以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
先ず、本実施形態に係る車両のパワートレーンについて図1を参照して説明する。このパワートレーンの制御は、図1に示すECU100により実行されるプログラムによって実現される。尚、このECU100は、具体的には、エンジンECU、変速機ECU、自動クラッチECU等から構成され、これらECUが互いに通信可能に接続されている。
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン(駆動源)1と、自動クラッチ2と、変速機3と、上記ECU100とを備えて構成されている。以下、これらエンジン1、自動クラッチ2、変速機3、ECU100について説明する。
−エンジン1−
エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関で構成され、その出力軸であるクランクシャフト11は自動クラッチ2のフライホイール21(図2参照)に連結されている。クランクシャフト11の回転数(エンジン回転数Ne)はエンジン回転数センサ401によって検出される。
エンジン1に吸入される空気量は、電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。このスロットルバルブ12は、ドライバのアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ402によって検出される。
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU100によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ401によって検出されるエンジン回転数Ne、及び、ドライバのアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるように、スロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より具体的には、スロットル開度センサ402を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
−自動クラッチ2−
自動クラッチ2の具体的な構成を図2を参照して説明する。
自動クラッチ2は、エンジン1のクランクシャフト11と変速機3の入力軸31との間に介装されていて、必要に応じてクランクシャフト11と入力軸31とを動力伝達可能な接続状態(図2参照)、動力伝達不可能な切断状態、あるいは、滑りを伴う半接続状態(いわゆる半クラッチ状態)にするものである。
この自動クラッチ2は、図2に示すように、一般的に公知の単板乾式構造とされ、主として、クラッチディスク22、プレッシャープレート23、ダイアフラムスプリング24を含んで構成されている。
クラッチディスク22は、変速機3の入力軸31の先端に、一体回転かつ軸方向変位可能にスプライン嵌合されることによって、エンジン1のクランクシャフト11の後端に固定されるフライホイール21に対向して配置されている。
プレッシャープレート23は、クラッチディスク22に対向して配置される環状板からなり、ダイアフラムスプリング24の外周部分に取り付けられている。
ダイアフラムスプリング24は、自然状態においてプレッシャープレート23をフライホイール21側に近づけるように押圧して、プレッシャープレート23でクラッチディスク22をフライホイール21に圧接させるクラッチ接続状態にするものである。また、このダイアフラムスプリング24は、レリーズベアリング203によって、その内径側が軸方向(図2における左側)に押圧されることによって反転されたときに、プレッシャープレート23をフライホイール21から後退させる(図2における右方向に移動させる)ことでクラッチディスク22をフライホイール21から引き離すクラッチ切断状態とするものである。
上記自動クラッチ2を作動させるためのアクチュエータとしてのクラッチ操作装置200は、必要に応じて、自動クラッチ2のプレッシャープレート23を軸方向に変位させることによって自動クラッチ2に、上記接続状態、切断状態、または、半接続状態を成立させるように操作するもので、図2に示すように、主として、油圧式クラッチレリーズ装置201と、油圧制御装置202とを備えている。
上記油圧式クラッチレリーズ装置201は、自動クラッチ2のダイアフラムスプリング24の内径部分に当接されるレリーズベアリング203を入力軸31の外径側で軸方向に変位させるものである。尚、この油圧式クラッチレリーズ装置201の構成は周知であるため(例えば、特開2008−256190号公報などに開示されている)、ここでの詳細な説明は省略する。
