(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態では、電気自動車の駆動用モータに適用されたモータ制御システムについて説明を行う。この制御システムは、モータ10、電力変換器20および制御ユニット40を主体に構成されている。
モータ10は、ロータ(可動子)と、ヨークおよびステータティースで構成されるステータ(固定子)とを主体に構成されている。このモータ10は、m(m:4以上の自然数(本実施形態では「9」))相に対応する巻線11が各ステータティースにそれぞれ巻回された永久磁石同期電動機である。このモータ10は、9相の交流電力が後述する電力変換器20から対応する相の巻線11にそれぞれ供給されることにより生じる磁界と、回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用により駆動する。具体的には、モータ10では、ロータに埋め込まれた永久磁石と、ロータ自体を構成する磁性体(例えば、電磁鋼板)と、ステータ自体を構成する磁性体(電磁鋼板)とによって主磁気回路が形成される。そして、永久磁石からの磁石磁束、および、各相の巻線11へ通電することで発生する交番磁束が、主磁気回路を流れることで電磁力によるトルクが発生する。これにより、ロータおよびこれに連結された出力軸が回転する。モータ10の出力軸は、自動変速機に連結されている。
図2は、モータ10および電力変換器20の構成を模式的に示す説明図である。モータ10において、9相に対応する各巻線11は、第1の巻線グループWG1にグループ化されるU1相、V1相、W1相に対応する3つの巻線11と、第2の巻線グループWG2にグループ化されるU2相、V2相、W2相に対応する3つの巻線11と、第3の巻線グループWG3にグループ化されるU3相、V3相、W3相に対応する3つの巻線11とで構成されている。各巻線グループWG1〜WG3は、電力変換器20から個々の巻線11に供給される電流総和がゼロとなる3相分の巻線11同士でグループ化されている。各巻線グループWG1〜WG3において、U相、V相およびW相からなる3相分の巻線11は、中性点を中心に星形結線されている。
各巻線グループWG1〜WG3において、中性点を構成する回路は、各相に2個のダイオードで構成される合計6個のダイオードと、1個のスイッチとで構成されている。この回路は、モータ10の低負荷高回転において、システムの損失低減の観点から、任意の巻線グループWG1〜WG3への通電を停止した際、当該巻線グループWG1〜WG3のスイッチを開放することにより、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断回路24〜26を構成している。
電力変換器20は、電源30に接続されており、電源30からの直流電力を9相の交流電力に変換し、変換された9相の交流電力をモータ10に供給する電力変換装置である。この電力変換器20は、それぞれが3相の交流電力を出力する3つの3相インバータ21〜23で構成されており、3つの3相インバータ21〜23は、3組の巻線グループWG1〜WG3と一対一の関係で対応付けられている。個々の3相インバータ21は、正極側および負極側の直流母線を介し、電源30に対して直列接続されている。個々の3相インバータ21〜23は、電源30からの直流電力を、その電流総和がゼロとなる3相の交流電力に変換し、変換された3相の交流電力を対応する巻線グループWG1〜WG3に含まれる各巻線11にそれぞれ供給する。
個々の3相インバータ21〜23は、正極側の直流母線と、3相に対応する各出力端子との間に、上アームに対応する一方向の導通を制御可能なスイッチをそれぞれ備えるとともに、負極側の直流母線と、3相に対応する各出力端子との間に、下アームに対応するスイッチをそれぞれ備えている。個々のスイッチは、半導体スイッチ(例えば、IGBT等のトランジスタといったスイッチング素子)を主体に構成されており、個々の半導体スイッチには、還流用ダイオードが逆並列接続されている。
ここで、電源30は、3つの3相インバータ21〜23に対して共通する単一の直流電源であり、例えば、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池といったバッテリを用いることができる。電力変換器20の入力側は、平滑コンデンサ31を介して電源30に接続されている。
再び図1を参照するに、制御ユニット40は、電力変換器20を制御する制御装置であり、この電力変換器20を介して負荷であるモータ10の出力トルクを制御する。制御ユニット40としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。制御ユニット40は、ROMに記憶された制御プログラムに従い、電力変換器20を制御するための演算を行う。そして、制御ユニット40は、この演算によって算出された制御信号(駆動信号)を電力変換器20に対して出力する。
