JP5453688B2 - 内燃機関の燃焼制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関の燃焼室に発生するイオン信号に基づいてノックの発生を判定して、適切な運転を実現する燃焼制御装置に関する。
ノッキング(以下ノックと略す)とは、内燃機関の燃焼室において混合気の異常燃焼によって金属性の打撃音を発する現象を一般に意味する。そして、ノックを放置するとエンジン壁面の疲労劣化が促進されるなど、更なるトラブルに至るので、確実にノックを検出して、適切な燃焼制御を実行する必要がある。
ところで、内燃機関の燃焼室に発生するイオン電流は、点火放電後の放電ノイズの収束後に第一ピークを示し、上死点TDCの手前で減少した後に再び増加し、燃焼圧が最大となるクランク角の近傍で最大となって第二ピークを示すのが一般的である。図8は、この関係を図示したものであり、筒内圧が最大値Pmaxとなる位置と、イオン電流の第二ピーク位置とがほぼ一致している。
そして、この第二ピークの位置より後半のイオン電流波形を解析することで、ノッキングの発生を検出できることが知られている。そこで、本出願人は、ノイズ成分を排除してノック信号だけを特異的に抽出する手法について、各種の提案をしている(特許文献1〜特許文献3)。
特開2007−270830号公報 特開2007−239691号公報 特開2007−239518号公報
しかしながら、正常燃焼時と全く同一の運転条件でも、時として、ノック信号と同じ周波数域において同様の挙動を示す定在波が発生することがあり、これらの成分を、本来のノック信号と区別できる手法としては、未だ完全とは言えない。
そして、ノック信号を見落とすことが許されない一方で、逆に、定在波をノック信号と誤認したのでは、その後、内燃機関がノック回避の燃焼制御に移行することで十分な運転性能を発揮できない弊害が生じる。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、同じ周波数域において同様の挙動を示す定在波成分を、本来の検出対象であるノック信号と峻別して、適切な燃焼制御を実現できる燃焼制御装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明者は、各種の実験を繰返した。特に、打撃音が発生しない正常燃焼時における正常なイオン信号(第1グループ)、打撃音が発生しない正常燃焼時において定在波が重畳したイオン信号(第2グループ)、及び、検出対象のノック信号が重畳したノック発生時のイオン信号(第3グループ)、の各イオン信号波形について、ウェーブレット解析を繰返した。
その結果、ノック信号の周波数帯域を通過させるBPF(band pass filter)で処理しただけでは、第2グループと第3グループのイオン信号を峻別できないものの、BPF処理後の信号の包落線に着目すると、第2グループと第3グループのイオン信号を峻別できることを見出して本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る燃焼制御装置は、内燃機関の燃焼時に燃焼室に発生するイオン信号を取得する信号取得部と、取得されたイオン信号から、ノック信号の周波数帯域の信号を抽出する一次フィルタ部と、一次フィルタ部で抽出された一次処理信号の包落線に対応する包絡信号から、所定の周波数帯域の評価信号を抽出する二次フィルタ部と、二次フィルタ部で抽出された前記評価信号に基づいて、ノック発生の有無を評価する判定部と、を有して構成される。
本発明は、ハードウェア構成であってもソフトウェア構成であっても良いが、ハードウェア構成を採ると、フィルタ処理やその他の処理がリアルタイムに実現できる利点があり、ソフトウェア構成を採ると、回路構成が簡略化される上に、精密な処理が実現される利点がある。
