以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に本発明を適用した場合について説明する。
(パワートレインおよび制御系の構成)
図1は、本実施形態に係る車両のパワートレインおよび制御系の概略構成を示す図である。この図1に示すように、車両のパワートレインとして、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11にはクラッチ機構2を介して変速機構3が連結されている。また、この変速機構3の出力側は、プロペラシャフト41、デファレンシャルギヤ42およびドライブシャフト43,43を介して駆動輪44,44に連結されている。
前記エンジン1は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン1は、エンジンECU100によって制御される。具体的には、アクセルペダルポジションセンサ101によって検出されるアクセルペダル51の操作量の情報や、クランクポジションセンサ102(図4を参照)からの出力信号に基づいて算出されるエンジン回転速度の情報などがエンジンECU100に入力され、これらを基に、運転者が要求するエンジン出力が求められる。そして、それに応じて、スロットルバルブ12の開度を調整するスロットルモータ13に対し開度制御信号を送信したり、図示しないインジェクタ(燃料噴射弁)からの燃料噴射量、吸排気の各バルブの開閉タイミング、点火プラグの点火時期等の制御を行ったりする。
前記クラッチ機構2は、摩擦クラッチ21(図2を参照)およびクラッチアクチュエータ22を備えた所謂自動クラッチとして構成されている。クラッチアクチュエータ22は、油圧回路201から供給される油圧に応じて作動し、摩擦クラッチ21の係合状態を変化させる。
具体的には、図2に示すように、摩擦クラッチ21は、クラッチディスク23、プレッシャープレート24、ダイアフラムスプリング25を備えている。また、クラッチアクチュエータ22はレリーズベアリング26を備えている。
クラッチディスク23は、変速機構3の入力軸31の先端部にスプライン嵌合されており、この入力軸31に対して一体回転可能であり、且つ軸心方向への移動が可能である。また、このクラッチディスク23は、クランクシャフト11の後端に固定されたフライホイール14に対向して配置されている。プレッシャープレート24は、ダイアフラムスプリング25の外周部とクラッチディスク23との間に配置されている。ダイアフラムスプリング25は、自然状態(外力を受けていない状態)においてプレッシャープレート24をクラッチディスク23に向けて押圧し、これにより、クラッチディスク23をフライホイール14に圧接している。ダイアフラムスプリング25の内周部分にはレリーズベアリング26が対向配置されている。このレリーズベアリング26には前記油圧回路201が接続されており、電子制御式トランスミッションECU(以下、ECT−ECUという)200内部のクラッチ制御部200A(図1を参照)からのクラッチ制御信号によって油圧回路201からレリーズベアリング26に供給される油圧が制御される。ダイアフラムスプリング25からの押圧力によってクラッチディスク23がフライホイール14に圧接している状態(クラッチ機構2の係合状態)において、油圧回路201からの油圧の供給によりレリーズベアリング26がダイアフラムスプリング25の内周部分を押圧すると、ダイアフラムスプリング25が反転され、クラッチディスク23に対するプレッシャープレート24の押圧力が解除される。これにより、クラッチディスク23がフライホイール14から引き離され、クラッチ機構2が解放される。
このように、クラッチ機構2は、運転者によるクラッチペダル52の踏み込み操作の有無に関わりなく、油圧回路201から供給される油圧によるクラッチアクチュエータ22の作動によって、係合状態と解放状態との間で動力伝達状態が変更可能な所謂クラッチバイワイヤシステムとして構成されている。
前記変速機構3は、公知のマニュアルトランスミッションと基本的に同様のシンクロメッシュ機構付きの常時噛み合い式の平行歯車機構に、セレクトアクチュエータ32およびシフトアクチュエータ33が付加されたものである。そして、変速機構3は、これらアクチュエータ32,33の作動によって、例えば前進6速段、後進1速段の成立が可能となっている。この変速機構3は、所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)と呼ばれるものであり、ECT−ECU200内部の変速制御部200Bからの変速制御信号に従って油圧回路201から供給される油圧により各アクチュエータ32,33が制御される。
具体的には、変速機構3は、後進ギヤ段および複数の前進ギヤ段を成立させる複数のギヤ(図示省略)の他に、図3に示すように、3本のシフトフォークシャフト34,35,36、セレクトロッド37、シフトロッド38、前記セレクトアクチュエータ32、および、シフトアクチュエータ33などを備えている。
各シフトフォークシャフト34,35,36の先端部にはそれぞれシフトフォーク(図示省略)が備えられている。これらシフトフォークは、図示しない各シンクロメッシュ機構(1,2速段用のシンクロメッシュ機構、3,4速段用のシンクロメッシュ機構、5,6速段用のシンクロメッシュ機構)に備えられたスリーブにそれぞれ係合されている。
セレクトロッド37は、各シフトフォークシャフト34,35,36の自由端側において各シフトフォークシャフト34,35,36の長手方向に対して直交する方向に横切るように配置されている。また、セレクトロッド37は、各シフトフォークシャフト34,35,36のうちの何れか1つのヘッド34a,35a,36aに選択的に係合可能となっている。つまり、このセレクトロッド37は、セレクトアクチュエータ32のピストンロッドに連結されており、セレクトアクチュエータ32の作動による進退移動(セレクト方向の移動)によって、何れか1つのシフトフォークシャフト34(35,36)のヘッド34a(35a,36a)に係合する構成となっている。
シフトロッド38は、セレクトロッド37の長手方向に対して直交する方向に延びてセレクトロッド37に係合されている。このシフトロッド38は、シフトアクチュエータ33のピストンロッドに連結されており、シフトアクチュエータ33の作動による進退移動によって、セレクトロッド37を、その長手方向に対して直交する方向(シフト方向)に移動させるようになっている。これにより、前記セレクトロッド37が係合している1つのシフトフォークシャフト34(35,36)が移動して、所定のシンクロメッシュ機構(3つのシンクロメッシュ機構のうちの1つのシンクロメッシュ機構)のスリーブが移動し、シンクロナイザリングを軸心方向にスライド移動させて、ギヤ同士の動力伝達経路を切り換える。これにより、所定のギヤ段が成立することになる。なお、このシンクロナイザリングのスライド移動に伴ってギヤ段を成立させる構成については周知であるため、ここでの説明は省略する。
