JP5425675B2 - 無段変速機ベルト及び無段変速機ベルト用鋼 - Google Patents
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窒化処理により形成された表面硬化層を有し、最表面からの深さ0.03mmでの断面の硬度A(HV)と、厚み方向中央の断面の内部硬度B(HV)とが、A≦1.1B、B≧420HVの関係にあることを特徴とする無段変速機ベルトにある(請求項1)。
化学成分が、質量%で、C:0.30〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.80%以下、Ni:4.00%以下、Cr:1.00〜4.00%、Mo:0.50〜1.50%、V:0.10〜1.00%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする無段変速機ベルト用鋼にある(請求項3)。
特に、第1の発明の無段変速機ベルトにおいては、上記のごとく、窒化処理により形成された表面硬化層を有し、最表面からの深さ0.03mmでの断面の硬度A(HV)と、厚み方向中央の断面の内部硬度B(HV)とが、A≦1.1B、B≧420HVの関係にある。これにより、必要とする耐摩耗性と高強度の両立を図ることができるのである。
つまり、本発明によれば、高強度で耐摩耗性に優れ、従来よりも低コストで提供可能な無段変速機ベルト及びこれを製造するための無段変速機ベルト用鋼を提供することができる。
Cは、強度及び靱性を確保するために必須の元素である。その効果を得るため、Cの含有量の下限値は0.30%とする。一方、過度にCを含有すると粗大炭化物が生成して延性及び靱性が低下し、冷間加工性が極めて悪くなり、冷間圧延が困難となるだけでなく、Cr,V等の窒化処理時に硬度上昇に寄与する元素が炭化物となって存在する割合が増加し、窒化処理後に希望する表面硬さを得られなくなり疲労特性低下の原因となる。また、接合によりリング製造する工程における溶接性が確保できなくなる。そのため、C含有量の上限値は0.40%とする。
Siは、任意元素であって含有させなくてもよいが、溶製時の脱酸剤として有効な元素であるので0.50%以下の範囲で含有させることができる。Si含有量が多すぎると延性が著しく低下し、冷間圧延が困難となるため、その上限値を0.50%とする。
Mnは、任意元素であって含有させなくてもよいが、溶製時の脱酸剤として有効な元素であるので少量含有させることができる。Mn含有量が多すぎると延性が低下し、冷間圧延が難しくなるため、その上限値を0.80%とする。
Niは、任意元素であって含有させなくてもよいが、焼き入れ性向上に有効であり、また、炭化物生成抑制にも有効であり、粒界炭化物の低減による強度、靱性の向上に寄与しうる元素であるので4.00%以下の範囲で含有させることができる。Niを過度に含有しても効果は飽和し、また、高価な元素でありコストアップを招くため、Ni含有量の上限値を4.00%とする。
Crは、焼き入れ性向上に有効であり、また、窒化処理による表面硬化層の硬度向上に有効である。その効果を得るため、Cr含有量の下限値は1.00%とする。一方、Crを過度に含有すると炭化物安定効果により炭化物の成長を助長して強度低下を招くため、Cr含有量の上限値を4.00%とする。
Moは、延性を損なうことなく強度、靱性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るため、Mo含有量の下限値は0.50%とする。一方、Mo含有量が多くなりすぎてもその効果が飽和してコストアップを招くため、Mo含有量の上限値は1.50%とする。
Vは、ピン止め効果による結晶粒径の微細化や、焼き戻し軟化抵抗性の向上により強度、靱性を向上させるのに有効な元素である。また、窒化処理による表面硬化層の硬度向上にも有効である。その効果を得るため、V含有量の下限値は0.10%とする。一方、V含有量が多くなりすぎてもその効果が飽和し、また、粗大な炭化物を生成して強度、靱性を低下させるおそれがあるため、V含有量の上限値は1.00%とする。
上記不可避的不純物としては、少なくとも、Sは0.05%以下、Pは0.05%以下、Nは0.02%以下、Oは0.01%以下、Alは0.01%以下、Tiは0.01%以下に制限することが好ましい(請求項4)。以下に、各成分範囲の限定理由について説明する。
Sの含有量を0.05%以下に制限できない場合には、鋼中のMnSが増加し、製品強度の低下につながるおそれがある。
