JP5428295B2 - ポリイミド前駆体溶液組成物 - Google Patents

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本発明は、主成分としてポリアミド酸を含んでなるポリイミド前駆体溶液組成物に関する。本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、溶液の粘度調節が容易であり、溶液粘度が安定しており、且つ比較的低温或いは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができる。
ポリイミドはその耐熱性や機械的物性から幅広く開発がなされている。とりわけ全芳香族ポリイミドはその剛直構造から特に高い耐熱性や機械的物性を発揮することができる。しかし、一般に、芳香族ポリイミドは不溶不融であり、その前駆体であるポリアミド酸溶液組成物を用いて成形加工される場合が多い。ポリアミド酸をイミド化する方法は、a)加熱イミド化、b)脱水剤による化学イミド化、c)加熱イミド化と化学イミド化の併用、などがある。このうち、b)及びc)の化学イミド化を用いる方法は、比較的低温でイミド化できるが、溶液がゲル化し易いので、満足なポリイミド樹脂成形体を得るのが難しいという問題がある。一方、a)の加熱イミド化は溶媒除去を伴うので溶液がゲル化する問題は少ないが、優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を得るためには、加熱処理工程で高い物性を付与しつつ段階的に最高加熱温度まで昇温するなど、高温で長時間の加熱処理が必要であった。
特許文献1には、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して芳香族ジアミンを過剰に用いて調製されたポリアミド酸溶液に、酸成分とジアミン成分とが等モルとなるように、芳香族テトラカルボン酸もしくはその無水物を添加することにより、ポリアミド酸溶液の粘度調整と加熱イミド化後のポリイミド成形物の物性を向上させる方法が開示されている。しかし、この方法で得られるポリイミド成形物の機械的特性などの物性は必ずしも充分とは云えず、比較的低温或いは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得るためには改良の余地があった。
特許文献2には、分子末端がアミノ基であるポリアミド酸と、アミノ基と反応して3または4個のイミド環を形成し得る下記化学式で表される多官能カルボン酸化合物を架橋成分として含んでなるワニスが開示されている。
Figure 0005428295
(ここで、nは、3または4を、Zは3または4価の芳香族基を表す。R、Rは、それぞれ独立して、水素、アルキル基またはフェニル基から選ばれる1価の基を表す。)
しかし、特許文献2のワニスは、ガラス転移温度が低いいわゆる熱可塑性ポリイミドの弱点である耐溶剤性の改良には有効かも知れないが、架橋点の数が多いために、得られる架橋ポリイミドは硬く或いは脆くなり易く、通常のポリイミドに比べて柔軟性、伸び、靱性が低下するために使用上問題が生じた。特に、剛直構造から高い耐熱性や機械的物性を発揮するガラス転移温度が250℃以上のいわゆる全芳香族ポリイミドでは、加熱処理工程において、直鎖状ポリイミドセグメントを高分子量化して高い物性を付与しながら同時に架橋反応を好適に制御することが難しいため、比較的低温或いは短時間の加熱処理によって物性の優れたポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることは困難であった。
特開昭60−63226号公報 特開2003−41189号公報
本発明の目的は、溶液の粘度調節が容易であり、溶液粘度が安定しており、且つ比較的低温或いは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができるポリイミド前駆体溶液組成物を提供することである。
本発明者らは、種々検討の結果、ポリアミド酸(A)溶液に、分子量の小さな、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)と、分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)とを添加したポリイミド前駆体溶液組成物が、溶液の粘度調節が容易であり、溶液粘度は安定しており、且つ比較的低温あるいは短時間の加熱処理段階で高い物性のポリイミド成形体になり、しかもガラス転移温度などの物性に悪影響を及ぼすことなく、直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を再現性よく好適に得ることができることを見出して本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の項に関する。
1. 少なくとも、(A)ポリアミド酸と、(B)分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物と、(C)分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物と、(D)溶剤とからなることを特徴とするポリイミド前駆体溶液組成物。
2. 分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)が、下記化学式(1)で示される構造であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
Figure 0005428295
[ここで、AからAは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基または芳香族基から選ばれる1価の基を表す。]
3. 分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)が、下記化学式(2)で示される構造であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
Figure 0005428295
[ここで、mは3以上の整数を表し、Yはm価の炭化水素基を表し、Zは、それぞれ独立して、直接結合、または−O−、−S−、−CO−、−SO−、−NHCO−、−COO−或いは炭素数1〜6の2価の炭化水素基から選ばれる2価の基を表し、AからAは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基または芳香族基から選ばれる1価の基を表す。]
4. ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分とテトラカルボン酸成分のモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]が0.98〜1.05の範囲であることを特徴とする前記項1〜3のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
5. 分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)のモル数と、分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)のモル数との合計のモル数が、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数に対して0.001〜0.05倍モルの範囲であることを特徴とする前記項1〜4のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
6. 分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)のモル数が、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数に対して0.0005〜0.02倍モルの範囲であることを特徴とする前記項1〜5のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
7. ポリアミド酸(A)が、下記化学式(3)からなる繰り返し単位を有することを特徴とする前記項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
Figure 0005428295
[ここで、Aは下記化学式(4)で示されたテトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基から選ばれたいずれかの基であり、Bは下記化学式(5)で示されたジアミンからアミノ基を除いた2価の基から選ばれたいずれかの基である。]
Figure 0005428295
Figure 0005428295
8. 溶剤(D)中で、ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を反応させてポリアミド酸(A)の溶液を調製し、次いで、ポリアミド酸溶液に分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)及び分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)を添加して溶解させることによって得られることを特徴とする前記項1〜7のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
9. 前記項1〜8に記載のポリイミド前駆体溶液組成物を、加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより得られることを特徴とするポリイミド樹脂。
本発明によって、溶液の粘度調節が容易であり、溶液粘度が安定しており、且つ比較的低温あるいは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができるポリイミド前駆体溶液組成物を提供することができる。
本発明に用いられるポリアミド酸(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とからイミド化を抑制しながら反応させることによって好適に得ることができる。テトラカルボン酸成分の具体例として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2,2−ジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,6−トリフルオロ−1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、1,4−ジメトキシ−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1,4−ジトリメチルシリル−2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ベンゼン二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)メチルアミン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ビフェニル二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、2,3,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−キノリンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,3,4,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、1,2,8,9−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシルフェニルスルフォニル)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシルフェニルチオ)ベンゼン二無水物、3,3’’,4,4’’−タ−フェニルテトラカルボン酸二無水物、4−フェニルベンゾフェノン−3,3’’,4,4’’−テトラカルボン酸二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシルベンゾイル)−ベンゼン二無水物、3,3’’’,4,4’’’−クアチルフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシルフェノキシ)ジフェニルスルホキシド二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ビナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、あるいは、下記化学式(3)で表されるれる芳香族テトラカルボン酸二無水物を例示できる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は単独或いは2種類以上を混合して使用しても構わない。また、これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物はそのエステル化物などの誘導体で代替することもできる。
