JP5428328B2 - 微生物発電方法及び微生物発電装置 - Google Patents

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Description

本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電方法及び装置に関する。本発明は特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電方法及びその装置に関する。
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
一般的に、微生物発電では負極が配置された負極室内に、微生物、微生物に資化される有機物、及び電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は外部抵抗(負荷)を介して正極と電気的に導通しており、負極に渡された電子は外部抵抗(負荷)を介して正極に移動し、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が流れる。
微生物発電では、電子メディエータが微生物体から直接、電子を取り出すため、理論上のエネルギー変換効率は高い。しかし、実際のエネルギー変換効率は低く、発電効率の向上が求められている。そこで、発電効率を高めるため、電極の材料や構造、電子メディエータの種類、及び微生物種の選択等について様々な検討及び開発が行われている(例えば特許文献1、特許文献2)。
特許文献1には、正極室と負極室とを固体電解質よりなるアルカリイオン導電体で隔て、正極室内及び負極室内をリン酸緩衝液(バッファ)でpH7とし、正極室内のリン酸緩衝液(カソード液)に空気を吹き込んで発電を行うことが記載されている。
特許文献2には、正極室と負極室とを区画する電解質膜に接するように、正極板として多孔質体を設置し、正極室に空気を流通させ、多孔質体の空隙中で空気と液とを接触させることが記載されている。(以下、このように正極室内に空気を流通させ、空気中の酸素を電子受容体として利用する正極を「エアーカソード」と称す場合がある。)
エアーカソードを用いる微生物発電装置であれば、カソード液が不要で、また、正極室に単に空気を流通させるのみで良く、カソード液中への曝気の必要がないといった利点がある。
従来、エアーカソードを用いた微生物発電装置における発電効率の向上を目的として、
1)負極のメディエーター(例えば特許文献3)
2)負極室のpH調整
3)正極触媒の種類や触媒活性成分の担持方法
4)正極の形状
などについての検討がなされている。
特開2000−133326号公報 特開2004−342412号公報 特開2006−331706号公報
従来の微生物発電装置では、発電効率が負極1mあたり50〜150W/mと小さく、更なる発電効率の向上が望まれている。
本発明は、簡易かつ安価な手段で微生物発電装置の発電効率を向上させることができる微生物発電方法及び微生物発電装置を提供することを目的とする。
本発明(請求項1)の微生物発電方法は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室とを備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、該酸素含有ガスが、(ア)炭酸ガスと水蒸気と酸素とを含有する好気性生物処理排ガス、(イ)炭酸ガスと水蒸気とを含有する嫌気性生物処理排ガスのいずれかを含むことを特徴とする。
本発明(請求項)の微生物発電方法は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室とを備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、該正極室に供給される酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入することを特徴とする。
本発明(請求項)の微生物発電装置は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、該正極室に酸素含有ガスを供給する手段とを備えた微生物発電装置において、該正極室に、(ア)炭酸ガスと水蒸気と酸素とを含有する好気性生物処理排ガス、(イ)炭酸ガスと水蒸気とを含有する嫌気性生物処理排ガスのいずれかを導入する手段を設けたことを特徴とする。
本発明(請求項)の微生物発電装置は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、該正極室に酸素含有ガスを供給する手段とを備えた微生物発電装置において、該正極室に供給される酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入する手段を設けたことを特徴とする。
本発明においては、正極室に生物処理排ガスを導入するという簡易かつ安価な手段で、微生物発電装置の発電効率を高めることができる。
即ち、本発明者らは、微生物発電装置の発電効率を向上させるべく鋭意検討した結果、正極室に供給する酸素含有ガスに、酸性ガスを導入すると、酸性ガスによるイオン透過性非導電性膜のpH中和作用でNa,Kイオンの移動を促進し、これにより、発電効率を向上させることができることを見出し先に特許出願した(特願2008−280104。以下「先願」という。)。この酸性ガスとしては、炭酸ガスを用いることが安価でありかつ安全性が高く、設備腐食の問題等もないことから好ましい。
そして、この先願の発明に基き、更に検討した結果、正極室に供給する酸素含有ガスに更に水蒸気を導入することにより、より一層発電効率を高めることができることを見出した。
