリンクを例えばAアーム等で構成した場合、仮想アッパーピボット点PUが平面視で略固定される。このため、仮想ロアピボット点PLがタイヤ中心線よりも車体車幅方向外側方向に移動すると、スクラブ半径はポジティブスクラブの範囲内でより小さくなる。
したがって、ロアリンク構造をテンション型に設定するサスペンション装置では、本発明を適用すると、旋回外輪としての転舵を行うことにより、スクラブ半径がポジティブスクラブの範囲内で小さくなることによりラック軸力は大きくなるが、転舵しない場合すなわち直進走行時の初期スクラブ半径は十分大きく取れているため、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置に比べて、ラック軸力値は小さく設定できる。
ちなみに、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置の場合、転舵時におけるテンションリンクの回転角が大きいため、仮想ロアピボット点は車体内側に移動する。この場合、車両平面視において、タイヤ前後方向におけるタイヤ中心線から仮想ピボット点までの距離が、タイヤ中心線よりも車体内側に位置しているため、スクラブ半径は、ポジティブスクラブ方向に大きくなる。したがって、転舵を行うことにより、ラック軸力は小さくなる。しかしながら、仮想ロアピボット点は、各リンクの延長線上にあるため、転舵しない初期状態でのスクラブ半径が小さく、ラック軸力の大幅な低減につながりにくい。
一方、アッパーリンク構造を構成する第1のアッパーリンク部材としてのトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)39および第2のアッパーリンク部材としてのテンションリンク(テンションリンク部材)40は、図4および図5に示すように、車軸32より上方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の上端とを連結する。
本実施形態において、トランスバースリンク39とテンションリンク40とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク39およびテンションリンク40は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、アクスルキャリア33側と各1箇所の取り付け部で連結している。
本実施形態において、トランスバースリンク39とテンションリンク40とは、独立した部材からなるIアームとなっている。これらトランスバースリンク39およびテンションリンク40は、車体側と各1箇所の支持部で連結し、アクスルキャリア33側と各1箇所の取り付け部で連結している。
さらに、本実施形態におけるトランスバースリンク39とテンションリンク40とは、互いに交差した状態で車体1Aとアクスルキャリア33とを連結する(以下、トランスバースリンク39とテンションリンク40とが構成する仮想リンクの交点を適宜「仮想アッパーピボット点PU」と称する。)。
これらアッパーリンク構造のうち、トランスバースリンク39は、車軸と略平行に設置してあり、車両平面視において、トランスバースリンク39の車輪側支持点TBaは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向前側となっている。
これらアッパーリンク構造のうち、トランスバースリンク39は、車軸と略平行に設置してあり、車両平面視において、トランスバースリンク39の車輪側支持点TBaは、車輪中心(車軸)よりも車両前後方向前側となっている。
また、テンションリンク40は、トランスバースリンク39よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置してある。そして、テンションリンク40の車輪側支持点TSUaは、車輪中心よりも車両前後方向後側となっている。また、トランスバースリンク39の車体側支持点TBUbは、テンションリンク40の車輪側支持点TSUaよりも車両前後方向前側となっている。また、テンションリンク40の車体側支持点TSUbは、トランスバースリンク39の車輪側支持点TBUaよりも車両前後方向前側となっている。
さらに、アッパーリンク構造でも、図7(a)に示すように、第1アッパーリンクがトランスバースリンク39となり、第2アッパーリンクがテンションリンク40となって互いに交差するテンションリンク型に構成されている。このため、トランスバースリンク39とテンションリンク40の平面視における交点が仮想アッパーピボット点PUとなる。この仮想アッパーピボット点PUが前述した仮想ロアピボット点PLと同様に、転舵輪17FLを旋回外輪となるように転舵したときに、仮想アッパーピボット点PUは車幅方向外側前方に移動する。
このため、仮想ロアピボット点PLと仮想アッパーピボット点PUとが略平行な状態で、車幅方向外側前方に移動することになる。したがって、アッパーリンクをAアーム等で構成してアッパーピボット点が車両平面視で車幅方向に移動しない場合に比較してキングピン傾角の拡大を抑制することができるとともに、ポジティブスクラブ半径の減少も抑制することができる。このため、転舵時のラック軸力の増大を抑制することができる。
以下、サスペンション装置1Bにおけるサスペンションジオメトリについて詳細に検討する。
(ラック軸力成分の分析)
図8は、転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
図8に示すように、ラック軸力成分には、主にタイヤの捻りトルクと、車輪の持ち上げトルクとが含まれ、これらのうち、タイヤの捻りトルクが支配的である。
したがって、タイヤの捻りトルクを小さくすることで、ラック軸力を低減することができることとなる。
(ラック軸力成分の分析)
図8は、転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
図8に示すように、ラック軸力成分には、主にタイヤの捻りトルクと、車輪の持ち上げトルクとが含まれ、これらのうち、タイヤの捻りトルクが支配的である。
したがって、タイヤの捻りトルクを小さくすることで、ラック軸力を低減することができることとなる。
(タイヤの捻りトルク最小化)
図9は、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
図9においては、転舵時におけるタイヤ接地面中心の移動量が大きい場合と小さい場合とを併せて示している。
上記ラック軸力成分の分析結果より、ラック軸力を低減するためには、転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化することが有効である。
転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化するためには、図9に示すように、タイヤ接地面中心の軌跡をより小さくすれば良い。
即ち、タイヤ接地面中心とキングピン接地点を一致させることで、タイヤ捩りトルクを最小化できる。
具体的には、キャスタトレイル0mm、スクラブ半径0mm以上とすることが有効である。
図9は、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
図9においては、転舵時におけるタイヤ接地面中心の移動量が大きい場合と小さい場合とを併せて示している。
上記ラック軸力成分の分析結果より、ラック軸力を低減するためには、転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化することが有効である。
転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化するためには、図9に示すように、タイヤ接地面中心の軌跡をより小さくすれば良い。
即ち、タイヤ接地面中心とキングピン接地点を一致させることで、タイヤ捩りトルクを最小化できる。
具体的には、キャスタトレイル0mm、スクラブ半径0mm以上とすることが有効である。
(キングピン傾角の影響)
図10は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図10においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
なお、図10における一点鎖線(境界線)で囲んだ領域は、旋回の限界領域において、横力が摩擦の限界を超える値と推定できるキングピン傾角15度より小さく、かつ、上記タイヤ捻りトルクの観点から、スクラブ半径が0mm以上の領域を示している。
図10は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図10においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
なお、図10における一点鎖線(境界線)で囲んだ領域は、旋回の限界領域において、横力が摩擦の限界を超える値と推定できるキングピン傾角15度より小さく、かつ、上記タイヤ捻りトルクの観点から、スクラブ半径が0mm以上の領域を示している。
本実施形態では、この領域(横軸においてキングピン傾角が15度より減少する方向で、縦軸においてスクラブ半径がゼロより増加する方向)を、より設定に適した領域としている。ただし、スクラブ半径が負の領域であっても、他の条件を本実施形態で示すものとすることで、一定の効果を得るものとなる。
具体的にスクラブ半径とキングピン傾角とを決定する場合には、例えば、図10に示すラック軸力の分布を示す等値線をn次曲線(nは2以上の整数)として近似し、上記一点鎖線で囲んだ領域の中から、n次曲線の変曲点(またはピーク値)の位置によって定めた値を採用することができる。
具体的にスクラブ半径とキングピン傾角とを決定する場合には、例えば、図10に示すラック軸力の分布を示す等値線をn次曲線(nは2以上の整数)として近似し、上記一点鎖線で囲んだ領域の中から、n次曲線の変曲点(またはピーク値)の位置によって定めた値を採用することができる。
また、図7に示す例では、車両平面視において、転舵時に車輪中心は旋回内側に移動する。そのため、本実施形態のように、ステアリングラック部材14を車軸より前に位置させることで、ラック軸力を低減させる効果をさらに高めることができる。
図11は、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置および本発明の場合におけるトー角とスクラブ半径との関係を示す図である。
図11に示すように、本発明の場合、ロアリンク部材を交差させていない場合に比べて、中立位置(トー角が0)付近でのスクラブ半径をより大きくできる。また、旋回外輪となる転舵角が大きくなる方向(図11における一方向)では、スクラブ半径がより大きくなり、ラック軸力をより小さくできる。
図11は、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンション装置および本発明の場合におけるトー角とスクラブ半径との関係を示す図である。
図11に示すように、本発明の場合、ロアリンク部材を交差させていない場合に比べて、中立位置(トー角が0)付近でのスクラブ半径をより大きくできる。また、旋回外輪となる転舵角が大きくなる方向(図11における一方向)では、スクラブ半径がより大きくなり、ラック軸力をより小さくできる。
また、キャスタ角を0度とすることは、サスペンション剛性を向上させることができる。
さらに、図12は、キングピン軸KSの路面着地点PTと横力との関係を示す図である。この図12では、キングピン軸KSの路面着地点を車両前方側から車両後方側に符号1〜5で表している。キャスタトレイル0mmとすることは、キングピン軸KSの路面着地点と横力との関係を図12において符号3で示すように、キングピン軸KSの路面着地点がタイヤ接地面におけるタイヤ接地中心点(着力点)Oに一致させることを意味し、これによって横力低減効果をより向上させることができる。
さらに、図12は、キングピン軸KSの路面着地点PTと横力との関係を示す図である。この図12では、キングピン軸KSの路面着地点を車両前方側から車両後方側に符号1〜5で表している。キャスタトレイル0mmとすることは、キングピン軸KSの路面着地点と横力との関係を図12において符号3で示すように、キングピン軸KSの路面着地点がタイヤ接地面におけるタイヤ接地中心点(着力点)Oに一致させることを意味し、これによって横力低減効果をより向上させることができる。
なお、タイヤ接地中心点(着力点)Oを含むタイヤ接地面内のキングピン軸KSの接地点が前方側の符号2および後方側の符号4である場合にも、キングピン軸KSの接地点が符号1および符号5で示すようにタイヤ接地面から前後方向に外れた位置とする場合に比較して横力を小さくすることができる。特に、キングピン軸KSの路面着地点がタイヤ接地中心点(着力点)Oより車両前方側である場合の方がタイヤ接地中心点(着力点)Oより車両後方とした場合に比較して横力を小さく抑制することができる。
(ポジティブスクラブによる直進性確保)
前述した図6(b)は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
図6(b)に示すように、タイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は、キャスタトレイル、ニューマチックトレイルの和に比例して大きくなる。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図6(b)参照)をキャスタトレイルとみなすことができる。
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力は大きくなる。
前述した図6(b)は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
図6(b)に示すように、タイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は、キャスタトレイル、ニューマチックトレイルの和に比例して大きくなる。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図6(b)参照)をキャスタトレイルとみなすことができる。
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力は大きくなる。
本実施形態においては、キングピン軸の設定をポジティブスクラブとすると共に、ロアリンク部材を交差させない場合に比べて、初期スクラブ半径を大きく確保できることで、キャスタ角を0に近づけることによる直進性への影響を低減するものである。また、ステアバイワイヤ方式を採用していることから、転舵アクチュエータ8によって最終的に目的とする直進性を確保することができる。
(サスペンション装置の作用)
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク37をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、テンションリンク38をトランスバースリンク37と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両前方側に斜行させて設置している。
具体的には、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは、車輪中心よりも車両前後方向後側、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。
次に、本実施形態に係るサスペンション装置1Bの作用について説明する。
本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材をIアームとしている。そして、トランスバースリンク37をアクスルキャリア33から車幅方向に沿って設置し、テンションリンク38をトランスバースリンク37と交差する状態で、アクスルキャリア33の下端から車両前方側に斜行させて設置している。