Figure 0005428295
(ここで、Xは、エステル結合またはエーテル結合を表し、Rは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、2,2−ビスフェニルプロパン、2,2−ビスフェニルヘキサフルオロプロパン、ジフェニルエーテルなどからなる2価の芳香族基を表す。)
また、非芳香族のテトラカルボン酸成分を用いてもよい。非芳香族のテトラカルボン酸成分としては、例えばブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6ラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸二無水物やそのエステル化物などの誘導体を例示できる。
これらのテトラカルボン酸成分のなかで、本発明によって比較的低温あるいは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得るためには芳香族テトラカルボン酸二無水物またはそのエステル化物などの誘導体を用いるのが好ましく、入手のしやすさ、取り扱いやすさ、さらに優れた耐熱性や機械的物性を考慮すると、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物など、或いはそのエステル化物などの誘導体がより好ましい。
本発明で用いられるジアミン成分としては、例えばパラフェニレンジアミン、3,3'−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジアミノビフェニル、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォキシド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシビフェニル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)プロパン、メタフェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4− アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、6−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、5−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、6−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンズオキサゾール、トルイジンジアミン、ジアミノポリシロキサンなどを挙げることができる。これらは、単独あるいは2種類以上混合して使用することができる。
これらのジアミン成分うち、本発明によって比較的低温あるいは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得るためには芳香族ジアミンを用いるのが好ましく、入手のしやすさ、取り扱いやすさ、さらに優れた耐熱性や機械的物性を考慮すると、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、トルイジンジアミンなどがより好ましい。
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との組み合わせは、特に制限はないが、その組み合わせから得られたポリアミド酸を加熱処理して得られたポリイミドのガラス転移温度が250℃以上、より好ましくは255℃以上、さらに好ましくは260℃以上、特に好ましくは270℃以上になり得るものである。ガラス転移温度は、例えば示差走査熱量測定(DSC)、動的粘弾性測定、熱機械分析(TMA)などの方法で好適に測定することができる。
すなわち、本発明において、ポリアミド酸(A)は、好ましくは芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ポリアミド酸であり、より好ましくはポリアミド酸を加熱処理して得られたポリイミドのガラス転移温度が250℃以上、より好ましくは255℃以上、さらに好ましくは260℃以上、特に好ましくは270℃以上になり得るものであり、さらに好ましくは前記化学式(3)の繰り返し単位を有するものである。
本発明に用いられるポリアミド酸の調製方法に制限はなく公知の方法を好適に用いることができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、不活性雰囲気ガス下、ポリアミド酸濃度が5〜60質量%となるような濃度で、有機溶媒中で0.5〜78時間反応させることにより好適に得ることができる。その際、例えばイ)ジアミンを溶解した溶液に酸二無水物を一度にあるいは数回に分割して加えて反応させる、ロ)溶媒にジアミンと酸二無水物を一度に加えて反応させる、ハ)ジアミンと酸二無水物をおのおの数回に分割して加えて反応させる、ことにより好適に調製できる。反応温度はイミド化反応を抑制できる温度範囲であればよく、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは10〜65℃の温度範囲である。5℃より低いと反応が遅くなり長時間かかり、80℃より高いとイミド化反応が進行して析出などが生じる恐れがあることから好ましくない。
ポリアミド酸の調製に用いられる溶剤は、ポリアミド酸の調製に用いられる公知の有機溶剤を好適に用いることができるが、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソールなどが挙げられる。これらの溶剤は、単独または2種以上混合して使用しても差し支えない。