この水蒸気による発電効率の向上効果の作用機構の詳細は明らかではないが、水蒸気が、イオン透過性非導電性膜のイオン透過を促進することが推定される。即ち、イオン交換膜等のイオン透過性非導電性膜は、水分含有率によってイオン透過性が変化することが知られており、水分量が少ないとイオン透過性が低下する。特に、イオン透過性非導電性膜としてアニオン交換膜を使用する場合、生物発電でのイオンの透過には、正極での水の解離が必要であり、正極室への一定量の水の供給がイオンの透過のみならず、水酸イオンの生成にも有効に作用すると考えられる。従って、正極室への水蒸気の導入は、この正極での水の解離のために有効となる。
請求項に係る発明はこのような知見に基いて達成されたものである。
このように、正極室に供給する酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入すると発電効率を大幅に高めることができるが、通常、生物発電を実施する現場(廃水処理場、生ごみ処理場など)には炭酸ガス供給源はなく、また、液化炭酸ガス等は高価であるため経済的に不利である。また、水蒸気供給のための加湿も手間がかかる。
これに対して、活性汚泥法生物処理排ガス等の生物処理排ガスは、十分な酸素を含み、さらに、廃水処理により生成した炭酸ガスを含んでいるため炭酸ガスの濃度が高く、その上、高湿度で十分量の水蒸気を含む。
特に、活性汚泥曝気槽のpHを中性から弱酸性で運転した場合、排ガスの炭酸ガス濃度が高くなり、正極室に供給するガスとして好適である。
また、近年、省エネを目的に適用が広まっている微細気泡散気管等、酸素溶解効率の高い散気装置を使用すると、排ガス中の炭酸ガス濃度が高くなり、より好ましい。
一方、嫌気性生物処理排ガスは酸素を含まないが、炭酸ガス濃度が高く、また、高湿で水蒸気量も高い。従って、嫌気性生物処理排ガスであっても、空気等の酸素含有ガスと混合して用いることにより、正極室供給ガスとして有効に用いることができる。
しかして、生物処理排ガスを排出する生物処理設備は、廃水や有機性廃棄物をエネルギー源とする生物発電を実施する現場には、ほとんどの場合、生物発電設備に近接して併設されることから、ガスの輸送という面でも有利である。
請求項1及び請求項に係る発明は、このような知見に基いて達成されたものである。
以下、図面を参照して本発明の微生物発電方法及び微生物発電装置の実施の形態を詳細に説明する。
第2図は本発明の微生物発電方法及び装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
第2図の微生物発電装置にあっては、層体1内がイオン透過性非導電性膜2によって正極室3と負極室4とに区画されている。正極室3内には、イオン透過性非導電性膜2に接するように正極5が配置されている。
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極6が配置されている。この負極6は、イオン透過性非導電性膜2に直に、又は1〜2層程度の微生物の膜を介して接しており、イオン透過性非導電性膜2がカチオン透過膜であれば、負極6からイオン透過性非導電性膜2にプロトン(H)が受け渡し可能となっている。
正極室3内は、空室であり、ガス流入口7から酸素含有ガス(本実施例においては、好気性生物処理排ガス)が導入され、ガス流出口8から排出配管25を経て排ガスが流出する。
正極室3と負極室4とを仕切るイオン透過性非導電性膜2としては、後述する通り、カチオン透過膜が好適であるが、その他のものであっても良い。
多孔質材料よりなる負極6に微生物が担持されている。負極室4には流入口4aから負極溶液Lを導入し、流出口4bから廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
負極室4内の負極溶液Lは循環往口9、循環配管10、循環用ポンプ11及び循環戻口12を介して循環される。この循環配管10には、負極室4から流出してきた液のpHを測定するpH計14が設けられると共に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ添加用配管13が接続され、負極溶液LのpHが7〜9となるように、必要に応じてアルカリが添加される。
正極室3内で生じた凝縮水は、図示しない凝縮水流出口から排水される。
正極5と負極6との間に生じた起電力により、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
正極室3に、酸素と炭酸ガスと水蒸気とを含む好気性生物処理排ガスを通気すると共に、必要に応じポンプ11を作動させて負極溶液Lを循環させることにより、負極室4内では、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
上記反応で生じたプロトンHは、イオン透過性非導電性膜のカチオン透過膜を通って正極5に移動する。正極5では、
+4H+4e→2H
なる反応が進行する。この正極反応で生成したHOは凝縮して凝縮水が生じる。この凝縮水には、イオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を透過してきたK,Naなどが溶け込み、これにより酸素含有ガスとして空気を通気する従来の微生物発電装置にあっては、凝縮水がpH9.5〜12.5程度の高アルカリ性となるが、本発明では炭酸ガスを含む生物処理排ガスを通気するため、炭酸ガスによる中和作用でこの凝縮水のpHは7.5〜9程度となる。
即ち、イオン透過性非導電性膜2として例えばカチオン透過膜を用いた場合、負極6で生成した電子は端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる一方で、プロトンとともに負極6に導入される負極溶液L中のNa,Kがイオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を透過して正極室3に移動する。この場合、正極室3に通気するガスが炭酸ガスを含むことによるpH中和作用によって、Na,Kの移動を促進していると推定され、これにより発電効率の向上が図れる。