上記油圧制御装置202は、必要に応じて油圧式クラッチレリーズ装置201の油圧室に作動油圧を印加して自動クラッチ2を切断状態にさせたり、油圧室に対する作動油圧の印加を解除して自動クラッチ2を接続状態にさせたり、滑りを伴う半接続状態にさせたりするもので、クラッチマスターシリンダ210と、クラッチアクチュエータ211と、動力伝達機構212とを含んで構成されている。
クラッチマスターシリンダ210は、油圧配管213及びアウタースリーブ205の油通路(図示省略)を介して油圧式クラッチレリーズ装置201の油圧室(図示省略)に接続されている。
クラッチアクチュエータ211は、例えば電動モータとされる。動力伝達機構212は、クラッチアクチュエータ211で発生する回転動力を減速するとともに、クラッチマスターシリンダ210のピストン210aを直線的に往復変位させる駆動力に変換するものである。
この動力伝達機構212の詳細な構成は図示していないが、複数の歯車等を組み合わせた構成であって、上記直線駆動力の出力部分に、クラッチマスターシリンダ210のピストン210aに連結されるプッシュロッド212aが設けられている。
上述した自動クラッチ2による基本的な動作については一般的に公知であるが、以下に簡単に説明する。
なお、この自動クラッチ2は、後述するシフトレバー9aでニュートラルポジションが選択されているときは切断状態となるように予め規定されている。また、走行している車両を停止させて走行用変速段が保持されたままの状態でも、自動クラッチ2は切断状態にするように予め規定されている。
シフトレバー9aが、走行用シフトポジション(後述するドライブ(D)位置)に変更されて車両が走行すると、車両の走行状態(車速とアクセル操作量)に応じて所定の変速段が成立するように変速機3の変速処理が行われる。
この変速機3の変速処理は、ECU100により図示しないシフトセレクトアクチュエータを制御することにより行われる。この変速機3の変速処理については後述する。
そして、変速処理の後、車両が発進して走行している際に、車速やアクセル操作量に応じて設定される変速段を他の変速段に切り換える場合には、変速機3の変速処理を行う前に、自動クラッチ2を、一旦、切断状態とする。
この切断状態を成立させるときの処理としては、油圧制御装置202のクラッチアクチュエータ211を所定方向に回転駆動させることにより、クラッチマスターシリンダ210のピストン210aを押圧する。
なお、動力伝達機構212のプッシュロッド212aの移動ストロークをストロークセンサ212bで検出し、この検出出力に基づき、クラッチアクチュエータ211をフィードバック制御することにより、クラッチマスターシリンダ210のピストン210aの押動ストロークを調整するようになっている。
このピストン210aの押圧によってクラッチマスターシリンダ210内の作動油圧が油圧配管213を通じて油圧式クラッチレリーズ装置201の油圧室へ印加され、油圧式クラッチレリーズ装置201のピストン(図示省略)がフライホイール21側へ押動されるようになる。
これにより、レリーズベアリング203がダイアフラムスプリング24を反転させるので、プレッシャープレート23がフライホイール21から引き離されることになり、エンジン1のクランクシャフト11と変速機3の入力軸31とが切り離されて、自動クラッチ2が切断状態となる。
このようなクラッチ切断状態にしてから、所定のシフトポジション(要求シフトポジション)を成立させるように変速機3の変速処理を行う。
この変速処理によって要求シフトポジションが成立されると、自動クラッチ2を接続状態(図2に示す状態)に戻す。
この接続状態への切り替え処理は、油圧制御装置202のクラッチアクチュエータ211を前記とは逆方向に回転駆動させることにより、クラッチマスターシリンダ210のピストン210aに対する押圧を解除させる。
これにより、ダイアフラムスプリング24の弾性復元力によってレリーズベアリング203が押し戻されるとともに、油圧式クラッチレリーズ装置201のピストンが引き戻されることになるので、油圧室内の作動油が油圧配管213を経てクラッチマスターシリンダ210内に戻される。
それと同時にダイアフラムスプリング24の弾性復元力によってプレッシャープレート23がフライホイール21側へ押動されるので、エンジン1のクランクシャフト11と変速機3の入力軸31とが接続された接続状態となる。