本発明のポリアミド酸を構成するジアミン成分とテトラカルボン酸成分とのモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]は、0.98〜1.05、好ましくは0.985〜1.045、より好ましくは0.985〜0.999或いは1.001〜1.045、さらに好ましくは0.990〜0.999或いは1.001〜1.040の範囲である。この範囲外では加熱処理の際のポリイミドの分子量の増加が十分でなくなり、得られるポリイミド樹脂成形体の物性が低下することがあるので好ましくない。
本発明のポリアミド酸は対数粘度(N−メチル−2−ピロリドン溶剤中、濃度0.5g/100ml、30℃)で0.01〜4の範囲のものが好適である。
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、前記のようにして調製したポリアミド酸(A)溶液に、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)、及び分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)を添加し、比較的低温好ましくは80℃以下の温度特に常温で必要に応じて攪拌・溶解することによって好適に得ることができる。
なお、ポリイミド前駆体溶液組成物を調製する際に用いるポリアミド酸溶液は、調製したポリアミド酸溶液をそのまま用いても良く、また有機溶剤を除去して単離したポリアミド酸を再度有機溶剤に溶解させて用いても構わない。
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を調製する際に用いるポリアミド酸(A)溶液の濃度は、3〜60質量%、好ましくは5〜450質量%、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜35質量%の範囲である。濃度が3質量%未満では、加熱処理によって除去する有機溶媒の量が多くなるから好ましくなく、一方60質量%を越えると、溶液の粘度が高くなって成形が難くなることから好ましくない。また、有機溶剤は、ポリアミド酸の調製に用いられる前述の有機溶剤を好適に用いることができる。
本発明で用いられる分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)は、アミノ基と反応してイミド環を形成し得る2個のカルボキシル基からなる対を分子内に3対(カルボキシル基を分子内に6個)以上有したカルボン酸化合物或いはそのエステル化物である。したがって、2個のカルボキシル基からなる対は、好適には相互に結合した隣り合わせの2個の炭素にそれぞれが結合している。そして、このカルボン酸化合物或いはそのエステル化物は、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物の加熱処理工程で、3個のポリアミド酸の末端のアミノ基と反応してイミド環を形成し得るものであるから、加熱処理によって得られるポリイミド樹脂成形体に部分的に架橋あるいは長鎖分岐構造を導入することができる。
分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)は、前記の役割を果たすものであればよいが、好ましくは前記化学式(1)で示される構造を有する化合物である。具体的には、メリット酸、メリット酸メチルエステル、メリット酸ジメチルエステル、メリット酸トリメチルエステル、メリット酸エチルエステル、メリット酸ジエチルエステル、メリット酸トリエチルエステル、メリット酸プロピルエステル、メリット酸ジプロピルエステル、メリット酸トリプロピルエステル、メリット酸ブチルエステル、メリット酸ジブチルエステル、メリット酸トリブチルエステル、メリット酸フェニルエステル、メリット酸ジフェニルエステル、メリット酸トリフェニルエステルなど、或いはこれらの混合物を好適に挙げることができる。
さらに、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)は、好ましくは前記化学式(2)で示される構造を有する化合物である。具体的には、1,3,5−トリス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)ベンゼン、4,4’,4’’−トリス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)トリフェニルメタン、4,4’,4’’−トリス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)−1,1,1−トリフェニルエタン、2,4,6−トリス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン、2,4,6−トリス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3,5−トリアジン、4,4’,4’’−トリス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)トリフェニルメタン、4,4’,4’’−トリス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,1,1−トリフェニルエタン、2,4,6−トリス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)ピリジンなど、或いはこれらのエステル化物など、及びこれらの混合物を好適に挙げることができる。
本発明で用いられる分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)は、アミノ基と反応してイミド環を形成し得る2個のカルボキシル基からなる対を分子内に2対(カルボキシル基を分子内に4個)有したカルボン酸化合物或いはそのエステル化物である。したがって、2個のカルボキシル基からなる対は、好適には相互に結合した隣り合わせの2個の炭素にそれぞれが結合している。そして、このカルボン酸化合物或いはそのエステル化物は、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物の加熱処理工程で、2個のポリアミド酸の末端のアミノ基と反応してイミド環を形成し得るものであるから、加熱処理によってポリイミドの分子量を十分に大きくできると思われる。