このように、変速機構3は、マニュアルトランスミッションの構成に、アクチュエータ32,33を取り付け、これらアクチュエータ32,33によって変速動作(ギヤ段切り換え動作)を実行する所謂シフトバイワイヤシステムとして構成されている。
上述した変速機構3の変速動作により、クラッチ機構2を介して変速機構3に入力されたエンジン1の回転は、変速機構3において所定の変速比で変速された後に、プロペラシャフト41に伝達される。そして、プロペラシャフト41の回転が、デファレンシャルギヤ42およびドライブシャフト43,43を介して左右の駆動輪44,44に伝達されて車両が走行する。
一方、車室内のセンタコンソール部分には、運転者による操作が可能なシフトレバー65(図1では仮想線で示している)を備えたシフトレバー操作部6が設けられている。図1には、このシフトレバー65の操作をガイドするシフトゲートの形状を示している。このシフトゲートのシフトパターンとしては、後進走行ポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)、自動変速ポジション(Eポジション)、および、手動変速ポジション(Mポジション)を備えている。また、Mポジションにあっては、アップシフト(+)およびダウンシフト(−)を運転者が選択できる構成となっている。この際、運転者の手前方向となるアップシフト位置「+」への操作は変速機構3のアップシフト操作(ECT−ECU200にアップシフト要求信号を出力するための操作)となり、反対方向となるダウンシフト位置「−」への操作は変速機構3のダウンシフト操作(ECT−ECU200にダウンシフト要求信号を出力するための操作)となる。そして、シフトレバー65をアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」に操作した後に、運転者がシフトレバー65から手を離すことで、中立のMポジションに復帰する構成となっている。
なお、シフトゲートのシフトパターンとしては上述したものに限らず任意に設定可能である。例えば、「自動変速モード」を有しない変速機構にあっては、前記自動変速ポジション(Eポジション)を備えないシフトパターンとなる。また、シフトゲート上に駐車ポジション(Pポジション)を備えたシフトパターンであってもよい。
また、運転席前方に設置されているステアリングホイール61には、アップシフト用パドルスイッチ62およびダウンシフト用パドルスイッチ63が設けられている。
これらのパドルスイッチ62,63はレバー形状とされており、アップシフト用パドルスイッチ62には「+」の記号が、ダウンシフト用パドルスイッチ63には「−」の記号がそれぞれ付されている。アップシフト用パドルスイッチ62は、アップシフト要求信号を出力するためのものであり、ダウンシフト用パドルスイッチ63は、ダウンシフト要求信号を出力するためのものである。
そして、シフトレバー65が前記Mポジションに操作されている場合において、アップシフト用パドルスイッチ62が操作(手前に引く操作)されると、1回操作ごとに変速段を1段だけアップするアップシフト要求信号が出力される。また、ダウンシフト用パドルスイッチ63が操作(手前に引く操作)されると、1回操作ごとに変速段を1段だけダウンするダウンシフト要求信号が出力される。
以上のようなシフトレバー65の操作情報およびパドルスイッチ62,63の操作情報はECT−ECU200に与えられる。そして、ECT−ECU200は、シフトレバー65の操作情報およびパドルスイッチ62,63の操作情報に基づいた各アクチュエータ22,32,33の制御を行う。
つまり、シフトレバー65が自動変速ポジション(Eポジション)にある際には、アクセル開度や車速等の走行条件に応じてクラッチ機構2のクラッチアクチュエータ22および変速機構3の各アクチュエータ32,33が作動して、自動シフトチェンジ動作が行われる(自動変速モード)。
一方、シフトレバー65が手動変速ポジション(Mポジション)にある際には、運転者の操作(例えばクラッチペダル52の踏み込み操作や、シフトレバー65のアップシフト位置またはダウンシフト位置への操作や、パドルスイッチ62,63の操作など)に応じてシフトチェンジ動作が行われる(手動変速モード)。
シフトレバー65が手動変速ポジション(Mポジション)に操作されている場合の操作モードとしては、「2ペダルモード」と「3ペダルモード」とがある。「2ペダルモード」は、シフトレバー65のアップシフト位置またはダウンシフト位置への操作やパドルスイッチ62,63の操作に従って、クラッチ機構2および変速機構3が自動的に作動して前記操作に従ったギヤ段を成立させるモードである。「3ペダルモード」は、クラッチペダル52の操作に従ってクラッチ機構2が作動し、シフトレバー65のアップシフト位置またはダウンシフト位置への操作やパドルスイッチ62,63の操作に従って変速機構3が作動するモードである。これらモードにおける変速動作については後述する。
また、運転席前方のメータパネルには表示装置71(図4を参照)が設けられており、前記手動変速モードでは、現在の操作モードの表示(2ペダルモードまたは3ペダルモードの表示)や、シフトレバー65やパドルスイッチ62,63の操作で要求されたギヤ段の表示等が行われるようになっている。
以下、図4を用いて、エンジンECU100およびECT−ECU200に関連する制御系の構成を説明する。
エンジンECU100およびECT−ECU200は、CPU(中央処理装置)、ROM(プログラムメモリ)、RAM(データメモリ)、ならびにバックアップRAM(不揮発性メモリ)などを備えた構成となっている。ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータなどを記憶する不揮発性のメモリである。
エンジンECU100の入力インターフェース(図示省略)には、アクセルペダルポジションセンサ101、クランクポジションセンサ102、スロットル開度センサ103、水温センサ104、エンジントルクセンサ105などが接続されている。アクセルペダルポジションセンサ101は、アクセルペダル51の踏み込み量に応じた検出信号を出力する。クランクポジションセンサ102は、クランクシャフト11が所定回転角度だけ回転する度にパルス信号を出力する。スロットル開度センサ103は、スロットルバルブ12の開度に応じた検出信号を出力する。水温センサ104は、エンジン1の冷却水温度に応じた検出信号を出力する。エンジントルクセンサ105は、エンジン1の出力(トルク)に応じた信号を出力する。
エンジンECU100の出力インターフェース(図示省略)には、スロットルモータ13、インジェクタ15、ならびに点火プラグのイグナイタ16などが接続されている。