制御ユニット40には、各種のセンサによって検出されるセンサ信号が入力されている。電流センサ50は、各3相インバータ21〜23毎に設けられており、個々の電流センサ50は、U相、V相およびW相の3相の電流をそれぞれ検出し、この検出した電流情報I1〜I3を制御ユニット40に出力する。また、温度センサ51は、巻線グループWG1〜WG3毎に設けられており、個々の温度センサ51は、巻線グループWG1〜WG3の温度を検出し、この検出した温度情報T1〜T3を制御ユニット40に出力する。個々の温度センサ51は、巻線グループWG1〜WG3を構成するU相、V相およびW相の3相の巻線11の温度をそれぞれ検出し、それらの平均値または代表温度を温度情報T1〜T3として出力してもよいし、ある一つの相の巻線11の温度を検出し、これを温度情報として出力してもよい。また、モータ10に取り付けられた位置センサ(例えば、レゾルバ)によって検出されるロータの位置情報Piも制御ユニット40に入力されている。さらに、電力変換器20に印加される直流電圧が電圧センサによって検出され、この直流電圧の情報が制御ユニット40に入力されている。
制御ユニット40は、これを機能的に捉えた場合、電流指令生成部41と、電流制御部42と、PWM信号発生部43とを有している。
電流指令生成部41は、外部より与えられるトルク指令と、位置センサの位置情報から演算されるモータ回転数(電気角速度)とに基づいて、トルク指令に対応するd軸およびq軸電流指令をそれぞれ演算する。そのため、モータ10の特性等を考慮して、トルク指令値およびモータ回転数と、d軸およびq軸電流指令との関係を実験やシミュレーションを通じて予め取得しておくことで、電流指令生成部41は、この関係を規定したマップを保持する。電流指令生成部41は、当該マップを参照してd軸およびq軸電流指をそれぞれを演算する。演算されたd軸およびq軸電流指令は、電流制御部42に出力される。なお、電流指令生成部41は、d軸およびq軸電流指令を演算するためのマップを、後述する駆動形態のそれぞれに対応して保持しており、現在の駆動形態に応じたマップを参照し、d軸およびq軸電流指令の演算を行う。
本実施形態の特徴の一つとして、電流指令生成部41は、トルク指令と、モータ回転数とに基づいて、モータ10の駆動形態を、9相巻線通電で行うのか、それとも3相巻線通電で行うのかを判断する。ここで、9相巻線通電は、全ての巻線グループWG1〜WG3に対して通電を行う、すなわち、9相の巻線11の全てに対して通電を行う駆動形態である。これに対して、3相巻線通電は、1組の巻線グループWG1〜WG3にのみ通電を行い、残りの2組の巻線グループWG1〜WG3に対する通電を停止する駆動形態である。すなわち、3相巻線通電は、U相、V相およびW相を1組含む3相の巻線11にのみ通電を行い、U相、V相およびW相を2組含む6相の巻線11に対する通電を停止する駆動形態である。
また、電流指令生成部41は、3相巻線通電を行う場合、各巻線グループWG1〜WG3の温度に基づいて、3組の巻線グループWG1〜WG3の中から、通電を行わない2組の巻線グループ(以下「停止巻線グループ」という)WG1〜WG3を選択することができる。さらに、電流指令生成部41は、現在の駆動形態および選択された停止巻線グループWG1〜WG3に基づいて、各回生電流遮断回路24〜26のスイッチ状態を制御することができる。
電流制御部42は、d軸およびq軸電流指令と、モータ10の実電流値に対応するd軸およびq軸電流とがそれぞれ0となるような、3組の3相インバータ21〜23に対応するd軸およびq軸電圧指令を、例えば、PI制御を用いてそれぞれ演算する。ここで、d軸およびq軸電流は、電流センサ50によって検出される各3相インバータ21〜23に関する3相の電流と、位置センサの位置情報Piから演算される電気角とに基づいて座標変換を行うことにより演算される。
また、電流制御部42は、電気角を参照した上で、3組の3相インバータ21〜23に対応するd軸およびq軸電圧指令から、U相、V相およびW相のそれぞれの電圧指令にそれぞれ座標変換を行う。電流制御部42は、各相の電圧指令を電源30の直流電圧によって規格化し、個々の3相インバータ21〜23における各相のスイッチの導通時間比率を示す各相の変調率指令を演算する。3組の3相インバータ21〜23に対応する各相の変調率指令は、PWM信号発生部43に出力される。