分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)は、ポリイミドのテトラカルボン酸成分となり得るテトラカルボン酸化合物或いはそのエステル化物を好適に用いることができる。本発明においては、前記のポリアミド酸(A)に用いるのが好適なテトラカルボン酸成分と同様のテトラカルボン酸化合物或いはそのエステル化物を用いることが、比較的低温あるいは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができるので好適である。特にポリアミド酸(A)に用いたテトラカルボン酸成分と同一のテトラカルボン酸化合物或いはそのエステル化物が好ましい。
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも(A)ポリアミド酸と、(B)分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物と、(C)分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物と、(D)溶剤とからなる溶液組成物である。
本発明のポリアミド酸溶液組成物は、好適には、ポリアミド酸(A)溶液に、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)と、分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)とを添加し、好ましくは均一に溶解することによって容易に得ることができる。
本発明において、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)と分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)との両方の成分が必須である。分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)を含有しないと本発明の効果である、比較的低温あるいは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができない。一方、分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)を含有しないと、理由は良くわからないが、再現よく直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を得られず、脆くなることがあることから好適ではない。
分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)と分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)との添加量は、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数を1としたときに、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)のモル数と分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)のモル数との合計のモル数が、0.001〜0.05倍モル、好ましくは0.001〜0.04倍モル、より好ましくは0.0015〜0.03倍モルの範囲である。添加量が0.001倍モル未満では充分な効果を得るのが難しくなる。一方、0.05倍モルを越えると、得られるポリイミド樹脂成形体の物性が低下することがあるので好適とは云えない。
さらに、分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)の添加量は、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数を1としたときに、0.0005〜0.02倍モル、好ましくは0.0007〜0.015倍モル、より好ましくは0.001〜0.01倍モルの範囲が好適である。添加量が0.02倍モルより多くなると、ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド樹脂は、柔軟性や靭性が低下するか、添加しない場合の直鎖状ポリイミドと全く異なる物性を持ったものになるために好ましくない。添加量が0.0005倍モルより少ないと本発明の効果を得ることができなくなることから好ましくない。
さらに、分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)の添加量は、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数を1としたときに、0.0005〜0.0495倍モル、好ましくは0.001〜0.0493倍モル、より好ましくは0.002〜0.049倍モルの範囲が好適である。添加量が0.0005倍モルより少ないと、ポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド樹脂は柔軟性や靭性が低下する可能性が高く好ましくなく、0.0495倍モルより多いと本発明の効果を得ることが難しくなるので好ましくない。
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物では、前記ポリアミド酸(A)の調製に好適に用いることができる溶剤以外でも、溶解性を損なわない範囲で、ポリアミド酸の貧溶媒を添加してもよい。貧溶媒の具体例としては、例えばキシレン、エチルセロソルブ、ジグライム、ジオキサンや、メタノ−ル、エタノ−ル、n−プロパノ−ル、iso−プロパノ−ル、n−ブタノ−ル、sec−ブタノ−ル、n−アミルアルコ−ル、n−ヘキサノ−ル、n−ヘプタノ−ル等のアルコ−ル類を挙げることができる。
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、低粘度化などの粘度調節や高濃度化が容易である。さらに溶液粘度は安定しており、且つ比較的低温或いは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができる。加熱処理の方法は、通常のポリイミドを得る公知の方法を用いることができるが、例えば基材上にポリイミド前駆体溶液組成物を塗布・流延した後、得られた塗膜を例えば熱風乾燥機を用いて比較的低温で加熱処理して溶媒を除去した後、そのままの状態で、或いは必要に応じて基材から剥離して、さらに高温で加熱処理することによりポリイミド樹脂成形体とすることができる。このとき、加熱処理の最高温度は、好ましくは180〜500℃、より好ましくは190〜480℃、さらに好ましくは200〜470℃、特に好ましくは210〜460℃の範囲である。加熱処理の最高温度が180℃より低いとイミド化に長時間を必要とすること、またポリイミド樹脂成形体の物性が低くなることから好ましくなく、一方、500℃を越えるとポリイミド樹脂の熱分解が進行し、物性の低下をもたらすことから好ましくない。