図1(a)は、ハードウェア構成の実施態様を例示したものであり、信号取得部1と、一次フィルタ部2と、包絡信号生成部3と、二次フィルタ部4と、判定信号生成部5と、判定部6とで構成されている。ここで、包絡信号生成部3や判定信号生成部5は、例えば、包絡線検波回路で構成され、判定部6は、例えば、積分回路とコンパレータとで構成される。また、信号取得部1としては、実施例に例示するようなイオン電流検出回路が使用され、ハードウェア構成の一次フィルタや二次フィルタとしては、好ましくは、アクティブフィルタ回路が採用される。
但し、必ずしも、全ての構成要素をハードウェア構成とする必要はなく、構成要素の一部をソフトウェア処理によって実現しても良いのは勿論であり、その場合には、ソフトウェア処理に先行してAD変換部が配置される。例えば、二次フィルタ部4をデジタルフィルタその他のソフトウェア構成とすると共に、判定部6の積分回路を、これと同等の機能を発揮する積和演算で代用しても良く、そのような場合には、包絡信号生成部3の下流側にAD変換部が配置される。
一方、図1(b)は、ソフトウェア構成の実施態様を例示したものであり、信号取得部1’と、一次フィルタ部2’と、包絡信号生成部3’と、二次フィルタ部4’と、判定信号生成部5’と、判定部6’とで構成されている。この場合も、必ずしも、全ての構成要素をソフトウェア構成とする必要はないが、全ての構成要素をソフトウェア構成とする場合には、信号取得部1の前段に、イオン信号をデジタル変換するAD変換部が配置される。
図1(a)又は図1(b)の何れの構成を採る場合にも、本発明の一次フィルタ部2,2’では、ノック信号の周波数帯域の信号を抽出する必要があるので、一次フィルタ部2,2’は、予め実験的に特定されるノック信号の周波数(通常は5〜10kHz程度)を通過域とするBPFとされる。
そして、BPF特性を有する一次フィルタ部2,2’から出力される一次処理信号は、包絡信号生成部3において、一次処理信号の包絡線に対応する包絡信号に成形される。本発明者の研究結果によれば、一次処理信号の包絡線には、ノック発生時だけ特異的な信号(本明細書では、評価信号と称する)が重畳することが確認されている。この評価信号の周波数は、予めウェーブレット解析などによって特定されるが、通常の内燃機関では、1.0kHz〜2.5kHzの範囲内の周波数帯域を有している。したがって、後述する実施例では、二次フィルタ部4,4’として、1.6kHz〜2.2kHzの周波数帯域を通過域とするBPFを採用している。
図1(b)の構成の場合、一次フィルタ部2’や二次フィルタ部4’は、通常のデジタルフィルタであっても良いが、好ましくは、適宜に周波数設計されたウェーブレットと、被処理信号(イオン信号や判定信号)との畳み込み演算によって実現される。
より好ましくは、一次フィルタ部2’では、所望のバンドパスフィルタ特性Ψ(i)を逆フーリエ変換して得られる抽出関数HRe(j),HIm(j)と、イオン信号F(k)に対して、(式1a)(式1b)の演算が実行される。
X1(n)=ΣF(k)*HRe(n−k+L/2)・・・(式1a)
Y1(n)=ΣF(k)*HIm(n−k+L/2)・・・(式1b)
なお、(式1a)及び(式1b)では下記(1)〜(4)が成立する。
(1)バンドパスフィルタ特性Ψ(i)において、
サンプリング周波数fs、周波数f、フィルタ係数の総数Lに対して、
整数値i=L*f/fsであって、i=0,1,2,・・・,(L−1)
(2)抽出関数H(j)の実数部HRe(j)と虚数部HIm(j)において、
整数値j=0,1,2,・・・,(L/2−1)
(3)(式1a)(式1b)で算出されるデータは、整数値n=0〜N−1
(4)Σの数値範囲は、k=−L/2+1+nからk=L/2+nまでの整数範囲
一次フィルタ部2’について上記した点は、二次フィルタ部4’についても同様であり、好ましくは、二次フィルタ部4’では、所定の周波数帯域のバンドパスフィルタ特性Ψ’(i)を逆フーリエ変換して得られる抽出関数HRe’(j),HIm’(j)と、包絡信号SG1(k)に対して、
(式2a)(式2b)の畳み込み演算が実行される。
X2(n)=ΣSG1(k)*HRe’(n−k+L/2)・・・(式2a)
Y2(n)=ΣSG1(k)*HIm’(n−k+L/2)・・・(式2b)
なお、(式2a)及び(式2b)では下記(1)〜(4)が成立する。
(1)バンドパスフィルタ特性Ψ’(i)において、