PWM信号発生部43は、各3相インバータ21〜23毎に、電力変換器20を駆動する駆動信号を生成する。ここでは、ある1つの3相インバータ21〜23に対する制御手法について説明する。PWM信号発生部43は、相毎に、三角波といったPWMキャリアと変調率指令とを比較し、この比較結果に基づいて上下アームのスイッチをオン・オフする駆動信号を生成する。そして、PWM信号発生部43は、生成した駆動信号を制御対象となる3相インバータ21〜23に対して出力する。3相インバータ21〜23は、駆動信号に応じて各アームがスイッチング動作を行うことで、PWM波電圧を、3相インバータ21〜23に対応付けられた巻線グループWG1〜WG3を構成する各相の巻線11にそれぞれ印加する。
ここで、3組の3相インバータ21〜23に関するPWMキャリアは、位相が40degづつオフセットした関係となっている。また、PWM信号発生部43は、電流指令生成部41によって3相巻線通電が設定されている場合には、通電対象となる1組の巻線グループWG1〜WG3に対応する3相インバータ21〜23のみを制御対象として、上記の如く駆動信号を生成する。そして、PWM信号発生部43は、残りの2組の巻線グループ(停止巻線グループ)WG1〜WG3に対応する3相インバータ21〜23については、上下アームのスイッチが3相巻線通電の実行期間においてオフするように駆動信号を生成する。
以下、制御ユニット40による具体的な制御手法の説明に先立ち、本システムの制御概念について説明を行う。m相で駆動される永久磁石同期電動機において、電流総和がゼロとなる複数の巻線がグループ化されたn(n:2以上の自然数)組の巻線グループを有している電動機では、電動機の低負荷時、最大でn−1組の巻線グループへの通電を停止することによって効率の向上を図ることができる。効率向上の要因は、電動機の回転数領域、具体的には、低回転と高回転とで異なる。ここで、永久磁石による鎖交磁束の振幅をψa、電気角速度をω、電力変換器に印加される直流電圧をVdcとした場合、低回転は(1)式の関係を具備する回転数領域であり、高回転は(2)式の関係を具備する回転数領域である。
同数式から分かるように、高回転は、巻線間に生じる誘起電圧が電力変換器に印加される直流電圧よりも大きい電動機の回転数領域に相当する。換言すれば、低回転は、巻線間に生じる誘起電圧が電力変換器に印加される直流電圧以下となる電動機の回転数領域に相当する。
まず、低負荷低回転における効率向上について説明する。低回転シーンにおいて、最大トルク制御時のトルクT、d軸電流id、およびq軸電流iqの関係は、下式で表される。
同数式において、Pnは極対数、Lqはq軸インダクタンス、Ldはd軸インダクタンス、Iamは、d軸およびq軸電流の振幅である。また、Kは全巻線数(K=m)、kは通電する巻線の数を示している。
図3は、数式2の関係を電流のdq軸座標にプロットした説明図である。同図において、T1、T2、T3は等トルク曲線を示している。また、Vは電圧制限楕円を示しており、一般に、電圧制限楕円は回転数領域が高いほど楕円面積が小さくなる傾向を有している。ここで、等トルク曲線T1〜T3は、下式に示す関係を満たす。
まず、9個の巻線を備えた9相電動機において、3組の巻線グループ、すなわち、9相の巻線すべてに通電を行うことを考える(9相巻線通電)。電動機によってトルクT1を出力する場合、等トルク曲線T1までの距離が最短となる電流ベクトルI9のようにdq軸電流を選択すると銅損が最も少ない電流条件となる。このケースにおける銅損P9は、下式で計算される。なお、rは巻線抵抗である。
これに対して、2組の巻線グループに対応する6相の巻線への通電を停止し、1組の巻線グループに対応する3相の巻線のみに通電を行うことを考える(3相巻線通電)。この場合、数式2において、K=9,k=3となる。そのため、電動機全体としてトルクT1を出力するためには、3相の巻線への通電により、トルクT1の3倍に相当するトルクT3を出力する必要がある。この場合、等トルク曲線T3までの距離が最短となる電流ベクトルI3のようにdq軸電流を選択すると、銅損が最も少ない電流条件となる。このケースにおける銅損P3は、下式で計算される。
q軸インダクタンスLqと、d軸インダクタンスLdとが等しくなる電動機において電流ベクトルI9と電流ベクトルI3を比較した場合、電流ベクトルI3は電流ベクトルI9の3倍と等しいことから、銅損P3は銅損P9の3倍となる。また、q軸インダクタンスLqと、d軸インダクタンスLdとが異なる電動機においても、低負荷ではリラクタンストルクがマグネットトルクと比べて小さい。そのため、電流ベクトルI3は電流ベクトルI9の3倍とほぼ等しく、銅損P3は銅損P9の約3倍となる。したがって、9相巻線通電から、3相巻線通電に切り換えた場合、銅損は約3倍に増加することとなる。