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、限定するものではないが、ポリアミック酸濃度が3〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは5〜35質量%であって、溶液粘度は、限定するものではないが、25℃において0.1〜3000ポイズ、好ましくは0.1〜1000ポイズ、より好ましくは0.5〜500ポイズ、特に好ましくは1〜200ポイズである。また、その用途に応じて、有機あるいは無機の添加剤、例えば増量剤、充填剤、強化材、顔料、染料、剥離剤などを好適に含有することができる。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。実施例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
<溶液粘度>
ポリアミド酸溶液組成物或いはポリイミド前駆体溶液組成物の溶液粘度は、25℃でE型粘度計を用いて測定した。
<機械的物性(引張試験)>
引張試験は、25℃、50%RHの雰囲気で、島津製作所社製 EZTsetを用いて、ダンベル型の試験片を5mm/分の速度で引っ張ることにより行った。引っ張り破断データから弾性率、破断伸び、破断強度を求めた。試験片は、標点間距離26.32mm、幅4mmのものを用いた。各試料に関して、n数を5以上となるように測定を行い、その算術平均を求めた。
〔実施例1〕
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと略記することもある)20.02g(0.100モル)を、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)221gに溶解した溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAと略記することもある)28.54g(0.097モル)を添加し、25℃で、s−BPDAを溶解して粘調溶液となるまで24時間攪拌して、ポリアミド酸(A)溶液を得た。この溶液のポリアミド酸濃度は18質量%であり、溶液粘度は58ポイズであった。この溶液に、メリット酸を0.17g(0.0005モル、ODAに対して0.005倍モル、ODAとs−BPDAが理論的に反応した場合のポリアミド酸の末端アミノ基数は0.006モルであり、それに対しては0.08倍モル)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(以下、s−BPTAと略記することもある)0.82g(0.00225モル、ODAに対して0.0225倍モル)を添加して均一に溶解させて、ポリイミド前駆体溶液組成物を調製した。得られたポリイミド前駆体溶液組成物の溶液粘度は58ポイズであり、室温で3日間保存してもほとんど変化しなかった。
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間加熱して厚みが40μmのポリイミド膜を得た。更にそのポリイミド膜を350℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
〔実施例2〕
メリット酸0.34g(0.001モル)、およびs−BPTA0.54g(0.0015モル)とした以外は、実施例1と同様にポリイミド前駆体溶液組成物を調製した。得られたポリイミド前駆体溶液組成物の溶液粘度は58ポイズであり、室温で3日間保存してもほとんど変化しなかった。
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間、300℃で10分間加熱して厚みが39μmのポリイミド膜を得た。また、250℃で10分間加熱後、更にそのポリイミド膜を350℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
〔比較例1〕
メリット酸を添加せず、s−BPTAを1.10g(0.003モル)添加した以外は、実施例1と同様にポリイミド前駆体溶液組成物を調製した。
ここで添加したs−BPTAのカルボキシル基の量は、実施例1及び2のメリット酸のカルボキシル基とs−BPTAのカルボキシル基との合計量とほぼ同じである。
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間加熱して厚みが40μmのポリイミド膜を得た。更にそのポリイミド膜を300℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。また、250℃で10分加熱後、更にそのポリイミド膜を350℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
比較例1で得られるポリイミドは実施例1及び2で用いたポリアミック酸(A)のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略当量にして得られた直鎖状ポリイミドである。
実施例1及び2のポリイミド膜の物性は、比較例1と比較して低温加熱時が特に高く、また350℃で加熱処理した場合でも比較例1と同等か上回った。
〔実施例3〕
パラフェニレンジアミン(以下、PPDと略記することもある)10.81g(0.100モル)を、NMP179gに溶解した溶液に、s−BPDA28.54g(0.097モル)を添加し、25℃で、s−BPDAを溶解して粘調溶液となるまで24時間攪拌して、ポリアミド酸(A)溶液を得た。この溶液のポリアミド酸濃度は18質量%であり、粘度は89ポイズであった。この溶液に、メリット酸を0.17g(0.0005モル、PPDに対して0.005倍モル、PPDとs−BPDAが理論的に反応した場合のポリアミド酸の末端アミノ基数は0.006モルであり、それに対しては0.08倍モル)とs−BPTA0.82g(0.00225モル、PPDに対して0.0225倍モル)を添加して、ポリイミド前駆体溶液組成物を調製した。得られたポリイミド前駆体溶液組成物の溶液粘度は89ポイズであり、室温で3日間保存してもほとんど変化しなかった。