サンプリング周波数fs、周波数f、フィルタ係数の総数L’に対して、
整数値i=L’*f/fsであって、i=0,1,2,・・・,(L’−1)
(2)抽出関数H’(j)の実数部HRe’(j)と虚数部HIm’(j)において、
整数値j=0,1,2,・・・,(L’/2−1)
(3)(式2a)(式2b)で算出されるデータは、整数値n=0〜N’−1
(4)Σの数値範囲は、k=−L’/2+1+nからk=L’/2+nまでの整数範囲
本発明の包絡信号SG1(n)は、一次処理信号の包落線に対応する形状を有するものであれば、特に限定されないが、好ましくは、一次フィルタ部における実数出力X1(n)と、虚数出力Y1(n)の二乗和の平方根であって、SG1(n)=SQRT(X1(n)+Y1(n))で与えられる。或いは、演算量を抑制する趣旨から、本発明の包絡信号は、一次フィルタ部における実数出力X1(n)または虚数出力Y1(n)に対する絶対値SG1(n)=ABS(X1(n))又はSG1(n)=ABS(Y1(n))で与えられるのも好適である。
また、本発明の評価信号SG2は、燃焼室の点火プラグがt=0で点火放電してから所定時間(通常は2mS程度)経過した後に発生することが確認されている。したがって、少なくとも、点火放電の終了直後のLC振動波を排除して一次フィルタ部2,2’を機能させるのが好ましい。そのため、点火放電の終了直後のLC振動波(放電ノイズ)をゼロレベルに抑制すると共に、評価信号を評価する評価区間[a,b]の開始点aに向けて信号レベルを漸増させるべく、信号取得部1で取得したイオン信号に、適宜な窓関数(ハニング窓やハミング窓)を利用した補正関数を作用させるのが好ましい。
何れにしても、判定部6,6’は、イオン信号の第二ピーク位置を包含する評価区間[a,b]について、評価信号SG2を判定するのが好ましい。評価区間[a,b]の始点aは、好適には、第二イオンピーク位置TOPの少し手前であって、TOP−δに設定される。ここで、付加時間δは、好ましくは、0.1mS〜0.6mS程度の値に設定される。
ところで、内燃機関の燃焼状態は、点火動作毎に変動するので、好適には、点火サイクル毎に第二ピーク位置TOPを特定すべきである。この場合、放電ノイズ区間後のイオン信号を評価して、そのレベルが最低となる最深点を特定するのが好ましい。また、最深点の後方側であって、最初に傾きゼロとなる頂点位置か、最大値を示す頂点位置を、第二ピーク位置TOPと特定するのが好適である。
なお、放電ノイズ区間か否かは、好適には、LC振動波の周波数が、イオン信号の周波数より顕著に高いことに基づいて判定される。但し、放電ノイ区間は、運転条件に基づいて、ほぼ特定できるので、運転条件毎に放電ノイズ区間を予め特定しておいても良い。この場合、運転条件は、エンジン回転数、エンジン吸気管圧力などによって特定される。
上記した本発明によれば、同じ周波数域において同様の挙動を示す定在波成分を、検出対象のノック信号と峻別できるので、適切な燃焼制御を実現することができる。
本発明のクレイム対応図である。 実施例に係る燃焼制御装置を示す回路図である。 コンピュータ回路における処理内容を説明するフローチャートである。 イオン信号波形を例示したものである。 抽出関数の導出過程を説明する図面である。 逆フーリエ変換を説明する図面である。 補正区間と、窓関数と、窓関数による演算後のイオン信号を図示したものである。 イオン電流の二次ピークを説明する図面である。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図2は、実施例に係る燃焼制御装置EQUの回路図であり、ソフトウェア構成(図1(b)参照)による装置構成を示している。
図2に示す通り、この燃焼制御装置EQUは、イオン信号Voを出力するイオン電流検出回路IONと、イオン信号Voをデジタル変換するAD変換部14と、AD変換部14の出力データを受けてノック判定をするコンピュータ回路15と、点火パルスIGNを出力すると共に、コンピュータ回路15からノック判定結果を受けるECU(Engine Control Unit)と、を中心に構成されている。