具体的には、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは、車輪中心よりも車両前後方向後側、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは、車輪中心よりも車両前後方向前側となっている。
また、トランスバースリンク37の車体側支持点TBLbは、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaよりも車両前後方向前側、テンションリンク38の車体側支持点TSLbは、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaよりも車両前後方向前側となっている。
上記サスペンション構造とした場合、操舵時等に車輪に入力する横力をトランスバースリンク37により多く負担させることができる。また、旋回外輪となったときに、車両内向きの横力が入力した場合、トランスバースリンク37が車両外側、テンションリンク38が車両内側に回転することにより、入力する横力に対して、車輪にトーアウト特性を持たせることができる。
上記サスペンション構造とした場合、操舵時等に車輪に入力する横力をトランスバースリンク37により多く負担させることができる。また、旋回外輪となったときに、車両内向きの横力が入力した場合、トランスバースリンク37が車両外側、テンションリンク38が車両内側に回転することにより、入力する横力に対して、車輪にトーアウト特性を持たせることができる。
上記サスペンション構造とした場合、図6(a)に示すように、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両内向きに移動する。また、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは車両外向きに移動する。そのため、入力する車両後方向きの力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
また、上記サスペンション構造において、図6(a)に示すように、各ロアリンク部材および各アッパーリンク部材について車輪側支持点TBLa,TSLaおよびTBUa,TBUbと車体側支持点TBLb,TSLbおよびTBUb,TSBbとを結ぶ直線を仮想する。すると、それら直線の交点が、ロアリンク構造およびアッパーリンク構造の仮想ピボット点PLおよびPUとなる。これら仮想ロアピボット点PLおよび仮想アッパーピボット点PUを結ぶ直線がキングピン軸KSとなる。
本実施形態では、このキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通るように設定されている。また、このキングピン軸KSをキャスタトレイルがタイヤ接地面内に位置する設定としている。したがって、転舵輪17FLが直進走行状態すなわちステアリングホイール2が中立位置にある状態でキングピン軸KSの接地点PTはタイヤ前後方向中心線より前側で転舵輪17FLの車幅方向内側端より車幅方向外側位置となる。
より具体的には、例えば、キングピン軸の設定を、キャスタ角0度、キャスタトレイル0mm、スクラブ半径0mm以上のポジティブスクラブとしている。また、キングピン傾角については、スクラブ半径をポジティブスクラブとできる範囲で、より小さい角度となる範囲(例えば15度以下)で設定する。
このようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
そのため、ラック軸力をより小さいものとできることから、キングピン軸周りのモーメントをより小さくでき、転舵アクチュエータ8の出力を低減することができる。また、より小さい力で車輪の向きを制御できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
このようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
そのため、ラック軸力をより小さいものとできることから、キングピン軸周りのモーメントをより小さくでき、転舵アクチュエータ8の出力を低減することができる。また、より小さい力で車輪の向きを制御できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
さらに、ロアリンク部材を交差させて設置することにより、ロアリンク部材の支持点を車輪中心に近い位置とできるため、アクスルキャリア33の重量を低減することができる。
本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材を交差させて設置しているため、仮想ロアピボット点をタイヤ接地面中心よりも車体内側に配置し易い構造となっている。
そのため、キングピン傾角を0度に近づけ易くなるとともに、スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きく取ることが容易となる。
本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、2つのロアリンク部材を交差させて設置しているため、仮想ロアピボット点をタイヤ接地面中心よりも車体内側に配置し易い構造となっている。
そのため、キングピン傾角を0度に近づけ易くなるとともに、スクラブ半径をポジティブスクラブ側に大きく取ることが容易となる。
また、キャスタ角を0度、キャスタトレイルを0mmとしたことに伴い、サスペンション構造上の直進性に影響が生じる可能性があるところ、ポジティブスクラブに設定することにより、その影響を軽減している。さらに、転舵アクチュエータ8による制御と併せて、直進性を確保している。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
また、キングピン傾角を一定の範囲に制限したことに対しては、転舵アクチュエータ8での転舵を行うので、運転者が操舵操作に重さを感じることを回避できる。また、路面からの外力によるキックバックについても、転舵アクチュエータ8によって外力に対抗できるため、運転者への影響を回避できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
また、キングピン傾角を一定の範囲に制限したことに対しては、転舵アクチュエータ8での転舵を行うので、運転者が操舵操作に重さを感じることを回避できる。また、路面からの外力によるキックバックについても、転舵アクチュエータ8によって外力に対抗できるため、運転者への影響を回避できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
以上のように、本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、ロアリンク構造についてはトランスバースリンク37を車軸と略平行に設置し、車両平面視において、テンションリンク38をトランスバースリンク37と交差させて配置した。そのため、仮想ロアピボット点を車幅方向において車体内側に近づけることができる。そして、この仮想ロアピボット点が定義するキングピン軸を、キングピン傾角が小さいものとし、キングピン軸がタイヤ接地面内を通り、またタイヤ接地面内にキャスタトレイルが位置する設定としたため、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
したがって、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
また、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる結果、ステアリングラック部材14およびタイロッド15に加わる負荷を低減でき、部材を簡素化することができる。
また、ステアバイワイヤを実現するための転舵アクチュエータ8として、駆動能力のより低いものを用いることができ、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
例えば、従来のステアバイワイヤ方式のサスペンション装置と比較した場合、本発明の構成では、主にロアリンク部材の簡素化と転舵アクチュエータ8の小型化によって、重量において約10%、コストにおいて約50%を低減することができる。
また、ステアバイワイヤを実現するための転舵アクチュエータ8として、駆動能力のより低いものを用いることができ、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
例えば、従来のステアバイワイヤ方式のサスペンション装置と比較した場合、本発明の構成では、主にロアリンク部材の簡素化と転舵アクチュエータ8の小型化によって、重量において約10%、コストにおいて約50%を低減することができる。
また、転舵時においてキャスタトレイルが増加する構造であるため、高い横加速度が発生する旋回時において、転舵角の切れ増しが生ずることを抑制できる。
また、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点PLが車体外側前方に移動するため、仮想ロアピボット点PLが車幅方向外側に移動してスクラブ半径が減少し、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を低下させることになる。
また、転舵時に車輪に働く横力によって、仮想ロアピボット点PLが車体外側前方に移動するため、仮想ロアピボット点PLが車幅方向外側に移動してスクラブ半径が減少し、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を低下させることになる。
しかしながら、本実施形態によると、アッパーリンク構造についてもトランスバースリンク39とテンションリンク40とでテンションリンク型構成を有するので、転舵時に、仮想アッパーピボット点PUが車体車幅方向外側前方に移動することになり、仮想ロアピボット点PLのみが車幅方向外側へ移動する場合に比較してポジティブスクラブのスクラブ半径の減少を抑制することができる。このため、セルフアライニングトルク(SAT)による直進性を確保することができる。
これに加えて、仮想ロアピボット点PLおよび仮想アッパーピボット点PUが略平行移動することにより、キャスタ角の増加を抑制することができるとともに、キングピン傾角の増加も抑制することができ、転舵時においても、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できるため、操縦性・安定性を向上させることができる。
図13は、本発明におけるキングピン傾角とスクラブ半径との関係を模式的に示す図である。なお、図13においては、本発明を上記テンション型とした場合、比較例として、ロアリンク部材を交差させない構造のテンション型とした場合、さらに、シングルピボット方式とした場合を併せて示している。
図13に示すように、本発明によってロアリンク構造をテンション型として実現した場合、シングルピボット方式およびロアリンク部材を交差させないダブルピボット方式の各方式に比べ、キングピン傾角を15度より0度側に寄せることできると共に、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくすることが可能となっている。しかも、アッパーリンク構造もテンション型として実現しているので、キングピン傾角を0度近くまで設定することができる。
図13に示すように、本発明によってロアリンク構造をテンション型として実現した場合、シングルピボット方式およびロアリンク部材を交差させないダブルピボット方式の各方式に比べ、キングピン傾角を15度より0度側に寄せることできると共に、スクラブ半径をポジティブスクラブ側により大きくすることが可能となっている。しかも、アッパーリンク構造もテンション型として実現しているので、キングピン傾角を0度近くまで設定することができる。
また、本発明においては、ロアリンク構造としてトランスバースリンク37を、車軸と略平行に設置し、車両平面視において、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaを、車輪中心よりも車両前後方向後側としている。また、テンションリンク38を、トランスバースリンク37よりも車軸に対して傾斜(車輪側支持点がより後側、車体側支持点がより前側となる向きに配置)させて設置している。そして、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaを、車輪中心よりも車両前後方向前側としている。また、トランスバースリンク37の車体側支持点TBLbを、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaよりも車両前後方向前側としている。また、テンションリンク38の車体側支持点TSLbを、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaよりも車両前後方向前側としている。
このようなロアリンク構造とした場合、車輪に入力する横力を主にトランスバースリンク37に受け持たせることができる。また、上記ロアリンク構造では、トランスバースリンク37の車体側支持点TBLbを車輪中心よりも車両前後方向前側に位置させている。そのため、車輪に横力(車両内向きの力)が入力したとき、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両内向きに移動し、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは車両外向きに移動する。したがって、入力する横力に対して、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
また、本発明においては、タイロッド15の車輪側の支持点Xaがトランスバースリンク37およびテンションリンク38の車輪側支持点TBLa,TSLaよりも車幅方向外側に位置している。また、タイロッド15の車体側支持点Xbが車輪側支持点Xaよりも車両前後方向後側に位置している。
このようなロアリンク構造とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両内向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両内向きに移動し、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは車幅方向内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
このようなロアリンク構造とした場合、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の力(車両後方向きの力)に対し、トランスバースリンク37の車輪側支持点TBLaは車両内向きに移動する。また、タイロッド15の車輪側支持点Xaは車体側支持点Xbを中心に回転して車両内向きに移動し、テンションリンク38の車輪側支持点TSLaは車幅方向内向きに移動する。そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、本発明によれば、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
図14は、本発明に係るサスペンション装置1Bと比較例とにおける(a)横力コンプライアンスステアおよび(b)横剛性を示す図である。
図14において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンションを想定している。
図14に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図14中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、横力コンプライアンスステアは35%向上し、横剛性は29%向上している。