ECT−ECU200の入力インターフェース(図示省略)には、クラッチペダルポジションセンサ202、シフトレバーポジションセンサ203、アップシフトスイッチ204、ダウンシフトスイッチ205、アップシフト用パドルスイッチ62、ダウンシフト用パドルスイッチ63、入力軸回転速度センサ206、車速センサ207、ブレーキペダルセンサ208、ギヤポジションセンサ209、車輪速センサ210、モード選択ダイヤル64、操舵角センサ66、カーナビゲーションシステム8などが接続されている。クラッチペダルポジションセンサ202は、クラッチペダル52の踏み込み量に応じた検出信号を出力する。シフトレバーポジションセンサ203は、シフトレバー65の操作位置(R,N,E,Mの各位置)に応じた検出信号を出力する。アップシフトスイッチ204は、シフトレバー65がMポジションからアップシフト位置「+」に操作される度にアップシフト要求信号を出力する。ダウンシフトスイッチ205は、シフトレバー65がMポジションからダウンシフト位置「−」に操作される度にダウンシフト要求信号を出力する。アップシフト用パドルスイッチ62は、操作される度にアップシフト要求信号を出力する。ダウンシフト用パドルスイッチ63は、操作される度にダウンシフト要求信号を出力する。入力軸回転速度センサ206は、変速機構3の入力軸31の回転速度に応じた検出信号を出力する。車速センサ207は、変速機構3の出力軸の回転速度に応じた検出信号を出力する。ブレーキペダルセンサ208は、ブレーキペダル53の操作状態(ブレーキのON/OFF)に応じた検出信号を出力する。ギヤポジションセンサ209は、変速機構3において成立しているギヤポジションの検出信号を出力する。車輪速センサ210は、各車輪の回転速度を個別に検出し、それぞれの検出信号を出力する。モード選択ダイヤル64は、車室内のセンタコンソール部分に配設され、手動変速モードにおいて「2ペダルモード」と「3ペダルモード」とを手動操作によって選択するためのものである。操舵角センサ66は、前記ステアリングホイール61のステアリング量(ドライバによる操舵量)である操舵角度に応じた検出信号を出力する。また、カーナビゲーションシステム8からは、走行路の情報がECT−ECU200に入力される。例えば、車両が現在走行している道路が、直線平坦路、登坂路、降坂路、旋回路の何れであるかといった情報等がECT−ECU200に入力されるようになっている。
ECT−ECU200の出力インターフェース(図示省略)には、前記油圧回路201、表示装置71、警告装置72などが接続されている。表示装置71は、前述したように、手動変速モードの選択時における現在の操作モードの表示(2ペダルモードまたは3ペダルモードの表示)や、シフトレバー65やパドルスイッチ62,63の操作で要求されたギヤ段の表示を行う。警告装置72は、システムに異常が発生した場合、ウォーニングランプを点灯または点滅させることにより運転者に警告を発する。
前記エンジンECU100とECT−ECU200とは、互いに必要な情報を双方向で送受信する通信を行うように双方向バスで接続されている。
エンジンECU100は、入力される各種情報に基づきエンジン1の運転状態を検出し、スロットルバルブ12の開度を調整するスロットルモータ13の制御を行うとともに、インジェクタ15からの燃料噴射量、吸排気の各バルブの開閉タイミング、点火プラグの点火時期の制御(イグナイタ16の制御)を行うことにより、エンジン1の運転を統括的に制御する。
ECT−ECU200は、入力される各種情報に基づき、クラッチ機構2を作動させる処理、変速機構3のギヤ段を目標ギヤ段に変更する処理などを実行する。これらの処理は、油圧回路201から、クラッチアクチュエータ22、セレクトアクチュエータ32およびシフトアクチュエータ33に対しての作動油圧の供給および回収を制御することによって行う。
(変速モード)
次に、各変速モードについて説明する。前述したように、本実施形態に係る車両の変速モードとしては、自動変速モードと手動変速モードとが選択可能である。また、手動変速モードとしては、2ペダルモードと3ペダルモードとが選択可能である。以下、具体的に説明する。
−自動変速モード−
シフトレバー65が「Eポジション」に操作されると「自動変速モード」が選択される。この自動変速モードが選択された場合、ECT−ECU200は、車両走行状態に応じた最適なギヤ段を変速マップに基づいて自動的に選択して成立させる。この変速マップは、車速およびアクセル開度をパラメータとして最適なギヤ段を求めるためのマップであって、ECT−ECU200のROM内に記憶されている。
なお、車速は前記車速センサ207によって検出される。また、アクセル開度は前記アクセルペダルポジションセンサ101によって検出される。
この自動変速モードでのダウンシフトやアップシフトは、クラッチ解放動作、ギヤ段切り換え動作、クラッチ係合動作が連続的に行われる。
具体的に、前記クラッチ解放動作では、ECT−ECU200のクラッチ制御部200Aが油圧回路201を制御してクラッチアクチュエータ22を作動させることにより、摩擦クラッチ21を解放する。なお、このクラッチ解放動作に際し、エンジン負荷の軽減に伴うエンジン回転速度の吹け上がりを防止するためのエンジン制御が行われる。例えばスロットルバルブ12の開度制御等によってエンジン出力を低下させる。
前記ギヤ段切り換え動作では、ECT−ECU200の変速制御部200Bが油圧回路201を制御してセレクトアクチュエータ32およびシフトアクチュエータ33を介して変速機構3のシンクロメッシュ機構を作動させることにより、変速機構3を一旦ニュートラル状態にした後に、前記変速マップから求められた目標ギヤ段に変更する。
前記クラッチ係合動作では、ECT−ECU200のクラッチ制御部200Aが油圧回路201を制御してクラッチアクチュエータ22を作動させることにより、摩擦クラッチ21を徐々に係合させていく。
このように、自動変速モードでは、運転者によるクラッチペダル52の踏み込み操作や、シフトレバー65およびパドルスイッチ62,63の操作を行うこと無しにギヤ段が切り換えられていく。
−手動変速モード−
前述した如く、手動変速モードにあっては「2ペダルモード」と「3ペダルモード」とが選択可能となっている。これら操作モードの切り換えは、前記モード選択ダイヤル64の手動操作によって行われる。
<2ペダルモード>
先ず、2ペダルモードについて説明する。モード選択ダイヤル64の手動操作によって2ペダルモードが選択され、且つ運転者によってシフトレバー65が「Mポジション」に操作されている場合において、シフトレバー65がアップシフト位置またはダウンシフト位置に操作されるか、何れかのパドルスイッチ62,63が操作されて、ダウンシフトまたはアップシフトが要求されると、ECT−ECU200は、要求がダウンシフトであるのか、あるいはアップシフトであるのかを認識し、現在のギヤ段を要求ギヤ段に自動的に変更する制御を行う。