Pの含有量を0.05%以下に制限できない場合には、粒界に偏析して、粒界強度を低下させ、材料の靱性を低下させるおそれがある。
Nの含有量を0.02%以下に制限できない場合には、鋼中に少量存在する可能性があるAl、Tiと結合して生成される窒化物が増加し、疲労強度低下の原因となるおそれがある。
Oの含有量を0.01%以下に制限できない場合には、Al2O3等の酸化物系介在物の大きさが大きくなり、疲労破壊の起点となって疲労強度低下の原因となるおそれがある。
Alは脱酸に効果があるため、0.01%以下の範囲で含有させることができ、かつ、その効果を得ることができる。Alを0.01%を超えて含有すると、鋼中に存在するAlの酸化物系介在物及び窒化物系介在物の量が増加し、これが疲労強度低下の原因となるおそれがある。
Tiの含有量を0.01%以下に制限できない場合には、Alと同様にTiの酸化物系介在物及び窒化物系介在物の量が増加し、これが疲労強度低下の原因となるおそれがある。
本例は、本発明の実施例にかかる無段変速機ベルト及び無段変速機ベルト用鋼につき、複数の試料を用いてその効果を説明する。
本例では、表1に示すごとく、本発明の実施例としての鋼である試料E1〜試料E13と、本発明の比較例としての鋼である試料C1〜試料C18を準備した。
上記焼鈍熱処理は、その前工程での溶接処理による熱影響をなくすと共に、その後の冷間圧延の圧延性を確保するためのものである。焼鈍熱処理条件は、850℃〜1000℃に0.5Hr保持した後空冷し、さらに640℃〜750℃に1Hr保持するという条件とした。
なお、上記850℃〜1000℃の温度範囲内での具体的設定温度は、各試料ごとにそのA3変態点+50℃(この温度が上記範囲の上限を超える場合には上限の1000℃、下限を切る場合には下限の850℃)に定めた。
また、上記640℃〜750℃の温度範囲内での具体的設定温度は、各試料ごとにそのA1変態点−50℃(この温度が上記範囲の上限を超える場合には上限の750℃、下限を切る場合には下限の640℃)に定めた。
焼き戻し条件は、原則として450℃に1時間保持するという条件とした。なお、試料E12、E13については焼き戻し温度を600℃に変更し、試料C16、C17については焼き戻し温度を700℃に変更し、上記試料C18については焼き戻し温度を350℃に変更した(表2備考欄参照)。
なお、上記クラウニングR形状は、図3に示すごとく、エレメント8の両側の凹部81に複数の製品リング(無段変速機ベルト)11を重ねて1組のベルトに構成して挿入する場合に、その重なり合った状態を安定させるために設けられる。
まず、「素材リング」については、引張強度(MPa)、伸び(%)、溶接性、及び内部硬度(HV)を求めた。
これらの特性を求める試験は、図示しない一対のローラに素材リングを掛け渡し、一対のローラを介して素材リングを引っ張って行った。素材リングの引張強度は、1400MPa以上の場合を合格、それ未満の場合を不合格とし、伸びは10%以上の場合を合格、それ未満の場合を不合格とした。
素材リングの断面において、厚み方向中央部のビッカース硬さ(HV)を測定した。内部硬度が420HV以上の場合を合格、それ未満の場合を不合格とした。
<溶接性>
溶接性は、溶接直後の溶接部を外観目視検査し、観察者の経験により接合不良の有無を判定した。接合不良がない場合は合格(○)、接合不良があれば不合格(×)とした。
<うねり>
うねりは、図4に示すごとく、一対のローラ61、62間に製品リング11を掛け渡し、ローラ61とローラ62との間を拡げる方向にテンションをかけた状態で製品リング11を回転させ、製品リング11の端部Pにダイヤルゲージを当てて製品の幅方向に変位する変位量を測定して評価した。変位量が0.3mm以下の場合は合格(○)、0.3mmを超える場合は不合格(×)とした。
これは形状測定機を用いて形状を測定し、逆反りがなく、曲率半径Rが500mm以上1200mm以下の場合を合格(○)、この範囲から外れる場合を不合格(×)とした。
<表面硬度>
製品リングの表面からビッカース硬さ(HV)を測定した。表面硬度が650HV以上の場合をより好ましい結果として扱った。
製品リングの断面において、最表面からの深さ0.03mmの位置でのビッカース硬さ(HV)を測定した。0.03mm深さの硬度(A)が上述した内部硬度(B)の1.1倍以下(A≦1.1B)の場合を合格(○)、1.1倍を超える場合を不合格(×)とした。