図14において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないテンション型のサスペンションを想定している。
図14に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図14中の実線)、比較例(図14中の破線)に対し、横力コンプライアンスステアは35%向上し、横剛性は29%向上している。
また、図15は、本発明に係るサスペンション装置1Bと比較例とにおける前後力コンプライアンスステアを示す図である。
図15において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図15に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図15中の実線)、比較例(図15中の破線)に対し、前後力コンプライアンスステアは28%向上している。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク37および39がトランスバースリンク部材に対応し、テンションリンク38および40がテンションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
図15において、比較例として、ロアリンク部材が交差していないコンプレッション型のサスペンションを想定している。
図15に示すように、本発明に係るサスペンション装置1Bの構成とした場合(図15中の実線)、比較例(図15中の破線)に対し、前後力コンプライアンスステアは28%向上している。
なお、本実施形態において、車輪17FR,17FL,17RR,17RLがタイヤホイール、タイヤおよびホイールハブ機構WHに対応し、トランスバースリンク37および39がトランスバースリンク部材に対応し、テンションリンク38および40がテンションリンク部材に対応する。また、タイロッド15がタイロッドに対応する。
(コントロール/駆動回路の具体的構成例)
次に、コントロール/駆動回路ユニット26を実現する具体的な構成例を図16〜図19について説明する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、図16に示すように、転舵制御装置50を備えている。この転舵制御装置50は、目標転舵角演算部51、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54、遅延制御部56、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60およびモータ電流制御部62を備えている。
目標転舵角演算部51は、車速Vおよび操舵角度センサ4で検出した操舵角θsが入力され、これらに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
次に、コントロール/駆動回路ユニット26を実現する具体的な構成例を図16〜図19について説明する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、図16に示すように、転舵制御装置50を備えている。この転舵制御装置50は、目標転舵角演算部51、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54、遅延制御部56、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60およびモータ電流制御部62を備えている。
目標転舵角演算部51は、車速Vおよび操舵角度センサ4で検出した操舵角θsが入力され、これらに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
転舵角制御部52は、コンプライアンスステアによる転舵輪17FLおよび17FRの舵角の変化量ΔflおよびΔfrを算出する。これら変化量ΔflおよびΔfrは、左右の駆動輪である転舵輪17FLおよび17FRの駆動力を配分制御する駆動力制御装置65から出力される左右輪の駆動力TLおよびTRとロアリンク構造を構成するトランスバースリンク37およびテンションリンク38のブッシュの撓みに応じたコンプライアンスステア係数afとに基づいて下記(1)式および(2)式の演算を行うことにより算出する。そして、算出した変位量ΔflおよびΔfrの変位量差を算出して転舵角制御値としてのコンプライアンスステア制御値Ac(=Δfl−Δfr)を算出する。
Δfl=af・TL …………(1)
Δfr=af・TR …………(2)
Δfl=af・TL …………(1)
Δfr=af・TR …………(2)
直進性補完部53は、駆動輪駆動力を配分制御する駆動力制御装置71から出力されるからの左右輪の駆動力TLおよびTRが入力されると共に、操舵トルクセンサ5で検出された操舵トルクTsが入力され、これらに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出し、算出したセルフアライニングトルクTsaに所定舵角補正ゲインKsaを乗算して直進性担保値としてのセルフアライニングトルク制御値Asa(=Ksa・Tsa)を算出する。
ここで、直進性補完部53におけるセルフアライニングトルクTsaの算出は、先ず、左右輪の駆動力TRおよびTLの駆動力差ΔT(=TL−TR)を算出し、算出した駆動力差ΔTをもとに図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。
ここで、直進性補完部53におけるセルフアライニングトルクTsaの算出は、先ず、左右輪の駆動力TRおよびTLの駆動力差ΔT(=TL−TR)を算出し、算出した駆動力差ΔTをもとに図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。
発生トルク推定制御マップは、スクラブ半径が正である、すなわちポジティブスクラブである車両用に設定されている。この発生トルク推定制御マップは、図17に示すように、横軸に駆動力差ΔTを、縦軸に発生トルクThをそれぞれとり、駆動力差ΔTが零から正方向に増加する、すなわち、左輪駆動力TLが右輪駆動力TRを上回って増加するときには、これに比例して発生トルクThが零から車両を右旋回させる方向(正方向)に増加するように設定されている。
一方、駆動力差ΔTが零から負方向に増加する、すなわち右輪駆動力TRが左輪駆動力TLを上回って増加するときには、これに比例して発生トルクThが零から車両を左旋回させる方向(負方向)に増加するように設定されている。
そして、直進性補完部53では、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTsから発生トルクThを減じてセルフアライニングトルクTsaを算出する。
なお、セルフアライニングトルクTsaの算出は、上述したように左右の駆動力差ΔTに基づいて算出する場合に限らず、左右の制動力差に基づいて同様に算出することができる。
そして、直進性補完部53では、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTsから発生トルクThを減じてセルフアライニングトルクTsaを算出する。
なお、セルフアライニングトルクTsaの算出は、上述したように左右の駆動力差ΔTに基づいて算出する場合に限らず、左右の制動力差に基づいて同様に算出することができる。
また、セルフアライニングトルクTsaの算出は、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサおよび車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサを設け、車両の運動方程式に基づいてヨーレートの微分値と横加速度Gyとに基づいて横力Fyを算出し、この横力Fyにニューマチックトレイルεnを乗算することにより、算出することができる。
さらには、ステアリングホイール2の操舵角θsと、セルフアライニングトルクTsaとの関係を車速Vをパラメータとして実測するかまたはシミュレーションによって算出した制御マップを参照して操舵角度センサ4で検出した操舵角θsと車速Vとに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。
さらに、セルフアライニングトルクTsaの算出は、車速Vと、ピニオン角度センサ13で検出したピニオン角度に基づいて算出される転舵輪17FR,17FLの実転舵角δrと、ヨーレートセンサ22bで検出したヨーレートγに基づいて下記(3)式の演算を行うようにしてもよい。
さらには、ステアリングホイール2の操舵角θsと、セルフアライニングトルクTsaとの関係を車速Vをパラメータとして実測するかまたはシミュレーションによって算出した制御マップを参照して操舵角度センサ4で検出した操舵角θsと車速Vとに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。
さらに、セルフアライニングトルクTsaの算出は、車速Vと、ピニオン角度センサ13で検出したピニオン角度に基づいて算出される転舵輪17FR,17FLの実転舵角δrと、ヨーレートセンサ22bで検出したヨーレートγに基づいて下記(3)式の演算を行うようにしてもよい。
ここで、εcはキャスタトレイル、Kfは前輪1輪当たりのコーナリングパワー、βは重心点滑り角、Lfは重心点前輪軸間距離、Krは後輪1輪当たりのコーナリングパワー、Lrは重心点後輪軸間距離、mは車両の質量、Lは前輪後輪軸間距離である。
この(3)式において、キャスタトレイルεを通常のサスペンション装置で設定されるキャスタトレイルεc0から本実施形態で設定するキャスタトレイルεc2を減算した値に設定することにより、本発明に適用するフロントサスペンション装置1Bで不足する補完すべきセルフアライニングトルクTsaを算出することができる。
この(3)式において、キャスタトレイルεを通常のサスペンション装置で設定されるキャスタトレイルεc0から本実施形態で設定するキャスタトレイルεc2を減算した値に設定することにより、本発明に適用するフロントサスペンション装置1Bで不足する補完すべきセルフアライニングトルクTsaを算出することができる。
外乱補償部54は、操舵トルクセンサ5からの操舵トルクTs、転舵アクチュエータ角度センサ9からの回転角θmo、およびモータ電流検出部61からのモータ電流imrが入力され、車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。
この外乱補償部54では、例えば特開平2007−237840号公報に記載されているように、運転者による操舵入力である操舵トルクTsと転舵アクチュエータ8による転舵入力を制御入力とし、実際の操舵状態量を制御量とするモデルにおいて、前記制御入力をローパスフィルタに通した値と、前記制御量を前記モデルの逆特性と前記ローパスフィルタとに通した値との差に基づいて外乱を推定する複数の外乱推定部を有する。各外乱推定部は、ローパスフィルタのカットオフ周波数を異ならせることにより、外乱を複数の周波数帯域毎に分離する。
この外乱補償部54では、例えば特開平2007−237840号公報に記載されているように、運転者による操舵入力である操舵トルクTsと転舵アクチュエータ8による転舵入力を制御入力とし、実際の操舵状態量を制御量とするモデルにおいて、前記制御入力をローパスフィルタに通した値と、前記制御量を前記モデルの逆特性と前記ローパスフィルタとに通した値との差に基づいて外乱を推定する複数の外乱推定部を有する。各外乱推定部は、ローパスフィルタのカットオフ周波数を異ならせることにより、外乱を複数の周波数帯域毎に分離する。
そして、外乱補償部54および直進性補完部53で算出された外乱補償値Adisおよびセルフアライニングトルク制御値Asaが加算器55aで加算される。この加算器55aの加算出力と転舵角制御部52で演算されたコンプライアンスステア制御値Acとが加算器55bで加算されて直進性担保制御値δaを算出する。この直進性担保制御値δaは、遅延制御部56に供給される。
ここで、図16に示すように、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54および加算器55a,55bで直進性担保部SGを構成し、この直進性担保部SGと以下に述べる遅延制御部56とで転舵応答性設定部SRSを構成している。
ここで、図16に示すように、転舵角制御部52、直進性補完部53、外乱補償部54および加算器55a,55bで直進性担保部SGを構成し、この直進性担保部SGと以下に述べる遅延制御部56とで転舵応答性設定部SRSを構成している。
遅延制御部56は、図16に示すように、操舵開始検出部56a、単安定回路56b、ゲイン調整部56cおよび乗算器56dを有する。
操舵開始検出部56aは、操舵角度センサ4で検出した操舵角θsに基づいて中立位置を維持する状態から右操舵または左操舵したタイミングを検出して中立状態からの操舵開始を表す操舵開始信号SSを単安定回路56bに出力する。
操舵開始検出部56aは、操舵角度センサ4で検出した操舵角θsに基づいて中立位置を維持する状態から右操舵または左操舵したタイミングを検出して中立状態からの操舵開始を表す操舵開始信号SSを単安定回路56bに出力する。
また、単安定回路56bは操舵開始検出部56aから出力される操舵開始信号に基づいて所定の遅延時間例えば0.1秒の間オン状態となる制御開始遅延信号をゲイン調整部56cに出力する。
ゲイン調整部56cは、制御開始遅延信号がオン状態であるときに、制御ゲインGaを“0”に設定し、制御開始遅延信号がオフ状態であるときに制御ゲインGaを“1”に設定し、設定した制御ゲインGaを乗算器56dに出力する。
乗算器56dでは、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力され、この直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗算し、乗算結果を目標転舵角演算部51からの目標転舵角δ*が入力された加算器56eに供給する。
ゲイン調整部56cは、制御開始遅延信号がオン状態であるときに、制御ゲインGaを“0”に設定し、制御開始遅延信号がオフ状態であるときに制御ゲインGaを“1”に設定し、設定した制御ゲインGaを乗算器56dに出力する。
乗算器56dでは、直進性担保部SGから出力される直進性担保制御値δaが入力され、この直進性担保制御値δaに制御ゲインGaを乗算し、乗算結果を目標転舵角演算部51からの目標転舵角δ*が入力された加算器56eに供給する。
したがって、遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで中立状態を維持している状態から右操舵または左操舵を行った操舵開始状態を検出したときに、直進性担保部SGで算出された直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を単安定回路56bで設定される所定時間例えば0.1秒間停止させるようにゲイン調整部56cで、直進性担保制御値δaに乗算する制御ゲインGaを“0”に設定する。そして、ゲイン調整部56cでは、0.1秒経過後に単安定回路56bの出力信号がオフ状態に反転すると、ゲイン調整部56cで、直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御を開始するように制御ゲインGaを“1”に設定する。
また、遅延制御部56は、ステアリングホイール2の操舵が継続されているときには、操舵開始検出部56aで中立状態からの操舵開始を検出しないので、単安定回路56bの出力がオフ状態を維持することにより、ゲイン調整部56cで制御ゲインGaが“1”に設定される。このため、直進性担保部SGで演算された直進性担保制御値δaをそのまま加算器56eに供給する。このため、目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaと制御ゲインGaとの乗算置Ga・δaが加算されて直進性担保制御が行われる。