また、上記レリーズベアリング203の外周側には、このレリーズベアリング203の位置(入力軸31の軸心に沿う方向の位置:クラッチストローク位置に相当)を検出するためのクラッチストロークセンサ(ストローク位置検知手段)410が備えられている。また、上記レリーズベアリング203の外周面には、このクラッチストロークセンサ410に対向して突起203aが突設されており、クラッチストロークセンサ410が、この突起203aの位置を検出することでクラッチストローク位置(アクチュエータの動作に応じた制御量)が検出可能な構成とされている。
−変速機3−
上記変速機3は、例えば前進5段、後進1段の平行歯車式変速機などの一般的なマニュアルトランスミッションと同様の構成を有している。変速機3の入力軸31は、上記自動クラッチ2のクラッチディスク22に連結されている(図2参照)。また、図1に示すように、変速機3の出力軸32の回転は、プロペラシャフト4、ディファレンシャルギヤ5及びドライブシャフト6などを介して駆動輪7に伝達される。
変速機3の入力軸31の回転数は、入力軸回転数センサ403によって検出される。また、変速機3の出力軸32の回転数は、出力軸回転数センサ404によって検出される。これら入力軸回転数センサ403及び出力軸回転数センサ404の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)に基づいて、現在のギヤ段を判定することができる。
本実施形態の変速機3には、シフトフォーク及びセレクトアンドシフトシャフト等を有する変速操作装置300が設けられており、全体としてギヤ変速操作を自動的に行う自動化マニュアルトランスミッション(AMT)を構成している。
変速操作装置300は、セレクト方向の操作(セレクト操作)を行う油圧式のセレクトアクチュエータ、シフト方向の操作(シフト操作)を行う油圧式のシフトアクチュエータ、及び、これらアクチュエータに供給する作動油の油圧を制御する油圧回路などを備えている。そして、変速操作装置300の油圧回路にはECU100からのソレノイド制御信号(油圧指令値)が供給され、そのソレノイド制御信号に基づいてセレクトアクチュエータ及びシフトアクチュエータがそれぞれ個別に駆動制御され、変速機3のセレクト操作及びシフト操作が自動的に実行される構成となっている。これら構成は周知であるため、ここでの説明は省略する。
一方、車両の運転席の近傍にはシフト装置9が配置されている。このシフト装置9にはシフトレバー9aが変位操作可能に設けられている。また、このシフト装置9には、図3に示すように、パーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、及び、シーケンシャル(S)位置を有するシフトゲート91が形成されており、ドライバが所望の変速位置へシフトレバー9a(図1参照)を変位させることが可能となっている。これらパーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、シーケンシャル(S)位置(下記の「+」位置および「−」位置も含む)の各変速位置は、シフトポジションセンサ406によって検出される。
上記シフトレバー9aが「ドライブ(D)位置」に操作されている状態では、車両の運転状態などに応じて、変速機3の複数の前進ギヤ段(前進5速)が自動的に変速制御される。つまり、オートマチックモードでの変速動作が行われる。
一方、上記シフトレバー9aが「シーケンシャル(S)位置」に操作されている状態で、シフトレバー9aがS位置を中立位置として「+」位置または「−」位置に操作されると、変速機3の前進ギヤ段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→…→5th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつダウン(例えば5th→4th→…→1st)される。
なお、以上のシフトレバー9aに加えて、シフトアップ用パドルスイッチ(「+」位置への操作スイッチ)と、シフトダウン用パドルスイッチ(「−」位置への操作スイッチ)とを、ステアリングまたはステアリングコラム等に設けておき、シフトレバー9aがS位置に操作されているときに、シフトアップ用パドルスイッチを1回操作するごとにギヤ段を1段ずつアップし、シフトダウン用パドルスイッチを1回操作するごとにギヤ段を1段ずつダウンするという構成を付加しておいてもよい。また、上記シフトレバー9aを備えさせず、パドルスイッチのみによって手動変速操作が行われる構成としてもよい。この場合、インストルメントパネル上やコンソールパネル上に「オートマチックモード」を選択するためのオートマチックモードスイッチや、「後退(リバース)」を選択するためのリバーススイッチが設けられる。また、必要に応じて、「ニュートラル」を選択するためのニュートラルスイッチが設けられる場合もある。
−ECU100−