疲労寿命は、複数のローラを有し、そのローラ間で製品リングに定められたテンションをかけることができ、ローラを回転することにより製品リングに繰り返し曲げ応力をかけることのできる専用の疲労試験機を用いた試験方法によって評価を行った。評価は、現行品であるマルエージング鋼よりなるリングを上記の専用の疲労試験機により評価した場合の疲労寿命の平均繰り返し回数を基準回数として行う。試験対象試料の疲労試験の結果、破断するまでの繰り返し曲げ数が、上記基準回数以上の場合を合格で特に優れる(◎)と判定し、上記基準回数のばらつき下限回数(基準回数−4σ)以上基準回数未満の場合を合格(○)と判定し、上記基準回数のばらつき下限回数(基準回数−4σ)未満の回数で破断した場合を不合格(×)とした。
一方、比較例としての試料C1は、その化学成分組成からわかるように従来のマルエージング鋼であり、全ての特性は優れているが非常に素材価格が高いという問題がある。
比較例としての試料C3は、C含有量が本発明の範囲の上限を外れているため、伸びが低く、また、溶接性、うねり、クラウニングR、および疲労寿命も悪い結果となった。
比較例としての試料C5は、Cr含有量が本発明の範囲の上限を外れているため、引張強度及び疲労寿命が悪い結果となった。
比較例としての試料C7は、V含有量が本発明の範囲の下限を外れているため、引張強度及び表面硬さが低い結果となった。
比較例としての試料C8は、V含有量が本発明の範囲の上限を外れているため、疲労寿命が悪い結果となった。
比較例としての試料C10は、Mn含有量が本発明の範囲の上限を外れているため、伸び及び疲労強度が悪い結果となった。
比較例としての試料C14、C15は、矯正工程を実施しなかったことにより、うねり及びクラウニングRが悪く、そのために負荷応力が不均一に製品リングにかかることになり、疲労寿命も悪い結果となった。
比較例としての試料C17は、試料C16と同様に、焼き戻し温度を700℃に高めた例であるが、C含有率が高いため、焼き戻し後において窒化処理後の硬さ上昇に寄与するCr、Vが炭化物となって存在する割合が増加し、その結果窒化処理後の硬さ上昇に寄与するCr、Vが減少し、表面硬さが低下した。そして、その結果、疲労寿命も悪い結果となった。なお、焼き戻し温度が高いため、引張強度も本発明の実施例に比べて低くなっている。
比較例としての試料C18は、焼き戻し温度を350℃に低くしたことにより靱性が大きく低下し、伸び及び疲労寿命が悪い結果となった。
12 リング材
51、52 (矯正加工用の)ローラ
8 エレメント
61、62 (うねり測定用の)ローラ
Claims (4)
- 化学成分が、質量%で、C:0.30〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.80%以下、Ni:4.00%以下、Cr:1.00〜4.00%、Mo:0.50〜1.50%、V:0.10〜1.00%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなり、
窒化処理により形成された表面硬化層を有し、最表面からの深さ0.03mmでの断面の硬度A(HV)と、厚み方向中央の断面の内部硬度B(HV)とが、A≦1.1B、B≧420HVの関係にあることを特徴とする無段変速機ベルト。 - 請求項1に記載の無段変速機ベルトにおいて、さらに、上記表面硬化層の表面の硬度(HV)が650HV以上であることを特徴とする無段変速機ベルト。
- 請求項1又は2に記載の無段変速機ベルトを製造するための無段変速機ベルト用鋼であって、
化学成分が、質量%で、C:0.30〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.80%以下、Ni:4.00%以下、Cr:1.00〜4.00%、Mo:0.50〜1.50%、V:0.10〜1.00%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする無段変速機ベルト用鋼。 - 請求項3に記載の無段変速機ベルト用鋼において、上記化学成分における上記不可避的不純物としては、少なくとも、Sは0.05%以下、Pは0.05%以下、Nは0.02%以下、Oは0.01%以下、Alは0.01%以下、Tiは0.01%以下に制限することを特徴とする無段変速機ベルト用鋼。
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