転舵角偏差演算部58は、加算器56eから出力される目標転舵角δ*に直進性担保制御値δaが加算された加算後目標転舵角δ*aから転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの転舵アクチュエータ角度センサ9から出力される実転舵角δrを減算して転舵角偏差Δδを算出し、算出した転舵角偏差Δδを転舵モータ制御部59に出力する。
転舵モータ制御部59は、入力される角度偏差Δδが零となるように転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの目標駆動電流im*を算出し、算出した目標駆動電流im*を電流偏差演算部60に出力する。
電流偏差演算部60は、入力される目標駆動電流im*から転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに供給するモータ電流を検出するモータ電流検出部61から出力される実モータ駆動電流imrを減算して電流偏差Δiを算出し、算出した電流偏差Δiをモータ電流制御部62に出力する。
モータ電流制御部62は、入力される電流偏差Δiが零となるように、すなわち、実モータ駆動電流imrが目標駆動電流im*に追従するようにフィードバック制御し、実モータ駆動電流imrを転舵モータ8aに出力する。
電流偏差演算部60は、入力される目標駆動電流im*から転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに供給するモータ電流を検出するモータ電流検出部61から出力される実モータ駆動電流imrを減算して電流偏差Δiを算出し、算出した電流偏差Δiをモータ電流制御部62に出力する。
モータ電流制御部62は、入力される電流偏差Δiが零となるように、すなわち、実モータ駆動電流imrが目標駆動電流im*に追従するようにフィードバック制御し、実モータ駆動電流imrを転舵モータ8aに出力する。
ここで、転舵角偏差演算部58、転舵モータ制御部59、電流偏差演算部60、モータ電流検出部61、モータ電流制御部62でアクチュエータ制御装置63が構成されている。このアクチュエータ制御装置63は、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの回転角度を検出する転舵アクチュエータ角度センサ9で検出した回転角度δrが目標転舵角δ*と一致するように制御する。このため、車両が直進走行状態であって、目標転舵角δ*が“0”となったときに、この目標転舵角δ*に回転角度δrが一致するように制御するので、前述した直進性担保部SGを主直進性担保部としたときに、副直進性担保部を構成することになる。
(転舵制御装置の作用)
次に、上記第1実施形態における転舵制御装置の作用を図18および図19を伴って説明する。
今、ステアリングホイール2を中立位置に保持して直進走行しているものとする。
この直進走行状態では、目標転舵角演算部51で演算される目標転舵角δ*が零となる。このとき、ステアリングホイール2が中立位置を保持しているので、左右の駆動輪となる転舵輪17FLおよび17FRの駆動力または制動力が等しくなる。このため、転舵角制御部52で前記(1)式および(2)式で算出されるコンプライアンスステアによる転舵輪17FLおよび17FRの舵角の変位量ΔflおよびΔfrは等しい値となる。このため、コンプライアンスステア補正量Acは変位量Δflから変位量Δfr減算した値であるので、コンプライアンスステア補正量Acは零となる。
次に、上記第1実施形態における転舵制御装置の作用を図18および図19を伴って説明する。
今、ステアリングホイール2を中立位置に保持して直進走行しているものとする。
この直進走行状態では、目標転舵角演算部51で演算される目標転舵角δ*が零となる。このとき、ステアリングホイール2が中立位置を保持しているので、左右の駆動輪となる転舵輪17FLおよび17FRの駆動力または制動力が等しくなる。このため、転舵角制御部52で前記(1)式および(2)式で算出されるコンプライアンスステアによる転舵輪17FLおよび17FRの舵角の変位量ΔflおよびΔfrは等しい値となる。このため、コンプライアンスステア補正量Acは変位量Δflから変位量Δfr減算した値であるので、コンプライアンスステア補正量Acは零となる。
同様に、直進性補完部53でも、駆動力TLおよびTRが等しいので、駆動力差ΔTが零となることにより、図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して算出される発生トルクThも零となる。一方、直進走行状態でステアリングホイール2を操舵していないので、操舵トルクTsも零であり、セルフアライニングトルクTsaも零となって、セルフアライニングトルク制御値Asaも零となる。
一方、外乱補償部54では、外乱を抑制する外乱補償値Adisが算出される。したがって、直進性担保制御値δaは外乱補償値Adisのみの値となる。この直進性担保制御値δaが遅延制御部56の乗算器56dに供給される。
この遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで操舵開始が検出されないので、単安定回路56bの出力はオフ状態を維持する。このため、ゲイン調整部56cでは制御ゲインGaが“1”に設定され、この制御ゲインGaが乗算器56dへ供給される。この乗算器56dからは、直進性担保制御値δaがそのまま加算器56eに供給されて、零の目標転舵角δ*に加算される。したがって、外乱補償値Adisに応じた加算後目標転舵角δ*aが算出され、この加算後目標転舵角δ*aに一致するように転舵アクチュエータ8の転舵モータ8aの転舵角が制御される。このため、外乱の影響を除去した直進走行を行うことができる。
この遅延制御部56では、操舵開始検出部56aで操舵開始が検出されないので、単安定回路56bの出力はオフ状態を維持する。このため、ゲイン調整部56cでは制御ゲインGaが“1”に設定され、この制御ゲインGaが乗算器56dへ供給される。この乗算器56dからは、直進性担保制御値δaがそのまま加算器56eに供給されて、零の目標転舵角δ*に加算される。したがって、外乱補償値Adisに応じた加算後目標転舵角δ*aが算出され、この加算後目標転舵角δ*aに一致するように転舵アクチュエータ8の転舵モータ8aの転舵角が制御される。このため、外乱の影響を除去した直進走行を行うことができる。
したがって、路面の段差や前輪17FRおよび17FLの路面摩擦係数が異なることなどにより、路面からの入力による外乱によって前輪17FRおよび17FLが転舵された場合には、転舵アクチュエータ8が回転される。これに応じて転舵アクチュエータ角度センサ9で検出される回転角θmoが変化することにより、この回転角θmoの変化に応じた外乱補償値Adisが出力される。
このため、外乱補償値Adisにしたがって転舵アクチュエータ8が制御されて、サスペンション装置1Bの路面入力による転舵に抗するトルクを発生することができる。したがって、直進性担保部SGでサスペンション装置1Bの直進性を担保することができる。
このため、外乱補償値Adisにしたがって転舵アクチュエータ8が制御されて、サスペンション装置1Bの路面入力による転舵に抗するトルクを発生することができる。したがって、直進性担保部SGでサスペンション装置1Bの直進性を担保することができる。
また、車両の直進走行状態で、外乱補償部54で外乱を検出していない場合には、直進性担保部SGで算出される直進性担保制御値δaが零となり、目標転舵角演算部51から出力される目標転舵角δ*も零となるので、加算器56eから出力される加算後目標転舵角δ*も零となる。
このため、アクチュエータ制御装置63によって、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに転舵角変位が生じると、この転舵角変位を解消するようにアクチュエータ制御装置63でモータ電流imrを出力するので、転舵輪17FRおよび17FLが直進走行状態の転舵角に戻される。したがって,アクチュエータ制御装置63で直進性を担保することができる。
このため、アクチュエータ制御装置63によって、転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに転舵角変位が生じると、この転舵角変位を解消するようにアクチュエータ制御装置63でモータ電流imrを出力するので、転舵輪17FRおよび17FLが直進走行状態の転舵角に戻される。したがって,アクチュエータ制御装置63で直進性を担保することができる。
ところが、ステアリングホイール2を中立位置に保持した直進走行状態を維持している状態からステアリングホイール2を右(または左)に操舵する状態となると、この直進走行状態からの操舵による旋回状態への移行が操舵開始検出部56aで検出される。
このため、単安定回路56bから所定時間例えば0.1秒間オン状態となる制御遅延信号がゲイン調整部56cに出力される。したがって、ゲイン調整部56cで、制御遅延信号がオン状態を継続している間制御ゲインGaが“0”に設定される。このため、乗算器56dから出力される乗算出力は“0”となり、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。
したがって、ステアリングホイール2の中立位置から操舵を開始した時点から0.1秒の初期応答期間T1の間は制御ゲインGaが“0”に設定されるので、乗算器56dから出力される乗算出力が“0”となり、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御が図19(b)で実線図示のように停止される。
このため、単安定回路56bから所定時間例えば0.1秒間オン状態となる制御遅延信号がゲイン調整部56cに出力される。したがって、ゲイン調整部56cで、制御遅延信号がオン状態を継続している間制御ゲインGaが“0”に設定される。このため、乗算器56dから出力される乗算出力は“0”となり、直進性担保制御値δaの加算器56eへの出力が停止される。
したがって、ステアリングホイール2の中立位置から操舵を開始した時点から0.1秒の初期応答期間T1の間は制御ゲインGaが“0”に設定されるので、乗算器56dから出力される乗算出力が“0”となり、目標転舵角δ*に対する直進性担保制御が図19(b)で実線図示のように停止される。
このため、操舵角度センサ4で検出した操舵角θsが目標転舵角演算部51に供給され、この目標転舵角演算部51で演算された目標転舵角δ*がそのまま転舵角偏差演算部58に供給される。このため、目標転舵角δ*に一致するように転舵モータ8aが回転駆動される。この間、直進性担保部SGにおける直進性担保制御が停止される。
したがって、初期応答期間T1では、キングピン軸KSの路面接地点がタイヤの接地面内の接地中心位置に設定され、且つキャスタ角が零に設定されたサスペンション装置1Bによる転舵が開始される。
したがって、初期応答期間T1では、キングピン軸KSの路面接地点がタイヤの接地面内の接地中心位置に設定され、且つキャスタ角が零に設定されたサスペンション装置1Bによる転舵が開始される。
このとき、サスペンション装置1Bのキャスタ角が零に設定されている。このキャスタ角と転舵応答性と操縦安定性との関係は、図18(a)に示すように、キャスタ角が零であるときには転舵応答性が高い状態をとなるが、操縦安定性を確保することはできない。すなわち、キャスタ角に対する転舵応答性と操縦安定性とはトレードオフの関係が存在する。
このため、中立位置から操舵を開始した初期状態では、ステアバイワイヤ制御による直進性担保制御は実行されないことにより、この初期転舵をサスペンション装置1Bが賄うことになる。
このため、中立位置から操舵を開始した初期状態では、ステアバイワイヤ制御による直進性担保制御は実行されないことにより、この初期転舵をサスペンション装置1Bが賄うことになる。
この初期応答期間T1では、サスペンション装置1Bは、上述したように、キャスタ角が零あり、操縦応答性が高いので、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、一点鎖線図示の特性線L2で示す一般的なステアバイワイヤ形式の操舵系を有する車両における転舵応答特性(ヨーレイト)より高い転舵応答特性(ヨーレイト)とすることができる。このとき、運転者のステアリングホイール2の操舵による操舵角変化に対応した転舵角変化となるので、運転者に違和感を与えることはない。
ところが、サスペンション装置1Bによる転舵応答性のみで初期応答期間T1を越えて転舵を継続すると、図19(a)で破線図示の特性線L3のように中期応答期間T2および後期応答期間T3で操舵による車両の転舵応答性が敏感になる。また、中期応答期間T2から後期応答期間T3に掛けての車両の内側への巻き込み現象が大きくなってしまう。
このため、上記第1実施形態では、図19(b)に示すように、初期応答期間T1が経過する例えば0.1秒後に、転舵角制御部52、直進性補完部53および外乱補償部54で構成される直進性担保部SGによる目標転舵角δ*に対する直進性担保制御がステップ状に開始される。このため、サスペンション装置1Bによる車両の転舵応答性を抑制して車両のふらつきを抑制するとともに、図18(b)で点線図示のように、ステアバイワイヤ制御によってサスペンション装置1Bの直進性を補完して、操縦安定性を確保することができる。
このため、上記第1実施形態では、図19(b)に示すように、初期応答期間T1が経過する例えば0.1秒後に、転舵角制御部52、直進性補完部53および外乱補償部54で構成される直進性担保部SGによる目標転舵角δ*に対する直進性担保制御がステップ状に開始される。このため、サスペンション装置1Bによる車両の転舵応答性を抑制して車両のふらつきを抑制するとともに、図18(b)で点線図示のように、ステアバイワイヤ制御によってサスペンション装置1Bの直進性を補完して、操縦安定性を確保することができる。
その後、中期応答期間T2が終了する例えば0.3秒経過後には、直進性担保部SGによる直進性担保制御により一般的な車両の転舵応答特性に比較しても転舵応答特性をより抑制してアンダーステア傾向とすることができる。これにより、図19(a)で実線図示の特性線L1で示すように、操縦安定性を向上させることができ、特性線L1で示す理想的な車両の転舵応答特性を実現することができる。
以上のように、本実施形態に係る車両の操舵装置によれば、サスペンション装置1Bにおいて、ロアリンク構造を構成する第1のリンク37と第2のリンク38とが車両平面視で交差され、キングピン軸KSをステアリングホイールが中立位置にある状態で、タイヤ接地面内を通るようにし、タイヤ接地面内にキャスタトレイルを設定しているため、キングピン軸KS周りのモーメントをより小さくすることができる。
したがって、第1実施形態でも、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。すなわち、操縦性・安定性を向上させることができる。
したがって、第1実施形態でも、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。すなわち、操縦性・安定性を向上させることができる。
このように、上記第1実施形態では、少なくともキングピン軸KSがタイヤ接地面内を通るように設定することにより、サスペンション装置1B自体が転舵応答性を向上させた構成とされ、これに加えてステアバイワイヤシステムSBWの直進性担保部SGによって転舵特性を制御する転舵角制御、直進性補完および外乱補償を行ってサスペンション装置1Bの直進性を担保している。
このため、ステアリングホイール2を中立位置に保持している状態から右または左操舵を行った場合に、初期応答期間T1ではサスペンション装置1B自体の高い転舵応答性を利用して高応答性を確保する。その後、初期応答期間T1を経過して中期応答期間T2に入ると、転舵応答性を重視するよりは操縦安定性を重視する必要があり、ステアバイワイヤシステムSBWにおける遅延制御部56のゲイン調整部56cで制御ゲインGaが“1”に設定されることにより、直進性担保部SGで算出した直進性担保制御値δaによる直進性担保制御を開始する。