この2ペダルモードにおける変速動作は、前述した自動変速モードでの変速動作と同様に、クラッチ解放動作、ギヤ段切り換え動作、クラッチ係合動作が連続的に行われる。
具体的に、前記クラッチ解放動作では、ECT−ECU200のクラッチ制御部200Aが油圧回路201を制御してクラッチアクチュエータ22を作動させることにより、摩擦クラッチ21を解放する。
前記ギヤ段切り換え動作では、ECT−ECU200の変速制御部200Bが油圧回路201を制御してセレクトアクチュエータ32およびシフトアクチュエータ33を介して変速機構3のシンクロメッシュ機構を作動させることにより、変速機構3を一旦ニュートラル状態にした後に、前記シフトレバー65またはパドルスイッチ62,63の操作によって要求されたギヤ段に変更する。
前記クラッチ係合動作では、ECT−ECU200のクラッチ制御部200Aが油圧回路201を制御してクラッチアクチュエータ22を作動させることにより、摩擦クラッチ21を徐々に係合させていく。
<3ペダルモード>
次に、3ペダルモードについて説明する。モード選択ダイヤル64の手動操作によって3ペダルモードが選択され、且つ運転者によってシフトレバー65が「Mポジション」に操作されている場合において、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われると(シフトレバー65やパドルスイッチ62,63の操作が行われること無しにクラッチペダル52の踏み込み操作が行われると)、この操作に従ってECT−ECU200のクラッチ制御部200Aが油圧回路201を制御してクラッチアクチュエータ22を作動させることにより、摩擦クラッチ21を解放する。
その後、運転者によってシフトレバー65がアップシフト位置またはダウンシフト位置に操作されるか、何れかのパドルスイッチ62,63が操作されて、ダウンシフトまたはアップシフトが要求されると、ECT−ECU200の変速制御部200Bは、要求がダウンシフトであるのか、あるいはアップシフトであるのかを認識し、油圧回路201を制御してセレクトアクチュエータ32およびシフトアクチュエータ33を介して変速機構3のギヤ段を要求ギヤ段に変更する制御を行う。
その後、クラッチペダル52の踏み込み解除操作が行われると、この操作に従ってECT−ECU200のクラッチ制御部200Aが油圧回路201を制御してクラッチアクチュエータ22を作動させることにより、摩擦クラッチ21を徐々に係合させていく。
(変速制御)
次に、本実施形態の特徴とする変速制御について説明する。先ず、この変速制御の概要について説明する。なお、ここでは、前記3ペダルモードでの変速制御について説明する。
前記3ペダルモードが選択されている際、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われずに、シフトレバー65がアップシフト位置またはダウンシフト位置に操作されるか、何れかのパドルスイッチ62,63が操作されて、ダウンシフトまたはアップシフトが要求された場合には、その変速操作の情報(シフト操作情報)がECT−ECU200の変速制御部200Bに記憶される。そして、通常の制御では、その後に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われてクラッチ機構2が解放した場合には、前記記憶しているシフト操作情報に従った変速動作を行う。つまり、変速機構3のギヤ段切り換えが行われる。
しかし、前記シフト操作情報を記憶した状態でクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた時点では、運転者は既にシフト操作情報に従ったギヤ段を望んでいない可能性がある。従来技術にあっては、このような状況であっても、運転者がクラッチペダルの踏み込み操作を行った際には、前記記憶しているシフト操作情報に従った変速動作を行っていた。このため、運転者がクラッチペダルの踏み込み操作を行った際に、要求していないギヤ段への切り換え動作が実行されてしまい、違和感を与えてしまう可能性があった。
そこで、本実施形態では、前記シフト操作情報を記憶した状態において(より具体的には、前記シフト操作情報を記憶した状態においてクラッチペダル52の踏み込み操作を行う以前に)、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なった場合、または、前記シフト操作情報を記憶した状態において(より具体的には、前記シフト操作情報を記憶した状態においてクラッチペダル52の踏み込み操作を行う以前に)、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なったと推定された場合には、前記シフト操作情報に従ったギヤ段切り換え動作を実行することなく、その後に運転者の変速操作(シフトレバー65のアップシフト位置またはダウンシフト位置への操作や、パドルスイッチ62,63の操作)および前記クラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行うようにしている。
運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なった場合として、具体的に以下の(A)および(B)が挙げられる。
(A)クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った後に、運転者の要求が、加速要求から減速要求に変化した場合、または、減速要求から加速要求に変化した場合。
つまり、加速要求時に運転者が意図するギヤ段と減速要求時に運転者が意図するギヤ段とは異なっている可能性が高い。このため、例えば前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の要求が加速要求(アクセルペダル51が踏み込まれた状態)であり、その後に減速要求(ブレーキペダル53が踏み込まれた状態)となった場合には、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際のシフト操作情報(記憶しているシフト操作情報)に従った変速動作は実行せず、その後に運転者の変速操作およびクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行う。なお、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の要求が減速要求であり、その後に加速要求となった場合も同様である。
(B)クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った後に、走行している路面の勾配および曲率半径の少なくとも一方が所定量以上変化した場合。