一方、鉄損は、3相巻線通電の方が小さくなる。これはキャリア高調波電流の流れる巻線が9個から3個に減り、高調波磁束の起磁力源が9個から3個に減少するためである。3相巻線通電時、9相巻線通電時と同等のトルクを電動機から出力しようとすると、単位巻線当たり約3倍の電流を流す必要がある。しかしながら、基本波の電流振幅が3倍になったとしても、キャリア高調波電流の振幅は3倍にはならない。なぜならば、9相巻線通電に比べ3相巻線通電では3倍の電流を流すため、変調率指令が相対的に高くなり、PWM制御の特性上、変調率指令が高い程、基本波に対するキャリア高調波成分の比率が小さくなるからである。したがって、9相巻線通電から3巻線通電に変えた場合、相電流の基本波成分は約3倍に増えるが、キャリア高調波成分の変化は小さい。また、キャリア高調波電流が流れる巻線の数も1/3に減少する。このため、キャリア高調波電流に起因するキャリア高調波鉄損は小さくなる。以上より、キャリア高調波鉄損の比率が銅損や、電力変換器の損失の比率より大きい低負荷低回転では、3相巻線通電で駆動した方が損失低減となる場合がある。
つぎに、低負荷高回転における効率向上について説明する。永久磁石型同期電動機を低負荷高回転領域で駆動するためには、巻線間に発生する誘起電圧と、巻線のインダクタンスおよび抵抗による電圧降下との和が、電力変換器に印加される直流電圧を超えないように、弱め界磁電流を流す必要がある。電動機があるトルクを出力する場合、巻線間の電圧が直流電圧とが等しくなるように弱め界磁電流を流すと銅損を最も小さくすることができる。この場合、d軸電流id、q軸電流iqおよびトルクTとの関係は、下式で示される。
図4は、数式6の関係を電流のdq軸座標にプロットした説明図である。同図において、T1、T2、T3は等トルク曲線を示しており、T1〜T3は、上記の数式3の関係を満たす。また、Vは電圧制限楕円を示している。
まず、9個の巻線を備えた9相電動機において、3組の巻線グループ、すなわち、9相の巻線すべてに通電を行うことを考える(9相巻線通電)。電動機によってトルクT1を出力する場合には、電圧制限楕円Vの範囲内で、等トルク曲線T1までの距離が最短となる電流ベクトルI9のようにdq軸電流を選択すると銅損が最も少ない電流条件となる。このケースにおける銅損P9は、上記の数式4によって計算される。
これに対して、2組の巻線グループに対応する6相の巻線への通電を停止し、1組の巻線グループに対応する3相の巻線のみに通電を行うことを考える(3相巻線通電)。この場合、数式6において、K=9,k=3となる。そのため、電動機全体としてトルクT1を出力するためには、3相の巻線への通電により、トルクT1の3倍に相当するトルクT3を出力する必要がある。この場合、電圧制限楕円Vの範囲内で、等トルク曲線T3までの距離が最短となる電流ベクトルI3のようにdq軸電流を選択すると、銅損が最も少ない電流条件となる。このケースにおける銅損P3は、上記の数式5によって計算される。
銅損P9より銅損P3の方が小さい場合には、3相巻線通電を行うことで、9相巻線通電と比較して銅損、電力変換器の損失の低減を図ることができる。
さらに、鉄損を考慮して電流ベクトルを選択する方法について説明する。図4において、電流ベクトルI9に代えて、電圧制限楕円Vの範囲内において、d軸成分の絶対値が大きくなる方向へトルク曲線T1上をスライドさせた電流ベクトルI9’を選択する。また、電流ベクトルI3に代えて、電圧制限楕円Vの範囲内において、d軸成分の絶対値が大きくなる方向へトルク曲線T3上をスライドさせた電流ベクトルI3’を選択する。これらのケースでは、銅損、電力変換器の損失は増加するものの、鉄損が低減する傾向となる。なぜならば、より多くの弱め界磁電流を流すことで磁束密度が低下するからである。したがって、実験やシミュレーションを通じて、トルク毎に銅損、鉄損、電力変換器の損失の和が最も小さくなる電流ベクトルI9’、I3’を各回転数について求めておき、損失の和が少ない通電巻線数を選択することにより、電動機および電力変換器の総損失を低減することができる。
また、d軸電流を多く流さないと、電流ベクトルが電圧制限楕円Vの中に位置しないような高回転では、巻線への通電を止めた場合、d軸電流による弱め界磁ができないため、巻線から回生電流が流れ、ロータに制動力が働くことになってしまう。そのため、巻線グループへの通電を停止するときには、当該巻線グループから回生電流が流れないようにすることで、低負荷高回転でも、巻線グループへの通電を停止する運転を行うことができる。