このため、転舵角制御、直進性補完および外乱補償等の直進性担保制御が開始されることにより、サスペンション装置1Bによる高い転舵応答性を抑制して操縦安定性を確保する。さらに、後期応答期間T3では、車両の内側への巻き込み現象を抑制するように転舵応答性をさらに低減させてアンダーステア傾向として車両のふらつきをより抑制して理想的な転舵応答性制御を確立することができる。
さらに、転舵角制御部52を備えて、コンプライアンスステアによる転舵輪17FLおよび17FRの変位量を考慮した直進性担保制御を行うことができる。このため、ロアリンク部材である第1リンク37と第2リンク38との車体1A側の支持部に介挿されるブッシュの剛性を弱く設定することが可能であり、第1リンク37と第2のリンク38とを通じて路面から車体1Aへの振動伝達率を低下させて乗心地を向上させることができる。
なお、上記第1実施形態においては、転舵制御装置50をハードウェアで構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば目標転舵角演算部51、直進性担保部SGを例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成し、この演算処理装置で、図20に示す転舵制御処理を実行するようにしてもよい。
この転舵制御処理は、図20に示すように、先ず、ステップS1で、車速V、操舵角度センサ4で検出した操舵角θs、転舵アクチュエータ角度センサ9で検出した回転角θmo、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS2に移行して、操舵角度センサ4で検出した操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右または左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS3に移行する。
この転舵制御処理は、図20に示すように、先ず、ステップS1で、車速V、操舵角度センサ4で検出した操舵角θs、転舵アクチュエータ角度センサ9で検出した回転角θmo、駆動力制御装置71の左右輪の駆動力TL,TR、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。次いで、ステップS2に移行して、操舵角度センサ4で検出した操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右または左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS3に移行する。
このステップS4では、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFが“1”にセットされているか否かを判定し、制御フラグFが“0”にリセットされているときには、ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定してからステップS5に移行する。
このステップS5では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
このステップS5では、前述した目標転舵角演算部51と同様に車速Vと操舵角θsに基づいて目標転舵角δ*を算出する。
次いで、ステップS6に移行して、前述した転舵角制御部52と同様に、左右輪の駆動力TLおよびTRにコンプライアンスステア係数sfを乗算してコンプライアンスステアによる転舵輪17FLおよび17FRの変位量ΔflおよびΔfrを算出し、これらに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。
次いで、ステップS7に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TLおよびTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。そして、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。ここで、セルフアライニングトルクTsaの算出には、上記に限定されるものではなく、前述した直進性補完部53で説明した種々の算出方法を適用することができる。
次いで、ステップS7に移行して、前述した直進性補完部53と同様に、左右輪の駆動力TLおよびTRの駆動力差ΔT(=TL−TR)に基づいて図17に示す発生トルク推定制御マップを参照して、トルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定する。そして、この発生トルクThを操舵トルクTsから減算してセルフアライニングトルクTsaを算出し、このセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算してセルフアライニングトルク制御値Asaを算出する。ここで、セルフアライニングトルクTsaの算出には、上記に限定されるものではなく、前述した直進性補完部53で説明した種々の算出方法を適用することができる。
次いで、ステップS8に移行して、転舵アクチュエータ角度センサ9からのモータ回転角θmo、操舵トルクTsおよびモータ電流検出部61で検出したモータ電流imrに基づいて車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。
次いで、ステップS9に移行して、目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Acと、セルフアライニングトルク制御値Asaと、外乱補償値Adisとに基づいて下記(4)式の演算を行って加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(4)
次いで、ステップS9に移行して、目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Acと、セルフアライニングトルク制御値Asaと、外乱補償値Adisとに基づいて下記(4)式の演算を行って加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(4)
次いで、ステップS10に移行して、ステップS9で算出した加算後目標転舵角δ*aを図16における転舵角偏差演算部58に出力してから前記ステップS1に戻る。
また、ステップS2の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS11に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS12に移行する。さらに、ステップS3の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS12に移行する。
このステップS12では、予め設定された遅延時間(例えば0.1秒)が経過したか否かを判定する。このとき、遅延時間が経過していないときには、ステップS13に移行し、制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS5に移行して、目標転舵角δ*を算出する。
また、ステップS2の判定結果が操舵開始状態であるときにはステップS11に移行して、制御フラグFを“1”にセットしてからステップS12に移行する。さらに、ステップS3の判定結果が、制御フラグFが“1”にセットされているときに直接ステップS12に移行する。
このステップS12では、予め設定された遅延時間(例えば0.1秒)が経過したか否かを判定する。このとき、遅延時間が経過していないときには、ステップS13に移行し、制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS5に移行して、目標転舵角δ*を算出する。
また、ステップS12の判定結果が、所定の遅延時間(例えば0.1秒)が経過したときには、ステップS14に移行して、制御フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定する。
この図20に示す転舵指令角度演算処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右または左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asaおよび外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御が行われる。
この図20に示す転舵指令角度演算処理でも、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右または左に操舵が開始された操舵開始状態ではないときには、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asaおよび外乱補償値Adisを加算した直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加算する直進性担保制御が行われる。
これに対して、ステアリングホイール2が中立位置に保持されている状態から右または左に操舵が開始された操舵開始状態であるときには、予め設定された遅延時間が経過するまでは、制御ゲインGaが“0”に設定されるため、直進性担保制御が停止される。このため、目標転舵角δ*のみが転舵角偏差演算部58に出力され、これによって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが回転駆動される。このため、初期転舵応答性はサスペンション装置自体の高転舵応答性が設定されることになり、高転舵応答性を得ることができる。
その後、遅延時間が経過すると、制御ゲインGaが“1”に設定されるため、目標転舵角δ*にコンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asaおよび外乱補償値Adisが加算された直進性担保制御値δaを目標転舵角δ*に加えた値によって転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aを回転駆動する。このため、サスペンション装置1Bの高転舵応答性が抑制されると共に、サスペンション装置1Bの直進性が担保されて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
この転舵制御処理でも、車両の直進走行状態では、目標転舵角δ*が零となり、外乱が生じない場合には、この目標転舵角δ*が直接図16の転舵角偏差演算部58に供給されるので、前述したと同様にアクチュエータ制御装置63によって直進性が担保される。
この図20の転舵制御処理において、ステップS5の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS6の処理が転舵角制御部52に対応し、ステップS7の処理が直進性補完部53に対応し、ステップS5〜S7の処理が直進性担保部SGに対応し:ステップS2〜S4、S11〜S14の処理が遅延制御部56に対応し、ステップS2〜S14の処理が転舵応答性設定部SRSに対応している。
この図20の転舵制御処理において、ステップS5の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS6の処理が転舵角制御部52に対応し、ステップS7の処理が直進性補完部53に対応し、ステップS5〜S7の処理が直進性担保部SGに対応し:ステップS2〜S4、S11〜S14の処理が遅延制御部56に対応し、ステップS2〜S14の処理が転舵応答性設定部SRSに対応している。
なお、図20の転舵制御処理では、転舵応答性設定部SRSで行う制御をソフトウェアで実現する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、転舵応答性設定部SRSの制御とアクチュエータ制御装置63の制御とを含めてソフトウェア処理するようにしてもよい。
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53および外乱補償部54で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、転舵角制御部52、直進性補完部53および外乱補償部54のいずれか1つまたは2つを省略するようにしてもよい。
また、上記第1実施形態においては、直進性担保部SGを転舵角制御部52、直進性補完部53および外乱補償部54で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、転舵角制御部52、直進性補完部53および外乱補償部54のいずれか1つまたは2つを省略するようにしてもよい。
(第1実施形態の効果)
(1)前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材とを備えている。そして、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、車幅方向外側で且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは平面視における仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされている。
(1)前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材とを備えている。そして、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、車幅方向外側で且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは平面視における仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされている。
これにより、転舵輪の転舵時に互いに交差する第1ロアリンク部材と第2ロアリンク部材との交点の仮想ロアピボット点が車幅方向外側に移動することにより、スクラブ半径をポジティブスクラブの範囲で小さくなろうとする。このとき、第1アッパーリンク部材と第2アッパーリンク部材とで形成される仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有することにより、スクラブ半径の縮小を抑制することができる。
このとき、仮想アッパーピボット点の移動方向を仮想ロアピボット点の移動方向に合わせると、スクラブ半径の縮小を抑制する他に、キングピン傾角やキャスタ角の変化を抑制し、転舵輪の転舵時のラック軸力を小さく維持することが可能となる。
このとき、仮想アッパーピボット点の移動方向を仮想ロアピボット点の移動方向に合わせると、スクラブ半径の縮小を抑制する他に、キングピン傾角やキャスタ角の変化を抑制し、転舵輪の転舵時のラック軸力を小さく維持することが可能となる。
(2)前記アッパーピボット点および前記ロアピボット点を結ぶキングピン軸が、タイヤ接地面内を通る構成とした。
これにより、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、操縦性・安定性を向上させることができる。
これにより、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、操縦性・安定性を向上させることができる。
(3)前記第1ロアリンク部材および前記第2ロアリンク部材は、互いに交差し、車幅方向に対して前記第1ロアリンク部材が車両前方側に傾きを持つテンションリンク型のロアリンク構造とされている。
このため、第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材の平面視における交点で表される仮想ロアピボット点を車幅方向内側に設定することができる。このため、仮想アッパーピボット点との関係でスクラブ半径をポジティブスクラブの範囲内で大きく設定することができる。