そして、この回路構成では、図1(b)に示す一次フィルタ部2’、包絡信号生成部3’、二次フィルタ部4’、判定信号生成部5’、及び判定部6’の全てが、コンピュータ回路15において実現され、信号取得部1’は、イオン電流検出回路IONとAD変換部14とで構成されている。なお、AD変換部14は、サンプル&ホールド機能を有しており、コンピュータ回路15は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)を構成要素にしている。
イオン電流検出回路IONは、一次コイルL1と二次コイルL2からなる点火トランスCLと、点火パルスIGNに基づく遷移動作によって一次コイルL1の電流をON/OFF制御するスイッチング素子Qと、二次コイルL2の誘起電圧を受けて放電動作をする点火プラグPGと、信号検出部DETと、を中心に構成されている。
スイッチング素子Qは、ここではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が使用されている。そして、スイッチング素子Qのコレクタ端子は、一次コイルL1を経由してバッテリ電圧VBを受けており、エミッタ端子は、グランドに接続されている。
信号検出部DETは、電流検出回路として機能するOPアンプAMPを中心に構成され、コンデンサC1、ツェナーダイオードZD、ダイオードD1,D2、抵抗R1〜R3を有して構成されている。コンデンサC1とツェナーダイオードZDの並列回路によって、イオン電流検出時のバイアス電圧が生成される。
二次コイルL2の高圧端子は、点火プラグPGに接続され、低圧端子は、前記バイアス電圧を生成するコンデンサC1及びツェナーダイオードZDの並列回路に接続されている。そして、コンデンサC1及びツェナーダイオードZDの並列回路は、ダイオードD1を通して、グランドに接続されている。図示の通り、ダイオードD1のカソード端子がグランドに接続されている。
一方、ダイオードD1のアノード端子は、電流制限抵抗R1を経由してOPアンプの反転入力端子(−)に接続されている。そして、OPアンプAMPの反転入力端子(−)と出力端子の間に、電流検出抵抗R2が接続され、出力端子とグランド間には、負荷抵抗R3が接続されている。また、OPアンプの非反転端子(+)は、グランドに接続され、反転端子(−)には、ダイオードD2のカソード端子が接続されている。なお、ダイオードD2のアノード端子はグランドに接続されている。
上記した構成のイオン電流検出回路IONでは、点火パルスIGNがHレベルからLレベルに変化すると、二次コイルL2に誘起される高電圧によって点火プラグPGが放電する。この放電電流は、点火プラグPG→二次コイルL2→コンデンサC1→ダイオードD1の経路で流れるので、コンデンサC1は、ツェナーダイオードZDの降伏電圧により規定される電圧値に充電される。
点火プラグPGの放電によって燃焼室の混合気が着火されると、その後、急速に燃焼反応が進行するが、イオン電流iは、電流検出抵抗R2→電流制限抵抗R1→コンデンサC1→二次コイルL2→点火プラグPGの経路で流れる。したがって、イオン電流検出回路IONの出力電圧Voは、Vo=R2*iとなり、イオン電流iに比例した値となる。
図3は、コンピュータ回路15において実現されるソフトウェア処理を示すフローチャートである。コンピュータ回路15では、点火サイクル毎に、点火放電から所定時間のイオン信号Diを取得して記憶する(ST1)。特に限定されないが、この実施例では、サンプリング周波数fsを30kHzとし、点火開始(t=0)からt=5mSまでのイオン信号Diを取得している。
図4は、打撃音が発生しない正常燃焼時における正常なイオン信号(a)と、同様の正常燃焼時において定在波が重畳したイオン信号(b)と、ノック信号が重畳したノック時のイオン信号(c)と、を示している。図4(c)に示す通り、ノック信号は、2mS〜4mS程度の区間に出現するが、同様の振動波が図4(b)にも現れるので、両者を峻別することは容易ではない。なお、この実施例では、点火開始タイミングt=0は、点火パルスSGの立下り時であり、その後、t=0.7mS程度までの区間は、点火放電が継続されるので、イオン信号が検出されない。