ECU100は、図4に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。
ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104は、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
これらCPU101、ROM102、RAM103、及び、バックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
ECU100の入力インターフェース105には、エンジン回転数センサ401、スロットル開度センサ402、入力軸回転数センサ403、出力軸回転数センサ404、アクセルペダル8(図1参照)の開度を検出するアクセル開度センサ405、シフト装置9のシフト位置を検出するシフトポジションセンサ406、ブレーキペダルセンサ407、車両の速度を検出する車速センサ408、車両の前後方向の加速度(車両前後G)を検出する加速度センサ(Gセンサ)409、上記クラッチストロークセンサ410などが接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力される。
ECU100の出力インターフェース106には、スロットルバルブ12を開閉するスロットルモータ13、自動クラッチ2のクラッチ操作装置200、及び、変速機3の変速操作装置300などが接続されている。
ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブ12の開度制御を含むエンジン1の各種制御を実行する。また、ECU100は、変速機3の変速時等において自動クラッチ2のクラッチ操作装置200に制御信号を出力して、自動クラッチ2に上記切断動作及び接続動作を行わせる。さらに、ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、変速機3の変速操作装置300に制御信号(油圧指令値)を出力して、変速機3のギヤ段を切り換える変速制御を行う。
−クラッチトルクマップ作成動作−
次に、本実施形態の特徴とする動作であるクラッチストロークとクラッチ伝達トルクとの関係を学習する学習動作、及び、その学習動作によって得られた学習値を利用したクラッチトルクマップ作成動作について説明する。
この学習動作及びクラッチトルクマップ作成動作は、停車している車両が発進する際であって、自動クラッチ2が切断状態から半接続状態(半クラッチ状態)を経て接続状態となる一連の動作中に実行される。
この学習動作及びクラッチトルクマップ作成動作の概略について説明すると、先ず、車両停車状態において、上記加速度センサ(Gセンサ)409の出力値に基づいて、路面の影響による加速度(重力の影響による車両前方または車両後方の加速度)から、この路面の勾配に応じて車輪(駆動輪7)に発生しているトルク(Tr)を算出する。その後、車両の発進動作に伴って自動クラッチ2が半接続状態になると、上記加速度センサ409の出力値に基づいて算出されるトルク(Ttg:本発明でいう第1のトルク値)と、上記入力軸回転数センサ403の出力値に基づいて算出されるトルク(Ttn:本発明でいう第2のトルク値)とをそれぞれ算出する。そして、これら加速度センサ409の出力値に基づくトルク(Ttg)、及び、入力軸回転数センサ403の出力値に基づくトルク(Ttn)のうちの信頼性の高い値を選択すると共に、この選択されたトルクと上記路面の勾配に応じて駆動輪7に発生しているトルクとから、エンジントルクに起因するクラッチ伝達トルク(真にエンジン駆動力の伝達により発生しているトルク)を求める。つまり、路面の勾配に応じて駆動輪7に発生しているトルクを排除したクラッチ伝達トルクを求める。
この動作を、自動クラッチ2が半接続状態から接続状態に移行していく期間中に繰り返して実行し、それぞれにおけるクラッチストローク位置とクラッチ伝達トルクとの相関関係を学習値として取得していく。そして、クラッチストロークの全域に亘って、上記クラッチストローク位置とクラッチ伝達トルクとの相関関係が取得された時点で、これら取得された学習値からクラッチトルクマップを作成する。
以下、上記学習動作及びクラッチトルクマップ作成動作の具体的な手順について図5のフローチャートに沿って説明する。このフローチャートに示した動作は、車両が停車する度に(上記車速センサ408によって車速が「0」に検出される度に)開始される。または、車両の停車回数が所定回数を迎える度に実行するようにしてもよい。