このため、第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材の平面視における交点で表される仮想ロアピボット点を車幅方向内側に設定することができる。このため、仮想アッパーピボット点との関係でスクラブ半径をポジティブスクラブの範囲内で大きく設定することができる。
(4)前記第1ロアリンク部材はテンションリンクで構成され、前記第2ロアリンク部材はトランスバースリンクで構成されている。
この構成によると、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、テンションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
この構成によると、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、テンションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
(5)前記第1アッパーリンク部材および前記第2アッパーリンク部材は、互いに交差し、車幅方向に対して前記第2アッパーリンク部材が前記第1アッパーリンク部材よりも車両前方側に傾きを持つテンションリンク型のアッパーリンク構造とされている。
したがって、第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の平面視における交点で表される仮想アッパーピボット点を第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材の平面視における交点で表される仮想ロアピボット点と略平行に車幅方向外側前方に移動させることができる。このため、スクラブ半径のポジティブスクラブ範囲内での縮小を抑制することができると共に、キングピン傾角、キャスタ角の変化を抑制することができる。
したがって、第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の平面視における交点で表される仮想アッパーピボット点を第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材の平面視における交点で表される仮想ロアピボット点と略平行に車幅方向外側前方に移動させることができる。このため、スクラブ半径のポジティブスクラブ範囲内での縮小を抑制することができると共に、キングピン傾角、キャスタ角の変化を抑制することができる。
(6)前記第1アッパーリンク部材はテンションリンクで構成され、前記第2アッパーリンク部材はトランスバースリンクで構成されている。
このため、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、テンションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
このため、車両前後方向の力が支配的な状況において、タイヤ接地点に入力した車両前後方向の後方向きの力に対し、トランスバースリンク部材の車輪側の連結部が車両内向きに移動する。また、タイロッド部材の車輪側の連結部は車体側の連結部を中心に回転して車両外向きに移動する。さらに、テンションリンク部材の車輪側の連結部は車両内向きに移動する。
そのため、車輪をトーアウト方向に向けるコンプライアンスステアを実現することができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
(7)車両用サスペンション装置でステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することとした。
したがって、ステアバイワイヤシステムにおける転舵アクチュエータを利用して、本発明におけるキングピン軸の設定やキャスタトレイルの設定に対応させて直進性を補完する制御を行うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
したがって、車両用サスペンション装置において、車両前後方向の力に対するコンプライアンスステア特性をより適切なものとすることが可能となる。
(7)車両用サスペンション装置でステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することとした。
したがって、ステアバイワイヤシステムにおける転舵アクチュエータを利用して、本発明におけるキングピン軸の設定やキャスタトレイルの設定に対応させて直進性を補完する制御を行うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
(8)サスペンション装置はタイヤ接地面を通るようにキングピン軸を設定して直進性より転舵応答性を重視した構成とされ、転舵制御装置は、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと、前記転舵輪の転舵角がステアリングホイールの操舵角に対応するように前記転舵アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備え、前記サスペンション装置の転舵応答性の重視による直進性の低下を補うように前記転舵アクチュエータを制御する。
これにより、サスペンション装置のキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスタ角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。
これにより、サスペンション装置のキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスタ角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。
(9)前記転舵制御装置はステアバイワイヤシステムで構成されている。
この構成とすることにより、サスペンション装置の転舵応答性を確保することによる直進性の低下をステアバイワイヤシステムで補完することができる。
(10)前記ステアバイワイヤシステムは、前記サスペンション装置の転舵応答性の重視による直進性の低下を補うように前記転舵アクチュエータを制御する直進性担保部を備えている。
この構成とすることにより、直進性担保部で、サスペンション装置の直進性の低下を補うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
この構成とすることにより、サスペンション装置の転舵応答性を確保することによる直進性の低下をステアバイワイヤシステムで補完することができる。
(10)前記ステアバイワイヤシステムは、前記サスペンション装置の転舵応答性の重視による直進性の低下を補うように前記転舵アクチュエータを制御する直進性担保部を備えている。
この構成とすることにより、直進性担保部で、サスペンション装置の直進性の低下を補うことができ、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
(11)前記直進性担保部は、セルフアライニングトルクを算出して前記サスペンション装置の直進性を担保する。
この構成とすることにより、直進性担保部で、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(12)前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を調整して初期転舵応答性を前記サスペンション装置自体の転舵応答性に設定する転舵応答性設定部を備えている。
この構成によると、ステアリングホイールの中立位置から転舵を開始したときに、初期応答特性を高転舵応答性とすることができる。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整することにより、理想的な転舵応答性を確保することができる。
この構成とすることにより、直進性担保部で、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(12)前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を調整して初期転舵応答性を前記サスペンション装置自体の転舵応答性に設定する転舵応答性設定部を備えている。
この構成によると、ステアリングホイールの中立位置から転舵を開始したときに、初期応答特性を高転舵応答性とすることができる。その後、サスペンション装置自体の転舵応答性を直進性担保部による直進性担保制御で調整することにより、理想的な転舵応答性を確保することができる。
(13)前記転舵制御装置は、コンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行う転舵角制御部を有する。
この構成によると、したがって、サスペンション装置を構成するロアアームの車体側支持部に介挿したブッシュの剛性を低下させることが可能となり、車両の乗心地を向上させることができる。
この構成によると、したがって、サスペンション装置を構成するロアアームの車体側支持部に介挿したブッシュの剛性を低下させることが可能となり、車両の乗心地を向上させることができる。
(14)前記転舵制御装置は、少なくとも前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、初期転舵状態では、前記サスペンション装置自体の転舵応答性で高い転舵応答性を設定し、前記初期転舵状態を経過した転舵状態であるときに、前記直進性担保部による直進性担保制御によって必要とする転舵応答性を設定する転舵応答性設定部を備えている。
この構成によると、初期転舵にサスペンション装置の高い転舵応答特性を確保し、初期設定時間経過後に直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を行うことができ、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
この構成によると、初期転舵にサスペンション装置の高い転舵応答特性を確保し、初期設定時間経過後に直進性担保部で前記転舵アクチュエータの前記サスペンション装置自体の直進性を担保する制御を行うことができ、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
(15)前記転舵応答性設定部は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を遅らせる遅延制御部を備えている。
この構成によると、遅延制御部で、直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせるので、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答性とすることができる。
(16)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有する。
この構成によると、これにより、ゲイン調整部で、例えば直進性担保制御における直進性担保制御値に対するゲインを“0”に設定することにより、直進性担保制御を行わず、ゲインを“0”より大きい値例えば“1”に設定することにより、直進性担保制御を開始することができる。このため、ゲイン調整部を設けることにより、直進性担保制御の開始の調整を容易に行うことができる。
この構成によると、遅延制御部で、直進性担保部による直進性担保制御の開始を遅らせるので、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答性とすることができる。
(16)前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有する。
この構成によると、これにより、ゲイン調整部で、例えば直進性担保制御における直進性担保制御値に対するゲインを“0”に設定することにより、直進性担保制御を行わず、ゲインを“0”より大きい値例えば“1”に設定することにより、直進性担保制御を開始することができる。このため、ゲイン調整部を設けることにより、直進性担保制御の開始の調整を容易に行うことができる。
(17)前記遅延制御部は、直進性担保部による直進性担保制御を前記ステアリングホイールが中立位置を保持している状態から右または左に操舵した操舵開始タイミングから0.1秒遅延させた後に開始させる。
この構成によると、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
この構成によると、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
(18)前記転舵制御装置は、操舵角に応じた目標転舵角を演算する目標転舵角演算部と、該目標転舵角演算部で演算した目標転舵角に前記直進性担保部の直進性担保制御値を加える加算器と、該加算器の加算出力と前記転舵アクチュエータを構成する転舵モータの回転角度とを一致させるモータ指令電流を形成する転舵モータ制御部と、前記モータ指令電流に一致する前記転舵モータに供給するモータ駆動電流を形成する電流制御部とを備えている。
この構成によると、目標転舵角演算部で、ステアリングホイールの操舵角に応じた目標転舵角を演算し、この目標転舵角に加算器で直進性担保制御値を加算し、転舵モータ制御部で、加算器の加算出力にアクチュエータを構成する転舵モータの回転角度を一致させる目標モータ電流を形成し、モータ電流制御部で目標モータ指令電流に一致させるモータ駆動電流を形成し、これを転舵モータに出力することにより、転舵モータをステアリングホイールの操舵角に応じて駆動制御することができる。ここで、目標転舵角演算部から出力される目標転舵角を転舵応答性制御部で調整しているので、最適な転舵制御を行うことができる。
(19)転舵輪を回転自在に支持する車軸を備えたアクスルキャリアと、前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、車幅方向外側で且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは、平面視における両者の交点で表される仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされ、キングピン軸をステアリングホイールの中立位置でタイヤ接地面内を通るように設定したサスペンション装置に支持され転舵輪の転舵制御方法であって、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じてアクチュエータにより前記転舵輪を転舵すると共に、前記アクチュエータを作動させて前記転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与し車両の直進性を担保する制御を行うようにしている。
この方法によると、サスペンション装置のキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスタ角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。そして、このサスペンション装置で不足する直進性を転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与することにより担保する。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスタ角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。そして、このサスペンション装置で不足する直進性を転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与することにより担保する。