以上に示す一連の制御概念を前提に、以下、制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)による具体的な制御手法について説明する。制御ユニット40は、図5に示すように、トルク指令Te*とモータ回転数とに基づいて、3相巻線通電により駆動するのか、それとも9相巻線通電により駆動するかを決定するマップを保持している。このマップは、3相巻線通電および9相巻線通電で駆動した際のシステムの損失、すなわち、銅損、鉄損、電力変換器20の損失などを含むシステムトータルとしての総損失を、実験やシミュレーションを通じて取得することで、総損失の小さい方の駆動形態がモータ回転数とトルクとに関連付けて記録されている。したがって、制御ユニット40は、当該マップに従い、駆動形態を3相巻線通電または9相巻線通電として決定する。
つぎに、駆動形態の移行時の制御について説明する。ここでは、低負荷高回転における9相巻線通電から3相巻線通電への駆動形態の移行を例に挙げる。まず、制御ユニット40は、3相巻線通電へ移行する場合、3組の巻線グループWG1〜WG3のうち、どの巻線グループWG1〜WG3にのみ通電を行うのかを決定する。具体的には、制御ユニット40は、各巻線グループWG1〜WG3の温度に基づいて、3組の巻線グループWG1〜WG3のうち、温度が高い上位2組の巻線グループWG1〜WG3を停止巻線グループWG1〜WG3として決定し、残る1組の巻線グループWG1〜WG3を通電を行う巻線グループWG1〜WG3として決定する。
図3および図4に示すように、9相巻線通電により全巻線11に通電を行うことで電動機がトルクT1を出力している場合、dq軸電流指令は、dq軸上の電流ベクトルI9として表される。3相巻線通電へ移行する場合、通電を続ける巻線グループWG1〜WG3へのdq軸電流指令、すなわち、電流ベクトルは、電流ベクトルI9から電圧制限楕円Vの円周上をトルクが増加する方向に移動させ、電流ベクトルI3と一致するまで移動させる。この場合、d軸およびq軸電流指令は、図6(a)に示すように推移する。
一方、停止巻線グループWG1〜WG3へのd軸およびq軸電流指令、すなわち、電流ベクトルは、電流ベクトルI9から電圧制限楕円Vの円周上をトルクが減少する方向に移動させ、トルクがゼロと一致するまで移動させる。この場合、d軸およびq軸電流指令は、図6(b)に示すように推移する。そして、停止巻線グループWG1〜WG3に関するq軸電流指令がゼロとなり、通電を続ける巻線グループWG1〜WG3の電流ベクトルが電流ベクトルI3と一致したところで、停止巻線グループWG1〜WG3に対する通電を停止する。
さらに、制御ユニット40は、3相巻線通電へ移行した場合、停止巻線グループWG1〜WG3に対応する回生電流遮断回路24〜26のスイッチをオフに制御する。なお、他の駆動形式の移行であっても、基本的に同様な概念で駆動形式の移行を行うことができる。
このように本実施形態において、モータ10は、9相に対応する9つの巻線11を備え、個々の巻線11に供給される電流総和がゼロとなる3つの巻線がグループ化された3組の巻線グループを備える。そして、制御ユニット40は、モータ回転数およびトルク指令(負荷)に基づいて、2組の巻線グループを停止巻線グループとして選択し、この停止巻線グループへの通電を所定期間停止する。かかる構成によれば、モータ10の駆動領域に応じて、鉄損や銅損、電力変換器の損失といったシステムの損失を低減することができるので、モータ効率の向上を図ることができる。
また、本実施形態において、制御ユニット40は、モータ10の低負荷低回転の場合、システムの損失が最小となるように停止巻線グループWG1〜WG3を選択する。かかる構成によれば、キャリア高調波電流の流れる巻線数が減少するので、キャリア高調波電流によって発生する鉄損を低減することができる。これにより、システムの損失の低減を図ることができる。
また、本実施形態において、巻線グループWG1〜WG3毎に、電流経路を独立して遮断可能な電流遮断機構をさらに備えている。また、制御ユニット40は、システムの損失が最小となるように停止巻線グループWG1〜WG3を選択するとともに、この停止巻線グループWG1〜WG3への通電の停止期間において電流遮断機構により停止巻線グループWG1〜WG3に対応する電流経路を遮断する。かかる構成によれば、停止巻線グループWG1〜WG3への通電を停止することにより、システムの損失の低減を図ることができる。また、モータ10が高回転で駆動され巻線間に生じる誘起電圧が直流電圧を超える場合であっても、停止巻線グループWG1〜WG3から回生電流が流れず、制動力が働くといった事態を抑制することができる。