先ず、ステップST1において、上記加速度センサ409によって検出される車両前後方向のG(重力の加速度)を検出し、この車両前後方向のGから路面の傾斜に応じたトルク(駆動輪7に発生するトルク:Tr)を算出する。つまり、現在、車両は停車状態であるので、ここで加速度センサ409によって検出される車両前後方向のGは路面の斜度に応じた値として検出されることになり、これに基づき所定の換算式または予め作成されたマップに基づいて駆動輪7に発生しているトルク(Tr)が算出されることになる。
この場合、車両が降坂路で停車しておれば、駆動輪7に発生するトルク(Tr)は正回転方向(車両が前進する方向)のトルクとなり且つ路面勾配が大きいほど大きな値(正の値)となる。一方、車両が登坂路で停車しておれば、駆動輪7に発生するトルク(Tr)は逆回転方向(車両が後退する方向)のトルクとなり且つ路面勾配が大きいほど絶対値が大きな値(負の値で絶対値が大きな値)となる。
路面の傾斜に応じたトルク(Tr)を算出した後、ステップST2に移り、運転者による車両発進操作が行われることに伴って自動クラッチ2が作動し、切断(解放)状態から半接続(半クラッチ)状態となったか(発進半クラッチが開始されたか)否かを判定する。例えば、上記シフトレバー9aがドライブ(D)位置に操作され、それに伴って油圧制御装置202のクラッチアクチュエータ211の回転駆動、クラッチマスターシリンダ210のピストン210aに対する押圧の解除、ダイアフラムスプリング24の弾性復元力によってレリーズベアリング203が押し戻されることによるプレッシャープレート23のフライホイール21側への押動動作により、エンジン1のトルクがフライホイール21を介してクラッチディスク22に伝達され始めた状態になったか否かを判定する。この判定は、例えば上記加速度センサ409の出力信号の変化や入力軸回転数センサ403の出力信号の変化等に基づいて行われる。
車両発進状態に移行していない場合、または、車両発進状態に移行していても未だエンジン1のトルクがクラッチディスク22に伝達され始めていない(半クラッチ状態になっていない)場合には、このステップST2でNO判定されてリターンされる。
一方、自動クラッチ2の作動により半クラッチ状態になり、ステップST2でYES判定された場合には、ステップST3に移り、上記加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)の算出、及び、上記入力軸回転数センサ403の検出信号に基づく総トルク(Ttn)の算出を行う。
つまり、自動クラッチ2の作動により半クラッチ状態になり、エンジン1のトルクがクラッチディスク22に伝達されたことに起因して発生する車両前後方向の加速度(以下、「発進加速度」という)を検出し、この発進加速度からクラッチ伝達トルクを算出する。また、自動クラッチ2の作動により半クラッチ状態になり、エンジン1のトルクがクラッチディスク22に伝達されたことに起因して上記入力軸31の回転数が上昇したことを上記入力軸回転数センサ403により検出し、この検出値に基づいてクラッチ伝達トルクを算出する。これら加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)、及び、入力軸回転数センサ403の検出信号に基づく総トルク(Ttn)は、所定の換算式または予め作成されたマップに基づいて求められる。
このようにして総トルク(Ttg,Ttn)の算出を行った後、ステップST4に移り、クラッチ伝達トルクの学習値を取得するに当たって採用する総トルクの値の選択動作を実行する。この選択動作は以下の式(1)に従って判定される(トルク値選出手段による、信頼性の高いトルク値の選出動作)。
0.9×Ttn≦Ttg≦1.1×Ttn …(1)
これは、上記加速度センサ409の検出信号にノイズ等による悪影響が生じていない場合、つまり、加速度センサ409の検出信号の信頼性が高い場合には、この加速度センサ409の検出信号を採用して後述するクラッチ伝達トルクの学習値を取得するようにするための動作である。つまり、加速度センサ409の検出信号と入力軸回転数センサ403の検出信号とを比較した場合、ノイズ等の悪影響が生じていなければ加速度センサ409の検出信号の方が信頼性が高い。このため、ノイズ等の悪影響が生じていない場合には加速度センサ409の検出信号により算出された総トルク(Ttg)を採用し、ノイズ等の悪影響が生じている場合には、その影響を比較的受けにくい入力軸回転数センサ403の検出信号により算出された総トルク(Ttn)を採用するようにしている。
加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)が上記式(1)の範囲にあり、加速度センサ409の検出信号の信頼性が高いと判断された場合にはステップST4でYES判定され、ステップST5に移る。このステップST5では、上記クラッチストロークセンサ410の出力信号に基づいてクラッチストロークを取得する。