その後、イオン信号が検出されるが、点火放電の終了直後に出現する振動波の影響を排除して、その後の一次フィルタ処理を実行するのが好ましい。そのため、本実施例では、取得したイオン信号D(i)に、ハニング窓を利用した補正関数W(i)を作用させて、F(i)←D(i)*W(i)の演算を実行している(ST2)。
ここで、補正関数W(i)は、is<i≦ieの区間では、
W(i)=0.5−0.5*COS[π*(i−is)/{(ie−is)}]であり、その他の区間ではW(i)=0である。
上式において、i=is+1〜ieであり(is<i≦ie)、is及びieは、補正開始タイミングtsと、補正終了タイミングteと、サンプリング周波数fs(=30kHz)とに対応して、is≦fs*tsや、ie≦fs*teの条件を満たす最大の整数値となる。
補正開始タイミングtsは、イオン信号D(i)の二次ピーク位置TOPの手前に存在する信号最深部に設定するのが好適である。また、補正終了タイミングteは、二次ピーク位置TOPより付加時間δだけ手前(TOP−δ)に設定するのが好適である。
また、補正終了タイミングteを規定する付加時間δは、内燃機関の運転条件に対応して個々的に規定するのが理想的であるが、通常は、0.1mS〜0.6mSの範囲で最適値が実験的に確定される。但し、補正終了タイミングteを、補正開始タイミング(信号最深点)tsに対応して、ts+Tに設定しても良く、この場合には、補正区間[te,ts]が固定的な時間幅Tとなる。
また、付加時間δを、補正開始タイミング(信号最深点)Tsと、二次ピーク位置TOPに基づいて決定しても良い。この場合には、付加時間δは、例えば、δ=(TOP−Ts)/2に決定される。
図7(a)〜図7(c)は、付加時間δ=0.3mSに設定した補正区間[ts,te]と、補正関数たる窓関数W(i)と、窓関数W(i)を作用させた補正演算後のイオン信号F(i)とを図示したものである。
なお、上記の実施例では、F(i)←D(i)*W(i)の演算を実行したが、補正区間[ts,te]のデータを、補正終了タイミングteの接線で直線補完した上で、直線補完後のイオン信号D(i)’に窓関数を作用させるのも好適である。図7(d)は、補正終了タイミングteにおける接線を破線で示している。
以上のような補正演算が終われば、補正後のイオン信号F(i)に、BPF1による一次フィルタ処理を施す(ST3)。なお、BPF1の通過帯域は、予め実験的に特定されるノック周波数に対応して決定されるが、この実施例では、5.8〜7.6kHzの通過帯域に設定している。
また、この実施例では、所望のバンドパスフィルタ特性Ψ(i)を実現する抽出関数H(j)の実数部HRe(j)及び虚数部HIm(j)と、補正後のイオン信号F(k)との畳み込み演算によってBPF処理を実行している。具体的には、
X1(n)=ΣF(k)*HRe(n−k+L/2)・・・(式1a)
Y1(n)=ΣF(k)*HIm(n−k+L/2)・・・(式1b)
の一次フィルタ処理を実行してn=0,1,2,・・・・,N−1の一次処理信号X1(0)・・・X1(N−1)と、Y1(0)・・・Y1(N−1)を得ている。
ここで、(式1a)(式1b)におけるΣの数値範囲は、k=−L/2+1+nからk=L/2+nまでの整数範囲である。なお、(式1a)(式1b)では、バンドパスフィルタ特性Ψ(i)において、サンプリング周波数fs、周波数f、フィルタ係数の総数Lに対して、整数値i=L*f/fsであって、i=0,1,2,・・・,(L−1)である。また、抽出関数H(j)の実数部HRe(j)と虚数部HIm(j)において、整数値j=0,1,2,・・・,(L/2−1)である。
ここで、一次処理信号X1(n),Y1(n)について、具体的に確認すると、
X1(0)=F(1−L/2)*HRe(L−1)+F(2−L/2)*HRe(L−2)+・・・+F(0)*HRe(L/2)+F(1)*HRe(L/2−1)+・・・+F(L/2)*HRe(0)、