得られたポリアミド酸溶液組成物を、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間加熱して厚みが38μmのポリイミド膜を得た。更にそのポリイミド膜を350℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
〔比較例2〕
メリット酸を添加せず、s−BPTAを1.100g(0.003モル)添加した以外は、実施例3と同様にポリアミド酸溶液組成物を調製した。
ここで添加したs−BPTAのカルボキシル基の量は、実施例3のメリット酸のカルボキシル基とs−BPTAのカルボキシル基との合計量とほぼ同じである。
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、実施例3と同様にして、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間加熱して厚みが40μmのポリイミド膜を得た。更にそのポリイミド膜を300℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。更にそのポリイミド膜を350℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
比較例2で得られるポリイミドは実施例3で用いたポリアミック酸(A)のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略当量にして得られた直鎖状ポリイミドである。
実施例3のポリイミド膜の物性は、比較例2と比較して低温加熱時が特に高く、また350℃で加熱処理した場合でも比較例2と同等か上回った。
〔実施例4〕
ODA20.02g(0.100モル)を、NMP187gに溶解した溶液に、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAと略記することがある)21.16g(0.097モル)を添加し、25℃で、PMDAが溶解して粘調溶液となるまで攪拌して、ポリアミド酸(A)溶液を得た。この溶液の濃度は18重量%であり、溶液粘度は20ポイズであった。この溶液に、メリット酸を0.17g(0.0005モル、ODAに対しては0.005倍モルであり、ODAとPMDAが理論的に反応した場合のポリアミド酸の末端アミノ基数は0.006モルであり、それに対しては0.08倍モル)とピロメリット酸(以下、PMTAと略記することもある)0.57g(0.00225モル)を添加して、ポリアミド酸溶液組成物を調整した。得られたポリアミド溶液組成物の溶液粘度は20ポイズであり、室温で3日間保存してもほとんど変化しなかった。
得られたポリアミド酸溶液組成物を、ガラス板上に流延し、120℃で30分間、熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間加熱して厚みが40μmのポリイミド膜を得た。更にそのポリイミド膜を350℃で10分間加熱したポリイミド膜も得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
〔比較例3〕
メリット酸を添加せず、PMTAを0.76g(0.003モル)添加した以外は、実施例3と同様にポリアミド酸溶液組成物を調製した。
ここで添加したPMTAのカルボキシル基濃度は、実施例4のメリット酸のカルボキシル基とPMTAのカルボキシル基との合計量とほぼ同じ濃度である。
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、実施例4と同様にして、ポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
比較例3で得られるポリイミドは実施例4で用いたポリアミック酸(A)のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略当量にして得られた直鎖状ポリイミドである。
実施例4のポリイミド膜の物性は、比較例3と比較して低温加熱時が特に高く、また350℃で加熱処理した場合でも比較例3と同等か上回った。
〔実施例5〕
2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPと略記することもある)41.05g(0.100モル)を、NMP307gに溶解した溶液に、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDAと略記することもある)31.26g(0.097モル)を添加し、25℃で、BTDAが溶解して粘調溶液となるまで攪拌して、ポリアミド酸(A)溶液を得た。この溶液の濃度は19重量%であり、溶液粘度は18ポイズであった。この溶液に、メリット酸を0.17g(0.0005モル、BAPPに対して0.005倍モルであり、BAPPとBTDAが理論的に反応した場合のポリアミド酸の末端アミノ基数は0.006モルであり、それに対しては0.08倍モル)とs−BPTA0.82g(0.00225モル)を添加して、ポリアミド酸溶液組成物を調製した。得られたポリアミド溶液組成物の粘度は18ポイズであり、室温で3日間保存してもほとんど変化しなかった。
得られたポリアミド酸溶液組成物を、ガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、180℃で10分間加熱して厚みが42μmのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
〔比較例4〕
メリット酸を添加せず、s−BPTAを1.10g(0.003モル)添加した以外は、実施例5と同様にポリイミド前駆体溶液組成物を調製した。
得られたポリアミド酸溶液組成物を、実施例5と同様にしてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
比較例4のポリイミドは実施例4で用いたポリアミック酸(A)のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略当量にして得られた直鎖状ポリイミドと殆ど同じである。
実施例5のポリイミド膜の物性は、比較例4と比較して上回った。
〔実施例6〕
実施例1の再現性を確認するため、実施例1と同様に、ポリアミド酸(A)及びポリイミド前駆体溶液組成物を調製し、得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて製膜及び加熱処理を行い41μmの厚みのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