つまり、例えば直線平坦路の走行時に運転者が意図するギヤ段と、登坂路や降坂路や旋回路の走行時に運転者が意図するギヤ段とは異なっている可能性が高い。このため、例えば前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の路面が直線平坦路であり、その後に路面が登坂路となった場合には、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際のシフト操作情報(記憶しているシフト操作情報)に従った変速動作は実行せず、その後に運転者の変速操作およびクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行う。その他の路面変化の場合も同様である。前記所定量以上の変化として、路面の勾配にあっては例えば3%以上の勾配変化が生じた場合が挙げられる。この値はこれに限定されるものではない。また、路面の曲率半径にあっては例えば操舵角度で10°以上の変化が生じる曲率半径の変化が挙げられる。この値もこれに限定されるものではない。
また、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なったと推定される場合として、具体的に以下の(C)が挙げられる。
(C)クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った時点からの経過時間が所定時間に達した場合。
つまり、クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った時点から、所定時間(例えば10sec)が経過すると、運転者は既に前記シフト操作情報(記憶しているシフト操作情報)に従ったギヤ段を望んでいない可能性がある。このため、クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った時点からの経過時間が所定時間に達した場合には、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際のシフト操作情報(記憶しているシフト操作情報)に従った変速動作は実行せず、その後に運転者の変速操作およびクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行う。前記所定時間の値は前述したものには限定されず適宜設定が可能である。
このような変速制御が行われるようになっているため、本発明に係る「変速制御装置」としては、前記ECT−ECU200の変速制御部200Bが一例であることになる。そして、この変速制御装置に対する入力信号としては、シフトレバー65の操作位置の信号、パドルスイッチ62,63からの操作信号、モード選択ダイヤル64からのモード選択信号、クラッチペダル52の踏み込み量の信号、アクセルペダル51の踏み込み量の信号、ブレーキペダル53の踏み込み状態の信号、カーナビゲーションシステム8からの走行路の情報等の各種信号が挙げられる。そして、この変速制御装置は、これら信号に基づいて、目標ギヤ段を設定し、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際には、この目標ギヤ段への変速を実行させるべく(目標ギヤ段が現在のギヤ段(出力ギヤ段)と一致している場合にはそのギヤ段を維持するべく)、油圧回路201へ制御信号を出力する構成となっている。
次に、3ペダルモード変速制御の手順について図5のフローチャートを用いて具体的に説明する。このフローチャートは、シフトレバー65が手動変速ポジション(Mポジション)に操作され、モード選択ダイヤル64の手動操作によって3ペダルモードが選択されている状態で所定時間(数msec)毎に実行される。
先ず、ステップST1において、各センサ等からの各種情報を取得する。例えば、クラッチペダル52の踏み込み量の情報、シフトレバー65の操作位置の情報、パドルスイッチ62,63の操作情報、アクセルペダル51の踏み込み量の情報、ブレーキペダル53の踏み込み状態の情報、カーナビゲーションシステム8からの走行路の情報等を取得する。
その後、ステップST2に移り、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作(シフトレバー65のアップシフト位置またはダウンシフト位置への操作や、パドルスイッチ62,63の操作)が行われたか否かを判定する。この変速操作が行われてステップST2でYES判定された場合には、ステップST3に移り、目標ギヤ段を、前記変速操作に従って規定されるギヤ段(以下、変速操作ギヤ段という)として更新する。例えば、3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態でシフトレバー65のアップシフト位置への操作またはアップシフト用パドルスイッチ62の操作が行われた場合には、変速操作ギヤ段が4速段となり、これを目標ギヤ段として更新する。ここでは、目標ギヤ段が更新されるのみであり、未だ変速動作は実行されない。なお、この時点で前記表示装置71には変速操作ギヤ段(前述の場合は4速段)のギヤ段表示が行われる。
その後、ステップST4に移り、現在の運転状況記憶情報を更新する。また、前記ECT−ECU200に予め備えられたタイマのカウントを開始する。前記運転状況記憶情報とは、現在の車両の走行状況を表す情報であって、例えば、運転者の加減速要求の情報や、走行している道路の情報が挙げられる。運転者の加減速要求の情報は、運転者がアクセルペダル51を踏み込んでいる場合には加速要求の情報となり、運転者がブレーキペダル53を踏み込んでいる場合には減速要求の情報となる。また、走行している道路の情報は、車両が現在走行している道路が、直線平坦路、登坂路、降坂路、旋回路の何れであるかの情報である。この道路の情報は、例えば前記カーナビゲーションシステム8から取得したものである。これに限らず、車速とエンジントルクとの関係、左右車輪の回転速度差の情報、ステアリングホイール61の操舵角度の情報、車両に発生する加速度の情報等から道路の状態を把握するようにしてもよい。前記車速は車速センサ207によって検出される。前記エンジントルクはエンジントルクセンサ105によって検出される。左右車輪の各回転速度は車輪速センサ210によって検出される。ステアリングホイール61の操舵角度は操舵角センサ66によって検出される。車両に発生する加速度は図示しないGセンサによって検出される。
また、前記タイマは、例えばカウント開始から所定時間(例えば10sec)が経過した時点でタイムアップするものとなっている。この値はこれに限定されるものではなく適宜設定される。