ここで、電流遮断機構は、3個の巻線グループWG1〜WG3に対応して設けられ、それぞれが巻線グループを構成する3個の巻線の中性点を構成する3個の回路で構成されている。この中性点を構成する回路のそれぞれは、6(2×3)個のダイオードと、1つのスイッチング素子とで構成されている。かかる構成によれば、低負荷高回転において、巻線グループWG1〜WG3への通電を停止させたときにスイッチング素子を開放することにより、回生電流が流れるのを抑制することができる。
また、本実施形態において、制御ユニット40は、巻線グループ毎に検出される巻線の温度T1〜T3に基づいて、停止巻線グループWG1〜WG3を決定する。かかる構成によれば、温度が高い巻線グループWG1〜WG3の通電を優先的に停止させることができる。これにより、各巻線グループWG1〜WG3間の巻線温度の均一化を図ることができ、巻線温度が高いために通電電流を減らさざるを得ない状況を回避することができる。なお、9相宇巻線通電の方が損失が小さい場合でも、巻線グループWG1〜WG3の間で温度差がある場合には、温度が低い巻線グループWG1〜WG3のみに電流を流して温度分布を均一にすることもできる。
また、本実施形態において、制御ユニット40は、2組の巻線グループWG1〜WG3を停止巻線グループWG1〜WG3とする場合、3組の巻線グループWG1〜WG3に含まれる各巻線11への通電により生じる電動機の出力を、1組の巻線グループWG1〜WG3に含まれる各巻線11への通電によって発生させるようにする。この場合、制御ユニット40は、1組の巻線グループWG1〜WG3に含まれる各巻線11へ供給する電流のうち駆動力に寄与する電流成分を増加させるとともに、2組の巻線グループWG1〜WG3に含まれる各巻線11へ供給する電流のうち駆動力に寄与する巻線電流成分をゼロまで減少させることにより、2組の巻線グループへの通電を停止する。かかる構成によれば、停止巻線グループWG1〜WG3への通電を停止する際のトルクショックを抑制することができる。
なお、上述した実施形態では、マップを参照して3相巻線通電と9相巻線通電とを選択しているが、モータ回転数およびトルク指令からシステムの損失をリアルタイムで演算し、この演算結果に基づいて、3相巻線通電と9相巻線通電とを選択してもよい。具体的には、低負荷低回転の場合、制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)は、数式2に基づいて、3相巻線通電を行った場合のd軸およびq軸電流指令と、9相巻線通電を行った場合のd軸およびq軸電流指令とを求める。つぎに、制御ユニット40は、数式4,5に基づいて銅損を計算し、3相巻線通電の場合の損失と、9相巻線通電の場合の損失とを比較する。そして、制御ユニット40は、損失の少ない方の駆動形態を選択する。また、低負荷高回転の場合、制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)は、数式2に基づいて、3相巻線通電を行った場合のd軸およびq軸電流指令と、9相巻線通電を行った場合のd軸およびq軸電流指令とを求める。つぎに、制御ユニット40は、数式4,5に基づいて銅損を計算し、3相巻線通電の場合の損失と、9相巻線通電の場合の損失とを比較する。そして、制御ユニット40は、損失の少ない方の駆動形態を選択する。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態にかかる制御システムについて説明する。第2の実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断機構の構成である。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下、相違点を中心に説明を行う。
図7は、本発明の第2の実施形態にかかるモータ10および電力変換器20の構成を模式的に示す説明図である。本実施形態において、9相で駆動されるモータ10は、第1の実施形態と同様に、巻線グループWG1〜WG3毎、すなわち、電流総和がゼロとなる3相の巻線毎に中性点が結線されている。また、電力変換器20は、平滑コンデンサ31と並列に、各巻線グループWG1〜WG3に対応する3相インバータ21〜23が3つ接続される。個々の3相インバータ21〜22に接続する一方の直流母線(例えば、正極母線)には、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断機構として機能するコンタクタ24a〜26aがそれぞれ設けられている。個々のコンタクタ24a〜26aの開閉状態は、制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)によって制御される。