その後、ステップST6に移り、車両スタック判定を行う。この車両スタック判定は、路面に凹凸等が存在しており、駆動輪7に生じているトルクに応じた発進が行えない場合(駆動輪7に生じているトルクに応じた加速度が車両に発生していない場合)には、本学習動作及びクラッチトルクマップ作成動作を停止するためのものである。この判定は以下の式(2)に従って判定される。
Ttg−Tr≦1.2×前回ストローク対応トルク …(2)
ここで、「前回ストローク対応トルク」とは、前回ルーチンにおいて求められたクラッチストローク位置に対するクラッチ伝達トルクの値であり、この「前回ストローク対応トルク」に対して、今回のストローク対応トルク(今回ルーチンにおけるクラッチストローク位置に対するクラッチ伝達トルクの値)が1.2倍を超えている場合には、前回値に対する偏差が通常の発進時(路面に凹凸等が存在していない状態での発進時:車両スタックの無い発進時)の値を超えているとして、車両スタックが生じていると判定するものである。この場合、ステップST6でNO判定され、本ルーチンを終了する(学習禁止手段による、学習値の取得禁止動作)。
尚、上記式(2)の左辺である「Ttg−Tr」は、車両が降坂路において停車から発進する場合には、トルク(Tr)は正の値であるため、路面の勾配に応じて駆動輪7に発生しているトルク(Tr)を総トルク(Ttg)から差し引くことで、エンジン1の駆動力のみで発生しているトルクを算出し、これと式(2)の右辺であるスタック判定基準値とを比較することになる。一方、車両が登坂路において停車から発進する場合には、トルク(Tr)は負の値であるため、路面の勾配に応じて駆動輪7に発生しているトルク(Tr)を総トルク(Ttg)に加算することで、路面の勾配に応じて車両が後退する側に発生しているトルクを相殺するトルクと実際に車両が前進走行することで発生するトルクとの合算値としてエンジン1の駆動力により発生しているトルクを算出し、これと式(2)の右辺であるスタック判定基準値とを比較することになる。
上記式(2)が成立しておりステップST6でYES判定された場合にはステップST7に移り、現在のクラッチストロークに対応したクラッチ伝達トルクの学習値を取得する。具体的には、上記加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)から路面の傾斜に応じたトルク(Tr)を減算した値(路面の傾斜に応じたトルク(Tr)が負の値である場合には加算した値となる)を現在のクラッチ伝達トルクとし、この値を上記ステップST5で取得されたクラッチストロークに対する現在のクラッチ伝達トルクの学習値として取得する。これにより、一つのクラッチストロークに対するクラッチ伝達トルクの学習値が得られることになる(学習手段による、制御量に対応するクラッチ伝達トルクの学習値の取得動作)。
その後、ステップST8に移り、クラッチストロークの全域に亘って学習値(クラッチストロークに対するクラッチ伝達トルクの学習値)の取得が完了したか否かを判定する。つまり、自動クラッチ2の半接続状態(半クラッチ状態)から完全接続状態となるまでの期間の全域に亘って上記学習値の取得が成されたか否かを判定する。例えば、上記クラッチストロークセンサ410によって、レリーズベアリング203の位置が自動クラッチ2の完全接続状態となる位置に達しているか否かを判定することにより行われる。
未だ、自動クラッチ2が完全接続状態には達しておらず、ステップST8でNO判定された場合には、ステップST9に移り、現在の加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)の算出を行った後、再び、ステップST5以降の動作を実行し、新たなクラッチストローク(前回ルーチンでのクラッチストロークに対して完全接続側に移行したクラッチストローク)に対するクラッチ伝達トルクの学習値の取得動作を上述と同様にして実行する。
自動クラッチ2が完全接続状態に達し、クラッチストロークの全域に亘り学習値の取得が完了した場合には、ステップST8でYES判定され、ステップST10に移ってクラッチトルクマップ作成動作を実行する。つまり、上記取得された複数の学習値(クラッチストロークに対するクラッチ伝達トルクの学習値)を繋ぐことで例えば図6に示すようなクラッチトルクマップが作成されることになる。この図6の横軸におけるS1〜S8は、各ルーチン(8回のルーチン)それぞれで取得されたクラッチストロークであり、縦軸におけるT1〜T8は、これら各クラッチストロークのそれぞれにおいて求められたクラッチ伝達トルクである。