また、このイオン透過性非導電性膜5AのプロトンHやK,Naの透過に際して、正極室3に十分量の水蒸気が導入されていることにより、イオン透過性非導電性膜5Aのイオン透過性が高められることでも、これらの移動が促進され、発電効率のより一層の向上が図れる。
負極室4では、微生物による水の分解反応によりCOが生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、pH計14の検出pHが好ましくは7〜9となるようにアルカリが負極溶液Lに添加される。このアルカリは、負極室6に直接に添加されてもよいが、循環水に添加することにより、負極室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7〜9に保つことができる。
第1図は本発明の特に好ましい形態に係る微生物発電装置の概略的な断面図である。
第1図の微生物発電装置にあっては、略直方体形状の槽体30内に2枚の板状のイオン透過性非導電性膜31,31が互いに平行に配置されることにより、該イオン透過性非導電性膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該イオン透過性非導電性膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。
負極室32内には、各イオン透過性非導電性膜31と直に、又は1層〜2層程度の生物膜を介して接するように、多孔質材料よりなる負極34が配置されている。負極34は、イオン透過性非導電性膜31,31に対し軽く(例えば0.1kg/cm以下の圧力で)押し付けられるのが好ましい。
正極室33内には、イオン透過性非導電性膜31と接して正極35が配置されている。この正極35は、パッキン36に押圧されてイオン透過性非導電性膜31に押し付けられている。正極35とイオン透過性非導電性膜31との密着性を高めるために、両者を溶着したり、接着剤で接着してもよい。
正極35と槽体30の側壁との間は、酸素含有ガスとして導入される生物処理排ガスの流通スペースとなっている。
この正極35及び負極34は、端子37,39を介して外部抵抗38に接続されている。
負極室32には、流入口32aから負極溶液Lが導入され、流出口32bから廃液が流出する。負極室32内は嫌気性とされる。
負極室32内の負極溶液は、循環往口41、循環配管42、循環ポンプ43及び循環戻口44を介して循環される。各正極室33には、配管62からの酸素含有ガス(本実施例では好気性生物処理排ガス)がガス流入口51から流入し、排ガスがガス流出口52から配管63を経て流出する。
負極溶液の循環配管42に、pH計47が設けられると共に、アルカリ添加用配管45が接続されている。負極室32から流出する負極溶液のpHをpH計47で検出し、このpHが好ましくは7〜9となるように水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリが添加される。
この第1図の微生物発電装置においても、正極室33に、酸素と炭酸ガスと水蒸気とを含む好気性生物処理排ガスを流通させ、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、外部抵抗38に電流が流れる。
次に、この微生物発電装置の微生物、負極溶液などのほか、生物処理排ガス、イオン透過性非導電性膜、負極及び正極の好適な材料等について説明する。
負極溶液L中に含有させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas及びProteus(Proteus vulgaris)の各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として負極室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、負極室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1〜50g/Lであることが好ましい。
負極溶液Lとしては、微生物又は細胞を保持し、かつ発電に必要な組成を有する溶液が用いられる。例えば、呼吸系の発電を行う場合は、負極側の溶液としては、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract、MY培地、硝化菌選択培地などの呼吸系の代謝を行うのに必要なエネルギー源や栄養素などの組成を有する培地が利用できる。また、下水、有機性産業排水、生ごみ等の有機性廃棄物を用いることができる。
負極溶液L中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー−O等のチオニン骨格を有する化合物、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン−O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
負極溶液Lは、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
負極溶液Lは有機物を含むものである。この有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが用いられる。負極溶液は、下水、食品工場排水などの有機性廃水であってもよい。負極溶液L中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100〜10000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
正極室に流通させる生物処理排ガスとしては、前述の如く、酸素、炭酸ガス及び水蒸気を含む好気性生物処理排ガスであっても良く、炭酸ガス及び水蒸気を含む嫌気性生物処理排ガスであっても良い。生物処理排ガスとして嫌気性生物処理排ガスを用いる場合は、この生物処理排ガスと空気等の酸素含有ガスとを適当な割合、例えば、嫌気性生物処理排ガス:空気=1:0.5〜500(容量比)で混合して供給すれば良い。また、この空気の代りに好気性生物処理排ガスを混合しても良い。