その後、ステップST5に移り、変速機構3が変速実行中でなく、且つクラッチペダル52の踏み込み操作が行われたか否かを判定する。変速機構3が変速実行中であるか否かは、ECT−ECU200から油圧回路201に送信される変速制御信号の有無に応じて判断される。また、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われたか否かは、クラッチペダルポジションセンサ202によって検出されるクラッチペダル52の踏み込み量が所定量に達したか(例えばクラッチペダル52の全ストロークのうちの80%まで踏み込まれたか)否かを判断するものである。この値はこれに限定されるものではない。
変速機構3が変速実行中であるか、または、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われておらず、ステップST5でNO判定された場合には、ステップST6に移り、前記ECT−ECU200に予め備えられた目標ギヤ段保持フラグが「1」にセットされてリターンされる。つまり、変速機構3が変速実行中である場合には、未だ前記変速操作ギヤ段への変速を実行する状況ではないとしてリターンされる。また、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われていない場合には、運転者は未だ前記変速操作ギヤ段への変速の実行を要求していないとしてリターンされる。
一方、変速機構3が変速実行中でなく、且つクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた場合には、ステップST5でYES判定され、ステップST11に移って、現在の目標ギヤ段への変速を実行する。つまり、前記ステップST3で更新された目標ギヤ段(前記変速操作ギヤ段)への変速を実行する。また、このステップST11では、前記目標ギヤ段保持フラグが「0」にリセットされ、また、前記タイマがリセットされる。
前述した如く、変速機構3が変速実行中であるか、または、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われておらず(ステップST5でNO判定され)、目標ギヤ段保持フラグが「1」にセットされた場合(ステップST6)、次回のルーチンにおいて、ステップST1で各センサ等からの各種情報を取得した後、変速操作(シフトレバー65のアップシフト位置またはダウンシフト位置への操作や、パドルスイッチ62,63の操作)が行われない場合には、ステップST2でNO判定されてステップST7に移る。ステップST7では、前記目標ギヤ段保持フラグが「1」となっているか否かを判定する。前記ステップST6で目標ギヤ段保持フラグが「1」にセットされている場合にはステップST7でYES判定されてステップST8に移る。なお、目標ギヤ段保持フラグが「1」にセットされていない場合には、ステップST7でNO判定されてリターンされる。例えば、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態での変速操作が未だ行われておらず、目標ギヤ段保持フラグが「0」に保持されている場合には、ステップST7でNO判定されてリターンされる。
ステップST8では、現在の運転状況が、前記運転状況記憶情報(クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況)から変化したか否かを判定する。上述した如く、運転状況記憶情報とは、運転者の加減速要求の情報や、走行している道路の情報である。このため、運転者の加減速要求が変化した場合や、走行している道路の状態が変化した場合には、運転状況が、運転状況記憶情報から変化したことになる。具体的には、運転者がアクセルペダル51を踏み込んでいる状態から、このアクセルペダル51の踏み込みを解除してブレーキペダル53を踏み込んだ場合、または、運転者がブレーキペダル53を踏み込んでいる状態から、このブレーキペダル53の踏み込みを解除してアクセルペダル51を踏み込んだ場合には、運転状況が変化したと判定する。また、走行している道路が、直線平坦路、登坂路、降坂路、および、旋回路の相互間で変化した場合にも、運転状況が変化したと判定する。例えば走行している道路が、直線平坦路から登坂路に変化した場合等である。
現在の運転状況が、前記運転状況記憶情報から変化しておらず、ステップST8でNO判定された場合にはステップST9に移り、前記タイマがタイムアップしたか否かを判定する。つまり、目標ギヤ段を変速操作ギヤ段として更新した後に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われることのない状態が所定時間継続したか否かを判定する。
目標ギヤ段を変速操作ギヤ段として更新した直後は未だタイマはタイムアップしておらず、ステップST9でNO判定されてステップST5に移る。
このように、目標ギヤ段保持フラグが「1」にセットされている状態で、変速操作およびクラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態にあっては、運転状況が運転状況記憶情報から変化するか、または、タイマがタイムアップするまでの間は、ステップST1、2、7〜9、5、6の処理が繰り返される。
そして、運転状況が運転状況記憶情報から変化するか(ステップST8でYES判定されるか)、または、タイマがタイムアップした(ステップST9でYES判定された)場合にはステップST10に移り、前記目標ギヤ段を現在の出力ギヤ段に更新する。つまり、前記ステップST2において、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作が行われた際に更新された目標ギヤ段(変速操作ギヤ段)から、変速機構3において現在成立しているギヤ段(出力ギヤ段)に目標ギヤ段を更新する。つまり、前記クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で行われた変速操作の情報を破棄する。例えば、前述した如く、3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態でシフトレバー65のアップシフト位置への操作またはアップシフト用パドルスイッチ62の操作が行われた場合には、変速操作ギヤ段が4速段となり、これを目標ギヤ段として更新し、この時点で前記表示装置71には4速段のギヤ段表示が行われる。そして、ステップST10で目標ギヤ段を現在の出力ギヤ段に更新した場合には、目標ギヤ段は3速段となる。この時点で前記表示装置71には3速段のギヤ段表示に戻されることになる。つまり、前記表示装置71の表示が、変速機構3において現在成立しているギヤ段に応じた表示に変更される。
なお、本実施形態では、クラッチペダル52の踏み込み操作と同時に、運転状況が運転状況記憶情報から変化するか(ステップST8でYES判定されるか)、または、タイマがタイムアップした(ステップST9でYES判定された)場合にもステップST10に移るようにしている。つまり、この場合にも、前記目標ギヤ段を現在の出力ギヤ段に更新することになる。