得られたポリイミド膜は、実施例1とほぼ同じ物性であり良好な再現性を示した。
〔比較例5〕
s−BPTAを添加せず、メリット酸を0.68g(0.002モル)添加した以外は、実施例1と同様にポリイミド前駆体溶液を調製した。
ここで添加したメリット酸のカルボキシル基の量は、実施例1のメリット酸のカルボキシル基とs−BPTAのカルボキシル基との合計量とほぼ同じである。
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間、更に350℃で10分間加熱した厚み40μmのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
〔比較例6〕
比較例5の再現性を確認するために、比較例5と同様にして、ポリイミド前駆体溶液を調製し、得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いてポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
比較例5、6とも破断伸びの値が小さく、実施例1及び2で用いたポリアミック酸(A)のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを略当量にして得られた直鎖状ポリイミドのポリイミド膜である比較例1より脆くなっていた。また、比較例5と比較例6とは、同じ条件で再現性を見たものであるが、得られたポリイミド膜の物性(破断伸び)においてバラツキが大きかった。
〔参考例1〕
ODA20.02g(0.100モル)を、NMP259gに溶解した溶液に、s−BPDA29.20g(0.099モル)を添加し、25℃で、s−BPDAを溶解して粘調溶液となるまで24時間攪拌して、ポリアミド酸溶液を得た。この溶液のポリアミド酸濃度は16質量%と低濃度にも拘わらず、溶液粘度が650ポイズと高粘度になった。
得られたポリアミド酸溶液を、基材のガラス板上に流延し、120℃で30分間熱風乾燥した。さらに、ガラス板から剥離後、金属枠に固定して、250℃で10分間加熱後、350℃で10分間加熱して厚みが42μmのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の物性を表1に示す。
Figure 0005428295
本発明によって、溶液の粘度調節が容易であり、溶液粘度が安定しており、且つ比較的低温あるいは短時間の加熱処理によって直鎖状ポリイミドと同等あるいはそれ以上に優れた物性を有するポリイミド膜などのポリイミド樹脂成形体を好適に得ることができるポリイミド前駆体溶液組成物を提供することができる。

Claims (4)

  1. 少なくとも、(A)ポリアミド酸と、(B)分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物と、(C)分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物と、(D)溶剤とからなることを特徴とするポリイミド前駆体溶液組成物であって、
    分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)が、下記化学式(1)で示される構造であり、
    Figure 0005428295
    [ここで、A からA は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基または芳香族基から選ばれる1価の基を表す。]

    ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分とテトラカルボン酸成分のモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]が1.001〜1.05の範囲であり、
    分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)のモル数と、分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)のモル数との合計のモル数が、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数に対して0.001〜0.05倍モルの範囲であり、
    分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)のモル数が、ポリアミド酸(A)を構成するジアミン成分のモル数に対して0.0005〜0.02倍モルの範囲である、
    ポリイミド前駆体溶液組成物。
  2. ポリアミド酸(A)が、下記化学式(3)からなる繰り返し単位を有することを特徴とする請求項に記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
    Figure 0005428295
    [ここで、Aは下記化学式(4)で示されたテトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基から選ばれたいずれかの基であり、Bは下記化学式(5)で示されたジアミンからアミノ基を除いた2価の基から選ばれたいずれかの基である。]
    Figure 0005428295
    Figure 0005428295
  3. 溶剤(D)中で、ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を反応させてポリアミド酸(A)の溶液を調製し、次いで、ポリアミド酸溶液に分子内にカルボキシル基を3対以上有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(B)及び分子内にカルボキシル基を2対有するカルボン酸化合物或いはそのエステル化物(C)を添加して溶解させることによって得られることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
  4. 請求項1〜に記載のポリイミド前駆体溶液組成物を、加熱処理して溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより得られることを特徴とするポリイミド樹脂。
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