生物処理排ガスの由来には特に制限はなく、活性汚泥法の排ガスの他、固定床、流動床、硝化、脱窒、コンポスト等の各種の生物処理で排出され、炭酸ガス濃度が空気よりも高いものであれば、どのようなものでも使用することができ、これらの生物処理排ガスの2種以上を混合して用いても良い。
前述の如く、pH中性〜弱酸性で運転している活性汚泥曝気槽からの排ガスは炭酸ガス濃度が高く、好適である。また、近年、省エネを目的に適用が広まっている微細気泡散気管等、酸素溶解効率の高い散気装置を使用している曝気槽の排ガスも炭酸ガス濃度が高く、好ましい。
なお、これらの生物処理排ガスの組成はその発生場所により多岐にわたり一概には言えないが、通常、好気性生物処理排ガスでは、O濃度:15〜19容量%、CO濃度1〜5容量%、湿度95〜100%程度であり、嫌気性生物処理排ガスでは、CO濃度20〜40重量%、湿度95〜100%程度である。
前述の如く、本発明は、正極室に空気等の酸素含有ガスを供給している微生物発電装置において、この酸素含有ガスに更に炭酸ガス及び水蒸気を供給することにより実施することもできる。この方法は、例えば、酸素含有ガスとしての空気に炭酸ガスを流量比として空気:炭酸ガス=100:0.1〜20程度の割合で導入すると共に、水蒸気を吹き込むことで実施できるが、水蒸気の供給は、水蒸気を吹き込む他、正極室に供給されるガスを、水槽に通気して曝気することにより、その温度での飽和蒸気圧として供給することもできる。
なお、正極室からの排ガスは、必要に応じ脱酸素処理した後、負極室に通気し、負極溶液Lからの溶存酸素のパージに用いてもよい。
イオン透過性非導電性膜としては、非導電性でイオン透過性のあるカチオン透過膜又はアニオン透過膜等のイオン透過膜であれば良く、各種イオン交換膜や逆浸透膜等を用いることができる。イオン交換膜としては、プロトン選択性の高いカチオン交換膜、又はアニオン交換膜を好適に使用でき、例えばカチオン交換膜としてはデュポン株式会社製ナフィオン(登録商標)、株式会社アストム製のカチオン交換膜であるCMB膜等が使用できる。また、アニオン交換膜としては、アストム製アニオン交換膜やトクヤマ製アニオン型電解質膜などが好適である。イオン透過性非導電性膜は、薄くて丈夫であることが好ましく、通常、その膜厚は30〜300μm、特に30〜200μm程度であることが好ましい。
イオン透過性非導電性膜としてはカチオン交換膜を用いることが、本発明による炭酸ガスの導入効果が有効に発揮され好ましい。また、水蒸気によるイオン透過性の向上効果の面からは、アニオン交換膜を用いることが好ましい。
負極は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。
このような多孔質の負極を直接に又は微生物層を介してイオン透過性非導電性膜に当接させた場合、電子メディエータを用いることなく、微生物反応で生じた電子が負極に渡るようになり、電子メディエータを不要とすることができる。
複数のシート状導電体を積層して負極としてもよい。この場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。
負極は全体の厚さが3mm以上40mm以下、特に5〜20mm程度であることが好ましい。積層シートによって負極を構成した場合、シート同士の合わせ面(積層面)に沿って液が流れるように、積層面を液の流入口と流出口とを結ぶ方向に配向させるのが好ましい。
本発明では、負極室を複数の分室に分割し、各分室を直列接続することで各分室でのpH低下を抑制した上で負極室内の液のpHを調整するようにしてもよい。負極室を分割すれば、各分室での有機物分解量が小さくなる結果、炭酸ガスの生成量も小さくなるため、各分室でのpH低下を少なくできる。
正極は、導電性基材と、該導電性基材に担持された酸素還元触媒とを有することが好ましい。
導電性基材としては、導電性が高く、耐食性が高く、厚みが薄くても十分な導電性と耐食性、更には導電性基材としての機械的強度を有するものであれば良く、特に制限はないが、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、チタンメッシュ等を用いることができ、これらのうち、特に耐久性と加工のしやすさ等の点から、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス等のグラファイト系基材が好ましく、とりわけグラファイトペーパーが好ましい。なお、これらのグラファイト系基材はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂によって疎水化されたものであっても良い。
正極の導電性基材の厚さは、厚過ぎると酸素の透過が悪くなり、薄過ぎると、基材に必要な強度等の要求特性を満たすことができないことから、20〜3000μm程度であることが好ましい。
酸素還元触媒としては、白金等の貴金属のほか、安価で且つ触媒活性が良好であるところから、二酸化マンガン等の金属酸化物が好適であり、その担持量は、0.01〜2.0mg/cm程度とすることが好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
説明の便宜上まず比較例を挙げる。
[比較例1]
7cm×25cm×2cm(厚さ)の負極室に、厚さ1cmのグラファイトフェルトを2枚重ねて充填して負極を形成した。この負極に対して、イオン透過性非導電性膜としてカチオン交換膜(デュポン株式会社製 商品名(登録商標)「ナフィオン115」)を介して正極室を形成した。正極室は7cm×25cm×0.5cm(厚さ)であり、田中貴金属社製Pt触媒(Pt担持カーボンブラック,Pt含有量50重量%)を、5重量%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)に分散させた液を、PTFEで撥水処理した厚さ160μmのカーボンペーパー(東洋カーボン社製)に、Pt付着量が0.4mg/cmとなるように塗布し、50℃で乾燥させて得られたものを正極として、上記カチオン交換膜と密着させた。