X1(1)=F(2−L/2)*HRe(L−1)+F(1−L/2)*HRe(L−2)+・・・+F(0)*HRe(L/2+1)+F(1)*HRe(L/2)+・・・+F(L/2+1)*HRe(0)、



X1(N−1)=F(N−L/2)*HRe(L−1)+F(N+1−L/2)*HRe(L−2)+・・・+F(0)*HRe(L/2+N−1)+F(1)*HRe(L/2+N−2)+・・・+F(L/2+N−1)*HRe(0)となる。
また、Y1(0)=F(1−L/2)*HIm(L−1)+F(2−L/2)*HIm(L−2)+・・・+F(0)*HIm(L/2)+F(1)*HIm(L/2−1)+・・・+F(L/2)*HIm(0)、
Y1(1)=F(2−L/2)*HIm(L−1)+F(1−L/2)*HIm(L−2)+・・・+F(0)*HIm(L/2+1)+F(1)*HIm(L/2)+・・・+F(L/2+1)*HIm(0)、



Y1(N−1)=F(N−L/2)*HIm(L−1)+F(N+1−L/2)*HIm(L−2)+・・・+F(0)*HIm(L/2+N−1)+F(1)*HIm(L/2+N−2)+・・・+F(L/2+N−1)*HIm(0)となる。
本実施例では、前記した通り、所望のバンドパスフィルタ特性Ψ(i)を実現する抽出関数H(j)を利用してBPF処理を実行するが、図5は、抽出関数H(j)の生成手順を説明する図面である。便宜上、以下では、変数iを変数nに変えて説明する。
本実施例では、先ず、BPFの周波数特性Ψ(n)を以下の通りに決定した。
過渡領域n<nsartでは、Ψ(n)=EXP{−(n−nsart/2*σ
通過領域nsart≦n≦nendでは、Ψ(n)=1
減衰領域nend<n<N/2では、Ψ(n)=EXP{−(n−nend/2*σ
ゼロ領域N/2≦n<Nでは、Ψ(n)=0
なお、通過領域の下端nsartと上端nendとは、通過領域の最小周波数fsartと最大周波数fendとに対応して、nsart=fsart*N/fs、nend=fend*N/fsとされる。また、σは、通過領域の両端の急峻度を決定するパラメータであり、実験的に最適な値が選択される。
次に、この周波数特性Ψ(n)を逆フーリエ変換して、フィルタ処理用のウェーブレット(抽出関数H(k))を生成する。逆フーリエ変換は、具体的には、図6に示す演算式を使用し、その結果、抽出関数H(j)の実数部HRe(j)と虚数部HIm(j)とが得られる。なお、図6では、虚数単位jとの区別のために、変数jに変えて変数kを使用している。
次に、抽出関数H(j)の中央位置(L/2)が最大振幅となり、その両端位置が0に収束するよう、データ位置をシフトさせ、フィルタ係数L個の抽出関数HRe(j)とHIm(j)とを特定する。この実施例では、イオン信号Diのデータ個数Nが150個(=5ms*fs)程度であるが、フィルタ係数の個数Lは、好ましくは、32個又は64個程度に抑制される。なお、周波数特性を決定するパラメータσが小さいほど、通過域両端の急峻度が高まるので、個数Lを増加させるべきである。
また、各抽出関数HRe(j)、HIm(j)は、各々、SQRT{ΣHRe (j)}と、SQRT{ΣHIm (j)}の値で正規化するのが好ましい。なお、Σの演算範囲は、j=0〜(L−1)である。
さて、上記の抽出関数を利用した一次フィルタ処理(ST3)が終われば、次に、BPF処理後の実数部X1(i)と、虚数部Y1(i)とに基づいて、出力値SG1(i)を算出する(ST4)。具体的には、SG1(i)=SQRT(X1(i)+Y1(i))によるが、演算範囲はi=0〜(N−1)である。
このステップST4の処理では、一次フィルタ処理(ST3)の実数出力X1(i)と、虚数出力Y1(i)との瞬時相関を算出することになるが、この瞬時相関は、BPF処理後の一次処理信号の包絡線を特定する処理に他ならない。したがって、計算負荷を軽減する趣旨から、簡易的には、一次フィルタ処理(ST3)の実数出力X1(i)の絶対値SG1(i)=ABS(X1(i))を算出したのでも良い(ST4’)。