制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)は、通常、コンタクタ24a〜26aを閉状態に制御する。一方で、制御ユニット40は、低負荷高回転時に、9相巻線通電から3相巻線通電へ移行した場合、停止巻線グループWG1〜WG3に対応するコンタクタ24a〜26aを開状態に制御し、通電を行う巻線グループWG1〜WG3に対応するコンタクタ24a〜26aを閉状態に制御する。
このように本実施形態において、回生電流遮断機構は、3個の3相インバータ21〜23に対応して設けられ、それぞれが直流母線を遮断可能な3組のコンタクタ(スイッチ)24a〜26aで構成される。かかる構成によれば、低負荷高回転において、巻線グループWG1〜WG3への通電を停止させたときに該当するコンタクタ24a〜26aを遮断することで、回生電流が流れるのを抑制することができる。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態にかかる制御システムについて説明する。第3の実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断機構の構成である。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下、相違点を中心に説明を行う。
図8は、第3の実施形態にかかるモータ10の構成を模式的に示す断面図である。モータ10は、断面がリング状のステータ12と、このステータ12の内周側にエアギャップを介して配置され、出力軸(図示せず)に連結されたロータ13とを備えている。ロータ13には、永久磁石14が所定の角度ピッチで埋め込まれている。また、ステータ12の各ステータティース12aには、巻線11が各々巻回されている。モータ10では、ロータ13に埋め込まれた永久磁石14と、ロータ13自体を構成する磁性体(例えば、電磁鋼板)と、ステータ12自体を構成する磁性体(電磁鋼板)とによって主磁気回路が形成される。そして、永久磁石14からの磁石磁束、および、各相の巻線11へ通電することで発生する交番磁束が、主磁気回路を流れることで電磁力によるトルクが発生する。
本実施形態の特徴の一つとして、個々のステータティース12aには、当該ステータティース12aを含む主磁気回路内に、磁束と直角方向に磁歪素子15および圧電素子16が直列に設置される。この圧電素子16は、図示しない圧電素子駆動回路を介して制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)によって所定の電圧が印加可能に構成されている。
制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)は、通常、各巻線11に対応する圧電素子16への電圧を行わない。一方で、制御ユニット40は、低負荷高回転時に、9相巻線通電から3相巻線通電へ移行した場合、停止巻線グループWG1〜WG3に含まれる巻線11に対応する圧電素子16に対して所定の電圧を印加し、通電を行う巻線グループWG1〜WG3に含まれる巻線11へは電圧を印加しない。
圧電素子16に電圧が印加されることにより、この圧電素子16により磁歪素子15が圧縮され、これにより、磁歪素子15の磁気抵抗が上がる。この結果、各巻線11と鎖交する磁束が減少し、誘起電圧が減少して回生電流が流れることを抑制することができる。換言すれば、磁歪素子15および圧電素子16は、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断機構として機能する。
このよう本実施形態によれば、回生電流遮断機構は、モータ10を構成する9個のステータティース12aに対応して設けられ、それぞれがステータティース12aとヨークとで構成される主磁気回路において磁気抵抗を増加させる9個の磁気抵抗可変手段で構成される。ここで、磁気抵抗可変手段のそれぞれは、磁歪素子15である。かかる構成によれば、低負荷高回転において、巻線グループWG1〜WG3への通電を停止させたとき、磁気回路の磁気抵抗を増加させることで鎖交磁束が低減するので、線間の誘起電圧を直流電圧以下に減少させることができる。これにより、回生電流が流れず、制動力が働くのを防ぐことができる。また、磁歪素子15を用いることにより、駆動回路上にスイッチング素子やダイオードなど追加する必要がなく、これら素子による新たな損失が発生することを抑制することができる。
なお、本実施形態では、磁歪素子15および圧電素子16は直列に設置した。しかしながら、図9に示すように、ステータティース12aに、その幅相当の磁歪素子15を配置し、主磁気回路の外側、すなわち、磁歪素子15の両側にそれぞれ圧電素子16を設けるようにしてもよい。この場合、圧電素子16が主磁気回路外に設置されているため、圧電素子16が磁気抵抗の増加要因となるといった事態を抑制することができる。