(20)転舵輪を回転自在に支持する車軸を備えたアクスルキャリアと、前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、車幅方向外側で且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは、平面視における両者の交点で表される仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされ、キングピン軸をステアリングホイールの中立位置でタイヤ接地面内を通るように設定したサスペンション装置に支持され転舵輪の転舵制御方法であって、前記ステアリングホイールを操舵したときの操舵角の変位を検出し、検出結果に基づいて転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを制御すると共に、前記転舵アクチュエータを作動させて前記転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与し車両の直進性を担保する制御を行い、且つ前記ステアリングホイールを中立位置からの転舵の開始時に、転舵開始初期に前記サスペンション装置自体の転舵応答性を初期転舵応答特性とし、初期設定時間経過後に前記転舵アクチュエータの車両の直進性を担保する制御を開始する。
この方法によると、サスペンション装置のキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができるため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスタ角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。そして、このサスペンション装置で不足する直進性を転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与することにより担保する。
したがって、転舵応答性を向上させることができる。このとき、キャスタ角を零近傍の値とすることにより、転舵応答性をより高めたサスペンション装置を構成することができる。そして、このサスペンション装置で不足する直進性を転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与することにより担保する。
さらに、ステアリングホイールを中立位置からの転舵の開始時に、転舵開始初期に前記サスペンション装置自体の転舵応答性を初期転舵応答特性とし、初期設定時間経過後に前記転舵アクチュエータの車両の直進性を担保する制御を開始することにより、旋回初期にサスペンション装置の転舵応答性によって旋回開始し、初期設定時間経過後に前記転舵アクチュエータの車両の直進性を担保する制御を開始する。このため、サスペンション装置1Bによる車両の転舵応答性を抑制して車両のふらつきを抑制するとともに、転舵制御によってサスペンション装置の直進性を補完して、操縦安定性を確保することができる。
(21)前記車両の直進性を担保する制御は、転舵状態に基づいてセルフアライニングトルクを算出し、算出したセルフアライニングトルクを転舵輪に付与する。
この方法によると、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(22)前記初期設定時間は0.1秒に設定されている。
この方法によると、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
この方法によると、サスペンション装置の高応答性を確保することにより低下した直進性をセルフアライニングトルクで担保することができ、操縦・安定性を向上させることができる。
(22)前記初期設定時間は0.1秒に設定されている。
この方法によると、初期転舵応答特性をサスペンション装置自体の高転舵応答特性を有効に利用することができ、0.1秒の初期期間が経過した後に直進性担保部による直進性担保制御を開始させて、理想的な転舵応答特性を得ることができる。
(応用例1)
第1実施形態では、タイヤ接地面内にキングピン軸を設定するものとし、その一例として、キャスタトレイルをゼロに近い値として、キングピン軸の路面着地点をタイヤ接地面中心点に一致させる場合について説明した。
これに対し、本応用例では、キングピン軸の設定条件をタイヤ接地面中心点からタイヤ接地面の前端までの範囲に限定するものとする。
(効果)
キングピン軸の路面着地点をタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までに設定すると、直進性の確保と操舵操作の重さの低減を両立できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
第1実施形態では、タイヤ接地面内にキングピン軸を設定するものとし、その一例として、キャスタトレイルをゼロに近い値として、キングピン軸の路面着地点をタイヤ接地面中心点に一致させる場合について説明した。
これに対し、本応用例では、キングピン軸の設定条件をタイヤ接地面中心点からタイヤ接地面の前端までの範囲に限定するものとする。
(効果)
キングピン軸の路面着地点をタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までに設定すると、直進性の確保と操舵操作の重さの低減を両立できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
(応用例2)
第1実施形態においては、図10に示す座標平面において、一点鎖線で囲んだ領域を設定に適する領域として例に挙げた。これに対し、注目するラック軸力の等値線を境界線とし、その境界線が示す範囲より内側の領域(キングピン傾角の減少方向でスクラブ半径の増加方向)を設定に適する領域とすることができる。
(効果)
ラック軸力の最大値を想定して、その最大値以下の範囲にサスペンションジオメトリを設定することができる。
第1実施形態においては、図10に示す座標平面において、一点鎖線で囲んだ領域を設定に適する領域として例に挙げた。これに対し、注目するラック軸力の等値線を境界線とし、その境界線が示す範囲より内側の領域(キングピン傾角の減少方向でスクラブ半径の増加方向)を設定に適する領域とすることができる。
(効果)
ラック軸力の最大値を想定して、その最大値以下の範囲にサスペンションジオメトリを設定することができる。
(応用例3)
第1および第2実施形態および各応用例では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用する場合を例に挙げて説明したが、ステアバイワイヤ方式ではなく、機械的な操舵機構の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用することが可能である。
この場合、キングピン軸を上記検討結果に基づく条件に従って決定し、キャスタトレイルをタイヤ接地面内に設定した上で、機械的な操舵機構のリンク配置をそれに合わせて構成する。
(効果)
機械的な構造を有する操舵機構においても、キングピン軸周りのモーメントを低減して運転者に要する操舵力をより小さいものとでき、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
第1および第2実施形態および各応用例では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用する場合を例に挙げて説明したが、ステアバイワイヤ方式ではなく、機械的な操舵機構の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用することが可能である。
この場合、キングピン軸を上記検討結果に基づく条件に従って決定し、キャスタトレイルをタイヤ接地面内に設定した上で、機械的な操舵機構のリンク配置をそれに合わせて構成する。
(効果)
機械的な構造を有する操舵機構においても、キングピン軸周りのモーメントを低減して運転者に要する操舵力をより小さいものとでき、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図21〜図23について説明する。
この第2実施形態は、前述した第1実施形態のアッパーリンク構造をテンション型の構造とする場合に代えて、コンプレッション型のアッパーリンク構造としたものである。
すなわち、第2実施形態では、図21に示すように、転舵輪17FLおよび17FRを支持するナックル70の車軸70aの下端側に連結されたロアリンク構造は、前述した第1実施形態と同様にトランスバースリンク(第1ロアリンク部材)37およびテンションリンク(第2ロアリンク部材)38を交差させたテンション型の構造とされている。
次に、本発明の第2実施形態を図21〜図23について説明する。
この第2実施形態は、前述した第1実施形態のアッパーリンク構造をテンション型の構造とする場合に代えて、コンプレッション型のアッパーリンク構造としたものである。
すなわち、第2実施形態では、図21に示すように、転舵輪17FLおよび17FRを支持するナックル70の車軸70aの下端側に連結されたロアリンク構造は、前述した第1実施形態と同様にトランスバースリンク(第1ロアリンク部材)37およびテンションリンク(第2ロアリンク部材)38を交差させたテンション型の構造とされている。
これに対して、ナックル70の上端に連結されたアッパーリンク構造は、平面視でタイヤ中心軸の僅か車両前後方向後方側に車軸方向に延長して配置された第1アッパーリンクとしてのトランスバースリンク(トランスバースリンク部材)71と、このトランスバースリンク71の車両前後方向後方側に配置された第2アッパーリンクとしてのコンプレッションリンク(コンプレッションリンク部材)72とでリンク自体は交差しないが車輪側の延長線が交差する構造とされている。これらトランスバースリンク71およびコンプレッションリンク72のそれぞれはIアームで構成され、ナックル70の上端に支持された2つのボールジョイント74に個別に支持されている。
ここで、トランスバースリンク71は、図23(a)に模式的に示すように、ナックル70の上端の車輪側取付点TBUaが転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向内側でタイヤ中心軸の僅か車両前後方向後方側に配置され、車体側取付点TBUbが同様に車幅方向内側でタイヤ中心軸の僅か車両前後方向後方側に配置されている。
また、コンプレッションリンク72は、図23(a)に模式的に示すように、ナックル70の上端の車輪側取付点CPUaが転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向内側でトランスバースリンク71の車輪側取付点TBUaから車両前後方向後方側に配置され、車体側取付点CPUbが車輪側取付点CPUaから車両前後方向後方側で車幅方向内方に配置されている。したがって、コンプレッションリンク72は、車輪側取付点CPUaから斜め後方に延長している。
また、コンプレッションリンク72は、図23(a)に模式的に示すように、ナックル70の上端の車輪側取付点CPUaが転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向内側でトランスバースリンク71の車輪側取付点TBUaから車両前後方向後方側に配置され、車体側取付点CPUbが車輪側取付点CPUaから車両前後方向後方側で車幅方向内方に配置されている。したがって、コンプレッションリンク72は、車輪側取付点CPUaから斜め後方に延長している。
上記アッパーリンク構造は、仮想アッパーピボット点PUが平面視で前述した第1実施形態のアッパーリンク構造とは異なってトランスバースリンク71およびコンプレッションリンク72の転舵輪側の延長線が交差する点となる。このアッパーピボット点PUは、図23(a)に示すように、転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向の僅か内側で車軸中心線より僅か車両前後方向後方側に設定されている。
一方、ロアリンク構造では、図23(b)に示すように、前述した第1実施形態と同様に、仮想ロアピボット点PLが転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向内側端部近傍で且つ車軸中心線より車両前後方向で僅か前側に設定されている。
したがって、仮想アッパーピボット点PUおよび仮想ロアピボット点PLを結ぶキングピン軸KSは、図22に示すように、その路面着地点がタイヤ接地面内でタイヤ接地面中心点より車両前方側となる。このため、キングピン傾角を15度以下とすることができるとともに、キャスタ角が零度近傍となって、前述した第1の実施形態と同様にキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。このため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。これにより、操縦性・安定性を向上させることができる。
したがって、仮想アッパーピボット点PUおよび仮想ロアピボット点PLを結ぶキングピン軸KSは、図22に示すように、その路面着地点がタイヤ接地面内でタイヤ接地面中心点より車両前方側となる。このため、キングピン傾角を15度以下とすることができるとともに、キャスタ角が零度近傍となって、前述した第1の実施形態と同様にキングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。このため、より小さいラック軸力で転舵を行うことができると共に、より小さい力で車輪の向きを制御できる。これにより、操縦性・安定性を向上させることができる。
そして、転舵輪17FLおよび17FRが直進走行状態から転舵された場合に、ロアリンク構造では、テンション型の構造とされているので、前述した第1の実施形態と同様に、転舵により仮想ピボット点PLが図23(b)に示すように、車幅方向外側で車両前後方向前側の方向に斜め前方に移動する。
これに対して、アッパーリンクでは、図23(a)に示すように、直進走行状態では、仮想アッパーピボット点PUが平面視において転舵輪17FLおよび17FRの車軸中心軸の近傍で、車両前後方向の僅か後方側で転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向の内側となる位置となる。この状態から旋回外輪となるように転舵すると、仮想アッパーピボット点PUは、車幅方向外側で且つ車両前後方向後方側に移動することになる。
これに対して、アッパーリンクでは、図23(a)に示すように、直進走行状態では、仮想アッパーピボット点PUが平面視において転舵輪17FLおよび17FRの車軸中心軸の近傍で、車両前後方向の僅か後方側で転舵輪17FLおよび17FRの車幅方向の内側となる位置となる。この状態から旋回外輪となるように転舵すると、仮想アッパーピボット点PUは、車幅方向外側で且つ車両前後方向後方側に移動することになる。
このため、車幅方向の成分でみると、仮想ロアピボット点PLが車幅方向外側に移動することによるポジティブスクラブ領域内でのスクラブ半径の減少を、仮想アッパーピボット点PUの車幅方向外側に移動することにより、抑制することができる。これと同時にキングピン傾角の増加も抑制することができる。
このとき、車両前後方向の成分では、仮想ロアピボット点PLが車両前方に移動し、仮想アッパーピボット点PUが車両後方に移動することにより、転舵時にキャスタ角が大きくなり、キャスタトレイルが増加し、高い横加速度が発生する旋回時において、転舵角の切れ増しが生ずることを確実に抑制できる。
このとき、車両前後方向の成分では、仮想ロアピボット点PLが車両前方に移動し、仮想アッパーピボット点PUが車両後方に移動することにより、転舵時にキャスタ角が大きくなり、キャスタトレイルが増加し、高い横加速度が発生する旋回時において、転舵角の切れ増しが生ずることを確実に抑制できる。
(第2実施形態の効果)