何れにしても、ステップST4又はST4’の処理によって、一次処理信号X1(i),Y1(i)の包落線に対応する包絡信号SG1(i)が得られるので、次に、この包絡信号SG1(i)についてBPF2による二次フィルタ処理を施す(ST5)。
この二次フィルタ処理は、不要なノイズ成分(定在波成分)を除去して、本来のノック信号のみを特異的に抽出する処理である。そして、本発明者の検討によれば、(a)包絡信号SG1の1kHz以下の周波数成分、特に、200Hz〜1kHz成分を確実に除去すること、及び(b)1.1kHz〜2.3kHz程度の周波数成分が極めて重要であることが明らかとなった。
そこで、本実施例では、二次フィルタ処理の通過帯域を1.6kHz〜2.2kHz程度に設定している。また、この二次フィルタ処理でも、このバンドパスフィルタ特性Ψ’(i)を実現する抽出関数H’(j)の実数部HRe’(j)及び虚数部HIm’(j)と、包絡信号SG1(k)との畳み込み演算によってBPF処理を実行している。具体的には、
X2(n)=ΣSG1(k)*HRe’(n−k+L/2)・・・(式2a)
Y2(n)=ΣSG1(k)*HIm’(n−k+L/2)・・・(式2b)
の二次フィルタ処理を実行してn=0,1,2,・・・・,N−1の二次処理信号X2(0)・・・X2(N−1)と、Y2(0)・・・Y2(N−1)を得る。
ここで、(式2a)(式2b)におけるΣの数値範囲は、k=−L/2+1+nからk=L/2+nまでの整数範囲である。なお、(式2a)(式2b)では、バンドパスフィルタ特性Ψ’(i)において、サンプリング周波数fs、周波数f、フィルタ係数の総数L’に対して、整数値i=L’*f/fsであって、i=0,1,2,・・・,(L’−1)である。また、抽出関数H’(j)の実数部HRe’(j)と虚数部HIm’(j)において、整数値j=0,1,2,・・・,(L’/2−1)である。なお、抽出関数HRe’(j)やHIm’(j)についても正規化されたものが使用される。
続いて、BPF処理後の実数部X2(i)と、虚数部Y2(i)とに基づいて、評価信号SG2(i)を算出する(ST6)。具体的には、SG2(i)=SQRT(X2(i)+Y2(i))によるが、その演算範囲は、予め特定されている評価区間(i=a〜b)である。評価区間[a,b]の始点aは、好ましくは、ステップST3の補正演算における補正終了タイミングteに設定され、評価区間[a,b]の終点bは、好ましくは、イオン信号D(i)十分に低レベルとなる収束位置に設定される。
次に、評価信号SG2(i)の評価区間内の総和SUM=ΣSG2(i)を算出し(ST7)、この総和値SUMと、実験的に最適設定されている閾値THと対比して、総和値SUMが閾値THより大きい場合には、その点火サイクルにおいてノックが発生していると判定する(ST8)。
先に説明した通り、評価区間の始点aは、補正終了タイミングte(=TOP−δ)に設定されるので、第二ピーク位置TOPより付加時間δだけ手前から評価信号が評価されることになる。したがって、万一、第二ピーク位置TOPの特定位置に誤差が生じても、正確なノック判定をすることができる。
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、具体的な記載内容は特に本発明を限定するものではなく、適宜な改変が可能である。特に、フィルタ処理については、例示した方法に限定されないのは勿論である。但し、実施例の方法によれば、通常のデジタルフィルタを使用する場合より高精度のBPF処理を実現することができる。
1 信号取得部
2 一次フィルタ部
4 二次フィルタ部
SG1 包絡信号
SG2 評価信号

Claims (11)

  1. 内燃機関の燃焼時に燃焼室に発生するイオン信号を取得する信号取得部と、
    取得されたイオン信号から、ノック信号の周波数帯域の信号を抽出する一次フィルタ部と、
    一次フィルタ部で抽出された一次処理信号の包落線に対応する包絡信号から、所定の周波数帯域の評価信号を抽出する二次フィルタ部と、
    二次フィルタ部で抽出された前記評価信号に基づいて、ノック発生の有無を評価する判定部と、を有して構成される燃焼制御装置。