負極のグラファイトフェルトと正極のカーボンペーパーには、ステンレス線を導電性ペーストで接着して電気引出し線とし、2Ωの抵抗で接続した。
負極室には、pHを7.5に維持し、酢酸1000mg/Lと燐酸及びアンモニアを含む負極溶液を通液した。この負極溶液は予め、別水槽で35℃に加温し、この水槽で加温した液を負極室へ10mL/minで通液することにより、負極室の温度を35℃に加温した。なお、負極溶液の通液に先立って、他の微生物発電装置の流出液を植菌として通液した。
正極室には、常温の乾燥空気を0.5L/minの流量で通気した。
その結果、負極溶液の通液開始から3日後には発電量はほぼ一定となり、負極1mあたりの発電量は140W(発電効率140W/m)となった。
[比較例2]
比較例1において、正極室に供給する空気に、炭酸ガスボンベから炭酸ガスを1mL/min(空気に対して0.2%)導入したこと以外は同様にして発電を行ったところ、炭酸ガス導入直後より発電効率は向上しはじめ、5分後には発電効率180W/mとなった。
[実施例1]
比較例2において、正極室に供給する空気を、純水1.5Lを入れた2Lの密閉水槽に導入し、4分間曝気した後、炭酸ガスと共に、正極室に導入したこと以外は同様にして発電を行ったところ、発電効率は210W/mに増加した。なお、この実施例1において、空気を水槽で曝気したことにより、空気の湿度は97%となった。
[実施例2]
比較例1において、空気の代りに、研究所廃水処理場における好気性生物処理排ガス(容量40mの流動床式生物処理槽、BOD負荷0.5kg/m・日の排ガス(O濃度:19.8容量%、CO濃度:1.3容量%、湿度99%)を正極室に通気したこと以外は同様にして発電を行ったところ、発電効率255W/mが得られた。
[実施例3]
比較例1において、空気の代りに、UASB装置(10cm径、60cm高さ、メタノールの合成基質、負荷30kg−CODCr/m/日)のバイオバス(CO濃度32容量%、湿度99%)200mL/minと空気400mL/minとの混合ガスを正極室に通気したこと以外は同様にして発電を行ったところ、発電効率248W/mが得られた。
以上の結果より、正極室に供給する酸素含有ガスに炭酸ガス及び水蒸気を導入することにより、或いは、この酸素含有ガスとして生物処理排ガスを用いることにより、発電効率を向上させることができることが分かる。
本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。 本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
符号の説明
1,30 槽体
2,31 イオン透過性非導電性膜
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極

Claims (4)

  1. 負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
    該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と
    を備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、
    該酸素含有ガスが、(ア)炭酸ガスと水蒸気と酸素とを含有する好気性生物処理排ガス、(イ)炭酸ガスと水蒸気とを含有する嫌気性生物処理排ガスのいずれかを含むことを特徴とする微生物発電方法。
  2. 負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
    該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と
    を備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、
    該正極室に供給される酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入することを特徴とする微生物発電方法。
  3. 負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
    該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、
    該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と
    を備えた微生物発電装置において、
    該正極室に、(ア)炭酸ガスと水蒸気と酸素とを含有する好気性生物処理排ガス、(イ)炭酸ガスと水蒸気とを含有する嫌気性生物処理排ガスのいずれかを導入する手段を設けたことを特徴とする微生物発電装置。
  4. 負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
    該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、
    該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と
    を備えた微生物発電装置において、
    該正極室に供給される酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入する手段を設けたことを特徴とする微生物発電装置。
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