一方、運転状況が運転状況記憶情報から変化しない状態(ステップST8でNO判定された状態)が継続し、且つタイマがタイムアップするまでに(ステップST9でYES判定されるまでに)、変速機構3が変速実行中でなく、且つクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた場合には、ステップST5でYES判定されてステップST11に移る。
具体的には、前述した如く、運転状況が運転状況記憶情報から変化するか(ステップST8でYES判定されるか)、または、タイマがタイムアップした(ステップST9でYES判定された)ことで、前記目標ギヤ段を現在の出力ギヤ段に更新した後、次回のルーチンでステップST2において、再び、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作が行われ、運転状況が運転状況記憶情報から変化したり、タイマがタイムアップしたりする前に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われた場合には、ステップST5でYES判定されてステップST11に移ることになる。このステップST11では、前述した如く、現在の目標ギヤ段への変速を実行する。つまり、運転状況が運転状況記憶情報から変化したり、タイマがタイムアップしたりする前に記憶された目標ギヤ段に従った変速は行わず、その後に記憶された目標ギヤ段(運転状況が運転状況記憶情報から変化したり、タイマがタイムアップしたりすることのない状態で記憶されている目標ギヤ段)への変速が実行されることになる。即ち、運転状況が運転状況記憶情報から変化しない状態(ステップST8でNO判定された状態)が継続し、且つタイマがタイムアップしていない状態(ステップST9でNO判定されている状態)では、目標ギヤ段は前記ステップST3で更新された変速操作ギヤ段となっているので、このステップST11では、この変速操作ギヤ段への変速が実行されることになる。例えば、前述した如く、3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態でシフトレバー65のアップシフト位置への操作またはアップシフト用パドルスイッチ62の操作が行われた場合には、変速操作ギヤ段が4速段となり、これを目標ギヤ段として更新し、この時点で前記表示装置71には4速段のギヤ段表示が行われる。そして、運転状況が運転状況記憶情報から変化しない状態が継続し、且つタイマがタイムアップしていない状態で、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われてステップST5でYES判定された場合には、ステップST11で現在の目標ギヤ段への変速が実行され、変速機構3は4速段に切り換えられる。また、前記表示装置71には4速段のギヤ段表示が継続されることになる。
この場合にステップST11で行われる処理が、本発明でいう「その後(運転状況が、クラッチペダルの踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なった場合の後(ステップST8でYES判定されて目標ギヤ段を現在の出力ギヤ段に更新した後)、または、運転状況が、クラッチペダルの踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なったと推定された場合の後(ステップST9でYES判定されて目標ギヤ段を現在の出力ギヤ段に更新した後))に運転者の変速操作およびクラッチペダルの踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構のギヤ段切り換え動作を行う」の一例であることになる。
以上の動作が繰り返されることにより、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われずに、シフトレバー65やパドルスイッチ62,63の操作に従って変速操作の情報(シフト操作情報)が記憶された状態で、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われてクラッチ機構2が解放した場合には、前記記憶しているシフト操作情報に従った変速動作を行うことになる。一方、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なった場合、または、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なったと推定された場合には、記憶している変速操作の情報(シフト操作情報)を破棄し、その後に運転者の変速操作およびクラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行うことになる。
なお、本実施形態では、前述した3ペダルモードでの変速制御中に前記シフトレバー65が「Eポジション」に操作されて「自動変速モード」が選択された場合にも、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なったとされて、前記記憶している変速操作の情報を破棄し、その後に運転者の変速操作および前記クラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行うことになる。
図6は、前記タイマのタイムアップによって目標ギヤ段が現在の出力ギヤ段に更新される場合の変速動作を示すタイミングチャート図である。
3ペダルモードが選択されて車両が走行している状況において、図中のタイミングt1で、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作(運転者からの変速指示)が行われる(前記ステップST2でYES判定された状態)。ここでは3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で、シフトレバー65のアップシフト位置への操作またはアップシフト用パドルスイッチ62の操作が行われて、目標ギヤ段が4速段となっている。また、この時点で、タイマのカウントが開始され(前記ステップST4)、前記目標ギヤ段保持フラグは「1」にセットされる(前記ステップST6)。そして、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われることなく図中のタイミングt2でタイマがタイムアップすると(前記ステップST9でYES判定された状態)、目標ギヤ段が3速段に戻される(前記ステップST10)。また、目標ギヤ段保持フラグが「0」にリセットされ、また、タイマもリセットされる。