一方、上記加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)が上記式(1)の範囲外にあり、加速度センサ409の検出信号の信頼性が低いと判断された場合にはステップST4でNO判定され、ステップST11に移る。このステップST11では、上記クラッチストロークセンサ410の出力信号に基づいてクラッチストロークを取得する。
その後、ステップST12に移り車両スタック判定を行う。この車両スタック判定は、上述したステップST6での車両スタック判定と略同様にして行われる。つまり、この判定は以下の式(3)に従って判定される。
Ttn−Tr≦1.2×前回ストローク対応トルク …(3)
車両スタックが生じていると判定された場合には、ステップST12でNO判定され、本ルーチンを終了する。一方、上記式(3)が成立しておりステップST12でYES判定された場合には、ステップST13〜ステップST16の動作を実行する。これらステップST13〜ステップST16の動作は、上述したステップST7〜ステップST10の動作と同様にして行われる。
この場合にも、自動クラッチ2が完全接続状態に達してクラッチストロークの全域に亘り学習値の取得が完了するまで、新たなクラッチストローク(前回ルーチンでのクラッチストロークに対して完全接続側に移行したクラッチストローク)に対するクラッチ伝達トルクの学習値の取得動作を上述と同様にして実行する。そして、自動クラッチ2が完全接続状態に達してクラッチストロークの全域に亘り学習値の取得が完了した場合には、ステップST14でYES判定され、ステップST16においてクラッチトルクマップ作成動作が実行されることになる。以上のようにして、加速度センサ409の検出信号の信頼性が高い場合には加速度センサ409の検出信号に基づく総トルク(Ttg)に基づいて学習値が取得されてクラッチトルクマップが作成される(ステップST10)一方、加速度センサ409の検出信号の信頼性が低い場合には入力軸回転数センサ403の検出信号に基づく総トルク(Ttn)に基づいて学習値が取得されてクラッチトルクマップが作成されることになる(ステップST16)。
図7は、車両発進時における車両前後G、変速機の入力軸回転数、エンジントルク、クラッチストロークの変化の一例を示す図である。この図7に示すように、車両発進時には、運転者のアクセルペダル踏み込み操作に伴ってスロットルバルブ12の開度が大きくなっていくことでエンジントルクが上昇していき、また、クラッチストロークが大きくなっていく(完全接続側に向かって移動していく)ことで変速機3の入力軸31の回転数が上昇していく。これに伴い車両の走行が開始されることにより、車両前後Gも大きくなっていく。
図5で示したルーチンは、図7における発進半クラッチの期間において繰り返し実行され、この発進半クラッチの期間の終了(完全係合への移行)と略同時にクラッチトルクマップが作成されることになる。尚、図7に示す車両前後Gは、車両が降坂路において停車している状態から発進する場合を示している。このため、真にエンジン駆動力の伝達により発生しているトルクとしては、図中に斜線を付した部分となり、上記ステップST8で取得される学習値(クラッチ伝達トルクの学習値)は、この部分に基づいて求められたものとなる。
以上説明してきたように、本実施形態では、車両の発進に伴って発生する車両加速度により算出された駆動輪7のトルクから路面の斜度の影響によるトルクを排除することで、エンジン1からの駆動力に応じたトルクがクラッチ伝達トルクの学習値として取得されてクラッチトルクマップが作成される。このため、車両の発進時におけるクラッチストロークとクラッチ伝達トルクとの関係が適正に得られ、車両の発進性能を良好に確保することができる。
−他の実施形態−
上述した実施形態では、クラッチ操作装置200及び変速操作装置300をそれぞれ油圧式アクチュエータとしているが、本発明はこれに限られることなく、電動モータ等によって構成される電動式のアクチュエータであってもよい。
上述した実施形態では、変速機3として前進5段変速のものを示したが、本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段の変速機(自動化マニュアルトランスミッション)にも適用可能である。
上記実施形態では、駆動源として、エンジン1(内燃機関)のみを搭載した車両に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、例えば、駆動源としてエンジン(内燃機関)と電動機(例えば走行用モータまたはジェネレータモータ等)が搭載されたハイブリッド車にも適用することができる。