  2. 前記イオン信号は、所定の補正区間[ts,te]について、窓関数による補正演算を経た上で、前記一次フィルタ部に供給される請求項1に記載の燃焼制御装置。
  3. 前記補正区間の補正開始点tsは、点火放電の終了直後に発生する放電ノイズ区間後のイオン信号について、そのレベルが最低となる最深点に設定される請求項2に記載の燃焼制御装置。
  4. 前記補正区間の補正終了点teは、前記最深点の後方側に位置して、最初に傾きゼロとなる頂点位置又は最大値を示す頂点位置TOPより手前に設定される請求項3に記載の燃焼制御装置。
  5. 前記判定部は、前記補正区間の終点teから開始される評価区間[a,b]について、前記評価信号を評価する請求項1又は2に記載の燃焼制御装置。
  6. 前記一次フィルタ部では、
    所望のバンドパスフィルタ特性Ψ(i)を逆フーリエ変換して得られる抽出関数HRe(j),HIm(j)と、前記イオン信号F(k)に対して、
    (式1a)(式1b)の畳み込み演算が実行される請求項1〜5の何れかに記載の燃焼制御装置。
    X1(n)=ΣF(k)*HRe(n−k+L/2)・・・(式1a)
    Y1(n)=ΣF(k)*HIm(n−k+L/2)・・・(式1b)
    (1)バンドパスフィルタ特性Ψ(i)において、
    サンプリング周波数fs、周波数f、フィルタ係数の総数Lに対して、
    整数値i=L*f/fsであって、i=0,1,2,・・・,(L−1)
    (2)抽出関数H(j)の実数部HRe(j)と虚数部HIm(j)において、
    整数値j=0,1,2,・・・,(L/2−1)
    (3)(式1a)(式1b)で算出されるデータは、整数値n=0〜N−1
    (4)Σの数値範囲は、k=−L/2+1+nからk=L/2+nまでの整数範囲
  7. 前記包絡信号SG1(n)は、
    前記一次フィルタ部における実数出力X1(n)と、虚数出力Y1(n)の二乗和の平方根であって、
    SG1(n)=SQRT(X1(n)+Y1(n))
    で与えられる請求項1に記載の燃焼制御装置。
  8. 前記包絡信号SG1(n)は、
    前記一次フィルタ部における実数出力X1(n)または虚数出力Y1(n)に対する絶対値SG1(n)=ABS(X1(n))又はSG1(n)=ABS(Y1(n))
    で与えられる請求項1に記載の燃焼制御装置。
  9. 前記二次フィルタ部では、
    前記所定の周波数帯域のバンドパスフィルタ特性Ψ’(i)を逆フーリエ変換して得られる抽出関数HRe’(j),HIm’(j)と、前記包絡信号SG1(k)に対して、
    (式2a)(式2b)の畳み込み演算が実行される請求項1〜8の何れかに記載の燃焼制御装置。
    X2(n)=ΣSG1(k)*HRe’(n−k+L’/2)・・・(式2a)
    Y2(n)=ΣSG1(k)*HIm’(n−k+L’/2)・・・(式2b)
    (1)バンドパスフィルタ特性Ψ’(i)において、
    サンプリング周波数fs、周波数f、フィルタ係数の総数L’に対して、
    整数値i=L’*f/fsであって、i=0,1,2,・・・,(L’−1)
    (2)抽出関数H’(j)の実数部HRe’(j)と虚数部HIm’(j)において、
    整数値j=0,1,2,・・・,(L’/2−1)
    (3)(式2a)(式2b)で算出されるデータは、整数値n=0〜N’−1
    (4)Σの数値範囲は、k=−L’/2+1+nからk=L’/2+nまでの整数範囲
  10. 前記評価信号SG2は、前記二次フィルタ部における実数出力X2(n)と、虚数出力Y2(n)の二乗和の平方根であって、
    SG2(n)=SQRT(X2(n)+Y2(n))で与えられる請求項1〜9の何れかに記載の燃焼制御装置。
  11. 前記判定部は、運転条件により特定される評価区間[a,b]について、
    前記評価信号SG2の積分値に基づいてノックの有無を評価する請求項10に記載の燃焼制御装置。
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