そして、図中のタイミングt3で、再び、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作(運転者からの変速指示)が行われる(前記ステップST2でYES判定された状態)。ここでは3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で、シフトレバー65のダウンシフト位置への操作またはダウンシフト用パドルスイッチ63の操作が行われて、目標ギヤ段が2速段となっている。また、この時点で、タイマのカウントが開始され(前記ステップST4)、前記目標ギヤ段保持フラグは「1」にセットされる(前記ステップST6)。そして、図中のタイミングt4において、タイマがタイムアップする前にクラッチペダル52の踏み込み操作が行われると(前記ステップST5でYES判定された状態)、ギヤ段切り換え動作が行われ、変速機構3のギヤ段(実ギヤ段)は、現在の目標ギヤ段である2速段に切り換えられる(前記ステップST11)。また、目標ギヤ段保持フラグが「0」にリセットされ、また、タイマもリセットされる。
また、図7は、加減速要求の変化によって目標ギヤ段が現在の出力ギヤ段に更新される場合の変速動作を示すタイミングチャート図である。
3ペダルモードが選択されて車両が走行している状況において、図中のタイミングt5で、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作(運転者からの変速指示)が行われる(前記ステップST2でYES判定された状態)。ここでも3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で、シフトレバー65のアップシフト位置への操作またはアップシフト用パドルスイッチ62の操作が行われて、目標ギヤ段が4速段となっている。また、この時点で、タイマのカウントが開始され(前記ステップST4)、前記目標ギヤ段保持フラグは「1」にセットされる(前記ステップST6)。そして、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われることなく、且つタイマがタイムアップすることなく、図中のタイミングt6で運転者の加減速要求が変化している(前記ステップST8でYES判定された状態)。ここでは、運転者がアクセルペダル51を踏み込んでいる状態から、この踏み込みを解除し、同時にブレーキペダル53を踏み込んだ場合を示している。つまり、運転者の要求が加速要求から減速要求に切り換わった場合である。このように運転者の加減速要求が変化したことにより、図中のタイミングt6では、目標ギヤ段が3速段に戻される(前記ステップST10)。また、目標ギヤ段保持フラグが「0」にリセットされ、また、タイマもリセットされる。
そして、図中のタイミングt7で、再びアクセルペダル51が踏み込まれた後、タイミングt8で、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で変速操作(運転者からの変速指示)が行われる(前記ステップST2でYES判定された状態)。ここでは3速段での走行中に、クラッチペダル52の踏み込み操作が行われない状態で、シフトレバー65のダウンシフト位置への操作またはダウンシフト用パドルスイッチ63の操作が行われて、目標ギヤ段が2速段となっている。また、この時点で、タイマのカウントが開始され(前記ステップST4)、前記目標ギヤ段保持フラグは「1」にセットされる(前記ステップST6)。そして、図中のタイミングt9において、タイマがタイムアップする前にクラッチペダル52の踏み込み操作が行われると(前記ステップST5でYES判定された状態)、ギヤ段切り換え動作が行われ、変速機構3のギヤ段(実ギヤ段)は、現在の目標ギヤ段である2速段に切り換えられる(前記ステップST11)。また、目標ギヤ段保持フラグが「0」にリセットされ、また、タイマもリセットされる。
以上説明したように、本実施形態では、運転者がクラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行って、その変速操作の情報が記憶された状態において、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なった場合(例えば運転者の加減速要求が変化した場合)、または、運転状況が、前記クラッチペダル52の踏み込み操作を行わずに変速操作を行った際の運転状況と異なったと推定された場合(例えば前記タイマがタイムアップした場合)には、前記記憶していた変速操作の情報に従ったギヤ段切り換え動作は行わず、その後に運転者の変速操作および前記クラッチペダル52の踏み込み操作が行われた際のその変速操作に従った変速機構3のギヤ段切り換え動作を行うようにしている。つまり、前記運転状況が異なっていると判断された時点以後、または、運転状況が異なっていると推定された時点以後の運転者の変速操作に従ったギヤ段切り換え動作を行うようにしている。つまり、前記運転状況が異なっていると判断された時点よりも前に取得した変速操作の情報や、運転状況が異なっていると推定された時点よりも前に取得した変速操作の情報に従って変速機構のギヤ段切り換え動作を行った場合には、そのギヤ段切り換え動作は、既に運転者が要求していないものである可能性があるので、この運転者が要求していないギヤ段への切り換えを回避するようにしている。これにより、運転者がクラッチペダル52の踏み込み操作を行った際に意図しないギヤ段切り換えが行われてしまうといったことを回避でき、意図しないギヤ段切り換えに起因して運転者に違和感を与えてしまうといったことを低減できる。
(他の実施形態)
なお、本発明は、前記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
前記実施形態では、FR方式の車両に本発明を適用した場合について説明したが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両や、ミッドシップ方式の車両に対しても本発明は適用可能である。また、変速機構3は、前進6段とする例を挙げているが、本発明はこれに限定されることなく、ギヤ段の数は任意に設定可能である。
また、前記実施形態では、クラッチアクチュエータ22、セレクトアクチュエータ32、シフトアクチュエータ33それぞれを油圧作動式とした場合について説明した。本発明はこれに限らず、これらアクチュエータを電動モータや減速機構を用いる電気作動式とすることも可能である。
また、前記実施形態では、クラッチ機構2としては、クラッチアクチュエータ22を備えた所謂クラッチバイワイヤシステムとしていた。本発明はこれに限らず、運転者のクラッチペダルへの操作力を油圧に変換してレリーズベアリングに直接的に伝達する構成のものであってもよい。
更に、前記実施形態では、手動変速モードとして2ペダルモードおよび3ペダルモードのうち一方を選択可能な変速制御装置について説明した。本発明はこれに限らず、手動変速モードとして3ペダルモードのみを有する変速制御装置に対しても適用可能である。