(1)アッパーリンク構造を第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材との2本のリンクで構成し、旋回時に第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の車輪側取付点側の延長線が平面視で交差する点で表される仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有するアッパーリンク構造とした。
この構成によると、転舵輪の転舵時に互いに交差する第1ロアリンク部材と第2ロアリンク部材との交点の仮想ロアピボット点が車幅方向外側に移動することにより、スクラブ半径をポジティブスクラブの範囲で小さくなろうとする。このとき、第1アッパーリンク部材と第2アッパーリンク部材との交点の仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有することにより、スクラブ半径の縮小を抑制することができる。
(1)アッパーリンク構造を第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材との2本のリンクで構成し、旋回時に第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の車輪側取付点側の延長線が平面視で交差する点で表される仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有するアッパーリンク構造とした。
この構成によると、転舵輪の転舵時に互いに交差する第1ロアリンク部材と第2ロアリンク部材との交点の仮想ロアピボット点が車幅方向外側に移動することにより、スクラブ半径をポジティブスクラブの範囲で小さくなろうとする。このとき、第1アッパーリンク部材と第2アッパーリンク部材との交点の仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有することにより、スクラブ半径の縮小を抑制することができる。
このとき、仮想アッパーピボット点の移動方向を仮想ロアピボット点の移動方向に合わせると、スクラブ半径の縮小を抑制する他に、キングピン傾角の変化を抑制し、転舵輪の転舵時のラック軸力を小さく維持することが可能となる。また、旋回時に仮想アッパーピボット点が車両前後方向後方に移動する成分を有させることにより、キャスタ角が大きくなって、キャスタトレイルが増加することなり、高い横加速度が発生する旋回時において、転舵角の切れ増しが生ずることを確実に抑制できる。
(2)前記第1アッパーリンク部材はトランスバースリンク部材で構成され、前記第2アッパーリンク部材はコンプレッションリンク部材で構成されている。
この構成によると、転舵時に仮想アッパーピボット点を車幅方向外側で車両前後方向後方に移動させることができる。したがって、互いに交差する第1ロアリンク部材と第2ロアリンク部材との交点の仮想ロアピボット点が転舵輪の転舵時に車幅方向外側且つ車両前後方向前方側に移動する場合に、第1アッパーリンク部材と第2アッパーリンク部材との交点の仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有することにより、スクラブ半径の縮小を抑制することができる。このとき、キングピン傾角の変化も抑制することができる。さらに、旋回時に仮想アッパーピボット点が車両前後方向後方に移動する成分を有させることにより、キャスタ角が大きくなって、キャスタトレイルが増加することなり、高い横加速度が発生する旋回時において、転舵角の切れ増しが生ずることを確実に抑制できる。
この構成によると、転舵時に仮想アッパーピボット点を車幅方向外側で車両前後方向後方に移動させることができる。したがって、互いに交差する第1ロアリンク部材と第2ロアリンク部材との交点の仮想ロアピボット点が転舵輪の転舵時に車幅方向外側且つ車両前後方向前方側に移動する場合に、第1アッパーリンク部材と第2アッパーリンク部材との交点の仮想アッパーピボット点が車幅方向外側に移動する成分を有することにより、スクラブ半径の縮小を抑制することができる。このとき、キングピン傾角の変化も抑制することができる。さらに、旋回時に仮想アッパーピボット点が車両前後方向後方に移動する成分を有させることにより、キャスタ角が大きくなって、キャスタトレイルが増加することなり、高い横加速度が発生する旋回時において、転舵角の切れ増しが生ずることを確実に抑制できる。
1…自動車、1A…車体、1B…サスペンション装置、2…ステアリングホイール、3…入力側ステアリング軸、4…操舵角度センサ、5…操舵トルクセンサ、6…操舵反力アクチュエータ、7…操舵反力アクチュエータ角度センサ、8…転舵アクチュエータ、9…転舵アクチュエータ角度センサ、10…出力側ステアリング軸、11…転舵トルクセンサ、12…ピニオンギア、14…ステアリングラック部材、15…タイロッド、17FR,17FL,17RR,17RL…車輪、21…車両状態パラメータ取得部、24FR,24FL,24RR,24RL…車輪速センサ、26…コントロール/駆動回路、27…メカニカルバックアップ、32…車軸、33…アクスルキャリア、34…バネ部材、37,39…トランスバースリンク(トランスバースリンク部材)、38,40…テンションリンク(テンションリンク部材)、41…ショックアブソーバ、50…転舵制御部、51…目標転舵角演算部、52…転舵角制御部、53…直進性補完部、54…外乱補償部、55…加算器、56…遅延制御部、56a…操舵開始検出部、56b…単安定回路、56c…ゲイン調整部、56d…乗算器、56e…加算器、58…転舵角偏差演算部、59…転舵モータ制御部、60…電流偏差演算部、61…モータ電流検出部、62…モータ電流制御部、63…アクチュエータ制御装置、65…駆動力制御装置、70…ナックル、71…トランスバースリンク、72…コンプレッションリンク
Claims (24)
- 転舵輪を回転自在に支持する車軸を備えたアクスルキャリアと、
前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、
前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材とを備え、
前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、平面視で車幅方向外側且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、
前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは、平面視における両者の交点で表される仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされている
ことを特徴とする車両用サスペンション装置。
- 前記仮想アッパーピボット点および前記仮想ロアピボット点を結ぶキングピン軸が、タイヤ接地面内を通ることを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
- 前記第1ロアリンク部材および前記第2ロアリンク部材は、互いに交差し、車幅方向に対して前記第2ロアリンク部材が車両前方側に傾きを持つテンションリンク型のロアリンク構造とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用サスペンション装置。
- 前記第1ロアリンク部材はトランスバースリンク部材で構成され、前記第2ロアリンク部材はテンションリンク部材で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用サスペンション装置。
- 前記第1アッパーリンク部材および前記第2アッパーリンク部材は、互いに交差し、車幅方向に対して前記第2アッパーリンク部材が前記第1アッパーリンク部材よりも車両前方側に大きな傾きを持つテンションリンク型のアッパーリンク構造とされていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
- 前記第1アッパーリンク部材はトランスバースリンクで構成され、前記第2アッパーリンク部材はテンションリンクで構成されていることを特徴とする請求項5に記載の車両用サスペンション装置。
- 前記第1アッパーリンク部材および前記第2アッパーリンク部材は、車幅方向に対して前記第2アッパーリンク部材が前記第1アッパーリンク部材よりも車両後方側に傾きを持ち車輪側延長部が交差するコンプレッションロッド型のアッパーリンク構造とされていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
- 前記第1アッパーリンク部材はトランスバースリンク部材で構成され、前記第2アッパーリンク部材はテンションリンク部材で構成されていることを特徴とする請求項7に記載の車両用サスペンション装置。
- ステアリングホイールの変位を検出し、検出結果に基づいてステアリングラックをアクチュエータで変位させるステアバイワイヤシステムによる転舵輪を懸架することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車両用サスペンション装置。
- ステアリングホイールの操舵状態に応じて当該ステアリングホイールと分離された転舵輪を制御する転舵制御装置と、
前記転舵輪を車体に支持する請求項2から8のいずれか1項に記載のサスペンション装置とを備え、
前記サスペンション装置はタイヤ接地面を通るようにキングピン軸を設定して直進性より転舵応答性を重視した構成とされ、
前記転舵制御装置は、前記転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと、前記転舵輪の転舵角が前記ステアリングホイールの操舵角に対応するように前記転舵アクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置とを備え、前記サスペンション装置の転舵応答性の重視による直進性の低下を補うように前記転舵アクチュエータを制御する
ことを特徴とする自動車。 - 前記転舵制御装置はステアバイワイヤシステムで構成されていることを特徴とする請求項10に記載の自動車。
- 前記ステアバイワイヤシステムは、前記サスペンション装置の転舵応答性の重視による直進性の低下を補うように前記転舵アクチュエータを制御する直進性担保部を備えていることを特徴とする請求項11に記載の自動車。
- 前記直進性担保部は、セルフアライニングトルクを算出して前記サスペンション装置の直進性を担保することを特徴とする請求項12に記載の自動車。
- 前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を調整して初期転舵応答性を前記サスペンション装置自体の転舵応答性に設定する転舵応答性設定部を備えていること特徴とする請求項12または13に記載の自動車。
- 前記転舵制御装置は、コンプライアンスステアを推定して転舵輪の変位補正を行う転舵角制御部を有することを特徴とする請求項11から14のいずれか1項に記載の自動車。
- 前記転舵制御装置は、少なくとも前記ステアリングホイールを中立位置から操舵を開始したときに、初期転舵状態では、前記サスペンション装置自体の転舵応答性で高い転舵応答性を設定し、前記初期転舵状態を経過した転舵状態であるときに、前記直進性担保部による直進性担保制御によって必要とする転舵応答性を設定する転舵応答性設定部を備えていること特徴とする請求項11から15のいずれか1項に記載の自動車。
- 前記転舵応答性設定部は、前記ステアリングホイールを中立位置から操舵したときに、前記直進性担保部による直進性担保制御を遅らせる遅延制御部を備えていることを特徴とする請求項14に記載の自動車。
- 前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御の開始を調整するゲイン調整部を有することを特徴とする請求項17に記載の自動車。
- 前記遅延制御部は、前記直進性担保部による直進性担保制御を前記ステアリングホイールが中立位置を保持している状態から右または左に操舵した操舵開始タイミングから0.1秒遅延させた後に開始させることを特徴とする請求項17または18に記載の自動車。
- 前記転舵制御装置は、操舵角に応じた目標転舵角を演算する目標転舵角演算部と、該目標転舵角演算部で演算した目標転舵角に前記直進性担保部の直進性担保制御値を加える加算器と、該加算器の加算出力と前記転舵アクチュエータを構成する転舵モータの回転角度とを一致させるモータ指令電流を形成する転舵モータ制御部と、前記モータ指令電流に一致する前記転舵モータに供給するモータ駆動電流を形成する電流制御部とを備えていることを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載の自動車。
- 転舵輪を回転自在に支持する車軸を備えたアクスルキャリアと、前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、平面視で車幅方向外側且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは、平面視における両者の交点で表される仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされ、キングピン軸をステアリングホイールの中立位置でタイヤ接地面内を通るように設定したサスペンション装置に支持された転舵輪の転舵制御方法であって、
前記ステアリングホイールの操舵状態に応じてアクチュエータにより前記転舵輪を転舵すると共に、
前記アクチュエータを作動させて前記転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与し車両の直進性を担保する制御を行う
ことを特徴とする転舵制御方法。 - 転舵輪を回転自在に支持する車軸を備えたアクスルキャリアと、前記車軸の下側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1ロアリンク部材および第2ロアリンク部材と、前記車軸の上側で車体側支持部と前記アクスルキャリアとを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、前記第1ロアリンク部材と前記第2ロアリンク部材とは互いに交差し、且つ平面視における両者の交点で表される仮想ロアピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、平面視で車幅方向外側且つ前方に移動させるロアリンク構造とされ、前記第1アッパーリンク部材と前記第2アッパーリンク部材とは、平面視における両者の交点で表される仮想アッパーピボット点を、前記転舵輪が直進走行状態であるときから転舵されたときに、少なくとも車幅方向外側に移動させる成分を有するアッパーリンク構造とされ、キングピン軸をステアリングホイールの中立位置でタイヤ接地面内を通るように設定したサスペンション装置に支持された転舵輪の転舵制御方法であって、
前記ステアリングホイールを操舵したときの操舵角の変位を検出し、検出結果に基づいて転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを制御すると共に、
前記転舵アクチュエータを作動させて前記転舵輪にセルフアライニングのための復元力を付与し車両の直進性を担保する制御を行い、且つ
前記ステアリングホイールを中立位置からの転舵の開始時に、転舵開始初期に前記サスペンション装置自体の転舵応答性を初期転舵応答特性とし、初期設定時間経過後に前記転舵アクチュエータの車両の直進性を担保する制御を開始する
ことを特徴とする転舵制御方法。 - 前記車両の直進性を担保する制御は、転舵状態に基づいてセルフアライニングトルクを算出し、算出したセルフアライニングトルクを転舵輪に付与することを特徴とする請求項21または22に記載の転舵制御方法。
- 前記初期設定時間は0.1秒に設定されていることを特徴とする請求項22に記載の転舵輪の転舵制御方法。
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