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態にかかる制御システムについて説明する。第4の実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断機構の構成である。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下、相違点を中心に説明を行う。
図10は、本発明の第4の実施形態にかかるモータ10および電力変換器20の構成を模式的に示す説明図である。本実施形態において、9相で駆動されるモータ10は、第1の実施形態と同様に、巻線グループWG1〜WG3毎、すなわち、電流総和がゼロとなる3相の巻線毎に中性点が結線されている。ここで、3相巻線通電の場合、第2および第3の巻線グループWG2,WG3に含まれる各巻線11への通電を停止することとする。
電力変換器20において、通電を停止する巻線グループWG2,WG3に対応する3相インバータ22,23と、通電を続ける巻線グループWG1に対応する3相インバータ21とを繋ぐ一方の直流母線(正極母線)に、回生電流が流れることを遮断する回生電流遮断回路27を設ける。この回生電流遮断回路27は、正極母線上に、逆並列接続された第1のダイオードを設け、電源30から見て逆方向に取り付けられた第2のダイオードと、この第2のダイオードと直列接続されたスイッチング素子とを第1のダイオードと並列に接続することにより構成される。スイッチング素子は、例えば、IGBT等のトランジスタで構成されており、コレクタは、通電を止める巻線グループWG2,WG3側の直流母線と、エミッタは第2のダイオードと接続されている。このスイッチング素子のオン・オフ状態は、制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)によって制御される。
制御ユニット40(具体的には、電流指令生成部41)は、9相巻線通電時、または3相巻線通電の低負荷低回転時、スイッチング素子1をオン状態に制御する。一方で、制御ユニット40は、低負荷高回転時に、9相巻線通電から3相巻線通電へ移行した場合、スイッチング素子をオフ状態に制御する。
このように本実施形態において、電流遮断機構は、直流母線上に直列に接続され第2のダイオードおよびスイッチング素子と、この直列接続された第2のダイオードおよびスイッチング素子に逆並列に接続された第1のダイオードとを含む回路(回生電流遮断回路)27によって構成される。かかる構成によれば、9相巻線通電を行う場合には、スイッチング素子を導通状態にしておく。これにより、平滑コンデンサ31から各巻線に高周波の交流電流を供給することが可能となり、各コイルに正弦波に近い相電流を流すことができる。これに対して、低負荷高回転において、3相巻線通電を行う場合には、スイッチング素子を開放状態にする。これにより、停止巻線グループWG1〜WG2から回生電流が流れないため、ロータに制動力が発生することを回避できる。
なお、上述した実施形態では、停止巻線グループWG1〜WG3を予め決めて、回生電流遮断回路27を設けている。しかしながら、3組の巻線グループWG1〜WG3から2組の停止巻線グループWG1〜WG3を選択するようなケースでは、3組の3相インバータ21〜23に対応して回生電流遮断回路27を設けるようにしてもよい。
以上、各実施形態において本発明の好適な形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その発明の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上述した各実施形態では、9相の電動機を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、6相といったように、m(m:4以上の自然数)相に対応する複数の巻線を備え、個々の巻線に供給される電流総和がゼロとなる複数の巻線がグループ化されたn(n:2以上の自然数)組の巻線グループを備える電動機の制御に適用することができる。この場合、制御装置は、電動機の回転数および負荷に基づいて、最大でn−1組の巻線グループを停止巻線グループとして選択し、停止巻線グループへの通電を所定期間停止することができる。
また、上述した各実施形態では、単一のm相のモータを例示した本発明はこれに限定されない。本発明の電動機は、例えば、n組の巻線グループが個別の電動機要素を構成し、個々の電動機要素のロータシャフトが締結されているような複合的な電動機であってもよい。